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  • 特許-多層樹脂シート及び成形容器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】多層樹脂シート及び成形容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240716BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240716BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240716BHJP
   B65D 65/46 20060101ALI20240716BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/28
B32B7/12
B65D65/46 ZBP
B65D1/00 111
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022556890
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2021037235
(87)【国際公開番号】W WO2022080238
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020174875
(32)【優先日】2020-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和也
(72)【発明者】
【氏名】藤村 徹夫
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-069767(JP,A)
【文献】特開2010-189536(JP,A)
【文献】国際公開第2019/069963(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107696622(CN,A)
【文献】特開2010-069766(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069127(WO,A1)
【文献】特開2004-277681(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0144813(US,A1)
【文献】国際公開第2020/203653(WO,A1)
【文献】冨田耕右,高分子材料の生分解性と難生分解性高分子材料の生分解,マテリアルライフ学会誌,2007年01月,Vol.19,No.1,p.13-17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 1/00
65/46
C08L 67/00-67/08
101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、基材層の一方の面に接着層を介して積層された酸素バリア層とを備えた多層樹脂シートであって、
基材層は、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~6:4の質量比で含み、
基材層におけるポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の合計含有量は95質量%以上であり、
多層樹脂シートにおける生分解性樹脂の割合が90質量%以上である、
多層樹脂シート。
【請求項2】
基材層は、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=4:6~6:4の質量比で含む、請求項1に記載の多層樹脂シート。
【請求項3】
基材層と酸素バリア層の間の前記接着層が生分解性樹脂系接着剤を含む請求項1又は2に記載の多層樹脂シート。
【請求項4】
基材層と酸素バリア層の間の前記接着層は、生分解性樹脂系接着剤として生分解性の酸変性ポリエステル樹脂を含む請求項3に記載の多層樹脂シート。
【請求項5】
酸素バリア層が生分解性酸素バリア性樹脂を含む請求項1~4の何れか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項6】
酸素バリア層が、生分解性酸素バリア性樹脂として生分解性のビニルアルコール-ブテンジオール共重合体を含む請求項5に記載の多層樹脂シート。
【請求項7】
酸素バリア層の、基材層を有する側の面とは反対側の面に接着層を介して積層された表皮層を有し、表皮層は生分解性樹脂を含む請求項1~6のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項8】
表皮層と酸素バリア層の間の前記接着層は、生分解性の酸変性ポリエステル樹脂を含む請求項7に記載の多層樹脂シート。
【請求項9】
表皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含む請求項7又は8に記載の多層樹脂シート。
【請求項10】
表皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含む請求項9に記載の多層樹脂シート。
【請求項11】
基材層の、酸素バリア層を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層を有し、下皮層は生分解性樹脂を含む請求項1~10のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項12】
下皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含む請求項11に記載の多層樹脂シート。
【請求項13】
下皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含む請求項12に記載の多層樹脂シート。
【請求項14】
基材層が結晶核剤を含む請求項1~13のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項15】
基材層の一方の面に接着層を介して積層された酸素バリア層と、
酸素バリア層の、基材層を有する側の面とは反対側の面に接着層を介して積層された表皮層と、
基材層の、酸素バリア層を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層とを有し、
基材層、表皮層、及び下皮層の少なくとも1層が結晶核剤を含む請求項1~14のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項16】
多層樹脂シート全体の厚みが200~1300μmであり、酸素バリア層の厚みが1~50μmである請求項1~15のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項17】
JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が1.0J以上である請求項1~16のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項18】
JIS K7161:2014に準拠して測定される引張弾性率が、TD方向に1100MPa以上であり、MD方向に1100MPa以上である請求項1~17のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項19】
GB8808-1988に準拠して測定される酸素バリア層と基材層の間の180°剥離試験を実施したときの剥離強度が、TD方向に剥離したときに7N/15mm以上であり、MD方向に剥離したときに7N/15mm以上である請求項1~18のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の多層樹脂シートを備える成形容器。
