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特許7521143ケーソンのアースバケット飛翔防止構造及び排土方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ケーソンのアースバケット飛翔防止構造及び排土方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 23/06 20060101AFI20240716BHJP
   E02D 23/04 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
E02D23/06 A
E02D23/06 C
E02D23/06 Z
E02D23/04 A
E02D23/04 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024039905
(22)【出願日】2024-03-14
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 淳二
(72)【発明者】
【氏名】景山 俊和
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4455543(JP,B2)
【文献】特許第2733783(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 23/00-23/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マテリアルロックの封止ドアが破損して高圧作業室内の圧縮空気が開放されてマテリアルシャフト内に流入した場合でもアースバケットが圧縮空気で押し出されて飛翔しないように防止するケーソンのアースバケット飛翔防止構造であって、
前記高圧作業室で掘削された掘削土砂を搬出するアースバケットを挿通するための前記マテリアルシャフトは、内管と外管とからなる二重管マテリアルシャフトであり、
前記二重管マテリアルシャフトには、部分的に前記内管の代わりに所定ピッチで複数本の支柱が立設されて、数本の支柱同士の間に、シャフト内から外部へ連通して前記圧縮空気を逃がしてアースバケットの飛翔事故を防止することが可能な全開放のスリット部が形成されていること
を特徴とするケーソンのアースバケット飛翔防止構造。
【請求項2】
前記スリット部は、前記封止ドアの上部ロックドアよりも上方に形成されていること
を特徴とする請求項1に記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造。
【請求項3】
前記外管には、シャフト内からシャフト外へ連通して前記圧縮空気を逃がすことが可能な開口部が形成されていること
を特徴とする請求項1に記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造。
【請求項4】
ニューマチックケーソン工法における排土方法であって、
高圧作業室で掘削された掘削土砂を搬出するアースバケットを挿通するためのマテリアルシャフトは、請求項1ないし3のいずれかに記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造を有するとともに、
前記アースバケットの巻き上げ排土時には、前前記アースバケットが前記封止ドアの上部ロックドアを通過すると、前記封止ドアの下部ロックドアが閉鎖された状態でも前記上部ロックドアを閉鎖すること
を特徴とする排土方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーソンのアースバケット飛翔防止構造及びニューマチックケーソン工法における排土方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューマチックケーソン工法では、圧縮空気を高圧作業室内に送り込み、高圧作業室内で掘削した土砂は、マテリアルシャフトを通じてアースバケット等の排土設備で外部へ排出することで排土作業を行っている。また、アースバケット通過時には、上下一対のドアを開閉することで土砂搬出と気圧保持の両立を図っている。
【0003】
しかし、ニューマチックケーソン工法での掘削深さが深くなると、排土設備によりアースバケットで高圧作業室内から吊り上げる行程も長くなり、万が一アースバケットを吊り上げるワイヤロープが切断してしまった場合、落下する高さも高くなることが想定される。ワイヤロープが切断される事故が発生した際、最悪の場合、マテリアルロックの一対のドアの一方が開いた状態で高所からアースバケットが落下する事態が想定され、ドアが落下の衝撃で破壊されるおそれがある。その場合、高圧作業室内の高い気圧が一気に開放されて、マテリアルロックに流入し、土砂を積載したアースバケットがマテリアルロックから大砲のように外部に押し出されて飛翔してしまうような人命にかかわる大きな事故に繋がりかねない懸念がある。
