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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20240717BHJP
   G11B 5/78 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 5/584 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 21/10 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 23/107 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 23/30 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 15/43 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 5/008 20060101ALI20240717BHJP
   G11B 5/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/78
G11B5/73
G11B5/584
G11B21/10 W
G11B23/107
G11B23/30 E
G11B15/43
G11B5/008
G11B5/00 D
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020203196
(22)【出願日】2020-12-08
(62)【分割の表示】P 2020556817の分割
【原出願日】2020-10-08
(65)【公開番号】P2021064433
(43)【公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2019186904
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 香奈子
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-163730(JP,A)
【文献】特開平10-241143(JP,A)
【文献】特開平11-126320(JP,A)
【文献】特開平11-039636(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171665(WO,A1)
【文献】特開2006-099919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/56 - 5/60
G11B 5/00 - 5/024
G11B 15/43
G11B 21/10
G11B 23/00 - 23/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リールと
リールに巻装されたテープ状の磁気記録媒体と、
前記リールと前記磁気記録媒体を収容するカートリッジケースとを有し、
前記磁気記録媒体は磁性層、下地層、ベース層、及びバック層を含み、
前記磁気記録媒体の平均厚みt が5.4μm以下 であり、
前記磁気記録媒体に対して、窒素導入環境下で、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、前記磁気記録媒体が熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、前記磁気記録媒体の長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、
前記磁気記録媒体の温度25℃、相対湿度50%で測定されるポアソン比ρが0.40以下である、
磁気記録カートリッジ。
【請求項2】
前記磁気記録媒体の平均厚みt が5.3μm以下である、請求項1に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項3】
前記ポアソン比が0.38以下である、請求項1又は2に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項4】
前記ベース層が、ポリエステルを主たる成分として含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項5】
前記ベース層の厚みが、4.2μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項6】
前記ベース層の厚みが、4.0μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項7】
前記磁気記録媒体の垂直方向における角形比が65%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項8】
前記磁気記録媒体を温度60℃で72時間保持した時の前記磁気記録媒体の幅方向の収縮率が、-0.035%以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項9】
前記磁性層の平均厚みt が80nm以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項10】
前記磁性層の平均厚みt が50nm以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項11】
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉が六方晶フェライト、ε酸化鉄、又はCo含有スピネルフェライトを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項12】
前記六方晶フェライトが、Ba及びSrのうちの少なくとも1種を含み、且つ、前記ε酸化鉄が、Al及びGaのうちの少なくとも1種を含む、請求項11に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項13】
前記磁気記録媒体の長手方向における保磁力Hcが2000Oe以下である、請求項1~12のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項14】
前記磁性層は、磁化反転間距離Lの最小値が48nm以下となるようにデータを記録可能に構成されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項15】
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.5以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項16】
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項17】
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1500nm 以下である、請求項1~16のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項18】
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1300nm 以下である、請求項1~17のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項19】
前記磁性層は前記磁気記録媒体の長手方向に延びる複数のサーボバンドを有する、請求項1~18のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項20】
前記磁性層の表面全体の面積Sに対する前記複数のサーボバンドの総面積S SB の比率R S (=(S SB /S)×100)が4.0%以下である、請求項19に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項21】
前記サーボバンドのサーボバンド幅は95μm以下である、請求項19又は20に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項22】
前記複数のサーボバンドには所定角度φで傾斜する直線状のサーボパターンが記録されており、
前記所定角度φは5°~25° である、
請求項19~21のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項23】
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
前記通信部を介して記録再生装置から受信した情報を前記記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、前記記憶部から情報を読み出し、前記通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備え、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含む、
請求項1~22のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項24】
前記調整情報は前記磁気記録媒体の幅関連情報を含む、請求項23に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項25】
前記磁性層は複数のサーボバンドを有し、
前記幅関連情報は、前記サーボバンド間の距離を含む、
請求項24に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項26】
前記熱機械分析は、前記磁気記録媒体を長さ30mmかつ幅4.0 mmに切り出した第1のサンプルを用い、前記第1のサンプル を測定対象部分が10.0 mmになるように熱機械分析装置 にセットし、窒素導入環境下にて、1℃/分の昇温速度で40℃から150℃まで昇温していったときに、前記第1のサンプルの前記測定対象部分が5μm伸びた状態を維持するための荷重変化を測定するものである 、
請求項1~25のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【請求項27】
前記ポアソン比ρは、
前記磁気記録媒体を長さ150mmかつ幅1/2インチに切り出した第2のサンプルを用い、前記第2のサンプルをチャック間の距離が100mmとなるように前記第2のサンプルの長手方向の両端部をチャックして引張試験機 にセットし、温度25℃相対湿度50%の環境下で、前記引張試験機により前記第2のサンプルに引っ張り速度0.5mm/minで前記第2のサンプルの長手方向に引っ張るように応力をかけたときに測定される寸法変化量を用いて、以下の式により求められるものであり、
ここで、当該式において、
前記初期長は、前記応力が0.5Nであるときの前記引張試験機により計測される前記第2のサンプルの長手方向の長さであり、
前記初期幅は、前記応力が0.5Nであるときのデジタル寸法測定器により計測される前記第2のサンプルの長手方向中央部分における幅であり、
前記長さの寸法変化量は、前記応力が0.5Nから1.0Nに変化したときの前記引張試験機により計測される前記第2のサンプルの長手方向の長さの変化量であり、
前記幅の寸法変化量は、前記応力が0.5Nから1.0Nに変化したときの前記デジタル寸法測定器により計測される前記第2のサンプルの長手方向中央部分における幅の変化量である、
請求項1~26のいずれか一項に記載の磁気記録カートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばIoT、ビッグデータ、及び人工知能などの発展に伴い、収集及び保存されるデータの量が大幅に増加している。大量のデータを記録するための媒体として、しばしば磁気記録媒体が用いられる。
【0003】
磁気記録媒体に関して、これまでに種々の技術が提案されている。例えば下記特許文献1には、磁気記録媒体の基板と、その基板の表面に設けられ、情報を記録する磁性層と、前記磁性層を保護する保護膜と、その保護膜の上に形成された潤滑層と、前記基板の裏面に設けられたバックコート層とを備え、反転温度(T)は、100℃を超えることを特徴とする磁気記録媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-39636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気記録媒体は、例えば磁気記録カートリッジに収容される。磁気記録カートリッジ1つ当たりの記録容量をさらに増やすために、磁気記録カートリッジに収容される磁気記録媒体(例えば磁気記録テープ)をより薄くして(全厚を低減して)、磁気記録カートリッジ1つ当たりのテープ長を増加させることが考えられる。
しかしながら、磁気記録媒体の全厚が薄くなるにつれて、磁気記録媒体の長期保存後に、記録又は再生が良好に行われない場合がある。そこで、本技術は、全厚が薄いにもかかわらず、長期保存後においても、再生又は記録を良好に行うことができる磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、
リールと
リールに巻装されたテープ状の磁気記録媒体と、
前記リールと前記磁気記録媒体を収容するカートリッジケースとを有し、
前記磁気記録媒体は磁性層、下地層、ベース層、及びバック層を含み、
前記磁気記録媒体の平均厚みt が5.4μm以下であり、
前記磁気記録媒体に対して、窒素導入環境下で、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、前記磁気記録媒体が熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、前記磁気記録媒体の長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、
前記磁気記録媒体の温度25℃、相対湿度50%で測定されるポアソン比ρが0.40以下である、
磁気記録カートリッジを提供する。
前記磁気記録媒体の平均厚みt は5.3μm以下でありうる。
前記ポアソン比は0.38以下でありうる。
前記ベース層は、ポリエステルを主たる成分として含みうる。
前記ベース層の厚みは、4.2μm以下でありうる。
前記ベース層の厚みは、4.0μm以下でありうる。
前記磁気記録媒体の垂直方向における角形比は65%以上でありうる。
前記磁気記録媒体を温度60℃で72時間保持した時の前記磁気記録媒体の幅方向の収縮率は、-0.035%以上でありうる。
前記磁性層の平均厚みt は80nm以下でありうる。
前記磁性層の平均厚みt は50nm以下でありうる。
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉が六方晶フェライト、ε酸化鉄、又はCo含有スピネルフェライトを含みうる。
前記六方晶フェライトが、Ba及びSrのうちの少なくとも1種を含み、且つ、前記ε酸化鉄が、Al及びGaのうちの少なくとも1種を含みうる。
前記磁気記録媒体の長手方向における保磁力Hcが2000Oe以下でありうる。
前記磁性層は、磁化反転間距離Lの最小値が48nm以下となるようにデータを記録可能に構成されていてよい。
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.5以下でありうる。
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下でありうる。
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1500nm 以下でありうる。
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1300nm 以下でありうる。
前記磁性層は前記磁気記録媒体の長手方向に延びる複数のサーボバンドを有しうる。
前記磁性層の表面全体の面積Sに対する前記複数のサーボバンドの総面積S SB の比率R S (=(S SB /S)×100)が4.0%以下でありうる。
前記サーボバンドのサーボバンド幅は95μm以下でありうる。
前記複数のサーボバンドには所定角度φで傾斜する直線状のサーボパターンが記録されており、
前記所定角度φは5°~25°でありうる。
前記磁気記録カートリッジは、
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
前記通信部を介して記録再生装置から受信した情報を前記記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、前記記憶部から情報を読み出し、前記通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備えていてよく、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含みうる。
前記調整情報は前記磁気記録媒体の幅関連情報を含みうる。
前記磁性層は複数のサーボバンドを有し、
前記幅関連情報は、前記サーボバンド間の距離を含みうる。
前記熱機械分析は、前記磁気記録媒体を長さ30mmかつ幅4.0mmに切り出した第1のサンプルを用い、前記第1のサンプルを測定対象部分が10.0mmになるように熱機械分析装置にセットし、窒素導入環境下にて、1℃/分の昇温速度で40℃から150℃まで昇温していったときに、前記第1のサンプルの前記測定対象部分が5μm伸びた状態を維持するための荷重変化を測定するものであってよい。
前記ポアソン比ρは、
前記磁気記録媒体を長さ150mmかつ幅1/2インチに切り出した第2のサンプルを用い、前記第2のサンプルをチャック間の距離が100mmとなるように前記第2のサンプルの長手方向の両端部をチャックして引張試験機にセットし、温度25℃相対湿度50%の環境下で、前記引張試験機により前記第2のサンプルに引っ張り速度0.5mm/minで前記第2のサンプルの長手方向に引っ張るように応力をかけたときに測定される寸法変化量を用いて、以下の式により求められるものであってよく、


ここで、当該式において、
前記初期長は、前記応力が0.5Nであるときの前記引張試験機により計測される前記第2のサンプルの長手方向の長さであり、
前記初期幅は、前記応力が0.5Nであるときのデジタル寸法測定器により計測される前記第2のサンプルの長手方向中央部分における幅であり、
前記長さの寸法変化量は、前記応力が0.5Nから1.0Nに変化したときの前記引張試験機により計測される前記第2のサンプルの長手方向の長さの変化量であり、