【請求項21】
前記多層樹脂シートにはノッチが形成されている請求項20に記載の成形容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂を含有する多層樹脂シート及びそれを備える成形容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への負荷を軽減する観点から生分解性樹脂の需要が高まっている。生分解性樹脂の一種であるポリ乳酸樹脂は安価であり、また、優れた剛性及び高い透明性をもつ。このことから、ポリ乳酸樹脂は、飲料、食品、化粧品、家電製品及びその他の日用品のパック、カップ及びトレイ等の成形容器の材料として応用されることが期待されており、技術改良が進んでいる。
【0003】
特許文献1(特開2007-130895号公報)においては、ポリ乳酸に特定の可塑剤(コハク酸エステル類)及び結晶核剤(有機系結晶核剤)を組み合わせることで、透明性を維持しながらも熱成形における結晶化が促進されて、耐熱性等に優れた成形体が得られることが記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2014-51646号公報)においては、ポリ乳酸樹脂組成物の熱成形において、熱成形用シートにおける位相差(光がシートを透過する際に生じる複屈折による位相差、いわゆるレターデーション)の違いが熱成形性に大きく影響するため、シート化における各種条件を調整することによって位相差を特定の範囲内に留まるようにシート化することにより熱成形性を大きく向上できることが記載されている。
【0005】
一方、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性樹脂としては、ポリブチレンサクシネート樹脂が知られている。ポリブチレンサクシネート樹脂は引張強度及び引張伸びに優れるという特徴を生かし、種々の技術改良が進められている。例えば、特許文献3(特開2003-253105号公報)では、装飾効果、光線透過のコントロール、プラスチックの劣化防止などを目的としてポリブチレンサクシネート樹脂を着色加工することなどが記載されている。特許文献4(特開2006-168375号公報)には、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を配合することで耐熱性、耐衝撃性及び成形加工性を改善した樹脂シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-130895号公報
【文献】特開2014-51646号公報
【文献】特開2003-253105号公報
【文献】特開2006-168375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は流動性が高いことから、シート製膜を行う際にドローダウンが発生しやすく、表面外観を出しにくいという問題がある。また、ポリ乳酸樹脂は引張弾性率が高い一方で、耐衝撃性に乏しい。このため、製膜したシートを巻取る際に割れやすいという問題もある。ポリ乳酸樹脂のシートを容器加工等の二次成形加工を行う際も前述同様の問題がある。一方、ポリブチレンサクシネート樹脂はシート巻取り時の割れの問題はないが、打ち抜き加工性に劣るという問題があり、ポリ乳酸樹脂の代替品としては使用できない。更に、ポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の何れも酸素バリア性に乏しいという問題があり、両者を配合しても高機能樹脂シートに求められる性能を十分に満たしているとは言い難い。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みて創作されたものであり、一実施形態において、ポリ乳酸樹脂を含有する樹脂シートであって、環境性能に優れ、巻取り時の割れ発生を抑制可能であり、更には打ち抜き加工性及び酸素バリア性にも優れた樹脂シートを提供することを課題とする。また、本発明は別の一実施形態において、そのような樹脂シートを備える成形容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を所定の割合で配合した樹脂組成物を含有する基材層に、酸素バリア層を、接着層を介して積層することで、高い生分解性樹脂の割合を有しながらも、高機能な樹脂シートが得られることを見出し、以下に例示される本発明に至った。
【0010】
[1]
基材層と、基材層の一方の面に接着層を介して積層された酸素バリア層とを備えた多層樹脂シートであって、
基材層は、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含み、
多層樹脂シートにおける生分解性樹脂の割合が90質量%以上である、
多層樹脂シート。
[2]
基材層と酸素バリア層の間の前記接着層が生分解性樹脂系接着剤を含む[1]に記載の多層樹脂シート。
[3]
基材層と酸素バリア層の間の前記接着層は、生分解性樹脂系接着剤として生分解性の酸変性ポリエステル樹脂を含む[2]に記載の多層樹脂シート。
[4]
酸素バリア層が生分解性酸素バリア性樹脂を含む[1]~[3]の何れか一項に記載の多層樹脂シート。
[5]
酸素バリア層が、生分解性酸素バリア性樹脂として生分解性のビニルアルコール-ブテンジオール共重合体を含む[4]に記載の多層樹脂シート。
[6]
酸素バリア層の、基材層を有する側の面とは反対側の面に接着層を介して積層された表皮層を有し、表皮層は生分解性樹脂を含む[1]~[5]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[7]
表皮層と酸素バリア層の間の前記接着層は、生分解性の酸変性ポリエステル樹脂を含む[6]に記載の多層樹脂シート。
[8]
表皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含む[6]又は[7]に記載の多層樹脂シート。
[9]
表皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含む[8]に記載の多層樹脂シート。
[10]
基材層の、酸素バリア層を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層を有し、下皮層は生分解性樹脂を含む[1]~[9]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[11]
下皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含む[10]に記載の多層樹脂シート。
[12]
下皮層がポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含む[11]に記載の多層樹脂シート。
[13]
基材層が結晶核剤を含む[1]~[12]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[14]
基材層の一方の面に接着層を介して積層された酸素バリア層と、
酸素バリア層の、基材層を有する側の面とは反対側の面に接着層を介して積層された表皮層と、
基材層の、酸素バリア層を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層とを有し、
基材層、表皮層、及び下皮層の少なくとも1層が結晶核剤を含む[1]~[13]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[15]
