(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両の挙動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60G 17/015 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
B60G17/015
B60G17/015 B
B60G17/015 Z
(21)【出願番号】P 2021156937
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 浩貴
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126821(JP,A)
【文献】特開2008-137446(JP,A)
【文献】特開昭63-041225(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/125031(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0153226(US,A1)
【文献】中国実用新案第201863673(CN,U)
【文献】独国特許出願公開第102008052991(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185006(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0339923(US,A1)
【文献】特開2016-215794(JP,A)
【文献】特開2020-059477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前軸と後軸のうち第1の軸の左輪に上下方向の制御力を付与する第1アクチュエータと、
前記第1アクチュエータと独立して動作し前記第1の軸の右輪に上下方向の制御力を付与する第2アクチュエータと、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータと独立して動作し前記前軸と前記後軸のうち前記第1の軸と異なる第2の軸の片方の第3の車輪に上下方向の制御力を付与する第3アクチュエータと、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記車両の挙動を表す挙動パラメータの要求値
として前記車両の重心に作用させる要求ロールモーメント、要求ピッチモーメント、及び要求ヒーブ力を計算し、
前記挙動パラメータの要求値を前記第1アクチュエータに対する第1要求力と、前記第2アクチュエータに対する第2要求力と、
前記第3アクチュエータに対する第3要求力とに変換し、
前記第1の軸の左輪に付与される上下方向の制御力が前記第1要求力となるように前記第1アクチュエータを制御し、
前記第1の軸の右輪に付与される上下方向の制御力が前記第2要求力となるように前記第2アクチュエータを制御し、
前記第3の車輪に付与される上下方向の制御力が前記第3要求力となるように前記第3アクチュエータを制御する、ように構成され、
前記第2の軸の左輪と右輪のうち前記第3の車輪と異なる車輪には、上下方向の制御力を付与するアクチュエータを備えない、
ことを特徴とする車両の挙動制御装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の車両の挙動制御装置において、
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとは同じ種類のアクチュエータであり、
前記第3アクチュエータは前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータと同じ種類のアクチュエータである
ことを特徴とする車両の挙動制御装置。
【請求項3】
請求項
1に記載の車両の挙動制御装置において、
前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータとは同じ種類のアクチュエータであり、
前記第3アクチュエータは前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータとは異なる種類のアクチュエータである
ことを特徴とする車両の挙動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の挙動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の挙動制御装置に関する従来技術は、例えば、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の従来技術にかかるサスペンション制御装置は、所謂アクティブサスペンションの制御装置である。従来技術は、車両の4輪の全てにアクティブサスペンションを備え、アクチュエータによって各車輪に独立して上下方向の制御力を付与することができる。従来技術は各車輪に備えたアクチュエータを所定の制御則に従って駆動制御し、乗り心地の向上と接地性向上とを両立させるように車両のヒーブ、ロール及びピッチを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術では、4つのアクチュエータを用いて車両のヒーブ、ロール及びピッチを制御している。当然ながら、搭載するアクチュエータの数を増やせば車両の挙動制御に係る自由度も増える。しかし、アクチュエータの搭載数に応じて車両のシステムは複雑化し、車両の1台当たりのコストも増大する。制御できる車両の挙動の自由度が同じであるならば、アクチュエータの搭載数はできるだけ少ないほうがよい。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものである。本開示は、車両の挙動を少ない数のアクチュエータで制御することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は車両の挙動制御装置を提供する。本開示の車両の挙動制御装置は、車両の前軸と後軸のうち第1の軸の左輪に上下方向の制御力を付与する第1アクチュエータと、第1アクチュエータと独立して動作し第1の軸の右輪に上下方向の制御力を付与する第2アクチュエータとを備える。また、本開示の車両の挙動制御装置はコントローラを備える。コントローラは、例えば、少なくとも1つのプロセッサと、プロセッサで実行可能なプログラムを記憶した少なくとも1つのメモリとを含む。
【0007】
