(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】糖鎖を標識する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240717BHJP
G01N 33/566 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01N33/53 S
G01N33/566
(21)【出願番号】P 2020130643
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】三浦 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】杠 和樹
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122072(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/186063(WO,A1)
【文献】特表2018-501465(JP,A)
【文献】特開2017-025177(JP,A)
【文献】特開2020-030181(JP,A)
【文献】国際公開第2015/075139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 30/00 - 30/96
B01J 20/281 - 20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖を標識する方法であって、
前記糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る工程(A)と、
標識された前記糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)と、を含
み
前記塩基性化合物が水酸化ナトリウムであり、
前記塩基性反応液がアセトニトリルを含む、方法。
【請求項2】
前記塩基性反応液中の前記塩基性化合物の終濃度が、1mM以上20mM以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩基性反応液が水を含む、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(A)の前に、生体分子から遊離させた糖鎖を表面にヒドラジド基を有する担体に捕捉する工程(A’)を更に含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記表面にヒドラジド基を有する担体が、下記式(1)で表される架橋型ポリマー構造を有する化合物からなる担体である、請求項
4に記載の方法。
【化1】
[(式(1)中、R
1,R
2は-O-,-S-,-NH-,-CO-,-CONH-で中断されていてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素鎖を表し、R
3,R
4,R
5はH,CH
3又は炭素数2以上5以下の炭化水素鎖を表し、m:n=99:1~70:30である。]
【請求項6】
前記工程(A)の後且つ前記工程(B)の前に、標識された前記糖鎖を糖鎖親和性担体に吸着させる工程(B’)を更に含み、
前記工程(B)を、標識された前記糖鎖が前記糖鎖親和性担体に捕捉された状態で行う、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
標識化合物、ピコリンボラン及び塩基性化合物を含む、糖鎖を標識するためのキット
であって、
前記糖鎖に、前記標識化合物及び前記ピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る工程(A)と、
標識された前記糖鎖に、前記塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)と、を含み、
前記塩基性化合物が水酸化ナトリウムであり、
前記塩基性反応液がアセトニトリルを含む、糖鎖を標識する方法に用いるためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖鎖を標識する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖、糖タンパク、糖ペプチド、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、核酸、脂質等の生体高分子は、医学、細胞工学、臓器工学等のバイオテクノロジー分野において重要な役割を担っており、これらの物質による生体反応の制御機構を明らかにすることはバイオテクノロジー分野の発展に繋がることになる。
【0003】
糖鎖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、キシロース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、シアル酸等の単糖及びこれらの誘導体がグリコシド結合によって鎖状に結合した分子の総称である。生体高分子の中でも、糖鎖は非常に多様性に富んでおり、天然に存在する生物が有する様々な機能、例えば、細胞間情報伝達、タンパク質の機能や相互作用の調節等に深く関わっていることが明らかになりつつある。
【0004】
