IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関の制御装置 図1
  • 特許-内燃機関の制御装置 図2
  • 特許-内燃機関の制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20240717BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20240717BHJP
   F02D 41/34 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D41/22
F02D41/34 100
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020112314
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2022011285
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河内 陽平
(72)【発明者】
【氏名】松永 英雄
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-112028(JP,A)
【文献】特開2014-224494(JP,A)
【文献】特開2019-127923(JP,A)
【文献】特開2019-173660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一気筒に対して異なる位置から燃料を供給するように配置された複数の燃料噴射部を有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の実空燃比を検出する実空燃比検出部と、
複数の前記燃料噴射部を用いて複数の噴射モードを選択的に切替える燃料噴射制御部と、
を備え、
前記燃料噴射制御部は、
複数の前記噴射モードのうちいずれか一つの噴射モードに対応する前記燃料噴射部の異常を判断する故障判定部を有し、
前記故障判定部によりいずれか一つの噴射モードに対応する前記燃料噴射部に異常がないと判断される場合は、実空燃比に基づいて燃料噴射量を前記噴射モードに関わらずリアルタイムに補正するリアルタイム補正値を演算し、前記噴射モードに関わらず共通の前記リアルタイム補正値を用いて、前記燃料噴射部を制御し、
前記故障判定部によりいずれか一つの噴射モードに対応する前記燃料噴射部に異常があると判断される場合は、前記実空燃比に基づいて燃料噴射量を前記噴射モード別にリアルタイムに補正する噴射モード別補正値を演算し、
前記噴射モードを切替えた場合、切替えた前記噴射モードに対応する前記噴射モード別補正値を用いて、前記燃料噴射部を制御する、
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射制御部は、
各前記噴射モード別補正値を、対応する前記噴射モードに切替えた時点の前記リアルタイム補正値をなまし処理した処理値を用いて演算する、
請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記燃料噴射制御部は、
複数の前記噴射モードのうちいずれか一つに切替えた場合、切替えた前記噴射モードが継続する間、切替える直前の前記噴射モードに対応する前記処理値を維持する、
請求項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射制御部は、目標空燃比を設定し、
各前記噴射モードに対応する前記リアルタイム補正値に基づいて前記目標空燃比と前記実空燃比との定常的な乖離値を学習値として前記燃料噴射部毎に記録し、
前記学習値に基づいて、前記複数の燃料噴射部のいずれか一つが異常であると判断する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記故障判定部は、前記噴射モード別補正値に基づいて前記燃料噴射部の故障を判断する、
請求項1からのいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記燃料噴射制御部は、前記噴射モード別補正値に基づいて前記内燃機関のパージ濃度を推定する、
請求項1からのいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
複数の前記燃料噴射部は、前記内燃機関のポートに燃料を噴射する第1燃料噴射部と、前記内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する第2燃料噴射部と、を含み、
前記燃料噴射制御部は、
