(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】コンロッドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F02B 75/32 20060101AFI20240717BHJP
F02B 77/00 20060101ALI20240717BHJP
F16C 7/02 20060101ALI20240717BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F02B75/32 B
F02B77/00 B
F16C7/02
F16F15/02 J
(21)【出願番号】P 2020213920
(22)【出願日】2020-12-23
【審査請求日】2023-09-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】阪井 博行
(72)【発明者】
【氏名】市川 和男
(72)【発明者】
【氏名】本田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】乃生 芳尚
(72)【発明者】
【氏名】中橋 宏和
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102018123089(DE,A1)
【文献】特開2019-023409(JP,A)
【文献】特開2019-203410(JP,A)
【文献】特開平08-320014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/32
F02B 77/00
F16C 7/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのピストンとクランクシャフトとを連結するコンロッドであって、
前記ピストンにピストンピンを介して結合される小端部と、
前記クランクシャフトにクランクピンを介して結合される大端部と、
前記小端部と前記大端部とを連結する連結部と、
前記連結部に形成された空隙に封入され、前記ピストンの往復動時に摩擦熱を発生可能な粉体とを備え
、
前記空隙は、前記連結部における前記小端部側の端部を含む領域に形成された第1空隙部と、当該第1空隙部よりも前記大端部に近い領域において前記第1空隙部とは独立して形成された第2空隙部とを含み、
前記第2空隙部は、前記大端部から前記小端部に向かうにつれて狭くなる形状を有し、
前記大端部は、前記連結部に連なる第1部分と、当該第1部分に締結部材を介して着脱可能に結合される第2部分とを有し、
前記第1部分および前記第2部分は、前記連結部の軸心に対し傾斜した分割面に沿って分割され、
前記第2空隙部は、前記第2部分および前記第1部分を貫通して前記連結部へと至る傾斜した締結孔の一部により構成される、ことを特徴とするコンロッド。
【請求項2】
エンジンのピストンにピストンピンを介して結合される小端部と、エンジンのクランクシャフトにクランクピンを介して結合される大端部と、前記小端部と前記大端部とを連結する連結部とを備えたコンロッドを製造する方法であって、
前記連結部を穿孔加工することにより空隙を形成する工程と、
形成した前記空隙に粉体を導入する工程と、
前記穿孔加工時の入口を塞ぐことにより前記空隙内に前記粉体を封入する工程とを含む、ことを特徴とするコンロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのピストンとクランクシャフトとを連結するコンロッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリンダ内に往復動可能に収容されるピストンを備えたエンジン(レシプロエンジン)では、燃焼圧力を起振力とした振動がピストンからコンロッド(コネクティングロッド)を介してクランクシャフトに伝達され、さらにクランクシャフトの振動が軸受部等を介してシリンダブロック等の筐体に伝達される。エンジンが車載用エンジンである場合において、シリンダブロック等の筐体に大きな振動が生じると、その振動は車両に伝達されて車両の乗り心地を悪化させる。特に、近年のエンジンでは、熱効率の一層の向上を目的として、高圧縮比化やピストン等の部品の軽量化が図られているため、燃焼圧力に起因したエンジンの振動が増大し易くなっている。このため、車両の乗り心地を良好に維持する等の観点から、エンジンの振動低減を図るためのより有効な対策が求められている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、コンロッドの大端部(クランクシャフトとの結合部)にコンロッドキャップダンパを設けることが開示されている。コンロッドキャップダンパは、大端部の両側のボス部に固定された一対の固定部と、大端部の下側の外周に沿って両固定部を連結する弾性変形可能な支持部と、支持部により振動可能に支持された質量部とを有している。このような構造のコンロッドキャップダンパは、ピストンが往復動するエンジンの稼働時に、質量部がピストンおよびコンロッドと略逆位相に振動することにより、ピストンおよびコンロッドの共振およびこれに基づくエンジンの振動を低減し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにコンロッドキャップダンパをコンロッドに追加する特許文献1の構造では、コンロッドキャップダンパの分だけコンロッドの重量が増加するため、軽量化による熱効率の向上効果が減損されかねない。