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特許7521505遠隔運転の引き継ぎ方法、遠隔運転システム、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】遠隔運転の引き継ぎ方法、遠隔運転システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/09 20060101AFI20240717BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20240717BHJP
   G05D 1/00 20240101ALI20240717BHJP
【FI】
G08G1/09 V
G08G1/00 D
G05D1/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021141586
(22)【出願日】2021-08-31
(65)【公開番号】P2023035015
(43)【公開日】2023-03-13
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高島 亨
(72)【発明者】
【氏名】小川 貴広
(72)【発明者】
【氏名】只熊 憲治
(72)【発明者】
【氏名】三輪 啓介
(72)【発明者】
【氏名】玉川 周一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】太田 峻
(72)【発明者】
【氏名】西川 裕己
【審査官】増子 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-064207(JP,A)
【文献】特開2020-204998(JP,A)
【文献】特開2021-022318(JP,A)
【文献】特開2021-026569(JP,A)
【文献】特開2017-163253(JP,A)
【文献】特開2021-033523(JP,A)
【文献】特開2017-010206(JP,A)
【文献】国際公開第2021/111765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G05D 1/00 - 1/87
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の遠隔運転の引き継ぎ方法であって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を含み、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することは、遠隔オペレータそれぞれに対する乗員ごとの評価結果を蓄積した評価データベースを参照することを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の遠隔運転の引き継ぎ方法において、
前記評価データベースを参照することは、前記乗員を担当した遠隔オペレータの中で前記乗員による評価が最も高い遠隔オペレータを前記評価データベースから検索することを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項3】
請求項2に記載の遠隔運転の引き継ぎ方法において、
前記評価データベースを参照することは、前記乗員を過去に担当した遠隔オペレータが存在しないことを受けて、前記乗員が求める前記オペレータ条件に最も類似したオペレータ条件を求める乗員による評価が最も高い遠隔オペレータを前記評価データベースから検索することを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項4】
車両の遠隔運転の引き継ぎ方法であって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を含み、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項5】
車両の遠隔運転の引き継ぎ方法であって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を含み、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、待機中の遠隔オペレータの中で前記車両の乗員を含むユーザ全体による評価の最も高い遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の遠隔運転の引き継ぎ方法において、
前記車両に対する操作量を徐変させることは、前記新たな遠隔オペレータへの交代時における前記現在の遠隔オペレータによる操作量と前記新たな遠隔オペレータによる操作量との差分を初期値として、前記新たな遠隔オペレータによる操作量に対する補正量を徐々に減少させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の遠隔運転の引き継ぎ方法において、