コントローラは、以下の処理を実行するように構成される。第1の処理は、車両の挙動を表す挙動パラメータの要求値を計算することである。第2の処理は、挙動パラメータの要求値を第1アクチュエータに対する第1要求力と、第2アクチュエータに対する第2要求力とに変換することである。第3の処理は、第1の軸の左輪に付与される上下方向の制御力が第1要求力となるように第1アクチュエータを制御することである。第4の処理は、第1の軸の右輪に付与される上下方向の制御力が第2要求力となるように第2アクチュエータを制御することである。
【0008】
上記の構成によれば、挙動パラメータの要求値から変換された第1要求力に基づいて第2アクチュエータを制御し、挙動パラメータの要求値から変換された第2要求力に基づいて第2アクチュエータを制御することで、所望の車両の挙動を実現することができる。つまり、上記の構成によれば、車両の挙動を少ない数のアクチュエータで制御することができる。
【0009】
本開示の車両の挙動制御装置の1つの実施形態では、コントローラは、上記第1の処理において、挙動パラメータの要求値として車両の重心に作用させる要求ロールモーメントと、第1の軸の左右輪に作用させる上下方向の同相の要求力(第1軸同相要求力)とを計算してもよい。
【0010】
上記の実施形態によれば、第1アクチュエータにより第1軸の左輪に付与される上下方向の制御力と、第2アクチュエータにより第1軸の右輪に付与される上下方向の制御力とで、要求ロールモーメントと第1軸同相要求力とを実現することができる。
【0011】
本開示の車両の挙動制御装置の別の実施形態では、車両の挙動制御装置は、前軸と後軸のうち第2の軸の左右輪に上下方向の制御力を逆相で付与するアクティブスタビライザをさらに備えてもよい。この別の実施形態では、コントローラは、上記第1の処理において、挙動パラメータの要求値として車両の重心に作用させる要求ロールモーメントと、第1の軸の左右輪に作用させる上下方向の同相の要求力(第1軸同相要求力)とを計算してもよい。
【0012】
また、この別の実施形態では、コントローラは、上記第2の処理において、挙動パラメータの要求値を第1アクチュエータに対する第1要求力と、第2アクチュエータに対する第2要求力と、アクティブスタビライザに対する要求モーメントとに変換してもよい。この場合、コントローラは、上記第3の処理と上記第4の処理とに加えて、以下の第5の処理を実行するように構成される。この別の実施形態に係る第5の処理は、第2の軸の左右輪に逆相で付与される上下方向の制御力によって要求モーメントが発生するようにアクティブスタビライザを制御することである。
【0013】
上記の実施形態によれば、第1アクチュエータにより第1軸の左輪に付与される上下方向の制御力と、第2アクチュエータにより第1軸の右輪に付与される上下方向の制御力と、アクティブスタビライザにより第2の軸の左右輪に付与される逆相の制御力とによって、車両の挙動を制御することができる。そして、挙動パラメータの要求値から変換された第1要求力に基づいて第2アクチュエータを制御し、挙動パラメータの要求値から変換された第2要求力に基づいて第2アクチュエータを制御し、挙動パラメータの要求値から変換された要求モーメントに基づいてアクティブスタビライザを制御することで、要求ロールモーメントと第1軸同相要求力とを実現し、所望の車両の挙動を実現することができる。
【0014】
本開示の車両の挙動制御装置のさらに別の実施形態では、車両の挙動制御装置は、第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと独立して動作し前軸と後軸のうち第2の軸の片輪に上下方向の制御力を付与する第3アクチュエータをさらに備えてもよい。第1アクチュエータと第2アクチュエータとが同じ種類のアクチュエータである場合、第3アクチュエータは第1アクチュエータ及び第2アクチュエータと同じ種類のアクチュエータであってもよいし、異なる種類のアクチュエータであってもよい。このさらに別の実施形態では、コントローラは、上記第1の処理において、挙動パラメータの要求値として車両の重心に作用させる要求ロールモーメント、要求ピッチモーメント、及び要求ヒーブ力を計算してもよい。
【0015】
また、このさらに別の実施形態では、コントローラは、上記第2の処理において、挙動パラメータの要求値を第1要求力と、第2要求力と、第3アクチュエータに対する第3要求力とに変換してもよい。この場合、コントローラは、上記第3の処理と上記第4の処理とに加えて、以下の第5の処理を実行するように構成される。このさらに別の実施形態に係る第5の処理は、第2の軸の前記片輪に付与される上下方向の制御力が第3要求力となるように第3アクチュエータを制御することである。
【0016】
上記の実施形態によれば、第1アクチュエータにより第1軸の左輪に付与される上下方向の制御力と、第2アクチュエータにより第1軸の右輪に付与される上下方向の制御力と、第3アクチュエータにより第2軸の片輪に付与される上下方向の制御力とによって、車両の挙動を制御することができる。そして、挙動パラメータの要求値から変換された第1要求力に基づいて第2アクチュエータを制御し、挙動パラメータの要求値から変換された第2要求力に基づいて第2アクチュエータを制御し、挙動パラメータの要求値から変換された第3要求力に基づいて第3アクチュエータを制御することで、要求ロールモーメント、要求ピッチモーメント、及び要求ヒーブ力を実現し、所望の車両の挙動を実現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示の車両の挙動制御装置によれば、車両の挙動を少ない数のアクチュエータで制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の第1実施形態に係る車両の挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す図である。
【
図2】本開示の第1実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【
図3】本開示の第1実施形態に係る車両の挙動制御のフローチャートである。
【
図4】本開示の第2実施形態に係る車両の挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す図である。
【
図5】本開示の第2実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【
図6】本開示の第2実施形態に係る車両の挙動制御のフローチャートである。
【
図7】本開示の第3実施形態に係る車両の挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す図である。
【
図8】本開示の第3実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【
