(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/183 20060101AFI20240717BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240717BHJP
H01L 33/46 20100101ALI20240717BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240717BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20240717BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/343
H01L33/46
H01L33/32
H01L33/30
(21)【出願番号】P 2021504890
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007033
(87)【国際公開番号】W WO2020184148
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019044724
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅之
(72)【発明者】
【氏名】濱口 達史
(72)【発明者】
【氏名】幸田 倫太郎
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116596(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/103835(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0280320(US,A1)
【文献】国際公開第2019/017044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体、
第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、並びに、
第2化合物半導体層の第2面上に形成された第2電極及び第2光反射層、
を備えており、
第1化合物半導体層の第1面側には突出部が形成されており、
少なくとも突出部の上には平滑化層が形成されており、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
突出部の頂部における平滑化層の平均厚さは、突出部の縁部における平滑化層の平均厚さよりも薄く、
少なくとも平滑化層の一部の上には、第1光反射層が形成されており、
第2光反射層は、平坦な形状を有し、
平滑化層と第1光反射層との界面における平滑化層の表面粗さRa
1の値は、突出部と平滑化層との界面における突出部の表面粗さRa
2の値よりも小さく、
表面粗さRa
1の値は1.0nm以下であり、
第2化合物半導体層には、電流注入領域及び電流注入領域を取り囲む電流非注入領域が設けられており、
電流注入領域の面積重心点から、電流注入領域と電流非注入領域の境界までの最短距離D
CIは、以下の式を満足する発光素子。
D
CI≧ω0/2
但し、
ω0
2≡(λ
0/π){L
OR(R
DBR-L
OR)}
1/2
R
DBR>L
OR
ここで、
λ
0 :発光素子から主に出射される光の波長
L
OR :共振器長
R
DBR:第1光反射層の内面の曲率半径
である。
【請求項2】
平滑化層の曲率半径は、1×10
-5m乃至1×10
-3mである請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
平滑化層を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成し、次いで、
第2化合物半導体層の第2面上に第2電極及び第2光反射層を形成し、その後、
第1化合物半導体層の第1面側に突出部を形成し、次いで、
少なくとも突出部の上に平滑化層を形成した後、平滑化層の表面を平滑化し、その後、
少なくとも平滑化層の一部の上に第1光反射層を形成し、第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極を形成する、
各工程から成り、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
突出部の頂部における平滑化層の平均厚さを、突出部の縁部における平滑化層の平均厚さよりも薄くし、
第2光反射層は、平坦な形状を有し、
平滑化層と第1光反射層との界面における平滑化層の表面粗さRa
1の値は、突出部と平滑化層との界面における突出部の表面粗さRa
2の値よりも小さく、
表面粗さRa
1の値は1.0nm以下であり、
第2化合物半導体層には、電流注入領域及び電流注入領域を取り囲む電流非注入領域が設けられており、
電流注入領域の面積重心点から、電流注入領域と電流非注入領域の境界までの最短距離D
CIは、以下の式を満足する発光素子の製造方法。
D
CI≧ω0/2
但し、
ω0
2≡(λ
0/π){L
OR(R
DBR-L
OR)}
1/2
R
DBR>L
OR
ここで、
λ
0 :発光素子から主に出射される光の波長
L
OR :共振器長
R
DBR:第1光反射層の内面の曲率半径
である。
【請求項5】
平滑化層表面の平滑化処理は、湿式エッチング法に基づく請求項
4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項6】
平滑化層表面の平滑化処理は、乾式エッチング法に基づく請求項
4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項7】
突出部の頂部における平滑化層の平均厚さは、突出部の縁部における平滑化層の平均厚さよりも薄い請求項
4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
平滑化層の曲率半径は、1×10
-5m乃至1×10
-3mである請求項
4に記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
平滑化層を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である請求項
4に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光素子及びその製造方法に関し、より詳細には、面発光レーザ素子(VCSEL)から成る発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
面発光レーザ素子(VCSEL)から成る発光素子においては、一般に、2つの光反射層(Distributed Bragg Reflector 層、DBR層)の間でレーザ光を共振させることによってレーザ発振が生じる。そして、n型化合物半導体層、化合物半導体から成る活性層(発光層)及びp型化合物半導体層が積層された積層構造体を有する面発光レーザ素子においては、一般に、p型化合物半導体層上に透明導電性材料から成る第2電極を形成し、第2電極の上に絶縁材料等の積層構造から成る第2光反射層を形成する。また、n型化合物半導体層側に絶縁材料等の積層構造から成る第1光反射層を形成する。尚、便宜上、2つの光反射層によって形成される共振器の中心を通る軸線をZ軸とし、Z軸と直交する仮想平面をXY平面と呼ぶ。
【0003】
ところで、積層構造体をGaAs系化合物半導体から構成する場合、共振器長LORは1μm程度である。一方、積層構造体をGaN系化合物半導体から構成する場合、共振器長LORは、通常、面発光レーザ素子から出射されるレーザ光の波長の数倍以上長い。即ち、共振器長LORは1μmよりもかなり長い。
【0004】
そして、このように共振器長LORが長くなると、回折損失が増加するためにレーザ発振が難しくなる。つまり、面発光レーザ素子として機能するのではなく、LEDとして機能することになってしまう虞がある。ここで、「回折損失」とは、一般に、光は回折効果に起因して広がろうとするため、共振器を往復するレーザ光が、次第に、共振器外へと散逸してしまう現象を指す。このような問題を解決するために、光反射層に凹面鏡としての機能を付与する技術として、例えば、特開2006-114753号公報や特開2000-022277号公報、国際公開WO2018/083877A1号公報がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-114753号公報
【文献】特開2000-022277号公報