糖鎖は生体内でタンパク質や脂質等に結合した複合糖質として存在することが多い。糖鎖を有する生体高分子としては、例えば、細胞の安定化に寄与する植物細胞の細胞壁のプロテオグリカン;細胞の分化、増殖、接着、移動等に影響を与える糖脂質;細胞間相互作用や細胞認識に関与している糖タンパク質等が挙げられる。これらの生体高分子に含まれる糖鎖が、この生体高分子と互いに機能を代行、補助、増幅、調節、あるいは阻害しあいながら高度で精密な生体反応を制御する機構が次第に明らかにされつつある。
【0005】
細胞の分化増殖、細胞接着、免疫、細胞の癌化と糖鎖との関係が明確にされれば、糖鎖工学、医学、細胞工学、臓器工学を密接に関連させて新たな展開を図ることが期待できる。
【0006】
また、例えば、糖タンパク質医薬品では、その糖鎖が生物活性発現等に重要な役割を担っている場合が多い。したがって、糖タンパク質医薬品の品質管理のパラメーターとして、糖鎖の評価はきわめて重要である。特に抗体医薬品については、その糖鎖構造が抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を左右するとの報告がされており、糖鎖構造解析の重要性が高まっている。
【0007】
このような状況のもと、糖鎖構造を迅速、簡便、かつ精度高く解析する方法が求められており、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、核磁気共鳴法、キャピラリー電気泳動法(CE法)、質量分析法、レクチンアレイ法等の多種多様の方法により糖鎖解析が行われている。
【0008】
これらの種々の方法を用いて糖鎖を解析するためには、あらかじめ生体試料中に含まれる、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸等と糖鎖を分離・精製することが必要である。糖鎖の精製や標識化には、時間と工数がかかるため、一度に多種多量の試料を調製することは困難である。
【0009】
この問題を解決する技術として、例えば、特許文献1には、糖鎖を捕捉するための官能基を有するポリマー粒子を利用した糖鎖試料の調製方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、糖鎖を標識するためには、糖鎖を標識化合物と接触させ、還元剤で還元する必要がある。還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウムが使用される場合が多い。しかしながら、シアノ水素化ホウ素ナトリウムは毒性が高い化合物であるため、より安全なピコリンボラン等の還元剤を使用することが望まれている。
【0012】
しかしながら、本願発明者らは、従来の糖鎖標識方法において、還元剤をシアノ水素化ホウ素ナトリウムからピコリンボランに変更すると、HPLC等による糖鎖分析時に、ピークパターンの変動が生じる場合があることを見出した。
【0013】
そこで、本発明は、糖鎖の標識において、還元剤としてピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は以下の態様を含む。
[1]糖鎖を標識する方法であって、前記糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る工程(A)と、標識された前記糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)と、を含む、方法。
[2]前記塩基性反応液中の前記塩基性化合物の終濃度が、1mM以上20mM以下である、[1]に記載の方法。
[3]前記塩基性反応液が有機溶媒を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記塩基性反応液が水を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記工程(A)の前に、生体分子から遊離させた糖鎖を表面にヒドラジド基を有する担体に捕捉する工程(A’)を更に含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記表面にヒドラジド基を有する担体が、下記式(1)で表される架橋型ポリマー構造を有する化合物からなる担体である、[5]に記載の方法。
【化1】
[(式(1)中、R
1,R
2は-O-,-S-,-NH-,-CO-,-CONH-で中断されていてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素鎖を表し、R
3,R
4,R
5はH,CH
3又は炭素数2以上5以下の炭化水素鎖を表し、m:n=99:1~70:30である。]
[7]前記工程(A)の後且つ前記工程(B)の前に、標識された前記糖鎖を糖鎖親和性担体に吸着させる工程(B’)を更に含み、前記工程(B)を、標識された前記糖鎖が前記糖鎖親和性担体に捕捉された状態で行う、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]標識化合物、ピコリンボラン及び塩基性化合物を含む、糖鎖を標識するためのキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、糖鎖の標識において、還元剤として安全性の高いピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実験例1の結果を示すHPLCのクロマトグラムである。
【