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、軽量化と振動低減とを両立することが可能なコンロッドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンのピストンとクランクシャフトとを連結するコンロッドであって、前記ピストンにピストンピンを介して結合される小端部と、前記クランクシャフトにクランクピンを介して結合される大端部と、前記小端部と前記大端部とを連結する連結部と、前記連結部に形成された空隙に封入され、前記ピストンの往復動時に摩擦熱を発生可能な粉体とを備え、前記空隙は、前記連結部における前記小端部側の端部を含む領域に形成された第1空隙部と、当該第1空隙部よりも前記大端部に近い領域において前記第1空隙部とは独立して形成された第2空隙部とを含み、前記第2空隙部は、前記大端部から前記小端部に向かうにつれて狭くなる形状を有し、前記大端部は、前記連結部に連なる第1部分と、当該第1部分に締結部材を介して着脱可能に結合される第2部分とを有し、前記第1部分および前記第2部分は、前記連結部の軸心に対し傾斜した分割面に沿って分割され、前記第2空隙部は、前記第2部分および前記第1部分を貫通して前記連結部へと至る傾斜した締結孔の一部により構成される、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
ピストンが往復動するエンジンの稼働時、コンロッドは、上死点付近にあるピストンに加わる燃焼圧力による起振力の影響で、クランクシャフトの回転周期よりも短い周期で(つまり比較的高い周波数で)伸縮方向に振動する。このようなコンロッドの短周期振動は、クランクシャフトを通じてエンジンの筐体(シリンダブロック等)に伝達され、エンジン全体に不快な振動を生じさせる可能性がある。これに対し、本発明では、コンロッドの空隙内に封入された粉体の作用によりコンロッドの振動ひいてはエンジンの振動を効果的に低減することができる。
【0009】
すなわち、エンジンの稼働時は、上述したコンロッドの短周期振動が、ピストンの往復動に伴うコンロッドの運動(回転および往復動)と併せて起きることにより、空隙内において粉体が激しく振動する。これにより、粉体の粒子どうしの摩擦および当該粒子と空隙の壁面との摩擦が起きて摩擦熱が発生する結果、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することができ、コンロッドの振動を低減することができる。
【0010】
また、コンロッドの運動に伴い生じる慣性力により、粉体が空隙内で上下動する結果、例えばピストンが最も上昇する上死点の近傍で粉体を空隙の上壁に衝突させることができる。このような粉体の衝突は、ピストンに対し下向きに作用する燃焼圧力とは反対方向の起振力、つまり逆起振力をもたらす。したがって、ピストンに大きな燃焼圧力が加わる上死点の近傍において粉体を空隙の上壁に衝突させることにより、燃焼圧力による起振力を前記逆起振力により弱めることができ、燃焼圧力に起因したコンロッドの振動を低減することができる。
【0011】
そして、以上のようなメカニズムでコンロッドの振動が低減されることにより、コンロッドからクランクシャフトを通じてエンジンの筐体(シリンダブロック等)に伝達される振動を低減することができ、非常に制振性に優れたエンジンを実現することができる。
【0012】
さらに、本発明のコンロッドの構造は、連結部に空隙を形成した上で当該空隙に粉体を封入する構造であるから、コンロッドの重量増加を抑制することができ、コンロッドを含むエンジンの軽量化を図ることができる。
【0013】
本発明において、前記空隙は、前記連結部における前記小端部側の端部を含む領域に形成された第1空隙部と、当該第1空隙部よりも前記大端部に近い領域において前記第1空隙部とは独立して形成された第2空隙部とを含む。このような構成によれば、第1空隙部および第2空隙部にそれぞれ封入された粉体の作用によりコンロッドの振動を効果的に低減することができる。
【0014】
すなわち、連結部における小端部側の端部(上端部)は、ピストンの往復動に伴いほぼ上下方向に沿って移動する。当該端部の上下方向の移動に応じて、第1空隙部内の粉体も上下方向に移動し、例えば上死点の近傍において、粉体が第1空隙部の上壁に衝突し得る。このように、ピストンに大きな燃焼圧力が加わる上死点の近傍において、小端部に近い第1空隙部(言い換えれば起振力が直接加わるピストンに近い空隙部)の上壁に粉体を衝突させることにより、当該衝突に伴う逆起振力の作用を増大させて振動低減効果を高めることができる。
【0016】
一方、連結部における大端部側の端部(下端部)は、概ね円軌道に沿って回転運動する。当該端部の回転運動に応じ、第2空隙部内の粉体は、当該空隙部の壁面に沿って転がり回るような挙動をする。そして、このような粉体の挙動が摩擦熱を増大させることにより、摩擦熱による振動低減効果を高めることができる。
【0018】
本発明において、前記第2空隙部は、前記大端部から前記小端部に向かうにつれて狭くなる形状を有する。このような構成によれば、第2空隙部内において粉体が小端部側に移動(第2空隙部の上部に移動)するのに伴い、粉体の密集度がより高まり、摩擦熱の発生が促進される。しかも、このような高い密集度による高い摩擦熱が、燃焼圧による大きな起振力が加わる上死点の近傍で発生することが期待されるので、摩擦熱による振動低減効果をより高めることができる。
【0020】
本発明において、前記大端部は、前記連結部に連なる第1部分と、当該第1部分に締結部材を介して着脱可能に結合される第2部分とを有する。また、前記第1部分および前記第2部分は、前記連結部の軸心に対し傾斜した分割面に沿って分割され、前記第2空隙部は、前記第2部分および前記第1部分を貫通して前記連結部へと至る傾斜した締結孔の一部により構成される。このような構成によれば、粉体の封入先である第2空隙部を、締結孔を加工する際に同時に形成できるので、コンロッドの製造効率を向上させることができる。
【0021】