前記幅の寸法変化量は、前記応力が0.5Nから1.0Nに変化したときの前記デジタル寸法測定器により計測される前記第2のサンプルの長手方向中央部分における幅の変化量であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本技術に従う磁気記録媒体の一例の断面の模式図である。
図2】磁気記録媒体に設けられるデータバンド及びサーボバンドの例を示す図である。
図3】サーボバンドにおけるサーボパターンの例を示す図である。
図4】サーボバンドにおけるサーボパターンの例を示す図である。
図5】磁性粒子の構成を示す断面図である。
図6】変形例における磁性粒子の構成を示す断面図である。
図7】記録再生装置の構成を示す概略図である。
図8】変形例の磁気記録媒体の断面の模式図である。
図9】磁性層のTEM写真の例である。
図10】カートリッジの構成の一例を示す分解斜視図である。
図11】カートリッジメモリの構成の一例を示すブロック図である。
図12】熱機械分析装置による測定結果の一例である。
図13】カートリッジの変形例の構成の一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本技術を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態を示したものであり、本技術の範囲がこれらの実施形態のみに限定されることはない。
【0009】
本技術について、以下の順序で説明を行う。
1.本技術の説明
2.本技術の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
(1)磁気記録媒体の構成
(2)各層の説明
(3)物性及び構造
(4)磁気記録媒体の製造方法
(5)記録再生装置
(6)カートリッジ
(7)カートリッジの変形例
(8)効果
(9)変形例
3.実施例
【0010】
1.本技術の説明
【0011】
本発明者らは、種々の全厚の薄い磁気記録媒体について検討した。その結果、本発明者らは、特定の構成を有する磁気記録媒体が、長期保存後においても、再生又は記録を良好に行うことができることを見出した。すなわち、本技術に従う磁気記録媒体は、磁性層、下地層、ベース層、及びバック層を含み、磁気記録媒体の平均厚みtが5.4μm以下であり、前記磁気記録媒体に対して、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、ポアソン比が0.40以下である。
【0012】
磁気記録媒体を長期保存した後の当該磁気記録媒体の記録又は再生において、データ信号を書きこんだり又は読み出したりできなくなることによって、記録又は再生に通常よりも多くの時間を要する場合又は記録又は再生ができない場合がある。このような現象は、磁気記録媒体に高容量のデータを書き込むために磁気記録媒体の全厚をより薄くすることに伴い又は記録再生が行われるデータトラックの幅をより狭くすることに伴い、現れやすくなる。このような現象は、特に、データトラックがテープ長手方向に平行に設けられている系に関して特に表れやすい。全厚がより薄くなるにつれてこのような現象が生じる要因に関して、磁気記録媒体の全厚がより薄くなるにつれて磁気記録媒体の変形(特には幅方向の変形)が生じやすくなること及び高容量化のためにトラック幅が狭くなっていくことが、重要な要因であると考えられる。
磁気記録媒体の変形は、例えば磁気記録媒体に生じたひずみが緩和される際に起こりうる。当該ひずみは特には磁気記録媒体に熱がかかる場合に生じやすく、磁気記録媒体の全厚がより薄くなることによって、熱によるひずみはさらに生じやすくなる。磁気記録媒体に熱がかかる場合の例として、例えば磁気記録媒体の製造工程のうちのカレンダー工程及び乾燥工程を挙げることができる。
本技術に従う磁気記録媒体は、全厚が薄いにもかかわらず、上記構成を有することによって、長期保存した後においても再生又は記録を良好に行うことができる。これは、上記構成によって、長期保存時におけるひずみの緩和を抑制することができるためと考えられる。
【0013】
本技術に従う磁気記録媒体は、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。切り替わり温度及び収縮開始温度が上記数値範囲内にあることによって、長期保存後においても、再生又は記録を良好に行うことができる。
また、前記切り替わり温度は、例えばベース層の物性(例えばガラス転移温度など)などを含む種々の要因を変更することによって、調整することができる。なお、前記切り替わり温度は、例えば120℃以下、110℃以下、又は100℃以下であってよい。
前記収縮開始温度も、例えばベース層の物性(例えばガラス転移温度など)などを含む種々の要因を変更することによって、調整することができる。なお、前記収縮開始温度は、例えば130℃以下、120℃以下、又は110℃以下であってよい。
前記切り替わり温度及び前記収縮開始温度の上限値は、ベース層材料のガラス転移温度によって定められうる。前記切り替わり温度及び前記収縮開始温度の下限値は、ベース層以外の層の材料及び製造工程における熱履歴によって定められうる。
前記切り替わり温度及び前記収縮開始温度の測定方法については、以下2.において説明する。
【0014】
本技術に従う磁気記録媒体のポアソン比は、0.40以下であり、好ましくは0.38以下であり、より好ましくは0.36以下である。前記ポアソン比がこの数値範囲内にあることによって、長期保存後の磁気記録媒体の幅方向の変形を抑制することができる。
また、本技術に従う磁気記録媒体の前記ポアソン比は、例えば0.20以上であり、好ましくは0.23以上であり、より好ましくは0.26以上、さらにより好ましくは0.30以上でありうる。ポアソン比が低すぎると、テープ長手方向にかかる張力のコントロールによってテープ幅を変化させることができなくなる。
【0015】
本技術に従う磁気記録媒体の平均厚みtは、5.4μm以下であり、より好ましくは5.3μm以下であり、さらにより好ましくは5.2μm以下、5.0μm以下又は4.6μm以下でありうる。本技術に従う磁気記録媒体はこのように薄いものであるので、例えば1つの磁気記録カートリッジ中に巻き取られるテープ長をより長くすることができ、これにより1つの磁気記録カートリッジ当たりの記録容量を高めることができる。
本技術に従う磁気記録媒体の幅は、例えば5mm~30mmであり、特には7mm~25mmであり、より特には10mm~20mm、さらにより特には11mm~19mmでありうる。本技術に従うテープ状磁気記録媒体の長さは、例えば500m~1500mでありうる。例えばLTO8規格に従うテープ幅は12.65mmであり、長さは960mである。
【0016】
本技術に従う磁気記録媒体はテープ状であり、例えば長尺状の磁気記録テープでありうる。本技術に従うテープ状磁気記録媒体は、例えば磁気記録カートリッジ内に収容されていてよい。より具体的には、当該磁気記録カートリッジ内のリールに巻き付けられた状態で、当該カートリッジ内に収容されていてよい。
【0017】
本技術に従う磁気記録媒体は、磁性層、下地層、ベース層、及びバック層を備えている。これら4層は、この順に積層されていてよい。本技術に従う磁気記録媒体は、これらの層に加えて、他の層を含んでいてよい。当該他の層は、磁気記録媒体の種類に応じて適宜選択されてよい。本技術に従う磁気記録媒体は、例えば塗布型の磁気記録媒体でありうる。前記塗布型の磁気記録媒体について、以下2.においてより詳細に説明する。
【0018】
2.本技術の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)
【0019】
(1)磁気記録媒体の構成
【0020】
まず、図1を参照して、第1の実施形態に係る磁気記録媒体10の構成について説明する。磁気記録媒体10は、例えば垂直配向処理を施した磁気記録媒体であって、図1に示すように、長尺状のベース層(基体ともいう)11と、ベース層11の一方の主面上に設けられた下地層(非磁性層)12と、下地層12上に設けられた磁性層(記録層ともいう)13と、ベース層11の他方の主面上に設けられたバック層14とを備える。本明細書内において、磁気記録媒体10の両主面のうち、磁性層13が設けられた側の面を磁性面又は磁性層側表面ともいい、当該磁性面とは反対側の面(バック層14が設けられた側の面)をバック面ともいう。
【0021】
磁気記録媒体10はテープ状であり、記録再生の際には長手方向に走行される。また、磁気記録媒体10は、好ましくは100nm以下、より好ましくは75nm以下、更により好ましくは60nm以下、特に好ましくは50nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成されていてよく、例えば最短記録波長が上記範囲内にある記録再生装置に用いられうる。この記録再生装置は、記録用ヘッドとしてリング型ヘッドを備えるものであってもよい。
【0022】
(2)各層の説明
【0023】
(ベース層)
【0024】
ベース層11は、磁気記録媒体10の支持体として機能しうるものであり、例えば可撓性を有する長尺状の非磁性基体であり、特には非磁性のフィルムでありうる。ベース層11の厚みは、例えば4.8μm以下、好ましくは4.6μm以下、より好ましくは4.4μm以下、さらにより好ましくは4.2μm以下、4.0μm以下、又は3.8μm以下である。ベース層11の厚みは、例えば2.0μm以上、好ましくは2.2μm以上、より好ましくは2.4μm以上、さらにより好ましくは2.6μm以上でありうる。
【0025】
ベース層11の平均厚みは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。続いて、サンプルのベース層11以外の層(すなわち下地層12、磁性層13及びバック層14)をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプル(ベース層11)の厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、ベース層11の平均厚みを算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0026】
ベース層11は、例えば、ポリエステルを主たる成分として含む。前記ポリエステルは、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PBN(ポリブチレンナフタレート)、PCT(ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、PEB(ポリエチレン-p-オキシベンゾエート)、及びポリエチレンビスフェノキシカルボキシレートのうちの1種又は2種以上の混合物であってよい。本明細書内において、「主たる成分」とは、ベース層を構成する成分のうち最も含有割合が高い成分であることを意味する。例えばベース層11の主たる成分がポリエステルであることは、ベース層11中のポリエステルの含有割合が例えばベース層11の質量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、若しくは98質量%以上であることを意味してよく、又は、ベース層11がポリエステルのみから構成されることを意味してもよい。
この実施態様において、ベース層11は、ポリエステルに加えて、以下で述べるポリエステル以外の樹脂を含んでもよい。
本技術の好ましい実施態様に従い、ベース層11は、PET又はPENから形成されてよい。
【0027】
本技術の他の実施態様において、ベース層11は、ポリエステル以外の樹脂から形成されていてもよい。ベース層11を形成する樹脂は、例えばポリオレフィン系樹脂、セルロース誘導体、ビニル系樹脂、及びその他の高分子樹脂のうちの少なくとも1種を含みうる。ベース層11は、これら樹脂のうちの2種以上を含む場合、それらの2種以上の材料は混合されていてもよいし、共重合されていてもよいし、又は積層されていてもよい。
【0028】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、PE(ポリエチレン)及びPP(ポリプロピレン)のうちの少なくとも1種を含む。セルロース誘導体は、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、CAB(セルロースアセテートブチレート)、及びCAP(セルロースアセテートプロピオネート)のうちの少なくとも1種を含む。ビニル系樹脂は、例えば、PVC(ポリ塩化ビニル)及びPVDC(ポリ塩化ビニリデン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0029】
その他の高分子樹脂は、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PA(ポリアミド、ナイロン)、芳香族PA(芳香族ポリアミド、アラミド)、PI(ポリイミド)、芳香族PI(芳香族ポリイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、芳香族PAI(芳香族ポリアミドイミド)、PBO(ポリベンゾオキサゾール、例えばザイロン(登録商標))、ポリエーテル、PEK(ポリエーテルケトン)、ポリエーテルエステル、PES(ポリエーテルサルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PSF(ポリスルフォン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PC(ポリカーボネート)、PAR(ポリアリレート)、及びPU(ポリウレタン)のうちの少なくとも1種を含む。
【0030】
(磁性層)
【0031】
磁性層13は、例えば垂直記録層でありうる。磁性層13は、磁性粉及び潤滑剤を含みうる。磁性層13は、磁性粉及び潤滑剤に加えて、例えば結着剤を含んでよく、特には結着剤及び導電性粒子をさらに含んでよい。磁性層13は、必要に応じて、例えば研磨剤及び防錆剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0032】
磁性層13は細孔を有する。すなわち、磁性層13は、多数の細孔が設けられた表面を有する。好ましくは、磁性層13のうち、磁気記録媒体10の記録及び/又は再生において磁気ヘッドと接触する領域に細孔が設けられており、特に好ましくは、当該領域の全体にわたって細孔が設けられていてよい。
当該細孔は、磁性層13の表面に対して垂直に開口していてよい。当該細孔は、例えば、磁気記録媒体10のバック層側表面に設けられた多数の突部を押し当てることにより形成されうる。この場合、当該細孔は、当該突部に対応するものでありうる。
なお、図1において当該細孔が符号13Aにより示されているが、図1は、本技術のより良い理解のための模式図であり、図1に示される細孔13Aの形状は、必ずしも実際の形状を示すものでない。
【0033】
磁性層13の平均厚みtは、好ましくは35nm≦t≦120nmであり、より好ましくは35nm≦t≦100nmであり、特に好ましくは35nm≦t≦90nmであり、さらにより好ましくは35nm≦t≦80nmであり、特に好ましくは35nm≦t≦50nmでありうる。磁性層13の平均厚みtが上記数値範囲内にあることが、電磁変換特性の向上に貢献する。
特に好ましくは、前記磁性層の平均厚みtは80nm以下であってよく、さらにより好ましくは50nm以下である。この数値範囲内の平均厚みを有することが、磁気記録媒体10の記録再生特性の向上に貢献する。
【0034】
磁性層13の平均厚みtは、例えば、以下のようにして求められる。
磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片化サンプルの前記断面を、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により、下記の条件で観察し、TEM像を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。
装置:TEM(日立製作所製H9000NAR)
加速電圧:300kV
倍率:100,000倍
次に、得られたTEM像を用い、磁気記録媒体10の長手方向の少なくとも10点以上の位置で磁性層13の厚みを測定する。得られた測定値を単純に平均(算術平均)して得られた平均値を磁性層13の平均厚みt[nm]とする。なお、前記測定が行われる位置は、試験片から無作為に選ばれるものとする。
【0035】
磁性層13は、好ましくは垂直配向している磁性層である。本明細書内において、垂直配向とは、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)に測定した角形比S1が35%以下であることをいう。当該角形比S1の測定方法は、以下で別途説明する。
なお、磁性層13は、面内配向(長手配向)している磁性層であってもよい。すなわち、磁気記録媒体10が水平記録型の磁気記録媒体であってもよい。しかしながら、高記録密度化という点で、垂直配向がより好ましい。
【0036】
(サーボパターン)
【0037】
磁性層13には、サーボパターンが記録されている。例えば、図2Aに示されるとおり、磁性層は、複数のサーボバンドSBと複数のデータバンドDBとを有していてよい。複数のサーボバンドSBは、磁気記録媒体10の幅方向に等間隔で設けられている。隣り合うサーボバンドSBの間には、データバンドDBが設けられている。サーボバンドSBには、磁気ヘッドのトラッキング制御をするためのサーボ信号が予め書き込まれていてよい。データバンドDBには、ユーザデータが記録されうる。
【0038】
磁性層13は、例えば少なくとも一つのデータバンドと少なくとも二つのサーボバンドとを有しうる。データバンドの数は例えば2~10であり、特には3~6、より特には4又は5でありうる。サーボバンドの数は、例えば3~11であり、特には4~7であり、より特には5又は6でありうる。これらサーボバンド及びデータバンドは、例えばテープ状の磁気記録媒体(特には長尺状の磁気記録テープ)の長手方向に延びるように、特には略平行となるように配置されていてよい。このようにデータバンド及びサーボバンドを有する磁気記録媒体として、LTO(Linear Tape-Open)規格に従う磁気記録テープを挙げることができる。すなわち、本技術に従う磁気記録媒体は、LTO規格に従う磁気記録テープであってよい。例えば、本技術に従う磁気記録媒体は、LTO8又はそれ以降の規格に従う磁気記録テープであってよい。
【0039】
磁性層13の表面全体の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの比率RS(=(SSB/S)×100)は、高記録容量を確保する観点から、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.0%以下、さらにより好ましくは2.0%以下である。
