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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】推論装置
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/045 20230101AFI20240717BHJP
   G06N 3/065 20230101ALI20240717BHJP
   G06N 3/049 20230101ALI20240717BHJP
【FI】
G06N3/045
G06N3/065
G06N3/049
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023505512
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009528
(87)【国際公開番号】W WO2022191083
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2021036515
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】524225545
【氏名又は名称】河口 斉
(74)【代理人】
【識別番号】100122275
【弁理士】
【氏名又は名称】竹居 信利
(72)【発明者】
【氏名】河口 斉
【審査官】千葉 久博
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0379110(US,A1)
【文献】KAUR, Harpreet, 外3名,"Gut microbiome-mediated epigenetic regulation of brain disorder and application of machine learning for multi-omics data analysis",[online],2020年10月08日,p.355-371,[検索日 2024.05.28], インターネット:<URL: https://cdnsciencepub.com/doi/10.1139/gen-2020-0136>, <DOI: 10.1139/gen-2020-0136>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/045
G06N 3/065
G06N 3/049
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の推論装置であって、
前記出力制御部は、出力信号に基づいてヒトの感情、または、健康状態のいずれか一方を推論する推論装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の感情や健康状態等を推論する推論装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の運転者の疲労等を検出し、その感情を誘導するべく、擬人化されたエージェントの音声等を生成する装置が特許文献1に開示されている。
【0003】
また近年では脳の神経系を模倣した回路を用いたヒトの感情推論が研究されている。この回路では、入力刺激に対する膜電位の時間変化を電気的にシミュレートし、神経細胞を模した動作を行う(例えば非特許文献1)。
【0004】
こうした神経細胞を模した回路(以下、神経模倣回路と呼ぶ)を利用する推論装置では、脳の神経細胞を模倣した神経模倣回路を集積し、その回路間の連結を機械学習するなどして、推論の実行を可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-257470号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nagumo J., Arimoto S., Yoshizawa S., An active pulse transmission line simulating nerve axon., Proc IRE. 50:2061-2070,(1962)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際のヒトにおいては、感情や感覚を左右する神経系は脳の神経系だけに限られないことが知られている。例えば、腸の神経系は、脳とは独立した神経系でありながら、脳の神経系でストレスを感じると腸の動作に影響し、また腸において感染症が発生すると脳において不快感を感じるといった相関(脳腸相関)が研究されている。
【0008】
