(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】慣性センサー、及び慣性センサーの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01P 15/08 20060101AFI20240717BHJP
G01P 15/125 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G01P15/08 102D
G01P15/08 101B
G01P15/125 Z
(21)【出願番号】P 2020132231
(22)【出願日】2020-08-04
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】篠村 史隆
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 照夫
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-032088(JP,A)
【文献】特開2002-098711(JP,A)
【文献】特開平07-128365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0298910(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 ~ 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方の面に設けられ、前記基板に対し揺動可能な可動体と、
半導体で構成され、前記基板との間で前記可動体を収納する蓋体と、
前記蓋体において前記可動体に対向する第1面に設けられ、前記可動体の揺動範囲を制
限する突起と、
を備え、
前記突起の前記可動体に対向する先端面と、前記突起の側面とは、曲面を介して接続さ
れて
おり、
前記突起の断面形状の幅が、前記先端面から前記第1面に向かうに従って細くなってい
ることを特徴とする慣性センサー。
【請求項2】
請求項1に記載の慣性センサーであって、
前記先端面は、前記第1面に略平行に形成されていることを特徴とする慣性センサー。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の慣性センサーであって、
前記蓋体は、前記基板に接合される接合面を有し、
前記第1面は、前記接合面よりも前記基板から離れた位置に形成され、
前記先端面は、前記第1面と前記接合面の間に位置することを特徴とする慣性センサー
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慣性センサー、及び慣性センサーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンMEMS(Micro Electro Mechanical System)や水晶微細加工技術を用いて製造された慣性センサーユニットなどの機能素子が開発されている(特許文献1、2参照)。
このような機能素子として、例えば、特許文献1には、基板と蓋体とで挟まれた空間に可動体を配置してZ軸方向の加速度を検出可能なシーソー型の加速度センサーが記載されている。この加速度センサーにおいて、基板には、可動体が基板に接触することを抑制するための突起が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるような突起を蓋体に設けることも考えられる。しかしながら、蓋体が、特許文献2に示すようにシリコン基板で構成される場合、突起の側面と先端面との面方位が不連続となるため、突起が可動体に接触した際に突起にクラックやチッピング等の破損が発生する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
慣性センサーは、基板と、前記基板の一方の面に設けられ、前記基板に対し揺動可能な可動体と、半導体で構成され、前記基板との間で前記可動体を収納する蓋体と、前記蓋体において前記可動体に対向する第1面に設けられ、前記可動体の揺動範囲を制限する突起と、を備え、前記突起の前記可動体に対向する先端面と、前記突起の側面とは、曲面を介して接続されている。
【0007】
