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特許7521110ポリアリーレンエーテルケトン樹脂、その製造方法、及び成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ポリアリーレンエーテルケトン樹脂、その製造方法、及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20240716BHJP
   C08G 67/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C08G65/40
C08G67/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023509348
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014662
(87)【国際公開番号】W WO2022203076
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2021052321
(32)【優先日】2021-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021055851
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 勇氏
(72)【発明者】
【氏名】石原 充裕
(72)【発明者】
【氏名】米村 真実
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-528157(JP,A)
【文献】特開2020-143262(JP,A)
【文献】特開平03-149223(JP,A)
【文献】特開昭63-054423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/00-57/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPC換算の数平均分子量Mnが6000以上16000未満であり、
前記数平均分子量Mnに対するGPC換算の重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnが2.5以下であり、
樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上であり、
ASTM D3418に準じて、20℃/分の昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/分の降温条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより示差走査熱量測定を行ったときに、測定を開始してから2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融点(Tm)、結晶化温度(Tc)が、60℃≦(Tm-Tc)≦100℃の関係を満たす
ことを特徴とする、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項2】
前記数平均分子量Mnが6000以上13000未満であり、
前記分子量分布Mw/Mnが2.4以下である、請求項1に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項3】
下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位(1-1)を含み、さらに下記一般式(2-1)で表される繰り返し単位(2-1)を含んでいてもよく、前記繰り返し単位(1-1)と、前記繰り返し単位(2-1)との割合(繰り返し単位(1-1):繰り返し単位(2-1))が、モル比で100:0~50:50の範囲である、請求項1又は2に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【化1】
【化2】
【請求項4】
ガラス転移温度が140℃以上であり、かつ融点が300℃以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項5】
フッ素原子の含有量が1500質量ppm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項6】
GPC測定で得られた微分分子量分布曲線において、分子量の対数値logM(Mは分子量)が3.4以下である部分の面積の、曲線全体の面積に対する割合が8%未満である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項7】
引張破断強度が、110~145MPaである、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項8】
シャルピー衝撃強度が、5kJ/m以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項9】
前記繰り返し単位(1-1)と、前記繰り返し単位(2-1)との割合(繰り返し単位(1-1):繰り返し単位(2-1))が、モル比で85:15~55:45の範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項10】
ASTM D3418に準じて、20℃/分の昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/分の降温条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより示差走査熱量測定を行ったときに、測定を開始してから2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が30J/g以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項11】
前記結晶化温度(Tc)が220℃以上である、請求項1~10のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【請求項12】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法であり、
フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分を、溶媒中でルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と10℃以上で1時間以上反応させた後に、下記一般式(3-1)で表されるジフェニルエーテル(3-1)を添加して反応させることを含み、
前記ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、
GPC換算の数平均分子量Mnが6000以上16000未満であり、
前記数平均分子量Mnに対するGPC換算の重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnが2.5以下であり、
樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上である
ことを特徴とする、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化3】
【請求項13】
前記フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分が、下記一般式(1-2)で表されるテレフタロイル骨格を有するモノマー(1-2)を含み、さらに下記一般式(2-2)で表されるイソフタロイル骨格を有するモノマー(2-2)を含んでいてもよいモノマー成分である、請求項12に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化4】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。)
【化5】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。)
【請求項14】
前記ルイス酸が塩化アルミニウムである、請求項12又は13に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【請求項15】
前記ブレンステッド酸無水物触媒がトリフルオロ酢酸無水物である、請求項1214のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【請求項16】
前記溶媒が、o-ジクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリフルオロメタンスルホン酸、又はトリフルオロ酢酸である、請求項1215のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項18】
請求項1~11のいずれか1項に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂、又は請求項17に記載の組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂、その製造方法、及びポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含む成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(以下、PAEK樹脂と略称することがある)は、耐熱性、強靭性に優れ、高温環境下で連続使用可能なスーパーエンジニアリングプラスチックとして、自動車部品から航空機部材等の輸送機器類だけでなく、医療用部品、繊維等の幅広い用途実績がある。特に耐薬品性に優れていることから、洗浄工程の多い半導体分野での使用に適すること、さらには自己消火性にも優れニートレジンの状態でも難燃性(V-0相当)であることから、電気・電子材料用途にも多く利用されている。
また、機械的特性に優れたPAEK樹脂またはPAEK樹脂を含むポリマー組成物として、特許文献1、2が知られている。
【0003】
従来のPAEK樹脂の製造方法は、(a)芳香族求電子置換反応を用いた手法と(b)芳香族求核置換反応を用いた手法に大別されることが知られている。
(a)の手法として、例えば、特許文献3には、テレフタル酸ジクロリドとジフェニルエーテルの二種のモノマーを用い、o-ジクロロベンゼン中でルイス酸を作用させることによる芳香族求電子置換型の重縮合反応により、ポリエーテルケトンケトン樹脂(以下、PEKK樹脂と略称することがある)を製造する方法が開示されている。
また、特許文献4には、芳香族ジカルボン酸又はその誘導体と、芳香族エーテル骨格又は芳香族チオエーテル骨格をもつ化合物との混合物に、溶媒中でpKa=0以下の酸無水物を作用させることによる芳香族求電子置換型の重縮合反応により、PAEK樹脂を製造する方法が開示されている。
また、例えば、特許文献5には、テレフタル酸ジクロリドとジフェニルエーテルの二種のモノマーを用い、無機ルイス酸を作用させることによる芳香族求電子置換型の重縮合反応により、ポリエーテルケトンケトン樹脂を製造する方法が開示されている。
(b)の手法として、特許文献6には、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンの二種のモノマーを用い、ジフェニルスルホン中で炭酸カリウムを作用させる芳香族求核置換型の重縮合反応により、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下、PEEK樹脂と略称することがある)を製造する方法が開示されている。
また、例えば、特許文献7には、1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンまたは1,3-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンと、1,4-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼンまたは1,3-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼンとをアルカリ金属炭酸塩存在下で塩化リチウムを任意で加え、室温大気圧下では融点以下であるジフェニルスルホンなどの溶媒中で、芳香族求核置換型の重縮合反応により、ポリエーテルケトンケトン樹脂を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/142942号
【文献】特表2019-524943号公報
【文献】特開2020-520360号公報
【文献】特開2020-143262号公報
【文献】米国特許第3065205号明細書
【文献】特開昭54-090296号公報
