(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】酵素センサー電極形成用組成物、酵素センサー用電極及び酵素センサー
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240717BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N27/30 Z
G01N27/327 353F
(21)【出願番号】P 2020121404
(22)【出願日】2020-07-15
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2019185573
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】八手又 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 茂紀
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222726(JP,A)
【文献】特開2019-083163(JP,A)
【文献】特開2008-309602(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090271(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0164142(US,A1)
【文献】特開2000-039415(JP,A)
【文献】久英之,導電性カーボンブラックの現状,日本印刷学会誌,2007年,Vol.44, No.3,p.133-143
【文献】産総研,単層カーボンナノチューブで比表面積の大きな材料を開発,プレスリリース,[online],2010年01月04日,第1頁,[令和6年3月18日検索], インターネット<URL:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2010/pr20100104/pr20100104.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30
G01N 27/327
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料(A)およびバインダー(B)を含む酵素センサー電極形成用組成物であって、前記炭素材料(A)が、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含み、 酵素センサー電極形成用組成物の固形分の合計100質量%中の炭素材料(A)の含有量が
75~98質量%であり、炭素材料(A)の固形分の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有量が25~99質量%であり、
炭素材料(A-b)が、比表面積が20m
2/g以上である炭素材料を含むことを特徴とする酵素センサー電極形成用組成物。
【請求項2】
黒鉛(A-a)が、比表面積が1m
2/g以上である黒鉛を含む請求項1記載の酵素センサー電極形成用組成物。
【請求項3】
非導電性基材の上に請求項1又は2記載の酵素センサー電極形成用組成物から形成された導電層を有する酵素センサー用電極。
【請求項4】
請求項3記載の電極を、作用極および/または対極に用いた酵素センサー。
【請求項5】
請求項4記載のセンサーにおいて、酸化還元酵素を導電層上部および/または内部に含む酵素センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素センサー電極形成用組成物、酵素センサー用電極及び酵素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
血液や汗等の生体試料や食品等に含まれる特定成分を、簡便に計測する酵素センサーが実用化されている。例えば、血液中のグルコースを電気化学的な手段により検出、あるいは定量化する血糖値センサー等が挙げられる。これは血中に含まれるグルコースに対し酵素の基質特異性により選択的に酸化し、メディエーターを介して、あるいは直接電極に電荷が到達して電流が発生、その電流値からグルコース濃度を定量することができる。
実用化されている酵素センサーにおける電極部分は、スパッタやめっき等により金属層が形成されたものが用いられることがある(例えば特許文献1)。しかし、その測定感度は未だ十分とは言い難い状況であり、高価な金属を使用しないことは腐食やコストの観点からも好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、導電性および感度に優れる酵素センサー電極形成用組成物、酵素センサー用電極および酵素センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の諸問題を解決するために研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち本発明は、炭素材料(A)およびバインダー(B)を含む酵素センサー電極形成用組成物であって、前記炭素材料(A)が、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含むことを特徴とする酵素センサー電極形成用組成物に関する。
【0006】
