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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】有底筒状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/28 20060101AFI20240717BHJP
   B21D 22/30 20060101ALI20240717BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20240717BHJP
   C23G 1/12 20060101ALI20240717BHJP
   C23G 1/22 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B21D22/28 H
B21D22/28 L
B21D22/30 B
B21D51/26 X
B21D22/28 B
C23G1/12
C23G1/22
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020058148
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154353
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城石 亮蔵
(72)【発明者】
【氏名】松本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】島村 真広
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓甫
(72)【発明者】
【氏名】小川 智裕
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-137861(JP,A)
【文献】特開2008-036677(JP,A)
【文献】特開2007-197775(JP,A)
【文献】特開昭56-096083(JP,A)
【文献】特開昭60-028497(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033791(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/28
B21D 22/30
B21D 51/26
C23G 1/12
C23G 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底筒状体の製造方法であって、
金属板の表面に粘度が200mPa・s未満の液体潤滑油を塗布する潤滑油塗布工程と、
加工表面の硬さがHv1000~12000の成形加工部材を用いて潤滑油塗布後の前記金属板を絞り加工する絞り工程と、
加工表面の硬さがHv1500~12000の成形加工部材を用いて、クーラントを介して被加工部材をしごき加工して有底筒状体とするしごき工程と、
前記有底筒状体の表面の油分を、洗浄剤を用いて脱脂する脱脂工程と、を含み、
前記クーラントに含有される油分の濃度が4.0体積%未満であり、
前記洗浄剤には、硫酸・フッ酸・炭酸カリウム・水酸化ナトリウム・水酸化カリウムのいずれかが含まれ、
前記しごき工程における前記成形加工部材はしごきパンチ及びしごきダイを含み、前記しごきダイの加工表面の硬さがHv8000~12000であり、
前記脱脂工程における前記洗浄剤の温度が75℃未満であり、
前記しごきダイの加工表面がダイヤモンド膜で形成されており、前記ダイヤモンド膜の厚みが5~30μmである、
ことを特徴とする、有底筒状体の製造方法。
【請求項2】
前記有底筒状体がシームレス缶体である、請求項1に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項3】
前記金属板がアルミニウム合金である、請求項1又は2に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項4】
前記金属板が、少なくとも片面に樹脂が被覆された樹脂被覆金属板である、請求項1~3のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項5】
前記脱脂工程の前後における前記有底筒状体の重量変化が100mg/m未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項6】
前記脱脂工程における脱脂時間が45秒未満である、請求項1~5のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項7】
前記潤滑油の粘度が100mPa・s未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項8】
前記潤滑油の粘度が100mPa・s未満であり、且つ、前記脱脂工程における脱脂時間が30秒以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項9】
