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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよびその制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04302 20160101AFI20240717BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20240717BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20240717BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20240717BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M8/04302
B60L58/30
H01M8/00 Z
H01M8/04303
H01M8/0432
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020093177
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021190254
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2022-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸井田 政史
(72)【発明者】
【氏名】西田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】常川 洋之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真洋
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-010904(JP,A)
【文献】国際公開第2008/056617(WO,A1)
【文献】特開2005-251576(JP,A)
【文献】特開2004-039528(JP,A)
【文献】特開2013-015244(JP,A)
【文献】特開2016-091885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
燃料電池システムが搭載された車両における特定位置の温度を取得する温度取得部と、
前記燃料電池の運転停止時に燃料電池を掃気する掃気部と、
前記燃料電池システムが停止されてから次に起動されるまでの間に前記温度取得部から前記特定位置の温度を複数回取得し、前記燃料電池システムが前記次に起動された際、前記取得された前記特定位置の温度を用いて、次回の燃料電池システムの停止の際の前記掃気部による停止時掃気の要否の判定を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記停止時掃気の要否の判定において、前記取得された複数の温度のうちの最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、次回の燃料電池システムの停止時掃気を要と判定する、燃料電池システム。
【請求項2】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
燃料電池システムが搭載された車両における特定位置の温度を取得する温度取得部と、
前記燃料電池の運転停止時に燃料電池を掃気する掃気部と、
前記燃料電池システムが停止されてから次に起動されるまでの間に前記温度取得部から前記特定位置の温度を複数回取得し、前記燃料電池システムが前記次に起動された際、前記取得された前記特定位置の温度を用いて、次回の燃料電池システムの停止の際の前記掃気部による停止時掃気の要否の判定を行う制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記停止時掃気の要否の判定において、前記取得された複数の温度の遷移を用いて、前記特定位置の温度の最低値を推定し、推定された前記特定位置の温度の最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、次回の燃料電池システムの停止時掃気を要と判定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記判定温度は、水の氷点である、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池に冷却媒体を供給する冷却回路を備え、
前記特定位置の温度は、前記冷却回路において前記燃料電池から排出される前記冷却媒体の温度である、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、
前記特定位置の温度は、前記燃料電池の温度である、燃料電池システム。
【請求項6】
料電池システムの制御方法であって、
