(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】蓄電装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20240717BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021007368
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2020128494
(32)【優先日】2020-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 悠史
(72)【発明者】
【氏名】金田 潤
(72)【発明者】
【氏名】牧 剛志
(72)【発明者】
【氏名】荒川 俊也
(72)【発明者】
【氏名】河合 智之
(72)【発明者】
【氏名】夏井 敬介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄飛
(72)【発明者】
【氏名】水谷 英二
(72)【発明者】
【氏名】四本 賢佑
(72)【発明者】
【氏名】増田 真規
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-238365(JP,A)
【文献】特開2020-013637(JP,A)
【文献】特開2010-067580(JP,A)
【文献】特開2009-004363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ1~100μmの箔状の負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられた負極と、正極集電体の第1面に正極活物質層が設けられてなり、前記正極活物質層が前記負極の前記負極活物質層と対向するように配置された正極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータとが繰り返し積層されるとともに、前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面と、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触するように前記負極及び前記正極が積層された構造を有する蓄電装置であって、
前記負極活物質層の目付量は、17mg/cm
2
以上であり、
前記負極活物質層の厚さは、150μm以上であり、
前記負極活物質層は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴムとを含有し、
前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下であり、
前記スチレン-ブタジエンゴムの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.85以上1.1以下である請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースに対する前記スチレン-ブタジエンゴムの質量比は、1.69以上3以下である請求項
1又は請求項2に記載の蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、個々に作製された複数の蓄電セルを直列に積層することにより構成される扁平型の蓄電装置が開示されている。上記蓄電セルは、箔状の正極集電体の片面に正極活物質層が形成されてなる正極と、箔状の負極集電体の片面に負極活物質層が形成されてなり、負極活物質層が正極の正極活物質層と対向するように配置された負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを備えている。上記蓄電装置は、複数の上記蓄電セルを正極集電体と負極集電体とを接触させるようにして積層すること、具体的には、正極集電体における正極活物質層が形成されていない表面と、負極集電体における負極活物質層が形成されていない表面とを接触させるように積層することにより形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-16825号公報
【文献】特許第6636607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蓄電セルのエネルギー密度を大きくする方法の一つとして、活物質層の目付量を増加させる方法が考えられる。しかしながら、上記構成の蓄電装置の活物質層の目付量を増加させた場合、以下に記載する問題が生じる。すなわち、箔状の集電体の表面に活物質層が設けられる構造の電極において、活物質層の目付量を増加させると、電極製造時における活物質層の収縮により集電体に皺が発生しやすくなる。上記構成の蓄電装置は、集電体における活物質層が設けられていない表面同士を接触させてなる導通部分を有している。そのため、集電体に皺が生じると、上記導通部分における集電体同士の密着性が低下して接触抵抗が増大してしまう。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、箔状の集電体を用いた蓄電装置に関して、活物質層の収縮により集電体に生じる皺を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する蓄電装置は、厚さ1~100μmの箔状の負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられた負極と、正極集電体の第1面に正極活物質層が設けられてなり、前記正極活物質層が前記負極の前記負極活物質層と対向するように配置された正極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータとが繰り返し積層されるとともに、前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面と、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触するように前記負極及び前記正極が積層された構造を有する蓄電装置であって、前記負極活物質層が設けられた部分の反対側に位置する部分に重ね合わされた導電部分とを有する蓄電装置であって、前記負極活物質層は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴムとを含有し、前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下であり、前記スチレン-ブタジエンゴムの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下である。
【0007】
上記蓄電装置において、前記カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.85以上1.1以下であることが好ましい。
上記蓄電装置において、前記負極活物質層の目付量は、17mg/cm2以上であることが好ましい。
【0008】
