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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】金属膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/00 20060101AFI20240717BHJP
   C25D 17/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C25D17/00 H
C25D17/00 C
C25D17/08 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021103471
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002304
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 春樹
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/072481(WO,A1)
【文献】特開2017-210634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0113192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00
C25D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置を用いて基板に金属の膜を形成する方法であって、
前記成膜装置が、
陽極と、
前記基板を保持するためのホルダーと、
前記陽極と前記ホルダーの間に設けられた固体電解質膜と、
前記陽極と前記固体電解質膜の間に溶液収容空間を画成するハウジングと、
前記溶液収容空間に連通可能な溶液タンクと、
を有し、
前記方法が、
(a)前記金属のイオン、並びにポリマー、ブライトナー、及びレベラーからなる群から選択される少なくとも一種である添加剤を含有する溶液を、前記溶液収容空間に供給するステップと、
(b)前記溶液収容空間が前記溶液タンクと連通しておらず、且つ、前記ホルダーに保持された前記基板と前記固体電解質膜とが接触した状態で、前記溶液収容空間内の前記溶液の圧力を高めるステップと、
(c)前記溶液収容空間内の前記溶液の圧力を下げるステップと、
(d)前記溶液収容空間と前記溶液タンクの間で前記溶液を循環させながら、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加して、前記基板上に前記金属の膜を形成するステップと、をこの順で含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)において、前記ホルダーに保持された前記基板と前記固体電解質膜とが接触した状態で、前記溶液収容空間に前記溶液を供給する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)において、前記溶液収容空間内の前記溶液の圧力を高めるために前記溶液に外力を加え、
ステップ(c)において、前記外力を加えることを停止する、請求項1又は2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に金属膜を形成する方法の一つとして、めっき法がある。めっき法は配線基板等の様々な製品の製造において広く使用されてきた。しかし、めっき法により金属膜を形成した後に基材を水洗する必要があり、多量の廃液が生じるという問題があった。そこで、特許文献1において、従来のめっき法に代わる金属膜の形成方法が提案されている。特許文献1に記載されている方法では、陽極と陰極(基材)の間に固体電解質膜を配置し、陽極と固体電解質膜の間に金属イオンを含む溶液を配置し、固体電解質膜を基材に接触させ、陽極と基材の間に電圧を印加して金属を基材の表面に析出させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-185371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される方法では、金属膜が固体電解質膜に接触しながら成長する。固体電解質膜に皺があったり、固体電解質膜と金属膜の間に気泡があったりすると、表面の平滑性が低い金属膜が形成されることがある。
【0005】
従来のめっき法では、一般に、金属膜の表面形状、外観、物性等を制御するための各種添加剤がめっき液に添加される。特許文献1に記載されるような固体電解質膜を用いた方法においても同様に、金属膜の品質向上のために添加剤を利用できることが望ましい。
【0006】