また、本発明は、酵素センサー電極形成用組成物の固形分の合計100質量%中の炭素材料(A)の含有量が50~98質量%であり、炭素材料(A)の固形分の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有量が25~99質量%であることを特徴とする前記酵素センサー電極形成用組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、黒鉛(A-a)が、比表面積が1m2/g以上である黒鉛を含む前記酵素センサー電極形成用組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、炭素材料(A-b)が、比表面積が20m2/g以上である炭素材料を含む前記酵素センサー電極形成用組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、黒鉛(A-a)が、比表面積が1m2/g以上である黒鉛を含み、かつ、炭素材料(A-b)が、比表面積が20m2/g以上である炭素材料を含む前記酵素センサー電極形成用組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、非導電性基材の上に前記酵素センサー電極形成用組成物から形成された導電層を有する酵素センサー用電極に関する。
【0011】
また、本発明は、前記電極を作用極および/または対極に用いた酵素センサーに関する。
【0012】
また、本発明は、酸化還元酵素を導電層上部および/または内部に含む前記酵素センサーに関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、導電性の炭素材料とバインダーとを含む導電層において、少なくとも黒鉛を含む2種以上の炭素材料とバインダーとを用いることで、導電性に優れかつ感度の良好な酵素センサーを提供することができる。更に、主に炭素材料から構成される電極であるため、低コストで使い捨て可能な電極を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<酵素センサー電極形成用組成物>
(炭素材料(A))
本発明における炭素材料(A)としては、導電性に優れた導電層が得られることから、少なくとも黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)とを含有する2種類以上の炭素材料を使用する。
【0015】
炭素材料(A)の固形分の合計100質量%中の黒鉛(A-a)の含有量は、好ましくは25~99質量%であり、より好ましくは50~96質量%である。この範囲であれば、黒鉛(A-a)と黒鉛以外の炭素材料(A-b)が良好な導電パスを形成し、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。
【0016】
黒鉛(A-a)としては、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛は、無定形炭素の熱処理により、不規則な配列の微小黒鉛結晶の配向を人工的に行わせたものであり、一般的には石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として製造される。天然黒鉛としては、薄片状黒鉛、球形黒鉛、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等を使用することが出来る。また、鱗片状黒鉛を化学処理等した膨張黒鉛(膨張性黒鉛ともいう)や、膨張黒鉛を熱処理して膨張化させた後、微細化やプレスにより得られた膨張化黒鉛等を使用することも出来る。これらの黒鉛の中でも、導電性基材の導電層に用いる場合は、導電性の観点から、天然黒鉛が好ましく、球形黒鉛、鱗片状黒鉛、膨張化黒鉛、および薄片状黒鉛が好ましい。
【0017】
また、用いる黒鉛(A-a)の平均粒径は、0.5~500μmが好ましく、特に、2~100μmが好ましい。
【0018】
本発明でいう平均粒径とは、体積粒度分布において、粒子径の細かいものからその粒子の体積割合を積算していったときに、50%となるところの粒子径(D50)であり、一般的な粒度分布計、例えば、動的光散乱方式の粒度分布計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)等で測定される。
【0019】
市販の黒鉛としては、例えば、薄片状黒鉛として、日本黒鉛工業社製のCMX、UP-5、UP-10、UP-20、UP-35N、CSSP、CSPE、CSP、CP、CPB、UCP、J-CPB、CB-150、CB-100、ACP、ACP-1000、ACB-50、ACB-100、ACB-150、SP-10、SP-20、SP-5030、J-SP、SP-270、HOP、GR-60、LEP、F#1、F#2、F#3、中越黒鉛社製のCX-3000、FBF、BF、CBR、SSC-3000、SSC-600、SSC-3、SSC、CX-600、CPF-8、CPF-3、CPB-6S、CPB、96E、96L、96L-3、90L-3、CPC、S-87、K-3、CF-80、CF-48、CF-32、CP-150、CP-100、CP、HF-80、HF-48、HF-32、SC-120、SC-80、SC-60、SC-32、伊藤黒鉛工業社製のCNP15、CNP7、Z-5F、EC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50、西村黒鉛社製の10099M、PB-99等が挙げられる。球状天然黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のCGC-20、CGC-50、CGB-20、CGB-50が挙げられる。土状黒鉛としては、日本黒鉛工業社製の青P、AP、AOP、P#1、中越黒鉛社製のAPR、S-3、AP-6、300Fが挙げられる。人造黒鉛としては、日本黒鉛工業社製のPAG-60、PAG-80、PAG-120、PAG-5、HAG-10W、HAG-150、中越黒鉛社製のRA-3000、RA-15、RA-44、GX-600、G-6S、G-3、G-150、G-100、G-48、G-30、G-50、SECカーボン社製のSGP-100、SGP-50、SGP-25、SGP-15、SGP-5、SGP-1、SGO-100、SGO-50、SGO-25、SGO-15、SGO-5、SGO-1、SGX-100、SGX-50、SGX-25、SGX-15、SGX-5、SGX-1が挙げられる。これらを単独または2種以上を併用して使用することができる。
【0020】