前記車両に対する操作量を徐変させることは、前記新たな遠隔オペレータへの交代時における前記現在の遠隔オペレータによる操作量と前記新たな遠隔オペレータによる操作量との比を初期値として、前記新たな遠隔オペレータによる操作量に対する補正ゲインを徐々に減少させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転の引き継ぎ方法。
【請求項8】
車両の遠隔運転システムであって、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することは、遠隔オペレータそれぞれに対する乗員ごとの評価結果を蓄積した評価データベースを参照することを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項9】
車両の遠隔運転システムであって、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項10】
車両の遠隔運転システムであって、
少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、待機中の遠隔オペレータの中で前記車両の乗員を含むユーザ全体による評価の最も高い遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とする遠隔運転システム。
【請求項11】
車両の遠隔運転の引き継ぎをコンピュータに実行させるプログラムであって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を前記コンピュータに実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することは、遠隔オペレータそれぞれに対する乗員ごとの評価結果を蓄積した評価データベースを参照することを含む
ことを特徴とするプログラム。
【請求項12】
車両の遠隔運転の引き継ぎをコンピュータに実行させるプログラムであって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を前記コンピュータに実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、前記車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とするプログラム。
【請求項13】
車両の遠隔運転の引き継ぎをコンピュータに実行させるプログラムであって、
交代要求を取得することと、
前記交代要求を受けて前記車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することと、
前記新たな遠隔オペレータの選択を受けて前記車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることと、を前記コンピュータに実行させるように構成され、
前記新たな遠隔オペレータを選択することは、待機中の遠隔オペレータの中で前記車両の乗員を含むユーザ全体による評価の最も高い遠隔オペレータを選択することを含み、
前記車両の遠隔運転の担当を前記現在の遠隔オペレータから前記新たな遠隔オペレータへ交代させることは、前記車両に対する操作量を前記現在の遠隔オペレータによる操作量から前記新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることを含む
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠隔オペレータによる車両の遠隔運転の引き継ぎ方法、及び、遠隔運転の引き継ぎが可能な遠隔運転システム、並びに、遠隔運転の引き継ぎをコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の運転を自動運転から手動運転へ切り替える際に、自車両だけでなく他車両の乗員も含めて運転者としての優先度を決定し、優先度の高い乗員に車両の運転を引き継ぐことが開示されている。その際、特許文献1に記載の技術によれば、運転候補者が自車両の運転席以外の座席に着座している場合、及び運転候補者が他車両の乗員である場合、運転候補者は遠隔操作装置により車両の制御を行う。
【0003】
特許文献1には、自動運転システムによる自動運転から遠隔オペレータによる遠隔運転へと車両の運転を引き継ぐ発明が開示されている。車両の遠隔運転では、遠隔運転されている車両の乗員の好みと遠隔オペレータの運転のくせとがマッチせず、乗員が遠隔オペレータの運転に対して不安や違和感を抱くおれがある。そのような場合には遠隔オペレータの交代が望ましい。しかし、遠隔オペレータによる遠隔運転から別の遠隔オペレータによる遠隔運転へと車両の運転を引き継ぐことについては特許文献1には何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-204998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものである。本開示は、車両の遠隔運転を別の遠隔オペレータによる遠隔運転へ引き継ぐことを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は車両の遠隔運転の引き継ぎ方法を提供する。本開示の引き継ぎ方法は、少なくとも3つのステップを含む。第1のステップは、交代要求を取得することとである。第2のステップは、交代要求を受けて車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することである。そして、第3のステップは、新たな遠隔オペレータの選択を受けて車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから新たな遠隔オペレータへ交代させることである。