多層樹脂シート全体の厚みが200~1300μmであり、酸素バリア層の厚みが1~50μmである[1]~[14]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[16]
JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が1.0J以上である[1]~[15]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[17]
JIS K7161:2014に準拠して測定される引張弾性率が、TD方向に1100MPa以上であり、MD方向に1100MPa以上である[1]~[16]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[18]
GB8808-1988に準拠して測定される酸素バリア層と基材層の間の180°剥離試験を実施したときの剥離強度が、TD方向に剥離したときに7N/15mm以上であり、MD方向に剥離したときに7N/15mm以上である[1]~[17]のいずれか一項に記載の多層樹脂シート。
[19]
[1]~[18]のいずれか一項に記載の多層樹脂シートを備える成形容器。
[20]
前記多層樹脂シートにはノッチが形成されている[19]に記載の成形容器。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートは、生分解性樹脂の割合が90質量%以上であることから環境性能が高い一方で、巻取り時の割れ発生を抑制可能であり、打ち抜き加工性及び酸素バリア性にも優れている。従って、当該樹脂シートを用いることで環境性能と実用性を兼ね備えた各種の成形品、例えば、飲料、食品、化粧品、家電製品及びその他の日用品のパックやトレイ等の成形容器を成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートの積層構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<1.多層樹脂シート>
本発明の一実施形態によれば、基材層と、基材層の一方の面に接着層を介して積層された酸素バリア層とを備えた多層樹脂シートが提供される。多層樹脂シートにおける生分解性樹脂の割合が90質量%以上であるため、当該多層樹脂シートは環境性能に優れている。ここで、本明細書における生分解性樹脂とは、微生物によって完全に消費され自然的副産物(炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど)のみを生じるものを指す。好ましくは、生分解性樹脂は、JIS K6953-1(2011)で定める好気的コンポスト土壌中で、1年以内に60%以上の生分解度を有する。また、基材層が、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含有する樹脂組成物で構成されることで、巻取り時の割れ発生の抑制と、打ち抜き加工性の両立を図ることができる。更に、当該多層樹脂シートは酸素バリア層を有することで、基材層のみでは実現できない酸素バリア性を確保している。
【0014】
図1には、本発明の一実施形態に係る多層樹脂シート10が示されている。当該多層樹脂シート10は、基材層14と、基材層14の一方の面に接着層12bを介して積層された酸素バリア層13と、酸素バリア層13の、基材層14を有する側の面とは反対側の面に接着層12aを介して積層された表皮層11と、基材層14の、酸素バリア層13を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層15とを有する。つまり、当該多層樹脂シート10は、紙面の上から下に向かって、表皮層11/接着層12a/酸素バリア層13/接着層12b/基材層14/下皮層15がこの順に積層された積層構造を備える。本実施形態において、酸素バリア層13は表皮層11及び基材層14に接着層12a、12bを介して積層されている一方で、基材層14と下皮層15は直接積層されている。以下、各層の実施形態について説明する。
【0015】
(a.基材層)
本実施形態に係る多層樹脂シート10は、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比、好ましくは3:7~7:3の質量比、より好ましくは4:6~6:4の質量比で含む樹脂組成物で構成される基材層14を有する。
【0016】
ポリ乳酸樹脂は、石油を原料とすることなく、とうもろこし、さとうきび、さとう大根などの植物を原材料として製造可能であり、更には、土中の微生物によって水と二酸化炭素に完全生分解可能であり、環境性能が高い。ポリ乳酸樹脂としては、例えば、ポリ(L-乳酸)及びポリ(D-乳酸)のようなホモポリマーの他、L-乳酸及びD-乳酸の両方の構造単位を有するコポリマー(DL-乳酸)、更には、これらの混合物が挙げられる。
【0017】
ポリ乳酸樹脂は、L体だけで構成されると脆くなり、加工性が悪いという欠点がある為、D体を0.1~8mol%程度含有するコポリマー(DL-乳酸)が好ましく、D体を0.1~4mol%程度含有するコポリマー(DL-乳酸)がより好ましい。
【0018】
ポリ乳酸樹脂は、JIS K7210-1:2014規格に準拠して測定される190℃、2.16kgにおけるMFRが2~12g/10minであることが好ましい。MFRの下限値が好ましくは2g/10min以上、より好ましくは3g/10min以上、更により好ましくは4g/10min以上であることでシート幅方向に溶融樹脂が広がりやすいという利点が得られる。また、MFRの上限値が好ましくは12g/10min以下、より好ましくは10g/10min以下、更により好ましくは8g/10min以下であることでシート幅方向の両端へ溶融樹脂の流れが適度に抑制されるという利点が得られる。
【0019】
ポリ乳酸樹脂の重合法としては、縮重合法及び開環重合法等の公知の方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL-乳酸、D-乳酸、又はこれらの混合物を、直接脱水縮重合して任意の組成を有するポリ乳酸樹脂を得ることができる。重合時、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を配合してもよい。例えば、耐熱性向上を目的としてテレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の非脂肪族ジオール等を適宜添加可能である。また、高分子量化を目的として、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等の鎖延長剤を適宜添加可能である。
【0020】
ポリブチレンサクシネート樹脂も、サトウキビ、キャッサバ及びトウモロコシなどの植物を原材料として製造可能である。そして、土中の微生物によって水と二酸化炭素に完全生分解可能である。ポリブチレンサクシネート樹脂は公知の重合法によって製造可能であり、例えば、1,4-ブタンジオールとコハク酸の縮重合によりエステル化することで合成可能である。重合時、本発明の効果を阻害しない範囲で、各種添加剤を配合してもよい。例えば、高分子量化を目的として、公知の触媒及び結合剤を適宜添加可能である。
【0021】
ポリブチレンサクシネート樹脂の中でも、環境負荷の観点からトウモロコシなどの植物由来であるコハク酸を原料として使用したものが好ましい。
【0022】
ポリブチレンサクシネート樹脂は、JIS K7210-1:2014規格に準拠して測定される190℃、2.16kgにおけるMFRが2~12g/10minであることが好ましい。MFRの下限値が好ましくは2g/10min以上、より好ましくは3g/10min以上、更により好ましくは4g/10min以上であることでシート幅方向に溶融樹脂が広がりやすいという利点が得られる。また、MFRの上限値が好ましくは12g/10min以下、より好ましくは10g/min以下、更により好ましくは8g/10min以下であることでシート幅方向の両端へ溶融樹脂の流れが適度に抑制されるという利点が得られる。
