(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】窒化ホウ素粒子、樹脂組成物、及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20240716BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240716BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C01B21/064 Z
C08K3/38
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2023007229
(22)【出願日】2023-01-20
(62)【分割の表示】P 2022544003の分割
【原出願日】2021-08-19
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020139479
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100218855
【氏名又は名称】田中 政輝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】宮田 建治
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 道治
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216271(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0276310(US,A1)
【文献】特許第6625308(JP,B2)
【文献】特許第5689985(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08K 3/38
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
折れ曲がった形状を有し、中空である、窒化ホウ素粒子であって、
150μm以上の長さで第一の方向に伸びる第一の部分と、
前記第一の部分から折れ曲がって、150μm以上の長さで前記第一の方向とは異なる第二の方向に伸びる第二の部分と、を備え
、
前記第一の部分と前記第二の部分とがなす角度が20~150°である、窒化ホウ素粒子。
【請求項2】
前記窒化ホウ素粒子の一端上の点と他端上の点とを結ぶ直線L1と、前記直線L1又は前記直線L1の延長線上から前記窒化ホウ素粒子上の点までを結ぶ垂線のうち長さが最大となる垂線L2とを引いたときに、前記直線L1の長さに対する前記垂線L2の長さの比が0.2以上である、請求項1に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項3】
前記第一の部分のアスペクト比が1.1以上であり、
前記第二の部分のアスペクト比が1.1以上である、請求項1に記載の窒化ホウ素粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の窒化ホウ素粒子を用意する工程と、
前記窒化ホウ素粒子を樹脂と混合する工程と、を備える、樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記窒化ホウ素粒子を粉砕する工程を更に備える、請求項5に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ホウ素粒子、樹脂組成物、及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性を有しており、固体潤滑材、離型材、化粧料の原料、放熱材、並びに、耐熱性及び絶縁性を有する焼結体等の種々の用途に利用されている。従来、窒化ホウ素粒子(窒化ホウ素凝集粒子)としては、六方晶窒化ホウ素粒子の結晶構造と鱗片状に由来する熱伝導率の異方性を抑制するために、複数の窒化ホウ素一次粒子が凝集した、球形に近い形状の凝集粒子が一般的である。
【0003】
例えば、特許文献1には、樹脂に充填して得られる樹脂組成物に高い熱伝導性と高い絶縁耐力を付与することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末として、六方晶窒化ホウ素の一次粒子からなる凝集粒子を含み、BET比表面積が0.7~1.3m2/gであり、且つ、JIS K 5101-13-1に基づき測定される吸油量が80g/100g以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