【0007】
第2のステップでは、車両の乗員が求めるオペレータ条件に適合した遠隔オペレータを新たな遠隔オペレータとして選択してもよい。
【0008】
この場合、遠隔オペレータごとの運転特性を記憶した運転特性データベースを参照することによって、新たな遠隔オペレータを選択してもよい。運転特性は、操舵操作、ブレーキ操作、及びアクセル操作のうちの少なくとも1つの運転操作の特徴量を含んでもよいし、通信遅れに対する運転操作のロバスト性を含んでもよい。
【0009】
また、遠隔オペレータそれぞれに対する乗員ごとの評価結果を蓄積した評価データベースを参照することによって、新たな遠隔オペレータを選択してもよい。評価データベースの参照では、対象乗員を担当した遠隔オペレータの中で対象乗員による評価が最も高い遠隔オペレータを評価データベースから検索してもよい。対象乗員を過去に担当した遠隔オペレータが存在しないのであれば、対象乗員が求めるオペレータ条件に最も類似したオペレータ条件を求める類似乗員を特定し、類似乗員による評価が最も高い遠隔オペレータを評価データベースから検索してもよい。
【0010】
さらに、遠隔オペレータごとの勤務条件を管理する管理データベースを参照することによって、新たな遠隔オペレータを選択してもよい。
【0011】
また、第2のステップでは、待機中の遠隔オペレータの中でユーザ全体による評価の最も高い遠隔オペレータを新たな遠隔オペレータとして選択してもよい。
【0012】
第1のステップでは、乗員が発した交代要求又は現在の遠隔オペレータの運転を監視する監視者が発した交代要求を取得してもよい。また、現在の遠隔オペレータの運転時間又は運転距離が規定値に達したことを交代要求として取得してもよい。さらに、現在の遠隔オペレータが発した交代要求を取得してもよい。
【0013】
第3のステップでは、車両に対する操作量を現在の遠隔オペレータによる操作量から新たな遠隔オペレータによる操作量へ徐変させることによって、現在の遠隔オペレータから新たな遠隔オペレータへの交代を行ってもよい。徐変処理としては、新たな遠隔オペレータへの交代時における現在の遠隔オペレータによる操作量と新たな遠隔オペレータによる操作量との差分を初期値として、新たな遠隔オペレータによる操作量に対する補正量を徐々に減少させてもよい。また、徐変処理としては、新たな遠隔オペレータへの交代時における現在の遠隔オペレータによる操作量と新たな遠隔オペレータによる操作量との比を初期値として、新たな遠隔オペレータによる操作量に対する補正ゲインを徐々に減少させてもよい。
【0014】
また、第3のステップでは、新たな遠隔オペレータによる操作量と現在の遠隔オペレータによる操作量との差が所定値以下に収まったことを受けて車両に対する操作量を現在の遠隔オペレータによる操作量から新たな遠隔オペレータによる操作量へ切り替えるようにしてもよい。
【0015】
本開示の引き継ぎ方法は、第4のステップをさらに含んでもよい。第4のステップは、現在の遠隔オペレータから新たな遠隔オペレータへの交代条件が満たされないことを受けて現在の遠隔オペレータによる遠隔運転を延長することである。
【0016】
また、本開示は車両の遠隔運転システムを提供する。本開示の遠隔運転システムは、少なくとも1つのプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサとを備える。少なくとも1つのプログラムは、少なくとも1つのプロセッサに、少なくとも3つの処理を実行させるように構成されている。第1の処理は、交代要求を取得することである。第2の処理は、交代要求を受けて車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することである。そして、第3の処理は、新たな遠隔オペレータの選択を受けて車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから新たな遠隔オペレータへ交代させることである。
【0017】
さらに、本開示は車両の遠隔運転の引き継ぎをコンピュータに実行させるプログラムを提供する。本開示のプログラムは、少なくとも3つの処理をコンピュータに実行させるように構成されている。第1の処理は、交代要求を取得することである。第2の処理は、交代要求を受けて車両の遠隔運転を担当する新たな遠隔オペレータを選択することである。そして、第3の処理は、新たな遠隔オペレータの選択を受けて車両の遠隔運転の担当を現在の遠隔オペレータから新たな遠隔オペレータへ交代させることである。
