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特許7521518車両制御装置、車両制御方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G01M17/007 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021206220
(22)【出願日】2021-12-20
(65)【公開番号】P2023091460
(43)【公開日】2023-06-30
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 浩司
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-156715(JP,A)
【文献】特開平08-202449(JP,A)
【文献】特開2008-204125(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037815(WO,A1)
【文献】特開2009-255796(JP,A)
【文献】特開平09-301212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの前記第1要求値を用いて制御対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定する車両制御装置であって、
前記第1要求値と前記第1状態量の実測値との偏差を用いてフィードバック制御における前記第2要求値のフィードバック項を設定する設定部と、
前記偏差の変化履歴および前記フィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて前記車両の部品の劣化を判定する判定部とを備え
前記判定部は、前記偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、前記車両の部品が劣化していると判定する、車両制御装置。
【請求項2】
前記フィードバック項は、積分項を含み、
前記判定部は、前記積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、前記車両の部品が劣化していると判定する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記第1状態量は、前記車両の前後方向の加速度と、前記車両のヨー方向の角速度と、前記車両の左右方向の加速度とのうちの少なくともいずれかを含む、請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両の部品は、前記車両の動作に関連する、ブッシュとして設けられる部品を含む、請求項1~のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記第1要求値を用いてフィードフォワード制御における前記第2要求値のフィードフォワード項を設定する、請求項1~のいずれかに記載の車両制御装置。
【請求項6】
コンピュータで実行される、車両制御方法であって、
車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの前記第1要求値を用いて制御対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定するステップと、
前記第1要求値と前記第1状態量の実測値との偏差を用いてフィードバック制御における前記第2要求値のフィードバック項を設定するステップと、
前記偏差の変化履歴および前記フィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて前記車両の部品の劣化を判定するステップと
前記偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、前記車両の部品が劣化していると判定するステップとを含む、車両制御方法。
【請求項7】
コンピュータに、
車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの前記第1要求値を用いて制御対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定するステップと、
前記第1要求値と前記第1状態量の実測値との偏差を用いてフォードバック制御における前記第2要求値のフィードバック項を設定するステップと、
前記偏差の変化履歴および前記フィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて前記車両の部品の劣化を判定するステップと
前記偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、前記車両の部品が劣化していると判定するステップとを実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転支援が可能な車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、運転者の運転操作を支援するシステムや自動運転を行なうためのシステムなどの運転支援システムによって運転支援が可能な車両が公知である。このような車両において、たとえば、車両の加速度の要求値(目標値)と実測値との偏差を用いたフィードバック制御によって運転支援システムにおいて要求される動作を実現するための駆動力を発生させる技術が知られている。
【0003】
たとえば、特開2020-045077号公報(特許文献1)には、加速度の要求値に基づいて算出される目標制駆動力と駆動装置が現在発生可能な制駆動力の範囲を表すアベイラビリティとに基づいて駆動装置に制駆動力を発生させる技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-045077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような車両において、要求値と実測値との偏差に応じて駆動力を制御すると、車両の部品の劣化等による制御応答性の低下が車両の挙動に現れにくい場合がある。特に、自動運転が行なわれる場合には、運転者による運転操作が行なわれることなく、車両の挙動が制御されるため、乗員としては車両の挙動の変化を認識しにくいため、車両の部品の劣化等の早期発見あるいは部品の劣化の予見を行なうことが容易ではない。
【0006】
