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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】Ni基合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20240717BHJP
   C22C 30/00 20060101ALI20240717BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20240717BHJP
   B22D 27/04 20060101ALI20240717BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C22C19/05 C
C22C30/00
C22F1/10 H
B22D27/04 E
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 682
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020008117
(22)【出願日】2020-01-22
(65)【公開番号】P2021116432
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 亜由美
(72)【発明者】
【氏名】山下 正和
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0102393(KR,A)
【文献】特開2015-129341(JP,A)
【文献】特開2017-145479(JP,A)
【文献】特開2017-145478(JP,A)
【文献】特許第7187864(JP,B2)
【文献】梶川 耕司 ほか,Ni基合金のフレッケル偏析の生成,鉄と鋼,日本,2009年,Vol.95,P.21-27
【文献】山下 正和 ほか,Ni基超合金におけるフレッケル偏析の生成条件の推定,電気製鋼,2019年,第90巻2号,第107~113頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00 - 19/07
C22C 30/00
C22F 1/10
B22D 27/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05≦C≦0.10mass%、
11.0≦Cr≦19.0mass%、
15.0≦Co≦22.0mass%、
0.5≦Fe≦10.0mass%、
2.5≦Mo≦5.0mass%、
2.0≦W≦5.0mass%、
0.3≦Nb≦2.0mass%、
3.0≦Al≦4.0mass%、及び、
0.2≦Ti≦2.49mass%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)が-0.050超0.015未満であるNi基合金。
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)。
【請求項2】
0.09≦Si≦0.15mass%、
0.001≦B≦0.03mass%、及び、
0.04≦Zr≦0.1mass%
からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素をさらに含む請求項1に記載のNi基合金。
【請求項3】
1.0≦Ta≦2.0mass%をさらに含む請求項1又は2に記載のNi基合金。
【請求項4】
650℃での引張強度が1200MPa以上である請求項1から3までのいずれか1項に記載のNi基合金。
【請求項5】
650℃での引張強度が1300MPa以上である請求項1から4までのいずれか1項に記載のNi基合金。
【請求項6】
以下の構成を備えたNi基合金の製造方法。
(1)前記Ni基合金の製造方法は、
Ni基合金の液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく予測式取得工程と、
製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出するΔρ算出工程と、
算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する臨界値算出工程と、
前記Ni基合金が実際に凝固する時の冷却速度V'と、前記Ni基合金が実際に凝固する時の凝固速度R'の1.1乗の積(=V'×R' 1.1 )が前記αX以上となる条件下において、前記合金(X)を製造する合金製造工程と
を備えている。
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
Vは、前記Ni基合金が凝固する時の冷却速度(℃/min)、
Rは、前記Ni基合金が凝固する時の凝固速度(℃/min)。
(2)前記合金(X)は、
0.05≦C≦0.10mass%、
11.0≦Cr≦19.0mass%、
1.0≦Co≦22.0mass%、
0.5≦Fe≦10.0mass%、
2.5≦Mo≦5.0mass%、
1.0≦W≦5.0mass%、
0.3≦Nb≦2.0mass%、
3.0≦Al≦4.0mass%、及び、
0.2≦Ti≦2.49mass%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。
(3)前記予測式取得工程は、
Δρ≧0である場合の前記予測式として、次の式(3)を予め取得し、
Δρ<0である場合の前記予測式として、次の式(4)を予め取得しておく
工程を含む。
V×R 1.1 =353.42Δρ+4.11 ・・・(3)
V×R 1.1 =167.64Δρ-0.29 ・・・(4)
