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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/08 20060101AFI20240717BHJP
   B63H 20/32 20060101ALI20240717BHJP
   B63H 20/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B63H20/08 100
B63H20/32 710
B63H20/02 100
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020180203
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071313
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100177644
【弁理士】
【氏名又は名称】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】金原 匡利
(72)【発明者】
【氏名】片岡 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 心吾
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04604067(US,A)
【文献】特開平02-014996(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0020150(US,A1)
【文献】実公昭50-009760(JP,Y1)
【文献】実開昭49-082494(JP,U)
【文献】実開昭60-091600(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 20/00 - 20/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のトランサムボードに取り付けられる船外機であって、
動力源の動力をプロペラに伝達するドライブシャフトを内包するドライブシャフトハウジングと、
前記ドライブシャフトハウジングを軸周りに回動可能かつ軸線方向に移動可能に支持するスイベルブラケットと、
前記スイベルブラケットに取り付けられ、前記スイベルブラケットに対する前記ドライブシャフトハウジングの回転抵抗力を増減させるステアリングアジャスタと、
前記スイベルブラケットの軸線方向の両端の少なくとも一方に隣接する位置で前記ドライブシャフトハウジングに装着される少なくとも1つのスペーサと、を備え、
前記スペーサを前記ドライブシャフトハウジングに装着した状態で、前記ドライブシャフトハウジングは前記スイベルブラケットに対する軸線方向の移動が規制され、
前記スペーサの装着位置を変更することで、前記スイベルブラケットから前記プロペラの回転軸まで寸法が変更され
前記ドライブシャフトハウジングは、前記スイベルブラケットに対して所定の角度まで軸周りに回動されることで、軸線方向に移動可能となり、
前記ドライブシャフトハウジングを軸線方向に移動可能とした状態で、前記スペーサの装着位置が変更されることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記所定の角度は、前記船舶を直進させるステアリング位置から回動規制されるまで前記ドライブシャフトハウジングを回動させた最大操舵角であることを特徴とする請求項に記載の船外機。
【請求項3】
前記ドライブシャフトハウジングを前記所定の角度を除く角度に位置させた状態で、前記ドライブシャフトハウジングの一部は前記ステアリングアジャスタを取り付けるために前記スイベルブラケットの内面から径方向内側に突出した凸部に干渉し、前記ドライブシャフトハウジングは軸線方向への移動を規制されることを特徴とする請求項またはに記載の船外機。
【請求項4】
前記ドライブシャフトハウジングを回動操作するハンドル、または前記ドライブシャフトハウジングを回動操作するために前記船舶に装備されたステアリング装置に接続されるケーブルと、
前記ドライブシャフトハウジングに連結され、前記ハンドルまたは前記ケーブルを支持するアタッチメントと、を更に備え、
前記アタッチメントは、前記ドライブシャフトハウジングに連結される連結部と、前記ハンドルまたは前記ケーブルを支持する支持部との間に軸線方向に段差を有する形状であり、
前記アタッチメントは、表裏反転されて前記ドライブシャフトハウジングに連結されることで、前記支持部の高さを変更することを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の船外機。
【請求項5】
船舶のトランサムボードに取り付けられる船外機であって、
動力源の動力をプロペラに伝達するドライブシャフトを内包するドライブシャフトハウジングと、
前記ドライブシャフトハウジングを軸周りに回動可能かつ軸線方向に移動可能に支持するスイベルブラケットと、
前記スイベルブラケットに取り付けられ、前記スイベルブラケットに対する前記ドライブシャフトハウジングの回転抵抗力を増減させるステアリングアジャスタと、
前記スイベルブラケットの軸線方向の両端の少なくとも一方に隣接する位置で前記ドライブシャフトハウジングに装着される少なくとも1つのスペーサと、を備え、
前記スペーサを前記ドライブシャフトハウジングに装着した状態で、前記ドライブシャフトハウジングは前記スイベルブラケットに対する軸線方向の移動が規制され、
前記スペーサの装着位置を変更することで、前記スイベルブラケットから前記プロペラの回転軸まで寸法が変更され、
前記ドライブシャフトハウジングを回動操作するハンドル、または前記ドライブシャフトハウジングを回動操作するために前記船舶に装備されたステアリング装置に接続されるケーブルと、
前記ドライブシャフトハウジングに連結され、前記ハンドルまたは前記ケーブルを支持するアタッチメントと、を更に備え、
前記アタッチメントは、前記ドライブシャフトハウジングに連結される連結部と、前記ハンドルまたは前記ケーブルを支持する支持部との間に軸線方向に段差を有する形状であり、