図2】実験例2の結果を示すHPLCのクロマトグラムである。
【
図3】実験例3の結果を示すHPLCのクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[糖鎖を標識する方法]
1実施形態において、本発明は、糖鎖を標識する方法であって、前記糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る工程(A)と、標識された前記糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)とを含む方法を提供する。
【0018】
実施例において後述するように、本実施形態の方法によれば、糖鎖の標識において、還元剤として安全性の高いピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得ることができる。
【0019】
まず、工程(A)において、糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る。糖鎖の標識方法としては、還元的アミノ化法と交換反応法が挙げられるが、還元的アミノ化法を用いることが好ましい。
【0020】
還元的アミノ化法においては、アミノ基を有する標識化合物により、糖鎖を標識する。反応系においては、酸と有機溶媒の混合溶媒、又は、酸と水と有機溶媒の混合溶媒を用いることができる。
【0021】
酸としては、特に制限されず、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸を用いることができる。中でも、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸が好ましく、酢酸、トリフルオロ酢酸がより好ましい。
【0022】
有機溶媒としては前記の酸を溶解するものであれば特に制限されず、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が好適に用いられる。
【0023】
酸と有機溶媒の混合溶媒の場合、酸と有機溶媒の混合比率は、好ましくは1:99~50:50、より好ましくは5:95~50:50、最も好ましくは10:90~50:50である。
【0024】
また、酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、有機溶媒の比率に関わらずpH測定した際に得られた結果が、酸性から中性の条件であることが好ましく、好ましくはpH2以上9以下、より好ましくは2以上8以下であり、さらに好ましくは2以上7以下である。
【0025】
酸と有機溶媒の混合溶媒の場合も酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合も、糖鎖を標識する反応温度は、4℃以上90℃以下が好ましく、25℃以上90℃以下がより好ましく、40℃以上90℃以下が更に好ましい。
【0026】
アミノ基を有する標識化合物は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有することが好ましく、具体的な標識化合物としては、8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonate、8-Aminonaphthalene-1,3,6-trisulphonate、7-amino-1,3-naphtalenedisulfonicacid、2-Amino-9(10H)-acridinone、5-Aminofluorescein、Dansylethylenediamine、2-Aminopyridine、7-Amino-4-methylcoumarin、2-Aminobenzamide、2-Aminobenzoic acid、3-Aminobenzoic acid、7-Amino-1-naphthol、3-(Acetylamino)-6-aminoacridine、2-Amino-6-cyanoethylpyridine、Ethyl p-aminobenzoate、p-Aminobenzonitrile、7-aminonaphthalene-1,3-disulfonic acid、Procainamideから選択される少なくとも1つであることが好ましく、中でも2-aminobenzamideであることが好ましい。
【0027】
標識反応液中の標識化合物の濃度は1mM以上10M以下であることが好ましく、10mM以上10M以下であることがより好ましく、100mM以上3M以下であることが更に好ましい。
【0028】
本実施形態の方法では、糖鎖の標識反応における還元剤としてピコリンボランを使用する。ピコリンボランは、従来使用されてきたシアノ水素化ホウ素ナトリウムと比較して安全である。
【0029】
標識反応御液中のピコリンボランの濃度は、1mM以上10M以下であることが好ましく、10mM以上10M以下であることがより好ましく、100mM以上2M以下であることが更に好ましい。
【0030】
糖鎖の標識における反応時間は、10分以上24時間以下、好ましくは10分以上8時間以下、より好ましくは10分以上3時間以下である。
【0031】
実施例において後述するように、本願発明者らは、糖鎖の標識において、還元剤をシアノ水素化ホウ素ナトリウムからピコリンボランに変更すると、HPLC等による糖鎖分析時に、ピークパターンの変動が生じる場合があることを見出した。質量分析の結果から、ピークパターンの変動の原因として、副産物としてラクトン構造を有する糖鎖が生成されることが考えられた。
