(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】試料観察装置及び試料観察方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20240716BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2022528448
(86)(22)【出願日】2021-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2021010879
(87)【国際公開番号】W WO2021246021
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2020095508
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭
【審査官】越河 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-184403(JP,A)
【文献】特表2018-520388(JP,A)
【文献】特表2019-526829(JP,A)
【文献】特開2012-226145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00
G02B 21/06-21/36
G01N 21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する励起光を出力する光源部と、
前記励起光を面状光に整形し、前記試料に前記面状光をXZ面で照射する照射光学系と、
前記面状光の照射面を通過するように前記試料を所定の走査速度でY軸方向に走査する走査部と、
前記照射面に対して傾斜する観察軸を有し、前記面状光の照射によって前記試料で発生した観察光を結像する結像光学系と、
前記結像光学系によって結合された前記観察光の光像に対応するXZ画像データを所定のフレームレートで複数取得する画像取得部と、
前記面状光の光量及び前記走査速度を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記面状光の光量と前記走査速度との積で表される測定感度における前記面状光の最適光量が前記走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照し、
前記フレームレートに応じて複数の異なる前記参照テーブルを有し、ユーザによって選択された前記画像取得部のサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて前記複数の参照テーブルから一の参照テーブルを選択し、選択した前記参照テーブルを用いて前記走査速度と前記最適光量とを決定する試料観察装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を前記走査速度として決定する請求項1記載の試料観察装置。
【請求項3】
前記制御部は、決定した前記最適光量に基づいて前記光源部から出力される前記励起光の光量を制御する請求項1
又は2記載の試料観察装置。
【請求項4】
前記光源部は、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタを有し、
前記制御部は、決定した前記最適光量に基づいて前記複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択して前記光源部から出力される前記励起光の光量を制御する請求項
3記載の試料観察装置。
【請求項5】
前記制御部は、決定した前記最適光量に基づいて前記光源部に印加する電流値又は電圧値を制御する請求項
3記載の試料観察装置。
【請求項6】
試料に対する励起光を出力する出力ステップと、
前記励起光を面状光に整形し、前記試料に前記面状光をXZ面で照射する照射ステップと、
前記面状光の照射面を通過するように前記試料を所定の走査速度でY軸方向に走査する走査ステップと、
前記照射面に対して傾斜する観察軸を有し、前記面状光の照射によって前記試料で発生した観察光を結像する結像ステップと、
前記結像ステップによって結合された前記観察光の光像に対応するXZ画像データを所定のフレームレートで複数取得する画像取得ステップと、
前記各ステップの実行にあたって前記面状光の光量及び前記走査速度を制御する制御ステップと、を備え、
前記制御ステップでは、前記面状光の光量と前記走査速度との積で表される測定感度における前記面状光の最適光量が前記走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照し、
前記フレームレートに応じて複数の異なる前記参照テーブルを用い、ユーザによって選択された前記画像取得ステップ実行時のサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて前記複数の参照テーブルから一の参照テーブルを選択し、選択した前記参照テーブルを用いて前記走査速度と前記最適光量とを決定する試料観察方法。
