(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/08 20060101AFI20240717BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20240717BHJP
C07C 67/52 20060101ALI20240717BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C07C67/08
C07C69/54 B
C07C67/52
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020117186
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】原 脩人
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-106749(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015055(WO,A1)
【文献】特公昭48-011084(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下、絶対圧力20kPa以上65kPa以下の減圧下で反応させてヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートと副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートとを含有する反応溶液を調製する工程、及び前記反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで粗結晶を調製する工程を含むことを特徴とするヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項2】
仕込みの二価フェノール類に対する、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの生成率が40~65モル%になった時点で、絶対圧力80kPa以上101kPa以下に保持する工程をさらに有する、請求項1に記載のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項3】
二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下で反応させる際に、仕込みの二価フェノール類100質量部に対して0.1~1.0質量部の還元剤を加える、請求項1~2のいずれか一項に記載のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレジスト用樹脂の原料として好適に使用できるヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール性水酸基を有するヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートは、共重合により重合体中にフェノール性水酸基を簡便に導入することができ、得られる重合体はポジ型レジスト用樹脂として良好な特性を示すことから半導体用途やディスプレイ用途等、幅広く用いられている。近年の電子デバイスの小型化、高機能化、ディスプレイの高精細化に対応するため、レジスト用樹脂の原料モノマーにおいても着色の低減や不純物含有量の低減といった高純度化が求められている。
【0003】
ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの合成では、二価フェノール類を原料として(メタ)アクリレート化合物と反応させるため、副生成物としてフェニレンジ(メタ)アクリレートが生成する。また反応時に赤褐色に着色しやすいことから、レジスト用樹脂の原料として使用するためには、副生成物および着色成分の除去が必須であるが、収率が大きく低下する場合があった。
【0004】
ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法としては、特許文献1に二価フェノール類と(メタ)アクリル酸無水物を反応させる方法が開示されており、反応後に水洗、トルエンおよびヘキサンを用いて再沈殿を繰り返すことで、純度99.6%のp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを収率52.5%で得られることが示されている。
また特許文献2および特許文献3には二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とを強酸存在下で反応させる方法が開示されている。特許文献2では、反応後にアルカリ水洗、酸水洗、10%硫酸ナトリウム水洗、再結晶することで、ハイドロキノン0.2%、ジエステル体0.4%、残メタノール0.6%が残存したp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを白色針状結晶として収率43.3%で得られることが示されている。特許文献3では、反応後にメチルシクロヘキサンでの洗浄、および水洗をそれぞれ繰り返すことで、純度99.7%でわずかに着色したp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを収率32.5%で得られることが示されている。
【0005】
これら製造方法でヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを得ることはできるものの、特許文献1では高価な(メタ)アクリル酸無水物を使用するため工業的に有利な方法とは言えない。特許文献2では、残存するハイドロキノン、ジエステル体、メタノール量が高く、純度の面で満足できるものとは言えない。特許文献3では、32.5%の収率でわずかに着色したp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを得ているが、着色の少ないp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを得ることは出来ていない。このようにこれら製造方法では着色および副生成物の少ないp-ヒドロキシフェニルメタクリレートを工業的に有利に得ているとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-204448号公報