図9】本開示の第3実施形態に係る車両の挙動制御のフローチャートである。
【
図10】本開示の第4実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0020】
1.第1実施形態
1-1.車両の挙動制御
第1実施形態に係る挙動制御は
図1を用いて説明される。
図1は第1実施形態に係る挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す。
図1に示される挙動モデルには、第1実施形態において制御対象とされる挙動パラメータと、挙動パラメータを制御するための操作パラメータとが図示されている。
【0021】
図1に示される車両10の挙動モデルでは、後軸(第1の軸)の左右輪14RL,14RRをそれぞれ懸架するサスペンション20RLA,20RRAは、アクティブサスペンションとして構成されている。前軸(第2の軸)の右輪14FRを懸架するサスペンション20FRAもまた、アクティブサスペンションとして構成されている。詳しくは、サスペンション20FRA,20RRA,20RLAは、アクチュエータ26FR,26RR,26RLによって車輪14FR,14RR,14RLと車体12との間に能動的に上下方向の制御力を付与することができる所謂フルアクティブサスペンションである。前軸の左輪14FLを懸架するサスペンション20FLは、アクチュエータを備えない一般的なサスペンション、すなわち、非アクティブサスペンションである。
【0022】
第1実施形態に係る挙動制御では、アクチュエータ(第1アクチュエータ)26RLによって左後輪14RLに付与される制御力Frlが操作パラメータとして用いられる。また、アクチュエータ(第2アクチュエータ)26RRによって右後輪14RRに付与される制御力Frrも操作パラメータとして用いられる。さらに、アクチュエータ(第3アクチュエータ)26FRによって付与される制御力Ffrも操作パラメータとして用いられる。
【0023】
図1に示される車両10の挙動モデルでは、車両10のばね上重心位置での運動モード、すなわち、ロールモーメントM
r、ピッチモーメントM
p、及びヒーブ力F
hが挙動パラメータとされている。4輪のうちの3輪にアクチュエータが備えられていれば、それらの制御力を操作パラメータとすることによって、車両10のロール、ピッチ、及びヒーブの全てを制御することができる。ゆえに、第1実施形態に係る挙動制御では、各挙動パラメータの要求値、すなわち、要求ロールモーメントM
r、要求ピッチモーメントM
p、及び要求ヒーブ力F
hが実現されるように操作パラメータとしての各制御力F
rl,F
rr,F
frが決定される。
【0024】
ところで、車両10では、その挙動に関わる様々な制御が行われる。例えば、ばね上加速度センサの計測値を用いて算出されたばね上状態量に基づき、ばね上部材の振動を抑制するばね上フィードバック制御が行われる。また、ばね上加速度センサと車高センサの各計測値を用いて算出されたばね下状態量に基づき、ばね下部材の振動を抑制するばね下フィードバック制御が行われる。さらに、カメラ画像や高精度地図データのデータベースを用いて路面状態を先読みするプレビュー制御や、操舵や加減速に対して姿勢を制御する姿勢制御が行われる場合もある。もちろん、それら各種の制御が組み合わされて行われてもよい。これらの制御では、その目的に応じて様々な力やモーメントが要求される。
【0025】
しかし、どのような力やモーメントが要求されたとしても、それら要求力や要求モーメントは車両10のばね上重心位置での運動モードに変換することができる。本明細書では、ロールモーメント、ピッチモーメント、及びヒーブ力からなる運動モードを重心3モードと称する。以下、各種の要求力や要求モーメントを重心3モードに変換する変換式について説明する。
【0026】
まず、変換式で用いられるパラメータは以下の通り定義される。
l
f:前軸の重心間距離(
図1参照)
l
r:後軸の重心間距離(
図1参照)
T
f:フロントのトレッド(
図1参照)
T
r:リアのトレッド(
図1参照)
F
h:トータルでの要求ヒーブ力
M
r:トータルでの要求ロールモーメント
M
p:トータルでの要求ピッチモーメント
F
fli:左前輪に対する上下方向の要求力
F
fri:右前輪に対する上下方向の要求力
F
rli:左後輪に対する上下方向の要求力
F
rri:右後輪に対する上下方向の要求力
(上記の各要求力はフィードフォワード制御による要求力とフォードバック制御による要求力とを含む。)
F
fin:前軸の右輪と左輪に対して作用させる同方向の合計要求力(前軸同相要求力)
F
fan:前軸の右輪と左輪に対して作用させる逆方向の合計要求力(前軸逆相要求力)
F
rin:後軸の右輪と左輪に対して作用させる同方向の合計要求力(後軸同相要求力)
F
ran:後軸の右輪と左輪に対して作用させる逆方向の合計要求力(後軸逆相要求力)
(上記の各同相要求力及び各逆相要求力はフィードフォワード制御による要求力とフォードバック制御による要求力とを含む。)
F
hm:乗心地制御と姿勢制御とを含むモード制御での要求ヒーブ力
M
rm:乗心地制御と姿勢制御とを含むモード制御での要求ロールモーメント
M
pm:乗心地制御と姿勢制御とを含むモード制御での要求ピッチモーメント
【0027】
各輪に対する上下方向の要求力は、以下の式1によって重心3モードへ変換することができる。
【数1】
【0028】
各軸の同相要求力及び逆相要求力は、以下の式2によって重心3モードへ変換することができる。
【数2】
【0029】
そして、以下の式3で表されるように、式1で計算される重心3モードの値と、式2で計算される重心3モードの値とにモード制御の重心3モードの要求値が足し合わされる。これにより、トータルでの重心3モードの要求値、すなわち、トータルでの要求ヒーブ力F
h、トータルでの要求ロールモーメントM
r、及びトータルでの要求ピッチモーメントM
pが算出される。
【数3】
【0030】
以上の式1、式2、及び式3を用いた変換によって、車両10の挙動に関わるどのような制御が行われる場合であっても、車両10の挙動を表す挙動パラメータの要求値は重心3モードの要求値で表すことができる。そして、重心3モードの要求値が定まれば、以下の式4による変換によって重心3モードの要求値から各アクチュエータ26FR,26RR,26RLに対する要求力を得ることができる。
【数4】
【0031】