【請求項7】
前記制御ステップでは、前記フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を前記走査速度として決定する請求項
6記載の試料観察方法。
【請求項8】
前記制御ステップでは、決定した前記最適光量に基づいて前記出力ステップにおける前記励起光の光量を制御する請求項
6又は7記載の試料観察方法。
【請求項9】
前記出力ステップでは、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタを用い、
前記制御ステップでは、決定した前記最適光量に基づいて前記複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択して前記出力ステップにおける前記励起光の光量を制御する請求項
8記載の試料観察方法。
【請求項10】
前記制御ステップでは、決定した前記最適光量に基づいて前記励起光を出力する光源部に印加する電流値又は電圧値を制御し、前記出力ステップにおける前記励起光の光量を制御する請求項
8記載の試料観察方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料観察装置及び試料観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞などの3次元立体構造を持つ試料の内部を観察する手法の一つとして、SPIM(Selective Plane Illumination Microscopy)が知られている。かかる手法に関する技術として、例えば特許文献1に記載の試料観察装置がある。この特許文献1の試料観察装置は、試料にXZ面で面状光を照射する照射光学系と、面状光の照射面に対して試料をY軸方向に走査する走査部と、照射面に対して傾斜する観察軸を有し、面状光の照射によって試料で発生した観察光を結像する結像光学系を備えている。この試料観察装置では、試料のXZ画像データをY軸方向について複数取得し、XZ画像データにおける解析領域の輝度値をZ方向に積算して生成したX画像データをY軸方向に結合して試料のXY画像データを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような試料観察装置では、試料の解析を実現するため、試料からの観察光を画像データとして取得する際の測定条件の最適化が重要となる。しかしながら、測定条件の最適化には、光源、走査部、画像取得部といった各要素の設定が必要であり、設定の簡単化が解決すべき課題となっている。
【0005】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、測定条件の設定の簡単化が図られる試料観察装置及び試料観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る試料観察装置は、試料に対する励起光を出力する光源部と、励起光を面状光に整形し、試料に前記面状光をXZ面で照射する照射光学系と、面状光の照射面を通過するように試料を所定の走査速度でY軸方向に走査する走査部と、照射面に対して傾斜する観察軸を有し、面状光の照射によって試料で発生した観察光を結像する結像光学系と、結像光学系によって結合された観察光の光像に対応するXZ画像データを所定のフレームレートでY軸方向に複数取得する画像取得部と、面状光の光量及び走査速度を制御する制御部と、を備え、制御部は、面状光の光量と走査速度との積で表されるにおける面状光の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照し、ユーザによって選択された測定感度に基づいて走査速度と面状光の最適光量とを決定する。
【0007】
この試料観察装置では、面状光の光量と走査速度との積で表される測定感度の概念を導入し、ユーザが選択した測定感度に応じて試料の走査速度と試料に照射する面状光の最適光量とを決定する。試料の観察を行う場合、画像取得部でのX軸方向の解像度とY軸方向の解像度とが等しくなるように試料の走査速度と露光時間とを制御する必要がある。露光時間は、画像取得部の画素数に基づいて決定できるため、X軸方向の解像度とY軸方向の解像度とが等しくなる走査速度を算出できる。また、画像取得部で取得できる観察光の光量は、単位時間当たりの観察光の光量と露光時間との積で決まる。観察光の光量は、試料に照射される面状光の光量に基づいて決定でき、露光時間は、試料の走査速度に基づいて決定できる。つまり、測定感度は、同じ走査速度に対しては、面状光の光量によって決定できる。この試料観察装置では、測定感度における面状光の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照することで、ユーザが選択した測定感度に基づいて走査速度及び面状光の最適光量の双方を決定できる。したがって、測定条件の設定の簡単化が図られる。
【0008】
制御部は、フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定してもよい。走査速度は、試料観察のスループットに関連するパラメータである。したがって、フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定することで、試料観察のスループットの向上が図られる。