【発明の効果】
【0018】
本開示の遠隔運転の引き継ぎ方法、遠隔運転システム、及びプログラムによれば、車両の遠隔運転を別の遠隔オペレータによる遠隔運転へ引き継ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示の実施形態に係る遠隔運転システムの構成を示す概略図である。
図2】オペレータデータベースの構成を示すブロック図である。
図3】運転特性データベースの概要を説明するための図である。
図4】評価データベースの概要を説明するための図である。
図5】管理データベースの概要を説明するための図である。
図6】オペレータ交代処理の第1の方法の1つである補正量徐変方法を説明するための図である。
図7】オペレータ交代処理の第1の方法の1つである補正ゲイン徐変方法を説明するための図である。
図8】オペレータ交代処理の第2の方法を説明するための図である。
図9】本開示の実施形態に係る遠隔運転の引き継ぎ方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0021】
1.遠隔運転システムの構成
図1は、車両の遠隔運転システムの構成図である。遠隔運転システム10は、ユーザに対して遠隔運転サービスを提供するシステムである。遠隔運転サービスにおけるユーザは、遠隔運転される車両2の乗員25である。遠隔運転される車両2は、例えば、個人所有の車両でもよいし、複数人が一緒に乗り合わせるライドシェア車両でもよいし、バスやタクシーのような公共交通車両でもよい。
【0022】
車両2は、遠隔運転を受けるための遠隔コントローラ20を備える。遠隔コントローラ20は、プロセッサとプロセッサに結合されたメモリとを備えている。メモリには、プロセッサで実行可能なプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プログラムがプロセッサで実行されることで、遠隔運転により車両2を運転するための種々の機能が遠隔コントローラ20において実現される。
【0023】
遠隔コントローラ20は、4Gや5Gを含む移動体通信を用いて外部と通信する通信部21を備える。また、遠隔コントローラ20は、通信部21を介して取得した遠隔運転信号にしたがって車両2を制御する車両制御部22を備える。遠隔運転信号は、車両2の操舵アクチュエータ、制動アクチュエータ、及び駆動アクチュエータを操作する操作信号を含む。また、遠隔運転信号は、方向指示器、ワイパー、ライトのような車両2の安全設備や、エアコンやオーディオのような乗員25のための快適設備を操作するための操作信号も含む。通信部21及び車両制御部22は、プログラムがプロセッサで実行されることで実現される遠隔コントローラ20の機能に含まれる。
【0024】
遠隔運転では、車両2の運転に必要な認知、判断、及び操作は、乗員25の代わりに遠隔オペレータ45によって行われる。以下、遠隔オペレータを単にオペレータと呼ぶ。オペレータ45は、遠隔運転の拠点であるオペレータセンタ4に常駐して車両2を遠隔運転する常駐オペレータと、自宅などの外部からオペレータセンタ4にアクセスして遠隔運転を行う在外オペレータとを含む。ただし、図1に示すオペレータ45は常駐オペレータであり、在外オペレータは図示を省略している。
【0025】
オペレータ45は遠隔運転席において車両2を遠隔運転する。遠隔運転席には、画像を出力するディスプレイと音を出力するスピーカとが設けられている。ディスプレイは、例えば、車両2のカメラが撮像した車両2の前方の画像及び周囲の画像を表示する。スピーカは、例えば、マイクにより集音された車両2の周囲の状況を音声によりオペレータ45に伝える。
【0026】
遠隔運転席には、操舵操作のためのステアリングホイール、加速操作のためのアクセルペダル、及び減速操作のためのブレーキペダルが設けられている。また、車両2が変速機を備えるのであれば、遠隔運転席にも変速機のレバー或いはスイッチを備えてもよい。その他にも、車両2の安全設備を操作するための操作装置と、快適装備の設定を調整するための操作装置とが遠隔運転席に備えられる。
【0027】
オペレータ45が操作する遠隔運転席は、遠隔運転サーバ40に接続されている。遠隔運転サーバ40はオペレータセンタ4に設置されていてもよいし、クラウド上に設けられていてもよい。遠隔運転サーバ40は、プロセッサとプロセッサに結合されたメモリとを備えている。メモリには、プロセッサで実行可能なプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プログラムがプロセッサで実行されることで、遠隔運転のための種々の機能が遠隔運転サーバ40において実現される。
【0028】
