IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グリーン ゾル-ゲル リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-ゾル塗布方法 図1
  • 特許-ゾル塗布方法 図2
  • 特許-ゾル塗布方法 図3
  • 特許-ゾル塗布方法 図4
  • 特許-ゾル塗布方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ゾル塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 3/00 20060101AFI20240716BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B05D3/00 B
B05D7/24 301E
B05D7/24 303B
B05D7/24 303E
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2022548954
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-21
(86)【国際出願番号】 GB2020050325
(87)【国際公開番号】W WO2021160979
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】522320420
【氏名又は名称】グリーン ゾル-ゲル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Green Sol-Gel Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】イスマイル, ファンヤ
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-118489(JP,A)
【文献】特開平10-180115(JP,A)
【文献】特表平10-510307(JP,A)
【文献】特表2002-540913(JP,A)
【文献】特開2011-236142(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0113188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)溶媒及び金属アルコキシドを含むゾルを準備するステップ、
(ii)前記ゾルと、前記溶媒とは異なる沈殿開始剤とを接触させ、前記ゾルの沈殿を開始させるステップ、及び
(iii)沈殿中ゾルを製品に塗布するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記沈殿開始剤が水又はエタノールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿開始剤が1つ又は複数の機能性添加剤を含む、請求項1又2に記載の方法。
【請求項4】
前記ゾルが1つ又は複数の機能性添加剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1つ又は複数の前記機能性添加剤が光開始剤、樹脂、油、染料、塩、鉱物粒子若しくは他の無機粒子、界面活性剤、複合粒子、及び/又は金属を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ゾルが1つ又は複数のバイオポリマーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1つ又は複数の前記バイオポリマーがデンプン、加工デンプン、穀粉、又は加工穀粉を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属アルコキシドの金属がケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属アルコキシドの金属がケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記金属アルコキシドの金属がケイ素、チタン、又はそれらの任意の組み合わせを含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属アルコキシドの金属がケイ素を含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属アルコキシドの金属がチタンを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記アルコキシドが、Ti(イソプロポキシ)、Al(イソプロポキシ)、Al(sec-ブトキシ)、Zr(n-ブトキシ)、Zr(n-プロポキシ)、n-プロピルトリエトキシシラン、テトラプロピルオルトシリケート、チタン(IV)t-ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、トリエチルオキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、フェニル-トリエトキシシラン、チタン(iv)エトキシド、トリエトキシ-シリルシクロペンタン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、3-アミノ-プロピルトリエトキシシラン、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記アルコキシドが、テトラプロピルオルトシリケート、チタン(IV)t-ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、トリエチルオキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、フェニル-トリエトキシシラン、チタン(iv)エトキシド、トリエトキシ-シリルシクロペンタン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記アルコキシドが、Si(OR)、Ti(OR)、Al(OR)、Zr(OR)、Sn(OR)、R-Si(OR)、R-Ti(OR)、R-Al(OR)、R-Zr(OR)、及びR-Sn(OR)、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記アルコキシドが、Ti(イソプロポキシ)、Al(イソプロポキシ)、Al(sec-ブトキシ)、Zr(n-ブトキシ)、Zr(n-プロポキシ)、及びn-プロピルトリエトキシシラン系アルコキシド、並びにそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記アルコキシドが、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記溶媒が1つ又は複数の有機溶媒を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