燃料電池システムが停止されてから次に起動されるまでの間に、燃料電池システムが搭載された車両における特定位置の温度を複数回取得し、前記燃料電池システムが前記次に起動された際、前記取得された前記特定位置の温度を用いて、次回の燃料電池システムの停止の際の燃料電池の掃気である停止時掃気を実行するか否かを判定し、当該停止時掃気の要否の判定において、前記取得された複数の温度のうちの最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、次回の燃料電池システムの停止時掃気を要と判定する、燃料電池システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムおよびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載された燃料電池システムが記載されている。この燃料電池システムは、車両走行中の外気温を取得しておき、燃料電池システムの停止時に掃気をするとき、最後に取得された外気温が所定の閾値以下の場合に、最後に取得された外気温が所定の閾値より高い場合に比べて掃気能力を高めて掃気する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-010904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された燃料電池システムでは、走行中の外気温を用いているため、燃料電池システムの停止中に冷え込む場合など、燃料電池システムが置かれる環境を踏まえた掃気処理については、さらなる改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池システムが提供される。この燃料電池システムは、燃料電池と、燃料電池システムが搭載された車両における特定位置の温度を取得する温度取得部と、前記燃料電池の運転停止時に燃料電池を掃気する掃気部と、前記燃料電池システムが停止されてから次に起動されるまでの間に前記温度取得部から前記特定位置の温度を1回以上取得し、前記燃料電池システムが前記次に起動された際、前記取得された前記特定位置の温度を用いて、次回の燃料電池システムの停止の際に前記掃気部による停止時掃気の要否の判定を行う制御部と、を備える。この形態によれば、制御部は、燃料電池システムの停止中の特定位置の温度から、燃料電池システムが置かれた環境の温度を予測できる。次回、燃料電池システムの停止の際に、制御部は、燃料電池システムが置かれた環境を踏まえた掃気処理を実行できる。
(2)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記温度取得部は、特定位置の温度を複数回取得し、前記制御部は、前記停止時掃気の要否の判定において、測定された複数の温度のうちの最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、次回の燃料電池システムの停止時掃気を要と判定してもよい。この形態によれば、特定位置の温度の最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、燃料電池システムが置かれた環境が、例えば、冬と判定できる。
(3)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記温度取得部は、特定位置の温度を複数回取得し、前記制御部は、前記停止時掃気の要否の判定において、測定された複数の温度の遷移を用いて、前記特定位置の温度の最低値を推定し、推定された前記特定位置の温度の最低値が予め定められた判定温度以下の場合には、次回の燃料電池システムの停止時掃気を要と判定してもよい。この形態によれば、特定位置の温度の遷移から燃料電池システムが置かれた環境を推定できる。
(4)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記判定温度は、水の氷点であってもよい。この形態によれば、次回の燃料電池システムの停止時に、燃料電池内の水が凍結するような環境になるか、否かを判定できる。
(5)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記燃料電池に冷却媒体を供給する冷却回路を備え、前記特定位置の温度は、前記冷却回路において前記燃料電池から排出される前記冷却媒体の温度であってもよい。燃料電池から冷却媒体が排出される位置の温度は、燃料電池の温度とほぼ同じである。この形態によれば、冷却媒体の温度から次回の燃料電池システムの停止時の燃料電池内の温度を判断できる。
(6)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記特定位置の温度は、前記燃料電池の温度であってもよい。この形態によれば、次回の燃料電池システムの停止時の燃料電池内の温度を直接判断できる。
(7)上記形態の燃料電池システムにおいて、前記特定位置は、前記車両における外気温を測定可能な位置であってもよい。燃料電池システムの停止時の燃料電池内の温度は、外気温の影響を受けて変化する。この形態によれば、外気温から次回の燃料電池システムの停止時の燃料電池内の温度を判断できる。