【文献】特開2007-106749号公報
【文献】再表2013/015055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、着色および副生成物含有量が少ない高純度のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを工業的に有利に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、二価フェノール類と(メタ)アクリル酸からヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを製造するにあたり、特定範囲の絶対圧力下においてメタンスルホン酸の存在下で反応を行い、さらに反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで粗結晶を析出させ精製することにより、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[3]に関する。
【0009】
[1]二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下、絶対圧力20kPa以上65kPa以下の減圧下で反応させてヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートと副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートとを含有する反応溶液を調製する工程、及び前記反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで粗結晶を調製する工程を含むことを特徴とするヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
[2]仕込みの二価フェノール類に対する、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの生成率が40~65モル%になった時点で、絶対圧力80kPa以上101kPa以下に保持する工程をさらに有する、上記[1]に記載のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
[3]二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下で反応させる際に、仕込みの二価フェノール類100質量部に対して0.1~1.0質量部の還元剤を加える、上記[1]~[2]のいずれかに記載のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、着色および副生成物含有量が少なく、高純度なヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、さらに詳しく記述する。
本発明のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの製造方法は、二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下、絶対圧力20kPa以上65kPa以下の減圧下で反応させてヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートと副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートとを含有する反応溶液を調製し、さらに前記反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで粗結晶を調製することを特徴とする。
なお、本発明において(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0012】
本発明において二価フェノール類とは、1つのベンゼン環に2個のヒドロキシル基を有する化合物をいう。具体的にはヒドロキノン、レゾルシン、カテコールである。また、これらの化合物について、炭素数1~4のアルキル基やアルコキシ基等の置換基を有していてもよい。
【0013】
二価のフェノール類としては、具体的には、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、2-メチルヒドロキノン、2-エチルヒドロキノン、2-n-プロピルヒドロキノン、2-イソプロピルヒドロキノン、2-n-ブチルヒドロキノン、2-sec-ブチルヒドロキノン、2-tert-ブチルヒドロキノン、2-メチルレゾルシン、2-エチルレゾルシン、2-n-プロピルレゾルシン、2-イソプロピルレゾルシン、2-n-ブチルレゾルシン、2-sec-ブチルレゾルシン、2-tert-ブチルレゾルシン、4-メチルレゾルシン、4-エチルレゾルシン、4-n-プロピルレゾルシン、4-イソプロピルレゾルシン、4-n-ブチルレゾルシン、4-sec-ブチルレゾルシン、4-tert-ブチルレゾルシン、5-メチルレゾルシン、5-エチルレゾルシン、5-n-プロピルレゾルシン、5-イソプロピルレゾルシン、5-n-ブチルレゾルシン、5-sec-ブチルレゾルシン、5-tert-ブチルレゾルシン、3-メチルカテコール、3-エチルカテコール、3-n-プロピルカテコール、3-イソプロピルカテコール、3-n-ブチルカテコール、3-sec-ブチルカテコール、3-tert-ブチルカテコール、4-メチルカテコール、4-エチルカテコール、4-n-プロピルカテコール、4-イソプロピルカテコール、4-n-ブチルカテコール、4-tert-ブチルカテコール、3-メトキシカテコール、メトキシレゾルシン、メトキシヒドロキノン等が例示され、入手容易なことから、ヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2-メチルヒドロキノン、2-tert-ブチルヒドロキノン、2-メチルレゾルシン、5-メチルレゾルシン、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、4-tert-ブチルカテコール、3-メトキシカテコール、メトキシヒドロキノンが好ましく、ヒドロキノンが特に好ましい。