慣性センサーの製造方法は、基板と、前記基板の一方の面に設けられ、前記基板に対し揺動可能な可動体と、半導体で構成され、前記基板との間で前記可動体を収納する蓋体と、前記蓋体において前記可動体に対向する第1面に設けられ、前記可動体の揺動範囲を制限する突起と、を含む慣性センサーの製造方法であって、前記蓋体の一方の面をエッチングして前記突起を形成する工程と、前記突起の先端面と、前記突起の側面との間に曲面を形成する工程と、前記基板と前記蓋体とを接合する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る加速度センサーユニットの概略構成を示す側面図。
【
図6】実施形態1に係る加速度センサーユニットの製造工程を説明するフローチャート。
【
図8】凹部の形成領域を設定する工程を示す断面図。
【
図9】凹部の形成領域を設定する工程を示す断面図。
【
図10】凹部の形成領域を設定する工程を示す断面図。
【
図18】蓋体と基板とを接合する工程を示す断面図。
【
図19】実施形態2に係る加速度センサーユニットの概略構成を示す平面図。
【
図20】加速度センサー素子の概略構成を示す平面図。
【
図21】加速度センサー素子の概略構成を示す平面図。
【
図25】変形例に係る加速度センサー素子を示す断面図。
【
図26】変形例に係る加速度センサー素子を示す断面図。
【
図27】変形例に係る加速度センサーユニットの製造工程を示す断面図。
【
図28】変形例に係る加速度センサーユニットの製造工程を示す断面図。
【
図29】変形例に係る加速度センサーユニットの製造工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.実施形態1
実施形態1に係る慣性センサーの一例として、Z方向の加速度を検知することのできる加速度センサーユニット1を例示し、
図1~
図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態の加速度センサーユニット1の概略構成を示す側面図である。
図2は、加速度センサーユニット1の平面図である。
図3は、
図2のA-A線での断面図である。
図4は、突起35の斜視図である。
図5は、突起35の断面図である。
なお、
図2では、内部を視認できるように、蓋体30の図示を省略している。また、上記各図では、説明の便宜上、配線の一部を省略してあり、分かりやすくするために、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。また、図中のX軸、Y軸、Z軸は、互いに直交する座標軸であり、X軸に沿う方向を「X方向」、Y軸に沿う方向を「Y方向」、Z軸に沿う方向を「Z方向」とし、それぞれ矢印の方向がプラス方向である。また、Z方向のプラス方向を「上方」、Z方向のマイナス方向を「下方」とも言う。
【0010】
本実施形態に係る加速度センサーユニット1は、
図1、
図2、及び
図3に示すように、基板10と、蓋体30と、可動体としての加速度センサー素子21zと、を含んで構成されている。加速度センサー素子21zは、基板10に垂直なZ方向の加速度Azを検知可能な加速度センサー素子である。
【0011】
基板10及び蓋体30は、それぞれ、板状をなし、X軸及びY軸を含む平面であるXY平面に沿って配置されている。つまり、基板10と蓋体30とは、略平行であり、Z軸に沿って見た場合に、互いに重なりあっている。
【0012】
基板10の構成材料としては、特に限定されないが、絶縁性を有する材料を用いることが好ましく、具体的には、高抵抗なシリコン材料、ガラス材料を用いるのが好ましく、例えば、アルカリ金属イオンを一定量含むガラス材料、例えば、パイレックス(登録商標)ガラスのような硼珪酸ガラスを用いるのが好ましい。このような基板10を用いれば、後述するように加速度センサー素子21zがシリコンを主材料として構成されている場合、基板10と加速度センサー素子21zとを陽極接合することができ、加速度センサー素子21zを強固に基板10に固定することができる。よって、剥離が発生し難い高信頼性の加速度センサーユニット1を提供できる。それ以外に、石英基板、水晶基板、或いはSOI(Silicon on Insulator)基板であっても良い。
【0013】
また、蓋体30の構成材料としては、半導体材料が望ましい。本実施例では、一例として、単結晶シリコンを用いることとする。
【0014】
基板10と蓋体30とは、接合部材40を介し接合されている。本実施形態では、接合部材40として、高温酸化物を主成分としたガラスフリット接着剤を用いることとする。ここで、高温酸化物とはB2O3、ZnO2、Al2O3、Bi2O3、SiO2等である。ガラスフリット接着剤による接合は、コストとプロセスの簡便性において優位性のある方法である。基板10と蓋体30との接合方法については、本実施形態のようにガラスフリット接着剤を介した接合の他、他の接着剤を用いた接合、加熱による直接接合、陽極接合、共晶接合、表面活性化接合、溶接、などが考えられる。