遠隔運転サーバ40は、通信ネットワークを介して外部と通信する通信部41を備える。通信部41は、車両2のカメラで取得された画像情報やマイクで取得された音声情報を遠隔コントローラ20から受信するとともに、遠隔運転のための遠隔運転信号を遠隔コントローラ20に送信する。また、通信部41は、次に説明する管制センタ3からオペレータ45の交代指示を受信する。遠隔運転サーバ40は、遠隔運転を担当するオペレータ45を交代させるための処理を行うオペレータ交代処理部42を備える。オペレータ交代処理の内容については追って詳細に説明する。通信部41及びオペレータ交代処理部42は、プログラムがプロセッサで実行されることで実現される遠隔運転サーバ40の機能に含まれる。
【0029】
管制センタ3は、車両2を遠隔運転するオペレータ45を管理する。車両2の遠隔運転を担当するオペレータ45の任命権は管制センタ3が有している。管制センタ3は現実の施設でもよいしクラウド上の仮想の施設でもよい。管制センタ3には管制サーバ30が設けられている。管制サーバ30は、プロセッサとプロセッサに結合されたメモリとを備えている。メモリには、プロセッサで実行可能なプログラムとそれに関連する種々の情報とが記憶されている。プログラムがプロセッサで実行されることで、オペレータ45の管理のための種々の機能が管制サーバ30において実現される。
【0030】
管制サーバ30は、通信ネットワークを介して外部と通信する通信部31を備える。通信部31は、乗員25がオペレータ45の交代を求める交代要求を受信するとともに、オペレータ45を交代させるための交代指示を遠隔運転サーバ40に送信する。乗員25は、スマートフォンのような携帯端末26を操作することで管制センタ3に交代要求を送信することができる。携帯端末26の専用アプリでは、乗員25が希望するオペレータ条件の入力画面が表示される。乗員25はオペレータ条件を細かく選択して交代要求を送信することもできるし、オペレータ条件を選択せずに交代要求を送信することもできる。
【0031】
管制サーバ30は、さらに、オペレータデータベース32、オペレータ選択部33、及びオペレータ交代指示部34を備える。乗員25からの交代要求を受けて、オペレータ選択部33は、乗員25が乗車している車両2の遠隔運転を担当する新たなオペレータ45を選択する。このときオペレータ選択部33は、オペレータデータベース32を参照して新たなオペレータ45を選択する。オペレータ交代指示部34は、オペレータ選択部33で選択された新たなオペレータ45に遠隔運転の担当を代わるよう、遠隔運転サーバ40に交代指示を送信する。管制サーバ30が有するこれらの機能は、プログラムがプロセッサで実行されることで実現される。
【0032】
2.オペレータ選択
次に、交代要求を受けて行うオペレータ45の選択方法について説明する。新たなオペレータ45の選択にはオペレータデータベース32が用いられる。オペレータデータベース32は、オペレータ45の選択において参照される種々のオペレータ条件を管理するデータベースである。オペレータ条件には、オペレータ45の運転歴やグレード、そして、時間単価などのオペレータ45の基本条件が含まれる。さらに、図2に示すように、オペレータデータベース32は、異なる情報を管理する複数のデータベース321,322,323を含んでいる。図2に示す例では、オペレータデータベース32は、運転特性データベース321と、評価データベース322と、管理データベース323とを含んでいる。
【0033】
図3は、運転特性データベース321の概要を説明するための図である。運転特性データベース321は、オペレータ45ごとの運転特性を記憶したデータベースである。図3に示す例では、ハンドル操作(操舵操作)、ブレーキ操作、アクセル操作、対通信遅延ロバスト性、及び安全スコアの5つの運転特性について、A,B,C,Dの4人のオペレータ45のそれぞれの特徴量が5段階の数値で表されている。各特徴量の値は、オペレータ45の遠隔運転のモニタ結果に基づいて定期的に更新される。
【0034】
図3に示す例では、ハンドル操作、ブレーキ操作、及びアクセル操作の各特徴量については、例えば、操作が急激であるほど大きく、優しいほど小さい数値とされている。対通信遅延ロバスト性は、通信遅延に対するオペレータ45の対応力を意味している。例えば、100msの通信遅延でハンドルの振れ幅が5度の場合と1度の場合とでは、1度の振れ幅のほうがロバスト性は高いと言える。対通信遅延ロバスト性の各特徴量については、例えば、ロバスト性が高いほど大きく、低いほど小さい数値とされている。安全スコアは、オペレータ45のこれまでの運転履歴から判定される数値であって、例えば、全運転期間に対する安全運転を行った期間の比率が高いほど大きい数値とされている。
【0035】
乗員25の交代要求においてオペレータ条件が選択され、且つ、選択されたオペレータ条件に運転特性が含まれる場合、オペレータ選択部33は運転特性データベース321を参照する。例えば、図3に示す例において、現在のオペレータ45がオペレータDである場合、交代要求において乗員25がより優しいハンドル操作を求めているのであれば、新しいオペレータ45としてオペレータBが選択される。また、現在のオペレータ45がオペレータBである場合、交代要求において乗員25がより優しいブレーキ操作とより高い対通信遅延ロバスト性を求めているのであれば、新しいオペレータ45としてオペレータCが選択される。