【0009】
制御部は、フレームレートに応じて複数の異なる参照テーブルを有し、ユーザによって選択された画像取得部のサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて複数の参照テーブルから一の参照テーブルを選択し、選択した参照テーブルを用いて走査速度と最適光量とを決定してもよい。サブアレイサイズが小さくなるほどフレームレートが大きくなるため、走査速度の最大値を大きくすることが可能となる。したがって、フレームレートに応じて複数の異なる参照テーブルを選択的に用いることで、試料観察のスループットを一層確実に向上できる。
【0010】
制御部は、決定した最適光量に基づいて光源部から出力される励起光の光量を制御してもよい。励起光の光量を制御することにより、面状光の光量を容易に制御できる。
【0011】
光源部は、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタを有し、制御部は、決定した最適光量に基づいて複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択して光源部から出力される励起光の光量を制御してもよい。これにより、励起光の光量を簡便に制御できる。
【0012】
制御部は、決定した最適光量に基づいて光源部に印加する電流値又は電圧値を制御してもよい。この場合においても、励起光の光量を簡便に制御できる。
【0013】
本開示の一側面に係る試料観察方法では、試料に対する励起光を出力する出力ステップと、励起光を面状光に整形し、試料に面状光をXZ面で照射する照射ステップと、面状光の照射面を通過するように試料を所定の走査速度でY軸方向に走査する走査ステップと、照射面に対して傾斜する観察軸を有し、面状光の照射によって試料で発生した観察光を結像する結像ステップと、結像ステップによって結合された観察光の光像に対応するXZ画像データを所定のフレームレートでY軸方向に複数取得する画像取得ステップと、各ステップの実行にあたって面状光の光量及び走査速度を制御する制御ステップと、を備え、制御ステップでは、面状光の光量と走査速度との積で表される測定感度における面状光の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照し、ユーザによって選択された測定感度に基づいて走査速度と面状光の最適光量とを決定する。
【0014】
この試料観察方法では、面状光の光量と走査速度との積で表される測定感度の概念を導入し、ユーザが選択した測定感度に応じて試料の走査速度と試料に照射する面状光の最適光量とを決定する。試料の観察を行う場合、画像取得ステップでのX軸方向の解像度とY軸方向の解像度とが等しくなるように試料の走査速度と露光時間とを制御する必要がある。露光時間は、画像取得の際の画素数に基づいて決定できるため、X軸方向の解像度とY軸方向の解像度とが等しくなる走査速度を算出できる。また、画像取得ステップで取得できる観察光の光量は、単位時間当たりの観察光の光量と露光時間との積で決まる。観察光の光量は、試料に照射される面状光の光量に基づいて決定でき、露光時間は、試料の走査速度に基づいて決定できる。つまり、測定感度は、同じ走査速度に対しては、面状光の光量によって決定できる。この試料観察方法では、測定感度における面状光の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照することで、ユーザが選択した測定感度に基づいて走査速度及び面状光の最適光量の双方を決定できる。したがって、測定条件の設定の簡単化が図られる。
【0015】
制御ステップでは、フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定してもよい。走査速度は、試料の観察に要する装置のスループットに関連するパラメータである。したがって、フレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定することで、試料観察のスループットの向上が図られる。
【0016】
制御ステップでは、フレームレートに応じて複数の異なる参照テーブルを用い、ユーザによって選択された画像取得ステップ実行時のサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて複数の参照テーブルから一の参照テーブルを選択し、選択した参照テーブルを用いて走査速度と最適光量とを決定してもよい。サブアレイサイズが小さくなるほどフレームレートが大きくなるため、走査速度の最大値を大きくすることが可能となる。したがって、フレームレートに応じて複数の異なる参照テーブルを選択的に用いることで、試料観察のスループットを一層確実に向上できる。
【0017】
制御ステップでは、決定した最適光量に基づいて出力ステップにおける励起光の光量を制御してもよい。励起光の光量を制御することにより、面状光の光量を容易に制御できる。
