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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】同期噛合装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20240717BHJP
   F16D 23/06 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F16D48/02 640A
F16D23/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020119755
(22)【出願日】2020-07-13
(65)【公開番号】P2022016809
(43)【公開日】2022-01-25
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】川口 峻征
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-134937(JP,A)
【文献】特開2020-104671(JP,A)
【文献】特開2019-138411(JP,A)
【文献】特開2018-105438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14,
25/00-39/00,
48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源の動力伝達経路に介装されたギヤスリーブとギヤピースとを噛合させて前記車両の駆動力に係るトルクを伝達するとともに前記ギヤスリーブを前記ギヤピースから離隔させて前記トルクの伝達を遮断する同期噛合装置の制御装置であって、
前記同期噛合装置が、前記駆動源の一つであるジェネレータのトルクを前記ギヤスリーブに入力されて前記ギヤピースへと伝達する機構と、前記駆動源の一つであるモータのトルクを前記ギヤピースに入力されて前記ギヤスリーブへと伝達する機構と、を有し、
前記制御装置が、
前記ギヤピースに対する前記ギヤスリーブの相対位置に基づき、前記ギヤスリーブ及び前記ギヤピースのチャンファ同士が接触状態で係止されるギヤブロックの発生を検知する検知部と、
前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記ジェネレータと前記モータとのいずれのトルクであるかを判定するトルク源判定部と、
前記ギヤブロックの発生時における前記駆動源の回転方向に基づき、前記ギヤブロックの位置が前記ギヤピースにおけるチャンファの表面のうち加速面及び減速面のどちらであるかを判定する判定部と、
前記同期噛合装置に入力されるトルクを増減させることで前記ギヤブロックを解消する制御を実施する制御部と、
を備え
前記制御部が、
前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記ジェネレータのトルクである場合において、前記ギヤブロックの位置が前記加速面である場合に前記ジェネレータの正転方向のトルクを増加させ、前記ギヤブロックの位置が前記減速面である場合に前記ジェネレータの正転方向のトルクを減少させ、
前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記モータのトルクである場合において、前記ギヤブロックの位置が前記減速面である場合に前記モータの正転方向のトルクを増加させ、前記ギヤブロックの位置が前記加速面である場合に前記モータの正転方向のトルクを減少させる
ことを特徴とする、同期噛合装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記相対位置が変化し始めるまで前記同期噛合装置に入力されるトルクを増加または減少させ続ける
ことを特徴とする、請求項に記載の同期噛合装置の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記相対位置が変化し始めてから停止するまでの間は、前記同期噛合装置に入力されるトルクの絶対値が0でない状態を維持する