なお、サーボバンドSBのサーボバンド幅WSBは、高記録容量を確保する観点から、好ましくは95μm以下、より好ましくは60μm以下、さらにより好ましくは30μm以下である。サーボバンド幅WSBは、記録ヘッド製造の観点から、好ましくは10μm以上である。
磁性層13は、例えば5以上のサーボバンドを有しうる。5以上のサーボトラックを確保するために、磁性層13の表面の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの割合RSは、好ましくは0.8%以上でありうる。
【0040】
磁性層13の表面全体の面積Sに対するサーボバンドSBの総面積SSBの比率RSは、以下のようにして求められる。例えば、磁気記録媒体10を、フェリコロイド現像液(株式会社シグマハイケミカル製、シグマーカーQ)を用いて現像し、その後、現像した磁気記録媒体10を光学顕微鏡で観察し、サーボバンド幅WSBおよびサーボバンドSBの本数を測定する。次に、以下の式から割合RSを求める。
割合RS[%]=(((サーボバンド幅WSB)×(サーボバンド本数))/(磁気記録媒体10の幅))×100
【0041】
(記録トラック)
【0042】
磁性層13は、図2Bに示すように、データバンドDBに複数の記録トラック(データトラックともいう)Tkを形成可能に構成されている。
記録トラック幅WTkは、高記録容量を確保する観点から、例えば2.50μm以下、好ましくは2.20μm以下、より好ましくは2.00μm以下、さらにより好ましくは1.80μm以下であってよい。
記録トラック幅WTkは、磁性粒子サイズの観点から、例えば0.02μm以上、好ましくは0.40μm以上であり、より好ましくは0.50μm以上、さらにより好ましくは0.60μm以上であってよい。
【0043】
磁性層13は、上記のとおり、データバンドDBに複数の記録トラックTkを形成可能に構成されていてよい。すなわち、磁気記録媒体10は、記録トラックを有していないものであってもよい。この場合において、磁気記録媒体10は、例えば、上記数値範囲内にある記録トラック幅の記録トラックを形成するために用いられてよく、又は、上記数値範囲内にある記録トラック幅の記録トラックを形成する磁気記録装置において用いられるものであってもよい。
代替的には、磁気記録媒体10は、記録トラックを有していてもよい。当該記録トラックが、上記数値範囲内の記録トラック幅を有しうる。
記録トラック幅が上記数値範囲内にあることが、薄い磁気記録媒体を長期保存した後においても良好に記録又は再生することに寄与する。また、記録トラック幅が上記数値範囲内にあることは、薄い磁気記録媒体のSNRを向上することにも寄与する。
【0044】
記録トラック幅WTkは以下のようにして求められる。例えば、データが全面に記録された磁性層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は10μm×10μmとし、当該10μm×10μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの10μm×10μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られた3つのMFM像から、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて、トラック幅を10ヶ所測定し平均値(単純平均である)をとる。当該平均値が、記録トラック幅WTkである。なお、前記MFMの測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0045】
磁性層13は、高記録容量を確保する観点から、磁化反転間距離Lの最小値が好ましくは48nm以下、より好ましくは44nm以下、さらにより好ましくは40nm以下となるように、データを記録可能に構成されている。磁化反転間距離Lの最小値は、磁性粒子サイズによって考慮される。磁化反転間距離Lの最小値は以下のようにして求められる。例えば、データが全面に記録された磁性層13のデータバンド部分のデータ記録パターンを磁気力顕微鏡(Magnetic Force Microscope:MFM)を用いて観察し、MFM像を得る。MFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトが用いられる。当該MFM像の測定領域は2μm×2μmとし、当該2μm×2μmの測定領域は512×512(=262,144)個の測定点に分割される。場所の異なる3つの2μm×2μm測定領域についてMFMによる測定が行われ、すなわち3つのMFM像が得られる。得られたMFM像の記録パターンの二次元の凹凸チャートからビット間距離を50個測定する。当該ビット間距離の測定は、Dimension3100に付属の解析ソフトを用いて行われる。測定された50個のビット間距離のおよそ最大公約数となる値を磁化反転間距離Lの最小値とする。なお、測定条件は掃引速度:1Hz、使用チップ:MFMR-20、リフトハイト:20nm、補正:Flatten order 3である。
【0046】
磁気記録媒体10は、好ましくは、前記記録トラック幅以下の再生トラック幅を有する再生ヘッドを用いて再生される。
磁気記録媒体10の(再生トラック幅/記録トラック幅)の比は、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.90以下、さらにより好ましくは0.85以下、0.83以下、又は0.80以下であってよい。
磁気記録媒体10の(再生トラック幅/記録トラック幅)の比は、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.52以上、さらにより好ましくは0.54以上、0.56以上、0.58以上、又は0.60以上であってよい。
磁気記録媒体10の(再生トラック幅/記録トラック幅)の比は、例えば0.50以上1.00以下、好ましくは0.52以上0.90以下、より好ましくは0.56以上0.85以下、さらにより好ましくは0.60以上0.85以下でありうる。
(再生トラック幅/記録トラック幅)の比が上記数値範囲内にあることが、薄い磁気記録媒体を長期保存した後においても良好に再生することに寄与する。また、(再生トラック幅/記録トラック幅)の比が上記数値範囲内にあることは、薄い磁気記録媒体のSNRを向上することにも寄与する。
磁気記録媒体10は、前記比が上記数値範囲内となる再生ヘッドを含む記録再生装置における使用に適している。
【0047】
再生トラック幅は、前記(再生トラック幅/記録トラック幅)の比を考慮して当業者により適宜選択されてよい。再生トラック幅は、磁気記録媒体10を再生するために用いられる再生ヘッドにより決まるものである。
再生トラック幅は、例えば2.00μm以下、好ましくは1.80μm以下、より好ましくは1.60μm以下、さらにより好ましくは1.40μm以下であってよい。
再生トラック幅は、例えば0.20μm以上であり、好ましくは0.30μm以上、より好ましくは0.40μm以上、さらにより好ましくは0.50μm以上であってよい。
磁気記録媒体10の再生トラック幅は、上記数値範囲内にあってよく、例えば0.40μm以上2.50μm以下であり、好ましくは0.50μm以上2.20μm以下、より好ましくは0.60μm以上2.00μm以下であってよい。
【0048】
(サーボパターンの具体例)
【0049】
本技術の磁気記録媒体の磁性層13に記録されるサーボパターンのより具体的な例を以下で図3及び図4を参照して説明する。図3は、磁気記録媒体10の磁性層13に形成されるデータバンド及びサーボバンドの模式図である。図4は、各サーボバンドが有するサーボパターンを示す図である。
図3に示されるとおり、磁性層13は4つのデータバンドd0~d3を有する。磁性層13は、各データバンドを2つのサーボバンドで挟むように、合計で5つのサーボバンドS0~S4を有する。
図4に示されるとおり、各サーボバンドは、所定角度φで傾斜する直線状の5本のサーボパターン(例えばサーボパターンA1~A5)と、この信号と逆方向に同じ角度で傾斜する直線状の5本のサーボパターン(例えばサーボパターンB1~B5)と、所定角度φで傾斜する直線状の4本のサーボパターン(例えばサーボパターンC1~C4)と、この信号と逆方向に同じ角度で傾斜する直線状の4本のサーボパターン(例えばサーボパターンD1~D4)と、からなるフレーム単位(1サーボフレーム)を繰り返し有する。前記所定角度φは、例えば5°~25°であり、特には11°~25°でありうる。
サーボバンドS0~S4それぞれのサーボバンド幅L1(図3参照)は、例えば100μm以下、特には60μm以下、より特には50μm以下であり、さらには40μm以下であってよい。サーボバンド幅L1は、例えば15μm以上、特には25μm以上であってよい。
【0050】
(磁性粉)
【0051】
磁性層13に含まれる磁性粉をなす磁性粒子として、例えば六方晶フェライト、イプシロン型酸化鉄(ε酸化鉄)、Co含有スピネルフェライト、ガンマヘマタイト、マグネタイト、二酸化クロム、コバルト被着酸化鉄、及びメタル(金属)などを挙げることができるが、これらに限定されない。前記磁性粉は、これらのうちの1種であってよく、又は、2種以上の組合せであってもよい。好ましくは、前記磁性粉は、六方晶フェライト、ε酸化鉄、又はCo含有スピネルフェライトを含みうる。特に好ましくは、前記磁性粉は、六方晶フェライトである。前記六方晶フェライトは、特に好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種を含みうる。前記ε酸化鉄は、特に好ましくはAl及びGaのうちの少なくとも1種を含みうる。これらの磁性粒子については、例えば磁性層13の製造方法、テープの規格、及びテープの機能などの要因に基づいて当業者により適宜選択されてよい。
【0052】
磁性粒子の形状は、磁性粒子の結晶構造に依拠している。例えば、バリウムフェライト(BaFe)及びストロンチウムフェライトは六角板状でありうる。ε酸化鉄は球状でありうる。コバルトフェライトは立方状でありうる。メタルは紡錘状でありうる。磁気記録媒体10の製造工程においてこれらの磁性粒子が配向される。
磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは30nm以下、25nm以下、22nm以下、21nm以下、又は20nm以下でありうる。前記平均粒子サイズは、例えば10nm以上、好ましくは12nm以上でありうる。
磁性粉の平均アスペクト比は、好ましくは1.0以上3.5以下、より好ましくは1.0以上3.1以下、さらにより好ましくは1.0以上2.8以下、特に好ましくは1.1以上2.5以下でありうる。
【0053】
(磁性粉が六方晶フェライトを含む実施態様)
【0054】
本技術の好ましい実施態様に従い、磁性粉は六方晶フェライトを含み、より特には六方晶フェライトを含有するナノ粒子(以下「六方晶フェライト粒子」という。)の粉末を含みうる。六方晶フェライト粒子は、例えば、六角板状又はほぼ六角板状を有する。六方晶フェライトは、好ましくはBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種、より好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種を含みうる。六方晶フェライトは、具体的には例えばバリウムフェライト又はストロンチウムフェライトであってもよい。バリウムフェライトは、Ba以外に、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。ストロンチウムフェライトは、Sr以外に、Ba、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種をさらに含んでいてもよい。
【0055】
より具体的には、六方晶フェライトは、一般式MFe1219で表される平均組成を有しうる。ここで、Mは、例えばBa、Sr、Pb、及びCaのうちの少なくとも1種の金属、好ましくはBa及びSrのうちの少なくとも1種の金属である。Mが、Baと、Sr、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。また、Mが、Srと、Ba、Pb、及びCaからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせであってもよい。上記一般式においてFeの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。
【0056】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、さらにより好ましくは30nm以下、25nm以下、22nm以下、21nm以下、又は20nm以下でありうる。前記平均粒子サイズは、例えば10nm以上、好ましくは12nm以上、より好ましくは15nm以上でありうる。例えば、前記磁性粉の平均粒子サイズは、10nm以上50nm以下、10nm以上40nm以下、12nm以上30nm以下、12nm以上25nm以下、又は15nm以上22nm以下でありうる。磁性粉の平均粒子サイズが上記上限値以下である場合(例えば50nm以下、特には30nm以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子サイズが上記下限値以上である場合(例えば10nm以上、好ましくは12nm以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0057】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比は、好ましくは1以上3.5以下、より好ましくは1以上3.1以下、又は2以上3.1以下、さらにより好ましくは2以上3以下でありうる。磁性粉の平均アスペクト比が上記数値範囲内にあることによって、磁性粉の凝集を抑制することができ、さらに、磁性層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。これは、磁性粉の垂直配向性の向上をもたらしうる。
【0058】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は以下のようにして求められる。
まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの前記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。
次に、撮影したTEM写真から、観察面の方向に側面を向けており且つ粒子の厚みが明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図9にTEM写真の例を示す。図9において、例えばa及びdで示される粒子が、その厚みを明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの最大板厚DAを測定する。このようにして求めた最大板厚DAを単純に平均(算術平均)して平均最大板厚DAaveを求める。
続いて、各磁性粉の板径DBを測定する。粒子の板径DBを測定するために、撮影したTEM写真から、粒子の板径が明らかに確認できる粒子を50個選び出す。例えば、図9において、例えばb及びcで示される粒子が、その板径を明らかに確認できるので、選択される。選択された50個の粒子それぞれの板径DBを測定する。このようにして求めた板径DBを単純平均(算術平均)して平均板径DBaveを求める。平均板径DBaveが、平均粒子サイズである。
そして、平均最大板厚DAave及び平均板径DBaveから粒子の平均アスペクト比(DBave/DAave)を求める。
【0059】
磁性粉が六方晶フェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5900nm3以下、より好ましくは3400nm3以下、さらに好ましくは2500nm3以下、さらにより好ましくは1500nm3以下、特に好ましくは1300nm3以下である。また、磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは500nm3以上3400nm3以下、より好ましくは1000nm3以上2500nm3以下、さらに好ましくは1000nm3以上1500nm3以下、さらにより好ましくは1000nm3以上1300nm3以下である。
磁性粉の平均粒子体積が上記上限値以下である場合(例えば5900nm3以下である場合)、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉の平均粒子体積が上記下限値以上である場合(例えば500nm3以上である場合)、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0060】
磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法に関して述べたとおり、平均最大板厚DAaveおよび平均板径DBaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
【0061】
本技術の特に好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、バリウムフェライト磁性粉又はストロンチウムフェライト磁性粉であり、より好ましくはバリウムフェライト磁性粉でありうる。バリウムフェライト磁性粉は、バリウムフェライトを主相とする鉄酸化物の磁性粒子(以下「バリウムフェライト粒子」という。)を含む。バリウムフェライト磁性粉は、例えば高温多湿環境でも抗磁力が落ちないなど、データ記録の信頼性が高い。このような観点から、バリウムフェライト磁性粉は、前記磁性粉として好ましい。
【0062】
バリウムフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、50nm以下、より好ましくは10nm以上40nm以下、さらにより好ましくは12nm以上25nm以下である。
【0063】
磁性層13が磁性粉としてバリウムフェライト磁性粉を含む場合、磁性層13の平均厚みt[nm]が、35nm≦t≦100nmであることが好ましく、特に好ましくは80nm以下である。
