(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】試料を熱分析するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 25/20 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
G01N25/20 G
G01N25/20 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023000140
(22)【出願日】2023-01-04
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】10 2022 104 400.9
(32)【優先日】2022-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】301077552
【氏名又は名称】ネッチ ゲレーテバウ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】エッケハルト フュークライン
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルク ノイマン
【審査官】寺田 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-072426(JP,A)
【文献】特開2013-186090(JP,A)
【文献】実開昭50-129178(JP,U)
【文献】特開2000-146796(JP,A)
【文献】特開2015-197444(JP,A)
【文献】特表2005-523149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00ー25/72
G01N 15/00ー15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を熱分析するための装置(10)であって、
・坩堝カバー(16)
を取り付けられ
た状態で備える試料坩堝(14)を収容するための試料チャンバ(12)であり、
前記試料坩堝(14)の内部に分析すべき試料が配置され、該試料チャンバ(12)は、前記試料坩堝(14)を前記試料チャンバ(12)に導入するためのチャンバ開口(18)を有する、前記試料チャンバ(12)と、
・前記試料チャンバ(12)の温度を制御するための温度制御機構(20)と、
・前記試料の温度及び1つ又は複数の更なる測定変数を測定するための測定機構と、
・前記試料チャンバ(12)内にガス雰囲気を生成するためのガス搬送機構(30,31,32)と、
・前記試料チャンバ(12)の前記チャンバ開口(18)に取り付け可能なチャンバカバー(40)と、
・針(44)を有し、前記試料坩堝(14)が前記試料チャンバ(12)内に収容されると共に、前記チャンバカバー(40)が前記チャンバ開口(18)に取り付けられた場合において、前記針(44)によって前記試料坩堝(14)の前記坩堝カバー(16)に穴を穿孔するのに適した穿孔機構(42)と、を備
え、
前記チャンバカバー(40)及び前記穿孔機構(42)は、カバー/穿孔ユニット(40,42)として構造的に組み合わされるよう形成し、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)は、前記坩堝カバー(16)に前記穴を穿孔した後、かつ前記試料の前記熱分析を実行する前に、前記試料チャンバ(12)の前記チャンバ開口(18)から取り外し、他のチャンバカバーと交換するように構成される、装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の装置(10)であって、該装置(10)は、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)の代わりに、試料チャンバ(12)のチャンバ開口(18)に取り付け可能な更なるチャンバカバー(40)を備える、装置。
【請求項3】
請求項
1又は
2に記載の装置(10)であって、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)は、
・前記チャンバ開口(18)を覆うために設けられた壁(46)と、
・針(44)を移動可能に格納するために前記壁(46)上に形成されたガイド軸受(48)であり、前記針(44)は、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)が取り付けられた状態において、前記試料チャンバ(12)に面する前記壁(46)の内側から、該壁(46)を通って、前記試料チャンバ(12)から離れた前記壁(46)の外側まで延在可能である、前記ガイド軸受(48)と、を有する、装置。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の装置(10)であって、前記穿孔機構(42)は、前記針(44)の穿孔深さを制限するための機械的なストッパを有する、装置。
【請求項5】
請求項1
又は2に記載の装置(10)であって、前記穿孔機構(42)は、前記試料坩堝(14)を前記坩堝カバー(16)と一緒に前記針(44)に対してセンタリングするための機械的なセンタリング機構(60)を有する、装置。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の装置(10)であって、前記試料坩堝(14)を載置するための載置面を有する坩堝レセプタクルが前記試料チャンバ(12)内に形成され、前記坩堝レセプタクルは、前記試料坩堝(14)を載置すると共に、前記坩堝カバー(16)に穴を穿孔するための第1位置と、前記試料の前記熱分析を実行するための第2位置との間で変位可能である、装置。
【請求項7】
坩堝カバー(16)が取り付けられた試料坩堝(14)の内部に配置された試料を
、請求項1に記載の装置(10)を使用して熱分析するための方法であって、該方法は、
・前記試料坩堝(14)を、試料チャンバ(12)のチャンバ開口(18)を通して前記試料チャンバ(12)に導入するステップと、
・チャンバカバー(40)を、前記試料チャンバ(12)の前記チャンバ開口(18)に取り付け、ガス搬送機構(30,31,32)により前記試料チャンバ(12)内にガス雰囲気を生成するステップと、
・穿孔機構(42)により、前記試料坩堝(14)の前記坩堝カバー(16)に穴を穿孔するステップと、
・前記試料チャンバ(12)の温度を制御するための温度制御機構(20)、及び前記試料の温度及び1つ又は複数の更なる測定変数を測定するための測定機構により、前記試料の前記熱分析を実行するステップと、を含
み、
前記カバー/穿孔ユニット(40,42)は、前記坩堝カバー(16)に前記穴を穿孔した後、かつ前記試料の前記熱分析を実行する前に、前記試料チャンバ(12)の前記チャンバ開口(18)から取り外し、他のチャンバカバーと交換する、方法。
【請求項8】
請求項
7に記載の方法であって、ガス雰囲気の生成は、ガス搬送機構(30,31,32)によって生じさせる前記試料チャンバ(12)のガスフロースルーによって実現し、該ガスフロースルーの流量は、前記熱分析を実行する間よりも、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)を前記他のチャンバカバーと交換する間の方が大きい、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の装置(10)で使用するため及び/又は請求項
7に記載の方法で使用するための坩堝カバー(16a)を備える試料坩堝(14a)であって、
・試料を収容するための内部及び坩堝開口(80a)を備える少なくともほぼ円筒形の試料坩堝(14a)と、
・前記試料坩堝(14a)の前記坩堝開口(80a)にて、前記試料坩堝(14a)に取り付け可能であるか又は取り付けられた坩堝カバー(16a)と、を備え、前記坩堝カバー(16a)は、
・前記試料坩堝(14a)の開口エッジに接続可能であるか又は接続されると共に、キャップ孔(88a)が形成されたキャップ(82a
)と、
・前記試料坩堝(14a)の内部をシールすると共に、前記キャップ(82a)の内側に配置された穿孔可能なシール層(84a)と、を有する、坩堝カバーを備える試料坩堝。
