IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 味の素株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図1
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図2
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図3
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図4
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図5
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図6
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図7
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図8
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図9
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図10
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図11
  • 特許-アミノ酸の定量方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】アミノ酸の定量方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/66 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
C12Q1/66 ZNA
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019085546
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2019193633
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018087580
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩輝
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-166709(JP,A)
【文献】特開2011-137794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、D-アラニンの定量方法:
(1)以下の反応(i)および(ii)を行うこと:
(i)D-アラニンおよびATPを0.1~10mg/mLのD-アラニンリガーゼに接触させて、D-アラニン量依存的にATPを消費させる反応;および
(ii)ルシフェラーゼによりATP量依存的に発光シグナルを発生する反応;ならびに
(2)発光シグナルを検出すること。
【請求項2】
反応(i)が、20~90℃で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
100mM以下のD-アラニンが分析される、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中アミノ酸濃度は、健康状態の指標となり得ることが知られている(例えば、非特許文献1)。アミノ酸の測定方法としては、アミノ酸アナライザー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やLC-MSなどの機器を用いた方法、蛍光分析法(例えば、特許文献1)が知られている。
【0003】
別のアミノ酸定量技術として、アミノ酸と作用する酵素を用いる方法が知られている(特許文献2~4)。アミノ酸と作用する酵素としては、アミノアシルtRNA合成酵素(AARS)が挙げられる。AARSは、ほとんどすべての生物が保有している酵素であり、以下の反応式1および2に従ってタンパク質合成に関与する。それぞれ19種類のL-アミノ酸またはグリシンを特異的に認識するAARSが存在するので、個々のL-アミノ酸またはグリシンの選択的検出が可能であると考えられている。
【0004】
【化1】
【0005】
特許文献1には、ヒスチジンを蛍光試薬と結合させて蛍光分析することによるヒスチジンの分析方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、上記反応式1を含む、AARSを用いた反応経路により得られた反応生成物を定量することによるアミノ酸の定量方法が記載されている。特許文献2の方法では、上記反応式1で生成するアミノアシルAMP-AARS複合体をアミン類(求核剤)の添加により分解させ、反応全体により得られる生成物を定量することにより、アミノ酸が定量される。アミノアシルAMP-AARS複合体では、アミノアシルAMPがAARSに強く結合しているので、tRNAもしくはアミン等の求核剤を加えて複合体を分解しない限り、反応式2は進行しないと考えられている。特許文献2の方法によるアミノ酸の定量範囲は5μM~200μMであると考えられており、低濃度のアミノ酸を定量することができない。さらにこの方法では反応式1および2によって生成したピロリン酸を2段階の酵素反応によって検出しているため、煩雑であるとともに測定試料中の夾雑物やその他の外部要因による影響が懸念される。
【0007】