また、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に測定した保磁力Hcが、好ましくは160kA/m以上280kA/m以下、より好ましくは165kA/m以上275kA/m以下、更により好ましくは170kA/m以上270kA/m以下である。保磁力Hcは、より好ましくは240kA/m以下、さらにより好ましくは225kA/m以下、さらにより好ましくは210kA/m以下であってもよく、さらにより好ましくは200kA/m以下であってもよい。
【0064】
(磁性粉がε酸化鉄を含む実施態様)
【0065】
本技術の他の好ましい実施態様に従い、前記磁性粉は、好ましくはε酸化鉄を含むナノ粒子(以下「ε酸化鉄粒子」という。)の粉末を含みうる。ε酸化鉄粒子は微粒子でも高保磁力を得ることができる。ε酸化鉄粒子に含まれるε酸化鉄は、磁気記録媒体10の厚み方向(垂直方向)に優先的に結晶配向していることが好ましい。
【0066】
ε酸化鉄粒子は、球状若しくはほぼ球状を有しているか、又は、立方体状若しくはほぼ立方体状を有している。ε酸化鉄粒子が上記のような形状を有しているため、磁性粒子としてε酸化鉄粒子を用いた場合、磁性粒子として六角板状のバリウムフェライト粒子を用いた場合に比べて、媒体の厚み方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制できる。したがって、磁性粉の分散性を高め、より良好なSNR(Signal-to-Noise Ratio)を得ることができる。
【0067】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル型構造を有する。具体的には、ε酸化鉄粒子は、図5に示すように、コア部21と、このコア部21の周囲に設けられた2層構造のシェル部22とを備える。2層構造のシェル部22は、コア部21上に設けられた第1シェル部22aと、第1シェル部22a上に設けられた第2シェル部22bとを備える。
【0068】
コア部21は、ε酸化鉄を含む。コア部21に含まれるε酸化鉄は、ε-Fe結晶を主相とするものが好ましく、単相のε-Feからなるものがより好ましい。
【0069】
第1シェル部22aは、コア部21の周囲のうちの少なくとも一部を覆っている。具体的には、第1シェル部22aは、コア部21の周囲を部分的に覆っていてもよいし、コア部21の周囲全体を覆っていてもよい。コア部21と第1シェル部22aの交換結合を十分なものとし、磁気特性を向上する観点からすると、コア部21の表面全体を覆っていることが好ましい。
【0070】
第1シェル部22aは、いわゆる軟磁性層であり、例えば、α-Fe、Ni-Fe合金又はFe-Si-Al合金などの軟磁性体を含みうる。α-Feは、コア部21に含まれるε酸化鉄を還元することにより得られるものであってもよい。
【0071】
第2シェル部22bは、酸化防止層としての酸化被膜である。第2シェル部22bは、α酸化鉄、酸化アルミニウム、又は酸化ケイ素を含みうる。α酸化鉄は、例えばFe、Fe、及びFeOのうちの少なくとも1種の酸化鉄を含みうる。第1シェル部22aがα-Fe(軟磁性体)を含む場合には、α酸化鉄は、第1シェル部22aに含まれるα-Feを酸化することにより得られるものであってもよい。
【0072】
ε酸化鉄粒子が、上述のように第1シェル部22aを有することで、熱安定性を確保することができ、これによりコア部21単体の保磁力Hcを大きな値に保ちつつ且つ/又はε酸化鉄粒子(コアシェル粒子)全体としての保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できる。また、ε酸化鉄粒子が、上述のように第2シェル部22bを有することで、磁気記録媒体10の製造工程及びその工程前において、ε酸化鉄粒子が空気中に暴露されて、粒子表面に錆びなどが発生することにより、ε酸化鉄粒子の特性が低下することを抑制することができる。したがって、磁気記録媒体10の特性劣化を抑制することができる。
【0073】
ε酸化鉄粒子は、図6に示されるとおり、単層構造のシェル部23を有していてもよい。この場合、シェル部23は、第1シェル部22aと同様の構成を有する。但し、ε酸化鉄粒子の特性劣化を抑制する観点からすると、ε酸化鉄粒子が2層構造のシェル部22を有していることがより好ましい。
【0074】
ε酸化鉄粒子は、コアシェル構造に代えて添加剤を含んでいてもよく、又は、コアシェル構造を有すると共に添加剤を含んでいてもよい。これらの場合、ε酸化鉄粒子のFeの一部が添加剤で置換される。ε酸化鉄粒子が添加剤を含むことによっても、ε酸化鉄粒子全体の保磁力Hcを記録に適した保磁力Hcに調整できるため、記録容易性を向上することができる。添加剤は、鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくはアルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、及びインジウム(In)からなる群より選ばれる1種以上である。
具体的には、添加剤を含むε酸化鉄は、ε-Fe2-x結晶(ここで、Mは鉄以外の金属元素、好ましくは3価の金属元素、より好ましくは、Al、Ga、及びInからなる群より選ばれる1種以上である。xは、例えば0<x<1である。)である。
【0075】
磁性粉の平均粒子サイズ(平均最大粒子サイズ)は、好ましくは22nm以下、より好ましくは8nm以上22nm以下、さらにより好ましくは12nm以上22nm以下である。磁気記録媒体10では、記録波長の1/2のサイズの領域が実際の磁化領域となる。このため、磁性粉の平均粒子サイズを最短記録波長の半分以下に設定することで、良好なSNRを得ることができる。したがって、磁性粉の平均粒子サイズが22nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10(例えば44nm以下の最短記録波長で信号を記録可能に構成された磁気記録媒体10)において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが8nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。
【0076】
磁性粉の平均アスペクト比が、好ましくは1.0以上3.5以下、より好ましくは1.0以上3.1以下、さらにより好ましくは1.0以上2.5以下である。磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.5以下の範囲内であると、磁性粉の凝集を抑制することができると共に、磁性層13の形成工程において磁性粉を垂直配向させる際に、磁性粉に加わる抵抗を抑制することができる。したがって、磁性粉の垂直配向性を向上することができる。
【0077】
磁性粉がε酸化鉄粒子を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズおよび平均アスペクト比は、以下のようにして求められる。
まず、測定対象となる磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿うかたちで行って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルの前記断面を、透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を撮影する。
次に、撮影したTEM写真から、粒子の形状を明らかに確認することができる50個の粒子を選び出し、各粒子の長軸長DLと短軸長DSを測定する。ここで、長軸長DLとは、各粒子の輪郭に接するように、あらゆる角度から引いた2本の平行線間の距離のうち最大のもの(いわゆる最大フェレ径)を意味する。一方、短軸長DSとは、粒子の長軸(DL)と直交する方向における粒子の長さのうち最大のものを意味する。
続いて、測定した50個の粒子の長軸長DLを単純に平均(算術平均)して平均長軸長DLaveを求める。このようにして求めた平均長軸長DLaveを磁性粉の平均粒子サイズとする。また、測定した50個の粒子の短軸長DSを単純に平均(算術平均)して平均短軸長DSaveを求める。そして、平均長軸長DLaveおよび平均短軸長DSaveから粒子の平均アスペクト比(DLave/DSave)を求める。
【0078】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは5500nm3以下、より好ましくは270nm3以上5500nm3以下、さらにより好ましくは900nm3以上5500nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が5500nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを22nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が270nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを8nm以上とする場合と同様の効果が得られる。
【0079】
ε酸化鉄粒子が球状またはほぼ球状を有している場合には、磁性粉の平均粒子体積は以下のようにして求められる。まず、上記の磁性粉の平均粒子サイズの算出方法と同様にして、平均長軸長DLaveを求める。次に、以下の式により、磁性粉の平均体積Vを求める。
V=(π/6)×DLave 3
【0080】
ε酸化鉄粒子が立方体状の形状を有している場合、磁性粉の平均体積は以下のようにして求められる。
磁気記録媒体10をFIB(Focused Ion Beam)法等により加工して薄片化を行う。FIB法を使用する場合には、後述の断面のTEM像を観察する前処理として、保護膜としてカーボン膜及びタングステン薄膜を形成する。当該カーボン膜は蒸着法により磁気記録媒体10の磁性層側表面及びバック層側表面に形成され、そして、当該タングステン薄膜は蒸着法又はスパッタリング法により磁性層側表面にさらに形成される。当該薄片化は磁気記録媒体10の長さ方向(長手方向)に沿って行われる。すなわち、当該薄片化によって、磁気記録媒体10の長手方向及び厚み方向の両方に平行な断面が形成される。
得られた薄片サンプルを透過電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製H-9500)を用いて、加速電圧:200kV、総合倍率500,000倍で磁性層13の厚み方向に対して磁性層13全体が含まれるように断面観察を行い、TEM写真を得る。なお、装置の種類に応じて、倍率及び加速電圧は適宜調整されてよい。
次に、撮影したTEM写真から粒子の形状が明らかである50個の粒子を選び出し、各粒子の辺の長さDCを測定する。続いて、測定した50個の粒子の辺の長さDCを単純に平均(算術平均)して平均辺長DCaveを求める。次に、平均辺長DCaveを用いて以下の式から磁性粉の平均体積Vave(粒子体積)を求める。
ave=DCave 3
【0081】
(磁性粉がCo含有スピネルフェライトを含む実施態様)
【0082】
本技術のさらに他の好ましい実施態様に従い、磁性粉は、Co含有スピネルフェライトを含有するナノ粒子(以下「コバルトフェライト粒子」ともいう)の粉末を含みうる。すなわち、当該磁性粉は、コバルトフェライト磁性粉でありうる。コバルトフェライト粒子は、一軸結晶異方性を有することが好ましい。コバルトフェライト磁性粒子は、例えば、立方体状又はほぼ立方体状を有している。Co含有スピネルフェライトは、Co以外にNi、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいてもよい。
【0083】
コバルトフェライトは、例えば以下の式(1)で表される平均組成を有する。
CoFe・・・(1)
(但し、式(1)中、Mは、例えば、Ni、Mn、Al、Cu、及びZnからなる群より選ばれる1種以上の金属である。xは、0.4≦x≦1.0の範囲内の値である。yは、0≦y≦0.3の範囲内の値である。但し、x及びyは(x+y)≦1.0の関係を満たす。zは3≦z≦4の範囲内の値である。Feの一部が他の金属元素で置換されていてもよい。)
【0084】
コバルトフェライト磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下である。コバルトフェライト磁性粉の保磁力Hcは、好ましくは2500Oe以上、より好ましくは2600Oe以上3500Oe以下である。
【0085】
磁性粉がコバルトフェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均粒子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは10nm以上23nm以下である。磁性粉の平均粒子サイズが25nm以下であると、高記録密度の磁気記録媒体10において、良好な電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。一方、磁性粉の平均粒子サイズが10nm以上であると、磁性粉の分散性がより向上し、より優れた電磁変換特性(例えばSNR)を得ることができる。磁性粉がコバルトフェライト粒子の粉末を含む場合、磁性粉の平均アスペクト比及び平均粒子サイズは、磁性粉がε酸化鉄粒子を含む場合と同じ方法で求められる。
【0086】
磁性粉の平均粒子体積は、好ましくは15000nm3以下、より好ましくは1000nm3以上12000nm3以下である。磁性粉の平均粒子体積が15000nm3以下であると、磁性粉の平均粒子サイズを25nm以下とする場合と同様の効果が得られる。一方、磁性粉の平均粒子体積が1000nm3以上であると、磁性粉の平均粒子サイズを10nm以上とする場合と同様の効果が得られる。なお、磁性粉の平均粒子体積は、ε酸化鉄粒子が立方体状の形状を有している場合の平均粒子体積の算出方法と同じである。
【0087】
(潤滑剤)
【0088】
前記磁性層は、潤滑剤を含む。前記潤滑剤は、脂肪酸及び脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上であってよく、好ましくは脂肪酸及び脂肪酸エステルの両方を含みうる。
前記脂肪酸は、好ましくは下記の一般式(1)又は(2)により示される化合物であってよい。例えば、前記脂肪酸として下記の一般式(1)により示される化合物及び一般式(2)により示される化合物の一方が含まれていてよく又は両方が含まれていてもよい。
また、前記脂肪酸エステルは、好ましくは下記一般式(3)又は(4)により示される化合物であってよい。例えば、前記脂肪酸エステルとして下記の一般式(3)により示される化合物及び一般式(4)により示される化合物の一方が含まれていてよく又は両方が含まれていてもよい。
前記潤滑剤が、一般式(1)に示される化合物及び一般式(2)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方、及び/又は一般式(3)に示される化合物及び一般式(4)に示される化合物のいずれか一方若しくは両方を含むことによって、繰り返しの記録又は再生による動摩擦係数の増加を抑制することができる。
CH3(CH2kCOOH ・・・(1)
(但し、一般式(1)において、kは14以上22以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2nCH=CH(CH2mCOOH ・・・(2)
(但し、前記一般式(2)において、nとmとの和は12以上20以下の範囲、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2pCOO(CH2qCH3 ・・・(3)
(但し、一般式(3)において、pは14以上22以下、より好ましくは14以上18以下の範囲から選ばれる整数であり、且つ、qは2以上5以下の範囲、より好ましくは2以上4以下の範囲から選ばれる整数である。)
CH3(CH2rCOO-(CH2sCH(CH32・・・(4)
(但し、前記一般式(4)において、rは14以上22以下の範囲から選ばれる整数であり、sは1以上3以下の範囲から選ばれる整数である。)
【0089】
(結着剤)
【0090】
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂又は塩化ビニル系樹脂などに架橋反応が行われた構造を有する樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体10に対して要求される物性などに応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体10において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0091】
前記結着剤として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、アクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル-塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル-エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、及び合成ゴムから選ばれる1つ又は2つ以上の組み合わせが用いられうる。
【0092】
また、前記結着剤として、熱硬化性樹脂又は反応型樹脂が用いられてもよい。熱硬化性樹脂又は反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、及び尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0093】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、-SOM、-OSOM、-COOM、P=O(OM)などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、又は、例えばリチウム、カリウム、及びナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0094】
更に、極性官能基としては、-NR1R2、-NR1R2R3の末端基を有する側鎖型のもの、及び、>NR1R2の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、及びR3は、互いに独立に水素原子又は炭化水素基であり、Xは、例えば弗素、塩素、臭素、若しくはヨウ素などのハロゲン元素イオン、又は、無機若しくは有機イオンである。また、極性官能基としては、-OH、-SH、-CN、及びエポキシ基なども挙げられる。
【0095】
(添加剤)
【0096】
磁性層13は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、β、又はγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)などをさらに含有していてもよい。