【請求項10】
請求項
9に記載の坩堝カバー(16a)を備える試料坩堝(14a)であって、前記坩堝カバー(16a)は、前記シール層(84a)の内側に配置されると共に、カップ孔(88a)と同軸に形成された安定化層孔(90a)を含む安定化層(86a)を更に有する、坩堝カバーを備える試料坩堝。
【請求項11】
試料を熱分析するための装置(10)用のカバー/穿孔ユニット(40,42)であって、前記装置(10)は、坩堝カバー(16)が取り付けられると共に、内部に分析すべき試料が配置された試料坩堝(14)を収容するための試料チャンバ(12)を備え、該試料チャンバ(12)は、前記試料坩堝(14)を前記試料チャンバ(12)に導入するためのチャンバ開口(18)を有し、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)は、
・前記チャンバ開口(18)を覆うために設けられた壁(46)と、
・前記壁(46)上に形成されたガイド軸受(48)と、
・前記ガイド軸受(48)によって移動可能に格納された針(44)であり、該針(44)は、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)が取り付けられた場合において、前記試料チャンバ(12)に面する前記壁(46)の内側から、該壁(46)を通って、前記試料チャンバ(12)から離れた前記壁(46)の外側まで延在している、前記針(44)と、を備
え、
当該カバー/穿孔ユニット(40,42)は、チャンバカバー(40)及び穿孔機構(42)を構造的に組み合わせるよう形成され、前記カバー/穿孔ユニット(40,42)は、前記坩堝カバー(16)に穴を穿孔した後、かつ前記試料の前記熱分析を実行する前に、前記試料チャンバ(12)の前記チャンバ開口(18)から取り外し、他のチャンバカバーと交換する、カバー/穿孔ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を熱分析するための装置及び方法に関する。本発明は更に、熱分析に使用可能であると共に、坩堝カバーを備える試料坩堝、並びに本発明に係るタイプの装置に使用可能なカバー/穿孔ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
試料を熱分析するための装置は、従来技術において多種多様な実施形態で既知であり、そのような装置は、分析すべき(少なくとも)1個の試料を収容するための試料チャンバ又は分析すべき(少なくとも)1個の試料坩堝を収容するための試料チャンバを備え、この場合に少なくとも1個の試料坩堝の内部に試料が配置される。装置は更に、試料チャンバの温度を制御するための温度制御機構と、試料の温度及び1つ又は複数の更なる測定変数を測定するための測定機構とを備える。
【0003】
熱分析用の方法は、例えば、材料特性(比熱容量、熱伝導率、溶融、分解、並びに結晶化温度など)を特徴付けるのに有利に使用可能であり、この材料特性の特徴付けには、例えば、温度の関数として又は温度変化の間に生じるプロセスの特性(相転移又は化学反応の間のエンタルピーなど)も含まれる。
【0004】
熱分析のための方法の例としては、例えば、熱重量測定(TG)、示差熱分析(DTA)、並びにそれに由来する示差走査熱量測定(DSC)を挙げることができる。
【0005】
本発明の文脈で特に重要な各方法の場合、試料温度は、典型的には温度プログラムに従って制御され、その過程で試料チャンバ内部のチャンバ温度が変化し、同時に、測定機構により、試料温度及び試料特性に関連する試料の1つ又は複数の更なる測定変数が測定される。
【0006】
例えば、熱重量測定(TG)の場合、そのような「試料特性」として、温度プログラムの過程で試料の重量又は質量がそれぞれ測定される。
【0007】
熱分析においては、測定機構の具体的な実施形態に応じて、温度プログラムの過程で、試料温度及び例えば試料質量の測定に加えて、一般に、更なる物理的変数に関連する複数の測定を提供することができる。
【0008】
この例として、DSCによる試料の温度依存的な熱量効果の判定と、熱重量測定(TG)による試料の温度依存的な質量の同時判定とを挙げることができる。更なる例として、温度プログラムの過程における質量分析法(MS)による試料の揮発性分解生成物の種類及び量の判定と、熱重量測定(TG)による試料の温度依存的な質量の同時判定とを挙げることができる。幾つかの異なる方法を同時に使用する熱分析は、本明細書において「同時熱分析」とも称する。
【0009】
従って、本明細書で使用される(測定機構によって測定される)「試料特性」という用語は、非常に広く理解されるべきであり、例えば、上述した揮発性分解生成物の「種類及び量」を含むことができる。
【0010】
特定の材料及びその材料から製造された試料の場合、試料は、例えば、酸素、二酸化炭素、水(湿気)などの大気の成分によって汚染される可能性があり、及び/又は、この種類の成分と化学反応する可能性があり、これにより各試料が不確定的に変化するという問題が生じる。
【0011】
試料の保管及び/又は輸送に関わる問題の簡単な解決策は、試料が製造された直後に、気密性坩堝カバーが取り付けられた試料坩堝内に試料を「包装」すること、又は試料坩堝内で試料を製造し、この坩堝に気密性坩堝カバーを直ぐに設けることである。
【0012】
しかしながら、上述した汚染及び/又は化学反応のリスクは、気密性坩堝カバーが取り付けられた試料坩堝内にある試料の場合においても、いわゆる「試料準備」の一環として試料が装置に導入され、かつ多くの熱分析にとって不可欠な熱分析の準備のために坩堝カバーを取り外すか又は他のやり方で開放しなければならない時点で依然として残る。
【0013】
この問題の実現可能な解決策は、気密に閉鎖されたままの試料坩堝を、装置と一緒に、気密に閉鎖されたチャンバ(いわゆる「グローブボックス」)に導入し、次いで、このチャンバ内にて試料準備及び熱分析を真空下又は保護ガス雰囲気下ですることである。
【0014】
極めて複雑であると共に、コスト上の理由からむしろ実用的でないこの解決策とは別に、上述した問題は、試料準備中に(例えばねじを緩めて)完全に取り外さなくてもよい坩堝カバーを備える試料坩堝を使用することによってある程度軽減可能である。この場合、坩堝カバーには、例えば針を使用して小さな穴を穿孔することができ、これにより試料坩堝の内部と、後続する熱分析を実行するための装置における試料チャンバとの間に媒体透過性接続を確立することができる。
【0015】
しかしながら、このアプローチにおいても、例えば周囲空気中で坩堝カバーに「穿刺」をするので、試料を装置に導入する際に、周囲空気の成分による汚染及び/又は化学反応が生じる一定のリスクが残る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、熱分析をするための装置及び方法において、試料準備中の不所望な化学反応又は物理反応の結果として試料が変化するリスクを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1態様によれば、この課題は、試料を熱分析するための装置によって解決され、この装置は、
・坩堝カバーが取り付けられると共に、内部に分析すべき試料が配置された試料坩堝を収容するための試料チャンバであり、その試料チャンバは、試料坩堝を試料チャンバに導入するためのチャンバ開口を有する、上記試料チャンバと、
・試料チャンバの温度を制御するための温度制御機構と、
・試料の温度及び1つ又は複数の更なる測定変数を測定するための測定機構と、
・試料チャンバ内にガス雰囲気を生成するためのガス搬送機構と、
・試料チャンバのチャンバ開口に取り付け可能なチャンバカバーと、
・針を有し、試料坩堝が試料チャンバ内に収容されると共に、チャンバカバーがチャンバ開口に取り付けられた状態において、針によって試料坩堝の坩堝カバーに穴を穿孔するのに適した穿孔機構と、
を備える。
【0018】
本発明により、周囲空気の成分との化学反応又は物理反応の結果として試料が不所望に変化するリスクを大幅に低減することが有利に可能である。なぜなら、試料坩堝は、試料チャンバ内に閉鎖状態で導入することができると共に、試料チャンバ内において所定のガス雰囲気下で開放することができるからである。