【文献】国際公開WO2018/083877A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、凹面鏡として機能する第1光反射層を設けるためには、下地に凹面部を形成する必要がある。然るに、下地に凹面部を形成すると、屡々、凹面部に凹凸が生成する。そして、その結果、下地上に形成された第1光反射層にも凹凸が発生し、光が散乱し、発光素子の閾値の低下を図ることができないし、発光効率の低下を招くといった問題が生じる。従って、第1光反射層を形成するための下地の表面が平滑であることは極めて重要である。しかしながら、上記の特許公開公報には、凹面鏡として機能する第1光反射層を形成するための下地の表面の平滑化に関して、何ら言及されていない。
【0007】
従って、本開示の目的は、平滑な第1光反射層を形成し得る構成、構造の発光素子、及び、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本開示の発光素子は、
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体、
第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、並びに、
第2化合物半導体層の第2面上に形成された第2電極及び第2光反射層、
を備えており、
第1化合物半導体層の第1面側には突出部が形成されており、
少なくとも突出部の上には平滑化層が形成されており、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
少なくとも平滑化層の一部の上には、第1光反射層が形成されており、
第2光反射層は、平坦な形状を有する。
【0009】
上記の目的を達成するための本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法は、
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成し、次いで、
第2化合物半導体層の第2面上に第2電極及び第2光反射層を形成し、その後、
第1化合物半導体層の第1面側に突出部を形成し、次いで、
少なくとも突出部の上に平滑化層を形成した後、平滑化層の表面を平滑化し、その後、
少なくとも平滑化層の一部の上に第1光反射層を形成し、第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極を形成する、
各工程から成り、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
第2光反射層は、平坦な形状を有する。
【0010】
上記の目的を達成するための本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法は、
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成し、次いで、
第2化合物半導体層の第2面上に第2電極及び第2光反射層を形成し、その後、
第1化合物半導体層の第1面側に突出部を形成した後、突出部の表面を平滑化し、次いで、
少なくとも突出部の一部の上に第1光反射層を形成し、第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極を形成する、
各工程から成り、
突出部は、凹面鏡部を構成し、
第2光反射層は、平坦な形状を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図2】
図2は、実施例1の発光素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【
図3】
図3は、
図2に引き続き、実施例1の発光素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【
図4】
図4は、
図3に引き続き、実施例1の発光素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【
図5】
図5は、
図4に引き続き、実施例1の発光素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【
図6】
図6は、
図5に引き続き、実施例1の発光素子の製造方法を説明するための基板等の模式的な一部端面図である。
【
図7】
図7は、実施例2の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図8】
図8は、実施例3の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図9】
図9は、実施例3の発光素子の変形例の模式的な一部端面図である。
【
図11】
図11は、実施例6の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図12】
図12A及び
図12Bは、実施例6の発光素子の製造方法を説明するための積層構造体等の模式的な一部端面図である。
【
図13】
図13の(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、従来の発光素子、実施例6の発光素子及び実施例9の発光素子における光場強度を示す概念図である。
【
図14】
図14は、実施例7の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図15】
図15は、実施例8の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図16】
図16は、実施例9の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図17】
図17は、
図16に示した実施例9の発光素子の要部を切り出した模式的な一部端面図である。
【
図18】
図18は、実施例10の発光素子の模式的な一部端面図である。
【
図19】
図19は、実施例10の発光素子の模式的な一部端面図と、縦モードAと縦モードBの2つの縦モードを重ね合わせた図である。
【
図20】
図20は、実施例1の発光素子の変形例の模式的な一部端面図である。
【
図21】
図21は、実施例2の発光素子の変形例の模式的な一部端面図である。
【
図22】
図22は、本開示の発光素子において、同一の曲率半径を有する2つの凹面鏡部で挟まれたファブリペロー型共振器を想定したときの概念図である。
【
図23】
図23は、ω
0の値と共振器長L
ORの値と第1光反射層の内面の曲率半径R
DBRの値の関係を示すグラフである。
【
図24】
図24は、ω
0の値と共振器長L
ORの値と第1光反射層の内面の曲率半径R
DBRの値の関係を示すグラフである。
【
図25】
図25A及び
図25Bは、それぞれ、ω
0の値が「正」であるときのレーザ光の集光状態を模式的に示す図、及び、ω
0の値が「負」であるときのレーザ光の集光状態を模式的に示す図である。
【
図26】
図26A及び
図26Bは、活性層によって決まるゲインスペクトル内に存在する縦モードを模式的に示す概念図である。
【
図27】
図27は、窒化物半導体結晶における極性面、非極性面及び半極性面を説明するための六方晶系窒化物半導体の結晶構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本開示を説明するが、本開示は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。尚、説明は、以下の順序で行う。
1.本開示の発光素子、並びに、本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子の製造方法、全般に関する説明
2.実施例1(本開示の発光素子、及び、本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法)
3.実施例2(実施例1の変形)
4.実施例3(実施例1の別の変形)
5.実施例4(本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法)
6.実施例5(実施例1~実施例4の変形、第1構成の発光素子)
7.実施例6(実施例1~実施例5の変形、第2-A構成の発光素子)
8.実施例7(実施例6の変形、第2-B構成の発光素子)
9.実施例8(実施例6~実施例7の変形、第2-C構成の発光素子)
10.実施例9(実施例6~実施例8の変形、第2-D構成の発光素子)
11.実施例10(実施例1~実施例9の変形、第3構成の発光素子)
12.実施例11(実施例10の変形)
13.実施例12(実施例10の別の変形)
14.その他
【0013】
〈本開示の発光素子、並びに、本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子の製造方法、全般に関する説明〉