前記絞り工程における前記成形加工部材の加工表面又は前記しごき工程における前記しごきパンチの加工表面が炭素又はセラミックスで形成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項10】
前記炭素がダイヤモンドである、請求項に記載の有底筒状体の製造方法。
【請求項11】
前記しごき工程及び/又は脱脂工程において排出された排水を浄化する浄化工程をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の有底筒状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有底筒状体の製造方法に関し、より詳細には、絞りしごき加工により金属製の有底筒状体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製の有底筒状体、例えば、いわゆるシームレス缶体は、プレス加工用金型を用いて絞りしごき加工によって製造される。
【0003】
上記絞りしごき加工において使用されるパンチ部及びダイ部は、一般的に過酷な加工環境下に置かれることから、例えば特許文献2~5に示されるような金型が提案されている。すなわち、加工表面にダイヤモンド膜やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜などの炭素膜を被覆して、金型の耐久性を向上させることが提案されている。
【0004】
一方で従来、例えばアルミニウム合金材を用いてシームレス缶体を製造する場合には、潤滑剤や冷却剤(クーラント)を使用してウェット環境で成形を行うことが一般的である。この場合、製缶加工後に、缶体に付着した加工油・潤滑剤・クーラント等を、洗浄剤や薬剤で脱脂する脱脂工程(ウォッシャ工程)が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6012804号公報
【文献】特開平10-137861号公報
【文献】特開平11-277160公報
【文献】特開2013-163187号公報
【文献】国際公開WO2017/033791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のシームレス缶体の製造方法においては、脱脂工程に大量のエネルギーやコストが必要とされる問題や、環境負荷が大きいという問題があった。
例えば、脱脂工程に使用される多量の水に関するコストや環境負荷の軽減、脱脂工程で使用される薬剤が与える環境負荷の軽減、また、脱脂工程において洗浄剤を加温する際に必要とされるエネルギーの減少、などが求められていた。
【0007】
発明者らが鋭意検討を重ねた結果、特定の条件下でクーラントを使用して有底筒状体を製造した場合には、従来の絞り加工・しごき加工等の厳しい製缶加工と、脱脂工程におけるコスト削減や環境負荷軽減とを両立し得ることを見出し、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一実施形態における有底筒状体の製造方法は、(1)金属板の表面に粘度が200mPa・s未満の液体潤滑油を塗布する潤滑油塗布工程と、加工表面の硬さがHv1000~12000の成形加工部材を用いて潤滑油塗布後の前記金属板を絞り加工する絞り工程と、加工表面の硬さがHv1500~12000の成形加工部材を用いて、クーラントを介して被加工部材をしごき加工して有底筒状体とするしごき工程と、前記有底筒状体の表面の油分を、洗浄剤を用いて脱脂する脱脂工程と、を含み、前記クーラントに含有される油分の濃度が4.0体積%未満であり、前記洗浄剤には、硫酸・フッ酸・炭酸カリウム・水酸化ナトリウム・水酸化カリウムのいずれかが含まれ、前記しごき工程における前記成形加工部材はしごきパンチ及びしごきダイを含み、前記しごきダイの加工表面の硬さがHv8000~12000であり、前記脱脂工程における前記洗浄剤の温度が75℃未満であり、前記しごきダイの加工表面がダイヤモンド膜で形成されており、前記ダイヤモンド膜の厚みが5~30μmである、ことを特徴とする。
また、上記(1)において(2)前記有底筒状体がシームレス缶体であることが好ましい。
また上記(1)又は(2)において(3)前記金属板がアルミニウム合金であることが好ましい。
さらに上記(1)~(3)のいずれかにおいて(4)前記金属板が、少なくとも片面に樹脂が被覆された樹脂被覆金属板であることが好ましい。
上記(1)~(4)のいずれかにおいて(5)前記脱脂工程の前後における前記有底筒状体の重量変化が100mg/m未満であることが好ましい。
上記(1)~(5)のいずれかにおいて(6)前記脱脂工程における脱脂時間が45秒未満であることが好ましい。
上記(1)~(6)のいずれかにおいて(7)前記潤滑油の粘度が100mPa・s未満であることが好ましい。
上記(1)~(5)のいずれかにおいて(8)前記潤滑油の粘度が100mPa・s未満であり、且つ、前記脱脂工程における脱脂時間が30秒以下であることが好ましい
記(1)~()のいずれかにおいて()前記絞り工程における前記成形加工部材の加工表面又は前記しごき工程における前記しごきパンチの加工表面が炭素又はセラミックスで形成されていることが好ましい。
上記()において(10)前記炭素がダイヤモンドであることが好ましい。