【0019】
本発明の好適な実施形態において、試料チャンバ内で生成されるガス雰囲気は、窒素、アルゴン、並びにヘリウムからなる群から選択される少なくとも1種のガスを含むことが想定されている。その目的との関連において、この種のガス雰囲気は、不活性ガス雰囲気又は保護ガス雰囲気とも称することができる。
【0020】
熱分析に関する従来の多くの装置及び方法においては、試料から放出されるガス状物質(例えば揮発性成分又は揮発性反応生成物)を規定通りに排出し、測定装置における分析ユニット(例えばガスクロマトグラフィ機構/質量分析機構)に供給するために、熱分析の実行中にいわゆるキャリアガスが試料チャンバを通って流れることが既に提供されている。
【0021】
この場合、試料チャンバ内にキャリアガス流を生成するための手段の少なくとも一部(例えば、ガス源、ガス入口)は、試料準備の過程で試料チャンバ内にガス雰囲気を生成するために付加的に使用することが想定可能である。一方では試料準備中のガス(「保護ガス」)の組成と、他方では熱分析を実行するときのガス(「キャリアガス」)の組成は、互いに同一であるか又は異なるよう選択することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、チャンバカバー及び穿孔機構は、カバー/穿孔ユニットとして構造的に組み合わされるよう形成されている。
【0023】
このことは、既に使用されている多くの装置設計に関して、本発明を、設計に対する僅かな修正によって実現でき、従って簡単で費用効率良く実現できるという利点を有する。
【0024】
この実施形態の更なる構成において、装置は、カバー/穿孔ユニットの代わりに、試料チャンバのチャンバ開口に取り付け可能な更なるチャンバカバーを備えることが想定されている。
【0025】
この更なる構成は、特に、熱分析を実行する際に、チャンバカバーが、試料チャンバと環境との間の媒体及び/又はエネルギー(熱)の交換を保護する機能とは別に、少なくとも1つの更なる機能を有する場合に極めて有利である。なぜなら、この更なる構成によれば、坩堝カバーに穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を実行する前に、カバー/穿孔ユニットを、上述した更なる機能に関して最適化されたチャンバカバーと交換することができるからである。このような更なる機能は、例えばガス出口を提供することであり、このガス出口を通って、試料の熱分析中にキャリアガスとして機能するガスが試料に由来するガス状成分と一緒に、試料チャンバから測定装置の分析ユニット(例えばガスクロマトグラフィ機構/質量分析機構)に移送され得る。
【0026】
この実施形態の他の更なる構成において、カバー/穿孔ユニットは、ガス出口(例えば、少なくとも1つの小さな開口)を備え、カバー/穿孔ユニットがチャンバ開口に取り付けられた状態において、ガスがガス出口を通って試料チャンバのガス雰囲気から外部環境に流出できることが想定されている。
【0027】
この更なる構成により、カバー/穿孔ユニットの取り付け直後に空気を試料チャンバから迅速かつ完全に有利に排出可能であり、これはガス搬送機構によって生じる試料チャンバにおけるガス雰囲気の生成が実現されるからである。このガスフロースルーにおいて、ガスは、例えばチャンバ開口から比較的遠い位置で試料チャンバ内に流入可能であると共に、上述したカバー/穿孔機構のガス出口から流出可能である。
【0028】
試料準備のこの段階で坩堝カバーに穴が穿孔され(好適にはこの場合ガスが流れ続け)、その後(熱分析を実行する前に他のチャンバカバーと交換するために)カバー/穿孔ユニットが試料チャンバのチャンバ開口から取り外されると、この方向、即ち装置内部から試料チャンバのチャンバ開口への試料チャンバのガスフロースルーは、試料チャンバ内への周囲空気の侵入を有利に防止又は最小化する。
【0029】
カバー/穿孔ユニットは、例えば、チャンバ開口を覆うために設けられた壁と、針を移動可能に格納するよう壁上に形成されたガイド軸受を備えることができる。この場合、針は、カバー/穿孔ユニットが取り付けられた状態において、試料チャンバに面する壁の内側から、その壁を通って、試料チャンバから離れた壁の外側まで延在可能である。
【0030】
後者(穿孔ユニット)の場合、例えば、穿孔プロセスのために提供される「針の駆動」は、壁の外側に位置する針部分に対する機械的な衝撃(押圧)によって実現されることが想定可能である。このことは、例えば、試料チャンバ内において対応の駆動構成要素が針を駆動するのに不要であるという利点を有する。それどころか、これら駆動構成要素は、試料チャンバに影響を及ぼすことなく、また設置スペースの問題もなく、カバー/穿孔ユニットの外側に配置することができる。
【0031】
装置の使用状況において、上方から下方に針の垂直方向への穿孔運動が提供される場合、例えば、手動で操作でき、従って極めて単純な実施形態のカバー/穿孔ユニットが特に多くのケースで重要であり得る。そのような実施形態は、チャンバ開口を覆うために設けられた壁と、針を移動可能に格納するために壁上に形成されたガイド軸受を有する。この場合、針は、上述した壁の内側から壁を通って壁の外側まで延在し、またカバー/穿孔ユニットは、錘を更に備え、この錘は、カバー/穿孔ユニット上で垂直方向に移動可能にガイドされると共に、使用者の手動操作により針に対して所定の高さから針の遠位端又は針上の別の箇所に落下させることができる。
【0032】
代替的に、このような錘を所定の高さまで持ち上げ、その後に落下させることができる手動操作ではなく、この目的に適したモータ駆動機構を穿孔機構又はカバー/穿孔ユニットに装備することも可能である。
【0033】
代替的に、(一般的に有利である)針の比較的迅速な穿孔運動を生じさせる落錘の使用ではなく、針の穿孔運動を駆動するために、ギア接続を介して針に作用するモータ駆動機構を設けることも可能である。このような実施形態においては、特に、針の穿孔運動を比較的遅くすることも可能である。
【0034】
最適な穿孔運動(例えば、短い又は長いストロークを伴う速い又は遅い運動)、並びに、例えば坩堝カバーを穿孔する針の最適な設計、特に針先端の最適な設計は、例えば用途(坩堝カバーの設計)に応じて経験的に決定することができる。
【0035】
一実施形態において、針は、少なくともその先端領域及び隣接するシャフト領域にて、回転対称の形状(例えば、円錐形の先端を有する円筒形のシャフト)を有する。円錐形の針先端の場合、針先端から画定される角度は、側面図で見て、例えば、5°~60°、特に10°~30°の範囲にあり得る。
【0036】
本発明の一実施形態において、穿孔機構は、針の穿孔深さを制限するための機械的なストッパを有することが想定されている。代替的又は付加的に、例えば、穿孔機構は、針をその穿孔方向とは反対方向に付勢するばね機構を有することができ、これにより、例えば錘を落下させる上述した実施形態の場合、やはり所定の穿孔深さを実現することができる。
【0037】
本発明の一実施形態において、穿孔機構は、針に対して試料坩堝を坩堝カバーと一緒にセンタリングするための機械的なセンタリング機構を有することが想定されている。
【0038】
センタリング機構は、例えば、試料坩堝又はその試料坩堝に取り付けられた坩堝カバーのジャケット面に接触するための2個以上のセンタリングジョーを有することができ、これにより穿孔機構の針で試料坩堝の坩堝カバーに穴が穿孔される前に、試料坩堝が坩堝カバーと一緒に針に対して特定の位置に強制される(センタリングされる)。
【0039】
本発明の一実施形態においては、試料坩堝を載置するための載置面を有する坩堝レセプタクルが試料チャンバ内に形成され、坩堝レセプタクルは、試料坩堝を載置すると共に、坩堝カバーに穴を穿孔するための第1位置と、試料の熱分析を実行するための第2位置との間で変位可能であることが想定されている。
【0040】
この場合、変位可能な坩堝レセプタクルの第2位置は、第1位置よりもチャンバ開口から更に離れるよう及び/又は「装置の更に内部」に提供されるのが好適である。
【0041】
より具体的な実施形態において、坩堝レセプタクルの変位可能性は、垂直方向に想定され、第2位置は、第1位置よりもチャンバ開口から更に離れるよう及び/又は「装置の更に内部」に提供されている。
【0042】