また、本発明は、エンジンのピストンにピストンピンを介して結合される小端部と、エンジンのクランクシャフトにクランクピンを介して結合される大端部と、前記小端部と前記大端部とを連結する連結部とを備えたコンロッドを製造する方法であって、前記連結部を穿孔加工することにより空隙を形成する工程と、形成した前記空隙に粉体を導入する工程と、前記穿孔加工時の入口を塞ぐことにより前記空隙内に前記粉体を封入する工程とを含む、ことを特徴とするものである(請求項2)。
【0022】
本発明の製造方法によれば、空隙に粉体が封入された上述したコンロッドを比較的容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、軽量化と振動低減とを両立することが可能なコンロッドおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコンロッドを備えたエンジンの断面図である。
【
図2】上記コンロッドの詳細構造を示す分解斜視図である。
【
図3】カバー板を取り付けた状態の上記コンロッドの正面図である。
【
図4】カバー板を取り外した状態の上記コンロッドの正面図である。
【
図5】第3凹部内の粉体の挙動を説明するための模式図である。
【
図6】第1凹部内の粉体の挙動を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るコンロッドの正面図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(エンジンの全体構成)
図1は、第1実施形態に係るコンロッド1を備えたエンジンEの断面図である。本図に示されるエンジンEは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのガソリン直噴エンジンである。このエンジンEは、シリンダ2を内部に備えるシリンダブロック3と、シリンダ2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下面に取り付けられ、当該シリンダブロック3と協働してクランク室17を形成するクランクケース5と、シリンダ2に往復動可能に挿入されたピストン6と、エンジンEの出力軸としてピストン6の下方に設けられたクランクシャフト9と、ピストン6とクランクシャフト9とを連結する上記コンロッド1とを備えている。なお、本明細書において、上下方向はシリンダ2の中心軸の方向(シリンダ軸方向)と同義であり、燃焼室7側が「上」、その反対側(クランク室17側)が「下」である。
【0027】
ピストン6の上方には燃焼室7が画成されている。燃焼室7には、ガソリンを含有する燃料が図外のインジェクタからの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室7で空気と混合されつつ図外の点火プラグによる点火により燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン6が上下方向に往復動する。
【0028】
ピストン6には、
図1の紙面に直交する方向(前後方向)に延びるピストンピン6aが取り付けられている。
【0029】
クランクシャフト9は、回転中心として機能するジャーナル部9aと、ジャーナル部9aに対し偏心した位置に設けられたクランクピン9bとを有している。
【0030】
コンロッド1は、上側(ピストン6側)の端部である小端部21と、下側(クランクシャフト9側)の端部である大端部22と、小端部21と大端部22とを連結する連結部23とを有している。小端部21は、ピストンピン6aを介してピストン6に結合されており、大端部22は、クランクピン9bを介してクランクシャフト9に結合されている。すなわち、コンロッド1は、ピストンピン6aおよびクランクピン9bに対し回転可能な状態でピストン6とクランクシャフト9とを互いに連結している。ピストン6の往復運動(上下運動)は、コンロッド1により回転運動に変換された上でクランクシャフト9に伝達され、クランクシャフト9を中心軸(ジャーナル部9aの軸心)回りに回転させる。
【0031】
シリンダヘッド4には、燃焼室7に空気を導入するための吸気ポート10と、燃焼室7で生成された排気ガスを導出するための排気ポート11と、吸気ポート10の燃焼室7側の開口を開閉する吸気弁12と、排気ポート11の燃焼室7側の開口を開閉する排気弁13とが設けられている。なお、本実施形態のエンジンEのバルブ形式は、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、シリンダヘッド4には、1つのシリンダ2に対し、
図1の紙面に直交する方向に並ぶ2つの吸気ポート10および2つの排気ポート11が設けられるとともに、各ポートに対応した2つの吸気弁12および2つの排気弁13が設けられている。
【0032】
吸気弁12および排気弁13は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト9の回転に連動して開閉駆動される。
【0033】
シリンダブロック3の内部には、潤滑用のオイル(エンジンオイル)が流通するオイルギャラリ14が設けられている。シリンダブロック3の内壁にはオイルジェット15が取り付けられている。オイルジェット15は、その先端のノズル15aがピストン6の下方に位置するように配設されている。オイルジェット15は、図外のオイルポンプからオイルギャラリ14に送出されたオイルをノズル15aを通じてピストン6の下側から噴射する。
【0034】
(コンロッドの構造)
図2は、コンロッド1の詳細構造を示す分解斜視図である。本図に示すように、コンロッド1は、上述した小端部21、大端部22、および連結部23に加えて、前後一対のカバー板25を備えている。すなわち、コンロッド1の厚み方向(後述するピン孔21a,22aの中心軸方向と同じ)の一方側であって
図2の手前側を「前」、その反対側を「後」としたとき、連結部23の前面および後面には、それぞれカバー板25が取り付けられている。なお、
図2に示されるコンロッド1と
