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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】回転子
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20240716BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022559305
(86)(22)【出願日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 JP2022000102
(87)【国際公開番号】W WO2023132011
(87)【国際公開日】2023-07-13
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 将
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀範
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-161226(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014836(WO,A1)
【文献】特開2019-140843(JP,A)
【文献】特許第6848135(JP,B1)
【文献】特開2016-032424(JP,A)
【文献】特開2003-158838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子鉄心と、
前記回転子鉄心の周方向に沿って所定間隔でかつ前記回転子鉄心の径方向と直交する状態に設けられた複数の第1磁石収容領域と、
前記各第1磁石収容領域に収容され、前記回転子鉄心の周方向に複数の磁極を形成する複数の第1永久磁石と、
前記回転子鉄心の前記各磁極に設けられ、前記第1磁石収容領域の両端部に接する一対の第1内周側磁気空隙と、
前記回転子鉄心の前記各磁極に設けられ、前記各第1内周側磁気空隙に近傍するとともに前記回転子鉄心の外周面を通してその回転子鉄心外に開放される一対の第1外周側磁気空隙と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第1内周側磁気空隙と前記各第1外周側磁気空隙との間に設けられ、互いの間隔が前記回転子鉄心の外周側から内周側に向けて拡がる一対の第1ブリッジ部と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記第1磁石収容領域を間に挟む状態に設けられ、一端部が前記回転子鉄心の外周側に位置し他端部が前記回転子鉄心の内周側に位置する一対の第2磁石収容領域と、
前記各第2磁石収容領域に収容され、前記各第1永久磁石とともに前記各磁極を形成する複数の第2永久磁石と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2磁石収容領域の前記一端部に接するとともに前記回転子鉄心の外周面を通してその回転子鉄心外に開放される一対の第2外周側磁気空隙と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2磁石収容領域の前記他端部に接する一対の第2内周側磁気空隙と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2内周側磁気空隙の相互間に設けられた第3磁気空隙と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2内周側磁気空隙と前記第3磁気空隙との間に設けられた一対の第2ブリッジ部と、
を備え、
前記各第1外周側磁気空隙は、前記各第1内周側磁気空隙と対向する第1側縁、この第1側縁から屈曲して前記回転子鉄心の外周面に対向しつつ一部が外周面を通して回転子鉄心の外周に開放する第2側縁、およびこの第2側縁から前記第1側縁に連なる第3側縁を含み、これら第1,第2,第3側縁で囲まれる略三角形状である、
回転子。
【請求項2】
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第1外周側磁気空隙の前記第2側縁の前記一部を通して前記各第1外周側磁気空隙に連通しかつ前記回転子鉄心の外周面に開口し、前記各第1外周側磁気空隙を前記回転子鉄心外に開放させる複数の第1切込孔と、