従来技術に既知の装置においても、変位可能な坩堝レセプタクルが設けられることが多いが、これら坩堝レセプタクルは、主に、例えばピンセットによって保持される試料坩堝を(例えば試料チャンバの比較的小さなチャンバ開口を通して)装置に導入及び載置することを容易にするという目的に役立つだけであるが、この場合、試料チャンバ内において分析すべき試料の可及的に正確な温度制御を保証するために、後続する分析中に試料が一般的には装置の「更に内部」に配置されなければならないことが考慮されるのが望ましい。
【0043】
ただし本発明の文脈において、上述した変位可能な坩堝レセプタクルは、例えば、(カバー/穿孔ユニットとして)チャンバカバーと構造的に組み合わされるか又はチャンバカバーと別個であるかにかかわらず、穿孔機構の構造的実現がより容易になるという付加的利点を提供する。
【0044】
上述した変位可能な坩堝レセプタクルは更に、(対応する設計の場合)試料坩堝の坩堝カバーに穴を穿孔することによって生じる機械的応力を、装置における機械的に敏感な構成要素、例えば熱重量分析(TG)のために設けられた秤から遠ざけておくことを可能にする。
【0045】
変位可能な坩堝レセプタクルを含む実施形態の更なる利点は、装置が、カバー/穿孔ユニットの代わりに、試料チャンバのチャンバ開口に取り付け可能な更なるチャンバカバーを備える場合に得られる。なぜならこの場合、試料坩堝は、既に穿刺された坩堝カバーと一緒に(試料坩堝を載置すると共に坩堝カバーを穿刺するための)第1位置から、その第1位置に対して(例えば装置の下方における)「更に内部」に設けられるか又は少なくともチャンバ開口から更に離れて設けられた第2位置に変位され、その後にカバー/穿孔ユニットが、(坩堝レセプタクルの第2位置で)試料チャンバのチャンバ開口から取り外されると共に、他のチャンバカバーと交換されることが想定可能だからである。
【0046】
第2位置においては、試料坩堝が更に内部に位置するか、又はカバー/穿孔ユニットの取り外し後にガス雰囲気と周囲空気との間で一定の交換が生じ得るチャンバ開口から少なくとも更に離れているという事実により、この段階(チャンバカバーの交換)において試料は周囲空気との接触に対して特に良好に保護される。
【0047】
これに関連して再度指摘しておくべきことは、上述したように、装置の内部から試料チャンバのチャンバ開口への試料チャンバの保護ガスフロースルーは、周囲空気との接触に対して、試料の保護を既にもたらしていることである。この保護は、第1位置から第2位置へ、従ってチャンバ開口から更に離れるよう(既に穿刺された坩堝カバーを備える)試料坩堝を変位させることにより、有利に更に高めることができる。
【0048】
本発明の更なる態様によれば、上述した課題は、坩堝カバーが取り付けられた試料坩堝の内部に配置された試料を、特に本明細書に記載のタイプの装置を使用して熱分析するための方法によって解決され、この方法は、
・試料坩堝を、試料チャンバのチャンバ開口を通して試料チャンバに導入するステップと、
・チャンバカバーを、試料チャンバのチャンバ開口に取り付け、ガス搬送機構により試料チャンバ内にガス雰囲気を生成するステップと、
・穿孔機構により、試料坩堝の坩堝カバーに穴を穿孔するステップと、
・試料チャンバの温度を制御するための温度制御機構、並びに試料の温度及び1つ又は複数の更なる測定変数を測定するための測定機構により、試料の熱分析を実行するステップと、
を含む。
【0049】
本発明に係る装置に関して本明細書に記載した実施形態及び特別な設計は、本発明に係る方法の実施形態又は特別な設計として、個別に又は任意の組み合わせで同様に想定することもでき、その逆も想定可能である。
【0050】
一実施形態において、チャンバカバー及び穿孔機構は、カバー/穿孔ユニットとして構造的に組み合わされるよう形成し、カバー/穿孔ユニットは、坩堝カバーに穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を実行する前に、試料チャンバのチャンバ開口から取り外し、他のチャンバカバーと交換することが想定されている。
【0051】
この実施形態の更なる構成において、ガス雰囲気の生成は、ガス搬送機構によって生じさせる試料チャンバのガスフロースルーによって実現し、ガスフロースルーの流量は、熱分析を実行する間よりも、カバー/穿孔ユニットを他のチャンバカバーと交換する間の方が大きいことが想定されている。
【0052】
本発明の一実施形態において、第1位置と第2位置との間で変位可能な坩堝レセプタクルが試料チャンバ内に形成されると共に、
・試料チャンバへの試料坩堝の導入は、坩堝レセプタクルが第1位置にあるときに、坩堝レセプタクルの載置面上に試料坩堝を載置することにより行われ、
・チャンバカバーが試料チャンバのチャンバ開口に取り付けられると共に、ガス雰囲気が試料チャンバ内に生成された後、坩堝カバーの穿孔は、坩堝レセプタクルが第1位置にあるときに行われ、
・坩堝カバーに穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を行う前に、坩堝レセプタクルの第1位置から第2位置への変位が行われることが想定されている。
【0053】
この場合、変位可能な坩堝レセプタクルの第2位置は、第1位置よりもチャンバ開口から更に離れるよう及び/又は「装置の更に内部」に提供されるのが好適である。坩堝レセプタクルの変位は、特に垂直方向に生じることができ、第2位置は、第1位置よりもチャンバ開口から更に離れるよう及び/又は装置の更に内部(例えばより下方)に提供されている。
【0054】
更なる構成において、装置は、カバー/穿孔ユニットの代わりに、試料チャンバのチャンバ開口に取り付け可能な更なるチャンバカバーを備え、チャンバ開口からのカバー/穿孔ユニットの取り外し及び他のチャンバカバーとの交換は、坩堝レセプタクルが第2位置にあるときに行われることが想定されている。
【0055】
本発明の更なる態様によれば、坩堝カバーを備える試料坩堝が提案され、この試料坩堝は、本明細書に記載のタイプの装置で使用するため及び/又は本明細書に記載の種類の方法で使用するために特別に構成されると共に、
・試料を収容するための内部及び坩堝開口を備える少なくともほぼ円筒形の試料坩堝と、
・試料坩堝の坩堝開口にて、試料坩堝に取り付け可能であるか又は取り付けられた坩堝カバーと、
を備え、
坩堝カバーは、
・試料坩堝の開口エッジに接続可能であるか又は接続されると共に、キャップ孔が形成されたキャップ、特にねじキャップと、
・試料坩堝の内部をシールすると共に、キャップの内側に配置された穿孔可能なシール層と、
を有する。
【0056】
坩堝カバーを備えるこのタイプの試料坩堝の場合、本発明に従って提供される坩堝カバーへの穴の穿孔は、そのために使用される針がキャップ孔を通過し、次いでその下方に位置するシール層を貫通するよう有利に行うことができる。
【0057】
従って、一方でキャップ孔の断面及び他方で針の断面は、針又は少なくとも針先端がキャップ孔を通過するよう、互いに適合させて選択するのが望ましい。一実施形態において、キャップ孔の開口面は、穿孔プロセス中にキャップ孔領域に位置する針又は針先端の部分の最大断面よりも少なくとも2倍、特に4倍大きい。他方では、キャップ孔の開口面が、針(先端)の最大断面よりも最大で10倍大きければ基本的に有利である。
【0058】
一方ではシール層の材料及び厚さ、他方では針の材料及び形状は、針によってシール層の材料が貫通可能であり、従ってシール層に穴を穿孔できるよう、互いに適合させて選択するのが望ましい。
【0059】
キャップの材料及び形状(特に厚さ)は、有利には、針の設計とは無関係に、キャップの所望の機械的安定性に応じて選択することができる。なぜなら、針は、穿孔プロセス中に、例えば適切な寸法のボアとして形成されたキャップ孔の領域においてキャップを通過するからである。
【0060】
試料坩堝は、少なくともほぼボウル又はポットの形状を有する坩堝本体を備えることができる。
【0061】
一実施形態において、試料坩堝は、金属又は金属合金、例えば鋼、又は例えばタングステン、チタン、或いはアルミニウム(又はそれらの合金)で製造され、試料坩堝の内部を画定する表面は、例えばコーティングすることができる。そのようなコーティングのための材料としては、特に貴金属又は貴金属合金、例えば金又は金合金が使用可能である。