第1実施形態に係る挙動制御では、左後輪14RLに付与される上下方向の制御力が要求力(第1要求力)Frlになるようにアクチュエータ26RLが制御され、同時に、右後輪14RRに付与される上下方向の制御力が要求力(第2要求力)Frrになるようにアクチュエータ26RRが制御される。さらに同時に、右前輪14FRに付与される上下方向の制御力が要求力(第3要求力)Ffrになるようにアクチュエータ26FRが制御される。このように重心3モードの要求値から変換された要求力に基づいて各アクチュエータ26FR,26RR,26RLを制御することによって、ロール、ピッチ、及びヒーブの全てを含む所望の挙動が車両10において実現される。
【0032】
1-2.車両の挙動制御装置
次に、上述の挙動制御を実行するための挙動制御装置について
図2を用いて説明する。
図2は第1実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両10の構成を示す。
【0033】
図2に示されるように、車両10は、前軸16Fに操舵輪である左前輪14FLと右前輪14FRとを備え、後軸16Rに非操舵輪である左後輪14RLと右後輪14RRとを備える。ただし、後輪14RL,14RRにも操舵機構が設けられていてもよい。また、車両10は前輪14FL,14FRを駆動する前輪駆動車でもよいし、後輪14RL,14RRを駆動する後輪駆動車でもよいし、前輪14FL,14FRと後輪14RL,14RRとを駆動する全輪駆動車でもよい。
【0034】
車両10は、左前輪14FLを車体12から懸架するサスペンション20FL、右前輪14FRを車体12から懸架するサスペンション20FRA、左後輪14RLを車体12から懸架するサスペンション20RLA、及び、右後輪14RRを車体12から懸架するサスペンション20RRAを備える。前述の通り、前軸16Fの右側のサスペンション20FRAと後軸16Rの左右のサスペンション20RLA,20RRAとはアクティブサスペンション(フルアクティブサスペンション)であり、前軸16Fの左側のサスペンション20FLのみ非アクティブサスペンションである。
【0035】
非アクティブサスペンションである前軸16Fの左側のサスペンション20FLAは、スプリング22FLとショックアブソーバ24FLとを備える。アクティブサスペンションである前軸16Fの右側のサスペンション20FRAは、スプリング22FRとショックアブソーバ24FRとに加えてアクチュエータ26FRを備える。アクチュエータ26FRは車体12とショックアブソーバ24FLのピストンロッドとの間に設けられている。アクチュエータ26FRは車体12と右前輪14FRとの間に上下方向の制御力を油圧式又は電磁式に発生させるように構成されている。
【0036】
アクティブサスペンションである後軸16Rのサスペンション20RLA,20RRAもまた、スプリング22RL,22RRとショックアブソーバ24RL,24RRとに加えてアクチュエータ26RL,26RRを備える。アクチュエータ26RL,26RRは車体12とショックアブソーバ24RL,24RRのピストンロッドとの間に設けられている。アクチュエータ26RL,26RRはアクチュエータ26FRと同じ構成を有し、車体12と後軸16Rの左右輪14RL,14RRとの間に上下方向の制御力を発生させる。
【0037】
車両10にはコントローラ30が搭載されている。コントローラ30は車両10に搭載されたセンサ群40にCAN(Controller Area Network)などの車載ネットワークによって接続されている。コントローラ30はセンサ群40から信号を取得する。センサ群40は、例えば、加速度センサ、車高センサ、車輪速センサなどの車両10の挙動に関する物理量を計測するセンサを含む。また、コントローラ30はアクチュエータ26FR,26RL,26RRとも車載ネットワークによって接続されている。
【0038】
コントローラ30はプロセッサ32とプロセッサ32に結合されたメモリ34とを備えている。メモリ34には、プロセッサ32で実行可能なプログラム36とそれに関連する種々の情報とが記憶されている。メモリ34に記憶されたプログラム36は挙動制御プログラムを含む。挙動制御プログラムがプロセッサ32で実行されることで、「1-1.車両の挙動制御」で説明された挙動制御が実現される。これにより、コントローラ30からアクチュエータ26FR,26RL,26RRへは、車体12と車輪14FR,14RL,14RRとの間に作用させる上下方向の要求力が操作信号として与えられる。
【0039】
図3はプロセッサ32による挙動制御プログラムの実行時、コントローラ30によって実行される挙動制御のフローチャートである。まず、ステップS11では、コントローラ30はセンサ群40によって計測された車両10の挙動に関する物理量から挙動パラメータの要求値を算出する。第1実施形態で算出される挙動パラメータの要求値は、重心3モードの要求値、すなわち、要求ヒーブ力F
h、要求ロールモーメントM
r、及び要求ピッチモーメントM
pである。
【0040】
ステップS12では、コントローラ30は重心3モードの要求値をアクチュエータ26FR,26RL,26RRに対する要求力Ffr,Frl,Frrに変換する。この変換には式4が用いられる。
【0041】
ステップS13では、コントローラ30は要求力Frrに基づいて右後輪14RRを懸架するサスペンション20RRAのアクチュエータ26RRを制御する。同時に、コントローラ30は要求力Frlに基づいて左後輪14RLを懸架するサスペンション20RLAのアクチュエータ26RLを制御する。また同時に、コントローラ30は要求力Ffrに基づいて右前輪14FRを懸架するサスペンション20FRのアクチュエータ26FRを制御する。
【0042】
以上のステップを含む挙動制御がコントローラ30によって実行されることで、重心3モードで表される所望の挙動が車両10において実現される。
【0043】
2.第2実施形態
2-1.車両の挙動制御
第2実施形態に係る挙動制御は
図4を用いて説明される。
図4は第2実施形態に係る挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す。
図4に示される挙動モデルには、第2実施形態において制御対象とされる挙動パラメータと、挙動パラメータを制御するための操作パラメータとが図示されている。
【0044】
図4に示される車両10の挙動モデルでは、後軸(第1の軸)の左右輪14RL,14RRをそれぞれ懸架するサスペンション20RLA,20RRAは、アクティブサスペンションとして構成されている。詳しくは、サスペンション20RRA,20RLAは、アクチュエータ26RR,26RLによって車輪14RR,14RLと車体12との間に能動的に上下方向の制御力を付与することができる所謂フルアクティブサスペンションである。前軸(第2の軸)の左右輪14FL,14FRをそれぞれ懸架するサスペンション20FL,20FRは、アクチュエータを備えない一般的なサスペンション、すなわち、非アクティブサスペンションである。
【0045】
また、