前記第1燃料噴射部を用いて燃料を噴射する第1噴射モードと、
前記第1燃料噴射部からの燃料噴射量と第2燃料噴射部からの燃料噴射量が所定の基準噴射比率となるように、燃料を噴射する第2噴射モードと、を選択的に切替える、
請求項1からのいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、噴射形態の異なる複数の燃料噴射部を有する内燃機関の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の内燃機関は、内燃機関のポート内に燃料を噴射するポート噴射弁と、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射弁と、を有する。特許文献1の内燃機関の制御装置は、ポート噴射弁および筒内噴射弁(以下各噴射弁と明細書に記す)のそれぞれを制御し、ポート噴射モードおよび筒内噴射モード(以下各噴射モードと明細書に記す)のいずれかに切替える。
【0003】
また、特許文献1の内燃機関の制御装置は、実空燃比検出部を備え、目標空燃比と実空燃比との差に基づいて比例補正値および積分補正値(特許文献1ではフィードバック積分値K1)を設定する。この設定された比例補正値および積分補正値を用いて、制御装置は、空燃比のフィードバック補正値を演算し、各噴射弁の燃料噴射量を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-173660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような複数の噴射モードを有する内燃機関では、経年劣化等の異常によって各噴射弁の噴射量にバラツキが生じることがある。このようなバラツキが発生すると、噴射モードが切り替わる場合、内燃機関から排出されるガスが悪化するおそれがある。
【0006】
特許文献1の内燃機関の制御装置では、このようなバラツキを抑制するために、各噴射弁の学習値をそれぞれ個別に演算し、更新して記憶する。各噴射弁の学習値は、各噴射モード時の積分補正値に基づいて各噴射弁に対応した学習反映係数を個別に演算し、学習反映係数を遅延処理して求められる。
【0007】
しかし、積分補正値はリアルタイムに演算されるため、上記演算方法では、演算負荷が増すおそれがある。
【0008】
本開示の課題は、演算負荷を減らしながら排ガスの悪化を抑制しやすい内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本開示にかかる内燃機関の制御装置は、同一気筒に対して異なる位置から燃料を供給するように配置された複数の燃料噴射部を有する内燃機関の制御装置である。内燃機関の制御装置は、内燃機関の実空燃比を検出する実空燃比検出部と、複数の燃料噴射部を用いて複数の噴射モードを選択的に切替える燃料噴射制御部と、を備える。燃料噴射制御部は、故障判定部を有する。故障判定部は、複数の噴射モードのうちいずれか一つの噴射モードに対応する燃料噴射部の異常を判断する。燃料噴射制御部は、故障判定部によりいずれか一つの噴射モードに対応する燃料噴射部に異常がないと判断される場合は、実空燃比に基づいて燃料噴射量を前記噴射モードに関わらずリアルタイムに補正するリアルタイム補正値を演算し、噴射モードに関わらず共通のリアルタイム補正値を用いて、燃料噴射部を制御する。燃料噴射制御部は、故障判定部によりいずれか一つの噴射モードに対応する燃料噴射部に異常があると判断される場合は、複数の噴射モードのうちいずれか一つの噴射モードに対応する燃料噴射部が異常であると判断したのち、実空燃比に基づいて燃料噴射量を噴射モード別にリアルタイムに補正する噴射モード別補正値を演算し、噴射モードを切替えた場合、切替えた噴射モードに対応する噴射モード別補正値を用いて、燃料噴射部を制御する。
【0010】
(2)燃料噴射制御部は、噴射モードの切り替えによらず実空燃比に基づいて燃料噴射量をリアルタイムに補正するリアルタイム補正値を演算してもよい。燃料噴射制御部は、異常であると判断する前は、噴射モードに関わらずリアルタイム補正値に基づいて燃料噴射部を制御してもよい。
(3)燃料噴射制御部は、各噴射モード別補正値を、対応する噴射モードに切替えた時点のリアルタイム補正値をなまし処理した処理値を用いて演算してもよい。
(4)燃料噴射制御部は、複数の噴射モードのうちいずれか一つに切替えた場合、切替えた噴射モードが継続する間、切替える直前の噴射モードに対応する処理値を維持してもよい。
(5)燃料噴射制御部は、目標空燃比を設定してもよい。燃料噴射制御部は、各噴射モードに対応するリアルタイム補正値に基づいて目標空燃比と実空燃比との定常的な乖離値を学習値として燃料噴射部毎に記録してもよい。燃料噴射制御部は、学習値に基づいて、複数の燃料噴射部のいずれか一つが異常であると判断してもよい。
