(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】炭素質材料および電気二重層コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/24 20130101AFI20240717BHJP
C01B 32/312 20170101ALI20240717BHJP
C01B 32/336 20170101ALI20240717BHJP
H01G 11/34 20130101ALI20240717BHJP
【FI】
H01G11/24
C01B32/312
C01B32/336
H01G11/34
(21)【出願番号】P 2020072144
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-01-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出村 隆充
(72)【発明者】
【氏名】本田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】金高 祐仁
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-224391(JP,A)
【文献】特開2019-172478(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012504(WO,A1)
【文献】特開2013-136478(JP,A)
【文献】特開2008-060457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/00-11/86
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が2000m
2
/g以上3500m
2
/g以下であり、tプロット解析により求めた全比表面積のうち、粒子表面の比表面積を外部比表面積とし、粒子内部の細孔の比表面積を内部比表面積としたときに、前記全比表面積に対する前記外部比表面積の割合である外部比表面積率が4.8%以上14.5%以下である電気二重層コンデンサの電極用炭素質材料を含む電極を備えることを特徴とする電気二重層コンデンサ。
【請求項2】
前記電気二重層コンデンサの電極用炭素質材料は、全細孔容積に対するマイクロ孔容積の割合であるマイクロ孔容積比が、40%以上70%以下、かつ、前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合であるメソ孔容積比が、30%以上60%以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気二重層コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素質材料、および、炭素質材料を含む電極を備えた電気二重層コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層コンデンサは、電極と電解質との界面に形成される電気二重層に蓄積される電気エネルギーを利用するコンデンサである。電気二重層コンデンサは、二次電池とは異なり、充放電に際して化学反応を伴わないため長寿命であり、大電流で短時間のうちに充放電することができるという特性を有する。
【0003】
特許文献1には、BET比表面積が10m2/g~1000m2/gであり、黒鉛微結晶を含有しない活性炭、および、そのような活性炭を含む電極を備えた電気二重層コンデンサが記載されている。この活性炭は、電極あたりの電気容量を大きくすることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、BET比表面積が900m2/g~1500m2/gであり、ミクロ細孔の比表面積が800m2/g以上で、その比表面積とメソ細孔の比表面積の比であるミクロ/メソ比が10~14である活性炭、および、そのような活性炭を含む電極を備えた電気二重層コンデンサが記載されている。この活性炭は、体積あたりの容量密度が高く、大電流での充放電特性に優れているとされている。
【0005】
特許文献3には、BET比表面積が1200m2/g~1800m2/gであり、ラマンスペクトルによるR値が1.2以上であり、Gバンド半値幅が70cm-1以上である炭素質材料、および、そのような炭素質材料を含む電極を備えた電気二重層コンデンサが記載されている。この炭素質材料は、高い静電容量を有し、長期にわたって高い静電容量およびエネルギー密度を維持することができるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載されている活性炭や炭素質材料は、BET比表面積がいずれも1800m2/g以下である。このため、それらの活性炭や炭素質材料を電気二重層コンデンサの電極に用いたときに、電気二重層コンデンサの静電容量を十分大きくすることができない。
【0007】
これに対して、特許文献4には、BET比表面積が2200m2/g以上2700m2/g以下であり、平均細孔径が2.2nm以上2.8nm以下であり、かつ、細孔直径が5.0nmから30.0nm間の細孔容積が0.20cm3/g以上0.60cm3/g以下である活性炭、および、そのような活性炭を含む電極を備えた電気二重層コンデンサが記載されている。この活性炭は、内部抵抗が小さく、高い出力密度を有し、耐久性にも優れた特性を有するとされている。