用いる黒鉛の比表面積は、値が大きいほど、電気化学反応の起きる面積が大きくなるため、感度を上げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、好ましくは1m2/g以上、より好ましくは5m2/g以上、更に好ましくは10m2/g以上のものを使用することが望ましい。比表面積が1m2/gを下回る黒鉛を用いると、十分な感度を得ることが難しくなる場合がある。また、300m2/gを超える黒鉛は、市販材料での入手が困難となる場合がある。
【0021】
黒鉛以外の炭素材料(A-b)としては、カーボンブラック、導電性炭素繊維(カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー)、グラフェン、フラーレン等が挙げられ、これらを単独または2種以上を併用して使用することができる。コストや導電性などの観点から、カーボンブラックや導電性炭素繊維を用いることが好ましい。
【0022】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
カーボンの酸化処理は、カーボンを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることより、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基の様な酸素含有極性官能基をカーボン表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンの分散性を向上させるために一般的に行われている。しかしながら、官能基の導入量が多くなる程カーボンの導電性が低下することが一般的であるため、酸化処理をしていないカーボンの使用が好ましい。
【0023】
用いるカーボンブラックの比表面積は、値が大きいほど、カーボンブラック粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利となる。また、比表面積の値が大きいほど、電気化学反応の起きる面積が大きくなるため、感度を上げるのに有利となる。具体的には、窒素の吸着量から求められる比表面積(BET)で、好ましくは20m2/g以上、より好ましくは50m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上のものを使用することが望ましい。比表面積が20m2/gを下回るカーボンブラックを用いると、十分な導電性を得ることが難しくなる場合がある。また、1500m2/gを超えるカーボンブラックは、市販材料での入手が困難となる場合がある。
また、用いるカーボンブラックの粒径は、一次粒子径で0.005~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましい。ただし、ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡などで測定された粒子径を平均したものである。
【0024】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、ケッチェンブラックとして、東海カーボン社製のトーカブラック#4400、#4500、#5500、デグサ社製のプリンテックスL、三菱化学社製の#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B、キャボット社製のVulcanXC-72R、BlackPearls2000、TIMCAL社製のEnsaco250G、等のファーネスブラック、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のEC-200L、EC-300J、EC-600JD等、アセチレンブラックとして、デンカ社製のデンカブラック、デンカブラックFX-35等のが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
導電性炭素繊維としては石油由来の原料から焼成して得られるものが良いが、植物由来の原料からも焼成して得られるものも用いることが出来る。また、カーボンナノチューブは、グラフェンシートが一層でナノメートル領域の直径を有するチューブを形成した単層カーボンナノチューブ、グラフェンシートが多層である多層カーボンナノチューブが挙げられる。単層カーボンナノチューブの直径は0.7-2.0nmが好ましく、多層カーボンナノチューブの直径は30nm程度が好ましい。と
【0026】
市販の導電性炭素繊維やカーボンナノチューブとしては、昭和電工社製のVGCF等の気相法炭素繊維、名城ナノカーボン社製のEC1.0,EC1.5,EC2.0,EC1.5-P等の単層カーボンナノチューブ、CNano社製のFloTube9000、FloTube9100、FloTube9110、FloTube9200、Nanocyl社製のNC7000、Knano社製の100T等が挙げられる。
【0027】
炭素材料(A)の割合は、導電性や非導電性基材への密着性等から、酵素センサー電極形成用組成物の全固形分に対して50~98質量%が好ましく、60~95質量%がさらに好ましい。導電性の炭素材料(A)以外の成分としては、主にバインダー(B)となるが、それ以外にも任意の成分を含んでいても良い。
【0028】
(バインダー(B))
バインダー(B)の種類は、炭素材料(A)の分散性や非導電性基材への密着性、導電性組成物の安定性を付与できるものであれば特に制限されず、樹脂等が挙げられる。例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、スチレン-ブタジエンゴム及びフッ素ゴム等の合成ゴム、ポリアニリン及びポリアセチレン等の導電性樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル等の含フッ素化合物、セルロース類、これらの変性物や共重合物等が挙げられる。これらバインダーは、1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