【0032】
発明者らは更に、標識された糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させることにより、糖鎖のラクトン構造を解消し、還元剤としてピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得ることができることを明らかにした。
【0033】
すなわち、本実施形態の方法は、上述した工程(A)の後に、標識された糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)を含むものである。
【0034】
塩基性反応液中の、塩基性化合物の終濃度は、1mM以上20mM以下であることが好ましく、2mM以上10mM以下であることがより好ましい。これにより、より高収率で副産物を元の糖鎖に戻すことができる。
【0035】
塩基性化合物としては、入手の簡便性から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等であることが好ましい。
【0036】
塩基性反応液は、有機溶媒を含むことが好ましい。これにより、標識した糖鎖との相溶性が向上する。有機溶媒としては、アセトニトリル;メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノールに代表されるアルコール等が挙げられるが、アセトニトリルを含むことが好ましい。
【0037】
塩基性反応液は、水を含むことが好ましい。これにより、塩基性反応液中の塩基性化合物の溶解性が向上する。
【0038】
より具体的な塩基性反応液としては、アセトニトリル及び100mM NaOHの混合溶液(アセトニトリル:100mM NaOH(体積比)=95:5)が挙げられる。
【0039】
本実施形態の方法において、標識される糖鎖は生体に由来する試料(生体試料)に含まれる糖鎖であってもよい。生体試料としては、例えば、全血、血清、血漿、尿、唾液、細胞、組織、ウイルス、植物組織等が挙げられる。また、生体試料として、精製された糖タンパク質を用いてもよいし、未精製の糖タンパク質を用いてもよい。生体試料は、脱脂、脱塩、タンパク質分画、熱変性等の方法により前処理されていてもよい。
【0040】
糖鎖遊離手段を用いて、生体試料中の糖鎖を含む生体分子(例えば、糖タンパク質)から糖鎖を遊離させることができる。糖鎖遊離手段としては、N-グリコシダーゼ又はO-グリコシダーゼを用いたグリコシダーゼ処理、ヒドラジン分解、アルカリ処理によるβ脱離等の方法を用いることができる。N型糖鎖の分析を行う場合は、N-グリコシダーゼを用いる方法が好ましい。グリコシダーゼ処理に先立って、トリプシンやキモトリプシンなどを用いてプロテアーゼ処理を行ってもよい。
【0041】
本実施形態の方法において、標識する糖鎖は、表面にヒドラジド基を有する担体を用いて捕捉したものであってもよい。すなわち、本実施形態の方法は、工程(A)の前に、生体分子から遊離させた糖鎖を表面にヒドラジド基を有する担体に捕捉する工程(A’)を更に含んでいてもよい。
【0042】
この場合、本実施形態の方法は、生体分子から遊離させた糖鎖を表面にヒドラジド基を有する担体に捕捉する工程(A’)と、糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された前記糖鎖を得る工程(A)と、標識された前記糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)とを含むものになる。
【0043】
糖鎖は、水溶液等の溶液中で、環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡状態にある。ヒドラジド基は、アルデヒド型の糖鎖のアルデヒド基と反応し、特異的且つ安定な結合を形成する。その結果、糖鎖を担体に捕捉することができる。
【0044】
ヒドラジド基(-NHNH2)を有する化合物又は担体は、接触させる糖鎖がヒドラジド基と相互作用可能であれば特に限定されず、低分子化合物、固相担体、ポリマー粒子、ミセル、リポソーム、可溶性ポリマー等のいずれの形態であってもよい。
【0045】
これらのうち、ポリマー粒子としては、固体粒子やゲル粒子を好適に用いることができる。このようなポリマー粒子を用いれば、ポリマー粒子に糖鎖を捕捉させたのち、遠心分離やろ過等の手段によって、ポリマー粒子を容易に回収することができる。
【0046】
また、ポリマー粒子をカラムに充填して用いることも可能である。カラムに充填して用いる方法は、特に連続操作化の観点から重要となる。また、反応容器としてフィルタープレート(例えば、ミリポア社製のMultiScreen Solvinert Filter Plate)を用いることにより、複数のサンプルを同時に処理することが可能となる。この場合、例えば、ゲルろ過に代表されるカラム操作による従来の精製手段と比較して、糖鎖精製のスループットが大幅に向上される。また、ポリマー粒子として磁性体ビーズを用いれば、磁力を使って容器壁面等にビーズを集積できるため、ビーズの洗浄を容易に行うことができる。
【0047】