【0062】
一実施形態において、試料坩堝は、使用状況において、上方に向けて隣接する円筒形又は円錐形のジャケットを有する円形の底部を備えることが想定されている。この場合、底部及びジャケットは、例えば互いに一体的に接続されるよう形成することができる。この場合、試料坩堝の坩堝開口は、ジャケットの上側エッジによって画定される。
【0063】
試料坩堝は、例えば、5~15 mmの範囲の最大横方向広がり及び/又は5~15 mmの範囲の高さを有することができ、好適には1.0~1.5の範囲の横方向広がり/高さ比を有することができる。坩堝本体の壁厚は、例えば、0.5~1 mmの範囲とすることができる。
【0064】
既に述べたように、試料坩堝の坩堝開口にて、試料坩堝に取り付け可能であるか又は取り付けられた坩堝カバーは、少なくとも1個のキャップ及びその下方に(試料坩堝の内部に向けて)穿孔可能なシール層を有する。一実施形態において、キャップは、金属材料(金属又は金属合金)、例えば、鋼、チタン、又はアルミニウム(例えば試料坩堝と同じ材料)で構成されている。
【0065】
一実施形態において、キャップは、ねじ山(雌ねじ又は雄ねじ)を有するねじキャップとして形成され、坩堝開口領域にて試料坩堝における対応のねじ山(雄ねじ又は雌ねじ)にねじ接続できることが想定されている。
【0066】
一実施形態において、試料坩堝の内部をシールすると共に、キャップの内側に配置された穿孔可能なシール層は、金属材料製のフィルムとして形成されている。シール層の材料としては、特に金又は金合金が有利に使用可能である。シール層の厚さは、例えば、50~200 μmの範囲とすることができる。
【0067】
シール効果を実現するために、例えば、シール層のエッジがキャップから試料坩堝の上側エッジ領域の周方向に押圧され、換言すればキャップと試料坩堝との間にクランプされることが想定可能である。
【0068】
有利な更なる構成において、坩堝カバーは、シール層の内側に配置されると共に、カップ孔と同軸に形成された安定化層孔を含む安定化層を更に有することが想定されている。
【0069】
この場合、例えば、試料坩堝の内部のシールを実現するために、シール層とその下方に配置された安定化層の二層構造のエッジは、キャップと試料坩堝との間で周方向に挟み込まれることが想定可能である。
【0070】
この場合、安定化層によってシール層のための機械的支持が有利に得られ、従って坩堝カバーに穴を穿孔するとき(シール層を穿孔するとき)に針によって応力を加えられてもシール層は戻ることができず、より明確に規定され、かつ再現可能な穴の形状が実現される。
【0071】
キャップ孔に対して同軸に、従って穿孔プロセス中に針に対して同軸に設けられる、安定化層における安定化層孔の配置により、針の穿孔運動が安定化層によって妨げられることが有利に回避される。
【0072】
一実施形態において、安定化層孔の開口面は、穿孔プロセス中に安定化層孔領域に位置する針又は針先端の部分の最大断面よりも少なくとも2倍、特に4倍大きい。
【0073】
本発明に係る装置の一実施形態において、この装置は、本明細書に記載のタイプの少なくとも1個の試料坩堝を坩堝カバーと一緒に備える。
【0074】
本発明の更なる態様によれば、試料を熱分析するための装置用のカバー/穿孔ユニットが提案され、装置は、坩堝カバーが取り付けられると共に、内部に分析すべき試料が配置された試料坩堝を収容するための試料チャンバを備え、試料チャンバは、試料坩堝を試料チャンバに導入するためのチャンバ開口を有し、カバー/穿孔ユニットは、チャンバ開口を覆うために設けられた壁と、壁上に形成されたガイド軸受と、ガイド軸受によって移動可能に格納された針であり、針は、カバー/穿孔ユニットが取り付けられた状態において、試料チャンバに面する壁の内側から、壁を通って、試料チャンバから離れた壁の外側まで延在している、上記針と、を備える。
【0075】
本発明に係るタイプのカバー/穿孔ユニットの場合、本発明に係る装置との関連において既に説明したように、特に特殊な実施形態及び設計が想定可能である。
【0076】
本発明の更なる態様によれば、熱重量分析(TG)、示差熱分析(DTA)、並びに示差走査熱量測定(DSC)からなる群から選択される1種又は複数の熱分析を試料に対して実行するための、本明細書に記載のタイプの装置及び/又は本明細書に記載の種類の方法の使用が提案される。
【0077】
この使用の一実施形態においては、上述した分析方法のうちの1種と、少なくとも1種の更なる分析方法とを含む同時熱分析が想定されている。
【0078】
有利かつより具体的な実施形態において、温度プログラムの過程における熱重量測定(TG)による試料質量の判定と、この温度プログラムの過程における質量分析(MS又はGC-MS)による試料の揮発性分解生成物の種類及び量の同時判定とを含む熱分析のための使用が想定されている。
【0079】
本発明の一実施形態において、温度プログラムは、試料チャンバ内部の温度(チャンバ温度)を規定し、そのために、本発明の方法は、例えば、チャンバ温度の測定と、その測定に基づいて好適にはチャンバ温度の調節(例えばPID制御)により、温度制御機構の制御とを含むことができる。
【0080】
これとは異なり、温度プログラムは、代替的に、試料温度の所定の時間的変化を規定することもでき、そのために、温度制御機構の対応する制御(特に調節)を、例えば測定された試料温度に基づいて適宜行うことができる。
【0081】
本発明の方法又は使用される測定機構の具体的な実施形態に応じて、試料の1つ又は複数の更なる測定変数、特に試料特性に関する測定変数が測定される。例えば、熱重量測定(TG)法を使用する場合、試料の重量又は質量は、温度変化又は温度プログラムの過程で更なる測定変数として測定される。代替的又は付加的に、更なる測定変数は、例えば、(ガスクロマトグラフィ及び/又は質量分析などにより判定される)揮発性生成物の種類及び/又は量に関連することができ、及び/又は、(例えばDSCの場合)少なくとも1つの更なる温度及び/又は温度差を含むことができる。本発明の方法は、好適には、温度プログラムの過程における測定データを表す記録、特に、チャンバ温度及び試料温度のうちの少なくとも1つの温度(好適には両方)の温度依存的及び/又は時間依存的な変化を表すデータの記録を含む。温度制御の間及び/又は温度プログラムの終了後にこの種のデータを評価することにより、例えば、本発明の方法が適用された試料に関して重要な1つ又は複数の材料パラメータを判定することができる。
【0082】
以下、本発明を、添付図面を参照しつつ例示的な実施形態に基づいて更に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】例示的な実施形態に係る、試料を熱分析するための装置を示す断面図である。
【
図2】
図1におけるカバー/穿孔ユニットを僅かに簡略化して示す詳細図である。
【
図3】
図2におけるカバー/穿孔ユニットを示す断面斜視図である。
【
図4】
図2及び
図3におけるカバー/穿孔ユニットのフード部分を示す斜視図である。
【
図5】例示的な実施形態に係る、坩堝カバーを備える試料坩堝を示す概略分解図である。
【
図6】
図5における坩堝カバーのキャップを示す上面図である。
【
図7】
図5における坩堝カバーの安定化層を示す上面図である。
【
図8】更なる例示的な実施形態に係る、試料を熱分析するための装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、試料を熱分析するための装置10の例示的な実施形態を示す。装置10は、坩堝カバー16が取り付けられた坩堝14用の試料チャンバ12を備える。熱分析の間、分析すべき試料は、試料坩堝14の内部に配置される。
【0085】
試料チャンバ12は、装置10の上部領域において、チャンバ開口18を有し、分析を準備するために、そのチャンバ開口を通して試料坩堝14が試料チャンバ12に導入可能である。
【0086】
装置10は、温度制御機構20を更に備え、その温度制御機構により、試料チャンバ12、従って試料坩堝14内に配置された試料温度が試料の分析中に制御される。図示の例において、温度制御機構20は、中空円筒形加熱ジャケット22(例えば電気抵抗ヒータ)を有する。
【0087】