また、バインダー樹脂が塗膜となった後に、硬化(架橋)反応を受ける、硬化性樹脂を用いることもできる。
【0030】
溶剤として水性液状媒体を使用する場合、バインダーとして水性エマルションを使用してもよい。水性エマルションは、バインダー樹脂が水中に溶解せずに、微粒子の形態で分散した分散液である。
水性エマルションとしては特に限定されず、(メタ)アクリル系エマルション;ニトリル系エマルション;ウレタン系エマルション;SBR(スチレンブタジエンゴム)等のジエン系ゴムを含むジエン系エマルション;PVdF(ポリフッ化ビニリデン)及びPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の含フッ素高分子を含むフッ素系エマルション等が挙げられる。
エマルションの平均粒子径は、結着性や粒子の安定性の観点から、10~1000nmであることが好ましく、10~300nmであることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0031】
(液状媒体)
酵素センサー電極形成用組成物は、任意の液状媒体を含むことができる。液状媒体としては特に限定されず、公知のものを用いることができる。ペースト組成物の分散性向上、並びに、非導電性基材上へのペースト組成物の塗工性向上のために、複数種の溶剤を混ぜて使用してもよい。
液状媒体としては、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類等の有機溶剤、及び水等が挙げられる。
【0032】
(分散剤)
酵素センサー電極形成用組成物は分散剤を使用することができる。分散剤は、炭素材料等に対して分散剤として有効に機能し、その凝集を緩和することができる。分散剤は炭素材料に対して凝集を緩和する効果が得られれば特に限定されるものではない。
【0033】
更に、酵素センサー電極形成用組成物には、増粘剤、成膜助剤、硬化剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0034】
<酵素センサー用電極>
本発明の酵素センサー用電極は、少なくとも非導電性基材上に配置された導電層からなる。例えば、非導電性基材の少なくとも片側の表面に、導電性の炭素材料(A)とバインダー(B)と、必要に応じて溶剤等を含有する酵素センサー電極形成用組成物を塗工、必要に応じてプレス処理等を行って、導電層を形成することで酵素センサー用電極を得ることができる。また、必要に応じて酸化還元酵素やメディエーターを担持して電極を得ることができる。
【0035】
<非導電性基材>
非導電性基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー等の樹脂フィルムが例示できる。また、樹脂フィルム以外にも紙や布等も挙げられる。
【0036】
(導電層の形成)
導電層は、前記の非導電性基材に酵素センサー電極形成用組成物を塗工・印刷、必要に応じてプレス処理等を行って形成することができる。非導電性基材上に導電性組成物を塗工・印刷する方法としては、特に制限はなく、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の一般的な方法を適用できる。
【0037】
また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行ってもよく、導電層を軟化させてプレスしやすくするため、加熱しながら行ってもよい。導電層の厚みは、一般的には0.1μm以上、1mm以下であり、好ましくは1μm以上、200μm以下である。
【0038】
<酵素センサー>
酵素センサーにおける電極は、作用極及び対極、あるいは作用極、対極及び参照極の構成で設置される。これらの電極は、異なる非導電性基材上に導電層をそれぞれ形成することで作製する場合や、同一の非導電性基材上にそれぞれの電極について導電層を形成する場合や、同一の非導電性基材上に導電層を設置した後に非導電部位を形成することで電極を作製してもよい。また予め、非導電性基材に金属スパッタなどで金属層を形成した上に、各電極の導電層を形成して電極を作製してもよい。参照極を設置する場合は、例えば導電層の上部へ更に銀や塩化銀などを積層することによって作製される。各電極のリード部は、金属スパッタなどで金属層を形成する方法、導電層を延長して用いる方法、延長した導電層の上部や下部に金属スパッタなどで金属層を更に形成する方法等、が例示できる。
【0039】
酸化還元酵素やメディエーターを設置する方法としては、作用極、対極及び参照極の上部、あるいは作用極の上部及び/または内部に、酸化還元酵素や必要に応じてメディエーターを含ませる方法や、酸化還元酵素や必要に応じてメディエーターを含む層を形成する方法等が挙げられる。酸化還元酵素やメディエーターを含む層を形成する場合、親水性化合物および/または親水性樹脂を混合してもよい。
【0040】
センサーの用途としては、例えば、各種有機物を対象とした有機物センサー、血液や汗、尿、便、涙、唾液、呼気などの生体試料中の有機物や体液を対象とした生体センサー、水分を対象にした水分センサー、果物や食品中の糖等を対象にした食品用センサー、IoTセンサー、大気や河川、土壌など環境中の有機物を対象にした環境センサー、動物や昆虫、植物を対象にした動植物センサー等が挙げられる。生体センサーとしては、例えば、血液中の糖をセンシングする血糖値センサーや、尿中の糖をセンシングする尿糖値センサー、汗中の乳酸値をセンシングする疲労度センサーや熱中症センサー、汗や尿中の水分をセンシングする発汗センサーや排尿センサー等が挙げられる。また、生体向けのウェアラブルセンサーとしての用途として例えば、おむつ内にセンサーを仕込んだ排尿センサーや尿糖値センサー、経皮貼付型の発汗、熱中症センサーなどが挙げられる。
【0041】
<酸化還元酵素>