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の同期噛合装置の制御装置。
【請求項4】
前記ギヤブロックが解消された後に前記相対位置の変化が停止したときの前記相対位置を、前記ギヤスリーブのストッパ点として学習する学習部を備える
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の同期噛合装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動源の動力伝達経路に介装される同期噛合装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動源の動力伝達経路に同期噛合装置(噛合式クラッチ)を介装させて、駆動力の伝達状態を制御する技術が知られている。同期噛合装置には、例えば複数の歯を有してギヤに固設されるギヤピースと、ギヤピースに噛合する歯を有するとともにギヤピースに対してスライド可能に設けられるギヤスリーブとが含まれる。ギヤスリーブをスライドさせてギヤピースに係合させることで駆動力が伝達される状態となり、その係合を解除することで駆動力の伝達が遮断されるようになっている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-183770号公報
【文献】特開2016-080101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
同期噛合装置では、ギヤピース及びギヤスリーブのチャンファ同士が接触した状態で引っ掛かるギヤブロックが発生することがある。この場合、一旦ギヤスリーブをギヤピースから離隔する方向へと移動させて引っ掛かりを解除した後に、再びギヤスリーブをギヤピース側に接近させて、正しく係合させる操作がなされる。しかしながら、引っ掛かりを解除するにはギヤスリーブを大きく移動させなければならないことが多く、時間がかかってしまうという課題がある。このようなギヤピースとギヤスリーブとの係合時間の長期化は、同期噛合装置の制御性を低下させる要因の一つとなる。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、ギヤピースとギヤスリーブとの係合時間を短縮して制御性を改善した同期噛合装置の制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の同期噛合装置の制御装置は、車両の駆動源の動力伝達経路に介装されたギヤスリーブとギヤピースとを噛合させて駆動力に係るトルクを伝達するとともに前記ギヤスリーブを前記ギヤピースから離隔させて前記トルクの伝達を遮断する同期噛合装置の制御装置である。
前記同期噛合装置は、前記駆動源の一つであるジェネレータのトルクを前記ギヤスリーブに入力されて前記ギヤピースへと伝達する機構と、前記駆動源の一つであるモータのトルクを前記ギヤピースに入力されて前記ギヤスリーブへと伝達する機構と、を有する。
前記制御装置は、前記ギヤピースに対する前記ギヤスリーブの相対位置に基づき、前記ギヤスリーブ及び前記ギヤピースのチャンファ同士が接触状態で係止されるギヤブロックの発生を検知する検知部と、前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記ジェネレータと前記モータとのいずれのトルクであるかを判定するトルク源判定部と、前記ギヤブロックの発生時における前記駆動源の回転方向に基づき、前記ギヤブロックの位置が前記ギヤピースにおけるチャンファの表面のうち加速面及び減速面のどちらであるかを判定する判定部と、前記同期噛合装置に入力されるトルクを増減させることで前記ギヤブロックを解消する制御を実施する制御部と、を備える。
前記制御部は、前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記ジェネレータのトルクである場合において、前記ギヤブロックの位置が前記加速面である場合に前記ジェネレータの正転方向のトルクを増加させ、前記ギヤブロックの位置が前記減速面である場合に前記ジェネレータの正転方向のトルクを減少させ、前記同期噛合装置に入力されるトルクが前記モータのトルクである場合において、前記ギヤブロックの位置が前記減速面である場合に前記モータの正転方向のトルクを増加させ、前記ギヤブロックの位置が前記加速面である場合に前記モータの正転方向のトルクを減少させる。
