(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】牡蠣酵素分解物及び牡蠣酵素分解物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 1/00 20060101AFI20240717BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20240717BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20240717BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240717BHJP
A23L 33/18 20160101ALN20240717BHJP
【FI】
C12P1/00 A
A23L17/40 C
A61K35/618
A61P3/02
A23L33/18
(21)【出願番号】P 2019210154
(22)【出願日】2019-11-21
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】592015802
【氏名又は名称】赤穂化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山崎 瑠衣
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-249557(JP,A)
【文献】特開2008-142032(JP,A)
【文献】Biomedicine & Preventive Nutrition,2014年,Vol.4,p.343-353
【文献】Food Research International,2019年02月,Vol.120,p.178-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分中の燃焼法により測定されるタンパク質含有率が75.0重量%以上であり、
ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定される分子量分布において重量平均分子量1-1000、1000-3000、3000-6000、6000-15000のいずれにもピーク面積を有し、重量平均分子量3000以下の部分のピーク面積が94.0%以上であり、
牡蠣をアルカリ性プロテアーゼで処理した分解物であることを特徴とする牡蠣酵素分解物。
【請求項2】
請求項1に記載の牡蠣酵素分解物を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、サプリメント、飲食品、機能性食品、栄養補助食品または健康食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牡蠣酵素分解物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牡蠣は、亜鉛、鉄等のミネラル、ビタミンB1、B12、葉酸等のビタミン、グリシン、アラニン等のアミノ酸、グリコーゲン、タウリン等の有効成分を多く含み、疲労回復、滋養強壮、免疫力向上、中性脂肪およびコレステロールの低減等の健康への有益な作用が期待できる食品である。
これらの有効成分を濃縮した牡蠣エキスが、サプリメント、栄養補助食品等に用いられている。例えば、特許文献1には分子量分布において分子量9300~40000の中分子量領域にピークを有し消化吸収性が良好な牡蠣エキス、特許文献2にはレプチン及びインスリンの分泌を抑制する効果を有する牡蠣エキス、特許文献3には微細藻類由来のフコキサンチンを含有する牡蠣エキスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-142032号公報
【文献】特開2012-249557号公報
【文献】特開2013-192514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、タンパク質含有率が高く、低分子量成分を多く含む牡蠣酵素分解物とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の課題を解決する手段は以下の通りである。
1.固形分中の燃焼法により測定されるタンパク質含有率が75.0重量%以上であり、
ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定される分子量分布において重量平均分子量3000以下の部分のピーク面積が94.0%以上であることを特徴とする牡蠣酵素分解物。
2.1.に記載の牡蠣酵素分解物を含むことを特徴とする医薬品、医薬部外品、サプリメント、飲食品、機能性食品、栄養補助食品または健康食品。
3.牡蠣むき身の粉砕物を洗浄し上清と沈殿物とに分離し、前記上清を除去する洗浄工程、
前記沈殿物を、pH9.5以上12.5以下、液温57℃以上68℃以下の条件下で、アルカリ性プロテアーゼを用いて酵素分解する酵素分解工程、
前記アルカリ性プロテアーゼを失活させる失活工程、
を有することを特徴とする牡蠣酵素分解物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の牡蠣酵素分解物は、タンパク質含有率が高く、疲労回復、滋養強壮、免疫力向上、中性脂肪およびコレステロールの低減等の健康への有益な作用が期待できる。本発明の牡蠣酵素分解物は、重量平均分子量3000以下の低分子量成分を多く含むため、消化吸収性に優れている。
本発明の牡蠣酵素分解物製造方法により、タンパク質含有率が高く、低分子量成分を多く含む牡蠣酵素分解物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の牡蠣酵素分解物は、固形分中の燃焼法により測定されるタンパク質含有率が75.0重量%以上であり、ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定される分子量分布において重量平均分子量3000以下の部分のピーク面積が94.0%以上であることを特徴とする。
【0008】