上記蓄電装置において、前記負極と、正極集電体の第1面に正極活物質層が形成されるとともに、前記正極活物質層が前記負極の前記負極活物質層と対向するように配置された正極と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に配置されたセパレータと、が繰り返し積層された構造を有し、前記導電部分は、前記正極の前記正極集電体であり、前記負極集電体の前記第2面と、前記正極集電体における前記第1面の反対側の第2面とが接触していることが好ましい。
【0009】
上記蓄電装置において、前記カルボキシメチルセルロースに対する前記スチレン-ブタジエンゴムの質量比は、1.69以上3以下であることが好ましい。
上記の各構成によれば、負極活物質層に含有される結着剤成分として、カルボキシメチルセルロース及びスチレン-ブタジエンゴムを用いるとともに、それらの含有量を上記の特定範囲としたことにより、負極活物質層の製造時における負極活物質層の収縮が抑制される。これにより、負極活物質層の収縮に起因して箔状の負極集電体に皺が生じることを抑制できる。その結果、負極集電体及び正極集電体の第2面同士の接触部分の密着性の低下、及び密着性の低下に伴う接触抵抗の増大を抑制できる。負極集電体に皺を生じさせ難い負極活物質層を採用することにより、負極集電体に対する負極活物質層の目付量を増加させて、蓄電セルのエネルギー密度を大きくすることが容易になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、箔状の集電体を用いた蓄電装置に関して、活物質層の収縮により集電体に生じる皺を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】(a)は試験例1の負極集電体の第2面の写真、(b)は試験例2の負極集電体の第2面の写真。
【
図4】質量比(SBR/CMC)と容量維持率との関係を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1に示す蓄電装置10は、例えば、フォークリフト、ハイブリッド自動車、電気自動車等の各種車両のバッテリに用いられる蓄電モジュールである。蓄電装置10は、例えば、ニッケル水素二次電池又はリチウムイオン二次電池等の二次電池である。蓄電装置10は、電気二重層キャパシタであってもよいし、全固体電池であってもよい。本実施形態では、蓄電装置10がリチウムイオン二次電池である場合を例示する。
【0013】
図1に示すように、蓄電装置10は、複数の蓄電セル20が積層方向にスタック(積層)されたセルスタック30(積層体)を含んで構成されている。以下では、複数の蓄電セル20の積層方向を単に積層方向という。各蓄電セル20は、正極21と、負極22と、セパレータ23と、スペーサ24とを備える。
【0014】
正極21は、正極集電体21aと、正極集電体21aの第1面21a1に設けられた正極活物質層21bとを備える。積層方向から見た平面視(以下、単に平面視という。)において、正極活物質層21bは、正極集電体21aの第1面21a1の中央部に形成されている。平面視における正極集電体21aの第1面21a1の周縁部は、正極活物質層21bが設けられていない正極未塗工部21cとなっている。正極未塗工部21cは、平面視において正極活物質層21bの周囲を囲むように配置されている。
【0015】
負極22は、負極集電体22aと、負極集電体22aの第1面22a1に設けられた負極活物質層22bとを備える。平面視において、負極活物質層22bは、負極集電体22aの第1面22a1の中央部に形成されている。平面視における負極集電体22aの第1面22a1の周縁部は、負極活物質層22bが設けられていない負極未塗工部22cとなっている。負極未塗工部22cは、平面視において負極活物質層22bの周囲を囲むように配置されている。
【0016】
正極21及び負極22は、正極活物質層21b及び負極活物質層22bが積層方向において互いに対向するように配置されている。つまり、正極21及び負極22の対向する方向は積層方向と一致している。負極活物質層22bは、正極活物質層21bよりも一回り大きく形成されており、平面視において、正極活物質層21bの形成領域の全体が負極活物質層22bの形成領域内に位置している。
【0017】
正極集電体21aは、第1面21a1とは反対側の面である第2面21a2を有する。正極21は、正極集電体21aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。負極集電体22aは、第1面22a1とは反対側の面である第2面22a2を有する。負極22は、負極集電体22aの第2面21a2に正極活物質層21b及び負極活物質層22bのいずれも形成されていないモノポーラ構造の電極である。正極21及び負極22を構成する材料などの具体的な構成については後述する。
【0018】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に配置されて、正極21と負極22とを隔離することで両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオン等の電荷担体を通過させる部材である。
【0019】
セパレータ23は、例えば、電解質を吸収保持するポリマーを含む多孔性シート又は不織布である。セパレータ23を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエステルなどが挙げられる。セパレータ23は、単層構造又は多層構造を有してもよい。多層構造は、例えば、接着層、耐熱層としてのセラミック層等を有してもよい。
【0020】
スペーサ24は、正極21の正極集電体21aの第1面22a1と、負極22の負極集電体22aの第1面22a1との間、かつ正極活物質層21b及び負極活物質層22bよりも外周側に配置され、正極集電体21a及び負極集電体22aの両方に接合されている。スペーサ24は、絶縁材料を含み、正極集電体21aと負極集電体22aとの間を絶縁することによって、集電体間の短絡を防止する。
【0021】
スペーサ24を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン、ABS樹脂、変性ポリプロピレン(変性PP)、アクリロニトリルスチレン(AS)樹脂などの種々の樹脂材料が挙げられる。
【0022】
スペーサ24は、平面視において、正極集電体21a及び負極集電体22aの周縁部に沿って延在するとともに、正極集電体21a及び負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に形成されている。スペーサ24は、積層方向において、正極集電体21aの第1面21a1の正極未塗工部21cと、負極集電体22aの第1面22a1の負極未塗工部22cとの間に配置されている。
【0023】
蓄電セル20の内部には、枠状のスペーサ24、正極21及び負極22によって囲まれた空間Sが形成されている。空間Sには、セパレータ23及び電解質が収容されている。なお、セパレータ23の周縁部分は、スペーサ24に埋まった状態とされている。
【0024】