このような腸における神経系は、脳の神経系とは異なる動作を行うものであるが、上記従来の推論装置等においては、こうした、脳とは異なる神経系を有する器官と、脳との相関については考慮されていないのが現状である。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、多様な神経系の相関を考慮した推論装置を提供することを、その目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記従来例の問題点を解決する本発明の一態様は、入力刺激に対する推論結果を出力する推論装置であって、前記入力刺激に対応する入力信号に対し対応する出力信号を出力する第1の神経模倣回路を少なくとも一つ含む第1の神経模倣回路部と、前記入力刺激に対応する入力信号に対し対応する出力信号を出力する第2の神経模倣回路であって、同一の入力信号を入力したときに、前記第1の神経模倣回路とは異なる出力信号を出力する第2の神経模倣回路を少なくとも一つ含む第2の神経模倣回路部と、前記第2の神経模倣回路部に含まれる第2の神経模倣回路の少なくとも一部の出力信号に基づき、前記第1の神経模倣回路部に入力される、前記入力刺激に対応する入力信号を補正する相関回路部と、前記出力信号に基づいて推論結果を出力する出力制御部と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、多様な神経系の相関を考慮した推論結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態に係る推論装置の概略の構成例を表すブロック図である。
図2】本発明の実施の形態に係る推論装置で利用される神経模倣回路の例を表す概略回路図である。
図3】本発明の実施の形態に係る推論装置の動作例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明の実施の形態に係る推論装置1は、図1に例示するように、入力部11と、第1の神経模倣回路部12と、第2の神経模倣回路部13と、相関回路部14と、出力制御部15とを含んで構成される。なお、これらの各部の少なくとも一部は、集積回路としてチップ化されて実現されてもよい。
【0014】
入力部11は、第1または第2の神経模倣回路12,13の入力刺激となる電気信号の入力を受け入れる。本実施の形態の一例では、この入力部11は、外部から入力された電気信号を、第1の神経模倣回路部12と、第2の神経模倣回路部13とにそれぞれ出力する。また、この入力部11は、後に説明する相関回路部14から、第1の神経模倣回路12への入力信号を受け入れると、外部から入力された電気信号にこの入力信号を合成して、外部から入力された信号を補正し、第1の神経模倣回路12へ出力する。さらに入力部11は、相関回路部14から、第2の神経模倣回路13への入力信号を受け入れると、外部から入力された電気信号にこの入力信号を合成して、外部から入力された信号を補正し、第2の神経模倣回路13へ出力する。
【0015】
ここで入力部11による相関回路部14から受け入れた入力信号と、外部から入力された電気信号との合成(電気信号の補正)は、上記入力信号が表す電圧値と、電気信号が表す電圧値との加重平均(重みは等しくてもよいし、適宜実験的に設定されてもよい)を演算することによって行われてもよいし、入力信号が表す電圧値を、電気信号が表す電圧値に乗じるなどの方法によって行われてもよい。
【0016】
第1の神経模倣回路部12は、少なくとも一つの第1の神経模倣回路120i(i=1,2…,N)(ただしNは1以上の自然数)を備える。ここで第1の神経模倣回路120(以下、第1の神経模倣回路120iのそれぞれを区別する必要がない場合は、第1の神経模倣回路120と表記する)は、具体的には図2に例示するように、入力端子INと出力端子OUTとを有し、この入力端子INと出力端子OUTとの間で、抵抗器RとリアクタンスLと直流電源Vとを直列に接続した回路部LPを備える。さらにこの第1の神経模倣回路120は、この回路部LPに対し、キャパシタCmと可変抵抗器VRとを並列に接続したものである。この第1の神経模倣回路120は、FitzHugh-南雲方程式に基づくも
のであり、本実施の形態における神経模倣回路の一例である。この回路におけるキャパシタCmのキャパシタンス、可変抵抗器VRの可変範囲、リアクタンスLの大きさといった回路定数等の設定方法については後に説明する。
【0017】
第1の神経模倣回路部12では、第1の神経模倣回路120の少なくとも一つを、入力部11の電気信号を受け入れる入力端として設定しておく。例えば第1の神経模倣回路120i(i=1,2…,N)のうち、i≦Iinである第1の神経模倣回路120iを入力端とする。ここでIinは、N以下の自然数であるものとする。
【0018】
