(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両の制御方法及び車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
B60L15/20 J
(21)【出願番号】P 2021018535
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 彰
(72)【発明者】
【氏名】中島 孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健吾
(72)【発明者】
【氏名】本杉 純
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-022339(JP,A)
【文献】特開平09-130912(JP,A)
【文献】特開2011-155794(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/080027(JP,A1)
【文献】特開平11-113108(JP,A)
【文献】特開2014-166053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0126141(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第109849685(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20-6/547
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
B60W 10/00-20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータを走行駆動源とし、前記駆動モータの回生制動力により減速する車両の制御方法であって、
アクセル操作量に基づいて前記車両が停止する際に、前記車両に作用する外乱を推定して求められた外乱トルク推定値に収束させるように前記駆動モータのトルクを制御する制御ステップを備え、
前記制御ステップでは、
前記車両が停止する際における期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる第1期間においては、前記外乱トルク推定値に前記駆動モータのトルクを収束させるように制御し、
前記車両が停止する際における期間のうち、前記相対的に低い車速域から前記車両が停止した後までの第2期間においては、前記車両の走行路の勾配に基づいて、前記外乱トルク推定値の大きさを減少させたトルク目標値に前記駆動モータのトルクを収束させるように制御する、
車両の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御方法であって、
前記第1期間は、前記相対的に高い車速域から前記車両が停止したと判定されるまでの期間であり、
前記第2期間は、前記車両の停止判定後に前記車両の停止状態が維持されている期間である、
車両の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車両の制御方法であって、
前記制御ステップでは、
前記走行路の勾配を取得し、当該勾配に基づいて勾配抵抗推定値を算出する勾配抵抗推定処理と、
前記外乱トルク推定値と前記勾配抵抗推定値とに基づいて、前記トルク目標値を求めるトルク算出処理と、を実行する、
車両の制御方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車両の制御方法であって、
前記勾配抵抗推定処理では、前記車両が停止する際における前記車両の前後方向の加速度に基づいて、前記走行路において前記車両の停止状態を継続させるために必要な前記駆動モータのトルクを前記勾配抵抗推定値として算出する、
車両の制御方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の車両の制御方法であって、
前記トルク算出処理では、前記勾配抵抗推定値が、0を基準として設定される正負の値を含む所定範囲に含まれる場合には、前記トルク目標値を0とする、
車両の制御方法。
【請求項6】
請求項3から5の何れかに記載の車両の制御方法であって、
前記トルク算出処理では、前記勾配抵抗推定値が、0を基準として設定される正負の値を含む所定範囲に含まれない場合には、前記勾配抵抗推定値に基づいて前記外乱トルク推定値の大きさを減少させた値を前記トルク目標値とする、
車両の制御方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の車両の制御方法であって、
前記所定範囲は、前記外乱トルク推定値及び前記勾配抵抗推定値を用いて求められる前記車両の走行抵抗に基づいて設定される、
車両の制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の車両の制御方法であって、
前記トルク算出処理では、前記勾配抵抗推定値と、前記外乱トルク推定値及び前記勾配抵抗推定値を用いて求められる前記車両の走行抵抗との演算により求められた値を、前記トルク目標値とする、
車両の制御方法。
【請求項9】
請求項3に記載の車両の制御方法であって、
前記トルク算出処理では、前記勾配抵抗推定値を前記トルク目標値とする、
車両の制御方法。
【請求項10】
走行駆動源として機能する駆動モータと、前記駆動モータのトルクを制御し、前記駆動モータの回生制動力により減速させる制御を実行するコントローラとを備える車両の制御システムであって、
前記コントローラは、アクセル操作量に基づいて前記車両が停止する際に、前記車両に作用する外乱を推定して求められた外乱トルク推定値に収束させるように前記駆動モータのトルクを制御する停止制御処理を実行し、
前記停止制御処理では、
前記車両が停止する際における期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる第1期間においては、前記外乱トルク推定値に前記駆動モータのトルクを収束させるように制御し、
前記車両が停止する際における期間のうち、前記相対的に低い車速域から前記車両が停止した後までの第2期間においては、前記車両の走行路の勾配に基づいて、前記外乱トルク推定値の大きさを減少させたトルク目標値に前記駆動モータのトルクを収束させるように制御する、
車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動モータで駆動する車両の制御方法及び車両の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクセルペダルの操作量が減少またはゼロになったときに、駆動モータの回生制動力を用いて車両を停止させ、さらに駆動モータのトルク制御を行って停止状態を維持する技術が提案されている。例えば、アクセルペダルの操作量が所定値以下であり、かつ、車両が停車間際である場合には、推定される車両速度の低下とともに、外乱トルク推定値にトルク指令値を収束させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術では、車両が停車間際になると、推定される車両速度の低下とともに駆動モータの駆動トルクを調整し、概ね勾配抵抗となる外乱トルク推定値に収束させることができる。ここで、車両が砂地や深雪などを走行する場合には、砂地や深雪へのタイヤの沈み込み特性により走行抵抗が大きくなり、外乱トルク推定値が大きくなることが多い。そのため、上述した従来技術を用いて、砂地や深雪などの路面において車両を停止させる場合には、外乱トルク推定値が、路面の勾配に応じて増加する勾配抵抗よりも大きな値となることがある。この場合には、停止状態を維持するために出力する駆動モータの駆動トルクが必要以上に大きくなるおそれがある。そこで、不必要な駆動トルクを入力し続けた状態で停車を継続することによる駆動モータの発熱や電費の悪化を防止することが重要となる。
【0005】
本発明は、車両の停止時における駆動モータの発熱や電費の悪化を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、駆動モータを走行駆動源とし、駆動モータの回生制動力により減速する車両の制御方法である。この制御方法は、アクセル操作量に基づいて車両が停止する際に、車両に作用する外乱を推定して求められた外乱トルク推定値に収束させるように駆動モータのトルクを制御する制御ステップを備える。この制御ステップでは、車両が停止する際における期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる第1期間においては、外乱トルク推定値に駆動モータのトルクを収束させるように制御し、車両が停止する際における期間のうち、相対的に低い車速域から車両が停止した後までの第2期間においては、車両の走行路の勾配に基づいて、外乱トルク推定値の大きさを減少させたトルク目標値に駆動モータのトルクを収束させるように制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の停止時における駆動モータの発熱や電費の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、車両の主要なシステム構成を説明するブロック図である。