前記アタッチメントは、表裏反転されて前記ドライブシャフトハウジングに連結されることで、前記支持部の高さを変更することを特徴とする船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のトランサムボードに取り付けられる船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のトランサムボードに取り付けられる船外機では、プロペラの回転による推進力を適正に水に伝え、所望の推進性能を得るために、所謂トランサム高さを適正に設定(調整)することが重要とされている。ここで、トランサム高さとは、トランサムボードと船外機との位置関係を指し、具体的には、トランサムボードの上端面から船外機のアンチベンチレーションプレート(またはプロペラの回転軸)までの高さである。
【0003】
例えば、特許文献1には、トランサム高さを調整するためのトランサム高さ調整機構を備えた船外機が開示されている。トランサム高さ調整機構は、油圧シリンダを作動させることで、ステアリングブラケットやパイロットシャフト等を昇降させてトランサム高さ調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-162331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したトランサム高さ調整機構では、油圧シリンダやこれを制御する装置が必要となるため、その構造が複雑になり、製造コストが増加するという問題があった。したがって、上記したトランサム高さ調整機構は、例えば、安価で構造が簡単な小型の船外機には不向きな構造であった。
【0006】
また、例えば、電動モータを動力源とする小出力の船外機の場合、ゴムボートや小型船舶等、様々な船舶への取り付けに対応しなければならず、トランサム高さを簡単に調整できる構造が求められていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、トランサム高さを容易に調整することのできる船外機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、船舶のトランサムボードに取り付けられる船外機であって、動力源の動力をプロペラに伝達するドライブシャフトを内包するドライブシャフトハウジングと、前記ドライブシャフトハウジングを軸周りに回動可能かつ軸線方向に移動可能に支持するスイベルブラケットと、前記スイベルブラケットに取り付けられ、前記スイベルブラケットに対する前記ドライブシャフトハウジングの回転抵抗力を増減させるステアリングアジャスタと、前記スイベルブラケットの軸線方向の両端の少なくとも一方に隣接する位置で前記ドライブシャフトハウジングに装着される少なくとも1つのスペーサと、を備え、前記スペーサを前記ドライブシャフトハウジングに装着した状態で、前記ドライブシャフトハウジングは前記スイベルブラケットに対する軸線方向の移動が規制され、前記スペーサの装着位置を変更することで、前記スイベルブラケットから前記プロペラの回転軸まで寸法が変更される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、トランサム高さを容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施例に係る船外機を右方から示す側面図である。
図2】本発明の実施例に係る船外機の一部を右方から示す縦断面図である。
図3図2のIII-III断面図である。
図4A】本発明の実施例に係る船外機のスペーサを示す平面図である。
図4B】本発明の実施例に係る船外機のスペーサ前部およびブッシュ等を示す斜視図である。
図5】本発明の実施例に係る船外機(ショート仕様)を右方から示す側面図である。
図6】本発明の実施例に係る船外機(ショート仕様)の一部を右方から示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る船外機は、船舶のトランサムボードに取り付けられ、船舶を推進させる装置である。船外機は、動力源の動力をプロペラに伝達するドライブシャフトを内包するドライブシャフトハウジングと、ドライブシャフトハウジングを軸周りに回動可能かつ軸線方向に移動可能に支持するスイベルブラケットと、スイベルブラケットに取り付けられ、スイベルブラケットに対するドライブシャフトハウジングの回転抵抗力を増減させるステアリングアジャスタと、スイベルブラケットの軸線方向の両端の少なくとも一方に隣接する位置でドライブシャフトハウジングに装着される少なくとも1つのスペーサと、を備えている。スペーサをドライブシャフトハウジングに装着した状態で、ドライブシャフトハウジングはスイベルブラケットに対する軸線方向の移動を規制される。
【0012】
例えば、スペーサがスイベルブラケットの下端に隣接する位置でドライブシャフトハウジングに装着されている場合、スイベルブラケットはスペーサの高さ分だけ相対的に持ち上げられた状態となり、ドライブシャフトハウジングはスイベルブラケットに対して引き下げられた状態となる(ロング仕様)。一方、スペーサがスイベルブラケットの上端に隣接する位置でドライブシャフトハウジングに装着されている場合、スイベルブラケットはスペーサの高さ分だけ相対的に引き下げられた状態となり、ドライブシャフトハウジングはスイベルブラケットに対して持ち上げられた状態となる(ショート仕様)。スイベルブラケット(例えば、下端面)からプロペラの回転軸(軸心)まで寸法は、ショート仕様よりもロング仕様の方が長くなる。このように、スペーサの装着位置を変更することで、スイベルブラケットからプロペラの回転軸まで寸法が変更される。これにより、スペーサの装着位置を変更するという簡単な作業で、トランサム高さを容易に調整することができる。
【実施例
【0013】
以下、本発明の実施例に係る船外機について図面を用いて説明する。なお、実施例の説明において、上(Ud)、下(Dd)、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)は、船外機が取り付けられた船舶に乗って船舶の前進方向を向いている乗員の上、下、前、後、左、右を基準とする。各図に示す矢印はこれらの方向を示している。