本開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、車両の部品の劣化等の異常を精度よく検出可能な車両制御装置、車両制御方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に係る車両制御装置は、車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの第1要求値を用いて制御対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定する車両制御装置である。この車両制御装置は、第1要求値と第1状態量の実測値との偏差を用いてフィードバック制御における第2要求値のフィードバック項を設定する設定部と、偏差の変化履歴およびフィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて車両の部品の劣化を判定する判定部とを備える。
【0008】
車両の部品が劣化すると偏差やフィードバック制御において設定されるフィードバック項が増加するなどの変化が生じ得る。そのため、偏差の変化履歴やフィードバック項の変化履歴を用いて車両の部品の劣化を精度高く判定することができる。特に、自動運転時のように劣化による車両の挙動の変化を認識しにくい運転状況においても車両の部品の劣化の早期発見や劣化の予見を実現できる。その結果、車両の信頼性や安全性を向上させることができる。
【0009】
さらにある実施の形態においては、フィードバック項は、積分項を含む。判定部は、積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両の部品が劣化していると判定する。
【0010】
たとえば、車両の部品の劣化が生じて第1要求値と実測値との偏差が大きい状態が継続するとフィードバック項の積分項が劣化が生じる前よりも増加する傾向がある。そのため、積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両の部品が劣化していると判定することにより、車両の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0011】
さらにある実施の形態においては、判定部は、偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、車両の部品が劣化していると判定する。
【0012】
たとえば、車両の部品の劣化が生じると第1要求値と実測値との偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が劣化が生じる前よりも増加する傾向がある。そのため、偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、車両の部品が劣化していると判定することにより、車両の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0013】
さらにある実施の形態においては、第1状態量は、車両の前後方向の加速度と、車両のヨー方向の角速度と、車両の左右方向の加速度とのうちの少なくともいずれかを含む。
【0014】
このようにすると、車両の前後方向、ヨー方向あるいは左右方向についての加速度の第1要求値と実測値との偏差の変化履歴や偏差を用いて設定される第2要求値のフィードバック項の変化履歴を用いて車両の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0015】
さらにある実施の形態においては、車両の部品は、車両の動作に関連する、ブッシュとして設けられる部品を含む。
【0016】
このようにすると、偏差の変化履歴やフィードバック項の変化履歴を用いて車両の動作に関連する、ブッシュとして設けられる部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0017】
ある実施の形態においては、設定部は、第1要求値を用いてフィードフォワード制御における第2要求値のフィードフォワード項を設定する。
【0018】
このようにすると、フィードフォワード制御とフィードバック制御とによって第2要求値が設定される場合において、偏差の変化履歴やフィードバック項の変化履歴を用いて車両の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0019】
本開示の他の局面に係る車両制御方法は、コンピュータで実行される、車両制御方法である。この車両制御方法は、車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの第1要求値を用いて制御対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定するステップと、第1要求値と第1状態量の実測値との偏差を用いてフィードバック制御における第2要求値のフィードバック項を設定するステップと、偏差の変化履歴およびフィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて車両の部品の劣化を判定するステップとを含む。
【0020】
本開示のさらに他の局面に係るプログラムは、コンピュータに、車両の動作に関する第1状態量の第1要求値を設定する車載システムからの第1要求値を用いて対象に対して動作を要求するための第2状態量の第2要求値を設定するステップと、第1要求値と第1状態量の実測値との偏差を用いてフォードバック制御における第2要求値のフィードバック項を設定するステップと、偏差の変化履歴およびフィードバック項の変化履歴のうちの少なくともいずれかを用いて車両の部品の劣化を判定するステップとを実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によると、車両の部品の劣化等の異常を精度よく検出可能な車両制御装置、車両制御方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】車両の構成の一例を示す図である。
図2】運動マネージャの動作の一例を説明するための図である。
図3】算出部で実行されるFB制御およびFF制御の処理の一例を説明するための図である。
図4】算出部において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図5】積分項の変化量の変化履歴の一例を示す図である。
図6】変形例における算出部において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
図1は、車両1の構成の一例を示す図である。図1に示すように、車両1は、ADAS-ECU(Electronic Control Unit)10と、ブレーキECU20と、アクチュエータシステム30と、セントラルECU40と、自動運転装置であるADK(Autonomous Driving Kit)120とを含む。