【0008】
また、特許文献5には、BET比表面積が1600m2/g~3000m2/gの範囲にあり、平均細孔直径が2.0~4.0nmの範囲にあり、かつ、細孔の全容積が1.0~3.0cm3/gの範囲にある活性炭、および、そのような活性炭を含む電極を備えた電気二重層コンデンサが記載されている。この活性炭粉末は、電気二重層コンデンサの電解液との接触下において、高い静電容量を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-149399号公報
【文献】特開2010-105836号公報
【文献】特開2017-212433号公報
【文献】特開2011-176043号公報
【文献】特開2013-42146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、活性炭の比表面積には、活性炭を構成する粒子の表面の比表面積と、粒子内の細孔の比表面積とが含まれる。ここでは、粒子表面の比表面積を外部比表面積、細孔の比表面積を内部比表面積と呼ぶ。電解質の吸着量を増加させるためには、活性炭の全比表面積のうち、外部比表面積の割合を増加させることが極めて有効である。しかしながら、外部比表面積の割合を過剰に増加させてしまうと、内部比表面積の割合が相対的に小さくなり、細孔内部における電解質の拡散性が低下する。
【0011】
すなわち、電気二重層コンデンサの静電容量を増加させるためには、比表面積を増加させるだけでなく、外部比表面積と内部比表面積との割合を適切に制御することが重要である。しかしながら、特許文献1~5には、外部比表面積と内部比表面積との割合を適切に制御することについての記載はない。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、比表面積が大きく、かつ、外部比表面積と内部比表面積との割合を適切に制御した炭素質材料、および、そのような炭素質材料を含む電極を備えた電気二重層コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の炭素質材料は、BET比表面積が2000m2/g以上3500m2/g以下であり、tプロット解析により求めた全比表面積のうち、粒子表面の比表面積を外部比表面積とし、粒子内部の細孔の比表面積を内部比表面積としたときに、前記全比表面積に対する前記外部比表面積の割合である外部比表面積率が4.8%以上14.5%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭素質材料によれば、電気二重層コンデンサの電極に用いた場合に、電気二重層コンデンサの静電容量を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(a)~(c)は、実施例1~3の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡により観察した写真である。
【
図2】
図2(a)~(c)は、比較例2~4の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡により観察した写真である。
【
図3】
図3は、実施例4~6および比較例5~8の2つの評価用セルについて、掃引速度を横軸に、静電容量を縦軸に取ったグラフである。
【
図4】
図4は、実施例4~6および比較例5~8の2つの評価用セルについて、掃引速度を横軸に、容量維持率を縦軸に取ったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0017】
本発明の炭素質材料は、BET比表面積が2000m2/g以上3500m2/g以下であり、tプロット解析により求めた全比表面積のうち、粒子表面の比表面積を外部比表面積とし、粒子の細孔の比表面積を内部比表面積としたときに、全比表面積に対する外部比表面積の割合である外部比表面積率が4.8%以上14.5%以下であるという要件(以下、本発明の要件と呼ぶ)を満たす。
【0018】
本発明の炭素質材料は、電気二重層コンデンサの電極に用いられる。この電気二重層コンデンサは、本発明の炭素質材料を含む一対の電極(正極と負極)と、電解液と、一対の電極の間に介在するセパレータとを備える。正極と負極は、セパレータを介して交互に複数積層されていてもよい。
【0019】
本発明の炭素質材料は、糖類などの炭水化物を前駆体とし、前駆体の水熱炭化反応によって合成されたカーボンスフィアを水蒸気賦活処理によって炭化させることによって得られる。後述するように、水蒸気賦活処理を行う際、流通させる水蒸気ガスの流通量を適切に制御することが重要である。
【0020】
<実施例1>
(操作A1)
純水にD-グルコースを混ぜて、マグネットスターラーで撹拌することによって溶解させ、1M、100mLのグルコース水溶液を作製した。
【0021】
(操作A2)
作製したグルコース水溶液を反応容器(オートクレーブユニット)に添加し、最高温度200℃、保持時間5時間の条件で、撹拌羽を用いて300rpmの速度で撹拌しながら、密閉下で水熱反応させた。
