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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】電子部品素体の切断方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 13/00 20130101AFI20240717BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01G13/00 351A
H01G4/30 311A
H01G4/30 517
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020153487
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2022047610
(43)【公開日】2022-03-25
【審査請求日】2022-04-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐太
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178056(JP,A)
【文献】特開2002-121505(JP,A)
【文献】特開平09-129501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 13/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の第1の主面上に配置され、その上に直接接するように載置される電子部品素体を固定する拘束材層であって、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率が0.12GPa以上10GPa以下である拘束材層とを備える電子部品素体の切断用固定部材を用いて、前記電子部品素体を切断する方法であって、
前記電子部品素体が前記拘束材層に直接接するように、前記拘束材層の上に前記電子部品素体を載置して固定するステップと、
前記拘束材層の上に載置されて固定されている前記電子部品素体を切断刃で切断する工程と、
前記拘束材層にUVを照射することによって前記拘束材層の拘束力を低下させてから、前記電子部品素体を前記拘束材層から剥がす工程と、
を備えることを特徴とする電子部品素体の切断方法。
【請求項2】
基材と、前記基材の第1の主面上に配置され、その上に電子部品素体が直接接するように載置される拘束材前駆体層であって、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率が0.1GPa未満であり、所定の処理が行われることにより、前記ヤング率が0.12GPa以上10GPa以下であり、前記電子部品素体を固定する拘束材層となる拘束材前駆体層とを備える電子部品素体の切断用固定部材を用いて、前記電子部品素体を切断する方法であって、
前記電子部品素体が前記拘束材前駆体層に直接接するように、前記拘束材前駆体層の上に前記電子部品素体を載置するステップと、
所定の処理を行うことにより、前記拘束材前駆体層を前記拘束材層とするステップと、
前記拘束材層の上に載置されて固定されている前記電子部品素体を切断刃で切断する工程と、
前記拘束材層にUVを照射することによって前記拘束材層の拘束力を低下させてから、前記電子部品素体を前記拘束材層から剥がす工程と、
を備えることを特徴とする電子部品素体の切断方法。
【請求項3】
前記所定の処理は、電磁波の照射、加熱、および、冷却のうちの少なくとも1つの処理であることを特徴とする請求項に記載の電子部品素体の切断方法。
【請求項4】
前記電子部品素体を前記切断刃で切断する工程では、前記切断刃が前記拘束材層の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで前記電子部品素体を切断することを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の電子部品素体の切断方法。
【請求項5】
前記電子部品素体を前記切断刃で切断する工程では、前記切断刃が前記基材の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで前記電子部品素体を切断することを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の電子部品素体の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品素体を切断する際に用いる切断用固定部材、および、電子部品素体の切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサのような電子部品を製造する際、内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートを複数積層してマザー積層体を形成し、マザー積層体を切断刃で切断することによって、複数の未焼成積層体に個片化した後、焼成する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、マザー積層体である圧着ブロックを固定用シートに接着固定するとともに、固定用シートを介して圧着ブロックを切断テーブルに設置し、切断刃により圧着ブロックを切断する方法が記載されている。この切断方法によれば、圧着ブロックの位置ずれの発生を防止して、所定の位置で切断することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-94359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、切断刃によってマザー積層体を切断する際、切断刃がマザー積層体に進入すると、マザー積層体の下部において、切断刃の侵入位置を中心として左右に引き伸ばされる方向に力が加わる。このとき、マザー積層体の変形量がマザー積層体の破断歪を超えると、マザー積層体に亀裂が生じる。
