(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関及びその動作方法
(51)【国際特許分類】
F02D 41/40 20060101AFI20240716BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F02D41/40
F02D19/02 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024013808
(22)【出願日】2024-02-01
【審査請求日】2024-02-01
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】イェンスン キム
(72)【発明者】
【氏名】ノレガード クリストファー バルドゥル
(72)【発明者】
【氏名】ラルセン ハンス スカフト
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-179146(JP,A)
【文献】特開平03-175133(JP,A)
【文献】特開2011-106273(JP,A)
【文献】特開2020-023975(JP,A)
【文献】特開2021-011871(JP,A)
【文献】特開2023-010579(JP,A)
【文献】特開2023-018664(JP,A)
【文献】実開昭63-166637(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/02
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの運転モードにおいてガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関であって、
下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、
前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置と、
前記機関の軽負荷運転動作が観測される時にガス燃料の導入を遅らせる手段と、
を備え、
前記ガス燃料導入弁がシリンダライナ内に配されており、BDCとTDCの間の前記シリンダライナの長さ方向の中央領域に配されている場合、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、できるだけ早いタイミング、すなわちピストンがTDCに向かう途中で掃気ポートを通過した直後に設定され、
前記ガス燃料導入弁がシリンダカバーに配置されている場合、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、排気弁が閉じられた後のできるだけ早いタイミングに設定される
、
機関。
【請求項2】
少なくとも1つの運転モードにおいてガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関であって、
下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、
前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置と、
前記機関の軽負荷運転動作が観測される時にガス燃料の導入を遅らせる手段と、
を備え、
前記機関の軽負荷運転が観測される場合、ガス燃料の導入が可能な限り遅らされ、すなわち、前記ピストンがTDCに向かって前記ガス燃料導入弁を通過するクランク角度から、前記機関の所与の負荷におけるガス燃料導入継続時間であってクランク角度として測定される継続時間を減算して計算されるクランク角度まで遅らされ、前記ガス燃料導入弁は前記シリンダライナ内に配されており、BDCとTDCの間のシリンダライナの長さ方向の中央領域に配されている
、機関。
【請求項3】
前記遅らせる手段は、信号線を通じてガス燃料供給弁に接続される少なくとも1つの制御装置を備える、請求項1
又は2に記載の機関。
【請求項4】
前記機関の軽負荷運転動作が観測される時に、ガス燃料の導入が
、5~20クランク角度遅らされる、請求項1
又は2に記載の機関。
【請求項5】
少なくとも1つの運転モードにおいてガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関を動作させる方法であって、前記機関は、
下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、