本開示の発光素子及び本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法において、「平滑化層の表面」とは、平滑化層と第1光反射層との界面を構成する平滑化層の面を指す。また、本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法において、「突出部の表面」とは、突出部と第1光反射層との界面を構成する突出部の面を指す。
【0014】
本開示の発光素子、及び、本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法によって得られた発光素子(以下、これらの発光素子を総称して、単に、『本開示の第1の態様に係る発光素子等』と呼ぶ場合がある)において、平滑化層と第1光反射層との界面における平滑化層の表面粗さRa1の値は、突出部と平滑化層との界面における突出部の表面粗さRa2の値よりも小さいことが好ましい。そして、この場合、表面粗さRa1の値は1.0nm以下であることが望ましい。また、本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法によって得られた発光素子(以下、この発光素子を、『本開示の第2の態様に係る発光素子等』と呼ぶ場合がある)において、突出部と第1光反射層との界面における突出部の表面粗さRa2の値は1.0nm以下であることが望ましい。尚、表面粗さRaは、JIS B-610:2001に規定されている。表面粗さRaは、具体的には、AFMや断面TEMに基づく観察により測定することができる。
【0015】
上記の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る発光素子等において、突出部の頂部における平滑化層の平均厚さTCは、突出部の縁部における平滑化層TPの平均厚さよりも薄い形態とすることができる。TP/TCの値として、限定するものではないが、
0.01≦TP/TC≦0.5
を例示することができる。また、TCの値として、1×10-8m乃至2×10-6mを例示することができる。
【0016】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る発光素子等において、平滑化層の曲率半径は1×10-5m乃至1×10-3mである形態とすることができる。また、本開示の第2の態様に係る発光素子等において、突出部の曲率半径は1×10-5m乃至1×10-3mである形態とすることができる。
【0017】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る発光素子等において、平滑化層を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である形態とすることができる。
【0018】
更には、以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法において、平滑化層表面の平滑化処理は湿式エッチング法に基づく形態とすることができるし、あるいは又、平滑化層表面の平滑化処理は乾式エッチング法に基づく形態とすることができる。また、本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法において、突出部表面の平滑化処理は湿式エッチング法に基づく形態とすることができるし、あるいは又、突出部表面の平滑化処理は乾式エッチング法に基づく形態とすることができる。
【0019】
本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子の製造方法において、平滑化層表面の平滑化処理を湿式エッチング法によって行う場合、湿式エッチング法として機械的化学的研磨法(CMP法)や浸漬法を挙げることができる。そして、この場合、平滑化層あるいは突出部を構成する材料にも依るが、研磨液やエッチング液として、コロイダルシリカ、炭酸水素ナトリウム、TMAH(テトラメチルアンモニウム・ヒドロキシド)、フッ化水素水、純水、精製水(脱イオン水)を挙げることができる。平滑化層表面の平滑化処理を乾式エッチング法によって行う場合、乾式エッチング法としてRIE法(反応性イオンエッチング法)を挙げることができる。具体的には、平滑化層が例えばTa2O5から構成されている場合、コロイダルシリカを用いた研磨法を採用することができるし、HFを用いた浸漬法を採用することができるし、フッ素系ガスを用いたRIE法を採用することができる。
【0020】
本開示の第1の態様に係る発光素子等にあっては、平滑化層を構成する誘電体材料として、Ta2O5、Nb2O5、SiN、AlN、SiO2、Al2O3、HfO2、TiO2、Bi2O3を挙げることができる。スピン・オン・グラス系材料として、シリケート系材料、シロキサン系材料、メチルシロキサン系材料、シラザン系材料を挙げることができる。低融点ガラス材料として、ビスマス(Bi)の酸化物を含むガラス材料、バリウム(Ba)の酸化物を含むガラス材料、スズ(Sn)の酸化物を含むガラス材料、リン(P)の酸化物を含むガラス材料、鉛(Pb)の酸化物を含むガラス材料を挙げることができる。半導体材料として、GaN、GaAs、InPを挙げることができる。尚、平滑化層及び突出部を半導体材料から構成する場合、平滑化層と突出部との間の格子整合は要求されないので、平滑化層を構成する半導体材料に含まれる不純物の種類やドープ量、結晶方位が突出部と異なっていてもよく、また、エピタキシャル成長法だけでなく、スパッタリング法等のPVD法に基づき形成することができる。平滑化層を構成する樹脂として、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、ベンゾシクロブテン(BCB)樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック系樹脂を挙げることができる。平滑化層は、これらの材料から成る層が積層された構造とすることもできる。
【0021】
本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等にあっては、第1化合物半導体層の第1面側に突出部が形成されているが、突出部は、基板に形成されていてもよいし、第1化合物半導体層に形成されていてもよい。あるいは又、基板あるいは第1化合物半導体層の露出面に、基板あるいは第1化合物半導体層とは別の材料に基づき形成された突出部から構成されていてもよく、この場合、突出部を構成する材料として、TiO2、Ta2O5、SiO2等の透明な誘電体材料、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等を挙げることができ、突出部は、基板の第1面(後述する)あるいは第1化合物半導体層の露出面に形成される。
【0022】
以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等によって、第1光反射層を介してレーザ光を出射する面発光レーザ素子(垂直共振器レーザ、VCSEL)を構成することができるし、あるいは又、第2光反射層を介してレーザ光を出射する面発光レーザ素子を構成することもできる。
【0023】
以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等において、積層構造体の積層方向を含む仮想平面(Z軸を含む仮想平面)で第1光反射層を切断したときの平滑化層あるいは突出部と接する第1光反射層の面(以下、便宜上、『第1光反射層の内面』と呼ぶ)が描く図形は、円の一部又は放物線の一部である形態とすることができる。図形は、厳密には円の一部ではない場合もあるし、厳密には放物線の一部ではない場合もある。即ち、概ね円の一部である場合、概ね放物線の一部である場合も、「図形は、円の一部又は放物線の一部である」ことに包含される。このような円の一部又は放物線の一部である第1光反射層の部分(領域)を、『第1光反射層の有効領域』と呼ぶ場合がある。第1光反射層の内面が描く図形は、界面(平滑化層と第1光反射層との界面あるいは突出部と第1光反射層との界面)の形状を計測器で計測し、得られたデータを最小自乗法に基づき解析することで求めることができる。
【0024】