【0036】
なお、乗員25の交代要求においてオペレータ条件が選択されているが、運転特性は選択されていないケースとしては、オペレータ45の運転歴や時間単価などの基本条件のみが選択されたケースである。この場合、オペレータ選択部33は、交代要求において選択された基本条件をキーにしてオペレータデータベース32を検索し、検索結果から新しいオペレータ45を選択する。
【0037】
図4は、評価データベース322の概要を説明するための図である。評価データベース322は、オペレータ45それぞれに対する乗員25ごとの評価結果を蓄積したデータベースである。図4に示す例では、I,II,III,IV,Vの5人の乗員25のA,B,C,Dの4人のオペレータ45に対する評価値で表されている。評価値が大きいほどオペレータ45に対する乗員25の評価が大きいことを意味する。評価値が空欄になっているセルは、そのセルに対応するオペレータ45がそのセルに対応する乗員25を過去に担当したことがないことを意味する。例えば、オペレータAは乗員IVを担当したことがない。各セルの評価値は乗員25が評価結果を入力するたびに更新される。
【0038】
乗員25の交代要求においてオペレータ条件が選択されていない場合、オペレータ選択部33は評価データベース322を参照する。評価データベース322を参照することで、乗員25がどのオペレータ45を高く評価しているかが分かる。乗員25が交代要求においてオペレータ条件を選択していないことは、乗員25は現在のオペレータ45に比較してより自身の好みに適合したオペレータ45、すなわち、より評価値の高いオペレータ45への交代を要求していることを意味する。つまり、交代要求においてオペレータ条件が選択されていない場合、その交代要求には、より評価値が高いオペレータ45であることが暗示的なオペレータ条件として含まれていると言える。
【0039】
評価データベース322を参照したオペレータ45の選択について具体例を挙げて説明する。例えば、図4に示す例において、乗員IVの現在のオペレータ45がオペレータBである場合、オペレータCが新しいオペレータ45として選択される。また、乗員IIの現在のオペレータ45がオペレータCである場合、オペレータAとオペレータBのうちより評価値が高いオペレータBが新しいオペレータ45として選択される。同様に、オペレータ条件で検索された新しいオペレータ45の候補が複数存在する場合にも、評価データベース322においてより高い評価値が与えられているオペレータ45が選択される。
【0040】
ここで、乗員Iと乗員IIIに注目する。乗員Iを過去に担当したことがあるオペレータ45はオペレータBのみである。このため、乗員Iの現在のオペレータ45がオペレータBである場合、乗員Iの交代要求に応えることのできるオペレータ45は乗員Iの過去の評価結果からは見つからない。この場合、オペレータ選択部33は、まず、過去の交代要求の履歴から、乗員Iが求めるオペレータ条件(或いは過去に求めたオペレータ条件)に最も類似したオペレータ条件を求めた乗員(類似乗員)を特定する。ここでは、乗員IVが類似乗員とする。オペレータ選択部33は、類似乗員である乗員IVによる評価が最も高いオペレータ45を評価データベース322から検索し、検索で得られたオペレータCを乗員Iに対する新しいオペレータ45として選択する。
【0041】
一方、乗員IIIを過去に担当したことがあるオペレータ45は存在しない。このことは、乗員IIIが新たな遠隔運転システム10の新たな利用者であることを意味する。この場合、乗員IIIの過去の交代要求の履歴を利用することはできない。そこで、乗員IIIから交代要求を受けた場合、オペレータ選択部33は、待機中のオペレータ45の中で乗員25の評価の最も高いオペレータ45を選択する。例えば、乗員IIIの現在のオペレータ45がオペレータAであり、オペレータB,C,Dが待機中である場合、平均評価値が最も高いオペレータBが新しいオペレータ45として選択される。
【0042】
図5は、管理データベース323の概要を説明するための図である。管理データベース323は、オペレータ45ごとの勤務条件を管理するデータベースである。図5に示す例では、A,B,C,Dの4人のオペレータ45のそれぞれについて勤務開始予定時間、勤務終了予定時間、連続運転時間、及び連続運転距離が記録されている。勤務開始予定時間及び勤務終了予定時間は予め登録された登録値である。連続運転時間及び連続運転距離は遠隔運転の開始とともにカウントを開始され、終了とともにリセットされるカウント値である。連続運転時間と連続運転距離には、長時間の運転によるオペレータ45の疲労や集中力の低下を考慮して、それぞれ上限値が設定されている。
【0043】
オペレータ選択部33は、運転特性データベース321と併せて、或いは、評価データベース322と併せて管理データベース323を参照する。図5に示す例では、現在時刻が12:30である場合、勤務が開始されていないオペレータCを選択することはできない。また、現在時刻が15:00であって予想される運転終了時間が2時間30分後である場合、選択可能なオペレータ45はオペレータB或いはオペレータCである。運転特性や評価値から選択された新たなオペレータ45の候補がオペレータCとオペレータDである場合、勤務条件を参照することによって新たなオペレータ45はオペレータCに絞られる。