【0023】
基材層14は結晶核剤を含有することができる。結晶核剤が配合されていることで、樹脂シートを成形する際に、ポリ乳酸樹脂の結晶化が促進されるので耐熱性を向上可能である。結晶核剤としては、限定的ではないが、天然又は合成珪酸塩化合物、酸化チタン、硫酸バリウム、リン酸三カルシウム、炭酸カルシウム、及びリン酸ソーダ等の金属塩、並びに、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、及びマイカ等の無機化合物の他、フタロシアニン鉄等の金属フタロシアニン錯体、フェニルホスホン酸金属塩のような有機ホスホン酸塩化合物等の有機金属塩、環構造を有するアミド化合物、有機ヒドラジド化合物、有機スルホン酸塩化合物、フタロシアニン化合物およびメラミン化合物、並びにアルキレンオキサイド等の有機化合物から選ばれる少なくとも1種の結晶核剤を含有することが好ましい。基材層14における結晶核剤の含有量は、例えば、ポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の合計質量を基準にして、3phr~15phrとすることができ、5phr~10phrとすることが好ましい。
【0024】
また、多層樹脂シートやその成形品に対しレーザー照射等による印字加工を行う場合、基材層14は白色顔料を1phr以上5phr以下含有することが好ましい。更には、基材層14に含有される白色顔料が1.5phr以上4phr以下であることがより好ましい。ここで使用される単位phrは、基材層14における全樹脂成分の100質量部当たりの白色顔料の質量部を指す。白色顔料が基材層14中に1phr以上含有されることで隠蔽性が得られ、多層樹脂シートやその成形品へ印字加工を行う際に、印字発色を良くすることができ、更には遮光性が得られ、成形品外部からの光照射による内容物の変色や変質を抑制することができる。また、基材層14中の白色顔料を5phr以下とすることで、白色顔料の凝集が抑制でき、多層樹脂シートやその成形品の凝集物等による外観不良を抑制することができる。また、コスト面を考慮すると、白色顔料は少ない方が好ましい。
【0025】
前記白色顔料としては、酸化チタン(チタン白)、亜鉛華(亜鉛白)、リトポン、鉛白等があり、中でも酸化チタンが好適である。前記白色顔料は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
基材層14には、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、その他の樹脂が混在してもよいし、樹脂成分以外の各種添加成分を加えることも許容される。かかる添加成分としては、上述した結晶核剤及び白色顔料の他、異なる成分を相溶させる相溶化材、他の顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。また、本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートや成形容器の製造工程で発生したスクラップ樹脂を混合することもできる。
【0027】
しかしながら、一般的には、基材層14におけるポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の合計含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0028】
基材層14の厚みは、好ましくは100~800μmであり、より好ましくは150~500μmである。基材層14の厚みを100μm以上とすることは、多層樹脂シートを成形することで得られる成形品の強度を確保できる点で有利である。基材層14の厚みを800μm以下とすることは、多層樹脂シートとその熱成形容器等の成形品のコストを抑制することができる点で有利である。
【0029】
(b.酸素バリア層)
本実施形態に係る多層樹脂シート10は、基材層14の一方の面に接着層12bを介して積層された酸素バリア層13を有する。酸素バリア層13を設けることで多層樹脂シートに酸素バリア性を付与することができる。特に、ポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂は、酸素バリア性が低いため、飲料及び食品といった酸素の存在下で劣化しやすい商品の包装容器の材料として樹脂シートを使用する場合、酸素バリア層と基材層を有する積層体として提供することが有用である。
【0030】
酸素バリア層13には公知の酸素バリア性樹脂を使用することができ、特に制限はないが、好ましい実施形態において、酸素バリア層13は生分解性酸素バリア性樹脂を含有する。生分解性酸素バリア性樹脂としては、例えば、生分解性のポリアミド、及び生分解性のポリビニルアルコール等が代表的なものとして挙げられるが、これらに限定されるものではない。生分解性酸素バリア性樹脂は、現時点で知られているものの他、将来的に技術開発が進むことで開発されるものを使用できる。酸素バリア性樹脂は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
生分解性酸素バリア性樹脂としては特に、生分解性のビニルアルコール-ブテンジオール共重合体が押出成形性及び剥離強度の面から好ましい。生分解性のビニルアルコール-ブテンジオール共重合体は、酸素バリア性及び押出成形性を具備させるために、鹸化度が90モル%以上、好ましくは95モル%以上のものが好ましい。鹸化度は、JIS K6726:1994に準拠して測定される。
【0032】
ビニルアルコール-ブテンジオール共重合体におけるブテンジオールの含量の下限は、生分解性を高めるという観点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、ビニルアルコール-ブテンジオール共重合体におけるブテンジオールの含量の上限は、十分な酸素バリア性を発現させる観点から、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。なお、ブテンジオールの含量は、ビニルアルコール-ブテンジオール共重合体を構成するビニルアルコール単位及びブテンジオール単位の合計質量に対するブテンジオール単位の質量の比率を指す。
【0033】
生分解性のポリアミドとしては、例えば、ナイロン4、ナイロン2/ナイロン6共重合体が挙げられる。
【0034】
酸素バリア性樹脂は、JIS K7210-1:2014規格に準拠して測定される190℃、2.16kgにおけるMFRが0.50~10.0g/10minであることが好ましい。MFRの下限値が好ましくは0.50g/10min以上、より好ましくは0.80g/10min以上、更により好ましくは1.00g/10min以上であることでシート幅方向に溶融樹脂が広がりやすいという利点が得られる。また、MFRの上限値が好ましくは10.0g/10min以下、より好ましくは8.0g/10min以下、更により好ましくは6.0g/10min以下であることでシート幅方向の両端へ溶融樹脂の流れが適度に抑制されるという利点が得られる。
【0035】
酸素バリア層13には、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、酸素バリア性樹脂以外の樹脂を配合してもよいし、樹脂成分以外の各種の添加成分を加えることも許容される。かかる添加成分としては、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。しかしながら、一般的には、酸素バリア層13における生分解性酸素バリア性樹脂の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、酸素バリア層13におけるビニルアルコール-ブテンジオール共重合体の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0036】