前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置と、
を備え、
前記ガス燃料導入弁がシリンダライナ内に配されており、BDCとTDCの間の前記シリンダライナの長さ方向の中央領域に配されている場合、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、できるだけ早いタイミング、すなわちピストンがTDCに向かう途中で掃気ポートを通過した直後に設定され、
前記ガス燃料導入弁がシリンダカバーに配置されている場合、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、排気弁が閉じられた後のできるだけ早いタイミングに設定される、
機関であって、
前記方法は、前記機関の軽負荷運転が観測される場合、ガス燃料の導入が遅らされることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関であって、少なくとも1つの運転モードにおいて、ガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される機関に関する。この機関は、下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置とを備える。本発明はまた、そのような機関の運転方法にも関する。
【発明の背景】
【0002】
大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関は、通常、コンテナ船などの大型外航船や発電所の原動機として使用される。この2ストロークディーゼル機関のサイズは巨大である。サイズが巨大であることだけが理由ではないが、この2ストロークディーゼル機関は、他の内燃機関とは異なる構造を有する。例えば、排気弁の重量は400kgに達することもあり、ピストンの直径も100cmに達することがある。運転中における燃焼室の最大圧力は、典型的には数百barにもなる。このような高い圧力レベルとピストンサイズから生まれる力は莫大なものである。このタイプのエンジンは、重油や、ディーゼルのような燃料油で運転されることが非常に多い。
【0003】
近年、大型2ストロークディーゼル機関において、ガス燃料のような別の種類の燃料を扱えるようにすることが求められてきている。燃料油のみで運転する燃料油モードと、ガス燃料及びパイロット燃料油で運転する代替燃料モードの両方で運転可能な機関は、しばしば二元燃料機関と呼ばれる。
【0004】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関には、シリンダライナの長手方向中央付近又はシリンダカバーに配される燃料弁から導入されるガス燃料で運転されるタイプのものがある。このタイプの機関において、ガス燃料は、ピストンの上昇ストロークの途中であって、排気弁が閉じるかなり前にシリンダ内に導入される。機関は、燃焼室内においてガス燃料と掃気との混合物を圧縮し、圧縮された混合気を上死点(TDC)又はその付近で同期着火手段(例えばパイロット油着火手段)によって着火する。
【0005】
大型2ストロークターボ過給式内燃機関において、ピストンが上死点(TDC)又はその付近でガス燃料を噴射する場合、燃焼室内の圧力はほぼ最大になっている。それに比べると、シリンダライナ又はシリンダカバーに配される燃料弁(ガス導入弁)を用いる上記のタイプのガス導入は、燃焼室の圧力が比較的低い時にガス燃料を噴射するため、かなり低い燃料噴射圧力を用いることができるという利点を有する。TDC又はその付近でガス燃料を噴射するタイプのエンジンの場合、既にほぼ最大圧力となっている燃焼室の圧力よりも、更に十分に高い燃料噴射圧力を実現しなければならない。このような極めて高い圧力でガス燃料を扱うことができる燃料システムは、高価かつ複雑である。その理由には、ガス燃料の揮発性や高圧下の挙動があり、それによって燃料システムの鋼部材の中に(又はそれらを通じて)拡散していくことがある。
【0006】
このため、圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射するエンジンの燃料供給システムは、ピストンがTDC付近にあるときの高圧下でガス燃料を噴射するエンジンのものに比べて、コストがずっと低い。
【0007】