【
図2】
図2は、車両の主要なシステム構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、モータコントローラによる車両制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、モータトルクの目標値を求める際に用いられるアクセル開度-トルクテーブルの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図である。
【
図6】
図6は、停止制御処理で用いられる勾配抵抗推定値を算出する算出方法の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、モータコントローラの機能構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、車両速度F/Bトルク設定部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、外乱トルク推定部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、停止維持トルク切替部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、停止維持トルク切替部による停止維持トルク算出の際に用いられるマップを示す図である。
【
図12】
図12は、モータコントローラの機能構成例を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、平坦路において停止制御処理を実行した場合におけるタイムチャートである。
【
図15】
図15は、登坂路において停止制御処理を実行した場合におけるタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[車両の構成例]
図1は、本実施形態による制御方法が適用される車両10の主要なシステム構成を説明するブロック図である。
【0011】
なお、本実施形態における車両10としては、走行駆動源としての駆動モータ4(電動モータ)を備え、駆動モータ4の駆動力により走行可能な電動車両が想定される。このような電動車両には、電気自動車(EV)、又はハイブリッド自動車(HEV)などが含まれる。
【0012】
図1に示すように、車両10は、主に、バッテリ1と、モータコントローラ2と、インバータ3と、駆動モータ4と、各種センサ類(回転センサ6、電流センサ7、前後加速度センサ11)とを含む。
【0013】
バッテリ1は、駆動モータ4に駆動電力を供給(放電)する電力源として機能する一方で、駆動モータ4から回生電力の供給を受けることで充電が可能となるように、インバータ3に接続されている。なお、バッテリ1は、直流電源の一例である。
【0014】
モータコントローラ2は、例えば、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および、入出力インタフェース(I/Oインタフェース)から構成されるコンピュータである。
【0015】
モータコントローラ2には、前後加速度センサ11による検出値a、車速V、アクセル開度Apo、駆動モータ4の回転子位相θ、及び駆動モータ4に流れる電流(以下、単に「モータ電流Im」とも称する)等の車両状態を示す各種車両変数の信号がデジタル信号として入力される。モータコントローラ2は、入力された各種信号に基づいて駆動モータ4が出力すべきトルクとしてトルク指令値を算出する。さらに、モータコントローラ2は、算出したトルク指令値に基づいてインバータ3を駆動させるためのPWM信号を生成する。
【0016】
インバータ3は、各相に対応して具備された2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS-FET等のパワー半導体素子)を有する。インバータ3は、モータコントローラ2で生成されたPWM信号に基づいて、上記スイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流電流を交流電流に変換あるいは逆変換し、駆動モータ4に供給する電流を所望の値に調節する。
【0017】
駆動モータ4は、三相交流モータとして構成される。駆動モータ4は、インバータ3により供給される交流電流によって車両10の駆動力(又は回生制動力)を生成する。なお、駆動モータ4により生成される駆動力(又は回生制動力)は、車両10の動力伝達系(減速機5及びドライブシャフト8など)を介して駆動輪9L、9Rに伝達する。
【0018】
なお、駆動モータ4は、車両10の走行時に駆動輪9L、9Rに連れ回されて回転するときに、回生制動力を発生させることで、車両10の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0019】
回転センサ6は、駆動モータ4の回転子位相θをそれぞれ検出し、モータコントローラ2に出力する。なお、回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダなどにより構成される。
【0020】
電流センサ7は、モータ電流Im、特に三相交流電流(iu,iv,iw)の各位相成分をそれぞれ検出する。なお、三相交流電流(iu,iv,iw)の和は0であるため、電流センサ7により任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。以下では、この三相交流電流(iu,iv,iw)の検出値を「三相電流検出値(iu_d,iv_d,iw_d)」とも称する。
【0021】
前後加速度センサ11は、車両10の前後方向の加速度を測定するセンサであり、その検出値aをモータコントローラ2に出力する。また、前後加速度センサ11により車両10の前後方向の加速度を測定することで、車両10の動き、傾き、振動等の度合いを計測することができる。なお、前後加速度センサ11は、路面傾斜を計測もしくは推定する手段の一例である。
【0022】
[車両のシステム構成例]
図2は、車両10の主要なシステム構成例を示すブロック図である。車両10は、バッテリ1と、インバータ3と、駆動モータ4と、回転センサ6と、電流センサ7と、トルク目標値算出部101と、勾配抵抗推定部102と、停止制御部103と、トルク比較部104と、制振制御部105と、電流電圧変換器106と、電流制御器107と、座標変換器108、110と、PWM変換器109と、回転数演算器111とを備える。なお、トルク目標値算出部101から回転数演算器111までの各部は、
図1に示すモータコントローラ2に対応する。また、
図1に示す構成に対応する各部には、
図1と同一符号を付して説明する。
【0023】
トルク目標値算出部101は、アクセル開度Apoと回転数検出値ω
m(または車速V)とに基づいて、第1のトルク目標値T
m1
*を算出する第1のトルク目標値算出処理を実行するものである。なお、第1のトルク目標値算出処理については、
図3のステップS202を参照して詳細に説明する。
【0024】
勾配抵抗推定部102は、路面傾斜に基づいて勾配抵抗推定値T
d1を算出するものである。具体的には、勾配抵抗推定部102は、前後加速度センサ11により取得された検出値aと、モータ回転速度ω
mとに基づいて、勾配抵抗推定値T
d1を算出する。勾配抵抗推定値T
d1は、車両10が存在する路面において車両10の停止を継続させるために必要な駆動モータ4のトルクを示す値であって、その路面の勾配に応じた検出値aに基づいて推定される。なお、勾配抵抗推定値T
d1の算出方法については、
図6を参照して詳細に説明する。
【0025】
停止制御部103は、車両10を停止させるための停止制御処理を実行するものである。具体的には、停止制御部103は、勾配抵抗推定部102により算出された勾配抵抗推定値T
d1と、回転数演算器111から出力された回転数検出値ω
mと、トルク比較部104から出力された第3のトルク目標値T
m3
*とに基づいて、第2のトルク目標値T
m2
*を算出し、トルク比較部104に出力する。なお、停止制御部103については、
図7を参照して詳細に説明する。
【0026】
トルク比較部104は、車両10を停止させるための停止制御処理に用いられる第3のトルク目標値T
m3
*を出力するものである。具体的には、トルク比較部104は、トルク目標値算出部101により算出された第1のトルク目標値T
m1
*と、停止制御部103により算出された第2のトルク目標値T
m2
*とを比較し、その比較結果に基づいて、第3のトルク目標値T
m3
*を制振制御部105に出力する。なお、停止制御部103及びトルク比較部104により実行される停止制御処理については、