1つ又は複数の前記有機溶媒がアルコールを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アルコールが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ゾルと前記沈殿開始剤とを接触させるステップから15分以内に前記沈殿中ゾルが前記製品に塗布される、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ゾルと前記沈殿開始剤とを接触させるステップから15秒以内に前記沈殿中ゾルが前記製品に塗布される、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記製品上にコーティングを形成するために前記沈殿中ゾルが前記製品に塗布される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記製品が、木製品、織物製品、皮革製品、金属(合金を含む)製品、コンクリート製品又は建設材料、ボール紙製品、紙製品又はパルプ製品、プラスチック製品、ガラス製品、セラミックス製品、複合材料、砂、れんが、大理石、土壌、塗料、塗装製品、飲食製品、医療機器、医薬製品、及びそれらの組み合わせを含む群から選択される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記沈殿中ゾルがブラシ塗布により前記製品に塗布される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記沈殿中ゾルが噴霧により前記製品に塗布される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記沈殿中ゾルが噴霧乾燥技術により前記製品に塗布される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記沈殿中ゾルがローラーにより前記製品に塗布される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記沈殿中ゾルの塗布後に前記製品を乾燥させるステップをさらに含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記沈殿中ゾルの塗布後に前記製品を乾燥させるために、前記製品が加熱されない、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
さらに装置を準備する工程を備え、
前記装置は、
第1の保管槽と、
第2の保管槽と、
1つ又は複数のポンプと、
第1の保管槽及び第2の保管槽のうちの各1つにそれぞれ保管されたゾル及び沈殿開始剤を製品に塗布するための1つ又は複数の送達手段と、を含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、コロイド溶液(ゾルとして知られる)の製品への塗布、及びそれを行う方法に関する。より詳細には、本発明は、所望の特性を製品に付与するためにゾルを使用する方法に関する。
【0002】
紙、ボール紙、木材、及び他の材料は、市販品の包装として一般的に使用されている。製品の材料特性、例えば水、油、及び他の流体に対する包装材料の透過性は、不透過性のプラスチック材料又は複合材を利用することで制御可能である。飲食部門等の多くの産業では、特定の包装品内での液体製品の保持を容易にするために、本来であれば透過性の媒体にプラスチックを塗布することがある。水、空気、又は他の流体に対する曝露によって損なわれうる物品への流体の侵入を防止するためにも、同様の方法が使用されることがある。これらの用途に使用されるプラスチック材料は一般に炭化水素原料から製造され、プラスチック材料の製造は環境コストを伴う。これらのプラスチックを製造するために使用される材料又は化学物質、及び関連副産物は有毒なこともある。いくつかのプラスチックは、経時的に分解してマイクロプラスチックを生成することもあれば、使用を通じて潜在的に有害な化学種を放出することもある。したがって、多くの一般的な包装材料に関して、健康及び環境上の懸念が引き続き存在する。
【0003】
一般に、商業的な製造活動は、製品が販売される市場に受容されるか又は望まれると見なされる品質の提供を犠牲にすることなく、最低コストで最大量の製品を生成することを目指すものである。プラスチックは依然として低コストの商品であり、1940年代及び1950年代に製造業においてプラスチックが広範に採用されるようになってから、世界中の製造業では、プラスチック材料を利用及び操作するための十分に発達した効率的な方法が確立された。良好なプラスチック代替技術が製造産業に受容されるには、同様のコスト及び同等以下の使いやすさで運用可能であることが必要であろうことが、一般に認識されている。したがって、プラスチックと同じ利点を同等のコストで付与する、製造環境において容易に採用可能な、環境に優しいプラスチック代替技術が商業的に求められている。
【0004】
ゾル技術、又はゾルゲル技術は、いくつかのプラスチック材料に対する無毒の代替物を実現するものである。この文脈において、用語「ゾル」は、液体溶媒中のコロイド粒子の分散液を意味する。小さなコロイド粒子から形成される多くのゾルは実質的に清澄で無色である。例えば、ケイ素系機能性材料から形成されるゾルは一般に清澄で無色となる。その理由は、ゾルを形成する粒子が光を散乱させないほど小さいからである。比較的大きな粒子から形成されるいくつかのゾルは着色していること及び/又は少なくとも部分的に不透明であることがある。例えば、チタン系機能性材料から形成されるゾルは目に見えて白色であることがある。ゾルは、様々な材料に塗布される際に、不透過性、及び/又は抗菌性、及び/又は他の点で機能性であるコーティング組成物を形成可能である。したがって、ゾルは、バリア及び/又は抗菌コーティング組成物として使用可能であり、疎水性、疎油性、防汚性、生物付着防止性、耐汚染性、光透過性、及び接着促進性等の他の機能性を実現しうる。ゾルは容易に入手可能な天然材料を含んでもよい。これにより、得られるゾルが安価であることが確実になる。さらに、ゾルは表面に直接塗布可能であり、すなわち、表面は特別な調製プロセスを経る必要がない。これにより、ゾルが使いやすいことが確実になる。さらに、いくつかのゾルは耐久性及び耐熱性のあるコーティングを実現することが示されている。これにより、ゾルが復元性があって長持ちする機能性コーティングを形成可能であることが実証される。