【文献】特開2020-502325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の合成手法では、高分子量で、かつ狭い分子量分布の特徴を両立したPAEK樹脂を合成することは困難であった。
また、従来のPAEK樹脂では、広い分子量分布に由来する低分子量成分の影響により、高温加熱時にアウトガスが発生する。アウトガスが発生すると、金型成形した際に成形品に気泡が混ざり、外観が悪化したり、成形品を高温で使用した際に周囲の金属や電子部品などを汚染(酸化)し、変色・変質の原因となったりする。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであって、高分子量であり、分子量分布が狭く、成形加工性及び強度に優れるPAEK樹脂及びその製造方法、並びに前記PAEK樹脂を含み、高温加熱時のアウトガスの発生が少ない成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)GPC換算の数平均分子量Mnが6000以上16000未満であり、前記数平均分子量Mnに対するGPC換算の重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnが2.5以下であり、樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上であり、ASTM D3418に準じて、20℃/分の昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/分の降温条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより示差走査熱量測定を行ったときに、測定を開始してから2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融点(Tm)、結晶化温度(Tc)が、60℃≦(Tm-Tc)≦100℃の関係を満たすことを特徴とする、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
(2)前記数平均分子量Mnが6000以上13000未満であり、前記分子量分布Mw/Mnが2.4以下である、(1)に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
(3)下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位(1-1)を含み、さらに下記一般式(2-1)で表される繰り返し単位(2-1)を含んでいてもよく、前記繰り返し単位(1-1)と、前記繰り返し単位(2-1)との割合(繰り返し単位(1-1):繰り返し単位(2-1))が、モル比で100:0~50:50の範囲である、(1)又は(2)に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
【化1】
【化2】
)ガラス転移温度が140℃以上であり、かつ融点が300℃以上である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
)フッ素原子の含有量が1500質量ppm以下である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
)GPC測定で得られた微分分子量分布曲線において、分子量の対数値logM(Mは分子量)が3.4以下である部分の面積の、曲線全体の面積に対する割合が8%未満である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
)引張破断強度が、110~145MPaである、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
)シャルピー衝撃強度が、5kJ/m以上である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
)前記繰り返し単位(1-1)と、前記繰り返し単位(2-1)との割合(繰り返し単位(1-1):繰り返し単位(2-1))が、モル比で85:15~55:45の範囲である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
10)ASTM D3418に準じて、20℃/分の昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/分の降温条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより示差走査熱量測定を行ったときに、測定を開始してから2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が30J/g以上である、(1)~()のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
11)前記結晶化温度(Tc)が220℃以上である、(1)~(10)のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂。
12)ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法であり、
フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分を、溶媒中でルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と10℃以上で1時間以上反応させた後に、下記一般式(3-1)で表されるジフェニルエーテル(3-1)を添加して反応させることを含み、
前記ポリアリーレンエーテルケトン樹脂は、
GPC換算の数平均分子量Mnが6000以上16000未満であり、
前記数平均分子量Mnに対するGPC換算の重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnが2.5以下であり、
樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上である
ことを特徴とする、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化3】
13)前記フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分が、下記一般式(1-2)で表されるテレフタロイル骨格を有するモノマー(1-2)を含み、さらに下記一般式(2-2)で表されるイソフタロイル骨格を有するモノマー(2-2)を含んでいてもよいモノマー成分である、(12)に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
【化4】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。)
【化5】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子又はヒドロキシ基である。)
14)前記ルイス酸が塩化アルミニウムである、(12)又は(13)に記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
15)前記ブレンステッド酸無水物触媒がトリフルオロ酢酸無水物である、(12)~(14)のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
16)前記溶媒が、o-ジクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリフルオロメタンスルホン酸、又はトリフルオロ酢酸である、(12)~(15)のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂の製造方法。
17)(1)~(11)のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を含むことを特徴とする、組成物。
18)(1)~(11)のいずれかに記載のポリアリーレンエーテルケトン樹脂、又は(17)に記載の組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、高分子量で、かつ狭い分子量分布であり、成形加工性及び強度に優れるPAEK樹脂及びその製造方法、並びに該PAEK樹脂を含み、高温加熱時のアウトガスの発生が少ない成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明はその要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0010】
<ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)>
本実施形態のPAEK樹脂は、GPC換算の数平均分子量Mnが6000以上16000未満であり、前記数平均分子量Mnに対するGPC換算の重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnが2.5以下であり、樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上であることを特徴とする。
本実施形態の狭い分子量分布を有するPAEK樹脂は、広い分子量分布を有するPAEK樹脂と比較して、色調が向上しており、成形品とした際の汎用性が高い。また、本実施形態PAEK樹脂は、分子量分布が狭いことから低分子量成分の含有率が低くなり、結晶化しやすくなり、高温加熱時に低分子量の成分が揮発することに伴うアウトガスの発生が低減される。また、分子量分布が狭いことから同時に高分子量成分の含有率も低くなり、成形加工性も向上する。
【0011】
また、本実施形態のPAEK樹脂は、下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位(1-1)を有することが好ましく、さらに下記一般式(2-1)で表される繰り返し単位(2-1)を有していてもよい。本実施形態のPAEK樹脂は、繰り返し単位(1-1)のみからなる樹脂、又は繰り返し単位(1-1)及び繰り返し単位(2-1)のみからなることがより好ましい。
【化6】
【化7】
【0012】
本実施形態のPAEK樹脂は、繰り返し単位(1-1)を含む構造、又は繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)の組み合わせを含む構造(好ましくは、繰り返し単位(1-1)のみからなる構造、又は繰り返し単位(1-1)及び繰り返し単位(2-1)のみからなる構造)に対して、下記一般式(7-1)、(7-2)、(7-3)、又は(7-4)で表される末端基Eを含む構造が好ましい。
【化8】
(式中、Aは、繰り返し単位(1-1)を含む構造、又は繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)の組み合わせを含む構造であってもかまわなく、nは1以上の整数である。)
【化9】
(式中、Aは、繰り返し単位(1-1)を含む構造、又は繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)の組み合わせを含む構造であってもかまわなく、nは1以上の整数である。)
【化10】
(式中、Aは、繰り返し単位(1-1)を含む構造、又は繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)の組み合わせを含む構造であってもかまわなく、nは1以上の整数である。)
【化11】
(式中、Aは、繰り返し単位(1-1)を含む構造、又は繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)の組み合わせを含む構造であってもかまわなく、nは1以上の整数である。)
【0013】
一般式(7-1)、(7-2)、(7-3)、及び(7-4)中の左右2つのEは、それぞれ同一であっても異なってもよく、それぞれ一価の置換基として選択され、例えば、下記一般式(7-5)で表される置換基及び下記一般式(7-6)で表される置換基からなる群から選択され得る。
【化12】
一般式(7-5)中、nは0~5の整数であり、Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、-COOR、-()、-SO、および炭素数1~20でかつプロトン性置換基を含まない炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、水素原子の一部もしくは全部を構成元素とする原子団から選択されるアルキル基または置換アリール基である。Rは一価の置換基であり、水素原子または炭素数1~20でかつプロトン性置換基を含まない炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、水素原子の一部もしくは全部を構成元素とする原子団から選択されるアルキル基または置換アリール基である。
