IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の制御方法および制御装置 図1
  • 特許-車両の制御方法および制御装置 図2
  • 特許-車両の制御方法および制御装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両の制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/00 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
F02D29/00 G
F02D29/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021012672
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116489
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】入山 正浩
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-080449(JP,A)
【文献】特開2014-009604(JP,A)
【文献】特開2008-121647(JP,A)
【文献】特開2012-233434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動変速機がクラッチを介して内燃機関に接続されてなる車両の制御方法であって、車両発進時に運転者がクラッチペダルを踏み込んでいずれかの変速段を選択した後、クラッチペダルの戻し操作がなされたときに、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近付くように内燃機関の出力をフィードバック制御する車両の制御方法において、
演算周期毎に算出される車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるように上記車速変化量を用いてフィードバック制御量を演算する、車両の制御方法。
【請求項2】
上記車速変化量が負であるときは、上記車速変化量に基づくフィードバック制御量は0とする、請求項1に記載の車両の制御方法。
【請求項3】
上記車速変化量に基づくフィードバック制御量は所定の上限を有する、請求項1または2に記載の車両の制御方法。
【請求項4】
車速に相関するクラッチ出力側の回転速度が上記目標エンジン回転速度以上となったときに上記フィードバック制御を終了する、請求項1~3のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項5】
上記クラッチペダルの戻し操作が終了したときに上記フィードバック制御を終了する、請求項1~4のいずれかに記載の車両の制御方法。
【請求項6】
内燃機関と、この内燃機関にクラッチを介して接続された手動変速機と、を備えた車両の制御装置であって、
この制御装置は、車両発進時に運転者がクラッチペダルを踏み込んでいずれかの変速段を選択した後、クラッチペダルの戻し操作がなされたときに、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近付くように内燃機関の出力をフィードバック制御するフィードバック制御部を有し、
このフィードバック制御部は、演算周期毎に算出される車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるように上記車速変化量を用いてフィードバック制御量を演算する、車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、手動変速機付きの車両において、クラッチの締結動作を伴う車両発進時にエンジン回転速度を目標エンジン回転速度に近付けるように制御する制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手動変速機を備えた車両の発進時には、運転者がクラッチペダルを踏み込んでいずれかの変速段を選択した後、クラッチペダルを戻して、クラッチが滑りを伴う締結状態いわゆる半クラッチ状態とすることで、トルク伝達が開始される。このような車両発進時に、内燃機関の回転速度(エンジン回転速度)が過度に低下して内燃機関の停止を招来したりすることがないように、クラッチの締結動作中にエンジン回転速度を目標エンジン回転速度に近付けるように内燃機関の出力をフィードバック制御する技術が知られている。
【0003】
特許文献1は、このような車両発進時におけるフィードバック制御として、目標エンジン回転速度と実エンジン回転速度との偏差に基づく比例項と積分項と微分項とを用いてフィードバック制御量を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-233434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両の発進時に、車速変化量が大きいと、それだけクラッチの伝達トルクが大きいこととなり、エンジン回転速度の落ち込みが大きくなる。しかしながら、特許文献1の技術では、発進時の車速変化が考慮されておらず、なお改善の余地がある。
【0006】