球形に近い形状の窒化ホウ素粒子が例えば放熱材に用いられる場合、その形状に起因して、放熱材における窒化ホウ素粒子同士の接触が必ずしも充分ではなく、更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明の主な目的は、新規な窒化ホウ素粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、折れ曲がった形状を有する、窒化ホウ素粒子である。
【0008】
上記窒化ホウ素粒子の一端上の点と他端上の点とを結ぶ直線L1と、上記直線L1又は上記直線L1の延長線上から上記窒化ホウ素粒子上の点までを結ぶ垂線のうち長さが最大となる垂線L2とを引いたときに、上記直線L1の長さに対する上記垂線L2の長さの比が0.2以上であってよい。
【0009】
窒化ホウ素粒子は、50μm以上の長さで第一の方向に伸びる第一の部分と、上記第一の部分から折れ曲がって、50μm以上の長さで上記第一の方向とは異なる第二の方向に伸びる第二の部分と、を備えてよい。
【0010】
窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素により形成される外殻部と、上記外殻部に囲われた中空部と、を有してよい。
【0011】
本発明の他の一側面は、上記窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物である。
【0012】
本発明の他の一側面は、上記窒化ホウ素粒子を用意する工程と、上記窒化ホウ素粒子を樹脂と混合する工程と、を備える、樹脂組成物の製造方法である。この樹脂組成物の製造方法は、上記窒化ホウ素粒子を粉砕する工程を更に備えてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、新規な窒化ホウ素粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】窒化ホウ素粒子の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】実施例1の窒化ホウ素粒子のX線回折測定結果のグラフである。
【
図3】実施例1の窒化ホウ素粒子のSEM画像である。
【
図4】実施例2の窒化ホウ素粒子のSEM画像である。
【
図5】実施例3の窒化ホウ素粒子のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の一実施形態は、折れ曲がった形状を有する、窒化ホウ素粒子である。
【0016】
従来の窒化ホウ素粒子は、例えば球形に近い形状であるのに対して、一実施形態に係る窒化ホウ素粒子は、折れ曲がった形状を有している。この窒化ホウ素粒子は、折れ曲がった形状を有することで、他の窒化ホウ素粒子と接触しやすくなる。そのため、例えば、窒化ホウ素粒子を樹脂と混合して放熱材(放熱シート)としたときに、窒化ホウ素粒子による伝熱経路が三次元的に形成されることから、当該放熱材が優れた熱伝導性を有すると考えられる。したがって、この窒化ホウ素粒子は、放熱材に好適に用いることができる。なお、窒化ホウ素粒子の用途として放熱材を例示したが、この窒化ホウ素粒子は、放熱材に限らず種々の用途に利用できる。
【0017】
図1は、窒化ホウ素粒子の一実施形態を示す模式図である。
図1に示されるように、窒化ホウ素粒子1は、一実施形態において、例えば、第一の方向に伸びる第一の部分1aと、第一の部分1aから折れ曲がって、第一の方向とは異なる第二の方向に伸びる第二の部分1bと、を備えている。窒化ホウ素粒子がこのような折れ曲がった形状を有することは、窒化ホウ素粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。具体的には、
図1に示されるように、窒化ホウ素粒子1のSEM画像において、窒化ホウ素粒子1の一端(第一の部分1aの端)1c上の任意の点P1と、他端(第二の部分1bの端)1d上の任意の点P2とを結ぶ直線L1を引いたときに、窒化ホウ素粒子1が存在しない領域R上を通るような直線L1を引ける場合、当該窒化ホウ素粒子1が折れ曲がった形状を有すると判断する。
【0018】
窒化ホウ素粒子の折れ曲がり具合は、例えば以下のように定義される折れ曲がり指数によって評価できる。すなわち、
図1に示されるように、まず、窒化ホウ素粒子1のSEM画像において、上述した直線L1又はその延長線から窒化ホウ素粒子1上の点まで引いた垂線の長さが最大となる点P3を決め、点P3から直線L1又はその延長線に対して垂線L2を引く。このとき、折れ曲がり指数は、直線L1の長さに対する垂線L2の長さの比(折れ曲がり指数=垂線L2の長さ/直線L1の長さ)として定義される。直線L1の長さ及び垂線L2の長さの測定は、SEM画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込んで行ってもよい。
【0019】