以下、本発明の牡蠣酵素分解物を、製造工程順に説明する。
本発明で使用する牡蠣としては、食用として利用できるものであれば特に制限されず、マガキ、イワガキ、イタボガキ、ヨーロッパヒラガキ等を利用することができる。これらの中で、養殖が盛んで安価に入手可能であるため、マガキ、イワガキを好適に利用することができる。
本発明において、原料である牡蠣肉(牡蠣のむき身)は、生のまま用いることもできるが、原料の劣化を防ぐために採取後すぐに凍結されたものを用いることが好ましい。
【0009】
・洗浄工程
本発明は、牡蠣のむき身の粉砕物を使用する。粉砕物とすることで、続く酵素分解工程において、牡蠣に含まれるタンパク質を効率的に酵素処理することができる。粉砕する方法は特に制限されず、超音波式、高圧式等のホモジナイザー等を用いることができる。
この粉砕物に、水を加えて洗浄し、上清と沈殿物とに分離し、上清を除去する。加える水の量は、特に制限されないが、例えば、粉砕物100重量部に対して30重量部以上200重量部以下とすることができる。上清を除去することにより、糖分、遊離アミノ酸、無機塩類等の水溶性成分を除去することができるため、タンパク質含有率の高い牡蠣酵素分解物を得ることができる。上清と沈殿物とに分離するための方法は特に制限されないが、遠心分離を行うことが、沈殿物を得るのに要する時間を短縮することができ、劣化等を防ぐことができるため好ましい。
【0010】
洗浄工程の前後のいずれか、または両方において、牡蠣自体が有する酵素を失活するために加熱する加熱工程を行うことができる。加熱工程の条件は特に制限されないが、粉砕物の熱による変性を防ぐために、90℃以下であることが好ましく、85℃以下であることがより好ましい。
この洗浄工程と加熱工程とは、複数回行うことができる。洗浄工程と加熱工程とを行う回数は、1回以上3回以下であることが好ましく、1回または2回であることがより好ましく、2回であることが最も好ましい。これらの工程を繰り返すほど、水溶性成分を除去できるが、3回以上ではその効果はほぼ飽和し高コストとなる。すなわち、加熱工程→洗浄工程→加熱工程→洗浄工程、または洗浄工程→加熱工程→洗浄工程→加熱工程の順で行うことが好ましい。
【0011】
・酵素分解工程
上記洗浄工程、または加熱工程後に得られた沈殿物を、アルカリ性プロテアーゼを用いて、pH9.5以上12.5以下、液温57℃以上68℃以下の条件下で酵素分解する。アルカリは、タンパク質のペプチド結合を分解することができるため、pH9.5以上12.5以下の条件下でアルカリ性プロテアーゼを用いることにより、より効率的にタンパク質を分解することができる。酵素分解工程におけるpHは、10.0以上12.0以下であることが好ましく、10.5以上11.5以下であることがより好ましい。液温は、60℃以上65℃以下であることが好ましい。
pHを9.5以上12.5以下とするのに使用するアルカリ化剤は特に制限されず、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム等を使用することができる。
【0012】
アルカリ性プロテアーゼとしては、上記条件下で活性を示し、タンパク質を分解できるものであれば特に制限することなく使用することができる。市販品としては、商品名「オリエンターゼ 22BF」(エイチビィアイ株式会社製)、「アロアーゼ XA-10」(ヤクルト薬品工業株式会社製)、「Alcalase」(ノボザイムズ社)、「プロチンSD―AY10」(天野エンザイム株式会社)、「プロテアーゼP「アマノ」3SD」(天野エンザイム株式会社)、「マルチフェクトPR6L」(ダニスコジャパン株式会社)、「オプチマーゼPR89L」(ダニスコジャパン株式会社)、「スミチームMP」(新日本化学工業株式会社)、「デルボラーゼ」(ディー・エス・エムジャパン株式会社)、「ビオプラーゼOP」(ナガセケムテックス株式会社)、「ビオプラーゼSP-20FG」、(ナガセケムテックス株式会社)、「ビオプラーゼSP-4FG」(ナガセケムテックス株式会社)等を用いることができる。
【0013】
アルカリ性プロテアーゼの添加量は特に制限されないが、例えば、沈殿物100重量部に対し、0.01重量部以上3.0重量部以下が挙げられる。アルカリ性プロテアーゼのこの添加量が0.01重量部未満では、酵素分解に要する時間が長くなりすぎる場合がある。アルカリ性プロテアーゼのこの添加量が3.0重量部を越えると、高コストとなる。
酵素分解工程の処理時間は、目的とする低分子量成分が所定の含有率で得られるのであれば特に制限されず、使用するアルカリ性プロテアーゼの種類、使用量等に応じて調整することができる。例えば、「オリエンターゼ 22BF」を、沈殿物100重量部に対し0.5重量部添加する場合、2.5時間以上8時間以下が好ましい。上記範囲より処理時間が短いと、酵素による分解が不十分で高分子量成分の含有率が高くなる場合があり、上記範囲より処理時間が長いと劣化が起こる場合がある。
【0014】
・失活工程
酵素分解工程で使用したアルカリ性プロテアーゼを失活させる。アルカリ性プロテアーゼを失活させる方法は特に制限されないが、熱処理等が挙げられ、熱処理の条件としては、例えば80~90℃、30~60分間が挙げられる。
この失活工程の前後のいずれかにおいて、pHを中性化するpH調整工程を行うことができる。なお、生じた酵素分解物の特性により、酵素分解工程後のpHは酸性となる場合がある。pHを中性化するのに用いるpH調整剤は、pHがアルカリ性の場合は、乳酸、クエン酸、酢酸等、酸性の場合は、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。
【0015】
失活工程の後に、固形分を取り除く遠心分離、濾過等を行うことにより、本発明の牡蠣酵素分解物である牡蠣エキスが得られる。得られる牡蠣酵素分解物は液状物(牡蠣エキス)であるが、必要に応じて凍結乾燥、スプレー乾燥、減圧乾燥等を行い、粉体等の固形物、またはより高濃度な液状物とすることもできる。
【0016】
本発明の牡蠣酵素分解物は、固形分中の燃焼法により測定されるタンパク質含有率が75.0重量%以上である。このタンパク質含有率は、77.0重量%以上であることが好ましく、80.0重量%以上であることがより好ましい。