【0014】
図1ないし図3を参照して、船外機1の全体構成について説明する。図1は船外機1を右方から示す側面図である。図2は船外機1の一部を右方から示す縦断面図である。図3は、図2のIII-III断面図である。なお、図2は、船外機1の左右方向の中央で切断した場合の断面図である。
【0015】
図1に示すように、船外機1は、船舶5のトランサムボード6に取り付けられ、船舶5を推進させる装置である。また、本実施例に係る船外機1は、電動モータ11を動力源とする電動式の船外機1であり、小型の船舶5に適した小出力の船外機である。なお、実施例の説明では、図1に示すように、船外機1を船舶5に取り付けて使用する状態を基準とし、請求項で言う「軸線方向」とは上下方向を指す。
【0016】
船外機1は、アッパユニット2と、ミドルユニット3と、ロアユニット4と、を備えている。アッパユニット2は船外機1の上部を構成し、ロアユニット4は船外機1の下部を構成している。ミドルユニット3は、アッパユニット2とロアユニット4との間に設けられている。
【0017】
[アッパユニット]
図1に示すように、アッパユニット2は、モータケース10と、電動モータ11と、インバータケース12と、インバータ13と、を備えている。
【0018】
動力源の一例としての電動モータ11は、モータケース10に収容されている。電動モータ11の出力軸には、ドライブシャフト14の上端部が接続されている。ドライブシャフト14は、電動モータ11から下方に向かって伸長している。ドライブシャフト14は、電動モータ11の動力によって軸周りに回転し、電動モータ11の動力をプロペラ42(後述する)に伝達する。インバータ13は、電動モータ11の上方に配置され、インバータケース12に収容されている。インバータ13は、電動モータ11の駆動を制御する。
【0019】
[ミドルユニット]
図1に示すように、ミドルユニット3は、ドライブシャフトハウジング15と、クランプブラケット16と、スイベルブラケット17と、ヒートシンク18と、を備えている。
【0020】
<ドライブシャフトハウジング>
図1および図2に示すように、ドライブシャフトハウジング15は、モータケース10の下方に設けられ、ドライブシャフト14を内包している。ドライブシャフトハウジング15は、モータケース10の下端に接続されたハウジング接続部20と、ハウジング接続部20の下端から下方に伸長したハウジング伸長部21と、を有している。ハウジング接続部20とハウジング伸長部21は一体に成型されている。ハウジング接続部20は、側面視で、モータケース10から下方に向かって細く括れるように形成されている。ハウジング伸長部21は、上下方向に長い略円筒状に形成されている。
【0021】
ハウジング伸長部21の上端部(ハウジング接続部20との境界付近)とハウジング伸長部21の上下方向の中間部とには、径方向外側に突き出すように上端規制部22と下端規制部23とが形成されている。上端規制部22と下端規制部23とは概ねフランジ状に形成されており、後述するスイベルブラケット17は上端規制部22と下端規制部23との間のハウジング伸長部21に上下方向に移動可能に取り付けられている。なお、本明細書では、上端規制部22と下端規制部23との間のハウジング伸長部21を摺動部21Aと呼ぶこととする。また、下端規制部23よりも下方に伸長するハウジング伸長部21は、下端規制部23の前側の周面と同一平面を成すように形成されている。また、ハウジング接続部20は、ドライブシャフトハウジング15の一部であるが、アッパユニット2の一部として捉えてもよい。
【0022】
また、図2に示すように、摺動部21Aの上下方向の中間部には、後側の周面から径方向外側に突き出すように回動規制突起24が形成されている。回動規制突起24は、摺動部21Aの後側の周面から突き出した略直方体状の突起である。
【0023】
<クランプブラケット>
図1に示すように、クランプブラケット16は、船外機1を船舶5のトランサムボード6に固定するために設けられている。クランプブラケット16は、側面から見ると上下反転した略U字状に形成され、上方からトランサムボード6に被せられ、トランサムボード6を挟み込む。また、図1からは明らかではないが、クランプブラケット16は平面から見ると左右一対のアーム状に形成されている。後述するスイベルブラケット17は、クランプブラケット16の左右一対のアーム部分に架設されたチルト軸S1を介して回動可能に支持されている。チルト軸S1を中心にスイベルブラケット17を上下方向に回動(揺動)することで、船外機1が船舶5に対してチルト(チルトアップ、チルトダウン)される。
【0024】
<スイベルブラケット>
図2に示すように、クランプブラケット16に支持されたスイベルブラケット17は、上下一対のブッシュ28を介してドライブシャフトハウジング15の摺動部21Aを囲むように配置されている。スイベルブラケット17は、ドライブシャフトハウジング15を軸周りに回動可能に支持している。また、スイベルブラケット17の上下方向の寸法は、ドライブシャフトハウジング15の摺動部21Aの寸法(上端規制部22と下端規制部23との間隔)よりも短く設定されている。そして、スイベルブラケット17は、ドライブシャフトハウジング15を上下方向に移動可能に支持している。
【0025】
図1ないし図3に示すように、スイベルブラケット17は、スイベル前部25とスイベル後部26とに分割可能な略円筒状に形成されている。前側のスイベル前部25は、一対のクランプブラケット16間に配置されている。後側のスイベル後部26は、スイベル前部25との間にドライブシャフトハウジング15(摺動部21A)を挟んで、ボルト等の締結部材を介してスイベル前部25に連結されている。スイベルブラケット17を平面視(または断面視)で、スイベル前部25は半円形状の外形を有し、スイベル後部26は細くなりながら後方に延びた外形を有し、スイベルブラケット17全体としては略滴型の外形を構成している(図3参照)。そして、スイベルブラケット17の軸心部には摺動部21Aが配置される円形状の開口が形成されている(図3参照)。
【0026】