【0004】
一方、マテリアルロックから出る排気音や漏気音は大きく、消音マフラーを装着するなどの対策が必要である。例えば、特許文献1には、上部ハッチ15と下部ハッチ16間にエアロック17を設け、このエアロック17に送気管18と排気管23とを取り付けたマテリアルロック9において、前記エアロック17の内部に、送気管18から供給される高圧空気によって発生する騒音を消去する消音装置を、前記エアロック17の内側周囲に略環状に設けて構成した消音機能付きマテリアルロックが開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0023]~[0044]、図面の図1図2等参照)。
【0005】
また、特許文献2には、消音ドームにおける防音ドアと筒状部の気密性が充分に得られ、また消音ドアに設けられたワイヤロープ挿通孔を略一様な大きさに維持し、漏気量の増大を防ぎ、また小型化できる消音・防音機能に優れたマテリアルロックの消音装置が開示されている(特許文献1の特許請求の範囲の請求項1、明細書の段落[0023]~[0032]、図面の図1図3等参照)。
【0006】
しかし、このような特許文献1の消音機能付きマテリアルロック及び特許文献2のマテリアルロックの消音装置は、あくまでも漏気に起因する音を小さくする消音装置であり、前述のワイヤロープの切断に起因するアースバケットの飛翔事故の問題について考えられたものでは無く、当然アースバケットの飛翔事故を防げるものでは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-143734号公報
【文献】特開2014-218790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、二重管マテリアルシャフトにおいてアースバケットの飛翔事故を確実に防止可能なケーソンのアースバケット飛翔防止構造及びニューマチックケーソン工法における排土方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造は、マテリアルロックの封止ドアが破損して高圧作業室内の圧縮空気が開放されてマテリアルシャフト内に流入した場合でもアースバケットが圧縮空気で押し出されて飛翔しないように防止するケーソンのアースバケット飛翔防止構造であって、前記高圧作業室で掘削された掘削土砂を搬出するアースバケットを挿通するための前記マテリアルシャフトは、内管と外管とからなる二重管マテリアルシャフトであり、前記二重管マテリアルシャフトには、部分的に前記内管の代わりに所定ピッチで複数本の支柱が立設されて、数本の支柱同士の間に、シャフト内から外部へ連通して前記圧縮空気を逃がしてアースバケットの飛翔事故を防止することが可能な全開放のスリット部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造は、請求項1に記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造において、前記スリット部は、前記封止ドアの上部ロックドアよりも上方に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造は、請求項1に記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造において、前記外管には、シャフト内からシャフト外へ連通して前記圧縮空気を逃がすことが可能な開口部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る排土方法は、ニューマチックケーソン工法における排土方法であって、
高圧作業室で掘削された掘削土砂を搬出するアースバケットを挿通するためのマテリアルシャフトは、請求項1ないし3のいずれかに記載のケーソンのアースバケット飛翔防止構造を有するとともに、前記アースバケットの巻き上げ排土時には、前記アースバケットが前記封止ドアの上部ロックドアを通過すると、前記封止ドアの下部ロックドアが閉鎖された状態でも前記上部ロックドアを閉鎖することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1~4に係る発明によれば、アースバケットのワイヤロープが切断されて土砂を積載した状態の重いアースバケットが落下してマテリアルロックの封止ドアが破損して高圧作業室内の圧縮空気が開放されてマテリアルシャフト内に流入した場合であっても、土砂を積載したアースバケットがマテリアルロックから大砲のように外部に押し出されて飛翔してしまうような人命にかかわる大事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造を適用したケーソン用シャフト全体を模式的に示す透視側面図である。