図3のステップS203を参照して詳細に説明する。また、トルク比較部104については、
図7を参照して詳細に説明する。
【0027】
制振制御部105は、トルク比較部104から出力された第3のトルク目標値T
m3
*と、回転数演算器111から出力された回転数検出値ω
mとに基づいて、制振制御処理を実行するものである。なお、制振制御処理については、
図3のステップS204を参照して詳細に説明する。また、制振制御部105については、
図10を参照して詳細に説明する。
【0028】
電流電圧変換器106は、駆動モータ4に入力されるトルク指令値Tm6*、駆動モータ4の回転数検出値ωm、インバータ3に入力されるバッテリ1の電圧検出値Vdcを指標としたマップ検索(マップは予めメモリに格納しておく)により、dq軸電流指令値id
*、iq
*と、dq軸非干渉電圧指令値Vd_dcpl*、Vq_dcpl*とを算出するものであり、各値を電流制御器107に出力する。
【0029】
電流制御器107は、電流電圧変換器106から出力された各値と、座標変換器110から出力されたdq軸電流検出値id、iqとに基づいて、電流制御演算を実行して、dq軸電圧指令値Vd
*、Vq
*を算出するものであり、dq軸電圧指令値Vd
*、Vq
*を座標変換器108に出力する。具体的には、電流制御器107は、電流電圧変換器106により算出されたdq軸非干渉電圧指令値Vd_dcpl*、Vq_dcpl*をローパスフィルタ処理してVd_dcpl_flt*、Vq_dcpl_flt*を求める。そして、電流制御器107は、dq軸電流指令値id
*、iq
*と、ローパスフィルタ処理後のVd_dcpl_flt*、Vq_dcpl_flt*と、dq軸電流検出値id、iqとに基づいて、dq軸電圧指令値Vd
*、Vq
*を算出する。
【0030】
座標変換器108は、dq軸電圧指令値Vd
*、Vq
*と、駆動モータ4の磁極位置検出値θを入力し、以下の式(1)による座標変換処理によってUVW各相の電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*を算出し、出力する。
【0031】
【0032】
PWM変換器109は、電圧指令値Vu
*、Vv
*、Vw
*に応じた、インバータ3のスイッチング素子の駆動信号Duu
*、Dul
*、Dvu
*、Dvl
*、Dwu
*、Dwl
*を生成し、インバータ3に出力する。
【0033】
インバータ3は、駆動信号に応じてバッテリ1の直流電圧を交流電圧Vu
*、Vv
*、Vw
*に変換し、駆動モータ4に供給する。
【0034】
電流センサ7は、三相のうち少なくとも二相の電流(例えばU相、V相のiu、iv)を検出し、座標変換器110に入力する。なお、電流センサを二相のみに取り付ける場合、検出されない残り1相の電流値は、原理的に式(2)で求めることができる。
iw=-iu-iv …(2)
【0035】
座標変換器110は、以下の式(3)により、dq軸電流検出値id、iqを算出する。
【0036】
【0037】
回転センサ(磁極位置検出器)6は、駆動モータ4の回転子の磁極位置を検出し、その検出値(磁極位置検出値θ)を出力する。なお、磁極位置検出値θは、回転子位相θとも称して説明する。
【0038】
回転数演算器111は、磁極位置検出値θを入力して回転数検出値ωmを演算し、出力する。
【0039】
このようにして求めたPWM信号によりインバータ3のスイッチング素子を開閉制御することにより、駆動モータ4をトルク指令値で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0040】
このように、モータコントローラ2は、アクセル操作量が減少またはゼロになると、駆動モータ4の回生制動力により減速させる制御を実行する制御装置の一例である。また、モータコントローラ2は、モータトルク指令値を算出するモータトルク指令値算出手段と、車両10に作用する外乱を推定する外乱トルク推定手段と、駆動軸の回転速度に相関のある角速度(モータ回転速度や車輪角速度等)を検出する手段との一例である。また、モータコントローラ2は、その角速度に所定のゲインを乗算して、角速度F/Bトルクを算出する角速度F/Bトルク算出手段の一例である。また、モータコントローラ2は、モータトルク指令値算出手段により停車間際を判定し、角速度F/Bトルク算出手段により車両10に加わる制駆動力を調整し、外乱トルク推定手段で決まる外乱トルク推定値に収束させる停止制御手段の一例である。
【0041】
[モータコントローラの動作例]
以下、本実施形態による電動車両制御方法に関する各種処理について説明する。なお、以下で説明する各種処理は、モータコントローラ2が記憶領域(ROMなど)に記憶されたプログラムにしたがい実行する。
【0042】
図3は、モータコントローラ2による車両制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。なお、以下の各処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0043】
図4は、モータトルクの目標値を求める際に用いられるアクセル開度-トルクテーブルの一例を示す図である。このアクセル開度-トルクテーブルについては、ステップS202の処理を参照して説明する。
【0044】
ステップS201において、モータコントローラ2は、ステップS202以降の処理を実行するために用いる各種パラメータ(制御演算に必要な各種信号)を取得する入力処理を行う。
【0045】
具体的に、モータコントローラ2は、各種センサ又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、上位の車両制御コントローラ)との通信により、アクセル開度Apo(%)、回転子位相θ[rad]、三相電流検出値(iu_d,iv_d,iw_d)[A]、前後加速度センサ11による検出値a、及びバッテリ1の直流電圧値Vdc[V]を取得する。
【0046】
なお、アクセル開度Apoは、アクセル開度センサの検出値として取得されるか、又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、上位の車両制御コントローラ)との通信により取得される。また、回転子位相θは、例えば、レゾルバやエンコーダなどの回転センサの検出値として取得されるか、又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、上位の車両制御コントローラ)との通信により取得される。また、直流電圧値Vdcは、例えば、バッテリ1の直流電源ラインに設けられる電圧センサの検出値、又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、バッテリコントローラ)との通信により取得される。また、検出値aは、例えば、前後加速度センサ11の検出値として取得されるか、又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、上位の車両制御コントローラ)との通信により取得される。また、三相電流検出値(iu_d,iv_d,iw_d)は、図示しない電流センサの検出値として取得されるか、又はモータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、上位の車両制御コントローラ)との通信により取得される。なお、三相電流値の合計は0になることから、例えばiwは電流センサからの入力をせずに、上述した式(2)を用いて、iuとivの値に基づいて計算で求めてもよい。
【0047】
次に、モータコントローラ2は、取得した各パラメータに基づいて、駆動モータ4の電気角速度ωe[rad/s]、モータ回転速度ωm[rad/s]、及び直流電圧値Vdc[V]、並びに車速V[km/h]を以下の(i)~(iii)のように演算する。
【0048】
(i)電気角速度ωe(電気角)
回転子位相θ(電気角)を時間微分することで演算する。
【0049】
(ii)モータ回転速度ωm[rpm]
電気角速度ωeを駆動モータ4の極対数で除して駆動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm[rad/s]を求めた後に、[rad/s]から[rpm]への単位変換係数(60/2π)を乗じることで求められる。
【0050】
(iii)車速V[km/h]
モータ回転速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、この乗算により得られた値と減速機5のギア比(入力回転数/出力回転数)を乗じて車速v[m/s]を演算する。さらに、演算した車速v[m/s]に単位変換係数(3600/1000)を乗じることで車速V[km/h]を得る。なお、モータコントローラ2とは異なる他の任意のコントローラ(例えば、メータコントローラやブレーキコントローラ)との通信により取得するようにしてもよい。
【0051】