図2に示すように、ブッシュ28は、例えば、耐摩耗性を有する合成樹脂や金属等の軸受材料で構成されている。ブッシュ28は、スイベルブラケット17と同様に、前後方向に分割可能な略円筒状に形成されている。ブッシュ28は、スイベルブラケット17の軸心部の開口に挿入された円筒部28Aと、円筒部28Aの端部から径方向外方に広がり、スイベルブラケット17の端面に当接するフランジ部28Bと、を有している。分割されたブッシュ28(円筒部28A)は、スイベル前部25とスイベル後部26との内側に嵌合している。なお、ブッシュ28は、スイベルブラケット17とは別部材であるが、スイベルブラケット17の一部として捉えてもよい。また。スイベル後部26の上下方向の両端面と上下一対のブッシュ28のフランジ部28Bには、回転止め突起27を差し込むための凹部が形成されている。
【0027】
(ハンドル、アタッチメント)
図1および図2に示すように、船外機1には、ドライブシャフトハウジング15を回動(揺動)操作するハンドル30が設けられている。ハンドル30は、アタッチメント31を介してドライブシャフトハウジング15のハウジング接続部20の前側に取り付けられている。ハンドル30の基端部は、左右方向に延びたハンドル軸S2を介してアタッチメント31に連結され、ハンドル軸S2を中心に上下方向に回動可能に設けられている。ハンドル30の先端部には、電動モータ11の回転数を操作するためのスロットルグリップGが設けられている(図1参照)。アタッチメント31は、ドライブシャフトハウジング15の上部(ハウジング接続部20)に連結され、ハンドル30を支持している。アタッチメント31は、ドライブシャフトハウジング15に連結される連結部31Aと、ハンドル30を支持する支持部31Bとの間に上下方向に段差を有する形状となっている。
【0028】
(回動規制部)
図3に示すように、スイベル前部25には、ドライブシャフトハウジング15を挟んで左右一対の回動規制部32が設けられている。各々の回動規制部32は、スイベルブラケット17に対して左右に略90度回動したドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24が突き当たる部分である。これにより、スイベルブラケット17に対するドライブシャフトハウジング15の回動が規制される。したがって、この船外機1の最大操舵角は、船舶5を直進させるステアリング位置(中立位置)から回動規制されるまでドライブシャフトハウジング15を回動させた角度であって、左右方向に略90度に設定されている。なお、最大操舵角は、左右方向に略90度に限定されるものではなく、90度未満であってもよいし、90度を超えてもよい。
【0029】
(ステアリングアジャスタ)
図1ないし図3に示すように、スイベル後部26の上下方向の略中央の後面には、ステアリングアジャスタ36が取り付けられている。詳細には、図2および図3に示すように、スイベル後部26(スイベルブラケット17)の上下方向の略中央には、その内面から径方向内側に突出した凸部33が形成されており、ステアリングアジャスタ36は凸部33に取り付けられている。凸部33は、平面視で、スイベル後部26の内面に沿って湾曲した帯状(または概ね半円環状)に形成されている(図3参照)。また、スイベル後部26の後面から凸部33を貫通するようにネジ穴34(雌ネジ)が形成されている(図3参照)。
【0030】
図2および図3に示すように、ステアリングアジャスタ36は、摘み部36Aと、摘み部36Aから径方向内側に向かって延びたネジ部36Bと、ネジ部36Bの先端に設けられた押圧部36Cと、を有している。摘み部36Aは、ユーザがネジ部36Bを回転させるために摘まむ部分である。ネジ部36Bは、ネジ穴34に螺合する雄ネジである。押圧部36Cは、例えばゴムパッド等の弾性体であって、ドライブシャフトハウジング15の周面に接触する。
【0031】
以上説明したステアリングアジャスタ36は、スイベルブラケット17に対するドライブシャフトハウジング15の回転抵抗力を増減させる機能を有している。例えば、ユーザが摘み部36Aを回転させてネジ部36Bを捩じ込むことで、押圧部36Cがドライブシャフトハウジング15の周面に押し付けられ、ドライブシャフトハウジング15の回動抵抗が増加する。一方、ユーザが摘み部36Aを回転させてネジ部36Bを引き戻すことで、ドライブシャフトハウジング15の周面に対する押圧部36Cの押し付けが緩められ、ドライブシャフトハウジング15の回動抵抗が減少する。
【0032】
図3に示すように、凸部33は、平面視で、左右方向の一端側(図3では左側)には形成されていない。これにより、スイベル前部25とスイベル後部26との左側の継目付近には、凸部33が存在しない空間としての通過許容部35が形成されている。通過許容部35は、左側の回動規制部32に突き当たった回動規制突起24(図3に二点鎖線で示す部分を参照)を上下方向に通過させるために形成されている。したがって、ドライブシャフトハウジング15は、スイベルブラケット17に対して最大操舵角(所定の角度)まで軸周りに回動されることで、上下方向に移動可能となる。
【0033】
<ヒートシンク>
図1に示すように、ヒートシンク18は、タンク37と冷却水通路38(図2参照)とポンプ39と共に、電動モータ11やインバータ13を冷却するための冷却装置を構成する。ヒートシンク18は、ドライブシャフトハウジング15の下端に連結され、冷却水を冷却する機能を有している。ヒートシンク18は、ドライブシャフトハウジング15のハウジング伸長部21よりも前後方向に幅広い筒状に形成されている。タンク37は、冷却水を貯えるためにインバータケース12の後側に設けられている。冷却水通路38は、電動モータ11、インバータ13およびヒートシンク18を循環するようにモータケース10やドライブシャフトハウジング15等の内部に設けられている。ポンプ39は、モータケース10の後側に設けられ、冷却水通路38を介して電動モータ11、インバータ13およびヒートシンク18において冷却水を循環させる機能を有している。なお、冷却水は、例えばエチレングリコールを主成分とする不凍液を用いることができる。
【0034】
[ロアユニット]
図1に示すように、ロアユニット4は、ギヤケース40と、ギヤ機構41と、プロペラ42と、を備えている。
【0035】
<ギヤケース>