【0014】
本発明において用いられる(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸である。本発明に用いられるメタンスルホン酸は、水溶液として用いてもよい。
【0015】
〔エステル化反応〕
本発明における最初の工程は、二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とをメタンスルホン酸の存在下でエステル化反応させて、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートと副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートとを含有する反応溶液を調製する工程である。メタンスルホン酸は、上記エステル化反応の触媒として機能する。
本発明において、二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させる際のモル比は、二価フェノール類1.0モルに対し、(メタ)アクリル酸が好ましくは2.0~5.0モル、より好ましくは2.0~4.0モルであり、さらに好ましくは2.5~3.5モルである。二価フェノール類1.0モルに対し、(メタ)アクリル酸が2.0モル以上であると、二価フェノール類の溶解性が良好となる。また(メタ)アクリル酸が5.0モル以下の場合は、フェニレンジ(メタ)アクリレートの生成量が減少し、また仕込み量に対する収量の割合が高くなり、製造効率が向上するため好ましい。
【0016】
二価フェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させる際のメタンスルホン酸の使用量は二価フェノール類100質量部に対して4~15質量部が好ましく、6~10質量部がより好ましい。メタンスルホン酸の使用量が4質量部以上であると、反応が進行し易くなり、15質量部以下であると、最終精製物の着色を抑制しやすくなる。
【0017】
本発明においてエステル化反応には、溶剤を使用してもよく、溶剤としてはトルエン又はキシレンが好ましい。これら溶剤を使用することで、縮合水を効率的に除去することができ、反応時間を短縮し製造効率を上げることができる。溶剤の使用量は二価フェノール類100質量部に対して5~40質量部であることが好ましく、10~30質量部であることがより好ましい。
【0018】
本発明ではエステル化反応時に、反応時の着色成分の抑制を行う観点から、還元剤を加えることが好ましい。還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウムなどが挙げられ、亜硫酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好ましく、次亜リン酸ナトリウムがより好ましい。還元剤の使用量は仕込みの二価フェノール類100質量部に対して0.1~1.0質量部が好ましく、0.2~0.5質量部がより好ましい。還元剤の使用量が0.1質量部以上であると、反応溶液の着色を抑制でき、1.0質量部以下
であると、反応効率の低下を抑制できる。
【0019】
エステル化反応はメタンスルホン酸の存在下、好ましくは100~140℃で、より好ましくは120~130℃で、1~24時間程度で行うことが好ましい。反応温度を100℃以上とすると、反応が進行し易くなる。また、反応温度が140℃以下であると、反応溶液の着色を抑制できる。
【0020】
反応を進行させるためには、減圧で加熱還流する方法が好ましい。好ましくは減圧度としては絶対圧力で20kPa以上65kPa以下であり、より好ましくは25kPa以上40kPa以下である。減圧度が65kPa以下であると、水の除去が進みやすくなる。また、減圧度が20kPa以上であると、(メタ)アクリル酸の留去量が少なくなり、ゲル化や着色成分の生成を抑制できる。
これらのことから、120~130℃で、25kPa以上40kPa以下で反応させることが特に好ましい。
水の除去は、反応開始とともに加熱還流させることで行っても良く、任意の反応率となってから加熱還流を開始することで行っても良い。製造時間の観点から、反応開始とともに加熱還流させることが好ましい。
反応の初期段階は未反応の二価フェノール類が大量に存在し、エステル化反応を継続して進行させると、副生成物としてフェニレンジ(メタ)アクリレートの生成量が増加し、反応溶液が著しく着色する。未反応の二価フェノール類、及び副生成物は精製により除去することが必要である。この観点から、仕込みの二価フェノール類に対する、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの生成率が40~65モル%になった時点で反応を終えることが好ましく、45~60モル%がより好ましく、50~55モル%が特に好ましい。
反応系内の減圧度を絶対圧力で80kPa以上101kPa以下に保持することにより、加熱還流を停止させて、反応を終了することができる。
【0021】
ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの生成率(モル%)は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて式(1)から算出した値である。式(1)において、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート(A)、二価フェノール類(B)、フェニレンジ(メタ)アクリレート(C)のそれぞれのGC面積率は、GC測定における(A)、(B)、(C)のピーク面積の合計に対する各成分のピーク面積の百分率を計算して求められる。
【0022】
【0023】