図2図2は、同上のケーソン用シャフトの二重管シャフト単体を示す透視正面図である。
図3図3は、同上の二重管シャフト単体を示す平面図である。
図4図4は、同上のケーソン用シャフトのスリットシャフト単体を示す透視正面図である。
図5図5は、同上のスリットシャフト単体を示す平面図である。
図6図6は、同上のケーソン用シャフトの排気シャフト単体を示す透視正面図である。
図7図7は、同上の排気シャフト単体を示す水平断面図である。
図8図8は、従来の排土方法によるケーソン用シャフトの巻き上げ排土時の封止ドアの開閉運用状況を示す模式断面図である。
図9図9は、同上のケーソン用シャフトのワイヤロープ切断時の事故発生状況を示す模式断面図である。
図10図10は、本発明の実施形態に係る排土方法によるケーソン用シャフトの巻き上げ排土時の封止ドアの開閉運用状況を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造及び排土方法の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[ケーソンのアースバケット飛翔防止構造]
(ケーソン用シャフト)
先ず、図1を用いて、本発明の実施形態に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造1(以下、単にアースバケット飛翔防止構造1ともいう)を適用したケーソン用シャフト100について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造1を適用したケーソン用シャフト100全体を模式的に示す透視正面図である。なお、符号5は、高圧作業室5を示している。
【0017】
本実施形態として説明するケーソン用シャフト100は、ケーソン躯体の断面積が大きく、且つ、大深度に対応するためにロック部を下部に配置した円筒状の内管と外管とからなる下置きロック設備の二重管マテリアルシャフトを例示して説明する。勿論、本発明に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造は、大規模な下置きロック設備の二重管マテリアルシャフトに限られず、一般的な規模のケーソンの単独のマテリアルシャフトにも適用可能である。但し、大深度になると作業室内の圧力も高くなり、アースバケットの飛翔事故の問題も顕著となる。
【0018】
ケーソン用シャフト100は、図1に示すように、内管2と外管3とからなる二重管形式の後述の二重管シャフト10を基本形態とするマテリアルシャフトであり、最高使用圧力が0.9MPa程度を想定した大規模、大深度のケーソン用シャフトである。このケーソン用シャフト100は、ケーソン躯体200に接続する下端から説明すると、ケーソンのコンクリート打設時に重いロック部の代わりに設置する内フランジ構造のスペシャルシャフト11と、ボトムドア12aを有するボトムドア室12を備えている。このボトムドア12aは、内管2及び外管3の両方を封止する封止ドアである。
【0019】
そして、ケーソン用シャフト100には、ロック部として下部ロックドア13aを有する下ロック室13、下部ロックドア13aと上部ロックドア15aとの間のスペースを確保する中間ロック室14、上部ロックドア15aを有する上ロック室15が設けられている。
【0020】
この下部ロックドア13aは、内管2を封止する封止ドアであり、上部ロックドア15aは、内管2及び外管3を封止する封止ドアとなっている。
【0021】
また、図示するケーソン用シャフト100は、前述のように、掘削深度が深い大深度対応のケーソン用シャフを例示しているため、後で詳述するワイヤロープ切断時を想定して、前述のロック部の下部ロックドア13aに加え、追加ロックドア17aを有する中間ドア室17が設けられている。この追加ロックドア17aは、上部ロックドア15aと同様に、内管2及び外管3を封止する封止ドアとなっている。
【0022】
そして、この中間ドア室17と前述の上ロック室15との間には、後で詳述するスリットシャフト16と排気シャフト16’が連続して設置されている。このスリットシャフト16と排気シャフト16’は、いずれも二重管シャフト10を基体とするシャフトであり、内管2に代わり背景技術で述べたワイヤロープ切断時にアースバケット(EB)が落下して上部ロックドア15aが破損して高圧作業室5から内管2内に圧縮空気が流入した際に、内管2から外管3へ連通して圧縮空気を逃がすことが可能なスリットが形成されている。