【0018】
出力ステップでは、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタを用い、制御ステップでは、決定した最適光量に基づいて複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択して出力ステップにおける励起光の光量を制御してもよい。これにより、励起光の光量を簡便に制御できる。
【0019】
制御ステップでは、決定した最適光量に基づいて励起光を出力する光源部に印加する電流値又は電圧値を制御し、出力ステップにおける励起光の光量を制御してもよい。この場合においても、励起光の光量を簡便に制御できる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、測定条件の設定の簡単化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】試料観察装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【
図3】画像生成部による観察画像の生成の一例を示す図である。
【
図4】画像取得部で取得される画像データのX軸方向及びY軸方向の解像度の関係を示す概略図である。
【
図5】フレームレートが大である場合の参照テーブルの一例を示す図である。
【
図6】フレームレートが中である場合の参照テーブルの一例を示す図である。
【
図7】フレームレートが小である場合の参照テーブルの一例を示す図である。
【
図8】試料観察方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る試料観察装置及び試料観察方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、試料観察装置の一実施形態を示す概略構成図である。この試料観察装置1は、面状光L2を試料Sに照射し、試料Sの内部で発生した観察光(例えば蛍光又は散乱光など)を結像面に結像させて試料S内部の観察画像データを取得する装置である。この種の試料観察装置1としては、スライドガラスに保持される試料Sの画像を取得し表示するスライドスキャナ、あるいはマイクロプレートに保持される試料Sの画像データを取得し、画像データを解析するプレートリーダなどがある。試料観察装置1は、
図1に示すように、光源部2と、照射光学系3と、走査部4と、結像光学系5と、画像取得部6と、コンピュータ(制御部)7とを備えて構成されている。
【0024】
観察対象となる試料Sとしては、例えばヒト或いは動物の細胞、組織、臓器、動物或いは植物自体、植物の細胞、組織などが挙げられる。これらの試料Sは、例えばフルオレセインーデキストラン(励起波長:494nm/蛍光波長:521nm)、テトラメチルローダミン(励起波長:555nm/蛍光波長:580nm)などの蛍光材料によって染色されている。なお、試料Sは、複数の蛍光物質によって染色されてもよい。また、試料Sは、溶液、ゲル、或いは試料Sとは屈折率の異なる物質に含まれていてもよい。
【0025】
光源部2は、試料Sに照射される励起光L1を出力する部分である。光源部2を構成する光源としては、例えばレーザダイオード、固体レーザ光源といったレーザ光源が挙げられる。光源は、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、ランプ系光源であってもよい。光源部2から出力された励起光L1は、照射光学系3に導光される。また、光源部2は、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタ(不図示)を有している。光源部2では、コンピュータ7からの制御信号によって複数の減光フィルタから一の減光フィルタが選択され、光源部2から出力される励起光L1の光量が制御される。
【0026】
照射光学系3は、光源部2から出力された励起光L1を面状光L2に整形し、整形された面状光L2を光軸P1に沿って試料Sに照射する光学系である。以下の説明では、照射光学系3の光軸P1を面状光L2の光軸という場合もある。照射光学系3は、例えばシリンドリカルレンズ、アキシコンレンズ、或いは空間光変調器などの光整形素子を含んで構成され、光源部2に対して光学的に結合されている。照射光学系3は、対物レンズを含んで構成されていてもよい。照射光学系3によって形成された面状光L2は、試料Sに照射される。面状光L2が照射された試料Sでは、面状光L2の照射面Rにおいて観察光L3が発生する。観察光L3は、例えば面状光L2によって励起された蛍光、面状光L2の散乱光、或いは面状光L2の拡散反射光である。
【0027】
走査部4は、面状光L2の照射面Rに対して試料Sを走査する機構である。本実施形態では、走査部4は、試料Sを保持する試料容器11を移動させる移動ステージ12によって構成されている。試料容器11は、例えばマイクロプレート、スライドガラス、シャーレ等であり、面状光L2及び観察光L3に対して透明性を有している。本実施形態では、マイクロプレートを例示する。試料容器11は、