上記(1)~(10)のいずれかにおいて(11)前記しごき工程及び/又は脱脂工程において排出された排水を浄化する浄化工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の有底筒状体の製造方法によれば、加工表面の硬さが所定の値以上の成形加工部材(例えばパンチ及びダイ)を用いて絞り加工及びしごき加工をする工程を含む。
【0010】
そのため、絞り加工前の金属板(平板)表面に塗布する加工油や潤滑剤の粘度を低くした場合でも、従来と同様又はそれ以上の加工性を得ることが可能となる。
また、しごき工程において使用されるクーラントに含まれる油分を所定の値以下としても、従来と同様又はそれ以上のしごき率の有底筒状体を得ることが可能となる。
【0011】
また本実施形態によれば、絞り工程およびしごき工程を経た後で有底筒状体の内側表面および外側表面に付着する油分の量を少なくすることが可能である。そのため、脱脂工程における洗浄剤の濃度を低くしたり、洗浄剤の加熱を抑制した場合でも、充分な脱脂を行うことが可能となり、脱脂工程における環境負荷の軽減やコスト削減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態における有底筒状体の製造方法のうち、絞り工程を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態における有底筒状体の製造方法のうち、しごき工程を示す模式図である。
図3】本実施形態における有底筒状体の製造方法の流れを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[有底筒状体の製造方法]
本発明の出願人らは、特願2018-204896号明細書及び特願2018-204823号明細書に開示するようなシームレス缶体の製造方法を見出した。すなわち、高い滑り特性を持つダイヤモンド膜等を加工表面に形成した金型を使用しつつ、クーラント中の油分を所定の量以下としてプレス加工をした場合には、しごき加工等の厳しい加工を行っても、従来の量の潤滑剤を使用して製造したプレス加工品と同等以上の加工度合い(例えば限界しごき率)を得ることを見出した。
さらに今回、本発明者らは上記シームレス缶体の製造方法に関連する有底筒状体の製造方法を見出したものである。
【0014】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の有底筒状体の製造方法について具体的に説明する。なお、以下の実施形態は本発明の一例を示してその内容について説明するものであり、本発明を意図的に限定するものではない。また、下記実施形態においては、有底筒状体の例としてシームレス缶体を挙げて説明するが、本発明を意図的に限定するものではない。
【0015】
<金属板>
本実施形態における被加工材としての金属板は、一般的な金属プレス加工に供されるものであれば特に制限はない。例えば、アルミニウム、銅、鉄、鋼、チタン、さらに純金属だけでなく、それらの合金など公知の種々の金属板が適用できる。このうち、シームレス缶体を成形する場合には、アルミニウム合金板が特に好適である。
なお本実施形態においては、上記した金属板は、その片面又は両面に公知の表面処理がなされているものであってもよく、例えば樹脂等で被膜されているものであってもよい。この場合、金属板の表面を被覆する樹脂としては、ポリエステル樹脂等が好ましく適用可能である。
【0016】
本実施形態における金属板の厚みとしては、特に制限はなく、シームレス缶体製造時における通常の厚みを適用することができる。例えばアルミニウム合金板を用いて製缶加工をする場合の金属板の厚みの一例として、元板厚(原板の厚み)が0.1mm~0.5mmである。
【0017】
<潤滑油塗布工程>
本実施形態の有底筒状体の製造方法においては、金属板の表面に潤滑油を塗布する潤滑油塗布工程を含む。一般的に知られているように、潤滑油を塗布することにより、後の絞り工程やしごき工程において厳しい絞りしごき加工を施しても、金属板が傷ついたり破断したりすることなく、有底筒状体等の所望の形状に加工することが可能となる。
【0018】
ここで、潤滑油の種類としては特に限定されるものではなく、後述する条件を満足する限り、一般的に金属加工をする際に用いられる潤滑油を適宜用いることが可能である。例えば、脂肪酸エステル、高級アルコール又は脂肪酸等からなる鉱物油等を使用することができる。
また、潤滑油の塗布量及び塗布方法についても、同様に後述する条件を満足する限り、公知の量及び公知の方法を適用することが可能である。
【0019】
本実施形態において、前記潤滑油の粘度としては200mPa・s未満であることが、本発明の目的とする脱脂工程における環境負荷やコストの低減の観点からは必要となる。潤滑油の粘度が200mPa・s以上の場合、後の脱脂工程において十分な脱脂ができない可能性があり、好ましくない。なお潤滑油の粘度は、100mPa・s未満であることがさらに好ましい。
【0020】
<絞り工程>
次に、本実施形態における絞り工程について説明する。
本実施形態における絞り工程においては、絞り工程における成形加工部材(例えば、絞り加工ダイや絞り加工パンチ)の加工表面が、所定の硬さ以上であることを特徴とする。具体的には、前記加工表面の硬さがビッカース硬度においてHv1000~12000であることが必要である。その理由としては以下のとおりである。