そこで、平滑な表面を有する金属膜を形成することができ、且つ、添加剤の機能を十分に発揮させることができる、固体電解質膜を用いた金属膜の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、成膜装置を用いて基板に金属の膜を形成する方法であって、
前記成膜装置が、
陽極と、
前記基板を保持するためのホルダーと、
前記陽極と前記ホルダーの間に設けられた固体電解質膜と、
前記陽極と前記固体電解質膜の間に溶液収容空間を画成するハウジングと、
前記溶液収容空間に連通可能な溶液タンクと、
を有し、
前記方法が、
(a)前記金属のイオン及び添加剤を含有する溶液を、前記溶液収容空間に供給するステップと、
(b)前記溶液収容空間が前記溶液タンクと連通しておらず、且つ、前記ホルダーに保持された前記基板と前記固体電解質膜とが接触した状態で、前記溶液収容空間内の前記溶液の圧力を高めるステップと、
(c)前記溶液収容空間内の前記溶液の圧力を下げるステップと、
(d)前記溶液収容空間と前記溶液タンクの間で前記溶液を循環させながら、前記陽極と前記基板との間に電圧を印加して、前記基板上に前記金属の膜を形成するステップと、
をこの順で含む、方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法では、平滑な表面を有する金属膜を形成することができ、且つ、添加剤の機能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る方法に用いられる成膜装置の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、実施形態に係る方法を示すフローチャートである。
図3図3は、基板と固体電解質膜を接触させた、成膜装置の一例を示す概略断面図である。
図4図4は、溶液収容空間に溶液を供給するステップにおける、成膜装置の一例を示す概略断面図である。
図5図5は、溶液収容空間内の溶液の圧力を高めるステップにおける、成膜装置の一例を示す概略断面図である。
図6図6は、金属膜を形成するステップにおける、成膜装置の一例を示す概略断面図である。
図7図7は、実施例1の銅膜の写真である。
図8図8は、比較例1の銅膜の写真である。
図9図9は、比較例2の銅膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、適宜図面を参照して実施形態を説明する。なお、以下の説明で参照する図面において、同一の部材又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する場合がある。また、説明の都合上、図面の寸法比率が実際の比率とは異なったり、部材の一部が図面から省略されたりする場合がある。本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。また、本発明は、以下の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
【0011】
(1)成膜装置
実施形態に係る方法に用いられる成膜装置の一例を説明する。図1に示す成膜装置50は、陽極51と、ホルダー56と、固体電解質膜52と、ハウジング53と、溶液タンク61と、を備える。
【0012】
陽極51は、電極として機能可能な導電率を有する。陽極51は、成膜装置50で成膜する金属の標準酸化還元電位(標準電極電位)より高い標準酸化還元電位を有する金属(例えば金)又は成膜装置50で成膜する金属の少なくとも一種から構成される。陽極51の形状及び寸法は適宜設定してよく、例えば、箔状、板状、ボール状等の形状を有してよい。
【0013】
ホルダー56は、金属膜を形成する基板10の表面10aが陽極51と対向するように基板10を保持する。ホルダー56は、例えば、基板10を載置可能な台であってよい。
【0014】
基板10の表面の少なくとも一部は、電極として機能可能な導電率を有する。基板10は、例えば、導電性材料から構成される基板、又は表面の少なくとも一部に導電性材料の膜が形成された絶縁性基板であってよい。導電性材料の例として、Pt、Pd、Rh、Cu、Ag、Au、Ti、Al、Cr、Si、及びそれらの合金、FeSi、CoSi、MoSi、WSi、VSi、ReSi1.75、CrSi、NbSi、TaSi、TiSi、ZrSi等のシリサイド、特に遷移金属ケイ化物、TiO、SnO、GeO、ITO(酸化インジウムスズ)等の導電性金属酸化物、並びに導電性樹脂が挙げられる。絶縁性基板の例として、ガラスエポキシ樹脂基板等の樹脂及びガラスを含む基板、樹脂製の基板、ガラス製の基板が挙げられる。樹脂の例として、PET樹脂、PI樹脂、LCP(液晶ポリマー)、エポキシ樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、PS樹脂、EVA樹脂、PMMA樹脂、PBT樹脂、PPS樹脂、PA樹脂、POM樹脂、PC樹脂、PP樹脂、PE樹脂、エラストマーとPPを含むポリマーアロイ樹脂、変性PPO樹脂、PTFE樹脂、ETFE樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート、シリコーン樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂にシアネート樹脂を加えた樹脂等が挙げられる。
