(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】切削工具および切削方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/24 20060101AFI20240717BHJP
B23Q 17/22 20060101ALI20240717BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20240717BHJP
B23B 25/06 20060101ALI20240717BHJP
B23B 27/00 20060101ALI20240717BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B23Q17/24 D
B23Q17/22 A
B23Q17/09 A
B23B25/06
B23B27/00 D
B23Q11/00 M
(21)【出願番号】P 2020055510
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】今井 康晴
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-043339(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102009031166(DE,A1)
【文献】実開平07-037549(JP,U)
【文献】独国特許出願公開第10046529(DE,A1)
【文献】実開平01-138504(JP,U)
【文献】国際公開第2017/141851(WO,A1)
【文献】実開昭57-081003(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0041195(US,A1)
【文献】国際公開第2020/070907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00 - 17/24
B23B 25/00 - 29/34
B23Q 11/00
B23C 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃が形成された切削インサートと、上記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座を有する工具本体とを備え、上記切刃によって被削材に切削加工を行う切削工具であって、
上記工具本体は、軸線回りに回転される上記被削材の周面および端面を切削加工する旋削工具の工具本体であり、
上記工具本体は、中心線に沿って延びる柱状のシャンク部と、上記シャンク部の先端部の外周面から突出し上記インサート取付座を有する切刃部とを有し、
上記切削インサートは、上記インサート取付座に取り付けられた状態で上記切刃部の先端から先端側へ突出する主切刃と、上記主切刃の径方向外側の端部に形成されたコーナ刃とを有しており、
上記工具本体には、画像を撮影する撮像装置が備えられて
おり、
上記撮像装置は、上記切削インサートの上記コーナ刃に向けられ、上記切刃および上記切刃によって切削加工された上記被削材の加工面を撮影する
ことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
上記工具本体は、上記軸線を中心として上記被削材に形成された凹部
および穴部の内周面を切削加工する内径旋削工具の工具本体であることを特徴とする請求項
1に記載の切削工具。
【請求項3】
上記工具本体には、上記加工面をクリーニングするクリーニング装置が備えられていることを特徴とする請求項
1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
上記工具本体には、該工具本体から上記被削材までの距離を測定する測定装置が備えられていることを特徴とする請求項1から請求項
3のうちいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
上記工具本体には、上記撮像装置によって撮影された画像を画像データとして外部に送信する通信部が備えられていることを特徴とする請求項1から請求項
4のうちいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
請求項
5に記載の切削工具を用いた切削方法であって、
上記通信部から外部に送信された上記画像データを、ネットワークを介して外部サーバに蓄積して解析することを特徴とする切削方法。