図1に示したコンロッド1とはその形状が異なっているが、これは
図1が概略図だからである。つまり、コンロッド1の形状は、
図1よりも
図2において忠実に表されている。
【0035】
図3は、カバー板25を取り付けた状態のコンロッド1の正面図、
図4は、カバー板25を取り外した状態のコンロッド1の正面図である。これら
図3、
図4および先の
図2に示すように、コンロッド1の連結部23の前面には凹部24(空隙)が形成されている。凹部24は、上下に並ぶ3つの凹部24a~24cから構成されている。上から順に第1凹部24a、第2凹部24b、第3凹部24cとすると、上側の第1凹部24aと下側の第3凹部24cの内部には、それぞれ粉体40が配置されている(
図4参照)。なお、第1凹部24aは本発明における「第1空隙部」に相当し、第3凹部24cは本発明における「第2空隙部」に相当する。
【0036】
第1~第3凹部24a~24cは、それぞれ連結部23の前面を部分的に後方に凹ませる(連結部23の肉厚を部分的に減少させる)ことによって形成されている。カバー板25は、正面視において連結部23に対応する外形を有するように形成された板材であり、第1~第3凹部24a~24cの各開放面を全て閉塞するように連結部23の前面に取り付けられる。具体的に、カバー板25は、凹部24の周囲に形成された複数のネジ孔28に螺合される複数のビス27を介して、連結部23の前面を全体的に覆う状態で連結部23に結合される。これにより、凹部24の開放面(第1~第3凹部24a~24cの各開放面)がカバー板25によって閉塞され、凹部24(第1凹部24aおよび第3凹部24c)の内部に粉体40が封入される。なお、図示は省略するが、連結部23の前面だけでなく後面にも、凹部24(第1~第3凹部24a~24c)と同様の凹部が形成されるとともに、当該凹部には粉体40が配置される。また、連結部23の後面には当該凹部を閉塞するカバー板25が取り付けられる。つまり、以下の説明における第1~第3凹部24a~24cおよびこれに関連する構成は、特に断らない限り連結部23の前面および後面のいずれにも適用されるものである。
【0037】
第1凹部24aは、小端部21に近い連結部23の上側領域に形成されている。第3凹部24cは、大端部22に近い連結部23の下側領域に形成されている。第2凹部24bは、第1凹部24aと第3凹部24cとの間に位置する連結部23の中間領域に形成されている。第1凹部24aと第2凹部24bとの間には第1隔壁W1が形成され、第2凹部24bと第3凹部24cとの間には第2隔壁W2が形成されている。すなわち、第1凹部24aと第2凹部24bとが第1隔壁W1によって互いに分離され、第2凹部24bと第3凹部24cとが第2隔壁W2によって互いに分離されている。第1隔壁W1および第2隔壁W2は、連結部23の幅方向(連結部23の軸方向および前後方向の双方と直交する方向)に沿って互いに平行に延びるように形成されている。
【0038】
第1凹部24aおよび第2凹部24bは、連結部23の軸方向(上下方向)に沿って略一定の幅をもって当該軸方向に延びる形状を有している。第1凹部24aの軸方向長さは、第2凹部24bのそれよりも短く設定されている。第3凹部24cは、第2隔壁W2から大端部22の近傍(連結部23の下端)にかけて軸方向に延び、かつ大端部22に近づくほど幅が拡大するように形成されている。言い換えると、第3凹部24cは、大端部22から小端部21に向かうにしたがって幅が縮小する(狭まる)ように形成されている。連結部23の下端部は、このような第3凹部24cに対応する形状、つまり大端部22に近づくほど(下側ほど)幅が拡大する形状を有している。
【0039】
粉体40は、多数の微細な粒子の集合体である。例えば、粉体40の各粒子は、10μm以上50μm以下の粒径(直径)を有する硬質の球体とすることができる。粉体40の各粒子の材質は、耐衝撃性などの所要の性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば純アルミニウム(AL)、ジルコニア(ZrO2)、アルミナ(AL2O3)、もしくはガラス(SiO2)が好適である。
【0040】
粉体40は、その封入先の凹部(つまり第1凹部24aまたは第3凹部24c)の容積に対する粉体40の体積の割合である充填率が25%以上60%以下になるように、各凹部24a,24cに封入されている。充填率が100%未満であるため、粉体40と凹部の壁面との間にはクリアランスが生じる。すなわち、加速度が0Gの自然状態において、第1凹部24aの上壁と当該凹部24a内の粉体40の上面との間、および第3凹部24cの上壁(第2隔壁W2)と当該凹部24c内の粉体40の上面との間には、それぞれ適当なクリアランスが確保されるようになっている。
【0041】
小端部21は、連結部23の上端に連なる円環状のボス部である。小端部21は、ピストンピン6a(
図1)を挿入するためのピン孔21aを有している。コンロッド1は、ピストン6に固定されたピストンピン6aがピン孔21aに挿入されることにより、ピストンピン6a(ピン孔21a)の中心軸回りに回転可能な状態でピストン6に接続される。
【0042】
大端部22は、連結部23の下端に連なる略円環状のボス部である。大端部22は、クランクピン9b(
図1)を挿入するためのピン孔22aを有している。大端部22の内径(ピン孔22aの直径)は、小端部21の内径(ピン孔21aの直径)よりも大きい。コンロッド1は、クランクシャフト9に備わるクランクピン9bがピン孔22aに挿入されることにより、クランクピン9b(ピン孔22a)の中心軸回りに回転可能な状態でクランクシャフト9に接続される。
【0043】
大端部22は、連結部23と一体の本体部31と、本体部31に対し下側から着脱可能に結合されるキャップ部32とを有する2分割構造とされている。本体部31は、ピン孔22aの上半分を規定する部分であり、上側に凸の略半円弧状に形成されている。キャップ部32は、ピン孔22aの下半分を規定する部分であり、下側に凸の略半円弧状に形成されている。キャップ部32は、左右一対のコンロッドボルト33を介して、本体部31の下面に着脱可能に結合されている。