前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2外周側磁気空隙に連通しかつ前記回転子鉄心の外周面に開口し、前記各第2外周側磁気空隙を前記回転子鉄心外に開放させる複数の第2切込孔と、
前記回転子鉄心の外周面において、前記磁極ごとの前記各第1切込孔の相互間にかつその各第1切込孔と近い位置に設けられた少なくとも2つの第1溝部と、
前記回転子鉄心の外周面において、前記磁極ごとの前記各第1切込孔と前記各第2切込孔との間に少なくとも2つずつ設けられた第2溝部と、
をさらに備える請求項1に記載の回転子。
【請求項3】
前記各第1溝部の前記周方向の幅寸法E1および前記径方向の深さ寸法F1は、前記各第2溝部の前記周方向の幅寸法E2および前記径方向の深さ寸法F2より大きい、
請求項2に記載の回転子。
【請求項4】
前記各第1切込孔の前記周方向の幅寸法A1は、前記各第1外周側磁気空隙の前記周方向の幅寸法B1より小さく、
前記各第2切込孔の前記周方向の幅寸法A2は、前記各第2外周側磁気空隙の前記周方向の幅寸法B2より小さい、
請求項に記載の回転子。
【請求項5】
前記各第1切込孔の前記径方向の深さ寸法D1と、前記各第1切込孔が前記周方向において前記第1外周側磁気空隙より狭まる部分(チップ部)の前記周方向の幅寸法C1[=(B1-A1)/2]との比(=D1/C1)が、0.7~1.1であり、
前記各第2切込孔の前記径方向の深さ寸法D2と、前記各第2切込孔が前記周方向において前記第2外周側磁気空隙より狭まる部分(チップ部)の前記周方向の幅寸法C2[=(B2-A2)/2]との比(=D2/C2)が、0.7~1.1である、
請求項4に記載の回転子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、永久磁石を有する回転電機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、永久磁石の目覚しい研究開発により、高磁気エネルギー積の永久磁石が開発され、その永久磁石を用いた永久磁石型の回転電機が電車や自動車の電動機あるいは発電機として適用されつつある。この回転電機は、円筒形状の固定子、およびこの固定子の内側に回転自在に支持された円柱形状の回転子を備える。回転子は、回転子鉄心およびこの回転子鉄心に埋設される複数の永久磁石を備える。これら永久磁石により、回転子鉄心の円周方向に複数の磁極が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-30427号公報
【文献】特開2011-147289号公報
【文献】特開2012-161243号公報
【文献】特開2013-176292号公報
【文献】特開2012-152082号公報
【文献】特開2013-21761号公報
【文献】特開2014-108025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような永久磁石型の回転電機では、遠心力や電磁吸引力に対して回転子鉄心の十分な強度を保つことが重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転子は、回転子鉄心と;前記回転子鉄心の周方向に沿って所定間隔でかつ前記回転子鉄心の径方向と直交する状態に設けられた複数の第1磁石収容領域と;前記各第1磁石収容領域に収容され、前記回転子鉄心の周方向に複数の磁極を形成する複数の第1永久磁石と;前記回転子鉄心の前記各磁極に設けられ、前記第1磁石収容領域の両端部に接する一対の第1内周側磁気空隙と;前記回転子鉄心の前記各磁極に設けられ、前記各第1内周側磁気空隙に近傍するとともに前記回転子鉄心の外周面を通してその回転子鉄心外に開放される一対の第1外周側磁気空隙と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第1内周側磁気空隙と前記各第1外周側磁気空隙との間に設けられ、互いの間隔が前記回転子鉄心の外周側から内周側に向けて拡がる一対の第1ブリッジ部と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記第1磁石収容領域を間に挟む状態に設けられ、一端部が前記回転子鉄心の外周側に位置し他端部が前記回転子鉄心の内周側に位置する一対の第2磁石収容領域と;前記各第2磁石収容