特許文献3には、上記反応式1を含む、AARSを用いた反応経路により得られた反応生成物を定量することによるアミノ酸の定量方法が記載されている。特許文献3では、低濃度のアミノ酸を定量するために、AARS反応系にヌクレオチドを添加してアミノアシルAMP-AARS複合体を分解することで遊離したアミノ酸およびAARSを再利用することによって高感度化したことを特徴としている。この方法のアミノ酸定量方法では、測定対象のアミノ酸の再利用によって、試料中に含まれているアミノ酸よりも多くのモル数の反応生成物が産生することによりアミノ酸量が増幅されるので、アミノ酸の検出には適用可能であるが、定量性の著しい低下が懸念される。そのため、アミノ酸濃度を正確に定量する必要がある場面においては使用が困難と考えられる。
【0008】
特許文献4には、上記反応式1を含む、AARSを用いた反応経路により得られた反応生成物を検出することによるアミノ酸の検出方法が記載されている。
【0009】
非特許文献1には、血漿アミノ酸プロファイルを健康状態の指標として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2001-242174号公報
【文献】特許第5305208号公報
【文献】国際公開第2017/170469号
【文献】国際公開第2002/012855号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Miyagi Y,et al.,PLoS One.2011;6(9):e24143
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の方法では大型で高価な機器を使う必要があり、しかも機器の維持とオペレーションに専門知識と習熟を必要とするため、導入、維持、利用に高額のコストを必要とする。また、原理上、各検体を多段階で分析する必要があるため、多検体を分析する際には長時間を必要とする。また、従来の方法は、5μM未満の濃度のアミノ酸の正確な定量には困難であると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、AARS等のATP依存性酵素をアミノ酸に作用させた触媒反応の際にアミノ酸量依存的に消費されるATPの量を測定することにより、アミノ酸を定量できること、および、ルシフェラーゼ等のATP依存的に基質を発光性物質に変換する能力を有する変換酵素を用いることにより、ATPの量を触媒反応の生成物よりも高精度で測定できることを着想し、さらに、D-アミノ酸を基質とするATP依存性酵素を用いることによりD-アミノ酸の定量も可能となることを着想し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下を含む、アミノ酸の定量方法:
(1)以下の反応(i)および(ii)を行うこと:
(i)アミノ酸およびATPをATP依存性酵素に接触させて、アミノ酸量依存的にATPを消費させる反応;および
(ii)ATP量依存的にシグナルを発生する反応;ならびに
(2)シグナルを検出すること。
〔2〕アミノ酸が、L-アミノ酸またはグリシンであり、
ATP依存性酵素が、アミノアシルtRNA合成酵素である、
〔1〕の方法。
〔3〕アミノ酸が、L-アルギニン、L-システイン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-メチオニン、L-バリン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-リジン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-アスパラギン酸、L-アスパラギン、L-フェニルアラニン、L-アラニン、およびグリシンからなる群から選ばれ、
ATP依存性酵素が、前記アミノ酸に対応するアミノアシルtRNA合成酵素である、
〔2〕の方法。
〔4〕アミノ酸が、D-アミノ酸であり、
ATP依存性酵素が、D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼである、
〔1〕の方法。
〔5〕アミノ酸が、D-アルギニン、D-システイン、D-イソロイシン、D-ロイシン、D-メチオニン、D-バリン、D-グルタミン酸、D-グルタミン、D-リジン、D-チロシン、D-トリプトファン、D-ヒスチジン、D-プロリン、D-セリン、D-スレオニン、D-アスパラギン酸、D-アスパラギン、D-フェニルアラニン、およびD-アラニンからなる群から選ばれ、
ATP依存性酵素が、前記アミノ酸に対応するD-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼである、
〔4〕の方法。
〔6〕反応(i)が、20~90℃で行われる、〔1〕~〔5〕のいずれかの方法。
〔7〕シグナルが、蛍光シグナルまたは発光シグナルである、〔1〕~〔6〕のいずれかの方法。
〔8〕シグナルが、発光シグナルであり、反応(ii)が、ATPを基質とする発光酵素により行われる、〔7〕の方法。
〔9〕ATPを基質とする発光酵素が、ルシフェラーゼである、〔8〕の方法。
〔10〕100mM以下のアミノ酸が分析される、〔1〕~〔9〕のいずれかの方法。
〔11〕以下を含む、アミノ酸分析用キット:
(a)ATP依存性酵素;
(b)ATP;ならびに
(c)ATPを基質とする発光酵素およびその発光素基質。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法は、従来法と比較してアミノ酸を迅速かつ高感度に測定することができる。本発明の方法はまた、L体のみならずD体アミノ酸を特異的に測定することができる。本発明の方法はさらに、種々のD体、L体アミノ酸を測定できるため汎用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、チロシルtRNA合成酵素(TyrRS)を用いた各濃度のL-チロシンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-チロシンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9923である。