【0005】
本発明の発明者は、ゾルを100%ベースで利用することでも実現される所望の特性を製品に付与するために、より少ない量又は濃度のゾルを利用することが可能であることを認識した。不透過性等の所望の機能性を実現するために必要でありうる広範な架橋ネットワークを形成することが、より少ない量のゾルでは不可能であろうと本来であれば推定されたと思われることから、より少ない量又は濃度のゾルを使用することで有利な機能的特性が保持されることは驚くべきことである。
【0006】
本発明の発明者は、製品又は製品上のコーティングに機能的特徴を付与するために、沈殿プロセス中のゾルを利用することが可能であることをさらに認識した。沈殿開始剤を使用してゾルの沈殿を開始させることで、以前は安定であったコロイドゲル懸濁液が不安定になる。本発明者は、沈殿プロセス中の初期に製品に塗布されるゾルが、安定なゾルがさらなる添加剤又は成分なしで使用される場合に形成される機能性ネットワーク構造と同等の機能性を有する機能性ネットワーク構造をさらに形成することを理解した。沈殿プロセス中のゾルは反応性粒子、部分分散ゲル、及び沈殿中ゾルの形成による活性部位の数の増加を少なくとも一時的に示しうる。したがって、沈殿プロセスが開始された後、及び沈殿プロセスが完了する前に、沈殿したゾルが製品に塗布されるという条件で、ゾルを沈殿開始剤と共に使用し、沈殿中ゾルを使用して製品をコーティングするか又は製品に機能性を付与することが可能である。さらに、沈殿中ゾルは、100%未満ベースで使用可能であり、沈殿プロセス中に形成される活性部位の数の増加により、驚くべきレベルの機能性を保持可能である。
【0007】
本発明の一態様によれば、(i)溶媒を含むゾルを準備するステップ、(ii)ゾルと、溶媒とは異なる沈殿開始剤とを接触させることで、ゾルの沈殿を開始させるステップ、及び(iii)沈殿中ゾルを製品に塗布するステップを含む方法が提供される。
【0008】
本発明の別の態様によれば、第1の保管槽と、第2の保管槽と、1つ又は複数のポンプと、第1及び第2の各保管槽に保管されたゾル及び沈殿開始剤を製品に塗布する1つ又は複数の手段とを含む、本明細書に記載の方法における使用のための装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ゾルを使用して製品又は物品に1つ又は複数の所望の特性又は特徴を付与する方法の一例である。
図2】本明細書に開示の方法に従って沈殿中ゾルが塗布された製品の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3】沈殿中ゾルの塗布後の製品の表面の模式図である。
図4】ゾルを使用して製品又は物品に1つ又は複数の所望の特性又は特徴を付与するために本明細書に記載の方法において使用可能な装置の一例である。
図5】本明細書に記載の方法において使用可能な別の装置の一例であり、沈殿開始剤と接触させる前に装置を使用してゾルが形成される。
【0010】
[詳細な説明]
ゾルは、好適に小さな粒径の1つ又は複数の材料を溶液に分散させることで形成可能である。いくつかのゾルは、触媒又は機能性成分等の追加の成分をさらに含んでもよい。本発明の方法における使用に好適なゾルは、得られる製品に有益な特性又は特徴を付与するために製品に塗布、コーティング、又は組み込み可能な任意のゾルでありうる。一般に、本発明の方法における使用に好適なゾルは機能性材料及び溶媒を含む。一例では、本発明の方法を、溶媒、機能性金属アルコキシド、並びに任意選択でバイオポリマー及び/又は触媒を含むゾルと共に使用することができる。用語「金属アルコキシド」は、金属を含むアルコキシド、金属を含む有機修飾アルコキシド、メタロイドを含むアルコキシド、及びメタロイドを含む有機修飾アルコキシドを含む。ゾルの形成において使用される溶媒は水、1つ若しくは複数のアルコール、任意の他の好適な溶媒、又はそれらの任意の組み合わせを含みうる。1つ又は複数のアルコールは、存在する場合、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、イソプロパノール、任意の他の好適なアルコール、及びそれらの任意の組み合わせを含みうる。バイオポリマーは、存在する場合、デンプン系ポリマー、ヘミセルロース系ポリマー、セルロース系ポリマー、リグニン系ポリマー、キトサン系ポリマー、任意の他の好適なバイオポリマー又は修飾バイオポリマー、及びそれらの任意の組み合わせを含みうる。ゾルは、天然材料に由来する1つ又は複数の穀粉をさらに又は代わりに含んでもよい。好適な穀粉としてはオート麦粉、大麦粉、ライ麦粉、小麦粉、米粉、竹粉、レンズマメ粉、ヒヨコマメ粉、エンドウマメ粉、トウモロコシ粉、又はそれらの任意の組み合わせを挙げることができる。ゾルが機能性金属アルコキシドを含む場合、アルコキシドは一般式M(OR)又はR-M(OR)に一般的に一致し、式中、「M」は、好適な溶媒の存在下で加水分解可能な金属アルコキシドを形成する任意の金属を示す。「R」及び「R」は、直鎖、分岐、芳香族、又は複合体(complex)等の任意の好適な形態をとりうる通常は1~30個の炭素原子のアルキル基を示す。「x」は、対応する金属イオン「M」の価数に一般的に等しい。一例では、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基でありうる。金属イオン「M」が1を超える価数を有する場合、各R基は同じでありうる。Rは、アルコキシドの加水分解後に金属「M」との共有結合を形成及び維持する任意の好適な有機基を示す。いくつかの例では、R及びRは同じでありうる。他の例では、R及びRは異なりうる。任意の好適な金属アルコキシドを使用することができる。好適な金属アルコキシドの例としてはSi(OR)、Ti(OR)、Al(OR)、Zr(OR)、及びSn(OR)、並びにR-Si(OR)、R-Ti(OR)、R-Al(OR)、R-Zr(OR)、及びR-Sn(OR)が挙げられる。具体例では、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基でありうる。いくつかの具体例では、Rはフェニル基、シクロペンチル基、又は金属との共有結合を維持可能な任意の他の好適な有機基でありうる。金属アルコキシドの金属はケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、又は任意の他の好適な金属を含みうる。