【0025】
車両1は、後述する運転支援システムの機能を実現できる構成を有する車両であればよく、たとえば、エンジンを駆動源とする車両であってもよいし、あるいは、電動機を駆動源とする電気自動車であってもよいし、エンジンと電動機とを搭載し、少なくともいずれかを駆動源とするハイブリッド自動車であってもよい。
【0026】
ADAS-ECU10、ブレーキECU20、セントラルECU40およびADK120は、いずれもCPU(Central Processing Unit)などのプログラムを実行するプロセッサ、メモリ、および入出力インターフェースを有するコンピュータを含む。
【0027】
ADAS-ECU10は、車両1の運転支援に関する機能を有する運転支援システム100を含む。運転支援システム100は、実装されるアプリケーションを実行することにより、車両1の操舵制御、駆動制御および制動制御のうちの少なくともいずれかを含む車両1の運転を支援するための様々な機能を実現するように構成される。運転支援システム100において実装されるアプリケーションとしては、たとえば、自動駐車システムの機能を実現するアプリケーション、および、先端運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assist System)の機能を実現するアプリケーション(以下、ADASアプリケーションと記載する)などを含む。
【0028】
ADASアプリケーションとしては、たとえば、前走車との車間距離を一定に保ちながら走行する先行車との車間を保つ追従走行(ACC(Adaptive Cruise Control)など)の機能を実現するアプリケーション、制限車速を認識し自車の速度上限を維持するASL(Auto Speed Limiter)の機能を実現するアプリケーション、走行する車線の維持を行なう車線維持支援(LKA(Lane Keeping Assist)あるいはLTA(Lane Tracing Assist)など)の機能を実現するアプリケーション、衝突の被害を軽減させるために自動的に制動をかける衝突被害軽減ブレーキ(AEB(Autonomous Emergency Braking)あるいはPCS(Pre-Crash Safety)など)の機能を実現するアプリケーション、および、車両1の走行車線の逸脱を警告する車線逸脱警報(LDW(Lane Departure Warning)あるいはLDA(Lane Departure Alert)など)の機能を実現するアプリケーション車両の速度が上限速度を超えないように制御するISA(Intelligent Speed Assistance)の機能を実現するアプリケーションのうちの少なくともいずれかが含まれる。
【0029】
この運転支援システム100の各アプリケーションは、図示しない複数のセンサから取得(入力)する車両周囲状況の情報やドライバの支援要求等に基づいて、アプリケーション単独での商品性(機能)を担保した行動計画の要求をブレーキECU20(より具体的には運動マネージャ200)に対して出力する。複数のセンサは、たとえば、前向きカメラ等のビジョンセンサ、レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、あるいは、位置検出装置等を含む。
【0030】
前向きカメラは、たとえば、車室内のルームミラーの裏側に配置されており、車両の前方の画像の撮影に用いられる。レーダは、波長の短い電波を対象物に照射し、対象物から戻ってきた電波を検出して、対象物までの距離や方向を計測する距離計測装置である。LiDARは、レーザ光(赤外線などの光)をパルス状に照射し、対象物に反射して戻ってくるまでの時間によって距離を計測するための距離計測装置である。位置検出装置は、たとえば、地球の軌道上を周回する複数の衛星から受信する情報を用いて車両1の位置を検出するGPS(Global Positioning System)などによって構成される。
【0031】
各アプリケーションは、1つもしくは複数のセンサの検出結果を統合した車両周囲状況の情報を認識センサ情報として取得するとともに、スイッチ等のユーザインタフェース(図示せず)を経由したドライバの支援要求を取得する。各アプリケーションは、たとえば、複数のセンサによって取得された車両の周囲の画像や映像に対する人工知能(AI)や画像処理用プロセッサを用いた画像処理によって車両の周囲にある他の車両、障害物あるいは人を認識可能とする。
【0032】
また、行動計画には、たとえば、車両1に発生させる前後加速度/減速度に関する要求や、車両1の操舵角に関する要求や、車両1の停止保持に関する要求などが含まれる。
【0033】
車両1に発生させる前後加速度/減速度に関する要求としては、たとえば、パワートレインシステム302に対する動作要求や、ブレーキシステム304に対する動作要求を含む。
【0034】
車両1の停止時保持に関する要求としては、たとえば、電動パーキングブレーキおよびパーキングロック機構(いずれも図示せず)のうちの少なくとも1つの作動の許可および禁止に関する要求を含む。
【0035】
電動パーキングブレーキは、たとえば、アクチュエータの動作によって車両1の車輪の回転を制限する。電動パーキングブレーキは、たとえば、車両1に設けられる複数の車輪のうちの一部に設けられるパーキングブレーキ用のブレーキをアクチュエータを用いて作動させて、車輪の回転を制限するように構成されてもよい。あるいは、電動パーキングブレーキは、パーキングブレーキ用のアクチュエータを動作させてブレーキシステム304の制動装置に供給される油圧を調整して、制動装置を作動させることにより車輪の回転を制限してもよい。
【0036】
パーキングロック機構は、アクチュエータの動作によりトランスミッションの出力軸の回転を制限する。パーキングロック機構は、たとえば、車両1のトランスミッション内の回転要素に連結して設けられる歯車(ロックギヤ)の歯部に対して、アクチュエータにより位置が調整されるパーキングロックポールの先端に設けられる突起部を嵌合させる。これにより、トランスミッションの出力軸の回転が制限され、駆動輪の車輪の回転が制限される。
【0037】
なお、運転支援システム100において実装されるアプリケーションとしては、特に上述したアプリケーションに限定されるものではなく、他の機能を実現するアプリケーションが追加されてもよいし、既存のアプリケーションが省略されてもよく、特に実装されるアプリケーションの数は限定されるものではない。
【0038】
また、本実施の形態においては、ADAS-ECU10が、複数のアプリケーションによって構成される運転支援システム100を含むものとして説明したが、たとえば、アプリケーション毎にECUが設けられてもよい。たとえば、自動駐車システムの機能を実現するアプリケーションが実装されたECUと、ADASアプリケーションが実装されたECUとによって運転支援システム100が構成されてもよい。