図示の例示的な実施形態において、装置10は、試料を熱分析するための方法を実施するよう構成されており、その方法において、試料温度は、所定の温度プログラムに従って制御され、その過程で試料チャンバ12内部のチャンバ温度が変化する。この場合、温度プログラムの過程で、装置10の測定機構により、試料温度及び試料特性に関連する1つ又は複数の更なる測定変数が測定される。
【0088】
図示の例示的な実施形態において、試料の熱分析に関して熱重量分析(TG)が提供され、その分析においては、温度プログラムの過程で、試料の質量変化が(更なる測定変数として)測定される。
【0089】
従って、図示の例示的な実施形態において、測定機構は、試料温度を測定するための温度測定機構に加えて、特に秤26を有し、この秤26により、秤26上で試料を受けると共に、保管するために設けられた構成要素と一緒に試料の重量が測定される。図示の例において、これら構成要素は、例えば、試料坩堝14と一緒に坩堝カバー16及び試料坩堝キャリア28を含む。温度プログラムの過程で秤26により測定された重量の評価によって、試料質量の温度依存的な変化が得られる。
【0090】
装置10は、試料チャンバ12内に所定のガス雰囲気又はガスフロースルーを生成するために、ガス搬送機構を備え、このガス搬送機構は、図示の例示的な実施形態において、特に試料チャンバ12の下部領域に配置されたガス入口30を有する。図示の例において、更なるガス入口31が試料チャンバ12の下部領域に配置されている。ガス(例えば、窒素、アルゴン、或いはヘリウム、又はこの種の少なくとも1つの不活性ガスを含む混合物)は、これらガス入口30,31を介して試料チャンバ12のこの領域に流入することができる。
【0091】
図示の例及び
図1に示す状況において、ガス搬送機構は、試料チャンバ12の上部領域に配置されたガス出口32を更に有し、このガス出口32を介して保護ガスが試料チャンバ12のこの領域から流出することができる。この例において、装置10のガス搬送機構は、試料チャンバ12内の圧力を測定するための圧力センサ34と、過剰圧力が生じた場合に試料チャンバ12からガスを排出する過圧出口弁(安全弁)36を更に有する。
【0092】
熱分析を実行する際に、装置10における試料チャンバ12の上部を大気(周囲空気)に対して気密に覆うために、装置10は、試料チャンバ12のチャンバ開口18に(任意的に)取り付けることができる1個又は複数のチャンバカバーを更に備える。
図1に示す状況においては、このようなチャンバカバー40がチャンバ開口18に取り付けられている。
【0093】
装置10の特別な特徴は、周囲空気の成分との化学反応又は物理反応の結果として試料が不所望に変化するリスクを低減するために、試料坩堝14が、坩堝カバー16によって気密に閉鎖されているときに試料チャンバ12に導入可能であると共に、ガス搬送機構によって生成されたガス雰囲気下において試料チャンバ12で開放できることである。
【0094】
この目的のために、装置10は、(例えば、鋼又は他の金属合金製の)針44を有する穿孔機構42を更に備え、この穿孔機構は、試料坩堝14が試料チャンバ12内に収容されると共に、チャンバカバー40がチャンバ開口18に取り付けられた状態において、針44を使用して試料坩堝14の坩堝カバー16に穴を穿孔するよう構成されている。
【0095】
図示の例において、チャンバカバー40及び穿孔機構42は、カバー/穿孔ユニット40,42として構造的に組み合わされるよう構成され、
図1においては、チャンバ開口18を通して試料坩堝14が試料チャンバ12に導入された後、カバー/穿孔ユニット40,42がチャンバ開口18に取り付けられた状況が表されている。
【0096】
この状況において、上述した穴を、針44によって試料坩堝14の坩堝カバー16に穿孔することができる。
【0097】
図示の例示的な実施形態において、カバー/穿孔ユニット40,42は、チャンバ開口18を覆うよう機能する壁46と、針44を移動可能に格納するために壁46上に形成されたガイド軸受48(スライド軸受)とを備える。この場合、針44は、カバー/穿孔ユニット40,42が取り付けられた状態において、試料チャンバ12に面する壁46の内側から、壁46を通って、試料チャンバ12から離れた壁46の外側まで延在している。
【0098】
図示の例において、穿孔プロセスのために提供される「針の駆動」は、壁46の外側に位置する針44部分に対する機械的な力によって実現される。
【0099】
この目的のために、穿孔機構42は、錘50を有し、この錘50は、垂直方向に移動可能にガイドされると共に、針44に対して所定の高さから針44のシャフト上に形成された針44の半径方向突出部52上に使用者の手動操作によって落下させることができ、これにより
図1の針44が下方に駆動され、針44の針先端54によって上述した穴を坩堝カバー16に穿孔することができる。
【0100】
錘50が針44の半径方向突出部52上に落下する高さを予め決定するために、図示の例においては、更なる半径方向突出部56が、例えば針44のシャフト上に形成されている。上述した手動操作において、使用者は先ず、針44のシャフト上でガイドされる錘50を、ストッパとして機能する更なる半径方向突出部56に到達するまで持ち上げることができ、次いで錘50を放すことができる。落下高さを規定するストッパ(突出部56)の形成の代替又は付加として、例えば、1つ又は幾つかのマーク(「目盛り」)を針44のシャフト上に設けることもでき、これにより、そのように規定された1つ又は幾つかの落下高さまで錘50を持ち上げることが可能である。
【0101】
図示の例において、穿孔機構42は、針44をその穿孔方向とは反対方向に付勢するよう機能するばね機構58を更に有し、ばね機構58は、圧縮コイルばねとして形成され、針44のシャフトを包囲すると共に、一方では壁46に支持され、他方では針44の半径方向突出部52に支持されている。従って、針44の穿孔プロセスは、明確に規定され、かつ再現可能な穿孔深さで有利に行うことができ、この穿孔深さの程度は、最終的には、ばね機構58の特性、落下高さ、錘50の質量、並びに穿孔される坩堝カバー16の特性(例えば、穿孔されるシール層の材料及び厚さ)と組み合わせた針先端の特性(材料、形状)の関数である。
【0102】
図示の例示的な実施形態から逸脱するが、穿孔機構42は、例えば、針44の穿孔深さを制限するための機械的なストッパを有することもできる。
【0103】
チャンバカバー40がその壁46と共に(ドーム状の)「フード部分」(例えば
図4参照)を形成し、これにより試料チャンバ12又はチャンバ開口18領域が、チャンバカバー40又は図示の例であればカバー/穿孔ユニット40,42の取り付けによって拡張される場合、本発明の文脈において基本的に有利であることが判明した。この場合、チャンバカバー40のガス出口は、(図示の例に設けられたガス出口32の場合と同様)フード形状の遠位領域に配置されるのが好適である。
【0104】
図示の実施例において、穿孔機構42は、機械的なセンタリング機構60(「センタリング補助具」)を更に有し、このセンタリング機構60により、穿孔プロセスを行う前に、試料坩堝14が坩堝カバー16と一緒に穿孔機構42、従って針44に対してセンタリングされる。従って、坩堝カバー16の穿孔は、坩堝カバー16の明確に規定された位置で有利に行われる。
【0105】
図示の例において、カバー/穿孔ユニット40,42のセンタリング機構60は、複数のセンタリングジョー62によって形成され、これら複数のセンタリングジョー62は、穿孔プロセスを実行するときに、試料坩堝14のジャケット面及び/又は坩堝カバー16のジャケット面に接触するよう、壁46の内側に配置されると共に、例えば壁46と一体的に形成され、これにより針44で試料坩堝14の坩堝カバー16に穴が穿孔される前に、試料坩堝14が坩堝カバー16と一緒に針44に対して特定の位置に強制される(センタリングされる)。
【0106】
図示の例において、変位可能な坩堝レセプタクル(坩堝受け)は更に、以下の利点、即ち試料坩堝14を既に穿刺された坩堝カバー16と一緒に第1位置から第2位置に変位させることができ、その後にカバー/穿孔ユニット40,42が、第2位置で試料チャンバ12のチャンバ開口18から取り外されると共に、他のチャンバカバーと交換されるという利点を有する。第2位置においては、試料坩堝14が更に底部に位置し、従ってカバー/穿孔ユニット40,42の取り外し後にガス雰囲気と周囲空気との間で一定のガス交換が不可避であるチャンバ開口18から更に離れているという事実により、この試料準備段階(チャンバカバーの交換)において試料は周囲空気との接触に対して更に良好に保護される。