【0015】
基板10の一方の面には、加速度センサー素子21zが設けられている。具体的には、基板10には、蓋体30側となる上方に開放する凹部14が設けられている。凹部14には、凹部14の内底面14aから突出したマウント部M91が設けられており、加速度センサー素子21zを支持している。凹部14を囲う基板10の外周には、蓋体30と接合される接合面11aが形成されている。また、基板10には、加速度センサーユニット1の電気的信号を取り出すための電極端子50が形成されている。電極端子50については後述する。なお、基板10の凹部14が省略され、基板10上に加速度センサー素子21zが設けられてもよい。
【0016】
蓋体30には、基板10側となる下方に開放する凹部34が設けられている。蓋体30の凹部34は、基板10の凹部14に対向するように形成され、凹部34の内底面34aと、凹部14の内底面14aとは、ともにXY平面に略平行である。また、凹部34の外周には、基板10と接合する際の接合面36aが形成されている。この構成によって、基板10と蓋体30とを接合した際に、基板10の凹部14と蓋体30の凹部34とによって、内部空間であるキャビティー20が形成される。加速度センサー素子21zは、このキャビティー20内に配置される。つまり、加速度センサー素子21zは、基板10と蓋体30との間に収納されている。なお、凹部34の内底面34aは、第1面に相当する。
【0017】
本実施形態において、キャビティー20内は、空気で充填されるものとするが、充填する気体は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスでもよい。また、キャビティー20内の圧力条件については、本実施形態では大気圧とするが、大気圧より大きくても小さくてもよい。
【0018】
図2に示すように、加速度センサー素子21zは、可動部91と、梁部92と、固定部93と、を備えており、これらは一体的に形成されている。本実施形態における加速度センサー素子21zの材料は単結晶シリコンとするが、他に多結晶シリコン、水晶などで形成することもできる。
【0019】
可動部91は、XY平面に略平行でY軸に沿って延在する板状の部材であり、その内側には開口が形成されている。梁部92は、この開口を横断するようにX軸に沿って形成された細長い部位であり、固定部93は、梁部92の略中央に形成されている。
【0020】
固定部93は、マウント部M91上に固定され、可動部91は、梁部92を介して固定部93に接続されている。可動部91は、梁部92により構成される回動軸L9まわりにシーソー揺動するようになっている。つまり、可動部91は、基板10に対して揺動可能になっている。また、可動部91は、回動軸L9を挟む両側に2つの可動電極を有している。具体的には、可動部91は、平面視で、回動軸L9の一方側である+Y側に位置する可動検出電極911と、回動軸L9の他方側である-Y側に位置する可動検出電極912と、を有している。可動検出電極911,912は、加速度Azが加わったときの回転モーメントが互いに異なるように設計されている。また、凹部14の内底面14aには、可動検出電極911と対向する固定電極である固定検出電極94と、可動検出電極912と対向する固定電極である固定検出電極95と、が設けられている。
【0021】
電極端子50は、端子51、端子52、及び端子53を含んでいる。端子51は、基板10上に設けられた配線61に接続され、マウント部M91上に形成された接点64を介して可動検出電極911,912と電気的に接続されている。端子52は、基板10上に設けられた配線62を介して固定検出電極94と電気的に接続されており、端子53は、基板10上に設けられた配線63を介して固定検出電極95と電気的に接続されている。また、可動検出電極911,912、及び固定検出電極94,95には、端子51,52,53を介して所定の電圧が印加されており、可動検出電極911と固定検出電極94との間、及び可動検出電極912と固定検出電極95との間に、それぞれ、静電容量が形成される。
【0022】
このような加速度センサー素子21zは、次のようにして加速度Azを検出することができる。加速度センサー素子21zにZ方向の加速度Azが加わると、可動部91は、回動軸L9まわりにシーソー揺動する。このような可動部91のシーソー揺動によって、可動検出電極911と固定検出電極94とのギャップ、及び可動検出電極912と固定検出電極95とのギャップが変化し、それに伴ってこれらの間の静電容量が変化する。そのため、これらの静電容量の変化量に基づいて加速度Azを検出し、端子51,52,53から電気的な信号として抽出することができる。