酸素バリア層13の厚みは、好ましくは1~50μm、より好ましくは5~30μmである。酸素バリア層13の厚みを1μm以上とすることは、多層樹脂シート10に酸素バリア性を高める観点で有利である。また、酸素バリア層13の厚みを50μm以下とすることで、多層樹脂シート10を容器等に成形する時に酸素バリア層13が熱延伸され易く、より平滑な成形品の厚みを確保でき、より良い外観のある成形品を得ることができる。
【0037】
(c.表皮層)
本実施形態に係る多層樹脂シート10は、酸素バリア層13の、基材層14を有する側の面とは反対側の面に接着層12aを介して積層された表皮層11を有する。表皮層11は設けなくてもよいが、設けることが好ましい。具体的には、酸素バリア層13が多層樹脂シート10の最表層を構成すると、酸素バリア層13は粘着性が高くなる傾向にあるために積層体の製造時に冷却過程のロールに張り付いて良好な表面外観が得られにくくなるという不具合が生じ得るところ、酸素バリア層13を表皮層11が被覆して多層樹脂シート10の表面を構成することで、こうした不具合を解消することができる。
【0038】
表皮層11は、基材層14と基本的に同一又は類似の樹脂によって構成することができる。従って、一実施形態において、表皮層11はポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含むことができ、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含有することが好ましく、3:7~7:3の質量比で含有することがより好ましく、4:6~6:4の質量比で含有することが更により好ましい。その他、表皮層11の実施形態は、好ましい実施形態を含め、基材層14と基本的に同じであるので重複する説明を省略する。以下に、表皮層11が基材層14と相違する点について説明する。
【0039】
表皮層11は、多層樹脂シート10の外観を向上させるため、スクラップ樹脂を含有しないことが望ましい。
【0040】
表皮層11の厚みは、好ましくは10~300μmであり、より好ましくは30~200μmである。表皮層11の厚みを10μm以上とすることで、多層樹脂シート10を熱成形した際に表皮層11が延伸され、断裂することなく良好な成形容器が得られるという利点が得られる。表皮層11の厚みを300μm以下とすることで、熱成形時にノッチ加工を行う際に酸素バリア層13まで十分にノッチ刃が届き上手く断裂できるという利点が得られる。
【0041】
(d.下皮層)
本実施形態に係る多層樹脂シート10は、基材層14の、酸素バリア層13を有する側の面とは反対側の面に積層された下皮層15を有する。下皮層15は設けなくてもよいが、多層樹脂シート10の外観を向上させるという理由により、設けることができる。例えば、基材層14がスクラップ樹脂を含有する等により外観上の欠点を有する場合でも、多層樹脂シート10の表面にそのような外観上の欠点が浮き出ることなく、より良い外観のある多層樹脂シート10を得ることができる。下皮層15は、基材層14と基本的に同一又は類似の樹脂によって構成することができる。従って、一実施形態において、下皮層15はポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を含むことができ、ポリ乳酸樹脂とポリブチレンサクシネート樹脂を、ポリ乳酸樹脂:ポリブチレンサクシネート樹脂=2:8~8:2の質量比で含有することが好ましく、3:7~7:3の質量比で含有することがより好ましく、4:6~6:4の質量比で含有することが更により好ましい。その他、下皮層15の実施形態は、好ましい実施形態を含め、基材層14と基本的に同じであるので重複する説明を省略する。以下に、下皮層15が基材層14と相違する点について説明する。
【0042】
下皮層15は、多層樹脂シート10の外観を向上させるという目的に照らせば、スクラップ樹脂を含有しないことが望ましい。
【0043】
下皮層15の厚みは、好ましくは5~100μm、より好ましくは10~60μmである。下皮層15の厚みを5μm以上とすることで、基材層14による外観上の欠点を隠蔽する効果が高くなる。下皮層15の厚みを100μm以下とすることで、多層樹脂シート中におけるスクラップ樹脂の利用率を高めることができ、製造コストを抑制することができる。
【0044】
下皮層15は、多層樹脂シートやその成形品に対しレーザー照射等による印字加工を行う為に、レーザーマーキングによる印字適性のある顔料を0.04phr~0.50phr含有することが好ましい。更には、下皮層15に含有される顔料が0.07phr以上0.15phr以下であることがより好ましい。ここで使用される単位phrは、下皮層15における全樹脂成分の100質量部当たりの顔料の質量部を指す。下皮層15が顔料を0.04phr以上含有することは、レーザー印字加工性を発現させるのに有利であり、0.50phr以下含有することにより、多層樹脂シートとその熱成形容器等の成形品のコストを抑制することができる。
【0045】
レーザー加工による印字適性のある顔料としては、雲母、酸化チタン、酸化アンチモン、銅のリン酸塩や硫酸塩のような金属塩、及びカーボンブラック等の黒色顔料があり、中でもレーザー加工によるマーキングのコントラストを高めることができる酸化アンチモンが好適である。前記顔料は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
(e.接着層)
接着層12a、12bには公知の接着剤を使用することができ、特に制限はないが、好ましい実施形態において、接着層12a、12bは生分解性樹脂系接着剤を含有する。生分解性樹脂系接着剤としては、限定的ではないが、優れた環境性能と高い層間接着強度を両立するという観点から、生分解性の酸変性ポリエステル樹脂を含有するポリエステル系接着剤が好ましい。生分解性樹脂系接着剤は一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
酸変性ポリエステル樹脂を含有するポリエステル系接着剤の例としては、限定的ではないが、ジカルボン酸及びジオール化合物を縮重合して得られるポリエステルを酸変性したもの、並びに、ポリエステル-ポリエーテル共重合体を酸変性したものが挙げられる。ポリエステルとしては、ポリアルコール樹脂と多価カルボン酸を脱水縮合して得られるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリブチレンナフタレート(PBN)などが挙げられる。ポリエステル-ポリエーテル共重合体としては、ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルポリオールをソフトセグメントとしたポリエステルエラストマーが挙げられ、具体例としては、ポリブチレンテレフタラート-ポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体が挙げられる。酸変性の方法としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、テトラヒドロフタル酸等の不飽和カルボン酸、または、その酸ハライド、アミド、イミド、無水物、エステル等の誘導体、具体的には、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸グリシジル等を用いてグラフト反応条件下で酸変性する方法が挙げられる。酸変性ポリエステル樹脂は、生分解性を高めるため、側鎖にヒドロキシル基を導入することが好ましい。
【0048】