【0015】
基板10の表面10aは、後述する電源部54に電気的に接続される。図1では、基板10の表面10aは、ホルダー56を介して電源部54に電気的に接続される。成膜装置50が、基板10の表面10aの縁部の少なくとも一部を覆う導電部材(不図示)をさらに備えてもよく、この導電部材を介して基板10の表面10aが電源部54に電気的に接続されてもよい。
【0016】
固体電解質膜52は、陽極51とホルダー56の間に設けられる。固体電解質膜52として、例えば、デュポン社製のナフィオン(登録商標)等のフッ素系樹脂、炭化水素系樹脂、ポリアミック酸樹脂、旭硝子社製のセレミオン(CMV、CMD、CMFシリーズ)等の陽イオン交換機能を有する樹脂の膜を使用することができる。固体電解質膜52は、例えば、約5μm~約200μmの厚みを有してよい。
【0017】
ハウジング53は、陽極51と固体電解質膜52の間に溶液収容空間59を画成する。ハウジング53は、上部及び下部に開口を有する円筒状又は多角筒状の胴部53cと、胴部53cの上部の開口を塞ぐ蓋部53dを有する。胴部53cの下部の開口は、固体電解質膜52により覆われる。固体電解質膜52と蓋部53dの間に、固体電解質膜52と離間して陽極51が配置される。陽極51と固体電解質膜52の間には、溶液収容空間59が画成される。溶液収容空間59には、金属のイオンを含む溶液が収容される。なお、図1において、陽極51は蓋部53dに接触して設けられているが、陽極51と蓋部53dは離間していてもよい。この場合、陽極51と蓋部53dの間にも溶液が収容され得る。ハウジング53には、供給口53aと排出口53bとが設けられている。
【0018】
溶液タンク61は、ハウジング53の供給口53a及び排出口53bに、それぞれ供給管64a及び排出管64bを介して接続されている。供給管64aと供給口53aの接続部、及び排出管64bと排出口53bの接続部には、それぞれバルブ63a、63bが設けられている。バルブ63a、63bを開閉することにより、溶液収容空間59を溶液タンク61に連通させたり溶液タンク61から分離したりすることができる。供給管64a又は排出管64bには、ポンプ62が接続されている。
【0019】
成膜装置50は、さらに、ホルダー56に保持された基板10の表面10aと固体電解質膜52とが接触するようにホルダー56又はハウジング53を昇降させる昇降装置(不図示)を備えてよい。昇降装置は、油圧式又は空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータ、リニアガイド、モータ等を含んでよい。
【0020】
成膜装置50は、さらに、溶液収容空間59内の溶液の圧力を高めるための加圧機構55を備えてよい。加圧機構55は、例えば、蓋部53dをハウジング53の内側に向かって押す装置であってよく、油圧式又は空圧式のシリンダ、電動式のアクチュエータ、リニアガイド、モータ等を含んでよい。
【0021】
成膜装置50は、さらに、電源部54を備える。電源部54の負極は、ホルダー56を介して基板10の表面10aに電気的に接続され、電源部54の正極は、陽極51に電気的に接続される。
【0022】
(2)金属膜の形成方法
実施形態に係る方法は、図2に示すように、溶液を溶液収容空間に供給するステップ(S1)、溶液収容空間内の溶液の圧力を高めるステップ(S2)、溶液収容空間内の溶液の圧力を下げるステップ(S3)、及び溶液を循環させながら金属膜を形成するステップ(S4)をこの順で含む。
【0023】
a)溶液を溶液収容空間に供給するステップ(S1)
まず、金属イオン及び添加剤を含有する溶液を調製し、溶液タンク61に投入する。
【0024】
金属イオンの例としては、Cu、Ni、Ag、Auのイオンが挙げられる。溶液は、硝酸イオン、リン酸イオン、コハク酸イオン、硫酸イオン、又はピロリン酸イオンの少なくとも一種をさらに含んでよい。溶液は、金属の塩、例えば、硝酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、ピロリン酸塩、又はこれらの混合物の溶液であってよい。
【0025】
添加剤は、ポリマー、ブライトナー、及びレベラーからなる群から選択される少なくとも一種の添加剤であってよい。添加剤は、通常の電解めっきにおいて用いられる添加剤と同様のものであってよく、実施形態に係る方法により形成する金属膜の材料に応じて適宜選択してよい。
【0026】
ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオキシアルキレングリコール等の非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤を用いることができる。ポリマーは、基板10の表面10aに単分子膜を形成し、金属の析出を抑制することにより、形成される金属膜の厚みの均一性を向上する作用を有する。
【0027】
ブライトナーとしては、例えば、含硫黄有機化合物、より具体的には、3-メルカプトプロパンスルホン酸、そのナトリウム塩、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、その2ナトリウム塩、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸(3-スルホプロピル)エステル、そのナトリウム塩等のスルホン基を有する有機硫黄系の化合物を用いることができる。ブライトナーは、金属の析出を促進して、析出する金属の粒子を微細化し、形成される金属膜に光沢を与える作用を有する。
【0028】
レベラーとしては、例えば、ヤヌスグリーンB(JGB)、サフラニン化合物のような第四級アンモニウム化合物、フェナジン化合物、ポリアルキレンイミン、チオ尿素及びその誘導体、ポリアクリル酸アミド等の含窒素有機化合物を用いることができる。レベラーは、金属が析出しやすい凸部に多く吸着し、凸部における金属の析出を抑制し、形成される金属膜の平坦性を高める作用を有する。
【0029】
図1に示すように成膜装置50のホルダー56で基板10を保持する。次いで、図3に示すように、ホルダー56を上昇させ、及び/又はハウジング53を下降させて、基板10の表面10aと固体電解質膜52を接触させる。
【0030】
次いで、図4に示すように、溶液タンク61から溶液収容空間59に、溶液Lを供給する。ポンプ62を作動させることにより、溶液Lが、溶液タンク61から供給管64aへ送り出され、供給口53aを通って溶液収容空間59に流入する。溶液Lは固体電解質膜52に接触し、固体電解質膜52に浸透する。その結果、固体電解質膜52は、溶液Lを内部に含有する。
【0031】
b)溶液収容空間内の溶液の圧力を高めるステップ(S2)
ポンプ62を停止した後、バルブ63a、63bを閉じて溶液収容空間59を溶液タンク61から分離する。すなわち、溶液収容空間59が溶液タンク61と連通していない状態にする。次いで、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を高める。例えば、溶液収容空間59内の溶液Lに外力を加えることにより、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を高めることができる。具体的には、図5に示すように、加圧機構55により蓋部53dをハウジング53の内側に向かって押すことにより溶液Lに外力を加え、溶液Lの圧力を高めることができる。固体電解質膜52に皺があったり、固体電解質膜52と基板10の間に気泡が存在したりする場合、溶液Lの圧力を高めることにより、皺を伸ばし、気泡を除去することができる。バルブ63a、63bが閉じられているため、溶液タンク61、溶液タンク61とバルブ63a、63bの間の部材(供給管64a、排出管64b、及びポンプ62等)、及びこれらの接続部の許容圧力を超える圧力まで、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を高めることができる。溶液Lの圧力は、皺及び/又は気泡を十分に除去でき且つ固体電解質膜52が破断しない範囲で適宜設定してよく、例えば0.2~1MPaであってよい。
【0032】
c)溶液収容空間内の溶液の圧力を下げるステップ(S3)
次に、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を下げる。例えば、溶液収容空間59内の溶液Lに加えていた外力を低減する(特にゼロにする)ことにより、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を下げることができる。具体的には、加圧機構55で蓋部53dを押す力を弱める又は蓋部53dを押すことを停止することにより、溶液Lの圧力を下げることができる。
【0033】
d)溶液を循環させながら金属膜を形成するステップ(S4)
バルブ63a、63bを開け、溶液収容空間59と溶液タンク61を連通させる。次いで、ポンプ62を作動させて、供給管64a及び排出管64bを介して溶液収容空間59と溶液タンク61の間で溶液Lを循環させる。溶液Lの循環を継続しながら、電源部54により陽極51と基板10の表面10aとの間に電圧を印加する。すると、基板10の表面10aで溶液Lに含まれる金属イオンが還元され、基板10の表面10aに金属が析出する。さらに、析出した金属の表面でも金属イオンが還元され、さらに金属が析出する。それにより基板10の表面10aに金属膜が形成される。なお、陽極51と基板10の表面10aとの間に印加する電圧は適宜設定してよい。より高い電圧を印加することにより、金属の析出速度を高めることができる。また、溶液Lを加熱してもよい。それにより金属の析出速度を高めることができる。