(8)上記形態の燃料電池システムにおいて、外部と通信可能な通信部を備え、前記通信部を用いて外部から外気温を前記特定位置の温度として取得してもよい。この形態によれば、燃料電池システムを搭載する車両に、外気温を測定するセンサを備えなくても良い。
本開示は、燃料電池システム以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池システムの制御方法や燃料電池の掃気方法遠等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料電池システムの概略構成図である。
図2】制御部の掃気に関する構成を示す説明図である。
図3】最低温度取得部が実行するソーク中の最低温度を記憶する処理フローチャートである。
図4】パワースイッチオフ後の冷却水の温度と外気温の時間変化を示すグラフである。
図5】冬判定の処理フローチャートである。
図6】掃気処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、燃料電池搭載車両(「車両」とも呼ぶ。)に用いられる燃料電池システム10を模式的に示す説明図である。燃料電池システム10は、燃料電池100と、燃料ガス供給回路200と、酸化剤ガス供給回路300と、排ガス回路400と、冷却回路500と、負荷回路600と、制御部700と、を備える。
【0009】
燃料電池100は、燃料ガスと酸化剤ガスとを用いて発電を行う。本実施形態では、燃料ガスとして、水素を用い、酸化剤ガスとして、空気(空気中の酸素)を用いる。燃料電池100には、燃料電池100の温度Tfを測定する温度センサ105が設けられている。なお、温度センサ105は省略可能である。
【0010】
燃料ガス供給回路200は、燃料ガスタンク210と、燃料ガス供給管220と、燃料ガス排気管230と、燃料ガス還流管240と、主止弁250と、レギュレーター260と、インジェクタ270と、気液分離器280と、水素ポンプ290と、を備える。燃料ガスタンク210は、燃料ガスを貯蔵する。燃料ガスタンク210と、燃料電池100とは、燃料ガス供給管220で接続されている。燃料ガス供給管220上には、燃料ガスタンク210側から、主止弁250と、レギュレーター260と、インジェクタ270とが設けられている。主止弁250は、燃料ガスタンク210からの燃料ガスの供給をオン、オフする。レギュレーター260は、燃料電池100に供給される燃料ガスの圧力を調整する。インジェクタ270は、燃料電池100に燃料ガスを噴射する。
【0011】
燃料ガス排気管230は、燃料電池100からの燃料排ガスを排出する。燃料ガス還流管240は、燃料ガス排気管230と、燃料ガス供給管220に接続されている。燃料ガス排気管230と燃料ガス還流管240との間には、気液分離器280が設けられている。燃料排ガスには、消費されなかった水素と、燃料電池100を通って移動してきた窒素などの不純物と、水が含まれている。気液分離器280は、燃料排ガス中の水と、ガス(水素と窒素などの不純物)とを分離する。燃料ガス還流管240には、水素ポンプ290が設けられている。水素ポンプ290は、気液分離器280により分離されたガスを燃料ガス供給管220に供給する。これにより、燃料電池システム10は、燃料排ガスに含まれる消費されなかった水素を燃料として利用する。本実施形態では、水素ポンプ290を用いているが、代わりにエジェクタを用いても良い。
【0012】
酸化剤ガス供給回路300は、エアクリーナ310と、エアエアコンプレッサ320と、酸化剤ガス供給管330と、入口弁340と、大気圧センサ350と、外気温センサ360と、エアフローメータ370と、供給ガス温度センサ380と、供給ガス圧力センサ390と、を備える。エアクリーナ310は、空気を取り込む時に、空気中の塵埃を除去する。エアエアコンプレッサ320は、空気を圧縮し、酸化剤ガス供給管330を通して空気を燃料電池100に送る。入口弁340は、酸化剤ガス供給管330の燃料電池100への入口に設けられている。大気圧センサ350は、大気圧を測定する。外気温センサ360は、取り込む前の空気の温度を取得する。エアフローメータ370は、取り込んだ空気の量を測定する。なお、空気の供給量は、エアエアコンプレッサ320の回転数により変わる。供給ガス温度センサ380は、燃料電池100に供給される空気の温度を測定し、供給ガス圧力センサ390は、燃料電池100に供給される空気の圧力を測定する。
【0013】
排ガス回路400は、排ガス管410と、調圧弁420と、燃料ガス排出管430と、排気排水弁440と、酸化剤ガスバイパス管450と、バイパス弁460と、サイレンサー470とを備える。排ガス管410は、燃料電池100の酸化剤排ガスを排出する。排ガス管410には、調圧弁420が設けられている。調圧弁420は、燃料電池100中の空気の圧力を調整する。燃料ガス排出管430は、気液分離器280と、排ガス管410とを接続している。燃料ガス排出管430上には、排気排水弁440が設けられている。制御部700は、燃料排ガス中の窒素濃度が高くなったとき、あるいは、気液分離器280中の水の量が多くなったときには、排気排水弁440を開け、気液分離器280に溜まった水とガスを排ガス管410に排出する。