(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】反応触媒及びそれを用いた電気化学リアクタ
(51)【国際特許分類】
B01J 23/46 20060101AFI20240717BHJP
B01J 35/64 20240101ALI20240717BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20240717BHJP
C25B 1/01 20210101ALI20240717BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240717BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20240717BHJP
C25B 3/26 20210101ALI20240717BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/042 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20240717BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240717BHJP
C25B 13/02 20060101ALI20240717BHJP
C25B 13/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
B01J23/46 M
B01J35/64
C01B13/02 B
C25B1/01 Z
C25B1/04
C25B3/07
C25B3/26
C25B9/00 A
C25B11/031
C25B11/042
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/063
C25B11/081
C25B13/02 302
C25B13/08 305
(21)【出願番号】P 2021201803
(22)【出願日】2021-12-13
【審査請求日】2023-02-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 涼
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 良弘
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆一
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-165056(JP,A)
【文献】特開2011-029171(JP,A)
【文献】特開2019-056136(JP,A)
【文献】特開2021-059760(JP,A)
【文献】WHUPPLE et al.,Microfluidic Reactor for the Electrochemical Reduction of Carbon Dioxide :The Effect of pH,Electrochemical and Solid -State Letters,2010年,Vol.13, No.9,p.B109-B111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/46
B01J 35/64
C01B 13/02
C25B 1/01
C25B 1/04
C25B 3/07
C25B 3/26
C25B 9/00
C25B 11/031
C25B 11/042
C25B 11/052
C25B 11/054
C25B 11/063
C25B 11/081
C25B 13/02
C25B 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面が水を含む液体、前記第1面とは異なる第2面が気体に接した状態において前記液体に含まれる物質を原料として用いて反応生成物質を生成するために用いられる反応触媒であって、
前記液体側に第1親水性多孔質層が配置され、前記気体側に撥水性多孔質層が配置され、前記第1親水性多孔質層と前記撥水性多孔質層との間に前記反応生成物質を生成する反応に利用される触媒を含む触媒多孔質層が配置されており、
前記触媒多孔質層と前記撥水性多孔質層との間に第2親水性多孔質層が配置されており、
前記触媒多孔質層は、電気伝導性を有するチタンの多孔体に前記触媒を担持した材料からなることを特徴とする反応触媒。
【請求項2】
請求項
1に記載の反応触媒であって、
前記第1親水性多孔質層は、空孔の大きさが1μm以上80μm以下であることを特徴とする反応触媒。
【請求項3】
請求項
2に記載の反応触媒であって、
前記第1親水性多孔質層は、空孔の大きさが1μm以上30μm以下であることを特徴とする反応触媒。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記第1親水性多孔質層は、厚さが80μm以上0.3mm以下であることを特徴とする反応触媒。
【請求項5】
請求項
4に記載の反応触媒であって、
前記第1親水性多孔質層は、厚さが80μm以上0.2mm以下であることを特徴とする反応触媒。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記触媒多孔質層は、空孔の大きさが10μm以上であることを特徴とする反応触媒。
【請求項7】
請求項
6に記載の反応触媒であって、