【0023】
また、排気シャフト16’には、外管3にも二重管シャフト10にシャフト内から外部へ連通して圧縮空気を逃がすことが可能な開口部16a’が形成されている。なお、符号16b’は、背景技術で述べた排気音や漏気音を低減する消音マフラー16b’である。
【0024】
さらに、中間ドア室17の上には、二重管シャフト10の外周に、ロック部の動作に必要な各種ユニット18aを載置するブラケット部18bが設けられたユニットシャフト18が設けられている。そして、ユニットシャフト18の上方には、前述のスリットシャフト16が設けられているとともに、スリットシャフト16の上方には、二重管シャフト10が2段設けられている。
【0025】
また、ケーソン用シャフト100の上部となる2段の二重管シャフト10の上方には、前述の排気シャフト16’が設けられている。
【0026】
なお、ケーソン用シャフト100の最上段には、油圧ユニット19aや操作機器類が設置された上部シャフト19が設けられ、この上部シャフト19の周りには、踊り場19bが形成されている。
【0027】
(二重管シャフト)
次に、図2図3を用いて、前述のケーソン用シャフト100の一般シャフトである二重管シャフト10について詳細に説明する。図2は、ケーソン用シャフト100の二重管シャフト10単体を示す透視正面図であり、図3は、二重管シャフト10単体を示す平面図である。
【0028】
図2図3に示すように、二重管シャフト10は、内管2を構成する厚さ6mmの鋼板からなる筒状の内筒部20と、その内筒部20の上端に溶接で接合された幅75mm厚さ19mmのフラットバーからなる上フランジ21と、内筒部20の下端に溶接で接合された幅75mm厚さ19mmのフラットバーからなる下フランジ22を備えている。なお、本実施形態に係る二重管シャフト10では、内筒部20は、高さ2000mm×内径D1=1200mmに設定されている。
【0029】
この上フランジ21及び下フランジ22は、図3に示すように、他のシャフトとボルト接合するための複数のボルト孔21a(22a)がそれぞれ穿設されている。また、図2図3に示すように、上フランジ21及び下フランジ22は、補剛材としてフランジリブ23,24を介して内筒部20に直交するように接合されている。
【0030】
さらに、二重管シャフト10は、厚さ12mmの鋼板からなる筒状の外筒部30と、その外筒部30の上端に溶接で接合された幅90mm厚さ25mmのフラットバーからなる上フランジ31と、外筒部30の下端に溶接で接合された幅90mm厚さ25mmのフラットバーからなる下フランジ32を備えている。この外筒部30は、高さ2000mm×外形D2=2332mmに設定されている。
【0031】
この上フランジ31及び下フランジ32は、図3に示すように、他のシャフトとボルト接合するための複数のボルト孔31a(32a)がそれぞれ穿設されているとともに、図2図3に示すように、上フランジ31及び下フランジ32は、補剛材としてフランジリブ33,34を介して外筒部30に直交するように接合されている。
【0032】
二重管シャフト10は、前述の内筒部20と外筒部30との間の断面ドーナツ状の空間が外管3となっており、この外管3には、昇降用の垂直タラップ35が形成されている。
【0033】
なお、符号36は、ケーソン用シャフト100の組立及び二重管シャフト10の揚重の際にシャックル等を掛け止めるための厚さ16mmの鋼板からなる吊り金具36である。また、符号Pは、外管3に設置されている各種の配管Pを示しており、符号37は、二重管シャフト10の内筒部20と外筒部30とを繋ぐ厚さ4mmの鋼板からなるシャフト繋ぎ材37である。
【0034】
(スリットシャフト)
次に、図4図5を用いて、前述のケーソン用シャフト100のスリットシャフト16について説明する。図4は、ケーソン用シャフト100のスリットシャフト16単体を示す透視正面図であり、図5は、スリットシャフト16単体を示す平面図である。本実施形態に係るスリットシャフト16が、前述の二重管シャフト10と相違する点は、主に、内筒部20の代わりに所定ピッチで立設された8本の支柱20’となっている点なので、その点を中心に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0035】