図2図2は、イソロイシルtRNA合成酵素(IleRS)を用いた各濃度のL-イソロイシンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-イソロイシンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9909である。
図3図3は、ロイシルtRNA合成酵素(LeuRS)を用いた各濃度のL-ロイシンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-ロイシンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9935である。
図4図4は、バリルtRNA合成酵素(ValRS)を用いた各濃度のL-バリンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-バリンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9950である。
図5図5は、リジルtRNA合成酵素(LysRS)を用いた各濃度のL-リジンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-リジンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9877である。
図6図6は、D-Ala ligaseを用いた各濃度のD-アラニンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のD-アラニンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9815である。
図7図7は、ヒスチジルtRNA合成酵素(HisRS)を用いた各濃度のL-ヒスチジンに対する検量線を示す図である。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-ヒスチジンの最終濃度を示す(N=3)。R値は0.9934である。
図8図8は、各反応温度に対するIleRSの検量線を示す図である(N=3)。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-イソロイシンの最終濃度を示す。37、45、55、65、75℃での各検量線のR値はそれぞれ0.9825、0.9902、0.8515、0.9997、0.9953である。
図9図9は、各反応温度に対するValRSの検量線を示す図である(N=3)。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-バリンの最終濃度を示す。37、45、55、65、75℃での各検量線のR値はそれぞれ0.9887、0.9923、0.8958、0.9997、0.9944である。
図10図10は、各反応温度に対するLeuRSの検量線を示す図である(N=3)。縦軸は発光強度、横軸は反応系に混合した際のL-ロイシンの最終濃度を示す。37、45、55、65、75℃での各検量線のR値はそれぞれ0.9438、0.9191、0.9743、0.9910、0.9808である。
図11図11は、L-チロシンに対する活性を基準とした各アミノ酸(グリシンを除き、いずれもL-アミノ酸)に対するTyrRSの相対活性を示す図である(N=3)。縦軸は相対活性(%)、横軸は各アミノ酸を示す。
図12図12は、L-バリンに対する活性を基準とした各アミノ酸(グリシンを除き、いずれもL-アミノ酸)に対するValRSの相対活性を示す図である(N=3)。縦軸は相対活性(%)、横軸は各アミノ酸を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、アミノ酸の定量方法を提供する。本発明の方法は、以下を含む:
(1)以下の反応(i)および(ii)を行うこと:
(i)アミノ酸およびATPをATP依存性酵素に接触させて、アミノ酸量依存的にATPを消費させる反応;および
(ii)ATP量依存的にシグナルを発生する反応;ならびに
(2)シグナルを検出すること。
【0018】
本発明の方法で定量されるアミノ酸は、そのアミノ酸を基質とするATP依存性酵素が存在するアミノ酸であればいずれでもよい。アミノ酸としては、例えば、α-アミノ酸、β-アミノ酸、およびγ-アミノ酸が挙げられる。α-アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンが挙げられる。β-アミノ酸としては、例えば、β-アラニンが挙げられる。γ-アミノ酸としては、例えば、γ-アミノ酪酸が挙げられる。アミノ酸のアミノ基は、窒素原子が2個の水素原子と結合したアミノ基、窒素原子が1個の水素原子と結合したアミノ基、および窒素原子が水素原子と結合していないアミノ基のいずれであってもよい。窒素原子が1個の水素原子と結合したアミノ基を含有するアミノ酸としては、例えば、サルコシン、N-メチル-β-アラニン、N-メチルタウリン、プロリンが挙げられる。アミノ酸は、L-アミノ酸またはD-アミノ酸のいずれであってもよい。
【0019】
本発明の方法で定量されるアミノ酸の量は、本発明の方法で検出することができる限り特に限定されないが、反応(i)におけるアミノ酸の濃度として、例えば100mM以下、好ましくは10mM以下、より好ましくは1mM以下、さらにより好ましくは100μM以下、なおさらにより好ましくは10μM以下、特に好ましくは5μM未満、4μM以下、3μM以下、2μM以下、または1μM以下であってもよい。また、このようなアミノ酸の濃度としては、例えば1nM以上、好ましくは2nM以上、より好ましくは2.5nM以上、さらにより好ましくは3nM以上、なおさらにより好ましくは4nM以上、特に好ましくは、5nM以上、10nM以上、100nM以上、または1000nM以上であってもよい。より具体的には、このようなアミノ酸の濃度としては、例えば、1nM~100mM、好ましくは2nM~10mM、より好ましくは2.5nM~1mM、さらにより好ましくは3nM~100μM、なおさらにより好ましくは4nM~10μM、特に好ましくは5nM~4μM、10nM~3μM、または100nM~2μMであってもよい。