また第1の神経模倣回路部12は、第1の神経模倣回路部12が備える第1の神経模倣回路120iのうち少なくとも一部の第1の神経模倣回路120iの出力端子OUTと、他の第1の神経模倣回路120j(i,jはi≠jかつN以下の自然数)の入力端子INとの間に介在するスイッチ121_ij(i,jはi≠jかつN以下の自然数)を有する。
このスイッチ121_ijのオン、オフの状態は、機械学習により設定される。
【0019】
さらに第1の神経模倣回路部12は、少なくとも一つの第1の神経模倣回路120iを、出力端として設定する。この出力端となった第1の神経模倣回路120iの出力端子OUTの電位は、外部に出力される。
【0020】
第2の神経模倣回路部13は、少なくとも一つの第2の神経模倣回路130i(i=1,2,…M)と、スイッチ131_ij(i,jはi≠jかつM以下の自然数)とを備える
。またこの第2の神経模倣回路130i(i=1,2…,M)のうち、i≦I′inである第2の神経模倣回路130iを入力端とする。ここでI′inは、M以下の自然数であるものとする。
【0021】
またスイッチ131_ijは、少なくとも一部の第2の神経模倣回路130iの出力端子
OUTと、他の第1の神経模倣回路130j(i,jはi≠jかつM以下の自然数)の入力端子INとの間に介在する。このスイッチ131_ijのオン、オフの状態は、機械学習
により設定される。
【0022】
さらに第2の神経模倣回路部13は、少なくとも一つの第2の神経模倣回路130iを、出力端として設定する。この出力端となった第2の神経模倣回路130iの出力端子OUTの電位は、外部に出力される。
【0023】
ここで第2の神経模倣回路130は、図2に例示した第1の神経模倣回路120と同様の構成をとるものであるが、その回路定数等の設定が、第1の神経模倣回路120とは異なる。
【0024】
本実施の形態の一例では、第1の神経模倣回路120は、従来の脳の神経細胞を模倣した神経模倣回路と同様のものであるとする。また第2の神経模倣回路130は、例えば腸管神経系(壁内腸神経系)の神経細胞を模倣した神経模倣回路として動作するよう回路定数等が設定される。
【0025】
この例では、脳の神経細胞と腸の神経細胞とでは、多くの神経伝達物質が共通しているにも関わらず、それらの作用が互いに異なっていることに基づき、次のように第1の神経模倣回路120と第2の神経模倣回路130とを相違するものとして設定する。
【0026】
すなわち、同一の神経伝達物質を受容する場合でも、脳と腸とでは働きが異なっていること、つまり、脳の神経細胞と腸の神経細胞とで、同じ神経伝達物質を受容した場合でも発生する膜電位の大きさや、時間変化(応答速度)が異なっていることを考慮する。
【0027】
例えば、第1の神経模倣回路120と第2の神経模倣回路130とに対して同一の入力信号を入力したときの出力信号の差を、ヒトの神経系のうち、互いに異なる所定の2つの神経系のそれぞれの神経細胞が、所定の神経伝達物質に対して反応して表出する膜電位の相違に基づいて決定する。
【0028】
具体的に、ある神経伝達物質の受容により発生する膜電位の大きさは、次のように求められる。まず、神経伝達物質のモル分率(神経細胞周囲の溶媒中の神経伝達物質のモル分率)をXとすると、膜を隔てた電気化学ポテンシャルμは、公知の電気化学ポテンシャルの式より
μ=μ0+RT・lnX
と表される。ここでRは気体定数、Tは絶対温度、μ0は標準状態での電気化学ポテンシ
ャルを表す。
【0029】
一方、電気化学ポテンシャルμと膜電位φとの間には、
μ=Fφ
の関係がある。ここでFはファラデー定数、φは膜電位を表す。
【0030】
従って、神経模倣回路が出力するべき電位(膜電位に相当する)φは、標準電気化学電位をφ1、神経伝達物質が存在する場合の電位をφ2として、その差
φ=φ2-φ1
=(μ-μ0)/F
で表される。つまり、この膜電位は、電気化学ポテンシャルの差により、ひいては神経伝達物質のモル分率により決定できる。
【0031】
そこでここでの例では、神経伝達物質Mi(i=1,2…)ごとに、当該神経伝達物質
Miが放出されるときのヒトの脳神経細胞周囲の神経伝達物質のモル分率Xb_i(i=1,2…)と、ヒトの腸神経細胞周囲の神経伝達物質のモル分率Xg_i(i=1,2…)とを
実測し、これらの実測値に基づいて各神経伝達物質Mi(i=1,2…)に対応する第1
の神経模倣回路120の出力電位φb=(μ(Xb_i)-μ0)/Fと、第2の神経模倣回
路130の出力電位φg=(μ(Xg_i)-μ0)/Fとを決定する。さらにこれらの値に
基づいて、第1の神経模倣回路120と第2の神経模倣回路130とのそれぞれにおけるキャパシタCmのキャパシタンス、可変抵抗器VRの可変範囲、リアクタンスLの大きさといった回路定数を決定する。
【0032】