なお、車速Vとモータ回転速度ωmは、駆動モータ4と駆動輪9の間の動力伝達経路における減速比分を除いて相互にほぼ同等の制御パラメータ(速度パラメータ)とみなすことができる。したがって、説明の簡略化の観点から、以下の処理は速度パラメータとしてモータ回転速度ωmを採用した例についてフォーカスする。一方で、以下の説明は、上述した減速比分の相違を考慮することで車速Vを速度パラメータとした場合にも同様に適用が可能である。
【0052】
次に、ステップS202において、モータコントローラ2(
図2に示すトルク目標値算出部101)は、第1のトルク目標値算出処理を実行する。具体的に、トルク目標値算出部101は、予め内部メモリなどに記憶された
図3に例示するアクセル開度-トルクテーブルを参照し、ステップS201で取得したアクセル開度Apo及びモータ回転速度ω
mに基づいて、基本トルク目標値としての第1のトルク目標値T
m1
*を算出する。すなわち、第1のトルク目標値T
m1
*とは、車両10の走行中においてドライバ操作又は自動運転コントローラの指令に応じた要求駆動力から定まるモータトルクTの基本的な目標値である。
【0053】
ステップS203において、モータコントローラ2(
図2に示す停止制御部103、トルク比較部104)は、停止制御処理を実行する。具体的には、モータコントローラ2は、車両10が停車間際であるか否かを判定する。なお、停止間際は、アクセル操作量に基づいて車両10が停止する際における期間を意味する。例えば、アクセル操作量に基づいて車両10が停止する際における期間のうち、車速が所定値以下となった場合を停止間際とすることができる。また、例えば、トルク比較部104は、第1のトルク目標値T
m1
*が第2のトルク目標値T
m2
*以下となった場合を停車間際と判定することができる。なお、停止間際と判定された後の期間のうち、相対的に高い車速域から車両10が停止したと判定されるまでの期間を第1期間と称する。また、停止間際と判定された後の期間のうち、車両10の停止判定後に車両10の停止状態が維持されている期間を第2期間と称する。なお、停止間際と判定された後の期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる期間を第1期間としてもよい。この場合には、停止間際と判定された後の期間のうち、相対的に低い車速域から車両10が停止した後までの期間を第2期間とする。
【0054】
そして、停車間際と判定される前には、モータコントローラ2は、ステップS202において算出された第1のトルク目標値T
m1
*を第3のトルク目標値T
m3
*として設定する。また、モータコントローラ2は、停車間際と判定された後には、駆動モータ4の回転速度の低下とともに外乱トルク推定部400(
図7参照)で求められる外乱トルク推定値T
dに収束する第2のトルク目標値T
m2
*を第3のトルク目標値T
m3
*に設定する。なお、停車間際と判定された後の所定タイミングにおいて、モータコントローラ2は、外乱トルク推定値T
dに収束する第2のトルク目標値T
m2
*の代わりに、勾配抵抗推定値T
d1に基づいて求められる停止維持トルクT
d2に収束する第2のトルク目標値T
m2
*を第3のトルク目標値T
m3
*に設定する。これにより、適切なモータトルクにより、勾配に依らず停車状態を保持することができる。なお、停止制御処理については、
図7乃至
図11を参照して詳細に説明する。
【0055】
ステップS204において、モータコントローラ2(
図2に示す制振制御部105)は、制振制御処理を実行する。具体的には、モータコントローラ2は、ステップS203において算出された第3のトルク目標値T
m3
*と、モータ回転速度ω
mとを入力し、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなく、トルク伝達系振動(ドライブシャフトの捩じり振動等)を抑制する第6のトルク目標値T
m6
*を算出する。なお、制振制御処理については、
図12、
図13を参照して詳細に説明する。
【0056】
ステップS205において、モータコントローラ2(
図2に示す電流電圧変換器106)は、電流電圧指令値算出処理を実行する。具体的には、モータコントローラ2は、ステップS201において求められたモータ回転速度ω
m及び直流電圧値Vdcと、ステップS204において算出された第6のトルク目標値T
m6
*とに基づいて、予め内部メモリ等に記憶させたテーブルを参照して、dq軸電流指令値i
d
*、i
q
*と、dq軸非干渉電圧指令値V
d_dcpl
*、V
q_dcpl
*とを算出する。
【0057】
ステップS206において、モータコントローラ2は、駆動モータ制御処理を実行する。具体的には、モータコントローラ2は、
図2に示す電流制御器107の処理以降の各処理を実行し、駆動モータ4を制御する。
【0058】
次に、ステップS203の停止制御処理の詳細について説明する。
【0059】
[車両状態制御]
まず、本実施形態における停止制御処理において用いられる車両10の駆動力伝達系における各伝達特性について説明する。
【0060】
1.車両応答Gr(s)
まず、車両10の駆動力伝達系をモデル化した車両モデルに基づく車両応答Gr(s)の設定について説明する。なお、モータコントローラ2は、以下で説明する演算アルゴリズムにしたがい定まる車両応答Gr(s)を、後述する外乱トルク推定値Tdの演算などの停止制御処理に係る種々の処理に必要に応じて適用する。
【0061】
図5は、車両10の駆動力伝達系をモデル化した図である。
図5における各パラメータは以下のとおりである。
J
m:駆動モータ4のイナーシャ
J
w:駆動輪9のイナーシャ
M:車両10の重量
K
d:駆動系のねじり剛性
K
t:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤの荷重半径
ω
m:駆動モータ4の回転速度
T
m:モータトルク(トルク指令値T
m
**)
T
d:駆動輪9のトルク
F:車両10に加えられる力
V:車両10の速度(車速)
ω
w:駆動輪9の角速度
【0062】
図5より、車両10の運動方程式は、以下の式(4)~(8)で表される。
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【0063】
そして、トルク指令値Tm
**からモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)は、上記式(4)~(8)をラプラス変換しつつ変形した以下の式(9)で表される。
【0064】
【0065】
ただし、式(9)中の各パラメータは、それぞれ以下の式(10)のように定義される。
【0066】
【0067】
ここで、式(9)に示す伝達関数の極と零点を調べると、以下の式(11)の伝達関数に近似でき、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次の式(11)のαとβが極めて近い値を示すことに相当する。
【0068】
【0069】
従って、式(11)における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、次の式(12)に示すように(2次)/(3次)の伝達特性Gp(s)を構成する。
【0070】
【0071】
また、車両モデルGp(s)と制振制御のアルゴリズムにより、Gp(s)は、以下の式(13)に示すGr(s)と見なすことができる。
【0072】
【0073】
次に、モータトルクTmから、車両速度V迄の伝達特性Gpv(s)について説明する。
【0074】
上述した運動方程式(4)~(8)に基づいて、伝達特性Gpv(s)を求めると、以下の式(14)となる。
【0075】
【0076】
また、運動方程式(11)及び(14)に基づいて、モータ回転速度ωmから、車両速度V迄の伝達特性Gωv(s)を求めると、以下の式(15)となる。
【0077】
【0078】
次に、モータトルクTmから、駆動力F迄の伝達特性GpF(s)について説明する。
【0079】
運動方程式(4)~(8)に基づいて、伝達特性GpF(s)を求めると、以下の式(16)となる。
【0080】
【0081】
[停止制御処理の動作例]
次に、
図3に示す停止制御処理(S203)について
図6乃至
図11を参照して詳細に説明する。
【0082】
[勾配抵抗推定値の算出例]
図6は、停止制御処理で用いられる勾配抵抗推定値を算出する算出方法の一例を示す図である。この勾配抵抗推定値の算出処理は、
図2に示す勾配抵抗推定部102により実行される。
【0083】
図6には、勾配の角度がαである登坂路で車両10が停車している状態を簡略化して示す。ここで、勾配の角度αについては、前後加速度センサ11による検出値a(前後加速度信号)に基づいて推定することができる。すなわち、前後加速度センサ11による検出値aに基づいて求められる車両10の傾きを、勾配の角度αとすることができる。また、タイヤの荷重半径r、車両10に加えられる力Fは、上述した各パラメータである。
【0084】
図6に示すように、勾配の角度αの登坂路を車両10が停車している場合には、以下の式(17)を用いて、車両10が後ろに下らない駆動力F