折れ曲がり指数が大きいほど、窒化ホウ素粒子がより大きく(より鋭角な角度で)折れ曲がっていることを意味する。窒化ホウ素粒子の折れ曲がり指数は、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.5以上、2.0以上、又は3.0以上であってよく、10以下、8.0以下、6.0以下、5.0以下、4.0以下であってよい。なお、一つの窒化ホウ素粒子に対して複数の直線L1を引くことができるが、窒化ホウ素粒子の折れ曲がり指数が上記の範囲となるような直線L1を少なくとも一本引くことができれば、窒化ホウ素粒子の折れ曲がり指数が上記の範囲であるとする。以下、直線L1が関わる数値範囲について、同様である。
【0020】
直線L1の長さは、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、又は250μm以上であってよく、500μm以下又は400μm以下であってよい。垂線L2の長さは、30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、150μm以上、200μm以上、又は250μm以上であってよく、500μm以下又は400μm以下であってよい。
【0021】
第一の部分1a(第一の方向)と第二の部分1b(第二の方向)とがなす角度は、20~150°であってよい。当該角度は、30°以上、40°以上、50°以上、又は60°以上であってよく、140°以下、120°以下、又は100°以下であってよい。
【0022】
第一の部分1a(第一の方向)と第二の部分1b(第二の方向)とがなす角度は、以下のとおり定義される。すなわち、
図1に示されるように、点P3と窒化ホウ素粒子1の一端(第一の部分1aの端)1c上の点P1とを直線L3で結び、点P3と他端(第二の部分1bの端)1d上の点P2とを直線L4で結ぶ。このときに、直線L3と直線L4とがなす角度φを、第一の部分1a(第一の方向)と第二の部分1b(第二の方向)とがなす角度と定義する。
【0023】
第一の部分1a及び第二の部分1bの長さは、それぞれ独立に、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、150μm以上、又は200μm以上であってよく、500μm以下、400μm以下、又は300μm以下であってよい。窒化ホウ素粒子1が比較的大きな第一の部分1a及び第二の部分1bを有することで、窒化ホウ素粒子1を樹脂と混合して放熱材としたときに、放熱材の厚さ方向と窒化ホウ素粒子1の第一の方向又は第二の方向とを一致させやすくなることから、放熱材の厚さ方向の熱伝導性を高めることができると考えられる。
【0024】
第一の部分1aの長さは、上述した直線L3の長さとして定義される。第二の部分の長さは、上述した直線L4の長さとして定義される。第一の部分1a及び第二の部分1bの長さの測定は、SEM画像を画像解析ソフトウェア(例えば、株式会社マウンテック製の「Mac-view」)に取り込んで行ってもよい。
【0025】
第一の部分1a及び第二の部分1bのアスペクト比は、それぞれ独立に、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、2.0以上、又は3.0以上であってよく、12.0以下、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、又は6.0以下であってよい。
【0026】
第一の部分のアスペクト比は、上記第一の部分の長さ(L3)と、当該長さを有する方向に垂直な方向における最大長さ(L5)との比(L3/L5)として定義される。第一の部分の長さを有する方向に垂直な方向における最大長さ(L5)は、第一の部分の長さ(L3)と同様の方法で測定することができる。第二の部分のアスペクト比については、上記定義の「第一の部分」を「第二の部分」と読み替えて定義される。
【0027】
窒化ホウ素粒子は、中実又は中空であってよい。窒化ホウ素粒子が中空である場合、窒化ホウ素粒子は、窒化ホウ素により形成される外殻部と、外殻部に囲われた中空部とを有してよい。中空部は、窒化ホウ素粒子の折れ曲がった形状に沿って伸びていてよく、窒化ホウ素粒子の折れ曲がった形状と略相似形状であってもよい。この場合、窒化ホウ素粒子の端部の少なくとも一つが開口端であってよく、全ての端部が開口端であってよい。当該開口端は、上述した中空部と連通していてよい。窒化ホウ素粒子が中空であり、窒化ホウ素粒子の端部の少なくとも一つが開口端であることにより、例えば、窒化ホウ素粒子を樹脂と混合して放熱材として用いたときに、窒化ホウ素粒子よりも軽い樹脂が中空部に充填されることで、熱伝導率を有しつつ放熱材の軽量化が期待できる。
【0028】
窒化ホウ素粒子は、実質的に窒化ホウ素のみからなってよい。窒化ホウ素粒子が実質的に窒化ホウ素のみからなることは、X線回折測定において、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出されることにより確認できる。