【0097】
(下地層)
【0098】
下地層12は、非磁性粉及び結着剤を主成分として含む非磁性層である。下地層12は、さらに潤滑剤を含む。上述の磁性層13に含まれる結着剤及び潤滑剤に関する説明が、下地層12に含まれる結着剤及び潤滑剤についても当てはまる。下地層12は、必要に応じて、導電性粒子、硬化剤、及び防錆剤などのうちの少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0099】
下地層12の平均厚みは、好ましくは0.6μm以上2.0μm以下、より好ましくは0.8μm以上1.4μm以下である。なお、下地層12の平均厚みは、磁性層13の平均厚みtと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、下地層12の厚みに応じて適宜調整される。
【0100】
(非磁性粉)
【0101】
下地層12に含まれる非磁性粉は、例えば、無機粒子及び有機粒子から選ばれる少なくとも1種を含みうる。1種の非磁性粉を単独で用いてもよいし、又は、2種以上の非磁性粉を組み合わせて用いてもよい。無機粒子は、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、及び金属硫化物から選ばれる1種又は2種以上の組み合わせを含む。より具体的には、無機粒子は、例えばオキシ水酸化鉄、ヘマタイト、酸化チタン、及びカーボンブラックから選ばれる1種又は2種以上でありうる。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、立方体状、及び板状などの各種形状が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0102】
(バック層)
【0103】
バック層14は、結着剤及び非磁性粉を含みうる。バック層14は、必要に応じて潤滑剤、硬化剤、及び帯電防止剤などの各種添加剤を含んでいてもよい。上述の下地層12に含まれる結着剤及び非磁性粉について述べた説明が、バック層14に含まれる結着剤及び非磁性粉についても当てはまる。
【0104】
バック層14の平均厚みtは、t≦0.6μmであることが好ましく、t≦0.3μmであることがより好ましく、t≦0.2μmであることがさらにより好ましい。バック層14の平均厚みtが上記範囲内にあることで、磁気記録媒体10の平均厚みtをt≦5.4μmにした場合でも、下地層12及びベース層11の厚みを厚く保つことが出来、これにより磁気記録媒体10の記録再生装置内での走行安定性を保つことが出来る。
【0105】
バック層14の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10の平均厚みtを測定する。平均厚みtの測定方法は以下「(3)物性及び構造」に記載されているとおりである。続いて、サンプルのバック層14をMEK(メチルエチルケトン)または希塩酸等の溶剤で除去する。次に、Mitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。その後、以下の式よりバック層14の平均厚みt[μm]を求める。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
[μm]=t[μm]-t[μm]
【0106】
バック層14の2つの面のうち、磁気記録媒体10のバック層側表面を形成する面は、好ましくは多数の突部が設けられている。磁気記録媒体10がロール状に巻き取られることによって、当該多数の突部によって、磁性層13に多数の細孔が形成されうる。
【0107】
突部は、例えばバック層形成用塗料中に粒子を含めることによって形成されうる。当該粒子は、例えばカーボンブラックなどの無機粒子でありうる。当該粒子の粒径は、磁性層13に形成されるべき細孔のサイズに応じて適宜選択されうる。
【0108】
バック層14に含まれる粒子(特には無機粒子)の平均粒子サイズは、好ましくは10nm以上300nm以下、より好ましくは20nm以上270nm以下である。非磁性粉の平均粒子サイズは、上記の磁性粉の平均粒子サイズと同様にして求められる。また、当該非磁性粉は、2以上の粒度分布を有していてもよい。
【0109】
(3)物性及び構造
【0110】
(磁気記録媒体の平均厚みt
【0111】
磁気記録媒体10の平均厚みtは、t≦5.4μmであり、より好ましくは5.3μm以下であり、さらにより好ましくは5.2μm以下、5.0μm以下、又は4.6μm以下でありうる。磁気記録媒体10の平均厚みtが上記数値範囲内にあることによって(例えばt≦5.4μmであることによって)、1データカートリッジ内に記録できる記録容量を従来よりも高めることができる。磁気記録媒体10の平均厚みtの下限値は特に限定されるものではないが、例えば、3.5μm≦tである。
【0112】
磁気記録媒体10の平均厚みtは以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを250mmの長さに切り出し、サンプルを作製する。次に、測定装置としてMitutoyo社製レーザーホロゲージ(LGH-110C)を用いて、サンプルの厚みを5点以上の位置で測定し、それらの測定値を単純に平均(算術平均)して、平均値t[μm]を算出する。なお、測定位置は、サンプルから無作為に選ばれるものとする。
【0113】
(切り替わり温度及び収縮開始温度)
【0114】
磁気記録媒体10は、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは80℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上である。熱膨張から熱収縮へ切り換わる温度が70℃未満であると、使用環境(特に温度が高い環境)においても長時間の保存でテープの収縮が起こり、長時間の保存後に幅方向の変化が大きくなり、データの読み書きが困難になる。また、収縮開始温度についても同様のことが言え、さらに、この温度が90℃より低い場合は製造工程のうちの磁気記録媒体が高温にさらされる工程において収縮が開始するために、張力の変動が生じたりそれに伴う幅の変化が生じたりすることで、磁気記録媒体の形状がより不安定になる。切り替わり温度及び収縮開始温度が上記数値範囲内にあることによって、長期保存後においても、再生又は記録を良好に行うことができる。
また、前記切り替わり温度は、例えば120℃以下、110℃以下、又は100℃以下であってよい。
前記収縮開始温度は、例えば130℃以下、120℃以下、又は110℃以下であってよい。
【0115】
切り替わり温度及び収縮開始温度の測定は、具体的には、以下のとおりにして行われる。
まず、磁気記録媒体10を長さ30mm(10.0mmの測定対象部分+サンプル固定用部分)、幅4.0mmに切り出し、サンプルを作製する。次に、サンプルを日立ハイテクサイエンス社製の熱機械分析装置(TMA/SS7100)にセットし、40℃から150℃まで昇温していったときに、サンプルが5μm伸びた状態を維持するための荷重変化を測定する。昇温時間は1℃/分とし、サンプリング時間は1回/秒とし、窒素導入環境下にて測定を行う。測定された荷重変化から、サンプルが熱膨張から熱収縮に切り替わる温度を切り替わり温度とし、サンプルの長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる温度を収縮開始温度とする。
前記切り替わり温度及び収縮開始温度の例を、図12を参照しながら説明する。図12に示されるとおり、サンプルが5μm伸びた状態を維持するための荷重が減少から増加に転じた時の温度Aが、前記切り替わり温度である。また、前記切り替わり温度からさらに昇温させ、当該荷重がX軸を横切るときの位置での温度Bが、前記収縮開始温度である。
【0116】
(ポアソン比)
【0117】
磁気記録媒体10のポアソン比は、0.40以下であり、好ましくは0.38以下であり、より好ましくは0.36以下である。前記ポアソン比が上記上限値(例えば0.4)より大きくなると、張力に対する幅の変化量を大きくなりすぎるため、製造工程内での幅変化 特に裁断時の幅変化を少なくすることが難しくなる。
また、本技術に従う磁気記録媒体の前記ポアソン比は、例えば0.10以上であり、好ましくは0.15以上であり、より好ましくは0.25以上、さらにより好ましくは0.30以上でありうる。前記ポアソン比が上記下限値(例えば0.1)より小さくなると、磁気記録媒体の長手方向の張力を変えても当該磁気記録媒体の幅方向の変化が少なくなるため、張力による幅変化をさせることができなくなってしまう。
また、前記切り替わり温度及び前記収縮開始温度が上記で述べた数値範囲内にあり且つ前記ポアソン比が上記数値範囲内にあることによって、長期保存時におけるひずみの緩和が抑制され且つ長手方向の張力に対する幅方向の変化を好ましい範囲内に制御することができる。これにより、長期保存後におけるデータ信号の記録及び/又は再生をより良好に行うことができる。
【0118】
ポアソン比は以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを150mmの長さに切り出しサンプルを作製したのち、チャック間の距離が100mmとなるようにサンプルの長手方向の両端部をチャックし、初期荷重0.5Nをかけ、その際のサンプルの長手方向の長さを初期長とし、サンプルの幅を初期幅とする。続いて、引張速度0.5mm/minで、引張り試験機(株式会社島津製作所製、AG-100D)にて引張り長手方向の長さと、キーエンス社製のデジタル寸法測定器LS-7000にて幅の、それぞれの寸法変化量を測定する。その後、以下の式よりポアソン比ρを求める。
【0119】
引っ張り試験機(株式会社島津製作所製、AG-100D)による前記測定は以下のとおりに行われる。
まず、1/2インチの幅を有する磁気記録媒体10を150mmの長さにカットして測定サンプルを準備する。温度25℃相対湿度50%の一定環境下において、上記引っ張り試験機に、当該測定サンプルをその幅全体をカバーするように固定できる2つの治具を取り付ける。当該2つの治具によって、当該測定サンプルの長さ方向における2つの端をそれぞれチャックする。チャック間距離は100mmとする。当該測定サンプルのチャック後、当該測定サンプルを長さ方向に引っ張るように応力を徐々にかけていく。引っ張り速度は0.5mm/minとする。応力を0.5Nから1.0Nへ変化させたときの伸び量を測定する。当該伸び量が、前記長さの寸法変化量に相当する。また、当該応力の変化時における長手方向中央部分(チャックから50mmの位置)の幅方向の変化量が、前記幅の寸法変化量に相当する。
【0120】
(幅方向の収縮率)
【0121】
磁気記録媒体10の幅方向の収縮率は、好ましくは-0.035%以上であり、より好ましくは-0.030%以上であり、さらにより好ましくは-0.028以上であってよい。幅方向の収縮率が上記数値範囲内にあることが、磁気記録媒体を長期保存した場合にも前記記録再生装置における使用への適性が変わらないことに貢献しうる。当該適性が変わらないことによって、例えばオフトラック現象など、磁気記録にとって望ましくない現象が起こりにくくなる。また、前記幅方向の収縮率は、例えば0.00%以下であってよい。
【0122】
前記幅方向の収縮率は以下のようにして求められる。まず、1/2インチ幅の磁気記録媒体10を準備し、それを50mmの長さに切り出しサンプルを作製する。当該サンプルの磁性層側の表面に、長手方向に約15mm、幅方向に約10mm離して針で圧痕を2箇所つけ(前記針の形状:三角錐、前記表面に対する前記針の仰角:110度)、TOPCON社製 顕微鏡TUM-220ES及び測定データ処理装置CORDINATE COMPUTER CA-1Bを用いて、2点間の幅方向の距離T1[mm]を計測する。次に、張力をかけない状態でサンプルを、温度25℃且つ湿度45~55%の室内環境中に置かれており且つ温度60℃に設定された恒温槽(湿度は設定されていない)で72時間保存する。続いて、サンプルを恒温槽から取り出し、室温で1時間放置したのち、T1の測定方法と同じ方法で、サンプルの2点間の幅方向の距離T2[mm]を計測する。その後、以下の式より幅方向の収縮率を求める。
幅方向の収縮率[%]=((T1-T2)/T1)×100
上述のようにして、1mのテープからほぼ等間隔に3本、50mmの長さのサンプルを切り出し、3本のサンプルについて同様の測定を行い、各サンプルの幅方向の収縮率[%]の平均値を幅方向の収縮率[%]とする。
【0123】
(長手方向の収縮率)
【0124】
磁気記録媒体10の長手方向の収縮率は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.08%以下である。長手方向の収縮率が上記数値範囲内にあることによって、磁気記録媒体を長期保存した場合にも前記記録再生装置における使用への適性が変わらないことに貢献しうる。当該適性が変わらないことによって、例えばオフトラック現象など、磁気記録にとって望ましくない現象が起こりにくくなる。また、前記長手方向の収縮率は、例えば0.00%以上であってよい。
【0125】
前記長手方向の収縮率は、サンプルの長手方向の距離L1[mm]及び保存後のサンプルの長手方向の距離L2[mm]を測定し、以下の式より長手方向の収縮率を求めること以外は幅方向の収縮率と同様にして求められる。
長手方向の収縮率(%)=((L1-L2)/L1)×100
【0126】
なお、前記収縮率は、例えば以下のとおりに調整することができる。磁気記録媒体10における収縮を抑制するために、例えば磁気記録媒体10の塗布工程又は乾燥工程においてベース張力を調整することが行われてよく、又は、塗布工程において巻き取り張力を調整することが行われてもよい。また、磁気記録媒体10に生じた収縮を緩和するために、例えば磁気記録媒体10をカートリッジに収容した状態で50℃50%Rh環境で2~10日間保存することが行われてよく、又は、磁気記録媒体10の硬化工程後の製造工程内で50~80℃の環境で15時間から100時間保存することが行われてもよい。
【0127】
(垂直方向に測定した角形比S2)
【0128】
磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)に測定した角形比S2は、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは73%以上、さらにより好ましくは80%以上である。角形比S2が65%以上であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、より優れたSNRを得ることができる。したがって、より優れた電磁変換特性を得ることができる。また、サーボ信号形状が改善され、よりドライブ側の制御がし易くなる。
本明細書内において、磁気記録媒体が垂直配向しているとは、磁気記録媒体の角形比S2が上記数値範囲内にあること(例えば65%以上であること)を意味してもよい。
【0129】
垂直方向における角形比S2は以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、VSMを用いて磁気記録媒体10の垂直方向(厚み方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトン又はエタノールなどが用いられて塗膜(下地層12、磁性層13及びバック層14など)が払拭され、ベース層11のみが残される。そして、得られたベース層11が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)とされる。その後、VSMを用いてベース層11の垂直方向(磁気記録媒体10の垂直方向)に対応する補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが測定される。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ、補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ及び補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループから補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループの飽和磁化Ms(emu)及び残留磁化Mr(emu)が以下の式に代入されて、角形比S2(%)が計算される。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の垂直方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
角形比S2(%)=(Mr/Ms)×100
【0130】
(長手方向に測定した角形比S1)
【0131】
磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)に測定した角形比S1が、好ましくは35%以下、より好ましくは30%以下、27%以下、又は25%以下、更により好ましくは20%以下である。角形比S1が35%以下であると、磁性粉の垂直配向性が十分に高くなるため、より優れたSNRを得ることができる。したがって、より優れた電磁変換特性を得ることができる。また、サーボ信号形状が改善され、ドライブ側の制御がより行い易くなる。
本明細書内において、磁気記録媒体が垂直配向しているとは、磁気記録媒体の角形比S1が上記数値範囲内にあること(例えば35%以下であること)を意味しうる。本技術に従う磁気記録媒体は好ましくは垂直配向している。
【0132】
長手方向における角形比S1は、M-Hループを磁気記録媒体10及びベース層11の長手方向(走行方向)に測定すること以外は角形比S2と同様にして求められる。
【0133】
角形比S1及びS2は、例えば磁性層形成用塗料に印加される磁場の強度、磁性層形成用塗料に対する磁場の印加時間、磁性層形成用塗料中における磁性粉の分散状態、又は磁性層形成用塗料中における固形分の濃度を調整することにより所望の値に設定される。具体的には例えば、磁場の強度を強くするほど、角形比S1が小さくなるのに対して、角形比S2が大きくなる。また、磁場の印加時間を長くするほど、角形比S1が小さくなるのに対して、角形比S2が大きくなる。また、磁性粉の分散状態を向上するほど、角形比S1が小さくなるのに対して、角形比S2が大きくなる。また、固形分の濃度を低くするほど、角形比S1が小さくなるのに対して、角形比S2が大きくなる。なお、上記の調整方法は単独で使用してもよいし、2以上組み合わせて使用してもよい。
【0134】
(算術平均粗さR
【0135】