【0021】
すなわち、図1を用いて金属板の絞り工程の例を説明すると、絞り加工ダイDと絞り加工パンチPとの間に金属板10が介在した状態で、絞り加工パンチPによって絞り加工が施され、浅絞りカップMが製造される。その際、当該絞り加工ダイDと絞り加工パンチPには強い衝撃荷重や高面圧が作用するため、量産化に耐え得る程度の高い耐久性や耐摩耗性が必要とされる。
【0022】
また本実施形態では、脱脂工程における環境負荷やコスト低減を図るため、上述のように潤滑油塗布工程において塗布する潤滑油の粘度を規定する。その際、成形加工部材による金属板の傷付きや破断を回避するため、金型により高い硬度またはすべり性を付与する必要がある。
【0023】
上記観点より本発明者らが試行錯誤した結果、本実施形態においては、成形加工部材の加工表面の硬さを、ビッカース硬度においてHv1000~12000とした場合、過酷な絞り加工が施される場合においても、耐久性や耐摩耗性、金属板の傷付き等の観点において、問題がないことを見出したものである。
【0024】
本実施形態において、絞り工程における成形加工部材(金型)は、加工表面が上記の硬さである限りにおいて、公知の素材からなる基材で製造されていてもよいし、かかる基材の加工表面に表面処理膜を形成してなるものであってもよい。
【0025】
上記金型において基材の素材としては、具体的には、タングステンカーバイド(WC)とコバルト等の金属バインダーとの混合物を焼結して得られる超硬合金;炭化チタン(TiC)等の金属炭化物や炭窒化チタン(TiNC)等のチタン化合物とニッケルやコバルト等の金属バインダーとの混合物を焼結して得られるサーメット;窒化ケイ素、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス;等を挙げることができる。
【0026】
また、上記基材の上に形成する前記表面処理膜としては、例えば炭素膜、セラミックス膜、等を好ましく用いることができる。
【0027】
前記炭素膜としては、ダイヤモンド膜やDLC膜等を挙げることができる。これら炭素膜の形成方法には特に制限はなく、例えば化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法等を適用することが可能である。
【0028】
また前記セラミックス膜としては例えば、炭化ケイ素(SiC)や窒化ケイ素(Si)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、窒化クロム(CrN)といった硬質セラミックス等を挙げることができる。
【0029】
本実施形態において、絞り工程に用いる成形加工部材の種類の組み合わせとしては、絞り加工ダイと絞り加工パンチの両方に同じ素材又は表面処理膜が使用されてもよいし、異なる素材又は表面処理膜が使用されてもよい。例えば、絞り加工ダイと絞り加工パンチの両方が超硬合金製であってもよいし、絞り加工ダイ又は絞り加工パンチの一方が超硬合金製であってもよい。あるいは、絞り加工ダイと絞り加工パンチの両方の加工表面に炭素膜が形成されていてもよいし、絞り加工ダイ又は絞り加工パンチの一方の加工表面に炭素膜が形成されていてもよい。
【0030】
なお、絞り加工ダイと絞り加工パンチの一方の表面処理膜がダイヤモンド膜である場合には、他方はダイヤモンド膜以外の表面処理膜であることが、金型間の寸法管理や、金型間の破損被害の抑制の観点からは好ましい。
【0031】
<しごき工程>
次に、本実施形態におけるしごき工程について説明する。
本実施形態におけるしごき工程としては、しごき工程における成形加工部材(例えばしごきダイやしごきパンチ)の加工表面が、所定の硬さ以上であることを特徴とする。具体的には、前記加工表面の硬さがHv1500~12000であることを特徴とする。以下詳細に説明する。
【0032】
図面を用いて本実施形態のしごき工程をより具体的に説明すると、図2(a)、(b)に示すように、例えば、ダイヤモンド膜20が加工表面に形成されたしごきダイDと、ダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30が加工表面に形成されたしごきパンチPを用い、クーラントCが介在した状態で、ダイD及びパンチPの加工表面で浅絞りカップMをしごき加工する工程を含む。
【0033】
その際、上記しごきダイDとしごきパンチPには、量産化に耐え得る程度の高い耐久性や耐摩耗性が必要とされる。また本実施形態においては、上記クーラントC中に含まれる油分の濃度は4.0体積%未満であることが必要とされる。それゆえ、被加工部材(金属板10や浅絞りカップM)の傷つきや破断を避けるため等の理由で、しごきダイDとしごきパンチPの加工表面の硬さがHv1500~12000とすることが必要とされる。
【0034】
なお、本実施形態においては特に、ビッカース硬度においてHv8000~12000程度のダイヤモンド膜が、金型の雄型と雌型のいずれかの加工表面に形成されていることが好ましい。
【0035】