本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等において、積層構造体は、具体的には、GaN系化合物半導体から成る構成とすることができる。GaN系化合物半導体として、より具体的には、GaN、AlGaN、InGaN、AlInGaNを挙げることができる。更には、これらの化合物半導体に、所望に応じて、ホウ素(B)原子やタリウム(Tl)原子、ヒ素(As)原子、リン(P)原子、アンチモン(Sb)原子が含まれていてもよい。活性層は、量子井戸構造を有することが望ましい。具体的には、単一量子井戸構造(SQW構造)を有していてもよいし、多重量子井戸構造(MQW構造)を有していてもよい。量子井戸構造を有する活性層は、井戸層及び障壁層が、少なくとも1層、積層された構造を有するが、(井戸層を構成する化合物半導体,障壁層を構成する化合物半導体)の組合せとして、(InyGa(1-y)N,GaN)、(InyGa(1-y)N,InzGa(1-z)N)[但し、y>z]、(InyGa(1-y)N,AlGaN)を例示することができる。
【0025】
あるいは又、本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等において、積層構造体は、具体的には、GaAs系化合物半導体から成る構成とすることもできるし、InP系化合物半導体から成る構成とすることもできる。
【0026】
第1化合物半導体層を第1導電型(例えば、n型)の化合物半導体から構成し、第2化合物半導体層を第1導電型とは異なる第2導電型(例えば、p型)の化合物半導体から構成することができる。第1化合物半導体層、第2化合物半導体層は、第1クラッド層、第2クラッド層とも呼ばれる。第2電極と第2化合物半導体層との間には、電流狭窄構造が形成されていることが好ましい。第1化合物半導体層、第2化合物半導体層は、単一構造の層であってもよいし、多層構造の層であってもよいし、超格子構造の層であってもよい。更には、組成傾斜層、濃度傾斜層を備えた層とすることもできる。
【0027】
また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等において、活性層と第1光反射層との間に位置する各種の化合物半導体層を構成する材料にあっては、10%以上の屈折率の変調が無いこと(積層構造体の平均屈折率を基準として、10%以上の屈折率差が無いこと)が好ましく、これによって、共振器内の光場の乱れ発生を抑制することができる。
【0028】
電流狭窄構造を得るためには、第2電極と第2化合物半導体層との間に絶縁材料(例えば、SiOXやSiNX、AlOX)から成る電流狭窄層を形成してもよいし、あるいは又、第2化合物半導体層をRIE法等によりエッチングしてメサ構造を形成してもよいし、あるいは又、積層された第2化合物半導体層の一部の層を横方向から部分的に酸化して電流狭窄領域を形成してもよいし、第2化合物半導体層に不純物をイオン注入して導電性が低下した領域を形成してもよいし、あるいは、これらを、適宜、組み合わせてもよい。但し、第2電極は、電流狭窄により電流が流れる第2化合物半導体層の部分と電気的に接続されている必要がある。
【0029】
基板に突出部が形成されている形態において、積層構造体は、基板の第2面上に形成される。ここで、基板の第2面は化合物半導体層の第1面と対向している。そして、基板の第2面と対向する基板の第1面に突出部が形成される。基板として、導電性基板、半導体基板、絶縁性基板、具体的には、GaN基板、サファイア基板、GaAs基板、SiC基板、アルミナ基板、ZnS基板、ZnO基板、AlN基板、LiMgO基板、LiGaO2基板、MgAl2O4基板、InP基板、Si基板、これらの基板の表面(主面)に下地層やバッファ層が形成されたものを挙げることができる。積層構造体をGaN系化合物半導体から構成する場合、基板としてGaN基板を使用することが、GaN基板は結晶欠陥密度の少ないことから好ましい。GaN基板は、成長面によって極性/無極性/半極性と特性が変わることが知られているが、GaN基板のいずれの主面(第2面)も化合物半導体層の形成に使用することができる。また、GaN基板の主面に関して、結晶構造(例えば、立方晶型や六方晶型等)によっては、所謂A面、B面、C面、R面、M面、N面、S面等の名称で呼ばれる結晶方位面、あるいは、これらを特定方向にオフさせた面等を用いることもできる。あるいは又、基板を、主面として半極性面である{20-21}面を有するGaN基板(c面をm軸方向に約75度傾けた面を主面とするGaN基板)から成る構成とすることもできる。
【0030】
発光素子を構成する各種の化合物半導体層の形成方法として、例えば、有機金属化学的気相成長法(MOCVD法,Metal Organic-Chemical Vapor Deposition 法、MOVPE法,Metal Organic-Vapor Phase Epitaxy 法)や分子線エピタキシー法(MBE法)、ハロゲンが輸送あるいは反応に寄与するハイドライド気相成長法(HVPE法)、原子層堆積法(ALD法, Atomic Layer Deposition 法)、マイグレーション・エンハンスト・エピタキシー法(MEE法, Migration-Enhanced Epitaxy 法)、プラズマアシステッド物理的気相成長法(PPD法)等を挙げることができるが、これらに限定するものではない。ここで、積層構造体をGaN系化合物半導体から構成する場合、MOCVD法における有機ガリウム源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)ガスやトリエチルガリウム(TEG)ガスを挙げることができるし、窒素源ガスとして、アンモニアガスやヒドラジンガスを挙げることができる。n型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、n型不純物(n型ドーパント)としてケイ素(Si)を添加すればよいし、p型の導電型を有するGaN系化合物半導体層の形成においては、例えば、p型不純物(p型ドーパント)としてマグネシウム(Mg)を添加すればよい。GaN系化合物半導体層の構成原子としてアルミニウム(Al)あるいはインジウム(In)が含まれる場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いればよいし、In源としてトリメチルインジウム(TMI)ガスを用いればよい。更には、Si源としてモノシランガス(SiH4ガス)を用いればよいし、Mg源としてビスシクロペンタジエニルマグネシウムガスやメチルシクロペンタジエニルマグネシウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いればよい。尚、n型不純物(n型ドーパント)として、Si以外に、Ge、Se、Sn、C、Te、S、O、Pd、Poを挙げることができるし、p型不純物(p型ドーパント)として、Mg以外に、Zn、Cd、Be、Ca、Ba、C、Hg、Srを挙げることができる。
【0031】
水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液、アンモニア溶液+過酸化水素水、硫酸溶液+過酸化水素水、塩酸溶液+過酸化水素水、リン酸溶液+過酸化水素水等を用いたウェットエッチング法や、ケミカル・メカニカル・ポリッシング法(CMP法)、機械研磨法、ドライエッチング法、レーザを用いたリフトオフ法等によって、あるいは、これらの組合せによって、基板の厚さを薄くしてもよいし、基板を除去して第1化合物半導体層の第1面を露出させてもよい。
【0032】
上述したとおり、積層構造体は、GaN基板の極性面に形成されている構成とすることができる。あるいは又、積層構造体は、GaN基板の半極性面又は無極性面(非極性面)から成る主面上に形成されている構成とすることができ、この場合、主面の面方位とc軸との成す角度は、45度以上、80度以下である構成とすることができ、更には、GaN基板の主面は{20-21}面から成る構成とすることができる。六方晶系における例えば以下に例示する結晶面の表記、
を、便宜上、本明細書においては、{hk-il}面、{h-kil}面と表記する。
【0033】
窒化物半導体結晶における極性面、非極性面及び半極性面について、以下、
図27の(a)~(e)を参照して説明する。
図27の(a)は、六方晶系窒化物半導体の結晶構造を示す模式図である。
図27の(b)は、非極性面であるm面、{1-100}面を示す模式図であり、灰色の平面で示すm面は、m軸方向に垂直な面である。
図27の(c)は、非極性面であるa面、{11-20}面を示す模式図であり、灰色の平面で示すa面は、a軸方向に垂直な面である。
図27の(d)は、半極性面である{20-21}面を示す模式図である。灰色の平面で示す{20-21}面に垂直な[20-21]方向は、c軸からm軸方向に75度、傾斜している。
図27の(e)は、半極性面である{11-22}面を示す模式図である。灰色の平面で示す{11-22}面に垂直な[11-22]方向は、c軸からa軸方向に59度、傾斜している。各種結晶面の面方位とc軸との成す角度を、以下の表1に示す。{11-21}面や{11-22}面、{11-24}面といった{11-2n}面で表される面、{1-101}面、{1-102}面、{1-103}面は半極性面である。