排出されるガスは、窒素などの不純物と水素とを含む。本実施形態では、燃料ガス排出管430は、排ガス管410に接続されており、排出されるガス中の水素は、酸化剤排ガスにより、希釈される。酸化剤ガスバイパス管450は、酸化剤ガス供給管330の入口弁340の上流側と、排ガス管410の調圧弁420の下流側とを接続する。酸化剤ガスバイパス管450には、バイパス弁460が設けられている。制御部700は、排気排水弁440を開けて、水とガス(窒素などの不純物と水素)を排出するときに、バイパス弁460を開けて排ガス管410に空気を流し、水素を希釈する。また、燃料電池100に要求される電力が少ない場合には、制御部700は、バイパス弁460を開けれ、燃料電池100に供給する空気を減少する。サイレンサー470は、排ガス管410の下流部に設けられており、排気音を減少させる。なお、入口弁340とバイパス弁460の代わりに、酸化剤ガス供給管330と酸化剤ガスバイパス管450との接合部に三方弁を用いても良い。
【0014】
冷却回路500は、冷却水供給管510と、冷却水排出管515と、ラジエータ管520と、ウォーターポンプ525と、ラジエータ530と、バイパス管540と、三方弁545と、温度センサ550と、を備える。冷却水供給管510は、燃料電池100に冷却水を供給するための管であり、冷却水供給管510にはウォーターポンプ525が配置されている。冷却水排出管515は、燃料電池100から冷却水を排出するための管である。冷却水排出管515の下流部は、三方弁545を介して、ラジエータ管520と、バイパス管540と、に接続されている。ラジエータ管520には、ラジエータ530が設けられている。ラジエータ530には、ラジエータファン535が設けられている。ラジエータファン535は、ラジエータ530に風を送り、ラジエータ530からの放熱を促進する。ラジエータ管520の下流部と、バイパス管540の下流部とは、冷却水供給管510に接続されている。温度センサ550は、燃料電池100から排出される冷却水の温度Twを測定する。
【0015】
負荷回路600は、燃料電池昇圧コンバーター605と、インバーター610と、主駆動モーター620と、DC/DCコンバーター630と、補機640と、二次電池650と、を備える。燃料電池昇圧コンバーター605は、燃料電池100が発生させる電圧を、主駆動モーター620を駆動できる電圧に昇圧する。インバーター610は、昇圧された直流電圧を交流電圧に変換して、主駆動モーター620に供給する。主駆動モーター620は、燃料電池搭載車両を駆動する駆動モーターである。また、主駆動モーター620は、燃料電池搭載車両の減速時には、回生モーターとして機能する。DC/DCコンバーター630は、燃料電池100の電圧を制御する。また、燃料電池100の電圧を変換して二次電池650に供給し、あるいは、二次電池650の電圧を変換してインバーター610に供給する。二次電池650は、燃料電池100からの電力や、主駆動モーター620による回生により得られた電力を充電するとともに、主駆動モーター620や補機640を駆動するための電源として機能する。補機640は、燃料電池システム10内の各部に配置されている各モーター(例えば、ポンプ類などの動力となるモーター、但し、主駆動モーター620を除く)や、これらのモーターを駆動するためのインバーター類、更には各種の車載補機(例えば、エアコンプレッサ、インジェクタ、冷却水循環ポンプ、ラジエータなど)を総称するものである。したがって、図1及び説明では、独立して記載しているが、水素ポンプ290、エアエアコンプレッサ320、ウォーターポンプ525、ラジエータファン535を駆動するモーター(図示せず)等も補機640に含まれる。
【0016】
制御部700は、燃料ガス供給回路200と、酸化剤ガス供給回路300と、排ガス回路400と、冷却回路500の動作を制御する。すなわち、制御部700は、図示しない鉛バッテリの電源Vccにより駆動され、燃料電池システム10が動作していなくても、電源が供給される。
【0017】
図2は、制御部700の掃気に関する構成を示す説明図である。制御部700は、最低温度取得部710と、掃気制御部720と、ウェイクアップタイマ728と、を備える。最低温度取得部710は、燃料電池システム10が停止しているソーク中において、燃料電池システム10が搭載された車両における予め定められた特定位置の最低温度Tsminを取得する。特定位置は、冷却回路500における燃料電池100の出口であり、特定位置の温度は、冷却媒体である冷却水の温度Twであり、温度取得部である温度センサ550により取得される。なお、特定位置を燃料電池100そのものとしてもよい。この場合、特定位置の温度は、燃料電池100の温度Tfであり、温度センサ105により取得される。最低温度取得部710は、外気温Taを車両の特定位置の温度としても良い。以下、特定位置を冷却回路500における燃料電池100の出口として説明する。
【0018】