の置換位置は、いずれの組み合わせでもよいが、一般式(7-5)中のカルボニル炭素-芳香環炭素の単結合周りでの回転を考えた際にC対称となる組み合わせが好ましい。
なお、本開示で、プロトン性置換基とは、例えば、水酸基やアルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)、第一級または第二級アミン基等を指す。
の置換位置は、いずれの組み合わせでもよいが、一般式(7-5)中のカルボニル炭素-芳香環炭素の単結合周りでの回転を考えた際にC対称となる組み合わせが好ましい。
【化13】
一般式(7-6)中、mは0~4の整数、lは0~5の整数であり、Xは酸素原子、硫黄原子、-CH-、又は1,4-ジオキシベンゼン単位であり、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、-COOR、-SO、-SO、および炭素数1~20でかつプロトン性置換基を含まない炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、水素原子の一部もしくは全部を構成元素とする原子団から選択されるアルキル基または置換アリール基である。Rは一価の置換基であり、水素原子または炭素数1~20でかつプロトン性置換基を含まない炭素原子、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、水素原子の一部もしくは全部を構成元素とする原子団から選択されるアルキル基または置換アリール基である。
およびRの置換位置は、いずれの組み合わせでもよいが、一般式(7-6)中の芳香環炭素-X間の単結合周りでの回転を考えた際にC対称となる組み合わせが好ましい。
なお、本開示で、プロトン性置換基とは、例えば、水酸基やアルデヒド基(-CHO)、カルボキシル基(-COOH)、第一級または第二級アミン基等を指す。
【0014】
式(7-1)、(7-2)、(7-3)、及び(7-4)中の左右2つのEは、それぞれ本実施形態のPAEK樹脂を用いる用途によってその適否は異なり、本例示をもってその選択肢が制限されることはない。
例えば、本実施形態のPAEK樹脂の熱的な安定性や加熱時のガス発生またはいかなる熱時反応による繰り返し単位内に構造変化をもたらすような反応性を考慮する場合には、Eは、一般式(7-5)で表される置換基の中でもRがカルボキシル基(-COOH)を含まない原子または原子団から選択される置換基及び一般式(7-6)で表される置換基が好ましく、より好ましくは一般式(7-5)で表される置換基の中でもRがカルボキシル基(-COOH)及びスルホ基(-SOH)を含まない原子または原子団から選択される。
また、本実施形態のPAEK樹脂を他の樹脂や素材との、共有結合や単一もしくはいかなる組み合わせの分子間相互作用を介した組み合わせでの使用を考慮する場合には、Eは一般式(7-5)で表される置換基の中でもRがカルボキシル基(-COOH)またはスルホ基(-SOH)を含む原子または原子団から選択されることが好ましい。
【0015】
本実施形態のPAEK樹脂は、剛直な繰り返し単位(1-1)と柔軟な繰り返し単位(2-1)との割合(例えば、モル割合)を適宜選択することにより、高い結晶化度を維持したまま融点(以下、結晶融点とも称する)(Tm)を調整することが可能であり、良好な成形加工性を発現させられる。
繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合(繰り返し単位(1-1):繰り返し単位(2-1))は、モル比で100:0~50:50の範囲であることが好ましく、90:10~55:45の範囲であることがより好ましく、85:15~60:40の範囲であることがさらに好ましく、85:15~65:35の範囲であることが特に好ましい。上記モル割合の範囲内で、繰り返し単位(1-1)のモル割合を大きくしていくと、ガラス転移温度(Tg)、結晶化度及び融点(Tm)を高くすることが可能で、耐熱性に優れたPAEK樹脂を得ることができる。また、上記モル割合の範囲内で、繰り返し単位(1-1)のモル割合を小さくしていくと、融点(Tm)を比較的低温に調節することができ、成形加工性に優れるPAEK樹脂とすることができる。
本実施形態のPAEK樹脂は、繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を適宜最適化すること、特定の範囲の数平均分子量Mnに重合度を調整することで、耐熱性と成形加工性及び成形品の強度に優れるPAEK樹脂とすることができる。
【0016】
本実施形態のPAEK樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で繰り返し単位(1-1)及び繰り返し単位(2-1)以外の他の繰り返し単位を含んでいてもよい。他の繰り返し単位を含む場合、繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)と他の繰り返し単位との合計を100モル%として、他の繰り返し単位は50モル%以下であることが好ましい。
【0017】
本実施形態のPAEK樹脂の数平均分子量Mnは、6000以上16000未満であり、6000~15500であることが好ましく、より好ましくは6000~15000、さらに好ましくは7000~14000、特に好ましくは8000以上13000未満である。
数平均分子量が上記上限値以下であることにより、成形時に適切な流動性となり加工性に優れる。また、上記下限値以上であることにより、強度等の機械的特性に優れる成形品を得ることができる。
また、本実施形態のPAEK樹脂の数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比率で表される分子量分布Mw/Mnは、2.5以下であり、1.2~2.5であることが好ましく、より好ましくは1.3~2.4、さらに好ましくは1.3~2.2、特に好ましくは1.4~1.9である。
分子量分布が上記範囲であることにより、強度等の機械的特性に優れる成形品を得ることができる。
なお、数平均分子量及び重量平均分子量は、GPCを用いて測定される値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0018】
本実施形態のPAEK樹脂は、GPC測定で得られた微分分子量分布曲線(微分分子量分布のグラフ)において、横軸である分子量の対数値logM(Mは分子量)が3.4以下である部分(低分子量成分の部分)の面積の、曲線全体(グラフ全体)の面積に対する割合が8%未満であることが好ましく、より好ましくは6%以下、さらに好ましくは4%以下である。また、下限は特に限定されず、0%以上としてよく、0.1%以上であってもよい。logMが3.4以下である部分の面積の割合が上記範囲であると、低分子量成分の含有率が低く、高温加熱時に低分子量の有機成分が揮発することに伴うアウトガスの発生が低減される。また、結晶化しやすくなる。
なお、上記logMが3.4以下である部分の面積の割合は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
本実施形態のPAEK樹脂の固有粘度は、0.58~3.00dL/gであることが好ましく、より好ましくは0.6~2.80dL/gであり、特に好ましくは0.62~2.7dL/gである。PAEK樹脂は、固有粘度が上記上限値以下であると、成形加工性に優れる傾向にある。
なお、固有粘度は、及び96%HSO中のPAEK樹脂の0.5質量/体積%溶液を試験溶液として使用し、試験温度30℃でASTM D2857に従って測定される値である。
【0020】
本実施形態のPAEK樹脂のガラス転移温度(Tg)は、120~190℃であることが好ましく、より好ましくは122~188℃、さらに好ましくは125~185℃、さらにより好ましくは127~175℃、よりさらに好ましくは130~170℃、特に好ましくは135~170℃、最も好ましくは140~170℃である。
上記ガラス転移温度は、例えば、繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を適宜選択することで、調整することができる。
なお、ガラス転移温度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0021】
本実施形態のPAEK樹脂の融点(Tm)は、250~400℃であることが好ましく、より好ましくは260~390℃、さらに好ましくは270~390℃、よりさらに好ましくは300~390℃、さらにより好ましくは300~385℃、特に好ましくは310~385℃である。
上記融点は、例えば、繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を適宜選択することで、調整することができる。
なお、融点は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0022】
本実施形態のPAEK樹脂の結晶化温度(Tc)は、220~310℃であることが好ましく、より好ましくは220~305℃、さらに好ましくは220~300℃である。
上記結晶化温度(Tc)は、例えば、上述のように繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を適宜選択することで、調整することができる。
なお、結晶化温度(Tc)は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0023】
本実施形態のPAEK樹脂は、結晶融点(Tm)と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)が100℃以下であることが好ましく、98℃以下であることがより好ましく、96℃以下であることがさらに好ましく、91℃以下であることが最も好ましい。
結晶融点(Tm)に対して結晶化温度(Tc)が近接しているため耐熱性が高く、成形品にしたときにリフロー後の寸法安定性に優れるため好ましい。
また、発明者らが鋭意検討した結果、Tm-Tcを100℃以下とすることで、耐薬品性に優れるPAEK樹脂となることが判明した。この理由は定かではないが、以下のように推測される。すなわち、Tm-Tcは結晶化速度を意味するところ、結晶化速度が早いということは、本実施形態のPAEK樹脂の結晶構造が既存のPAEK樹脂と異なっており、この効果によって耐薬品性にすぐれるものと推測される。
【0024】
また、本実施形態のPAEK樹脂の結晶融点(Tm)と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)は60℃以上であることが好ましく、62℃以上であることがより好ましく、64℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることがさらにより好ましく、74℃以上であることが特に好ましい。
(Tm-Tc)が60℃以上であると、成形品にしたときにヒケなどが生じず、成形性優れるため好ましい。また、(Tm-Tc)が64℃以上であると、成形性を保持しながら成形加工時のインジェクションサイクルタイムが短縮され、成形品の生産性に優れるため、より好ましく、(Tm-Tc)が70℃以上であると、一層成形性を保持しながら成形加工時のインジェクションサイクルタイムが短縮され、成形品の生産性に優れるため、さらに好ましく、(Tm-Tc)が74℃以上であると特に好ましい。
【0025】
上記結晶融点(Tm)と結晶化温度(Tc)との差(Tm-Tc)は、例えば、PAEK樹脂中の微量元素(Al、F、Cl等)の量を調整することで調整することができ、微量元素の含有量が多いほど(Tm-Tc)が大きくなる傾向にある。
【0026】
本実施形態のPAEK樹脂の結晶化度は、23~50%であることが好ましく、より好ましくは23~48%、さらに好ましくは23~46%である。
上記結晶化度は、例えば、上述のように繰り返し単位(1-1)と繰り返し単位(2-1)との割合を適宜選択することで、調整することができる。
なお、結晶化度は、ASTM D3418に準じて、20℃/分の昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/分の降温条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより示差走査熱量測定を行ったときに、測定を開始してから2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融解エンタルピー変化ΔHを用いて、下記式により算出される値である。
結晶化度(%)=ΔH/ΔHc×100
(式中、ΔHはPAEK樹脂の結晶融解エンタルピー変化であり、ΔHcはPEEK樹脂の完全結晶の融解熱量である130J/gを用いる。)
【0027】
本実施形態のPAEK樹脂の結晶融解エンタルピー変化(ΔH)は30~65J/gであることが好ましく、より好ましくは30~63J/g、さらに好ましくは30~60J/gである。