【0029】
続いて、上述した窒化ホウ素粒子の製造方法について以下に説明する。上述した窒化ホウ素粒子は、例えば、炭素材料で形成された容器内に、炭化ホウ素、及びホウ酸を含有する混合物を配置すると共に、炭素材料で形成された基材を基材表面が重力方向と略平行になるように配置する工程(配置工程)と、容器内を窒素雰囲気にした状態で加熱及び加圧することにより、上記基材表面上に窒化ホウ素粒子を生成させる工程(生成工程)と、を備える窒化ホウ素粒子の製造方法により製造することができる。本発明の他の一実施形態は、このような窒化ホウ素粒子の製造方法である。窒化ホウ素粒子は基材表面に対して略垂直方向に生成するが、窒化ホウ素粒子が生成する基材表面が重力方向と略平行であることで、窒化ホウ素粒子の生成途中で重力の影響により湾曲するため、折れ曲がった形状を有する窒化ホウ素粒子を製造できると考えられる。
【0030】
炭素材料で形成された容器は、上記混合物及び基材を収容できるような容器である。当該容器は、例えばカーボンルツボであってよい。容器は、好ましくは、開口部に蓋をすることにより、気密性を高められるような容器である。配置工程では、例えば、混合物を容器内の底部に配置し、基材を窒化ホウ素粒子が生成する表面と重力方向とが同じ方向になるように容器内に配置してよい。基材の配置場所は、容器内であれば中心付近や側壁面であってよい。基材の配置位置が容器内の中心に近いほど、大きく折れ曲がった形状を有する窒化ホウ素粒子が生成しやすい。炭素材料で形成された基材は、例えば、シート状、板状、又は棒状であってよい。炭素材料で形成された基材は、例えば、カーボンシート(グラファイトシート)、カーボン板、又はカーボン棒であってよい。
【0031】
混合物中の炭化ホウ素は、例えば粉末状(炭化ホウ素粉末)であってよい。混合物中のホウ酸は、例えば粉末状(ホウ酸粉末)であってよい。混合物は、例えば、炭化ホウ素粉末と、窒化ホウ素粉末と、ホウ酸粉末と、を公知の方法で混合することにより得られる。
【0032】
炭化ホウ素粉末は、公知の製造方法により製造することができる。炭化ホウ素粉末の製造方法としては、例えば、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合した後、不活性ガス(例えば窒素ガス)雰囲気中で、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、塊状の炭化ホウ素粒子を得る方法が挙げられる。この方法により得られた塊状の炭化ホウ素粒子を、粉砕、篩分け、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行うことで炭化ホウ素粉末を得ることができる。
【0033】
塊状の炭素ホウ素粒子の粉砕時間を調整することによって、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を調整することができる。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、5μm以上、7μm以上、又は10μm以上であってよく、100μm以下、90μm以下、80μm以下、又は70μm以下であってよい。炭化ホウ素粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定することができる。
【0034】
炭化ホウ素とホウ酸との混合比率は、適宜選択できる。混合物中のホウ酸の含有量は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、炭化ホウ素100質量部に対して、好ましくは2質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは8質量部以上であり、100質量部以下、90質量部以下、又は80質量部以下であってよい。
【0035】
混合物中のホウ酸の含有量が多くなると、生成する窒化ホウ素粒子が大きくなる傾向があることから、窒化ホウ素粒子の生成途中で、隣接する窒化ホウ素粒子同士が結合して、折れ曲がった形状を有する窒化ホウ素粒子が生成されることもある。
【0036】
炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物は、他の成分を更に含有してもよい。他の成分としては、炭化ケイ素、炭素、酸化鉄等が挙げられる。炭化ホウ素及びホウ酸を含有する混合物が炭化ケイ素を更に含むことで、開口端を有さない窒化ホウ素粒子を得やすくなる。
【0037】
容器内は、例えば95体積%以上の窒素ガスを含む窒素雰囲気となっている。窒素雰囲気中の窒素ガスの含有量は、好ましくは95体積%以上であり、より好ましくは99.9体積%以上であり、実質的に100体積%であってよい。窒素雰囲気中に、窒素ガスに加えて、アンモニアガス等が含まれてもよい。