最低温度取得部710は、温度比較部712と、最低温度格納部714と、を備える。最低温度格納部714は、特定位置の最低温度Tsminを格納する。温度比較部712は、冷却水の温度Twと、最低温度格納部714に格納されている特定位置の最低温度Tsminとを比較し、低い方の温度を特定位置の最低温度Tsminとして最低温度格納部714に格納する。なお、冷却水の温度Twと最低温度格納部714に格納されている特定位置の最低温度Tsminとが等しい場合には、温度比較部712は、最低温度格納部714の特定位置の最低温度Tsminを、そのまま維持してもよく、冷却水の温度Twを特定位置の最低温度Tsminとして最低温度格納部714に格納してもよい。
【0019】
掃気制御部720は、掃気判定部722と、フラグ格納部724と、掃気実行部726と、を備える。掃気判定部722は、パワースイッチ730がオンにされ、燃料電池システム10が動作しているときに、最低温度格納部714に格納されている特定位置の最低温度Tsminと、特定位置の温度Twと、外気温Taとを用いて、次回の燃料電池システム10の停止の際の掃気(以下、「停止時掃気」と呼ぶ)の要否を判定する。フラグ格納部724は、掃気判定部722の判定結果をフラグFwとして格納する。掃気判定部722は、外気温Taを外気温センサ360から取得してもよく、外部と通信可能な通信部740を用いて、車両の外部から取得しても良い。例えば、V2V(Vehicle-to-Vehicle)やV2N(Vehicle-to-cellular-Network)を用いて、近傍の他の車両や携帯電話やスマートフォンの基地局を介した通信ネットワークで接続されるサーバから外気温Taを取得しても良い。外気温センサ360と通信部740は、いずれか一方のみ備える構成であってもよい。
【0020】
掃気実行部726は、パワースイッチ730がオフにされ、燃料電池システム10が停止する際に、フラグ格納部724に格納されたフラグFwの値を読み込み、停止時掃気が要のフラグFwが立っている場合に、すなわち、フラグFwが値1の場合、エアコンプレッサ320及び水素ポンプ290を駆動し、排気排水弁440を開弁して、停止時掃気を実行する。ウェイクアップタイマ728は、一定時間ごとに最低温度取得部710をウェイクアップさせるタイマである。
【0021】
図3は、最低温度取得部710が実行するソーク中の最低温度を記憶する処理フローチャートである。最低温度取得部710は、ステップS100でパワースイッチ730がオフにされたことを受け付けると、処理をステップS110に移行し、最低温度格納部714に格納されている特定位置の最低温度Tsminをリセットする。最低温度取得部710は、最低温度Tsminをパワースイッチ730がオフにされる直前の冷却回路500における燃料電池100の出口の冷却水の温度Twとする。なお、最低温度取得部710は、最低温度Tsminを、冬判定されない十分に高い温度に設定しても良い。最低温度取得部710は、その後、処理をステップS120に移行し、停止する。最低温度取得部710の停止とは、最低温度取得部710としての動作を休止することを意味する。この状態で、最低温度取得部710は、電力をほとんど消費しない状態となる。こうした休止状態は、内部の動作クロック周波数を限りなくゼロに近づけたり、内部状態を不揮発性メモリに保存して自身の電源を完全に落としてしまう、といったことにより実現できる。
【0022】
ステップS130で、掃気制御部720のウェイクアップタイマ728からウェイクアップ指示を受け付けると、最低温度取得部710は、ステップS140で、ウェイクアップする。本実施形態では、ウェイクアップとは、燃料電池システム10の一部の構成が、制御部700からの指示により、一時的に動作を開始することを意味する。掃気制御部720は、パワースイッチ730がオフにされると、最低温度取得部710に対し、所定時間ごとに、ウェイクアップ指示を送る。所定時間は、例えば、1時間である。所定時間は、1時間より短い時間、例えば30分でもよく、1時間より長い時間、例えば2時間でもよい。
【0023】
ステップS150では、最低温度取得部710は、温度センサ550から燃料電池100の出口における冷却水の温度Twを取得する。ステップS160では、最低温度取得部710は、最低温度格納部714に格納されている特定位置の最低温度Tsminを読み出し、ステップS150で取得した冷却水の温度Twと比較し、低い方の温度を特定位置の最低温度Tsminとして最低温度格納部714に格納する。なお、特定位置の最低温度Tsminがリセットされた直後には、ステップS150で取得した冷却水の温度Twを定位置の最低温度Tsminとして最低温度格納部714に格納する。その後ステップS170で、最低温度取得部710は、再び動作を停止し、上述した休止状態となる。
【0024】
ステップS180でパワースイッチ730がオンにされた場合には、ソーク中の最低温度を記憶する処理を停止する。パワースイッチ730がオンにされない場合には、処理がステップS130に移行され、同様に処理が繰り返される。
【0025】
図4は、パワースイッチ730オフ後の冷却水の温度Twと外気温の時間変化を示すグラフである。冷却回路500における燃料電池100の出口の冷却水の温度Twは、パワースイッチ730がオフにされ、燃料電池100の発電が停止すると、外気温Taに近づこうとする。
【0026】