【0044】
3.オペレータ交代処理
次に、オペレータ45の交代を行う場合に実施されるオペレータ交代処理の詳細について図6乃至図8を用いて説明する。オペレータ交代処理には大きく分けて2つの方法がある。第1の方法は、車両2に対する操作量を現在のオペレータ45による操作量から新たなオペレータ45による操作量へ徐変させる方法である。具体的には、交代要求を受けてオペレータ45の交代を行ったうえで、交代時に生じていたオペレータ間の操作量のずれを交代後に徐々に解消していく方法である。第1の方法は、補正量徐変方法と補正ゲイン補正方法とを含む。
【0045】
図6は補正量徐変方法によるオペレータ交代処理を説明する図である。補正量徐変方法は、車両2に対する操作量のうち、特に、操舵角の切り替えに好適な方法である。ただし、ブレーキ踏み込み量やアクセル踏み込み量の切り替えに用いることもできる。図6に示す例では、前任のオペレータ45がオペレータAであり、後任のオペレータ45はオペレータBである。また、切り替えられる操作量は操舵角である。
【0046】
補正量徐変方法では、オペレータBへの交代時におけるオペレータAによる操舵角とオペレータBによる操舵角との差分が補正量の初期値として設定される。オペレータBへの交代後は、オペレータBによる操舵角に補正量を加算して得られる値が車両2に対する操舵角として用いられる。つまり、交代時に生じていたオペレータAによる操舵角とオペレータBによる操舵角との差分は、後任のオペレータBに引き継がれる。補正量は、図6の下段のグラフに示すように徐々に減少させられ、オペレータBへの交代から所定時間後にゼロにされる。これにより、車両2に対する操舵角をオペレータAによる操舵角からオペレータBによる操舵角へ徐変させて、オペレータ交代時の操舵角の急変による車両2のふらつきを防ぐことができる。なお、補正量が徐々に減少されることで、車両2に対する操舵角に過剰或いは不足が生じ、車両2の軌跡と目標軌跡との間にずれが生じることがある。しかし、オペレータBが自ずと操舵角を修正することで、車両2の軌跡のずれは解消される。
【0047】
図7は補正ゲイン徐変方法によるオペレータ交代処理を説明する図である。補正ゲイン徐変方法は、車両2に対する操作量のうち、特に、ブレーキ踏み込み量及びアクセル踏み込み量の切り替えに好適な方法である。図7に示す例では、前任のオペレータ45がオペレータAであり、後任のオペレータ45はオペレータBである。また、切り替えられる操作量はブレーキ踏み込み量である。
【0048】
補正ゲイン徐変方法では、オペレータBへの交代時におけるオペレータAによるブレーキ踏み込み量とオペレータBによるブレーキ踏み込み量との比が補正ゲインの初期値として設定される。オペレータBへの交代後は、オペレータBによるブレーキ踏み込み量に補正ゲインを乗算して得られる値が車両2に対するブレーキ踏み込み量として用いられる。補正ゲインは、図7の下段のグラフに示すように徐々に減少させられ、オペレータBへの交代から所定時間後に基本値の1にされる。これにより、車両2に対するブレーキ踏み込み量をオペレータAによるブレーキ踏み込み量からオペレータBによるブレーキ踏み込み量へ徐変させ、オペレータ交代時のブレーキ踏み込み量の急変による車両2の減速度の急変を防ぐことができる。なお、補正ゲインが徐々に減少されることで、車両2に対するブレーキ踏み込み量に過剰或いは不足が生じ、車両2の減速度に過剰或いは不足が生じることがある。しかし、オペレータBが自ずとブレーキ踏み込み量を修正することで、減速度の過剰或いは不足は解消される。
【0049】
オペレータ交代処理の第2の方法は、新たなオペレータ45による操作量と現在のオペレータ45による操作量との差が所定値以下に収まるのを待ってオペレータ45の交代を実行する方法である。具体的には、第2の方法では、両者の間の差が閾値以下に収まったことを受けて、車両2に対する操作量を現在のオペレータ45による操作量から新たなオペレータ45による操作量へと切り替えることが行われる。
【0050】
図8は第2の方法によるオペレータ交代処理を説明する図である。第2の方法は、車両2に対する操作量のうち、特に、操舵角の切り替えに好適な方法である。図8に示す例では、前任のオペレータ45がオペレータAであり、後任のオペレータ45はオペレータBである。また、切り替えられる操作量は操舵角である。
【0051】
第2の方法では、交代処理の開始後、オペレータAによる操舵角とオペレータBによる操舵角との差分が計算される。オペレータBは、この差分を縮小するようにハンドルの操作を行う。つまり、第2の方法では、後任のオペレータBが操舵角を前任のオペレータAによる操舵角に合わせるようにハンドル操作を行う。そして、オペレータAによる操舵角とオペレータBによる操舵角との差分が閾値以下になったとき、オペレータ45の交代が行われる。これにより、オペレータAによる操舵からオペレータBによる操舵へと車両2の操舵が滑らかに引き継がれる。第2の方法では、交代が行われるまでは、前任のオペレータAによる操舵角が車両2に対する操舵角として用いられ、交代後は、後任のオペレータBによる操舵角がそのまま車両2に対する操舵角として用いられる。