dを算出することができる。なお、駆動力F
dは、勾配相当の駆動力であり、勾配抵抗と釣り合う駆動力とも称することができる。また、gは、重力加速度(=9.8m/s
2)である。
F
d=M・g・sinα (17)
【0085】
次に、タイヤ荷重半径rとオーバーオールギヤ比Nを加味することで、駆動トルクTd1を算出する。具体的には、以下の式(18)を用いて、駆動トルクTd1を算出することができる。なお、本実施形態では、駆動トルクTd1を勾配抵抗推定値Td1と称する。
Td1=Fd・N・r (18)
【0086】
また、勾配抵抗推定値Td1は、上述した式(17)及び式(18)式を用いて、以下の式(19)のように表すことができる。
Td1=M・g・sinα・N・r (19)
【0087】
このように、前後加速度センサ11による検出値aに基づいて勾配の角度αを求め、勾配の角度αに基づいて、勾配抵抗推定値Td1を算出することができる。すなわち、停車時の車両10の前後加速度信号を用いて路面傾斜を検出し、路面傾斜で停車を維持するために必要な勾配抵抗推定値Td1を的確に算出することができる。
【0088】
[停止制御処理例]
図7は、モータコントローラ2の機能構成例を示すブロック図である。
図7に示す例では、停止制御処理を実行する際における機能構成の一例を示す。
図8は、
図7に示す車両速度F/Bトルク設定部300の機能構成例を示すブロック図である。
図9は、
図7に示す外乱トルク推定部400の機能構成例を示すブロック図である。
図10は、
図7に示す停止維持トルク切替部500の機能構成例を示すブロック図である。
図11は、
図10に示す停止維持トルク切替部500による停止維持トルク算出の際に用いられるマップを示す図である。
【0089】
図7に示すように、モータコントローラ2は、勾配抵抗推定部102と、トルク比較部104と、車両速度F/Bトルク設定部300と、外乱トルク推定部400と、停止維持トルク切替部500と、演算部600とを備える。なお、勾配抵抗推定部102及びトルク比較部104は、
図2に示す同一名称の各部に対応する。また、車両速度F/Bトルク設定部300、外乱トルク推定部400、停止維持トルク切替部500及び演算部600は、
図2に示す停止制御部103に対応する。
【0090】
車両速度F/Bトルク設定部300は、モータ回転速度ω
mに基づいて、車両速度F/BトルクTωを算出するものである。車両速度F/Bトルク設定部300については、
図8を参照して説明する。
【0091】
図8に示すように、車両速度F/Bトルク設定部300は、推定車両速度算出部301と、車両速度F/Bトルク算出部302とを備える。
【0092】
推定車両速度算出部301は、モータ回転速度ωmに基づいて、推定車両速度VAを求めるため、上述した式(15)のGωvを考慮して、推定車両速度VAを算出する。なお、上述した式(15)のGωvは、近似した伝達特性を使用してもよい。例えば、近似した伝達特性として、以下の式(20)に示すGωv´を使用することができる。
【0093】
【0094】
車両速度F/Bトルク算出部302は、推定車両速度VAにゲインKvrefを乗算することで、車両速度F/BトルクTωを算出する。ただし、Kvref<0とする。なお、ここでは、推定車両速度VAに所定のゲインを乗算して車両速度F/BトルクTωを算出する例を示すが、推定車両速度VAに応じた所定の回生トルクテーブル等を使って、車両速度F/BトルクTωを算出してもよい。
【0095】
図7に戻り、外乱トルク推定部400は、モータ回転速度ω
mと、第3のトルク目標値T
m3
*とに基づいて、外乱トルク推定値T
dを算出する。外乱トルク推定部400については、
図9を参照して説明する。
【0096】
図9に示すように、外乱トルク推定部400は、第1のモータトルク推定値算出部401と、第2のモータトルク推定値算出402と、演算部403とを備える。
【0097】
第1のモータトルク推定値算出部401は、H1(s)/Gr(s)を用いて、モータ回転速度ωmをフィルタリング処理して、第1のモータトルク推定値を算出する。ここで、H1(s)は、制振制御のアルゴリズムと車両モデルGp(s)から導かれる車両応答Gr(s)の分母次数と分子次数の差分以上となるローパスフィルタである。
【0098】
第2のモータトルク推定値算出402は、ローパスフィルタH1(s)を用いて、モータトルク指令値Tm3*をフィルタリング処理して、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0099】
演算部403は、第1のモータトルク推定値と第2のモータトルク推定値との偏差を演算し、その偏差を外乱トルク推定値Tdとする。
【0100】
ここで、本実施形態で対象としている外乱は、空気抵抗、車両質量の変動(乗員数、積載量)によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、勾配抵抗等が考えられるが、停車間際で支配的となる外乱要因は勾配抵抗である。外乱要因は、運転条件により異なるが、外乱トルク推定部400では、モータトルク指令値Tm
*とモータ回転速度ωmと制振制御のアルゴリズムと車両モデルGp(s)から導かれる車両応答Gr(s)に基づき、外乱トルク推定値Tdを算出するため、それらの外乱要因を一括して推定することができる。これにより、いかなる運転条件においても、バラツキのない減速からの滑らかな停車を実現できる。
【0101】
図7に戻り、停止維持トルク切替部500は、外乱トルク推定部400により算出された外乱トルク推定値T
dと、勾配抵抗推定部102により算出された勾配抵抗推定値T
d1とに基づいて、停止制御に使用する駆動モータ4の目標値(外乱トルク推定値T
dまたは停止維持トルクT
d2)を出力するものである。停止維持トルク切替部500については、
図10及び
図11を参照して説明する。
【0102】
図10に示すように、停止維持トルク切替部500は、停止維持トルク算出部501と、切替部502とを備える。
【0103】
停止維持トルク算出部501は、外乱トルク推定値T
dと勾配抵抗推定値T
d1とに基づいて、停止維持トルクT
d2を算出するものである。なお、停止維持トルクT
d2の算出例については、
図11を参照して詳細に説明する。
【0104】
図11には、勾配抵抗推定値T
d1を横軸に示し、外乱トルク推定値T
dを縦軸に示すMAPを示す。
図11に示す横軸において、右側に進むに従って、車両10が存在する登坂路の勾配の角度が大きくなり、左側に進むに従って、車両10が存在する降坂路の勾配の角度が大きくなる例を示す。なお、
図11に示す横軸が0[Nm]の場合には、車両10が勾配のない平坦路に存在するものとする。
【0105】
また、直線L11は、勾配抵抗推定値Td1=外乱トルク推定値Tdの場合を示す。例えば、走行抵抗が0の理想的な条件においては、勾配抵抗推定値Td1=外乱トルク推定値Tdとなる。しかし、実際は、路面の走行抵抗の影響により、勾配抵抗推定値Td1≠外乱トルク推定値Tdとなる。また、砂地や深雪の路面等のように、走行抵抗が大きい路面では、勾配抵抗推定値Td1と外乱トルク推定値Tdとの差分が大きくなる。
【0106】
なお、走行抵抗は、外乱トルク推定値Tdと勾配抵抗推定値Td1との差分の絶対値により求めることができる。具体的には、以下の式(21)により求めることができる。
走行抵抗RR1=|外乱トルク推定値Td-勾配抵抗推定値Td1| (21)
【0107】
また、区間IN1は、モータトルク0[Nm]でも車両10の停止維持が可能な勾配を示す範囲である。言い換えると、区間IN1は、モータトルク指令値を0[Nm]とした場合に、車両10の停止維持が可能な範囲である。また、区間IN1は、走行抵抗RR1の大きさに基づいて範囲が設定される。また、勾配抵抗推定値Td1=0を基準として、正負の値を含む範囲が区間IN1として設定される。例えば、区間IN1を走行抵抗RR1の2倍とすることができる。すなわち、走行抵抗RR1よりも勾配抵抗推定値Td1の絶対値が小さい場合に、停止維持トルクTd2を0にする。
【0108】
なお、
図11では、勾配抵抗推定値T
d1=0を基準とした場合の正の範囲と負の範囲とが同じ例を示すが、正の範囲と負の範囲とが異なる範囲を設定してもよい。また、区間IN1については、各種の実験データを用いて適宜設定することができる。
【0109】
例えば、緩やかな勾配の路面が砂地や深雪等の路面である場合には、走行抵抗RR1は大きな値になるが、勾配抵抗は小さいと想定される。例えば、そのような緩やかな勾配の登坂路において、車両10が前進にて停止した際は、勾配抵抗推定値Td1<外乱トルク推定値Tdとなる。一方、そのような緩やかな勾配の登坂路において、車両10が後退で停止した際は、勾配抵抗推定値Td1>外乱トルク推定値Tdとなる。これらの場合に、走行抵抗RR1と勾配抵抗推定値Td1とを比較し、勾配抵抗推定値Td1が小さいときには、停止維持トルクTd2を0としても、停車を継続することができる。すなわち、走行抵抗RR1が大きな緩やかな勾配の路面においては、勾配抵抗が小さいときは、停止維持トルクTd2を0としても、停車を継続することができる。