ポリマー粒子の形状は特に限定されないが、球状又はそれに類する形状が好ましい。ポリマー粒子が球状の場合、平均粒径は0.05μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.05μm以上200μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上200μm以下であることが更に好ましく、0.1μm以上100μm以下であることが特に好ましい。
【0048】
ポリマー粒子の平均粒径が下限値以上であることにより、ポリマー粒子をカラムに充填して用いる際、通液性を良好に維持することができ、大きな圧力を加える必要がなくなる。また、ポリマー粒子を遠心分離やろ過で回収することが容易となる。また、ポリマー粒子の平均粒径が上限値以下であることにより、ポリマー粒子と試料溶液の接触面積を確保することができ、糖鎖捕捉の効率を高めることができる。また、ピペット等でポリマー粒子を吸い上げることが容易となる。
【0049】
表面にヒドラジド基を有する担体としては、下記式(1)で表される架橋型ポリマー構造を有する化合物からなる担体が挙げられる。
【0050】
【0051】
式(1)中、R1,R2は-O-,-S-,-NH-,-CO-,-CONH-で中断されていてもよい炭素数1以上20以下の炭化水素鎖を表し、R3,R4,R5はH,CH3又は炭素数2以上5以下の炭化水素鎖を表す。また、m,nはモノマーユニット数を表し、mとnの比はm:n=99:1~70:30である。
【0052】
上記式(1)で表される化合物からなる担体のより具体的な例としては、下記式(2)で表される化合物からなる担体が挙げられる。下記式(2)で表される化合物からなる担体(ポリマー粒子)としては、市販の担体(BlotGlyco(登録商標)、品番「BS-45407」、住友ベークライト株式会社製)を好適に使用することができる。
【0053】
【0054】
式(2)中、m,nはモノマーユニット数を表し、mとnの比はm:n=99:1~70:30である。
【0055】
表面にヒドラジド基を有する担体に糖鎖を捕捉する際の反応系のpHは、2以上9以下であることが好ましく、2以上7以下であることがより好ましく、2以上6以下であることが更に好ましい。pH調整のためには、各種緩衝液を用いることができる。
【0056】
また、糖鎖を捕捉する際の溶媒としては、酸と有機溶媒の混合溶媒を用いることもできる。酸と有機溶媒の混合溶媒を使用する場合、酸としては、特に制限されず、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸が挙げられる。なかでも、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸であることが好ましく、酢酸、トリフルオロ酢酸であることがより好ましい。
【0057】
また、有機溶媒としては、糖鎖と上記の酸を溶解するものであれば特に制限されない。糖鎖の捕捉時に乾固すると捕捉効率が上昇することが多いため、アセトニトリル等の比較的低沸点の有機溶媒が好適に用いられる。
【0058】
酸と有機溶媒の混合比率(体積比)は、0.1:99.9~10:90であることが好ましく、0.5:99.5~5:95であることがより好ましく、1:99~5:95であることが更に好ましい。
【0059】
糖鎖捕捉時の温度は、4℃以上90℃以下であることが好ましく、30℃以上90℃以下であることがより好ましく、30℃以上80℃以下であることが更に好ましく、40℃以上80℃以下であることが特に好ましい。糖鎖を捕捉するための反応時間は適宜設定することができる。表面にヒドラジド基を有する担体をカラムに充填して、糖鎖を含む試料溶液を通過させることにより、糖鎖を捕捉してもよい。
【0060】
続いて、糖鎖と結合した(糖鎖を捕捉した)担体を洗浄する。これにより、担体に捕捉された物質のうち、糖鎖以外の物質(非特異的に吸着した物質)を除去することができる。
【0061】
糖鎖以外の物質を除去する方法としては、疎水結合を解離する能力のあるカオトロピック試薬であるグアニジン水溶液で洗浄する方法や、純水や水溶性緩衝液(例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液等)で洗浄する方法を用いることができる。
【0062】
洗浄条件は、温度が4℃以上40℃以下であることが好ましく、洗浄時間が10秒以上30分以下であることが好ましい。洗浄方法としては、担体を洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことが挙げられる。
【0063】
具体的には、遠沈管やチューブに担体を入れ、洗浄液を加え、振とうした後、遠心操作により担体を沈殿させて、上清を除去する操作を繰り返すことにより洗浄するとよい。
担体の沈殿は自然沈降、又は、遠心分離により行うことができる。洗浄操作は3回以上6回以下行うことが好ましい。担体として磁性ビーズを用いる場合には、遠心操作が不要となるため簡便である。
【0064】
また、チューブ状の容器であって、底面部に、液体を透過可能で担体が不透過である孔径を有するフィルターを装着したフィルターチューブを用いることも可能である。フィルターチューブに担体を入れて使用することで、洗浄に要した洗浄液を、フィルターを介して除去することが可能となり、上述した遠心操作後の上清除去の工程が不要となるため、作業性の向上を図ることができる。
【0065】