【発明の効果】
【0007】
開示の同期噛合装置の制御装置によれば、同期噛合装置の制御性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例としての同期噛合装置の制御装置が適用された車両の動力伝達経路を例示する模式的な骨子図である。
図2図1の同期噛合装置(ジェネレータ側)の構造を示す模式図である。
図3図1の同期噛合装置(モータ側)の構造を示す模式図である。
図4】(A)~(D)は図1の同期噛合装置(ジェネレータ側)の制御手法を説明するためのグラフであり、(A)はスリーブストロークの経時変化、(B)はジェネレータ回転数の経時変化、(C)はギヤブロック判定の経時変化、(D)は印加トルクの経時変化を表す。
図5】(A)~(D)は図1の同期噛合装置(モータ側)の制御手法を説明するためのグラフであり、(A)はスリーブストロークの経時変化、(B)はモータ回転数の経時変化、(C)はギヤブロック判定の経時変化、(D)は印加トルクの経時変化を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.車両]
以下、図1図5を参照して、実施例としての同期噛合装置6の制御装置10について説明する。同期噛合装置6は、図1に示す車両の動力伝達経路に介装される。この車両には、駆動輪5に駆動力を伝達する駆動源としてジェネレータ1(発電機)とモータ2(電動機)とエンジン3(内燃機関)とが搭載される。また、この車両には、モータ2と駆動輪5とを接続する動力伝達経路と、ジェネレータ1及びエンジン3と駆動輪5とを接続する動力伝達経路とが独立して別設される。同期噛合装置6は、各々の動力伝達経路に介装される。これらの同期噛合装置6は、例えばトランスミッション(トランスアクスル)に内蔵される。
【0010】
前者(モータ2側)の動力伝達経路に介装される同期噛合装置6は、モータ2と駆動輪5とが接続される状態と切断される状態とを切り替えるように機能する。また、後者(ジェネレータ1側)の動力伝達経路には、減速比が相違するとともに互いに並行に配置された二つの副経路が設けられる。後者の動力伝達経路に介装される同期噛合装置6は、二つの副経路のいずれかが選択される状態(ジェネレータ1及びエンジン3と駆動輪5とが接続される状態)と、いずれの副経路も選択されない状態(ジェネレータ1及びエンジン3と駆動輪5とが切断される状態)とを切り替えるように機能する。なお、駆動輪5の回転軸に伝達された駆動力は、ディファレンシャル9(デフ,差動装置)を介して左右の駆動輪5に分配される。上記の各動力伝達経路には他の歯車列や変速機構なども介装されうるが、本実施例ではそれらの説明を省略する。
【0011】
ジェネレータ1及びモータ2は、例えば三相交流型の同期電動機である。ジェネレータ1は、図示しない走行用バッテリの電力を利用してエンジン3を始動させる機能や車両の駆動力を生成する機能やエンジン3の回転動力を利用して発電する機能を併せ持つ。また、モータ2は、図示しない走行用バッテリの電力を利用して車両の駆動力を生成する機能と、車両の慣性動力を利用して発電する機能とを併せ持つ。エンジン3は、燃料をシリンダ内で燃焼させてピストンを往復移動させることで回転駆動力を生成する内燃機関であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンである。エンジン3の出力軸にはフライホイール4(バネマス)が接続される。
【0012】
この車両には、EVモード,シリーズモード,パラレルモードの三種類の走行モードが用意される。これらの走行モードは、走行状態に応じて択一的に選択され、その種類に応じてジェネレータ1,モータ2,エンジン3が使い分けられる。EVモードは、ジェネレータ1やエンジン3を停止させたままモータ2の駆動力のみで車両を駆動する走行モードである。シリーズモードは、エンジン3でジェネレータ1を駆動して発電しつつモータ2の駆動力で車両を駆動する走行モードである。パラレルモードは、モータ2及びエンジン3の駆動力を併用して車両を駆動する走行モードである。同期噛合装置6は、走行モードの切り替えに際し、駆動力の伝達状態を制御するように機能する。