圧縮ストロークの途中にガス燃料を噴射する場合、ピストンは、ガス燃料と掃気空気の混合物を圧縮することになるが、これには異常早期着火(プレイグニッション)の危険性を伴う。非常に薄い混合気で運転することにより、プレイグニッションの危険性を減少させることができる。しかし、薄い混合気を用いると、ミスファイア又は部分ミスファイア(partial misfire)の危険性が増大し、燃料スリップをもたらす。このように、空気とガス燃料の予混合気の燃焼は、空燃比と温度に大きく依存することがよく知られている。一般的な燃焼範囲図(Flammability Diagram)から、高温では自動着火が起こり、低温では可燃性ミストが発生することが知られている。空燃比が高い領域は不燃性である。これらの効果は、燃焼室内の特性が均一でないオットーサイクル機関の燃焼プロセスに大きな影響を与える。特性の分布は、燃料ガス導入弁の噴霧方向を決定する際に、ある程度の影響を与えることができる。もう一つの方法は、ガス導入のタイミングを制御することである。早いタイミングでは、燃焼室の上部領域で空燃比が低くなり、遅いタイミングでは、ピストン上面に近い同様の領域で、それぞれの領域が局所的な燃焼特性を持つことになる。掃気と排気ガス受けが提供する境界条件の組み合わせが効率的な燃焼をもたらす場合、特定のガス導入は、ある機関動作ポイントでは問題なく機能する。空燃比の高い領域の合計サイズは、未燃ガスの割合(一般にスリップと呼ばれる)が許容限界以下になるように小さく保たれる。
【0008】
機関の動作ポイントが変わると、燃焼室内のさまざまな領域も変化する。推進用機関の場合、特に重要な例は軽負荷運転(Light Running)である。軽負荷運転では、空燃比がリーンすぎるため、ミスファイヤ(失火)が発生し、その結果、望まれない燃料ガススリップが生じる。軽負荷運転とは、同じ機関出力が、高い機関回転数と低いトルクで供給されることである。これは、プロペラの軽負荷運転を意味し、船舶基地のデザインだけでなく、積荷量、船体状態、気象条件、操船、水深などにも左右されるため、重要なのである。許容できないガススリップを起こさずに効率的な燃焼を維持するためには、燃焼サイクルプロセスを適切に合わせなければならない。更に、天候や操船に関連した変動は比較的速いため、即座に対応する必要がある。
【0009】
空燃比がリーンすぎる状態での軽負荷運転は、燃焼が不安定になりやすく、その結果、推進システム全体の性能が非常に低下することが試験で確認されている。このような状況では、しばしば許容できない燃焼室圧力が発生し、ガスモード運転が停止してしまう。これまでのところ、このような状況に対する対策は、排気ガスバイパス(EGB)と呼ばれるバイパス弁を開いて掃気圧力を下げることであった。これはターボ過給機(TC)のタービンに供給される出力を低下させる。残念なことに、ターボ過給機の慣性のため、掃気圧への応答は非常に遅い。更に、バイパスの大きさは、燃焼室の掃気効率が十分に保たれるような或る一定の大きさに制限されなければならない。掃気効率が悪すぎると、燃焼室内の残留ガスが高温になりすぎ、圧縮行程中の早期自己着火の傾向が著しく高まり、シリンダ圧力も許容できないものになる。高負荷運転時には、掃気圧を高めるために、EGBが使えることはほとんどない。というのも、EGBが開くと、機関効率保証が特定されている公称プロペラ曲線の性能が低下するからである。その代わり、導入ガス量が減少するために、ディーゼル燃料が添加され、空燃比が上昇する。このようなディーゼル燃料消費は、排出ガスの増加、コスト、機関全体の効率低下のため、実運用では望ましくない。
【0010】
本発明はまた、上に記載され、また添付の特許請求の範囲に記載されるような、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド内燃機関を運転する方法に関する。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、機関の軽負荷運転に関する上述の課題が少なくとも大幅に低減された、冒頭に述べた種類の大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関を提供することである。
【0012】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や明細書、図面から明らかになるだろう。
【0013】
第1の捉え方によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関であって、少なくとも1つの運転モードにおいて、ガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される、機関が提供される。この機関は、