【請求項7】
前記合金(X)は、前記液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)が-0.050超0.015未満である請求項6に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項8】
前記合金(X)は、
0.09≦Si≦0.15mass%、
0.001≦B≦0.03mass%、及び、
0.04≦Zr≦0.1mass%
からなる群から選ばれるいずれか1以上の元素をさらに含む請求項6又は7に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項9】
前記合金(X)は、1.0≦Ta≦2.0mass%をさらに含む請求項6から8までのいずれか1項に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項10】
前記合金(X)は、650℃での引張強度が1200MPa以上である請求項6から9までのいずれか1項に記載のNi基合金の製造方法。
【請求項11】
前記合金(X)は、650℃での引張強度が1300MPa以上である請求項6から10までのいずれか1項に記載のNi基合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することが可能なNi基合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「Ni基合金(又は、Ni基超合金)」とは、Niを主成分とし、Al、Ti、W、Mo、Ta、Cr等を添加することにより固溶強化及び/又は析出強化させた合金をいう。Ni基合金は、高温強度、耐食性、耐酸化性等に優れていることから、航空機用ジェットエンジンや発電用ガスタービンの動翼や静翼、ターボチャージャー用タービンなどに賞用されている。そのため、このようなNi基合金に関し、従来から種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11.0≦Cr<19.0mass%、0.5≦Co<22.0mass%、0.5≦Fe<10.0mass%、Si≦0.1mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、2.5≦Mo+1/2W<5.5mass%、S≦0.010mass%、0.3≦Nb<2.0mass%、3.0<Al<6.5mass%、及び、0.2≦Ti<2.49mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、0.2≦[Ti]/[Al]×10<4.0、及び、8.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Ti量を少なくしてAl量を多くすると、熱間鍛造加工性と高温強度特性との両立が可能となる点が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11≦Cr<19mass%、5<Co<25mass%、0.1≦Fe<4.0mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、2.0≦Nb<4.0mass%、3.0<Al<5.0mass%、及び、1.0<Ti<3.0mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、3.5≦([Ti]+[Nb])/[Al]×10<6.5、及び、9.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Al、Ti、及びNbの含有量を最適化すると、γ'相の固溶温度を低下させることができることができ、これによって低温での熱間鍛造が可能となる点が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、
(A)0.001<C<0.100mass%、11≦Cr<19mass%、5<Co<25mass%、0.1≦Fe<4.0mass%、2.0<Mo<5.0mass%、1.0<W<5.0mass%、0.3≦Nb<4.0mass%、3.0<Al<5.0mass%、1.0<Ti<3.4mass%、及び、0.01≦Ta<2.0mass%を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
(B)元素Mの原子%を[M]とすると、3.5≦([Ti]+[Nb])/[Al]×10<6.5、及び、9.5≦[Al]+[Ti]+[Nb]<13.0を満たす
熱間鍛造用のNi基超合金が開示されている。
同文献には、Al、Ti、及びNbの含有量を最適化すると、γ'相の固溶温度を低下させることができることができ、これによって低温での熱間鍛造が可能となる点が記載されている。
【0006】
さらに、非特許文献1には、横型一方向凝固試験炉を用いたストリーク状偏析(フレッケル偏析)の再現試験の結果が開示されている。
同文献には、
(a)偏析ストリークは、凝固方向ベクトルと、母液相との比重差を駆動力とした濃化液相の移動方向ベクトルとの和の方向に成長する点、
(b)Ni基超合金は、添加される成分に応じて、偏析ストリークが凝固前面から上方に伸びる浮上型と、凝固前面から下方に伸びる沈降型に分類される点、及び、
(c)ε×R1.1値(ε:冷却速度、R:凝固速度)を偏析生成の臨界値とする方法で、Ni基超合金のストリーク偏析傾向を整理することができる点、
が記載されている。
【0007】
