(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】歯車加工方法及び歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23F 19/06 20060101AFI20240717BHJP
B23F 5/16 20060101ALI20240717BHJP
B23P 15/14 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B23F19/06
B23F5/16
B23P15/14
(21)【出願番号】P 2020213522
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 友和
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-98715(JP,A)
【文献】特開2013-39659(JP,A)
【文献】特開昭63-278712(JP,A)
【文献】特開2007-190615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 19/06
B23F 5/16
B23P 15/14
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め歯形が形成された歯車形の工作物に対して、前記歯形の歯溝における歯面を加工する歯車加工方法であって、
前記工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを平行に配置した状態で前記工作物と前記切削工具とを同期回転させることにより前記工作物に対して前記切削工具の刃先を所定軌跡に沿って移動させ、各前記歯溝における前記歯面の一方を加工する加工方法を適用し、
前記切削工具の回転軸線から前記切削工具の刃先までの距離である刃先径についての所定の基準径と実径との差を、刃先径差とし、
前記切削工具の回転軸線に直交する方向であって、前記工作物の回転軸線と前記切削工具の回転軸線とを結ぶ軸間方向に直交する方向を、第一方向とし、
前記歯車加工方法は、前記刃先径差に基づいて前記工作物及び前記切削工具の少なくとも一方を前記第一方向に揺動させながら前記歯面の加工を行う歯面加工工程を備える、歯車加工方法。
【請求項2】
前記軸間方向を、第二方向とし、
前記歯面加工工程は、前記刃先径差に基づいて、前記工作物及び前記切削工具の少なくとも一方を、前記第一方向及び前記第二方向に揺動させながら前記歯面の加工を行う、請求項1に記載の歯車加工方法。
【請求項3】
前記歯面加工工程は、前記刃先径差に基づいて決定された前記工作物の回転軸線と前記切削工具の回転軸線との軸間距離に固定した状態で、前記刃先径差に基づいて前記工作物及び前記切削工具の少なくとも一方を前記第一方向に揺動させながら前記歯面の加工を行う、請求項1に記載の歯車加工方法。
【請求項4】
前記歯面加工工程は、前記第一方向における揺動周波数を前記切削工具の回転周波数と前記切削工具の刃数との積に一致させて、前記歯面の加工を行う、請求項1-3の何れか一項に記載の歯車加工方法。
【請求項5】
前記歯面加工工程は、前記第一方向における揺動振幅を前記刃先径差に一致させて、前記歯面の加工を行う、請求項4に記載の歯車加工方法。
【請求項6】
前記歯面加工工程は、前記第二方向における揺動周波数を前記切削工具の回転周波数と前記切削工具の刃数との積に一致させて、前記歯面の加工を行う、請求項2に記載の歯車加工方法。
【請求項7】
前記歯面加工工程は、前記第二方向における揺動振幅を前記刃先径差に一致させて、前記歯面の加工を行う、請求項6に記載の歯車加工方法。
【請求項8】
前記所定軌跡は、サイクロイド曲線であり、
前記歯面は、インボリュート曲線であり、
前記歯面加工工程は、前記サイクロイド曲線のうち前記インボリュート曲線に近似する部分を用いて、前記歯面を加工する、請求項1-7の何れか1項に記載の歯車加工方法。
【請求項9】
予め歯形が形成された歯車形の工作物に対して、前記歯形の歯溝における歯面を加工する歯車加工装置であって、
切削工具と、
前記工作物と前記切削工具とを制御する制御装置と、
を備え、
前記歯車加工装置は、前記工作物の回転軸線と前記切削工具の回転軸線とを平行に配置した状態で前記工作物と前記切削工具とを同期回転させることにより前記工作物に対して前記切削工具の刃先を所定軌跡に沿って移動させ、各前記歯溝における前記歯面の一方を加工する加工方法を適用し、
前記切削工具の回転軸線から前記切削工具の刃先までの距離である刃先径についての所定の基準径と実径との差を、刃先径差とし、
前記切削工具の回転軸線に直交する方向であって、前記工作物の回転軸線と前記切削工具の回転軸線とを結ぶ軸間方向に直交する方向を、第一方向とし、
前記制御装置は、前記刃先径差に基づいて前記工作物及び前記切削工具の少なくとも一方を前記第一方向に揺動させながら前記歯面の加工を行う、歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工方法及び歯車加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを平行に配置した状態で工作物と切削工具とを同期回転させることにより、切削工具の刃先軌跡をサイクロイド曲線とし、インボリュート曲線の歯面を切削加工することが記載されている。特許文献2には、スカイビングカッタによる歯車加工を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第10329413号明細書