特定の例では、金属アルコキシドは、Ti(イソプロポキシ)、Al(イソプロポキシ)、Al(sec-ブトキシ)、Zr(n-ブトキシ)、Zr(n-プロポキシ)、n-プロピルトリエトキシシラン、テトラプロピルオルトシリケート、チタン(IV)t-ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、トリエチルオキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、フェニル-トリエトキシシラン、チタン(iv)エトキシド、トリエトキシ-シリルシクロペンタン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、3-アミノ-プロピルトリエトキシシラン、トリエトキシ-3-(2-イミダゾリン-1-イル)プロピルシラン、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されうる。選択された例では、金属アルコキシドは、テトラエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、及びそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されうる。さらなる選択された例では、金属アルコキシドは、テトラプロピルオルトシリケート、チタン(IV)t-ブトキシド、チタン(IV)イソプロポキシド、トリエチルオキシシラン、メチルトリエチルオキシシラン、トリエトキシ(オクチル)シラン、フェニル-トリエトキシシラン、チタン(iv)エトキシド、トリエトキシ-シリルシクロペンタン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、又はそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されうる。さらなる選択された例では、金属アルコキシドは、Ti(イソプロポキシ)、Al(イソプロポキシ)、Al(sec-ブトキシ)、Zr(n-ブトキシ)、Zr(n-プロポキシ)、及びn-プロピルトリエトキシシラン系アルコキシド、並びにそれらの任意の組み合わせを含む群から選択されうる。
【0011】
本発明の方法を図1に例示する。方法10は一般に、溶媒を含むゾルを準備するステップ11、ゾルと沈殿開始剤とを接触させることでゾルの沈殿を開始させるステップ12、及び沈殿中ゾルを製品に塗布するステップ13を含む。
【0012】
本発明の方法における使用のためのゾルは、好適に小さな粒径の機能性材料を溶媒に分散させ、触媒を加えることで形成可能である。機能性材料は、約1nm~1μmの範囲の少なくとも1つの寸法を有する粒子でありうる。本発明の方法において使用可能なゾルを作製する代替的な方法は、触媒を含む溶液に機能性材料を分散させ、次にバイオポリマー及び/又は1つ若しくは複数の他の添加剤を加えるステップを含む。バイオポリマー及び/又は1つ若しくは複数の他の添加剤が存在する場合、一般に、機能性材料を含むゾルは、バイオポリマー及び/又は1つ若しくは複数の他の添加剤の添加前に、ある期間保管されていることがある。ゾルを作製する方法中の任意の段階で、追加の機能性添加剤を加えることができる。例えば、バイオポリマーを含むゾルでは、バイオポリマーを溶液に分散させる前若しくは分散させた後、但しアルコキシドを加える前に、又はバイオポリマー及びアルコキシドを溶液に加えた後に、追加の機能性添加剤を加えることができる。ゾルを作製する異なる段階で、1つ又は複数の添加剤を加えることができる。添加剤を、ゾルの特性を調整するために、例えばゾルを紫外線硬化、可視光線硬化、若しくは赤外線硬化に好適なものにするために使用すること、及び/又は、ゾルを使用して調製されるコーティングに追加の機能性、例えば色、pH感受性、伝導性、蛍光を付与するために使用することができる。使用される添加剤はゾルの所期の用途に応じて異なる。好適な添加剤としては光開始剤、樹脂、油、染料(pH感受性染料及び蛍光染料を含む)、塩、界面活性剤、複合粒子、鉱物粒子又は他の無機粒子(炭酸塩、炭化物、酸化物、水酸化物、硝酸塩、臭化物等を含む)、並びに金属粒子(1つ又は複数の金属及び1つ又は複数の追加の非金属成分を含んだ合金及び粒子を含む)が挙げられる。本発明の方法における使用に好適なゾルを添加剤又はバイオポリマーの存在なしで形成してもよい。より詳細には、本発明の方法における使用に好適なゾルは、形成及び/又は使用中に添加剤及び/又はバイオポリマーを全く又は実質的に含まなくてもよい。さらに、適切であれば、ゾルが最終的に塗布されるべき製品とは別に、本発明の方法における使用に好適なゾルを形成することができる。そのような例では、ゾルの形成後に、ゾルと、ゾルが塗布されるべき製品とを一緒にする。
【0013】
定義上、ゾルは一般に安定である。したがって、本発明の方法における使用のためのゾルは、ゾルと沈殿開始剤とを接触させるステップの前の何らかの時点で形成可能である。例えば、ゾルを形成し、沈殿開始剤と接触させるステップに先立って、最大1時間、最大1日、最大1週間、最大1年、最大10年、又はそれ以上の期間保管してもよい。しかし、ゾルを、ゾルと沈殿開始剤とを接触させるステップの直前、2秒未満前、15秒未満前、30秒未満前、1分未満前、又は1時間未満前に形成してもよい。
【0014】
ゾルを、本発明の方法での使用前に、沈殿開始剤に地理的に近いところで形成してもよい。或いは、ゾルを、本方法が行われるべき現場から離れて形成した後に、その現場に輸送してもよい。一例では、ゾルを沈殿開始剤と接触させる数秒前に、ゾルをオンラインプロセスで製造現場において形成することができる。別の例では、ゾルを独立した製造施設において形成した後、ゾルが沈殿開始剤と接触する地理的に別個の現場に道路、鉄道、空路、海路、パイプライン、又は等価物によって輸送してもよい。
【0015】
本発明の方法において使用される沈殿開始剤は、ゾルが安定性を失って沈殿し始めることを促す任意の要素、化学物質、又は化合物でありうる。本発明の方法における使用について選択される特定の沈殿開始剤は、本方法において形成されるゾルの性質に依存する。一例では、水を溶媒として使用することで形成されるゾルは、一般に、さらなる水の添加によって沈殿し始めることがない。この例では、水によってゾルが沈殿し始めることがないため、水は沈殿開始剤ではない。対照的に、有機溶媒を含むゾルに水を加えることで、ゾルの沈殿が開始することがある。この例では、水は沈殿開始剤であると見なされるであろう。好ましくは、沈殿開始剤は液体でありうる。好ましくは、沈殿開始剤は、ゾルの形成において使用される溶媒よりも環境に優しい。さらに好ましくは、沈殿開始剤は、ゾルの形成において使用される溶媒よりも、質量又は容積当たりの価格を抑えて、容易に商業的に取得可能及び/又は入手可能である。これらの特徴を有する沈殿開始剤によって、環境に優しい及び費用効果が高い様式の両方でゾルを製品に塗布可能な方法が実現される。したがって、本発明の方法は、ゾルを製造用途において環境に優しい材料と共に(ゾル自体を使用する場合に比べて)低コストで使用するための容易な方式を実現することから、有利である。したがって、本発明の方法を、製造産業に対する過剰な負担をもたらすことなく、いくつかの製造プロセスにおいてプラスチックを代替するために使用することができる。