また、この回路定数は、入力信号に対する応答時間の相違によりさらに変更されてもよい。例えば脳神経細胞(最終野などの細胞)と腸の神経細胞とではセロトニンに対する応答時間の特性が異なり、腸の神経細胞は比較的遅い応答を示す。そこで、第1の神経模倣回路120よりも第2の神経模倣回路130のインパルス応答が遅延するよう、キャパシタCmのキャパシタンス、可変抵抗器VRの可変範囲、リアクタンスLの大きさといった回路定数を設定することとしてもよい。
【0033】
なお、ここでは第2の神経模倣回路130は、腸管神経の神経細胞を模倣したものとする例としたが、本実施の形態はこれに限られず、第2の神経模倣回路130は、胸神経の神経細胞や、心臓の神経系、その他、各臓器の状態を制御する神経系の神経細胞を模倣する神経模倣回路であってもよい。
【0034】
相関回路部14は、第2の神経回路部13に含まれる第2の神経回路模倣回路130の少なくとも一部の出力を、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力する。例えば、この相関回路部14は、第2の神経回路部13に含まれる第2の神経回路模倣回路130のうち、出力端となった第2の神経模倣回路130の出力信号を合成して、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力する。この相関回路部14の動作により、入力部11が外部から受け入れ、第1の神経回路部12へ入力する入力信号が、第2の神経回路部13に含まれる第2の神経模倣回路130の出力によってあされる。
【0035】
またこの相関回路部14は、第1の神経回路部12に含まれる第1の神経回路模倣回路120の少なくとも一部の出力を、第2の神経回路部13への入力信号として入力部11に出力してもよい。例えば、この相関回路部14は、第1の神経回路部12に含まれる第1の神経回路模倣回路120のうち、出力端となった第1の神経模倣回路120の出力信号を合成して、第2の神経回路部13への入力信号として入力部11に出力する。これより入力部11が外部から受け入れ、第2の神経回路部13へ入力されるべき入力信号が、第1の神経回路部12に含まれる第1の神経模倣回路120の出力によって補正される。
【0036】
さらに本実施の形態の一例では、この相関回路部14は、第2の神経回路部13の出力を、そのまま第1の神経回路部12への入力信号とするのではなく、電位の振幅を減衰または増幅させてから第1の神経回路部12への入力信号として入力部11へ出力してもよい。同様に、相関回路部14は、第1の神経回路部12の出力を、そのまま第2の神経回路部13への入力信号とするのではなく、電位の振幅を減衰または増幅させてから第2の神経回路部13への入力信号として入力部11へ出力してもよい。これらの減衰または増幅量は、機械学習的に、適応的に定められてもよい。
【0037】
出力制御部15は、第1の神経回路部12の出力信号を外部に出力する。なお、第1の神経回路部12において出力端となった第1の神経模倣回路120が複数ある場合には、それらの出力信号に基づいて、例えば当該出力信号を累算し、所定の関数フィルタ(例えばシグモイド関数フィルタ)を介して出力信号を得てもよい。
【0038】
あるいは、出力端となった複数の第1の神経模倣回路120の各出力信号を、ベクトル量として外部に出力することとしてもよい。
【0039】
[動作]
次に、本実施の形態の推論装置1の動作について説明する。なお、以下の例では、相関回路部14は、第2の神経回路部13の出力(第2の神経回路部13が備える第2の神経模倣回路130のうち、出力端となっているものの出力)を、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力するよう構成されているものとする。
【0040】
またここでは、神経伝達物質の一つとして、所定の状況下でセロトニンが放出されるときのヒトの脳神経細胞周囲の神経伝達物質のモル分率Xbと、ヒトの腸神経細胞周囲の神
経伝達物質のモル分率Xgとを実測し、これらの実測値に基づいてセロトニン放出に対応
する第1の神経模倣回路120の出力電位φb=(μ(Xb_i)-μ0)/Fと、第2の神
経模倣回路130の出力電位φg=(μ(Xg_i)-μ0)/Fとを決定する。
【0041】
そして、この出力電位φbから第1の神経模倣回路120の回路定数等を定め、出力電
位φgから第2の神経模倣回路130の回路定数等を定める。なお、ここでは回路定数等
は、第1,第2の神経模倣回路120,130のそれぞれにおけるキャパシタCmのキャパシタンス、可変抵抗器VRの可変範囲、リアクタンスLの大きさなどであるとする。
【0042】
この設定により、ここでの例の第1の神経模倣回路120は脳の神経細胞を模倣した状態となり、第2の神経模倣回路130は腸の神経細胞を模倣した状態となる。
【0043】