【文献】特開2020-19096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の切削加工方法は、特許文献2に記載のスカイビング加工に比べて、高速な切削速度を得ることができる。ところで、当該切削加工方法は、上述したように、切削工具の刃先軌跡をサイクロイド曲線とし、インボリュート曲線の歯面を切削加工する。そのため、サイクロイド曲線のうちインボリュート曲線に近似した部分を用いて、歯面の切削加工を行う。サイクロイド曲線のうち歯面の切削加工を行う部分は、切削工具の刃先位置によって決定される。
【0005】
ところで、切削加工を繰り返すことにより、切削工具の刃先は摩耗する。つまり、切削工具の刃先位置が、初期状態から変化する。そして、摩耗により切削工具の刃先位置が変化することによって、歯面の加工誤差が生じる。
【0006】
また、例えば、切削工具の刃先をチップ部材により構成される場合において、チップ部材の取付誤差等により、切削工具の刃先位置が変化する。この場合にも、摩耗と同様に、歯面の加工誤差が生じる。
【0007】
本発明は、高速の切削速度による加工において、切削工具の刃先位置が変化する場合において歯面の加工誤差を低減できる歯車加工方法及び歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1.歯車加工方法)
予め歯形が形成された歯車形の工作物に対して、歯形の歯溝における歯面を加工する歯車加工方法であって、工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを平行に配置した状態で工作物と切削工具とを同期回転させることにより工作物に対して切削工具の刃先を所定軌跡に沿って移動させ、各歯溝における歯面の一方を加工する加工方法を適用する。
【0009】
切削工具の回転軸線から切削工具の刃先までの距離である刃先径についての所定の基準径と実径との差を、刃先径差とする。切削工具の回転軸線に直交する方向であって、工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを結ぶ軸間方向に直交する方向を、第一方向とする。歯車加工方法は、刃先径差に基づいて工作物及び切削工具の少なくとも一方を第一方向に揺動させながら歯面の加工を行う歯面加工工程を備える。
【0010】
当該歯車加工方法によれば、刃先径差に基づいて、工作物及び切削工具の少なくとも一方を第一方向に揺動させながら歯面の加工を行う。従って、例えば摩耗やチップ部材の取付誤差等によって刃先径差が生じた場合であっても、歯面の加工誤差を低減することができる。
【0011】
(2.歯車加工装置)
歯車加工装置は、予め歯形が形成された歯車形の工作物に対して、歯形の歯溝における歯面を加工する歯車加工装置であって、切削工具と、工作物と切削工具とを制御する制御装置とを備える。
【0012】
歯車加工装置は、工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを平行に配置した状態で工作物と切削工具とを同期回転させることにより工作物に対して切削工具の刃先を所定軌跡に沿って移動させ、各歯溝における歯面の一方を加工する加工方法を適用する。
【0013】
切削工具の回転軸線から切削工具の刃先までの距離である刃先径についての所定の基準径と実径との差を、刃先径差とする。切削工具の回転軸線に直交する方向であって、工作物の回転軸線と切削工具の回転軸線とを結ぶ軸間方向に直交する方向を、第一方向とする。制御装置は、刃先径差に基づいて工作物及び切削工具の少なくとも一方を第一方向に揺動させながら歯面の加工を行う。当該歯車加工装置によれば、上記歯車加工方法と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】工作物に対して切削工具の工具刃の相対的な動作軌跡を示す図である。
【
図6】工作物に対して切削工具の工具刃の刃先の相対的な動作軌跡を示す図である。
【
図7】切削工具の工具刃の刃先が摩耗した状態を示す図である。
【
図8】歯面の拡大図であって、加工前の歯面Wb1、加工後の目標歯面Wb2を示す図である。
【
図9】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、刃先径差ΔHがない場合における加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図10】刃先径差ΔHが存在する場合における複数の加工条件A-Eを示す図である。
【
図11】加工条件C,D,Eにて適用するX軸位置の補正値を示すグラフである。図中の上欄には切削工具の位相に対応する切削工具の姿勢を示す。
【
図12】加工条件Dにて適用するY軸位置の補正値を示すグラフである。図中の上欄には切削工具の位相に対応する切削工具の姿勢を示す。
【
図13】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、加工条件Aにおける加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図14】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、加工条件Bにおける加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図15】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、加工条件Cにおける加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図16】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、加工条件Dにおける加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図17】歯面の拡大図であって、歯面Wb1,Wb2に加えて、加工条件Eにおける加工後の実歯面Wb3を示す図である。