【0039】
ADK120は、自動運転システム(ADS:Autonomous Driving System)122を含む。ADK120は、車両1から脱着可能に構成され、他のADKへの換装が可能に構成される。ADS122は、自動運転の機能を実現するアプリケーションを有する。ADS122は、ADK120に搭載される複数のセンサや車両1から取得する車両周囲状況の情報等に基づいて、アプリケーション単独での商品性(機能)を担保した行動計画(すなわち、自動運転を行なうための行動計画)の要求をブレーキECU20に対して出力する。ADK120に搭載する複数のセンサは、たとえば、前向きカメラ等のビジョンセンサ、レーダ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、あるいは、位置検出装置等を含む。これらのセンサについては、上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。たとえば、現在地から予め設定された目的地までの区間あるいは当該区間の一部において、車両1の周囲の状況に応じて車両1の加減速、操舵、および、停止のうちの少なくともいずれかの動作を運転者が操作することなく実施することによって自動運転が行なわれる。本実施の形態において、ADS120は、運転支援システム100とは、別系統のセンサあるいは画像処理装置によって車両1の周囲の状況を取得可能に構成される。
【0040】
なお、自動運転の機能を実現するアプリケーションは、たとえば、運転支援システム100に含まれるようにしてもよいし、あるいは、ADAS-ECU10とは異なるECUに実装されてもよい。
【0041】
ブレーキECU20は、運動マネージャ200を含む。本実施の形態においては、ブレーキECU20が、運動マネージャ200を含むハードウェア構成である場合を一例として説明するが、運動マネージャ200は、ブレーキECU20とは別の単体のECUとして設けられてもよいし、あるいは、ブレーキECU20とは異なる他のECUに含まれるようにしてもよい。ブレーキECU20は、ADAS-ECU10と、アクチュエータシステム30に含まれる各種ECUと、セントラルECU40と、ADK120との各々と通信可能に構成される。
【0042】
運動マネージャ200は、運転支援システム100の複数のアプリケーションおよびADS122の自動運転の機能を実現するアプリケーションのうちの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画に従った車両1の運動をアクチュエータシステム30に対して要求する。運動マネージャ200の詳細な構成については、後述する。
【0043】
アクチュエータシステム30は、運動マネージャ200から出力される車両1の運動の要求を実現するように構成される。アクチュエータシステム30は、複数のアクチュエータを含む。図1においては、アクチュエータシステム30が、たとえば、パワートレインシステム302と、ブレーキシステム304と、ステアリングシステム306とをアクチュエータとして含む場合を一例として示している。なお、運動マネージャ200の要求先となるアクチュエータの個数としては、上述のような3つに限定されるものではなく、4つ以上であってもよいし、2つ以下であってもよいものとする。
【0044】
パワートレインシステム302は、車両1の駆動輪に駆動力を発生させることが可能なパワートレインと、パワートレインの動作を制御するECU(いずれも図示せず)とを含む。パワートレインは、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関、変速機や差動装置などを含むトランスミッション、駆動源となるモータジェネレータ、モータジェネレータに供給する電力を蓄電する蓄電装置、モータジェネレータと蓄電装置との間で相互に電力を変換する電力変換装置、燃料電池等の発電源等のうちの少なくともいずれかを含む。パワートレインの動作を制御するECUは、運動マネージャ200からのパワートレインシステム302における対応機器に対する運動の要求を実現するように対応機器を制御する。
【0045】
ブレーキシステム304は、たとえば、車両1の各車輪に設けられる、複数の制動装置を含む。制動装置は、たとえば、油圧を用いて制動力を発生させるディスクブレーキ等の油圧ブレーキを含む。なお、制動装置としては、たとえば、車輪に接続され、回生トルクを発生させるモータジェネレータをさらに含むようにしてもよい。複数の制動装置を用いた車両1の制動動作は、ブレーキECU20により制御される。ブレーキECU20には、たとえば、運動マネージャ200と別にブレーキシステム304を制御するための制御部(図示せず)が設けられる。
【0046】
ステアリングシステム306は、たとえば、車両1の操舵輪(たとえば、前輪)の舵角を変化可能な操舵装置と、操舵装置の動作を制御するECU(いずれも図示せず)とを含む。操舵装置は、たとえば、操作量に応じて舵角を変化させるステアリングホイールと、ステアリングホイールの操作とは別にアクチュエータにより舵角の調整が可能な電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)とを含む。操舵装置の動作を制御するECUは、EPSのアクチュエータの動作を制御する。
【0047】
セントラルECU40は、記憶内容の更新が可能なメモリ42を含む。セントラルECU40は、たとえば、ブレーキECU20と通信可能に構成されるとともに、図示しない通信モジュールを経由して図示しない車両1の外部の機器(たとえば、サーバ)と通信可能に構成される。セントラルECU40は、車両1の外部のサーバから更新情報を受信する場合に受信した更新情報を用いてメモリ42内に記憶される情報を更新する。メモリ42内には、所定の情報が記憶される。所定の情報は、たとえば、車両1のシステム起動時に各種ECUから読み出される情報を含む。
【0048】
本実施の形態において、セントラルECU40は、車両1のシステム起動時に各種ECUから所定の情報が読み出されるものとして説明したが、各種ECU間の通信を中継する等の機能(ゲートウエイ機能)を有するものであってもよい。
【0049】
以下、図2を用いて運動マネージャ200の動作の一例について詳細に説明する。図2は、運動マネージャ200の動作の一例を説明するための図である。
【0050】