領域に収容され、前記各第1永久磁石とともに前記各磁極を形成する複数の第2永久磁石と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2磁石収容領域の前記一端部に接するとともに前記回転子鉄心の外周面を通してその回転子鉄心外に開放される一対の第2外周側磁気空隙と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2磁石収容領域の前記他端部に接する一対の第2内周側磁気空隙と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2内周側磁気空隙の相互間に設けられた第3磁気空隙と;前記回転子鉄心の前記各磁極において、前記各第2内周側磁気空隙と前記第3磁気空隙との間に設けられた一対の第2ブリッジ部と;を備える。前記各第1外周側磁気空隙は、前記各第1内周側磁気空隙と対向する第1側縁、この第1側縁から屈曲して前記回転子鉄心の外周面に対向しつつ一部が外周面を通して回転子鉄心の外周に開放する第2側縁、およびこの第2側縁から前記第1側縁に連なる第3側縁を含み、これら第1,第2,第3側縁で囲まれる略三角形状である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、一実施形態に係る永久磁石型回転電機の横断面図。
図2図2は、一実施形態における磁極の構成を示す横断図。
図3図3は、図2における回転子鉄心に加わる力の一例を示す図。
図4図4は、一実施形態の参考としてブリッジ部が変形する例を示す図。
図5図5は、図2の要部を拡大して示す横断図。
図6図6は、図2の他の要部を拡大して示す横断図。参考として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施形態について説明する。なお、実施形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0008】
図1は、一実施形態に係る永久磁石型回転電機の横断面図、図2は、回転子鉄心における1つの磁極を拡大して示す横断面図である。
図1に示すように、回転電機1は、例えばインナーロータ型の回転電機として構成され、図示しない固定枠に支持された環状あるいは円筒形状の固定子10、およびこの固定子10の内側に中心軸線(回転中心)Gを有して回転自在にかつ固定子10と同軸的に支持された円柱形状の回転子20を含む。回転電機1は、例えばハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、駆動モータあるいは発電機に好適に適用される。
【0009】
固定子10は、円筒形状の固定子鉄心11およびこの固定子鉄心11に巻き付けられた電機子巻線(コイル)12を備える。固定子鉄心11は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板(鉄心片)を多数枚、同芯状に積層して構成されている。固定子鉄心11の内周部には、複数のスロット13が形成されている。
【0010】
各スロット13は、固定子鉄心11の円周方向に等間隔を置いて並んでいる。各スロット13は、固定子鉄心11の内周面に開口し、その内周面から放射方向に延出している。各スロット13は、固定子鉄心11の軸方向の全長に亘って延在している。これらスロット13の形成に伴い、固定子鉄心11の内周部に、回転子20に面する複数(例えば48個)の固定子ティース14が形成されている。電機子巻線12は、各スロット13に挿通され、かつ各固定子ティース14に巻き付けられている。電機子巻線12に電流が流れることにより、固定子10(固定子ティース14)に所定の鎖交磁束が形成される。
【0011】
回転子20は、両端が図示しない軸受により回転自在に支持された円柱形状の回転軸(シャフト)21、この回転軸21の軸方向ほぼ中央部に固定された円筒形状の回転子鉄心22、この回転子鉄心22に埋め込まれた複数の永久磁石M1および複数の永久磁石M2を有している。回転子20は、固定子10の内側に、その固定子10の内周面と僅かな隙間(エアギャップ)を置いて同軸的に配置されている。回転子20の外周面は、僅かな隙間をおいて、固定子10の内周面に対向している。回転子鉄心22は、中心軸線Gと同軸的に形成された内孔23を有している。回転軸21は、内孔23に挿通および嵌合され、回転子鉄心22と同軸的に延在している。
【0012】