【0013】
図2は、ジェネレータ1側の動力伝達経路に介装される同期噛合装置6の構造を示す模式図である。この同期噛合装置6には、ギヤスリーブ21と二つのギヤピース22,23とが設けられる。ジェネレータ1やエンジン3の駆動力は、ギヤスリーブ21に入力されてギヤピース22,23へと伝達される。つまり、駆動力の伝達方向は、ギヤスリーブ21からギヤピース22,23への方向である。ギヤスリーブ21は、ジェネレータ1やエンジン3の駆動力が伝達される第一回転軸17に対して軸方向にスライド可能に設けられる。また、ギヤピース22,23は、第一回転軸17に対して回転可能に軸支された歯車に固定される。なお、各々のギヤピース22,23に形成されるチャンファのうち、車両の前進時における回転方向前側の斜面のことを加速面26と呼び、回転方向後側の斜面のことを減速面27と呼ぶ。
【0014】
ギヤスリーブ21及びギヤピース22,23は噛合可能であり、例えばギヤスリーブ21の内周面に形成された内周歯が、ギヤピース22,23の外周面に形成された外周歯とスプライン嵌合する。一方のギヤピース22は、二つの副経路の一方に駆動力を伝達するための部位であり、他方のギヤピース23は、二つの副経路の他方に駆動力を伝達するための部位である。図1に示すように、各々のギヤピース22,23は、カウンタシャフトに固定された歯車と噛合しており、異なる減速比で駆動力を駆動輪5側へと伝達するようになっている。
【0015】
ギヤスリーブ21には、第一アクチュエータ7が接続される。第一アクチュエータ7は、ギヤスリーブ21をスライド方向に駆動する装置である。この第一アクチュエータ7は、ギヤスリーブ21とギヤピース22,23とを噛合させ、あるいは、ギヤスリーブ21をギヤピース22,23から離隔させて係合を解除する機能を持つ。また、ギヤスリーブ21の近傍には、その位置を検出するための第一ストロークセンサ15が設けられる。第一ストロークセンサ15は、基準位置(例えば、完全に開放された位置)からのギヤスリーブ21の移動量に応じた信号を出力する。
【0016】
図3は、モータ2側の動力伝達経路に介装される同期噛合装置6の構造を示す模式図である。この同期噛合装置6には、ギヤスリーブ24とギヤピース25とが設けられる。モータ2の駆動力は、ギヤピース25に入力されてギヤスリーブ24へと伝達される。つまり、駆動力の伝達方向は、ギヤピース25からギヤスリーブ24への方向である。ギヤスリーブ24は、第二回転軸18に対して軸方向にスライド可能に設けられる。また、ギヤピース25は、第二回転軸18に対して回転可能に軸支されるとともにモータ2の駆動力が伝達される歯車に固定される。
【0017】
ギヤスリーブ24には、ギヤスリーブ24をスライド方向に駆動する第二アクチュエータ8が接続される。第二アクチュエータ8は、ギヤスリーブ24とギヤピース25とを噛合させ、あるいは、ギヤスリーブ24をギヤピース25から離隔させて係合を解除する機能を持つ。また、ギヤスリーブ24の近傍には、その位置を検出するための第二ストロークセンサ16が設けられる。なお、第一アクチュエータ7,第二アクチュエータ8の具体例としては、油圧式アクチュエータや電動アクチュエータなどが挙げられる。
【0018】
同期噛合装置6の作動状態は、制御装置10(電子制御装置,コンピュータ,ECU等とも称される)で制御される。制御装置10の内部には、プロセッサ(中央処理装置),メモリ(メインメモリ),記憶装置(ストレージ),インタフェース装置などが内蔵され、これらが内部バスを介して互いに通信可能に接続される。また、図1に示すように、制御装置10にはジェネレータ1,モータ2,第一アクチュエータ7,第二アクチュエータ8,第一ストロークセンサ15,第二ストロークセンサ16が接続される。制御装置10は、ストロークセンサ15,16で検出された位置(スリーブストローク)の情報に基づき、ジェネレータ1及びモータ2のトルクやギヤスリーブ21,24の実際のストロークを制御する制御を実施する。
【0019】
[2.制御装置]