酸変性ポリエステル樹脂として、生分解性を有し、層間接着力も高いという理由により、ポリブチレンテレフタラート-ポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体を酸変性したものを使用することが好適である。
【0049】
接着層12a、12bは、JIS K7210-1:2014規格に準拠して測定される230℃、2.16kgにおけるMFRが2~12g/10minであることが好ましい。MFRの下限値が好ましくは2g/10min以上、より好ましくは4g/10min以上であることでシート幅方向に溶融樹脂が広がりやすいという利点が得られる。また、MFRの上限値が好ましくは12g/10min以下、より好ましくは10g/10min以下であることでシート幅方向の両端へ溶融樹脂の流れが適度に抑制されるという利点が得られる。
【0050】
接着層12a、12bの厚みはそれぞれ、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。接着層12a、12bの厚みを2μm以上とすることで、多層樹脂シートでの十分な層間接着強度を得ることができ、その厚みを30μm以下とすることで、成形後に施される容器等の打抜き加工時に発生するヒゲバリと呼ばれる外観不良の問題を抑制することができる。
【0051】
接着層12a、12bには、本発明の効果を阻害しない範囲であるならば、各種の添加成分を加えることも許容される。かかる添加成分としては、顔料、染料などの着色剤、シリコンオイルやアルキルエステル系等の離型剤、ガラス繊維等の繊維状強化剤、タルク、クレイ、シリカなどの粒状滑剤、スルホン酸とアルカリ金属などとの塩化合物やポリアルキレングリコール等の帯電防止剤及び紫外線吸収剤、抗菌剤のような添加剤が挙げられる。しかしながら、一般的には、接着層12a、12bにおける生分解性樹脂系接着剤の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。好ましい実施形態においては、接着層12a、12bにおける生分解性の酸変性ポリエステル樹脂の含有量は80質量%以上であり、典型的には90質量%以上であり、より典型的には95質量%以上であり、100質量%とすることもできる。
【0052】
(f.結晶核剤)
耐熱性を向上させる観点から、多層樹脂シート10を構成する基材層14、表皮層11、及び下皮層15の少なくとも1層が結晶核剤を含むことが好ましく、2層以上が結晶核剤を含むことが好ましく、すべての層が結晶核剤を含むことがより好ましい。結晶核剤の具体例は、先述した通りである。基材層14、表皮層11、及び下皮層15における結晶核剤の含有量はそれぞれ、例えば、ポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の合計質量を基準にして、3phr~15phrとすることができ、5phr~10phrとすることが好ましい。
【0053】
(g.多層樹脂シートの特性)
多層樹脂シート10の厚みは、200~1300μmが好ましい。多層樹脂シート10の厚みを200μm以上とすることで、多層樹脂シート10を成形することで得られる成形品の強度を確保することができる。例えば、熱成形で得られる容器の側面、もしくは底面の十分な厚みが得られ十分な容器の強度を得ることができる。多層樹脂シート10の厚みを1300μm以下とすることで、多層樹脂シート10やその熱成形容器等の成形品のコストを抑制することができる。
【0054】
多層樹脂シート10は、JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が1.0J以上であることが好ましい。デュポン衝撃強度の下限値が好ましくは1.0J以上、より好ましくは1.4J以上であることで、成形容器として十分な耐衝撃性が得られ、落下させた際に破損しにくいという利点が得られる。デュポン衝撃強度の上限値には特に制限はないが、例えば4.0J以下とすることができ、典型的には3.5J以下とすることができる。従って、多層樹脂シート10は一実施形態において、JIS K7211-1:2006に準拠して測定されるデュポン衝撃強度が1.0~4.0Jである。ここで、デュポン衝撃強度は、落下荷重500g、測定環境23℃×50%R.H.下でデュポン衝撃試験を行ったときの50%破壊エネルギーE50(J)を指す。
【0055】
多層樹脂シート10は、JIS K7161:2014に準拠して測定される引張弾性率が、TD方向に1100MPa以上であり、MD方向に1100MPa以上であることが好ましい。MD方向及びTD方向における引張弾性率の下限値が好ましくは1100MPa以上、より好ましくは1500MPa以上であることで、成形容器としての剛性が十分であり、潰れにくくなるという利点が得られる。MD方向及びTD方向における引張弾性率の上限値には特に制限はないが、例えば2500MPa以下とすることができ、典型的には2100MPa以下とすることができる。従って、多層樹脂シート10は一実施形態において、JIS K7161:2014に準拠して測定される引張弾性率が、TD方向に1100~2500MPaであり、MD方向に1100~2500MPaである。ここで、引張弾性率は、測定環境23℃×50%R.H.下、チャック間距離100mm、引張速度50mm/分の条件で測定される。
【0056】
多層樹脂シート10は、GB8808-1988に準拠して測定される酸素バリア層13と基材層14の間の180°剥離試験を実施したときの剥離強度が、TD方向に剥離したときに7N/15mm以上であり、MD方向に剥離したときに7N/15mm以上であることが好ましい。MD方向及びTD方向における当該剥離強度の下限値が好ましくは7N/15mm以上、より好ましくは10N/15mm以上であることで、成形容器が包装体として使用された場合、ヒートシールされた蓋材を剥離した際に、成形容器の層間剥離によるデラミネーションが生じにくいという利点が得られる。MD方向及びTD方向における当該剥離強度の上限値には特に制限はないが、例えば30N/15mm以下とすることができ、典型的には25N/15mm以下とすることができる。従って、多層樹脂シート10は一実施形態において、GB8808-1988に準拠して測定される酸素バリア層13と基材層14の間の180°剥離試験を実施したときの剥離強度が、TD方向に剥離したときに7~30N/15mmであり、MD方向に剥離したときに7~30N/15mmである。ここで、剥離強度は、測定環境23℃×50%R.H.下、チャック間距離100mm、引張速度300mm/分の条件で測定される。
【0057】
本発明の一実施形態に係る多層樹脂シートの層構成は、図1に示す積層構成に限定されるものではない。例えば、各層は、二層以上の構成としてもよい。また、多層樹脂シートや成形容器等の成形品を製造する工程で発生するスクラップと称される部位を廃棄することなく、細かく粉砕して戻す層、若しくは熱溶融後にリペレット化した再生材を多層樹脂シート構成中に戻す層を新たに設けてもよい。
【0058】
(h.多層樹脂シートの製法)
多層樹脂シートの製造方法は、特に限定されず、一般的な方法を用いることができる。例えば複数の押出成形機を利用して複数の樹脂を溶融状態で接着積層する溶融共押出成形法により製造可能である。より具体的には、5台もしくはそれ以上の単軸、または二軸押出機を用いて各層の原料を溶融押出し、セレクタープラグを付帯したフィードブロックとTダイによって多層樹脂シートを得る方法や、マルチマニホールドダイを使用して多層樹脂シートを得る方法が挙げられる。
【0059】
環境への負荷を軽減するという観点からは、多層樹脂シートにおける生分解性樹脂の割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが更により好ましい。
【0060】
<2.成形容器>
