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特許7521154二次電池システムおよび二次電池の異常劣化予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】二次電池システムおよび二次電池の異常劣化予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240717BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240717BHJP
   H01M 10/42 20060101ALN20240717BHJP
   H02J 7/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023035739
(22)【出願日】2023-03-08
【審査請求日】2024-03-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323002912
【氏名又は名称】EC SENSING株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 哲彌
(72)【発明者】
【氏名】蘇 奕逹
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/083813(WO,A1)
【文献】特開2015-21774(JP,A)
【文献】特開2023-13954(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111638465(CN,A)
【文献】特開2023-12196(JP,A)
【文献】特開2012-212513(JP,A)
【文献】特開2011-252930(JP,A)
【文献】特開2022-139501(JP,A)
【文献】国際公開第2014/155726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36
H01M 10/42
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通常劣化する複数の第1の電池、および、異常劣化する複数の第2の電池、の充放電試験で得られた、容量の変化に対するコールコールプロットデータの変化、を教師データとして学習したAIモデルを記憶した記憶部と、
第3の電池の前記コールコールプロットデータを測定する測定部と、
前記第3の電池の前記コールコールプロットデータを、前記AIモデルに入力することで前記第3の電池の前記異常劣化の発生を、前記異常劣化が発生する前に予測する演算部と、を具備し、
前記異常劣化する電池の前記容量は、充放電回数が少ないときは、前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少しているが、前記充放電回数が増加すると、前記直線の値よりも小さくなり、前記通常劣化する電池の前記容量は、前記異常劣化する電池の前記容量が前記直線の値よりも小さくなる充電回数においても前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少し、
前記複数の第2の電池は、前記第1の電池と同じ仕様の複数の電池が、過充電処理、または、過放電処理のそれぞれによって、劣化処理された複数の電池を含むことを特徴とする二次電池システム。
【請求項2】
前記複数の第2の電池が、高温充放電処理、または、低温充放電処理のそれぞれによって、劣化処理された複数の電池を含むことを特徴とする請求項1に記載の二次電池システム。
【請求項3】
同じ仕様の電池が、前記劣化処理された結果、前記異常劣化が発生した電池が前記第2の電池であり、前記異常劣化が発生しなかった電池が前記第1の電池であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池システム。
【請求項4】
前記演算部に、前記第3の電池の前記充放電回数は入力されないことを特徴とする請求項3に記載の二次電池システム。
【請求項5】
前記コールコールプロットデータが、複素インピーダンス値であることを特徴とする請求項4に記載の二次電池システム。
【請求項6】
前記コールコールプロットデータが、等価回路をもとにしたカーブフィッティング処理によって取得されたパラメータデータであることを特徴とする請求項4に記載の二次電池システム。
【請求項7】
前記コールコールプロットデータが、カーブフィッティング処理によって取得された曲線形状データであることを特徴とする請求項4に記載の二次電池システム。
【請求項8】
前記第1の電池、前記第2の電池、および、前記第3の電池のそれぞれが、複数の電池を含む組電池であることを特徴とする請求項3に記載の二次電池システム。
【請求項9】
通常劣化する複数の第1の電池、および、異常劣化する複数の第2の電池、の充放電試験で得られた、容量の変化に対するコールコールプロットデータの変化、を教師データとして学習したAIモデルを記憶し、
第3の電池のコールコールプロットデータを測定し、