【0006】
本願の発明者が調べたところ、特許文献1に記載の切断方法のように、固定用シートでマザー積層体を固定して切断する場合、固定用シートの特性によっては、亀裂の発生を抑制することができないことが分かった。すなわち、単に固定用シートでマザー積層体を固定して切断するだけでは、マザー積層体の亀裂の発生を抑制することができない場合がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、マザー積層体等の電子部品素体を切断刃で切断した時に、亀裂が発生することを抑制することができる電子部品素体の切断用固定部材および電子部品素体の切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子部品素体の切断用固定部材は、切断対象である電子部品素体を固定するための切断用固定部材であって、
基材と、
前記基材の第1の主面上に配置され、その上に載置される前記電子部品素体を固定する拘束材層と、を備え、
前記拘束材層の、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率は、0.12GPa以上10GPa以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明の別の態様における電子部品素体の切断用固定部材は、切断対象である電子部品素体を固定するための切断用固定部材であって、
基材と、
前記基材の第1の主面上に配置され、その上に前記電子部品素体が載置される拘束材前駆体層と、
を備え、
前記拘束材前駆体層は、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率が0.1GPa未満であり、所定の処理が行われることにより、前記ヤング率が0.12GPa以上10GPa以下であり、前記電子部品素体を固定する拘束材層となることを特徴とする。
【0010】
本発明の電子部品素体の切断方法は、基材と、前記基材の第1の主面上に配置され、その上に載置される前記電子部品素体を固定する拘束材層であって、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率が0.12GPa以上10GPa以下である拘束材層とを備える電子部品素体の切断用固定部材を用いて、前記電子部品素体を切断する方法であって、
前記拘束材層の上に前記電子部品素体を載置して固定するステップと、
前記拘束材層の上に載置されて固定されている前記電子部品素体を切断刃で切断する工程と、
前記電子部品素体を前記拘束材層から剥がす工程と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の別の態様における電子部品素体の切断方法は、基材と、前記基材の第1の主面上に配置され、その上に前記電子部品素体が載置される拘束材前駆体層であって、前記基材の前記第1の主面に対して平行な方向におけるヤング率が0.1GPa未満であり、所定の処理が行われることにより、前記ヤング率が0.12GPa以上10GPa以下であり、前記電子部品素体を固定する拘束材層となる拘束材前駆体層とを備える電子部品素体の切断用固定部材を用いて、前記電子部品素体を切断する方法であって、
前記拘束材前駆体層の上に前記電子部品素体を載置するステップと、
所定の処理を行うことにより、前記拘束材前駆体層を前記拘束材層とするステップと、
前記拘束材層の上に載置されて固定されている前記電子部品素体を切断刃で切断する工程と、
前記電子部品素体を前記拘束材層から剥がす工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子部品素体の切断用固定部材によれば、拘束材層で電子部品素体を保持した状態で切断することができるので、切断時に電子部品素体が切断刃の侵入位置を中心として左右に引き伸ばされることを抑制することができる。これにより、切断時に電子部品素体に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0013】
本発明の電子部品素体の切断方法によれば、拘束材層で電子部品素体を保持した状態で切断することにより、切断時に電子部品素体が切断刃の侵入位置を中心として左右に引き伸ばされることを抑制することができる。これにより、切断時に電子部品素体に亀裂が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材の構成を模式的に示す側面図である。
図2】第1の実施形態において、電子部品素体の切断方法を説明するためのフローチャートである。
図3】基材の第1の主面上に拘束材層を形成した状態を示す図である。
図4】拘束材層の上に電子部品素体を載せて貼り付けた状態を示す図である。
図5】拘束材層と電子部品素体との間に接着層を設けた状態を示す図である。
図6】拘束材層の上で仮固定された電子部品素体を切断刃で切断する様子を示す図である。