Ni基合金は、多量の合金元素を含むため、凝固時に徐冷されるとフレッケルと呼ばれるマクロ偏析が発生しやすい。フレッケル偏析は、材料の機械的特性(例えば、引張強度)を低下させる原因となる。そのため、Ni基合金の製造には、一般に、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法や真空アーク再溶解(VAR)法などの偏析の出にくい製造方法が採用されている。しかし、Ni基合金の製造方法としてESR法やVAR法を採用した場合であっても、鋳塊のサイズが大きくなるほど、凝固時にフレッケル偏析が発生しやすくなるという問題がある。
【0008】
一方、ESR法やVAR法を用いる場合において、消耗電極の溶解速度を遅くすると、溶湯の冷却速度が速くなる。その結果、フレッケル偏析を抑制することができる。しかしながら、この方法では、凝固速度が極端に遅くなり、高い生産効率は得られない。
さらに、フレッケル偏析が生成する臨界値は、合金組成によって異なる。そのため、フレッケル偏析が発生せず、かつ、高い生産効率が得られる製造条件を選定するためには、各合金組成毎に一方向凝固試験を実施し、臨界値を実験により求める必要があった。しかしながら、このような方法は、極めて煩雑である。また、臨界値が明らかになった場合であっても、工業レベルの生産設備において、事実上、臨界値を超える製造条件(フレッケル偏析が発生し難い製造条件)を採用することが困難である場合も多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-129341号公報
【文献】特開2017-145479号公報
【文献】特開2017-145478号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】鉄と鋼、Vol.95(2009)、No.8、P613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、生産効率を低下させることなくフレッケル偏析の生成を抑制することが可能なNi基合金及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、フレッケル偏析に起因する引張強度の低下の少ないNi基合金及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係るNi基合金は、
0.05≦C≦0.10mass%、
11.0≦Cr≦19.0mass%、
15.0≦Co≦22.0mass%、
0.5≦Fe≦10.0mass%、
2.5≦Mo≦5.0mass%、
2.0≦W≦5.0mass%、
0.3≦Nb≦2.0mass%、
3.0≦Al≦4.0mass%、及び、
0.2≦Ti≦2.49mass%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなり、
相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)が-0.050超0.015未満であるものからなる。
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3 )。
【0013】
本発明に係るNi基合金の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記Ni基合金の製造方法は、
Ni基合金の液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく予測式取得工程と、
製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出するΔρ算出工程と、
算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する臨界値算出工程と、
前記Ni基合金が実際に凝固する時の冷却速度V'と、前記Ni基合金が実際に凝固する時の凝固速度R'の1.1乗の積(=V'×R' 1.1 )が前記αX以上となる条件下において、前記合金(X)を製造する合金製造工程と
を備えている。
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
Vは、前記Ni基合金が凝固する時の冷却速度(℃/min)、
Rは、前記Ni基合金が凝固する時の凝固速度(℃/min)。
(2)前記合金(X)は、
0.05≦C≦0.10mass%、
11.0≦Cr≦19.0mass%、
1.0≦Co≦22.0mass%、
0.5≦Fe≦10.0mass%、
2.5≦Mo≦5.0mass%、
1.0≦W≦5.0mass%、
0.3≦Nb≦2.0mass%、
3.0≦Al≦4.0mass%、及び、
0.2≦Ti≦2.49mass%
を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなる。
(3)前記予測式取得工程は、
Δρ≧0である場合の前記予測式として、次の式(3)を予め取得し、
Δρ<0である場合の前記予測式として、次の式(4)を予め取得しておく
工程を含む。
V×R 1.1 =353.42Δρ+4.11 ・・・(3)
V×R 1.1 =167.64Δρ-0.29 ・・・(4)
【発明の効果】
【0014】
Ni基合金をゆっくりと凝固させると、凝固の進行に伴い溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。その結果、凝固中に、母液相とは密度が異なる濃化液相が生成する。フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。一般に、Δρの絶対値が大きくなるほど、フレッケル偏析が大きくなる。
【0015】