反応中は重合を防止する目的で、重合禁止作用を有するガスを吹き込んだり、重合禁止剤を適宜使用したりすることができ、重合禁止作用を有するガスを吹き込むことが好ましい。重合禁止剤は公知のものが使用でき、重合禁止作用を有するガスとしては空気や酸素/窒素混合ガスが挙げられる。重合禁止作用を有するガスを吹き込む方法としては、反応槽の気相に吹き込む方法や、液相に吹き込む方法が挙げられる。吹き込む流量は、重合を防止できる量であれば特に限定はしないが、例えば空気の場合は、1Lの反応槽に対して、5.0~15.0mL/minの量で良い。
【0024】
さらに、式(1)で算出した(A)成分の生成率が40~65モル%になった時点で、反応系内の減圧度を絶対圧力で80kPa以上101kPa以下に緩めて保持する工程で、反応を終了させることにより、副生成物含有量が少ない高純度のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを工業的に有利に製造することができる点で好ましい。
反応後の溶液には、未反応の二価フェノール類、未反応の(メタ)アクリル酸、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、及び副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートおよび着色成分が含まれている。
反応を終了した後は、メタンスルホン酸を塩基性物質で中和することが好ましく、中和剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等が使用でき、入手の容易さからトリエチルアミンが好ましい。
以上のように、エステル化反応により、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートと副生成物であるフェニレンジ(メタ)アクリレートとを含有する反応溶液が調製される。
【0025】
〔粗結晶化〕
エステル化反応を行った後に、得られた反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで粗結晶を調製する工程を行う。
反応溶液または中和した反応溶液に脂肪族炭化水素溶媒を加えることで、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを主成分とする粗結晶を析出させ、粗結晶を含むスラリー液を公知の方法でろ過することで、粗結晶を得る。本工程により、副生成物のフェニレンジ(メタ)アクリレートを除去するとともに、最終的に得られるヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの収量を増加させることができる。
【0026】
脂肪族炭化水素溶媒を加える反応溶液温度としては40~90℃が好ましく60~90℃がより好ましい。反応溶液が40℃以上だと、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを主成分とする粗結晶中に含まれる副生成物のフェニレンジ(メタ)アクリレートおよび着色成分の除去ができるため、着色および副生成物の少ない高純度のヒドロキシフェニルメタクリレートができるためより好ましい。
【0027】
脂肪族炭化水素溶媒としては、直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えば、ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、2,2-ジメチルブタン、へプタン、オクタン、ノナンが挙げられ、ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、2,2-ジメチルブタン、ヘプタンが好ましく、ヘキサン、ヘプタンがより好ましい。脂肪族炭素水素溶媒量としては、反応前の二価フェノール類100質量部に対して、30~150質量部が好ましく、40~100質量部がより好ましく、50~70質量部が特に好ましい。脂肪族炭化水素溶媒量を本範囲とすることで、着色成分の低減ができる。
【0028】
〔粗結晶の洗浄〕
得られた粗結晶に対して、脂肪族炭化水素溶媒による洗浄、及び水による洗浄を行い洗浄された粗結晶を調製することが好ましい。洗浄の順番はどちらを先に行っても良いが、残存する(メタ)アクリル酸およびメタンスルホン酸の影響で水による洗浄を先に行った場合、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートが洗浄水に溶け込む恐れがあるため、炭化水素溶媒による洗浄を先に行うことが好ましい。
【0029】
脂肪族炭化水素溶媒による洗浄としては、粗結晶に対して脂肪族炭化水素溶媒を接触させることで、フェニレンジ(メタ)アクリレートの含有量を低減させる。脂肪族炭化水素溶媒による洗浄は、1回のみでもよいが、フェニレンジ(メタ)アクリレートの含有量をより低減する観点から複数回行うことが好ましい。1回目の脂肪族炭化水素溶媒量としては、洗浄前の粗結晶100質量部に対して、100~300質量部が好ましく、100~200質量部がより好ましく、100~150質量部が特に好ましい。脂肪族炭化水素溶媒量を本範囲とすることで、フェニレンジ(メタ)アクリレートの効率的な除去ができる。
粗結晶の洗浄に用いる脂肪族炭化水素溶媒の種類は特に制限されないが、例えば上記した粗結晶を調製する工程において例示した脂肪族炭化水素溶媒を使用することができる。
【0030】
脂肪族炭化水素溶媒による洗浄はフェニレンジ(メタ)アクリレートの含有量が0.3モル%以下になるまで繰り返し行うことが好ましい。また、製造の観点から二回目以降の脂肪族炭化水素溶媒による洗浄は、一回目の脂肪族炭化水素溶媒量100質量部に対して、50~80質量部が好ましい。フェニレンジ(メタ)アクリレートの含有量が0.3モル%以下の場合、最終的に得られるヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート中のフェニレンジ(メタ)アクリレートの含有量が少なくなり、重合時に分子量の増大やゲル化を抑制することができる。
【0031】
洗浄時の脂肪族炭化水素溶媒の温度としては20~60℃が好ましく、30~50℃がより好ましい。脂肪族炭化水素溶媒の温度が20℃以上だとフェニレンジ(メタ)アクリレートの除去効率が高まり製造効率が向上する。60℃以下だと脂肪族炭化水素溶媒の揮発を抑制できる。