【0034】
【0035】
第2光反射層を支持基板によって支持し、第1光反射層を介してレーザ光を出射する面発光レーザ素子を構成することもできる。支持基板は、例えば、上記の基板として例示した各種の基板から構成すればよいし、あるいは又、AlN等から成る絶縁性基板、Si、SiC、Ge等から成る半導体基板、金属製基板や合金製基板から構成することもできるが、導電性を有する基板を用いることが好ましく、あるいは又、機械的特性、弾性変形、塑性変形性、放熱性等の観点から金属製基板や合金製基板を用いることが好ましい。支持基板の厚さとして、例えば、0.05mm乃至1mmを例示することができる。第2光反射層の支持基板への固定方法として、半田接合法、常温接合法、粘着テープを用いた接合法、ワックス接合を用いた接合法、接着剤を用いた方法等、既知の方法を用いることができるが、導電性の確保という観点からは半田接合法あるいは常温接合法を採用することが望ましい。例えば導電性基板であるシリコン半導体基板を支持基板として使用する場合、熱膨張係数の違いによる反りを抑制するために、400゜C以下の低温で接合可能な方法を採用することが望ましい。支持基板としてGaN基板を使用する場合、接合温度が400゜C以上であってもよい。
【0036】
第1化合物半導体層は第1電極に電気的に接続されている。即ち、第1電極は、基板を介して第1化合物半導体層と電気的に接続されており、あるいは又、第1電極は第1化合物半導体層上に形成されている。また、第2化合物半導体層は第2電極に電気的に接続されており、第2光反射層は第2電極上に形成されている。第1電極は金属又は合金から成る形態とすることができるし、第2電極は透明導電性材料から成る形態とすることができる。第2電極を透明導電性材料から構成することで、電流を横方向(第2化合物半導体層の面内方向)に広げることができ、効率良く、素子領域に電流を供給することができる。第2電極は第2化合物半導体層の第2面上に形成されている。ここで、「素子領域」とは、狭窄された電流が注入される領域、あるいは又、屈折率差等により光が閉じ込められる領域、あるいは又、第1光反射層と第2光反射層で挟まれた領域の内、レーザ発振が生じる領域、あるいは又、第1光反射層と第2光反射層で挟まれた領域の内、実際にレーザ発振に寄与する領域を指す。
【0037】
第1電極は、基板の第2面と対向する基板の第1面上に形成すればよい。第1電極は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、Ti(チタン)、バナジウム(V)、タングステン(W)、クロム(Cr)、Al(アルミニウム)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、錫(Sn)及びインジウム(In)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属(合金を含む)を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましく、具体的には、例えば、Ti/Au、Ti/Al、Ti/Al/Au、Ti/Pt/Au、Ni/Au、Ni/Au/Pt、Ni/Pt、Pd/Pt、Ag/Pdを例示することができる。尚、多層構成における「/」の前の層ほど、より活性層側に位置する。以下の説明においても同様である。第1電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD法にて成膜することができる。
【0038】
第2電極は透明導電性材料から成る構成とすることができる。第2電極を構成する透明導電性材料として、インジウム系透明導電性材料[具体的には、例えば、インジウム-錫酸化物(ITO,Indium Tin Oxide,SnドープのIn2O3、結晶性ITO及びアモルファスITOを含む)、インジウム-亜鉛酸化物(IZO,Indium Zinc Oxide)、インジウム-ガリウム酸化物(IGO)、インジウム・ドープのガリウム-亜鉛酸化物(IGZO,In-GaZnO4)、IFO(FドープのIn2O3)、ITiO(TiドープのIn2O3)、InSn、InSnZnO]、錫系透明導電性材料[具体的には、例えば、酸化錫(SnO2)、ATO(SbドープのSnO2)、FTO(FドープのSnO2)]、亜鉛系透明導電性材料[具体的には、例えば、酸化亜鉛(ZnO、AlドープのZnO(AZO)やBドープのZnOを含む)、ガリウム・ドープの酸化亜鉛(GZO)、AlMgZnO(酸化アルミニウム及び酸化マグネシウム・ドープの酸化亜鉛)]、NiOを例示することができる。あるいは又、第2電極として、ガリウム酸化物、チタン酸化物、ニオブ酸化物、アンチモン酸化物、ニッケル酸化物等を母層とする透明導電膜を挙げることができるし、スピネル型酸化物、YbFe2O4構造を有する酸化物といった透明導電性材料を挙げることもできる。但し、第2電極を構成する材料として、第2光反射層と第2電極との配置状態に依存するが、透明導電性材料に限定するものではなく、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)等の金属を用いることもできる。第2電極は、これらの材料の少なくとも1種類から構成すればよい。第2電極は、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等のPVD法にて成膜することができる。あるいは又、透明電極層として低抵抗な半導体層を用いることもでき、この場合、具体的には、n型のGaN系化合物半導体層を用いることもできる。更には、n型GaN系化合物半導体層と隣接する層がp型である場合、両者をトンネルジャンクションを介して接合することで、界面の電気抵抗を下げることもできる。第2電極を透明導電性材料から構成することで、電流を横方向(第2化合物半導体層の面内方向)に広げることができ、効率良く、電流注入領域(後述する)に電流を供給することができる。
【0039】
第1電極や第2電極上に、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するために、パッド電極を設けてもよい。パッド電極は、Ti(チタン)、アルミニウム(Al)、Pt(白金)、Au(金)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)から成る群から選択された少なくとも1種類の金属を含む、単層構成又は多層構成を有することが望ましい。あるいは又、パッド電極を、Ti/Pt/Auの多層構成、Ti/Auの多層構成、Ti/Pd/Auの多層構成、Ti/Pd/Auの多層構成、Ti/Ni/Auの多層構成、Ti/Ni/Au/Cr/Auの多層構成に例示される多層構成とすることもできる。第1電極をAg層あるいはAg/Pd層から構成する場合、第1電極の表面に、例えば、Ni/TiW/Pd/TiW/Niから成るカバーメタル層を形成し、カバーメタル層の上に、例えば、Ti/Ni/Auの多層構成あるいはTi/Ni/Au/Cr/Auの多層構成から成るパッド電極を形成することが好ましい。
【0040】
第1光反射層及び第2光反射層を構成する光反射層(分布ブラッグ反射鏡層、Distributed Bragg Reflector 層、DBR層)は、例えば、半導体多層膜(例えば、AlInGaN膜)や誘電体多層膜から構成される。誘電体材料としては、例えば、Si、Mg、Al、Hf、Nb、Zr、Sc、Ta、Ga、Zn、Y、B、Ti等の酸化物、窒化物(例えば、SiNX、AlNX、AlGaNX、GaNX、BNX等)、又は、フッ化物等を挙げることができる。具体的には、SiOX、TiOX、NbOX、ZrOX、TaOX、ZnOX、AlOX、HfOX、SiNX、AlNX等を例示することができる。そして、これらの誘電体材料の内、屈折率が異なる誘電体材料から成る2種類以上の誘電体膜を交互に積層することにより、光反射層を得ることができる。例えば、SiOX/SiNY、SiOX/TaOX、SiOX/NbOY、SiOX/ZrOY、SiOX/AlNY等の誘電体多層膜が好ましい。所望の光反射率を得るために、各誘電体膜を構成する材料、膜厚、積層数等を、適宜、選択すればよい。各誘電体膜の厚さは、用いる材料等により、適宜、調整することができ、発振波長(発光波長)λ0、用いる材料の発振波長λ0での屈折率n’によって決定される。具体的には、λ0/(4n’)の奇数倍、あるいは、奇数倍の前後の値とすることが好ましい。例えば、発振波長λ0が410nmの発光素子において、光反射層をSiOX/NbOYから構成する場合、40nm乃至70nm程度を例示することができる。積層数は、2以上、好ましくは5乃至20程度を例示することができる。光反射層全体の厚さとして、例えば、0.6μm乃至1.7μm程度を例示することができる。また、光反射層の光反射率は95%以上であることが望ましい。