【
図18】加工条件A-Eについて、ピッチ円上及び歯先部における歯厚誤差を示す図である。
【
図20】基本加工条件決定部による処理を示すフローチャートである。
【
図21】歯面加工部による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1.工作物W)
切削加工前の工作物Wは、外周面又は内周面に歯形が形成された歯車形である。つまり、切削加工前の工作物Wは、予め歯形が形成されている。そして、歯形の歯溝における歯面が切削加工部位である。切削加工後の歯面は、インボリュート曲線に形成されている。つまり、予め形成された歯面を切削加工することにより、歯厚を薄くしつつ、インボリュート曲線の仕上げ形状を形成する。なお、切削加工前の歯面は、インボリュート曲線としても良いし、インボリュート曲線でない形状としても良い。
【0016】
また、工作物Wの歯形は、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に平行としても良いし、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に対して角度を有するようにしても良い。前者の工作物Wの歯面は、平歯車の歯面となり、後者の工作物Wの歯面は、はすば歯車の歯面となる。
【0017】
(2.工作機械1の例)
工作物Wである歯車の歯面を切削加工する歯車加工装置である工作機械1は、切削工具Tと工作物Wとを相対的に移動させることにより、切削工具Tによって歯面の切削加工を行う装置である。さらに、対象の工作機械1は、切削工具Tと工作物Wとを相対的に移動させるための複数の構造体により構成される。対象の工作機械1は、例えば、マシニングセンタを例にあげる。
【0018】
工作機械1の例について、
図1を参照して説明する。本例においては、工作機械1は、工具交換を可能なマシニングセンタを例にあげる。特に、工作機械1としてのマシニングセンタは、本例における歯面の切削加工の他に、ギヤスカイビング加工やホブ加工等によって、工作物Wに予め歯形を切削加工するようにしても良い。工作機械1としてのマシニングセンタは、横形マシニングセンタを基本構成とする。なお、工作機械1は、上記構成を例にあげるが、立形マシニングセンタ等、他の構成を適用することができる。
【0019】
図1に示すように、工作機械1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸,Y軸,Z軸)を駆動軸として有する。ここで、切削工具Tの回転軸線(工具主軸の回転軸線に等しい)の方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸方向及びY軸方向と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。さらに、工作機械1は、さらに、切削工具Tと工作物Wとの相対姿勢を変更するための2つの回転軸(B軸及びCw軸)を駆動軸として有する。また、工作機械1は、切削工具Tを回転するための回転軸としてのCt軸を有する。
【0020】
つまり、工作機械1は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(Ct軸)を考慮すると6軸加工機となる)である。ここで、工作機械1は、B軸(基準状態においてY軸回りの回転軸)及びCw軸(基準状態においてZ軸回りの回転軸)を有する構成に代えて、A軸(基準状態においてX軸回りの回転軸)及びB軸を有する構成としてもよいし、A軸及びCw軸を有する構成としてもよい。
【0021】
工作機械1において、切削工具Tと工作物Wとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械1は、切削工具TをY軸方向及びZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをB軸回転及びCw軸回転可能とする。また、切削工具Tは、Ct軸回転可能である。
【0022】
工作機械1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30とを備える。ベッド10は、略矩形状等の任意の形状に形成されており、設置面に設置される。工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向に直動可能とし、B軸回転及びCw軸回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21と、B軸回転テーブル22と、工作物主軸装置23とを主に備える。
【0023】
X軸移動テーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(
図1前後方向)へ延びる一対のX軸ガイドレールが設けられ、X軸移動テーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレールに案内されながらX軸方向へ往復移動する。
【0024】