前記第3の電池の前記コールコールプロットデータを、前記AIモデルに入力することで前記第3の電池の前記異常劣化の発生を、前記異常劣化が発生する前に予測し、
前記異常劣化する電池の前記容量は、充放電回数が少ないときは、前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少しているが、前記充放電回数が増加すると、前記直線の値よりも小さくなり、前記通常劣化する電池の前記容量は、前記異常劣化する電池の前記容量が前記直線の値よりも小さくなる充電回数においても前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少し、
前記複数の第2の電池は、前記第1の電池と同じ仕様の複数の電池が、過充電処理、または、過放電処理のそれぞれによって、劣化処理された複数の電池を含むことを特徴とする二次電池の異常劣化予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二次電池の異常劣化を予測する二次電池システム、および、二次電池の異常劣化予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器、電動工具および電気自動車等に二次電池が用いられている二次電池の中でリチウムイオン電池は、リチウムのイオン化傾向が大きいことから、高電圧、高出力、高エネルギー密度である。リチウムイオン電池は、定置用電源および非常用電源などの大型電源への応用も期待されている。
【0003】
二次は、充放電回数が増加すると、ルート則に従って容量が徐々に減少することが知られている。ルート則劣化では、縦軸に容量を、横軸に充放電回数のルート(0.5乘)をプロットすると、容量は、直線に沿って減少する。この通常の劣化を「正常劣化」という。
【0004】
これに対して、多数の電池の中には、充放電回数が、ある回数を超えると、通常の電池よりも容量が異常に大きく減少する「異常劣化」電池が存在する。すなわち、異常劣化電池では、充放電回数が少ないときは、容量はルート則に従って減少しているが、充放電回数が増加すると、容量は、ルート則の値よりも小さくなる。
【0005】
日本国特開2021-77516号公報には、異常劣化の発生を、負極の電気二重層容量をもとに予測する電池システムが開示されている。この電池システムでは、事前に測定した正常劣化する電池の電気二重層容量と、測定した電池の電気二重層容量と比較することによって、異常減少が発生する前に、異常減少の発生を予測する。
【0006】
しかし、この電池システムでは、同じ充放電回数の正常劣化する電池との比較によって予測しているため、充放電回数が不明の電池の予測はできなかった。また、電池容量が異常減少する異常劣化の要因は様々であるため、電気二重層容量だけで全ての電池の異常劣化を予測することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-77516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施形態は、二次電池の異常劣化の発生を予測する二次電池システム、および、二次電池の異常劣化予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態の二次電池システムは、通常劣化する複数の第1の電池、および、異常劣化する複数の第2の電池、の充放電試験で得られた、容量の変化に対するコールコールプロットデータの変化、を教師データとして学習したAIモデルを記憶した記憶部と、第3の電池のコールコールプロットデータを測定する測定部と、前記第3の電池の前記コールコールプロットデータを、前記AIモデルに入力することで前記第3の電池の前記異常劣化が発生する前に予測する演算部と、を具備し、前記異常劣化する電池の前記容量は、充放電回数が少ないときは、前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少しているが、前記充放電回数が増加すると、前記直線の値よりも小さくなり、前記通常劣化する電池の前記容量は、前記異常劣化する電池の前記容量が前記直線の値よりも小さくなる充電回数においても前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少し、前記複数の第2の電池は、前記第1の電池と同じ仕様の複数の電池が、過充電処理、または、過放電処理のそれぞれによって、劣化処理された複数の電池を含む。
【0010】
別の実施形態の二次電池の異常劣化予測方法は、通常劣化する複数の第1の電池、および、異常劣化する複数の第2の電池、の充放電試験で得られた、容量の変化に対するコールコールプロットデータの変化、を教師データとして学習したAIモデルを記憶し、第3の電池のコールコールプロットデータを測定し、前記第3の電池の前記コールコールプロットデータを、前記AIモデルに入力することで前記第3の電池の前記異常劣化が発生する前に予測し、前記異常劣化する電池の前記容量は、充放電回数が少ないときは、前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少しているが、前記充放電回数が増加すると、前記直線の値よりも小さくなり、前記通常劣化する電池の前記容量は、前記異常劣化する電池の前記容量が前記直線の値よりも小さくなる充電回数においても前記充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少し、前記複数の第2の電池は、前記第1の電池と同じ仕様の複数の電池が、過充電処理、または、過放電処理のそれぞれによって、劣化処理された複数の電池を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、二次電池の異常劣化の発生を予測する二次電池システム、および、二次電池の異常劣化予測方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の二次電池システムの構成図である。