【0044】
(製造方法)
次に、以上のような構造のコンロッド1を製造する方法について説明する。本実施形態によるコンロッド1の製造方法は、鍛造によりコンロッド1を製造する方法であり、次のような各工程を含む。
【0045】
まず、クローム鋼やクロームモリブデン鋼などの鋼材を鍛造することにより、小端部21、連結部23、および大端部22(本体部31およびキャップ部32)を一体に含んだコンロッド素材を形成する。この鍛造により、連結部23の前面および後面には上述した凹部24(第1~第3凹部24a~24c)が形成される。
【0046】
次いで、連結部23に対し、その凹部24の周囲に複数のネジ孔28(
図4)を形成する機械加工を施す。また、大端部22に対し、その両側部にそれぞれボルト孔34を形成する機械加工を施す。
【0047】
次いで、大端部22を上下に2分割し、本体部31からキャップ部32を分離させる。その後、一対のコンロッドボルト33をそれぞれボルト孔34に螺合することにより、本体部31とキャップ部32とを締結し、その状態で大端部22のピン孔22aに仕上げ加工(ピン孔22aを真円にするための加工)を施す。また、小端部21のピン孔21aにも同様の仕上げ加工を施す。
【0048】
次いで、連結部23の凹部24に規定の充填率で粉体40を充填(導入)する。すなわち、連結部23の前面に形成された第1凹部24aおよび第3凹部24cにそれぞれ規定の充填率で粉体40を充填するとともに、連結部23の後面に形成された第1凹部24aおよび第3凹部24cにそれぞれ規定の充填率で粉体40を充填する。その後、予め用意しておいたてカバー板25を、ビス27(
図2)を用いて連結部23の前面および後面に締結する。
【0049】
以上の各工程により、凹部24(第1凹部24aおよび第3凹部24c)に粉体40が封入されたコンロッド1が完成する。
【0050】
(作用効果)
以上説明したとおり、本発明の第1実施形態では、コンロッド1の連結部23に形成された凹部24(詳しくはその第1凹部24aおよび第3凹部24c)に粉体40が封入されるので、コンロッド1の軽量化を図りつつエンジンEの振動を低減できるという利点がある。
【0051】
ピストン6が往復動するエンジンEの稼働時、コンロッド1は、上死点付近にあるピストン6に加わる燃焼圧力による起振力の影響で、クランクシャフト9の回転周期よりも短い周期で(つまり比較的高い周波数で)伸縮方向に振動する。このようなコンロッド1の短周期振動が、ピストン6の往復動に伴うコンロッド1の運動(回転および往復動)と併せて起きることにより、粉体40は凹部24の内部で激しく振動する。これにより、粉体40の粒子どうしの摩擦および当該粒子と凹部24の壁面との摩擦が起きて摩擦熱が発生する結果、振動エネルギーを熱エネルギーに変換することができ、コンロッド1の振動を低減することができる。
【0052】
また、コンロッド1の運動に伴い生じる慣性力により、粉体40が凹部24内で上下動する結果、例えばピストン6が最も上昇する上死点の近傍で粉体40を凹部24の上壁に衝突させることができる。すなわち、第1凹部24aに封入された粉体40を第1凹部24aの上壁に衝突させるとともに、第3凹部24cに封入された粉体40を第3凹部24cの上壁(第2隔壁W2)に衝突させることができる。このような粉体40の衝突は、ピストン6に対し下向きに作用する燃焼圧力とは反対方向の起振力、つまり逆起振力をもたらす。したがって、ピストン6に大きな燃焼圧力が加わる上死点の近傍において粉体40を凹部24の上壁に衝突させることにより、燃焼圧力による起振力を上記逆起振力により弱めることができ、燃焼圧力に起因したコンロッド1の振動を低減することができる。
【0053】
そして、以上のようなメカニズムでコンロッド1の振動が低減されることにより、コンロッド1からクランクシャフト9を通じてエンジンEの筐体(シリンダブロック3等)に伝達される振動を低減することができ、非常に制振性に優れたエンジンを実現することができる。
【0054】
さらに、第1実施形態のコンロッド1の構造は、連結部23に凹部24を形成した上で当該凹部24に粉体40を封入する構造であるから、従来からあるコンロッドの構造を基本的に踏襲しつつ(従来から一般に連結部には軽量化のため凹部が形成される)、コンロッド1の重量増加を抑制することができ、コンロッド1を含むエンジンEの軽量化を図ることができる。
【0055】
例えば、本願の背景技術に記載した上記特許文献1と同様に、コンロッドと逆位相で振動するような質量体をコンロッドに追加することで振動低減を図ることも考えられるが、このような構造ではコンロッドの重量が増加し易く、エンジンの軽量化に不利となる。これに対し、上述した第1実施形態の構造は、重量が嵩みにくい粉体40を凹部24に封入する構造であるから、コンロッド1の重量が増加し難く、エンジンの軽量化に有利である。なお、第1実施形態では凹部24を閉塞するために連結部23にカバー板25を取り付ける必要があるが、カバー板25は凹部24を閉塞する機能のみを果たせばよい(強度は不要である)から、カバー板25の追加によるコンロッド1の重量増加は非常に小さく抑えられる。
【0056】
また、第1実施形態では、隔壁W1,W2により凹部24が上下3つ(第1凹部24a~第3凹部24c)に分割されるとともに、このうち上側の第1凹部24aと下側の第3凹部24cにそれぞれ粉体40が封入されるので、各凹部24a,24c内の粉体40の役割分担によりコンロッド1の振動を効果的に低減することができる。
【0057】
すなわち、粉体40の摩擦熱により振動を低減する効果を第1の効果、粉体40の壁面への衝突により振動を低減する効果を第2の効果とすると、大端部22に最も近い(下側の)第3凹部24cに封入された粉体40は、主に第1の効果を発揮し得る。