【0014】
下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
【0015】
前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、
【0016】
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、
【0017】
前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置と、
を備えると共に、
【0018】
前記機関の軽負荷運転動作が観測された場合、ガス燃料の導入を遅らせる手段を備える。
【0019】
このように、機関の軽負荷運転が観測された場合の新たな対策として、ガス燃料の導入タイミングが導入される。ボア径が50と70の2つの機関でテストした結果、軽負荷運転時にガス燃料の導入を遅らせることで、燃焼安定性と回転数が共に大幅に向上することが確認された。これは、ガス燃料が燃焼室内で混合する時間が短くなり、その結果、ガス燃料の着火を妨げるほどリーン過ぎない、空燃比が低めの領域が生じることに起因すると考えられる。ガス燃料の導入タイミングは即座に調整できるため、この対策は、機関の軽負荷運転動作が観測された場合に、迅速かつ即座に対応するのに適している。
【0020】
機関の軽負荷運転が観測される場合にガス燃料の導入を遅らせるための手段は、任意の適切な手段とすることができる。しかし前記手段は、信号線を通じて前記ガス燃料導入弁に接続される少なくとも1つの制御装置を含むことが好ましい。この少なくとも1つの制御装置は、タイミング及び持続時間に関して、各シリンダそれぞれのガス燃料導入弁に信号を送信する。
【0021】
ガス燃料の導入を遅らせることによって得られる速い燃焼は、燃焼室構成部品に対して高い機械的負荷を与えるため、定常状態では必ずしも望まれない。このため、好ましい実施形態では、ガス燃料導入のタイミングを遅らせる制御は初めだけに適用され、例えば2秒から20秒の間、好ましくは5秒から15秒の間、最も好ましくは約10秒間のみ適用される。従って、機関は、ガス燃料導入弁の燃料導入タイミングを定常運転時のプリセット燃料導入タイミングにリセットする手段と、従来の長期規制に復帰させる手段とを備える。この、従来の長期規制に復帰させる手段は、例えば排気ガスバイパスを用いる手段であってもよい。
【0022】
軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータには、燃焼室圧力、燃焼圧力温度、機関出力/機関回転数比、空気/ガス燃料が含まれる。従って機関は、これらのパラメータのうちの少なくとも1つを測定する手段を備えることが好ましい。更に好ましくは、機関は、測定された運転パラメータデータを、処理のために、前記少なくとも1つの制御装置に伝送する手段を備える。この手段は信号線の形態であってもよい。
【0023】
機関は、掃気圧を制御するために、可変高圧EGR(Exhaust Gas Recirculation)を備えてもよい。このようなEGRは、従来の長期規制に復帰させるために使用されてもよい。
【0024】
ガス燃料導入弁がシリンダライナに配置されている場合、ガス燃料導入弁は好ましくは、BDCとTDCの間のシリンダライナの長さ方向の中央領域のどこかに配置されている。そして、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、好ましくは、できるだけ早いタイミングに設定されている。すなわち、ピストンがTDCに向かう途中で掃気ポートを通過したときに設定される。ガス燃料導入弁がシリンダカバーに配置されている場合、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、好ましくは排気弁が閉じられた後のできるだけ早いタイミングに設定される。
【0025】
ガス燃料導入弁がシリンダライナに配置されている場合、すなわち好ましくはBDCとTDCの間のシリンダライナの長さ方向の中央領域のどこかに配置されている場合には、機関の軽負荷運転が観測される時、ガス燃料導入は、好ましくは、少なくとも1クランク角度分、好ましくは5~20クランク角度分、遅れて行われる。これは、毎分80~100回転で運転される機関の場合、1クランク角度は約2msに相当するので、5~20クランク角度は約10~40msに相当する。
【0026】