【0023】
このような加速度センサー素子21zに、Z方向の強い加速度が加わると、大きなシーソー揺動により、梁部92に加わるねじれ応力や曲げ応力、せん断応力が過大になり、加速度センサー素子21zが破損する虞がある。したがって、本実施形態の蓋体30の一方の面には、加速度センサー素子21zの揺動範囲を制限するための突起35が設けられている。
【0024】
具体的には、突起35は、蓋体30において、加速度センサー素子21zに対向する面である内底面34aに設けられ、内底面34aから、Z軸に沿って基板10側に伸びるように形成されている。突起35の数や位置は限定しないが、加速度センサー素子21zの可動検出電極911の直上と、可動検出電極912の直上とに配置することが望ましい。この突起35は、加速度センサー素子21zの可動部91の揺動範囲を制限し、加速度センサー素子21zの破損を防いだり、可動検出電極911,912が固定検出電極94,95と接触して吸着するのを防ぐ効果がある。
【0025】
図4及び
図5に示すように、突起35は、平面視で略矩形であり、Z軸に略平行な平面である4つの側面35aは、滑らかな曲面35dによって接続されている。また、突起35の、加速度センサー素子21zに対向する先端面35bは、XY平面に略平行、即ち内底面34aに略平行に形成されている。先端面35bは、側面35aと垂直であり、側面35aとはシリコン面方位が異なる面であるが、側面35aと先端面35bとは、曲面35cによって滑らかに接続されている。つまり、
図5に示すように、突起35の断面形状は、側面35aを構成し、Z軸に沿って直線状に延びる第1直線部と、先端面35bを構成し、XY平面に略平行な第2直線部と、曲面35cを構成する曲線部と、を含んで構成される。
【0026】
また、曲面35cは、突起35の側面35aと先端面35bとの間に形成された凹状の曲面35c1と、側面35aと曲面35c1とを接続する凸状の曲面35c2と、曲面35c1と先端面35bとを接続する凸状の曲面35c3とを含んでいる。加速度センサー素子21zにZ方向の強い加速度が加わった場合、可動部91は、曲面35c2,35c3のいずれかに接触し、揺動が制限される。
【0027】
以上、説明したように、本実施形態の構成によれば、シリコン面方位が異なる側面35aと先端面35bとが滑らかな曲面35cで接続されるため、シリコン面方位の不連続な境界が露出しない。したがって、突起35が可動部91と接触した際に、突起35にクラックやチッピングなどの破損が生じにくい。
【0028】
また本実施形態の構成によれば、加速度センサー素子21zに対向する突起35の先端面35bが、凹部34の内底面34aに略平行に形成されているため、突起35の高さの管理が容易である。このため、突起35と可動部91の間のギャップを所望の値にすることが容易になる。
【0029】
次に、慣性センサーの製造方法の一例として、加速度センサーユニット1の製造方法を説明する。
図6は、加速度センサーユニット1の製造工程を説明するフローチャートである。また、各工程での状態を表す図を
図7~
図18に示す。なお、
図7~
図18は、図を簡略化するため、Y軸に沿って見た場合の断面図を示す。なお、ここでは説明を簡単にするため、蓋体30の製造方法を中心に説明する。
【0030】
ステップS1のプロセス図を
図7に示す。ステップS1は、蓋体30となるシリコン基板301の表面に熱酸化膜302を形成する工程である。ここで形成した熱酸化膜302は、後のシリコンエッチング工程にて、突起35を形成する際のマスクとしての役割と、後に蓋体30と基板10を接合する際の接合面36aを保護する役割を果たす。
【0031】
ステップS2のプロセス図を
図8~
図10に示す。ステップS2は、蓋体30の一方の面に凹部34の形成領域を設定する工程である。この工程では、フォトリソグラフィー技法およびエッチング技法を用いる。まず、フォトレジスト303を塗布し、露光することでパターニングを行ない、凹部34が形成される領域304のフォトレジスト303を剥離する(
図8参照)。その後、ボッシュプロセスによるプラズマエッチングを実施する(
図9参照)。なお、ここでのエッチングの方法は、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらでも構わない。この工程では、熱酸化膜302のうち、凹部34が形成される領域304をエッチングするが、熱酸化膜302を完全に除去するのではなく、熱酸化膜302を一部残しておく。エッチング終了後、残っていたフォトレジスト303を剥離する(
図10参照)。
【0032】