【0022】
(操作A3)
オートクレーブユニットの冷却後、ユニット内のスラリーをディスポカップに添加した。続いて、スラリーを、ろ別にて、合成された炭素質材料と水溶液とに分離した。具体的には、純粋50mLで6回、ろ液が透明になるまでスラリーを洗浄した後、さらに、エタノール50mLで6回、ろ液が透明になるまで洗浄を行った。そして、スパチュラなどを用いて、ろ紙上に残された炭素質材料を回収した。続いて、回収した炭素質材料を、定温乾燥器を用いて、50℃、3時間、大気化の条件で乾燥させた。
【0023】
(操作A4)
操作A3の工程を経て得られた炭素質材料を、メノウ乳鉢で解砕してアルミナるつぼに添加した後、焼成炉で熱処理した。熱処理条件は、最高温度1000℃、保持時間は1時間、昇温速度は8℃/分とし、窒素(N2)ガス5L/分、水素(H2)ガス100cc/分を常時流通させる雰囲気で熱処理を行った。そして、炉内温度が400℃に到達したときに、水蒸気ガスを0.5cc/分流通させて、水蒸気賦活を行った。水蒸気ガスは、上述した最高温度(1000℃)を1時間保持した後、その供給を停止した。
【0024】
図1(a)は、操作A1~操作A4の工程を得て作製された実施例1の炭素質材料(活性炭)を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0025】
(操作A5)
操作A4の工程を経て作製された炭素質材料の粉体に対して、300℃、3時間の条件で前処理を行った後、マイクロトラック・ベル社製の比表面積・細孔分布測定装置「BELSORP」を用いて、液体窒素温度における窒素の吸着等温線により、比表面積と細孔分布の測定を行った。ここでは、BET法により炭素質材料のBET比表面積を求めるとともに、公知のtプロット解析により、炭素質材料の全比表面積、炭素質材料を構成する粒子の表面の比表面積である外部比表面積、および、粒子内部の細孔の比表面積である内部比表面積をそれぞれ求めた。外部比表面積は、炭素質材料の全比表面積のうち、内部比表面積以外の比表面積である。すなわち、外部比表面積と内部比表面積との合計が全比表面積となる。また、tプロット解析により求めた炭素質材料の全比表面積に対する外部比表面積の割合である外部比表面積率を求めた。
【0026】
また、BET法により、炭素質材料のマイクロ孔容積を求めるとともに、BJH法により、炭素質材料のメソ孔容積を求めた。なお、マイクロ孔は、粒子内部の細孔のうち、直径が2nm未満の細孔であり、メソ孔は、直径が2nm以上50nm以下の細孔である。また、求めたマイクロ孔容積とメソ孔容積とを加算することにより、全細孔容積を求めるとともに、全細孔容積に対するマイクロ孔容積の割合であるマイクロ孔容積比、および、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合であるメソ孔容積比を求めた。
【0027】
<実施例2>
実施例1の操作A4において、水蒸気賦活処理時の水蒸気ガスの流通量を0.7cc/分とした以外は、実施例1の炭素質材料を作製する方法と同様の方法により、実施例2の炭素質材料を作製した。また、作製した炭素質材料について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0028】
図1(b)は、実施例2の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0029】
<実施例3>
実施例1の操作A4において、水蒸気賦活処理時の水蒸気ガスの流通量を1.0cc/分とした以外は、実施例1の炭素質材料を作製する方法と同様の方法により、実施例3の炭素質材料を作製した。また、作製した炭素質材料について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0030】
図1(c)は、実施例3の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0031】
後述するように、実施例1~3の炭素質材料は、本発明の要件を満たしている。一方、以下で説明する比較例1~4の炭素質材料は、本発明の要件を満たしていない。
【0032】
<比較例1>
市販の炭素質材料として、株式会社クラレの活性炭「YP-50F」を用意し、用意した活性炭について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0033】
<比較例2>
実施例1の操作A4において、水蒸気賦活処理における水蒸気ガスの流通量を0cc/分とした以外は、実施例1の炭素質材料を作製する方法と同様の方法により、比較例2の炭素質材料を作製した。また、作製した炭素質材料について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0034】
図2(a)は、比較例2の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0035】
<比較例3>
実施例1の操作A4において、水蒸気賦活処理時の水蒸気ガスの流通量を1.5cc/分とした以外は、実施例1の炭素質材料を作製する方法と同様の方法により、比較例3の炭素質材料を作製した。また、作製した炭素質材料について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0036】