ガス燃料導入弁はシリンダライナに配置され、好ましくは、BDCとTDCとの間のシリンダライナの長さ方向の中央領域のどこかに配置されるという、本発明の最も好ましい実施形態において、機関の軽負荷運転が観測される場合、ガス燃料導入は、可能な限り遅らされる。すなわち、ピストンがTDCに向かってガス燃料導入弁を通過するクランク角度から、機関の所与の負荷におけるガス燃料導入継続時間(これもクランク角度として測定される)を減算して計算されるクランク角度まで、遅らされる。ガス燃料噴射の継続時間は、通常、機関のトルクに比例する。つまり、高トルクにおいては、ガス燃料の導入の遅れは、低負荷時と同程度にはならなくてもよい。
【0027】
第2の捉え方によれば、大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関を運転する方法であって、少なくとも1つの運転モードにおいて、ガス燃料を主燃料とするオットーサイクル原理により運転される機関を運転する方法が提供される。ここで前記機関は、
【0028】
下部に掃気ポートを有するシリンダライナと、前記シリンダライナ内の往復ピストンと、自身を覆うシリンダカバーとを有する少なくとも1つのシリンダと、
【0029】
前記シリンダ内の前記往復ピストンと前記シリンダカバーとの間に形成される燃焼室と、
【0030】
前記シリンダライナ又は前記シリンダカバーに配置された1つ又は複数のガス燃料導入弁であって、前記シリンダカバーに向かうピストンストローク中にガス燃料を導入するように構成され、定常運転時において、前記機関のあらゆる負荷に対して予め設定された燃料導入タイミング及び導入時間を有するガス燃料導入弁と、
【0031】
前記機関に関連付けられる少なくとも1つの制御装置であって、該少なくとも1つの制御装置は、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視するように構成される制御装置と、
を備えると共に、
【0032】
機関の軽負荷運転が観測される場合、ガス燃料の導入は遅らされる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本発明をより詳細に説明する。
【
図1】ある例示的実施形態に従う大型2ストロークディーゼル機関を正面方向から見た概観を示す図である。
【
図2】
図1の大型2ストローク機関を背面方向から見た概観を示す。
【
図3】
図1の大型2ストローク機関の略図表現である。
【
図4】本発明による大型2ストロークディーゼル機関のプロペラ曲線を示す。
【
図5】定常運転時及び軽負荷運転時における、クランク角に対するガス燃料弁リフト曲線の、本発明による例を示す。
【
図6】ガス燃料を導入した軽負荷機関のシリンダ圧を、定常設定時と、発明による遅延設定時とでそれぞれ示したものである。
【詳細説明】
【0034】
以下の詳細説明において、大型ターボ過給式2ストローククロスヘッド内燃機関について本発明を説明する。ただし実施形態によっては、内燃機関は別のタイプの機関で有り得ることに注意されたい。図示の大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関は、ピストンが上死点に向かう途中の比較的低い圧力で燃料が導入される低圧型である。また通常、着火液(例えば燃料油)を使ったパイロット着火により着火される。パイロット着火は高い信頼性を有する。
【0035】
図1-
図3は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関100を描いている。この機関は、クランクシャフト8及びクロスヘッド9を有する。
図2は、ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関を、その吸気システム及び排気システムと共に略図により表現したものである。この実施例において、機関は直列に6本のシリンダを有する。ターボ過給式大型低速2ストロークディーゼル機関は通常、直列に配される4から14のシリンダを有する。これらのシリンダはシリンダフレーム23に担持される。シリンダフレーム23は機関フレーム11に担持される。またこのような機関は、例えば、船舶の主機関や、発電所において発電機を動かすための据え付け型の機関として用いられることができる。機関の全出力は、例えば1、000~110、000kWの範囲でありうる。
【0036】