(6)燃料噴射制御部は、噴射モード別補正値に基づいて燃料噴射部の故障を判断してもよい。
(7)燃料噴射制御部は、噴射モード別補正値に基づいて内燃機関のパージ濃度を推定してもよい。
【0011】
(8)複数の燃料噴射部は、内燃機関のポートに燃料を噴射する第1燃料噴射部と、内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する第2燃料噴射部と、を含んでもよい。燃料噴射制御部は、第1燃料噴射部を用いて燃料を噴射する第1噴射モードと、第1燃料噴射部からの燃料噴射量と第2燃料噴射部からの燃料噴射量が所定の基準噴射比率となるように、燃料を噴射する第2噴射モードと、を選択的に切替えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、演算負荷を減らしながら排ガスの悪化を抑制しやすい内燃機関の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施形態による内燃機関の制御装置の概要を示す図。
図2】本開示の一実施形態による内燃機関の制御装置の制御手順を示すフローチャート。
図3】本開示の一実施形態による内燃機関の制御装置の制御内容を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、内燃機関1は、同一気筒に対して異なる位置から燃料を供給するように配置された複数の燃料噴射部を有する。本実施形態では、複数の燃料噴射部は、ポート噴射弁(第1燃料噴射部の一例)2と、筒内噴射弁(第2燃料噴射部の一例)3と、を含む。ポート噴射弁2は、内燃機関1のポート4に臨んで配置され、ポート4に燃料を噴射する。筒内噴射弁3は、内燃機関1の燃焼室5に臨んで配置され、燃焼室5に燃料を噴射する。本実施形態の内燃機関1は、スロットル6を有し、ポート噴射弁2、筒内噴射弁3、およびスロットル6によって、吸入空気と燃料量の混合比である空燃比を理論空燃比近傍に調整しながら運転するガソリンエンジンである。
【0015】
内燃機関1の排気菅7には、排気中の空燃比を計測するためのセンサが設けられる。本実施形態の内燃機関1は、第1空燃比センサ8と、第2空燃比センサ9と、を有する。第1空燃比センサ8は、内燃機関1の排気を浄化する排気浄化触媒10の上流側に配置される。第2空燃比センサ9は、排気浄化触媒10の下流側に配置される。第1空燃比センサ8、および第2空燃比センサ9(以下明細書において各空燃比センサと記す)は、排気中の空燃比に応じた信号を出力するセンサであり、例えばリニア空燃比センサ(LAFS)やジルコニア式酸素濃度センサなどである。なお、排気中の空燃比の計測は、かならずしも上記の各空燃比センサを用いる必要なく、例えば、一つの酸素濃度センサによって計測してもよいし、その他の既知の技術を用いてもよい。
【0016】
内燃機関1の制御装置20は、実空燃比検出部21と、燃料噴射制御部22と、故障判定部23と、を備える。内燃機関1の制御装置20は、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。制御装置20は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、内燃機関1が、所望の運転状態となるように各装置を制御する。また、実空燃比検出部21、燃料噴射制御部22、および故障判定部23は、制御装置20に記憶されるソフトウェアによって実現される機能構成である。しかし、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。
【0017】
実空燃比検出部21は、各空燃比センサから信号を取得するとともに、取得した信号を演算処理して燃焼室5内の実際の空燃比に相当する実空燃比AFrを検知する。
【0018】
燃料噴射制御部22は、複数の燃料噴射部を組み合わせた複数の噴射モードを選択的に切替える。本実施形態の複数の噴射モードは、ポート噴射弁2を用いるポート噴射モード(第1噴射モードの一例、以下明細書および図面においてMPIモードと記す)と、筒内噴射弁3を用いる筒内噴射モード(第2噴射モードの一例、以下と明細書および図面においてDIモードと記す)と、を含む。
【0019】
燃料噴射制御部22は、MPIモードにおいてポート噴射弁2からのみ燃料を噴射する。一方、燃料噴射制御部22は、DIモードにおいてポート噴射弁2からの燃料噴射量と、筒内噴射弁3からの燃料噴射量が所定の基準噴射比率Rとなるように、燃料を噴射する。燃料噴射制御部22は、これら複数の噴射モードを内燃機関1の回転数や負荷などの運転状態に応じて予め設定されたマップに基づいて切替える。なお、所定の基準噴射比率Rは、内燃機関1の回転数や負荷などの運転状態に応じて変更してもよい。