図2(b)は、比較例3の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0037】
<比較例4>
実施例1の操作A4において、水蒸気賦活処理時の水蒸気ガスの流通量を2.0cc/分とした以外は、実施例1の炭素質材料を作製する方法と同様の方法により、比較例4の炭素質材料を作製した。また、作製した炭素質材料について、上述した操作A5の処理を行い、BET比表面積、外部比表面積率、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比などを求めた。
【0038】
図2(c)は、比較例4の炭素質材料を電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した写真である。
【0039】
上述した実施例1~3および比較例1~4の炭素質材料について求めたBET比表面積、マイクロ孔容積、メソ孔容積、全細孔容積、マイクロ孔容積比、および、メソ孔容積比を表1に示す。
【0040】
【0041】
また、上述した実施例1~3および比較例1~4の炭素質材料について、tプロット解析により求めた全比表面積、tプロット解析により求めた外部比表面積、tプロット解析により求めた内部比表面積、および、外部比表面積率を表2に示す。
【0042】
【0043】
表1および表2に示すように、実施例1~3の炭素質材料は、BET比表面積が2000m2/g以上3500m2/g以下であり、tプロット解析により求めた全比表面積に対する外部比表面積の割合である外部比表面積率が4.8%以上14.5%以下であるという本発明の要件を満たす。より詳細には、実施例1~3の炭素質材料のBET比表面積は、2182m2/g以上3462m2/g以下である。
【0044】
これに対して、市販の炭素質材料の一例である比較例1の活性炭、および、賦活処理時に水蒸気ガスの流通量を0cc/分とした比較例2の炭素質材料は、BET比表面積が2000m2/g未満と小さくなった。また、賦活処理時に水蒸気ガスの流通量を1.5cc/分とした比較例3の炭素質材料、および、水蒸気ガスの流通量を2.0cc/分とした比較例4の炭素質材料は、BET比表面積が3500m2/gより大きくなった。また、比較例1~4の炭素質材料は、外部比表面積率が4.8%未満または14.5%より高い。
【0045】
すなわち、実施例1~3の炭素質材料のように、製造方法を適切に制御しないと、本発明の要件を満たす炭素質材料を得ることはできない。したがって、比較例1の炭素質材料のように、既存の炭素質材料は、本発明の要件を満たしていない。なお、実施例1で説明した製造方法によれば、1回の水蒸気賦活処理によって、本発明の要件を満たす炭素質材料を作製することができる。
【0046】
続いて、作製した炭素質材料を用いて、評価用セルとしての電気二重層コンデンサを作製した。後述する実施例4~6は、実施例1~3の炭素質材料をそれぞれ用いて電気二重層コンデンサを作製する例である。また、比較例4~8は、比較例1~4の炭素質材料をそれぞれ用いて電気二重層コンデンサを作製する例である。
【0047】
<実施例4>
(操作B1)
実施例1で作製した炭素質材料0.32g、結着材としてポリテトラフルオロエチレン0.04g、導電助剤としてアセチレンブラック0.04gをメノウ乳鉢に添加し、メノウ乳棒を用いて均一になるように混練して、混合物を得た。
【0048】
(操作B2)
操作B1により得られた混合物をペットフィルム上に置き、圧延ローラーを用いて、厚みが200μmとなるように圧延して電極圧延体を作製した。その後、電極圧延体を直径12mmの円板状に打ち抜き、真空低温乾燥器を用いて、80℃で一昼夜乾燥させることによって、電極を作製した。
【0049】
(操作B3)
操作B2により得られた電極を用いて、ドライルーム内で評価用セルを作製した。具体的には、一対の電極の間に、セパレータとしてガラス不織布を介在させ、電解液を120μL注液することによって、電極体を作製した。ここでは、電解液として、スピロビピロリジニウムテトラフルオロボレート(SBP-BF4)を用いた。そして、集電体としてのステンレス板で電極体を挟んでケース内に収容し、上蓋でケースを封じることによって、評価用セルを作製した。
【0050】
(操作B4)
操作B3により得られた評価用セルに対し、バイオロジック社製の電気化学システム「VMP3」を用いて、サイクリックボルタンメトリー測定(以下、CV測定と呼ぶ)を行った。ここでは、2つの評価用セルに対して、CV測定を行った。サイクルの繰り返し数は3サイクル、評価セルの電圧は2Vとし、掃引速度は、1mV/秒、10mV/秒、100mV/秒、1000mV/秒、5000mV/秒としてCV測定を行った。その後、CV測定で得られた結果に基づいて、電流が放電電流になった時点からの電位範囲において、放電電流値を積分することによって得られるクーロン値をセル電圧で割る除算を行うことによって、静電容量を求めた。
【0051】
<実施例5>
実施例2の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0052】
<実施例6>