ここで、推論装置1に対し、予め入力刺激とそれに対する正解となるデータとの組(学習用データ)を用いて、初期化学習を実行する。一例としてこの学習用データは、入力刺激としての入力文字列データに基づく複数の電気信号の列と、それに対する正解となるべき感情(例えば推論の対象者の入力文字列データに対して表す感情、あるいは一般的にヒトが入力文字列データに対して表すと考えられる感情)を表現するデータとの組を複数含むデータとすることができる。ここで電気信号の列は、例えば、入力文字列をそれぞれベクトル数値化したデータを得て、当該ベクトルの各要素の値に対応する電圧値を、所定の時間ごとに順次出力したものでよい。なお、文字列のベクトル数値化については、広く知られた分散表現の方法等を用いることができるため、ここでの詳しい説明は省略する。
【0044】
初期化学習時には、図3に例示するように、入力文字列データに基づく電気信号を逐次的に、入力部11に入力する(S11)。すると、入力部11が当該電気信号を第1の神経模倣回路部12と、第2の神経模倣回路部13とにそれぞれ出力する(S12)。
【0045】
第1の神経模倣回路部12に含まれる第1の神経模倣回路120のうち、入力端となっている第1の神経模倣回路120iが入力された電気信号に基づいて出力信号を出力する。この出力信号は、オンとなっているスイッチ121_ijを介して、上記第1の神経模倣
回路120iとは異なる第1の神経模倣回路120jに入力信号として伝達される(S13)。
【0046】
このとき第1の神経模倣回路120iに対してオフとなっているスイッチ121_ikを
介して接続される第1の神経模倣回路120kには、上記出力信号は入力されない。
【0047】
入力端となっている第1の神経模倣回路120iから、その出力信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S14)。本実施の形態のこの例では、この第1の神経模倣回路120jが出力端となっているものとする。
【0048】
一方、入力部11から電気信号の入力を受けた第2の神経模倣回路部13の入力端となっている第2の神経模倣回路130iもまた、当該入力された電気信号に基づいて出力信号を出力する(S15)。この出力信号は、同じ電気信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120iとはその電位(あるいはその時間変化)が異なるものとなる。
【0049】
さらにこの第2の神経模倣回路130iの出力信号は、オンとなっているスイッチ131_ijを介して、上記第2の神経模倣回路130iとは異なる第2の神経模倣回路130
jに入力信号として伝達される(S16)。
【0050】
このとき第2の神経模倣回路130iに対してオフとなっているスイッチ121_ikを
介して接続される第2の神経模倣回路130kには、上記出力信号は入力されない。
【0051】
入力端となっている第2の神経模倣回路130iから、その出力信号の入力を受けた第2の神経模倣回路130jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S17)。本実施の形態のこの例では、この第2の神経模倣回路130jが出力端となっているものとする。
【0052】
本実施の形態では、この出力信号は、相関回路部14を介して、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力される(S18)。
【0053】
入力部11では、相関回路部14から、第1の神経回路部12への入力信号となるべき電気信号が入力されると、その時点で出力するべき入力文字列データに基づく電気信号に、この相関回路部14から入力される電気信号を合成(例えばその平均電圧となる電圧信号として)、第1の神経模倣回路12へ出力する(S21)。
【0054】
一方、入力部11は、相関回路部14から電気信号が入力された時点で出力するべき入力文字列データに基づく電気信号を、そのまま第2の神経模倣回路13へ出力する(S22)。
【0055】
以下、第1の神経模倣回路部12に含まれる第1の神経模倣回路120のうち、入力端となっている第1の神経模倣回路120iが当該入力された電気信号(第2の神経模倣回路部13の出力を含む電気信号)に基づいて出力信号を出力する。この出力信号は、オンとなっているスイッチ121_ijを介して、上記第1の神経模倣回路120iとは異なる
第1の神経模倣回路120jに入力信号として伝達される(S23)。
【0056】
このとき第1の神経模倣回路120iに対してオフとなっているスイッチ121_ikを
介して接続される第1の神経模倣回路120kには、上記出力信号は入力されない。
【0057】
入力端となっている第1の神経模倣回路120iから、その出力信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S24)。