磁気記録媒体10の磁性層側表面(以下「磁性面」ともいう)の算術平均粗さRは、好ましくは2.5nm以下、より好ましくは2.0nm以下である。Rが2.5nm以下であると、より優れたSNRを得ることができる。
【0136】
算術平均粗さRは以下のようにして求められる。まず、磁性層13の表面をAFMにより観察し、40μm×40μmのAFM像を得る。AFMとしてはDigital Instruments社製Dimension3100とその解析ソフトを用い、カンチレバーとしてはシリコン単結晶製のものを用い(注1)、タッピング周波数として、200-400Hzのチューニングにて測定を行う。次に、AFM像を512×512(=262,144)個の測定点に分割し、各測定点にて高さZ(i)(i:測定点番号、i=1~262,144)を測定し、測定した各測定点の高さZ(i)を単純に平均(算術平均)して平均高さ(平均面)Zave(=(Z(1)+Z(2)+・・・+Z(262,144))/262,144)を求める。続いて、各測定点での平均中心線からの偏差Z”(i)(=|Z(i)-Zave|)を求め、算術平均粗さR[nm](=(Z”(1)+Z”(2)+・・・+Z”(262,144))/262,144)を算出する。この際には、画像処理として、Flatten order 2及びplanefit order 3 XYによりフィルタリング処理を行ったものをデータとして用いる。
(注1)Nano World社製 SPMプローブ NCH ノーマルタイプ PointProbe L(カンチレバー長)=125μm
【0137】
(保磁力Hc)
磁気記録媒体10の長手方向における保磁力Hcは、好ましくは2000Oe以下、より好ましくは1900Oe以下、さらにより好ましくは1800Oe以下である。長手方向における保磁力Hcが2000Oe以下であると、記録ヘッドからの垂直方向の磁界により感度良く磁化が反応するため、良好な記録パターンを形成することができる。
【0138】
磁気記録媒体10の長手方向に測定した保磁力Hcは、好ましくは1000Oe以上である。長手方向にける保磁力Hcが1000Oe以上であると、記録ヘッドからの漏れ磁束による減磁を抑制することができる。
【0139】
上記の保磁力Hcは以下のようにして求められる。まず、磁気記録媒体10が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、測定サンプルが作製される。この際に、磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)が認識できるように、磁性を持たない任意のインクでマーキングを行う。そして、振動試料型磁力計(Vibrating Sample Magnetometer:VSM)を用いて磁気記録媒体10の長手方向(走行方向)に対応する測定サンプル(磁気記録媒体10全体)のM-Hループが測定される。次に、アセトン又はエタノールなどが用いられて塗膜(下地層12、磁性層13及びバック層14など)が払拭され、ベース層11のみが残される。そして、得られたベース層11が両面テープで3枚重ね合わされた後、φ6.39mmのパンチで打ち抜かれて、バックグラウンド補正用のサンプル(以下、単に「補正用サンプル」)が作製される。その後、VSMを用いてベース層11の垂直方向(磁気記録媒体10の垂直方向)に対応する補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが測定される。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ、補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループの測定においては、東英工業社製の高感度振動試料型磁力計「VSM-P7-15型」が用いられる。測定条件は、測定モード:フルループ、最大磁界:15kOe、磁界ステップ:40bit、Time constant of Locking amp:0.3sec、Waiting time:1sec、MH平均数:20とされる。
測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループ及び補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが得られた後、測定サンプル(磁気記録媒体10の全体)のM-Hループから補正用サンプル(ベース層11)のM-Hループが差し引かれることで、バックグラウンド補正が行われ、バックグラウンド補正後のM-Hループが得られる。このバックグラウンド補正の計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。
得られたバックグラウンド補正後のM-Hループから保磁力Hcが求められる。なお、この計算には、「VSM-P7-15型」に付属されている測定・解析プログラムが用いられる。なお、上記のM-Hループの測定はいずれも、25℃にて行われるものとする。また、M-Hループを磁気記録媒体10の長手方向に測定する際の“反磁界補正”は行わないものとする。
【0140】
(4)磁気記録媒体の製造方法
【0141】
本技術は、本技術に従う磁気記録媒体の製造方法も提供する。当該製造方法は、ベース層の一方の面に下地層及び磁性層を形成し且つ他方の面にバック層を形成して積層体を形成する積層体形成工程と、前記積層体形成工程において得られた積層体を、60℃以上80℃以下の条件下で24時間以上72時間以下保存する熱履歴緩和処理工程と、を含み、前記熱履歴緩和処理工程を経て磁気記録媒体が製造される。
前記熱履歴緩和処理工程によって、当該磁気記録媒体の製造時に与えられる熱によるひずみが緩和されると考えられる。
【0142】
本技術に従う製造方法は、当該磁気記録媒体の製造時に前記熱が与えられる工程として、例えばカレンダー工程及び/又は加熱処理工程を挙げることができる。そのため、前記熱履歴緩和処理工程は、前記カレンダー工程及び/又は加熱処理工程の後に行われることが好ましい。
【0143】
以下で、磁気記録媒体10の製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0144】
(積層体形成工程)
【0145】
積層体形成工程において、ベース層の一方の面に下地層及び磁性層が形成され且つ他方の面にバック層が形成され、これにより、磁性層、下地層、ベース層、及びバック層がこの順に積層された層構造を有する積層体が形成される。磁性層、下地層、及びバック層の形成について以下でより詳細に説明する。
【0146】
まず、非磁性粉及び結着剤などを溶剤に混練及び/又は分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉及び結着剤などを溶剤に混練及び/又は分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。次に、結着剤及び非磁性粉などを溶剤に混練及び/又は分散させることにより、バック層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料、下地層形成用塗料、及びバック層形成用塗料の調製には、例えば、以下の溶剤、分散装置、及び混練装置を用いることができる。
【0147】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;例えばメタノール、エタノール、及びプロパノールなどのアルコール系溶媒;例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、及びエチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒;ジエチレングリコールジメチルエーテル、2-エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、及びジオキサンなどのエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;並びに、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、及びクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらのうちの1つが用いられてもよく、又は、2以上の混合物が用いられてもよい。
【0148】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、及びロールニーダーなどの混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えばロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」など)、ホモジナイザー、及び超音波分散機などの分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0149】
次に、下地層形成用塗料をベース層11の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層12を形成する。続いて、この下地層12上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層13を下地層12上に形成する。なお、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉をベース層11の厚み方向に磁場配向させる。また、乾燥の際に、例えばソレノイドコイルにより、磁性粉をベース層11の長手方向(走行方向)に磁場配向させたのちに、ベース層11の厚み方向に磁場配向させるようにしてもよい。このような磁場配向処理によって、磁性粉の垂直配向度(すなわち角形比S1)を向上することができる。磁性層13の形成後、ベース層11の他方の主面にバック層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、バック層14を形成する。これにより、積層体が得られる。
【0150】
角形比S1及びS2は、例えば、磁性層形成用塗料の塗膜に印加される磁場の強度の調整、磁性層形成用塗料中における固形分の濃度の調整、又は磁性層形成用塗料の塗膜の乾燥条件(例えば乾燥温度及び乾燥時間など)の調整により、所望の値に設定されうる。塗膜に印加される磁場の強度は、磁性粉の保磁力の2倍以上3倍以下であることが好ましい。角形比S1をさらに高めるためには(すなわち角形比S2をさらに低めるためには)、磁性層形成用塗料中における磁性粉の分散状態を向上させることが好ましい。また、角形比S1をさらに高めるためには、磁性粉を磁場配向させるための配向装置に磁性層形成用塗料が入る前の段階で、磁性粉を磁化させておくことも有効である。なお、上記の角形比S1及びS2の調整方法は単独で使用されてもよいし、2以上組み合わされて使用されてもよい。
【0151】
(カレンダー工程及び加熱処理工程)
【0152】
その後、前記積層体形成工程において得られた積層体にカレンダー処理を行い、磁性層13の表面を平滑化する。次に、カレンダー処理が施された積層体をロール状に巻き取ったのち、この状態で積層体に加熱処理を行うことにより、バック層14の表面の多数の突部14Aを磁性層13の表面に転写する。これにより、磁性層13の表面に細孔(多数の孔部13A)が形成される。
【0153】
前記加熱処理の温度は、55℃以上75℃以下であることが好ましい。この数値範囲内の温度を前記加熱処理の温度として採用することによって、前記突部の形状が磁性層13に良好に転写される。前記加熱処理の温度が低すぎる場合(例えば55℃未満)である場合、突部の形状が十分に転写されないことがある。前記加熱処理の温度が高すぎる場合(例えば75℃超)である場合、細孔量が多くなりすぎ、磁性層13の表面の潤滑剤が過多になってしまう虞がある。ここで、前記加熱処理の温度は、積層体を保持する雰囲気の温度である。
【0154】
前記加熱処理の時間は、15時間以上40時間以下であることが好ましい。前記加熱処理の時間をこの数値範囲内とすることにより、前記突部の形状が磁性層13に良好に転写される。前記加熱処理の時間が短すぎる場合(例えば15時間未満である場合)、突部の形状が十分に転写されないことがある。生産性の低下の抑制のために、前記加熱処理の時間は例えば40時間以下とすることが望ましい。
【0155】
(熱履歴緩和処理工程)
【0156】
熱履歴緩和処理工程において、前記積層体形成工程において得られた積層体(特には前記カレンダー処理及び/又は前記加熱処理後の積層体)を、50℃以上80℃以下、好ましくは60℃以上75℃以下の条件下で、10時間以上100時間以下、好ましくは24時間以上72時間以下保存する。このように保存されることで、熱履歴(特にはカレンダー工程及び/又は加熱処理工程)における熱履歴が緩和される。当該緩和によって、ひずみが除去されると考えられる。
【0157】
熱履歴緩和処理工程は、さらに、前記積層体に、幅方向の長さ1/2インチあたり0.1N以下の張力を長手方向にかけながら80℃以上150℃以下、特には100℃以上120℃以下の条件下で15秒以上240秒以下、特には60秒以上180秒以下走行させる低張力熱処理工程を含みうる。0.1N以下の低張力をかけながら走行させる処理を行うことによって、それまでの工程で生じたひずみを除去することができる。
【0158】
(裁断工程)
【0159】
最後に、積層体を所定の幅(例えば1/2インチ幅)に裁断する。以上により、目的とする磁気記録媒体10が得られる。磁気記録媒体10にはサーボパターンが記録される。サーボパターンの記録は、例えば当技術分野で既知のサーボライタにより行われてよい。
【0160】
以上の製造方法では、バック層14の表面に設けられた多数の突部14Aを、磁性層13の表面に転写することにより、磁性層13の表面に細孔が形成されるが、細孔の形成方法はこれに限定されるものではない。例えば、磁性層形成用塗料に含まれる溶剤の種類の調整及び/又は磁性層形成用塗料の乾燥条件の調整によって、磁性層13の表面に細孔が形成されてもよい。また、例えば磁性層形成用塗料の溶剤が乾燥する過程において、磁性層形成用塗料に含まれる固形物と溶剤の偏在により細孔が形成されうる。また、磁性層形成用塗料を塗布する過程において、磁性層形成用塗料に含まれる溶剤は、下層を塗布乾燥させた際に形成された下地層12の細孔を通って下地層12にも吸収されうる。前記塗布後の乾燥工程で下地層12から磁性層13を通って溶剤が移動することによって、磁性層13と下地層12とを連通する細孔が形成されうる。
【0161】
(5)記録再生装置
【0162】
[記録再生装置の構成]
【0163】
次に、図7を参照して、上述の構成を有する磁気記録媒体10の記録及び再生を行う記録再生装置30の構成の一例について説明する。
【0164】
記録再生装置30は、磁気記録媒体10の長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有している。また、記録再生装置30は、磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有している。ここでは、説明を容易とするために、記録再生装置30が、1つの磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有している場合について説明するが、記録再生装置30が、複数の磁気記録カートリッジ10Aを装填可能な構成を有していてもよい。
【0165】
記録再生装置30は、ネットワーク43を介してサーバ41及びパーソナルコンピュータ(以下「PC」という。)42等の情報処理装置に接続されており、これらの情報処理装置から供給されたデータを磁気記録カートリッジ10Aに記録可能に構成されている。記録再生装置30の最短記録波長は、好ましくは100nm以下、より好ましくは75nm以下、更により好ましくは60nm以下、特に好ましくは50nm以下である。
【0166】
記録再生装置30は、図7に示すように、スピンドル31と、記録再生装置側のリール32と、スピンドル駆動装置33と、リール駆動装置34と、複数のガイドローラ35と、ヘッドユニット36と、通信インターフェース(以下、I/F)37と、制御装置38とを備えている。
【0167】
スピンドル31は、磁気記録カートリッジ10Aを装着可能に構成されている。磁気記録カートリッジ10Aは、LTO(Linear Tape Open)規格に準拠しており、カートリッジケース10Bに磁気記録媒体10を巻装した単一のリール10Cを回転可能に収容している。磁気記録媒体10には、サーボ信号としてハの字状のサーボパターンが予め記録されている。リール32は、磁気記録カートリッジ10Aから引き出された磁気記録媒体10の先端を固定可能に構成されている。
【0168】
スピンドル駆動装置33は、スピンドル31を回転駆動させる装置である。リール駆動装置34は、リール32を回転駆動させる装置である。磁気記録媒体10に対してデータの記録又は再生を行う際には、スピンドル駆動装置33とリール駆動装置34とが、スピンドル31とリール32とを回転駆動させることによって、磁気記録媒体10を走行させる。ガイドローラ35は、磁気記録媒体10の走行をガイドするためのローラである。
【0169】
ヘッドユニット36は、磁気記録媒体10にデータ信号を記録するための複数の記録ヘッドと、磁気記録媒体10に記録されているデータ信号を再生するための複数の再生ヘッドと、磁気記録媒体10に記録されているサーボ信号を再生するための複数のサーボヘッドとを備える。記録ヘッドとしては例えばリング型ヘッドを用いることができるが、記録ヘッドの種類はこれに限定されるものではない。
【0170】
通信I/F37は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置と通信するためのものであり、ネットワーク43に対して接続される。
【0171】
制御装置38は、記録再生装置30の全体を制御する。例えば、制御装置38は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置の要求に応じて、情報処理装置から供給されるデータ信号をヘッドユニット36により磁気記録媒体10に記録する。また、制御装置38は、サーバ41及びPC42等の情報処理装置の要求に応じて、ヘッドユニット36により、磁気記録媒体10に記録されたデータ信号を再生し、情報処理装置に供給する。
【0172】
[記録再生装置の動作]
【0173】
次に、上記構成を有する記録再生装置30の動作について説明する。
【0174】
まず、磁気記録カートリッジ10Aを記録再生装置30に装着し、磁気記録媒体10の先端を引き出して、複数のガイドローラ35及びヘッドユニット36を介してリール32まで移送し、磁気記録媒体10の先端をリール32に取り付ける。