前記触媒多孔質層は、空孔の大きさが40μm以上であることを特徴とする反応触媒。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記触媒多孔質層は、面積に対する空孔体積の比[(空孔体積)/(面積)]が0.01cm以上であることを特徴とする反応触媒。
【請求項9】
請求項
8に記載の反応触媒であって、
前記触媒多孔質層は、面積に対する空孔体積の比[(空孔体積)/(面積)]が0.04cm以上であることを特徴とする反応触媒。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記撥水性多孔質層は、空孔の平均の大きさが400μm以下であることを特徴とする反応触媒。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記撥水性多孔質層は、フッ素樹脂にてコーティングされていることを特徴とする反応触媒。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の反応触媒であって、
前記触媒多孔質層は、イリジウムを含む触媒を担持させたものであることを特徴とする反応触媒。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の反応触媒を備える電気化学リアクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応触媒及びそれを用いた電気化学リアクタに関する。
【背景技術】
【0002】
アノード電極及びカソード電極を備え、その間に電解液を供給し排出する二酸化炭素(CO2)の電気化学還元リアクタ(太陽電池と組み合わせた人工光合成セルを含む)が知られている(非特許文献1)。このような電気化学還元リアクタにおいて、カソード電極では二酸化炭素(CO2)が還元されてギ酸、一酸化炭素(CO)等が生成され、アノード電極では水が酸化されて酸素(O2)が生成する。例えば、ギ酸を生成する電気化学還元リアクタの例として、アノード電極にはカーボン系のガス拡散電極の電解液側にPt触媒とナフィオンの混合物が塗布された構成が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】D. T. Whipple, et al., J. Electrochem. Solid-State Lett. 13 B109 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気化学リアクタにおいて、酸素(O2)が電解液に溶解してカソード電極に到達すると、その一部がカソード電極にて還元されるため、目的である二酸化炭素(CO2)の還元反応が妨げられる。
【0005】
また、これら反応の研究は電極面積が1cm2程度の小型リアクタを用いて行われることが多いが、実用化のためには大型化が必須である。小型リアクタを用いた場合、酸素(O2)の生成量が少ないのでその悪影響は目立たない。しかしながら、リアクタが大型化すると、電解液に溶解した酸素(O2)が電解液の下流に蓄積されるので、酸素(O2)の還元の悪影響が強くなる。
【0006】
したがって、電気化学リアクタを実用化するためには、反応活性を維持し、外部への電解液の漏れを防ぎつつ、酸素(O2)の電解液への溶解を抑制して、電気化学リアクタの外部へ適切に排出できる構成が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、第1面がリアクタ内部の液体、前記第1面とは異なる第2面がリアクタ外部の気体に接した状態において、前記液体に含まれる物質を原料として用いて反応生成物質を生成するために用いられる反応触媒であって、前記液体側に第1親水性多孔質層が配置され、前記気体側に撥水性多孔質層が配置され、前記第1親水性多孔質層と前記撥水性多孔質層との間に前記反応生成物質を生成する反応に利用される触媒を含む触媒多孔質層が配置されていることを特徴とする反応触媒である。
【0008】
ここで、前記触媒多孔質層と前記撥水性多孔質層との間に第2親水性多孔質層が配置されていることが好適である。
【0009】
また、前記触媒多孔質層は、電気伝導性及び触媒活性を有する多孔質の材料、電気伝導性を有する多孔質の材料に前記触媒を担持した材料、多孔質の材料に電気伝導性と触媒活性を有する物質をコーティングした材料、多孔質の材料に電気伝導性を有する物質をコーティングしたうえに前記触媒を担持した材料、の少なくとも1つを含むことが好適である。
【0010】
また、前記第1親水性多孔質層は、空孔の大きさが1μm以上80μm以下であることが好適である。特に、前記第1親水性多孔質層は、空孔の大きさが1μm以上30μm以下であることが好適である。
【0011】
また、前記第1親水性多孔質層は、厚さが80μm以上0.3mm以下であることが好適である。特に、前記第1親水性多孔質層は、厚さが80μm以上0.2mm以下であることが好適である。
【0012】
また、前記触媒多孔質層は、空孔の大きさが10μm以上であることが好適である。特に、前記触媒多孔質層は、空孔の大きさが40μm以上であることが好適である。
【0013】
また、前記触媒多孔質層は、面積に対する空孔体積の比、すなわち(空孔体積)/(面積)が0.01cm以上であることが好適である。特に、前記触媒多孔質層は、面積に対する空孔体積の比が0.04cm以上であることが好適である。
【0014】
また、前記撥水性多孔質層は、空孔の平均の大きさが400μm以下であることが好適である。
【0015】
また、前記撥水性多孔質層は、フッ素樹脂にてコーティングされていることが好適である。