図7】本発明の第2の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材の構成を模式的に示す側面図である。
図8】第2の実施形態において、電子部品素体の切断方法を説明するためのフローチャートである。
図9】基材の第1の主面上に拘束材前駆体層を形成した状態を示す図である。
図10】拘束材前駆体層の上に電子部品素体を載せて貼り付けた状態を示す図である。
図11】拘束材前駆体層と電子部品素体との間に接着層を設けた状態を示す図である。
図12】基材の上の拘束材前駆体層を硬化させて拘束材層とした状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴を具体的に説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10の構成を模式的に示す側面図である。第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10は、基材1と、基材1の第1の主面1a上に配置され、その上に載置される電子部品素体20を固定する拘束材層2とを備える。
【0017】
基材1は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタラート、または、ポリイミド等からなる。基材1は、例えばシート状の形状を有しており、その厚みは、例えば、0.001mm以上10mm以下である。基材1として、ヤング率の低い素材からなる、可撓性を有するものを用いた場合、ロール状に巻き取ることが容易となるので、運搬や保管等の観点から利便性が高くなる。また、基材1が可撓性を有する場合、後述する電子部品素体20の切断後に、基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものから電子部品素体20を剥がす際、電子部品素体20を剥がしやすくなるので、電子部品素体20に対して低ダメージで剥離することができる。したがって、基材1は可撓性を有することが好ましい。
【0018】
拘束材層2は、切断時に、電子部品素体20の動きが拘束されるように、電子部品素体20を保持して固定する。拘束材層2の、第1の主面1aに対して平行な方向におけるヤング率は、0.12GPa以上10GPa以下である。拘束材層2は、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、または、ポリエチレンテレフタレート等からなる。拘束材層2の厚みは、例えば、0.001mm以上5mm以下である。
【0019】
切断対象である電子部品素体20は、加工することによって、後に電子部品となるものであって、1つの電子部品に対応したものであってもよいし、複数の電子部品を一度に製造するためのものであってもよい。一例として、電子部品素体20は、積層セラミックコンデンサや積層コイル等の積層セラミック電子部品を製造する途中に作製される未焼成のマザー積層体である。ただし、電子部品素体から最終的に製造される電子部品が積層セラミック電子部品に限定されることはなく、セラミック基板、ガラスエポキシ基板やフレキシブル基板等の樹脂系基板、電子部品モジュール、または、モジュール用基板やパッケージ等であってもよい。
【0020】
電子部品素体20の切断時には、後述するように、基材1を切断ステージ30の上に置き、電子部品素体20を拘束材層2の上で仮固定した状態で切断を行う。
【0021】
(電子部品素体の切断方法)
図2は、第1の実施形態において、電子部品素体20の切断方法を説明するためのフローチャートである。
【0022】
ステップS1では、基材1の第1の主面1a上に、拘束材層の材料を供給して、拘束材層2を形成する(図3参照)。拘束材層2の材料として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、および、ポリエチレンテレフタレートのうちの少なくとも1つを用いることができる。拘束材層2の、基材1の第1の主面1aに対して平行な方向におけるヤング率は、0.12GPa以上10GPa以下である。
【0023】
拘束材層2の材料の供給は、ダイコータ、ドクターブレード、ロールコータ、ディップコータ、インクジェット型コータ等を用いて行うことができる。拘束材層2の材料の供給速度は、例えば、0.01m/分以上200m/分以下であり、材料供給時の温度は、例えば、20℃以上100℃以下である。また、拘束材層2の厚みは、例えば、0.001mm以上5mm以下である。
【0024】
なお、拘束材層2を形成後に乾燥させる必要がある場合には、乾燥炉内で乾燥させるようにしてもよい。
【0025】
ステップS1に続くステップS2では、拘束材層2の上に、切断対象である電子部品素体20を載置して固定する(図4参照)。
【0026】
ここで、熱可塑性の拘束材層2を用いた場合には、拘束材層2を加熱して軟化させてから、電子部品素体20を載置するようにする。加熱温度は、例えば、30℃以上150℃以下である。
【0027】
なお、図5に示すように、必要に応じて、拘束材層2と電子部品素体20との間に接着層3を設けてもよい。接着層3は、拘束材層2の電子部品素体20が載置される面に設けられ、拘束材層2と電子部品素体20とを接着する機能を有する。例えば、公知の接着剤や粘着剤を、拘束材層2の電子部品素体20が載置される面に塗工することによって、接着層3を設ける。ただし、電子部品素体20の表面に接着剤や粘着剤を塗工することによって、接着層3を設けるようにしてもよい。接着層3を形成する際の温度や形成方法等は、拘束材層2を形成する際の条件と同じとすることができる。