上記結晶融解エンタルピー変化(ΔH)は、例えば、PAEK樹脂中の微量元素(Al、F、Cl等)の量を調整することで調整することができ、微量元素の含有量が多いほどΔHが小さくなる傾向にある。
なお、結晶融解エンタルピー変化(ΔH)は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0028】
本実施形態のPAEK樹脂は、樹脂中に含まれる全繰り返し単位が、繰り返し単位中のケトン基が9.5モル%以上かつエーテル基が4.5モル%以上である。
本実施形態のPAEK樹脂は、樹脂中に含まれる全繰り返し単位中のケトン基数量とエーテル基数量が上記範囲を満たすことで、強度等の機械的特性に優れる成形品を得ることができる。
【0029】
本実施形態のPAEK樹脂100質量%中の、Al原子の含有量は、100質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは90ppm以下、さらに好ましくは80ppm以下である。Al原子の含有量が上記範囲であると、Tm-Tcを前述の特定の範囲に調整しやすい傾向にある。これは、微量のAl元素が結晶核となり、結晶化温度(Tc)に影響を及ぼすためと考えられる。
なお、Al原子の含有量は、約0.1gのPAEK樹脂試料をテトラフルオロメタキシール(TFM)製分解容器に精秤し、硫酸及び硝酸を加えて、マイクロウェーブ分解装置で加圧酸分解を行い、得られた分解液を50mLに定容して、ICP-MS測定を行うことによって測定することができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0030】
本実施形態のPAEK樹脂100質量%中の、フッ素原子の含有量は、1500質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、最も好ましくは200ppm以下である。フッ素原子の含有量が上記範囲であると、高温加熱時に残留成分が揮発することに伴うアウトガスの発生が低減されるとともに成形品の色調が改善される傾向にある。
また、フッ素原子の含有量は、1ppm以上であることが好ましく、より好ましくは10ppm以上である。フッ素原子の含有量が上記範囲であると、PAEK樹脂の繰り返し単位中の芳香環に由来する反応性が低下し、熱成形時に分岐構造を形成する割合が低下する傾向にある。
なお、フッ素原子の含有量は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0031】
本実施形態のPAEK樹脂100質量%中の、塩素原子の含有量は、1500質量ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下、特に好ましくは100ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。塩素原子の含有量が上記範囲であると、高温加熱時に残留成分が揮発することに伴うアウトガスの発生が低減されるとともに成形品の色調が改善される傾向にある。
なお、塩素原子の含有量は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)の製造方法)
本実施形態のPAEK樹脂の製造方法は、以下に限定されるものではないが、例えば、フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分を、溶媒中でルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と10℃以上で1時間以上反応させた後に、下記一般式(3-1)で表されるジフェニルエーテル(3-1)を添加して反応させる方法(以下、製造方法(I)と称する場合がある)が好ましい。
ルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒によって求電子性が向上するモノマーは、その種類によっては溶媒に対する溶解性が低く、特許文献1及び2に記載されるような従来の合成手法では、モノマーの求電子性が向上しながら逐次的に求核剤となるモノマーが反応する。その結果、不均一に全体の反応が進行し、数平均分子量Mnが大きなPAEK樹脂を合成しようとすると、分子量分布が広くなってしまう。これに対し、製造方法(I)では、まず初めに、ルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と上記モノマー成分とを10℃以上で1時間以上反応させることにより反応器内のモノマー種全体で求電子性を向上させ、そこに求核剤となるジフェニルエーテル(3-1)を添加する、即ち、ルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と上記モノマー成分とを、ジフェニルエーテル(3-1)を含まない状態で反応させて求電子性を向上させておくことで、反応速度が均一となり、高分子量で、かつ分子量分布が狭いPAEK樹脂を製造することができる。
また、例えば、特許文献7に記載されるような求核置換反応による合成方法では、二種類以上の求核置換反応活性モノマーを室温大気圧下では融点以下であるジフェニルスルホンなどの溶媒を用い、アルカリ金属炭酸塩を加えて徐々に溶媒の融点以上に加熱しながら重合することが知られている。しかしながら、重合反応を開始させる為に加熱しても、該溶媒は室温大気圧下では融点以下であるため、溶媒の融点以上に達するまでの間は求核置換反応活性モノマーは一般的な溶液反応で示すような反応性を示さず、溶媒の融点以上に達して初めて求核置換反応活性モノマーが溶解し、重合反応を開始する。そのため、溶媒が溶融した直後のモノマー濃度は高くなり、かつ溶媒融点以上に加熱されているために直ちに重合反応が進行し、オリゴマーや低分子量の重合生成物、もしくはそれよりも重合度の高いポリマーが無秩序に生成する。あるいは、このような求核置換反応による合成法を実施する上で、一種類の求核置換反応活性モノマー(例えば、モノマーが複数の反応性官能基として水酸基などのプロトン性官能基を有するもの)を含む第一のモノマーにアルカリ金属炭酸塩とともにジフェニルスルホンなどを加え、ジフェニルスルホンの融点以上にあらかじめ加熱攪拌してから、第一のモノマーと反応性が対となる一種類以上の求核置換反応活性モノマーを含む第二のモノマー(例えば、モノマーが複数の反応性官能基としてクロロ基やフルオロ基などのハロゲン基や、トリフラートなどの擬ハロゲン基を有するもの)、またはさらに追加で第一のモノマーを固体のまま複数回に分けて添加する方法が知られる。この場合、第一のモノマーと第二のモノマー、または初めに添加した第一のモノマーと後から追加した第一のモノマーが反応して新たに一つの共有結合を生じることで、重合反応としてポリマーが高分子量化する。しかし、上述したように固体のまま複数回に分けて添加する場合には、上記の高分子量化がさらに進む反応だけでなく、新たに加えたモノマー同士の反応により低分子量成分が生じる。そのため、結果として高分子量成分中に低分子量成分が残留する。さらにこれらの求核置換反応時には、ポリマー鎖の末端基が同一分子鎖内で反応した大環状分子を与えることもあり、これらの重合生成物を同時に与えるように進行する。さらには、一般的に溶質分子の分子量と溶媒への溶解度には関係性が有ると認識される。すなわち、モノマー単位を溶かす溶媒中に、類似の分子骨格を有する高分子量体を溶解させることを考えた場合には、より分子量の高い分子ほど溶解しづらい傾向にある。これは高分子量体ほど低分子量体と比較して分子の体積に対する比表面積が減少し、溶媒分子の溶媒和を受けづらくなることに起因する。これによって、高分子量体は溶媒和を受けづらく、反応系中で析出しやすくなる。そのため、分子量分布は広くなってしまう傾向にある。加えて、上記の第一のモノマーと第二のモノマーとを用いた反応では、第一のモノマーと第二のモノマーによって生じる共有結合のモル数と同モル数のアルカリ金属ハロゲン化物(あるいは擬ハロゲン化物)が生じる。アルカリ金属炭酸塩は第一のモノマーおよび第二のモノマーと反応することで速やかに二酸化炭素を放出して消費され、反応溶液中での濃度は低下するが、アルカリ金属ハロゲン化物(あるいは擬ハロゲン化物)の反応溶液中での濃度は重合反応が進行するほどに高濃度となる。そのため、反応がある程度進行すると、上記理由で溶媒和を受けにくい高分子量体は、溶媒が過飽和状態を迎えることで析出しやすくなり、分子量分布は広くなってしまう傾向にある。上記のように反応系中から析出する際には高分子量成分は低分子量成分を包摂あるいは共結晶として含むため、分子量分布が狭く、低分子量成分の含有率が低いPAEK樹脂を製造する目的には不適である。一方で、このような析出を抑える目的で溶媒量を増やすことでの希釈効果が一般的手法として考えられるが、反応効率低下により高分子量体を得る目的の達成には適さず、上記ポリマー鎖の末端基が同一分子鎖内で反応した大環状分子を与えることがある。また、同時に反応時間を増加させることで反応効率を向上させることが一般的手法として考えられるが、上記ポリマー鎖の末端基が同一分子鎖内で反応した大環状分子を与える機会を増加せる為、高分子量で分子量分布が狭く、低分子量成分の含有率が低いPAEK樹脂を製造する目的には不適である。
【0033】
本実施形態において、上記フタロイル骨格を有するモノマーを含むモノマー成分は、下記一般式(1-2)で表されるテレフタロイル骨格を有するモノマー(1-2)を含み、さらに下記一般式(2-2)で表されるイソフタロイル骨格を有するモノマー(2-2)を含んでいてもよいモノマー成分であることが好ましい。
【化14】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)又はヒドロキシ基である。)
【化15】
(式中のRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子等)又はヒドロキシ基である。)
【化16】
【0034】
他にも、例えば、上記一般式(1-2)で表されるテレフタロイル骨格を有するモノマー(1-2)と上記一般式(3-1)で表されるジフェニルエーテル(3-1)とを含み、さらに上記一般式(2-2)で表されるイソフタロイル骨格を有するモノマー(2-2)を含んでいてもよいモノマー成分を、大量の溶媒中でルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒と反応させる方法(以下、製造方法(II)と称する場合がある)を実施してもよい。大量の溶媒を用いることで、モノマー成分の溶解性を向上させることができ、反応性が改善する。その結果、分子量分布の狭いPAEK樹脂を得ることができる。
【0035】
本発明のPAEK樹脂は、高分子量で、かつ狭い分子量分布であるという特徴を有しており、その実現には、製造方法(I)と製造方法(II)の他に、適切な反応時間を選択したり、溶媒に対する溶解性の高いモノマーを選択したりする手法も有効である。
【0036】
本実施形態のPAEK樹脂の製造方法(I)及び製造方法(II)は、溶液中でのフリーデルクラフツ反応型の芳香族求電子置換重縮合反応であることが好ましい。上記芳香族求電子置換重縮合反応であることにより、他の重合条件よりも比較的温和な重合条件で反応させることができる。
【0037】
製造方法(I)におけるモノマー成分とルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒との反応温度は、10~40℃であることが好ましく、15~40℃であることがより好ましい。
また、製造方法(I)におけるジフェニルエーテル(3-1)の添加後の反応温度、及び製造方法(II)における反応温度は、30~100℃であることが好ましく、40~90℃であることがより好ましく、40~80℃であることがさらに好ましい。反応温度を30℃以上とすることで、得られるポリマーはそれぞれ溶解度が低くなりにくく、析出しにくくなり、反応が途中で止まりにくい。その結果、反応が均一に進行し、分子量分布が狭いPAEK樹脂を得ることができる。また、反応温度を100℃以下とすることで、分子量が過剰に向上することを防ぐことができる。また、ゲルの発生等を含む過剰な分岐反応を抑えることもできる。
【0038】
製造方法(I)におけるモノマー成分とルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒との反応時間は、1~6時間であることが好ましく、1~4時間であることがより好ましい。反応時間を上記範囲とすることにより、モノマー成分とルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒との反応により求電子性の向上した溶液を作製することができ、求核剤となるジフェニルエーテル(3-1)との反応速度が均一となるため、高分子量で、かつ分子量分布が狭いPAEK樹脂を製造することができる。