【0016】
一例では、ゾルがエタノール又はイソプロパノール、及び水に不溶性である1つ又は複数の機能性成分を含む場合、沈殿開始剤は水を含みうる。水は任意の好適な形態を取ることができ、したがって、液体としてゾルに混合される場合に沈殿を開始させることができる。或いは、又はさらには、沈殿を開始させるために水蒸気をゾル上に通すか又はゾルに吹き込んでもよい。別の例では、ゾルが水、及び酢酸エチルに不溶性である1つ又は複数の機能性成分を含む場合、沈殿開始剤は酢酸エチルを含みうる。しかし、沈殿開始剤は代替的な溶媒に限定されず、ゾルの安定性を他の様式で破壊する固体、液体、又は気体でありうる。一例では、沈殿開始剤は、ゾルのpHを、ゾルが、不安定であって沈殿し始めるコロイド懸濁液にゾルから転移するpHに変化させる、酸又は塩基でありうる。別の例では、沈殿開始剤は、ゾルがゾルの臨界凝固濃度を超えて転移するようにゾルの分散分子の濃度を増加させる1つ又は複数の材料でありうる。さらなる例では、沈殿開始剤は、ゾルに加えられる際にゾルが沈殿し始めるようにゾルの荷電バランスを十分に破壊するイオン性固体でありうる。油を沈殿開始剤として使用してもよい。当業者は、本開示を援用することで、好適な沈殿開始剤を容易に同定することができるであろう。
【0017】
沈殿開始剤は1つ若しくは複数の機能性添加剤を含みうるか、又は1つ若しくは複数の機能性添加剤から本質的になりうる。添加剤を使用することで、ゾルの添加により製品に付与される特性又は特徴を調整することができる。例えば、紫外線硬化、可視光硬化、若しくは赤外線硬化に好適な製品を作製するために添加剤を液体に加えてもよく、及び/又は、製品上に形成されたコーティングに色、pH感受性、導電性、若しくは蛍光等のさらなる特性を付与するために添加剤を使用してもよい。使用される添加剤は製品の所期の用途に応じて異なる。好適な添加剤としては光開始剤、樹脂、油、染料(pH感受性染料及び蛍光染料を含む)、塩、界面活性剤、複合粒子、鉱物粒子又は他の無機粒子(炭酸塩、炭化物、酸化物、水酸化物、硝酸塩、臭化物等を含む)、並びに金属粒子(1つ又は複数の金属及び1つ又は複数の追加の非金属成分を含んだ合金及び粒子を含む)が挙げられる。
【0018】
ゾルと沈殿開始剤を接触させることでゾルの沈殿及び「沈殿中ゾル」の形成が始まる。好ましくは、沈殿開始剤及びゾルは、接触後の次の5分、10分、15分、30分、45分、1時間、2時間、5時間、又はそれ以上にわたって沈殿が行われるように選択される。ゾルと沈殿開始剤との混合物が、当該混合物が塗布される製品に所期の機能性を付与することがもはや不可能であるときに、沈殿が完了したと見なされる。したがって、理論に拘束されるものではないが、沈殿中ゾルは一時的なナノ分散液、マイクロ分散液、又は懸濁液と見なされうる。一例では、ゾルが十分に沈殿して、ゾルと沈殿開始剤が混合された容器の底に定着し始めたと観察されるときに、沈殿が完了したと見なされうる。別の例では、ゾルが、ゾルと沈殿開始剤が混合された容器の底に完全に定着したときに、沈殿が完了したと見なされうる。また、ゾルの沈殿を、光学分析法、濁度測定技術等の分析技術を使用して追跡及び評価することができる。
【0019】
ゾルの沈殿を開始させるために必要な沈殿開始剤の量は、ゾル及び選択される沈殿開始剤の特定の特性に依存する。一例では、沈殿開始剤が液体である場合、必要な沈殿開始剤の量は、沈殿を開始させるためにゾルの溶媒系を破壊するために必要な量でありうる。別の例では、沈殿開始剤が固体である場合、必要な沈殿開始剤の量は、ゾルが安定性を失って沈殿し始めるようにゾルの荷電平衡を破壊するために必要な量でありうる。いくつかの状況では、最小量の沈殿開始剤を使用することが可能及び有利でありうるが、一般的には、活性ゾルを希釈してより多くの量の製品に塗布することができるように低コストで大量に入手可能な沈殿開始剤を利用することが有益である。ゾル対沈殿開始剤の比は1:500~100:1でありうる。一例では、ゾル対沈殿開始剤の比は1:200~1:2でありうる。さらなる例では、ゾル対沈殿開始剤の比は1:100~1:10でありうる。さらに別の例では、ゾル対沈殿開始剤の比は1:100~1:75でありうる。別のさらなる例では、ゾル対沈殿開始剤の比は1:100~1:90でありうる。
【0020】
沈殿開始剤とゾルとを任意の好適な様式で接触させることができる。例えば、流動混合、収束プロセス流、プランジング、噴霧、直接接触、一時接触、散布、ボルテックス混合、ブレンド、掻き混ぜ、撹拌等である。いくつかの例では、ゾルを沈殿開始剤に加えることができる。他の例では、沈殿開始剤をゾルに加えることができる。さらに他の例では、ゾル及び沈殿開始剤の両方を一緒に移動、輸送、又は流動させることで、ゾル及び沈殿開始剤がまとめられる。
【0021】
ゾルと沈殿開始剤とを接触させることで、接触が行われる容器、槽、配管、若しくは導管、又は接触プロセスの下流にある同等の装置上にコーティングを形成するゾルを得ることができる。しかし、コーティングが上に形成されない材料から構築される容器、槽、配管、又は導管を選択することで、コーティングの形成を回避してもよい。一例では、沈殿中ゾルはガラス容器上にコーティングを形成するがプラスチック容器上にはコーティングを形成しないものであってもよい。さらには、又は或いは、容器、槽、配管、又は導管の内側にコーティングを意図的に形成してもよい。これは、その後の接触事象が、既存のコーティング上にさらなるコーティングを形成することも、前回のコーティングをさらにふやすこともできないからであり、これにより、沈殿が所期の通り進行することが可能になる。当業者は、本開示を援用することで、ゾル及び選択される沈殿開始剤の挙動及び特性に応じて好適な改善策を同定することができるであろう。
【0022】
ゾルと沈殿開始剤とを接触させた後、以下「混合物」と呼ぶ沈殿中ゾルが1つ又は複数の製品に、当該製品に望ましい特徴を付与するために塗布される。沈殿が始まった後、ゾルは沈殿が進行するに従って徐々にその活性を失う。したがって、混合物が有効活性を失う前の期間内に混合物が塗布されるように、沈殿が完了する前に混合物を製品に塗布することが有利でありうる。したがって、ゾルと沈殿開始剤とを接触させた直後に混合物を使用することが有利である。例えば、沈殿開始剤とゾルとの接触後、直ちに、2秒以内に、5秒以内に、10秒以内に、15秒以内に、30秒以内に、1分以内に、5分以内に、15分以内に、30分以内に、1時間以内に、又は任意の他の好適な期間内に、混合物を製品に塗布することができる。
【0023】