【請求項7】
上記外部サーバは、上記切削工具によって上記被削材に切削加工を行う工作機械に備えられていることを特徴とする請求項
6に記載の切削方法。
【請求項8】
請求項
5に記載の切削工具を用いた切削方法であって、
上記通信部から外部に送信された上記画像データを、切削加工を行う作業者の携帯情報端末にネットワークを介して表示することを特徴とする切削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具本体に設けられた切刃によって被削材に切削加工を行う切削工具、このような切削工具の工具本体、およびこのような切削工具を用いた切削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、切削工具によるワークの切削面(被削材の加工面)をTVカメラにより撮影して得られる画像を同ワークの回転軸方向に空間周波数分解する手段を有し、上記空間周波数成分の分布に基づいて切削工具の異常を検知することを特徴とする工具異常検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載された工具異常検出装置においては、特許文献1の
図1に示されるように切削工具の工具本体とTVカメラとが別体となっている。このため、TVカメラを備えた工作機械でなければ、被削材の加工面を撮影することができず、工具異常を検出する条件が限定されざるを得ない。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、TVカメラ等の画像を撮影する撮像装置を備えることのない工作機械においても、被削材の加工面等の画像を撮影することができ、工具異常等を検出する条件が限定されることのない切削工具、該切削工具の工具本体、および切削方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、切刃が形成された切削インサートと、上記切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座を有する工具本体とを備え、上記切刃によって被削材に切削加工を行う切削工具であって、上記工具本体は、軸線回りに回転される上記被削材の周面および端面を切削加工する旋削工具の工具本体であり、上記工具本体は、中心線に沿って延びる柱状のシャンク部と、上記シャンク部の先端部の外周面から突出し上記インサート取付座を有する切刃部とを有し、上記切削インサートは、上記インサート取付座に取り付けられた状態で上記切刃部の先端から先端側へ突出する主切刃と、上記主切刃の径方向外側の端部に形成されたコーナ刃とを有しており、上記工具本体には、画像を撮影する撮像装置が備えられており、上記撮像装置は、上記切削インサートの上記コーナ刃に向けられ、上記切刃および上記切刃によって切削加工された上記被削材の加工面を撮影することを特徴とする切削工具が提供される。
【0007】
実施形態の切削工具は、工具本体に設けられた切刃によって被削材に切削加工を行う切削工具であって、上記工具本体には、画像を撮影する撮像装置が備えられていることを特徴とする。また、実施形態の切削工具の工具本体は、このような切削工具の工具本体であって、上記切刃が形成された切削インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座が形成されていることを特徴とする。
このように構成された切削工具、および該切削工具の工具本体においては、TVカメラ等の画像を撮影する撮像装置が、切削工具の工具本体自体に備えられているので、工作機械に撮像装置が備えられていなくても被削材の加工面等の画像を撮影することができる。
このため、被削材の加工面や切削工具の異常を検出するのに必要な条件が制限されるのを避けることができる。
【0008】
ここで、上記撮像装置は、上述のように上記切刃によって切削加工された上記被削材の加工面を撮影するものであってもよい。この場合には、被削材の加工面の性状や加工面に発生したバリ等の発生状況を確認することができる。
【0009】
なお、このように上記撮像装置が切刃によって切削加工された被削材の加工面を撮影するものである場合には、上記工具本体には、上記加工面をクリーニングするクリーニング装置が備えられていることが望ましい。これにより、加工面に湿式切削の場合の切削油剤や切屑が付着している場合でも、クリーニング装置によって除去して鮮明な加工面の画像を撮影することができる。
【0010】
また、上記撮像装置は、上記切刃を撮影するものであってもよい。この場合には、切刃によって生成される切屑の生成状況や切刃の欠損、チッピング、摩耗等の損傷を確認することができる。