したがって、スペーサ24は、正極21及び負極22との間の空間Sを封止する封止部としても機能しており、空間Sに収容された電解質の外部への透過を抑制し得る。また、スペーサ24は、蓄電装置10の外部から空間S内への水分の侵入を抑制し得る。さらに、スペーサ24は、例えば、充放電反応等により正極21又は負極22から発生したガスが蓄電装置10の外部に漏れることを抑制し得る。
【0025】
空間Sに収容される電解質は、液体電解質(電解液)である。液体電解質としては、例えば、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む液体電解質が挙げられる。電解質塩として、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2等の公知のリチウム塩を使用できる。また、非水溶媒として、環状カーボネート類、環状エステル類、鎖状カーボネート類、鎖状エステル類、エーテル類等の公知の溶媒を使用できる。なお、これら公知の溶媒材料を二種以上組合せて用いてもよい。
【0026】
セルスタック30は、複数の蓄電セル20が、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とが直接接触するように重ね合わされた構造を有する。これにより、セルスタック30を構成する複数の蓄電セル20が直列に接続されている。正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触部分は、接触抵抗の増大を抑制する観点から、密着性を高くすること、例えば、面接触している範囲をより広く設けることが好ましい。
【0027】
ここで、セルスタック30においては、積層方向に隣り合う二つの蓄電セル20により、互いに接する正極集電体21a及び負極集電体22aを一つの集電体とみなした疑似的なバイポーラ電極25が形成される。疑似的なバイポーラ電極25は、正極集電体21a及び負極集電体22aが重ね合わされた構造の集電体と、その集電体の一方側の面に形成された正極活物質層21bと、他方側の面に形成された負極活物質層22bとを含む。
【0028】
各蓄電セル20のスペーサ24は、正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも外側に延びる外周部分24aを有している。外周部分24aは、積層方向から見て正極集電体21aと負極集電体22aの各縁部よりも積層方向に直交する方向に突出している。積層方向に隣り合う蓄電セル20は、それぞれのスペーサ24の外周部分24a同士が接合されることにより一体化している。隣り合うスペーサ24同士を接合する方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0029】
蓄電装置10は、セルスタック30の積層方向においてセルスタック30を挟むように配置された、正極通電板40及び負極通電板50からなる一対の通電体を備える。正極通電板40及び負極通電板50は、それぞれ、導電性に優れた材料で構成される。
【0030】
正極通電板40は、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に電気的に接続される。負極通電板50は、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に電気的に接続される。負極通電板50は、負極集電体22aの第2面22a2に接触するように重ね合わされた状態となっている。正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触部分と同様に、負極通電板50と、負極集電体22aの第2面22a2との接触部分も、接触抵抗の増大を抑制する観点から、密着性を高くすることが好ましい。
【0031】
正極通電板40及び負極通電板50のそれぞれに設けられた端子を通じて蓄電装置10の充放電が行われる。正極通電板40を構成する材料としては、例えば、正極集電体21aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。正極通電板40は、セルスタック30に用いられた正極集電体21aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0032】
負極通電板50を構成する材料としては、例えば、負極集電体22aを構成する材料と同じ材料を用いることができる。負極通電板50は、セルスタック30に用いられた負極集電体22aよりも厚い金属板で構成してもよい。
【0033】
本実施形態においては、負極集電体22aに電気的に接続される正極集電体21a及び負極通電板50が、負極集電体22aの第2面22a2に重ね合わされた導電部分に相当する。これら正極集電体21a及び負極通電板50は、負極集電体22aの第2面22a2における第1面22a1側の負極活物質層22bが設けられている部分の反対側に位置する部分に接する部分を有するように負極集電体22aに重ね合わされている。
【0034】
次に、正極21を構成する正極集電体21a及び正極活物質層21b、並びに負極22を構成する負極集電体22a及び負極活物質層22bの詳細について説明する。
<正極集電体>
正極集電体21aは、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、正極活物質層21bに電流を流し続けるための化学的に不活性な電気伝導体である。本実施形態において、正極集電体21aはアルミニウム箔である。正極集電体21aを構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料等を用いることができる。
【0035】
導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。正極集電体21aは、前述した金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。正極集電体21aの表面は、公知の保護層により被覆されてもよい。正極集電体21aの表面は、メッキ処理等の公知の方法により処理されてもよい。
【0036】
正極集電体21aは、例えば箔、シート、フィルム、線、棒、メッシュ又はクラッド材等の形態を有してもよい。正極集電体21aは、アルミニウム箔以外に、例えば、銅箔、ニッケル箔、チタン箔又はステンレス鋼箔等の金属箔であってもよい。機械的強度を確保する観点から、集電体は、ステンレス鋼箔(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)であってもよい。
【0037】
正極集電体21aは、上記金属の合金箔であってもよい。正極集電体21aは、アルミニウム膜によって被覆された基材を含む箔であってもよい。箔状の正極集電体21aの場合、正極集電体21aの厚さは、例えば、1~100μmである。
【0038】
<正極活物質層>
正極活物質層21bは、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る正極活物質を含む。正極活物質としては、層状岩塩構造を有するリチウム複合金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物、ポリアニオン系化合物など、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なものを採用すればよい。また、2種以上の正極活物質を併用してもよい。本実施形態において、正極活物質層21bはポリアニオン系化合物としてのオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)を含む。