【0034】
ステップS2において固体電解質膜52の皺及び/又は固体電解質膜52と基板10の表面10aの間の気泡を除去しているため、ステップS4において皺及び/又は気泡が金属膜の表面の平滑性に悪影響を及ぼすことが防止又は低減される。そのため、平滑な表面を有する金属膜を形成することができる。また、溶液Lの循環を継続しながら金属膜を形成するため、溶液収容空間59内の添加剤が枯渇することが防止される。そのため、金属の析出する位置及びその近傍に十分な量の添加剤が供給され、添加剤の機能が十分に発揮される。例えば、溶液Lが添加剤としてポリマーを含む場合、均一な厚みの金属膜を形成することができる。溶液Lが添加剤としてブライトナーを含む場合、金属光沢を有する金属膜を形成することができる。溶液Lが添加剤としてレベラーを含む場合、平坦性の高い金属膜を形成することができる。
【0035】
所望の厚みを有する金属膜が形成された後、陽極51と基板10の間の電圧の印加を停止し、ポンプ62を停止して溶液Lの循環を止める。そして、ホルダー56を下降させ及び/又はハウジング53を上昇させて、固体電解質膜52と金属膜(不図示)を離間させる。金属膜が形成された基板10をホルダー56から取り外す。
【実施例
【0036】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
図1に示すような成膜装置50を用意した。メッシュ状のチタン製容器及びその中に収容された銅ボールを陽極51として用いた。固体電解質膜52としては、ナフィオン(登録商標)(厚み約8μm)を用いた。基板10としてFR-4銅張積層板を用意し、ホルダー56で保持した。銅イオン及び添加剤を含有する溶液(JCU社製「Cu BRITE SED」)を溶液タンク61に投入し、42℃に加熱した。次いで、図3に示すように、基板10と固体電解質膜52を接触させた。
【0038】
バルブ63a、63bを開け、ポンプ62を作動させて、図4に示すように溶液タンク61から溶液収容空間59に溶液Lを1L/分の流量で供給した(ステップS1)。
【0039】
ポンプ62を停止し、バルブ63a、63bを閉じた。次いで、図5に示すように加圧機構55により蓋部53dを押して、溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を0.6MPaに高めた(ステップS2)。
【0040】
加圧機構55により蓋部53dを押すことを停止して溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を下げた(ステップS3)。溶液収容空間59内の溶液Lの圧力は大気圧に略等しかった。
【0041】
バルブ63a、63bを開け、ポンプ62を作動させて、図6に示すように溶液タンク61と溶液収容空間59の間で溶液Lを1L/分の流量で循環させた。陽極51と基板10の間に電圧を印加して、6.8A/dmの電流密度で電流を流した。それにより基板10の表面10aに銅が堆積し、銅膜が形成された(ステップS4)。形成された銅膜の写真を図7に示す。銅膜は平滑な表面を有し、均一な金属光沢を有していた。
【0042】
比較例1
実施例1と同様にしてステップS1を行った。溶液タンク61と溶液収容空間59の間で溶液Lを1L/分の流量で循環させながら、実施例1のステップS4と同様にして、陽極51と基板10の間に電圧を印加して、基板10の表面10aに銅膜を形成した。形成された銅膜の写真を図8に示す。銅膜の表面の一部に凹凸が見られた(図8の左上部分参照)。本比較例では、銅膜を形成する前に溶液収容空間59内の溶液Lの圧力を高めることを行わなかったため、固体電解質膜52の皺が伸ばされずに残存し、その皺が銅膜に転写されたと考えられる。
【0043】
比較例2
実施例1と同様にしてステップS1及びステップS2を行った。加圧機構55により蓋部53dを押すことを継続しながら、陽極51と基板10の間に電圧を印加して、基板10の表面10aに銅膜を形成した。形成された銅膜の写真を図9に示す。銅膜の表面の金属光沢は不均一であった。本比較例では、銅膜の形成中、溶液Lの圧力を高めるためにバルブ63a、63bを閉じていたため、溶液Lは循環させなかった。それにより、銅の析出する位置及びその近傍への添加剤の供給が不足し、添加剤の機能が十分に発揮されなかったために、銅膜の金属光沢が不均一になったと考えられる。
【符号の説明】
【0044】
10:基板、50:成膜装置、51:陽極、52:固体電解質膜、53:ハウジング、54:電源部、55:加圧機構、56:ホルダー、59:溶液収容空間、61:溶液タンク、L:溶液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9