【0038】
加熱温度は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1600℃以上であり、更に好ましくは1800℃以上である。加熱温度は、2400℃以下、2300℃以下、又は2200℃以下であってよい。
【0039】
加圧する際の圧力は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは0.3MPa以上であり、より好ましくは0.6MPa以上である。加圧する際の圧力は、1.0MPa以下、又は0.9MPa以下であってよい。
【0040】
加熱及び加圧を行う時間は、窒化ホウ素粒子が大きくなりやすい観点から、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは5時間以上である。加熱及び加圧を行う時間は、40時間以下、又は30時間以下であってよい。
【0041】
この製造方法によれば、上述した窒化ホウ素粒子が炭素材料で形成された基材上に生成する。したがって、基材上の窒化ホウ素粒子を回収することにより、窒化ホウ素粒子が得られる。基材上に生成した粒子が窒化ホウ素粒子であることは、当該粒子の一部を基材から回収し、回収した粒子についてX線回折測定を行い、窒化ホウ素に由来するピークが検出されることにより確認できる。
【0042】
以上のようにして得られる窒化ホウ素粒子に対して、特定の範囲の最大長さを有する窒化ホウ素粒子のみが得られるように分級する工程(分級工程)を実施してもよい。
【0043】
以上のようにして得られる窒化ホウ素粒子は、樹脂と混合して樹脂組成物として用いることができる。すなわち、本発明の他の一実施形態は、上記の窒化ホウ素粒子と、樹脂と、を含有する樹脂組成物である。
【0044】
樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。
【0045】
窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物を放熱材として用いる場合、放熱材の熱伝導率を向上させ、優れた放熱性能が得られやすい観点から、樹脂組成物の全体積を基準として、15体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよい。窒化ホウ素粒子の含有量は、樹脂組成物をシート状の放熱材に成形する際に空隙が発生することを抑制し、シート状の放熱材の絶縁性及び機械強度の低下を抑制できる観点から、樹脂組成物の全体積を基準として、85体積%以下、80体積%以下、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0046】
樹脂の含有量は、樹脂組成物の用途、要求特性などに応じて適宜調整してよい。樹脂の含有量は、樹脂組成物の全体積を基準として、例えば、15体積%以上、20体積%以上、30体積%以上、40体積%以上、50体積%以上、又は60体積%以上であってよく、85体積%以下、70体積%以下、60体積%以下、50体積%以下、又は40体積%以下であってよい。
【0047】
樹脂組成物は、樹脂を硬化させる硬化剤を更に含有していてよい。硬化剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択される。例えばエポキシ樹脂と共に用いられる硬化剤としては、フェノールノボラック化合物、酸無水物、アミノ化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。硬化剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0.5質量部以上又は1.0質量部以上であってよく、15質量部以下又は10質量部以下であってよい。
【0048】
樹脂組成物は、その他の成分を更に含有してもよい。その他の成分は、硬化促進剤(硬化触媒)、カップリング剤、湿潤分散剤、表面調整剤等であってよい。
【0049】
硬化促進剤(硬化触媒)としては、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルフォスフェイト等のリン系硬化促進剤、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール系硬化促進剤、三フッ化ホウ素モノエチルアミン等のアミン系硬化促進剤などが挙げられる。
【0050】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、及びアルミネート系カップリング剤等が挙げられる。これらのカップリング剤に含まれる化学結合基としては、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等が挙げられる。