【0020】
反応(i)は、ATP依存性酵素の触媒作用により、定量されるアミノ酸がATP依存的に変換される反応である。逆の視点では、反応(i)では、ATP依存性酵素の触媒作用により、ATPが、定量されるアミノ酸の量に依存的に消費される。ATP消費量はアミノ酸量の指標となり、後述する反応(ii)を利用して検出することができる。
【0021】
反応(i)では、例えば上記反応式1のように、アミノアシルAMPと酵素の複合体が形成する場合が考えられる。しかし、本発明は、ATPの消費量を指標としてアミノ酸を定量することを特徴とするので、複合体を分解させる工程がなくても、アミノ酸を定量することができる。
【0022】
本発明の方法で用いられるATP依存性酵素は、定量されるアミノ酸をATP依存的に変換する酵素であればよく、アミノ酸の種類に応じて公知のものから適宜選択することができる。定量されるアミノ酸がL-アミノ酸またはグリシンである場合は、ATP依存性酵素として、例えば、そのアミノ酸を基質とするアミノアシルtRNA合成酵素(AARS)を用いることができる。定量されるアミノ酸がD-アミノ酸である場合は、ATP依存性酵素として、例えば、そのアミノ酸を基質とするD-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼを用いることができる。
【0023】
L-アミノ酸またはグリシンに対応するAARSは、公知のものから適宜選択することができる。AARSは、タンパク質合成に関与する、生物に必須の酵素である。したがって、AARSは、微生物(例、好熱菌)、植物、魚類、動物(例、哺乳動物)、または昆虫等の任意の生物に広く見出されるため、これらの生物由来の天然酵素を利用することができる。また、AARSとしては、変異体を利用してもよい。このような変異体としては、AARS活性を維持する限り、1以上のアミノ酸残基が修飾(例、置換、欠失、挿入、付加)されていてもよい。例えば、変異体は、C末端またはN末端に、他のペプチド成分(例、タグ部分)が付加されていてもよい。このような他のペプチド成分としては、例えば、目的タンパク質の精製を容易にするペプチド成分(例、ヒスチジンタグ、Strep-tag II等のタグ部分;グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質等の目的タンパク質の精製に汎用されるタンパク質)、目的タンパク質の可溶性を向上させるペプチド成分(例、Nus-tag)が挙げられる。
【0024】
AARSとしては、上述したような種々のAARSを用いることができるが、好ましくは、好熱菌由来AARSまたはその変異体を用いてもよい。好熱菌由来AARSとしては、例えば、Thermus属(例、Thermus thermophilus)、Thermotoga属(例、Thermotoga maritima)、Pyrococcus属(例、Pyrococcus horikoshii)、Thermococcus属(例、Thermococcus kodakarensis)、Sulfolobus属(例、Sulfolobus acidocaldarius)、Geobacillus属(Geobacillus stearothermophilus)に由来するAARSまたはその変異体が挙げられる。より具体的には、以下の表1に示される好熱菌由来AARSまたはその変異体を用いてもよい。
【0025】
AARSは、構造および機能に基づいて、2つのクラス(クラスIおよびII)さらに6つのサブクラス(クラスIa、Ib、Ic、IIa、IIb、およびIIc)に分類することができる(日本結晶学会誌48、327-336(2006))。AARSのクラスおよびサブクラスの分類を表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
D-アミノ酸に対応するD-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼは、公知のものから適宜選択することができる。D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼは、微生物の細胞壁の合成に関与する必須の酵素である。したがって、D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼは、様々な微生物(例、好熱菌)に広く見出されるため、微生物由来の天然酵素を利用することができる。また、AARSとしては、変異体を利用してもよい。このような変異体としては、D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼ活性を維持する限り、1以上のアミノ酸残基が修飾(例、置換、欠失、挿入、付加)されていてもよい。例えば、変異体は、C末端またはN末端に、上述したような他のペプチド成分(例、タグ部分)が付加されていてもよい。
【0028】
D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼとしては、上述したような種々のD-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼを用いることができるが、好ましくは、好熱菌由来D-アミノ酸リガーゼもしくはD-アミノ酸キナーゼまたはそれらの変異体を用いてもよい。好熱菌由来D-アミノ酸リガーゼまたはD-アミノ酸キナーゼとしては、例えば、Thermus属(例、Thermus thermophilus)、Thermotoga属(例、Thermotoga maritima)、Pyrococcus属(例、Pyrococcus horikoshii)、Thermococcus属(例、Thermococcus kodakarensis)、Sulfolobus属(例、Sulfolobus acidocaldarius)、Geobacillus属(Geobacillus stearothermophilus)に由来するD-アミノ酸リガーゼもしくはD-アミノ酸キナーゼまたはその変異体が挙げられる。より具体的には、以下の表2に示される好熱菌由来D-アミノ酸リガーゼもしくはD-アミノ酸キナーゼまたはその変異体を用いてもよい。