すなわち、図2において示されるように、硬度の高いダイヤモンド膜20が、しごきダイDの加工表面に形成されており、しごきパンチPの加工表面にダイヤモンド膜とは異なる表面処理膜30が形成されていてもよいし、図示はしないがその逆でもよい。
なお、一般的にはしごきダイの方がしごきパンチよりも過酷な加工負荷を受けることが多いので、特にしごきダイの加工表面にダイヤモンド膜20が形成されることが好ましい。
【0036】
上記ダイヤモンド膜20の厚みとしては、5μm~30μmであることが好ましい。厚みが5μm未満の場合には、得られたダイヤモンド膜にクラックが入りやすく剥離しやすくなるため、好ましくない。一方で、厚みが30μmを超える場合にはダイヤモンド膜の内部応力が高まり剥離しやすくなるため、好ましくない。
【0037】
また、本実施形態においてダイヤモンド膜20の表面粗さRa(JIS B-0601-1994)は、0.12μm以下であることが、金型に高い滑り特性を付与できる観点から好ましい。さらに、Raを0.08μm以下とした場合、被加工物(例えば缶体)の外観を鏡面或いは鏡面に近い平滑面とすることができ、より好ましい。
この場合、プレス加工時におけるダイヤモンド膜20と被加工材との間の摩擦係数μは0.1よりも低いことが好ましい。
【0038】
次に、本実施形態のしごき工程において用いられるクーラントについて説明する。
本実施形態において用いられるクーラントとしては、その成分中に油分を含有しているものが好ましく挙げられる。
【0039】
本実施形態におけるクーラントにおいて、上記した油分としては、一般的な水溶性金属加工油剤組成物に含まれる油分が挙げられる。この油分としては、天然油分であってもよいし、合成油分であってもよい。
【0040】
天然油分としては例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系等の鉱物油が挙げられる。また、脂肪酸グリセライドも天然油分として挙げることができる。
合成油分としては例えば、ポリオレフィン等の炭化水素系、脂肪酸エステル等のエステル系、ポリアルキレングリコール等のエーテル系、パーフルオロカーボン等の含フッ素系、リン酸エステル等の含リン系、ケイ酸エステル等の含ケイ素系、等を挙げることができる。
上記に挙げた油分としては、単独で使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0041】
なお、上記した水溶性金属加工油剤としては、例えば、JIS K 2241に規定されるA1種(エマルション型)、A2種(ソリュブル型)、A3種(ソリューション型)、の水溶性金属加工油剤等を挙げることができる。
また、JIS規格においては規定されていないが、いわゆるシンセティックタイプ(鉱物油を含まず、化学合成された油分を含む金属加工油剤)と呼ばれる水溶性金属加工油剤を挙げることもできる。
【0042】
本実施形態において、上記油分のクーラント中における濃度としては、4.0体積%未満であることが好ましい。この場合、本実施形態において油分を含んだクーラントを使用する場合には、まず4.0体積%以上の含有量の油分を含む原液を調製して、これを使用時まで保管し、使用する際にこの原液を水等の溶媒で希釈して油分の濃度が4.0体積%未満であるクーラントを調製してもよい。すなわち、油分のクーラント中における濃度は、使用状態において4.0体積%未満であればよい。
さらに、クーラント中における油分濃度は3.5体積%以下であることがより好ましく、2.0体積%以下であることがさらにより好ましい。
【0043】
また、クーラント中における油分以外の成分としては、一般的な水溶性金属加工油剤組成物に含まれる成分、例えば、水、界面活性剤、防錆剤、極圧添加剤、カップリング剤、非鉄金属防食剤、防腐剤、消泡剤、キレート剤、着色料、香料、調整剤、安定剤、等を適宜含んでいてもよい。
【0044】
このように本実施形態の製造方法においては、クーラント中の油分を比較的低濃度としても、製缶時の成形不良等を抑制することができ、結果的に成形安定性を向上させることが可能である。
【0045】
また本実施形態においては上述のようにクーラント中の油分が従来と比較して低濃度であるため、後述の脱脂工程において、環境負荷の低い薬剤や水での洗浄が可能となり、環境への負荷を軽減することが可能となる。また、洗浄後の排水処理が容易となったことにより、排水をリサイクルして循環させる場合、リサイクル率を向上させることが可能となり、コストや環境への負荷を軽減することが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態のしごき工程においては、しごき率(板厚減少率)が10%以上となるように前記金属材をしごいて缶胴部を形成するしごき加工の工程を含むことが好ましい。なお、しごき加工の工程は複数回含まれていてもよく、各回のしごき率を変化させてもよい。例えば、初期のしごき工程のしごき率を10%以上とし、最終のしごき工程のしごき率を30%以上としてもよい。
なお本実施形態におけるしごき率は、しごき加工前の板厚t、加工後の板厚(缶底か
ら60mm部分)をtとしたとき、下記式で表される。
しごき率(%)=100×(t-t)/t
なお本実施形態においてしごき率は40%以上であることがより好ましい。
【0047】
<脱脂工程>
次に、本実施形態における脱脂工程について説明する。