【0051】
湿潤分散剤としては、リン酸エステル塩、カルボン酸エステル、ポリエステル、アクリル共重合物、ブロック共重合物等が挙げられる。
【0052】
表面調整剤としては、アクリル系表面調整剤、シリコーン系表面調整剤、ビニル系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。
【0053】
樹脂組成物は、例えば、一実施形態に係る窒化ホウ素粒子を用意する工程(用意工程)と、窒化ホウ素粒子を樹脂と混合する工程(混合工程)と、を備える、樹脂組成物の製造方法により製造することができる。本発明の他の一実施形態は、このような樹脂組成物の製造方法である。
【0054】
一実施形態に係る樹脂組成物の製造方法は、窒化ホウ素粒子を粉砕する工程(粉砕工程)を更に備えてよい。粉砕工程は、用意工程と混合工程との間に行われてよく、混合工程と同時に行われてもよい(窒化ホウ素粒子を樹脂と混合すると同時に、窒化ホウ素粒子を粉砕してもよい)。
【0055】
上記の樹脂組成物は、例えば放熱材として用いることができる。放熱材は、例えば、樹脂組成物を硬化させることにより製造することができる。樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物が含有する樹脂(及び必要に応じて用いられる硬化剤)の種類に応じて適宜選択される。例えば、樹脂がエポキシ樹脂であり、上述した硬化剤が共に用いられる場合、加熱により樹脂を硬化させることができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
塊状の炭化ホウ素粒子を粉砕機により粉砕し、平均粒子径が10μmである炭化ホウ素粉末を得た。得られた炭化ホウ素粉末100質量部と、ホウ酸9質量部とを混合し、得られた混合物をカーボンルツボに充填し、カーボンルツボの容器内の中心に、カーボン基材(東海カーボン社製)を当該基材の表面が重力方向と略平行になるように配置した。蓋をしたカーボンルツボを抵抗加熱炉内で、窒素ガス雰囲気下で、2000℃、0.85MPaの条件で20時間加熱することで、カーボン基材の上記表面上に粒子が生成した。
【0058】
カーボン基材の上記表面上に生成した粒子の一部を回収し、X線回折装置(株式会社リガク製、「ULTIMA-IV」)を用いてX線回折測定した。このX線回折測定結果、及び比較対象としてデンカ株式会社製の窒化ホウ素粉末(GPグレード)のX線回折測定結果をそれぞれ
図2に示す。
図2から分かるように、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。得られた窒化ホウ素粒子のSEM画像を
図3に示す。得られた窒化ホウ素粒子の一つ(
図3において矢印で示した窒化ホウ素粒子)について、
図1に示す直線(垂線)L1~L4及び角度φと、折れ曲がり指数(=垂線L2の長さ/直線L1の長さ)とを求めたところ、直線L1の長さが72μm、垂線L2の長さが63μm、直線L3の長さが73μm、直線L4の長さが72μm、角度φが60°、折れ曲がり指数が0.88であった。
【0059】
(実施例2)
カーボンシート(NeoGraf社製)をカーボンルツボの容器内の側壁面に、当該カーボンシートの表面が重力方向と略平行になるように設置した以外は、実施例1と同様にカーボンシートの上記表面上に粒子を生成させた。カーボンシートの上記表面上に生成した粒子の一部を回収し、X線回折測定したところ、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。得られた窒化ホウ素粒子のSEM画像を
図4に示す。得られた窒化ホウ素粒子の一つ(
図4において矢印で示した窒化ホウ素粒子)について、
図1に示す直線(垂線)L1~L4及び角度φと、折れ曲がり指数(=垂線L2の長さ/直線L1の長さ)とを求めたところ、直線L1の長さが348μm、垂線L2の長さが140μm、直線L3の長さが170μm、直線L4の長さが288μm、角度φが95°、折れ曲がり指数が0.40であった。
【0060】
(実施例3)
ホウ酸の配合量を72質量部に変更した以外は、実施例2と同様にカーボンシートの表面上に粒子を生成させた。カーボンシート上に生成した粒子の一部を回収し、X線回折測定したところ、窒化ホウ素に由来するピークのみが検出され、窒化ホウ素粒子が生成したことを確認できた。得られた窒化ホウ素粒子のSEM画像を
図5に示す。得られた窒化ホウ素粒子の一つ(
図5において矢印で示した窒化ホウ素粒子)について、
図1に示す直線(垂線)L1~L4及び角度φと、折れ曲がり指数(=垂線L2の長さ/直線L1の長さ)とを求めたところ、直線L1の長さが109μm、垂線L2の長さが232μm、直線L3の長さが248μm、直線L4の長さが233μm、角度φが26°、折れ曲がり指数が2.12であった。