図2】電池の充放電回数に対する充放電容量の変化を示すグラフである。
図3】電池のコールコールプロットの一例である。
図4】実施形態の電池の異常劣化予測方法のフローチャートである。
図5】電池の充放電回数に対する充放電容量の変化を示すグラフである。
図6】電池の充放電回数に対する充放電容量の変化を示すグラフである。
図7】変形例1の二次電池システムの異常劣化予測方法に用いる等価回路である。
図8】変形例2の二次電池システムのコールコールプロット図形の一例である。
図9】変形例3の電池二次電池システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<二次電池システムの構成>
図1に示すように、実施形態の二次電池システム(電池システム)1は、評価対象電池である第3の電池10と、制御ユニット(CPU)30と、電源40と、を具備する。第3の電池10および電源40は図示しない負荷(モーター等)と接続されている。
【0014】
第3の電池10は、例えば、リチウムイオンを吸蔵/放出する正極と、電解質と、セパレータと、リチウムイオンを吸蔵/放出する負極と、からなる単位セルを有するリチウムイオン電池である。正極はニッケル酸化物、コバルト酸化物等の遷移金属酸化物を含有している。負極は例えば炭素材料を含有している。セパレータは例えばポリオレフィンからなる。電解質は例えばLiPFを環状および鎖状カーボネートに溶解した電解質である。
【0015】
電源40は、第3の電池10に充電電流を印加する。制御ユニット30は、記憶部であるメモリ31と、コントローラ32と、測定部である測定回路33と、演算手段である演算回路34と、信号発生部である信号発生回路36と、を含む。記憶部であるメモリ31は、電池システム1の制御データおよび後述するAIモデル(以下、「モデル」という。)を記憶している。モデルは、複数の第1の電池11および複数の第2の電池12のインピーダンスデータを教師データとして学習している。
【0016】
制御部であるコントローラ32は、電池システム1の全体を制御する。測定部である測定回路33は第3の電池10の複数の周波数における複素インピーダンス(Z`、Z``)を測定する。演算部である演算回路34は複素インピーダンスをもとに、メモリ31から読み込んだAIモデルを用いて異常劣化の発生を予測する。コントローラ32は、演算回路34の出力をもとに、警告信号を発生する。
【0017】
なお、メモリ31と、コントローラ32と、6と、演算回路34と、カウンタ35と、信号発生回路36と、は独立した回路でもよいし、これらは、プログラムにもとづきCPU30が行う機能でもよい。電池システム1が別体の他のシステムの一部として使用されている場合等において、他のシステムのCPUを、CPU30として用いてもよい。他のシステムは、複数の電池システム1が共通に用いるクラウドシステムでもよい。
【0018】
後述するように、電池システム1の演算回路34のAIモデルは、複数の電池システム1の共通データであり、それぞれの電池システム1を製造する前に取得される。電池システム1は、モデルを作成し、学習する機能を有している必要は無い。
【0019】
また、電池システム1が測定回路33で測定した第3の電池10のデータを、クラウドシステムのサーバーに送信してもよい。サーバーの演算部が、電池システム1から受信した第3の電池10のデータを、サーバーのAIモデルを用いて異常劣化の発生を予測し、コントローラ32が、サーバーからの信号をもとに、警告信号を発生してもよい。
【0020】
図2に、電池Aおよび電池Bの、充放電回数に対する充放電容量の変化を示す。電池Aは複数の第1の電池11のうちの1つである。電池Bは複数の第2の電池12のうちの1つである。電池Aは、充放電回数の増加にともない充放電容量がルート則にそって徐々に減少している。
【0021】
これに対して、電池Bでは、充放電回数25回までは、電池Aと略同じように充放電容量がルート則にそって減少しているが、充放電回数25回超では充放電容量が急激に減少している。充放電回数25回超の容量減少は、充放電回数25回未満の充放電容量と充放電回数の関係式よりも小さくなっている異常劣化である。
【0022】
例えば、図2に示した電池Bは、電池Aと同じ仕様の電池を、過放電処理することによって作製されている。具体的には、電池Aの放電下限電圧は、3.0Vであるのに対して、電池Bは、下限電圧1.0Vの条件で充放電が行われている。
【0023】
図3に、電池A(第1の電池11)および電池B(第2の電池12)の、充放電回数によるコールコールプロットを示す。