【0028】
また、拘束材層2と電子部品素体20とが対向する方向に圧力をかけて、拘束材層2と電子部品素体20との密着性を向上させるようにしてもよい。圧力の大きさは、例えば、1Pa以上100MPa以下である。
【0029】
なお、電子部品素体20の表面に拘束材層2を形成した後、拘束材層2の上に、基材1を載せて貼り付けるようにしてもよい。
【0030】
ステップS2に続くステップS3では、基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものを、切断ステージ30上に載置して固定し、切断位置の位置合わせを行った後、電子部品素体20を切断刃40で切断する(図6参照)。基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものを切断ステージ30上に載置する際、図6に示すように、基材1が切断ステージ30と対向するように載置する。
【0031】
基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものを切断ステージ30上で固定するための手段は、吸引力、磁力、摩擦力等、任意の方法を用いることができる。一例として、切断ステージ30には、一方の主面から他方の主面へと貫通する吸引孔が設けられており、切断ステージ30の、基材1と対向していない側から吸引孔を介して吸引することにより、基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものを切断ステージ30上に固定する。このとき、切断ステージ30と基材1との間に、吸引力を向上させる部材等を介在させるようにしてもよい。
【0032】
切断刃40の材質は、切断対象である電子部品素体20より硬いものであればよく、例えば、金属、セラミックス、カーボン等である。切断刃40の厚みは、例えば、0.01mm以上5mm以下であり、高さは、例えば、0.1mm以上100mm以下である。また、厚み方向および高さ方向とそれぞれ直交する幅方向における切断刃40の幅は、例えば、1mm以上600mm以下である。
【0033】
電子部品素体20を切断するときの切断刃40の侵入速度は、例えば、0.1mm/秒以上1000mm/秒以下である。ただし、切断刃40の侵入速度は、切断刃40が割れない速度に設定する必要がある。
【0034】
切断時に、電子部品素体20の温度を調整するようにしてもよい。例えば、切断刃40が割れるのを防ぐため、電子部品素体20を加熱して軟化させるようにしてもよい。また、電子部品素体20の温度を調整することによって、切断時の電子部品素体20の破断歪を大きくし、亀裂が発生しないようにしてもよい。切断時の電子部品素体20の温度は、例えば、20℃以上200℃以下である。
【0035】
一例として、電子部品素体20の切断時に、切断刃40が拘束材層2の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで電子部品素体20を切断する。拘束材層2の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さとは、基材1にまでは到達しない深さのことである。切断刃40が拘束材層2の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで電子部品素体20を切断する場合、拘束材層2を構成する成分が切断刃40に付着しづらくなるので、切断刃40の清掃の頻度を低減することができる。
【0036】
また、別の例として、電子部品素体20の切断時に、切断刃40が基材1の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで電子部品素体20を切断する。基材1の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さとは、切断刃40が基材1に侵入するが、基材1を完全には切断しない深さのことである。切断刃40が基材1の厚さ方向の途中の位置まで侵入する深さで電子部品素体20を切断する場合、切断刃40の引き上げ時に、切断刃40と電子部品素体20との間の摩擦が小さくなる。したがって、電子部品素体20が複数層からなる場合に、電子部品素体20の層間の剥がれを抑制することができる。また、電子部品素体20が内部電極パターンを有する場合、内部電極パターンのダレ等を抑制することができる。
【0037】
電子部品素体20は、拘束材層2によって固定されているため、切断時に電子部品素体20が切断刃40の侵入位置を中心として左右に引き伸ばされることが抑制される。これにより、切断時に電子部品素体20に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0038】
ステップS3に続くステップS4では、電子部品素体20を拘束材層2から剥がす。力を加えて電子部品素体20を剥がしてもよいし、拘束材層2の拘束力を低下させてから、電子部品素体20を剥がすようにしてもよい。
【0039】
例えば、熱可塑性を有する拘束材層2を使用した場合、加熱することによって拘束材層2を軟化させてから、電子部品素体20を剥離する。加熱温度は、例えば、40℃以上200℃以下である。
【0040】
また、UV硬化性を有し、硬化させることによって拘束力が低下する拘束材層2を使用した場合、拘束材層2にUVを照射することによって拘束力を低下させてから、電子部品素体20を剥離する。照射するUVの積算光量は、例えば、1kJ/m2以上100kJ/m2以下である。