また、6ウェル~384ウェルのマルチウェルプレートの底部にフィルターを装着したものが各種市販されており、これらのプレートを用いることでハイスループット化することが可能である。特に96ウェルマルチウェルプレートは、溶液分注機器、吸引除去システム、及び、プレートの搬送システム等が開発されており、ハイスループット化に最適である。
【0066】
糖鎖捕捉反応を行った後、カラムに洗浄溶液を通して糖鎖捕捉反応から連続的に洗浄処理を行ってもよい。また、マルチウェルプレートを用いた場合には、ろ過操作又は遠心操作により糖鎖を捕捉した担体以外の物質を除去してもよい。
【0067】
表面にヒドラジド基を有する担体上の余剰のヒドラジド基は、例えば、無水酢酸等を利用してキャッピングすることができる。
【0068】
工程(A’)を行った場合には、工程(A’)の後工程(A)の前に、表面にヒドラジド基を有する担体に捕捉された糖鎖を遊離させることが好ましい。糖鎖の遊離は、酸処理により行うことができる。酸処理は、糖鎖を捕捉した担体に、酸と有機溶媒の混合溶媒、又は、酸と水と有機溶媒の混合溶媒を接触させることにより行うことができる。
【0069】
酸と水と有機溶媒の混合溶媒の場合、水の割合(体積比)は、0.1%以上90%以下であることが好ましく、0.1%以上80%以下であることがより好ましく、0.1%以上50%以下であることが更に好ましい。
【0070】
水の代わりに水性緩衝液を用いてもよい。水性緩衝液中の緩衝剤の濃度は、0.1mM以上1M以下であることが好ましく、0.1mM以上500mM以下であることがより好ましく、1mM以上100mM以下であることが更に好ましい。
【0071】
酸と有機溶媒の混合溶媒、又は、酸と水と有機溶媒の混合溶媒のpHは、2以上9以下であることが好ましく、2以上7以下であることがより好ましく、2以上6以下であることが更に好ましい。弱酸性から中性付近で糖鎖の遊離反応を行うことにより、例えば、強酸である10%トリフルオロ酢酸処理による糖鎖の遊離反応と比較して、シアル酸残基の脱離等の糖鎖の加水分解を抑制することができる。
【0072】
酸と有機溶媒の混合溶媒、又は、酸と水と有機溶媒の混合溶媒における酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、クエン酸、リン酸、硫酸があげられる。中でも酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸、リン酸が好ましく、酢酸、トリフルオロ酢酸が更に好ましい。
【0073】
酸処理の温度は4℃以上90℃以下であることが好ましく、25℃以上90℃以下であることがより好ましく、40℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。また、酸処理の時間は10分以上24時間以下であることが好ましく、10分以上8時間以下であることがより好ましく、10分以上3時間以下であることが更に好ましい。
【0074】
酸処理は、糖鎖を効率よく遊離させる観点から、開放系で行って溶媒を完全に蒸発させることが好ましい。
【0075】
本実施形態の方法において、工程(A)を実施した後の反応物には、標識された糖鎖以外に、未反応の標識化合物、還元剤、塩類等が存在する。そこで、標識された糖鎖の分析前にこれらの物質を除去することが好ましい。
【0076】
除去方法としては、シリカカラム等の糖鎖親和性担体を用いた固相抽出による除去、ゲル濾過による除去、イオン交換樹脂による除去等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよいが、シアル酸の離脱を防ぐために使用する溶媒のpHは中性付近であることが好ましい。この結果、標識された糖鎖以外の物質を除去した標識糖鎖試料を調製することが可能になる。
【0077】
なかでも、標識された糖鎖を含む溶液を、糖鎖親和性担体に吸着させて洗浄し、その後糖鎖親和性担体から標識された糖鎖を溶出することが好ましい。そして、洗浄液として塩基性化合物を含む塩基性反応液を用いることが好ましい。
【0078】
つまり、本実施形態の方法は、工程(A)の後且つ工程(B)の前に、標識された糖鎖を糖鎖親和性担体に吸着させる工程(B’)を更に含み、工程(B)を、標識された前記糖鎖が前記糖鎖親和性担体に捕捉された状態で行うものであってもよい。
【0079】
すなわち、本実施形態の方法は、糖鎖に、標識化合物及びピコリンボランを含む標識反応液を接触させ、標識された糖鎖を得る工程(A)と、標識された糖鎖を糖鎖親和性担体に吸着させる工程(B’)と、標識された糖鎖が糖鎖親和性担体に捕捉された状態で、標識された糖鎖に、塩基性化合物を含む塩基性反応液を接触させる工程(B)とを含むものであってもよい。
【0080】
実施例において後述するように、発明者らは、標識された糖鎖が糖鎖親和性担体に捕捉された状態で工程(B)を実施することにより、還元剤としてピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得ることができることを明らかにした。
【0081】
すなわち、発明者らは、標識された糖鎖を、塩基性化合物を含む塩基性反応液で洗浄する操作が、糖鎖の標識時に生成した副反応物(例えば、糖鎖の一部がラクトン化したもの)をもとの形態に戻すのに十分であることを明らかにした。これにより、標識された糖鎖からの夾雑物の除去と工程(B)を同時に行うことができるため、簡便で効率的である。
【0082】