ギヤケース40は、ヒートシンク18の下端に連結されている。ギヤケース40は、正面視で、上端部から、ギヤ機構41を収容するギヤ機構収容部40Aにかけての部分が細く括れた形状となっている。また、ギヤ機構収容部40Aよりも下方に延びた部分は、舵として機能するように板状に形成されている。また、上記したドライブシャフトハウジング15の下端部、つまりギヤケース40との境界付近には、アンチベンチレーションプレート44が後方に向かって延びている。アンチベンチレーションプレート44は、水面からのプロペラ42への空気の流入を抑制する機能を有している。
【0036】
<ギヤ機構>
ギヤ機構41は、ギヤケース40のギヤ機構収容部40Aに収容されている。ドライブシャフト14の下側はギヤケース40内に進入しており、ギヤ機構41に接続されている。ギヤ機構41は前後方向に延びたプロペラシャフト43(回転軸)を含み、プロペラシャフト43の後部はギヤケース40から後方に突き出している。プロペラシャフト43の後部には、プロペラ42が取り付けられている。ギヤ機構41は、ドライブシャフト14の軸周りの回転を、プロペラシャフト43(プロペラ42)へ伝達する。プロペラ42は、水中において軸周りに回転して船舶5を推進させる推進力を生成する。
【0037】
ところで、船外機1では、プロペラ42の回転による推進力を適正に水に伝え、所望の推進性能を得るために、船舶5のトランサムボード6と船外機1との位置関係を適正に設定することが重要とされている。具体的には、トランサムボード6の上端面から船外機1のアンチベンチレーションプレート44(またはプロペラ42の回転軸(軸心)若しくはプロペラシャフト43の軸心)までの高さ(所謂トランサム高さ)が適正に設定される必要がある。トランサム高さを適正に設定した結果として、水面からプロペラ42の回転軸までの水深(プロペラ水深)が適正となり、プロペラ42の回転による推進力を効率良く水に伝えることができ、所望の推進性能を得ることができる。
【0038】
そこで、本実施例に係る船外機1は、トランサム高さを簡単に調整するために、スイベルブラケット17の上端または下端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着されるスペーサ60を備えている。
【0039】
[スペーサ]
主に、図4Aおよび図4Bを参照して、スペーサ60について説明する。図4Aはスペーサ60を示す平面図である。図4Bはスペーサ前部61およびブッシュ70等を示す斜視図である。
【0040】
スペーサ60は、例えば、アルミニウム合金等の金属製で略円筒状に形成されている。スペーサ60は、ブッシュ70を介してドライブシャフトハウジング15の摺動部21Aを囲むように配置されている(図2参照)。スペーサ60は、スペーサ前部61とスペーサ後部62とに分割可能な略円筒状に形成されている。図4Aに示すように、スペーサ60は、平面視で、スイベルブラケット17と略同一形状に形成されている。したがって、スペーサ前部61は半円形状の外形を成し、スペーサ後部62は細くなりながら後方に延びた外形を成し、スペーサ60全体として略滴型の外形を構成している。そして、スペーサ60の軸心部には摺動部21Aが配置される円形状の開口が形成されている。
【0041】
前側のスペーサ前部61の周面には、ボルト67を前後方向に貫通させる左右一対のボルト貫通穴63が穿孔されている。また、スペーサ前部61の右側周面には、後述するブッシュ70のグリスニップル71を左右方向に貫通させるニップル貫通穴64が穿孔されている。後側のスペーサ後部62の分割面には、左右一対のネジ穴65(雌ネジ)が形成されている(図4Bも参照)。また、スペーサ後部62の上下方向の一方の端面には、スイベルブラケット17(スイベル後部26)に設けられた回転止め突起27が嵌合する回転止め凹部66が凹むように形成されている。
【0042】
図4Bに示すように、ブッシュ70は、スイベルブラケット17に設けられたブッシュ28と概ね同一構造である。すなわち、ブッシュ70は、耐摩耗性を有する軸受材料で構成され、スペーサ60と同様に、前後方向に分割可能な略円筒状に形成されている。また、ブッシュ70は、円筒部70Aと、フランジ部70Bと、を有している。円筒部70Aは、スペーサ60の軸線方向の他方(回転止め凹部66が形成されていない側)からスペーサ60の軸心部の開口に挿入されている。フランジ部70Bは、スペーサ60の軸線方向の他方の端面に当接している。
【0043】
前側のブッシュ70には、円筒部70Aの右側周面から径方向外方に向かってグリスニップル71が突出している。分割された前側のブッシュ70は、グリスニップル71をニップル貫通穴64に貫通させた状態でスペーサ前部61の内側に嵌合している。分割された後側のブッシュ70は、スペーサ後部62の内側に嵌合している。グリスニップル71から注入されたグリスはスペーサ60(スイベルブラケット17)とドライブシャフトハウジング15との間に介在し、ドライブシャフトハウジング15を潤滑する。なお、ブッシュ70は、スペーサ60とは別部材であるが、スペーサ60の一部として捉えてもよい。
【0044】
[トランサム高さの調整作業]
次に、図1図2図5および図6を参照して、スペーサ60を用いたトランサム高さの調整作業の一例について説明する。図5は船外機1(ショート仕様)を右方から示す側面図である。図6は船外機1(ショート仕様)の一部を右方から示す縦断面図である。
【0045】
<スペーサ装着の概要>
スペーサ後部62は、スペーサ前部61との間にドライブシャフトハウジング15(摺動部21A)を挟むように配置され、ボルト貫通穴63を貫通したボルト67をネジ穴65に螺合させることでスペーサ前部61に連結される。これにより、スペーサ60は、スイベルブラケット17の上端または下端に隣接する位置でブッシュ70を介して摺動部21Aに装着される(図1および図5参照)。詳細には、スペーサ60は、スイベルブラケット17の下端とドライブシャフトハウジング15の下端規制部23との間の空間(図1参照)、またはスイベルブラケット17の上端とドライブシャフトハウジング15の上端規制部22との間の空間(図5参照)を埋めるように設けられる。スイベルブラケット17とスペーサ60とを合わせた高さは、ドライブシャフトハウジング15の摺動部21Aの高さ(上端規制部22と下端規制部23との間隔)と略一致している。したがって、スペーサ60をドライブシャフトハウジング15に装着した状態で、ドライブシャフトハウジング15はスイベルブラケット17に対する上下方向(軸線方向)の移動が規制される。