【0041】
光反射層は、周知の方法に基づき形成することができ、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、ECRプラズマスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、レーザアブレーション法等のPVD法;各種CVD法;スプレー法、スピンコート法、ディップ法等の塗布法;これらの方法の2種類以上を組み合わせる方法;これらの方法と、全体又は部分的な前処理、不活性ガス(Ar、He、Xe等)又はプラズマの照射、酸素ガスやオゾンガス、プラズマの照射、酸化処理(熱処理)、露光処理のいずれか1種類以上とを組み合わせる方法等を挙げることができる。
【0042】
光反射層は、電流注入領域あるいは素子領域を覆う限り、大きさ及び形状は特に限定されない。素子領域、第1光反射層、第2光反射層、電流注入領域と電流非注入・内側領域との境界の形状、電流非注入・内側領域と電流非注入・外側領域との境界の形状、素子領域や電流狭窄領域に設けられた開口部の平面形状として、具体的には、円形、楕円形、矩形、多角形(三角形、四角形、六角形等)を挙げることができる。また、第1電極の平面形状として環状を挙げることができる。素子領域、第1光反射層、第2光反射層、電流狭窄層に設けられた開口部の平面形状、環状の第1電極の内側環部の平面形状、電流注入領域と電流非注入・内側領域との境界の形状、及び、電流非注入・内側領域と電流非注入・外側領域との境界の形状は、相似形であることが望ましい。電流注入領域と電流非注入・内側領域との境界の形状が円形の場合、直径5μm乃至100μm程度であることが好ましい。電流注入領域、電流非注入・内側領域、電流非注入・外側領域に関しては、後述する。
【0043】
積層構造体の側面や露出面を被覆層(絶縁膜)で被覆してもよい。被覆層(絶縁膜)の形成は、周知の方法に基づき行うことができる。被覆層(絶縁膜)を構成する材料の屈折率は、積層構造体を構成する材料の屈折率よりも小さいことが好ましい。被覆層(絶縁膜)を構成する絶縁材料として、SiO2を含むSiOX系材料、SiNX系材料、SiOYNZ系材料、TaOX、ZrOX、AlNX、AlOX、GaOXを例示することができるし、あるいは又、ポリイミド系樹脂等の有機材料を挙げることもできる。被覆層(絶縁膜)の形成方法として、例えば真空蒸着法やスパッタリング法といったPVD法、あるいは、CVD法を挙げることができるし、塗布法に基づき形成することもできる。
【0044】
以上に説明した各種の好ましい形態を含む本開示の第1の態様~第2の態様に係る発光素子等において、共振器長をLORとしたとき、LOR≧1×10-6mを満足することが好ましい。
【実施例1】
【0045】
実施例1は、本開示の発光素子及び本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法に関する。実施例1あるいは後述する実施例2~実施例12の発光素子は、より具体的には、第2化合物半導体層の頂面から第2光反射層を介してレーザ光を出射する面発光レーザ素子(垂直共振器レーザ、VCSEL)から成る。実施例1の発光素子の模式的な一部端面図を
図1に示す。
【0046】
実施例1の発光素子あるいは後述する実施例2~実施例12の発光素子は、
第1面21a、及び、第1面21aと対向する第2面21bを有する第1化合物半導体層21、第1化合物半導体層21の第2面21bと面する活性層(発光層)23、並びに、活性層23と面する第1面22a、及び、第1面22aと対向する第2面22bを有する第2化合物半導体層22が積層された積層構造体20、
第1化合物半導体層21に電気的に接続された第1電極31、並びに、
第2化合物半導体層22の第2面22b上に形成された第2電極32及び第2光反射層42、
を備えている。
【0047】
そして、実施例1の発光素子において、
第1化合物半導体層21の第1面側には突出部43が形成されており、
少なくとも突出部43の上には平滑化層44が形成されており、
突出部43及び平滑化層44は、凹面鏡部を構成し、
少なくとも平滑化層44の一部の上には、第1光反射層41が形成されており、
第2光反射層42は、平坦な形状を有する。
【0048】
具体的には、突出部43は、基板11の第1面11aに形成されている。基板11の第2面11bの上に積層構造体20が設けられている。平滑化層44は、突出部43の上を含む基板の第1面11aの上に形成されている。第1光反射層41は、平滑化層44の上に形成されている。ここで、実施例1において、基板11は、化合物半導体基板、具体的には、極性面であるC面、{0001}面を主面とするGaN基板から構成されている。積層構造体20はGaN系化合物半導体から成る。第1化合物半導体層21は第1導電型(具体的には、n型)を有し、第2化合物半導体層22は、第1導電型とは異なる第2導電型(具体的には、p型)を有する。第1光反射層41の内面41aから或る深さまでの第1光反射層41の領域、平滑化層44、突出部43を含む基板11、積層構造体20(第1化合物半導体層21、活性層23及び第2化合物半導体層22)、第2電極32、並びに、第2化合物半導体層22の第2面22bから或る深さまでの第2光反射層42の領域によって、共振器が構成される。ここで、共振器長をLORとしたとき、LOR≧1×10-6m(1μm)を満足する。
【0049】
平滑化層44と第1光反射層41との界面44Aにおける平滑化層44の表面粗さRa1の値は、突出部43と平滑化層44との界面43Aにおける突出部43の表面粗さRa2の値よりも小さい。表面粗さRa1の値は1.0nm以下である。更には、突出部43の頂部における平滑化層44の平均厚さTCは、突出部43の縁部における平滑化層44TPの平均厚さよりも薄い。具体的には、TP/TCの値は、
0.01≦TP/TC≦0.5
を満足し、TCの値は、1×10-8m乃至2×10-6mを満足し、より具体的には、
TC =0.2μm
TP/TC=0.05
である。平滑化層44の曲率半径は、1×10-5m乃至1×10-3m、具体的には、100μmである。
【0050】
平滑化層44を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である。実施例1において、具体的には、平滑化層44を構成する材料として、例えば、誘電体材料、より具体的には、Ta2O5を用いた。
【0051】
そして、実施例1の発光素子において、積層構造体20の積層方向を含む仮想平面(Z軸を含む仮想平面)で第1光反射層41を切断したときの第1光反射層41の内面41a(第1光反射層41の有効領域41b)が描く図形は、円の一部又は放物線の一部である。但し、有効領域41bの外側に位置する第1光反射層41の形状(断面形状の図形)は、円の一部や放物線の一部でなくともよい。第1光反射層41は基板11の第1面11aの一部の上方を延びており、この部分の形状(断面形状の図形)は平坦である。第1光反射層41及び第2光反射層42は多層光反射膜から構成されている。突出部43の外縁部の平面形状を円形とした。
【0052】
更には、第1光反射層41の有効領域41bの半径をr’DBR、曲率半径をRDBRとしたとき、
RDBR≦1×10-3m
を満足する。具体的には、限定するものではないが、
LOR =50μm
RDBR =70μm
r’DBR=25μm
を例示することができる。また、活性層23から出射される主たる光の有する発振波長λ0として、
λ0 =445nm
を例示することができる。
【0053】
ここで、活性層23の面積重心点から第1光反射層41の内面41aまでの距離をT0とすると、理想的な放物線の関数x=f(z)は、第1光反射層41の内面41aと第1化合物半導体層21の第1面21aとによって構成された共振器の部分の長さをLDBRとしたとき、
x =z2/t0
LDBR=r’DBR
2/2T0
で表すことができるが、内面41aが描く図形を放物線の一部としたとき、このような理想的な放物線から逸脱した放物線であってもよいことは云うまでもない。
【0054】
積層構造体20の熱伝導率の値は、第1光反射層41の熱伝導率の値よりも高い。第1光反射層41を構成する誘電体材料の熱伝導率の値は、一般に、10ワット/(m・K)程度あるいはそれ以下である。一方、積層構造体20を構成するGaN系化合物半導体の熱伝導率の値は、50ワット/(m・K)程度乃至100ワット/(m・K)程度である。
【0055】