ステップS3のプロセス図を
図11~
図13に示す。ステップS3は、蓋体30の一方の面に突起35を形成する工程である。この工程でもステップS2と同様に、フォトリソグラフィー技法およびエッチング技法を用いる。まず、フォトレジスト305を塗布し、露光することでパターニングを行ない、接合面36a及び突起35が形成される領域以外のフォトレジスト305を剥離する(
図11参照)。その後、フォトレジスト305をマスクにして、ボッシュプロセスによるエッチングを実施して、凹部34及び突起35を形成する(
図12参照)。エッチング終了後、残っていたフォトレジスト305を剥離する(
図13参照)。このときに、突起35の先端上の熱酸化膜302の厚みは、接合面36a上の熱酸化膜302の厚みよりも薄い。
【0033】
ステップS4のプロセス図を、
図14、
図15に示す。ステップS4は、蓋体30の突起35上の熱酸化膜302と突起35とをエッチングし、突起35を所望の高さに調整する工程である。まずは、突起35上の熱酸化膜302をエッチングによって完全に除去する(
図14参照)。次に、突起35の高さが所望の高さhとなるまでエッチングする(
図15参照)。この工程では、突起35の角部でエッチングが早く進むため、突起35の先端の角部が欠けた形状となる。この状態で、接合面36a上には、熱酸化膜302が残っている。このエッチングにより、突起35の先端面35bは、蓋体30の接合面36aを基準にして、+Z方向にエッチング量dだけ離れて位置することになる。つまり、凹部34の内底面34aは、接合面36aよりも基板10から離れた位置に形成され、突起35の先端面35bは、内底面34aと接合面36aの間に位置している。したがって、基板10と蓋体30とを接合する際に、先端面35bが加速度センサー素子21zと接触してしまうことが抑制される。また、加速度センサーユニット1の感度をより向上させるために、加速度センサー素子21zのZ方向の厚みを大きくするということが考えられるが、本実施形態のプロセスによれば、エッチング量dを調整することで、容易に対応することができる。
【0034】
ステップS5のプロセス図を
図16、
図17に示す。ステップS5は、蓋体30の突起35に曲面35cを形成する工程である。ここでは、一例として、熱酸化膜307を再形成し、剥離するという方法を用いる。まず、蓋体30の凹部34側の面に熱酸化膜307を形成する(
図16参照)。このとき、熱酸化は角部で早く進行する。したがって、突起35の欠けた部分の角部がなめらかな形状となる。次に、形成した熱酸化膜307を剥離する(
図17参照)。この工程により、突起35の側面35aと先端面35bとの間が曲面35cでなめらかに接続され、シリコン面方位の不連続な境界がなくなるため、接触などによるクラックやチッピングが生じにくい構造となる。なお、曲面35cを形成する他の方法としては、等方性のウェットエッチング、フッ酸蒸気などを使ったドライプロセスなどが考えられる。
【0035】
ステップS6後の完成図を
図18に示す。ステップS6は、蓋体30を基板10に接合する工程である。基板10には、加速度センサー素子21zが予め接合されている。蓋体30は、接合部材40を介して基板10に接合される。この工程により、加速度センサーユニット1は、気密性の高い構造となるため、外部からの水分や異物などの侵入を防ぐことができ、信頼性の高い慣性センサーを実現できる。また、接合部材40の厚みを調整することで、突起35の先端面35bと可動部91との間のギャップを容易に制御することができ、加速度センサーユニット1の設計の自由度が向上する。
【0036】
2.実施形態2
次に、実施形態2に係る慣性センサーの一例として、X方向、及びY方向の加速度を検知することのできる加速度センサーユニット2を例示し、
図19~
図22を参照して説明する。
図19は、本実施形態の加速度センサーユニット2の概略構成を示す平面図である。
図20は、加速度センサー素子21xの概略構成を示す平面図である。
図21は、加速度センサー素子21yの概略構成を示す平面図である。
図22は、
図19におけるB-B線での断面図である。
なお、
図19では、内部を視認できるように、蓋体30の図示を省略している。また、上記各図では、説明の便宜上、配線の一部を省略しており、分かり易くするために、各構成要素の寸法比率は実際と異なる。
【0037】
本実施形態に係る加速度センサーユニット2は、
図19~