【0011】
一方、上記工具本体は、軸線回りに回転される上記被削材の周面または端面を切削加工する旋削工具の工具本体であってもよい。特に、この場合には、上記工具本体が、上記軸線を中心として上記被削材に形成された凹部または穴部の内周面を切削加工する内径旋削工具の工具本体であれば、従来は凹部または穴部の内周面を切削加工した後に、切削工具を一旦凹部または穴部から抜き出し、しかる後に撮像装置を凹部または穴部に挿入して撮影しなければならなかったのが、凹部または穴部の内周面の切削加工と同時、あるいは切削加工後に切削工具を凹部または穴部から抜き出す際に撮影をすることができて効率的である。
【0012】
また、上記工具本体には、該工具本体から上記被削材までの距離を測定する測定装置が備えられていてもよい。これにより、切刃の摩耗等による加工面の寸法変化を切削加工中に確認することができて効率的である。
【0013】
さらに、上記工具本体には、上記撮像装置によって撮影された画像を画像データとして外部に送信する通信部が備えられていてもよい。これにより、このような画像データを無線によって伝達することができるので、切削工具を工作機械に着脱する際の判断が容易になる。
【0014】
そして、本発明の切削方法は、このように上記工具本体に、上記撮像装置によって撮影された画像を画像データとして外部に送信する通信部が備えられた切削工具を用いた切削方法であって、第1には、上記通信部から外部に送信された上記画像データを、ネットワークを介して外部サーバに蓄積して解析することを特徴とする。
【0015】
これにより、外部サーバに蓄積されて解析した画像データに基づき、必要に応じて切削条件を変更したり、切削工具や切削インサートの交換を促したりすることが可能となる。特に、上記外部サーバが、上記切削工具によって上記被削材に切削加工を行う工作機械に備えられていれば、切削条件の変更を自動で行うことが可能となる。
【0016】
また、本発明の切削方法では、上記第1の切削方法と併せて、あるいは第1の切削方法とは別に、第2に、上記通信部から外部に送信された上記画像データを、切削加工を行う作業者の携帯情報端末にネットワークを介して表示することを特徴とする。この場合は、携帯情報端末に表示された画像データに基づいて、作業者が切削条件を変更したり、切削工具や切削インサートを交換したりすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、工作機械に撮像装置が備えられていなくても、被削材の加工面等の画像を撮影することができるので、被削材の加工面や切削工具の異常を検出するのに必要な条件が制限されるのを避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の切削工具および該切削工具の工具本体の一実施形態を示す斜視図である。
【
図5】
図1に示す実施形態により、軸線回りに回転される被削材に形成された穴部の内周面を切削加工する場合の本発明の切削方法の一実施形態の第1工程を示す図である。
【
図6】
図1に示す実施形態により、軸線回りに回転される被削材に形成された穴部の内周面を切削加工する場合の本発明の切削方法の一実施形態の第2工程を示す図である。
【
図7】
図1に示す実施形態により、軸線回りに回転される被削材に形成された穴部の内周面を切削加工する場合の本発明の切削方法の一実施形態の第3工程を示す図である。
【
図8】
図1に示す実施形態により、軸線回りに回転される被削材に形成された穴部の内周面を切削加工する場合の本発明の切削方法の一実施形態の第4工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1~
図4は、本発明の切削工具および該切削工具の工具本体の一実施形態を示すものであり、
図5~
図8は、この実施形態の切削工具により、軸線回りに回転される被削材に形成された凹部または穴部の内周面を切削加工する場合の本発明の切削方法の一実施形態を示すものである。本実施形態の切削工具の工具本体1は、軸線O回りに回転される被削材Wの周面または端面を切削加工する旋削工具の工具本体1であり、特に軸線Oを中心として被削材Wに形成された穴部Hの内周面を切削加工する内径旋削工具の工具本体1である。
【0020】
本実施形態において、切削工具の工具本体1は、鋼材等の金属材料により形成されており、後端部(
図1において右上側部分。
図2および
図3においては右側部分。)は工具中心線Cを中心とする概略円柱状のシャンク部2とされるとともに、先端部(