【0029】
【表2】
【0030】
ATP依存性酵素は、同酵素を発現する形質転換体を用いて、または無細胞系等を用いて、調製することができる。ATP依存性酵素を発現する形質転換体は、例えば、同酵素の発現ベクターを作製し、次いで、この発現ベクターを宿主に導入することにより作製できる。
【0031】
ATP依存性酵素を発現させるための宿主としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、コリネバクテリウム属細菌〔例、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)〕、およびバチルス属細菌〔例、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)〕をはじめとする種々の原核細胞、サッカロマイセス属細菌〔例、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)〕、ピヒア属細菌〔例、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)〕、アスペルギルス属細菌〔例、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)〕をはじめとする種々の真核細胞を用いることができる。宿主としては、所定の遺伝子を欠損する株を用いてもよい。形質転換体としては、例えば、細胞質中に発現ベクターを保有する形質転換体、およびゲノム上に目的遺伝子が導入された形質転換体が挙げられる。
【0032】
ATP依存性酵素を回収するには、以下の方法などがある。ATP依存性酵素は、本発明の形質転換体を培養し、回収した後、菌体を破砕(例、ソニケーション、ホモジナイゼーション)あるいは溶解(例、リゾチーム処理)することにより、破砕物および溶解物として得ることができる。このような破砕物および溶解物を、抽出、沈澱、濾過、カラムクロマトグラフィー等の手法に供することにより、ATP依存性酵素を得ることができる。ATP依存性酵素は、精製タンパク質が好ましい。
【0033】
反応(i)におけるATP依存性酵素の濃度は、本発明の方法でアミノ酸を定量することができる限り特に限定されず、反応系に含まれるアミノ酸が十分に変換される濃度が好ましい。このようなATP依存性酵素の濃度としては、例えば0.001mg/mL以上、好ましくは0.01mg/mL以上、より好ましくは0.1mg/mL以上であってもよい。また、このようなATP依存性酵素の濃度としては、例えば10mg/mL以下、好ましくは5mg/mL以下、より好ましくは2mg/mL以下であってもよい。より具体的には、このようなATP依存性酵素の濃度としては、例えば0.001~10mg/mL、好ましくは0.01~5mg/mL、より好ましくは0.1~2mg/mLであってもよい。
【0034】
反応(i)におけるATPの濃度は、本発明の方法でアミノ酸を定量することができる限り特に限定されない。このようなATPの濃度は、反応系に含まれるアミノ酸が十分に変換されるために、反応系に含まれるアミノ酸のモル数に対して過剰量であることが好ましい。また、このようなATPの濃度は、反応(i)におけるATPの変化量が検出可能となる程度であることが好ましい。このようなATPの濃度としては、例えば0.001μM以上、好ましくは0.01μM以上、より好ましくは0.1μM以上、さらにより好ましくは1μM以上、なおさらにより好ましくは5μM以上であってもよい。また、このようなATPの濃度としては、例えば10000μM以下、好ましくは5000μM以下、より好ましくは1000μM以下、さらにより好ましくは500μM以下、なおさらにより好ましくは200μM以下であってもよい。より具体的には、このようなATPの濃度としては、例えば0.001~10000μM、好ましくは0.01~5000μM、より好ましくは0.1~1000μM、さらにより好ましくは1~500μM、なおさらにより好ましくは5~200μMであってもよい。
【0035】
反応(i)を行う反応系としては、水溶液が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えば、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、MES緩衝液、Gly―KCl―KOH緩衝液が挙げられる。pHは、例えば2~12、好ましくは4~12、より好ましくは5~11であってもよい。
【0036】
ATP依存性酵素が補因子要求性である場合、反応(i)を行う反応系は、ATP依存性酵素の補因子を含んでいてもよい。AARSおよびD-アミノ酸リガーゼもしくはD-アミノ酸キナーゼは、補因子としてマグネシウムイオン要求性である場合が多いので、ATP依存性酵素がAARSまたはD-アミノ酸リガーゼもしくはD-アミノ酸キナーゼである場合、反応(i)を行う反応系は、マグネシウムイオン供給源(例、塩化マグネシウム)を含んでいてもよい。反応(i)におけるマグネシウムイオン供給源の濃度は、ATP依存性酵素が十分に活性化する限り特に限定されないが、例えば1μM以上、好ましくは10μM以上、より好ましくは100μM以上、さらにより好ましくは1000μM以上であってもよい。また、このようなマグネシウムイオン供給源の濃度としては、例えば100mM以下、好ましくは50mM以下、より好ましくは20mM以下、さらにより好ましくは10mM以下であってもよい。より具体的には、このようなマグネシウムイオン供給源の濃度としては、例えば1μM~100mM、好ましくは10μM~50mM、より好ましくは100μM~20mM、さらにより好ましくは1000μM~10mMであってもよい。