本実施形態における脱脂工程は、上述の絞り工程及びしごき工程において得られた有底筒状体に対して洗浄剤を接触させ、前記有底筒状体の内側表面及び外側表面に付着する油分を除去する工程である。
【0048】
なお、上記した有底筒状体の内側表面及び外側表面に付着する油分としては、絞り工程における潤滑油、及び、しごき工程におけるクーラントに含まれる油分の両方が含まれる。
洗浄剤を有底筒状体に接触させる方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。例えば、洗浄剤中に有底筒状体を浸漬してもよいし、スプレーやシャワーにより洗浄剤を吹き付けてもよい。
【0049】
本実施形態において使用される洗浄剤としては、公知のアルカリ洗浄剤や酸洗浄剤を用いることができる。
本実施形態において使用される洗浄剤としてアルカリ洗浄剤を使用する場合、例えば、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機化合物の水溶液が挙げられる。
また、本実施形態において使用される洗浄剤として酸洗浄剤を使用する場合、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、等の無機酸等の水溶液を好適に使用することができる。
なお上記脱脂処理を行った後は、公知のように、金属板表面に残存する脱脂剤を除去するために、水洗処理を行なった後、エアーブロー若しくは熱空気乾燥等の方法にて、金属板表面の水分を除去することが好ましい。
【0050】
なお、本実施形態において使用される洗浄剤としてアルカリ洗浄剤や酸洗浄剤等を用いる場合において、洗浄剤の洗浄成分の濃度としては、2.0~5.0体積%であることが、洗浄性を保ちつつ、コストや環境負荷を抑制する観点からは好ましい。
【0051】
本実施形態における脱脂工程においては、使用される洗浄剤の温度(脱脂温度)が75℃未満であることを特徴とする。すなわち本実施形態においては、絞り工程における潤滑油、及び、しごき工程におけるクーラントに含まれる油分の含有量が少ないため、洗浄剤の温度が75℃未満であっても、有底筒状体の内側表面及び外側表面の油分を充分に除去することが可能となる。なお本実施形態においては、脱脂温度は55℃以下であることがより好ましく、40℃以下であることがさらにより好ましい。
【0052】
一方で、洗浄剤の温度の下限としては、室温(例えば20℃超)であることが好ましい。一般的に金属プレス加工において加工油等を洗浄する際には、洗浄性を高めるために洗浄剤が加熱して使用される。しかしながら、洗浄剤を加熱するためには相応のエネルギー資源が消費される。そのため本実施形態においては、コスト抑制や環境負荷軽減の観点では、洗浄剤を使用する際には、洗浄性が低下しない限りにおいて、室温で使用することが可能である。
【0053】
さらに本実施形態においては、コスト抑制や環境負荷軽減の観点から、脱脂工程における脱脂時間が45秒未満であることが好ましく、30秒以下であることがより好ましい。すなわち本実施形態においては、絞り工程における潤滑油、及び、しごき工程におけるクーラントに含まれる油分の含有量が少ないため、脱脂時間が45秒未満であっても、有底筒状体の内側表面及び外側表面の油分を充分に除去することが可能である。一方で、脱脂時間を45秒以上とした場合には、後述するように必要以上に有底筒状体自体の溶出が進む可能性があるため好ましくない。
なお、脱脂時間の下限は特にないが、実用上問題無く脱脂ができ、且つ排水処理性に問題のない脱脂時間の下限としては例えば10秒超であることが好ましい。
また、脱脂の方法としてスプレーやシャワーにより洗浄剤を吹き付ける場合には、一缶当たり、洗浄剤噴出量は60~70ml/秒であることが好ましい。
【0054】
本実施形態の脱脂工程においては、洗浄剤により有底筒状体の内側表面及び外側表面に付着した油分を除去するだけでなく、有底筒状体自体も溶出させる。そのため、脱脂前後の有底筒状体の重量には変化が生じるが、当該重量変化は100mg/m未満であることが好ましい。
【0055】
すなわち本実施形態においては、上述のように、絞り工程に使用する潤滑油および、しごき工程に使用するクーラントに含まれる油分の量を所定量より少なくすることが可能となった。従って、製缶工程(絞り工程及びしごき工程)を経た後で有底筒状体の内側表面および外側表面に付着する油分の量を少なくすることが可能となった。
【0056】
よって、脱脂工程において発生する排水中に含まれる油分の量をも減少することが可能となり、環境負荷を軽減することが可能となった。また、脱脂工程おいて必要以上に有底筒状体が溶出されることをも抑制可能となった。
【0057】
<浄化工程>
次に、本実施形態における、上述した有底筒状体の製造方法におけるしごき工程及び/又は脱脂工程において排出された排水を浄化する浄化工程について説明する。
【0058】
すなわち上述したように、本実施形態の有底筒状体の製造方法において、しごき工程においてはクーラントを介してしごき加工が行われる。また、脱脂工程においては洗浄剤を用いて有底筒状体の表面に付着した油分等を除去する本洗浄の前に、水による予洗浄や、本洗浄の後に水により洗浄剤を除去するすすぎなどを行う。そのため、脱脂工程においては大量の排水が発生する。