【0039】
正極活物質層21bは、必要に応じて電気伝導性を高めるための導電助剤、結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、電解液等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)等をさらに含み得る。正極活物質層21bに含まれる成分又は当該成分の配合比及び正極活物質層21bの厚さは特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。正極活物質層21bの厚さは、例えば2~150μmである。
【0040】
導電助剤は、正極21の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒又は分散媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0041】
<負極集電体>
負極集電体22aは、厚さ1~100μmの箔状である。本実施形態において、負極集電体22aは銅箔である。負極集電体22aを構成する材料としては、例えば、金属材料、導電性樹脂材料、導電性無機材料等を用いることができる。
【0042】
導電性樹脂材料としては、例えば、導電性高分子材料又は非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂等が挙げられる。負極集電体22aは、前述した金属材料又は導電性樹脂材料を含む1以上の層を含む複数層を備えてもよい。負極集電体22aの表面は、公知の保護層により被覆されてもよい。負極集電体22aの表面は、メッキ処理等の公知の方法により処理されてもよい。
【0043】
負極集電体22aは、銅箔以外に、例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、チタン箔又はステンレス鋼箔等の金属箔であってもよい。機械的強度を確保する観点から、負極集電体22aは、ステンレス鋼箔(例えばJIS G 4305:2015にて規定されるSUS304、SUS316、SUS301、SUS304等)であってもよい。負極集電体22aは、上記金属の合金箔であってもよい。負極集電体22aは、銅膜によって被覆された基材を含む箔であってもよい。
【0044】
<負極活物質層>
負極活物質層22bは、必須成分として、リチウムイオン等の電荷担体を吸蔵及び放出し得る負極活物質と、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと記載する。)と、スチレン-ブタジエンゴム(以下、SBRと記載する。)とを含有する。
【0045】
負極活物質としては、例えば、Li、又は炭素、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物等が挙げられる。炭素としては天然黒鉛、人造黒鉛、あるいはハードカーボン(難黒鉛化性炭素)又はソフトカーボン(易黒鉛化性炭素)を挙げることができる。人造黒鉛としては、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0046】
負極活物質層22bにおける負極活物質の含有量は、例えば、94.0質量%以上97.3質量%以下である。
CMCのエーテル化度は、0.85以上1.1以下であることが好ましく、0.90以上1.05以下であることがより好ましい。負極活物質と、CMCと、SBRとを含有する負極活物質層22bの場合、CMCのエーテル化度と負極活物質層22bの屈曲度τとの間には、エーテル化度が第1の特定値未満の範囲では、エーテル化度が増加するにしたがって屈曲度τが減少し、第2の特定値を超える範囲ではエーテル化度が増加するにしたがって屈曲度τが増加するという関係がある。
【0047】
したがって、CMCのエーテル化度を0.85以上1.1以下とすることにより、負極活物質層22bの屈曲度τを低下させることができる。負極活物質層22bの屈曲度τが低下することにより、電極細孔内をイオンが通過する際の抵抗であるイオン抵抗が低下し、蓄電装置10の電池特性が向上する。
【0048】
負極活物質層22bにおけるCMCの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下である。CMCの含有量を上記範囲とすることにより、負極集電体22aにおける皺の発生を抑制できる。
【0049】
CMCの含有量は、0.6質量%以上であることが好ましく、0.7質量%以上であることがより好ましい。また、CMCの含有量は、1.2質量%以下であることが好ましく、1.1質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
負極活物質層22bにおけるSBRの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下である。SBRの含有量を2.2質量%以上とすることにより、負極集電体22aにおける皺の発生を抑制できるとともに、負極集電体22aと負極活物質層22bとの間の剥離強度の低下を抑制できる。SBRの含有量を5.0質量%以下とすることにより、負極の抵抗を低減できる。
【0051】
負極集電体22aと負極活物質層22bとの間の剥離強度を更に向上させる場合には、SBRの含有量は、4.4質量%以上であることが好ましく、5.5質量%以上であることがより好ましい。また、SBRの含有量は、7.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
また、負極活物質層22bにおけるCMCの含有量及びSBRの含有量の合計は、6.0質量%以下であることが好ましく、5.5質量%以下であることがより好ましい。CMCの含有量及びSBRの含有量の合計を小さくすることにより、負極活物質層22bの屈曲度τを低下させることができる。これにより、電極細孔内をイオンが通過する際の抵抗であるイオン抵抗が低下し、蓄電装置10の電池特性が向上する。
【0053】
負極活物質層22bは、必要に応じて、負極活物質、CMC、及びSBR以外のその他成分を含有してもよい。その他成分としては、例えば、電気伝導性を高めるための導電助剤、CMC及びSBR以外の結着剤、電解質(ポリマーマトリクス、イオン伝導性ポリマー、電解液等)、イオン伝導性を高めるための電解質支持塩(リチウム塩)が挙げられる。
【0054】
導電助剤は、負極22の導電性を高めるために添加される。導電助剤は、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等である。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体を例示することができる。これらの結着剤は、単独で又は複数で用いられ得る。溶媒には、例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等が用いられる。