【0020】
燃料噴射制御部22は、各噴射モードにおいて燃料噴射部の燃料噴射量の基準となる基準燃料噴射量Ftを演算する。本実施形態では、基準燃料噴射量Ftは、内燃機関1に要求される要求トルクに基づいて演算する。しかし、基準燃料噴射量Ftは、内燃機関1の運転状態に応じて予め設定された値であってもよい。燃料噴射制御部22は、基準燃料噴射量Ftに対し各噴射モードにおける基準噴射比率Rを乗算し、各燃料噴射部の燃料噴射量を演算する。本実施形態では、燃料噴射制御部22は、MPIモードでは基準燃料噴射量Ftの全量をポート噴射弁2の燃料噴射量であるポート燃料噴射量Ftmに振り分ける。燃料噴射制御部22は、DIモードでは基準燃料噴射量Ftに基準噴射比率Rを乗算し、ポート燃料噴射量Ftm、および筒内噴射弁3の燃料噴射量である筒内燃料噴射量Ftdを演算する。
【0021】
故障判定部23は、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3の故障を判定する。本実施形態では、故障判定部23は、後述するポート噴射弁2の学習値KLi、および筒内噴射弁3の学習値KLdのいずれか一方、または両方が第1所定期間T1の間、上限値に張り付いた状態となった場合、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3のいずれか一方、または両方に異常があると判定する。
【0022】
次に、図2のフローチャートおよび図3のタイミングチャートを用いて、制御装置20の燃料噴射制御部22および故障判定部23が行う空燃比フィードバック制御(以下明細書および図面においてフィードバックを単にF/Bと記す)の制御手順について説明する。制御装置20は、イグニッションをオンし、空燃比F/Bが可能な運転状態(図3のt=t0、ストイキF/Bが成立の状態)となると制御手順を開始する。
【0023】
なお、本実施形態の燃料噴射制御部22は、実空燃比と目標空燃比との差に応じて設定される比例補正値および積分補正値を用いるPI制御によって空燃比F/B制御を行う。PI制御の詳細については、公知の技術であるため説明を省略する。また、制御装置20は、内燃機関1の運転状態に応じて目標空燃比AFtを設定するが、目標空燃比AFtの設定については、特許文献1の制御装置と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
ステップS1では、燃料噴射制御部22は、実空燃比AFrと目標空燃比AFtの差分を所定の演算周期時間によって積分した積分補正値に基づいて、リアルタイム補正値Kiを演算する。リアルタイム補正値Kiは、空燃比F/B制御中は常時演算されるため、目標空燃比AFtに対する実空燃比AFrの差分を、燃料噴射量にリアルタイムに反映することができる。本実施形態では、リアルタイム補正値Kiは、積分補正値に対し1を加算した値であり、基準燃料噴射量Ftに対し乗算するためのF/B学習補正係数(特許文献1では学習反映係数)として機能する。
【0025】
ステップS2では、リアルタイム補正値Kiに対し燃料噴射以外の燃焼寄与分を除いた正味リアルタイム補正値Krを演算する。燃料噴射以外の燃焼寄与分とは、内燃機関1のオイルによって希釈化された燃料が内燃機関1の暖機により蒸発した燃料である。したがって、正味リアルタイム補正値Krは、リアルタイム補正値Kiに対して遅延する方向にオフセットする。
【0026】
ステップS3では、燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiに基づいて目標空燃比AFtと実空燃比AFrとの定常的な乖離値を、学習値KLとして燃料噴射部毎に記録する。すなわち、学習値KLはポート噴射弁2用(MPI用)学習値KLiと、筒内噴射弁3用(DI用)学習値KLdと、を含む。燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiをなまし処理した値に所定係数を乗算することで、リアルタイム補正値Kiの一部値を定常的な乖離値として学習値KLに取り込み加算する。
【0027】