また、製造方法(I)におけるジフェニルエーテル(3-1)の添加後の反応時間、及び製造方法(II)における反応時間は、0.5~100時間であることが好ましく、0.5~50時間であることがより好ましく、1~50時間であることがさらに好ましい。反応時間を上記範囲とすることにより、反応溶液が均一のまま重合することができる。その結果、高分子量で、分子量分布が狭いPAEK樹脂を得ることができる。
【0039】
ルイス酸とは、その錯体を包含する概念として定義される。例えば、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、塩化第二鉄、四塩化スズ、五塩化アンチモン等のハロゲン化金属、三フッ化ホウ素エーテル錯体等のハロゲン化金属の錯体、及び有機基を有するハロゲン化金属錯体等のルイス酸触媒が挙げられる。
また、ブレンステッド酸無水物触媒としては、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、ノナフルオロブタンスルホン酸無水物、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸無水物、ベンゼンスルホン酸無水物、p-トルエンスルホン酸無水物、モノフルオロ酢酸無水物、ジフルオロ酢酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物、トリクロロ酢酸無水物、クロロジフルオロ酢酸無水物、ペンタフルオロプロピオン酸無水物、ヘプタフルオロ酪酸無水物等が挙げられる。
上記ルイス酸又はブレンステッド酸無水物触媒は、一種を単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0040】
重合反応のための好ましい溶媒は、例えば、テトラクロロエチレン、1,2,4-トリクロロベンゼン、o-ジフルオロベンゼン、2-ジクロロエタンジクロロベンゼン、1,1,2,2,2-テトラクロロエタン、o-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、テトラクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、シクロヘキサン、二硫化炭素、ニトロメタン、ニトロベンゼン、HF等が挙げられる。他にも、有機スルホン酸を用いてもよく、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸、ヘプタデカフルオロオクタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0041】
上記溶媒の有機スルホン酸と上記ブレンステッド酸無水物触媒との添加量の割合は、モル比で[有機スルホン酸]:[ブレンステッド酸無水物触媒]=100:95~100:5の範囲であることが好ましく、100:90~100:10の範囲であることがより好ましい。
【0042】
上記溶媒の有機スルホン酸及び上記ブレンステッド酸無水物触媒の合計の添加量と、モノマー(1-2)、モノマー(2-2)及びジフェニルエーテル(3-1)の合計の添加量との割合は、モル比で、[有機スルホン酸及びブレンステッド酸無水物触媒の合計]:[モノマー(1-2)、モノマー(2-2)及びジフェニルエーテル(3-1)の合計]=100:95~100:1の範囲であることが好ましく、100:90~100:2の範囲であることがより好ましい。
【0043】
上記製造方法(I)において、上記モノマー成分に加えオリゴマー成分を添加してもよい。上記オリゴマー成分としては、一般式(1-1)で表される繰り返し単位又は一般式(1-2)で表される繰り返し単位を含むオリゴマーが好ましく、下記一般式(8-1)で表されるオリゴマー、下記一般式(8-2)で表されるオリゴマー、下記一般式(8-3)で表されるオリゴマー、下記一般式(8-4)で表されるオリゴマーがより好ましい。上記オリゴマー成分は、一種を単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0044】
上記製造方法(I)において、例えば、モノマー(1-2)と、ジフェニルエーテル(3-1)と、下記一般式(8-1)で表されるオリゴマー及び/又は下記一般式(8-2)で表されるオリゴマーとを、上記有機スルホン酸と上記ブレンステッド酸無水物触媒の存在下で反応させることによっても製造することができる。
あるいはモノマー(1-2)と、ジフェニルエーテル(3-1)と、下記一般式(8-3)で表されるオリゴマー及び/又は下記一般式(8-4)で表されるオリゴマーとを、上記有機スルホン酸と上記ブレンステッド酸無水物触媒の存在下で反応させることによっても製造することができる。
【化17】
(式中、nは0~5までの整数である。)
【化18】
(式中、nは0~5までの整数である。)
【化19】
(式中、nは0~5までの整数である。)
【化20】
(式中、nは0~5までの整数である。)
【0045】
オリゴマー成分を用いる製造方法も、溶液中でのフリーデルクラフツ反応型の芳香族求電子置換重縮合反応であることが好ましい。上記芳香族求電子置換重縮合反応であることにより、比較的温和な重合条件で反応させることができる。
【0046】
さらに、本実施形態の狭い分子量分布を有するPAEK樹脂は、従来手法で合成された広い分子量分布を有するPAEK樹脂と比較して、色調が向上しており、成形品とした際の汎用性が高い。
【0047】
本実施形態のPAEK樹脂は、引張破断強度が110~145MPaであることが好ましく、より好ましくは115~140MPa、さらに好ましくは120~135MPaである。引張破断強度が上記範囲であると、強度の高い成形品を得ることができる。
なお、引張破断強度は、ISO527-1及びISO527-2に準拠して23℃で測定される値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0048】
本実施形態のPAEK樹脂は、シャルピー衝撃強度が5kJ/m以上であることが好ましく、より好ましくは6kJ/m以上、さらに好ましくは7kJ/m以上である。シャルピー衝撃強度が上記範囲であると、耐衝撃性の強い成形品を得ることができる。
なお、シャルピー衝撃強度は、ISO179-1及びISO179-2に準拠して23℃で測定される値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0049】
本実施形態のPAEK樹脂は、アウトガス量の指標となる熱重量減少率が1.5%以下であることが好ましく、より好ましくは1.3%以下、さらに好ましくは1.1%以下である。熱重量減少率が上記範囲であると、アウトガスの発生量が少なく、外観が良好な成形品を得ることができる。
なお、熱重量減少率は、熱重量測定装置(TGA)を用いて測定される値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0050】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含む組成物)
本実施形態の組成物は、上述の本実施形態のPAEK樹脂を含む。
本実施形態の組成物100質量%中の上述の本実施形態のPAEK樹脂の質量割合としては、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0051】
本実施形態の組成物は、さらに添加剤を含んでいてもよい。上記添加剤としては、2,4,8,10-テトラ(tert-ブチル)-6-ヒドロキシ―12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン 6-オキシドナトリウム塩(CAS番号:85209-91-2)、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビスホスホナイト(119345-01-6)などが挙げられるが、これらのみに限定されるものではない。
本実施形態の組成物100質量%中の添加剤の質量割合としては、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0052】
(ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK樹脂)を含む成形品)
本実施形態のPAEK樹脂は、高分子量であり、かつ分子量分布が狭いため、成形品とした際に機械的特性に優れる。さらに、耐熱性に優れ、高いガラス転移温度(Tg)を有するとともに、高い結晶性を保持したまま融点(Tm)を調整することが可能であり、良好な成形加工性を有する。
本実施形態のPAEK樹脂は、ニートレジンとしての使用の他にも、ガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維、フッ素樹脂等をコンパウンドして複合材料としての使用が可能である。
本実施形態のPAEK樹脂は成形加工することで、ペレット、フィルム、ロッド、ボード、フィラメント、ファイバー等の一次加工品や、各種射出成形品あるいは切削加工品により、例えば、ギア、コンポジット、インプラント、フィルター、3Dプリント成形品、自動車・航空機の部品等の二次加工品とすることができる。また、電気電子材料や、健康・安全上を考慮する必要が特に高い医療用部材等での利用も可能である。
【実施例
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細をさらに述べるが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
〈実施例A、参考例A及び比較例A〉
実施例A1~A5、A7~A11、参考例A6及び比較例A1~A8で用いた評価方法は以下のとおりである。
【0055】
(評価)
[数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂について、東ソー株式会社製GPC装置(HPLC8320)を使用し、装置コントロールソフトにはHLC-83220GPC EcoSEC System Control Version1.14を、検出器には同装置標準装備のRI検出器を用い、溶離液にトリフルオロ酢酸ナトリウム塩を0.4質量%溶解させたヘキサフルオロイソプロパノールを用いて、数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnを測定した。カラムはShodex KF-606Mを用いた。標準物質にはポリメタクリル酸メチル(PMMA)を使用した。測定結果の解析はHLC-83220GPC EcoSEC Data Analysis Version1.15を用い、ベースラインはクロマトグラフのピークの立ち上がりから立下りまでで引き、得られたピークよりそれぞれ数平均分子量Mn、重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnを標準物質のPMMA検量線(アジレント社、EasiVial)より換算して算出した。
【0056】
[ガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、及び結晶融解エンタルピー変化(ΔH)]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂について、NETZSCH製DSC装置(DSC3500)を用いて、アルミニウムパンに重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料5mgを採取したのち、20mL/minの窒素気流下、20℃/minの昇温条件で50℃から400℃までの測定を行い、10℃/minの条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより測定した。特に断りのない限りガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)は、上記の昇温条件で測定開始してから2周目のプログラムサイクルに検出されるガラス転移点の中点、融点ピークのピークトップの温度、及び結晶化温度のピークのピークトップの温度として求めた。また、2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融解エンタルピー変化(ΔH)(J/g)を求めた。
【0057】
[NMRによるPAEK樹脂中の繰り返し単位、ケトン基及びエーテル基数の定量]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂について、HFIP-dにPAEK樹脂を溶解させ、日本電子製NMR装置(ECZ-500)を使用し、13Cを観測核、待ち時間を5秒、測定温度を25℃、積算回数を250,000回の条件で測定し、それぞれポリマー中の繰り返し単位(1-1)及び(2-1)の割合(モル%)を算出した。