【0175】
次に、図示しない操作部を操作すると、スピンドル駆動装置33とリール駆動装置34とが制御装置38の制御により駆動され、リール10Cからリール32へ向けて磁気記録媒体10が走行されるように、スピンドル31とリール32とが同方向に回転される。これにより、磁気記録媒体10がリール32に巻き取られつつ、ヘッドユニット36によって、磁気記録媒体10への情報の記録または磁気記録媒体10に記録された情報の再生が行われる。
【0176】
また、リール10Cに磁気記録媒体10を巻き戻す場合は、上記とは逆方向に、スピンドル31とリール32とが回転駆動されることにより、磁気記録媒体10がリール32からリール10Cに走行される。この巻き戻しの際にも、ヘッドユニット36による、磁気記録媒体10への情報の記録または磁気記録媒体10に記録された情報の再生が行われる。
【0177】
(6)カートリッジ
【0178】
[カートリッジの構成]
【0179】
本技術は、本技術に従う磁気記録媒体を含む磁気記録カートリッジ(テープカートリッジともいう)も提供する。当該磁気記録カートリッジ内において、前記磁気記録媒体は、例えばリールに巻き付けられていてよい。当該磁気記録カートリッジは、例えば 記録再生装置と通信を行う通信部と、記憶部と、前記通信部を介して前記記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、前記記録再生装置の要求に応じて、前記記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備えていてよい。前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含みうる。
【0180】
図10を参照して、上述の構成を有する磁気記録媒体10を備えるカートリッジ10Aの構成の一例について説明する。
【0181】
図10は、カートリッジ10Aの構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ10Aは、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気記録カートリッジであり、下シェル212Aと上シェル212Bとで構成されるカートリッジケース10Bの内部に、磁気テープ(テープ状の磁気記録媒体)10が巻かれたリール10Cと、リール10Cの回転をロックするためのリールロック214およびリールスプリング215と、リール10Cのロック状態を解除するためのスパイダ216と、下シェル212Aと上シェル212Bに跨ってカートリッジケース10Bに設けられたテープ引出口212Cを開閉するスライドドア217と、スライドドア217をテープ引出口212Cの閉位置に付勢するドアスプリング218と、誤消去を防止するためのライトプロテクト219と、カートリッジメモリ211とを備える。リール10Cは、中心部に開口を有する略円盤状であって、プラスチック等の硬質の材料からなるリールハブ213Aとフランジ213Bとにより構成される。磁気テープ10の一端部には、リーダーピン220が設けられている。
【0182】
カートリッジメモリ211は、カートリッジ10Aの1つの角部の近傍に設けられている。カートリッジ10Aが記録再生装置30にロードされた状態において、カートリッジメモリ211は、記録再生装置30のリーダライタ(図示せず)と対向するようになっている。カートリッジメモリ211は、LTO規格に準拠した無線通信規格で記録再生装置30、具体的にはリーダライタ(図示せず)と通信を行う。
【0183】
[カートリッジメモリの構成]
【0184】
図11を参照して、カートリッジメモリ211の構成の一例について説明する。
【0185】
図11は、カートリッジメモリ211の構成の一例を示すブロック図である。カートリッジメモリ211は、規定の通信規格でリーダライタ(図示せず)と通信を行うアンテナコイル(通信部)331と、アンテナコイル331により受信した電波から、誘導起電力を用いて発電、整流して電源を生成する整流・電源回路332と、アンテナコイル331により受信した電波から、同じく誘導起電力を用いてクロックを生成するクロック回路333と、アンテナコイル331により受信した電波の検波およびアンテナコイル331により送信する信号の変調を行う検波・変調回路334と、検波・変調回路334から抽出されるデジタル信号から、コマンドおよびデータを判別し、これを処理するための論理回路等で構成されるコントローラ(制御部)335と、情報を記憶するメモリ(記憶部)336とを備える。また、カートリッジメモリ211は、アンテナコイル331に対して並列に接続されたキャパシタ337を備え、アンテナコイル331とキャパシタ337により共振回路が構成される。
【0186】
メモリ336は、カートリッジ10Aに関連する情報等を記憶する。メモリ336は、不揮発性メモリ(Non Volatile Memory:NVM)である。メモリ336の記憶容量は、好ましくは約32KB以上である。例えば、カートリッジ10Aが次世代以降のLTOフォーマット規格に準拠したものである場合には、メモリ336は、約32KBの記憶容量を有する。
【0187】
メモリ336は、第1の記憶領域336Aと第2の記憶領域336Bとを有する。第1の記憶領域336Aは、LTO8以前のLTO規格のカートリッジメモリ(以下「従来のカートリッジメモリ」という。)の記憶領域に対応しており、LTO8以前のLTO規格に準拠した情報を記憶するための領域である。LTO8以前のLTO規格に準拠した情報は、例えば製造情報(例えばカートリッジ10Aの固有番号等)、使用履歴(例えばテープ引出回数(Thread Count)等)等である。
【0188】
第2の記憶領域336Bは、従来のカートリッジメモリの記憶領域に対する拡張記憶領域に相当する。第2の記憶領域336Bは、付加情報を記憶するための領域である。ここで、付加情報とは、LTO8以前のLTO規格で規定されていない、カートリッジ10Aに関連する情報を意味する。付加情報の例としては、テンション調整情報、管理台帳データ、Index情報、または磁気テープ10に記憶された動画のサムネイル情報等が挙げられるが、これらのデータに限定されるものではない。テンション調整情報は、磁気テープ10に対するデータ記録時における、隣接するサーボバンド間の距離(隣接するサーボバンドに記録されたサーボパターン間の距離)を含む。隣接するサーボバンド間の距離は、磁気テープ10の幅に関連する幅関連情報の一例である。サーボバンド間の距離の詳細については後述する。以下の説明において、第1の記憶領域336Aに記憶される情報を「第1の情報」といい、第2の記憶領域336Bに記憶される情報を「第2の情報」ということがある。
【0189】
メモリ336は、複数のバンクを有していてもよい。この場合、複数のバンクのうちの一部のバンクにより第1の記憶領域336Aが構成され、残りのバンクにより第2の記憶領域336Bが構成されてもよい。具体的には、例えば、カートリッジ10Aが次世代以降のLTOフォーマット規格に準拠したものである場合には、メモリ336は約16KBの記憶容量を有する2つのバンクを有し、2つのバンクのうちの一方のバンクにより第1の記憶領域336Aが構成され、他のバンクにより第2の記憶領域336Bが構成されてもよい。
【0190】
アンテナコイル331は、電磁誘導により誘起電圧を誘起する。コントローラ335は、アンテナコイル331を介して、規定の通信規格で記録再生装置30と通信を行う。具体的には、例えば、相互認証、コマンドの送受信またはデータのやり取り等を行う。
【0191】
コントローラ335は、アンテナコイル331を介して記録再生装置30から受信した情報をメモリ336に記憶する。コントローラ335は、記録再生装置30の要求に応じて、メモリ336から情報を読み出し、アンテナコイル331を介して記録再生装置30に送信する。
【0192】
(7)カートリッジの変形例
【0193】
[カートリッジの構成]
上述の一実施形態では、磁気テープカートリッジが、1リールタイプのカートリッジである場合について説明したが、2リールタイプのカートリッジであってもよい。すなわち、本技術のカートリッジは、磁気テープが巻き取られるリールを1つ又は複数(例えば2つ)有してよい。以下で、図13を参照しながら、2つのリールを有する本技術の磁気記録カートリッジの例を説明する。
【0194】
図13は、2リールタイプのカートリッジ121の構成の一例を示す分解斜視図である。カートリッジ121は、合成樹脂製の上ハーフ102と、上ハーフ102の上面に開口された窓部102aに嵌合されて固着される透明な窓部材123と、上ハーフ102の内側に固着されリール106、107の浮き上がりを防止するリールホルダー122と、上ハーフ102に対応する下ハーフ105と、上ハーフ102と下ハーフ105を組み合わせてできる空間に収納されるリール106、107と、リール106、107に巻かれた磁気テープMT1と、上ハーフ102と下ハーフ105を組み合わせてできるフロント側開口部を閉蓋するフロントリッド109およびこのフロント側開口部に露出した磁気テープMT1を保護するバックリッド109Aとを備える。
【0195】
リール106は、磁気テープMT1が巻かれる円筒状のハブ部106aを中央部に有する下フランジ106bと、下フランジ106bとほぼ同じ大きさの上フランジ106cと、ハブ部106aと上フランジ106cの間に挟み込まれたリールプレート111とを備える。リール107はリール106と同様の構成を有している。
【0196】
窓部材123には、リール106、107に対応した位置に、これらリールの浮き上がりを防止するリール保持手段であるリールホルダー122を組み付けるための取付孔123aが各々設けられている。磁気テープMT1は、第1の実施形態における磁気テープTと同様である。
【0197】
(8)効果
【0198】
本技術に従う磁気記録媒体10は、磁性層13、下地層12、ベース層11、及びバック層14を含み、磁気記録媒体10の平均厚みtが5.3μm以下であり、前記磁気記録媒体に対して、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、ポアソン比が0.40以下である。これにより、磁気記録媒体10は、全厚が5.3μm以下と非常に薄いにもかかわらず、長期保存後においても再生又は記録を良好に行うことができる。
【0199】
(9)変形例
【0200】
[変形例1]
【0201】
磁気記録媒体10が、図8に示すように、ベース層11の少なくとも一方の表面に設けられたバリア層15をさらに備えるようにしてもよい。バリア層15は、環境に応じたベース層11の寸法変化を抑える為の層である。例えば、その寸法変化を及ぼす原因の一例としてベース層11の吸湿性が挙げられ、バリア層15によりベース層11への水分の侵入速度を低減できる。バリア層15は、金属又は金属酸化物を含む。金属としては、例えば、Al、Cu、Co、Mg、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Ni、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Mo、Ru、Pd、Ag、Ba、Pt、Au、及びTaのうちの少なくとも1種を用いることができる。金属酸化物としては、例えば、Al、CuO、CoO、SiO、Cr、TiO、Ta、及びZrOのうちの少なくとも1種を用いることができるし、上記金属の酸化物の何れかを用いることもできる。またダイヤモンド状炭素(Diamond-Like Carbon:DLC)又はダイヤモンドなどを用いることもできる。
【0202】
バリア層15の平均厚みは、好ましくは20nm以上1000nm以下、より好ましくは50nm以上1000nm以下である。バリア層15の平均厚みは、磁性層13の平均厚みtと同様にして求められる。但し、TEM像の倍率は、バリア層15の厚みに応じて適宜調整される。
【0203】
[変形例2]
【0204】
磁気記録媒体10は、ライブラリ装置に組み込まれてもよい。すなわち、本技術は、少なくとも一つの磁気記録媒体10を備えているライブラリ装置も提供する。当該ライブラリ装置は、磁気記録媒体10の長手方向に加わるテンションを調整可能な構成を有しており、上記で述べた記録再生装置30を複数備えるものであってもよい。
【0205】
3.実施例
【0206】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0207】
以下の実施例及び比較例において、切り替わり温度、収縮開始温度、記録トラック幅、再生トラック幅、平均厚みt、ベース層の平均厚み、ポアソン比、長手方向の収縮率、幅方向の収縮率及びSNRは、「2.本技術の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)」にて説明した測定方法により求められた値である。
【0208】
(1)磁気テープの製造
以下に述べるとおり、実施例1~13及び比較例1~2の磁気テープを製造した。下記表1に製造条件を示す。また、下記表2に、これら磁気テープの切り替わり温度、収縮開始温度、記録トラック幅、再生トラック幅、平均厚みt、ベース層の平均厚み、ポアソン比、長手方向の収縮率及び幅方向の収縮率を示す。
【0209】
[実施例1]
【0210】
(磁性層形成用塗料の調製工程)
磁性層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第1組成物及び第2組成物をそれぞれ分散処理により調製した。
【0211】
(第1組成物)
バリウムフェライト(BaFe1219)粒子の粉末(六角板状、平均アスペクト比2.8、平均粒子体積1950nm):100質量部
塩化ビニル系樹脂のシクロヘキサノン溶液:60質量部
(当該溶液の組成は、樹脂分30質量%及びシクロヘキサノン70質量%である。塩化ビニル系樹脂の詳細は以下のとおりであった:重合度300、Mn=10000、極性基としてOSOK=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α-Al、平均粒径0.2μm)
【0212】
(第2組成物)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
塩化ビニル系樹脂のシクロヘキサノン溶液:3.7質量部
(当該溶液の組成は、樹脂分30質量%及びシクロヘキサノン70質量%である。)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0213】
次に、調製された第1組成物及び第2組成物を混合及び攪拌した。得られた混合物に、硬化剤としてポリイソシアネート(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部、及び、ステアリン酸:2質量部を添加した。
【0214】
(下地層形成用塗料の調製工程)
下地層形成用塗料を以下のようにして調製した。まず、下記配合の第3組成物を分散処理により調製した。
【0215】
(第3組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α-Fe、平均長軸長0.10μm)
カーボンブラック:20質量部
(平均粒径20nm)
塩化ビニル系樹脂のシクロヘキサノン溶液:30質量部
(当該溶液の組成は、樹脂分30質量%及びシクロヘキサノン70質量%である。)
ポリウレタン系樹脂:5質量部
(当該ポリウレタン系樹脂のガラス転移温度Tgは75℃である。)
n-ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:198.2質量部
トルエン:198.2質量部
シクロヘキサノン:68.6質量部
【0216】
得られた第3組成物に、硬化剤(商品名:コロネートL、東ソー株式会社製):4質量部及びミリスチン酸:2質量部を添加した。
【0217】
(バック層形成用塗料の調製工程)
バック層形成用塗料を以下のようにして調製した。下記原料を、ディスパーを備えた攪拌タンクで混合を行い、フィルター処理を行うことで、バック層形成用塗料を調製した。小粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)20nm):90質量部
大粒径のカーボンブラックの粉末(平均粒径(D50)270nm):10質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(東ソー株式会社製、商品名:N-2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0218】
(積層体形成工程)
上述のようにして調製した磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料を用いて、非磁性支持体である、平均厚み4.0μm、長尺のポリエチレンテレフタレートフィルム(以下「PETフィルム」という。)の一方の主面上に、乾燥及びカレンダー後の平均厚みが0.9μmとなるように下地層を以下のようにして形成し、そして乾燥及びカレンダー後の平均厚みが80nmとなるように磁性層を以下のようにして形成した。まず、PETフィルムの一方の主面上に下地層形成用塗料を塗布し、そして乾燥させることにより、下地層を形成した。次に、下地層上に磁性層形成用塗料を塗布し、そして乾燥させることにより、磁性層を形成した。なお、磁性層形成用塗料の乾燥の際に、ソレノイドコイルにより、磁性粉をフィルムの厚み方向に磁場配向させ、すなわち垂直配向させた。垂直配向度は66%であった。続いて、PETフィルムの他方の主面上にバック層形成用塗料を塗布し、そして乾燥させることにより、平均厚み0.4μmのバック層を形成した。これにより、積層体が得られた。
【0219】
(カレンダー工程、転写工程)
続いて、カレンダー処理を行い、磁性層の表面を平滑化した。次に、得られた積層体をロール状に巻き取ったのち、この状態で積層体に60℃、10時間の加熱処理を行った。そして、内周側に位置している端部が反対に外周側に位置するように、積層体をロール状に巻き直したのち、この状態で積層体に60℃、10時間の加熱処理を再度行った。これにより、バック層の表面の多数の突部が磁性層の表面に転写され、磁性層の表面に多数の孔部が形成された。
【0220】
(熱履歴緩和処理工程)
さらに、積層体を70℃で24時間保存した。これにより、積層体のひずみが緩和され、切り替わり温度及び収縮開始温度が調整された。
【0221】
(裁断工程)
上述のようにして得られた積層体を1/2インチ(12.65mm)幅に裁断した。これにより、目的とする長尺状の磁気テープ(平均厚み5.4μm)が得られた。
【0222】
(熱機械分析装置による測定)