本明細書において使用される用語「製品」は、中間製品、半完成製品、及び未完成製品、並びにそれらの成分を、他の点では完成した商品及び物品に加えて含むように意図されている。例えば、混合物を製品に塗布することは、混合物を紙パルプスラリー、エアレイドパルプ、又は乾燥紙パルプに、それらから用紙を形成する前に加えることを包含しうる。混合物を製品に塗布することは、他の点では完成した製品の外面の全体又は一部分をゾル分散液又はゾル懸濁液でコーティングすることを包含することもある。一般に、混合物は、ブラシ塗布、噴霧、噴霧乾燥、回転塗布、滴下、射出、転写、水浸、液浸、混合、展延、パディング等を含む任意の好適な方法によって製品に塗布可能である。製品の性質並びに所望の特性及び特徴に応じて、1つの製品又は物品に混合物を塗布するために、個々の又は複数の塗布方法を利用することができる。例えば、不透過性コーティングは、一般に、ブラシ塗布、噴霧、パディング、液浸、又は回転塗布によって製品に塗布される。一例では、抗菌活性を有するさらなるプロセス用のバルク塊を得ることが、混合物を中間材料に混ぜ込むことで達成可能である。製品は任意の好適な材料から形成可能である。より詳細には、製品は木製品、織物製品、皮革製品、金属(合金を含む)製品、コンクリート製品又は建設材料、ボール紙製品、紙製品又はパルプ製品、プラスチック製品、ガラス製品、セラミックス製品、複合材料、砂、れんが、大理石、土壌、塗料、塗装製品、飲食製品、医療機器、医薬製品、及びそれらの組み合わせを含みうる。
【0024】
理論に拘束されるものではないが、ゾルを使用して処理される製品に付与される機能的特徴は、ゾルを形成する成分の反応性官能基間の広範な架橋の形成によって生じうる。さらに、沈殿プロセス中のゾルの使用により、液体形態のままであるゾルに由来する連続コーティング媒体、及び沈殿の開始により形成される離散反応性粒子の存在の両方が実現される。粒子は、製品の表面の本来であれば多孔質又は透過性である流路を部分的又は完全に遮断するか又は閉塞させることで、充填機能を果たしうる。したがって、ゾルと離散反応性粒子との組み合わせで製品をコーティングすることで、本方法は、多孔質及び/又は透過性の材料に対して混合物が同時にコーティング、充填剤、及び結合剤として働くことを可能にする。混合物を製品に塗布する際に、沈殿中ゾルは製品の表面を覆い、製品の表面及び内層の任意の細孔、陥凹部、開口部、又は同様の特徴物に流入する。液体は沈殿中材料を多孔質及び/又は透過性材料内に運搬する。沈殿中ゾルに既に存在する任意の固体又は沈殿物は、部分的又は完全に閉塞するまで構造中に運搬されることで、製品の表面の細孔容積を満たす。製品に塗布される際に液相に残留するあらゆるゾルは、製品の外側をコーティングするが、固体材料よりもさらに深く製品に浸透することもできる。液体ゾル成分が製品の表面に浸透した後、ゾルは、沈殿し続けることで、製品表面の内部マトリックスに固体材料を形成することができる。したがって、沈殿は、塗布時に液体ゾルが到達することができるが初期直接塗布時に沈殿中の固体粒子が到達することができないことがある製品の表面形状及び内部構造の各部分において生じる。したがって、定着した後、液体ゾルコーティング面は、表面におけるアクセス可能な細孔を塗布により満たす前又は塗布により満たす間に離散微粒子が形成された連続コーティング層を形成する。液体ゾルが乾燥する際に、コーティング後のゾルのさらなる沈殿、又は製品の内部空隙空間における内部コーティングの形成によって、内部空隙空間が満たされる。このようにして、沈殿中ゾルは、ゾルが透過した表面の内部構造において固体を形成することで、製品の表面をコーティングし、細孔容積を沈殿材料で満たし、材料を一緒に結合させる。単独のゾルが表面コーティングの形成、及び/又は製品構造への透過のいずれかを行うことから、沈殿開始剤の非存在下で単独で使用される場合のゾルによるそのような結合、充填、及びコーティングは一般に不可能である。内部空隙及び表面細孔の両方を微粒子で満たすことは一般に実現不可能である。さらに、完全沈殿コーティングによる結合、充填、及びコーティングは実現不可能である。その理由は、機能性成分が固体であって、完全沈殿コーティングが塗布される製品の表面形状を超えて透過することができないからである。固体機能性添加剤が製品の表面形状を超えて透過することができないことから、液体媒体に分散された固体機能性添加剤を利用することで同様の結果が得られるであろう。本明細書に記載の方法との組み合わせで使用されるゾルに応じて、沈殿中材料は離散粒子の形態であってもよく、部分ゲルの形態であってもよい。また、沈殿中ゾル混合物の使用により、単独の液体ゾルを沈殿なしで使用する場合に実現可能であろう厚さよりも薄いコーティング層で製品をコーティングすることが可能になりうる。さらに、沈殿中ゾル混合物の使用により、製品の形成に通常必要であるさらなる充填剤及び結合剤の非存在下で製品を形成することも可能になりうる。例えば、沈殿中ゾル混合物をバージンパルプと共に使用することで、さらなる結合剤又は充填剤なしに紙製品を形成することが可能になりうる。
【0025】
図2は、本明細書に記載の方法を使用してコーティングされた繊維製品の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。SEM画像は、沈殿中ゾルが乾燥した連続コーティング1が形成された領域、及び沈殿微粒子3で満たされた表面におけるアクセス可能な細孔2を示す。図3は、コーティング材料の模式図を示す。図3では、製品4が沈殿中ゾルでコーティングされることで、製品4の外面及び製品4の露出面の細孔6aの上にコーティング層5が形成されている。沈殿中ゾルに由来する固体7が、製品の表面のアクセス可能な細孔空間をさらに満たしている。ゾルが内部製品構造に透過した際に、内部空隙空間6bに内部コーティング8及びさらなる沈殿物9が形成されている。したがって、沈殿中ゾルはコーティング5、充填剤7、及び結合剤8、9の機能を果たす。
【0026】
本発明の方法は1つ又は複数のさらなる方法ステップを含みうる。例えば、本方法は、製品に塗布するステップの後に沈殿中ゾルを乾燥させるステップをさらに含みうる。しかし、ゾルを室温での空気中で受動的に乾燥させてもよく、ゾルを乾燥させるために熱又はエネルギーの直接的又は間接的な適用は必要ではない。本明細書に開示の方法において熱エネルギーは必要ではなく、したがって、一例では、本方法は、乾燥ステップ、加熱ステップ、及び/又は製品に塗布されたときに沈殿中ゾルにエネルギーを与えるステップを明確に排除しうる。さらなる任意選択の方法ステップとしては、1つ又は複数の機能性添加剤をゾル、沈殿開始剤、又は沈殿中ゾルに加えるステップ、ゾル、沈殿開始剤、又は沈殿中ゾルを加熱又は冷却するステップ、ゾル、沈殿開始剤、又は沈殿中ゾルのpHを変化させるステップ、製品又は製品上のコーティングの特性又は特徴を1つ又は複数の試験方法によって試験するステップ、及び沈殿中ゾルでコーティングされた製品の表面に1つ又は複数のガスを通すステップを挙げることができる。別の例では、本方法は、溶媒を含む第2のゾルを準備するステップ、第2のゾルと、溶媒とは異なる沈殿開始剤とを接触させることで、第2のゾルの沈殿を開始させるステップ、及び第1のゾルが塗布された製品に沈殿中の第2のゾルを塗布するステップをさらに含みうる。