また、繰り返し単位炭素に由来する積分値数の和に対するケトン基炭素に由来する積分値数又はエーテル基イプソ炭素に由来する積分値の和の半数から、それぞれポリマー中の繰り返し単位中のケトン基数(モル%)及びエーテル基数(モル%)を算出した。化学シフトはHFIP-dの化学シフト(68.95ppm)を標準として用い、ケトン基炭素に由来するシグナル及びエーテル基イプソ芳香環炭素に由来するシグナルは、別途dept135°で消失する第四級炭素に由来するシグナルであることを確認し、それぞれの定量には195~205ppm及び155~165ppmに観測されるシグナルを基に算出した。
【0058】
[引張試験]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂を、150℃で3時間熱風乾燥させた後、射出成形機を用いて、ISO527-2記載の1A形の試験片(4mm厚さ)を成形した。シリンダ温度はTm+20℃、金型温度は250℃(但し、実施例A5、参考例A6はTg-30℃)にて実施した。
得られたISO引張り試験片(4mm厚さ)を用いて、ISO527-1及びISO527-2に準拠し、インストロン型引張試験機を用いて、23℃、チャック間隔50mm、引張速度5mm/minの条件で引張試験を実施し、上降伏点の応力(降伏強さ)(単位:MPa)を測定した。
【0059】
[シャルピー衝撃強度]
上記[引張試験]に記載の方法で得られたISO引張り試験片を用い、ISO179-1及びISO179-2に準拠し、23℃の温度で、ノッチ付きシャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定した。
7kJ/m以上を「◎(優れる)」、5kJ/m以上7kJ/m未満を「○(良好)」、4kJ/m超5kJ/m未満を「△(不良)」、4kJ/m以下を「×(劣る)」と評価した。
【0060】
[熱重量減少率]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂について、TGA(NETZSCH社製TGA装置(TG-DTA2500 Regulus))を用いて室温から500℃まで20mL/minの窒素気流下、20℃/minで昇温し、500℃で一時間保持した際の熱重量減少率(%)を求め、アウトガス量の指標とした。熱重量減少率が高いほど、アウトガス量が多いと判断される。
【0061】
[成形加工性]
上記[引張試験]に記載の方法で得られたISO引張り試験片について、下記の方法で高分子量成分の割合を求め、成形加工性についての評価を行った。高分子量成分の割合が7.0%未満である場合を「〇(良好)」、高分子量成分の割合が7.0%以上である場合を「×(不良)」と評価した。
(高分子量成分の割合)
東ソー株式会社製GPC装置(HPLC8320)を用いてサンプリングピッチを100msecとしてGPCを測定した場合の微分分子量分布のグラフにおいて、横軸logM(Mは分子量)が4.8以上である部分の面積の、グラフ全体の面積に対する割合(%)を求め、これを高分子量成分の割合とした。高分子領域が一定割合以上存在することにより、成形加工時の粘度が上がり、成形加工性が悪くなる。
高分子量成分の割合の算出は、上記数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定の項で記載した方法で、HLC-83220GPC EcoSEC Data Analysis Version1.15を用いた解析で得られたクロマトグラムの微分分子量分布結果について、CSVファイルとして書き出し、Microsoft 365 Apps for enterprise Excelを使用し、ピークに関するサンプリングピッチ毎のデータ点数間の微小面積値を計算し、その総和をグラフ全体の面積とし、logMが4.8以上となる部分についても同様に微小面積値の総和を計算し、割合を算出した。
【0062】
[低分子量成分の割合]
東ソー株式会社製GPC装置(HPLC8320)を用いてサンプリングピッチを100msecとしてGPCを測定した場合の微分分子量分布のグラフにおいて、横軸logM(Mは分子量)が3.4以下である部分の面積の、グラフ全体の面積に対する割合(%)を求め、これを低分子量成分の割合(%)とした。低分子量領域が一定割合以上存在することにより、高温加熱時に低分子量の成分が揮発することに伴ってアウトガスが発生し、例えば、樹脂や成形品に色調変化が発生する、または成形品中に気泡や割れなどが発生する等、外観が悪くなる。
低分子量成分の割合の算出は、上記数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定の項で記載した方法で、HLC-83220GPC EcoSEC Data Analysis Version1.15を用いた解析で得られたクロマトグラムの微分分子量分布結果について、CSVファイルとして書き出し、Microsoft 365 Apps for enterprise Excelを使用し、ピークに関するサンプリングピッチ毎のデータ点数間の微小面積値を計算し、その総和をグラフ全体の面積とし、logMが3.4以下となる部分についても同様に微小面積値の総和を計算し、割合を算出した。
【0063】
[フッ素原子の含有量]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂中のフッ素原子の含有量(質量ppm)を求めた。フッ素元素の分析には、Dionex社イオンクロマトグラフ(ICS-1500)を使用した。
【0064】
[Al原子の含有量]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂から、約0.1gの試料をテトラフルオロメタキシール(TFM)製分解容器に精秤し、硫酸1mL及び硝酸1mLを加えて、マイクロウェーブ分解装置で加圧酸分解を行った。得られた分解液を50mLに定容し、Thermo SCIENTIFIC社製ICP-MS装置で測定することにより、PAEK樹脂中のAl原子の含有量(質量ppm)を求めた。
【0065】
[塩素原子の含有量]
実施例A、参考例A及び比較例Aにて得たPAEK樹脂中の塩素原子の含有量(質量ppm)を求めた。塩素元素の分析には、Dionex社イオンクロマトグラフ(ICS-1500)を使用した。
【0066】
(実施例A1)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル56gと塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8200、Mw/Mnが2.1であり、実施例A1にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0067】
(実施例A2)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル49gと塩化イソフタロイル6g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8500、Mw/Mnが2.2であり、実施例A2にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0068】
(実施例A3)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル45gと塩化イソフタロイル11g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが9300、Mw/Mnが2.0であり、実施例A3にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0069】
(実施例A4)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8700、Mw/Mnが1.8であり、実施例A4にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0070】
(実施例A5)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル34gと塩化イソフタロイル22g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが9100、Mw/Mnが1.9であり、実施例A5にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0071】
参考例A6)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル28gと塩化イソフタロイル28g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8800、Mw/Mnが2.4であり、参考例A6にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0072】
(実施例A7)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化鉄(III)101g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8200、Mw/Mnが2.1であり、実施例A7にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0073】
(実施例A8)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、1,2-ジクロロエタン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8200、Mw/Mnが2.4あり、実施例A8にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0074】
(実施例A9)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ2時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが12300、Mw/Mnが1.8であり、実施例A9にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0075】
(実施例A10)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、90℃まで昇温させ3時間撹拌した(第二反応)。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが14500、Mw/Mnが1.9であり、実施例A10にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0076】
(実施例A11)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸35gとイソフタル酸15g、トリフルオロメタンスルホン酸170g、トリフルオロ酢酸無水物158gを仕込み、窒素雰囲気下で25℃で2時間撹拌した(第一反応)。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつジフェニルエーテル51gを添加した。その後、70℃まで昇温させ6時間撹拌した(第二反応)。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した1N水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを150℃の真空下で8時間乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが8000、Mw/Mnが1.9であり、実施例A11にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。合成パラメータ及び分析の結果を表1に示す。
【0077】
(比較例A1)
[五酸化ニリンを使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、トリフルオロメタンスルホン酸950gとテレフタル酸35g、イソフタル酸15gを仕込み、窒素雰囲気下の室温で20時間撹拌した。その後、これに、ジフェニルエーテル51gと五酸化ニリン103gを撹拌したフラスコに仕込み、100℃まで昇温後、4時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した1N水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを150℃の真空下で8時間乾燥させた。GPCを用いて分子量分布を測定したところ、Mnが10,000、Mw/Mnが4.1であり、比較例A1にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0078】
(比較例A2)