本実施形態では、筒内噴射弁3の燃料噴射量が経年劣化等によって著しく減少した場合の例を用いて、MPI用学習値KLiおよびDI用学習値KLdの演算方法についてより詳しく説明する。図3のt=t1からt=t2のリアルタイム補正値Kiのグラフに示すように、DIモードにおいて、筒内噴射弁3の燃料噴射量が減少しているため、実空燃比がリーンになる。この結果、リアルタイム補正値Kiがリッチ側に上昇する。このとき、図3のt=t1からt=t2のDI用学習値KLdのグラフに示すように、DIモードにおいて燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiの上昇分をDI用学習値KLdにのみに取り込み加算する。図3のt=t2からt=t3の間のMPI用学習値KLiのグラフに示すように、MPIモードにおいて燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiが上昇する場合、リアルタイム補正値Kiの上昇分をMPI用学習値KLiのみに取り込み加算する。また、リアルタイム補正値Kiがリーン側に下降する場合、燃料噴射制御部22は、MPIモードにおいては、MPI用学習値KLiを減算し、DIモードにおいては、DI用学習値KLdを減算する。
【0028】
燃料噴射制御部22は、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3のいずれか一方が異常、すなわち故障の可能性があると判断するまで、噴射モードに関わらず、リアルタイム補正値Kiに基づいてポート噴射弁2および筒内噴射弁3のいずれか一方、または両方を制御する。
【0029】
すなわち、MPIモードにおいて燃料噴射制御部22は、基準燃料噴射量Ftにリアルタイム補正値KiとMPI用学習値KLiを乗算してポート噴射弁2のポート燃料噴射量Ftmを演算する。燃料噴射制御部22は、演算結果をパルス信号に変換してポート噴射弁2に送信しポート噴射弁2を制御する。
【0030】
一方、DIモードにおいて燃料噴射制御部22は、基準燃料噴射量Ftにリアルタイム補正値Kiおよび基準噴射比率Rを乗算して、基準ポート燃料噴射量Ftmb、および基準筒内燃料噴射量Ftdbを演算する。燃料噴射制御部22は、基準ポート燃料噴射量FtmbにMPI用学習値KLiを乗算して、ポート燃料噴射量Ftmを演算する。また、燃料噴射制御部22は、基準筒内燃料噴射量FtdbにDI用学習値KLdを乗算して、筒内燃料噴射量Ftdを演算する。燃料噴射制御部22は、演算結果をパルス信号に変換してポート噴射弁2および筒内噴射弁3のそれぞれに送信しポート噴射弁2および筒内噴射弁3を制御する。
【0031】
このような演算処理によって、燃料噴射制御部22は、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3用のリアルタイム補正値Kiをそれぞれ個別に記録、更新する必要が無く、演算処理が少なくなる。また、MPIモードとDIモードとが切り替わった際の燃料噴射量の大きな変動を抑制でき、エンジントルクや回転数の急変を抑えることができる。
【0032】
しかし、筒内噴射弁3が劣化し燃料噴射量が著しく減少する一方、ポート噴射弁2は正常であるような場合、MPIモードであってもDIモードにおけるリアルタイム補正値Kiに引きずられる。すなわち、図3のt=t2におけるリアルタイム補正値Kiの破線のグラフに示すように、燃料噴射制御部22が噴射モードをDIモードからMPIモードに切替え、筒内噴射弁3が停止したにもかかわらず、図3のt=t2からt=3のリアルタイム補正値KiがDIモード時の値に引きずられリッチ側に振れる。このため、リアルタイム補正値KiがMPIモードにおける適正値に収束するまでの時間(以下収束時間と明細書に記す)が長い。この結果、この収束時間中の排ガスが悪化する。
【0033】
さらに、MPIモード時に加算されるMPI用学習値KLiも上昇し、ポート噴射弁2は故障していないのにもかかわらず、故障判定部23が故障していると誤判定するおそれもある。
【0034】
そこで、制御装置20は、以下のステップS4からステップS20までの制御手順を行う。
【0035】
ステップS4およびステップS5では、燃料噴射制御部22は、噴射モード別処理値を演算する。本実施形態では、噴射モード別処理値は、モード別リアルタイム補正フィルタ値(以下モード別RTF値と明細書に記す)Kfと、正味モード別リアルタイム補正フィルタ値(以下モード別正味RTF値と明細書に記す)Kfrと、を含む。噴射モード別処理値は、リアルタイム補正値Ki、または正味リアルタイム補正値Krを、例えば一次ローパスフィルタや移動平均処理などのなまし処理した値である。具体的には、ステップS4では、燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiのなまし処理演算を行い、モード別RTF値Kfを算出する。ステップS5では、燃料噴射制御部22は、正味リアルタイム補正値Krをなまし処理演算を行い、正味モード別RTF値Kfrを算出する。
【0036】