時刻t0でパワースイッチ730がオフにされると(図3のステップS100)、最低温度取得部710は、最低温度格納部714に格納されている最低温度Tsminをリセットし、パワースイッチ730がオフにされる直前の冷却回路500における燃料電池100の出口の冷却水の温度Twを最低温度Tsminとして最低温度格納部714に格納する。
【0027】
時刻t1では、最低温度取得部710が一時的にウェイクアップする(図3のステップ140~S170)。最低温度取得部710は、冷却回路500における燃料電池100の出口の冷却水の温度Twを取得し(図3のステップS150)、冷却水の温度Twと最低温度Tsminの低い方の温度を最低温度Tsminとして、最低温度格納部714に格納する。図4の例では、時刻t7までは、Tw<Tsminなので、最低温度取得部710は、冷却水の温度Twを最低温度Tsminとして、最低温度格納部714に格納している。時刻t8からパワースイッチ730がオンにされる時刻tsまでの間は、Tsmin<Twなので、最低温度取得部710は、最低温度格納部714に格納されている最低温度Tsminを維持する。
【0028】
図5は、掃気判定部722が実行する冬判定の処理フローチャートである。気判定部722は、パワースイッチがオンにされるまで待機し、ステップS200で、パワースイッチ730がオンにされると、掃気判定部722は、処理をステップS210に移行する。
【0029】
ステップS210では、掃気判定部722は、特定位置の最低温度Tsminが判定温度Twjよりも低いか否かを判断し、特定位置の最低温度Tsminが判定温度Twjよりも低い場合には、処理をステップS260に移行し、低くない場合には、処理をステップS220に移行する。判定温度Twjは、例えば、純水の氷点である0℃である。判定温度Twjは、0℃より高くても低くてもよい。また、燃料電池100内の水の氷点は、凝固点降下により、純水の氷点より低い場合があるので、こうした場合には、判定温度Twjは、0℃より低くてもよい。
【0030】
ステップS220では、掃気判定部722は、燃料電池システム10の起動時における燃料電池100の出口の冷却水の起動時温度Twsを取得する。ステップS230では、掃気判定部722は、冷却水の起動時温度Twsが判定温度Twjよりも低いか否かを判断し、冷却水の起動時温度Twsが判定温度Twjよりも低い場合には、処理をステップS260に移行し、低くない場合には、処理をステップS240に移行する。
【0031】
ステップS240では、掃気判定部722は、外気温Taを取得する。ステップS250では、掃気判定部722は、外気温Taが判定温度Taj以下か否かを判断し、外気温Taが判定温度Taj以下の場合には、処理をステップS260に移行し、外気温Taが判定温度Tajよりも高い場合には、処理をステップS285に移行する。
【0032】
ステップS260では、掃気判定部722は、冬判定をし、フラグFwを立てる。具体的には、掃気判定部722は、フラグ格納部724に格納するフラグFwを値1とする。ここで、冬判定とは、季節的な条件により車両が特定の環境に置かれていることを総合的に判定する処理である。掃気判定部722は、冬判定をしたときに、フラグFwを値1とする。特に、季節としての「冬」を判定しているのではなく、燃料電池車両の始動条件として、様々な判断と処理を行う場合の総合的な環境条件を判定する処理である。このフラグFwの値は、燃料電池の始動時などの制御において、後述する掃気処理(図6)を始めとし、種々の処理において参照されることがある。
【0033】
ステップS270では、掃気判定部722は、冬判定の解除条件を満たしたか否かを判断する。掃気判定部722は、冬判定の解除条件を満たしている場合には、処理をステップS280に移行し、満たしていない場合には、処理をステップS285に移行する。ここで、冬判定の解除条件は、例えば、外気温Taが5℃以上であり、かつ、車両が時速30km以上で2分以上走行した場合である。外気温Taのみで冬判定の解除を判定していないのは、例えば、車両が暖かい屋内で走行すると、屋外の外気温が低い場合にも冬判定が解除されてしまうからである。車両が時速30km以上で2分以上、屋内を走行する可能性は、低いため、時速30km以上で2分以上走行できる場合は、屋外での走行と判断できるからである。なお、ステップS270からわかるように、掃気判定部722は、走行中の外気温Taを常にモニタしており、冬判定の解除の判定を実施している。
【0034】
ステップS280では、掃気判定部722は、冬判定を解除し、フラグFwを下ろす。具体的には、掃気判定部722は、フラグ格納部724に格納するフラグFwを値0とする。ステップS285では、冬判定されている場合は、冬判定を維持し、冬判定をされていない場合には、冬判定されていない状態を維持する。具体的には、掃気判定部722は、フラグ格納部724に格納するフラグFwの値を維持する。
【0035】
ステップS290で、パワースイッチ730がオフにされると、掃気判定部722は、冬判定処理を終了する。
【0036】
図6は、掃気実行部726が実行する掃気処理のフローチャートである。ステップS300で、パワースイッチ730がオンにされると、掃気実行部726は、処理をステップS310に移行する。
【0037】