図1において左下側部分。
図2および
図3においては左側部分。)は、シャンク部2の外周面から突出する切刃部3とされている。シャンク部2の周面には、上下面と切刃部3が突出した側の周面に、工具中心線Cに平行な面取りが施されている。
【0021】
切刃部3の先端部のうち、シャンク部2の外周面から突出した突端部の上面には、この上面と、切刃部3の先端面と、突出した突端面とに開口する凹状のインサート取付座4が形成されており、このインサート取付座4には、工具本体1よりも高硬度の超硬合金等の硬質材料により形成された切削インサート5がクランプネジ6によって着脱可能に取り付けられている。すなわち、本実施形態の切削工具の工具本体1は、刃先交換式の内径旋削工具の工具本体1である。
【0022】
切削インサート5は、本実施形態では正三角形の板状に形成されており、上記切刃部3の上面側に向けられるすくい面と先端側に向けられる逃げ面との交差稜線部に切刃5Aのうちの主切刃5aが形成されている。このような切削インサート5は、
図2および
図4に示すように主切刃5aが上記中心線Cに対する半径方向に略延びて切刃部3の先端面から突出させるとともに、この主切刃5aの端部に形成された切刃5Aのうちのコーナ刃5bを切刃部3の突端面から突出させるようにしてインサート取付座4に取り付けられる。切刃部3の先端面は、概ね上記中心線Cに垂直な平面状とされている。
【0023】
また、切刃部3の上面の後端側には、ブラケット7が取付ネジ8によって着脱可能に取り付けられている。このブラケット7の下面と、この下面に密着する切刃部3の上面とには、ブラケット7が取付ネジ8によって切刃部3の上面に取り付けられた状態で、切刃部3の後端側から切削インサート5の切刃のうちの上記コーナ刃5bに向けて延びる断面円形の取付孔3aが形成されるように断面半円形の溝部が形成されている。
【0024】
そして、このように形成される取付孔3aには、撮像装置9が取り付けられている。本実施形態における撮像装置9は、円柱状の防水型のCMOSイメージセンサーやCCDイメージセンサーよりなるカメラであり、レンズ部を切刃5Aのうちのコーナ刃5b側に向けて取付孔3aに嵌め入れられるように取り付けられている。レンズ部の周りには複数のLEDライトが配設されている。
【0025】
一方、シャンク部2には、その後端面から工具本体1の先端側に向けて、後端面側で一段縮径して切刃部3の手前にまで延びる段付き孔2aが形成されており、この段付き孔2aの先端部は連通孔2bを介して上記取付孔3aの後端部に連通している。この段付き孔2aには、工具本体1の先端側から順に、センシングモジュール10、本実施形態における通信部としての無線通信モジュール11、および電源モジュール12が挿入されて取り付けられている。
【0026】
センシングモジュール10は、連通孔2bに挿入されたコード10aによって撮像装置9と接続されており、撮像装置9から送られた画像信号を画像データとして収集する。また、無線通信モジュール11は、センシングモジュール10に収集された画像データを無線通信によって外部に送信する。さらに、電源モジュール12は、これらセンシングモジュール10や無線通信モジュール11、撮像装置9、および後述する測定装置13に電気を供給する。
【0027】
電源モジュール12は、切削加工時に工具本体1に生じる振動によって発電を行うピエゾ振動センサのような発電機からの電気をリチウムイオン電池のような二次電池に充電するものであってもよく、外部の電源から接触または非接触で供給された電気をこのような二次電池に充電するものであってもよく、あるいはマンガン乾電池やアルカリ乾電池のような一次電池であってもよい。
【0028】
さらにまた、工具本体1の切刃部3には、工具本体1から上記被削材Wまでの距離を測定する測定装置13が備えられている。この測定装置13は、切刃部3と被削材Wとの工具中心線Cに対する径方向外側の距離を測定する第1の距離センサと、工具中心線C方向の距離を測定する第2のセンサとを備えたものであり、本実施形態では切刃部3が突出した側とは反対側の側面に配設されている。これら第1、第2のセンサは、例えば渦電流式センサや白色同軸共焦点方式の光学距離センサである。
【0029】
次に、このような切削工具により、上述のように軸線Oを中心として被削材Wに形成された穴部Hの内周面を切削加工する場合について、
図5~
図8を用いて説明する。なお、この被削材Wの穴部Hは、工具本体1の工具中心線C方向先端側への送り方向F1側に段差面Pを有する段付きの穴部Hである。
【0030】
まず、