図5は、第3凹部24c内の粉体40の挙動を説明するための模式図である。本図に示すように、連結部23における大端部22側の端部つまり下端部は、概ねクランクシャフト9のジャーナル部9aを中心とした円軌道に沿って回転運動する。この回転運動により、連結部23の下部に形成された第3凹部24cは、上死点(このときのクランク角を0°CAとする)に対応する上端位置P1と、90°CAのクランク角に対応する右端位置P2と、180°のクランク角(下死点)に対応する下端位置P3と、270°CAのクランク角に対応する左端位置P4との間で移動する。また、このような第3凹部24cの移動に伴い、粉体40は、全体として第3凹部24cの壁面に沿って転がり回るような挙動をする。例えば、粉体40は、上端位置P1のときに上方に移動して第3凹部24cの上部に密集し、右端位置P2のときに右方に移動して第3凹部24cの右側の側部に密集し、下端位置P3のときに下方に移動して第3凹部24cの下部に密集し、左端位置P4のときに左方に移動して第3凹部24cの左側の側部に密集する。このように第3凹部24c内で粉体40が密集しながら移動することにより、粉体40の摩擦熱が増大するので、上述した第1の効果(摩擦熱による振動低減効果)を効率よく発揮させることができる。
【0058】
特に、第1実施形態では、第3凹部24cが上側ほど幅が縮小するように形状されるので、第3凹部24cが上端位置P1にあるとき(つまり粉体40が第3凹部24cの上部に移動するとき)に粉体40の密集度がより高まり、摩擦熱の発生を促進することができる。しかも、このような高い密集度による高い摩擦熱が、燃焼圧による大きな起振力が加わる上死点の近傍で発生することが期待されるので、摩擦熱による振動低減効果をより高めることができる。
【0059】
一方、小端部21に最も近い(上側の)第1凹部24aに封入された粉体40は、主に第2の効果を発揮し得る。
図6は、第1凹部24a内の粉体40の挙動を説明するための模式図である。本図に示すように、連結部23における小端部21側の端部つまり上端部は、ほぼ上下方向に沿って移動する。言い換えると、連結部23の上部に形成された第1凹部24aは、-180°CAのクランク角に対応する下端位置Q1と、0°のクランク角(上死点)に対応する位置Q3との間で、ほぼ上下方向に沿って移動する。また、第1凹部24aの上方への移動速度は、-90°CAのクランク角に対応する中間位置Q2において最大となり、上死点に対応する上端位置Q3でゼロになる。代わりに、上端位置Q3では第1凹部24aの下向きの加速度が最大になる。そして、第1凹部24aが下端位置Q1から上端位置Q3まで移動する間に、粉体40も上方へと移動し、第1凹部24aが上端位置Q3から下方に方向転換するタイミング(つまり上死点の近傍)で、粉体40は第1凹部24aの上壁に衝突し得る。このように、ピストン6に大きな燃焼圧力が加わる上死点の近傍において、小端部21に近い第1凹部24a(言い換えれば起振力が直接加わるピストン6に近い第1凹部24a)の上壁に粉体40を衝突させることにより、当該衝突に伴う逆起振力の作用を増大させることができ、上述した第2の効果(衝突による振動低減効果)を効率よく発揮させることができる。
【0060】
ここで、上記第2の効果に関して詳細な検討を行ったところ、本願発明者は、第1凹部24aの壁面と粉体40とのクリアランスをエンジン諸元に応じて適切に設定すれば、上死点の近傍の特に好ましいタイミング(上死点から上死点後5°CAまでのタイミング;以下これを最適タイミングという)で粉体40を安定的に第1凹部24aの上壁に衝突させることができ、当該衝突による高い振動低減効果が得られることを突き止めた。具体的に、自然状態(加速度0Gの状態)における粉体40の上面から第1凹部24aの上壁までの距離をクリアランスX(
図4)、クランクシャフト9におけるジャーナル部9aとクランクピン9bまでの距離をクランクスローR(
図6)としたとき、粉体40の衝突タイミングが上記最適タイミング(上死点後0~5°CA)に一致するようなクリアランスXの値(以下、これを最適値という)は、ほぼクランクスローRのみをパラメータとして決定し得る。クランクスローRが大きくなるほどクリアランスXの最適値も大きくなる。例えば、クランクスローRが50mmのエンジンの場合、クリアランスXをその最適値として約28.5mmに設定すれば、上記最適タイミングで粉体40を第1凹部24aの上壁に衝突させることができる。しかも、このような状況はエンジン回転数が変わってもほとんど変わることがない。すなわち、上記のようにして定まる最適値にクリアランスXを設定することにより、幅広い運転条件において、粉体40を上記最適タイミングで第1凹部24aの上壁に衝突させることができ、当該衝突による振動低減効果を高めることができる。第1凹部24aに対する粉体40の充填率は、上述したクリアランスXの最適値が確保されるような充填率に設定することが好ましい。
【0061】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態においても、前提とするエンジンは上記第1実施形態のエンジンE(
図1)と同様である。このため、コンロッド以外の要素については上記第1実施形態で用いた符号を流用する。
【0062】
(コンロッドの構造)
図7~
図9は、本発明の第2実施形態に係るコンロッド1Aの構造を示す正面図および断面図である。この第2実施形態のコンロッド1Aは、上述した第1実施形態のコンロッド1と同様に、ピストンピン6a(
図1)を介してピストン6に結合される小端部51と、クランクピン9b(
図1)を介してクランクシャフト9に結合される大端部52と、小端部51と大端部52とを連結する連結部53とを備えている。
【0063】