ステップS310では、掃気実行部726は、フラグ格納部724からフラグFwの値を取得する。ステップS320では、掃気実行部726は、フラグFwが値1か否かを判定する。掃気実行部726は、フラグFwが値1である場合には、処理をステップS330に移行し、値1でない場合、すなわち値0の場合には、処理をステップS340に移行する。
【0038】
ステップS330では、掃気実行部726は、入口弁340と、調圧弁420とを開弁し、エアコンプレッサ320を駆動し、停止時掃気を実行する。その後、エアコンプレッサ320の駆動を停止し、入口弁340と、調圧弁420とを閉弁する。
【0039】
ステップS340では、制御部700は、燃料電池システムをシャットダウンする。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態では、パワースイッチ730がオフにされた状態で、制御部700は、ソーク中の燃料電池100の出口における冷却水の温度Twの最低温度Tsmin取得しておき、パワースイッチ730がオンにされた状態で冬判定を行い、次回にパワースイッチ730がオフにされたとき、その冬判定の結果を用いて停止時掃気の要否を判定する。そのため、燃料電池システム10の停止中に冷え込む可能性が高い場合においても、停止時掃気を実行できる。
【0041】
本実施形態では、パワースイッチ730がオフにされてから掃気実行部726が停止時掃気を実行し、その後、制御部700が燃料電池システム10をシャットダウンしている。こうすれば、燃料電池システム10の停止中に冷え込む場合においても、燃料電池100内の水が凍る前に掃気できる。なお、パワースイッチ730がオフにされた際には、停止時掃気を実行せずに制御部700が燃料電池システム10をシャットダウンし、シャットダウン後所定時間経過時に、停止時掃気を実行しても良い。
【0042】
本実施形態では、掃気実行部726は、フラグFwが値1の場合に、停止時掃気を実行し、フラグFwが値1でない場合に停止時掃気を実行しないようにしたが、掃気実行部726は、フラグFwが値1の場合に、エアコンプレッサ320の回転数を高めて強い停止時掃気を実行し、フラグFwが値1でない場合にエアコンプレッサ320の回転数を低くして弱い停止時掃気を実行するように、停止時掃気に強弱を変えても良い。
【0043】
本実施形態では、特定位置を 冷却回路500において燃料電池から冷却液が排出される出口としているが、燃料電電池スタック100自身であってもよく、外気温を測定できる位置であってもよい。例えば、外気温センサ360の他、エアコンディショナーの外気温センサから外気温を取得しても良い。
【0044】
本実施形態では、掃気判定部722は、ソーク中の特定位置の最低温度を用いて、停止時掃気の要否を判定しているが、特定位置の温度の遷移を用いて、特定位置の最低温度を推定し、停止時掃気の要否を判定に用いても良い。具体的には、掃気判定部722は、特定位置の温度を3つ以上取得し、外挿することで、最低温度を推定してもよい。
【0045】
上記燃料電池システム10において、燃料電池システム10の起動と停止は、パワースイッチ730への入力に基づいて行われるとして説明したが、他のコントローラーにより、燃料電池システム10の起動と停止行っても良い。
【0046】
上記形態において、最低温度取得部710は通信部740を介して外気温Taを取得する場合、外部のセンターや、自車両の近くの車両から外気温Taを取得してもよい。
【0047】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10…燃料電池システム、100…燃料電池、105…温度センサ、200…燃料ガス供給回路、210…燃料ガスタンク、220…燃料ガス供給管、230…燃料ガス排気管、240…燃料ガス還流管、250…主止弁、260…レギュレーター、270…インジェクタ、280…気液分離器、290…水素ポンプ、300…酸化剤ガス供給回路、310…エアクリーナ、320…エアコンプレッサ、330…酸化剤ガス供給管、340…入口弁、350…大気圧センサ、360…外気温センサ、370…エアフローメータ、380…供給ガス温度センサ、390…供給ガス圧力センサ、400…排ガス回路、410…排ガス管、420…調圧弁、430…燃料ガス排出管、440…排気排水弁、450…酸化剤ガスバイパス管、460…バイパス弁、470…サイレンサー、500…冷却回路、510…冷却水供給管、515…冷却水排出管、520…ラジエータ管、525…ウォーターポンプ、530…ラジエータ、535…ラジエータファン、540…バイパス管、545…三方弁、550…温度センサ、600…負荷回路、605…燃料電池昇圧コンバーター、610…インバーター、620…主駆動モーター、630…DC/DCコンバーター、640…補機、650…二次電池、700…制御部、710…最低温度取得部、712…温度比較部、714…最低温度格納部、720…掃気制御部、722…掃気判定部、724…フラグ格納部、726…掃気実行部、728…ウェイクアップタイマ、730…パワースイッチ、740…通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6