一方、各合金元素は、Δρを大きくする元素、Δρを小さくする元素、及び、Δρにほとんど影響を与えない元素に大別される。そのため、目的とする特性を得るために不可欠な元素の含有量を維持したまま、他の元素の含有量を増減させると、Δρを所定の範囲内に収めることができる。その結果、生産効率及び要求される特性(例えば、高温引張強度)を損なうことなく、フレッケル偏析の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】液相密度差ΔρとVR1.1との関係を示す図である。
図2図2(A)~図2(F)は、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすC、Cr、Co、Fe、Mo、又はWの含有量の差Δxの影響を示す図である。
図3図3(A)~図3(D)は、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすNb、Ti、Zr、又はAlの含有量の差Δxの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. Ni基合金]
[1.1. 組成]
[1.1.1. 主構成元素]
本発明に係るNi基合金は、液相密度差Δρが所定の範囲内にあるものからなる。液相密度差Δρの詳細については、後述する。本発明に係るNi基合金の組成は、液相密度差Δρが後述する条件を満たす限りにおいて特に限定されない。
本発明に係るNi基合金は、特に、以下のような元素を含み、残部がNi及び不可避的不純物からなるものが好ましい。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0018】
(1) 0.05≦C≦0.10mass%:
Cは、Cr、Nb、Ti、W、Mo等と結合し、種々の炭化物を生成する。炭化物のうち固溶温度の高いもの(Nb系及びTi系炭化物)は、ピンニング効果によって高温下での結晶粒の粗大化を抑制し、熱間加工性の改善に寄与する。また、Cr系、Mo系、及びW系の炭化物は、粒界に析出して粒界強化することで、機械特性の改善に寄与する。このような効果を得るためには、C含有量は、0.05mass%以上が好ましい。
【0019】
一方、C含有量が過剰になると、炭化物量が過剰となる。その結果、炭化物の偏析による組織の不均一化、粒界炭化物の過剰析出による熱間加工性及び機械特性の低下などを招く。従って、C含有量は、0.1mass%以下が好ましい。
【0020】
(2) 11.0≦Cr≦19.0mass%:
Crは、Cr23の保護酸化膜を形成し、耐食性及び耐酸化性を向上させるために不可欠な元素である。また、Crは、Cと結合してCr236炭化物を生成し、強度特性の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Cr含有量は、11.0mass%以上が好ましい。Cr含有量は、好ましくは、12.0mass%以上、さらに好ましくは、12.3mass%以上である。
【0021】
一方、Crは、フェライト安定化元素である。そのため、Cr含有量が過剰になると、オーステナイトが不安定化し、脆化相であるσ相やラーベス相の生成が促進される。その結果、熱間加工性、並びに、強度や衝撃値などの機械的特性の低下を招く。従って、Cr含有量は、19.0mass%以下が好ましい。Cr含有量は、好ましくは、17.0mass%以下、さらに好ましくは、16.0mass%以下である。
【0022】
(3) 1.0≦Co≦22.0mass%:
Coは、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して加工性を改善する。また、Coは、γ'相の析出を促進し、引張特性等の高温強度を向上させる。このような効果を得るためには、Co含有量は、1.0mass%以上が好ましい。Co含有量は、好ましくは、15.0mass%以上、さらに好ましくは、19.0mass%以上である。
一方、Coは高価であるため、過剰な添加は高コスト化を招く。従って、Co含有量は、22.0mass%以下が好ましい。
【0023】
(4) 0.5≦Fe≦10.0mass%:
Feは、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶する。Feは、少量であれば強度特性及び加工性への影響はない。また、Feは、合金製造時の原料に混入することがある成分であり、原料の選択によってはFe含有量が多量となるものの、原料コストの低下に繋がる。このような効果を得るためには、Fe含有量は、0.5mass%以上が好ましい。Fe含有量は、好ましくは、0.95mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
一方、Fe含有量が過剰になると、強度が低下する。従って、Fe含有量は、10.0mass%以下が好ましい。Fe含有量は、好ましくは、7.0mass%以下、さらに好ましくは、5.0mass%以下である。
【0024】
(5) 2.5≦Mo≦5.0mass%:
Moは、固溶強化元素であり、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して合金を強化する。また、Moは、Cと結合して炭化物を生成し、粒界を強化して機械強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、Mo含有量は、2.5mass%以上が好ましい。Mo含有量は、好ましくは、3.0mass%以上である。
一方、Mo含有量が過剰になると、有害相であるσ相やラーベス相の生成を促進し、熱間加工性及び機械的特性を低下させる。従って、Mo含有量は、5.0mass%以下が好ましい。
【0025】
(6) 1.0≦W≦5.0mass%:
Wは、固溶強化元素であり、Ni基合金の母相であるオーステナイト相に固溶して合金を強化する。また、Wは、Cと結合して炭化物を生成し、粒界を強化して機械強度の向上に寄与する。このような効果を得るためには、W含有量は、1.0mass%以上が好ましい。W含有量は、好ましくは、2.0mass%以上、さらに好ましくは、2.5mass%以上である。
一方、W含有量が過剰になると、有害相であるσ相やラーベス相の生成を促進し、熱間加工性及び機械的特性を低下させる。従って、W含有量は、5.0mass%以下が好ましい。W含有量は、好ましくは、4.5mass%以下、さらに好ましくは、4.0mass%以下である。
【0026】
(7) 0.3≦Nb≦2.0mass%:
Nbは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Nbを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Nbは、Tiとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Nb含有量は、0.3mass%以上が好ましい。Nb含有量は、好ましくは、0.7mass%以上、さらに好ましくは、1.0mass%以上である。
【0027】
一方、Nb含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Nb含有量は、2.0mass%以下が好ましい。Nb含有量は、好ましくは、1.5mass%以下である。
【0028】
(8) 3.0≦Al≦4.0mass%:
Alは、強化相であるγ'相(Ni3Al)の生成元素として働き、高温強度特性の改善に特に重要な元素である。また、Alは、γ'相の固溶温度を上昇させるが、NbやTiに比べて固溶温度上昇への影響は小さい。むしろ、Alは、γ'相の固溶温度の上昇を抑えつつ、時効温度域におけるγ'相の析出量を増加させる作用がある。さらに、Alは、Oと結合してAl23からなる保護酸化被膜を形成し、耐食性及び耐酸化性の改善にも有効である。このような効果を得るためには、Al含有量は、3.0mass%以上が好ましい。Al含有量は、好ましくは、3.5mass%以上である。
【0029】
一方、Al含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇する。また、γ'相の析出量が増加し、熱間加工性が低下するおそれがある。従って、Al含有量は、4.0mass%以下が好ましい。
【0030】
(9) 0.2≦Ti≦2.49mass%:
Tiは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Tiを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Tiは、Nbとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Ti含有量は、0.2mass%以上が好ましい。Ti含有量は、好ましくは、0.23mass%以上、さらに好ましくは、0.5mass%以上である。
【0031】
一方、Ti含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Ti含有量は、2.49mass%以下が好ましい。Ti含有量は、好ましくは、2.0mass%以下である。
【0032】
[1.1.2. 副構成元素]
Ni基合金は、上述した主構成元素に加えて、以下のような1又は2以上の元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
【0033】
(10) 0.09≦Si≦0.15mass%:
Siを添加すると、Si酸化物のスケール層が形成され、耐酸化性が改善される。このような効果を得るためには、Si含有量は、0.09mass%以上が好ましい。
しかしながら、Si含有量が過剰になると、Siが偏析することにより局部的な低融点部を生成し、熱間加工性を低下させる。従って、Si含有量は、0.15mass%以下が好ましい。Si含有量は、好ましくは、0.10mass%以下である。
【0034】
(11) 1.0≦Ta≦2.0mass%:
Taは、Cと結合して比較的固溶温度の高いMC型炭化物を生成させる。そのため、Taを添加すると、ピンニング効果により固溶化熱処理後の結晶粒の粗大化が抑制され、高温強度特性、及び熱間加工性が改善される。また、Taは、Nb、Tiとともに強化相であるγ'相(Ni3Al)のAlサイトを置換し、Ni3(Al,Ti,Nb,Ta)となってγ'相を固溶強化させる。このような効果を得るためには、Ta含有量は、1.0mass%以上が好ましい。
【0035】
一方、Ta含有量が過剰になると、γ'相の固溶温度が上昇し、熱間加工性が低下する。また、脆化相であるラーベス相が生成し、高温強度の低下を招く。従って、Ta含有量は、2.0mass%以下が好ましい。Ta含有量は、好ましくは、1.5mass%以下である。
【0036】
(12) 0.001≦B≦0.03mass%:
Bは、結晶粒界に偏析して粒界を強化し、加工性及び機械特性を改善する。このような効果を得るためには、B含有量は、0.001mass%以上が好ましい。B含有量は、好ましくは、0.01mass%以上である。
一方、B含有量が過剰になると、粒界への過剰偏析により延性が失われ、熱間加工性が低下する。従って、B含有量は、0.03mass%以下が好ましい。B含有量は、好ましくは、0.025mass%以下、さらに好ましくは、0.02mass%以下である。
【0037】
(13) 0.04≦Zr≦0.1mass%:
Zrは、結晶粒界に偏析して粒界を強化し、加工性及び機械特性を改善する。このような効果を得るためには、Zr含有量は、0.04mass%以上が好ましい。Zr含有量は、好ましくは、0.045mass%以上である。