図2には、運転支援システム100とADS122とを含むシステム群150が示される。また、図2においては、運転支援システム100が、たとえば、AEB102と、LKA104と、ACC106と、ASL108と、PCS110と、ISA112とをアプリケーションとして含む場合が一例として示されている。さらに、図2においては、ADS122が、たとえば、自動運転(AD(Autonomous Driving))の機能を実現するアプリケーションであるAD124を含む場合が示されている。運転支援システム100とADS122とを含むシステム群150から運動マネージャ200に対しては、複数のアプリケーションのうちの少なくともいずれかにおいて設定された行動計画の要求が要求信号PLN1として送信される。
【0051】
要求信号PLN1としては、たとえば、ACC、AEB、ASL、PCS、ISAあるいはADにおいて行動計画の一つとして設定される目標加速度についての情報や、LKAあるいはADにおいて行動計画の一つとして設定される目標曲率についての情報等を含む。
【0052】
運動マネージャ200は、受信した要求信号PLN1に含まれる行動計画の要求に基づいて車両1に要求する運動を設定し、設定された運動の実現をアクチュエータシステム30に要求する。すなわち、運動マネージャ200は、パワートレインシステム302に対する動作の要求を要求信号ACL1としてアクチュエータシステム30に送信する。運動マネージャ200は、ブレーキシステム304に対する動作の要求を要求信号BRK1としてアクチュエータシステム30に送信する。さらに、運動マネージャ200は、ステアリングシステム306に対する動作の要求を要求信号STR1としてアクチュエータシステム30に送信する。
【0053】
要求信号ACL1は、たとえば、駆動トルクまたは駆動力の要求値に関する情報や、調停の仕方に関する情報等(たとえば、最大値あるいは最小値を選択するか、ステップ的に変化させるか、徐変させるか等)を含む。
【0054】
要求信号BRK1は、たとえば、制動トルクの要求値に関する情報や、調停の仕方に関する情報(たとえば、ステップ的に変化させるか、徐変させるか等)や、制動の実施タイミングについての情報(即時実施か否か等)等を含む。
【0055】
要求信号STR1は、たとえば、目標舵角や、目標舵角が有効であるか否かについての情報や、ステアリングホイールの操作の支援トルクの上下限トルクに関する情報等を含む。
【0056】
アクチュエータシステム30を構成する複数のアクチュエータのうちの対応する要求信号を受信したアクチュエータにおいては、要求信号に含まれる動作の要求が実現されるように制御される。
【0057】
以下に、運動マネージャ200の構成の一例について説明する。図2に示すように、運動マネージャ200は、受付部202と、調停部204と、算出部206と、分配部208とを含む。
【0058】
受付部202は、システム群150の1つまたは複数のアプリケーションが出力する行動計画の要求を受け付ける。本実施の形態における行動計画の詳細については後述する。
【0059】
調停部204は、各アプリケーションから受付部202を介して受け付けた複数の行動計画の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の行動計画の中から1つの行動計画を選択することが一例として挙げられる。また、調停の処理としては、複数の行動計画に基づいて新たな行動計画を設定することも他の例として挙げられる。なお、調停部204は、アクチュエータシステム30から受信する所定の情報をさらに加えて、複数の行動計画の要求を調停してもよい。さらに、調停部204は、調停結果に基づいて決定した行動計画に対応する車両1の運動よりも、ドライバ状態および車両状態に応じて求められる車両1の運動を一時的に優先させるか否かを判定してもよい。
【0060】
算出部206は、調停部204における行動計画の要求の調停結果およびその調停結果に基づいて決定した車両1の運動に基づいて、運動要求を算出する。この運動要求は、アクチュエータシステム30の少なくともいずれかのアクチュエータを制御するための物理量であり、行動計画の要求の物理量とは異なる物理量を含む。たとえば、行動計画の要求(第1の要求)が前後加速度である場合には、算出部206は、加速度を駆動力や駆動トルクに変換した値を運動要求(第2の要求)として算出する。
【0061】
分配部208は、算出部206によって算出された運動要求をアクチュエータシステム30の少なくとも一つのアクチュエータに分配する。分配部208は、たとえば、車両1の加速が要求される場合、パワートレインシステム302に対してのみに運動要求を分配する。あるいは、分配部208は、車両1の減速が要求される場合には、目標となる減速度を実現するためにパワートレインシステム302とブレーキシステム304とに運動要求を適切に分配する。
【0062】
アクチュエータシステム30のパワートレインシステム302からは、パワートレインシステム302の状態について情報が信号ACL2として運動マネージャ200に送信される。パワートレインシステム302の状態についての情報としては、たとえば、アクセルペダルの操作に関する情報や、パワートレインシステム302の実駆動トルクあるいは実駆動力に関する情報や、実シフトレンジ情報や、駆動トルクの上下限についての情報や、駆動力の上下限についての情報や、パワートレインシステム302の信頼性についての情報等が含まれる。
【0063】
アクチュエータシステム30のブレーキシステム304からは、ブレーキシステム304の状態についての情報が信号BRK2として運動マネージャ200に送信される。ブレーキシステム304の状態についての情報としては、たとえば、ブレーキペダルの操作に関する情報や、ドライバが要求する制動トルクに関する情報や、調停後の制動トルクの要求値に関する情報や、調停後の実制動トルクに関する情報や、ブレーキシステム304の信頼性に関する情報等が含まれる。
【0064】
アクチュエータシステム30のステアリングシステム306からは、ステアリングシステム306の状態についての情報が信号STR2として運動マネージャ200に送信される。ステアリングシステム306の状態についての情報としては、たとえば、ステアリングシステム306の信頼性に関する情報や、ドライバがステアリングホイールを把持しているかについての情報や、ステアリングホイールを操作するトルクに関する情報や、ステアリングホイールの回転角に関する情報等が含まれる。
【0065】
また、アクチュエータシステム30は、上述したパワートレインシステム302、ブレーキシステム304およびステアリングシステム306に加えてセンサ群308を含む。
【0066】