図1に示すように、制御装置10の内部には、検知部11,判定部12,制御部13,学習部14が設けられる。これらの要素は、制御装置10の機能を便宜的に分類して示したものである。これらの要素は独立したプログラムとして記述でき、複数の要素を合体させた複合プログラムとして記述することもできる。各要素に相当するプログラムは、制御装置10のメモリや記憶装置に記憶され、プロセッサで実行される。
【0020】
検知部11は、ギヤブロックの発生を検知するものである。ここでは、ジェネレータ1側の同期噛合装置6におけるギヤブロック(ギヤスリーブ21及びギヤピース22,23のチャンファ同士が接触状態で係止されるギヤブロック)と、モータ2側の同期噛合装置6におけるギヤブロック(ギヤスリーブ24及びギヤピース25のチャンファ同士が接触状態で係止されるギヤブロック)とが個別に検知されうる。また、ギヤブロックの有無は、ギヤピース22,23,25に対するギヤスリーブ21,24の相対位置に基づいて判断される。例えば、ギヤスリーブ21のスリーブストロークが所定値未満であって(すなわち、噛合位置に達しておらず)その状態が所定時間継続した場合に、ギヤブロックが発生したと判断される。
【0021】
判定部12は、ギヤブロックが発生したときに、そのギヤブロックの位置がギヤピース22,23,25におけるチャンファの表面のうち、加速面26及び減速面27のどちらであるかを判定するものである。この判定は、少なくとも同期噛合装置6に入力される回転方向(正転,逆転)に基づいてなされる。本実施例では、ジェネレータ1やモータ2に内蔵されるレゾルバの出力信号が参照され、ジェネレータ1やモータ2の回転方向が把握されるとともに、その回転方向に基づいてギヤブロックの位置が判定される。
【0022】
例えば、ギヤスリーブ21とギヤピース22との間でギヤブロックが発生したときに、ジェネレータ1が正転方向に回転していた場合には、図2中に破線で示すように、ギヤピース22の加速面26でギヤブロックが発生しているものと判定される。また、ギヤスリーブ24とギヤピース25との間でギヤブロックが発生したときに、モータ2が正転方向に回転していた場合には、図3中に破線で示すように、ギヤピース25の減速面27でギヤブロックが発生しているものと判定される。
【0023】
制御部13は、ギヤブロックの位置に応じて同期噛合装置6に入力されるトルクを増減させることで、そのギヤブロックを解消する制御を実施するものである。ギヤブロックの位置が加速面26であるときには、ギヤスリーブ21,24が相対的に正転側へ移動するとともに、ギヤピース22,23,25が相対的に逆転側へ移動するように、入力トルク(ジェネレータ1やモータ2のトルク)の大きさが制御される。
【0024】
例えば、図2に示すように、ジェネレータ1側の同期噛合装置6にてギヤピース22の加速面26でギヤブロックが発生している場合には、ジェネレータ1の正転方向のトルクが増加するように、ジェネレータ1の作動状態が制御される。これにより、ギヤスリーブ21が白抜き矢印方向へと相対移動する。したがって、ギヤスリーブ21をギヤピース22の方向へ駆動すれば、ギヤブロックが解消される。一方、ギヤブロックの位置が減速面27である場合には、ジェネレータ1の正転方向のトルクを減少させる(ジェネレータ1の逆転方向のトルクを増加させる)ように、ジェネレータ1の作動状態が制御される。
【0025】
また、図3に示すように、モータ2側の同期噛合装置6にてギヤピース25の減速面27でギヤブロックが発生している場合には、モータ2の正転方向のトルクが増加するように、モータ2の作動状態が制御される。これにより、ギヤピース25が白抜き矢印方向へと相対移動する。したがって、ギヤスリーブ24をギヤピース25の方向へ駆動すれば、ギヤブロックが解消される。一方、ギヤブロックの位置が加速面26である場合には、モータ2の正転方向のトルクを減少させる(モータ2の逆転方向のトルクを増加させる)ように、モータ2の作動状態が制御される。
【0026】
上記のギヤブロックを解消するための制御に際し、本実施例の制御装置10は、ギヤピース22,23,25に対するギヤスリーブ21,24の相対位置が変化し始めるまでトルクを変化させ続ける(増加または減少させ続ける)制御を実施する。また、少なくともジェネレータ1側の同期噛合装置6に対して、相対位置が変化し始めてから停止するまでの間は、トルクの絶対値が0でない状態を維持する制御を実施する。例えば、相対位置が変化し始めてから停止するまでの間は、相対位置が変動し始めたときのトルクを維持するような制御を実施する。