回転子鉄心22は、磁性材、例えば、ケイ素鋼などの円環状の電磁鋼板(鉄心片)を多数枚、同芯状に積層した積層体として構成されている。回転子鉄心22は、鉄心片の積層方向に延びる上記中心軸線G、および固定子10の内周面に僅かな隙間(エアギャップ)を置いて対向する外周面22xを有している。
【0013】
回転子鉄心22は、複数の磁極、例えば8つの磁極を有している。回転子鉄心22において、中心軸線Gおよび円周方向に隣合う磁極間の境界を通って回転子鉄心22の径方向に延びる線をq軸、およびこれらq軸に対して円周方向に電気的に90°離間した軸、つまり中心軸線Gから各磁極の円周方向における中心を通って径方向に延びる線をそれぞれd軸と称する。固定子10によって形成される鎖交磁束の流れ易い方向がq軸となる。これらd軸およびq軸は、回転子鉄心22の円周方向に交互に、かつ、所定の位相で設けられている。回転子鉄心22の1磁極分とは、円周方向に隣合う2本のq軸間の領域(1/8周の周角度領域)をいう。1つの磁極における円周方向の中央がd軸となる。
【0014】
図2に示すように、回転子鉄心22は、当該回転子鉄心22の円周方向に沿って所定間隔でかつ当該回転子鉄心22のd軸(径方向)と直交する状態に設けられた矩形状の複数の第1磁石収容領域31を有している。
【0015】
永久磁石M1は、各第1磁石収容領域31に収められ、例えば接着剤等により回転子鉄心22に固定される。これら第1磁石収容領域31に永久磁石M1が1つずつ収容され、その各永久磁石M1によって上記8つの磁極が形成される。永久磁石M1は、長辺に垂直な方向に磁化されている。また、永久磁石M1は、例えば横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心22の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。永久磁石M1は回転子鉄心22のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石M1は、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心22の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。
【0016】
各第1磁石収容領域31は、永久磁石M1の断面形状に対応する矩形状に、かつ回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。各第1磁石収容領域31は、長手方向においてそれぞれ開放状態となる一端部31aおよび他端部31bを有するとともに、回転子鉄心22の外周面22xと対向する側の外側縁(外周側長辺)31c、および中心軸線Gと対向する側の内側縁(内周側長辺)31dを有している。回転子鉄心22において、各第1磁石収容領域31の内側縁31dから一端部31aに至る領域および内側縁31dから他端部31bに至る領域に、永久磁石M1の動きを規制するための磁石保持突起31e,31fがそれぞれ形成されている。
【0017】
回転子鉄心22の各磁極に、第1磁石収容領域31の一端部31aおよび他端部31bに接する一対の第1内周側磁気空隙32,32が設けられている。第1内周側磁気空隙32,32は、回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。第1内周側磁気空隙32,32は、非磁性体の例えば空気を含む磁気的な空隙であり、各第1磁石収容領域31の外側縁31cに連なる側縁32a、この側縁32aから後述の第1ブリッジ部34に沿って傾斜状に延びる側縁32b、この側縁32bから上記磁石保持突起31e,31fにそれぞれ連なる側縁32cを有し、永久磁石M1の両端部における磁束(磁石磁束という)の短絡を防ぐフラックスバリアとして機能するとともに、回転子鉄心22の軽量化にも寄与する。
【0018】
回転子鉄心22の各磁極に、第1内周側磁気空隙32,32に近接するとともに回転子鉄心22の外周面22Xを通してその回転子鉄心22外に開放される一対の第1外周側磁気空隙33,33が設けられている。第1外周側磁気空隙33,33は、回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。第1外周側磁気空隙33,33は、磁気的な空隙であって、第1内周側磁気空隙32と対向する側縁33a、この側縁33aから屈曲して外周面22xに対向しつつ一部が外周面22xを通して回転子鉄心22の外周に開放する側縁33b、この側縁33bから側縁33aに連なる側縁33cを含み、側縁33bが回転子鉄心22外に開放していることにより、回転子鉄心22内での磁石磁束の短絡を抑制するとともに、回転子鉄心22の軽量化に寄与する。