【0110】
そこで、実線L1で示すように、勾配抵抗推定値Td1が区間IN1の範囲内の場合には、停止維持トルクTd2を0とする。すなわち、勾配抵抗推定値Td1が概ね0のとき(言い換えると、車両10の路面傾斜が概ね0のとき)には、停止維持トルクTd2を0とし、モータトルク指令値を0[Nm]とする。このように、勾配抵抗推定値Td1が概ね0のときには、外乱トルク推定値Tdに収束させる停止制御を中止し、モータトルク指令値を0[Nm]とし(すなわち、モータトルクを0に収束させ)、停車を継続することができる。これにより、駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を抑止することができる。
【0111】
また、
図11では、走行抵抗RR1が所定値である場合の停止維持トルクT
d2の設定例を示す。また、破線L2、L3は、直線L11と並行する直線であって、横軸における破線L2及びL3間の距離が区間IN1と同一となる直線を示す。
【0112】
また、太線で示す実線L1は、停止維持トルク算出部501が出力する停止維持トルクT
d2を示す。
図11では、説明を容易にするため、停止維持トルクT
d2の値は縦軸の値であるものとする。
【0113】
また、実線L1で示すように、勾配抵抗推定値Td1が区間IN1の範囲外の場合には、勾配抵抗推定値Td1の大きさに応じて、停止維持トルクTd2を設定する。すなわち、ある程度以上の勾配がある路面(すなわち走行抵抗RR1よりも勾配抵抗推定値Td1の絶対値が大きい路面)では、停止維持トルクTd2を0とすると、車両10がずり下がる可能性がある。
【0114】
そこで、
図11に示す例では、勾配抵抗推定値T
d1が区間IN1の範囲外であって負の値である場合には、破線L2に沿った値を、停止維持トルクT
d2として設定する。また、勾配抵抗推定値T
d1が区間IN1の範囲外であって正の値である場合には、破線L3に沿った値を、停止維持トルクT
d2として設定する。
【0115】
ここで、砂地や深雪等の走行抵抗は、登坂路の前進側では勾配抵抗に加算され、登坂路の後退側では勾配抵抗から減算される。そのため、坂道で車両10の停止を維持させるための駆動モータ4のトルクを、勾配抵抗に対して走行抵抗を加算/減算した範囲のモータトルク指令値に設定すれば、車両10の停止を維持することができる。そこで、勾配抵抗推定値Td1が区間IN1の範囲外の場合には、以下の式(22)(23)を用いて、停止維持トルクTd2を算出することができる。
登坂路の停止維持トルクTd2=勾配抵抗推定値Td1-走行抵抗RR1 (22)
降坂路の停止維持トルクTd2=勾配抵抗推定値Td1+走行抵抗RR1 (23)
【0116】
このように、登坂路または降坂路においては、勾配抵抗推定値Td1と走行抵抗RR1との演算により求めた停止維持トルクTd2をモータトルク指令値に設定する。これにより、極力小さなモータトルクで停止を維持することを可能とし、駆動モータ4の発熱や電費改善に最大限に寄与することが可能となる。
【0117】
なお、式(22)(23)の演算を実行する代わりに、走行抵抗RR1に応じた複数のマップ(
図11に示すマップ)を予め用意しておき、走行抵抗RR1に応じたマップを用いて停止維持トルクT
d2を求めるようにしてもよい。
【0118】
なお、急峻な勾配の路面において車両10が停止した際の停止維持トルクTd2についても同様に、式(22)(23)を用いて停止維持トルクTd2を求めることができる。
【0119】
このように、勾配抵抗推定値Td1及び走行抵抗RR1に基づいて求まる、坂道での停止を維持可能な最小のモータトルク指令値として、停止維持トルクTd2を設定することができる。言い換えると、計測もしくは推定した路面傾斜に基づいて求まる、その路面の勾配で釣り合うために必要な所定のトルクとして、停止維持トルクTd2を設定することができる。すなわち、停止維持トルクTd2は、最適な電費となる値であり、勾配路での停車を継続可能、かつ、モータトルクを極力小さくする値である。
【0120】
なお、以上では、
図11を用いて停止維持トルクT
d2を求める例、式(22)(23)を用いて停止維持トルクT
d2を求める例を示した。ここで、勾配抵抗推定値T
d1は、走行路において車両10の停止状態を継続させるために必要な駆動モータ4のトルクであるため、駆動モータ4のトルクと勾配抵抗推定値T
d1とは路面傾斜で釣り合うことになる。そこで、停止維持トルクT
d2を勾配抵抗推定値T
d1とするようにしてもよい。このように、路面傾斜で釣り合う勾配抵抗推定値T
d1に駆動モータ4のトルクを収束させることで、路面傾斜で釣り合うトルクを適切に設定することができる。
【0121】
このように、路面傾斜に応じた勾配抵抗推定値Td1に基づいて、外乱トルク推定値Tdに収束させる停止制御を中止し、停止維持トルクTd2を設定することで、平坦路の砂地等のように、走行抵抗が大きな路面での停止時に駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を抑止することができる。例えば、砂地での停止制御を実行する場合において、駆動モータ4の発熱や電費悪化を抑制することができる。
【0122】
次に、
図10の切替部502について説明する。切替部502は、モータ回転速度ω
mに基づいて、外乱トルク推定値T
dと停止維持トルクT
d2との切り替えを行うものである。具体的には、停止制御処理において、車両10が減速中の場合(すなわち、ω
m≠0[rpm]の場合)には、切替部502は、外乱トルク推定値T
dを出力する。また、車両10が停止した後(すなわち、ω
m=0[rpm])には、切替部502は、停止維持トルクT
d2を出力する。このように、切替部502は、車両10の停止判定後に停止維持トルクT
d2への切り替えを行う。
【0123】
なお、本実施形態では、外乱トルク推定値Tdから停止維持トルクTd2に切り替える際の判定基準を、車両10の停止判定後(すなわち、ωm=0[rpm])とする例を示したが、他の判定基準を用いるようにしてもよい。例えば、停車間際にモータ回転速度ωmが所定回転数以下(すなわち、TH1≧ωm>0[rpm])となったことを条件に、外乱トルク推定値Tdから停止維持トルクTd2に切り替えるようにしてもよい。なお、閾値TH1は、停車間際における停止直前の相対的に低い車速域に相当する値であり、各種の実験データ等を用いて適宜設定することができる。
【0124】
以上では、車両10が停止した後(すなわち、ωm=0[rpm])またはモータ回転速度ωmが所定回転数以下(すなわち、ωm>0[rpm])となった場合に、外乱トルク推定値Tdから停止維持トルクTd2に切り替える例を示した。ただし、車両10が存在する路面の走行抵抗が所定条件を満たす場合にのみ、停止維持トルクTd2を用いた制御を実行するようにしてもよい。例えば、走行抵抗RR1が閾値以上の場合(すなわち、外乱トルク推定値Tdと勾配抵抗推定値Td1との差分値が閾値以上の場合)にのみ、外乱トルク推定値Tdから停止維持トルクTd2への切り替えを実行し、停止維持トルクTd2を用いた制御を実行するようにしてもよい。ここで示す閾値は、各種の実験データ等を用いて適宜設定することができる。
【0125】
図7に戻り、演算部600は、車両速度F/Bトルク設定部300により算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、停止維持トルク切替部500により算出された値(外乱トルク推定値T
dまたは停止維持トルクT
d2)との偏差を演算し、第2のトルク目標値T
m2
*を算出する。
【0126】
トルク比較部104は、
図3に示す算出処理(ステップS202)において算出された第1のトルク目標値T
m1
*と、第2のトルク目標値T
m2
*との比較結果に基づいて、第3のトルク目標値T
m3
*を切り替える。具体的には、トルク比較部104は、第1のトルク目標値T
m1
*が、第2のトルク目標値T
m2
*よりも大きい場合には、第3のトルク目標値T
m3
*として第1のトルク目標値T
m1
*を出力する。一方、トルク比較部104は、第1のトルク目標値T
m1
*が第2のトルク目標値T
m2
*以下の場合に停車間際と判定し、第3のトルク目標値T
m3
*を、第1のトルク目標値T
m1
*から第2のトルク目標値T
m2
*へ切り替える。これにより、停止制御が実行される。
【0127】
以上の処理を行うことで、モータトルクのみで、勾配に依らず滑らかに停車し、適切なモータトルクでの停車状態を維持することができる。
【0128】
[制振制御処理例]
次に、
図3に示す制振制御処理(ステップS204)について、
図12、
図13を参照して詳細に説明する。
【0129】
図12は、モータコントローラ2の機能構成例を示すブロック図である。
図12では、制振制御処理に関する機能構成の一例を示す。
図12に示す各部は、