図5に示すように、切刃部3を被削材W側に向けて工具中心線Cが軸線Oと平行となるように工具本体1を配設し、被削材Wを軸線回りに回転しながら切削インサート5の切刃5Aの主切刃5aの外周側とコーナ刃5bとが穴部Hの内周面に切り込まれるように工具本体1を工具中心線C方向先端側への送り方向F1に送り出し、この穴部Hの内周面を切削加工する。
【0031】
このように穴部Hの内周面を切削加工して、
図6に示すように、切刃5Aの主切刃5aおよびコーナ刃5bが上記段差面Pの位置に達するまで工具本体1が送り出されたなら、工具本体1の送りを停止する。このときの工具本体1と被削材Wとの距離は、測定装置13の上記第2のセンサによって測定することができる。
【0032】
次いで、
図7に示すように、工具本体1を工具中心線Cに垂直な送り方向F2に送り出すことにより、穴部Hの上記段差面Pを切刃5Aの主切刃5aのコーナ刃5b側の部分によって切削加工し、切刃部3の突出した側とは反対側の側面が穴部Hの内周面の直前に達したところで送りを停止する。このときの工具本体1と穴部Hの内周面との距離は、測定装置13の上記第1のセンサによって測定することができる。
【0033】
こうして穴部Hの内周面と段差面Pとが切削加工されたなら、
図8に示すように工具本体1を上記送り方向F1とは反対側の後退方向F3に後退させ、工具本体1を穴部Hから抜き出して切削加工を終了する。
【0034】
上記構成の切削工具および該切削工具の工具本体1においては、工具本体1に画像を撮影する撮像装置9が備えられているので、この切削加工中の被削材Wの加工面(穴部Hの内周面および段差面P)の状態や切削加工後の加工面の状態、切刃5Aの主切刃5aやコーナ刃5bの状態、あるいはこれら主切刃5aやコーナ刃5bにより生成された切屑の状態を、撮影された画像によって確認することができる。なお、撮影される画像は、動画であっても、静止画であってもよい。
【0035】
そして、上記構成の切削工具および該切削工具の工具本体1では、この撮像装置9が、工作機械ではなく、切削工具の工具本体1自体に備えられているので、工作機械に撮像装置9が備えられていなくても被削材Wの加工面等の画像を撮影することができる。このため、被削材Wの加工面や切削工具の異常を検出するのに必要な条件が制限されるのを避けることができる。
【0036】
また、本実施形態では、撮像装置9のレンズ部が切削インサート5の切刃5Aのうちのコーナ刃5bに向けられているので、切刃5Aを撮影することができるとともに、この切刃5Aによって切削加工された被削材Wの上記加工面も撮影することができる。
【0037】
すなわち、切削加工が乾式切削の場合は、
図6および
図7に示すように穴部Hの内周面や段差面Pを切削加工するときには、切削加工中にこれら穴部Hの内周面や段差面Pを撮影することができる。また、切削加工が切削油剤等を供給しながら行われる湿式切削の場合には、切削油剤が加工面に付着して加工面の状態を鮮明に撮影することが困難となるので、
図7に示したように段差面Pの加工が終了した後と、
図8に示したように工具本体1を後退させるときに加工面を撮影して状態を確認することができる。さらに、乾式切削と湿式切削のいずれの場合も、工具本体1を後退させるときに、穴部Hの開口部のバリの発生も確認することができる。
【0038】
なお、特に上述のような湿式切削の場合は、工具本体1に、上記加工面をクリーニングするクリーニング装置が備えられていてもよい。このようなクリーニング装置としては、例えば工具本体1の切刃部3から加工面に向けて圧縮空気を噴射するものが考えられる。このようなクリーニング装置を備えることにより、加工面に湿式切削の切削油剤や切屑が付着している場合でも、これらを除去して切削加工中でも鮮明な加工面の画像を撮影することができる。
【0039】
また、本実施形態では、上述のように撮像装置9のレンズ部が切削インサート5の切刃5Aのうちのコーナ刃5bに向けられているので、この切刃5Aや切刃5Aによって生成される切屑の状態を撮影することもできる。従って、切刃5Aの欠損、チッピング、摩耗等の損傷を確認することができるとともに、正常な切屑が生成されているかも確認することができる。
【0040】
ただし、本実施形態では、このように撮像装置9のレンズ部が切削インサート5の切刃のうちのコーナ刃5bに向けられて、切刃5Aを撮影可能とされているが、上述のように被削材Wの加工面を撮影するだけであれば、撮像装置9のレンズ部が切刃5A以外の工具本体1の外周側や先端側に向けられていてもよい。
【0041】