[添加を同時に行った重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸ジクロリド56gとジフェニルエーテル51g、o-ジクロロベンゼン163gを仕込み、窒素雰囲気下で5℃以下を保ちながら無水三塩化アルミニウム102gを加え、0℃で30分撹拌した。その後、o-ジクロロベンゼン1000gを加え、130℃で1時間撹拌し、室温まで冷却後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、残留した反応懸濁液を強撹拌した1N水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを150℃の真空下で8時間乾燥させた。GPCを用いて分子量分布を測定したところ、Mnが8,000、Mw/Mnが3.5であり、比較例A2にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0079】
(比較例A3)
[添加を同時に行った重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸ジクロリド39g、イソフタル酸17gとジフェニルエーテル51g、o-ジクロロベンゼン163gを仕込み、窒素雰囲気下で5℃以下を保ちながら無水三塩化アルミニウム102gを加え、0℃で30分撹拌した。その後、o-ジクロロベンゼン1000gを加え、130℃で1時間撹拌し、室温まで冷却後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、残留した反応懸濁液を強撹拌した1N水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを150℃の真空下で8時間乾燥させた。GPCを用いて分子量分布を測定したところ、Mnが8,700、Mw/Mnが3.6であり、比較例A3にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0080】
(比較例A4)
比較例A4にかかわるPEKK樹脂として、Goodfellow社製:PEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0081】
(比較例A5)
比較例A5にかかわるPEEK樹脂として、Aldrich社製:PEEKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0082】
(比較例A6)
[ジフェニルエーテルの代わりにビフェニルを使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で2時間撹拌した。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつビフェニル46gを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが11000、Mw/Mnが2.5であり、比較例A6にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0083】
(比較例A7)
[ジフェニルエーテルの代わりに1,4-ジフェノキシベンゼンを使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で2時間撹拌した。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ1,4-ジフェノキシベンゼン79gを添加した。その後、90℃まで昇温させ1時間撹拌した。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが10900、Mw/Mnが2.4であり、比較例A7にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0084】
(比較例A8)
[数平均分子量Mnの低下を指向した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、塩化テレフタロイル39gと塩化イソフタロイル17g、塩化アルミニウム81g、o-ジクロロベンゼン1600gを仕込み、窒素雰囲気下で2時間撹拌した。混合物を-5℃に冷却し、次いで、温度5℃未満を維持しつつ47gのジフェニルエーテルを添加した。その後、45℃まで昇温させ1時間撹拌した。ポリマーを、真空下で濾過することにより懸濁液から回収した。これを、次いで、300gのメタノールを用いてフィルターで洗浄した。ポリマーをフィルターから除去し、2時間磁気的にかき混ぜながらビーカー内の700gのメタノール中で再スラリー化した。その後、これに2回目の濾過を行い、300gのメタノールで2回目のすすぎを行った。このようにして得られたポリマーをフィルターから除去し、磁気的に2時間かき混ぜながら、ビーカー内の750gの酸性の水(3%HCl)中で再スラリー化した。この懸濁液を濾過し、得られた固体を450gの水を用いてフィルターですすいでから、400gの水酸化ナトリウム溶液(0.5%)中で2時間再スラリー化した。濾過した後、濾液のpHが中性になるまで水を用いて固体をすすいだ。これを、次いで、180℃にて真空オーブン中で終夜乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、Mnが3800、Mw/Mnが2.4であり、比較例A8にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
なお、比較例A8は、GPC測定により得られた微分分子量分布のグラフにおいて、logMが4.8未満の範囲にピークが位置しており、logMが4.8以上である部分は存在しなかった。
【0085】
(比較例A9)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸100gとジフェニルエーテル103gを仕込み、窒素雰囲気下でトリフルオロメタンスルホン酸無水物1000gを加え、60℃で30分間攪拌後、トリフルオロメタンスルホン酸192.3gを加えて、そのままの温度で6時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した1N水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを150℃の真空下で8時間乾燥させた。GPCを用いて分子量及び分子量分布を測定したところ、微分分子量分布はベースラインで分離した二峰性のピークを与える曲線を示し、それぞれを独立のピークとして解析するとMnが5100および492、Mw/Mnが1.1および1.2であり、比較例A9にかかわるPAEK樹脂が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0086】
(比較例A10)
102gのジフェニルスルホン、18.5gの1,3-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼン、6.36gのNaCOおよび0.040gのKCOを、4つ口反応フラスコに添加した。フラスコには、攪拌機、N注入管、反応媒体中に熱電対付きClaisenアダプター、ならびに還流凝縮器およびドライアイストラップ付きDean-Starkトラップを取り付けた。フラスコ内容物を真空下で排気させ、次に(O:10ppm未満)高純度窒素で満たした。反応混合物を次に、一定の窒素パージ(60mL/分)下に置いた。
反応混合物を室温から180℃までゆっくり加熱した。180℃で、18.9gの1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンを、30分にわたって粉末ディスペンサーによって反応混合物に添加した。添加の終了時に、反応混合物を1℃/分で220℃まで加熱した。
220℃で、13.7gの1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンと、13.4gの1,4-ビス(4’-ヒドロキシベンゾイル)ベンゼンと、4.61gのNaCOと0.029gのKCOとの混合物を、30分にわたって反応混合物にゆっくり添加した。
添加の終了時に、反応混合物を1℃/分で320℃まで加熱した。320℃で5分保持した後に、1.29gの1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンを、フラスコに窒素パージを保ちながら反応混合物に添加した。5分後に、0.427gの塩化リチウムを反応混合物に添加した。10分後に、別の0.323gの1,4-ビス(4’-フルオロベンゾイル)ベンゼンを反応フラスコに添加し、反応混合物を15分間、一定温度に保った。
フラスコの内容物を次に、ステンレス鋼受皿に注ぎ込み、冷却した。固形物を砕き、2mmスクリーンに通してアトリッションミルですり潰した。ジフェニルスルホンおよび塩を、アセトンおよび水で混合物から抽出した。粉末を次にフラスコから取り出し、真空下の160℃で12時間乾燥させ、GPCを用いて分子量を測定したところ、Mnが9000、Mw/Mnが6.3であり、比較例A10にかかわるPAEK樹脂(PEKKポリマー)が得られていることを確認できた。
得られたPEKKポリマーを上記のとおり分析した。分析の結果を表2に示す。
【0087】
実施例A1~A5、A7~A11のPAEK樹脂は、表1に示されるように130~170℃のガラス転移温度(Tg)、300~390℃の結晶融点(Tm)に調整することができ、市販のPAEK樹脂(表2、比較例A4及びA5)と同等の耐熱性に優れた樹脂である。
また、実施例AのPAEK樹脂は、数平均分子量Mnが同等でテレフタルロイル骨格とイソフタロイル骨格の割合が同一の比較例Aと比較して、結晶融点(Tm)が低く、良好な成形加工性を有することが判る。
比較例A1~A4及びA8~A10と比較して、実施例A1~A5、A7~A11及び参考例A6のPAEK樹脂は、分子量分布が狭いため低分子量成分が少なく、アウトガスの発生量が少ない。また、高分子成分が少ないため、成形加工性がよい。
【0088】
特に、実施例A1~A5、A7~A11及び参考例A6のPAEK樹脂は、分子量分布が2.5超である比較例A1~A4及びA10と比較して引張強度(上降伏点)及び/又はシャルピー衝撃強さが向上していることがわかる。この結果は分子量分布が狭くなったことにより、低分子量成分が減少したことを反映していると考えられる。
さらに、実施例A1~A5、A7~A11及び参考例A6のPAEK樹脂は、比較例A6及びA7と比較して、引張強度(上降伏点)及び/又はシャルピー衝撃強さが良好であることが判る。比較例A6の結果は、繰り返し単位中のケトン基数量が実施例A1~A5、A7~A11及び参考例A6と同等であるがエーテル基が含まれないため、粘り強さが減少したことによって脆くなったと考えられる。比較例A7の結果は、繰り返し単位中のケトン基数量とエーテル基数量の和が実施例A1~A5、A7~A11及び参考例A6と同等であるにもかかわらず、引張強度が低下していることが判る。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
〈実施例B及び比較例B〉
実施例B1~B4及び比較例B1~B5で用いた評価方法は以下のとおりである。
【0092】
(評価)
[数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnの測定]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、数平均分子量Mn及び分子量分布Mw/Mnを測定した。
【0093】
[ガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、結晶化温度(Tc)、及び結晶融解エンタルピー変化(ΔH)]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、NETZSCH製DSC装置(DSC3500)を用いて、アルミニウムパンに重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料5mgを採取したのち、20mL/minの窒素気流下、20℃/minの昇温条件で50℃から400℃までの測定を行い、20℃/minの条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムにより測定した。ガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)及び結晶化温度(Tc)は、上記の昇温条件で測定開始してから2周目のプログラムサイクルに検出されるガラス転移点の中点、結晶融点及び結晶化温度のピークのピークトップの温度として求めた。また、2周目のプログラムサイクルに検出される結晶融解エンタルピー変化(ΔH)(J/g)を求めた。
【0094】