一方、Zr含有量が過剰になると、粒界への過剰偏析により延性が失われ、熱間加工性が低下する。従って、Zr含有量は、0.1mass%以下が好ましい。
【0038】
[1.2. 液相密度差]
[1.2.1. Δρの好適な範囲]
本発明に係るNi基合金は、液相密度差Δρが-0.050超0.015未満であるものからなる。ここで、「液相密度差Δρ」とは、次の式(1)で表される値をいう。
Δρ=ρ0-ρ0.35 …(1)
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)。
【0039】
Ni基合金をゆっくりと凝固させると、鋳壁にデンドライトの核が生成し、デンドライトが鋳型の内部に向かって成長する。この時、溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。通常、凝固の進行に伴って固相から溶質が掃き出されるため、液相中の溶質の濃度が上昇する。その結果、凝固中に母液相(固相率:ゼロ)とは密度が異なる濃化液相が生成する場合がある。母液相の密度と濃化液相の密度との差(液相密度差)Δρは、固相率により異なる。本発明において、液相密度差Δρの算出には、固相率が0.35である時の濃化液相の密度ρ0.35を用いる。これは、固相率が0.35の時にΔρが最大となる場合が多いためである。
【0040】
フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。そのため、一般に、Δρの絶対値が小さくなるほど、フレッケル偏析が生成しにくくなる。
工業的なサイズ(例えば、直径が150mm~1000mm程度)を持ち、かつ、フレッケル偏析のない鋳塊を、汎用の製造設備で製造するためには、Δρは、-0.050超0.015未満である必要がある。
【0041】
[1.2.2. Δρとフレッケル偏析の臨界値αとの関係]
「フレッケル偏析生成の臨界値α」とは、次の式(2)で表される値をいう。
α=V×R1.1 …(2)
但し、
Vは、前記Ni基合金が凝固する時の冷却速度(℃/nin)、
Rは、前記Ni基合金が凝固する時の凝固速度(mm/min)。
【0042】
フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)とΔρとの間には相関があり、凝固時の冷却条件が臨界値αを下回ると、フレッケル偏析が生成しやすいことが知られている。
そのため、実際の製造条件下における臨界値αが不明である場合であっても、Δρを知ることができれば、フレッケル偏析が生成するか否かをある程度、正確に予測することができる。
また、Δρが上述の範囲にある時にはフレッケル偏析は出にくくなるが、それでもなおフレッケル偏析が発生した時には、冷却条件が臨界値αを下回っていることを表す。このような場合には、Δρの絶対値がさらに小さくなるように、合金元素の含有量を変更するか、あるいは、冷却条件が臨界値αを上回るように(すなわち、より急冷条件となるように)、製造方法及び/又は製造条件を変更すれば良い。
【0043】
Δρとαとの関係を表す経験式として、従来から種々の式が提案されている。しかしながら、従来は、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかを区別することなく、Δρとαとの関係を論ずるのが一般的であった。
【0044】
これに対し、Δρとαとの間の相関は、合金が浮上型(Δρ≧0)であるか、あるいは、沈降型(Δρ<0)であるかによって大きく異なる。この点は、本願発明者らによって初めて見出された知見である。そのため、Δρとαとの関係を表す予測式を浮上型(Δρ≧0)である場合と沈降型(Δρ<0)である場合に分けて、それぞれ、予め取得しておくと、フレッケル偏析の有無をある程度正確に予測することができる。
【0045】
Δρとαとの関係(予測式)は、一般に、合金の種類により異なる。しかし、類似の組成及び性質を有すると見なすことができる一群の合金については、1組の予測式を用いてαを推定することができる。
ここで、「類似の組成及び性質を有すると見なすことができる一群の合金」とは、
(a)同一の主構成元素を含んでおり、
(b)同一の結晶構造を備えており、
(c)類似の物理的性質及び化学的性質を備えた合金
をいう。
【0046】
例えば、合金が上述した主構成元素を含むNi基合金である場合において、Ni基合金が浮上型(Δρ≧0)である時には、前記予測式として次の式(3)を用いるのが好ましい。一方、Ni基合金が沈降型(Δρ<0)である時には、前記予測式として、次の式(4)を用いるのが好ましい。
V×R1.1=353.42Δρ+4.11 ・・・(3)
V×R1.1=167.64Δρ-0.29 ・・・(4)
なお、「V×R1.1」は、現実にはマイナスの値を取ることはないが、Δρがマイナスの値を取る時には、便宜的にV×R1.1をマイナスの値で表す。
【0047】
溶質の平衡分配係数は既知であるため、合金組成が決まると、理論計算によりΔρを算出することができる。一方、ある組成を持つ合金の臨界値αは、一方向凝固試験(具体的には、縦型一方向凝固試験が好ましいが、これに限らない)により求めることができる。そのため、
(a)一群の合金の中からΔρが大きく異なる合金組成であって、Δρ≧0であるものとΔρ<0であるものとを、それぞれ、複数個(好ましくは、2個以上)選択し、
(b)選択された合金組成について、それぞれ、凝固試験を行い、
(c)理論計算から求められたΔρと、凝固試験から求められた臨界値α(=V×R1.1)とを、それぞれ、Δρ≧0である場合とΔρ<0である場合に分けて直線回帰する
ことにより、予測式を得ることができる。
【0048】