図2に示す制振制御部105に対応する。
図13は、H
2(s)周波数特性を示す図である。
【0130】
モータコントローラ2は、F/F補償器701と、フィードバック補償器702乃至704と、演算器705、706とを備える。
【0131】
F/F補償器701は、第3のトルク目標値Tm3*を入力し、伝達関数Gr(s)/Gp(s)を用いて、第4のトルク目標値Tm4*を算出する。
【0132】
演算器705は、第4のトルク目標値Tm4*と、第5のトルク目標値Tm5*とを加算して、第6のトルク目標値Tm6*とする。
【0133】
フィードバック補償器702は、第6のトルク目標値Tm6*を入力し、車両モデルGp(s)を用いて、モータ回転速度推定値を演算する。
【0134】
演算器706は、そのモータ回転速度推定値と、実モータ回転速度ωmとの差分値を求める。
【0135】
フィードバック補償器703は、モータ回転速度推定値と実モータ回転速度ωmとの差分値を入力し、伝達関数H2(s)/Gp(s)を用いて、推定外乱dを演算する。なお、その伝達関数H2(s)は分母次数と分子次数との差分が、伝達関数Gp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となるように設定されている。
【0136】
フィードバック補償器704は、推定外乱dにフィードバックゲインKFBを乗ずることで、第5のトルク目標値Tm5*を算出する。
【0137】
次に、
図13を参照して伝達関数H
2(s)について説明する。
【0138】
伝達関数H
2(s)は、バンドパスフィルタとした場合に振動のみを低減するフィードバック要素となる。この際、
図13に示すようにフィルタの特性を設定すると、最も大きな効果を得ることができる。すなわち、伝達関数H
2(s)は、ローパス側、及びハイパス側の減衰特性が略一致し、かつ、駆動系のねじり共振周波数が、対数軸(logスケール)上で、通過帯域の中央部近傍となるように設定されている。
【0139】
そして、例えば、H2(s)を1次のハイパスフィルタと1次のローパスフィルタで構成する場合、周波数fpを駆動系のねじり共振周波数とし、kを任意の値として、以下の式(24)のように構成する。
【0140】
【0141】
このように、モータコントローラ2は、モータトルク指令値に基づいて、車両10の駆動力伝達系の捻り振動を抑制する制振制御を施したモータトルク指令値を算出し、その制振制御を施したモータトルク指令値に基づいて、駆動モータ4を制御する。この場合に、モータコントローラ2は、アクセル操作量が減少またはゼロになり、かつ、車両10が停車間際(車両10を停止させる停止制御処理を有効とする区間)になると、駆動軸の回転速度に相関のある角速度の低下とともにモータトルクを調整し、概ね勾配抵抗となる外乱トルク推定値に収束させる。これにより、回生制動力で電動車両を停止させる際に、車体の前後方向に振動が発生することを抑制することができる。また、平坦路、登坂路、降坂路に依らず、加速度振動の無い常に滑らかな減速を停車間際で実現することができ、かつ停車状態を保持することができる。
【0142】
なお、本実施形態では、駆動力伝達系に捻り振動が発生する車両について説明したため、制振制御を併用したが、本実施形態は、駆動力伝達系に捻り振動が発生しない車両についても適用可能である。この場合には、
図3に示す制振制御処理(ステップS204)を実施する必要はない。
【0143】
[平坦路における停止制御処理例]
図14は、平坦路において停止制御処理を実行した場合におけるタイムチャートである。
図14では、砂地等の走行抵抗が大きい平坦路において停止制御処理を実行する場合の例を示す。また、
図14では、時刻t1において、停車間際と判定され、停止制御処理を開始する例を示す。また、
図14では、停止制御処理が開始された時刻t1から時刻t2にかけて、停止制御処理においてモータ回転速度が漸近的にゼロに収束する例を示す。
【0144】
実線L21、L31では、停止制御処理において、時刻t2のタイミングで車両10の停止が判定された以降に外乱トルク推定値Tdに収束させる停止制御を中止し、停止維持トルクTd2を用いた停止制御を実行する場合のタイムチャートを示す。
【0145】
破線L22、L32では、停止制御処理において、時刻t2のタイミングで車両10の停止が判定された以降も外乱トルク推定値Tdを用いて停止制御を実行する場合の比較例を示す。
【0146】
比較例である破線L22では、砂地等により走行抵抗の値が大きいため、登坂路と推定された外乱トルク推定値Tdが設定される。また、破線L22に示すように、車両10の停止判定以降も、車両10の停止時の外乱トルク推定値Tdが設定された状態が維持される。このため、破線L32に示すように、車両10の停止判定以降も、平坦路にもかかわらず、モータトルク指令値が正の値を維持する状態となる。このため、比較例では、不必要なモータトルク指令値を入力し続けることになり、駆動モータ4の発熱や電費悪化の原因となる。
【0147】
これに対して、本実施形態では、実線L21に示すように、車両10の停止判定以降は、前後加速度センサ11による検出値aに基づいて算出された勾配抵抗推定値Td1を用いて、停止維持トルクTd2への切り替えを実行する。このため、実線L31に示すように、車両10の停止判定以降は、平坦路であるため、モータトルク指令値を0[Nm]とした状態で停止状態を維持することができる。このように、本実施形態では、不必要なモータトルク指令値を入力しないため、駆動モータ4の発熱を抑止し、電費性能を向上させることができる。
【0148】
[登坂路における停止制御処理例]
図15は、登坂路において停止制御処理を実行した場合におけるタイムチャートである。
図15では、砂地等の走行抵抗が大きい登坂路において停止制御処理を実行する場合の例を示す。また、
図15では、時刻t11において、停車間際と判定され、停止制御処理を開始する例を示す。また、
図15では、停止制御処理が開始された時刻t11から時刻t12にかけて、停止制御処理においてモータ回転速度が漸近的にゼロに収束する例を示す。
【0149】
実線L41、L51では、停止制御処理において、時刻t12のタイミングで車両10の停止が判定された以降に外乱トルク推定値Tdに収束させる停止制御を中止し、停止維持トルクTd2を用いた停止制御を実行する場合のタイムチャートを示す。
【0150】
破線L42、L52では、停止制御処理において、時刻t12のタイミングで車両10の停止が判定された以降も外乱トルク推定値Tdを用いて停止制御を実行する場合の比較例を示す。
【0151】
比較例である破線L42では、砂地等により走行抵抗の値が大きいため、実際の路面以上の急登坂路傾向に推定された外乱トルク推定値Tdが設定される。また、破線L42に示すように、車両10の停止判定以降も、車両10の停止時の外乱トルク推定値Tdが設定された状態が維持される。このため、破線L52に示すように、車両10の停止判定以降も、停止判定時の値と同じモータトルク指令値(正の値)を維持する状態となる。このため、比較例では、不必要なモータトルク指令値を入力し続けることになり、駆動モータ4の発熱や電費悪化の原因となる。
【0152】
これに対して、本実施形態では、実線L41に示すように、車両10の停止判定以降は、前後加速度センサ11による検出値aに基づいて算出された勾配抵抗推定値Td1を用いて、停止維持トルクTd2への切り替えを実行する。このため、実線L51に示すように、車両10の停止判定以降は、勾配外乱で釣り合う適切な正トルクとなるようにモータトルク指令値を設定し、停止状態を維持することができる。このように、本実施形態では、不必要なモータトルク指令値を入力しないため、駆動モータ4の発熱を抑止し、電費性能を向上させることができる。
【0153】
このように、本実施形態を適用することにより、砂地などの走行抵抗が増加した路面において、停止維持のトルクを適切に設定することを可能とし、モータ発熱の抑制、電費向上が可能となる。
【0154】
[4WD電動車両の構成例]
以上では、2WDの車両10について説明したが、複数の駆動モータを備える電動車両、例えば4WD電動車両についても本実施形態を適用可能であり、本実施形態と同様の効果がある。そこで、以下では、本実施形態を適用可能な4WD電動車両の一例を示す。
【0155】
図16は、4WD電動車両800の構成例を示す図である。4WD電動車両800は、主に、バッテリ801と、モータコントローラ802と、前後加速度センサ803と、フロント駆動システム810と、リア駆動システム820とを備える。また、フロント駆動システム810は、フロントインバータ813と、フロント駆動モータ814と、フロント減速機815と、各種センサ類(回転センサ816及び電流センサ817)と、フロントドライブシャフト818と、フロント駆動輪819L、819Rとを備える。また、リア駆動システム820は、リアインバータ823と、リア駆動モータ824と、リア減速機825と、各種センサ類(回転センサ826及び電流センサ827)と、リアドライブシャフト828と、リア駆動輪829L、829Rとを備える。なお、これらの各部は、