B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設置され、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ往復移動する。また、B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21に対し、B軸回転可能に設けられる。B軸回転テーブル22には、図示しない回転モータが収納され、B軸回転テーブル22は、回転モータに駆動されることでB軸回転可能となる。
【0025】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設置され、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸装置23は、工作物主軸基台23a、工作物主軸ハウジング23b、及び、工作物主軸23cを備える。工作物主軸基台23aは、B軸回転テーブル22の上面に固定されている。
【0026】
工作物主軸ハウジング23bは、工作物主軸基台23aに固定され、B軸中心線に直交するCw軸中心線を中心とする円筒内周面を有する。工作物主軸23cは、工作物主軸ハウジング23bに回転可能に支持される。工作物主軸23cには、工作物Wが着脱可能に保持される。つまり、工作物主軸23cは、工作物Wを工作物主軸ハウジング23bにCw軸回りに回転可能に保持し、工作物Wと一体的に回転する。
【0027】
工作物主軸ハウジング23bの内部には、工作物主軸23cを回転させる回転モータ(図示せず)と、工作物主軸23cの回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)が設けられる。このように、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、B軸回りに回転可能及びCw軸回りに回転可能とする。
【0028】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸装置33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(
図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレールが設けられ、コラム31は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構によって駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレールに案内されながらZ軸方向へ往復移動する。
【0029】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面(
図1の左側面)であって、Z軸方向に直交する平面に平行な側面に配置される。このコラム31の側面には、Y軸方向(
図1の上下方向)へ延びる一対のY軸ガイドレールが設けられ、サドル32は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構に駆動されることで、Y軸方向へ往復移動する。
【0030】
工具主軸装置33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、工具主軸ハウジング33aと、工具主軸33bとを備える。工具主軸ハウジング33aは、サドル32に固定され、Z軸に平行なCt軸中心線を中心とする円筒内周面を有する。工具主軸33bは、工具主軸ハウジング33aに回転可能に支持される。工具主軸33bには、切削工具Tが着脱可能に保持される。つまり、工具主軸33bは、切削工具Tを工具主軸ハウジング33aにCt軸回転可能に保持し、切削工具Tと一体的に回転する。
【0031】
工具主軸ハウジング33aの内部には、工具主軸33bを回転させる工具回転モータ(図示せず)と、工具主軸33bの回転角度を検出するエンコーダ等の検出器(図示せず)とが設けられる。このように、工具保持装置30は、切削工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能とし、且つ、Ct軸回転可能に保持する。
【0032】
(3.切削工具Tの詳細構成)
(3-1.第一例の切削工具Tの詳細構成)
切削工具Tの構成について、
図2及び
図3を参照して説明する。第一例の切削工具Tは、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線に平行な工作物Wの歯溝Waにおける歯面Wbを切削加工する回転工具である。工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとが平行に配置される。この状態で、切削工具Tは、工作物Wに対して同期回転させることにより、工作物Wである歯車の歯面Wbを切削加工する。
【0033】
切削工具Tは、工具本体Taと、工具刃Tbとを備える。工具本体Taは、例えば、円柱状に形成され、中心軸線が工具主軸33bのCt軸中心線に一致するように工具主軸33bに保持される。工具本体Taは、例えば、鋼材により形成される。
【0034】
工具刃Tbは、工具本体Taの先端に設けられ、工具本体Taの径方向外方に突出するように設けられている。工具刃Tbは、例えば、超硬により形成されている。工具刃Tbは、板状に形成されている。つまり、工具刃Tbは、切削工具Tの軸直角断面において、切削工具Tの径方向に延在する板状に形成されている。特に本例においては、工具刃Tbは、板状の面法線方向から見た場合に、台形に形成されている。ただし、工具刃Tbの当該形状は、台形に限られず、長方形に形成されるようにしても良い。
【0035】
