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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】弦楽器
(51)【国際特許分類】
   G10D 3/13 20200101AFI20240717BHJP
   G10D 1/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G10D3/13
G10D1/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020192067
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022073822
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-06-21
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】503000510
【氏名又は名称】高良 輝幸
(72)【発明者】
【氏名】高良 輝幸
【審査官】大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-163113(JP,A)
【文献】特表2014-504742(JP,A)
【文献】特開平9-190176(JP,A)
【文献】実開昭55-91591(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10D 1/00-3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記胴強化部材の前記弦保持部材との接合面の幅と長さは、前記弦保持部材の幅と長さより1.2~1.5倍の大きさに設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の弦楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弦楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの弦楽器において、図5、6のようにクラシック、アコースティックギターでは、表面板(11’)に弦を通す穴のついたサドル(13’)を接着するサドル式である。
【0003】
図9のように胴部に響鳴する空間のないソリッドタイプのエレキギターは、四角い金属製弦保持部材をビスにて表面板外部に止付け式である。
【0004】
図10のように胴部に響鳴する空間のある中空タイプのギターは、金属製または木製の弦保持部材をビスにて本体底面外部に止付け式,または紐にて引っ掛け式である。
【0005】
【文献】図9 エレキギターの弦保持部材の例 イシバシ楽器HPより https://www.ishibashi.co.jp/
【文献】図10 響鳴する空間のある弦保持部材のあるギターの例 イシバシ楽器HPより https://www.ishibashi.co.jp/feature/12-dupont/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにこれまでのクラシック、アコースティックギターでは弦保持部材としてサドル(13’)を採用しているが、図8のようにサドル(13’)は表面板(11’)に接着材の強度のみで保持されているため、常に弦(10’)の張力(a’)により、表面板(11’)から剥がされる力(a’2)が働いている。そのため弦の張力(a’)に負けてサドル(13’)が剥がれたり破損してしまう例が多々ある。また表面板(11’)に過度な押す力(a’1)がかかるため、サドル(13’)に隣接した表面板(11’)が陥没してしまう例もある。サドル式では耐久性に欠け寿命が短いという問題がある。
図9のように本体外部にビス止め式金属弦保持部材は、胴部が中空でない、ビス止め可能なエレキギターのみに有効である。
図10のような胴部に響鳴する空間のあるギターに対応した底面外部に止付け式または紐引っ掛け式の、金属製または木製の弦保持部材は、紐やビスで止めた弦保持部材にぐらつきが生じ、力のかかる弦保持部分や止付け部分が破損してしまうことが多く、強度に欠け楽器本体の寿命も短い。また、外部止付け式では撥弦楽器の場合、弦の振動が胴部の響鳴する空間に伝わりにくく、楽器単体では小さな音しか出ない。そのため電気増幅器にて音量を調整せざるを得ないという問題がある。
このように従来の構造では、弦楽器としての性能を保ちながら長期にわたって保持すること、充分な音量を得ることが難しいという問題があった。