第1化合物半導体層21はn-GaN層から成り、活性層23はIn0.04Ga0.96N層(障壁層)とIn0.16Ga0.84N層(井戸層)とが積層された5重の多重量子井戸構造から成り、第2化合物半導体層22はp-GaN層から成る。第1電極31は、基板11の第1面11aの上に形成されており、基板11を介して第1化合物半導体層21と電気的に接続されている。一方、第2電極32は第2化合物半導体層22の上に形成されており、第2光反射層42は第2電極32上に形成されている。第2電極32の上の第2光反射層42は平坦な形状を有する。第1電極31はTi/Pt/Auから成り、第2電極32は、透明導電性材料、具体的には、ITOから成る。第1電極31の縁部の上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、例えばTi/Pt/Au又はV/Pt/Auから成るパッド電極(図示せず)が形成あるいは接続されている。第2電極32の縁部の上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、例えば、Pd/Ti/Pt/AuやTi/Pd/Au、Ti/Ni/Auから成るパッド電極33が形成あるいは接続されている。第1光反射層41及び第2光反射層42は、Ta2O5層とSiO2層の積層構造(誘電体膜の積層総数:20層)から成る。第1光反射層41及び第2光反射層42はこのように多層構造を有するが、図面の簡素化のため、1層で表している。第1電極31、第1光反射層41、第2光反射層42、絶縁層(電流狭窄層)34に設けられた開口部34Aのそれぞれの平面形状は円形である。後述するように、開口部34Aを有する絶縁層34によって、電流狭窄領域(電流注入領域61A及び電流非注入領域61B)が規定され、開口部34Aによって電流注入領域61Aが規定される。
【0056】
【0057】
[工程-100]
先ず、基板11の表面(第2面11b)の上に、第1面21a、及び、第1面21aと対向する第2面21bを有する第1化合物半導体層21、第1化合物半導体層21の第2面21bと面する活性層23、並びに、活性層23と面する第1面22a、及び、第1面22aと対向する第2面22bを有する第2化合物半導体層22が積層された積層構造体20を形成する。具体的には、MOCVD法に基づき、露出した基板11の第2面11bの上に、n-GaNから成る第1化合物半導体層21、活性層23及び第2化合物半導体層22を形成することで、積層構造体20を得ることができる(
図2参照)。
【0058】
[工程-110]
次いで、第2化合物半導体層22の第2面22b上に、CVD法やスパッタリング法、真空蒸着法といった成膜法とウェットエッチング法やドライエッチング法との組合せに基づき、開口部34Aを有し、SiO2から成る絶縁層(電流狭窄層)34を形成する。開口部34Aを有する絶縁層34によって、電流狭窄領域(電流注入領域61A及び電流非注入領域61B)が規定される。即ち、開口部34Aによって電流注入領域61Aが規定される。
【0059】
電流狭窄領域を得るためには、第2電極32と第2化合物半導体層22との間に絶縁材料(例えば、SiOXやSiNX、AlOX)から成る絶縁層(電流狭窄層)を形成してもよいし、あるいは又、第2化合物半導体層22をRIE法等によりエッチングしてメサ構造を形成してもよいし、あるいは又、積層された第2化合物半導体層22の一部の層を横方向から部分的に酸化して電流狭窄領域を形成してもよいし、第2化合物半導体層22に不純物をイオン注入して導電性が低下した領域を形成してもよいし、あるいは、これらを、適宜、組み合わせてもよい。但し、第2電極32は、電流狭窄により電流が流れる第2化合物半導体層22の部分と電気的に接続されている必要がある。
【0060】
[工程-120]
その後、第2化合物半導体層22の第2面上に第2電極32及び第2光反射層42を形成する。具体的には、開口部34A(電流注入領域61A)の底面に露出した第2化合物半導体層22の第2面22bから絶縁層34の上に亙り、例えば、リフトオフ法に基づき第2電極32を形成し、更に、スパッタリング法や真空蒸着法といった成膜法とウェットエッチング法やドライエッチング法といったパターニング法との組合せに基づきパッド電極33を形成する。次いで、第2電極32の上からパッド電極33の上に亙り、スパッタリング法や真空蒸着法といった成膜法とウェットエッチング法やドライエッチング法といったパターニング法との組合せに基づき第2光反射層42を形成する(
図3参照)。第2電極32の上の第2光反射層42は平坦な形状を有する。
【0061】
[工程-130]
次いで、第1化合物半導体層21の第1面側に突出部43を形成する。具体的には、先ず、基板11を、第1面11aの側から所望の厚さまで薄くする。そして、基板11の第1面11aの上にレジスト層を形成し、レジスト層をパターニングして、突出部43を形成すべき基板11の上のレジスト層を残す。そして、レジスト層に加熱処理を施すことで、レジスト層に突出部を形成する。次いで、レジスト層及び基板11をRIE法に基づきエッチバックする。こうして、
図4に示すように、基板11の第1面11aに突出部43を形成することができる。突出部43の外形形状を円形とした。
【0062】
[工程-140]
その後、少なくとも突出部43の上に平滑化層44を形成する(
図5参照)。具体的には、突出部43を含む基板11の第1面11aの全面に、スパッタリング法に基づき平滑化層44を形成する。
【0063】
[工程-150]
次いで、平滑化層44の表面を平滑化する(
図6参照)。具体的には、湿式エッチング法に基づき、平滑化層44の表面の平滑化処理を行う。より具体的には、研磨液としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき、平滑化層44の表面の平滑化処理を行う。平滑化層44の表面の表面粗さは、平滑化処理前後で、以下のとおりであった。
平滑化処理前:Ra =0.36nm
平滑化処理後:Ra
1=0.14nm
【0064】
[工程-160]
その後、少なくとも平滑化層44の一部の上に第1光反射層41を形成し、第1化合物半導体層21に電気的に接続された第1電極31を形成する。具体的には、平滑化層44の上に、スパッタリング法や真空蒸着法といった成膜法とウェットエッチング法やドライエッチング法といったパターニング法との組合せに基づき誘電体多層膜から成る第1光反射層41を形成する。基板11の第1面11a上に残された第1光反射層41の外縁部の平面形状を円形とした。その後、基板11の第1面11aの上に、スパッタリング法や真空蒸着法といった成膜法とウェットエッチング法やドライエッチング法といったパターニング法との組合せに基づき第1電極31を形成する。こうして、
図1に示す構造を得ることができる。そして、更に、所謂素子分離を行うことで発光素子を分離し、積層構造体20の側面や露出面を、例えば、SiO
2等の絶縁材料から成る被覆層(図示せず)で被覆する。そして、パッケージや封止することで、実施例1の発光素子を完成させることができる。
【0065】
実施例1の発光素子あるいは実施例1の発光素子の製造方法によって得られた発光素子にあっては、第1光反射層の下地である平滑化層の表面が平滑とされているので、平滑化層の上に形成された第1光反射層も平滑である。それ故、第1光反射層によって光が散乱することを抑制することができる結果、発光素子の閾値の低下を図ることができるし、発光効率の向上を図ることができる。
【0066】
しかも、実施例1の発光素子においては、第1光反射層が突出部の上方に形成されているので、活性層を起点に回折して広がり、そして、第1光反射層に入射した光を活性層に向かって確実に反射し、活性層に集光することができる。従って、回折損失が増加することを回避することができ、確実にレーザ発振を行うことができる。また、長い共振器とすることができることから熱飽和の問題を回避することが可能となる。ここで、「熱飽和」とは、面発光レーザ素子の駆動時、自己発熱によって光出力が飽和する現象である。光反射層に用いられる材料(例えば、SiO2やTa2O5といった材料)は、GaN系化合物半導体よりも熱伝導率の値が低い。よって、GaN系化合物半導体層の厚さを厚くすることは、熱飽和を抑制することに繋がる。しかしながら、GaN系化合物半導体層の厚さを厚くすると、共振器長LORの長さが長くなるので、縦モードが多モード化し易いが、実施例1の発光素子にあっては、共振器長が長くなっても、単一縦モードを得ることができる。また、共振器長LORを長くすることができるが故に、発光素子の製造プロセスの許容度が高くなる結果、歩留りの向上を図ることができる。以下に述べる各種実施例の発光素子においても同様である。
【0067】