第一例の切削工具Tは、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線Cwに平行な歯面Wbを切削加工する場合を対象とするため、切削工具Tの工具刃Tbは、板の延在方向が工具本体Taの中心軸線Ctに平行となるように設けられている。
【0036】
従って、工具刃Tbは、切削工具Tの径方向外方の先端面Tb1と、切削工具Tの周方向を向く側面Tb2とを備える。そして、工具刃Tbにおいて、工作物Wの歯面Wbの切削加工を行う部位は、先端面Tb1と側面Tb2との稜線部分Tb3(刃先)である。
【0037】
ここで、
図2においては、工作物Wは外歯車を例示するが、内歯車とすることもできる。この場合、切削工具Tは、内歯車である工作物Wの内側に位置し、切削工具Tの回転軸線Ctは、工作物Wの回転軸線Cwに対して偏心している。
【0038】
(3-2.第二例の切削工具Tの詳細構成)
第二例の切削工具Tの構成について、
図4を参照して説明する。第二例の切削工具Tは、歯すじ方向が工作物Wの回転軸線Cwに対して角度を有する歯面Wbを切削加工する回転工具である。つまり、第二例の切削工具Tは、はすば歯車の歯面を切削加工する工具である。
【0039】
切削工具Tの工具刃Tbは、工作物Wの歯面Wbのねじれ角に対応する切削工具Tのねじれ角の線上に沿って設けられている。工具刃Tbは、工作物Wの歯面Wbのねじれ角に対応する切削工具Tの線上に沿った三次元状の曲面の側面Tb2を有する。
【0040】
(4.基本加工方法)
切削工具Tによる工作物Wの歯面Wbの基本加工方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
図5の二点鎖線は、
図2に示すように、工作物Wが時計回りに回転し、切削工具Tが反時計回りに回転する場合において、工作物Wを固定したと仮定した場合の切削工具Tの工具刃Tbの動作軌跡を示す。
【0041】
つまり、工具刃Tbは、A1→A2→A3→A4→A5の順に移動する。切削工具Tは反時計回りに回転しているため(
図2参照)、工具刃Tbの姿勢は、A1からA5に行くに従って、工具刃Tbの基端(
図5の上端)に対して工具刃Tbの刃先Tb3が反時計回りに移動する。そして、切削工具Tは、工作物Wの回転に同期して回転するため、切削工具Tの回転軸線Ctが、工作物Wに対してほぼ公転することになる。従って、工具刃Tbの位置及び姿勢が、
図5に示すように、工作物Wに対して変化する。
【0042】
図6において、太実線が、工作物Wに対して切削工具Tの工具刃Tbの刃先Tb3の相対的な動作軌跡である。つまり、
図6に示すように、工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとを平行に配置した状態で、工作物Wと切削工具Tとを同期回転させることにより、工作物Wに対して工具刃Tbの刃先Tb3を所定軌跡に沿って移動させている。所定軌跡は、サイクロイド曲線となる。
【0043】
まず、A1→A2→A3に示すように、この動作の最中に、工具刃Tbの刃先Tb3は、歯溝Waにおける歯面Wbの一方を、歯面Wbの歯先から歯底に向かって加工する。A3にて、歯面Wbの加工終点に到達する。
【0044】
続いて、A3→A4→A5に示すように、歯面Wbの加工終点に到達した後に、工具刃Tbの刃先Tb3を所定軌跡に沿った移動を継続させながら、刃先Tb3を歯面Wbに非接触とし、刃先Tb3を歯溝Waの内部空間から歯溝Waの外に退避させる。
【0045】
ここで、工作物Wの歯面Wbは、インボリュート曲線であるのに対して、工具刃Tbの刃先Tb3の軌跡は、サイクロイド曲線である。そのため、工具刃Tbの刃先Tb3の軌跡であるサイクロイド曲線のうち、歯面Wbのインボリュート曲線に近似する部分を用いて、歯面Wbが切削加工される。このことは、工作物Wと切削工具Tの回転速度比、切削工具Tの工具刃Tbの刃先径、工作物Wに対する切削工具Tの回転位相調整量を設定することにより、実現される。
【0046】
また、
図5及び
図6には、1つの歯溝Waにおける一方の歯面Wbを切削加工する場合を示した。この動作を、全ての歯溝Waにて行うことにより、全ての歯溝Waにおける一方の歯面Wbを切削加工することができる。さらに、他方の歯面Wbについては、工作物Wと切削工具Tの回転方向を逆転させることにより、実質的に同様に切削加工することができる。
【0047】
(5.工具刃Tbの刃先径差の説明)
工具刃Tbの刃先径差について
図7を参照して説明する。
図7には、工具刃Tbにより加工を繰り返すことにより、工具刃Tbの刃先Tb3が摩耗した状態を示す。つまり、工具刃Tbの摩耗により、工具刃Tbの基準径(摩耗前の工具刃Tbの刃先径(半径))に対して、工具刃Tbの実径(摩耗後の工具刃Tbの実際の刃先径(半径))が異なる状態となる。
【0048】
ここで、
図7において刃先径差ΔHは、摩耗量に相当し、刃先径についての所定の基準径としての摩耗前の工具刃Tbの刃先径と、実径としての摩耗後の工具刃Tbの刃先径との差である。なお、工具刃Tbの刃先径とは、切削工具Tの回転軸線Ct(
図2に示す)から刃先Tb3までの距離である。
【0049】
また、工具刃Tbの摩耗の他に、切削工具Tの刃先がチップ部材により構成される場合において、チップ部材の取付誤差により、切削工具Tの刃先径が変化する。この場合において、切削工具Tの刃先径についての所定の基準径を定義しておくことで、チップ部材の取付状態に応じて所定の基準径と実径との差が生じる場合がある。刃先径差ΔHは、チップ部材において、所定の基準径と実径との差を表す。
【0050】
(6.刃先径差ΔHが存在する時の歯面Wbの形状)
工具刃Tbの刃先Tb3に摩耗等によって基準径に対して刃先径差ΔHが存在する時の歯面Wbの形状について検討する。まず、