本発明の目的は、楽器の耐久性を増し寿命を延ばすと共に、弦保持部材(15)が胴部(3)一体化し響鳴する空間に音が伝わりやすくなることにより、音質・音量の向上した弦楽器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による弦楽器は、表面板(11)、裏板(12)、側板(8)とで構成され響鳴するための空間を形成する胴部(3)、胴部(3)に接続している棹部(2)、棹部上端に接続し糸巻(4)を備えたヘッド部(1)、表面板(11)の下端に配設された弦保持部材(15)、弦保持部材(15)で一端を保持しもう一端を前記糸巻(4)で保持し棹部(2)を張り渡した弦(10)、弦(10)の中間部を支持する棹部(2)上端に配置されたナット(5)と表面板(11)中程に配置されたサドル(13)上に保持されたブリッジ(14)からなり、胴部(3)の内部に胴強化部材(16)が配置され、表面板(11)、裏板(12)、側板(8)に接合面を有し接着されている。弦保持部材(15)の弦保持部分の対向面が表面板(11)、側板(8)、胴強化部材(16)との接合面を有し固着されている。
弦保持部材(15)は表面板(11)と胴強化部材(16)の一部を切欠き、胴強化部材(16)に固着させて配置されている。
胴強化部材(16)の弦保持部材(15)との接合面の幅と長さは、弦保持部材(15)の幅と長さより1.2~1.5倍の大きさに設けられている。
また、弦保持部材(15)で弦(10)を保持し、サドル(13)はブリッジ(14)と弦(10)のずれ止めの役割となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、弦保持部材(15)が、表面板(11)の一部と胴強化部材(16)を切り欠いて胴強化部材(16)と固着させ一体化することにより、これまでの弦楽器の弦保持構造よりも明らかに耐久性の高く、長期にわたって安定した弦保持構造を提供できる。
【0009】
本発明においては、図8に示す弦(10’)の張力(a’)のうち、従来存在していたサドル(13’)を剥がす力(a’2)を除去することができ、更に表面板(11’)を陥没させる原因となる過度な力(a1)を緩和することができる。また図7のように弦保持部材(16)が胴部(3)を構成する全ての部材に固着され、一体化することにより、弦(10)の張力(a)を分散させ、優れた強度、耐久性、寿命の向上した構造を提供できる。
【0010】
本発明においては,胴強化部材(16)の弦保持部材(15)との接合面の幅と長さが弦保持部材の幅と長さより1.2~1.5倍の大きさに設けられていることにより、胴強化部材(16)と表面板(11)との密着度を高め、弦(10)の表面板(11)への振動の伝達を良好にする。また弦保持部材(15)を安定して保持することができる。
【0011】
本発明においては、弦保持部分(15)が胴強化部分(16)を通じて胴部(3)を構成する全ての部材と密着しているため、弦(10)の振動を胴部(3)の響鳴する空間部分に有効に伝達することができる。そのため弦楽器の音質を著しく向上させ、演奏表現力を増すと共に、電気増幅器に頼らず、豊かな音量を楽器単体で発することができる。
【0012】
本発明においては、従来のクラシック・アコースティックギター等になかった、図1に示されるブリッジ(14)と弦保持部材(15)の間の弦(10-2)が、共鳴弦としての役割を担い、演奏した音に共鳴して音量を増幅させ、倍音を強化できる。そのため従来の弦楽器に比べて明らかに良い音響効果を得ることができ、優れた音質を提供することができる。
【0013】
本発明においては、従来のクラシック・アコースティックギター等に無かった弦保持部材(15)を備えて弦(10)を保持し、サドル(13)はブリッジ(14)と弦(10)のずれ止めの役割となる。表面板(11)との接着面を剥がす力(a’2)が除去されるため、サドル(13)の形態は小型化が可能となり、装飾的な自由度を増すことができる。弦保持材も図1に示す実施例正面図(15-1,15-2,15-3)のようにバリエーションが可能であり、従来の弦楽器では無かった極めて斬新で特徴的、個性的な外観を持つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す正面図,また弦保持部材の実施の例を示す正面図である。
図2】本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す側面図である。
図3】本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す要部の側面拡大断面図である。
図4】本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す正面拡大透視図・実施説明図である。
図5】従来のギターの正面図と側面図である。
図6】従来のギターの側面拡大断面図である。