【0032】
水による洗浄としては、粗結晶に対して水を接触させることで、二価フェノール類の含有量を低減させる。洗浄水の温度としては25~60℃が好ましく、35~45℃がより好ましい。洗浄水が25℃以上だと洗浄効率が高まり、洗浄回数が減少するため好ましい。洗浄水が60℃以下であると、着色が弱くなり、さらに収率が高くなるため好ましい。
【0033】
水による洗浄は、1回のみでもよいが、二価フェノール類の含有量をより低減する観点から複数回行うことが好ましい。1回目の洗浄水量としては、洗浄前の粗結晶100質量部に対して、100~300質量部が好ましく、200~300質量部がより好ましく、250~300質量部が特に好ましい。洗浄水量を本範囲とすることで、着色成分の効率的な除去ができる。
【0034】
水による洗浄は二価フェノール類の含有量が0.3モル%以下になるまで繰り返し行うことが好ましい。また、製造の観点から二回目以降の水による洗浄は、一回目の洗浄水100質量部に対して、20~40質量部が好ましい。二価フェノール類の含有量が0.3モル%以下の場合、最終的に得られるヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート中の二価フェノール類の含有量が少なくなり、重合時に重合禁止作用の発現および着色を抑制でき好ましい。
【0035】
脂肪族炭化水素溶媒および水による洗浄を終了した後、得られた洗浄された粗結晶をさらに再結晶や晶析などの精製操作を実施してもよく、水溶性溶媒と水による晶析操作を実施することが好ましい。本操作により着色成分と原料である二価フェノール類をより低減することができる。洗浄された粗結晶を水溶性溶媒に溶解させたのち、水を加えることで、結晶を析出させ、ろ過し乾燥することで高純度のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0036】
水溶性溶媒としては、洗浄された粗結晶を溶解することができ、さらに水と混ざる溶媒であれば良く、例えばメタノール、アセトンを挙げることができる。溶解時の水溶性溶媒の温度としては15℃以上が好ましい。15℃以上にすることにより、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートが溶解するまでの時間が短くなり好ましい。
【0037】
水溶性溶媒量としては、洗浄された粗結晶100質量部に対して80~200質量部が好ましく、100~120質量部がより好ましい。水の量としては水溶性溶媒100質量部に対して200~600質量部が好ましく、300~500質量部がより好ましい。
【0038】
乾燥条件としては、公知の方法を用いることができるが、製造効率の観点から減圧乾燥が好ましく、乾燥温度として20~60℃が好ましく、30~40℃がより好ましい。減圧乾燥時の不溶物の生成を抑制する観点から、乾燥中に重合禁止作用を有するガスを導入しても良い。
【0039】
以上のとおり、本発明における製造方法によれば、着色の少なく、高純度のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートが得られる。したがって、本発明により得られたヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートは、レジスト用樹脂の原料モノマーとして好適に使用できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0041】
〔分析方法〕
・ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの純度、および二価フェノール類、フェニレンジ(メタ)アクリレート含有量
ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、以下の条件によりヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート(A)、二価フェノール類(B)、フェニレンジ(メタ)アクリレート(C)の含有量は、(A)、(B)、(C)のピーク面積の合計における各成分のピーク面積の百分率から計算した。
GCの条件
装置: GC-2014(島津製作所製)
カラム: DB-1
インジェクション温度: 300℃
ディテクター温度: 300℃
昇温プロファイル: 40℃で3分間保持→20℃/分で昇温→300℃まで昇温して4分間保持
注入量: 2μL
検出器: FID レンジ1
キャリアガス: ヘリウム 70kPa
スプリット比: 1/30
試料濃度:1wt%
【0042】
・色相
ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの着色度合を、10wt%のヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート溶液(溶媒:メタノール)のハーゼン色数から評価した。
装置:OEM-2000(日本電色株式会社製)
光源:ハロゲンランプ12V12W
セル:ホウケイ酸ガラス(光路長=50mm)
【0043】
各実施例、比較例において、ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの純度が99.0%以上であれば高純度と判断され、色相(バーゼン色数)が60以下であれば、着色が少ないと判断される。
【0044】
〔実施例1〕
(エステル化反応)
7%酸素/窒素混合ガス雰囲気下、3Lのセパラブルフラスコにヒドロキノン(HQ)540g、メタクリル酸1269g、70%メタンスルホン酸(MSA)水溶液50g、次亜リン酸ナトリウム2.2g、トルエン54gを加え、内温120~130℃に調整後、反応溶液中の水分が0.5%以下になるように絶対圧力40kPaにて減圧を行った。
仕込みのヒドロキノンに対する4-ヒドロキシフェニルメタクリレート(HPMA)の生成率が50モル%になった時点で、速やかに減圧を解除、冷却を行い反応を終えた。反応溶液が80℃以下になったことを確認後、トリエチルアミンを37.2g加え溶液を中和させた。
(粗結晶化)