【0052】
4.遠隔運転の引き継ぎ方法
以上説明したように、遠隔運転システム10では、乗員25からの交代要求に応じてオペレータ45の交代が行われる。つまり、遠隔運転システム10では、車両2の遠隔運転を別のオペレータ45による遠隔運転へ引き継ぐことができる。図9は、遠隔運転システム10において実行される遠隔運転の引き継ぎ方法を示すフローチャートである。以下、フローチャートに沿って、本実施形態に係る遠隔運転の引き継ぎ方法について説明する。
【0053】
ステップS1では、乗員25からの交代要求の有無が判定される。交代要求が無い場合には、ステップ6に進んで現在のオペレータ45による遠隔運転が維持される。交代要求がある場合、ステップ2に進む。
【0054】
ステップS2では、待機中のオペレータ45の中から乗員25の求めるオペレータ条件に適合した新たなオペレータ45が選択される。新たなオペレータ45は「2.オペレータ選択」で説明した方法で選択される。ただし、その他の方法として、待機中のオペレータ45の中から新たなオペレータ45をランダムに選択する方法を用いることもできる。
【0055】
ステップS3では、ステップS2で選択された新たなオペレータ45への交代処理が開始される。交代処理は「3.オペレータ交代処理」において説明した方法で行われる。
【0056】
ステップS4では、オペレータ45の交代条件が満たされたかどうか判定される。オペレータ45の交代条件はオペレータ交代処理が第1の方法か第2の方法かによって異なる。オペレータ45の交代処理として第1の方法が行われる場合、現在のオペレータ45による操作量と新たなオペレータ45による操作量との差分(補正量徐変方法の場合)或いは比(補正ゲイン徐変方法の場合)が所定値以下であることが交代条件である。オペレータ45の交代処理として第2の方法が行われる場合、交代処理の開始からの経過時間が所定時間を超えた時点で交代条件の不成立が判定される。
【0057】
ステップS4の判定の結果、交代条件が満たされた場合にはステップS5に進み、交代条件が満たされない場合にはステップS6に進む。ステップS5では、新たなオペレータ45への交代が実行される。一方、ステップS6では、現在のオペレータ45による遠隔運転が維持され、新たなオペレータ45への交代は一時的に延期される。やがて交代条件が満たされたとき、新たなオペレータ45への交代が実行される。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の遠隔運転の引き継ぎ方法によれば、乗員2からオペレータ45の交代要求があった場合に、車両2の遠隔運転を別のオペレータ45による遠隔運転へ遅滞なく引き継ぐことができる。
【0059】
5.その他の実施形態
上記実施形態では、交代要求は乗員25から発せられている。しかし、オペレータ45の運転を監視する監視者が存在する場合、監視者の判断によって監視者から交代要求が発せられてもよい。監視者から交代要求が発せられるケースとしては、例えば、監視者がオペレータ45の操舵操作のふらつきや注意力の低下を検出した場合を挙げることができる。なお、監視者は人でもよいし判断機能を備えた装置でもよい。
【0060】
また、管制センタ3が内部で交代要求を発生させてもよい。例えば、オペレータ45の連続運転時間が上限時間に達した場合、或いは、連続運転距離が上限距離に達した場合、オペレータ45を交代させるために交代要求を発生させてもよい。上限時間及び上限距離は、安全な遠隔運転を担保するための規定値である。図5に示す例では、オペレータDは既に時間にして2.5時間、距離にして150km連続して遠隔運転を続けている。やがて、連続運転時間が上限の3時間に達するか、連続運転距離が上限の200kmに達した場合、オペレータDを交代させるための交代要求が発せられる。
【0061】
さらに、遠隔運転中のオペレータ45自身から交代要求が発せられてもよい。オペレータ45自身から交代要求が発せられるケースとしては、例えば、遠隔運転中に体調が悪くなった場合やトイレ休憩が必要になった場合を挙げることができる。
【0062】
以上の例のようにオペレータ45の交代が乗員25の意思とは関係なく行われる場合、オペレータ45の交代が行われる旨を予め乗員25に伝えておくことが好ましい。
【0063】
なお、ライトなどの安全設備やエアコンなどの快適設備の操作量や設定値については、オペレータ45の交代後も前任者による操作量や設定値を引き継ぐことが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
2 車両
3 管制センタ
4 オペレータセンタ
10 遠隔運転システム
25 乗員
26 携帯端末
30 管制サーバ
40 遠隔運転サーバ
45 遠隔オペレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9