【0019】
回転子鉄心22の各磁極において、各第1内周側磁気空隙32と各第1外周側磁気空隙33との間に、互いの間隔が回転子鉄心22の外周側から内周側に向けて徐々に拡がる一対の第1ブリッジ部34,34が設けられている。
【0020】
第1磁石収容領域31、永久磁石M1、各第1内周側磁気空隙32,各第1外周側磁気空隙33、および各第1ブリッジ部34により、1層目のフラックスバリアが形成される。この1層目のフラックスバリアより外周側の領域が、第1鉄心部22aとなる。
【0021】
回転子鉄心22の各磁極において、第1磁石収容領域21を間に挟む状態に、一端部41aが回転子鉄心22の外周側に位置し他端部41bが回転子鉄心22の内周側に位置する一対の第2磁石収容領域41,41が設けられている。回転子鉄心22の中心軸線Gと直交する横断面で視た場合、第2磁石収容領域41,41はd軸に対して線対称の例えばほぼV字状に並んで配置されている。第2磁石収容領域41,41は、d軸に対して、90度よりも小さい角度θで傾斜して延在している。すなわち、第2磁石収容領域41,41は、回転子鉄心22の内周側から外周側に向かうに従って、d軸からの距離が徐々に広がるように傾斜して設けられている。角度θは、図示の例に限定されることなく、任意に変更可能である。
【0022】
永久磁石M2は、各第2磁石収容領域41に収められ、例えば接着剤等により回転子鉄心22に固定される。永久磁石M2は、各永久磁石M1とともに上記各磁極を形成する。永久磁石M2は、長辺に垂直な方向に磁化されている。また、永久磁石M2は、例えば横断面が矩形状の細長い平板状に形成され、回転子鉄心22の軸方向長さとほぼ等しい長さを有している。永久磁石M2は回転子鉄心22のほぼ全長に亘って埋め込まれている。永久磁石M2は、軸方向(長手方向)に複数に分割された磁石を組み合わせて構成されてもよく、この場合、複数の磁石の合計の長さが回転子鉄心22の軸方向長さとほぼ等しくなるように形成される。
【0023】
各第2磁石収容領域41は、永久磁石M2の断面形状に対応する矩形状に、かつ回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。各第2磁石収容領域41は、長手方向において一端部41aおよび他端部41bを有するとともに、d軸と対向する側の一側縁41c、およびq軸と対向する側の他側縁41dを有している。回転子鉄心22において、各第2磁石収容領域41の他側縁41dから一端部41aに至る領域および他側縁41dから他端部41bに至る領域に、永久磁石M2の動きを規制するための磁石保持突起41e,41fがそれぞれ形成されている。
【0024】
回転子鉄心22の各磁極に、各第2磁石収容領域41の一端部41aに接するとともに回転子鉄心22の外周面22xを通してその回転子鉄心22外に開放される一対の第2外周側磁気空隙42,42が設けられている。第2外周側磁気空隙42,42は、回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。第2外周側磁気空隙42,42は、磁気的な空隙であって、各第2磁石収容領域41の一側縁41cからその側縁41cと同一面状に延びる側縁42a、この側縁42aから屈曲して外周面22xに対向しつつ一部が外周面22xを通して回転子鉄心22の外周に開放する側縁42b、この側縁42bから磁石保持突起41eに連なる側縁42cを含み、永久磁石M2の一端部における磁束(磁石磁束)の短絡を防ぐフラックスバリアとして機能するとともに回転子鉄心22の軽量化に寄与し、とくに側縁42bが回転子鉄心22の外周に開放していることで回転子鉄心22内での磁石磁束の短絡を抑制する。
【0025】
回転子鉄心22の各磁極に、各第2磁石収容領域41の他端部41bに接する一対の第2内周側磁気空隙43,43が設けられている。第2内周側磁気空隙43,43は、回転子鉄心22を軸方向に貫通して形成されている。第2内周側磁気空隙43,43は、磁気的な空隙であって、各第2磁石収容領域41の一側縁41cと接する位置からd軸に向かって延びる側縁43a、この側縁43aから内孔23に向かって延びる側縁43b、この側縁43bからq軸側に湾曲した側縁43c、この側縁43cから各第2磁石収容領域41の側縁41dに向かって立ち上がる側縁43d、この側縁43dから上記磁石保持突起41fに連なる側縁43eを含み、永久磁石M2の他端部における磁束(磁石磁束)の短絡を防ぐフラックスバリアとして機能するとともに、回転子鉄心22の軽量化にも寄与する。