図22に示すように、実施形態1の加速度センサーユニット1と同様、基板10と、蓋体30とを含み、これらによって形成されるキャビティー20の内部に、可動体としての加速度センサー素子21x及び加速度センサー素子21yが配置されている。加速度センサー素子21xは、基板10に略平行なX方向の加速度Axを検知可能な加速度センサー素子であり、加速度センサー素子21yは、同じく基板10に略平行なY方向の加速度Ayを検知可能な加速度センサー素子である。
【0038】
基板10及び蓋体30は、それぞれ、板状をなし、X軸及びY軸を含む平面であるXY平面に沿って配置され、接合部材40を介して接合されている。基板10、蓋体30の形状、材料については実施形態1と同様のため、省略する。また、基板10と蓋体30の接合方法についても、実施形態1と同様のため、省略する。
【0039】
基板10には、蓋体30側となる上方に開放する凹部14が設けられている。また、基板10は、加速度センサーユニット2の電気的信号を取り出すための電極端子50を備えている。本実施形態の電極端子50は、端子54,55,56,57,58を含んでいる。
【0040】
図20に示すように、加速度センサー素子21xは、可動部71と、バネ部72と、固定部73と、固定検出電極74,75と、を備えている。
【0041】
可動部71は、X方向に延在する基部711と、基部711からY方向両側に突出した複数の可動電極である可動検出電極712と、を有している。このような可動部71は、基部711のX方向の両端部においてバネ部72を介して固定部73に接続されている。また、固定部73は、凹部14の内底面14aから突出したマウント部M71に固定されている。これにより、可動部71は、固定部73に対してX方向に変位可能となる。また、固定電極である固定検出電極74,75は、凹部14の内底面14aから突出したマウント部M72に固定されている。固定検出電極74,75は、それぞれY方向に延在し、隣り合う可動検出電極712間に1組ずつ配置されている。
【0042】
電極端子50に含まれる端子54は、基板10上に設けられた配線66aに接続され、マウント部M71上に形成された接点65を介して可動検出電極712に電気的に接続されている。また、端子55は、基板10上に設けられた配線66bを介して固定検出電極74に電気的に接続され、端子56は、基板10上に設けられた配線66cを介して固定検出電極75に電気的に接続されている。また、可動検出電極712、固定検出電極74、及び固定検出電極75には、それぞれ端子54,55,56を介して所定の電圧が印加されており、可動検出電極712と固定検出電極74,75との間に、それぞれ、静電容量が形成されている。
【0043】
このような加速度センサー素子21xは、次のようにして加速度Axを検出することができる。加速度センサー素子21xに加速度Axが加わると、加速度Axの大きさに基づいて、可動部71が、バネ部72を弾性変形させながら、X方向に変位する。可動部71が変位することで、可動検出電極712と固定検出電極74とのギャップ及び可動検出電極712と固定検出電極75とのギャップが変化し、それに伴ってこれらの間の静電容量が変化する。そのため、これらの静電容量の変化量に基づいて加速度Axを検出することができる。
【0044】
このような加速度センサー素子21xに、Z方向の強い加速度が加わると、Z方向への大きな揺動が発生し、バネ部72に加わるねじれ応力や曲げ応力、せん断応力が過大になり、加速度センサー素子21xが破損する虞がある。したがって、本実施形態の蓋体30にも、加速度センサー素子21xの揺動範囲を制限するための突起35が形成されている。突起35の数および位置については、限定しないが、振幅が最も大きくなる基部711の中心711cの上方に形成することが望ましい。突起35の形状については、実施形態1と同様のため、省略する。
【0045】
図21に示す加速度センサー素子21yは、前述した加速度センサー素子21xの向きを90°回転させた以外は、加速度センサー素子21xと同様である。そのため、加速度センサー素子21yの説明は、省略する。
【0046】
なお、端子54は、基板10上に設けられた配線66aを介して加速度センサー素子21yの可動検出電極712と電気的に接続されている。また、端子57,58は、基板10上に設けられた配線66d、66eを介して加速度センサー素子21yの固定検出電極74,75に電気的に接続されている。また、加速度センサー素子21yの可動検出電極712、及び固定検出電極74,75には、端子54,57,58を介して所定の電圧が印加されており、加速度センサー素子21yの可動検出電極712と固定検出電極74,75との間に、それぞれ、静電容量が形成されている。
【0047】