本発明の牡蠣酵素分解物は、ゲル濾過クロマトグラフィーにより測定される分子量分布において、重量平均分子量3000以下の部分のピーク面積が94.0%以上である。重量平均分子量3000以下の部分のピーク面積は、95.0%以上であることが好ましく、96.0%以上であることがより好ましい。また、重量平均分子量1以上1000以下の部分のピーク面積は、73.0%以上であることが好ましく、76.0%以上であることがより好ましく、79.0%以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の牡蠣酵素分解物は、単独で、またはその他の有効成分等と組み合わせて、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ペースト剤等の剤形とすることができる。また、これらの剤形で、医薬品、医薬部外品、サプリメント、飲食品、機能性食品、栄養補助食品、健康食品等として利用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
「実施例1」
牡蠣むき身1500gをホモジナイザーで粉砕した。その後、牡蠣自身が有する酵素を失活させるために、3000gの水を加え80℃で30分加熱する加熱工程と、加熱工程後の分散液を遠心分離(5000rpm、10分)した後に上清を除く洗浄工程を、2サイクル行った。
沈殿物に3000gの水を加え、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを11に調整した後、760mgのアルカリ性プロテアーゼ(オリエンターゼ22BF)を添加し、65℃で3時間撹拌して酵素分解工程を行った。
次いで、90℃30分でアルカリ性プロテアーゼを失活させる失活工程を行った。失活後、pHを水酸化ナトリウム水溶液によりpH7に調整し、遠心分離(5000rpm、10分)により上清と沈殿物(固形分)を分離し、上清を採取した。
得られた上清を、ガラスろ紙でろ過を行い、ろ過後の溶液を60℃の条件下で減圧乾燥することで粉体である牡蠣酵素分解物を得た。
【0019】
得られた牡蠣酵素分解物について、以下の測定を行った。
・タンパク質含有率
窒素・たんぱく質分析装置(LECO社製、FP628)を用い、測定時のタンパク質係数を6.25として、燃焼法によりタンパク質含有率を測定した。なお、燃焼法とは、検体を高温酸素ガス下で燃焼し、窒素を酸化(NOx)させたのち、水蒸気を除去し、さらに、Heガス下で還元銅を通過させNOxをN2に還元し二酸化炭素を除いた上で熱伝導度を利用して窒素量を測定する方法である。
【0020】
・ゲルろ過クロマトグラフィー
得られた粉体に脱イオン水を加えて0.2%水溶液とし、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて分子量分布の測定を行った。なおHPLCの条件は以下の通りである。
装置名:Prominence GPCシステム
カラム:Shodex製Asahipak GS 220HQ
移動相:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸=55/45/0.1
カラム温度:40℃
流速:0.50mL/min
検出器:UV検出器(SPD-M20A)
検出波長:220nm
試料注入量:20μl
標準試料:分子量12500(Cytochrome C)、分子量6512(Aprotinin)、分子量1450(Bacitracin)、分子量1046(Angiotensin II)、分子量451(Gly-Gly-Tyr-Arg)、分子量189(Gly-Gly-Gly)
得られた分子量分布より各重量平均分子量帯におけるピーク面積比を算出した。
【0021】
・タンパク質の収率
原料として使用した牡蠣むき身の乾燥重量(Xg)とタンパク質含有率(A重量%、燃焼法により算出)、及び得られた牡蠣酵素分解物の固形分重量(xg)とタンパク質含有率(a重量%、燃焼法により算出)とから、下記式を用いてタンパク質の収率を算出した。
タンパク質の収率(%)=牡蠣酵素分解物に含まれるタンパク質量(x×a)
/原料に含まれるタンパク質量(X×A)×100
【0022】
「実施例2」
酵素分解工程を、pH10で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
「実施例3」
酵素分解工程を、pH12で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
【0023】
「実施例4」
酵素分解工程を、pH10、60℃で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
「実施例5」
酵素分解工程を、4時間行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
「実施例6」
酵素分解工程を、6時間行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
【0024】
「比較例1」
酵素分解工程を、70℃で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
「比較例2」
酵素分解工程を、pH10、55℃で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
「比較例3」
酵素分解工程を、pH9、55℃で行った以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。
【0025】
「比較例4」
失活工程後の遠心分離で採取した上清に、洗浄工程で取り除いた上清を加えた以外は、実施例1と同様にして牡蠣酵素分解物を得た。この牡蠣酵素分解物は、洗浄工程で取り除いた上清を含み、この上清が糖分、遊離アミノ酸等を含むためか、減圧乾燥に時間がかかった。また、減圧乾燥後の粉体である牡蠣酵素分解物も、室温で静置すると、吸湿してべとつきが生じた。
【0026】
結果を下記表1に示す。なお、比較例4は、タンパク質含量が42.2重量%と低かったため、ゲルろ過クロマトグラフィーによる分子量分布測定は行っていない。
【表1】