本発明に係る多層樹脂シートは熱成形可能である。従って、本発明の一実施形態によれば、上述した本発明に係る多層樹脂シートを備える成形品が提供される。成形品の種類には特に制限はないが、例えば、飲料、食品(調味料を含む)、化粧品、家電製品及びその他の日用品のパック、カップ及びトレイ等の成形容器が挙げられる。本発明に係る多層樹脂シートは成形容器の一部又は全部を構成することができる。成形容器の中でも、食品包装容器が好適な実施形態として挙げられる。食品の包装容器の中には、複数の容器体を連結する連結部を備え、連結部にそれぞれの容器体を分離するために切れ込み(以下、「ノッチ」という。)が形成されているものがある。また、包装容器内部に包装された食品を包装容器外部へ排出するために、蓋体にノッチが形成されている分配包装体と呼ばれるものもある。分配包装体は、調味料や飲料等の食品の他、化粧品や薬品等の液状、ペースト状、顆粒状、もしくは粉状を呈した内容物を、指でつまんで折り曲げ操作することにより簡単に抽出できる小型の食品包装容器である。
【0061】
本発明の一実施形態に係る成形容器を構成する多層樹脂シートは、ノッチを有していてもよい。ノッチは、多層樹脂シートの表皮層及び下皮層の何れの側から形成してもよいが、ノッチは亀裂伝播性を向上させるために酸素バリア層を少なくとも部分的に切断していることが好ましく、完全に切断していることがより好ましい。酸素バリア層は伸びやすい傾向にあるためである。通常、多層樹脂シートは基材層が厚くなる傾向にあるため、表皮層側から酸素バリア層までの距離と下皮層側から酸素バリア層までの距離を比較すると、前者の方が短いのが一般的である。このため、ノッチを形成する際のノッチ刃が酸素バリア層に届きやすくするため、ノッチは多層樹脂シートの表皮層側に形成することが好ましい。当該多層樹脂シートの成形品に対して形成されたノッチは、多層樹脂シート中に含有されているポリ乳酸樹脂の剛性により、亀裂伝播性が向上するため、人の手で安定的に折れる優れたノッチ折れ性を付与することができる。
【0062】
図1に示す多層樹脂シートを成形容器の材料として使用する場合、成形容器の内面側に表皮層11が位置し、成形容器の外面側に下皮層15が位置するように成形容器の一部又は全部を構成することが好ましい。例えば、分配包装体は、表面の中央部に「ハーフカット部」と呼ばれるノッチを設けた折り曲げ線及び内容物の抽出を容易にするための突起を有する硬質材の蓋体と、その蓋体の裏面に周縁部を固着され折り曲げ線の両側にポケット部を形成する可撓性部材の容器体とを備えるのが一般的である。例示的には、本発明に係る多層樹脂シートを分配包装体の蓋体に成形することができる。この場合、蓋体の裏面側(食品に接触する側)に表皮層11が位置し、蓋体の表面側に下皮層15が位置するように分配包装体を製造することが好ましい。
【0063】
多層樹脂シートの熱成形方法としては、一般的な真空成形及び圧空成形に加え、これらの応用として、多層樹脂シートの片面にプラグを接触させて熱成形を行うプラグアシスト法、また、多層樹脂シートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて熱成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、熱成形前に多層樹脂シートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。
【0064】
本発明に係る多層樹脂シートは打ち抜き加工性に優れている。このことから、本発明に係る多層樹脂シートは、熱成形して内容物を充填し、蓋材としてのカバーフィルムをヒートシールした後、包装容器を打ち抜いて製品化とするといった工程を一貫で行う、所謂フォーム・フィル・シール(FFS)包装に好適に利用可能である。
【実施例
【0065】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例等の内容に何ら限定されるものではない。
【0066】
<1.樹脂シートの作製>
実施例、比較例で用いた原料は以下の通りである。
(1)表皮層、基材層、下皮層
ポリ乳酸樹脂:商品名「4032D」(Nature Works社)、密度:1.24g/cm3、MFR:4.0g/10min.(190℃、2.16kg)、光学純度:D体比率<2mol%、(こちらのポリ乳酸樹脂は結晶核剤を添加した表皮層、基材層及び下皮層に使用した。)
ポリ乳酸樹脂:商品名「LX175」(Corbion社)、密度:1.24g/cm3、MFR:3.0g/10min.(190℃、2.16kg)、光学純度:D体比率4mol%、(こちらのポリ乳酸樹脂は結晶核剤を添加しなかった表皮層、基材層及び下皮層に使用した。)
ポリブチレンサクシネート樹脂:商品名「BioPBSTM/FZ91PM」(三菱ケミカル株式会社)、密度:1.26g/cm3、MFR:5.0g/10min.(190℃、2.16kg)
結晶核剤(有機ホスホン酸塩化合物、環構造を有するアミド化合物、有機ヒドラジド化合物、有機スルホン酸塩化合物、フタロシアニン化合物およびメラミン化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つを含有する。):商品名「S-920MB」(第一工業製薬株式会社)、密度:1.24g/cm3、MFR:4.0g/10min.(190℃、2.16kg)
(2)接着層
酸変性ポリオレフィン樹脂:「モディックTM/F502C」(非生分解性樹脂系接着剤)(三菱ケミカル株式会社)、MFR:1.3g/10min.(190℃、2.16kg)、主鎖はポリオレフィン樹脂であり、グラフト反応させ、無水マレイン酸が側鎖に付いている化学構造を有する。
酸変性ポリエステル樹脂(生分解性樹脂系接着剤):「BTR8002P」(三菱ケミカル株式会社)、MFR:9.4g/10min.(230℃、2.16kg)、主鎖はポリブチレンテレフタラート-ポリテトラメチレンエーテルグリコール共重合体であり、グラフト反応させ、不飽和カルボン酸又はその無水物、及びヒドロキシル基が側鎖に付いている化学構造を有する。
(3)酸素バリア層
エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂(非生分解性の酸素バリア性樹脂):「エバールTM/J171B」(株式会社クラレ)、MFR:1.7g/10min.(190℃、2.16kg)、エチレン含量32mol%、鹸化度95モル%以上
ビニルアルコール-ブテンジオール共重合体樹脂(生分解性の酸素バリア性樹脂):「ニチゴーGポリマーTM/BVE8049P」(三菱ケミカル株式会社)、MFR:4.3g/10min.(190℃、2.16kg)、鹸化度95モル%以上
【0067】
(比較例1~7)
φ105mm単軸押出機を使用して、試験番号に応じた表1及び表2に記載の基材層の各原料をTダイ法により溶融押出成形し、冷却ロールで冷却固化後、引き取り機で搬送して巻き取り機でロール状に巻き取った。これにより、流れ方向(MD方向)10m、幅方向(TD方向)640mmの単層樹脂シートを得た。
【0068】
(実施例1~6、比較例8~12)
1台のφ105mm単軸押出機(基材層用)、1台のφ60mm単軸押出機(表皮層用)、3台のφ45mm単軸押出機(それぞれ酸素バリア層用、接着層用、下皮層用)を使用して、試験番号に応じた表1及び表2に記載の各層の各原料をフィードブロック法により溶融共押出成形し、冷却ロールで冷却固化後、引き取り機で搬送して巻き取り機でロール状に巻き取った。これにより、表1及び表2に記載の積層構造を有し、流れ方向(MD方向)10m、幅方向(TD方向)640mmの多層樹脂シートを得た。
【0069】
<2.特性評価>
得られた実施例及び比較例に係る樹脂シートの各種評価を以下の方法で行った。
(A)各層の厚み
樹脂シートの流れ方向(MD)に対し垂直方向である幅方向(TD)全体にわたる均等間隔位置5点で試験片を切り出し、試験片を片刃ナイフを用いて断面出しを行い、電子顕微鏡を用いて各層厚みを測定した。結果を表1及び表2に示す。