糖鎖親和性担体としては、例えばシリカを含有する担体が挙げられ、シリカのみからなるものであってもよく、シリカ-有機物ハイブリッド型であってもよい。また、その形状も特に制限されず、粒子状、板状、繊維状、多孔質状等のいずれであってもよい。また、シリカは、シラノール基を有するシリカであってもよいし、アミノプロピル基等で表面が修飾されたものであってもよい。
【0083】
標識された糖鎖を糖鎖親和性担体に吸着させる際の試料溶液は、95体積%を超える有機溶媒を含む溶液であることが好ましく、96体積%以上の有機溶媒を含む溶液であることがより好ましく、98体積%以上の有機溶媒を含む溶液であることが更に好ましく、99体積%以上の有機溶媒を含む溶液であることが特に好ましい。
【0084】
有機溶媒としては、アセトニトリル、ヘキサン、酢酸エチル、塩化メチレン、テトラヒドロフラン等を用いることができるが、アセトニトリルが特に好ましい。
【0085】
上記操作によって糖鎖親和性担体に標識された糖鎖を吸着させた後、標識された糖鎖以外の不要物を洗浄除去することで、標識された糖鎖を精製することができる。
【0086】
また、洗浄液として、上述した、塩基性化合物を含む塩基性反応液を用いることにより、工程(B)を同時に実施することができる。また、実施例において後述するように、驚くべきことに、塩基性反応液による洗浄処理により、標識された糖鎖の回収量の増加が認められた。したがって、HPLC等の分析による標識糖鎖のピーク等のシグナルが大きくなる。本現象の原因は不明であるが、糖鎖親和性担体に吸着した糖鎖を塩基性反応液で洗浄することにより、糖鎖が糖鎖親和性担体から脱離しやすくなることが考えられる。
【0087】
以上の工程により、糖鎖を標識することができる。標識された糖鎖は、質量分析(例えば、LC-MS、MALDI-TOF MS等)、クロマトグラフィ(例えば、HPLC、HPAE-PAD等)、電気泳動(例えば、キャピラリー電気泳動等)等の公知の方法により分析することができる。糖鎖の分析においては、必要に応じて、各種データベース(例えば、GlycoMod、Glycosuite、SimGlycan等)を参照することができる。
【0088】
[キット]
1実施形態において、本発明は、標識化合物、ピコリンボラン及び塩基性化合物を含む、糖鎖を標識するためのキットを提供する。
【0089】
本実施形態のキットにおいて、標識化合物、ピコリンボラン、塩基性化合物については、上述したものと同様である。本実施形態のキットは、上述した糖鎖の標識方法を実施する用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0091】
[実験例1]
(仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖分析1)
仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖を2-aminobenzamide(2-AB)で標識しHPLCで分析した。還元剤としてピコリンボランを含む標識反応液を使用した。また、後述するように、標識された糖鎖をクリーンアップカラムに吸着させて、塩基性反応液を接触させた後に、純水により、クリーンアップカラムから溶出させて回収した。
【0092】
《試料の予備処理》
仔ウシ血清由来Fetuin 1mgを100mM重炭酸アンモニウム50μLに溶解させた後、120mMジチオスレイトール(DTT)を5μL加え、60℃で30分間反応させた。反応終了後、123mM ヨードアセトアミド(IAA)10μLを加えて遮光下、室温で1時間反応させた。続いて400Uのトリプシンによってプロテアーゼ処理し、タンパク質部分をペプチド断片化した。続いて、反応溶液を90℃で5分処理した後、5UのN-グリコシダーゼを反応させてN型糖鎖をペプチドから切り出した。
【0093】
《糖鎖の捕捉及び洗浄》
市販の糖鎖精製ラベル化キット(BlotGlyco(登録商標)、品番「BS-45407」、住友ベークライト株式会社製)を使用した。キットには、表面にヒドラジド基を有する担体(BlotGlyco(登録商標)ビーズ)が含まれていた。BlotGlyco(登録商標)ビーズは、下記式(2)で表される架橋型ポリマー構造を有する化合物であった。
【0094】
【化4】
[式(2)中、m,nはモノマーユニット数を表し、mとnの比はm:n=99:1~70:30である。]
【0095】
まず、BlotGlyco(登録商標)ビーズ5mgが入ったディスポカラムに、予備処理済の仔ウシ血清由来Fetuinの懸濁液20μL及び180μLの2%酢酸/アセトニトリル溶液を加え、80℃で1時間反応させた。反応は開放系で行い、反応終了時には溶媒が完全に蒸発し、カラムの内容物が乾固した状態であることを目視で確認した。
【0096】
続いて、グアニジン溶液、純水、メタノール、1%トリエチルアミン-メタノール溶液で順次カラムを洗浄後、10%無水酢酸/メタノールを添加し、室温で30分間反応させ、未反応のヒドラジド基をキャッピングした。キャッピング後、純水でカラムを洗浄した。
【0097】
《糖鎖の遊離》
続いて、カラムに純水20μL及び2%酢酸/アセトニトリル溶液180μLを加え、70℃で1.5時間反応させた。反応は開放系で行い、反応終了時には溶媒が完全に蒸発し、カラムの内容物が乾固した状態であることを目視で確認した。
【0098】
《糖鎖の標識》
続いて、カラムに、2-aminobenzamide(2-AB)及びピコリンボランを、それぞれ終濃度が2.6M及び1.7Mになるように、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び水の混合溶媒(酢酸:DMSO:水(体積比)=3:1:2)に溶解させて調製した標識反応液50μLを添加し、50℃で1時間反応させた。