センサ群308は、車両1の挙動を検出する複数のセンサを含む。センサ群308は、たとえば、車両1の前後方向の車体加速度を検出する前後Gセンサと、車両1の左右方向の車体加速度を検出する横Gセンサと、各車輪に設けられ、車輪速を検出する車輪速センサと、ヨー方向の回転角(ヨー角)の角速度を検出するヨーレートセンサとを含む。センサ群308は、複数のセンサの検出結果を含む情報を信号VSS2として運動マネージャ200に送信する。すなわち、信号VSS2は、たとえば、前後Gセンサの検出値と、横Gセンサの検出値と、各車輪の車輪速センサの検出値と、ヨーレートセンサの検出値と、各センサの信頼性に関する情報とを含む。
【0067】
運動マネージャ200は、アクチュエータシステム30から受信した各種信号を受信すると、所定の情報を信号PLN2として運転支援システム100に送信する。
【0068】
なお、以上説明した、車両1に搭載された機器の構成および運動マネージャ200の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実行することが可能である。
【0069】
以上のような構成を有する車両1において、運動マネージャ200の算出部206は、たとえば、車載システム(ADS122および運転支援システム100を含む)からの車両1の前後方向加速度の要求値を調停し、調停された加速度の要求値に対応する駆動力の要求値を設定し、設定された駆動力の要求値をアクチュエータシステム30に出力する。このとき、算出部206は、フィードフォワード制御(以下、FF制御と記載する)およびフィードバック制御(以下、FB制御と記載する)によって、調停後の加速度の要求値に対応する駆動力の要求値を設定する。算出部206は、たとえば、調停後の加速度の要求値に対応したフィードフォワード項と、調停後の加速度の要求値と加速度の実測値との偏差に対応したフィードバック項との和を駆動力の要求値として設定する。フィードバック制御としては、たとえば、PID制御を含む。
【0070】
図3は、算出部206で実行されるFF制御およびFB制御の処理の一例を説明するための図である。たとえば、自動運転中においては、ADS122で設定された加速度の要求値が運動マネージャ200の受付部202に入力される。受付部202に入力された加速度の要求値は、調停部204に出力され、調停部204において他の加速度の要求値との調停が行なわれる。算出部206には、調停後の加速度の要求値が入力される。算出部206は、調停部204から入力される調停後の加速度の要求値を用いて駆動力の要求値を設定する。
【0071】
算出部206は、FF制御部206aとFB制御部206bとを含む。FF制御部206aは、調停後の加速度の要求値を用いて駆動力の要求値のFF項を設定する。FF制御部206aは、たとえば、調停後の加速度の要求値を実現する駆動力を走行抵抗等を考慮してFF項として設定する。FF制御部206aは、たとえば、加速度の要求値とFF項との予め定められた関係を示す数式、関数、マップあるいは表等を用いて加速度の要求値を用いてFF項を設定する。予め定められた関係は、たとえば、実験的あるいは設計的に適合される。FF制御部206aは、設定されたFF項を出力する。
【0072】
FB制御部206bは、調停後の加速度の要求値と、車両1の前後方向の実測値との偏差を用いて駆動力の要求値のFB項を設定する。FB制御部206bには、加え合わせ点206cにおいて算出される加速度の要求値と加速度の実測値との偏差が入力される。加速度の実測値は、アクチュエータシステム30のセンサ群308から入力される。FB制御部206bは、偏差に応じた駆動力の要求値のFB項を設定する。FB項は、PID制御において偏差に比例して設定される比例項と、偏差の時間積分に比例して設定される積分項と、偏差の時間微分に比例して設定される微分項とを含む。FB制御部206bは、設定されたFB項を出力する。
【0073】
そして、加え合わせ点206dにおいてFF制御部206aから出力されるFF項と、FB制御部206bから出力されるFB項との和が算出され、算出された和が駆動力の要求値として分配部208を経由してアクチュエータシステム30に出力される。
【0074】
上述のようなフィードバック制御において加速度の要求値と加速度の実測値との偏差に応じてFB項を設定すると、車両1の部品(たとえば、車両1の動作や制御対象であるパワートレインシステム302の動作に関連する、ブッシュとして設けられる部品)の劣化等による制御応答性の低下が車両1の挙動に現れにくい場合がある。特に、自動運転が行なわれる場合には、運転者による運転操作が行なわれることなく、車両1の挙動が制御されるため、乗員としては車両1の挙動の変化を認識しにくいため、車両1の部品の劣化等の早期発見あるいは部品の劣化の予見を行なうことが容易ではない。なお、ブッシュとしては、たとえば、パワートレインシステム302、ブレーキシステム304およびステアリングシステム306に設けられるブッシュに加えて、車両1のサスペンションの可動部等の懸架装置に設けられるブッシュが含まれる。
【0075】
そこで、本実施の形態においては、運動マネージャ200の算出部206は、FB項の変化履歴を用いて車両1の部品の劣化を判定するものとする。
【0076】
車両1の部品が劣化すると偏差が大きい状態が継続し、FB制御において設定されるFB項(特に積分項)が増加するなどの変化が生じ得る。そのため、FB項の変化履歴を用いて車両1の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0077】
以下、運動マネージャ200の算出部206において実行される処理について図4を参照しつつ説明する。図4は、算出部206において実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、算出部206により、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0078】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、算出部206は、車両1の前後方向の加速度の要求値を取得する。算出部206は、たとえば、調停部204から調停後の車両1の前後方向の加速度の要求値を取得する。
【0079】
S102にて、算出部206は、車両1の前後方向の加速度の実測値を取得する。算出部206は、たとえば、アクチュエータシステム30のセンサ群308に含まれるGセンサの検出結果を用いて車両1の前後方向の加速度の実測値を取得する。センサ群308に含まれるGセンサの検出結果は、たとえば、受付部202を経由して算出部206に入力される。
【0080】
S104にて、算出部206は、駆動力の要求値のFF項を設定する。FF項の設定方法については上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0081】
S106にて、算出部206は、駆動力の要求値のFB項を設定する。FB項の設定方法については上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0082】