[1.2.3. Δρの調整方法]
Ni基合金において、合金元素は、
(a)含有量の増加に伴いΔρが大きくなる元素(以下、「正元素」ともいう)、
(b)含有量の増加に伴いΔρが小さくなる元素(以下、「負元素」ともいう)、及び、
(c)含有量を増減してもΔρにあまり影響がない元素(以下、「中性元素」ともいう)
に大別される。
そのため、目的に応じて各合金元素の含有量を増減させると、Δρを所定の範囲に維持することができる。また、含有量を増減させる合金元素の選択を最適化すると、生産効率及び要求される特性(例えば、高温引張強度)を損なうことなく、フレッケル偏析の生成を抑制することができる。
【0049】
正元素としては、例えば、Alなどがある。
負元素としては、例えば、Mo、Nb、Ti、Zr、C、W(但し、含有量が2.5mass%以上の時)などがある。
中性元素としては、例えば、Cr、Co、Fe、W(但し、含有量が2.5mass%以下の時)などがある。
【0050】
[1.3. 高温引張強度]
合金元素の含有量を最適化すると、実質的にフレッケル偏析のないNi基合金を得ることができる。また、このようなNi基合金に対して適切な熱処理を施すと、母相中にγ'相が析出した組織を有し、かつ、高い高温引張強度を有するNi基合金が得られる。
具体的には、各合金元素の含有量及び熱処理条件を最適化すると、650℃での引張強度が1200MPa以上となる。
合金元素の含有量をさらに最適化すると、650℃での引張強度が1300MPa以上となる。
【0051】
[2. Ni基合金の製造方法]
本発明に係るNi基合金の製造方法は、
Ni基合金の液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく予測式取得工程と、
製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出するΔρ算出工程と、
算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する臨界値算出工程と、
前記αX以上となる条件下において、前記合金(X)を製造する合金製造工程と
を備えている。
但し、
ρ0は、前記Ni合金の母液相(固相率:ゼロ)の密度(g/cm3)、
ρ0.35は、前記Ni合金の濃化液相(固相率:0.35)の密度(g/cm3)、
Vは、前記Ni基合金が凝固する時の冷却速度(℃/min)、
Rは、前記Ni基合金が凝固する時の凝固速度(℃/min)。
【0052】
合金製造工程は、具体的には、
(a)所定の組成となるように配合された原料を、αX以上となる条件下において溶解・鋳造する溶解鋳造工程と、
(b)得られた鋳塊に対して均質化熱処理を行う均熱化処理工程と、
(c)均質化熱処理後の素材に対して熱間加工を行う熱間加工工程と、
(d)熱間加工後の素材に対して固溶化熱処理を行う固溶化熱処理工程と、
(e)固溶化熱処理後の素材に対して時効処理を行う時効処理工程と
を備えている。
【0053】
[2.1. 予測式取得工程]
まず、Ni基合金の液相密度差Δρ(=ρ0-ρ0.35)と、フレッケル偏析生成の臨界値α(=V×R1.1)との関係を表す予測式を、Δρ≧0である場合(浮上型)とΔρ<0である場合(沈降型)に分けて、それぞれ、予め取得しておく(予測式取得工程)。予測式取得工程の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0054】
[2.2. Δρ算出工程]
次に、製造しようとする合金(X)の組成に基づいて、前記合金(X)の液相密度差ΔρXを算出する(Δρ算出工程)。Δρ算出工程の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0055】
[2.3. 臨界値算出工程]
次に、算出された前記ΔρXを前記予測式に代入し、前記合金(X)のフレッケル偏析生成の臨界値αXを算出する(臨界値算出工程)。臨界値算出工程の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0056】
[2.4. 合金製造工程]
次に、前記αX以上となる条件下において、前記合金(X)を製造する(合金製造工程)。
[2.4.1. 溶解・鋳造工程]
まず、所定の組成となるように配合された原料を、αX以上となる条件下で溶解・鋳造する(溶解・鋳造工程)。溶解・鋳造の方法及び条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法及び条件を選択することができる。溶解・鋳造方法としては、例えば、エレクトロスラグ再溶解(ESR)法、真空アーク再溶解(VAR)法などがある。
【0057】
[2.4.2. 均質化熱処理工程]
次に、得られた鋳塊に対し、均質化熱処理を行う。均質化熱処理は、鋳造時に生じた偏析を除去するために行われる。均質化熱処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、均質化熱処理は、温度:1100℃~1220℃、時間:10hr以上の条件で、鋳塊を加熱保持することにより行う。
【0058】
[2.4.3. 熱間鍛造工程]
次に、均質化熱処理後の素材を熱間鍛造する。熱間鍛造は、粗大な鋳造組織を破壊し、組織を微細化するために行われる。熱間鍛造の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、熱間鍛造は、1100℃~1160℃の条件で素材を加熱し、鍛造終止温度:1100℃の条件下で鍛造し、その後空冷することにより行う。なお、熱間鍛造は、均質化熱処理を行った後、素材を室温まで冷却することなく、連続して実施しても良い。
【0059】
[2.4.4. 固溶化熱処理工程]