【0027】
低濃度のゾルが効率の低下又は減少を示すと本来であれば想定されたであろうことから、本発明の方法は驚くべきものである。本発明の方法は、好適な沈殿開始剤と混合される際に、ゾルが1%という低い濃度でいくつかの所望の特性を付与することを可能にする。さらに、ゾルを100%ベースで使用することで得られる有益な特性が、一般的には、沈殿を完了させたゾルの使用によって付与されないことから、沈殿プロセス中のゾルが示す残留活性はさらに驚くべきものである。水不透過性コーティングを付与するように意図されたゾルを使用して本方法を検討するとき、これらの驚くべき効果を実証することができる。沈殿用媒体で送達される低濃度のゾルを使用するゾルコーティングの形成は、コーティングされた物体の上に孤立した局所コーティング領域を形成することで、ゾルが集まった局所領域の周りで水を透過させることができると以前は見なされた可能性がある。しかし、実施例2、及び図2に示されるSEM画像は、これが当てはまらないこと、及び、完全に不透過性の層が形成されうることを実証した。
【0028】
本明細書に記載の方法を様々な規模で行うことができる。本方法は、実験室又はワークショップ等の小規模プロセスに適用可能であるが、工業製造現場等の大規模で行ってもよい。本方法は手作業で行ってもよい。例えば、技術者は、成分を手作業で混合してゾルを形成し、手動で混合されたゾル中に沈殿開始剤を加え、次にハンドブラシを使用して沈殿中ゾルを手作業で製品に塗布することができる。或いは、本明細書に記載の方法を、図4に示す装置等の装置を使用して行ってもよい。
【0029】
図4は、第1の保管槽101及び第2の保管槽102を含む装置を示す。第1の保管槽を使用して沈殿開始剤を保管することができ、第2の保管槽を使用して形成されたゾルを保管することができる。しかし、ゾル又は沈殿開始剤を必要に応じて輸送するために好適な搬送手段が存在するという条件で、第1又は第2の保管槽のいずれかを使用してゾル又は沈殿開始剤のいずれかを必要に応じて保管することがあるということが想定される。第1の保管槽101は、第1のポンプ103を備えた導管又は配管に接続され、一方、第2の保管槽102は、第2のポンプ104を備えた導管又は配管に接続される。ポンプは、遠心ポンプ又は容積式ポンプ等の任意の好適な種類、設計、又は構成のポンプでありうる。
【0030】
使用時に、ゾル及び沈殿開始剤を第1及び第2の保管槽から、第1及び第2の各保管槽からの導管又は配管が合流する混合地点105の方に引き出すように、ポンプ103、104を操作することができる。混合地点105におけるシステムに、さらなる特徴物、例えば、混合室、又はゾルと沈殿開始剤との接触を促進するための任意の他の好適な特徴物が含まれることがあることが想定される。第1又は第2の保管槽101、102からの流れを、関連するラインに位置する1つ又は複数のバルブ106を使用してさらに制御することができる。ゲート配置、球形配置、プラグ配置、ボール配置、バタフライ配置、及びダイヤフラム配置を含む任意の好適な種類のバルブを使用することができる。有利なことに、所与の期間でバルブを通過するように選択可能な沈殿開始剤又はゾルの流量を可能にするためにバルブが制御可能になるように、バルブを選択することができる。したがって、ゾル対沈殿開始剤の比を制御することができる。さらに、ゾル対沈殿開始剤の必要な比に応じて、ゾルを保管槽102から混合地点105の方に引き出すポンプは、制御された量のゾルを混合地点105に送るように制御可能な定量ポンプ又は注入ポンプでありうる。
【0031】
接触後、次に沈殿中ゾルは、沈殿中ゾルを製品108に塗布するための1つ又は複数の送達手段の方に向けられる。図4では、送達手段はスプレーノズル107であるが、代替の塗布手段を使用してもよい。
【0032】
一般に、図4の装置は液体沈殿開始剤との組み合わせで使用される。しかし、1つ又は複数のポンプ及びバルブを様々な好適な固体搬送システム、例えばスクリューコンベア、ベルト、バケットエレベーター、又は固体沈殿開始剤を輸送してゾルと接触させることができる等価物で置き換えてもよい。
【0033】
図4の装置は制御システム(図示せず)をさらに含んでもよい。制御システムは、装置100に本発明の方法を実施させるように構成されうる。制御システムはコンピュータでありうる。コンピュータは、プロセッサと、プロセッサにより実行される際に装置に本発明の方法を実施させる指示を記憶する1つ又は複数のコンピュータ可読記憶媒体とを含みうる。制御システムは、ユーザーからの1つ又は複数の入力、例えばゾル対沈殿開始剤の比、必要な材料の流量、又は製品に塗布されるべき沈殿中ゾルの総量を受け取ることができる。
【0034】
図5は、本発明の方法で使用可能な別の装置200を示し、参照記号101~108は、図4に示されるものと同じ技術的特徴物を示す。図5の装置は、ゾルが沈殿開始剤と接触する前にゾルを形成するための手段210を含むという点で、図4の装置と異なる。ゾル形成手段210は溶媒保管槽211及び機能性添加剤保管槽212を含む。1つ又は複数のポンプ又は搬送手段(図示せず)は、ゾルを形成するために溶媒及び機能性添加剤を混合装置213に向けるものである。次にゾルは保管槽102に渡り、保管槽中でゾルをある期間保管してもよく、本発明の方法において直ちに使用してもよい。所望であれば、さらなる保管槽を使用して、さらなる成分を含むゾルを形成するために混合装置213に向けてもよい。また、所望であれば、ゾルを形成する成分を保管槽102に移して直接混合してもよいということが想定される。したがって、図5の装置を使用して本発明の方法の全体を行うことができる。
【0035】
以下の実施例を参照して本発明をさらに理解することができる。
[実施例]
【0036】
以下の実施例は、ゾルを形成することができる様々な方法を示す。
実施例1 ゾルの形成
[エタノール(10ml)及びHCl水溶液(0.1M、2ml)の混合物に、50%テトラエトキシシラン及び50%フェニルトリエトキシシランで構成されるケイ素アルコキシド前駆体混合物(5.2ml)を滴下した。ゾルの形成まで溶液を室温で約6時間撹拌した。
【0037】
実施例2 ゾルの形成
エタノール(10ml)及びHCl水溶液(0.1M、1.6ml)の混合物にカチオン性デンプン(CS;7mg)を分散させてpH 2の溶液を生成した。この撹拌溶液に、100%メチルトリエチルオキシシランで構成されるケイ素アルコキシド前駆体(5.2ml)を滴下した後、撹拌をさらに2時間続けた。