各層厚み値は、多層樹脂シートの幅方向位置5点における各層厚みの平均値とした。
測定機器:電子顕微鏡KH7700(Hirox社)
(B)シートの表面外観
ロール状に巻き取った樹脂シート全体を繰り出し、目視にてシートの外観を確認した。評価基準は、以下とした。結果を表1及び表2に示す。
1) ◎: 全体的に非常に光沢があり、平滑性が高い。また、蛍光灯を透かして見た際に蛍光灯の輪郭がはっきりと見えた。
2) 〇: 全体的に光沢があり、平滑性が高い。ただし、蛍光灯を透かして見た際に蛍光灯の輪郭がぼやけて見えた。
3) △: 部分的に光沢がなく、また、樹脂溜まり模様が部分的に見られ、平滑性が部分的に失われていた。
4) ×: 全体的に光沢がなく、また、樹脂溜まり模様が全体的に見られ、平滑性が全体的に失われていた。
(C)シート巻き取り時の割れ発生
ロール状に巻き取った樹脂シート全体を繰り出し、目視にてシートの両面に割れが発生しているか否かを確認した。評価基準は、割れの発生がみられない場合に「無し」とし、割れの発生が見られる場合に「有り」とした。結果を表1及び表2に示す。
(D)デュポン衝撃強度
樹脂シートから縦300mm×横640mmの試験片を作成し、JIS K7211-1:2006に従い、この試験片についてデュポン衝撃試験機(安田精機製作所社製型式No.517)を用いて50%破壊エネルギーE50(J)を測定した。おもりは下皮層に衝突させ、落下荷重500g、測定環境23℃×50%R.H.下で行った。結果を表1及び表2に示す。
(E)引張弾性率
樹脂シートから縦150mm×横10mmの試験片を作成し、JIS K7161:2014に従い、この試験片について引張試験機(島津製作所社製型式AGS-J)を用いて縦方向に引張り、測定環境23℃×50%R.H.下、チャック間距離100mm、引張速度50mm/分における引張弾性率(MPa)を測定した。引張弾性率の測定はMD方向及びTD方向の両方に対して実施した。結果を表1及び表2に示す。
(F)層間接着強度(剥離強度)
樹脂シートから縦150mm×横15mmの試験片を作成し、GB8808-1988に従い、引張試験機(島津製作所社製型式AGS-J)を用いて縦方向に引張り、酸素バリア層と基材層の間の180°剥離試験を、測定環境23℃×50%R.H.下、チャック間距離100mm、引張速度300mm/分の条件で実施し、剥離強度を測定した。剥離強度の測定はMD方向及びTD方向の両方に対して実施した。結果を表1及び表2に示す。
(G)打ち抜き加工性
樹脂シートから単発真空成形機(浅野研究所社製)によって、開口部径50mm、底部径50mm、高さ50mmであり、側面部厚み:シート全厚の10%以上30%以下、底面部厚み:シート全厚の25%以上40%以下であるカップ状成形容器を成形した。熱盤温度は600℃(上熱盤及び下熱盤とシートとの距離をそれぞれ90mm及び120mmに設定して非接触加熱)、成形時間は24秒とした。次いで、成形容器をトムソン刃で10個打ち抜いて取り出したときの打ち抜き加工性を以下の基準で評価した。結果を表1及び表2に示す。
1) ◎: すべて打ち抜くことができ、バリの発生も見られなかった
2) 〇: すべて打ち抜けるがバリの発生が見られた
3) △: 部分的に打ち抜けなかった
4) ×: 全く打ち抜けなかった
(H)耐熱性
上記の打ち抜き加工性試験で作製した成形容器を80℃又は90℃の熱湯に15秒間投入した後、取り出して室温まで放冷した。冷却後の成形容器の形状及び軟化度合いを目視及び手触により確認し、以下の基準で耐熱性を評価した。なお、打ち抜き加工性試験で打ち抜くことができなかった樹脂シートは、得られたカップ状成形物の縁をハサミで切り取って成形容器を分離した上で耐熱性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
1) 〇: 変形は無く、軟化も見られなかった
2) △: 変形は無いが、側面が多少軟化した
3) ×: 変形が確認された
(I)酸素バリア性
樹脂シートの酸素透過率を、以下の方法にて測定した。
[測定方法] GB/T 1038準拠
使用機器:LabThink社製 PERME W3/031
測定条件:23℃×65%R.H.
サンプルセット:多層樹脂シートの場合、容器成形後の実用性に鑑みて、樹脂シートサンプルの下皮層側から酸素が透過するような向きにサンプルをセットした。結果を表1及び表2に示す。酸素透過率が5.0cc/(m2・24h・atm)以下であると酸素バリア性が良好であると判定できる。
(J)屈曲耐性
樹脂シートから任意の位置で試験片(15mm×100mm)を切り出し、試験片の長手方向両端をチャックして耐折試験機にて耐折強度試験を実施した。
耐折試験機:FPC耐折試験機(Shenzhen Mingyu Instrument and Equipment Co.,Ltd.製型式MY-FPC-01)
測定条件:荷重(1600g)を掛けた状態で曲げ角度(135°)にて、曲げ速度(135rpm)にて試験片を屈曲させた時に樹脂シートに折れ(二つに断裂することを意味する)が発生するまでの屈曲回数を測定した。なお、ここでは熱成形前の樹脂シートについての屈曲耐性を評価したが、熱成形前の樹脂シートの屈曲耐性は樹脂シートを備えた熱成形品の折れやすさと同じ傾向にあることが分かっている。結果を表1及び表2に示す。
屈曲耐性は下記四水準で評価を行った。
1) ◎:屈曲回数が400回未満
2) 〇:屈曲回数が400回以上700回未満
3) △:屈曲回数が700回以上1000回以下
4) ×:屈曲回数が1000回を超える
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
<3.考察>
比較例1~7の単層樹脂シートは環境性能には優れているものの、酸素バリア層を有しないため酸素バリア性に乏しい。但し、比較例1~7の結果から、基材層におけるポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂の配合比を適切に調整することで機械的特性のバランスが改善され、樹脂シートの巻取り時の割れ発生を抑制可能であり、樹脂シートの打ち抜き加工性も向上することが分かる。
実施例1~6の多層樹脂シートは、積層構造及び各層の樹脂組成が適切であったことから、環境性能に優れ、巻取り時の割れ発生を抑制可能であり、更には打ち抜き加工性及び酸素バリア性にも優れていることが分かる。更に、シートの表面外観に優れ、折れ性に優れ、耐衝撃性が高く、引張弾性率が高く、耐熱性に優れていることが分かる。
実施例2と実施例3の多層樹脂シートを比べると、実施例2のほうが酸素バリア層と基材層の間の接着強度が高い。これは実施例2で接着層に使用した酸変性ポリエステル樹脂が、基材層を構成するポリ乳酸樹脂及びポリブチレンサクシネート樹脂との相性が良かったことによるものと推察される。
実施例1と実施例2の多層樹脂シートを比べると、実施例1のほうが酸素バリア層と基材層の間の接着強度が高い。これは実施例1で酸素バリア層に使用したビニルアルコール-ブテンジオール共重合体樹脂が極性基を多く有することで、接着層との相互作用が強かったことによるものと推察される。
比較例8の多層樹脂シートは、酸素バリア層及び接着層が非生分解性樹脂で構成されており、更に非生分解性である結晶核剤も含有していたことで多層樹脂シートにおける生分解性樹脂の割合が90質量%を下回り、環境性能が不十分であった。
比較例9~13の多層樹脂シートは、表皮層、基材層及び下皮層にポリブチレンサクシネート樹脂を使用しなかったことから、シートの表面外観が悪化した。また、シート巻取り時に割れが発生し、耐熱性も悪化した。
【符号の説明】
【0073】
10 多層樹脂シート
11 表皮層
12a、12b 接着層
13 酸素バリア層
14 基材層
15 下皮層
図1