【0046】
<ロング仕様>
図1および図2を参照して、スペーサ60がスイベルブラケット17の下端に隣接する位置で摺動部21Aに装着されている場合について説明する。スペーサ60は回転止め凹部66を上方に向けた姿勢とされ、スイベルブラケット17の下端面に設けられた回転止め突起27はスペーサ60の回転止め凹部66に嵌合している、これにより、スペーサ60は軸周りの回転を規制されている。また、スペーサ60がスイベルブラケット17の下端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着されている場合、スイベルブラケット17はスペーサ60の高さ分だけ相対的に持ち上げられた状態となり、ドライブシャフトハウジング15はスイベルブラケット17に対して引き下げられた状態となる。このため、船外機1は、スイベルブラケット17の任意の位置(例えば、下端面)からプロペラ42の回転軸(軸心)までの寸法(L1)がスペーサ60の高さ分だけ延長されたロング仕様となる(図1参照)。つまり、トランサム高さが長く設定された船外機1となる。
【0047】
また、ロング仕様とした場合、ドライブシャフトハウジング15の上部(ハウジング接続部20)が船舶5のトランサムボード6(またはクランプブラケット16)の上端に近づくため、ハンドル30はトランサムボード6の上端から上方に離れた位置に設けることが好ましい。そこで、図1および図2に示すように、ロング仕様とした場合、アタッチメント31は、支持部31Bを連結部31Aよりも上方に位置させた姿勢でドライブシャフトハウジング15に固定される。そして、支持部31Bに連結されたハンドル30は、トランサムボード6の上端から上方に離れた位置に設けられる。
【0048】
<ロング仕様からショート仕様への変更>
次に、主に図5および図6を参照して、ロング仕様からトランサム高さが低く設定された状態(後述するショート仕様)に変更する場合について説明する。なお、図5では、ショート仕様の船外機1と比較することができるように、ロング仕様の船外機1(図1参照)の一部を二点鎖線で図示している。
【0049】
ユーザは、ドライブシャフトハウジング15(ハンドル30)を右側の最大操舵角を除く角度に位置させ、スペーサ60の各ボルト67を外し、スペーサ60をスペーサ前部61とスペーサ後部62とに分割する。また、スイベルブラケット17の下端面に設けられた回転止め突起27を引き抜く。この状態では、ステアリングアジャスタ36を取り付けるための凸部33の下面がドライブシャフトハウジング15の一部である回動規制突起24の上端に干渉するため、ドライブシャフトハウジング15はスイベルブラケット17に対して上方に移動することを規制されている。なお、上記の説明では、スイベルブラケット17の下端に隣接したスペーサ60を取り外す際、ドライブシャフトハウジング15を右側の最大操舵角を除く角度に位置させていたが、これに限らず、ドライブシャフトハウジング15を右側の最大操舵角に位置させていても構わない。
【0050】
次に、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15(ハンドル30)を右側の最大操舵角まで回動させる。すると、ドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24は、左側の回動規制部32に突き当たり、平面視で、スイベルブラケット17の通過許容部35に一致するように配置される(図3に示す二点鎖線参照)。続いて、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15を持ち上げ、相対的に引き下げられたスイベルブラケット17の下端をドライブシャフトハウジング15の下端規制部23に突き当てる(図5参照)。すると、ドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24は、スイベルブラケット17の通過許容部35を下方から上方に向かって通過し、凸部33の上側に移動する(図6参照)。
【0051】
次に、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15(ハンドル30)を右側の最大操舵角を除く角度に回動させる。この状態で、ドライブシャフトハウジング15の一部である回動規制突起24(の下端)がステアリングアジャスタ36を取り付けるための凸部33(の上面)に干渉し、ドライブシャフトハウジング15は下方への移動を規制されている(図6参照)。つまり、ユーザの手や治具によってドライブシャフトハウジング15を支えていなくても、ドライブシャフトハウジング15が落下することがない。
【0052】
次に、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15の上端規制部22とスイベルブラケット17の上端との間に露出した摺動部21Aにスペーサ60を配置する。詳細には、ユーザは、回転止め突起27をスイベルブラケット17等の上端面の穴に差し込み、スペーサ後部62の回転止め凹部66を下方に向けた姿勢とし、回転止め突起27を回転止め凹部66に嵌合させる。そして、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15の上端規制部22とスイベルブラケット17の上端との間に露出した摺動部21Aをスペーサ前部61とスペーサ後部62とで挟み、スペーサ前部61とスペーサ後部62と各ボルト67で一体化させる。なお、スイベルブラケット17の上端の回転止め突起27が回転止め凹部66に嵌合しているため、スペーサ60は軸周りの回転を規制されている。
【0053】