【0027】
学習部14は、ギヤブロックが解消された後にギヤスリーブ21,24のストッパ点を学習するものである。ストッパ点とは、ギヤスリーブ21,24がギヤピース22,23,25と完全に噛合する位置のことを意味し、例えばギヤスリーブ21,24のストロークの変化が停止した地点におけるストロークの値で表現される。なお、ここでいう「学習」とは、既存のストッパ点の情報に新たなストッパ点の情報を反映させることを意味する。制御部13がギヤブロックを解消した後にストッパ点を学習することで、学習精度が向上する。
【0028】
[3.作用]
[3-1.ジェネレータ側]
図4(A)~(D)は、車両停止中にジェネレータ1側の同期噛合装置6を接続したときに、加速面26でギヤブロックが発生した場合の制御手法を説明するためのグラフである。第一アクチュエータ7を作動させてギヤスリーブ21をギヤピース22に接近させると、第一ストロークセンサ15で検出されるスリーブストロークが徐々に増加する。図4(A)中の破線はギヤスリーブ21の目標ストロークを表し、実線は第一ストロークセンサ15での検出値(実ストローク)を表す。
【0029】
時刻t1にギヤスリーブ21及びギヤピース22のチャンファ同士が接触した後、トランスミッションの内部ガタ分に相当する角度だけジェネレータ1が回動する。また、図4(B)に示すように、その直後の時刻t2にはチャンファ同士の摩擦抵抗によって引っ掛かり、ジェネレータ1の回動が停止する。これによりギヤスリーブ21の動作が停止し、図4(A)に示すようにスリーブストロークが噛合位置に相当する所定値S1未満の状態から変化しなくなる。
【0030】
時刻t2から所定時間が経過した時刻t3には、制御装置10の検知部11によってギヤブロックが検知される。これにより、図4(C)に示すように、ギヤブロック判定(ギヤブロックの有無を表すフラグ)がOFFからONになる。また、判定部12では、ギヤブロックの位置が加速面26であるか減速面27であるかが判定される。例えば、図4(B)に示すグラフは、ジェネレータ1が正転方向へ回転してから停止したことを示しているため、ギヤブロックの位置が加速面26であると判定される。
【0031】
これを受けて制御部13は、ギヤブロックを解消すべくジェネレータ1の正転方向のトルクを増加させる制御を実施する。例えば図4(D)に示すように、正転方向に印加されるトルクの大きさは、時刻t3から直線状に増加するように制御される。その後、時刻t4にスリーブストロークが再び増加し始めると、検知部11によってギヤブロックが解消されたと判断され、ギヤブロック判定がONからOFFになる〔図4(C)参照〕。
【0032】
時刻t4以降にジェネレータ1に印加されるトルクの大きさは、例えば図4(D)中に実線で示すように、時刻t4におけるトルクを維持するように制御してもよい。このように、ジェネレータ1に印加されるトルクの大きさを一定にすることで、簡素な制御構成で過剰なトルク付与によるエネルギーの浪費を抑制できる。また、図4(D)中に破線で示すように、少なくともトルクの絶対値が0でない状態を維持するように制御してもよい。これにより、第一回転軸17に接続されたフライホイール4によるギヤスリーブ21の弾性的な逆戻り回転が抑制されるため、スリーブストロークの増加を促進しつつ、エネルギーの浪費をさらに抑制できる。
【0033】
時刻t5にスリーブストロークが所定値S1より噛合い判定量L1を超えた位置に達すると、ギヤスリーブ21がギヤピース22と噛合したものと判断される。また、学習部14では、この時点よりさらにM1移動してスリーブストロークが停止した時刻t6の位置に基づいてギヤスリーブ21のストッパ点が学習され、ジェネレータ1へのトルクの印加が終了する。このように本実施例では、ギヤスリーブ21をギヤピース22から離隔する方向へと移動させることなく、ギヤブロックが解消される。したがって、走行モードの切り替えやストッパ点の学習にかかる時間が短時間で済み、同期噛合装置6の制御性が向上する。
【0034】
[3-2.モータ側]