S108にて、算出部206は、FF項とFB項との和を駆動力の要求値として分配部208を経由してアクチュエータシステム30に出力する。
【0083】
S110にて、算出部206は、判定条件が成立するか否かを判定する。判定条件は、たとえば、自動運転が開始されてからの走行距離が予め定められた距離L以上であるという条件を含む。算出部206は、たとえば、ユーザの操作等によって自動運転が開始されるとオン状態に設定され、自動運転が終了するとオフ状態に設定されるフラグの状態がオフ状態からオン状態に変化したときに自動運転が開始されたと判定する。さらに、算出部206は、たとえば、自動運転中の車両1の速度の変化履歴を用いて走行距離を算出してもよいし、自動運転中の車両1の車輪速度の変化履歴とタイヤ径等を用いて走行距離を算出してもよいし、GPS等の位置検出装置を用いて走行距離を算出してもよい。判定条件が成立すると判定される場合(S110にてYES)、処理はS112に移される。なお、判定条件が成立しないと判定される場合(S110にてNO)、この処理は終了される。
【0084】
S112にて、算出部206は、FB項のうちの積分項についての自動運転開始時点からの変化量を取得する。算出部206は、積分項の今回値から自動運転開始時点における積分項の値を減算して自動運転開始時点からの積分項の変化量を取得する。なお、以下の説明における「積分項の変化量」は、自動運転開始時点からの積分項の変化量を示すものとする。
【0085】
S114にて、算出部206は、積分項の変化量に予め定められた増加傾向があるか否かを判定する。具体的には、算出部206は、たとえば、前回以前の自動運転中において予め定められた距離Lだけ走行したときの積分項の変化量を基準値として、基準値から予め定められた値以上増加している場合に積分項の変化量に予め定められた増加傾向があると判定する。
【0086】
なお、基準値としては、たとえば、予め定められた距離Lを走行した初回の自動運転中の積分項の変化量であってもよいし、初回以降の自動運転から前回以前の自動運転までにおける複数の予め定められた距離Lを走行したときの積分項の変化量の平均値であってもよいし、あるいは、複数の予め定められた距離Lを走行したときの積分項の変化量のうちの直近の予め定められた期間内の平均値であってもよい。
【0087】
積分項の変化量に予め定められた増加傾向があると判定される場合(S114にてYES)、処理はS116に移される。なお、積分項の変化量に予め定められた増加傾向がないと判定される場合(S114にてNO)、この処理は終了される。
【0088】
S116にて、算出部206は、部品の劣化を判定する。算出部206は、たとえば、ブッシュとして設けられる部品が劣化していることを示すフラグをオン状態に設定する。
【0089】
なお、運動マネージャ200は、当該フラグがオン状態である場合に、部品が劣化していることを示す情報をユーザに報知してもよい。運動マネージャ200は、たとえば、表示装置等に部品が劣化していることを示す文字情報や画像を表示してもよいし、あるいは、音声等により報知してもよい。あるいは、運動マネージャ200は、当該フラグがオン状態である場合に、セントラルECU40および通信モジュールを経由して図示しない車両1の外部の機器(たとえば、サーバ)に対して部品が劣化していることを示す情報を送信してもよい。
【0090】
以上のような構造およびフローチャートに基づく車両1の動作の一例について図5を参照しつつ説明する。図5は、積分項の変化量の変化履歴の一例を示す図である。図5の縦軸は、FB項のうちの積分項の変化量を示す。図5の横軸は、車両1の走行距離を示す。図5のLN1は、部品が劣化する前の積分項の変化量の変化履歴を示す。図5のLN2は、部品が劣化した後の積分項の変化量の変化履歴を示す。また、図5のLN2における予め定められた距離Lに対応する積分項の変化量a(0)が基準値に設定されているものとする。
【0091】
たとえば、自動運転中においては、車両1の前後方向の加速度の要求値が取得され(S100)、車両1の前後方向の加速度の実測値が取得されると(S102)、取得された要求値を用いてFF項が設定される(S104)。そして、取得された要求値と実測値との偏差を用いてFB項が設定され(S106)、FF項とFB項との和が駆動力の要求値として出力される(S108)。
【0092】
このとき、FB項の積分項の変化量は、図5のLN1およびLN2に示すように、自動運転開始時点から増加していく。そして、部品が劣化した後の積分項の変化量は、部品が劣化する前の積分項の変化量よりも大きく増加するように変化する。
【0093】
そのため、自動運転開始時点からの積分項の変化量が図5のLN2に従って変化する場合には、自動運転開始時点からの走行距離が予め定められた距離L以上になることによって判定条件が成立したときに(S110にてYES)、積分項の変化量a(1)が取得される。取得された積分項の変化量a(1)から基準値a(0)を減算した値がしきい値よりも大きい場合には、変化量に増加傾向があると判定され(S114)、部品が劣化していると判定される(S116)。
【0094】
なお、取得された積分項の変化量から基準値a(0)を減算した値がしきい値以下である場合には、変化量に増加傾向がないと判定されるため(S114にてNO)、部品が劣化していると判定されることなく車両1の運転が継続される。
【0095】
以上のように、本実施の形態に係る車両制御装置である運動マネージャ200によると、車両1のブッシュ等の部品が劣化するとFB制御において設定されるFB項が増加するなどの変化が生じ得る。そのため、FB項の変化履歴を用いて車両1の部品の劣化を精度高く判定することができる。特に、自動運転時のように劣化による車両1の挙動の変化を認識しにくい運転状況においても車両1の部品の劣化の早期発見や劣化の予見を実現できる。その結果、車両の信頼性や安全性を向上させることができる。したがって、車両の部品の劣化等の異常を精度よく検出可能な車両制御装置、車両制御方法およびプログラムを提供することができる。
【0096】
さらに、たとえば、車両1の部品の劣化が生じて加速度の要求値と加速度の実測値との偏差が大きい状態が継続するとFB項の積分項が劣化が生じる前よりも増加する傾向がある。そのため、積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両1の部品が劣化していると判定することにより、車両1の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0097】
以下、変形例について記載する。