【0058】
一方、第2の神経模倣回路130iは、入力された電気信号(入力文字列データに基づく電気信号)に基づいて出力信号を出力する(S15)。この出力信号は、同じ電気信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120iとはその電位(あるいはその時間変化)が異なるものとなる。
【0059】
さらにこの第2の神経模倣回路130iの出力信号は、オンとなっているスイッチ131_ijを介して、上記第2の神経模倣回路130iとは異なる第2の神経模倣回路130
jに入力信号として伝達される(S16)。
【0060】
このとき第2の神経模倣回路130iに対してオフとなっているスイッチ121_ikを
介して接続される第2の神経模倣回路130kには、上記出力信号は入力されない。
【0061】
入力端となっている第2の神経模倣回路130iから、その出力信号の入力を受けた第2の神経模倣回路130jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S17)。本実施の形態のこの例では、この第2の神経模倣回路130jが出力端となっているものとする。
【0062】
本実施の形態では、この出力信号は、相関回路部14を介して、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力される(S18)。
【0063】
以下、出力制御部15は、入力文字列データに基づく電気信号が入力されるごとに出力される、ステップS14またはS24での第1の神経模倣回路部12の出力信号の列に基づいて外部への出力信号を生成する。例えば、この出力制御部15は、出力信号を平均し、所定の関数フィルタ(例えばシグモイド関数フィルタ)を介して出力信号を得る(S31)。
【0064】
この出力信号は、入力した文字列のデータに対応する、正解となるべき感情を表現するデータを表す信号と比較する。ここでは感情を表現するデータを電気信号として、予め定めた方法でエンコードして表すものとする。例えば、感情を喜怒哀楽に分けて、所定の電圧範囲では「喜」、これとは異なる電圧範囲では「怒」…といったように関連付けておく。
【0065】
推論装置1は、複数の互いに異なるスイッチ121_ij,スイッチ131_ijのオンオフの状態について、一つの入力データに対して上記のように出力信号を得て、当該入力データに対応する、正解となるべき感情を表現するデータを表す信号と比較し、最も近い出力信号となるスイッチ121_ij,スイッチ131_ijのオンオフの状態(最適状態)を見いだし、当該状態に設定する。
【0066】
また推論装置1は、次の入力データについても同様の処理を行い、学習データである各入力データと出力データとの組において最適状態となるスイッチ121_ij,スイッチ1
31_ijのオンオフの状態を得る。そしてスイッチ121_ij,スイッチ131_ijの各々
について、上記複数種類の入力データ(全部でP種類あったものとする)に対応してオンとすることが最適状態であった回数pと、オフとすることが最適状態であった回数qとを参照し、例えばp≧qであれば当該スイッチ121_ijまたはスイッチ131_ijをオンとする。またここでq>pであれば当該スイッチ121_ijまたはスイッチ131_ijをオフとする。
【0067】
以上のようにして、推論装置1は、第1の神経模倣回路部12,第2の神経模倣回路部13における各神経模倣回路120,130間の連結関係を機械学習する。そしてこのように機械学習が完了すると、以下、この推論装置1を用いて、文字列データに基づく、ヒトの感情の推論を行う。
【0068】
この場合も図3に例示したと同様に、入力文字列データに基づく電気信号を逐次的に、入力部11に入力する(S11)。すると、入力部11が当該電気信号を第1の神経模倣回路部12と、第2の神経模倣回路部13とにそれぞれ出力する(S12)。
【0069】
すると、第1の神経模倣回路部12に含まれる第1の神経模倣回路120のうち、入力端となっている第1の神経模倣回路120iが入力された電気信号に基づいて出力信号を出力する。この出力信号は、機械学習の結果、オンとなっているスイッチ121_ijを介
して、上記第1の神経模倣回路120iとは異なる第1の神経模倣回路120jに入力信号として伝達される(S13)。
【0070】
一方で、このとき第1の神経模倣回路120iに対して機械学習によりオフとなっているスイッチ121_ikを介して接続される第1の神経模倣回路120kには、上記出力信
号は入力されない。
【0071】
入力端となっている第1の神経模倣回路120iから、その出力信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S14)。本実施の形態のこの例では、この第1の神経模倣回路120jが出力端となっているものとする。