図2に示すように、試料Sが配置される複数のウェル13が一直線状(或いはマトリクス状)に配列された板状の本体部14と、本体部14の一面側においてウェル13の一端側を塞ぐように設けられた板状の透明部材15とを有している。
【0028】
ウェル13内への試料Sの配置にあたり、ウェル13内には、試料Sと共に培養液、蛍光指示薬、バッファ等の溶液が充填されている。溶液からは、自家蛍光が発せられる。透明部材15は、ウェル13内に配置された試料Sに対する面状光L2の入力面15aを有している。透明部材15の材質は、面状光L2に対する透明性を有する部材であれば特に限定はされないが、例えばガラス、石英、或いは合成樹脂である。試料容器11は、入力面15aが面状光L2の光軸P1と直交するように移動ステージ12に対して配置されている。なお、ウェル13の他端側は、外部に開放された状態となっている。試料容器11は、移動ステージ12に対して固定されていてもよい。
【0029】
移動ステージ12は、
図1に示すように、コンピュータ7からの制御信号に従い、予め設定された方向に試料容器11を定速で走査する。本実施形態では、移動ステージ12は、面状光L2の光軸P1と直交する平面内の一方向に試料容器11を走査する。以下の説明では、面状光L2の光軸P1方向をZ軸、移動ステージ12による試料容器11の走査方向をY軸、面状光L2の光軸P1と直交する平面内においてY軸に直交する方向をX軸と称する。試料Sに対する面状光L2の照射面Rは、XZ平面内の面となる。
【0030】
結像光学系5は、面状光L2の照射によって試料Sで発生した観察光L3を結像する光学系である。結像光学系5は、
図2に示すように、例えば対物レンズ16を含んで構成されている。結像光学系5の光軸は、観察光L3の観察軸P2となっている。この結像光学系5の観察軸P2は、試料Sにおける面状光L2の照射面Rに対して傾斜角度θをもって傾斜している。傾斜角度θは、試料Sに向かう面状光L2の光軸P1と観察軸P2とがなす角とも一致する。傾斜角度θは、例えば10°~80°となっている。観察画像の解像度を向上させる観点から、傾斜角度θは、20°~70°であることが好ましい。また、観察画像の解像度の向上及び視野の安定性の観点から、傾斜角度θは、30°~65°であることが更に好ましい。
【0031】
画像取得部6は、
図1に示すように、結像光学系5によって結像された観察光L3による光像に対応するXZ画像データを複数取得する部分である。画像取得部6は、例えば観察光L3による光像を撮像する撮像装置を含んで構成されている。撮像装置としては、例えばCMOSイメージセンサ、CCDイメージセンサといったエリアイメージセンサが挙げられる。これらのエリアイメージセンサは、結像光学系5による結像面に配置され、例えばグローバルシャッタ或いはローリングシャッタによって光像を撮像する。エリアイメージセンサは、試料Sの二次元画像のデータであるXZ画像データ(
図3参照)を所定のフレームレートでY軸方向について複数取得し、コンピュータ7に出力する。
【0032】
コンピュータ7は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、及びCPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部、ディスプレイ等の表示部を備えて構成されている。かかるコンピュータ7としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末など)などが挙げられる。コンピュータ7は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより、光源部2及び走査部4の動作を制御する制御部9、試料Sの観察画像データを生成する画像生成部8、及び観察画像データに基づいて試料Sの解析を行う解析部10として機能する。
【0033】
制御部9としてのコンピュータ7は、ユーザによる測定開始の操作の入力を受け、光源部2、走査部4(移動ステージ12)、及び画像取得部6を同期させて駆動する。この場合、コンピュータ7は、移動ステージ12による試料Sの移動中、光源部2が励起光L1を連続的に出力するように光源を制御してもよく、画像取得部6による撮像に合わせて光源部2による励起光L1の出力のON/OFFを制御してもよい。また、照射光学系3が光シャッタ(不図示)を備えている場合、コンピュータ7は、当該光シャッタの制御によって試料Sへの面状光L2の照射をON/OFFさせてもよい。
【0034】
画像生成部8としてのコンピュータ7は、画像取得部6によって生成された複数のXZ画像データに基づいて試料Sの観察画像データを生成する。画像生成部8は、画像取得部6から出力された複数のXZ画像データに基づいて、例えば面状光L2の光軸P1に直交する面(XY面)における試料Sの観察画像データを生成する。具体的には、画像生成部8では、
図3(A)に示すように、XZ画像データ31をY軸方向に複数取得することによって、試料Sの3次元情報が蓄積される。画像生成部8では、複数のXZ画像データ31を用いてデータが再構築され、例えば