また、燃料噴射制御部22は、噴射モード別処理値を、各噴射モード別に演算する。すなわち、図3に示すように、噴射モード別処理値は、MPIモード用RTF値Kfi(第1噴射モード処理値の一例)、DIモード用RTF値Kfd(第2噴射モード処理値の一例)、MPIモード用正味RTF値Kfri、およびDIモード用正味RTF値Kfrdの4つを含む。このうち、MPIモード用RTF値Kfi、DIモード用RTF値Kfdは、燃料噴射部を制御する際に用いる。MPIモード用正味RTF値Kfri、およびDIモード用正味RTF値Kfrdは後述するパージ濃度推定に用いる。
【0037】
図3のタイミングチャートのt=0からt=t4までの期間の各噴射モード別処理値のグラフに示すように、燃料噴射制御部22は、複数の噴射モードのうちいずれか一つに切替えた場合、切替えた噴射モードが継続する間、切替える前の噴射モードの処理値を、噴射モードが切替わる直前の値に維持する。
【0038】
本実施形態では、図3のt=0からt=t1、およびt=t2からt=t3までの間は、MPIモードである(図3の噴射モードのグラフ参照)。この間、燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiおよび正味リアルタイム補正値Krをなまし処理し、MPIモード用RTF値KfiおよびMPIモード用正味RTF値Kfriを更新し記録する。一方、燃料噴射制御部22は、DIモード用RTF値KfdおよびDIモード用正味RTF値Kfrdの値を、t=t0またはt=2における処理値に維持する。
【0039】
また、図3のt=t1からt=t2、およびt=t3からt=t4までの間は、DIモードである。この間、燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Kiおよび正味リアルタイム補正値Krをなまし処理し、DIモード用RTF値KfdおよびDIモード用正味RTF値Kfrdを更新し記録する。一方、燃料噴射制御部22は、MPIモード用RTF値KfiおよびMPIモード用正味RTF値Kfriの値を、t=t1またはt=t3における処理値に維持する。
【0040】
図2に示すように、ステップS6では、燃料噴射制御部22は、ポート噴射弁2が異常か否か判断する。本実施形態では、燃料噴射制御部22は、MPIモードにおいてMPI用学習値KLiが第1所定期間T1よりも短い第2所定期間T2の間、上限値に張り付いた状態か否かによって、ポート噴射弁2が異常か否か判断する。燃料噴射制御部22は、ポート噴射弁2に異常が無いと判断した場合(ステップS6 NO)、ステップS7に処理を進める。
【0041】
ステップS7では、燃料噴射制御部22は、DIモードが異常か否か判断する。本実施形態では、燃料噴射制御部22は、DIモードにおいてMPI用学習値KLiが上限値に張り付いた状態か否かによって、ポート噴射弁2が異常か否か判断する。燃料噴射制御部22は、ポート噴射弁2に異常があると判断した場合(ステップS7 YES)、図3のt=t1の学習値張り付き判定のグラフに示すように、学習値張り付き判定フラグを成立させて、ステップS8に処理を進める。
【0042】
図2に示すように、ステップS8では、燃料噴射制御部22は、DIモードからMPIモードに切替えるか否か判断する。燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替える場合(S8 Yes)、ステップS9に処理を進める。
【0043】
ステップS9では、燃料噴射制御部22は、MPIモード用RTF値Kfiを取得し、リアルタイム補正値KiをMPIモード用RTF値Kfiにリセットする(t=t2のA地点参照)。燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えると、MPIモード用RTF値KfiからMPIモード用リアルタイム補正値Ki1(噴射モード別補正値、および第1噴射モード用補正値の一例)の演算を開始する。すなわち、図3のt=t2時点のMPIモード用リアルタイム補正値Ki1の実線グラフが示すように、燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えた時点においては、MPIモード用RTF値Kfiを用いて、ポート噴射弁2を制御する。
【0044】