図8に示す歯面Wbの拡大図において、Wb1が加工前の歯面を示し、Wb2が加工後の目標歯面(理想歯面)を示す。加工前の歯面Wb1及び加工後の目標歯面Wb2は、インボリュート曲線である。また、
図8において、一点鎖線は、ピッチ円である。
【0051】
工具刃Tbの刃先Tb3が摩耗していない状態、すなわち刃先径差ΔHがゼロの状態において歯面Wbを加工すると、加工後の実歯面Wb3は、
図9の太実線となる。つまり、刃先径差ΔHがゼロであれば、加工後の実歯面Wb3は、目標歯面Wb2に一致する。詳細には、加工後の実歯面Wb3は、目標歯面Wb2の歯先から歯底側の全範囲において一致する。つまり、加工後の実歯面Wb3は、歯先においても、ピッチ円上においても、歯面の歯丈中央部においても、目標歯面Wb2に一致する。
【0052】
なお、工具刃Tbの刃先Tb3が摩耗していない状態、すなわち刃先径差ΔHがゼロの状態において、加工後の実歯面Wb3が加工後の目標歯面Wb2に一致するように、基本加工条件が決定されているため、上記のようになるのは、当然である。基本加工条件は、工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとの軸間距離、切削工具Tの回転軸線Ctと工具刃Tbの刃先Tb3との距離である刃先径、工作物Wの回転位相と切削工具Tの回転位相との関係を含む。
【0053】
ここで、工具刃Tbの刃先Tb3が摩耗した状態の1つの例として刃先径差ΔHがゼロでない固定値の状態において、
図10に示す加工条件A-Eのそれぞれの場合について検討する。加工条件A-Eは、基本加工条件に対して、軸間距離の補正、X軸揺動補正及びY軸揺動補正のそれぞれについて、行う場合と行わない場合とで異なる。
【0054】
軸間距離の補正とは、刃先径差ΔHに基づいて、工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとの軸間距離を基本加工条件に対して補正することである。本例においては、軸間距離の補正値は、刃先径差ΔHに一致させる。
【0055】
X軸揺動補正とは、
図11に示す切削工具Tの刃数が1枚の例のように、工作物W及び切削工具Tの少なくとも一方を、X軸方向(本発明における「第一方向」に相当)に揺動させる補正である。ここで、X軸方向(第一方向)は、切削工具Tの回転軸線Ctに直交する方向であって、工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとを結ぶ軸間方向に直交する方向である。
【0056】
図11に示すように、X軸揺動補正は、切削工具Tの回転位相に対して正弦波の関係を有する。具体的には、X軸揺動補正は、X軸方向における揺動周波数を、切削工具Tの回転周波数と切削工具Tの刃数との積に一致させる。つまり、
図11に示すように、切削工具Tが回転周期を切削工具Tの刃数で除した商と、X軸方向の揺動の周期とが一致する。また、X軸揺動補正は、X軸方向における揺動振幅Axを刃先径差ΔHに一致させる。また、X軸揺動補正は、切削工具Tの回転位相が0°、180°の場合に、X軸揺動の補正値がゼロとなるような正弦波の関係を有する。
【0057】
Y軸揺動補正とは、
図12に示す切削工具Tの刃数が1枚の例のように、工作物W及び切削工具Tの少なくとも一方を、Y軸方向(本発明における「第二方向」に相当)に揺動させる補正である。ここで、Y軸方向(第二方向)は、工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとを結ぶ軸間方向である。なお、Y軸揺動補正を行わない加工条件においては、加工時における軸間距離は固定された状態となる。
【0058】
図12に示すように、Y軸揺動補正は、切削工具Tの回転位相に対して余弦波の関係を有する。具体的には、Y軸揺動補正は、Y軸方向における揺動周波数を、切削工具Tの回転周波数と切削工具Tの刃数との積に一致させる。つまり、
図12に示すように、切削工具Tが回転周期を切削工具Tの刃数で除した商と、Y軸方向の揺動の周期とが一致する。また、Y軸揺動補正は、Y軸方向における揺動振幅Ayを刃先径差ΔHに一致させる。また、Y軸揺動補正は、切削工具Tの回転位相が90°、270°の場合に、Y軸揺動の補正値がゼロとなるような余弦波の関係を有する。
【0059】
加工条件Aは、軸間距離の補正、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行わない条件、すなわち基本加工条件そのもので加工する場合である。加工条件Bは、軸間距離の補正のみを行い、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行わない条件である。加工条件Cは、X軸揺動補正のみを行い、軸間距離の補正及びY軸揺動補正を行わない条件である。加工条件Dは、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行い、軸間距離の補正を行わない条件である。加工条件Eは、軸間距離の補正及びX軸揺動補正を行い、Y軸揺動補正を行わない条件である。
【0060】
図13は、加工条件Aの場合についての実歯面Wb3を太実線にて示す。
図9に示す刃先径差ΔHが存在しない場合と比較すると、
図13における実歯面Wb3は、刃先径差ΔHの分だけY軸プラス方向に平行移動していることが分かる。このとき、
図18に示すように、加工条件Aにおいて、ピッチ円上における歯厚誤差は、140μmとなり、歯先部における歯厚誤差は、130μmとなり、両者共に大きな誤差を有している。
【0061】
図14は、加工条件Bの場合についての実歯面Wb3を太実線にて示す。刃先径差ΔHの分だけ軸間距離を補正しているため、