図4図5に示すように、スリットシャフト16には、内筒部20がなく代わりに、板厚6mmの100mm×100mmの角形鋼管からなる8本の支柱20’で上フランジ21及び下フランジ22が支持しており、支柱20’同士の間が全開放のスリット部2aとなっている(図6も参照)。このため、スリットシャフト16は、内管2のシャフト内から支柱20’同士の間のスリット部2aから外部へ連通して、圧縮空気を逃がすことが可能となっている。このため、後述のように、アースバケットEBを吊り上げるワイヤロープが切断されて土砂を積載したアースバケットEBが落下し、その衝撃で下部ロックドア13aが破壊された場合であっても、圧縮空気を内管2からそれより大きな空間である外管3に逃がすことができ、アースバケットEBの飛翔事故を確実に防止することができる。
【0036】
なお、スリットシャフト16は、図1に示すように、上部ロックドア15a及び追加ロックドア17aの上方にそれぞれ設けられている。このため、スリット部2aは、封止ドアである上部ロックドア15a及び追加ロックドア17aの上方に形成されていることになり、上部ロックドア15aや追加ロックドア17aが万が一事故で損傷した場合の圧縮空気をその直上で内管2から外管3に逃がすことができることになる(図9も参照)。
【0037】
(排気シャフト)
次に、図6図7を用いて、前述のケーソン用シャフト100の排気シャフト16’について説明する。図6は、ケーソン用シャフト100の排気シャフト16’単体を示す透視正面図であり、図7は、排気シャフト16’単体を示す水平断面図である。本実施形態に係る排気シャフト16’が、前述のスリットシャフト16と相違する点は、主に、外筒部30に開口部3aが形成されている点なので、その点を中心に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0038】
図6図7に示すように、排気シャフト16’の外筒部30には、639mm×1100mmの矩形の開口部3aが形成されており、上部ロックドア15aや追加ロックドア17aが万が一事故で損傷した場合の圧縮空気を外管3からシャフト外に逃がすことができる(図9も参照)。
【0039】
この開口部3aは、外部から厚さ3mmのゴム板38で塞がれている。また、このゴム板38は、上部が外筒部30にボルト接合されており、下部がマグネットシート39で外筒部30の外表面に磁力で磁着されている。このため、ゴム板38は、マグネットシート39の磁力を超えて圧力がかかった場合に、外側へ開放自在となっており、圧縮空気が流入した場合に、外管3(外筒部30)からシャフト外に逃がすことができる構成となっている。
【0040】
[排土方法]
次に、図8図10を用いて、本発明の実施形態に係る排土方法について説明する。前述のアースバケット飛翔防止構造1を適用したケーソン用シャフト100を用いて、排土する場合を例示して説明する。図8は、従来の排土方法によるケーソン用シャフト100の巻き上げ排土時の封止ドアの開閉運用状況を示す模式断面図であり、図9は、ワイヤロープ切断時の事故発生状況を示す模式断面図である。また、図10は、本発明の実施形態に係る排土方法によるケーソン用シャフト100の巻き上げ排土時の封止ドアの開閉運用状況を示す模式断面図である。
【0041】
図8に示すように、従来の排土方法では、ケーソン用シャフト100の巻き上げ排土時の封止ドアの開閉運用状況では、アースバケットEBに土砂を積載して排土施設である構造用クレーン(図示せず)でワイヤロープを巻き上げる際には、マテリアルロックである下部ロックドア13aを閉じ、上部ロックドア15aを開いた状態において、構造用クレーンで巻き上げて排土していた。その理由は、高圧作業室の圧縮空気は、下部ロックドア13aで封止されているので、圧気状態が保持されており、アースバケットEBを吊り上げて排土する作業に支障がないからである。
【0042】
しかし、背景技術で述べたように、構造用クレーン等で不具合が生じ、アースバケットEBを吊り上げるワイヤロープが切断された場合、図9に示すように、土砂を積載したアースバケットEBが落下して、その衝撃で下部ロックドア13aが破壊されることで高圧作業室の高い気圧が一気に開放されて、内管2に流入し、土砂を積載したアースバケットEBが内管2から大砲のように外部に押し出されて飛翔してしまう事故が発生するおそれがある。特に、スリムケーソンなどの小規模ケーソンは、比較的狭隘な住宅密集地においても施工されるものであり、万が一アースバケットの飛翔事故が発生した場合に重大な事故になりかねないという問題が顕著であった。
【0043】