図3(B)に示すように、試料SにおけるZ軸方向の任意の位置において任意の厚さを持ったXY画像データ32が試料Sの観察画像データとして生成される。画像生成部8は、XY画像データ32を含む3次元データを観察画像データとして生成してもよい。画像生成部8は、ユーザによる所定の操作に従って、生成した観察画像データの格納、モニタ等への表示等を実行する。
【0035】
解析部10としてのコンピュータ7は、画像生成部8によって生成された観察画像データに基づいて解析を実行し、解析結果を生成する。解析部10は、ユーザによる所定の操作に従って、生成した解析結果の格納、モニタ等への表示等を実行する。なお、画像生成部8によって生成された観察画像データのモニタ等への表示は行わず、解析部10によって生成された解析結果のみをモニタ等に表示してもよい。
【0036】
次に、上述した制御部9について更に詳細に説明する。
【0037】
上述したように、制御部9は、試料Sの観察を実行するにあたり、光源部2、走査部4(移動ステージ12)、及び画像取得部6の動作を制御する。これらの各要素の制御にあたり、この試料観察装置1では、試料Sに照射される面状光L2の光量と移動ステージ12による試料Sの走査速度との積で表される「測定感度」の概念を導入し、ユーザが選択した測定感度に応じて試料Sの走査速度と試料Sに照射する面状光L2の最適光量とを決定する。
【0038】
試料観察装置1において試料Sの観察を行う場合、
図4に示すように、画像取得部6でのX軸方向の解像度Reso(X)とY軸方向の解像度Reso(Y)とが等しくなるように試料Sの走査速度と露光時間とを制御する必要がある。一例として、Reso(Y)に対応する間隔で移動ステージ12から画像取得部6にトリガ信号を入力し、トリガ信号の間隔に対応して露光を行うように制御することが考えられる。Reso(X)は、画像取得部6を構成する撮像装置のX軸方向の画素サイズを倍率で除算することによって決定でき、Reso(Y)は、同撮像装置のY軸方向の画素サイズを倍率で除算することによって決定できる。また、露光時間は、画像取得部6を構成する撮像装置のフレームレートに基づいて決定できる。露光時間を決定することでX軸方向の解像度とY軸方向の解像度とが等しくなる走査速度を算出できる。例えば画像取得部6を構成する撮像装置のフレームレート(最大フレームレート)が10kHzである場合、露光時間は0.1msとなる。この場合、Reso(X)=Reso(Y)=10μmとすると、走査速度は100mm/sと決定される。
【0039】
また、画像取得部6で取得できる観察光L3の光量は、単位時間当たりの観察光L3の光量と露光時間との積で決まる。観察光L3の光量は、試料Sに照射される面状光L2の光量に基づいて決定でき、露光時間は、上述したように、試料Sの走査速度に基づいて決定できる。つまり、面状光L2の光量と試料Sの走査速度との積である測定感度は、同じ走査速度に対しては、面状光L2の光量によって決定できる。異なる測定感度に対し、面状光L2の最適光量が同一になる条件は複数存在するが、その際の走査速度はそれぞれ異なる。このことから、制御部9では、試料Sの走査速度と試料Sに照射する面状光L2の最適光量とを決定するにあたり、測定感度における面状光L2の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブルを参照し、ユーザによって選択された測定感度に基づいて試料Sの走査速度と面状光L2の最適光量とを自動的に決定する。
【0040】
図5~
図7は、参照テーブルの一例を示す図である。本実施形態では、制御部9は、画像取得部6を構成する撮像装置のフレームレートに応じて複数の異なる参照テーブル41(41A~41C)を有している。
図5に示す参照テーブル41Aは、フレームレートが大(例えば3500fps)である場合に用いられ、
図6に示す参照テーブル41Bは、フレームレートが中(例えば3000fps)である場合に用いられ、
図7に示す参照テーブル41Cは、フレームレートが小(例えば2500fps)である場合に用いられる。参照テーブル41は、予め制御部9に記憶させたものであってもよく、参照テーブル41を構成するデータを格納する記録媒体をコンピュータ7に読み込ませることによって制御部9に記憶させたものであってもよい。また、試料Sの観察毎に有線又は無線の通信によって制御部9に記憶させる態様であってもよい。
【0041】
これらの参照テーブル41A~41Cでは、行方向が測定感度、列方向が走査速度となっている。各測定感度における面状光L2の最適光量は、光源部2から出力される励起光L1の最大出力を100%とした場合の相対値で示されている。なお、行方向の測定感度には、相対値が付記されている。
図5~
図7の例では、測定感度の最小設定値において、走査速度が10mm/s及び面状光L2の光量が10%となっており、この場合の積を相対値1としている。
【0042】
画像取得部6における撮像装置のフレームレートは、画像取得部6のサブアレイサイズに対応して決定される。サブアレイサイズの設定は、試料Sの観察に用いるデータ量や観察精度、深さ方向の観察エリアなどを考慮し、ユーザによって選択される。サブアレイサイズが小さくなるほどフレームレートが大きくなるため、走査速度の最大値を大きくすることができる。参照テーブル41A~41Cでは、画像取得部6のフレームレートにおいて採り得る最大走査速度が走査速度として決定されるように、測定感度と走査速度との関係が設定されている。