【0059】
従って本実施形態における有底筒状体の製造方法においては、図3に示すように、上記排水を浄化する浄化工程をさらに含んでいてもよい。このとき、後述する理由から、上記のように浄化された排水は、浄化水として再度しごき工程や脱脂工程に再利用(リサイクル)されることが好ましい。
【0060】
すなわち、本実施形態における有底筒状体の製造方法では、潤滑油塗布工程において塗布される油分の粘度は所定の値以下であることは上述したとおりである。また、しごき工程において使用されるクーラントに含まれる油分の濃度についても所定の値未満であることは上述したとおりである。したがって、しごき工程及び脱脂工程において排出される排水に含まれる油分についても、所定の値未満となる。
【0061】
そのため、しごき工程及び/又は脱脂工程において発生する排水は、比較的簡易な方法で浄化することが可能である。そして上記浄化工程を経ることにより、さらなる環境負荷の低減やコスト削減を図ることが可能となる。
【0062】
上記浄化工程における排水の浄化方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。すなわち、濾過、中和、煮沸、沈殿、浮上、生物処理、UV殺菌等の方法を適宜組み合わせて浄化を行うことが可能である。また、凝集剤、消毒薬、殺菌剤等を適宜混入してもよい。
【0063】
以上、本実施形態の有底筒状体の製造方法によれば、以下の効果を奏することができる。
(A)絞り工程及び/又はしごき工程における成形加工部材の加工表面の硬さを所定の値以上とするため、潤滑油塗布工程において、潤滑油の粘度を所定の値以下とすることができる。
(B)しごき工程において使用するクーラントに含まれる油分の量を所定の値未満とすることができる。
(C)上記の結果、脱脂工程における洗浄剤の加熱を抑制し、及び/又は脱脂時間を短くすることができる。
(D)結果的に、環境負荷の軽減やコスト削減を図ることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態において上記浄化工程をさらに実行すれば、以下の効果をさらに奏することができる。
(E)しごき工程及び/又は脱脂工程において排出される排水の浄化処理が容易とすることができる。
(F)排水を浄化して再利用(リサイクル)することが可能となり、コストや環境への負荷を軽減することが可能となる。
【実施例
【0065】
以下、実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
以下に示す方法により、内容積350mLの絞りしごき缶(DI缶)を製造した。
まず、アルミニウム合金板(JIS H 4000 3104材、0.28mm)を用意した。次いで、上記アルミニウム合金板の両面に、絞り加工時の潤滑剤として、公知のカッピング油を1.0~1.3g/m塗布した。なお、カッピング油の粘度は200mPa・sとした。
【0067】
次いで、上記アルミニウム合金板を絞り成形機で、直径160mmの円盤状に打ち抜いた後、直ちに直径90mmのカップ体となるように絞り成形を行った。なお、絞り加工時の成形加工部材の加工表面硬さは、Hv1500とした。
【0068】
得られたカップ体をボディーメーカ(缶体製造機)に搬送し、直径66mmの形状になるように再絞り成形を行った後、クーラントを用いて、直径66mm、高さ130mmの形状となるようにしごき加工を行った。
【0069】
この際のしごきダイとしては、その表面に平均厚さ約10μmのダイヤモンド膜が形成されたものを使用した。ダイヤモンド膜の表面硬さは、Hv10000とした。
また、使用したしごきパンチとしては、その表面に厚さ0.5μmのダイヤモンドライクカーボン膜が形成されたものを使用した。ダイヤモンドライクカーボン膜の表面硬さは、Hv3000とした。
【0070】
しごき加工の際のしごき率は表1に示すとおりとした。クーラント中における油分の含有量は表1のとおりとした。クーラント中には、公知の界面活性剤、さび止め剤、極圧添加剤、防腐剤を添加した。
【0071】
得られたDI缶に対し、内側表面及び外側表面の油分を洗浄するための脱脂を行った。脱脂の際に使用した洗浄剤としては、硫酸(濃度:3.0体積%)を使用した。また、脱脂の際の洗浄剤の温度は50℃とし、脱脂時間は30秒、一缶当たりの洗浄剤噴出量は60ml/秒とした。
また、脱脂工程の前後のDI缶の重量変化を測定し、表1に示した。
【0072】
(実施例2)
カッピング油の粘度を90mPa・sとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
絞り加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例4)
しごき加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例5)
クーラント中における油分の含有量を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例6)
脱脂の際に使用した洗浄剤としては、NaOH(濃度:3.0体積%)を使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例7)