【0037】
反応(i)を行う反応系は、ATP依存性酵素による反応を促進するために求核剤を含んでいてもよい。求核剤としては、例えば、ヒドロキシルアミン、メチルアミン等のアミン類が挙げられる。反応(i)における求核剤の濃度は、ATP依存性酵素が十分に活性化する限り特に限定されないが、例えば1μM以上、好ましくは10μM以上、より好ましくは100μM以上、さらにより好ましくは1000μM以上であってもよい。また、このような求核剤の濃度としては、例えば5000mM以下、好ましくは2000mM以下、より好ましくは1000mM以下、さらにより好ましくは500mM以下であってもよい。より具体的には、このような求核剤の濃度としては、例えば1μM~5000mM、好ましくは10μM~2000mM、より好ましくは100μM~1000mM、さらにより好ましくは1000μM~500mMであってもよい。
【0038】
反応(i)は、ATP依存性酵素による反応が進行し、反応系に含まれる各成分が変質せず、かつ反応系が凍結または蒸発しない限りにおいていずれの温度で行ってもよい。高温ではATP依存性酵素の反応性が高いこと、および、検量線の直線性が良好になる傾向となることにより、反応(i)は、高温で行うことが好ましい。反応(i)は、例えば20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらにより好ましくは50℃以上、なおさらにより好ましくは55℃以上で行ってもよい。また、反応(i)は、例えば90℃以下、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、さらにより好ましくは77℃以下、なおさらにより好ましくは75℃以下で行ってもよい。より具体的には、反応(i)は、例えば20~90℃、好ましくは30~85℃、より好ましくは40~80℃、さらにより好ましくは50~77℃、なおさらにより好ましくは55~75℃で行ってもよい。
【0039】
反応(ii)で発生するシグナルは、ATP量を反映するパラメータを有し、そのパラメータを評価することによりATP量を測定することができるシグナルである限り特に限定されない。反応(ii)で発生するシグナルとしては、例えば、発光シグナルおよび蛍光シグナルが挙げられる。発光シグナルおよび蛍光シグナルにおいて、ATP量を反映するパラメータとしては、例えば、発光量(例、相対発光量;RLU)、蛍光波長(例、相対蛍光量;RFU)が挙げられる。
【0040】
反応(ii)で発生するシグナルが発光シグナルまたは蛍光シグナルである場合、反応(ii)は、ATP量依存的に化学発光または生物発光を引き起こす反応であってもよい。ATP量依存的に化学発光または生物発光を引き起こす反応としては、例えば、ATPを基質とする発光酵素、蛍光プローブ、蛍光標識ヌクレオチド、蛍光タンパク質、または会合誘起発光化合物を用いた反応が挙げられる。反応(ii)は、ATPを基質とする発光酵素により行われることが好ましい。
【0041】
ATPを基質とする発光酵素とは、ATPを補酵素として、発光素基質を発光性物質に変換する反応を触媒する酵素をいう。変換酵素としては、例えば、ルシフェラーゼが挙げられる。発光素基質とは、ATPを基質とする発光酵素の触媒作用により発光性物質に変換される基質をいう。発光素基質としては、例えば、ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンが挙げられる。
【0042】
ATPを基質とする発光酵素の反応機構として、例えば、ルシフェラーゼは、ATP量依存的にルシフェリンを発光性物質であるオキシルシフェリンに変換する反応を触媒する。
【0043】
反応(ii)がATPを基質とする発光酵素により行われる場合、反応(ii)は、変換酵素の触媒作用により、反応(i)での残存ATP量依存的に基質が発光性物質に変換される反応である。例えば、ルシフェラーゼが触媒する反応は、残存ATP量依存的にルシフェリンを発光性物質であるオキシルシフェリンに変換する反応である。この反応機構により、発光性物質の生成量を、反応(i)でのATP消費量(残存ATP量と表裏一体となる値)の指標とすることができ、結果として、アミノ酸量の指標とすることができる。
【0044】
反応(ii)は、変換酵素の一般的な反応条件下で行ってもよい。
【0045】
反応(i)および(ii)は、共役して行ってもよく、逐次行ってもよい。反応(i)および(ii)を共役して行う場合、反応(i)および(ii)は、これらの反応に必要な構成要素が混合された単一の反応系で行ってもよい。
【0046】
(2)では、反応(ii)で発生したシグナルが検出される。シグナルの検出において、ATP量を反映するパラメータを評価され、評価されたパラメータに基づいてATP量が測定される。例えば、反応(ii)がATPを基質とする発光酵素により行われる場合、ATPに依存して生成された発光性物質の量が、発光シグナルとして検出される。発光シグナルは、例えば、発光量(例、相対発光量;RLU)、蛍光波長(例、相対蛍光量;RFU)として検出される。検出された発光シグナルは、アミノ酸量の指標となる。
【0047】
シグナルが蛍光シグナルまたは発光シグナルである場合、シグナルの検出は、例えば、光検出装置(例、ルミノメーター、フォトセンサー、プレートリーダー)を用いて行うことができる。
【0048】
本発明の方法で定量されるアミノ酸は、被検試料に含まれる。被検試料は、アミノ酸を含有すると疑われる試料である限り特に限定されず、例えば、生体由来試料(例、血液、尿、唾液、涙)、食品(例、栄養ドリンク、アミノ酸飲料)、培養液(例、菌体、細胞)が挙げられる。被検試料中のアミノ酸は、低濃度(例、1μM以上1mM未満等の1mM未満の濃度)であっても、高濃度(例、1mM以上1M未満等の1mM以上の濃度)であってもよい。本発明の方法は、アミノ酸標準試料を用いて作成された検量線を用いて行ってもよい。