【0026】
回転子鉄心22の各磁極において、各第2内周側磁気空隙43の相互間に、1つの第3磁気空隙44が設けられている。第3磁気空隙44は、磁気的な空隙であって、4つの側縁44a~44dからなる矩形の断面形状を有し、回転子鉄心22の軸方向の全長に亘って形成されている。第3磁気空隙44を形成する4つの側縁44a~44dのうち、外周側に位置する側縁44aがd軸と直交する状態で第1磁石収容領域31と対向し、内周側に位置する側縁44cが側縁44aと平行な状態で内孔23と対向し、これら側縁44a,44cの相互間に位置する側縁44b,44dが互いに平行な状態で後述の第2ブリッジ部45,45と隣接している。外周側の側縁44aは、第2内周側磁気空隙43,43のそれぞれ外周側の側縁43aを相互に結ぶ線と同一線上に位置している。内周側の側縁44aは、第2内周側磁気空隙43,43のそれぞれ内周側の側縁42cを相互に結ぶ線と同一線上に位置している。第2内周側磁気空隙43,43は、冷媒(冷却油)の通路となり、回転子鉄心22の軽量化にも寄与する。
【0027】
回転子鉄心22の各磁極において、各第2内周側磁気空隙43と第3磁気空隙44との間に、一対の第2ブリッジ部45,45が設けられている。
【0028】
各第2磁石収容領域41、各永久磁石M2、各第2外周側磁気空隙42、各第2内周側磁気空隙43、第3磁気空隙44、および各第2ブリッジ部45,45により、2層目のフラックスバリアが形成される。この2層目のフラックスバリアと上記1層目のフラックスバリアとで囲まれる領域が第2鉄心部22bとなり、2層目のフラックスバリアより内周側の領域が第3鉄心部22cとなる。
【0029】
回転子鉄心22の各磁極における一対の第1ブリッジ部34,34は、第1鉄心部22aと第2鉄心部22bとを結合する結合要素であり、互いの間隔が回転子鉄心22の内周側から外周側に向け徐々に拡がるように傾斜して延びる柱状に形成されている。第1ブリッジ部34,34の幅は、互いに同じであり、磁石磁束の漏れが少なくなるようできるだけ細く、しかしながら当該第1ブリッジ部34,34のそれぞれに加わる強い曲げ応力に対して十分な強度を有する必要最小限の状態に、設定されている。大きな回転トルクが発生する状況下で、回転子鉄心22の第1鉄心部22aに円周方向の電磁力が加わった場合でも、第1ブリッジ部34,34により第1鉄心部22aを第2鉄心部22b側から安定して支持することができる。
【0030】
回転子鉄心22の各磁極における一対の第2ブリッジ部45,45は、第2鉄心部22bと第3鉄心部22cとを結合する結合要素であり、d軸とほぼ平行に延びる柱状に形成されている。第2ブリッジ部45,45の幅は、互いに同じであり、磁石磁束の漏れが少なくなるようできるだけ細く、しかしながら当該第2ブリッジ部45,45のそれぞれに生じる遠心応力に適応する必要最小限の状態に、設定されている。大きな回転トルクが発生する状況下で、回転子鉄心22の第1鉄心部22aおよび第2鉄心部22bに円周方向の電磁力が加わった場合でも、第2ブリッジ45,45により第1鉄心部22aおよび第2鉄心部22bを第3鉄心部22c側から安定して支持することができる。
【0031】
とくに、第1ブリッジ部34,34については、互いの間隔が回転子鉄心22の内周側から外周側に向け徐々に拡がるように傾斜しているので、第1ブリッジ部34,34に加わる曲げ応力を緩和できる。すなわち、図3に示すように、回転子鉄心22が図示時計回り方向に回転トルクを発生している状態で遠心力や電磁吸引力など矢印方向の力Pが回転子トルク22の外周面22xに加わっても、第1ブリッジ部34,34の根本部分に加わる曲げ応力を緩和でき、これにより第1ブリッジ部34,34の変形およびそれに伴う回転子鉄心22の外周側部位の変位を小さく抑えることができる。
【0032】
仮に、図4に示すように、第1ブリッジ部34,34の互いに平行に延びている構成を考えると、上記同様の力Pが回転子トルク22の外周面22xに加わった場合、第1ブリッジ部34,34の根本部分に大きな曲げ応力が加わり、第1ブリッジ部34,34が倒れ込むように変形する可能性がある。本実施形態ではこのような不具合は生じない。