また、特許文献1のように積分項を用いたフィードバック制御では、偏差の積分値の演算処理に時間を要するため、応答性が悪い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車両発進時に運転者がクラッチペダルを踏み込んでいずれかの変速段を選択した後、クラッチペダルの戻し操作がなされたときに、実エンジン回転速度が目標エンジン回転速度に近付くように内燃機関の出力をフィードバック制御する際に、演算周期毎に算出される車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるように上記車速変化量を用いてフィードバック制御量を演算するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、発進時の車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるので、内燃機関の出力がより大きくなるように制御され、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度に応答性よく復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明の一実施例のシステム構成を示す構成説明図。
図2】車両発進時のパラメータの変化を示すタイムチャート。
図3】車両発進時のフィードバック制御のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施例のシステム構成の概略を示す構成説明図である。一実施例の車両は、内燃機関1に手動変速機2が接続されており、内燃機関1の出力軸と変速機2の入力軸との間にクラッチ3が介在している。変速機2の出力軸は、図示せぬ駆動輪に終減速機構等を介して接続されている。変速機2の変速段を選択するシフトレバー4には、ニュートラル位置が選択されているときに所定の信号(ニュートラル信号)を出力するニュートラルスイッチ5が設けられている。内燃機関1は、ガソリン機関であってもよくディーゼル機関であってもよいが、一例ではガソリン機関であり、電子制御型スロットル弁6の開度に応じた出力が得られる。エンジン回転速度は、クランク角センサ8によって検出される。車両の速度つまり車速は、車速センサ7によって検出される。なお、車速センサ7としては、直接にもしくは間接に車速を検出するいかなる形式のものであってもよい。
【0012】
内燃機関1の出力は、エンジンコントロールユニット11によって制御される。車両のアクセルペダル12の踏込量つまりアクセル開度は、アクセル開度センサ13によって検出される。このアクセル開度センサ13は、検出開度がアイドル状態にあると判定することで、いわゆるアイドルスイッチの機能を兼ねている。ブレーキペダル14には、当該ブレーキペダル14の踏込つまりブレーキ操作を検出するブレーキスイッチ15が設けられている。クラッチ3を操作するためのクラッチペダル16には、クラッチペダル16が僅かでも踏み込まれたことを検出する第1クラッチスイッチ17と、クラッチ3がトルク伝達しない状態となるまでクラッチペダル16が十分に踏み込まれたことを検出する第2クラッチスイッチ18と、が設けられている。従って、手動変速機2の変速操作のために運転者がクラッチペダル16を十分に踏み込んだときには第1クラッチスイッチ17と第2クラッチスイッチ18の双方がオンとなり、クラッチペダル16を中間位置まで踏み込んだいわゆる半クラッチ状態のときには第1クラッチスイッチ17がオンで第2クラッチスイッチ18がオフとなる。
【0013】
上記のニュートラルスイッチ5、車速センサ7、クランク角センサ8、アクセルペダル開度センサ13、ブレーキスイッチ15、第1,第2クラッチスイッチ17,18等の検出信号はエンジンコントロールユニット11に入力される。車両の発進時には、これらの検出信号に基づき、エンジンコントロールユニット11がスロットル弁6を介して内燃機関の出力を補正し、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度に近付ける。なお、エンジンコントロールユニット11には、内燃機関1の統合的な制御のために上記のもの以外にも多数のセンサ類の検出信号が入力されているが、これらは図示省略する。
【0014】
図2は、車両発進時における種々のパラメータの変化を示すタイムチャートである。図の上段から順に、(a)は内燃機関1のトルクを示す。ここで、特性線a1は、アクセル開度に基づく運転者要求トルク、特性線a2は、エンジン回転速度フィードバック制御のために付加されるアシストトルク、をそれぞれ示している。アシストトルクa2は、後述するフィードバック制御量に応じたスロットル弁6の開度増加補正によって実現される。
【0015】
(b)はエンジン回転速度を示す。ここで、特性線b1は実エンジン回転速度、特性線b2は発進時のフィードバック制御中の目標エンジン回転速度、特性線b3はアイドル回転速度、特性線b4はクラッチ3出力側の回転速度、をそれぞれ示す。図示例では発進時の目標エンジン回転速度b2がアイドル回転速度b3よりも高く設定されているが、本発明においては目標エンジン回転速度の値は任意であり、例えばアイドル回転速度と等しい値であってもよい。またクラッチ3出力側の回転速度b4は、変速段が一定であれば車速に相関するので、このタイムチャートではクラッチ3出力側の回転速度b4が同時に車速を示している。
【0016】
(c)はアクセルペダル12が踏み込まれていないアイドル状態であることを示すアイドルフラグであり、オンがアイドル状態である。(d)は第1クラッチスイッチ17のオン・オフに対応した第1クラッチスイッチフラグ、(e)は第2クラッチスイッチ18のオン・オフに対応した第2クラッチスイッチフラグ、(f)はニュートラルスイッチ5のオン・オフに対応したニュートラルフラグ、(g)は発進時のフィードバック制御中であることを示すフィードバック制御フラグ、をそれぞれ示す。
【0017】
このタイムチャートは、運転者がアクセルペダル12を踏み込むことなくシフト操作および発進を行った場合を例にしており、発進後に時間t7においてアクセルペダル12が踏み込まれるまでは、アイドルフラグはオンである。また運転者要求トルクa1は時間t7まで基本的に一定となる。
【0018】