【0016】
また、前記触媒多孔質層は、チタンの多孔体にイリジウムを含む触媒を担持させたものであることが好適である。
【0017】
また、前記液体は水を含み、水から前記反応生成物質として酸素を生成することが好適である。
【0018】
本発明の別の態様は、上記反応触媒を備える電気化学リアクタである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、反応活性を維持し、電解液の漏れを防ぎつつ、反応により生成した気体を外部へ適切に排出できる電気化学リアクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態における電気化学リアクタの構成を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態における電気化学リアクタの構成を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるアノード電極の構成を示す分解断面図である。
【
図4】本発明の実施の形態におけるアノード電極の各層の組み合わせを示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態におけるTimeshAの走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態におけるTimeshBの走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態におけるCPの走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態におけるporousTiの表面光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態におけるCP+PTFEの走査電子顕微鏡写真を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態におけるPTFEnetの表面光学顕微鏡写真を示す図である。
【
図11】本発明の実施の形態におけるサイクリックボルタンメトリー(CV)測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1及び
図2は、本発明の実施の形態における電気化学リアクタ100を模擬した試験装置の構成を示す模式断面図及び側面図である。なお、
図2は、
図1のA方向からみた側面図を示す。
【0022】
電気化学リアクタ100は、セル10、アノード電極12、対極14、参照電極16及び電解液18を含んで構成される。
【0023】
アノード電極12は、
図3の分解断面図に示すように、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22及び撥水性多孔質層26を含んで構成される。具体的には、アノード電極12は、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22及び撥水性多孔質層26を積層し、2枚の支持板28にて挟み込んだ構成とすることができる。すなわち、アノード電極12は、第1面が電気化学リアクタ100内部の液体(例えば電解液18)、第1面とは異なる第2面が電気化学リアクタ100の外部の気体に接した状態において、液体に含まれる物質を原料として用いて反応生成物質を生成するために用いられる。液体側である第1面に第1親水性多孔質層20が配置され、気体側である第2面に撥水性多孔質層26が配置され、第1親水性多孔質層20と撥水性多孔質層26との間に反応生成物質を生成する反応に利用される触媒を含む触媒多孔質層22が配置される。
【0024】
なお、アノード電極12は、
図3に示すように、触媒多孔質層22と撥水性多孔質層26との間に第2親水性多孔質層24を配置してもよい。この場合、アノード電極12は、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26を積層し、2枚の支持板28にて挟み込んだ構成とする。
【0025】
アノード電極12に用いられる触媒は、電気化学リアクタ100で生じさせる化学反応に寄与する触媒とする。例えば、二酸化炭素(CO2)を還元してギ酸、一酸化炭素(CO)を生成する化学反応の場合、アノード電極12に用いられる触媒は酸化イリジウム(IrOx)ナノコロイド触媒とすることができる。ただし、触媒は、これに限定されるものではなく、電気化学リアクタ100で必要とされる化学反応を促進させる触媒であればよい。
【0026】
本実施の形態では、
図4に示すように、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26を組み合わせてアノード電極12を構成した。また、比較例0として、表面を研磨したTi基板にIrOxナノコロイドを担持したアノード電極12も用いた。
【0027】
第1親水性多孔質層20は、空孔の大きさが1μm以上80μm以下、より好適には空孔の大きさが1μm以上30μm以下である親水性の材料とする。また、第1親水性多孔質層20は、厚さが80μm以上0.3mm以下、さらに厚さが80μm以上0.2mm以下であることが好適である。第1親水性多孔質層20は、例えば、以下のTimeshA、TimeshB、PTFEmembrane1μm、PTFEmembrane10μmから選択することができる。
【0028】