図13に示す補正なしの場合に比べると、実歯面Wb3は、目標歯面Wb2に近づいている。
図18に示すように、加工条件Bにおいて、ピッチ円上における歯厚誤差は、40μmとなり、歯先部における歯厚誤差は、115μmとなる。刃先Tb3の軌跡であるサイクロイド曲線は、切削工具Tの刃先径(切削工具Tの回転軸線Ctと刃先Tb3との距離)に依存することから、歯厚誤差が生じる理由は、刃先径差ΔHの分だけ刃先径が変化したためであることが分かる。
【0062】
図15は、加工条件Cの場合についての実歯面Wb3を太実線にて示す。加工条件Cは、X軸揺動補正のみを行っている。加工条件Cは、
図13に示す補正なしの場合に比べると、実歯面Wb3は、目標歯面Wb2に近づいている。
図18に示すように、加工条件Cにおいて、ピッチ円上における歯厚誤差は、130μmとなり、歯先部における歯厚誤差は、90μmとなる。
【0063】
図16は、加工条件Dの場合についての実歯面Wb3を太実線にて示す。加工条件Dは、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行っている。加工条件Dは、
図16に示すように、歯面Wb全体に亘って、実歯面Wb3が目標歯面Wb2に一致している。
図18に示すように、加工条件Dにおいて、ピッチ円上における歯厚誤差及び歯先部における歯厚誤差は、共に、0μmとなる。
【0064】
図17は、加工条件Eの場合についての実歯面Wb3を太実線にて示す。加工条件Eは、軸間距離の補正に加えて、X軸揺動補正を行っている。加工条件Eは、
図17に示すように、ピッチ円上において、実歯面Wb3が目標歯面Wb2に一致するが、歯先部においては、極めて僅かではあるが、実歯面Wb3が目標歯面Wb2からずれている。
図18に示すように、加工条件Eにおいて、ピッチ円上における歯厚誤差は、0μmとなり、歯先部における歯厚誤差は、5μmとなる。
【0065】
上記の検討の結果、X軸揺動補正を行うことを前提としつつ、加工条件Dのように、Y軸揺動補正を行うことにより、高精度な歯面Wbを加工することができる。加工条件Dの場合には、加工時における軸間距離は、変動している。また、X軸揺動補正を行うことを前提としつつ、加工条件Eのように、軸間距離の補正を行うことにより、高精度な歯面Wbを加工することができる。加工条件Eの場合には、加工時における軸間距離は、固定されている。
【0066】
(7.制御装置50の構成)
上述した工作機械1の制御装置50の機能ブロック構成について、
図19を参照して説明する。制御装置50は、基本加工条件決定部51、補正条件決定部52、加工条件記憶部53、歯面加工部54を備える。
【0067】
基本加工条件決定部51は、工具刃Tbの刃先Tb3が所定の基準径である場合において、目標歯面を加工することができる基本加工条件を決定する(基本加工条件決定工程)。基本加工条件は、工具刃Tbの刃先Tb3が
図6の太実線の軌跡(サイクロイド曲線)の一部がインボリュート曲線である歯面Wbに一致するような加工条件である。基本加工条件には、工具刃Tbの刃先Tb3の基準径、加工時における工作物Wの回転軸線Cwと切削工具Tの回転軸線Ctとの軸間距離、同期回転開始時における工作物W及び切削工具Tの初期位相が含まれる。基本加工条件決定処理については後述する。
【0068】
補正条件決定部52は、軸間距離の補正、X軸揺動補正及びY軸揺動補正のいずれの補正を適用するかによって異なるが、適用する補正についての補正条件(補正値)を決定する。例えば、加工条件Dの場合には、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行うため、
図11及び
図12に示すような切削工具Tの回転位相に対するX軸揺動補正値及びY軸揺動補正値を決定する。つまり、補正条件決定部52は、刃先径差ΔH、切削工具Tの回転周波数及び切削工具Tの刃数に基づいて、X軸揺動補正における振幅Ax及び揺動周波数を決定する。さらに、補正条件決定部52は、刃先径差ΔH、切削工具Tの回転周波数及び切削工具Tの刃数に基づいて、Y軸揺動補正における振幅Ay及び揺動周波数を決定する。
【0069】
また、加工条件Eの場合には、軸間距離の補正及びX軸揺動補正を行うため、刃先径差ΔHに一致する軸間距離の補正値、及び、
図11に示すような切削工具Tの回転位相に対するX軸揺動補正値を決定する。つまり、補正条件決定部52は、刃先径差ΔHに基づいて、軸間距離の補正値を決定する。さらに、補正条件決定部52は、刃先径差ΔH、切削工具Tの回転周波数及び切削工具Tの刃数に基づいて、X軸揺動補正における振幅Ax及び揺動周波数を決定する。
【0070】
加工条件記憶部53は、基本加工条件決定部51により決定された基本加工条件を記憶する。さらに、加工条件記憶部53は、刃先径差ΔHが存在する場合に、補正条件決定部52により決定された各種補正値を記憶する。
【0071】
歯面加工部54は、加工条件記憶部53に記憶された加工条件(基本加工条件、補正値)に基づいて、モータ等の駆動装置60を制御する。歯面加工部54は、上述したように、所定軌跡に沿って工具刃Tbを歯溝Waに進入させながら、歯面Wbを歯先から歯底に向かって加工する制御を行う。さらに、歯面加工部54は、歯面Wbの加工後に、所定軌跡に沿って移動させることにより、歯溝Waの外に退避させる制御を行う。
【0072】
(8.基本加工条件決定処理)
基本加工条件決定部51による基本加工条件決定処理(基本加工条件決定工程)について、