【0024】
コールコールプロットは交流インピーダンス法によって取得される。交流インピーダンス法では、電池に対し直流電圧に微小な交流電圧を重畳させた電圧信号が印加され、その応答信号から複素インピーダンスが測定される。交流インピーダンス法は、印加する交流電圧が小さいので、測定対象の電池の状態を変化させることなく複素インピーダンスを測定できる。
【0025】
直流電圧成分は、測定する電池の電圧程度に設定される。また、重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される。なお重畳する交流電圧成分は、電池の特性に影響を与えない程度の電圧に設定される交流電流を用いても良い。
【0026】
交流インピーダンス測定法では、電池に印加する電圧信号の交流電圧の周波数を高い周波数から低い周波数へ掃引し、所定の周波数間隔で、各周波数における電池の複素インピーダンスを測定する。電池に矩形波信号を印加し、その応答信号をフーリエ変換することによって、複数の周波数における複素インピーダンスを取得してもよい。
【0027】
コールコールプロットデータを取得ための交流インピーダンス測定は以下の条件にて行った。
【0028】
周波数測定範囲:10kHz~10mHz
電圧振幅:10mV
温度:25℃
【0029】
測定された複素インピーダンスの周波数特性は、実数軸を抵抗成分、虚数軸をリアクタンス成分(容量成分)とする複素平面図に表すことができる。
【0030】
図3において、マークA1~A3は、図1に示した充放電回数における電池Aのコールコールプロットである。マークB1~B3は、図1に示した充放電回数における電池Bのコールコールプロットである。
【0031】
マークA1、A2、A3およびマークB1のコールコールプロットには、大きな変化は見られない。しかし、マークB2のコールコールプロットは、マークB1のコールコールプロットから大きく変化している。
【0032】
このため、電池システム1では、マークB2のコールコールプロットを教師モデルとして学習したAIモデルを用いることによって、マークB1のコールコールプロットと類似のコールコールプロットの電池の容量の異常減少の発生が予測できる。
【0033】
上記AIモデルで予測できるのは、過放電処理によって劣化した電池の異常劣化だけである。しかし、種々の異なる劣化処理を行い、異常劣化する種々の電池のコールコールプロットを教師モデルとして学習したAIモデルは、種々の原因による電池の異常劣化の発生を予測できる。また、充放電回数が不明の電池であっても、電池の異常劣化の発生を予測できる。
【0034】
<電池システムの動作>
図4のフローチャートにそって、電池システム1の電池の異常劣化予測方法について説明する。
【0035】
<ステップS10>第2の電池12の作製
第2の電池12は、第1の電池11を劣化処理することで作製される。劣化処理は、通常の使用条件を超えた条件で行われる劣化加速処理である。劣化加速処理によって、容量が、充放電回数が少ないときは、充放電回数の0.5乗の直線に沿って減少しているが、充放電回数が増加すると、前記直線の値よりも小さくなる第2の電池12が作製される。
【0036】
過充電処理は、通常の充電処理における上限電圧超まで、例えば4.2V超の4.4Vまで行う充電処理である。過放電処理は、通常の放電処理における下限電圧未満、例えば3V未満の1Vまで行う放電処理である。過充電処理/過放電処理の回数は、10回以上が好ましく、50回以上が特に好ましい。
【0037】
高温充放電処理は、通常の使用許容温度超の温度、例えば、60℃における充放電処理である。低温充放電処理は、通常の使用許容温度未満の温度、例えば、-10℃での充放電処理である。
【0038】
本実施形態の複数の第2の電池12には、例えば、過充電処理、過放電処理、高温充放電処理、または、低温充放電処理を行った複数の第1の電池11が含まれている。
【0039】
第1電池11に、複数の劣化加速処理を同時に行ってもよい。例えば、通常の使用許容温度超の高温にて、第1の電池11に過充電処理/過放電処理を行ってもよい。
【0040】
劣化加速処理は、上記処理に限られるものではなく、機械的衝撃処理、高温放置試験、低温放置試験、急加熱/急冷を行うサーマルショック処理等の公知の劣化加速処理が含まれていてもよい。
【0041】
なお、劣化加速処理を行った全ての第1の電池11が、異常劣化する第2の電池12となる訳ではない。劣化加速処理によって、初期の容量が異常に小さくなったり、充放電試験における容量の減少速度が速くなったりする本発明の異常劣化とは異なる劣化状態となる電池も含まれている。
【0042】
すなわち、この段階では、どの電池が、充放電容量が異常減少するかを予測することはできない。このため、複数の第1の電池11を測定し、容量が異常減少した電池を第2の電池12とする。
【0043】
通常条件の充放電処理を行った電池でも、充放電回数がその電池の寿命を超えると、異常劣化現象が発生することがある。このような電池も第2の電池12と見なしてよい。
【0044】
<ステップS20>第1の電池11および第2の電池12の測定