図2に示すように、ステップS10では、燃料噴射制御部22は、MPIモード用正味RTF値Kfriを取得し、正味リアルタイム補正値KrをMPIモード用正味RTF値Kfriにリセットする(t=t2のC地点参照)。燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えると、MPIモード用正味RTF値KfriからMPIモード用正味リアルタイム補正値Kr1の演算を開始する。ステップS11では、燃料噴射制御部22は、MPIモード用正味リアルタイム補正値Kr1を基準値として、パージ導入時のパージ濃度を推定する。本実施形態では、パージ非導入時のMPIモード用正味RTF値KfriとMPI用学習値KLiを合わせた値を基準値として、パージ導入時のMPIモード用リアルタイム補正値Ki1の変化量をパージ濃度分として演算する。なお、燃料噴射系の異常を検知していない場合は、パージ濃度は、パージ非導入時に実施される各噴射系の学習値KLi、KLdを基準とし、パージ導入時のリアルタイム補正値Kiの変化量をパージ濃度分として演算する。
【0045】
ステップS12では、燃料噴射制御部22は、DIモードに切替えるか否か判断する。燃料噴射制御部22は、DIモードに切替えない場合(ステップS12 NO)、S13に処理を進める。
【0046】
ステップS13では、燃料噴射制御部22は、リアルタイム補正値Ki、MPIモード用リアルタイム補正値Ki1、および後述するDIモード用リアルタイム補正値Ki2の値をなまし処理し、故障判定用フィルタ値Kfоを演算する。故障判定用フィルタ値Kfоは、ポート噴射弁2、または筒内噴射弁3の異常後に演算された、MPIモード用リアルタイム補正値Ki1、DIモード用リアルタイム補正値Ki2の処理値が含まれる。このため、リアルタイム補正値Kiのみによって故障判定を行う場合に発生するリアルタイム補正値Kiの収束時間に起因した誤判定を防止しやすい。燃料噴射制御部22は、故障判定用フィルタ値Kfоを演算したのち、ステップS14に処理を進める。
【0047】
ステップS14では、故障判定部23は、故障判定用フィルタ値Kfоに基づいてポート噴射弁2、または、筒内噴射弁3の故障を判定する。故障判定部23は、故障と判定する場合(ステップS14 YES)は、S15に処理を進めて故障判定フラグを立てて、図示しないメータパネルに警告灯を点灯させて処理を終了する。一方、故障判定部23は、故障と判定しない場合(ステップS14 NO)、処理をステップS6に戻し、燃料噴射制御部22が異常の判定フラグを消すまで、または故障判定部23が故障を判定するまで、処理を続ける。異常の判定フラグは、例えばイグニッションスイッチがOFFになった際に削除される。
【0048】
燃料噴射制御部22は、ステップS6においてポート噴射弁2が異常であると判断した場合、ステップS16に処理を進める。燃料噴射制御部22は、ステップS16では、DIモードに切替えるか否か判断し、DIモードに切替える場合(ステップS16 YES)、ステップS17に処理を進める。一方、燃料噴射制御部22は、DIモードに切替えない場合、S14の前に処理を進める。
【0049】
燃料噴射制御部22は、ステップS7において筒内噴射弁3に異常が無い場合、処理をステップS1に戻し、リアルタイム補正値Kiを用いて各燃料噴射部を制御する。また、ステップS8において、MPIモードに切替えない場合(ステップS8 NO)、ステップS14に処理を進め、筒内噴射弁3の学習値KLdが上限値に張り付いた状態かつ故障判定用フィルタ値Kfоが閾値を超えた状態が第1所定期間T1継続した場合、故障と判定する。また、燃料噴射制御部22は、ステップS16において、DIモードに切替えない場合(ステップS16 NO)、ステップS14に処理を進め、ポート噴射弁2の学習値KLiが上限値に張り付いた状態かつ故障判定用フィルタ値Kfоが閾値を超えた状態が第1所定期間T1継続した場合、故障と判定する。
【0050】
また、燃料噴射制御部22は、DIモードに切替える場合(ステップS12 YES)、S17に処理を進める。
【0051】
ステップS17では、燃料噴射制御部22は、DIモード用RTF値Kfdを取得し、リアルタイム補正値KiをDIモード用RTF値Kfdにリセットする(図3のt=t3のB地点参照)。燃料噴射制御部22は、ステップS17においてDIモードに切替えると、DIモード用RTF値KfdからDIモード用リアルタイム補正値Ki2(噴射モード別補正値、および第2噴射モード補正値の一例)の演算を開始する。すなわち、図3のt=t3のDIモード用リアルタイム補正値Ki2が示すように、燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えた時点(t=t3)においては、DIモード用RTF値Kfdを用いて、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3を制御する。
【0052】