【0107】
図2は、
図1における断面図のカバー/穿孔ユニット40,42を拡大すると共に、僅かに簡略化して示す。
【0108】
図3は、カバー/穿孔ユニット40,42の断面斜視図を示す。
【0109】
図4は、
図2及び
図3における、壁46及び複数のセンタリングジョー62を含むセンタリング機構60を備えるカバー/穿孔ユニット40,42の「フード部分」の斜視図を示す。
【0110】
熱分析を実行する際に、チャンバカバーが、試料チャンバ12と周囲領域(
図1ではカバー/穿孔ユニット40,42の上方)との間の媒体及び/又はエネルギー(熱)の交換を保護する機能とは別に、更なる機能を有する場合、坩堝カバー16に穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を実行する前に、カバー/穿孔ユニット40,42を、上述した更なる機能に関して最適化されたチャンバカバーと交換するのが有利である。このような更なる機能は、例えばキャリアガス出口を提供することであり、このキャリアガス出口を通って、試料の熱分析中にキャリアガスとして機能するガスが試料に由来するガス状成分と一緒に、試料チャンバ12から分析機構(例えば質量分析計を含む)に移送される。
【0111】
従って、図示の例示的な実施形態において、装置10は、更なるチャンバカバー(図示せず)を備え、この更なるチャンバカバーは、カバー/穿孔ユニット40,42の代わりに、試料チャンバ12のチャンバ開口18に取り付けることができ、その更なるチャンバカバーには、カバー/穿孔ユニット40,42のガス出口32と同様、分析機構につながるガスラインが接続できるか又はガスラインに接続されたガス出口を有する。
【0112】
装置10を使用して実行する試料の熱分析のための方法は、特に以下のステップを含むことができる:
・試料坩堝14を、試料坩堝14に取り付けられた坩堝カバー16及び試料坩堝14内に収容された試料と一緒に、試料チャンバ12のチャンバ開口18を通して試料チャンバ12に導入するステップと、
・カバー/穿孔ユニット40,42を、試料チャンバ12のチャンバ開口18に取り付け、ガス搬送機構30,31,32により試料チャンバ12内にガス雰囲気を生成するステップと、
・カバー/穿孔ユニット40,42の穿孔ユニット42により、試料坩堝14の坩堝カバー16に穴を穿孔するステップと、
・所定の温度プログラム(時間依存的な温度変化)に従って試料チャンバ12の温度を制御するための温度制御機構20と、試料温度及び試料の質量変化を測定するための測定機構とによって、試料の熱分析を実行するステップと、
を含むことができる。
【0113】
この場合、試料を熱分析するための方法が、熱重量測定(TG)と同時に質量分析(MS)によって各温度プログラムの過程で試料の揮発性分解生成物の種類及び量の時間依存的な判定を提供する場合、カバー/穿孔ユニット40,42は、坩堝カバー16に穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を実行する前に、試料チャンバ12のチャンバ開口18から取り外され、ガス出口が形成された上述した他のチャンバカバーと交換され、そのガス出口を介して試料の揮発性分解生成物が熱分析中に質量分析計に搬送される。
【0114】
この場合、試料チャンバ12のガスフロースルーは、ガス搬送機構によって実現される。即ち、質量分析に関連する機能に関してキャリアガスとも称され得るそれぞれのガスが試料チャンバ12の下部領域におけるガス入口30及び/又は31を通して所定の流量で導入され、チャンバカバーのガス出口を通して試料チャンバ12の上部領域で(任意的に、例えばガスクロマトグラフィ機構の分離カラムを介して)質量分析計に向けて放出される。
【0115】
試料チャンバ12におけるこのようなガスフロースルーは、同様に、実際の分析に先行する試料準備の段階、即ち試料坩堝14を試料チャンバ12に導入するとき、並びにカバー/穿孔ユニット40,42を試料開口18から取り外し、他のチャンバカバーをチャンバ開口18に取り付けるときに、既に提供することができる。
【0116】
これに関連して、
図1を参照して上述したように、カバー/穿孔ユニット40,42は、ガス出口32を備え、カバー/穿孔ユニット40,42がチャンバ開口18に取り付けられたときに、装置10のガス入口30を介して試料チャンバ12に流入するガスが、ガス出口32を通って試料チャンバ12から外部環境に流出できることが有利である。従って、カバー/穿孔ユニット40,42を取り付けた後、空気は、試料チャンバ12から迅速かつ有利に排出することができると共に、ガス雰囲気(「保護ガス雰囲気」)で置換することができ、その後に坩堝カバー16を(針44で穿孔することによって)開放することができる。
【0117】
この場合、ガス搬送機構によって生じさせる試料チャンバ12のガスフロースルーは、熱分析を実行する間の流量よりも、試料坩堝14を試料チャンバ12に導入する間及び/又はカバー/穿孔ユニット40,42を他のチャンバカバーと交換する間の流量が(例えば少なくとも2倍)大きくなるようにするのが好適である。
【0118】
図1を再度参照すると、図示の装置10の例示的な実施形態において、試料坩堝14を載置するための載置面を有する坩堝レセプタクルは、試料坩堝キャリア28又はその上端によって形成され、この場合に特別な特徴は、坩堝レセプタクルが、試料坩堝14を載置すると共に、坩堝カバー16に穴を穿孔するための
図1に示す第1位置と、試料の熱分析を実行するための第2位置(図示せず)との間で垂直方向に変位可能なことである。
【0119】
この第2位置において、試料坩堝14は、熱分析を実行するために、温度制御機構20の加熱ジャケット22のほぼ中心に位置している。従って、変位可能な坩堝レセプタクル又は変位可能な試料坩堝キャリア28の第2位置は、
図1に示す第1位置よりも更に底部、即ちチャンバ開口18から更に離れると共に、装置10の更に内部に設けられている。
【0120】
第1位置においては、例えばピンセットにより保持された試料坩堝14を(試料チャンバ12のチャンバ開口を通して)装置10に導入して載置することが容易になるのに対して、第2位置においては、熱分析中における試料の正確な温度制御を保証することができる。
【0121】
図示の実施例において、変位可能な坩堝レセプタクルは更に、試料坩堝14の坩堝カバー16に穴を穿孔することにより生じる機械的応力が、熱重量分析(TG)のために設けられた秤26に伝達されないという利点を有する。これは、第1位置において、試料坩堝キャリア28が持ち上げ機構70の助けを借りて上方に持ち上げられ、従って秤26から機械的に分離されるからである。試料坩堝キャリア28は、坩堝カバー16に穴を穿孔した後、かつ熱分析を実行する前にのみ、持ち上げ機構70の助けを借りて下方に下げられ、従って秤26上に置かれる。
【0122】
図示の例において、変位可能な坩堝レセプタクルは更に、以下の利点、即ち試料坩堝14を既に穿刺された坩堝カバー16と一緒に第1位置から第2位置に変位させることができ、その後にカバー/穿孔ユニット40,42が、第2位置で試料チャンバ12のチャンバ開口18から取り外されると共に、他のチャンバカバーと交換されるという利点を有する。第2位置においては、試料坩堝14が更に底部に位置し、従ってカバー/穿孔ユニット40,42の取り外し後にガス雰囲気と周囲空気との間で一定のガス交換が不可避であるチャンバ開口18から更に離れているという事実により、この試料準備段階(チャンバカバーの交換)において試料は周囲空気との接触に対して更に良好に保護される。
【0123】
図示の例示的な実施形態において、第1位置と第2位置との間で変位可能な坩堝レセプタクル(試料坩堝キャリア28)が形成されていることにより、装置10を使用して実施する方法は、有利には以下のことを実現することができる:
・試料チャンバ12への試料坩堝14の導入は、坩堝レセプタクルが第1位置にあるときに、試料坩堝キャリア28の上端に設けられた坩堝レセプタクルの載置面上に試料坩堝14を載置することにより行われ、