図4に示される車両10の挙動モデルでは、車両10は前軸にアクティブスタビライザ50を備える。アクティブスタビライザ50は、電動アクチュエータ54によってロールモーメントを発生させ、そのロールモーメントと釣り合うように左前輪14FLと左前輪14FRとに上下方向の制御力を逆相で付与することができる。車両10は後軸にはアクティブスタビライザを備えていない。ただし、電動アクチュエータを備えない一般的なスタビライザが後軸に設けられていてもよい。
【0046】
第2実施形態に係る挙動制御では、アクチュエータ(第1アクチュエータ)26RLによって左後輪14RLに付与される制御力Frlが操作パラメータとして用いられる。また、アクチュエータ(第2アクチュエータ)26RRによって右後輪14RRに付与される制御力Frrも操作パラメータとして用いられる。さらに、アクティブスタビライザ50の電動アクチュエータ54によって付与されるモーメントMfhも操作パラメータとして用いられる。
【0047】
第1実施形態でも説明した通り、車両10の挙動に関わる制御では、その目的に応じて様々な力やモーメントが要求される。しかし、
図4に示される挙動モデルには前軸の上下方向に自由度が与えられていない。このため、第2実施形態に係る挙動制御では、運動モード制御に係る要求値、すなわち、重心3モードの要求値のうち要求ヒーブ力と要求ピッチモーメントについてはゼロとされる。また、前軸同相要求力についてもゼロとされる。さらに、簡単のため、各輪に作用させる上下方向の要求力は前軸或いは後軸の同相要求力或いは逆相要求力にまとめられる。
【0048】
以上のように挙動パラメータの要求値を整理することによって、
図4に示される挙動モデルでは、後軸同相要求力F
rinと、以下の式5で計算される要求ロールモーメントMrとが挙動パラメータの要求値として用いられる。
【数5】
【0049】
なお、後軸に作用する同相の力(詳しくは、後軸の左右輪に対して作用する同相の力)については、フィードフォワード制御やフィードバック制御によって制振するのみでもよい。しかし、この場合、振動は低減するもののピッチは依然として残ってしまう。そこで、ピッチを減らすことが優先されるのであれば、ヒーブを残してピッチを減らす制御を行うこともできる。この場合の後軸同相要求力はFrin2と定義される。
【0050】
後軸同相要求力F
rin2は、後軸に作用する同相の力を後軸同相要求力F
rinにより打ち消し、前軸の左右輪の同相の動きと同様の動きを後軸に付加し、且つ、ばね上フィードバック制御のうちピッチ分の制御に関する要求モーメントを全て後軸で担うように計算される。ここでは、例えばフィードフォワード的に前軸の左右輪の同相の動きを再現し、ばね上フィードバック制御のうちピッチ分の制御をフィードバック制御として足し合わせることを考える。このような考え方によれば、前軸の左右輪の同相の動きによるばね下変位をZ
1fin、後軸の左右輪の同相の動きでのホイールレートをK
rin、ホイールベースをl[m]、車速をv[mps]、後軸のアクチュエータのシステムトータル遅れをt
drとした場合、後軸同相要求力F
rin2は以下の式6で計算される。
【数6】
【0051】
第2実施形態に係る挙動制御では、各挙動パラメータの要求値、すなわち、要求ロールモーメントM
rと後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)とが実現されるように操作パラメータとしての制御力F
rl,F
rr及びモーメントM
fhの各要求値が決定される。詳しくは、後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)は、後軸16Rの左右のアクチュエータ26RL,26RRに等分配される必要がある。要求ロールモーメントM
rの前後分配は任意の割合で構わない。要求ロールモーメントM
rの前軸16Fへの分配率をαとすると、アクティブスタビライザ50に対する要求モーメントM
fhは以下の式7で計算される。そして、後軸16Rの左側のアクチュエータ26RLに対する要求力F
rlは以下の式8で計算され、後軸16Rの右側のアクチュエータ26RRに対する要求力F
rrは以下の式9で計算される。
【数7】
【数8】
【数9】
【0052】
第2実施形態に係る挙動制御では、前軸の左右輪14FL,14FRに逆相で付与される上下方向の制御力によって要求モーメントMfhが発生するようにアクティブスタビライザ50が制御される。同時に、左後輪14RLに付与される上下方向の制御力が要求力(第1要求力)Frlになるようにアクチュエータ26RLが制御され、右後輪14RRに付与される上下方向の制御力が要求力(第2要求力)Frrになるようにアクチュエータ26RRが制御される。
【0053】
以上のような挙動制御が行われることで、要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とを実現し、所望の車両10の挙動を実現することが可能となる。特に、挙動パラメータの要求値として後軸同相要求力Frinを用いる場合には、後軸16Rの上下動を減らして後軸16Rに近い乗員の快適性を向上させることができる。一方、挙動パラメータの要求値として後軸同相要求力Frin2を用いる場合には、ピッチを打ち消してヒーブを残すことで自然な動きにより乗員の不快感や違和感を低減することができる。また、前軸への分配率αを下げて後軸16Rの左右のアクチュエータ26RL,26RRへの分配率を上げることで、要求に対してアクティブスタビライザ50の出力が不足することを防ぐこともできる。つまり分配率αを適宜設定することによって制御可能な範囲を広げることができる。
【0054】
2-2.車両の挙動制御装置
次に、上述の挙動制御を実行するための挙動制御装置について
図5を用いて説明する。
図5は第2実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両10の構成を示す。なお、
図5において、
図2に示される第1実施形態と共通する要素には共通の符号が付されている。
図5に示される車両10の要素のうち第1実施形態で既に説明された要素についての説明は簡略化するか省略する。
【0055】
図5に示されるように、車両10は、左前輪14FLを車体12から懸架するサスペンション20FL、右前輪14FRを車体12から懸架するサスペンション20FR、左後輪14RLを車体12から懸架するサスペンション20RLA、及び、右後輪14RRを車体12から懸架するサスペンション20RRAを備える。前述の通り、後軸16Rの左右のサスペンション20RLA,20RRAはアクティブサスペンション(フルアクティブサスペンション)であり、前軸16Fの左右のサスペンション20FL,20FRは非アクティブサスペンションである。