このような加速度センサー素子21yについても、Z方向の強い加速度が加わると、Z方向への大きな揺動が発生し、バネ部72に加わるねじれ応力や曲げ応力、せん断応力が過大になり、加速度センサー素子21yが破損する虞がある。したがって、加速度センサー素子21xにおける突起35と同形状の突起35を蓋体30に形成することが望ましい。
【0048】
以上、説明したように、本実施形態の構成によれば、蓋体30に実施形態1と同形状の突起35が形成されている。つまり、この突起35において、Z軸に略平行な側面35aと、XY平面に略平行な先端面35bとは、曲面35cによって滑らかに接続されている。したがって、突起35が可動部71と接触した際に、突起35にクラックやチッピングなどの破損が生じにくい。
【0049】
なお、上記実施形態1、2は、以下のように変更してもよい。
【0050】
上記実施形態1、2では、突起35の側面35aと先端面35bとを接続する曲面35cは、凹状の曲面35c1と、凸状の2つの曲面35c2,35c3とによって構成されているが、この態様に限定されない。例えば、凸状の1つの曲面のみで構成されてもよいし、より複雑な曲面で構成されてもよい。
【0051】
上記実施形態1、2では、突起35の側面35aが、Z軸に略平行に形成されているが、突起35の形状は、この形状に限定されず、
図23及び
図24に示すように、突起35の側面35aが凹部34の内底面34aに対して傾くように形成されてもよい。例えば、
図23に示すように、突起35の断面形状の幅が、上方、即ち先端面35bから内底面34aに向かうに従って細くなるようにしてもよいし、
図24に示すように、突起35の断面形状の幅が、上方に向かうに従って太くなるようにしてもよい。このような構成によれば、等方性エッチングなどによって突起35の形成が可能となる。つまり、突起35を形成するためのプロセスの選択肢が増え、より効率よく突起35を形成することができる。
【0052】
上記実施形態1、2では、基板10と加速度センサー素子21x、21y、21zは、マウント部M71,M91に接合されていたが、この態様に限定されない。例えば、
図25及び
図26に示すように、犠牲層を利用したエッチングプロセスを利用して、加速度センサー素子21x、21y、21zとマウント部M71、M91とを一体の構造として同時に形成することもできる。ここで、犠牲層とは、シリコン酸化膜や、有機物ポリイミド、多結晶シリコンなどである。このような構成にすると、可動電極と配線の接点部の配置を自由に設計することができる。
【0053】
上記実施形態1、2では、基板10と蓋体30を接合することで、キャビティー20内の気密性が高い封止を実現していたが、例えば、
図27~
図29に示すように封止することもできる。
図27に示すように、まず、蓋体30に貫通孔37を形成する。貫通孔37は一つに限らず、複数設けてもよい。また、貫通孔37の形状は問わない。その後、
図28に示すように、基板10と蓋体30を接合する。次に、
図29に示すように、封止材38を貫通孔37に配置する。封止材38としては、金属材料が利用可能であるが、樹脂材料やガラスフリット材料などであってもよい。最後に、レーザーで封止材38を溶融させ、気密封止する。
このような構成にすることで、キャビティー20内の圧力を精度よく制御することができる。また、キャビティー20内に水分や異物、ガスなどを混入させにくいという効果がある。
【0054】
上記実施形態1の加速度センサーユニット1と、上記実施形態2の加速度センサーユニット2とを一体的に構成し、X方向、Y方向、Z方向の3方向の加速度を検出することが可能な加速度センサーユニットとしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,2…加速度センサーユニット、10…基板、11a…接合面、14…凹部、14a…内底面、20…キャビティー、21x,21y,21z…加速度センサー素子、30…蓋体、34…凹部、34a…内底面、35…突起、35a…側面、35b…先端面、35c,35c1,35c2,35c3,35d…曲面、36a…接合面、37…貫通孔、38…封止材、40…接合部材、50…電極端子、51,52,53,54,55,56,57,58…端子、61,62,63,66a,66b,66c,66d…配線、64,65…接点、71…可動部、711…基部、712…可動検出電極、72…バネ部、73…固定部、74,75…固定検出電極、91…可動部、911,912…可動検出電極、92…梁部、93…固定部、94,95…固定検出電極、301…シリコン基板、302,307…熱酸化膜、303,305…フォトレジスト、304…領域、Ax,Ay,Az…加速度、L9…回動軸、M71,M72,M91…マウント部、d…エッチング量。