さらに、本実施形態では、切削工具の工具本体1が、軸線O回りに回転される被削材Wの穴部Hの内周面等の周面または端面を切削加工する旋削工具の工具本体1とされている。このため、通常は切削加工が連続切削となるので、転削工具のように切削加工が断続切削となる場合に比べ、工具本体1に作用する衝撃が小さいので、撮像装置9に損傷が生じるのを防ぐことができる。
【0042】
特に、本実施形態では、工具本体1が、軸線Oを中心として被削材Wに形成された穴部Hの内周面を切削加工する内径旋削工具の工具本体1とされている。しかるに、このような内径旋削工具によって切削加工された穴部Hの内周面の状態を撮影するには、従来は穴部Hの内周面を切削加工した後に、切削工具を一旦穴部Hから抜き出し、しかる後に撮像装置9を穴部Hに挿入して撮影しなければならなかったのが、本実施形態では工具本体1に撮像装置9が備えられているので、穴部Hの内周面の切削加工と同時、あるいは切削加工後に切削工具を穴部Hから抜き出す際に撮影をすることができるので、極めて効率的である。
【0043】
また、本実施形態では、工具本体1に、工具本体1から被削材Wまでの距離を測定する測定装置13が備えられている。このため、穴部Hが切削加工された加工穴の内径や深さ等の加工面の寸法精度や加工面精度を切削加工終了と同時に検出することができ、切刃5Aの摩耗等による加工面の寸法変化を確認することができて効率的である。
【0044】
さらに、本実施形態では、工具本体1に、上記撮像装置9によって撮影されてセンシングモジュール10に収集された画像データを外部に送信する通信部としての無線通信モジュール11が備えられている。従って、このような画像データを無線によって伝達することができるので、切削工具を工作機械に着脱する際の判断が容易になる。
【0045】
ここで。本発明の切削方法の第1の実施形態においては、このように上記撮像装置9によって撮影された画像を画像データとして外部に送信する無線通信モジュール11(通信部)が備えられた切削工具を用いた切削方法において、無線通信モジュール11から外部に送信された画像データを、ネットワークを介して外部サーバに蓄積して解析する。
【0046】
従って、この第1の実施形態の切削方法によれば、こうして外部サーバに蓄積されて解析した画像データに基づき、必要に応じて切削条件を変更したり、切削工具や切削インサート5の交換を促したりすることが可能となる。特に、上記外部サーバが、切削工具によって被削材Wに切削加工を行う工作機械に備えられていれば、切削条件の変更を自動で行うことが可能となる。なお、上記測定装置13によって測定された加工面の寸法精度や加工面精度を加味して切削条件等を変更させてもよい。
【0047】
また、本発明の切削方法の第2の実施形態においては、第1の実施形態の切削方法と併せて、あるいは第1の実施形態の切削方法とは別に、上記無線通信モジュール11から外部に送信された画像データを、切削加工を行う作業者の携帯情報端末にネットワークを介して表示するようにしてもよい。この場合には、携帯情報端末に表示された画像データに基づいて、作業者が切削条件を変更したり、切削工具や切削インサートを交換したりすることができる。
【0048】
なお、携帯情報端末は、例えば、専用のアプリケーションをインストールしたスマートフォンまたはタブレットなどの携帯情報端末であってもよい。また、無線通信モジュール11と外部サーバや携帯情報端末を結ぶ無線通信としては、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、 ZigBee(登録商標)などの一般的な無線通信を採用することができる。
【0049】
さらに、本実施形態の切削工具および該切削工具の工具本体1においては、本発明を刃先交換式の内径旋削工具に適用した場合について説明したが、外径旋削工具や他の旋削工具に適用することも可能であるし、刃先交換式ではないろう付け式やソリッド式の切削工具に適用することも可能である。さらにまた、正面フライスやエンドミル等の転削工具に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 工具本体
2 シャンク部
3 切刃部
4 インサート取付座
5 切削インサート
5A 切刃
5a 主切刃
5b コーナ刃
6 クランプネジ
7 ブラケット
8 取付ネジ
9 撮像装置
10 センシングモジュール
11 無線通信モジュール(通信部)
12 電源モジュール
C 工具中心線
W 被削材
O 被削材Wが回転する軸線
H 穴部
P 穴部Hの段差面
F1 工具本体1の工具中心線C方向先端側への送り方向
F2 工具本体1の工具中心線Cに垂直な送り方向
F3 工具本体1の送り方向F1とは反対側への後退方向