図5(A)~(D)は、車両停止中にモータ2側の同期噛合装置6を接続したときに、減速面27でギヤブロックが発生した場合の制御手法を説明するためのグラフである。第二アクチュエータ8を作動させてギヤスリーブ24をギヤピース25に接近させると、第二ストロークセンサ16で検出されるスリーブストロークが徐々に増加する〔図5(A)参照〕。図5(A)中の破線はギヤスリーブ24の目標ストロークを表し、実線は第二ストロークセンサ16での検出値(実ストローク)を表す。
【0035】
時刻t7にギヤスリーブ24及びギヤピース25のチャンファ同士が接触し、モータ2がわずかに回動する〔図5(B)参照〕。また、時刻t8にはチャンファ同士の摩擦抵抗によって引っ掛かり、モータ2の回動が停止する〔図5(B)参照〕。これにより、スリーブストロークが噛合位置に相当する所定値S2未満の状態に維持され、時刻t9にギヤブロックが検知される〔図5(C)参照〕。また、図5(B)に示すグラフは、モータ2が正転方向へ回転してから停止したことを示しているため、ギヤブロックの位置が減速面27であると判定される。
【0036】
これを受けて制御部13は、ギヤブロックを解消すべくモータ2の正転方向のトルクを増加させる制御を実施する。例えば図5(D)に示すように、正転方向に印加されるトルクの大きさは、時刻t9から直線状に増加するように制御される。その後、時刻t10にスリーブストロークが再び増加し始めると、検知部11によってギヤブロックが解消されたと判断され、ギヤブロック判定がONからOFFになる〔図5(C)参照〕。
【0037】
時刻t10以降にモータ2に印加されるトルクの大きさは、例えば図5(D)中に実線で示すように、時刻t9におけるトルクを維持するように制御してもよい。このように、モータ2に印加されるトルクの大きさを一定にすることで、簡素な制御構成で過剰なトルク付与によるエネルギーの浪費を抑制できる。時刻t11にスリーブストロークが所定値S2より噛合い判定量L2を超えた位置に達すると、ギヤスリーブ24がギヤピース25と噛合したものと判断される。また、学習部14では、この時点よりさらにM移動してスリーブストロークが停止した時刻t12の位置に基づいてギヤスリーブ24のストッパ点が学習され、モータ2へのトルクの印加が終了する。
【0038】
なお、第二回転軸18には第一回転軸17のようなフライホイール4が介装されていないため、時刻t10にモータ2に印加されるトルクを小さくしたとしても、ギヤスリーブ24が弾性的な逆戻り回転をすることがない。したがって、図5(D)中に破線で示すように、時刻t10以降のトルクを0にしてもよい。
【0039】
[4.効果]
(1)上記の実施例では、ギヤブロックの発生時におけるジェネレータ1やモータ2の回転方向に基づき、ギヤピース22,23,25の加速面26でギヤブロックが発生したのか、それとも減速面27でギヤブロックが発生したのかが判定される。また、この判定結果に応じて同期噛合装置6に入力されるトルクを増減させることで、ギヤブロックを解消する制御が実施される。
【0040】
このような制御構成により、ギヤスリーブ21,24をギヤピース22,23,25から離隔する方向へと移動させることなく、ギヤブロックを解消できる。したがって、簡素な制御構成で、走行モードの切り替えやストッパ点の学習にかかる時間を短縮でき、同期噛合装置6の制御性を向上できる。また、走行モードの切り替え時間が短縮されることから、車両の走行性能を改善できる。
【0041】
(2)上記の実施例におけるジェネレータ1側の同期噛合装置6では、ギヤブロックの位置が加速面26である場合に、ジェネレータ1の正転方向のトルクを増加させる制御が実施される。これにより、図2に示すように、加速面26に作用する垂直抗力が減少する方向へとギヤスリーブ21を移動させることができ、加速面26の摩擦力を減少できる。したがって、ギヤブロックが解消されやすくなり、同期噛合装置6の制御性をさらに向上できる。
【0042】
また、ギヤブロックの位置が減速面27である場合には、ジェネレータ1の正転方向のトルクを減少させる制御(反転方向のトルクを増加させる制御)が実施される。これにより、ギヤスリーブ21が図2中の上方向へと移動することになる。つまり、減速面27に作用する垂直抗力が減少する方向へとギヤスリーブ21を移動させることができ、減速面27の摩擦力を減少できる。したがって、ギヤブロックが解消されやすくなり、同期噛合装置6の制御性をさらに向上できる。