【0056】
非アクティブサスペンションである前軸16Fの左右のサスペンション20FL,20FRは、スプリング22FL,22FRとショックアブソーバ24FL,24FRとを備える。アクティブサスペンションである後軸16Rの左右のサスペンション20RLA,20RRAは、スプリング22RL,22RRとショックアブソーバ24RL,24RRとに加えてアクチュエータ26RL,26RRを備える。アクチュエータ26RL,26RRは車体12とショックアブソーバ24RL,24RRのピストンロッドとの間に設けられている。アクチュエータ26RL,26RRは車体12と後軸16Rの左右輪14RL,14RRとの間に上下方向の制御力を油圧式又は電磁式に発生させるように構成されている。
【0057】
車両10は前軸16Fにアクティブスタビライザ50を備える。アクティブスタビライザ50は左スタビライザバー52L、右スタビライザバー52R、及び電動アクチュエータ54を含む。左スタビライザバー52Lは左前輪14FLのサスペンション20FLに連結されている。右スタビライザバー52Rは右前輪14FRのサスペンション20FRに連結されている。電動アクチュエータ54は左スタビライザバー52Lと右スタビライザバー52Rとを相対回転可能に連結する。アクティブスタビライザ50は、電動アクチュエータ54が左スタビライザバー52Lと右スタビライザバー52Rとを相対回転させることで、その回転方向に応じた方向のロールモーメントを前軸16Fに発生させるように構成されている。
【0058】
コントローラ30はアクチュエータ26RL,26RRとアクティブスタビライザ50の電動アクチュエータ54とに車載ネットワークによって接続されている。第2実施形態では、プログラム36に含まれる挙動制御プログラムがプロセッサ32で実行されることで、「2-1.車両の挙動制御」で説明された挙動制御が実現される。これにより、コントローラ30からアクチュエータ26RL,26RRへは、車体12と車輪14RL,14RRとの間に作用させる上下方向の要求力が操作信号として与えられる。また、コントローラ30から電動アクチュエータ54へは、前軸16Fに発生させる要求モーメントが操作信号として与えられる。
【0059】
図6はプロセッサ32による挙動制御プログラムの実行時、コントローラ30によって実行される挙動制御のフローチャートである。まず、ステップS21では、コントローラ30はセンサ群40によって計測された車両10の挙動に関する物理量から挙動パラメータの要求値を算出する。第2実施形態で算出される挙動パラメータの要求値は要求ロールモーメントM
rと後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)である。
【0060】
ステップS22では、コントローラ30は要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とをアクチュエータ26RL,26RRに対する要求力Frl,Frrとアクティブスタビライザ50に対する要求モーメントMfhとに変換する。この変換には式7乃至式9が用いられる。
【0061】
ステップS23では、コントローラ30は要求力Frrに基づいて後軸16Rの右側のサスペンション20RRAのアクチュエータ26RRを制御する。同時に、コントローラ30は要求力Frlに基づいて後軸16Rの左側のサスペンション20RLAのアクチュエータ26RLを制御する。また同時に、コントローラ30は要求モーメントMfhに基づいてアクティブスタビライザ50の電動アクチュエータ54を制御する。
【0062】
以上のステップを含む挙動制御がコントローラ30によって実行されることで、要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とで表される所望の挙動が車両10において実現される。
【0063】
3.第3実施形態
3-1.車両の挙動制御
第3実施形態に係る挙動制御は
図7を用いて説明される。
図7は第3実施形態に係る挙動制御を説明するための車両の挙動モデルを示す。
図7に示される挙動モデルには、第3実施形態において制御対象とされる挙動パラメータと、挙動パラメータを制御するための操作パラメータとが図示されている。
【0064】
図7に示される車両10の挙動モデルでは、後軸(第1の軸)の左右輪14RL,14RRをそれぞれ懸架するサスペンション20RLA,20RRAは、アクティブサスペンションとして構成されている。詳しくは、サスペンション20RRA,20RLAは、アクチュエータ26RR,26RLによって車輪14RR,14RLと車体12との間に能動的に上下方向の制御力を付与することができる所謂フルアクティブサスペンションである。前軸の左右輪14FL,14FRをそれぞれ懸架するサスペンション20FL,20FRは、アクチュエータを備えない一般的なサスペンション、すなわち、非アクティブサスペンションである。
【0065】
第3実施形態に係る挙動制御では、アクチュエータ(第1アクチュエータ)26RLによって左後輪14RLに付与される制御力Frlが操作パラメータとして用いられる。また、アクチュエータ(第2アクチュエータ)26RRによって右後輪14RRに付与される制御力Frrも操作パラメータとして用いられる。つまり、第3実施形態に係る挙動制御では、後軸の左右で付与される上下方向の制御力Frl,Frrのみが操作パラメータとして用いられる。
【0066】
第1実施形態でも説明した通り、車両10の挙動に関わる制御では、その目的に応じて様々な力やモーメントが要求される。しかし、
図7に示される挙動モデルには前軸の上下方向に自由度が与えられていない。このため、第3実施形態に係る挙動制御では、運動モード制御に係る要求値、すなわち、重心3モードの要求値のうち要求ヒーブ力と要求ピッチモーメントについてはゼロとされる。また、前軸同相要求力についてもゼロとされる。さらに、簡単のため、各輪に作用させる上下方向の要求力は前軸或いは後軸の同相要求力或いは逆相要求力にまとめられる。
【0067】
以上のように挙動パラメータの要求値を整理することによって、
図7に示される挙動モデルでは、後軸同相要求力F
rinと、以下の式10で計算される要求ロールモーメントMrとが挙動パラメータの要求値として用いられる。
【数10】
【0068】
なお、後軸に作用する同相の力(詳しくは、後軸の左右輪に対して作用する同相の力)については、フィードフォワード制御やフィードバック制御によって制振するのみでもよい。しかし、この場合、振動は低減するもののピッチは依然として残ってしまう。そこで、ピッチを減らすことが優先されるのであれば、ヒーブを残してピッチを減らす制御を行うこともできる。この場合の後軸同相要求力はFrin2と定義される。
【0069】
後軸同相要求力F