・チャンバカバー(実施例においては、カバー/穿孔ユニット40,42)が試料チャンバ12のチャンバ開口18に取り付けられると共に、規定のガス雰囲気(及び好適にはガスフロースルー)が試料チャンバ12内に生成された後、坩堝カバー16の穿孔は、坩堝レセプタクルが第1位置にあるときに行われ、
・坩堝カバー16に穴を穿孔した後、かつ試料の熱分析を実行する前に、坩堝レセプタクルの第1位置から第2位置への変位が行われる。
【0124】
以下の更なる例示的な実施形態の説明においては、同じように作用する構成要素には同じ参照符号が付され、実施形態を区別するためにそれぞれの場合に小文字が補足されるものとする。この場合、上述した例示的な実施形態と比べて実質的に異なる点のみ説明し、それ以外については上述した例示的な実施形態を参照されたい。
【0125】
以下においては、
図5~
図7を参照しつつ、本発明の文脈において特に有利に使用可能な坩堝カバー16aを備える試料坩堝14aの例示的な実施形態を説明する。
【0126】
図5は、坩堝カバー16aを備える試料坩堝14aの側面からの概略分解図を示す。
【0127】
試料坩堝14aは、試料を収容するための内部を有する円筒形と、その円筒形の上端面の坩堝開口80aとを備える。
【0128】
図示の例において、試料坩堝14aの坩堝開口80aにて試料坩堝14aに取り付けることができるか又は取り付けられる坩堝カバー16aは、キャップ82aと、穿孔可能なシール層84a(シールフィルム)と、安定化層86aとで構成されている。
【0129】
キャップ82aは、ねじキャップとして形成され、試料坩堝14aの開口エッジに対してその周方向領域で周方向に接続(この場合はねじ接続)することができる。図示の例において、キャップ82は、その周方向エッジ領域に、試料坩堝14aにおける対応の雄ねじにねじ接続可能な雌ねじを有する。キャップ82aは更に、中央に配置されると共に、キャップ82aを貫通するキャップ孔88aを有する。
【0130】
穿孔可能なシール層84aは、「試料坩堝/坩堝カバーの組み合わせ」14a,16aが取り付けられた状態において、キャップ82aの内側に配置され、この状態で試料坩堝14aの内部をシールする役割を果たす。
【0131】
安定化層86aは、取り付けられた状態において、穿孔可能なシール層84aの内側に配置されている。安定化層86aは更に、キャップ孔88aと同軸配置されると共に、安定化層86aを貫通する安定化層孔90aを有する。
【0132】
試料坩堝/坩堝カバーの組み合わせ14a,16aの取り付け状態において、シール層84aとその下方に配置された安定化層86aの二層構造のエッジは、キャップ82aと試料坩堝14aとの間で周方向に挟み込まれる。
【0133】
図示の例において、試料坩堝14aは、鋼で一体的(底部及びジャケット)に構成され、内部を画定する表面は金合金でコーティングされている。図示の例において、坩堝カバー16aは、鋼(キャップ82a)及び金合金(シール層84aと安定化層86a)で構成されている。
【0134】
坩堝カバー16aを備える試料坩堝14aの場合、坩堝カバー16aへの穴の穿孔は、そのために使用される針(例えば
図1~
図4の針44)がキャップ孔88aを通過し、次いでその下方に位置するシール層84aを穿孔するよう有利に行うことができる。この場合、安定化層86aによってシール層84aのための機械的支持が有利に得られ、従ってシール層84aに穴を穿孔するときに針によって応力を加えられてもシール層84aは戻ることができず、明確に規定され、かつ再現可能な穴の形状が実現される。安定化層孔90aを設けることにより、針の穿孔運動が安定化層86aによって妨げられることが有利に回避される。
【0135】
図6は、坩堝カバー16aにおけるキャップ82aの上面図を示す。
【0136】
図7は、坩堝カバー16aにおける安定化層86aの上面図を示す。
【0137】
一方ではキャップ孔88aの直径及び安定化層孔90aの直径、他方では針の直径は、針又は少なくとも針先端がキャップ孔88aを通過し、好適には安定化層孔90aも通過するよう、互いに適合させて選択するのが望ましい。図示の例において、キャップ孔88aの直径及び安定化層孔90aの直径の寸法は等しく、それぞれ約0.5 mmである。
【0138】
図8は、試料を熱分析するための装置10bの更なる例示的な実施形態を示す。
図1に関して上述した装置10と同様、装置10bは、坩堝カバー16bが取り付けられた試料坩堝14bを収容するための試料チャンバ12bを備え、分析すべき試料は、試料坩堝14bの内部に配置されている。試料チャンバ12bは、装置10bの上部領域においてチャンバ開口18bを有し、分析を準備するために、そのチャンバ開口を通して試料坩堝14bが試料チャンバ12bに導入可能である。装置10bは、温度制御機構20bを更に備え、この温度制御機構20bにより、試料チャンバ12bの試料温度が所定の温度プログラムに従って試料の分析中に制御され、その過程で試料チャンバ12b内部のチャンバ温度が変化し、装置10bの測定機構により、試料温度及び試料特性に関連する1つ又は複数の更なる測定変数が測定される。
【0139】
図1の装置10とは対照的に、装置10bは、示差走査熱量測定(DSC)の方法を含む試料の熱分析を実施するよう構成されている。
【0140】
この場合、「センサ」として機能すると共に、(温度測定のための熱素子を有する)2個の試料坩堝キャリア28b-1,28b-2が試料チャンバ12b内に設けられ、これら試料坩堝キャリア上のそれぞれに上述したタイプの試料坩堝を載置することができる。DSCを実行する場合、両方の試料坩堝は同時に、又は任意的に2個の試料(例えば「実際の試料」及び「参照試料」)も同時に、共通の温度制御を受ける。2個の試料を同時に温度制御する代わりに、第2坩堝は、例えば、方法の実施中に「空の」(即ち、坩堝内に試料又は参照試料が保管されていない)状態で使用することもできる。
【0141】
従って、装置10bの測定機構は、(試料坩堝14b内における)実際の試料温度と、参照試料(又は「空の」第2試料坩堝)の温度とを測定するための温度測定機構を含む。
【0142】
装置10bの使用状況において、試料坩堝キャリア28b-1,28b-2のそれぞれは、試料坩堝、例えば図示の試料坩堝14bを試料坩堝キャリア上に配置し、これにより試料坩堝を、任意的に収容された試料(「参照試料」を含む)と一緒に試料チャンバ12b内に規定通りに配置するという目的と、各坩堝の下側温度、従って(試料を収容する坩堝14bの場合は)試料温度を測定するという目的に寄与する。この目的のために、熱素子(この図では図示せず)が、各試料坩堝キャリア28b-1,28b-2の表面又は内部に配置されている。
【0143】
装置10bによって実行される示差走査熱量測定の場合、特に、2個のセンサ(試料坩堝キャリア28b-1,28b-2)によって測定された温度差の時間依存的な変化を、測定結果(測定データ)の評価の一部として判定し、これにより試料のエネルギー効果及び/又は例えば温度依存的な比熱容量を判定することができる。装置10bの更なる構成(図示せず)においては、例えば、DSCと、特にTG(熱重量分析)などの少なくとも1種の更なる熱分析法との組み合せを提供することもできる。
【0144】
上述した装置10(
図1参照)の場合と同様、装置10b(
図8参照)におけるチャンバカバー40b及び穿孔機構42bも、カバー/穿孔ユニット40b,42bとして構造的に組み合わされるよう形成され、このカバー/穿孔ユニット40b,42bは、壁46bと、壁46b上に形成されたガイド軸受48bと、ガイド軸受48b内に移動可能に格納された針44bとを備える。
【0145】
ただし装置10(
図1参照)とは対照的に、装置10b(
図8参照)におけるガイド軸受48b、従って針44bは、穿孔すべき試料坩堝14bの坩堝カバー16bの「偏心」位置に適合するよう、(例えば円形の)チャンバカバー40bの中心に配置されず、偏心配置されている。
【0146】
要約すると、本発明及び記載した例示的な実施形態により、気密に閉鎖された試料坩堝を、試料を熱分析するための装置に保護ガス条件下で導入し、この装置内でのみ保護ガス条件下で開放することが可能になる。従って、有利には、試料準備中に、周囲空気の成分との不所望な化学反応又は物理反応の結果として試料が変化するリスクが大幅に低減される。