【0043】
サブアレイサイズが小さい場合に選択される参照テーブル41Aでは、
図5に示すように、走査速度の最大値は、10mm/sとなっている。この参照テーブル41Aが選択される場合、相対値の設定が1~10の場合には走査速度が10mm/sに設定され、相対値の設定が12~14の場合には走査速度が7mm/sに設定され、相対値の設定が16~18の場合には走査速度が5.5mm/sに設定される。また、相対値の設定が20~24の場合には走査速度が4mm/sに設定され、相対値の設定が26~40の場合には走査速度が2.5mm/sに設定される。同一の走査速度となる範囲では、相対値の設定が大きくなるほど面状光L2の光量の設定値が大きくなる。
【0044】
サブアレイサイズが中程度である場合に選択される参照テーブル41Bでは、
図6に示すように、走査速度の最大値は、8.5mm/sとなっている。この参照テーブル41Bが選択される場合、相対値の設定が2~10の場合には走査速度が8.5mm/sに設定され、相対値の設定が12~14の場合には走査速度が7mm/sに設定され、相対値の設定が16~18の場合には走査速度が5.5mm/sに設定される。また、相対値の設定が20~24の場合には走査速度が4mm/sに設定され、相対値の設定が26~40の場合には走査速度が2.5mm/sに設定される。同一の走査速度となる範囲では、相対値の設定が大きくなるほど面状光L2の光量の設定値が大きくなる。
【0045】
サブアレイサイズが大きい場合に選択される参照テーブル41Cでは、
図7に示すように、走査速度の最大値は、7mm/sとなっている。この参照テーブル41Cが選択される場合、相対値の設定が2~14の場合には走査速度が7mm/sに設定され、相対値の設定が16~18の場合には走査速度が5.5mm/sに設定される。また、相対値の設定が20~24の場合には走査速度が4mm/sに設定され、相対値の設定が26~40の場合には走査速度が2.5mm/sに設定される。同一の走査速度となる範囲では、相対値の設定が大きくなるほど面状光L2の光量の設定値が大きくなる。
【0046】
制御部9は、ユーザによって選択されたサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて複数の参照テーブル41A~41Cから一の参照テーブル41を選択する。そして、選択した参照テーブル41を参照し、ユーザによって選択された測定感度に基づいて試料Sの走査速度と面状光L2の最適光量とを決定する。制御部9は、決定した走査速度及び最適光量に基づいて光源部2及び走査部4の動作を制御する。
【0047】
制御部9は、光源部2の制御にあたっては、決定した最適光量に基づいて光源部2から出力される励起光L1の光量を制御する。上述したように、光源部2には、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタ(不図示)が設けられている。制御部9は、決定した最適光量に基づいて複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択し、光源部2から出力される励起光L1の光量を制御する。励起光L1の光量の制御により、試料Sに照射される面状光L2の光量を制御でき、その結果として、試料Sで発生する観察光L3の光量を制御できる。
【0048】
図8は、試料観察方法の一例を示すフローチャートである。同図に示すように、この試料観察方法は、制御ステップ(ステップS01)、照射ステップ(ステップS02)、走査ステップ(ステップS03)、結像ステップ(ステップS04)、画像取得ステップ(ステップS05)、画像生成ステップ(ステップS06)、及び解析ステップ(ステップS07)を備えている。
【0049】
制御ステップS01では、まず、ユーザからの測定感度の選択及びサブアレイサイズの選択を受け付ける。制御部9では、ユーザによって選択されたサブアレイサイズに基づいて画像取得部6を構成する撮像装置のフレームレートが設定され、設定されたフレームレートに対応する参照テーブル41が参照テーブル41A~41Cのうちから選択される。次に、制御部9では、選択された参照テーブル41が参照され、ユーザによって選択された測定感度に対応する走査速度及び最適光量が決定される。
【0050】
照射ステップS02では、試料Sに面状光L2を照射する。ユーザによって測定開始の操作が入力されると、コンピュータ7からの制御信号に基づいて光源部2が駆動し、光源部2から励起光L1が出力される。光源部2から出力された励起光L1は、照射光学系3によって整形されて面状光L2となり、試料Sに照射される。光源部2から出力される励起光L1の光量は、制御ステップS01で決定された最適光量となるように、制御部9での減光フィルタの選択によって制御される。
【0051】