rin2は、後軸に作用する同相の力を後軸同相要求力F
rinにより打ち消し、前軸の左右輪の同相の動きと同様の動きを後軸に付加し、且つ、ばね上フィードバック制御のうちピッチ分の制御に関する要求モーメントを全て後軸で担うように計算される。ここでは、例えばフィードフォワード的に前軸の左右輪の同相の動きを再現し、ばね上フィードバック制御のうちピッチ分の制御をフィードバック制御として足し合わせることを考える。このような考えによれば、前軸の左右輪の同相の動きによるばね下変位をZ
1fin、後軸の左右輪の同相の動きでのホイールレートをK
rin、ホイールベースをl[m]、車速をv[mps]、後軸のアクチュエータのシステムトータル遅れをt
drとした場合、後軸同相要求力F
rin2は以下の式11で計算される。
【数11】
【0070】
第3実施形態に係る挙動制御では、各挙動パラメータの要求値、すなわち、要求ロールモーメントM
rと後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)とが実現されるように操作パラメータとしての制御力F
rl,F
rrの各要求値が決定される。詳しくは、後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)は、後軸16Rの左右のアクチュエータ26RL,26RRに等分配される必要がある。また、要求ロールモーメントM
rは後軸16Rへ全分配される必要がある。これらの条件により、後軸16Rの左側のアクチュエータ26RLに対する要求力F
rlは以下の式12で計算され、後軸16Rの右側のアクチュエータ26RRに対する要求力F
rrは以下の式13で計算される。
【数12】
【数13】
【0071】
第3実施形態に係る挙動制御では、左後輪14RLに付与される上下方向の制御力が要求力(第1要求力)Frlになるようにアクチュエータ26RLが制御され、右後輪14RRに付与される上下方向の制御力が要求力(第2要求力)Frrになるようにアクチュエータ26RRが制御される。
【0072】
以上のような挙動制御が行われることで、要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とを実現し、所望の車両10の挙動を実現することが可能となる。特に、挙動パラメータの要求値として後軸同相要求力Frinを用いる場合には、後軸16Rの上下動を減らして後軸16Rに近い乗員の快適性を向上させることができる。一方、挙動パラメータの要求値として後軸同相要求力Frin2を用いる場合には、ピッチを打ち消してヒーブを残すことで自然な動きにより乗員の不快感や違和感を低減することができる。
【0073】
3-2.車両の挙動制御装置
次に、上述の挙動制御を実行するための挙動制御装置について
図8を用いて説明する。
図8は第3実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両10の構成を示す。なお、
図8において、
図2に示される第1実施形態と共通する要素には共通の符号が付されている。
図8に示される車両10の要素のうち第1実施形態で既に説明された要素についての説明は簡略化するか省略する。
【0074】
図8に示されるように、車両10は、左前輪14FLを車体12から懸架するサスペンション20FL、右前輪14FRを車体12から懸架するサスペンション20FR、左後輪14RLを車体12から懸架するサスペンション20RLA、及び、右後輪14RRを車体12から懸架するサスペンション20RRAを備える。前述の通り、後軸16Rの左右のサスペンション20RLA,20RRAはアクティブサスペンション(フルアクティブサスペンション)であり、前軸16Fの左右のサスペンション20FL,20FRは非アクティブサスペンションである。
【0075】
非アクティブサスペンションである前軸16Fの左右のサスペンション20FL,20FRは、スプリング22FL,22FRとショックアブソーバ24FL,24FRとを備える。アクティブサスペンションである後軸16Rの左右のサスペンション20RLA,20RRAは、スプリング22RL,22RRとショックアブソーバ24RL,24RRとに加えてアクチュエータ26RL,26RRを備える。アクチュエータ26RL,26RRは車体12とショックアブソーバ24RL,24RRのピストンロッドとの間に設けられている。アクチュエータ26RL,26RRは車体12と後軸16Rの左右輪14RL,14RRとの間に上下方向の制御力を油圧式又は電磁式に発生させるように構成されている。
【0076】
コントローラ30はアクチュエータ26RL,26RRと車載ネットワークによって接続されている。第3実施形態では、プログラム36に含まれる挙動制御プログラムがプロセッサ32で実行されることで、「3-1.車両の挙動制御」で説明された挙動制御が実現される。これにより、コントローラ30からアクチュエータ26RL,26RRへは、車体12と車輪14RL,14RRとの間に作用させる上下方向の要求力が操作信号として与えられる。
【0077】
図9はプロセッサ32による挙動制御プログラムの実行時、コントローラ30によって実行される挙動制御のフローチャートである。まず、ステップS31では、コントローラ30はセンサ群40によって計測された車両10の挙動に関する物理量から挙動パラメータの要求値を算出する。第2実施形態で算出される挙動パラメータの要求値は要求ロールモーメントM
rと後軸同相要求力F
rin(或いは、F
rin2)である。
【0078】
ステップS32では、コントローラ30は要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とをアクチュエータ26RL,26RRに対する要求力Frl,Frrとに変換する。この変換には式12及び式13が用いられる。
【0079】
ステップS33では、コントローラ30は要求力Frrに基づいて後軸16Rの右側のサスペンション20RRAのアクチュエータ26RRを制御する。同時に、コントローラ30は要求力Frlに基づいて後軸16Rの左側のサスペンション20RLAのアクチュエータ26RLを制御する。
【0080】
以上のステップを含む挙動制御がコントローラ30によって実行されることで、要求ロールモーメントMrと後軸同相要求力Frin(或いは、Frin2)とで表される所望の挙動が車両10において実現される。
【0081】
4.第4実施形態
図10に本開示の第4実施形態に係る車両の挙動制御装置が搭載された車両の構成を示す。なお、
図10において、
図2に示される第1実施形態と共通する要素には共通の符号が付されている。
図10に示される車両10の要素のうち第1実施形態で既に説明された要素についての説明は簡略化するか省略する。
【0082】