[結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が最大となる降温速度の算出]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、NETZSCH製DSC装置(DSC3500)を用いて、アルミニウムパンに重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料5mgを採取したのち、20mL/minの窒素気流下、20℃/minの昇温条件で50℃から400℃まで加熱し、次に5~25℃/min(2℃/min刻みで)の降温条件で50℃まで冷却した際の結晶融解エンタルピー変化(ΔH)をそれぞれ算出し、結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が最大値を与えるために必要な降温速度(℃/min)を求めた。
【0095】
[NMRによるPAEK樹脂中の繰り返し単位の定量]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、HFIP-dにPAEK樹脂を溶解させ、日本電子製NMR装置(ECZ-500)を使用し、Hを観測核として、待ち時間5秒、測定温度25℃、積算回数1024回、標準4.4ppm(HFIP-d)の条件で測定し、それぞれポリマー中の繰り返し単位(1-1)及び(2-1)の割合(モル%)を算出した。
【0096】
[NMRによるPAEK樹脂中のケトン基及びエーテル基数の定量]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、ポリマーの繰り返し単位中のケトン基数(モル%)及びエーテル基数(モル%)を算出した。
【0097】
[引張特性]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂を、150℃で3時間熱風乾燥させた後、射出成形機を用いて、ISO527-2記載の1A形の試験片(4mm厚さ)を成形した。シリンダ温度はTm+20℃、金型温度は250℃にて実施した。
得られたISO引張り試験片(4mm厚さ)を用いて、ISO527-1及びISO527-2に準拠し、インストロン型引張試験機を用いて、23℃、チャック間隔50mm、引張速度5mm/minの条件で引張試験を実施し、上降伏点の応力(降伏強さ)(単位:MPa)を測定した。
【0098】
[シャルピー衝撃強さ]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m)を測定・評価した。
【0099】
[耐薬品性評価結果]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、蓋つきガラス製容器にPAEK樹脂100mgをそれぞれ秤量し、50mLのHFIPを加えて蓋を閉め、40℃に加温しながら10時間振とうし、それぞれ完全に溶解させた。これらの溶液についてエバポレーターを用いて溶媒を留去し、続いて160℃で5時間真空乾燥させた。乾燥させたサンプル10mgをポリエチレン製蓋つきガラス製容器にそれぞれ秤量し、1mLのHFIPを加えて蓋を閉め、40℃に加温しながら振とうした。この時、振とうし始めからサンプルが完全に溶解するまでの時間を基にして、各々のサンプルの薬品耐性(A)を評価した。
さらに、実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、NETZSCH製DSC装置(DSC3500)を用いて、アルミニウムパンに重合後に特別な熱処理をしていない状態の試料15mgを採取したのち、20mL/minの窒素気流下、20℃/minの昇温条件で50℃から400℃まで昇温し、20℃/minの条件で400℃から50℃まで降温する条件プログラムを行った。この際にアルミニウムパンの中に残留した溶融樹脂から10mgを蓋つきガラス製容器に秤取り、1mLのHFIPを加えて蓋を閉め、40℃に加温しながら振とうした。この時、振とうし始めからサンプルが完全に溶解するまでの時間を基にして、各々のサンプルの熱履歴後の薬品耐性(B)を評価した。
【0100】
[低分子量成分の割合]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、低分子量成分の割合(%)を求めた。
【0101】
[フッ素原子の含有量]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、フッ素原子の含有量(質量ppm)を測定した。
【0102】
[Al原子の含有量]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、Al原子の含有量(質量ppm)を測定した。
【0103】
[塩素原子の含有量]
実施例B及び比較例Bにて得たPAEK樹脂について、上述の実施例A及び比較例Aにおけるのと同じ方法により、塩素原子の含有量(質量ppm)を測定した。
【0104】
(実施例B1)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸70gとイソフタル酸30g、トリフルオロメタンスルホン酸339g、トリフルオロ酢酸無水物315g、ジフェニルエーテル102gをこの順に仕込み、窒素雰囲気下、40℃で12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した蒸留水に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを160℃の真空下で8時間乾燥させた。
上記測定・評価の結果を表3に示す。
【0105】
(実施例B2)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸70gとイソフタル酸30g、トリフルオロメタンスルホン酸339g、トリフルオロ酢酸無水物315g、ジフェニルエーテル102gをこの順に仕込み、窒素雰囲気下、70℃で12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した蒸留水に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを160℃の真空下で8時間乾燥させた。
上記測定・評価の結果を表3に示す。
【0106】
(実施例B3)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸60gとイソフタル酸40g、トリフルオロメタンスルホン酸339g、トリフルオロ酢酸無水物315g、ジフェニルエーテル102gをこの順に仕込み、窒素雰囲気下、70℃で12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した蒸留水に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを160℃の真空下で8時間乾燥させた。
上記測定・評価の結果を表3に示す。
【0107】
(実施例B4)
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸80gとイソフタル酸20g、トリフルオロメタンスルホン酸339g、トリフルオロ酢酸無水物315g、ジフェニルエーテル102gをこの順に仕込み、窒素雰囲気下、70℃で12時間撹拌した。室温まで冷却後、反応溶液を強撹拌した蒸留水に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。その後、ポリマーを160℃の真空下で8時間乾燥させた。
上記測定・評価の結果を表3に示す。
【0108】
(比較例B1)
[酸クロリドモノマー及び無水塩化アルミニウム触媒を使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸ジクロリド85gとイソフタル酸ジクロリド37gとジフェニルエーテル102g、o-ジクロロベンゼン525gを仕込み、窒素雰囲気下で5℃以下を保ちながら無水三塩化アルミニウム204gを加え、0℃で30分撹拌した。その後、o-ジクロロベンゼン2000gを加え、130℃で1時間撹拌し、室温まで冷却後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、残留した反応懸濁液を強撹拌した2M塩酸に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。
上記測定・評価の結果を表4に示す。
【0109】
(比較例B2)
[酸クロリドモノマー及び無水塩化アルミニウム触媒を使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸ジクロリド73gとイソフタル酸ジクロリド49gとジフェニルエーテル102g、o-ジクロロベンゼン525gを仕込み、窒素雰囲気下で5℃以下を保ちながら無水三塩化アルミニウム204gを加え、0℃で30分撹拌した。その後、o-ジクロロベンゼン2000gを加え、130℃で1時間撹拌し、室温まで冷却後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、残留した反応懸濁液を強撹拌した2M塩酸に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。
上記測定・評価の結果を表4に示す。
【0110】
(比較例B3)
[酸クロリドモノマー及び無水塩化アルミニウム触媒を使用した重合例]
窒素導入管、温度計、還流冷却管、及び撹拌装置を備えた4つ口セパラブルフラスコに、テレフタル酸ジクロリド97.6gとイソフタル酸ジクロリド24.4gとジフェニルエーテル102g、o-ジクロロベンゼン525gを仕込み、窒素雰囲気下で5℃以下を保ちながら無水三塩化アルミニウム204gを加え、0℃で30分撹拌した。その後、o-ジクロロベンゼン2000gを加え、130℃で1時間撹拌し、室温まで冷却後、上澄み液をデカンテーションで取り除き、残留した反応懸濁液を強撹拌した2M塩酸に注ぎ込み、ポリマーを析出させ、ろ過した。さらに、ろ別したポリマーを蒸留水とエタノールで2回ずつ洗浄した。
上記測定・評価の結果を表4に示す。
【0111】
(比較例B4)
比較例B4にかかわるPEKK樹脂として、ARKEMA社製KEPSTAN7002:PEKKを準備し、上記測定・評価の結果を表4に示す。
【0112】
(比較例B5)
比較例B5にかかわるPEKK樹脂として、Goodfellow社製:PEKKを準備し、上記測定・評価の結果を表4に示す。
【0113】
(比較例B6)
比較例B6にかかわるPEKK樹脂として、比較例A9と同じ方法で別途PEKK樹脂を合成した。
【0114】
(比較例B7)
比較例B7にかかわるPEKK樹脂として、比較例A10と同じ方法で別途PEKK樹脂を合成した。
【0115】
実施例B1~B4のPAEK樹脂は、表3に示されるように140℃以上のガラス転移温度(Tg)、310℃以上の結晶融点(Tm)に調整することができ、市販のPAEK樹脂(表4、比較例B4及びB5)と同等程度の耐熱性に優れた樹脂である。
【0116】
特に実施例B1~B4のPAEK樹脂は、比較例B1~B7と比較して上降伏点の応力が向上していることが判る。この結果は、実施例B1~B4のPAEK樹脂の結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が、繰り返し組成が同等な比較例B1~B7に比べて向上したことで、樹脂自身の上降伏点の応力の向上に寄与したものと考えられる。
DSC測定にて400℃まで昇温後の降温速度について、結晶融解エンタルピー変化(ΔH)が最大値を与えるために必要な速度を精査したところ、実施例B1~B4は比較例B1~B7と比較してより早い降温速度で最大値を与えることが判る。これらの結果は実施例B1~B4のPAEK樹脂が比較例B1~B7のPAEK樹脂と比べて最大の結晶化度を与えるための結晶化速度が速いことを意味していると考えられる。最大の結晶化度を与えるための結晶化速度が速いPAEK樹脂は、成形加工時のインジェクションサイクルタイムが短縮されるため、成形物取得の際に要する時間が短縮されることを意味しており、産業上有利に働く。
また、耐薬品性評価試験の結果では、薬品耐性(A)及び(B)それぞれの評価方法において実施例B1~B4のサンプルは完全溶解にかかった時間がそれぞれ比較例B1~B7よりも向上していることが判る。また、薬品耐性(B)についてはそれぞれ完全溶解にかかる時間が大きく向上していることが判る。これらの結果は、実施例B1~B4のPAEK樹脂の結晶性が熱履歴の前後にかかわらず向上していることに由来して発現していると考えられ、特に熱履歴後の完全溶解にかかる時間の顕著な向上は、実施例B1~B4のPAEK樹脂が熱履歴によって著しく結晶化度が向上し、耐薬品性の発現が顕著となったためと考えられる。
さらには、実施例B1~B4は結晶核剤なしに高強度・高結晶化度のPAEK樹脂が得られるため、余分な成分を加えずとも高い強度及び耐薬品性を達成するものであり、経済的に有利な技術であり、マテリアルリサイクルの観点からも高強度、高耐熱の熱可塑性樹脂を再利用する際にも汎用性が高い技術と考えられる。
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】