本発明における酵素としては、反応により電子を授受できる酵素であれば特に制限はなく、検出対象に応じて適宜選択される。糖や有機酸などのオキシダーゼやデヒドロゲナーゼなどが利用できる。中でも、人体の血液や尿などの生体試料に含まれるグルコースを検出対象にできるグルコースオキシダーゼやグルコースデヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。その他、フルクトースを検出対象にできるフルクトースオキシダーゼやフルクトースデヒドロゲナーゼ、乳酸を検出対象にできる乳酸オキシダーゼや乳酸デヒドロゲナーゼが好ましい場合がある。
【0042】
<メディエーター>
酵素には電極に直接電子を伝達できる直接電子移動型(DET型)酵素と直接電子を伝達できない酵素が存在し、DET型以外の酵素の場合には、燃料の酸化によって生じた電子を酵素から電極に伝達する役割を担うメディエーターを併用する必要がある。メディエーターとしては、電極に電子を伝達できる酸化還元物質であれば特に制限はなく、従来公知のものを使用できる。メディエーターの使用方法としては、電極に担持させる方法や電解液に溶解させて使用する方法等がある。メディエーターとしては、テトラチアフルバレン、ハイドロキノンや1,4‐ナフトキノン等のキノン類などの非金属化合物、フェロセン、フェリシアン化物、オスミウム錯体、及びこれら化合物を修飾したポリマー等が例示できる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、特に断らない限り、実施例および比較例における「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0044】
[実施例1]
<酵素センサー電極形成用組成物の作製>
イオン交換水500質量部に水溶性樹脂(B-a:CMCダイセル#1240(ダイセル化学工業社製))5質量部を溶解させ、黒鉛(A-a1:球状天然黒鉛 CGB-50(日本黒鉛社製))72質量部と黒鉛以外の炭素材料(A-b1:ライオナイト EC-200L(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製、比表面積380m2/g)8質量部を添加しミキサーに入れて混合した。次いで、サンドミルにて分散を行った。
次に水分散性樹脂微粒子(B-b:(メタ)アクリル系エマルション W-168(トーヨーケム社製 固形分50質量%))30質量部を添加し、適宜イオン交換水を加えてミキサーで混合し、表1に示す酵素センサー電極形成用組成物(1)を得た。
【0045】
<酵素センサー用電極の作製>
酵素センサー電極形成用組成物(1)を非導電性基材である厚さ100μmのPET基材(ルミラー(東レ社製))上にドクターブレードを用いて塗布した後、加熱乾燥して導電層(1)を得た。
【0046】
前記、導電層(1)を10×30mmに切り出し、下部5×5mm以外をテープでマスキング処理を行った。マスキング処理を行っていない5×5mmの導電層に、メディエーターであるフェロセンのメタノール水溶液と、酵素であるグルコースデヒドロゲナーゼ水溶液をそれぞれ滴下、自然乾燥させてメディエーターと酵素を担持した後、マスキングテープを剥がして酵素センサー用電極(1)を得た。
【0047】
表1に示す組成比を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、それぞれ酵素センサー電極形成用組成物(2)~(18)を得た。
【0048】
実施例1と同様の方法によって実施例2~17および比較例の酵素センサー用電極を得た。
【0049】
<電気化学評価>
上記作製した酵素センサー用電極を作用極として、対極(白金コイル電極)、参照電極(銀/塩化銀電極)が取り付けられた電解槽に、電解液として0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)を入れ、反応基質(センシング対象物)としてD-グルコースを20mMとなるように添加し、0.5V(vsAg/AgCl)の電位を印加して10秒後の電流値を測定した。表1に示すように、比較例における電位印加10秒後の電流値に対する、各実施例における同電流値の百分率(%)で比較した。酵素センサー用電極で測定される電流値が大きい程、センシング対象物質を検出しやすいため感度が高いと言える。
3:160%以上
2:130%以上160%未満
1:100%より大きく130%未満
【0050】
【0051】
いずれの実施例においても、比較例より電流値が高く得られたため、本発明により高感度なセンサーとして利用できる。
【0052】
これは、黒鉛(A-a)に黒鉛以外の炭素材料(A-b)を混合することで、電極の導電性が向上したことと電気化学反応の起きる面積が増大したことに起因すると考える。
また、実施例1~5より、黒鉛以外の炭素材料(A-b)の質量部が大きい程、電流値が向上することが確認された。これは、黒鉛以外の炭素材料(A-b)の質量部が大きいと、良好な導電パスを形成するため電極の導電性が向上することと、黒鉛(A-a)よりも黒鉛以外の炭素材料(A-b)の方が比表面積が大きいため、電気化学反応の起きる面積が増大することに起因すると考える。また、実施例13と実施例14の比較により、黒鉛(A-a)の比表面積が大きい程、電流値が向上することが確認された。これは、電気化学反応の起きる面積が増大したためと考える。また、実施例13と実施例2の比較により、黒鉛以外の炭素材料(A-b)の比表面積が大きい程、電流値が向上することが確認された。これも、電気化学反応の起きる面積が増大したためと考える。また、実施例15~17より、黒鉛(A-a)の比表面積が大きく、かつ、黒鉛以外の炭素材料(A-b)の比表面積も大きいと、どちらか一方が大きい実施例2や実施例14よりも、電流値が向上することが確認された。
【0053】
実施例2の酵素センサー用電極について、5mM、10mM、20mMのグルコースを含む各0.1Mりん酸緩衝液中で、それぞれ0.5V(vsAg/AgCl)の電位を印加して10秒後の電流値を測定したところ、グルコース濃度と電流値に相関が見られた。基質濃度による電流値変化が得られたため、センサーとして活用が可能である。