【0049】
別の実施形態では、本発明は、以下を含む、アミノ酸分析用キットを提供する:
(a)ATP依存性酵素;
(b)ATP;ならびに
(c)ATPを基質とする発光酵素およびその発光素基質。
【0050】
本発明のキットは、ATP依存性酵素による触媒反応を進行させるために、緩衝液、金属イオン、および求核剤の少なくとも一つをさらに含むことができる。緩衝液、ATP依存性酵素の補因子、および求核剤の種類および濃度の例としては、上述したものが挙げられる。
【実施例
【0051】
以下の実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕各酵素の発現用プラスミドの構築
大腸菌を用いた各酵素の組換え発現系を構築した。ここではThermus thermophilus由来TyrRSの組換え発現用プラスミドの構築法を示す。pET-28aの相補配列として5’末端にDNA(GTGCCGCGCGGCAGCCATATG)および3’末端にDNA(GGATCCGAATTCGAGCTCCGT)を付加したTyrRS(配列番号1)の遺伝子断片を化学合成にて作成した。NdeI(タカラバイオ株式会社)およびBamHI(タカラバイオ株式会社)にて制限酵素消化したpET-28aベクター(Merck社)をWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(Promega社)を用いて除タンパク質および不要なDNA断片を除去した。得られた産物とTyrRSの遺伝子断片を混合し、GeneArt(登録商標)Seamless Cloning and Assembly Enzyme Mix(ThermoFisher SCIENTIC社)を用いてライゲーションし、ライゲーション産物による大腸菌XL-10 Goldの形質転換体を取得した。大腸菌XL-10 Goldの形質転換体からプラスミドを抽出し、DNA配列を解析することで、プラスミドへの目的遺伝子の挿入を確認した。
【0053】
目的遺伝子が挿入されたプラスミドを、以後、pET-28a-TyrRSと呼び、pET-28a-TyrRSによるBL21(DE3)の形質転換体をpET-28a-TyrRS-BL21(DE3)と呼ぶ。表3に示す他の酵素も上記の方法に従ってプラスミドを構築した。
【0054】
【表3】
【0055】
〔実施例2〕各酵素の調製
TyrRSの調製は、下記のようにして行った。まず、実施例1で取得したpET-28a-TyrRS-BL21(DE3)のグリセロールストックから25μg/mLカナマイシンを含むLBプレートへ植菌し、37℃で一晩、静置培養した。25μg/mLカナマイシンを含むLB液体培地50mLを250mL容量のフラスコに入れ、LBプレート上のシングルコロニーを植菌し、37℃で一晩培養した。25μg/mLカナマイシンを含むLB液体培地2Lに上記培養液20mLを添加し、37℃でOD600の値が0.6程度になるまで旋回振盪にて培養した。25℃の下30分間静置し、IPTGを終濃度0.5mMとなるように添加し、16℃で旋回振盪にて一晩培養した後に50mLチューブに集菌した。
【0056】
破砕用バッファー(20mM Tris-HCl、pH8.0)にて菌体を懸濁し、超音波破砕機(INSONATOR、久保田商事株式会社)を用いて破砕した。この破砕液を15000×gで30分間遠心し上清を回収した後、Ni Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いて精製を行った。精製において、洗浄バッファー(20mM Tris-HCl、300mM NaCl、50mMイミダゾール、pH8.0)、および溶出バッファー(20mM Tris-HCl、300mM NaCl、500mMイミダゾール、pH8.0)を使用した。溶出画分を回収し、AKTA Explorer 10SとHi prep 26/10 desaltingを用いて20mM Tris-HCl、pH8.0に溶液交換した。その後、AKTA Explorer 10SとResource Q 6mLを用いて陰イオン交換カラムによる精製を4℃にて実施した。平衡化にはAバッファー(20mM Tris-HCl、pH8.0)を、および溶出にはBバッファー(20mM Tris-HCl、1M NaCl、pH8.0)を用いてNaCl濃度グラジエントで溶出を行った。LysRSは上記の精製方法に従って調製した。
【0057】
他の酵素(IleRS、LeuRS、ValRS、D-Ala ligase)も上記の方法に従って調製したが、各バッファーとして、破砕用バッファー(50mM Tris-HCl、500mM NaCl、pH8.0)、洗浄バッファー(50mM Tris-HCl、500mM NaCl、pH8.0)、溶出バッファー(50mM Tris-HCl、500mM NaCl、500mMイミダゾール、pH8.0)、Aバッファー(50mM Tris-HCl、pH8.0)およびBバッファー(50mM Tris-HCl、1M NaCl)を使用した。
【0058】
〔実施例3〕活性の評価
実施例2で調製した各酵素の活性の評価は下記手順にて行った。ここではTyrRSの活性評価法を示す。TyrRSを2.0mg/mLとなるように調製し、20μLのTyrRSに対して1.0M HEPES、pH7.5を10μL、750μM ATPを1μL、1.0M MgClを0.5μL、2.0Mヒドロキシルアミン溶液、pH7.5を10μL、超純水48.5μL、表4に示す各濃度のチロシン溶液10μLを加え混合した反応溶液を65℃、15分間インキュベートした。この溶液90μLに対して界面活性剤(ATP Detection Assay Kit、アブカム社)を45μL添加し、5分インキュベート後、ルシフェラーゼおよびルシフェリンを含む基質溶液(ATP Detection Assay Kit、アブカム社)を45μL添加し、5分インキュベートした。N=3となるように384ウェルプレート(コーニング社)に50μL分注し、プレートリーダー(Varioskan LUX、ThermoFisher SCIENTIC社)にて発光強度を測定した。図1にTyrRSを用いた各濃度のL-チロシン溶液に対する検量線を示す(N=3)。検量線のR値を表4に示す。