【0055】
負極活物質層22bの厚さ及び目付量は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池についての従来公知の知見が適宜参照され得る。ただし、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくする観点から、負極活物質層22bの目付量を大きくすることが好ましい。
【0056】
負極活物質層22bの厚さは、例えば、150μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましい。また、負極活物質層22bの厚さは、例えば、500μm以下である。負極活物質層22bの目付量は、例えば、17mg/cm2以上であることが好ましく、25mg/cm2以上であることがより好ましい。また、負極活物質層22bの目付量は、例えば、60mg/cm2以下である。
【0057】
負極活物質層22bの目付量が17mg/cm2以上である場合、負極活物質層22bにおけるCMCに対するSBRの質量比(SBR/CMC)を1.69以上3以下とすることが好ましく、2.0以上2.6以下とすることがより好ましい。なお、負極活物質層22bにおけるCMCの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下であり、SBRの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下である。したがって、上記質量比(SBR/CMC)が取り得る値の下限は、1.69(=2.2/1.3)である。
【0058】
負極活物質層22bの目付量が大きい場合、負極活物質層22bに、厚みムラ、プレスムラ、抵抗ムラ等の各種ムラが生じやすくなる。負極活物質層22bに生じた各種ムラは、負極活物質層22bの容量劣化を生じさせる原因になる。上記質量比(SBR/CMC)を1.69以上3以下とすることにより、負極活物質層22bの容量劣化を抑制できる。
【0059】
次に、本実施形態の蓄電装置10の製造方法について説明する。
図2に示すように、蓄電装置10は、電極形成工程S1と、蓄電セル形成工程S2と、セルスタック形成工程S3と順に経ることにより製造される。
【0060】
<電極形成工程>
電極形成工程S1は、正極21を形成する正極形成工程と、負極22を形成する負極形成工程とを有する。
【0061】
正極形成工程は特に限定されるものではなく、正極集電体21a及び正極活物質層21bを備える正極21の形成に適用される公知の方法を用いることができる。例えば、正極集電体21aの第1面21a1に対して、固化することにより正極活物質層21bとなる正極合材を所定厚みとなるように付着させた後、正極合材に応じた固化処理を行うことにより正極21を形成することができる。
【0062】
負極形成工程は、負極集電体22aの第1面22a1に対して、固化することにより負極活物質層22bとなる負極合材を付着させた後、所定の固化処理を行うことにより負極22を形成する工程である。
【0063】
負極合材は、必須成分として、負極活物質と、CMCと、SBRと、溶媒とを含有する。また、負極合材は、必要に応じて上記の負極活物質層欄にて記載したその他成分を含有してもよい。
【0064】
負極合材に含有される負極活物質は、上記の負極活物質層欄にて記載したものと同様である。負極合材に含有される固形成分の合計質量を100質量部としたとき、負極活物質の含有量は、例えば、94.0質量部以上97.3質量部以下である。
【0065】
負極合材に含有されるCMCは、上記の負極活物質層欄にて記載したものと同様である。
負極合材に含有される固形成分の合計質量を100質量部としたとき、CMCの含有量は、0.5質量部以上1.3質量部以下である。上記CMCの含有量は、0.6質量部以上であることが好ましく、0.7質量部以上であることがより好ましい。また、上記CMCの含有量は、1.2質量部以下であることが好ましく、1.1質量部以下であることがより好ましい。上記CMCの含有量を0.5質量部以上とすることにより、流動性のある負極合材を調製することが容易になる。
【0066】
負極合材に含有されるSBRは、上記の負極活物質層欄にて記載したものと同様である。負極合材に含有される固形成分の合計質量を100質量部としたとき、SBRの含有量は、2.2質量部以上5.0質量部以下である。上記SBRの含有量は、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましい。
【0067】
溶媒は、例えば、水、N-メチルピロリドン(NMP)である。溶媒は、二種以上を組合せて用いてもよい。溶媒は、水を主成分とする溶媒、例えば、溶媒における水の質量割合が50~100質量%である溶媒であることが好ましい。
【0068】
ここで、水を主成分とする溶媒を用いた場合、負極合材の粘度の経時的な安定性を向上させる観点から、エーテル化度が1.1以下のCMCを用いることが好ましい。CMCのエーテル化度が低下すると、CMCの疎水性が増大して水への溶解性が低下する。これにより、負極合材中においてCMCの疎水性部位が疎水性の高い炭素等の負極活物質の表面に吸着しやすくなり、水を主成分とする溶媒中での負極活物質の分散安定性が向上し、負極合材の粘度の経時的な上昇を抑制できる。
【0069】
溶媒は、例えば、負極合材の固形割合が60~65質量%となるように負極合材に配合される。また、負極合材の粘度は、例えば、25℃において5000~50000mPa・sである。
【0070】
負極形成工程において、負極集電体22aに負極合材を付着させる方法は特に限定させるものではなく、ロールコート法等の電極の形成に適用される公知の方法を用いることができる。負極集電体22aに付着させる負極合材の厚みは、負極合材に含有される固形成分の目付量が、上述した負極活物質層22bの目付量の範囲内となるように設定される。また、負極形成工程の固化処理は、加熱などにより、負極集電体22aに付着させた負極合材を乾燥させて、溶媒を除去する処理である。
【0071】
<蓄電セル形成工程>
蓄電セル形成工程S2では、まず、セパレータ23を間に挟んで正極活物質層21b及び負極活物質層22bが互いに積層方向に対向するように正極21及び負極22を配置するとともに、正極21と負極22の間、かつ正極集電体21a及び負極集電体22aよりも外周側にスペーサ24を配置する。
【0072】
その後、正極21、負極22、及びセパレータ23とスペーサ24とを溶着により接合することにより、各部材が一体化された組立体を形成する。スペーサ24の溶着方法としては、例えば、熱溶着、超音波溶着又は赤外線溶着など、公知の溶着方法が挙げられる。
【0073】
次に、スペーサ24の一部に設けられた注入口を通じて組立体の内部の空間Sに電解質を注入した後、注入口を封止する。これにより、蓄電セル20が形成される。
<セルスタック形成工程>
セルスタック形成工程S3では、まず、複数の蓄電セル20を、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2とを向い合せるように重ねて積層する。このとき、一方の蓄電セル20の正極集電体21aの第2面21a2と、他方の蓄電セル20の負極集電体22aの第2面22a2とを互いに接触させる。その後、積層方向に隣り合う蓄電セル20におけるスペーサ24の外周部分24a同士を接合することにより複数の蓄電セル20を一体化する。