図1における機能的に同一の各部に対応するため、ここでの説明を省略する。
【0156】
[本実施形態の構成及び効果]
本実施形態に係る車両10の制御方法は、駆動モータ4を走行駆動源とし、駆動モータ4の回生制動力により減速する車両の制御方法である。この制御方法では、アクセル操作量に基づいて車両10が停止する際に、車両10に作用する外乱を推定して求められた外乱トルク推定値Tdに収束させるように駆動モータ4のトルクを制御する制御ステップ(ステップS203)を備える。この制御ステップでは、車両10が停止する際における期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる第1期間においては、外乱トルク推定値Tdに駆動モータ4のトルクを収束させるように制御し、車両10が停止する際における期間のうち、相対的に低い車速域から車両10が停止した後までの第2期間においては、車両10の走行路の勾配に基づいて、0を基準とする外乱トルク推定値Tdの大きさを減少させた停止維持トルクTd2(トルク目標値の一例)に駆動モータ4のトルクを収束させるように制御する。
【0157】
このような車両10の制御方法によれば、路面の傾斜に基づいて求められる停止維持トルクTd2を用いた停止制御を実行することで、平坦路の砂地等のように、走行抵抗が大きな路面での停止時に駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を抑止することができる。これにより、例えば、砂地等での停止制御において、駆動モータ4の発熱や電費の悪化を抑制することができる。
【0158】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法では、第1期間を、相対的に高い車速域から車両10が停止したと判定されるまでの期間(例えば
図14に示す時刻t1からt2までの期間、
図15に示す時刻t11からt12までの期間)とし、第2期間を、車両10の停止判定後に車両10の停止状態が維持されている期間(例えば
図14に示す時刻t2からt3までの期間、
図15に示す時刻t12からt13までの期間)とする。
【0159】
このような車両10の制御方法によれば、平坦路の砂地等のように、走行抵抗が大きな路面での停止時において、駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を適切に抑止することができる。
【0160】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、制御ステップ(ステップS203)では、車両10の走行路の勾配を取得し、その勾配に基づいて勾配抵抗推定値T
d1を算出する勾配抵抗推定処理(
図2、
図7に示す勾配抵抗推定部102による処理)と、外乱トルク推定値T
dと勾配抵抗推定値T
d1とに基づいて、停止維持トルクT
d2(トルク目標値の一例)を求めるトルク算出処理(
図10に示す停止維持トルク算出部501による処理)とを実行する。
【0161】
このような車両10の制御方法によれば、車両10の走行路の勾配に基づいて算出された勾配抵抗推定値Td1を用いて、最適な停止維持トルクTd2を求めることができる。
【0162】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、勾配抵抗推定処理では、車両10が停止する際における車両10の前後方向の加速度に基づいて、走行路において車両10の停止状態を継続させるために必要な駆動モータ4のトルクを勾配抵抗推定値Td1として算出する。
【0163】
このような車両10の制御方法によれば、路面傾斜で停車を維持するために必要な勾配抵抗推定値Td1を的確に算出することができる。
【0164】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、トルク算出処理では、勾配抵抗推定値T
d1が区間IN1(
図11参照)に含まれる場合には、停止維持トルクT
d2(トルク目標値の一例)を0とする。なお、区間IN1は、0を基準として設定される正負の値を含む所定範囲の一例である。
【0165】
このような車両10の制御方法によれば、停止維持トルクTd2を0とし、モータトルクを0[Nm]に収束させることで不必要なトルクの入力の継続を抑止することができる。
【0166】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、トルク算出処理では、勾配抵抗推定値T
d1が、区間IN1(
図11参照)に含まれない場合には、勾配抵抗推定値T
d1に基づいて外乱トルク推定値T
dの大きさを減少させた値を停止維持トルクT
d2(トルク目標値の一例)とする。
【0167】
このような車両10の制御方法によれば、路面の傾斜に基づいて求められる停止維持トルクTd2を用いた停止制御を実行することで、駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を適切に抑止することができる。
【0168】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、区間IN1(
図11参照)は、外乱トルク推定値T
d及び勾配抵抗推定値T
d1を用いて求められる車両10の走行抵抗に基づいて設定される。
【0169】
このような車両10の制御方法によれば、停止維持トルクTd2を0とするための適切な範囲を設定することができる。
【0170】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、トルク算出処理では、勾配抵抗推定値Td1と、外乱トルク推定値Td及び勾配抵抗推定値Td1を用いて求められる車両10の走行抵抗RR1との演算により求められた値を停止維持トルクTd2(トルク目標値の一例)とする。
【0171】
このような車両10の制御方法によれば、極力小さなモータトルクで停止を維持することを可能とし、駆動モータ4の発熱や電費の改善に最大限に寄与することが可能である。
【0172】
また、本実施形態に係る車両10の制御方法において、トルク算出処理では、勾配抵抗推定値Td1を停止維持トルクTd2(トルク目標値の一例)とする。
【0173】
このような車両10の制御方法によれば、路面傾斜で釣り合う勾配抵抗推定値Td1にモータトルクを収束させることで、路面傾斜で釣り合うトルクを適切に設定することができる。
【0174】
また、本実施形態に係る車両10の制御システムは、走行駆動源として機能する駆動モータ4と、駆動モータ4のトルクを制御し、駆動モータ4の回生制動力により減速させる制御を実行するモータコントローラ2(コントローラの一例)とを備える。モータコントローラ2は、アクセル操作量に基づいて車両10が停止する際に、車両10に作用する外乱を推定して求められた外乱トルク推定値Tdに収束させるように駆動モータ4のトルクを制御する停止制御処理(ステップS203)を実行する。この停止制御処理では、車両10が停止する際における期間のうち、相対的に高い車速域から相対的に低い車速域となる第1期間においては、外乱トルク推定値Tdに駆動モータ4のトルクを収束させるように制御し、車両10が停止する際における期間のうち、相対的に低い車速域から車両10が停止した後までの第2期間においては、車両10の走行路の勾配に基づいて、0を基準とする外乱トルク推定値Tdの大きさを減少させた停止維持トルクTd2(トルク目標値の一例)に駆動モータ4のトルクを収束させるように制御する。
【0175】
このような車両10の制御システムによれば、路面の傾斜に基づいて求められる停止維持トルクTd2を用いた停止制御を実行することで、平坦路の砂地等のように、走行抵抗が大きな路面での停止時に駆動モータ4の不必要なトルクの入力の継続を抑止することができる。これにより、例えば、砂地等での停止制御において、駆動モータ4の発熱や電費の悪化を抑制することができる。
【0176】
なお、本実施形態で示した各処理は、各処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムに基づいて実行されるものである。このため、本実施形態は、それらの各処理を実行する機能を実現するプログラム、そのプログラムを記憶する記録媒体の実施形態としても把握することができる。例えば、車両に新機能を追加するためのアップデート作業により、そのプログラムを車両の記憶装置に記憶させることができる。これにより、そのアップデートされた車両に本実施形態で示した各処理を実施させることが可能となる。なお、そのアップデートは、例えば、車両の定期点検時等に行うことができる。また、ワイヤレス通信によりそのプログラムをアップデートするようにしてもよい。
【0177】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0178】
1 バッテリ、 2 モータコントローラ、 3 インバータ、 4 駆動モータ、 5 減速機、 6 回転センサ、 7 電流センサ、 10 車両