TimeshAは、チタン繊維焼結体(ベカルト東綱メタルファイバー:2GDL06N-030)である。TimeshAは、厚さ0.3mm、空孔率78%、平均孔径60μm、積算細孔容積20%となる孔径80μm、積算細孔容積80%となる孔径40μmである。
図5は、TimeshAの表面走査電子顕微鏡写真を示す。
【0029】
TimeshBは、チタン繊維焼結体(ベカルト東綱メタルファイバー、2GDL10N-020)である。TimeshBは、厚さ0.2mm、空孔率45%、平均孔径20μm、積算細孔容積20%となる孔径30μm、積算細孔容積80%となる孔径10μmである。
図6は、TimeshBの表面走査電子顕微鏡写真を示す。
【0030】
PTFEmembrane1μmは、親水化処理PTFEメンブレン(メルク、オムニポア)である。PTFEmembrane1μmは、厚さ約80μm、平均孔径1μmである。
【0031】
PTFEmembrane10μmは、親水化処理PTFEメンブレン(メルク、オムニポア)である。PTFEmembrane10μmは、厚さ約80μm、平均孔径10μmである。
【0032】
触媒多孔質層22は、電気伝導性及び触媒活性を有する多孔質の材料、電気伝導性を有する多孔質の材料に触媒を担持した材料、多孔質の材料に電気伝導性と触媒活性を有する物質をコーティングした材料、多孔質の材料に電気伝導性を有する物質をコーティングしたうえに触媒を担持した材料から選択することが好適である。触媒多孔質層22は、厚さが80μm以上0.2mm以下であることが好適であり、さらに空孔の大きさが40μm以上であることがより好適である。触媒多孔質層22は、面積に対する空孔体積の比、すなわち(空孔体積)/(面積)が0.01cm以上であることが好適であり、さらに面積に対する空孔体積の比が0.04cm以上であることがより好適である。例えば、触媒多孔質層22として、下記のCP+IrOx、TimeshA+IrOx、TimeshB+IrOx及びporousTi+IrOxから選択することができる。なお、触媒多孔質層22は、これらを複数重ね合わせた構成としてもよい。
【0033】
CP+IrOxは、カーボンペーパー(東レ、トレカTGP-H-060)にIrOxコロイドを滴下・乾燥により担持したものである。CPは、厚さ0.19mm、空孔率80%、平均孔径30μm、積算細孔容積20%となる孔径40μm、積算細孔容積80%となる孔径20μmである。
図7は、CPの表面走査電子顕微鏡写真を示す。
【0034】
TimeshA+IrOxは、上記TimeshAにIrOxコロイドを滴下・乾燥により担持したものである。TimeshB+IrOxは、上記TimeshBにIrOxコロイドを滴下・乾燥により担持したものである。
【0035】
porousTi+IrOxは、Ti多孔質体(長峰製作所、MF-30)にIrOxコロイドを滴下・乾燥により担持したものである。porousTiは、厚さ1mm、空孔率88%、平均孔径380mmである。
図8は、porousTiの光学顕微鏡写真を示す。
【0036】
第2親水性多孔質層24は、空孔の大きさが1μm以上80μm以下、より好適には空孔の大きさが1μm以上30μm以下である親水性の材料とする。また、第1親水性多孔質層20は、厚さが80μm以上0.3mm以下、さらに厚さが80μm以上0.2mm以下であることが好適である。第2親水性多孔質層24は、例えば、TimeshA、porousTi、TimeshA+surfacePTFE及びTimeshA+IrOx+surfacePTFEから選択することができる。なお、第2親水性多孔質層24は適宜設けない構成としてもよい。
【0037】
TimeshA+surfacePTFEは、上記TimeshAの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE:polytetrafluoroethylene)をコーティングしたものである。TimeshA+surfacePTFEを用いる場合、PTFEがコーティングされた面を大気側に配置することが必要である。PTFEコーティングが撥水性多孔質層26の機能を備える。
【0038】
TimeshA+IrOx+surfacePTFEは、上記TimeshA+IrOxの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたものである。TimeshA+IrOx+surfacePTFEを用いる場合、PTFEがコーティングされた面を大気側に配置することが必要である。PTFEコーティングが撥水性多孔質層26の機能を備える。
【0039】
撥水性多孔質層26は、撥水性を有する多孔体で構成される。撥水性多孔質層26は、例えば、フッ素樹脂にてコーティングされている多孔体とすることができる。撥水性多孔質層26は、空孔の平均の大きさが400μm以下であることが好適である。撥水性多孔質層26は、例えば、CP+PTFE、PTFEnet及びTimeshA+PTFEから選択することができる。なお、第2親水性多孔質層24としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたTimeshA+surfacePTFE又はTimeshA+IrOx+surfacePTFEを用いた場合には撥水性多孔質層26を設けない構成としてもよい。
【0040】
CP+PTFEは、カーボンペーパーにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたものである(ケミックス、TGP-H-060H)。CP+PTFEは、厚さ0.19mm、空孔率80%、平均孔径30μm、積算細孔容積20%となる孔径40μm、積算細孔容積80%となる孔径20μmであった。