脱脂の際の脱脂温度を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例8)
脱脂の際の脱脂時間を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例9)
しごき加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例10)
脱脂の際に使用した洗浄剤としては、NaOH(濃度:3.0体積%)を使用した。それ以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例11)
絞り加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例12)
しごき加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例1)
脱脂の際に使用する洗浄剤として水を使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例2)
カッピング油の粘度を200mPa・sとし、しごき加工時の成形加工部材の加工表面硬さを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例3)
脱脂の際の脱脂温度を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例4)
脱脂の際の脱脂時間を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0087】
(比較例5)
クーラント中における油分の含有量を表1のとおりとした以外は、実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0088】
(比較例6)
脱脂の際の脱脂時間を表1のとおりとした以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例7)
クーラント中における油分の含有量を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例8)
脱脂の際の脱脂時間を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0091】
[評価]
上記方法により得られたDI缶について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
[しごき加工性]
(i)しごき加工時における破断の有無、(ii)得られたDI缶の開口部におけるブリードスルー(黒すじ)や缶胴部内外面の変色、(iii)缶胴部外面の傷、の3項目について目視で観察した。上記3項目のいずれにも問題がなく缶表面が鏡面であるものを◎、いずれにも問題がなく優れているものを○、いずれかに問題は発生するが実用に耐えられるものを△、いずれかに問題があり実用に耐えられないものを×とした。
【0093】
[洗浄性]
得られたDI缶に対して脱脂を行った後の缶内面に残った残渣(スマット)の状態を評価した。脱脂後のDI缶の缶胴を一部切り取り、内面側の表面の残渣成分を透明な粘着テープにより採取し、該粘着テープを白紙に貼付けた後、色差計で測定した。L値が90(粘着テープのみの値)に近いほど汚れが少なく洗浄性が高いと評価した。L値が85以上のものを◎、80~85のものを○、80未満のものを×とした。
【0094】
[排水処理性]
上記洗浄液を用いてDI缶に対しスプレー洗浄し水洗した後の排水をビーカーに収容して、公知の方法により化学的酸素要求量(COD)を測定した。CODが200ppm未満であれば○(排水処理性が良い)、200ppm以上であれば×(排水処理性が悪い)と判断した。結果を表1に示した。
【0095】
【表1】
【0096】
上記した実施例の内容においては、いずれもしごき加工性、洗浄性、排水処理性の全てにおいて実用可能なものであった。一方で、比較例においては、しごき加工性、洗浄性、排水処理性のいずれかにおいて実用不可能であった。比較例8においては、しごき加工性、洗浄性、排水処理性の結果は優れるものであったが、脱脂工程前後の缶の重量変化が100mg/m以上となったため、脱脂工程において缶自体が必要以上に溶出していることが推定され、好ましくない結果であった。
【0097】
本発明の有底筒状体の製造方法によれば、しごき加工性、洗浄性、排水処理性の全てを兼ね備えていることが明らかである。また、しごき工程及び脱脂工程において生じた排水を浄化する浄化工程を経て、再度しごき工程や脱脂工程に再利用(リサイクル)できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、加工性や成形安定性を維持しつつ環境に配慮する金属プレス加工の分野において、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0099】
絞り加工ダイ
絞り加工パンチ
しごきダイ
しごきパンチ
C クーラント
M 浅絞りカップ
10 金属板
20 ダイヤモンド膜
30 表面処理膜
図1
図2
図3