複数の第1の電池11および複数の第2の電池12の充放電サイクル試験が行われて、充放電容量および複素インピーダンス値が所定回数の充放電毎に測定される。
【0045】
例えば、複素インピーダンス測定のための交流正弦波信号が充電中または放電中の電池に電源40から印加される。測定回路33によって容量および放電容量の両方が測定され、2つの容量を平均化することによって充放電容量が取得される。なお、容量と放電容量とは略同じであるため、容量または放電容量のいずれかを測定して、その容量を充放電容量として用いてもよい。
【0046】
測定頻度は、特に限定されるものではなく、例えば、10回以上100回以下の充放電毎に測定が行われる。
【0047】
例えば、図5に示す充放電試験において、第2の電池12は、第1の電池11を、過放電処理することによって劣化している。
【0048】
例えば、図6に示す充放電試験において、第2の電池12は、第1の電池11を、10℃にて充放電することによって劣化している。
【0049】
<ステップS30>機械学習
複数の第1の電池11の全てのコールプロットデータには、正解値「0」を付して教師データとする。第2の電池12の異常劣化が発生したのが充放電回数Nの場合、充放電回数Nから、充放電回数NよりもK回前の以前の充放電回数のコールコールプロットデータには、正解値「0」を付して教師データとする、すなわち、コールコールプロットデータに変化がない、充放電回数が、1回から(N-K)回のコールコールプロットデータの正解値は「0」である。
【0050】
これに対して、充放電回数が、(N-K)回から、(N-1)回のコールコールプロットデータには、正解値「1」を付して教師データとする。(N-K)回から、(N-1)回のコールコールプロットデータには、異常劣化の予測に資する変化がある。
【0051】
なお、複数の第2の電池12の異常劣化が発生した充放電回数N以降のコールコールプロットデータには正解値「2」を付して教師データとしてもよい。
【0052】
回数Kは適宜設定されるが、例えば、10以上50以下である。回数Kが前記範囲以上であれば、早期に異常減少を予測できる。回数Kが前記範囲以下であれば、異常減少の予測精度が担保される。
【0053】
教師データとして、データオーグメンテーション法を用いて、教師データの数を増加してもよい。
【0054】
<ステップS40>AIモデル記憶
学習済みのAIモデルが、電池システム1のメモリ31に記憶される。
【0055】
<ステップS50>第3の電池の測定
コントローラ32の制御によって、電源40がメモリ31に記憶されている条件の測定信号を、測定対象の第3の電池10に印加し、第3の電池10の複素インピーダンスが測定回路33によって測定される。
【0056】
第3の電池10の測定は、所定の充放電回数毎、負荷(モーター等)の起動時、終了時、または、ユーザーの操作により任意のタイミングで行われる。
【0057】
<ステップS60>AI演算
測定された複素インピーダンスデータが、演算回路34の学習済みのAIモデルに入力され、AI演算が行われる。AIモデルの出力値は、例えば、陽性確率P(0≦P≦1)である。陽性確率P=1は、「異常劣化前兆の可能性100%」を意味する。陽性確率P=0は、「異常劣化前兆の可能性0%」を意味する。
【0058】
なお、電池システム1では、演算回路34に、第3の電池10の充放電回数は入力されない。すなわち、第3の電池10の充放電回数は、AI演算には用いられない。
【0059】
<ステップS70>判定(劣化予兆あり?)
コントローラ32は、陽性確率Pが所定の閾値P1未満の場合(No)にはコントローラ32は、第3の電池10は正常であると判定し、ステップS50に移行し、再度、第1の電池11の測定指示があるまで待機する。所定の閾値P1は、例えば、0.5である。
【0060】
これに対して、陽性確率Pが所定の閾値P1超の場合(YES)には、コントローラ32は、第3の電池10は充放電容量が急激に減少する前兆現象であると判定し、処理はステップS80に移行する。
【0061】
なお、複数の第2の電池12の異常劣化が発生した充放電回数N以降の放電回数のコールコールプロットデータには正解値「2」を付して教師データとした場合のAIモデルの出力値は、例えば、陽性確率P(0≦P≦2)である。
【0062】
<ステップS80>警告信号発生
例えば、信号発生回路36が、警告信号を発生する。警告信号によって告知手段であるランプ(不図示)等が点灯する。このため、警告信号によって、第3の電池10の充放電容量が近い将来、急激に減少することが使用者等に伝達される。このため、実際に第3の電池10の充放電容量が減少する前に、別の電池に交換することができる。
【0063】
すでに説明したように、ステップS10~ステップS40は、電池システム1の製造工程で行われる複数の電池システム1の共通工程である。さらに、ステップS50~S80が第3の電池10の工場等で行われる定期検査工程の場合には、CPU30および電源40等も、複数の第3の電池10の共通構成であり、検査後に良品と予測された第3の電池10が再使用される。
【0064】
以上の説明のように、本実施形態の電池の異常劣化予測方法によれば、電池の充放電容量の異常減少の発生を予測できる。
【0065】
<第1実施形態の変形例>