以上によって、スイベルブラケット17の下端に隣接していたスペーサ60は、上下反転されて、スイベルブラケット17の上端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着される(図5および図6参照)。この場合、スイベルブラケット17はスペーサ60の高さ分だけ相対的に引き下げられた状態となり、ドライブシャフトハウジング15はスイベルブラケット17に対して持ち上げられた状態となる。このため、船外機1は、スイベルブラケット17の任意の位置(例えば、下端面)からプロペラ42の回転軸(軸心)まで寸法(L2(L2<L1))がスペーサ60の高さ(H)分だけ短縮されたショート仕様となる(図5参照)。つまり、トランサム高さが短く設定された船外機1となる。
【0054】
また、ショート仕様とした場合、ドライブシャフトハウジング15の上部(ハウジング接続部20)が船舶5のトランサムボード6の上端から上方に離れるため、ハンドル30はトランサムボード6の上端に近づけた位置に設けることが好ましい。そこで、ショート仕様とした場合、ユーザは、アタッチメント31をドライブシャフトハウジング15から取り外し、アタッチメント31を表裏反転してドライブシャフトハウジング15に連結する。アタッチメント31は、支持部31Bを連結部31Aよりも下方に位置させた姿勢でドライブシャフトハウジング15に固定される。支持部31Bに連結されたハンドル30は、トランサムボード6の上端に近づけた位置に設けられる。
【0055】
<ショート仕様からロング仕様への変更>
ショート仕様からロング仕様に変更する手順は、上記したロング仕様からショート仕様に変更する手順と概ね同様である。簡単に説明すると、ユーザは、アタッチメント31をドライブシャフトハウジング15から取り外し、表裏反転してドライブシャフトハウジング15に固定し、連結部31Aよりも下方に位置する支持部31Bにハンドル30を連結する(図1参照)。続いて、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15を右側の最大操舵角を除く角度に位置させ、スペーサ60および回転止め突起27を取り外す。この状態で、ドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24がスイベルブラケット17の凸部33に干渉しているため、ドライブシャフトハウジング15が落下することがない(図6参照)。なお、アタッチメント31の取り外し・取り付け作業は、スペーサ60を取り外した後に行われてもよい。
【0056】
次に、ユーザは、ドライブシャフトハウジング15を右側の最大操舵角まで回動させた後、ドライブシャフトハウジング15を引き下げ、相対的に持ち上げられたスイベルブラケット17の上端をドライブシャフトハウジング15の上端規制部22に突き当てる(図1および図2参照)。すると、ドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24は、スイベルブラケット17の通過許容部35を上方から下方に向かって通過し、凸部33の下側に移動する(図2参照)。
【0057】
次に、ユーザは、回転止め突起27をスイベルブラケット17等の下端面の穴に差し込み、ドライブシャフトハウジング15の下端規制部23とスイベルブラケット17の下端との間に露出した摺動部21Aにスペーサ60を装着する(図2参照)。以上によって、スペーサ60がスイベルブラケット17の下端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着され、船外機1はロング仕様からショート仕様に変更される(図1および図2参照)。
【0058】
以上説明した本実施例に係る船外機1では、スペーサ60をドライブシャフトハウジング15に装着した状態で、ドライブシャフトハウジング15はスイベルブラケット17に対する軸線方向の移動を規制され、スペーサ60の装着位置を変更することで、スイベルブラケット17からプロペラ42の回転軸までの寸法(L1>L2)が変更されていた。つまり、スペーサ60の装着位置の変更に伴って、トランサム高さが変更(調整)されていた。この構成によれば、油圧シリンダ等のアクチュエータを用いてトランサム高さを調整する場合に比べて、トランサム高さの調整に係る構造の簡素化と製造コストの低減とを実現することができる。これにより、スペーサ60の装着位置を変更するという簡単な作業で、トランサム高さを容易に調整することができる。
【0059】
また、本実施例に係る船外機1では、ドライブシャフトハウジング15がスイベルブラケット17に対して最大操舵角(所定の角度)まで軸周りに回動されることで、上下方向(軸線方向)に移動可能とされていた。そして、ドライブシャフトハウジング15を上下方向に移動可能とした状態で、スペーサ60の装着位置が変更されていた。この構成によれば、ドライブシャフトハウジング15を最大操舵角に回動させない限り、ドライブシャフトハウジング15が上下方向に移動することがない。これにより、ユーザの意図に反して、ドライブシャフトハウジング15が上下方向に移動することを防止することができる。
【0060】
ところで、仮に、ドライブシャフトハウジング15(ハンドル30)が揺れ動く状態ではトランサム高さの調整作業(ドライブシャフトハウジング15の上下方向の移動作業)が困難になると考えられる。特に、重量物である電動モータ11を含むアッパユニット2と共にドライブシャフトハウジング15を上下方向に移動させる作業が困難になると考えられる。このようなドライブシャフトハウジング15の揺れを防止する解決策のひとつとして、所定の角度でドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24に嵌合する溝をスイベルブラケット17に形成することが考えられる。
【0061】
これに対し、本実施例に係る船外機1では、ドライブシャフトハウジング15の上下方向の移動が許容される所定の角度は、船舶5を直進させるステアリング位置から回動規制されるまでドライブシャフトハウジング15を回動させた最大操舵角であった。この構成によれば、ユーザはドライブシャフトハウジング15の回動規制突起24を回動規制部32に突き当てた安定した状態でトランサム高さの調整作業(上下方向の移動作業)を行うことができる。これにより、当該調整作業を適正かつ迅速に行うことができる。
【0062】