【0041】
また、加熱することによって分解する等により、気化する拘束材層2を使用した場合、拘束材層2を加熱して気化させることによって除去してから、電子部品素体20を剥離する。電子部品素体20を焼成する等、加熱する工程が含まれる場合には、その加熱工程時に拘束材層2を気化させて除去するようにしてもよい。
【0042】
水や溶剤に溶解する拘束材層2を使用した場合、水や溶剤で洗浄することによって、拘束材層2を溶解させて除去した後、電子部品素体20を剥離する。
【0043】
なお、上述したフローチャートでは、ステップS1で、基材1の第1の主面1a上に、拘束材層の材料を供給して、拘束材層2を形成することによって、電子部品素体の切断用固定部材10を作製するようにしている。これに対して、基材1の第1の主面1a上に、拘束材層2が形成されている電子部品素体の切断用固定部材10を予め用意して、ステップS1の処理を省略するようにしてもよい。
【0044】
(実施例)
拘束材層のヤング率が異なる複数の切断用固定部材を用意して、電子部品素体を切断したときの亀裂の発生率を調べた。ここでは、拘束材層のヤング率が0.2GPa、0.12GPa、0.07GPaの3種類の切断用固定部材をそれぞれ100個用意した。拘束材層のヤング率が0.2GPaと0.12GPaの切断用固定部材は、本発明の切断用固定部材である。また、比較のために、拘束材層が無い従来の切断方法、すなわち、基材の上に電子部品素体を載せて切断したときの亀裂の発生率についても、評価数を100として調べた。表1に、拘束材層のヤング率と、亀裂の発生率との関係をそれぞれ示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示すように、拘束材層のヤング率が0.07GPaである場合の亀裂発生率、および、拘束材層が無い従来の切断方法による亀裂発生率はともに100%となった。すなわち、拘束材層が無い場合、および、拘束材層は存在するが、拘束材層のヤング率が0.12GPa未満である場合には、電子部品素体の切断時に、亀裂が発生しやすくなる。
【0047】
一方、拘束材層2のヤング率が0.2GPaである場合の亀裂発生率は3%であり、拘束材層2のヤング率が0.12GPaである場合の亀裂発生率は4%と低い。すなわち、本発明の切断用固定部材10を用いることにより、切断時に電子部品素体20に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0048】
なお、拘束材層2のヤング率が10GPaを超えると、電子部品素体20の切断時に切断刃40が拘束材層2に侵入したときに、切断刃40が欠けるおそれがある。したがって、拘束材層2のヤング率は10GPa以下であることが好ましい。
【0049】
第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10によれば、拘束材層2で電子部品素体20を保持した状態で切断することができるので、切断時に電子部品素体20が切断刃40の侵入位置を中心として左右に引き伸ばされることを抑制することができる。これにより、切断時に電子部品素体20に亀裂が生じることを抑制することができる。上述したように、拘束材層は存在するが、基材の第1の主面に対して平行な方向における拘束材層のヤング率が0.12GPa未満の場合には、電子部品素体20を固定する力が弱いため、切断時に電子部品素体20に亀裂が生じやすくなる。
【0050】
また、図5に示すように、拘束材層2と電子部品素体20とを接着する接着層3を設けた場合には、切断時に、電子部品素体20が拘束材層2から離脱することを抑制することができる。したがって、切断時に、電子部品素体20が左右に引き伸ばされることをより確実に抑制することができ、亀裂の発生をより効果的に抑制することができる。
【0051】
<第2の実施形態>
図7は、本発明の第2の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10Aの構成を模式的に示す側面図である。第2の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10Aは、基材1と、基材1の第1の主面1a上に配置され、その上に電子部品素体20が載置される拘束材前駆体層5とを備える。
【0052】
拘束材前駆体層5は、基材1の第1の主面1aに対して平行な方向におけるヤング率が0.1GPa未満であり、所定の処理を行うと、ヤング率が0.12GPa以上10GPa以下であり、電子部品素体20を固定する拘束材層となる。ヤング率が0.12GPa以上10GPa以下であり、電子部品素体20を固定する拘束材層は、第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10が備える拘束材層2である。
【0053】
拘束材前駆体層5を拘束材層とするための所定の処理は、電磁波の照射、加熱、および、冷却のうちの少なくとも1つの処理である。電磁波には、光やUV(紫外線)等が含まれる。
【0054】
図8は、第2の実施形態において、電子部品素体20の切断方法を説明するためのフローチャートである。
【0055】
ステップS11では、基材1の第1の主面1a上に、拘束材前駆体層の材料を供給して、拘束材前駆体層5を形成する(図9参照)。拘束材前駆体層5の材料として、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、および、ポリエチレンテレフタレートのうちの少なくとも1つを用いることができる。拘束材前駆体層5の、基材1の第1の主面1aに対して平行な方向におけるヤング率は、0.1GPa未満である。