上述の実施の形態では、運動マネージャ200は、受付部202と、調停部204と、算出部206と、分配部208とを含む構成を一例として説明したが、運動マネージャ200は、たとえば、少なくともアプリケーションから行動計画を受け付ける第1運動マネージャと、第1運動マネージャと通信可能であって、アクチュエータシステム30に運動を要求する第2運動マネージャとを含む構成を有していてもよい。なお、この場合、調停部204の機能と、算出部206の機能と、分配部208の機能については、第1運動マネージャと第2運動マネージャとのうちのいずれかに実装されればよい。
【0098】
さらに上述の実施の形態では、判定条件としては、自動運転を開始してから予め定められた距離Lを走行したという条件を含む場合を一例として説明したが、運転支援システム100に設定される複数のアプリケーションのうちの少なくともいずれかの実行により駆動力等の要求値をFB制御によって設定する制御を開始してから予め定められた距離Lを走行したという条件を含むようにしてもよい。
【0099】
さらに上述の実施の形態では、FB制御としては、PID制御を含むものとして説明したが、たとえば、PID制御に代えてPI制御を含むものであってもよい。
【0100】
さらに上述の実施の形態では、積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両1の部品が劣化していると判定するものとして説明したが、たとえば、積分項に代えて比例項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両1の部品が劣化していると判定してもよい。
【0101】
さらに上述の実施の形態では、積分項の変化履歴が予め定められた増加傾向を示す変化履歴である場合に、車両1の部品が劣化していると判定するものとして説明したが、たとえば、偏差の変化履歴を用いて車両の部品の劣化を判定してもよい。
【0102】
算出部206は、たとえば、偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、車両1の部品が劣化していると判定してもよい。
【0103】
算出部206は、たとえば、FB制御部206bに入力される偏差の大きさが第1の値よりも大きい状態から偏差の大きさがしきい値以下の状態になるまでの収束時間を計測する。算出部206は、計測された収束時間から基準時間を減算した値が予め定められた値よりも大きいときに偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が増加傾向を示すと判定する。なお、基準時間は、部品が劣化する前に計測された収束時間であって、実験等によって計測されてもよいし、あるいは、算出部206によって計測されるようにしてもよい。
【0104】
以下、この変形例における運動マネージャ200の算出部206において実行される処理について図6を参照しつつ説明する。図6は、変形例における算出部206において実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、算出部206により、所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0105】
なお、図6のフローチャートのS100,S102,S104,S106,S108およびS116の処理は、図4のフローチャートのS100,S102,S104,S106,S108およびS116の処理と同じ処理である。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0106】
S108にて駆動力の要求値が出力された後に、処理はS210に移される。S210にて、算出部206は、判定条件が成立するか否かを判定する。判定条件は、直近の予め定められた期間内において偏差の大きさが第1の値よりも大きい状態からしきい値以下の状態になるまでの期間があるという条件を含む。第1の値は、たとえば、予め定められた値であって、実験等によって適合される。判定条件が成立すると判定される場合(S210にてYES)、処理はS212に移される。判定条件が成立しない場合(S210にてNO)、この処理は終了される。
【0107】
S212にて、算出部206は、偏差の大きさがしきい値以下になるまでの収束時間を取得する。
【0108】
S214にて、算出部206は、収束時間に増加傾向があるか否かを判定する。判定方法については、上述したとおりであるため、その詳細な説明は繰り返さない。収束時間に増加傾向があると判定される場合(S214にてYES)、処理はS116に移される。なお、収束時間に増加傾向がないと判定される場合(S214にてNO)、この処理は終了される。
【0109】
車両1の部品の劣化が生じると加速度の要求値と加速度の実測値との偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が劣化が生じる前よりも増加する傾向がある。そのため、偏差の大きさがしきい値以下になるまでの時間が予め定められた増加傾向を示す場合に、車両1の部品が劣化していると判定することにより、車両1の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0110】
さらに上述の実施の形態では、車両1の前後方向の加速度の要求値と、車両1の前後方向の加速度の実測値とを用いて駆動力等を制御する場合を一例として説明したが、たとえば、車両1のヨー方向の角速度の要求値と、車両1のヨー方向の角速度の実測値とを用いて駆動力等を制御する場合に、上述のように車両1の部品の劣化を判定するようにしてもよいし、あるいは、車両1の左右方向の加速度の要求値と、車両1の左右方向の加速度の実測値とを用いて駆動力等を制御する場合に、上述のように車両1の部品の劣化を判定するようにしてもよい。このようにすると、要求値と実測値との偏差や偏差を用いて設定される駆動力等の要求値のFB項の変化履歴を用いて車両1の部品の劣化を精度高く判定することができる。
【0111】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を適宜組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0112】
1 車両、10 ADAS-ECU、20 ブレーキECU、30 アクチュエータシステム、40 セントラルECU、42 メモリ、100 運転支援システム、120 ADK、122 ADS、150 システム群、200 運動マネージャ、202 受付部、204 調停部、206 算出部、206a FF制御部、206b FB制御部、206c,206d 加え合わせ点、208 分配部、302 パワートレインシステム、304 ブレーキシステム、306 ステアリングシステム、308 センサ群。
図1
図2
図3
図4
図5
図6