第1実施形態の変形例の電池システム1A-1Cは、第1実施形態の電池システム1と類似し同じ効果を有しているので、同じ機能の構成要素には同じ符号を付し説明は省略する。
【0066】
<変形例1>
本変形例の二次電池システム1Aでは、コールコールプロットデータ(複素インピーダンス値)が、例えば、図7に示す等価回路をもとにしたカーブフィッティング処理によって取得されたパラメータデータである。
【0067】
図7に示す等価回路モデルでは、電池内部の対向する電極(正極、負極)での電気化学反応の進行が考慮される。そして、反応場とインピーダンス測定システムとの間のインダクタンス成分等が考慮される。
【0068】
図7に等価回路モデルの例を示す。
L:測定配線等のインダクタンス
:測定配線等の抵抗
:溶液抵抗
:負極上の皮膜抵抗
CPE:負極上の皮膜のキャパシタンス
CT-A:負極の電荷移動抵抗
CPE:負極のキャパシタンス
CT-C:正極の電荷移動抵抗
CT-C:正極のキャパシタンス
CPE:拡散インピーダンス
【0069】
そして、シミュレータに等価回路モデルと各パラメータデータの初期値を入力し、計算により求められたコールコールプロットが測定データに一致するように各パラメータデータを調整しながら繰り返し計算するフィッティング処理が行われる。
【0070】
AIモデルに入力されるコールコールプロットデータの数字の数が、電池システム1Aは、電池システム1よりも少ない。このため、電池システム1Bは、電池システム1よりも効率的である。
【0071】
<変形例2>
本変形例の二次電池システム1Bでは、AIモデルに入力されるコールコールプロットデータが、図8に示すような曲線形状データである。すなわち、複素平面の複数の複素インピーダンス値をカーブフィッティング処理した曲線形状データであるコールコールプロット曲線が、AIモデルに入力される。
【0072】
AIモデルは、数値データよりも、図形データに対する識別が得意である。このため、電池システム1Bは、電池システム1等よりも、精度の高い予測が可能である。
【0073】
<変形例3>
図9に示すように、本変形例の二次電池システム1Cは、複数の第3の電池10Aが直列接続された組電池20を具備する。
【0074】
電池システム1Cでは、複数の第3の電池10Aのそれぞれが、電池システム1の第3の電池10に相当する。
【0075】
なお、組電池20を、二次電池システム1の第1から第3の電池10-12に相当すると見なしてもよい。すなわち、組電池20によっては、複数の第3の電池10Aに評価のための電線を接続できない構造である。隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池の場合も同様である。
【0076】
組電池20に印可される測定信号の振幅は、組電池20に含まれる第3の電池10Aの数に応じて設定される。例えば、組電池20が20個の第3の電池10Aを含む場合には、組電池20の測定信号の振幅は、第3の電池10Aの測定信号の20倍とする。
【0077】
なお、第1から第3の電池10-12は、多孔質等からなるセパレータの内部に電解質が充填された構造であってもよい。さらに、第1から第3の電池10-12は、リチウムイオン電池に限られるものではなく、例えばリチウムポリマー電池、または、リチウム硫黄電池でもよい。また、第1から第3の電池10-12は、電解質が固体電解質である全固体電池でもよい。また、第1から第3の電池10-12は、隣り合う電池(セル)が、正極と負極とが共通の集電体を有するバイポーラ電池でもよい。また、第1から第3の電池10-12は、電解質が固体電解質であるバイポーラ全固体電池でもよい。
【0078】
第1から第3の電池10-12が、異なる仕様の複数の電池を含んでいてもよい。例えば、電解質が液体の電池と、電解質が固体の電池のそれぞれに対して、教師データを取得し学習することによって、2種類の電池に対応したAIモデルを作製し用いることができる。
【0079】
本発明は、上記した実施形態等に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変、例えば、実施形態の構成要素の組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0080】
1、1A-1C…二次電池システム
10…第3の電池
11…第1の電池
12…第2の電池
20…組電池
30…制御ユニット
31…メモリ
32…コントローラ
33…測定回路
34…演算回路
35…カウンタ
36…信号発生回路
40…電源
【要約】      (修正有)
【課題】電池の充放電容量の異常減少の発生を予測する二次電池システムを提供する。
【解決手段】二次電池システムは、通常劣化する複数の第1の電池、および、異常劣化する複数の第2の電池、の充放電試験で得られた、容量の変化に対するコールコールプロットデータの変化、を教師データとして学習したAIモデルを記憶した記憶部と、第3の電池のコールコールプロットデータを測定する測定回路と、前記第3の電池の前記コールコールプロットデータを、前記AIモデルに入力することで前記第3の電池の前記異常劣化の発生を予測する演算回路と、を具備する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9