【0033】
また、回転子鉄心22の各磁極には、図5に拡大して示すように、外周面22xと第1外周側磁気空隙33,33とを連通しその第1外周側磁気空隙33,33を外周面22xの外に開放させる一対の第1切込孔51,51が設けられている。回転子鉄心22の各磁極には、図6に拡大して示すように、外周面22xと第2外周側磁気空隙42,42とを連通しその第2外周側磁気空隙42,42を外周面22xの外に開放させる一対の第2切込孔52,52が設けられている。第1切込孔51,51および第2切込孔52,52は、回転子鉄心22の軸方向に亘って延在している。
【0034】
そして、回転子鉄心22の外周面22xにおいて、磁極ごとの第1外周側磁気空隙33,33の相互間に、少なくとも2つの湾曲状の第1溝部(凹部やフェイスカット部ともいう)61,61が設けられている。回転子鉄心22の外周面22xにおいて、磁極ごとの第1外周側磁気空隙33,33と第2外周側磁気空隙42,42との相互間に、少なくとも2つの湾曲状の第2溝部(凹部やフェイスカット部ともいう)62,62が設けられている。
回転子鉄心22の外周面22xにおいて、磁極ごとの第2外周側磁気空隙42,42とq軸との相互間に、それぞれ湾曲状の第3溝部(凹部やフェイスカット部ともいう)63,63が設けられている。これら溝部61~63は、回転子鉄心22の軸方向に亘って延在している。
【0035】
本実施形態のように、1層目のフラックスバリアが第1切込孔51,51を通して回転子鉄心22の外に開放し、かつ2層目のフラックスバリアが第2切込孔52,52を通して回転子鉄心22の外に開放する構成の場合、回転子鉄心22の外周部の磁気抵抗が急峻に変化するため、騒音、振動、トルク脈動などが生じ易い。
【0036】
この点を考慮し、本実施形態では、回転子鉄心22の外周面22xにおいて、各磁極における第1切込孔51,51の相互間に第1溝部61,61を備え、各磁極における第1切込孔51,51と第2切込孔52,52との間に第2溝部62,62を備え、各磁極における第2切込孔52,52とq軸との間に第3溝部63,63を備えている。少なくとも第1溝部61,61および第2溝部62,62が存在することで、回転子鉄心22の外周部の磁気抵抗の変化を実用レベルに抑えることができる。
【0037】
その上で、第1溝部61,61の円周方向の幅寸法E1および径方向の深さ寸法F1が第2溝部62,63の円周方向の幅寸法E2および径方向の深さ寸法F2より大きいことにより、回転子鉄心22および固定子10における鎖交磁束分布がより適切となる。これにより、騒音、振動、トルク脈動をより効果的に低減することができる。
【0038】
しかも、各第1切込孔51の円周方向の幅寸法A1は、各第1外周側磁気空隙33の円周方向の幅寸法B1より小さい。各第1切込孔51が円周方向において各第1外周側磁気空隙33より狭まる部分がチップ部51aとなる。各第2切込孔52の円周方向の幅寸法A2は、各第2外周側磁気空隙42の円周方向の幅寸法B2より小さい。各第1切込孔52が円周方向において各第2外周側磁気空隙42より狭まる部分がチップ部52aとなる。
【0039】
回転子鉄心22の外周部の磁気抵抗の変化をより円滑化するためには、第1溝部61,61および第2溝部62,62が存在することに加えてチップ部51a,52aが存在することが重要な要素となる。
【0040】
とくに、各第1切込孔51の径方向の深さ寸法D1と、チップ部51aの円周方向の幅寸法C1[=(B1-A1)/2]との比(=D1/C1)が、0.7~1.1の範囲に設定される。各第2切込孔52の径方向の深さ寸法D2と、チップ部52aの円周方向の幅寸法C2[=(B2-A2)/2]との比(=D2/C2)が、0.7~1.1の範囲に設定される。これらの範囲は、回転子鉄心22の外周部の磁気抵抗の変化をより円滑化するために好適である。
【0041】
なお、この発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化可能である。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、回転子の磁極数、寸法、形状等は、前述した実施形態に限定されることなく、設計に応じて種々変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6