連結部53の前面および後面には、それぞれ凹部54が形成されている。各凹部54は、連結部53の厚みを部分的に減少させることで形成された凹部であり、連結部53の軸方向に沿って延びるように形成されている。各凹部54は、連結部53の下端部(大端部52側の端部)を除いた領域、つまり連結部53の上端部から中間部にわたって形成されている。
【0064】
連結部53の上部には、その軸心に沿って軸孔56が形成されている。軸孔56は、連結部53における前後の凹部54の間を通るように形成されている。すなわち、連結部53は、その前後の凹部54の間に相対的に肉厚の薄い幹部55(
図8)を有しており、この幹部55をその上端から下向きに穿孔することにより軸孔56が形成されている。なお、軸孔56は、本発明における「第1空隙部」に相当する。
【0065】
軸孔56の上端は小端部51の内周面(後述するピン孔51a)にまで達しており、軸孔56の下端は連結部53の上下方向中間部まで達している。すなわち、軸孔56は、小端部51の内周面から連結部53の上下方向中間部へと至る上下方向に長く延びる孔である。軸孔56の上端には、軸孔56を閉じるための封止材57が取り付けられている。
【0066】
図8および
図9に示すように、軸孔56の内部には粉体70が封入されている。粉体70は、多数の微細な粒子の集合体であり、その各粒子の粒径や材質等は、上記第1実施形態で用いた粉体40と同様である。粉体70は、自然状態(加速度0Gの状態)において粉体70の上面と軸孔56の上壁(封止材57)との間に適当なクリアランスが確保されるような充填率で、軸孔56に封入されている。
【0067】
小端部51は、連結部53の上端に連なる円環状のボス部である。小端部51は、ピストンピン6a(
図1)を挿入するためのピン孔51aを有している。
【0068】
大端部52は、連結部53の下端に連なる略円環状のボス部である。大端部52は、クランクピン9b(
図1)を挿入するためのピン孔52aを有している。大端部52の内径(ピン孔52aの直径)は、小端部51の内径(ピン孔51aの直径)よりも大きい。
【0069】
大端部52は、連結部53と一体の本体部61と、本体部61に対し斜め下側から着脱可能に結合されるキャップ部62とを有する2分割構造とされている。すなわち、大端部52は、連結部53の軸心L1(
図7)に対し傾斜した分割面S1に沿って分割され、分割面S1の一方側(連結部53に近い側)が本体部61、他方側がキャップ部62とされている。言い換えると、大端部52は、ピン孔52aの左上半分を規定する本体部61と、ピン孔52aの右下半分を規定するキャップ部62とを有している。なお、ここでいう左または右は、
図7および
図9の紙面上の左または右と同義である。分割面S1と連結部53の軸心L1との交差角度θ1(
図7)は、例えば45°前後に設定されている。本体部61は本発明における「第1部分」に相当し、キャップ部62は本発明における「第2部分」に相当する。
【0070】
キャップ部62は、一対のコンロッドボルト63を介して、本体部61に着脱可能に結合されている。詳しくは、大端部52は、キャップ部62と本体部61とに跨る傾斜した第1ボルト孔64および第2ボルト孔65を有しており、各ボルト孔64,65にそれぞれコンロッドボルト63が螺合されることにより、キャップ部62が本体部61に締結されている。なお、コンロッドボルト63は、本発明における「締結部材」に相当する。
【0071】
第2ボルト孔65は、キャップ部62の左下の締結部62bと、当該締結部62bと対接する本体部61の左下の締結部61bとに跨って形成され、かつ分割面S1と直交する方向に沿って延びる連続したボルト孔である。第2ボルト孔65は、キャップ部62の締結部62bを貫通し、かつ本体部61の締結部61bの上端付近まで至るように形成されている。
【0072】
第1ボルト孔64は、キャップ部62の右上の締結部62aと、当該締結部62aと対接する本体部61の右上の締結部61aとに跨って形成され、かつ分割面S1と直交する方向に沿って延びる連続したボルト孔である。第1ボルト孔64は、キャップ部62の締結部62aと本体部61の締結部61aとを貫通し、さらに連結部53の下端部まで至るように形成されている。なお、第1ボルト孔64は、本発明における「締結孔」に相当する。
【0073】
第1ボルト孔64の長さは、第2ボルト孔65の長さよりも長い。すなわち、第1ボルト孔64は、コンロッドボルト63を第1ボルト孔64に完全に螺合したときの当該ボルト63の先端よりも連結部53側(左上)まで延びる延長孔64aを有している。延長孔64aは、連結部53の下端部まで達する孔であり、正面視で連結部53の軸心L1(
図7)と交差するように形成されている。また、延長孔64aの先端部は先細り状に形成されている。言い換えると、延長孔64aは、連結部53の下端部において先端側(上側)ほど幅が縮小するように形成されている。なお、延長孔64aは、本発明における「第2空隙部」に相当する。
【0074】
図8および
図9に示すように、延長孔64aには粉体70が封入されている。延長孔64a内の粉体70は、自然状態(0G)において粉体70の上面と延長孔64aの上壁との間に適当なクリアランスが確保されるような充填率で、延長孔64aに封入されている。
【0075】
(製造方法)
次に、以上のような構造のコンロッド1Aを製造する方法について説明する。本実施形態によるコンロッド1Aの製造方法は、鍛造によりコンロッド1Aを製造する方法であり、次のような各工程を含む。
【0076】
まず、クローム鋼やクロームモリブデン鋼などの鋼材を鍛造することにより、小端部51、連結部53、および大端部52(本体部61およびキャップ部62)を一体に含んだコンロッド素材を形成する。この鍛造により、連結部53の前面および後面には上述した凹部54が形成される。
【0077】