タイムチャートの開始時点では、車両は停止していて、クラッチペダル16は踏み込まれておらず、また手動変速機2はニュートラル位置にある。発進に際しては、運転者がクラッチペダル16を踏み込むため、時間t1において第2クラッチスイッチ18に基づく第2クラッチスイッチフラグがオンとなる。クラッチペダル16の僅かな踏み込みに応答する第1クラッチスイッチ17による第1クラッチスイッチフラグは、第2クラッチスイッチフラグに先行してオンとなる。そして、クラッチ3を開放状態としたまま運転者がシフトレバー4によりいずれかの変速段を選択することで、時間t2においてニュートラルスイッチ5に対応したニュートラルフラグがオフとなる。
【0019】
運転者がシフト操作の後にクラッチペダル16を部分的に戻すと、時間t3において第1クラッチスイッチ17に基づく第1クラッチスイッチフラグがオンのまま第2クラッチスイッチ18に基づく第2クラッチスイッチフラグがオフとなる。このときクラッチ3は、滑りを伴いつつトルク伝達を行ういわゆる半クラッチ状態となる。このように半クラッチ状態となった時点(t3)から発進時のフィードバック制御が開始し、フィードバック制御フラグがオンとなる。
【0020】
このフィードバック制御では、実エンジン回転速度b1が目標エンジン回転速度b2に収束するようにアシストトルクa2が与えられる。アシストトルクa2の付加によって実エンジン回転速度b1の落ち込みが回避され、かつ図示例ではアイドル回転速度b3よりも高く設定された目標エンジン回転速度b2に近付くように実エンジン回転速度b1が上昇する。
【0021】
その後、時間t4において車両が発進する。そのため、発進直後は実エンジン回転速度b1が低下しようとするが、フィードバック制御により比較的大きなアシストトルクa2が付加されることで実エンジン回転速度b1の落ち込みが抑制され、フィードバック制御の終了まで、目標エンジン回転速度b2近傍に実エンジン回転速度b1が維持される。
【0022】
発進後の時間t5において、クラッチ3出力側の回転速度b4が目標エンジン回転速度b2以上となり、この時点でフィードバック制御が終了する。これは、クラッチ3の入力側と出力側との回転速度差がほとんどないことを示している。
【0023】
フィードバック制御は、このほか、クラッチペダル16が完全に解放されてクラッチ3が締結状態となった場合(第1クラッチスイッチフラグがオフ:時間t6)にも終了する。
【0024】
このように、手動変速機2を備えた車両の発進時に、目標エンジン回転速度b2に沿うようにフィードバック制御を行うことで、円滑な発進を行うことができる。
【0025】
ここで、フィードバック制御中のフィードバック制御量(換言すればアシストトルクa2の大きさ)は、車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるように車速変化量を考慮して演算される。
【0026】
図3は、フィードバック制御中にフィードバック制御量を演算するフィードバック制御部の機能ブロック図である。なお、このブロック図で示す機能は、エンジンコントロールユニット11が実行するソフトウェアによって実現される。
【0027】
この実施例では、目標エンジン回転速度b2と実エンジン回転速度b1との偏差に適宜なゲインを乗じた第1の項(P項)と、実エンジン回転速度b1の変化量ΔNに適宜なゲインを乗じた第2の項(D項)と、車速変化量に適宜なゲインを乗じた第3の項(V項)と、の和としてフィードバック制御量が求められる。
【0028】
詳しくは、P項は、ブロック21において目標エンジン回転速度b2と実エンジン回転速度b1との偏差Eを求め、ブロック22においてブロック23が出力するゲインG1を偏差Eに乗算することで算出される。算出されたP項の値は、加算器であるブロック24に入力される。
【0029】
D項は、サンプリング時間毎の実エンジン回転速度b1の変化量ΔNを図外のブロックで求め、ブロック31においてブロック32が出力するゲインG2をこの変化量ΔNに乗算することで算出される。算出されたD項の値は、加算器であるブロック24に減算値として入力される。
【0030】
V項は、車速の今回値とブロック41が出力する前回値(1周期前の値)との差(つまり車速変化量)をブロック42において求め、ブロック43においてブロック44が出力するゲインG3を車速変化量に乗算することで算出される。また、算出された値をブロック45において0(ブロック46)と大小比較して大きい方の値を出力する。つまり、V項の値は、0で制限され、負値となることがない。さらにブロック45が出力する値を、ブロック47においてブロック48が出力する上限値と大小比較し、小さい方の値を出力する。つまり、V項の値は、ブロック48が出力する上限値によって制限される。最終的にブロック47から出力されるV項の値が、加算器であるブロック24に入力される。
【0031】
ブロック24では、P項およびV項の値を加算しかつD項の値を減算して、フィードバック制御量(換言すれば図2のアシストトルクa2)を出力する。エンジンコントロールユニット11では、このフィードバック制御量に基づいて、内燃機関1のスロットル弁6の開度増加補正を行う。
【0032】
このように上記実施例では、アシストトルクa2となるフィードバック制御量の演算に車速変化量が用いられ、この車速変化量が大きいほどフィードバック制御量が大となるので、車速変化量が大きいときの内燃機関1の回転速度の落ち込みを素早く回復することができる。また上記実施例では、フィードバック制御量の演算に積分項を含まないので、積分項に起因する応答遅れが生じない。従って、発進時の回転速度のフィードバック制御をより応答よく実現できる。
【0033】
なお、上記のP項やD項は本発明の要部ではなく、V項以外の部分については上記実施例に限らず公知のフィードバック制御手法を適宜に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1…内燃機関
2…手動変速機
3…クラッチ
5…ニュートラルスイッチ
11…エンジンコントロールユニット
16…クラッチペダル
17…第1クラッチスイッチ
18…第2クラッチスイッチ
図1
図2
図3