図7】本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す、弦の張力に対する力の分散図である。
図8】従来ギターの弦の張力に対する力の分散図である。
図9】エレキギターの弦保持部材の例を表す写真である。
図10】響鳴する空間のある弦保持部材のあるギターの例を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を図面に示す実施の形態について詳細に説明する。
図4は本発明を弦楽器に適用した一実施の形態を示す正面拡大透視図・実施説明図である。図において、弦楽器は、それぞれ薄い木板である表面板(11)、裏板(12)、側板(8)とで構成され響鳴するための空間を形成する胴部(3)、胴部(3)に接続している棹部(2)、棹部(2)上端に接続し糸巻(4)を備えたヘッド部(1)、表面板(11)の下端に配設された弦保持部材(15)、弦保持部材(15)で一端を保持しもう一端を前記糸巻(4)で保持し棹部(3)を張り渡した弦(10)、弦(10)の中間部を支持する棹部(2)上端に配置されたナット(5)と表面板(11)中程に配置されたサドル(13)上に保持されたブリッジ(14)からなり、胴部(3)の内部に配置され、表面板(11)、裏板(12)、側板(8)に接合面を有し接着された胴強化部材(16)を備え、弦保持部材(15)の弦保持部分の対向面が表面板(11)、側板(8)、胴強化部材(16)との接合面を有し固着されている。
【0016】
左右の2枚の側板(8)を左右対称にギターの形状に曲げ、底面部で突き合わせる。上部にヘッド部(1)を成形した棹部(2)を接続し、左右側板(8)を突き合わせてできた響鳴空間である胴部(3)の裏面に胴部(3)の形より若干大きく切った裏板(12)を張り合わせる。固着後成形し、ギター形状の型にはめ込む。
【0017】
型にはめた状態で胴部(3)内部底部に、胴強化部材(16)の背面部(16-e)を裏板(12)の内面下部に,胴強化部材底面部(16-c)を胴部(3)内部の左右側板(8)の内側底面部に、それぞれ密着するように配置し、接着する。その際胴強化部材(16)は胴部(3)の底面部中央に配置し、胴強化部材底面部(16-c)と左右側板(8)との接着面の大きさは左右側板(8)それぞれ等しくなるように配置する。また、表面板(11)との接合面である胴強化部材正面部(16-d)の幅と長さは、前記弦保持部材(15)の背面部(15-b,)の幅と長さより1.2~1.5倍の大きさに設けられていることを特徴とする。
【0018】
胴強化部材(16)の弦保持部材(15)との接合面の幅と長さが弦保持部材の幅と長さより1.2~1.5倍の大きさに設けられていることにより、胴強化部材(16)と表面板(11)との密着度を高め、弦(10)の表面板(11)への振動の伝達を良好にする。また弦保持部材(15)を安定して保持することができる。
【0019】
裏板(12)と胴強化部材(16)が固着された胴部(3)の表面に、胴部(3)の形より若干大きく切り、サウンドホール(9)を切り抜いた表面板(11)を接着する。その際胴強化部材(16)の正面部(16-d)と表面板(11)内面下部も密着させ接着する。
【0020】
固着後成形し終わった表面板(11)の上から、表面板(11),胴強化部材正面部(16-d)を2~6mmの深さで厚みを均等に切り欠き、弦保持部材背面部(15-b)がはまる形を形成する。切り欠きの深さに当たる胴強化部材切り欠き側面部(16-b)は表面板(11)から弦保持部材(15)の弦保持部分(15-a)の弦を通す穴が適正な高さを保つように調整する。弦保持部材の弦保持部分対向面(15-b)に胴強化部材切り欠き正面部(16-a)が、弦保持部分側面部(15-c)が胴強化部材切り欠き側面部(16-b)にそれぞれ対応する大きさとなるようにし、また面を平滑に、正確な大きさに切り欠く。弦保持部材(15)の弦保持部分(15-a)の対向面(15-b)を胴強化部材(16)の切り欠き正面部(16-a)に、側面(15-c)を切り欠き側面部(16-b)にそれぞれ密着させて接着する。
【0021】
弦保持部材(15)を、表面板(11)の一部と胴強化部材(16)を切り欠いて胴強化部材(16)と固着させ一体化することにより、長期間にわたって安定保持できる、明らかに耐久性の高い弦楽器を提供できる。
【0022】
弦保持部分(15)が胴強化部分(16)を通じて胴部(3)を構成する全ての部材と密着しているため、弦(10)の振動を胴部(3)の響鳴空間部分に有効に伝達することができる。そのため弦楽器の音質を著しく向上させ、演奏表現力を増すと共に、電気増幅器に頼らず、豊かな音量を楽器単体で発することができる。
【0023】