この実施例におけるエンジンは、2ストロークユニフロー掃気エンジンであり、シリンダライナ1の下部領域に掃気ポート18が設けられ、シリンダライナ1の頂部中央には排気弁4が配される。掃気空気は、ピストンが掃気ポート18より下にある時に、掃気受け2から各シリンダライナ1の掃気ポート18へと導かれる。ガス燃料は、電子制御部60の制御下でガス燃料導入弁30から導入される。これは、ピストンの上昇ストロークの間であって、ピストンがガス燃料導入弁30を通過する前に行われる。ガス燃料は比較的低い圧力で導入され、30bar未満、好ましくは25bar、より好ましくは20bar未満で導入される。ガス燃料導入弁30は、好ましくはシリンダライナの円周上に等間隔に分布するように配される。また好ましくは、シリンダライナの長手方向の中央付近に配される。従って、ガス燃料の導入は、圧縮圧力が比較的低い時に行われる。つまり、ピストンがTDCに達するときの圧縮圧力に比べればずっと低いときに行われるので、比較的低い圧力で導入することが可能となる。
【0037】
ピストン10はシリンダライナ1の中で、ガス燃料と掃気の混合物を圧縮する。圧縮が行われ、TDC又はその付近で着火が開始される。着火は例えば、パイロット油燃料弁50からパイロット油(又はその他の適切な着火液)を噴射することによって、開始されてもよい。パイロット油燃料弁50好ましくはシリンダカバー22に配される。その後燃焼が生じ、排気ガスが生成される。別の形態の着火システムでは、パイロット油の代わりに、又はパイロット油に加えて、プリチャンバやレーザー着火、グロープラグ(いずれも図示されていない)などを、着火を促すために使用するものもある。
【0038】
排気弁4が開くと、排気ガスは、シリンダ1に設けられる排気ダクトを通って排気受け3へと流れ、さらに第1の排気管19を通ってターボ過給器5のタービン6へと進む。そこから排気ガスは、第2の排気管25を通ってエコノマイザ20へ流れ、さらに出口21から大気中へと放出される。排気ガスは、管路19aを通ってターボ過給機5のタービン6をバイパスする場合もある。タービン6は、シャフトを介してコンプレッサ7を駆動する。コンプレッサ9には、空気取り入れ口12を通じて外気が供給される。コンプレッサ7は、圧縮された掃気空気を、掃気受け2に繋がる掃気管13へと送り込む。掃気管13の掃気空気は、掃気空気を冷却するためのインタークーラー14を通過する。
【0039】
冷却された掃気は、電気モーター17により駆動される補助ブロワ16を通る。補助ブロワ16は、ターボ過給器5のコンプレッサ7が掃気受け2に必要とされる圧力を供給することができない場合、すなわちエンジンが低負荷又は部分負荷である場合に、掃気流を圧縮する。機関の負荷が高い場合は、ターボ過給機5のコンプレッサ7が、十分に圧縮された掃気を供給することができるので、補助ブロワ16は逆止め弁15によってバイパスされ、電気モーター17は停止される。
【0040】
図4は、大型2ストロークディーゼル機関のプロペラ曲線図である。公称プロペラ曲線p
nomは、機関出力と、機関の設計時に当該出力に対して想定されていた機関回転数との関係を示す。p
lrは機関の軽負荷運転時のプロペラ曲線を示し、p
hrは機関の高負荷運転時のプロペラ曲線を示している。このように、軽負荷運転では、同じ機関出力が、より高い機関回転数で供給される。背景の欄で述べたように、リーンすぎる空気/燃料ガス混合気での軽負荷運転では、燃焼が不安定になりやすく、許容できない燃焼室圧力が発生し、推進システム全体の性能が劇的に低下する。このような状況が
図6の左側の図に示されている。
図6には、様々な回転数に対する燃焼室圧力がプロットされている。見られるように、燃焼室圧力は約75barから約120barまで大きく変動している。平均燃焼室圧力は約100barである。この結果、失火が発生し、燃料ガスのスリップが発生する。これは避けねばならない。
【0041】
本発明によれば、機関の軽負荷運転が観測された場合は、ガス燃料の導入を遅らせることが提案される。これを可能にするために、制御装置60は、軽負荷運転を示す機関運転パラメータを監視するように構成されている。このような運転パラメータには、燃焼室内の圧力、温度及び空気/ガス燃料比が含まれてもよい。このため機関は、これらのパラメータの少なくとも1つを測定するための手段(図示せず)と、測定された運転パラメータデータを処理するべく少なくとも1つの制御装置60に伝送するための信号線61とを備える。燃焼プロセス中の燃焼室内の圧力及び/又は温度を所定の時間間隔に亘って測定し、その平均値が低すぎる場合、それは軽負荷運転状態を示す。また、空気/ガス燃料比が高すぎる場合、空気/ガス燃料混合気がリーンすぎることになり、これも軽負荷運転を示す。実際には、制御装置60は、機関の公称プロペラ曲線上の実際の回転数(rpm)において、機関の実際の効果がプロペラに要求される効果に対応するかどうかを示す軽負荷回転数(Light Running Number,LRN)を、連続的に計算する。また制御装置60は、