【0074】
次に、積層方向の一端において最も外側に配置された正極21の正極集電体21aの第2面21a2に対して、正極通電板40を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。同様に、積層方向の他端において最も外側に配置された負極22の負極集電体22aの第2面22a2に対して、負極通電板50を重ねて電気的に接続した状態にて固定する。このとき、負極集電体22aの第2面22a2と、負極通電板50とを互いに接触させる。
【0075】
本実施形態においては、正極集電体21a及び負極通電板50が負極集電体22aの第2面22a2に面接触する導電部分に相当する。また、セルスタック形成工程S3における、複数の蓄電セル20を積層する工程及び負極通電板50を接続する工程が、負極22の負極集電体22aの第2面22a2に導電部分を接触させる重ね工程に相当する。
【0076】
次に、本実施形態の作用について説明する。
蓄電装置10は、負極活物質層22bに含有される結着剤成分として、CMC及びSBRを用いるとともに、それらの含有量を特定範囲に設定している。これにより、負極活物質層22bの製造時にCMCから溶媒が除去されることに起因する負極活物質層22bの収縮が抑制されて、箔状の負極集電体22aに皺が生じることを抑制できる。その結果、正極集電体21aの第2面21a2と負極集電体22aの第2面22a2との接触部分における密着性の低下、及び密着性の低下に伴う接触抵抗の増大を抑制できる。
【0077】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)蓄電装置10は、厚さ1~100μmの箔状の負極集電体22aの第1面22a1に負極活物質層22bが設けられた負極22と、正極集電体21aの第1面21a1に正極活物質層21bが設けられてなり、正極活物質層21bが負極22の負極活物質層22bと対向するように配置された正極21と、正極活物質層21bと負極活物質層22bとの間に配置されたセパレータ23とが繰り返し積層されるとともに、負極集電体22aの第2面22a2と、正極集電体21aの第2面21a2とが接触するように負極22及び正極21が積層された構造を有する。負極活物質層22bは、負極活物質と、CMCと、SBRとを含有し、CMCの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下であり、SBRの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下である。
【0078】
上記構成によれば、箔状の負極集電体に皺を生じさせ難い負極活物質層22bが得られる。その結果、負極集電体22aに対する負極活物質層22bの目付量を増加させて、蓄電セル20のエネルギー密度を大きくすることが容易になる。
【0079】
(2)CMCのエーテル化度は、0.85以上1.1以下であることが好ましい。
この場合には、負極活物質層22bの屈曲度τを低下させることができる。これにより、負極活物質層22bの電極細孔内をイオンが通過する際の抵抗であるイオン抵抗が低下し、蓄電装置10の電池特性が向上する。
【0080】
(3)負極活物質層22bの目付量は、17mg/cm2以上であることが好ましい。
負極活物質層22bの目付量が大きくなるほど、負極集電体22aに皺が生じやすくなる。そのため、負極活物質層22bの目付量が大きい場合には、上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0081】
(4)蓄電装置10の製造方法は、負極集電体22aの第1面22a1に負極合材を付着及び乾燥させることにより負極22を形成する負極形成工程と、負極22の負極集電体22aの第2面22a2に導電部分を接触させる重ね工程とを有する。負極合材は、負極活物質と、CMCと、SBRと、溶媒とを含有する。負極合材に含有される固形成分の合計質量を100質量部としたとき、CMCの含有量は、0.5質量部以上1.3質量部以下であり、SBRの含有量は、2.2質量部以上5.0質量部以下である。上記構成によれば、上記(1)の効果が得られる。
【0082】
(5)負極合材に含有される溶媒は、水を主成分とする溶媒であり、負極合材に含有されるCMCのエーテル化度は1.1以下であることが好ましい。
この場合には、溶媒中での負極活物質の分散安定性が向上し、負極合材の粘度の経時的な安定性が向上する。これにより、電極形成工程における負極集電体22aに負極合材を付着させる処理を長時間にわたって連続的に行った場合に、負極合材の塗工むらが生じ難くなり、連続処理が行いやすくなる。
【0083】
(6)負極活物質層22bの目付量は、17mg/cm2以上であり、CMCに対するSBRの質量比(SBR/CMC)は、1.69以上3以下であることが好ましい。
上記構成によれば、負極活物質層22bの目付量が大きいことに起因する負極活物質層22bの容量劣化を抑制できる。なお、この効果は、負極活物質層22bの目付量が大きくなるほど、より顕著に得られる。
【0084】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○電解質は、液体電解質に限定されるものでなく、ポリマーマトリックス中に保持された電解質を含む高分子ゲル電解質等の固体電解質であってもよい。また、セパレータ23自体を高分子電解質又は無機型電解質等の電解質で構成してもよい。
【0085】
○スペーサ24は、正極集電体21a及び負極集電体22aのいずれか一方のみに接合又は固定されるものであってもよい。
○スペーサ24は、正極21及び負極22との間隔を保持して集電体間の短絡を防止する機能を有するものであればよく、正極21及び負極22との間の空間Sを封止する封止部として機能しないものであってもよい。例えば、電解質が固体電解質である場合には、封止部として機能しないスペーサ24を採用できる。また、スペーサ24の形状は、正極集電体21a及び負極集電体22aの周囲を取り囲む枠状に限定されるものではなく、スペーサ24に求められる機能に応じて適宜、変更可能である。
【0086】
○正極21の熱安定性を向上させるために、正極集電体21aの第1面21a1及び第2面21a2の一方又は両方に耐熱層を設けてもよい。耐熱層としては、例えば、無機粒子と結着剤とを含む層が挙げられ、その他に増粘剤等の添加剤を含んでもよい。負極22についても同様である。
【0087】
○正極通電板40と正極集電体21aとの間に、両部材間の導電接触を良好にするために、正極集電体21aに密着する導電層を配置してもよい。導電層としては、例えば、アセチレンブラック又はグラファイト等のカーボンを含む層、Au等を含むメッキ層などの正極集電体21aよりも低い硬度を有する層が挙げられる。また、負極通電板50と負極集電体22aとの間に同様の導電層を配置してもよい。この場合、負極通電板50に代わって導電層が導電部分となる場合がある。
【0088】