【0043】
(3)上記の実施例におけるモータ2側の同期噛合装置6では、ギヤブロックの位置が減速面27である場合に、モータ2の正転方向のトルクを増加させる制御が実施される。これにより、図3に示すように、減速面27に作用する垂直抗力が減少する方向へとギヤスリーブ24を移動させることができ、減速面27の摩擦力を減少できる。したがって、ギヤブロックが解消されやすくなり、同期噛合装置6の制御性をさらに向上できる。
【0044】
また、ギヤブロックの位置が加速面26である場合には、モータ2の正転方向のトルクを減少させる制御(反転方向のトルクを増加させる制御)が実施される。これにより、ギヤスリーブ24が図3中の下方向へと移動することになる。つまり、加速面26に作用する垂直抗力が減少する方向へとギヤスリーブ24を移動させることができ、加速面26の摩擦力を減少できる。したがって、ギヤブロックが解消されやすくなり、同期噛合装置6の制御性をさらに向上できる。
【0045】
(4)上記の実施例では、図4(D)の時刻t3~t4図5(D)の時刻t9~t10に示すように、ギヤブロックを解消させる際にスリーブストロークが変化し始めるまでトルクを増加(または減少)させ続ける制御が実施される。このように、印加トルクの絶対値を徐々に大きくすることで、ギヤスリーブ21,24及びギヤピース22,23,25を確実に相対移動させることができ、ギヤブロックの解消効果を高めることができる。また、最初は小さなトルクが付与されることになるため、過剰なトルク付与によるエネルギー浪費やトルクショックの発生を防止できる。
【0046】
(5)上記の実施例では、図4(D)の時刻t4~t5に示すように、スリーブストロークが変化し始めてから再び停止するまでの間は、トルクの絶対値が0でない状態を維持する制御が実施される。このように、ある程度の大きさのトルクを付与し続けることで、第一回転軸17に接続されたフライホイール4によるギヤスリーブ21の弾性的な逆戻り回転を抑制できる。したがって、スリーブストロークの増加を促進しつつ、エネルギーの浪費をさらに抑制できる。
【0047】
(6)上記の実施例には、ギヤブロックが解消された後にスリーブストロークの変化が停止した地点におけるそのストロークの値がギヤスリーブのストッパ点として学習される。このように、ギヤブロックが解消された時点でストッパ点の学習を実施することで、短時間で効率のよい学習を実施できるとともに、学習精度を向上できる。
【0048】
[5.変形例]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、必要に応じて取捨選択でき、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0049】
例えば上記の実施例では、ジェネレータ1側の同期噛合装置6に関して、ギヤスリーブ21とギヤピース22とのギヤブロック時の制御について詳述したが、ギヤスリーブ21とギヤピース23とのギヤブロック時にも同様の制御を実施でき、同様の作用・効果を獲得できる。また、上記の実施例では、モータ2側の同期噛合装置6に関して、モータ2の駆動力がギヤピース25に入力されてギヤスリーブ24へと伝達される構造を例示したが、駆動力の伝達方向はこれに限定されず、駆動力が逆方向に伝達される構造も想定されうる。何れにしても、ギヤブロック時の摩擦抵抗が小さくなる方向にギヤスリーブ24やギヤピース25を移動させることで、上記の実施例と同様にギヤブロックを解消する制御を実現できる。
【符号の説明】
【0050】
1 ジェネレータ(駆動源)
2 モータ(駆動源)
3 エンジン(駆動源)
4 フライホイール
5 駆動輪
6 同期噛合装置
7 第一アクチュエータ
8 第二アクチュエータ
9 ディファレンシャル
10 制御装置
11 検知部
12 判定部
13 制御部
14 学習部
15 第一ストロークセンサ
16 第二ストロークセンサ
17 第一回転軸
18 第二回転軸
21 ギヤスリーブ
22 ギヤピース
23 ギヤピース
24 ギヤスリーブ
25 ギヤピース
26 加速面
27 減速面
図1
図2
図3
図4
図5