実施例3の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0053】
<比較例5>
比較例1の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0054】
<比較例6>
比較例2の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0055】
<比較例7>
比較例3の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0056】
<比較例8>
比較例4の炭素質材料を用いて、上記操作B1~B4の処理を行った。
【0057】
上記実施例4~6および比較例5~8の各掃引速度に対する静電容量の関係を表3に示す。上述したように、各実施例4~6および比較例5~8において、2つの評価用セルに対してCV測定を行っているため、表3では、各実施例4~6および比較例5~8について、求めた静電容量をそれぞれ2つずつ示している。
【0058】
【0059】
また、表3の結果に基づいて、実施例4~6および比較例5~8の2つの評価用セルについて、掃引速度を横軸に、静電容量を縦軸に取ったグラフを
図3に示す。
【0060】
また、実施例4~6および比較例5~8の2つの評価用セルについて、各掃引速度における容量維持率を表4に示す。容量維持率は、掃引速度1mV/秒のときの静電容量を基準としたときの各掃引速度の静電容量の割合である。表4でも、各実施例4~6および比較例5~8について、容量維持率をそれぞれ2つずつ示している。
【0061】
【0062】
また、実施例4~6および比較例5~8の2つの評価用セルについて、掃引速度を横軸に、容量維持率を縦軸に取ったグラフを
図4に示す。
【0063】
図3に示すように、実施例4~6の評価用セルは、比較例5~8の評価用セルと比べて、特に、掃引速度1mV/秒以上100mV/秒以下のときに、静電容量が顕著に大きくなった。
【0064】
具体的には、表3に示すように、掃引速度1mV/秒の場合、実施例4~6の評価用セルの静電容量は、19.5F/g以上となったのに対して、比較例5~8の評価用セルの静電容量は、17.4F/g以下となった。また、掃引速度10mV/秒の場合、実施例4~6の評価用セルの静電容量は、18.8F/g以上となったのに対して、比較例5~8の評価用セルの静電容量は、15.2F/g以下となった。さらに、掃引速度100mV/秒の場合、実施例4~6の評価用セルの静電容量は、12.8F/g以上となったのに対して、比較例5~8の評価用セルの静電容量は、6.1F/g以下となった。
【0065】
このように、本発明の要件を満たす実施例1~3の炭素質材料を含む電極を備えた実施例4~6の電気二重層コンデンサは、本発明の要件を満たさない比較例1~4の炭素質材料を含む電極を備えた比較例5~8の電気二重層コンデンサと比べて、静電容量が大きい。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0066】
実施例4~6の電気二重層コンデンサは、炭素質材料のBET比表面積および外部比表面積率が適切な範囲に制御されている。したがって、電解液中のイオンのうち、炭素質材料の細孔に吸着保持されるイオンの量を最大限増加させることができる。また、炭素質材料において、過剰に微細な細孔は、電解液の分解反応の活性点となるが、マイクロ孔容積比およびメソ孔容積比が適切に制御されていることにより、電解液の分解反応を抑制することができる。また、炭素質材料の外部比表面積率が適切な範囲に制御されているため、セル電圧の掃引速度が5000mV/秒と大きい場合でも、イオンおよび溶媒の移動経路を確保することができ、静電容量の低下が抑制されている。
【0067】
また、
図4に示すように、実施例4~6の評価用セルは、比較例5~8の評価用セルと比べて、特に、掃引速度1mV/秒より高く、100mV/秒以下のときに、容量維持率が顕著に大きくなった。
【0068】
具体的には、表4に示すように、掃引速度10mV/秒のときに、実施例4~6の評価用セルの容量維持率は、92%以上となったのに対して、比較例5~8の評価用セルの容量維持率は、87%以下となった。また、掃引速度100mV/秒のときに、実施例4~6の評価用セルの容量維持率は、59%以上となったのに対して、比較例5~8の評価用セルの容量維持率は、39%以下となった。
【0069】
このように、本発明の要件を満たす実施例1~3の炭素質材料を含む電極を備えた実施例4~6の電気二重層コンデンサは、本発明の要件を満たさない比較例1~4の炭素質材料を含む電極を備えた比較例5~8の電気二重層コンデンサと比べて、掃引速度を変更したときの容量維持率が大きい。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。例えば、本発明の炭素質材料を作製する方法が実施例で説明した方法に限定されることはない。
【0071】
また、上述した実施例では、セパレータとしてガラス不織布、電解液としてスピロビピロリジニウムテトラフルオロボレート、集電体としてステンレス板を用いたが、電気二重層コンデンサを構成するためのセパレータ、電解液、および、集電体がそれらに限定されることはない。また、電解液の代わりに、ゲル状の電解質を用いてもよい。