次に、熱間鍛造後の素材に対して、固溶化熱処理を行う。固溶化熱処理は、素材をオーステナイト単相にするために行う。固溶化熱処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、固溶化熱処理は、温度:1000℃~1160℃×加熱時間:3hr~5hrの条件の下で素材を加熱し、冷却することにより行う。冷却方法としては、例えば、空冷、衝風冷却、油冷、水冷などがある。
【0060】
[2.4.5. 時効処理工程]
次に、固溶化熱処理後の素材に対して、時効処理を行う。時効処理は、母相中にγ'相を析出させるために行う。時効処理の条件は、このような効果を奏するものである限りにおいて、特に限定されない。通常、時効処理は、素材を700℃~900℃において、10hr~24hr加熱することにより行う。熱処理後、空冷にて冷却を行う。
【0061】
[3. 作用]
Ni基合金をゆっくりと凝固させると、凝固の進行に伴い溶質が所定の比率で固相と液相に分配される。その結果、凝固中に、母液相とは密度が異なる濃化液相が生成する。フレッケル偏析は、母液相と濃化液相との間の液相密度差Δρを駆動力として成長すると考えられている。一般に、Δρが大きくなるほど、フレッケル偏析が大きくなる。
【0062】
一方、各合金元素は、Δρを大きくする元素、Δρを小さくする元素、及び、Δρにほとんど影響を与えない元素に大別される。そのため、目的とする特性を得るために不可欠な元素の含有量を維持したまま、他の元素の含有量を増減させると、Δρを所定の範囲内に収めることができる。その結果、生産効率及び要求される特性(例えば、高温引張強度)を損なうことなく、フレッケル偏析の生成を抑制することができる。
【実施例
【0063】
(実施例1~24、比較例1~7)
[1. 試料の作製]
表1に示す化学成分のNi基合金50kgを高周波誘導炉にて溶製した。溶製したインゴットに対し、1100~1220℃で16時間の均質化熱処理を実施した。その後、φ30mmの棒材に熱間鍛造加工した。
次に、熱間鍛造加工した材料に対し、1000~1160℃の固溶化熱処理を施した。さらに、固溶化熱処理後の材料に対し、700~900℃で1段若しくは2段階以上の時効処理を行った。
【0064】
[2. 試験方法]
[2.1. 液相密度差Δρの算出]
熱物性計算ソフト:JMatPro(登録商標)を用いて、母液相の密度ρ0、及び固相率が0.35である時の濃化液相の密度ρ0.35を算出した。さらに、母液相の密度及び濃化液相の密度から、液相密度差Δρを算出した。
【0065】
[2.2. VR1.1の予測]
算出した液相密度差Δρが浮上型(Δρ≧0)である場合には、上述した式(3)に代入し、VR1.1を求めた。
また、算出した液相密度差Δρが沈降型(Δρ<0)である場合には、上述した式(4)に代入し、VR1.1を求めた。
【0066】
[2.3. フレッケル欠陥発生有無]
作製された試料を切断し、切断面をマクロ組織観察し、フレッケル欠陥の発生の有無を確認した。
[2.4. 高温引張試験]
上記の鍛造加工した素材を固溶化熱処理後、1段若しくは2段以上の時効処理を実施した。その後、平行部径8mm、標点距離40mmの試料を作製し、JIS G 0567に準拠して、高温引張試験を行った。試験温度は、650℃とした。
【0067】
[3. 結果]
表1に、結果を示す。また、図1に、液相密度差ΔρとVR1.1との関係を示す。表1、及び、図1より、以下のことが分かる。
【0068】
【表1】
【0069】
(1)液相密度差Δρが-0.050超0.015未満である場合、フレッケル欠陥のない鋳塊が得られた。
(2)鋳造時にフレッケル欠陥が発生した場合、時効処理を行っても、高温引張強度が低い。一方、鋳造時にフレッケル欠陥が発生しなかった場合、時効処理により、高温引張強度は、いずれも1200MPa以上となった。
【0070】
(実施例25)
[1. 試験方法]
実施例1の組成をベース組成とした。ベース組成に含まれる一部の元素の含有量を増減させた試料について、理論計算により液相密度差Δρを算出した。さらに、上述した式(3)及び式(4)を用いて、フレッケル偏析の臨界値α(予測値)を算出した。
【0071】
[2. 結果]
元素(M)の含有量がベース組成からΔx(mass%)だけずれた時に、Δρがどのように変化するかを見積もった。図2(A)~図2(F)に、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすC、Cr、Co、Fe、Mo、又はWの含有量の差Δxの影響を示す。図3(A)~図3(D)に、それぞれ、液相密度差Δρに及ぼすNb、Ti、Zr、又はAlの含有量の差Δxの影響を示す。図2及び図3より、以下のことが分かる。
【0072】
(1)元素(M)の種類によって、Δρに与えるΔxの影響が大きく異なった。元素(M)は、Δxの増加に伴って、Δρが増加するもの、Δρが減少するもの、及びΔρが増減しないものに大別される。
(2)元素(M)の中でも、Al及びMoは、僅かなΔxの変化によって、Δρが大きく変化することが分かった。
(3)元素(M)の中では、Mo、Nb、Tiは、Δxの増加に伴い、Δρは減少することが分かった。
(4)元素(M)の中では、Cr、Co、Fe、Wは、Δxがマイナスの値からゼロの値への変化に伴うΔρの変化量、及びΔxがゼロの値からプラスの値への変化に伴うΔρの変化量が2段階で異なる増減傾向を示すことが分かった。
(5)元素(M)の中では、Alは、Δxの増加に伴い、Δρが増加することが分かった。
【0073】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るNi基合金は、タービンの動翼や静翼、ターボチャージャーなどに用いることができる。
図1
図2
図3