○蓄電装置の製造方法に関して、蓄電セル形成工程におけるスペーサ24と他の部材との接合と、積層方向に隣り合う蓄電セル20におけるスペーサ24の外周部分24a同士の接合を一度に行ってもよい。
【0089】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)厚さ1~100μmの箔状の負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられた負極と、前記負極の前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面であって、前記負極活物質層が設けられた部分の反対側に位置する部分に重ね合わされた導電部分とを有する蓄電装置であって、前記負極活物質層は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴムとを含有し、前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5質量%以上1.3質量%以下であり、前記スチレン-ブタジエンゴムの含有量は、2.2質量%以上5.0質量%以下であることを特徴とする蓄電装置。
【0090】
(ロ)厚さ1~100μmの箔状の負極集電体の第1面に負極活物質層が設けられた負極と、前記負極の前記負極集電体における前記第1面の反対側の第2面であって、前記負極活物質層が設けられた部分の反対側に位置する部分に重ね合わされた導電部分とを有する蓄電装置の製造方法であって、前記負極集電体の前記第1面に負極合材を付着及び乾燥させることにより前記負極を形成する負極形成工程と、前記負極の前記負極集電体の前記第2面に前記導電部分を接触させる重ね工程とを有し、前記負極合材は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロースと、スチレン-ブタジエンゴムと、溶媒とを含有し、前記負極合材に含有される固形成分の合計質量を100質量部としたとき、前記カルボキシメチルセルロースの含有量は、0.5質量部以上1.3質量部以下であり、前記スチレン-ブタジエンゴムの含有量は、2.2質量部以上5.0質量部以下であることを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【実施例】
【0091】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
<試験1>
負極活物質、CMC、及びSBRを表1に示す割合で混合するとともに、この混合物に水を加えて固形分比率65質量%の負極合材を調製した。負極集電体の片側の表面に対してドクターブレード法を用いて負極合材を膜状に塗布した。塗布された負極合材を露点-40℃環境下、100℃で6時間加熱処理して、負極合材中の水を除去することにより、負極集電体上に目付量17mg/cm2の負極活物質層が形成された試験例1及び試験例2の負極シートを作製した。
【0092】
試験1に用いた負極活物質、CMC、SBR、及び負極集電体は以下のとおりである。
負極活物質:平均粒子径(D50)が3.3μmの黒鉛
CMC:日本製紙株式会社製MAC350HC(エーテル化度0.83)
SBR:JSR株式会社製TRD2001
負極集電体:厚さ15μmの銅箔
試験例1及び試験例2の負極シートの両面を目視にて観察し、負極集電体の皺の有無を確認した。その結果を表1に示す。
図3(a)は試験例1の負極の負極集電体の第2面を映した写真であり、
図3(b)は試験例2の負極の負極集電体の第2面を映した写真である。
【0093】
【表1】
表1に示すように、CMCの含有量が1.3質量%を超える試験例1では、負極集電体に皺が確認された。一方、CMCの含有量が1.3質量%以下である試験例2では、負極集電体に皺は確認されなかった。
【0094】
<試験2>
負極活物質、CMC、及びSBRの割合を表2に示す割合に変更した点を除いて試験1と同様の方法により試験例3~7の負極シートを作製した。
【0095】
試験例3~7の負極シートの両面を目視にて観察し、負極集電体の皺の有無を確認した。その結果を表2に示す。
試験例3~7の負極シートを2.5cm×4cmに裁断したものを測定サンプルとして、剥離試験装置(MINEBEA社製、LTS-50N-S300)を用いて、JIS K 6854-1に準拠した90度剥離試験を行った。90度剥離試験にて測定された強度を線幅(2.5cm)で除算することにより、測定サンプルにおける負極活物質層と負極集電体との間の剥離強度を算出した。その結果を表2に示す。
【0096】
【表2】
表2に示すように、CMCの含有量が0.5質量%未満である試験例5及び試験例7、並びにSBRの含有量が2.2質量%未満である試験例6及び試験例7では、負極集電体に皺が確認された。また、表2の結果から、負極活物質層と負極集電体との間の剥離強度は、CMCの含有量に対する依存度は低く、SBRの含有量に対する依存度が大きい傾向が確認できる。そして、SBRの含有量を2.2質量%以上とした場合には、負極活物質層と負極集電体との間の剥離強度の低下が抑制されている。
【0097】
<試験3>
負極活物質、CMC、及びSBRの割合を表3に示す割合に変更した点を除いて試験1と同様の方法により試験例8~12の負極シートを作製した。
【0098】
作製した負極シートを所定形状に裁断してなる負極、セパレータ、及び電解液を用いて屈曲度測定用の対称モデルセルを作製した。セパレータとしては、ポリエチレンからなるセパレータを用いた。電解液としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及びエチレンカーボネートを体積比40:35:5:20で混合した混合溶媒に、ヘキサフルオロリン酸リチウムを1.2Mの濃度となるように溶解させた電解液を用いた。
【0099】
下記式(1)に基づいて、各試験例の負極シートの負極活物質層の屈曲度τを算出した。その結果を表3に示す。
屈曲度τ=(Rion・A・K・ε)/2d …(1)
Rion:イオン抵抗
A:電極面積(8.06cm2)
K:電解液のイオン電導度
ε:負極活物質層の空隙率
d:負極活物質層の厚さ(0.1mm)
イオン抵抗Rionは、対称モデルセルの対称セルインピーダンスを測定し、測定された対称セルインピーダンスの極限低周波数の実数成分(=イオン抵抗Rion/3)から導出した。
【0100】
電解液のイオン電導度Kは、白金極を備えたセルに上記組成の電解液を封入したサンプルの25℃、10kHzでの抵抗の測定値から算出した。
負極活物質層の空隙率εは、水銀圧入法を用いて測定した。
【0101】
【表3】
表3に示すように、CMCとSBRの含有量の合計が増加するにしたがって、屈曲度τが増加する傾向が確認できる。
【0102】
<試験4>
負極活物質、CMC、及びSBRの割合、並びにCMCの種類を変更した点を除いて試験1と同様の方法により試験例13~16の負極シートを作製した。負極活物質、CMC、及びSBRの割合は表4に示すとおりである。試験4では、CMCとして、エーテル化度が0.83、0.90、0.93、1.36のいずれかであるCMCを用いた。
【0103】
試験3と同様の方法により各試験例の負極シートの負極活物質層の屈曲度τを算出した。その結果を表4に示す。
【0104】
【表4】