表面板(11)のサウンドホール(9)と弦保持部材(15)の間の適切な位置に、サドル(13)を接着する。サドル(13)には弦(10)を通す穴と、樹脂や骨材でできたブリッジ(14)が適切な深さではまる溝が彫られている。
【0024】
固着後弦楽器全体をサンドペーパー等で研磨し塗装を施す。
【0025】
クラッシックギター・ウクレレ等のように弦(10)の素材にガット・ナイロンを使用する場合は、弦(10)の一端を弦保持部材弦保持部分(15-a)に通し、太さにより回数を適宜巻き付けて固定する。もう一端をサドル(13)の弦を通す穴に通し、ブリッジ(14)の上に乗せ、棹部(2)の指板(6)、ナット(5)の上を渡して糸巻(4)に巻く。糸巻(4)を回転させ、弦(10)の張力を調整し、各弦所定の音程を得る。
【0026】
アコースティックギター・ベース等のように弦(10)の素材が金属の場合は弦(10)の一端に丸い金属製の止具が付随しているため、弦保持部材の弦保持部分(15-a)の下部から弦(10)の止具のついていない一端を通すと弦保持部分(15-a)で固定される。止具のついていない一端を同じようにサドル(13)の弦を通す穴に通し、ブリッジ(14)の上に乗せ、棹部(2)の指板(6)、ナット(5)の上を渡して糸巻(4)に巻く。糸巻(4)を回転させ弦(10)の張力を調整し、各弦所定の音程を得る。
【0027】
図8に示す弦(10’)の張力(a’)のうち、従来存在していたサドル(13’)を剥がす力(a’2)を除去することができ、また表面板(11’)を陥没させる原因となる過度な力(a1)を緩和することができる。また図7のように弦保持部材(16)が表面板(11)、側板(8)、胴強化部材(16)と固着され、一体化することにより、弦(10)の張力(a)を表面板(11),側板(8)、胴強化部材(16),裏板(8)に分散させる。これらの効果により、従来の弦楽器の弦(10)の張力によって楽器が壊れる方向に向かう力の除去、分散を行うため、優れた強度、耐久性、寿命の向上した構造を提供することができる。
【0028】
従来のクラシック・アコースティックギター等になかった、図1に示されるブリッジ(14)と弦保持部材(15)の間の弦(10-2)が、共鳴弦としての役割を担い、演奏した音に共鳴して音量を増幅させ、倍音を強化できる。そのため従来の弦楽器に比べて明らかに良い音響効果を得ることができ、優れた音質を提供することができる。
【0029】
弦保持部材(15)で弦(10)を保持し、サドル(13)はブリッジ(14)と弦(10)のずれ止めの役割となる。表面板(11)との接着面を剥がす力(a’2)が除去されるため、サドル(13)の形態は小型化が可能となり、装飾的な自由度を増すことができる。弦保持材も図1に示す実施例正面図(15-1,15-2,15-3)のようにバリエーションが可能であり、従来の弦楽器では無かった極めて斬新で特徴的、個性的な外観を持つことができる。
【0030】
なお、上記した実施の形態は、ギターに適応した例を示したが、本発明はこれに何ら特定できるものではなく、ウクレレ、ベース等他の弦楽器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ヘッド部
2 棹部(ネック)
3 胴部(ボディ)
4 糸巻(ペグ)
5 ナット
6 指板(フィンガーボード)
7 フレット
8 側板(サイド)
9 サウンドホール
10 弦
10-2 弦(共鳴弦)
11 表面板(トップ)
12 裏板(バック)
13 サドル
14 ブリッジ
15 弦保持部材(テールピース)
16 胴強化部材(エンドブロック)
15-1 弦保持部材(15)実施例正面図1
15-2 弦保持部材(15)実施例正面図2
15-3 弦保持部材(15)実施例正面図3
15-A 弦保持部材(15)立体説明図
15-a 弦保持部材の弦保持部分
15-b 15-aの対向面部
15-c 弦保持部材側面部
15-d 弦保持部材底面部
16-A 胴強化部材(16)立体説明図
16-a 胴強化部材切り欠き正面部
16-b 胴強化部材切り欠き側面部
16-c 胴強化部材底面部
16-d 胴強化部材正面部
16-e 胴強化部材背面部
1’ ヘッド部
2’ 棹部(ネック)
3’ 胴部(ボディ)
4’ 糸巻(ペグ)
5’ ナット
6’ 指板(フィンガーボード)
7’ フレット
8’ 側板(サイド)
9’ サウンドホール
10’ 弦
11’ 表面板(トップ)
12’ 裏板(バック)
13’ サドル
14’ ブリッジ
16’ 胴強化部材(エンドブロック)
a 本発明に係る弦の張力
a1 本発明に係る弦の張力が表面板を押す方向に働く力
a’ 従来の弦の張力
a’1 従来の弦の張力が表面板を押す方向に働く力
a’2 従来の弦の張力がサドルを剥がす方向に働く力
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10