図20を参照して説明する。上述したように、工具刃Tbの刃先Tb3のサイクロイド曲線のうち、歯面Wbのインボリュート曲線に近似する部分を見つける必要がある。さらに、サイクロイド曲線のうち、工具刃Tbの刃先Tb3が、歯面Wbの歯先から歯底に向かって切削加工するような工作物Wと切削工具Tの位置関係とする必要がある。さらに、工作物Wにおいて複数の歯溝Waの全てについて、歯面Wbを切削加工する必要がある。これらのことを実現するために、以下に説明するような基本加工条件決定処理にて、基本加工条件が決定される。
【0073】
図20に示すように、切削工具Tの刃数を決定する(ステップS1)。例えば、
図2に示す切削工具Tは、1個の刃数である。刃数は、例えば、1個、2個、3個が好適である。次に、工作物Wと切削工具Tとの回転速度比を決定する(ステップS2)。つまり、工具刃Tbが全ての歯面Wbを切削加工できる条件を決定する。工具刃Tbにより、全ての歯面Wbを1回ずつ切削加工するための回転速度比を決定する。
【0074】
次に、工具刃Tbの刃先径の任意の初期値を入力する(ステップS3)。次に、工作物Wを固定した条件で、回転速度比、工具刃Tbの刃先径を用いて、工具刃Tbの刃先Tb3をサイクロイド運動軌跡として算出する(ステップS4)。
【0075】
次に、工具刃Tbの刃先Tb3の軌跡であるサイクロイド曲線が、インボリュート曲線である歯面Wbに一致するか否かを判定する(ステップS5)。一致しなければ(S5:No)、工具刃Tbの刃先径を変更する(ステップS6)。そして、ステップS4,S5を繰り返す。
【0076】
ステップS5にて一致する場合には(S5:Yes)、そのときの工具刃Tbの刃先径(基準径)を決定する(ステップS7)。決定された工具刃Tbの刃先径(基準径)、且つ、回転速度比を用いれば、歯面Wbが存在する工作物Wの径方向範囲において、工具刃Tbの刃先Tb3のサイクロイド曲線の一部分と、インボリュート曲線である歯面Wbとが近似することになる。
【0077】
次に、工具刃Tbの刃先Tb3の軌跡が、歯面Wbの歯先から歯底に向かって切削加工するように、回転位相調整量を決定する(ステップS8)。工作物Wの回転位相と切削工具Tの回転位相との関係によっては、工具刃Tbが、歯溝Waの内部空間に歯面Wbを加工しながら進入した後、歯面Wbに非接触で歯溝Waの内部空間から退避する場合がある。また、回転位相によっては、工具刃Tbが、歯溝Waの内部空間に進入する際に歯面Wbに非接触で、歯溝Waの内部空間から退避する際に歯面Wbに接触する場合がある。さらには、回転位相によっては、工具刃Tbが歯溝Waに進入できずに、歯に衝突する場合がある。そこで、
図5及び
図6にて示したような動作を実現するような回転位相調整量を決定する。このようにして、加工条件が決定される。
【0078】
上述した歯車加工方法によれば、歯面Wbの一方面のみの切削加工ではあるが、スカイビング加工やホブ加工に比べて、切削速度を高速とすることができる。従って、小径の切削工具Tを用いたとしても、高精度に歯面Wbを切削加工することができる。特に、内歯車の切削加工においては、切削工具Tの外径に制約があるため、効果的である。
【0079】
(9.歯面加工処理)
歯面加工部54による歯面加工処理(歯面加工工程)について
図21を参照して説明する。刃先径差ΔHが存在するか否かによって加工方法が異なる。そこで、歯面加工部54は、刃先径差ΔHが存在するか否かを判定する(ステップS11)。刃先径差ΔHが存在しない場合には(S11:No)、基本加工条件決定部51にて決定された基本加工条件により歯面Wbの加工を行う(ステップS12)。
【0080】
一方、刃先径差ΔHが存在する場合には(S11:Yes)、基本加工条件決定部51にて決定された基本加工条件に、補正条件決定部52にて決定された補正条件を考慮した補正後の加工条件により、歯面Wbの加工を行う(ステップS13)。
【0081】
補正条件としては、
図10における加工条件Dのように、X軸揺動補正及びY軸揺動補正を行う条件とすることができる。この場合、歯面加工部54は、工作物Wと切削工具Tを同期回転させながら、工作物W及び切削工具Tの少なくとも一方をX軸方向及びY軸方向に揺動させながら、歯面Wbの加工を行う。このとき、X軸方向の揺動中心及びY軸方向の揺動中心は、基本加工条件決定部51により決定された座標に一致する。
【0082】
また、他の補正条件としては、
図10における加工条件Eのように、軸間距離の補正及びX軸揺動補正を行う条件としても良い。この場合、歯面加工部54は、工作物Wと切削工具Tを同期回転させながら、Y軸方向を軸間距離の補正値に応じた位置に固定した状態で、X軸方向に揺動させながら、歯面Wbの加工を行う。このとき、工作物Wと切削工具TのY軸方向は固定されており、X軸方向の揺動中心は、基本加工条件決定部51により決定された座標に一致する。
【0083】
このように、刃先径差ΔHに基づいて工作物W及び切削工具Tの少なくとも一方を少なくともX軸方向に揺動させながら歯面の加工を行うことにより、例えば摩耗やチップ部材の取付誤差等によって刃先径差ΔHが生じた場合であっても、歯面Wbの加工誤差を低減することができる。
【符号の説明】
【0084】
1:工作機械、 10:ベッド、 20:工作物保持装置、 23:工作物主軸装置、 30:工具保持装置、 33:工具主軸装置、 50:制御装置、 51:基本加工条件決定部、 52:補正条件決定部、 53:加工条件記憶部、 54:歯面加工部、 60:駆動装置、 Ax:振幅、 Ay:振幅、 Ct:切削工具の回転軸線、 Cw:工作物の回転軸線、 T:切削工具、 Ta:工具本体、 Tb:工具刃、 Tb1:先端面、 Tb2:側面、 Tb3:刃先、 W:工作物、 Wa:歯溝、 Wb:歯面、 Wb2:加工後の目標歯面、 Wb3:加工後の実歯面、 ΔH:刃先径差