また、本実施例に係る船外機1では、ドライブシャフトハウジング15を最大操舵角(所定の角度)を除く角度に位置させた場合、ドライブシャフトハウジング15の一部(回動規制突起24)はステアリングアジャスタ36を取り付けるためにスイベルブラケット17の内面から径方向内側に突出した凸部33に干渉し、ドライブシャフトハウジング15は軸線方向への移動を規制される構成とした(図6参照)。この構成によれば、ドライブシャフトハウジング15を最大操舵角を除く角度とし、スイベルブラケット17の上端に隣接したスペーサ60を取り外した場合に、回動規制突起24が凸部33に干渉するため、ドライブシャフトハウジング15が重量物である電動モータ11を含むアッパユニット2等と共に勢いよく落下することを抑制することができる。これにより、トランサム高さの調整作業において、作業者はドライブシャフトハウジング15等を手や治具で支える必要が無くなり、当該調整作業を容易に実施することができる。
【0063】
また、本実施例に係る船外機1では、アタッチメント31が、ドライブシャフトハウジング15に連結される連結部31Aと、ハンドル30を支持する支持部31Bとの間に上下方向に段差を有する形状であった。このアタッチメント31は、表裏反転してドライブシャフトハウジング15に連結可能されることで、支持部31Bの高さを変更する構成であった。この構成によれば、調整されたトランサム高さに応じて、ハンドル30の高さ(例えば、船舶5の船底からハンドル30までの高さ)を変更することができる。これにより、トランサム高さの変更に伴うハンドル30の高さ変化を抑えることができ、ユーザに対して良好な操作性を提供することができる。
【0064】
なお、本実施例に係る船外機1では、通過許容部35がスイベルブラケット17(凸部33)の左側に形成されていたが、スイベルブラケット17の右側に形成されてもよいし、スイベルブラケット17の左右両側に形成されてもよい(図示せず)。また、通過許容部35は、回動規制部32に突き当たった回動規制突起24を上下方向に通過させる位置に形成されていたが、本発明はこれに限定されない。先にも述べたが、通過許容部35は、ドライブシャフトハウジング15を最大操舵角とは異なる所定の角度に回動させた回動規制突起24を上下方向に通過させる位置に形成されてもよい(図示せず)。つまり、ドライブシャフトハウジング15を上下方向(軸線方向)に移動可能であれば、基本的には所定の角度は自由に設定することができる。
【0065】
また、本実施例に係る船外機1では、トランサム高さを調整するために、1つのスペーサ60がスイベルブラケット17の上端または下端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、同一または異なる高さとなる複数のスペーサ60を用意し、複数のスペーサ60を、スイベルブラケット17の上端または下端若しくは両端に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着してもよい(図示せず)。すなわち、少なくとも1つのスペーサ60が、スイベルブラケット17の上下方向(軸線方向)の両端の少なくとも一方に隣接する位置でドライブシャフトハウジング15に装着されていればよい。この構成によれば、トランサム高さを3段階以上に調整することも可能になる。
【0066】
また、本実施例に係る船外機1では、スペーサ60が前後方向に二分割にされる構造であったが、これに限らず、左右方向に二分割にされる構造であってもよい(図示せず)。
【0067】
また、本実施例に係る船外機1では、スイベルブラケット17等の上下方向の端面に回転止め突起27が設けられ、スペーサ60に回転止め凹部66が設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、スイベルブラケット17等の上下両端面に一対の回転止め突起27が固定されていてもよい(図示せず)。また、スイベルブラケット17の上下両端面に一対の回転止め凹部が設けられ、スペーサ60に回転止め突起が設けられてもよい(図示せず)。
【0068】
また、本実施例に係る船外機1では、ハンドル30がアタッチメント31を介してドライブシャフトハウジング15に連結されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、船外機1は、ハンドル30に代えて、ドライブシャフトハウジング15を揺動操作するために船舶5に装備されたステアリング装置(図示せず)に接続されるケーブル(図示せず)を備えていてもよい。この場合、アタッチメント31の支持部31Bはケーブルを支持する。この構成によれば、調整されたトランサム高さに応じて、アタッチメント31を表裏反転されてドライブシャフトハウジング15に連結することで、ケーブル(支持部31B)の高さを変更することができるため、ケーブルが無理に曲げられる等の不具合を抑制することができる。
【0069】
また、本実施例に係る船外機1は、アッパユニット2、ミドルユニット3およびロアユニット4の3つの部位に分かれていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、船外機は、上下2つのユニットに分かれていてもよいし、単一のユニットであってもよい(いずれも図示せず)。
【0070】
また、本実施例に係る船外機1は、電動モータ11を動力源としていたが、電動モータ11に代えて、小型の内燃機関(例えば、排気を大気開放とする内燃機関)を動力源としてもよいし、電動モータ11と内燃機関とを組み合わせたハイブリッド型の動力源を備えていてもよい(いずれも図示せず)。
【0071】
なお、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船外機もまた本発明の技術思想に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 船外機
5 船舶
6 トランサムボード
11 電動モータ(動力源)
14 ドライブシャフト
15 ドライブシャフトハウジング
17 スイベルブラケット
24 回動規制突起(ドライブシャフトハウジングの一部)
30 ハンドル
31 アタッチメント
31A 連結部
31B 支持部
33 凸部
36 ステアリングアジャスタ
42 プロペラ
60 スペーサ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6