【0072】
一方、入力部11から電気信号の入力を受けた第2の神経模倣回路部13の入力端となっている第2の神経模倣回路130iもまた、当該入力された電気信号に基づいて出力信号を出力する(S15)。この出力信号は、同じ電気信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120iとはその電位(あるいはその時間変化)が異なるものとなる。
【0073】
さらにこの第2の神経模倣回路130iの出力信号は、機械学習の結果、オンとなっているスイッチ131_ijを介して、上記第2の神経模倣回路130iとは異なる第2の神
経模倣回路130jに入力信号として伝達される(S16)。
【0074】
このとき第2の神経模倣回路130iに対して、機械学習の結果、オフとなっているスイッチ131_ikを介して接続される第2の神経模倣回路130kには、上記出力信号は
入力されない。
【0075】
入力端となっている第2の神経模倣回路130iから、その出力信号の入力を受けた第2の神経模倣回路130jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S17)。本実施の形態のこの例では、この第2の神経模倣回路130jが出力端となっているものとする。
【0076】
本実施の形態では、この出力信号は、相関回路部14を介して、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力される(S18)。
【0077】
入力部11では、相関回路部14から、第1の神経回路部12への入力信号となるべき電気信号が入力されると、その時点で出力するべき入力文字列データに基づく電気信号に、この相関回路部14から入力される電気信号を合成(例えばその平均電圧となる電圧信号として)、第1の神経模倣回路12へ出力する(S21)。
【0078】
一方、入力部11は、相関回路部14から電気信号が入力された時点で出力するべき入力文字列データに基づく電気信号を、そのまま第2の神経模倣回路13へ出力する(S22)。
【0079】
以下、第1の神経模倣回路部12に含まれる第1の神経模倣回路120のうち、入力端となっている第1の神経模倣回路120iが当該入力された電気信号(第2の神経模倣回路部13の出力を含む電気信号)に基づいて出力信号を出力する。この出力信号は、機械学習の結果、オンとなっているスイッチ121_ijを介して、上記第1の神経模倣回路1
20iとは異なる第1の神経模倣回路120jに入力信号として伝達される(S23)。
【0080】
このとき第1の神経模倣回路120iに対して、機械学習の結果、オフとなっているスイッチ121_ikを介して接続される第1の神経模倣回路120kには、上記出力信号は
入力されない。
【0081】
入力端となっている第1の神経模倣回路120iから、その出力信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S24)。
【0082】
一方、第2の神経模倣回路130iは、入力された電気信号(入力文字列データに基づく電気信号)に基づいて出力信号を出力する(S15)。この出力信号は、同じ電気信号の入力を受けた第1の神経模倣回路120iとはその電位(あるいはその時間変化)が異なるものとなる。
【0083】
さらにこの第2の神経模倣回路130iの出力信号は、機械学習の結果、オンとなっているスイッチ131_ijを介して、上記第2の神経模倣回路130iとは異なる第2の神
経模倣回路130jに入力信号として伝達される(S16)。
【0084】
このとき第2の神経模倣回路130iに対して、機械学習の結果、オフとなっているスイッチ131_ikを介して接続される第2の神経模倣回路130kには、上記出力信号は
入力されない。
【0085】
入力端となっている第2の神経模倣回路130iから、その出力信号の入力を受けた第2の神経模倣回路130jは、当該入力に基づく出力信号を出力する(S17)。本実施の形態のこの例では、この第2の神経模倣回路130jが出力端となっているものとする。
【0086】
本実施の形態では、この出力信号は、相関回路部14を介して、第1の神経回路部12への入力信号として入力部11に出力される(S18)。
【0087】
以下、出力制御部15は、入力文字列データに基づく電気信号が入力されるごとに出力される、ステップS14またはS24での第1の神経模倣回路部12の出力信号の列に基づいて外部への出力信号を生成する。例えば、この出力制御部15は、出力信号を平均し、所定の関数フィルタ(例えばシグモイド関数フィルタ)を介して出力信号を得る(S31)。
【0088】
推論装置1は、この出力信号に基づいて予め定めたエンコードの方法に対応するデコード方法で感情の情報にデコードし、当該感情の情報を出力する。