【0059】
他の酵素(IleRS、LeuRS、ValRS、LysRS、D-Ala ligase、HisRS)も活性評価を行った。各酵素を5.0mg/mLとなるように調製し、上述した組成に基づいて反応溶液を調製し、反応および発光強度の検出を行った。図2にIleRSを用いたL-イソロイシン溶液に対する検量線、図3にLeuRSを用いたL-ロイシン溶液に対する検量線、図4にValRSを用いたL-バリン溶液に対する検量線、図5にLysRSを用いたL-リジン溶液に対する検量線、図6にD-Ala ligaseを用いたD-アラニンに対する検量線、図7にHisRSを用いたL-ヒスチジン溶液に対する検量線を示す(いずれも、N=3)。検量線のR値を表4に示す。
【0060】
【表4】
【0061】
実施例で用いた酵素はいずれも、検量線において良好な線形を示した。この結果は、本発明の方法が、L体およびD体を含めたアミノ酸の高精度な定量に適していることを示す。また、この結果は、100nM~5μMのような比較的低濃度のアミノ酸についても正確な定量ができることを示す。
【0062】
〔実施例4〕反応温度の評価
実施例2で調製した酵素の反応温度の評価は下記手順にて行った。ここではIleRSについて記載する。IleRSを5.0mg/mLとなるように調製し、20μLのIleRSに対して2M HEPES、pH7.5を10μL、10mM ATPを1μL、1.0M MgClを0.5μL、2.0Mヒドロキシルアミン溶液、pH7.5を10μL、超純水48.5μL、表5に示す各濃度のL-イソロイシン溶液10μLを加え混合した反応溶液を37、45、55、65、75℃で、15分間インキュベートした。この溶液90μLに対して界面活性剤(ATP Detection Assay Kit、アブカム社)を45μL添加し、5分インキュベート後、ルシフェラーゼ溶液を45μL添加し、5分インキュベートした。N=3となるように384ウェルプレートに50μL分注し、発光強度を測定した。図8にIleRSの各温度における検量線を示す(N=3)。上記の方法に従って作成したValRSおよびLeuRSの各温度における検量線を図9および10に示す(いずれも、N=3)。検量線のR値を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
実施例で用いた酵素は、いずれの反応温度においても検量線において良好な線形を示した。この結果は、本発明の方法が、20~90℃の反応温度での高精度なアミノ酸の定量に適していることを示す。
【0065】
〔実施例5〕基質特異性の評価
実施例2で調製した酵素の基質特異性の評価は下記手順にて行った。ここではTyrRSについて記載する。TyrRSを2.0mg/mLとなるように調製し、20μLのTyrRSに対して0.2M HEPES、pH7.5を100μL、2000μM ATPを2μL、1.0M MgClを1μL、2.0Mヒドロキシルアミン溶液、pH7.5を20μL、超純水37μL、150μMの各アミノ酸溶液(グリシンを除き、いずれもL-アミノ酸)またはブランク20μLを加え混合した反応溶液を37℃、60分間インキュベートした。この溶液90μLに対して界面活性剤(ATP Detection Assay Kit、アブカム社)を45μL添加し、5分インキュベート後、ルシフェラーゼ溶液を45μL添加し、5分インキュベートした。N=3となるように384ウェルプレートに50μL分注し、発光強度を測定した。各アミノ酸溶液において、ブランクに対する発光強度の減少量を活性の指標とした。L-チロシンに対する活性を基準とした各アミノ酸に対するTyrRSの相対活性を図11に示す(N=3)。上記の方法に従ってValRSの基質特異性を評価した結果を図12に示す(N=3)。
【0066】
実施例で用いた酵素はいずれも、極めて高い基質特異性を示した。この結果は、本発明の方法が、特異性の高いアミノ酸の分析に適していることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法は、例えば、生体研究、健康栄養、医療、食品製造など広範な分野において応用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号1は、Thermus thermophilus TyrRSのアミノ酸配列を示す。
配列番号2は、Thermotoga maritima IleRSのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、Thermus thermophilus LeuRSのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、Thermus thermophilus ValRSのアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、Thermotoga maritima LysRSのアミノ酸配列を示す。
配列番号6は、Thermus thermophilus D-Ala ligaseのアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、Thermotoga maritima HisRSのアミノ酸配列を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
0007521178000001.app