次いで、大端部52に対し、第1ボルト孔64および第2ボルト孔65を形成するボルト孔加工を施す。また、小端部51および連結部53に対し、軸方向に沿って上側から穿孔するドリル加工を施す。ドリル加工(穿孔加工)は、小端部51の上端から開始され、ドリルの先端が連結部53の上下方向中間部に達するまで継続される。このドリル加工により、連結部53には軸孔56が形成される。また、これと同時に、小端部51の上部にも加工孔58が形成される。
【0078】
次いで、大端部52を2分割し、本体部61からキャップ部62を分離させる。この大端部52の2分割は、連結部53の軸心L1に対し傾斜した分割面S1に沿って行われる。その後、第1ボルト孔64の延長孔64aに規定の充填率で粉体70を充填するとともに、その状態で一対のコンロッドボルト63をそれぞれ第1・第2ボルト孔64,65に螺合することにより、本体部61とキャップ部62とを締結する。さらに、両者を締結した状態で大端部52のピン孔52aに仕上げ加工(ピン孔52aを真円にするための加工)を施す。また、小端部51のピン孔51aにも同様の仕上げ加工を施す。
【0079】
次いで、連結部23の軸孔56に規定の充填率で粉体40を充填し、その状態で軸孔56の上端(つまり穿孔加工時の入口)を封止材57で封止する。封止材57としては、例えば止めネジや溶接材料を用いることができる。すなわち、軸孔56の上端は、止めネジの螺合により封止してもよいし、ロウ付け等の溶接により封止してもよい。なお、小端部51に形成された加工孔58の封止は不要である。これは、小端部51とピストンピン6aとの焼き付きを防止するための潤滑油を導入するオイル入口として加工孔58を機能させ得るからである。
【0080】
以上の各工程により、軸孔56および延長孔64aに粉体70が封入されたコンロッド1Aが完成する。
【0081】
(作用効果)
以上説明した第2実施形態のコンロッド1A(
図7~
図9)についても、上述した第1実施形態のコンロッド1(
図2~
図4)と同様に、コンロッド1Aの軽量化を図りつつエンジンEの振動を低減できるという利点がある。
【0082】
特に、第2実施形態では、連結部53の上端部を含む領域に形成された軸孔56と、連結部53の下端部に形成された第1ボルト孔64の延長孔64aとに、それぞれ粉体70が封入されるため、各粉体70の役割分担により効果的にコンロッド1A(ひいてはエンジンE)の振動を低減することができる。すなわち、第2実施形態において、第1ボルト孔64の延長孔64aに封入された粉体70は、第1実施形態において連結部23の第3凹部24cに封入された粉体40と同様に、摩擦熱により振動を低減する効果(第1の効果)を主に発揮することが可能であり、連結部53の軸孔56に封入された粉体70は、第1実施形態において連結部23の第1凹部24aに封入された粉体40と同様に、壁面への衝突により振動を低減する効果(第2の効果)を主に発揮することが可能である。
【0083】
また、延長孔64aは、大端部52に用いられるコンロッドボルト63を螺合するための第1ボルト孔64の一部により構成される。このことは、粉体70の封入先である延長孔64aを、第1ボルト孔64を加工する際に同時に形成できることを意味する。これにより、粉体70を封入するための改変に要する工数を減らすことができ、コンロッド1Aの製造効率を向上させることができる。
【0084】
さらに、延長孔64aは、その先端側(上側)ほど幅が縮小するように形成されるので、第1実施形態のとき(
図5参照)と同様に、当該延長孔64aに封入された粉体70を上死点の近傍においてより密集させることができ、摩擦熱による振動低減効果(第1の効果)をより高めることができる。
【0085】
[変形例]
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態(第1・第2実施形態)に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0086】
例えば、上記第1実施形態では、連結部23に形成された第1凹部24aおよび第3凹部24cにそれぞれ粉体40を封入したが、いずれか一方の凹部にのみ粉体40を封入し、他方の凹部への粉体の封入は省略してもよい。
【0087】
上記第1実施形態では、連結部23の前面および後面に上下に分離した3つの凹部24a~24cをそれぞれ形成したが、上下に連続した単一の凹部を連結部23の前面または後面に形成し、当該凹部に粉体を封入してもよい。
【0088】
上記第2実施形態では、連結部53の上部に軸孔56を形成するとともに、連結部53の下端部に延長孔64aを形成したが、いずれか一方の孔は省略してもよい。例えば、延長孔64aを省略した場合には、大端部52を分割する分割面S1の傾斜を廃止することができる(連結部53の軸心L1と直交する分割面に沿って大端部52を分割することができる)。この場合、粉体70は軸孔56にのみ封入されることになる。逆に、軸孔56を省略して、延長孔64aにのみ粉体70を封入するようにしてもよい。
【0089】
上記第1実施形態(第2実施形態)では、ガソリン直噴エンジンEに適用されるコンロッド1(1A)を例示したが、本発明のコンロッドは、シリンダ内に往復動可能に収容されたピストンを備えるレシプロエンジンに広く適用可能であり、例えばディーゼルエンジンにも本発明のコンロッドを適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
E エンジン
1 コンロッド
6 ピストン
6a ピストンピン
9 クランクシャフト
9b クランクピン
21 小端部
22 大端部
23 連結部
24 凹部(空隙)
24a 第1凹部(第1空隙部)
24c 第3凹部(第2空隙部)
40 粉体
1A コンロッド
51 小端部
52 大端部
53 連結部
56 軸孔(第1空隙部)
61 本体部(第1部分)
62 キャップ部(第2部分)
63 コンロッドボルト(締結部材)
64 第1ボルト孔(締結孔)
64a 延長孔(第2空隙部)
L1 (連結部の)軸心
S1 分割面