【0038】
実施例3 ゾルの形成
エタノール(12ml)及びHCl水溶液(0.1M、2ml)の混合物にキトサン(6mg)を分散させてpH 2の溶液を生成した。この撹拌溶液に、50%テトラエトキシシラン及び50%フェニルトリエトキシシランで構成されるケイ素アルコキシド前駆体混合物(6ml)を滴下した後、撹拌をさらに1.5時間続けた。
【0039】
実施例4 ゾルの形成
エタノール(15ml)及びHCl水溶液(0.1M、2ml)の混合物にメチルトリエチルオキシシラン(100%、7.5ml)を滴下した。ゾルの形成まで溶液を約1時間撹拌した。
【0040】
実施例5 ゾルの形成
エタノール(10ml)及びNaOH水溶液(0.1M、2ml)の混合物に、50%トリエトキシシラン及び50%メチルトリエチルオキシシランで構成されるケイ素アルコキシド前駆体混合物(5ml)を滴下した。ゾルの形成まで溶液を約30分間撹拌した。
【0041】
実施例6 ゾルの形成
エタノール(6.5ml)及びHCl水溶液(0.1M、1.8ml)の混合物にチタンイソプロポキシド(9g)を加えた。ゾルの形成まで混合物を約30分間撹拌した。
【0042】
実施例7 ゾルの形成
エタノール(8ml)及びNaOH水溶液(0.1M、2ml)の混合物に小麦粉(7mg)を分散させてpH 13の溶液を生成した。この撹拌溶液に、50%トリエトキシシラン及び50%メチルトリエチルオキシシランで構成されるケイ素アルコキシド前駆体混合物(5.2ml)を滴下した後、撹拌をさらに30分間続けた。
【0043】
実施例8 ゾルの形成
エタノール(6.2ml)及びNaOH水溶液(0.1M、1.5ml)の混合物にメチルトリエチルオキシシラン(100%、5.8ml)を滴下した。ゾルの形成まで溶液を約30分間撹拌した。
【0044】
実施例9 ゾルの形成
エタノール(6.3ml)及びHCl水溶液(0.1M、1.6ml)の混合物にジルコニウムイソプロポキシド(8.5g)を加えた。ゾルの形成まで混合物を約1時間撹拌した。
【0045】
実施例10 ゾルの形成
エタノール(10ml)及びNaOH水溶液(0.1M、1.5ml)の混合物にカチオン性デンプン(CS;5mg)を分散させてpH 13の溶液を生成した。この撹拌溶液にメチルトリエチルオキシシラン(5.2ml)を滴下した後、撹拌をさらに20分間続けた。
【0046】
実施例11 ゾルの形成
エタノール(6ml)、NaOH水溶液(0.1M、1ml)、及びメチルトリエトキシシラン(1ml)の混合物に小麦粉(5mg)を分散させてpH 13の溶液を生成した。この撹拌溶液に、50%テトラエトキシシラン及び50%フェニル-トリエトキシシランで構成されるケイ素アルコキシド混合物(1ml)を滴下した後、撹拌をさらに30分間続けた。
【0047】
実施例12 ゾルの形成
エタノール(6.5ml)及びHCl水溶液(0.1M、1.6ml)の混合物にアルミニウムイソプロポキシド(9.2g)を加えた。ゾルの形成まで混合物を約1時間撹拌した。
【0048】
以下の実施例は、ゾルを使用する様々な方法を示す。
実施例13
実施例1のゾルを水200mlと室温で10秒間混合して沈殿を開始させた。以前は透明であった溶液中に白色固体が形成されたことが観察された。次に、白色固体の最初の観察可能な形成から5分以内に、混合物をボール紙コップの内面にブラシ塗布した。混合物をボール紙コップの表面で乾燥させた。
【0049】
水25mlをコーティングボール紙コップ及びコーティングのない対照ボール紙コップにそれぞれ加えた。水は、未コーティングボール紙コップを直ちに染み通って周囲領域に漏出したことがわかった。コーティングボール紙コップ中の水25mlは、1時間超の間、観察可能な漏出なく保持され、その時点で観察を停止した。
【0050】
実施例14
実施例2のゾルを水75mlと室温で5秒間混合して沈殿を開始させた。以前は透明であった溶液中に白色固体が形成されたことが観察された。次に、白色固体の最初の観察可能な形成から10分以内に、混合物を透過性パルプ植木鉢の露出面に噴霧した。混合物を植木鉢の表面で乾燥させた。
【0051】
乳製品のアイスクリーム50mlをコーティング植木鉢、及びコーティングのない対照植木鉢にそれぞれ加え、2時間かけて溶かした。約30分後に、液体が未コーティング植木鉢を透過したことが観察され、この透過は次の1時間にわたって次第にいっそう顕著になった。この期間中、コーティング植木鉢では透過又は漏出は観察されず、その時点で観察を停止した。
【0052】
実施例15
実施例3のゾルを水30mlと室温で5秒間混合して沈殿を開始させた。以前は透明であった溶液中に白色固体が形成されたことが観察された。次に、白色固体の最初の観察可能な形成から12分以内に、混合物を木製タイルの露出面に回転塗布した。混合物を木製タイルの表面で乾燥させた。
【0053】
3×3四角格子のコーティング木製タイルの表面に各約0.75mlの水9滴を置いた。未コーティングの同一の木製タイルでプロセスを繰り返した。その後5~10分間かけて未コーティング木製タイルの水滴が木製タイルの表面に吸収されて、表面に濡れた円形の染みが残ったことが観察された。コーティング木製タイルに置かれた水滴は表面に5時間残留し、その時点で観察を停止した。
【0054】
実施例16
実施例15のコーティング木製タイルを半分にスライスして、当初のタイルの半分の厚さの2つのタイルを生成した。当初のより厚いタイルの内側に既にあった半分の厚さの各タイルの表面を、先行する実施例15に記載の水滴実験に供した。水滴は、半分の厚さの各タイルの表面に2時間とどまり、その時点で観察を停止した。
【0055】
実施例17
実施例15の実験を、実施例4のゾル及び予め塗装された木製タイルを使用して繰り返した。未コーティング塗装木製タイルに置かれた水滴は、15~30分間かけてタイルの表面にゆっくりと吸収されたことが観察された。コーティング木製タイルの表面に置かれた水滴はコーティング塗装木製タイルの表面に5時間残留し、その時点で観察を停止した。
【0056】
実施例18
実施例6のゾルを水30mlと室温で混合して沈殿を開始させた。ゾル混合物中に白色固体が形成された後、正方形の織物をゾル混合物に約10分間浸漬した。浸漬後、正方形の織物を取り出して乾燥させた。
【0057】
コーティングされた正方形の織物の表面に各約0.75mlの水8滴を置いた。第2の未コーティングの正方形の織物でプロセスを繰り返した。水滴が2秒~5秒の期間内に未コーティングの正方形の織物に吸収されたことが観察された。コーティングされた正方形の織物上の水滴はコーティング面に5時間残留し、その時点で観察を停止した。
図1
図2
図3
図4
図5