走査ステップS03では、面状光L2の照射面Rに対して試料Sを走査する。ユーザによって測定開始の操作が入力されると、コンピュータ7からの制御信号に基づいて、光源部2の駆動と同期して移動ステージ12が駆動する。これにより、試料容器11がY軸方向に定速で直線的に駆動し、面状光L2の照射面Rに対してウェル13内の試料Sが走査される。移動ステージ12による試料Sの走査速度は、制御ステップS01で決定された走査速度となるように制御部9によって制御される。
【0052】
結像ステップS04では、照射面Rに対して傾斜する観察軸P2を有する結像光学系5を用い、面状光L2の照射によって試料Sで発生した観察光L3を画像取得部6の結像面に対して結像する。画像取得ステップS05では、結像光学系5によって結像された観察光L3による光像に対応するXZ画像データ31を所定のフレームレートでY軸方向について複数取得する。複数のXZ画像データ31は、画像取得部6から画像生成部8に順次出力される。
【0053】
画像生成ステップS06では、複数のXZ画像データ31に基づいて試料Sの観察画像データを生成する。ここでは、画像取得ステップS05で得られた複数のXZ画像データ31に基づいて、試料SにおけるZ軸方向の任意の位置において任意の厚さを持ったXY画像データ32が試料Sの観察画像データとして生成される。
【0054】
解析ステップS07では、解析部10によって観察画像データを解析し、解析結果を生成する。例えば創薬スクリーニングでは、試料容器11に試料S及び試薬を入れた状態で、観察画像データであるXY画像データ32の取得がなされる。解析部10では、得られたXY画像データ32に基づいて試薬の評価がなされ、評価データが解析結果として生成される。なお解析部10は、XY画像データ32を含む3次元データを観察画像データとして取得し、解析してもよい。
【0055】
以上説明したように、試料観察装置1では、面状光L2の光量と走査速度との積で表される測定感度の概念を導入し、測定感度における面状光の最適光量が走査速度に応じて設定された参照テーブル41を参照することで、ユーザが選択した測定感度に応じて試料Sの走査速度と試料Sに照射する面状光L2の最適光量とを決定する。この試料観察装置1では、ユーザが測定感度を選択することで、光源部2、走査部4、及び画像取得部6に対する複雑な設定をせずに試料Sの走査速度と試料Sに照射する面状光L2の最適光量が決定されるため、測定条件の設定の簡単化が図られる。
【0056】
また、試料観察装置1では、画像取得部6のフレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定する。走査速度は、試料観察のスループットに関連するパラメータである。したがって、画像取得部6のフレームレートにおいて採り得る最大走査速度を走査速度として決定することで、試料観察のスループットの向上が図られる。
【0057】
また、試料観察装置1では、制御部9がフレームレートに応じて複数の異なる参照テーブル41(41A~41C)を有し、ユーザによって選択された画像取得部6のサブアレイサイズに対応するフレームレートに基づいて複数の参照テーブル41A~41Cから一の参照テーブル41を選択し、選択した参照テーブル41を用いて走査速度と最適光量とを決定する。サブアレイサイズが小さくなるほどフレームレートが大きくなるため、走査速度の最大値を大きくすることが可能となる。したがって、フレームレートに応じて複数の異なる参照テーブル41A~41Cを選択的に用いることで、試料観察のスループットを一層確実に向上できる。
【0058】
また、試料観察装置1では、決定した最適光量に基づいて光源部2から出力される励起光L1の光量を制御する。このように、励起光L1の光量を制御することにより、試料Sに照射される面状光L2の光量を容易に制御できる。試料観察装置1では、励起光L1の光量の制御にあたり、透過率が互いに異なる複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択する。これにより、励起光L1の光量を簡便に制御できる。
【0059】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、制御部9がフレームレートに応じて複数の異なる参照テーブル41(41A~41C)を有しているが、制御部9は、フレームレートに依らず、単一の参照テーブル41を有していてもよい。また、上記実施形態では、制御部9が光源部2に配置した複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択することによって励起光L1の光量が最適光量となるように制御しているが、面状光L2に対して複数の減光フィルタから一の減光フィルタを選択して適用する態様であってもよい。また、制御部9が光源部2に印加する電流値又は電圧値を制御することによって、光源の出力自体を制御する態様であってもよい。この場合においても、励起光L1の光量を簡便に制御できる。
【符号の説明】
【0060】
1…試料観察装置、2…光源部、3…照射光学系、4…走査部、5…結像光学系、6…画像取得部、8…画像生成部、9…制御部、10…解析部、31…XZ画像データ、41(41A~41C)…参照テーブル、L1…励起光、L2…面状光、L3…観察光、P2…観察軸、R…照射面。