【0089】
なお、ここでは機械学習の方法としてモンテカルロ法による機械学習の例を示したが、本実施の形態の推論装置1は、これとは異なる機械学習方法、例えばQ学習やバックプロパゲーションなどにより、第1、第2の神経模倣回路部12,13の動作を機械学習してもよい。またここではスイッチ121,131のオン・オフの組み合わせを機械学習する例について示したが、本実施の形態はこれに限られず、各神経模倣回路120,130の可変抵抗器VRの抵抗値を機械学習により設定してもよい。
【0090】
[健康状態に対する例]
なお、ここでの説明では推論装置1の学習に利用する学習用データとして、入力刺激と、それに対する正解となるべき感情を表現するデータと、の組を用いることとしたが、本実施の形態はこれだけに限られない。例えば学習用データとして入力刺激と、それを与えたときの正解となるべき健康状態を表現するデータとの組を用いて学習を行うこととしてもよい。
【0091】
この場合も、出力制御部15が出力する出力信号を予め定めた方法でエンコードして表す。例えば、健康状態を表現するデータとして、「良好」から「悪い」までの複数の段階を表す文字列を用い、出力信号の所定の電圧範囲ごとに各段階を表す文字列を関連付けて、ある電圧範囲の出力信号を「良好」とし、これとは異なる電圧範囲の出力信号を「通常」とする…といったようにエンコードすればよい。
【0092】
さらに、正解となるべきデータは、感情や健康状態を個別に表現したデータではなく、双方を組み合わせて表現したデータ、例えば「健康状態が良好、かつ感情が『喜』」、「健康状態が悪く、かつ感情が『喜』」などであってもよい。この場合も上述の例と同様の学習を行い、また出力信号についても、上述と同様、所定の電圧範囲ごとに、正解の選択肢のいずれかに関連付けてエンコードすればよい。
【0093】
すなわち本実施の形態の推論装置1は、ヒトの感情だけでなく、健康状態などを感情に代えて、あるいは感情とともに推論するものとすることもできる。
【0094】
[3以上の種類の神経模倣回路を備える例]
ここまでは、それぞれ互いに異なる2種類の神経系の神経細胞を模倣する第1、第2の神経模倣回路部12,13を備え、一方の出力を、他方の入力の補正に用いる例について説明した。しかしながら本実施の形態はこれに限られず、互いに異なる3種類以上の神経系の神経細胞をそれぞれ模倣する神経模倣回路(例えば、脳と腸と心臓の神経細胞をそれぞれ模倣する神経模倣回路)を用いてもよい。これらの神経模倣回路は、それぞれ同一の入力信号に対して、互いに異なる大きさの電位の出力や、電位の時間変化が互いに異なる出力を行うものとして設定される。
【0095】
この例では、相関回路部14は、それぞれの種類の神経細胞を模倣する神経模倣回路の出力を得て、他の種類の神経模倣回路を備える神経模倣回路部への入力信号を、当該得られた出力に応じて所定の方法(例えば平均を求めるなどの方法)で補正する。
【0096】
また機械学習の段階では、どの種類の神経模倣回路の出力を、どの種類の神経模倣回路に対応する神経模倣回路部の入力信号の補正に用いるか、あるいは、その補正の方法(例えば加重平均とするときの重みの大きさ)を機械学習すればよい。
【0097】
[入力刺激の他の例]
また入力刺激についても、ここまでは文字列を一つの例として説明してきたが、本実施の形態はこれに限られない。すなわち、ベクトル数値化できる情報であれば、入力刺激は、音声や映像(静止画像、動画像)、またはこれらを複合したマルチメディア情報であっても構わない。
【0098】
さらに本実施の形態のある例では、リアルタイムに、ライブに放映される映像を入力刺激としてもよい。この例によると、例えばライブ映像を視聴する視聴者の感情や健康状態の変化を推論可能となる。
【0099】
[実施の形態の効果]
本実施の形態によると、多様な神経系の相関を考慮した推論が可能となる。また、本実施の形態のここまでの説明では、各神経模倣回路が受動的なアナログ回路により構成されるため、並列化が容易にでき、また意図的にノイズを重畳することなく、回路素子自身が持つノイズ特性を利用して非線形な応答を得ることができる。
【0100】
もっとも、本実施の形態の推論装置1は、各神経模倣回路部が備える神経模倣回路をそれぞれシミュレートするディジタルプログラムを用いて構成されてもよい。この場合は、各神経模倣回路の出力に対し、ランダムノイズを重畳してもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 推論装置、11 入力部、12 第1の神経模倣回路部、13 第2の神経模倣回路部、14 相関回路部、15 出力制御部、120 第1の神経模倣回路、130 第2の神経模倣回路、121,131 スイッチ。


図1
図2
図3