図9は、CP+PTFEの表面走査電子顕微鏡写真を示す。
【0041】
PTFEnetは、43メッシュ相当のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のネット(フロン工業、F-3261-006)である。PTFEnetは、厚さ0.4mm、空孔率32%、平均孔径400μmであった。
図10は、PTFEnetの表面光学顕微鏡写真を示す。
【0042】
TimeshA+PTFEは、上記TimeshAにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)分散液(ケミックス、テフロン(登録商標)ディスパージョン)への浸漬、乾燥、焼成によりポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングしたものである。TimeshA+PTFEは、厚さ0.3mm、空孔率78%、平均孔径60μmであった。なお、PTFEnetの平均孔径は、メッシュの菱形の貫通孔の断面積を円筒に換算したときの直径とした。
【0043】
ここで、上記の構成要素において、積算細孔容積と孔径との関係は、水銀ポロシメータ(アントンパール、PoreMaster 60GT)により測定した。積算細孔容積が大きい方から積算細孔容積の相対値が20%、50%(平均孔径)、80%となるときの孔径を求めた。測定時の水銀パラメータは、表面張力:480mN/m、接触角:135degreesを使用した。ただし、porousTiの孔径はメーカーのカタログ値である。
【0044】
支持板28は、アノード電極12を構成する第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26の積層体を支持する部材である。支持板28は、アノード電極12を保持する機械的な強度と化学反応に対する耐性を有する部材であれば特に限定されるものではないが、例えば樹脂、ガラス、金属とすることができる。支持板28は、例えば、ポリカーボネートとすることができる。支持板28は、電解液18及び反応で発生した気体を通過させるための開口穴を有する。
【0045】
電解液18は、電気化学リアクタ100で生じる化学反応に適した液体とすればよい。例えば、二酸化炭素(CO2)を還元してギ酸、一酸化炭素(CO)を生成する化学反応の場合、電解液18は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。
【0046】
[実施例及び比較例]
以下、二酸化炭素(CO2)を還元する電気化学リアクタ100の実施例及び比較例に
ついて説明する。
【0047】
電気化学リアクタ100のセル10は、電気化学反応の評価に用いられるH型セルの片側に似た形状のガラスセル(イーシーフロンティア、プレート電極評価セル、VM4)を用いた。
【0048】
アノード電極12として、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26の積層体を2枚の支持板28で挟み込み、シリコーン樹脂を用いて周囲を封止して形成した作用極を用いた。第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26は、それぞれ
図4に示す組み合わせとした。また、比較例0として、表面を研磨したチタン(Ti)基板に酸化イリジウム(IrOx)ナノコロイドを担持したアノード電極12を用いた。支持板28は、それぞれに直径11mmの開口部を設けた構成とした。アノード電極12は、セル10の側面に設けられた開口部に取り付けた。
【0049】
また、対極14としてPt対極、参照電極16としてAg/AgCl参照極を用いて3極型電気化学セルを構成した。参照極及び対極は、セル10の上側に設けられた開口部より挿入した。電解液18としては、0.4Mリン酸緩衝水溶液を用いた。
【0050】
このような電気化学リアクタ100についてポテンショ/ガルバノスタットを用いてサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行い、CVカーブを取得した。電位の走査範囲は0~2.0Vvs.Ag/AgCl、走査速度は10mV/sに設定した。さらに、電流15mAの条件でクロノポテンショメトリー(CP)測定を行い、電解液側に排出される酸素(O2)量を比較例(酸素(O2)が全て電解液側に排出される)の場合と比較して酸素(O2)がセルの外部である大気側へ排出される比率を求めた。なお、この際、何れの試料についても、大気側への電解液の滲み出しは目視では確認されなかった。
【0051】
比較例0のように、チタン(Ti)基板に酸化イリジウム(IrOx)ナノコロイドを担持した試料の場合、電位の順方向の走査(増大)に伴い、およそ0.9Vvs.Ag/AgClから直線的に電流が増大し、電位が2.0Vのときに電流は26mAに達した。その後、電位を逆方向に走査(減少)すると、順方向とほぼ同じ線上をたどって電流が減少した。即ち、
図11に示すように、CVカーブにヒステリシスは見られなかった。
【0052】
従来技術に近い構成である比較例1の場合、比較例0に近いCVカーブが得られたものの、酸素(O2)の大気側排出率は40%であった。すなわち、触媒多孔質層22にて生成した酸素(O2)は、セルの外部である大気側には一部しか十分に排出されなかった。電解液18の側に第1親水性多孔質層20を加えた比較例2の場合、酸素(O2)の大気側排出率は95%以上に向上した。しかしながら、比較例2の場合、CV測定における順方向走査時の電流が大幅に低下し、逆方向走査時の電流は更に低下した。すなわち、CVカーブにヒステリシスが生じた。