【0056】
拘束材前駆体層5の材料の供給は、ダイコータ、ドクターブレード、ロールコータ、ディップコータ、インクジェット型コータ等を用いて行うことができる。拘束材前駆体層5の材料の供給速度は、例えば、0.01m/分以上200m/分以下であり、材料供給時の温度は、例えば、20℃以上100℃以下である。また、拘束材前駆体層5の厚みは、例えば、0.001mm以上5mm以下である。
【0057】
なお、拘束材前駆体層5を形成後に乾燥させる必要がある場合には、乾燥炉内で乾燥させるようにしてもよい。
【0058】
ステップS11に続くステップS12では、拘束材前駆体層5の上に、切断対象である電子部品素体20を載置して固定する(図10参照)。
【0059】
ここで、熱可塑性の拘束材前駆体層5を用いた場合には、拘束材前駆体層5を加熱して軟化させてから、電子部品素体20を載置するようにする。加熱温度は、例えば、30℃以上150℃以下である。
【0060】
なお、図11に示すように、必要に応じて、拘束材前駆体層5と電子部品素体20との間に接着層3を設けてもよい。接着層3は、拘束材前駆体層5の電子部品素体20が載置される面に設けられ、拘束材前駆体層5と電子部品素体20とを接着する機能を有する。例えば、公知の接着剤や粘着剤を、拘束材前駆体層5の電子部品素体20が載置される面に塗工することによって、接着層3を設ける。ただし、電子部品素体20の表面に接着剤や粘着剤を塗工することによって、接着層3を設けるようにしてもよい。接着層3を形成する際の温度や形成方法等は、拘束材前駆体層5を形成する際の条件と同じとすることができる。
【0061】
また、拘束材前駆体層5と電子部品素体20とが対向する方向に圧力をかけて、拘束材前駆体層5と電子部品素体20との密着性を向上させるようにしてもよい。圧力の大きさは、例えば、1Pa以上100MPa以下である。
【0062】
なお、電子部品素体20の表面に拘束材前駆体層5を形成した後、拘束材前駆体層5の上に、基材1を載せて貼り付けるようにしてもよい。
【0063】
ステップS12に続くステップS13では、所定の処理を行うことによって、拘束材前駆体層5を硬化させて、拘束材層2とする(図12参照)。例えば、拘束材前駆体層5を構成する主成分に硬化剤を混ぜて拘束材前駆体層5を形成した場合、基材1、拘束材前駆体層5、および、電子部品素体20が一体化したものを、硬化する条件下に置いて硬化させる。また、溶剤等を揮発させて硬化させる拘束材前駆体層5を用いた場合、基材1、拘束材前駆体層5、および、電子部品素体20が一体化したものを、硬化する雰囲気に一定時間置いて乾燥させることによって硬化させる。
【0064】
拘束材前駆体層5として、熱硬化性を有する拘束材前駆体層を使用した場合、拘束材前駆体層5が硬化する温度および時間で加熱することによって硬化させる。一例として、40℃以上150℃以下の温度で、1分以上60分以下の時間、加熱することによって硬化させる。
【0065】
また、拘束材前駆体層5として、UV硬化性を有する拘束材前駆体層を使用した場合、拘束材前駆体層5が硬化する積算光量のUVを照射することによって硬化させる。一例として、1kJ/m2以上100kJ/m2以下の積算光量のUVを照射する。
【0066】
また、拘束材前駆体層5として、熱可塑性を有する拘束材前駆体層を使用した場合、冷却する等、拘束材前駆体層5が硬化する温度に調整することによって硬化させる。
【0067】
拘束材前駆体層5を硬化させる工程において、拘束材前駆体層5と電子部品素体20とが対向する方向に圧力をかけるようにしてもよい。圧力の大きさは、例えば、1Pa以上100MPa以下である。
【0068】
ステップS13に続くステップS14では、基材1、拘束材層2、および、電子部品素体20が一体化したものを、切断ステージ30上に載置して固定し、位置合わせを行った後、切断刃40で切断する。この処理は、図2に示すフローチャートのステップS3における処理(図6参照)と同じである。
【0069】
ステップS14に続くステップS15では、電子部品素体20を拘束材層2から剥がす。この処理は、図6に示すフローチャートのステップS4における処理と同じである。
【0070】
なお、上述したフローチャートでは、ステップS11で、基材1の第1の主面1a上に、拘束材前駆体層の材料を供給して、拘束材前駆体層5を形成することによって、電子部品素体の切断用固定部材10Aを作製するようにしている。これに対して、基材1の第1の主面1a上に、拘束材前駆体層5が形成されている電子部品素体の切断用固定部材10Aを予め用意して、ステップS11の処理を省略するようにしてもよい。
【0071】
第2の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10Aによれば、第1の実施形態における電子部品素体の切断用固定部材10と同様に、切断時に電子部品素体20に亀裂が生じることを抑制することができる。
【0072】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 基材
1a 基材の第1の主面
2 拘束材層
3 接着層
5 拘束材前駆体層
10、10A 電子部品素体の切断用固定部材
20 電子部品素体
30 切断ステージ
40 切断刃
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12