【0099】
《余剰試薬の除去》
続いて、カラムを遠心して、標識された糖鎖と未反応の2-ABを含む反応溶液50μLを回収した。続いて、回収した反応溶液をアセトニトリルで20倍に希釈し、糖鎖精製ラベル化キット(BlotGlyco(登録商標)、品番「BS-45407」、住友ベークライト株式会社製)に含まれるクリーアップカラム(シリカゲル担体)に添加し、クリーンアップカラムに標識糖鎖を吸着させた。
【0100】
続いて、洗浄液でクリーンアップカラムを2回洗浄した。洗浄液として、アセトニトリル及び100mM NaOHの混合溶液である塩基性反応液(アセトニトリル:100mM NaOH(体積比)=95:5)を使用した。続いて、純水50μLで標識された糖鎖を溶出し、回収した。
【0101】
《糖鎖の分析》
続いて、標識された糖鎖をHPLCで分析した。アミド系カラム(ACQUITY UPLC(R)Glycan BEH Amide,1.7μm,2.1×150mm)に標識された糖鎖をアプライし、励起波長330nm、蛍光波長420nmで測定した。
図1は、2-ABで標識された糖鎖を検出した結果を示すHPLCのクロマトグラムである。横軸は溶出時間を示し、縦軸はシグナル強度(相対値)を示す。
【0102】
[実験例2]
(仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖分析2)
仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖を2-ABで標識しHPLCで分析した。余剰試薬の除去で使用する洗浄液を変更した点以外は実験例1と同様にして、標識された糖鎖をHPLCで分析した。
【0103】
具体的には、洗浄液として、アセトニトリル及び100mM NaOHの混合溶液である塩基性反応液(アセトニトリル:100mM NaOH(体積比)=95:5)の代わりに、アセトニトリル及び水の混合溶液(アセトニトリル:水(体積比)=95:5)を使用した。
【0104】
図2は、2-ABで標識された糖鎖を検出した結果を示すHPLCのクロマトグラムである。横軸は溶出時間を示し、縦軸はシグナル強度(相対値)を示す。
【0105】
[実験例3]
(仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖分析3)
仔ウシ血清由来Fetuinの糖鎖を2-ABで標識しHPLCで分析した。
糖鎖の標識で使用する標識反応液、及び、余剰試薬の除去で使用する洗浄液を変更した点以外は実験例1と同様にして、標識された糖鎖をHPLCで分析した。
【0106】
具体的には、標識反応液として、2-AB及びピコリンボランを、それぞれ終濃度が2.6M及び1.7Mになるように、酢酸、DMSO及び水の混合溶媒(酢酸:DMSO:水(体積比)=3:1:2)に溶解させて調製した標識反応液の代わりに、2-AB及びシアノ水素化ホウ素ナトリウムを、それぞれ終濃度が0.35M及び1Mになるように、酢酸及びDMSOの混合溶媒(酢酸:DMSO(体積比)=30:70)に溶解させて調製した標識反応液を使用した。
【0107】
また、洗浄液として、アセトニトリル及び100mM NaOHの混合溶液である塩基性反応液(アセトニトリル:100mM NaOH(体積比)=95:5)の代わりに、アセトニトリル及び水の混合溶液(アセトニトリル:水(体積比)=95:5)を使用した。
【0108】
図3は、2-ABで標識された糖鎖を検出した結果を示すHPLCのクロマトグラムである。横軸は溶出時間を示し、縦軸はシグナル強度(相対値)を示す。
【0109】
図1及び
図3に示すように、実験例1と実験例3では同等のピークとなっており、安全な還元剤であるピコリンボランを使用しても、従来の還元剤であるシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用したときと同等のピークパターンを示すことが明らかとなった。
【0110】
さらに、驚くべきことに、
図1では、
図3と比較して、ピーク面積が大きいことが明らかとなった。この原因は不明であるが、クリーンアップカラムで使用した洗浄液の違いによることが考えられた。すなわち、実験例1で洗浄液として使用した塩基性反応液が、クリーンアップカラムからの糖鎖の溶出を促進している可能性が考えられた。
【0111】
一方、
図2では、矢印で示したピークパターンが、
図1及び
図3と異なっていた。質量分析の結果、
図2の矢印で示したピークは、ラクトン構造を有する糖鎖であることが明らかとなった。
【0112】
すなわち、還元剤としてピコリンボランを使用すると、副産物としてラクトン構造を有する糖鎖が生成されるが、洗浄液として塩基性反応液を使用することにより、ラクトン化した糖鎖のラクトン構造を解消し、従来法による
図3と同等の糖鎖プロファイルパターンに戻すことができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明により、糖鎖の標識において、還元剤として安全性の高いピコリンボランを使用した場合であっても、還元剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを使用した場合と同等の分析結果を得る方法を提供することができる。