当該磁気テープに対して、「2.本技術の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)」において説明したとおりに熱機械分析装置による測定を行った。
当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は80℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0223】
[実施例2]
非磁性支持体をPETフィルムからポリエチレンナフタレートフィルム(以下「PENフィルム」という。)に変更したこと以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0224】
[実施例3]
転写工程を行った後の積層体に、幅方向の長さ1/2インチあたり0.1N以下の張力を長手方向にかけながら110℃の条件下で120秒間走行させる低張力熱処理工程を行ったこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は100℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は110℃であった。
【0225】
[実施例4]
熱履歴緩和処理工程における温度を60℃に設定し、処理時間を72時間に設定したこと以外は実施例3と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は110℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は120℃であった。
【0226】
[実施例5]
熱履歴緩和処理工程における温度を75℃に設定し、処理時間を48時間に設定したこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は110℃であった。
【0227】
[実施例6]
熱履歴緩和処理工程における温度を60℃に設定し、処理時間を72時間に設定したこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定結果に基づくグラフが、図12に示されている。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は120℃であった。
【0228】
[実施例7]
実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0229】
[実施例8]
実施例3と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は100℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は110℃であった。
【0230】
[実施例9]
実施例3と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は100℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は110℃であった。
【0231】
[実施例10]
磁性層に含まれる磁性粉をバリウムフェライト粒子の粉末からストロンチウムフェライト粒子の粉末に変更したこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0232】
[実施例11]
磁性層に含まれる磁性粉をバリウムフェライト粒子の粉末からε酸化鉄ナノ粒子の粉末に変更したこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを得た。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0233】
[実施例12]
磁性層に含まれる磁性粉をバリウムフェライト粒子の粉末からコバルトフェライト粒子の粉末に変更したこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを得た。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0234】
[実施例13]
実施例2と同じ方法で磁気テープを製造した。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は90℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は100℃であった。
【0235】
[比較例1]
非磁性支持体をPETフィルムからARAMIDフィルムに変更したこと以外は実施例1と同じ方法で磁気テープを得た。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定によって得られたグラフが、図12に示されている。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度、及び、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は検出されなかった。
【0236】
[比較例2]
熱履歴緩和処理工程を行わなかったこと以外は実施例2と同じ方法で磁気テープを得た。
当該磁気テープに対して、実施例1と同じように熱機械分析装置による測定を行った。当該測定の結果、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度は55℃であった。また、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度は70℃であった。
【0237】
(2)評価
(長手方向の収縮率及び幅方向の収縮率の評価)
上記(1)において製造された実施例1~13及び比較例1~2の磁気テープについて、長手方向の収縮率及び幅方向の収縮率を測定した。長手方向の収縮率及び幅方向の収縮率の測定は、「2.本技術の実施形態(塗布型の磁気記録媒体の例)」にて説明した測定方法により行われた。測定結果は下記表2に示されている。
【0238】
(長期保存による再生への影響の評価)
実施例1~13及び比較例1~2の磁気テープをカートリッジケース内に設けられたリールに巻き付けて、磁気記録カートリッジを得た。当該磁気テープの全長にサーボ信号を記録し、そして、情報を記録した。当該サーボ信号は、ハの字の磁気パターンの列からなるものであった。各磁気記録カートリッジにおける記録トラック幅が、表2に示されている。
次に、実施例1~13及び比較例1~2の磁気記録カートリッジのそれぞれを、磁気記録再生装置により全長再生した。各磁気記録カートリッジの全長再生において用いた再生ヘッドの再生トラック幅が、表2に示されている。また、各磁気記録カートリッジの(再生トラック幅/記録トラック幅)の比も同表に示されている。
その後、各磁気記録カートリッジを35℃60%環境下で20日間保存した。当該保存後、各磁気記録カートリッジを、上記と同じように全長再生した。
当該保存前後で全長再生に要する時間の差に基づき、各磁気記録カートリッジの磁気テープを以下の基準により評価した。評価結果が表2に示されている。
<評価基準>
1:全長再生においてリトライが発生しない、又は、全長再生においてリトライが発生するが、保存前の全長再生に要する時間に比べ、保存後の全長再生に要する時間が1.02倍未満である。
2:全長再生においてリトライが発生し、これにより保存前の全長再生に要する時間に比べ、保存後の全長再生に要する時間が1.02倍以上1.1倍未満である。
3:全長再生においてリトライが発生し、これにより保存前の全長再生に要する時間に比べ、保存後の全長再生に要する時間が1.1倍以上1.2倍未満である。
4:全長再生においてリトライが多発し、これにより保存前の全長再生に要する時間に比べ保存後の全長再生に要する時間が1.2倍以上になる。
5:全長再生においてフェイル(エラーによる再生停止)が発生し、全長再生できない。
【0239】
(SNRの評価)
さらに、実施例1~13及び比較例1~2の磁気テープについてSNRを評価した。評価結果は下記表2に示されている。SNRの評価方法は以下のとおりであった。
まず、記録/再生ヘッド及び記録/再生アンプを取り付けた1/2インチテープ走行装置(Mountain Engineering II社製、MTS Transport)を用いて、25℃環境における磁気テープのSNR(電磁変換特性)を測定した。記録ヘッドにはギャップ長0.2μmのリングヘッドを用い、再生ヘッドにはシールド間距離0.1μmのGMRヘッドを用いた。相対速度は6m/s、記録クロック周波数は160MHz、記録トラック幅は2.0μmとした。また、SNRは、下記の文献に記載の方法に基づき算出した。SNRについて、実施例1の値を基準として、それよりもSNRが上昇したか又は低下したかという相対的な評価を行った。
Y. Okazaki: ”An Error Rate Emulation System.”, IEEE Trans. Man., 31,pp.3093-3095(1995)
【0240】
【表1】
【0241】
【表2】
【0242】
表2に示される結果より、以下のことが分かる。
【0243】
実施例1~13の磁気テープはいずれも、長期保存による再生への影響の評価結果が1~3であった。すなわち、実施例1~13の磁気テープは、長期保存によって全長再生に要する時間が多少増加するが、全長再生することができた。一方で、比較例1の磁気テープはリトライが多発し、比較例2の磁気テープは全長再生ができなかった。
【0244】
また、実施例1~13の結果と比較例1及び2の結果を比較すると、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が80℃以上であり、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が100℃以上であることによって、長期保存による再生への影響を低減することができるとわかる。
【0245】
そして、実施例1~13の結果と比較例1及び2の結果を比較すると、ポアソン比が0.40以下、好ましくは0.38以下であることによって、長期保存による再生への影響を低減することができるとわかる。
【0246】
そして、実施例1~13の結果と比較例1及び2の結果を比較すると、幅方向の収縮率が0.06%以下であることによって、長期保存による再生への影響を低減することができるとわかる。
【0247】
さらに、実施例10~12の磁気テープは、実施例2と磁性粉の種類が異なるが、実施例2と同程度の収縮率、全長再生評価結果、及びSNRが得られた。そのため、磁性粉の種類を変更しても、本技術の効果が奏されることが分かる。
【0248】
実施例2、8及び13を比較すると、実施例2は、実施例8及び13よりもSNRの評価結果が良好であった。そのため、(再生トラック幅/記録トラック幅)の比を、例えば0.56以上、好ましくは0.60以上とすることで、記録再生特性が向上されると考えられる。
【0249】
また、実施例3、8及び9を比較すると、実施例3は、実施例8及び9よりも、長期保存後の全長再生の評価結果が良好であった。そのため、(再生トラック幅/記録トラック幅)の比を、例えば0.80以下、好ましくは0.75以下、より好ましくは0.70以下とすることで、長期保存による再生への影響を低減することができると考えられる。
【0250】
また、実施例1~13と比較例1及び2の結果の比較から、長手方向の収縮率が、例えば0.10%以下、好ましくは0.08%以下であることが、本技術の効果を奏するために好ましいと考えられる。また、幅方向の収縮率が、例えば0.06%以下、好ましくは0.05%以下であることも、本技術の効果を奏するために好ましいと考えられる。
【0251】
以上、本技術の実施形態及び実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0252】
例えば、上述の実施形態及び実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等を用いてもよい。また、化合物等の化学式は代表的なものであって、同じ化合物の一般名称であれば、記載された価数等に限定されない。
【0253】
また、上述の実施形態及び実施例の構成、方法、工程、形状、材料、及び数値等は、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0254】
また、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値または下限値は、他の段階の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0255】
なお、本技術は、以下のような構成をとることもできる。
〔1〕
磁性層、下地層、ベース層、及びバック層を含み、
磁気記録媒体の平均厚みtが5.4μm以下であり、
前記磁気記録媒体に対して、40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、
ポアソン比が0.40以下である、
テープ状の磁気記録媒体。
〔2〕
前記磁気記録媒体の平均厚みtが5.3μm以下である、〔1〕に記載の磁気記録媒体。
〔3〕
前記ポアソン比が0.38以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の磁気記録媒体。
〔4〕
前記ベース層が、PET及びPENのうちのいずれかから形成されている、〔1〕~〔3〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔5〕
前記ベース層の厚みが、4.2μm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔6〕
前記ベース層の厚みが、4.0μm以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔7〕
前記磁気記録媒体の垂直方向における角形比が65%以上である、〔1〕~〔6〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔8〕
前記磁気記録媒体の幅方向の収縮率が、-0.035%以上である、〔1〕~〔7〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔9〕
前記磁性層の平均厚みtが80nm以下である、〔1〕~〔8〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔10〕
前記磁性層の平均厚みtが50nm以下である、〔1〕~〔9〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔11〕
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉が六方晶フェライト、ε酸化鉄、又はCo含有スピネルフェライトを含む、〔1〕~〔10〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔12〕
前記六方晶フェライトが、Ba及びSrのうちの少なくとも1種を含み、且つ、前記ε酸化鉄が、Al及びGaのうちの少なくとも1種を含む、〔11〕に記載の磁気記録媒体。
〔13〕
前記磁気記録媒体の長手方向における保磁力Hcが2000Oe以下である、〔1〕~〔12〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔14〕
前記磁性層は、磁化反転間距離Lの最小値が48nm以下となるようにデータを記録可能に構成されている、〔1〕~〔13〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔15〕
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均アスペクト比が1.0以上3.5以下である、〔1〕~〔14〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔16〕
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子サイズが50nm以下である、〔1〕~〔15〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔17〕
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1500nm以下である、〔1〕~〔16〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔18〕
前記磁性層が磁性粉を含み、当該磁性粉の平均粒子体積が1300nm以下である、〔1〕~〔17〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体。
〔19〕
〔1〕~〔18〕のいずれか一つに記載の磁気記録媒体を含む、
テープカートリッジ。
〔20〕
記録再生装置と通信を行う通信部と、
記憶部と、
通信部を介して記録再生装置から受信した情報を記憶部に記憶し、かつ、記録再生装置の要求に応じて、記憶部から情報を読み出し、通信部を介して記録再生装置に送信する制御部と、を備え、
前記情報は、磁気記録媒体の長手方向にかかるテンションを調整するための調整情報を含む、
〔19〕に記載のテープカートリッジ。
〔21〕
ベース層の一方の面に下地層及び磁性層を形成し且つ他方の面にバック層を形成して積層体を形成する積層体形成工程と、
前記積層体形成工程において得られた積層体を、50℃以上80℃以下の条件下で10時間以上100時間以下保存する熱履歴緩和処理工程と、を含み、
前記熱履歴緩和処理工程を経て磁気記録媒体が製造され、
前記磁気記録媒体の平均厚みtが5.4μm以下であり、
前記磁気記録媒体に対して40℃~150℃の温度範囲について昇温速度1℃/分での熱機械分析が行われた場合に、熱膨張から熱収縮へ切り替わる切り替わり温度が70℃以上であり、且つ、長手方向の長さが40℃での長さよりも短くなる収縮開始温度が90℃以上であり、且つ、
前記磁気記録媒体のポアソン比が0.40以下である、
テープ状の磁気記録媒体の製造方法。
〔22〕
前記熱履歴緩和処理工程が、前記積層体に、幅方向の長さ1/2インチあたり0.1N以下の張力を長手方向にかけながら80℃以上150℃以下の条件下で15秒以上240秒以下走行させる低張力熱処理工程を含む、
〔21〕に記載の製造方法。
【符号の説明】
【0256】
10 磁気記録媒体
11 ベース層
12 下地層
13 磁性層
14 バック層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13