得られたスラリー状の反応溶液を25℃まで冷却後、貧溶媒としてヘキサンを360g加え、室温にて30分間攪拌を行った後、ろ過を行い粗結晶843gを回収した。
(粗結晶の洗浄)
得られた粗生成物は3Lのガラス製容器に移し、1000gのヘキサンを用いて攪拌洗浄後、ろ過を行い粗結晶を回収した。その後、再度600gのへキサンを用いて攪拌洗浄し、ろ過を行うことで粗結晶744gを回収した。続いて、得られた粗結晶は2000gの40℃に昇温した温水を用いて攪拌洗浄し、ろ過を行い粗結晶を回収した。その後、再度600gの40℃に昇温した温水を用いて攪拌洗浄し、ろ過を行い洗浄された粗結晶410gを回収した。
最後に、洗浄された粗結晶物410gに対して、メタノール410gを用いて完全溶解させたのち、1640gのイオン交換水を加えて結晶を析出させた。精製された結晶はろ別後、外温40℃の条件で真空乾燥を行い、4-ヒドロキシフェニルメタクリレートの白色結晶320g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.2%、純度:99.8%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:30)を得た。評価結果を表1に示した。なお、表中「N.D.」は検出されたなったことを意味する。
【0045】
〔実施例2〕
エステル化反応において、仕込みのヒドロキノンに対する4-ヒドロキシフェニルメタクリレートの生成率が55モル%になった時点で冷却を開始した以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶338g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.4%、純度:99.6%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:50)を得た。評価結果を表1に示した。
【0046】
〔実施例3〕
粗結晶化において、得られたスラリー状の反応溶液を25℃まで冷却後、ヘキサンを720g加え、室温にて30分間攪拌を行った以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶301g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.2%、純度:99.8%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:30)を得た。評価結果を表1に示した。
【0047】
〔実施例4〕
粗結晶化において、得られたスラリー状の反応溶液を60℃まで冷却後、ヘプタンを360g加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶282g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.1%、純度:99.9%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:20)を得た。評価結果を表1に示した。
【0048】
〔実施例5〕
エステル化反応において、仕込みのヒドロキノンに対する4-ヒドロキシフェニルメタクリレートの生成率が55モル%になった時点で冷却を開始し、粗結晶化において、得られたスラリー状の反応溶液を60℃まで冷却後、ヘプタンを360g加えた以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶320g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.2%、純度:99.8%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:30)を得た。評価結果を表1に示した。
【0049】
〔比較例1〕
反応工程において、メタンスルホン酸(MSA)水溶液の代わりにpトルエンスルホン酸(PTS)21.6gを用い、粗結晶化の工程を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶230g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.3%、純度:99.7%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:40)を得た。評価結果を表2に示した。
【0050】
〔比較例2〕
エステル化反応後、粗結晶化の工程を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、白色結晶230g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.3%、純度:99.7%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:20)を得た。評価結果を表2に示した。
【0051】
〔比較例3〕
反応工程において、70%メタンスルホン酸(MSA)水溶液の代わりにp-トルエンスルホン酸(PTS)21.6gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、淡褐色結晶320g(二価フェノール:N.D.、フェニレンジ(メタ)アクリレート:0.2%、純度:98.8%、10wt%MeOH溶液のハーゼン色数:150)を得た。評価結果を表2に示した。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例1~5に示すように、本発明の製造方法によれば、高純度で着色が少ないヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートが得られることが分った。
これに対して、貧溶媒を用いて粗結晶を調製する工程を行わない比較例1及び2では、収率が大きく低下する結果となった。また、メタンスルホン酸を用いない比較例3の製造方法では、得られたヒドロキシフェニル(メタ)アクリレートの着色が多く、いずれの製造方法も実施例の製造方法よりも劣る結果となった。