図6の左側の図に示すような回転毎の燃焼のばらつきの増大により、軽負荷状態を観測している。燃焼のばらつきの増大は、空気/ガス燃料混合気が非常にリーンであり、全てのガス燃料が燃焼されず、大気へのガス燃料のスリップが生じる場合に、しばしば生じる。機関の軽負荷運転が観測されるときにガス燃料の導入を遅らせる手段は、信号線62を通じてガス燃料供給弁30に接続される少なくとも1つの制御装置60を備える。少なくとも1つの制御装置60は、軽負荷運転を示す測定及び監視された機関運転パラメータに基づいて、各シリンダのガス燃料導入弁30に、タイミング及び継続時間に関する信号を送信する。
【0042】
図5には、軽負荷運転が観測されるときのガス燃料弁リフト曲線SGAV
Laterが、定常運転時のガス燃料弁リフト曲線SGAV
Stdに対してどのように遅れるかが示されている。ガス燃料は、ピストンが気体導入弁30に近づいたときに幾分遅れて導入される。
【0043】
ボア径が50と70の2つの機関でテストした結果、本発明が提案するように、軽負荷運転時にガス燃料の導入を遅らせることで、燃焼安定性と回転数が共に大幅に向上することが確認された。
図6には、そのような試験の結果が右側の図に描かれており、そこには、いくつかの回転数に対する燃焼室圧力がプロットされている。見てわかるように、得られた燃焼室圧力は、平均燃焼室圧力約130barしてわずかな変化しかなく、これは
図6の左側の図で示されたものよりもはるかに優れた機関性能を示している。ガス燃料の導入タイミングは即座に調整できるため、この対策は、機関の軽負荷運転動作が観測された場合に、迅速かつ即座に対応するのに適している。
【0044】
本発明の出願人により実施された試験によれば、ガス燃料導入のタイミングを遅らせる制御は、軽負荷運転が観測された直後の比較的短い期間にのみ適用されるべきであることが明らかになった。この比較的短い期間とは、例えば2秒から20秒の間、好ましくは5秒から15秒の間、最も好ましくは約10秒間である。比較的短い期間にのみガス燃料導入のタイミングを遅らせる理由は、速い燃焼が、燃焼室構成部品に対して高い機械的負荷を与えるため、定常状態では望まれないからである。従って、ガス燃料導入弁30の燃料導入タイミングは、好ましくは制御装置60によって、定常状態で運転するための予め設定された燃料導入タイミングにリセットされる。従来の長期規制の運転モードが使用され、例えば排気ガスバイパス19aの制御を伴ってもよい。
【0045】
図3に示す実施形態では、ガス燃料導入弁30はシリンダライナ内に配されており、BDCとTDCの間のシリンダライナの長さ方向の中央領域に配されている。この実施形態では、定常運転時のプリセット燃料導入タイミングは、好ましくはできるだけ早いタイミング、すなわちピストンがTDCに向かう途中で掃気ポートを通過した直後に設定される。この実施形態では、機関の軽負荷運転動作が観測されるときのガス燃料の導入は、所望の効果を得るために、少なくとも1クランク角度、好ましくは5~20クランク角度遅らせるべきである。しかし、最も好ましくは、機関の軽負荷運転が観測される場合、ガス燃料導入は、可能な限り遅らされる。すなわち、ピストン10がTDCに向かってガス燃料導入弁30を通過するクランク角度から、機関の所与の負荷におけるガス燃料導入継続時間(これもクランク角度として測定される)を減算して計算されるクランク角度まで、遅らされる。ガス燃料噴射の継続時間は、通常、機関のトルクに比例する。つまり、高トルクにおいては、ガス燃料の導入の遅れは、低トルク時と同程度にはならなくてもよい。
【要約】 (修正有)
【課題】大型ターボ過給式2ストロークユニフロークロスヘッド式内燃機関の軽負荷運転時の燃焼安定性向上を目的とする。
【解決手段】この機関は、ガス燃料を主燃料とし、オットーサイクル原理により運転されるモードを有する。また、軽負荷運転動作を示す機関運転パラメータを監視する制御装置60と、軽負荷運転動作が観測される時にガス燃料の導入を遅らせる手段を備える。このように、機関の軽負荷運転が観測された場合の新たな対策として、ガス燃料の導入タイミングが導入される。軽負荷運転時にガス燃料の導入を遅らせることで、燃焼安定性と回転数が共に大幅に向上する。ガス燃料の導入タイミングは即座に調整できるため、この対策は、機関の軽負荷運転動作が観測された場合に、迅速かつ即座に対応するのに適している。
【選択図】
図3