しかし、本実施形態に係るケーソン用シャフト100では、前述のように、スリットシャフト16に、内管2内から外部の外管3へ連通して圧縮空気を逃がすことが可能なスリット部2aが形成されている。このため、アースバケットEBを吊り上げるワイヤロープが切断されて土砂を積載したアースバケットEBが落下し、その衝撃で下部ロックドア13aが破壊された場合であっても、圧縮空気を内管2からそれより大きな空間である外管3に逃がすことができるとともに、排気シャフト16’の開口部3aからシャフト外へ逃がすことができる。このため、アースバケット飛翔防止構造1によれば、アースバケットEBの飛翔事故を確実に防止することができる。
【0044】
その上、本発明の実施形態に係る排土方法では、図10に示すように、ケーソン用シャフト100の巻き上げ排土時の封止ドアは、下部ロックドア13aを閉じた後、上部ロックドア15aをアースバケットEBが通過すると上部ロックドア15aも閉鎖する。このため、万が一、アースバケットEBを吊り上げるワイヤロープが切断された場合に上部ロックドア15aが破壊されても下部ロックドア13aで高圧作業室の高い気圧が内管2に流入されることを防ぐことができる。
【0045】
なお、本実施形態に係る排土方法では、アースバケットEBが通過すると上部ロックドア15aに加え、新たに追加した追加ロックドア17aも閉鎖する。アースバケットの飛翔事故の確率をさらに低減することができるからである。しかし、追加ロックドア17aは閉鎖しなくても構わない。上部ロックドア15aと下部ロックドア13aを閉鎖することで既に二重ロックとなりフェイルセーフとして充分機能するからである。
【0046】
以上説明した本発明の実施形態に係るアースバケット飛翔防止構造1では、スリットシャフト16にスリット部2a及び排気シャフト16’に開口部3aが形成されているので、アースバケットEBを吊り上げるワイヤロープが切断されて土砂を積載したアースバケットEBが落下し、その衝撃で下部ロックドア13aが破壊された場合であっても、圧縮空気を内管2からそれより大きな空間である外管3及びシャフト外に逃がすことができ、アースバケットEBの飛翔事故を確実に防止することができる。
【0047】
その上本発明の実施形態に係る、排土方法では、ケーソン用シャフト100の巻き上げ排土時に、下部ロックドア13aを閉じた後、上部ロックドア15aをアースバケットEBが通過すると上部ロックドア15aも閉鎖するので、万が一、上部ロックドア15aが破壊されても下部ロックドア13aで高圧作業室の高い気圧が内管2に流入されることを防ぐことができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態に係るケーソンのアースバケット飛翔防止構造1及びそれを用いた排土方法について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0049】
100:ケーソン用シャフト(マテリアルシャフト)
200:ケーソン躯体
EB:アースバケット
P:配管
1:(ケーソンの)アースバケット飛翔防止構造
10:二重管シャフト
11:スペシャルシャフト
12:ボトムドア室
12a:ボトムドア
13:下ロック室
13a:下ロックドア(マテリアルロックの封止ドア)
14:中間ロック室
15:上ロック室
15a:上ロックドア(マテリアルロックの封止ドア)
16:スリットシャフト
16’:排気シャフト
16a’:開口部
16b’:消音マフラー
17:中間ドア室
17a:追加ロックドア
18:ユニットシャフト
18a:ユニット
18b:ブラケット部
19:上部シャフト
19a:油圧ユニット
19b:踊り場
2:内管
2a:スリット部
20:内筒部
20’:支柱
21:上フランジ
21a:ボルト孔
22:下フランジ
23,24:フランジリブ
3:外管
30:外筒部
3a:開口部
31:上フランジ
31a:ボルト孔
32:下フランジ
33,34:フランジリブ
35:垂直タラップ
36:吊り金具
37:シャフト繋ぎ材
38:ゴム板
39:マグネットシート
5:高圧作業室
【要約】
【課題】アースバケットの飛翔事故を確実に防止可能なケーソンのアースバケット飛翔防止構造及びニューマチックケーソン工法における排土方法を提供する。
【解決手段】マテリアルロックの封止ドアが破損して高圧作業室内の圧縮空気が開放されてマテリアルシャフト内に流入した場合でもアースバケットが圧縮空気で押し出されて飛翔しないように防止するケーソンのアースバケット飛翔防止構造において、高圧作業室で掘削された掘削土砂を搬出するアースバケットを挿通するためのマテリアルシャフトは、内管2と外管3とからなる二重管マテリアルシャフトであり、前記二重管マテリアルシャフトの内管2に、シャフト内から外部へ連通して前記圧縮空気を逃がすことが可能なスリット部2aを形成する。
【選択図】図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10