表4に示すように、CMCのエーテル化度が0.85以上1.1以下である試験例14及び試験例15は、CMCのエーテル化度が上記範囲外である試験例13及び試験例16と比較して屈曲度τが低くなった。
【0105】
<試験5>
負極活物質、CMC、及びSBRの割合を表5に示す割合に変更した点を除いて試験1と同様の方法により試験例17~18の負極シートを作製した。試験3と同様の方法により各試験例の負極シートの負極活物質層の屈曲度τを算出した。その結果を表5に示す。
【0106】
また、作製した負極シートを縦3.1mm×横2.6mmの長方形状に裁断してなる負極と、正極と、セパレータとを組合せることにより電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに電解液を注入して、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を得た。
【0107】
正極としては、アルミニウムからなる正極集電体と、LiFePO4とポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックからなる正極活物質層とを有する正極を用いた。セパレータとしては、ポリエチレンからなるセパレータを用いた。電解液としては、試験3と同じものを用いた。
【0108】
得られたリチウムイオン二次電池について、直流電流1.9mAで負極における正極に対する電圧が4.0Vになるまで定電流(CC)充電を行い、その後、4.0Vまで定電圧(CV)充電を2時間行った。充電が終了してから30分後に、負極における正極に対する電圧が2.5Vになるまで放電を行った。1Cの電流値を38.5mAと設定し、下記式に基づいて1C放電特性を算出した。その結果を表5に示す。
【0109】
1C放電特性(%)=(1C CC放電容量/0.33C CC+CV(22.5V、2時間)容量)×100
【0110】
【表5】
表5に示すように、CMCとSBRの含有量の合計を低くすること、及びCMCのエーテル化度を上記の特定範囲とすることにより、屈曲度τが大きく低下する。そして、屈曲度τを低下させた試験例18は、屈曲度τが高い試験例17と比較して、1C放電特性が大きく向上した。
【0111】
<試験6>
負極活物質、CMC、及びSBRを表6に示す割合で混合するとともに、この混合物に水を加えて固形分比率58質量%の試験例19~21の負極合材を調製した。試験6に用いた負極活物質、CMC、及びSBRは試験1と同じである。調製した負極合材を攪拌容器内で攪拌させながら25℃、湿度60%の環境下にて保存し、3日経過後の流動性の有無を目視により確認した。その結果を表6に示す。
【0112】
【表6】
表6に示すように、CMCの含有量が0.5質量%以上である試験例19及び試験例20では、所定時間経過後も流動性が維持された。
【0113】
<試験7>
負極活物質、CMC、及びSBRの割合、並びにCMC及びSBRの種類を変更した点を除いて試験6と同様の方法により試験例22~27の負極合材を調製した。試験7では、CMCとして、エーテル化度が0.90、1.36のいずれかであるCMCを用いた。SBRとして、日本エイアンドエル株式会社製AL1002、日本エイアンドエル株式会社製AL2001、JSR株式会社製TRD2001のいずれかを用いた。
【0114】
調製した負極合材の調整直後の粘度と、攪拌容器内で負極合材を攪拌させながら25℃の環境下にて保存し、7日経過後の粘度を測定し、7日経過後の粘度上昇率を算出した。その結果を表7に示す。
【0115】
【表7】
表7に示す結果から、負極合材の粘度の経時的な上昇率に関して、SBRの種類に対する依存度は低く、CMCのエーテル化度に対する依存度が大きい傾向が確認できる。そして、CMCのエーテル化度が1.1以下である試験例22,24,26では、時間経過による負極合材の粘度の上昇が抑制されている。
【0116】
<試験8>
負極活物質、CMC、及びSBRを表8に示す割合で混合するとともに、この混合物に水を加えて固形分比率63.7質量%の負極合材を調製した。
負極集電体の片側の表面に対して、ドクターブレード法を用いて負極合材を膜状に塗布した。塗布された負極合材を露点-40℃環境下、100℃で6時間加熱処理して、負極合材中の水を除去することにより、負極集電体上に目付量30mg/cm2の負極活物質層が形成された試験例28~31の負極シートを作製した。
【0117】
試験8に用いた負極活物質、CMC、及び負極集電体は以下のとおりである。
負極活物質:平均粒子径(D50)が15.3μmの黒鉛
CMC:エーテル化度0.89のCMC
負極集電体:厚さ15μmの銅箔
作製した負極シートを縦3.1mm×横2.6mmの長方形状に裁断してなる負極と、正極と、セパレータとを組合せることにより電極体電池とした。電池ケース内に、電極体電池を収容するとともに電解液を注入して、電池ケースを密閉することにより、リチウムイオン二次電池を得た。
【0118】
正極としては、アルミニウムからなる正極集電体と、LiFePO4とポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックからなる正極活物質層とを有する正極を用いた。セパレータとしては、ポリエチレンからなるセパレータを用いた。電解液としては、エチレンカーボネートとプロピオン酸メチルを体積比15:85で混合した混合溶媒に、LiPF6を濃度1.2mol/Lで溶解して母液とし、当該母液に対して1質量%に相当する量のリチウムジフルオロ(オキサラート)ボラート(LiDFOB)及び1質量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えて溶解したものを用いた。
【0119】
得られたリチウムイオン二次電池について、直流電流7.58mAで負極電極における正極電極に対する電圧が3.75Vになるまで充電を行い、充電が終了してから10分後に、直流電流25.3mAで負極電極における正極電極に対する電圧が3.0Vになるまで放電を行った。
【0120】
上記の放電及び充電を1サイクルとして5サイクルの充放電を行い、下記式に基づいて容量維持率を算出した。容量維持率を算出する上記試験を2回ずつ実施し、容量維持率の平均値を算出した。その結果を表8に示す。また、負極シートの負極活物質層におけるCMCに対するSBRの質量比(SBR/CMC)と、リチウムイオン二次電池の容量維持率との関係を表すグラフを
図4に示す。
【0121】
容量維持率(%)=(5サイクル後の放電容量/初回サイクルにおける放電容量)×100
【0122】
【表8】
表8及び
図4のグラフに示すように、容量維持率は、上記質量比に応じて変化する。具体的には、容量維持率は、上側に凸となる放物線状に変化するとともに、上記質量比が2.3付近で最大値を取る。したがって、上記質量比を1.69以上3以下の範囲とすることにより容量維持率を高めることができるとともに、負極活物質層の目付量が大きいことに起因する負極活物質層の容量劣化の抑制できる。
【符号の説明】
【0123】
10…蓄電装置、20…蓄電セル、21…正極、21a…正極集電体、21b…正極活物質層、22…負極、22a…負極集電体、22b…負極活物質層、23…セパレータ、24…スペーサ、30…セルスタック、40…正極通電板、50…負極通電板。