【0053】
電位を順方向に走査すると、酸素(O2)の気泡の発生量が徐々に増大する。これが速やかに排出されずにアノード電極12の触媒多孔質層22内に滞留すると、触媒(IrOx)の表面が一部覆われて反応に対する実効的な面積が低下し、酸素(O2)と共に生成される水素イオン(H+)のカソードへの伝搬経路が狭くなって伝搬が妨げられて電流が低下する。その結果、大量の酸素(O2)の気泡が発生した後の逆方向電位走査時には順方向時に比べて電流が低下する。
【0054】
本実施の形態では、電気化学リアクタ100の電気特性を評価する指数として電流IF及び規格化電流比(IF-IB)/IFを用いた。すなわち、気泡滞留の影響が小さい順方向走査時における電位1.3V時の電流(IF)を反応活性の指標とし、気泡滞留の影響が大きくなった逆方向走査時における電位1.3Vの電流(IB)との差を規格化した規格化電流比(IF-IB)/IFを酸素(O2)の気泡の滞留の有無の指標として用いた。電流IFが大きいほど、規格化電流比(IF-IB)/IFが小さいほど電気化学リアクタ100の電気特性が優れていると判断できる。
【0055】
図4に、比較例0~4及び実施例1~13の評価結果をまとめて示す。第1親水性多孔質層20及び第2親水性多孔質層24を備えない比較例3及び比較例4では電流I
F及び規格化電流比(I
F-I
B)/I
Fが比較例0に近く、比較的良好な値を示したが、酸素(O
2)の大気側排出率が比較例1に近い値であり、実施例1~13に比べて低かった。
【0056】
比較例0~4に対して、第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22及び撥水性多孔質層26を備えた実施例1~3,5及び第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26を備えた実施例6~14は、酸素(O2)の大気側排出率が95%以上を実現しながら、電流IF及び規格化電流比(IF-IB)/IFの両方の観点から比較例2よりも優れた特性を示した。第1親水性多孔質層20、触媒多孔質層22、第2親水性多孔質層24及び撥水性多孔質層26を備えた実施例4は、電流IFの観点からは比較例2と同等、規格化電流比(IF-IB)/IFの観点からは比較例2よりも優れた特性であった。特に、実施例5~14では、電流IF及び規格化電流比(IF-IB)/IFの両方の観点から比較例0と同等又はそれを上回る優れた特性を示した。
【0057】
以上のように、本実施の形態におけるアノード電極12では、生成した気体物質の95%以上が電解液18の反対側(大気側)、すなわちセルの外部に排出された。二酸化炭素(CO2)の還元反応のための電気化学リアクタ100に本実施の形態におけるアノード電極12を適用した場合、二酸化炭素(CO2)の還元反応では水の酸化反応により生成された酸素(O2)が反対側の対極14に到達して反応し、目的である二酸化炭素(CO2)の還元反応を妨げることを抑制することができる。その結果、二酸化炭素(CO2)の還元反応の効率が向上する。
【0058】
また、電解液18に大量の酸素(O2)が含まれることを防ぎ、電気化学リアクタ100に電解液18を供給及び排出する際において背圧の上昇を抑制することができる。その結果、電解液18の供給及び排出のためのポンプの消費電力が抑制される。
【0059】
また、酸素(O2)がアノード電極12に用いられる触媒表面に付着して反応基質である水の供給が妨げられることを抑制することができる。その結果、水の酸化反応の効率が向上する。
【0060】
さらに、電気化学リアクタ100内に大量の酸素(O2)の気泡が発生して内圧が上昇することを防ぐことができる。その結果、電気化学リアクタ100のセル10に求められる耐圧が小さくなり、電気化学リアクタ100を軽量化及び低コスト化することができる。
【0061】
これらの作用及び効果が生じる理由として、適切な空孔サイズをもつ第1親水性多孔質層20により、生成された酸素(O2)の気泡の電解液18側への伝搬が抑えられたためと推察される。同時に、反応の継続のために必要な酸素(O2)と共に生成する水素イオン(H+)の電解液18への伝搬も妨げられなかったと推察される。また、必要な空孔サイズと空孔体積をもつ触媒多孔質層22又は触媒多孔質層22及び第2親水性多孔質層24の組み合わせによって、生成された酸素(O2)の気泡が触媒材料表面を覆って反応を妨げることなく、撥水性多孔質層26を通過して電気化学リアクタ100の外部へ排出されたためと推察される。このとき、適切な空孔サイズをもつ撥水性多孔質層26を用いることによって、電解液18が外部へ漏れ出すことなく、生成された酸素(O2)の気泡のみが外部へ排出される。
【0062】
なお、本実施の形態では、二酸化炭素(CO2)の還元反応によって酸素(O2)を発生させる電気化学リアクタ100を例として説明したが、アノード電極12の適用範囲はこれに限定されるものではない。すなわち、触媒多孔質層22に担持された触媒の作用によってなんらかの気体を発生させる反応に用いられる電気化学リアクタ100であればアノード電極12の適用範囲となる。このとき、アノード電極12の触媒多孔質層22に担持させる触媒は、電気化学リアクタ100の目的となる反応に寄与する触媒とすればよい。
【符号の説明】
【0063】
10 セル、12 アノード電極、14 対極、16 参照電極、18 電解液、20 第1親水性多孔質層、22 触媒多孔質層、24 第2親水性多孔質層、26 撥水性多孔質層、28 支持板、100 電気化学リアクタ。