図10に示されるように、車両10は、左前輪14FLを車体12から懸架するサスペンション20FL、右前輪14FRを車体12から懸架するサスペンション20FRA、左後輪14RLを車体12から懸架するサスペンション20RL、及び、右後輪14RRを車体12から懸架するサスペンション20RRを備える。第4実施形態では、前軸16Fの右側のサスペンション20FRAのみアクティブサスペンション(フルアクティブサスペンション)であり、他のサスペンション20FL,20RL,20RRは非アクティブサスペンションである。
【0083】
非アクティブサスペンションである前軸16Fの左側のサスペンション20FLと後軸16Rのサスペンション20RL,20RRは、スプリング22FL,22RL,22RRとショックアブソーバ24FL,24RL,24RRとを備える。アクティブサスペンションである前軸16Fの右側のサスペンション20FRAは、スプリング22FRとショックアブソーバ24FRとに加えてアクチュエータ26FRを備える。アクチュエータ26FRは車体12とショックアブソーバ24FRのピストンロッドとの間に設けられている。アクチュエータ26FRは車体12と右前輪14FRとの間に上下方向の制御力を油圧式又は電磁式に発生させるように構成されている。
【0084】
第4実施形態では、車両10は後軸16Rの左右輪14RL,14RRにインホイールモータ60RL,60RRを備える。インホイールモータ60RL,60RRは、例えばダイレクトドライブ方式でもよいしギアリダクション方式でもよい。サスペンション20RLのジオメトリにより、インホイールモータ60RLが左後輪14RLに作用させる制動力或いは駆動力から左後輪14RLと車体12との間に作用する上下方向の制御力が発生する。つまり、インホイールモータ60RLは、左後輪14RLに上下方向の制御力を付与する第1アクチュエータとして動作する。また、サスペンション20RRのジオメトリにより、インホイールモータ60RRが右後輪14RRに作用させる制動力或いは駆動力から右後輪14RRと車体12との間に作用する上下方向の制御力が発生する。つまり、インホイールモータ60RRは、右後輪14RRに上下方向の制御力を付与する第2アクチュエータとして動作する。
【0085】
第4実施形態に係る挙動制御では、後軸16Rの左右のインホイールモータ60RL,60RRのそれぞれによって付与される上下方向の制御力と、前軸16Fの右側のアクチュエータ26FRによって付与される上下方向の制御力とを操作パラメータとして用いることができる。これら3つの上下方向の制御力は独立して制御することが可能であるから、第1実施形態に係る挙動制御装置と同様に、車両10のロール、ピッチ、及びヒーブの全てを制御することができる。第4実施形態に係る挙動制御では、重心3モードの要求値、すなわち、要求ロールモーメントMr、要求ピッチモーメントMp、及び要求ヒーブ力Fhが実現されるように、上記の3つの制御力が決定される。
【0086】
コントローラ30はインホイールモータ60RL,60RRとアクチュエータ26FRとに車載ネットワークによって接続されている。コントローラ30からインホイールモータ60RL,60RRへは、車体12と後軸16Rの左右輪14RL,14RRとの間に作用させる上下方向の要求力が操作信号として与えられる。コントローラ30からアクチュエータ26FRへは、車体12と前軸16Fの右輪14FRとの間に作用させる上下方向の要求力が操作信号として与えられる。第4実施形態に係る挙動制御では、プログラム36に含まれる挙動制御プログラムがプロセッサ32で実行されることで、インホイールモータ60RL,60RRとアクチュエータ26FRとを用いた重心3モードの制御が実現される。
【0087】
5.その他の実施形態
第1実施形態において、前軸16Fの右側のサスペンションに代えて左側のサスペンションをアクティブサスペンションとしてもよい。また、前軸16Fの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとし、後軸16Rの片側のサスペンションをアクティブサスペンションとしてもよい。
【0088】
第2実施形態において、前軸16Fの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとし、後軸16Rの左右のサスペンションは非アクティブサスペンションとして、後軸16Rにアクティブスタビライザを設けてもよい。ただし、後軸16Rの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとしたほうが後席乗員の快適性においてメリットが大きく、また、プレビュー制御が可能になるというメリットもある。
【0089】
第3実施形態において、前軸16Fの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとし、後軸16Rの左右のサスペンションは非アクティブサスペンションとしてもよい。ただし、後軸16Rの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとしたほうが後席乗員の快適性においてメリットが大きく、また、プレビュー制御が可能になるというメリットもある。さらには、搭載性や熱害の都合上も後軸16Rの左右のサスペンションをアクティブサスペンションとする方が好ましい。
【0090】
第2及び第3実施形態において後軸16Rのサスペンション20RLA,20RRAを非アクティブサスペンションとし、代わりに、第4実施形態のようなインホイールモータ60RL,60RRを備えてもよい。
【0091】
第1乃至第4実施形態において車両10に搭載されるアクティブサスペンションは、ばねや減衰力の係数を可変にすることで上下方向の制御力を発生させる所謂セミアクティブサスペンションでもよい。また、第1実施形態の場合、前軸16Fのサスペンション20FRAをフルアクティブサスペンションとし、後軸16Rのサスペンション20RLA,20RRAをセミアクティブサスペンションとしてもよい。逆に、前軸16Fのサスペンション20FRAをセミアクティブサスペンションとし、後軸16Rのサスペンション20RLA,20RRAをフルアクティブサスペンションとしてもよい。
【符号の説明】
【0092】
10 車両
12 車体
14FL,14FR,14RL,14RR 車輪
16F 前軸
16R 後軸
20FL,20FR,20RL,20RR サスペンション
20FRA,20RLA,20RRA アクティブサスペンション
26FR,26RL,26RR アクチュエータ
30 コントローラ
40 センサ群
50 アクティブスタビライザ
52L,52L スタビライザバー
54 電動アクチュエータ
60RL,60RR インホイールモータ