燃料噴射制御部22は、ステップS18に処理を進め、DIモード用正味RTF値Kfrdを取得し、正味リアルタイム補正値Kr(ステップS12を経由した場合は、MPIモード用正味リアルタイム補正値Kr1)をDIモード用正味RTF値Kfrdにリセットする(t=t3のD地点参照)。燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えると、DIモード用正味RTF値KfrdからDIモード用正味リアルタイム補正値Kr2の演算を開始する。ステップS19では、燃料噴射制御部22は、DIモード用正味リアルタイム補正値Kr2を基準値として、パージ導入時のパージ濃度を推定する。
【0053】
燃料噴射制御部22は、ステップS20に処理を進め、MPIモードに切替えるか否か判断する。燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替える場合、ステップS9に処理を進める。一方、燃料噴射制御部22は、MPIモードに切替えない場合、ステップS13に処理を進める。
【0054】
このように構成された内燃機関1の制御装置20では、燃料噴射制御部22は、筒内噴射弁3の異常が判断されたのち、MPIモードに切替えた場合、リアルタイム補正値KiをMPIモード用RTF値Kfiに切替え、MPIモード用リアルタイム補正値Ki1の演算を開始する。これによって、図3のt=t2からt=t3の間のMPIモードにおけるリアルタイム補正値Kiの実線グラフが示すように、本実施形態の空燃比F/B制御を用いないリアルタイム補正値Ki(破線グラフ参照)に比べ、MPIモードにおけるポート噴射弁の噴射量を適切に補正できる。この結果、LAFS値(実空燃比AFrに相当)の実線グラフに示すように、実空燃比AFrが本実施形態の空燃比F/B制御を用いないLAFS値(破線グラフ参照)に比べ、実空燃比AFrの収束時間が短い。この結果、収束時間中の排ガスが良くなる。
【0055】
さらに、上記期間のMPI用学習値KLiの実線グラフに示すように、本実施形態の空燃比F/B制御を用いない場合(破線参照)に比べ、MPI用学習値KLiの誤学習を抑制しやすい。この結果、故障判定部23による誤判定を抑制しやすい。
【0056】
また、本実施形態による内燃機関1の制御装置20によれば、ポート噴射弁2、または筒内噴射弁3のいずれか一方が異常となるまでは、複数の噴射モード毎にリアルタイム補正値Kiを演算し、更新し記録する必要が無い。これによって、特許文献1の制御装置のように、複数の噴射モード毎にリアルタイム補正値Ki(学習反映係数)を常に更新し記録する場合に比べ、制御装置20の演算が少なくなる。
【0057】
また、ポート噴射弁2、または筒内噴射弁3のいずれか一方が異常となるまでは、噴射モードが切り替えられてもリアルタイム補正値Kiに基づいて燃料噴射量が補正されるため、ポート噴射弁2、筒内噴射弁3に異常がない場合は燃料噴射量の大きな変動を抑制することができる。
【0058】
以上説明した通り、本開示によれば、演算負荷を減らしながら排ガスの悪化を抑制できる内燃機関1の制御装置20を提供することができる。
【0059】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0060】
(a)上記実施形態では、複数の燃料噴射部は、ポート噴射弁2と、筒内噴射弁3と、を例に用いて説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。複数の燃料噴射部は、ポート噴射弁を一つの吸気ポートに対して異なる位置に2つ設けてもよいし、筒内噴射弁を一つの燃焼室に対して異なる位置に2つ設けてもよい。また、燃料噴射部は一つの気筒に対して少なくとも2つ以上の異なる位置から燃料を供給するものであればよい。
【0061】
(b)上記実施形態では、DIモードにおいて、ポート噴射弁2および筒内噴射弁3の両方を用いて燃料噴射を行う例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。DIモードにおいて基準噴射比率を、ポート噴射弁2をゼロとし、筒内噴射弁3を100としてもよい。このような場合、筒内噴射弁3からのみ燃料が噴射される。
【符号の説明】
【0062】
1:内燃機関
2:ポート噴射弁(燃料噴射部、第1燃料噴射部の一例)
3:筒内噴射弁(燃料噴射部、第2燃料噴射部の一例)
4:ポート,5:燃焼室
20:制御装置,21:実空燃比検出部,22:燃料噴射制御部
AFt:目標空燃比,AFr:実空燃比
KL:学習値,KLd:DI用学習値,KLi:MPI用学習値
Kf:モード別RTF値(処理値の一例)
Kfd:DIモード用RTF値(噴射モード別処理値の一例)
Kfi:MPIモード用RTF値(噴射モード別処理値の一例)
Ki:リアルタイム補正値
Ki1:MPIモード用リアルタイム補正値(噴射モード別補正値、第1噴射モード補正値の一例)
Ki2:DIモード用リアルタイム補正値(噴射モード別補正値、第2噴射モード補正値の一例)
図1
図2
図3