CMP法の代わりに、浸漬法に基づき、平滑化層44の表面を平滑にしてもよい。この場合、例えば、平滑化層44をTa2O5から構成したので、浸漬法においてエッチング液としてHFを使用すればよい。また、平滑化層44をスピン・オン・グラス系材料あるいは低融点ガラス材料から構成することもでき、この場合、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液としてHFを用いた浸漬法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができる。また、平滑化層44を構成する材料を、半導体材料、具体的にはGaNから構成することもできる。この場合、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液としてTMAHを用いた浸漬法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができる。また、平滑化層44を構成する材料を、樹脂、具体的にはエポキシ系樹脂から構成し、CMP法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液としてハロゲン化炭化水素を用いた浸漬法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができる。但し、使用する樹脂に依っては、平滑化処理が不要の場合がある。
【0068】
また、平滑化層44を構成する材料を、例えば、Ta2O5から構成し、平滑化層44の表面の平滑化処理を、乾式エッチング法、具体的には、RIE法(反応性イオンエッチング法)に基づき行うことができる。
【0069】
また、積層構造体20を、GaN系化合物半導体から構成する代わりに、GaAs系化合物半導体から成る構成とすることができ、この場合、基板11としてGaAs基板を用いればよい。そして、この場合、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液としてリン酸/過酸化水素水を用いた浸漬法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができる。あるいは又、積層構造体20を、InP系化合物半導体から成る構成とすることもでき、この場合、基板11としてInP基板を用いればよい。そして、この場合、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液として塩酸を用いた浸漬法に基づき平滑化層44の平滑化処理を行うことができる。
【実施例2】
【0070】
実施例2は実施例1の変形である。実施例2の発光素子の模式的な一部端面図を
図7に示す。実施例1においては、突出部43を基板11の第1面11aに形成した。一方、実施例2にあっては、突出部45を第1化合物半導体層21に形成する。
【0071】
このような実施例2の発光素子は、実施例1の発光素子の製造方法における[工程-130]と同様の工程において、基板11を第1面11aの側から除去し、第1化合物半導体層21を露出させ、第1化合物半導体層21の第1面21aの上にレジスト層を形成し、レジスト層をパターニングして、突出部45を形成すべき第1化合物半導体層21の上のレジスト層を残す。そして、レジスト層に加熱処理を施すことで、レジスト層に突出部を形成する。次いで、レジスト層及び第1化合物半導体層21をRIE法に基づきエッチバックする。こうして、最終的に、
図7に示す実施例2の発光素子を得ることができる。
【0072】
以上の点を除き、実施例2の発光素子の構成、構造は、実施例1の発光素子の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【実施例3】
【0073】
実施例3も実施例1の変形である。実施例3の発光素子の模式的な一部端面図を
図8及び
図9に示す。実施例3において、突出部46は、基板11の第1面11aに、基板11とは別の材料に基づき形成されている(
図8参照)。あるいは又、突出部46は、第1化合物半導体層21の露出面(第1面21a)に、第1化合物半導体層21とは別の材料に基づき形成されている(
図9参照)。ここで、突出部46を構成する材料として、TiO
2、Ta
2O
5、SiO
2等の透明な誘電体材料、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂等を挙げることができる。
【0074】
実施例3の発光素子は、実施例1の[工程-130]と同様の工程において、基板11を薄くし、鏡面仕上げを施した後、基板11の露出面(第1面11a)の上に突出部46を形成する。あるいは又、基板11を除去し、露出した第1化合物半導体層21の第1面21aに鏡面仕上げを施した後、第1化合物半導体層21の露出面(第1面21a)の上に突出部46を形成する。具体的には、例えば、基板11の露出面(第1面11a)の上に、例えば、TiO
2層又はTa
2O
5層を形成し、次いで、突出部46を形成すべきTiO
2層又はTa
2O
5層の上にパターニングされたレジスト層を形成し、レジスト層を加熱することでレジスト層をリフローさせて、レジストパターンを得る。レジストパターンには突出部46の形状と同じ形状(あるいは類似した形状)が付与される。そして、レジストパターン及びTiO
2層又はTa
2O
5層をエッチバックすることによって、基板11の露出面(第1面11a)の上に突出部46を形成することができる。こうして、最終的に、
図8に示す実施例3の発光素子を得ることができる。
【0075】
以上の点を除き、実施例3の発光素子の構成、構造は、実施例1の発光素子の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【実施例4】
【0076】
実施例4は、本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法に関する。実施例4の発光素子の模式的な一部端面図を
図10A及び
図10Bに示す。実施例4の発光素子において、
第1化合物半導体層21の第1面側には突出部47が形成されており、
突出部47は、凹面鏡部を構成し、
少なくとも突出部47の上には、第1光反射層41が形成されており、
第2光反射層42は、平坦な形状を有する。
【0077】
ここで、突出部47と第1光反射層41との界面における突出部47の表面粗さRa2の値は、1.0nm以下、具体的には、0.5nmである。また。突出部47の曲率半径は、1×10-5m乃至1×10-3m、具体的には、70μmである。突出部47の構造は、実施例1、実施例2あるいは実施例3の突出部43,45,46と同様とすることができる。
【0078】
以上の点を除き、実施例4の発光素子の構成、構造は、実施例1あるいは実施例2、実施例3の発光素子の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0079】
実施例4の発光素子の製造方法にあっては、先ず、実施例1の[工程-100]と同様にして、第1面21a、及び、第1面21aと対向する第2面21bを有する第1化合物半導体層21、第1化合物半導体層21の第2面21bと面する活性層(発光層)23、並びに、活性層23と面する第1面22a、及び、第1面22aと対向する第2面22bを有する第2化合物半導体層22が積層された積層構造体20を形成し、次いで、[工程-110]~[工程-120]と同様にして、第2化合物半導体層22の第2面22bの上に第2電極32及び第2光反射層42を形成する。
【0080】
その後、実施例1の[工程-130]と同様の工程において、第1化合物半導体層21の第1面側に突出部47を形成する。
【0081】
そして、突出部47の表面を平滑化する。具体的には、突出部47は、例えば、GaN基板あるいは第1化合物半導体層から構成されているので、研磨剤としてコロイダルシリカを用いたCMP法に基づき突出部47の平滑化処理を行うことができるし、エッチング液としてTMAHを用いた浸漬法に基づき突出部47の平滑化処理を行うことができる。
【0082】
あるいは又、突出部47の表面の平滑化処理を、乾式エッチング法、具体的には、RIE法(反応性イオンエッチング法)に基づき行うことができる。ここで、突出部47の形成もRIE法に基づき行うが、RIE装置にも依るが、このときのRIE条件よりも突出部47の表面の平滑化処理におけるRIE条件を、等方的な条件、即ち、バイアス電圧を下げ、エッチング時の圧力を増やせばよい。
【0083】
その後、実施例1の[工程-160]と同様にして、少なくとも突出部47の一部の上に第1光反射層41を形成し、第1化合物半導体層21に電気的に接続された第1電極31を形成する。こうして、
図10Aあるいは
図10Bに示した構造の実施例4の発光素子を得ることができる。
【0084】
以下、実施例5~実施例12を説明する前に、本開示の発光素子、本開示の第1の態様に係る発光素子の製造方法によって得られた発光素子、本開示の第2の態様に係る発光素子の製造方法によって得られた発光素子(以下、これらの発光素子を、総称して、便宜上、『本開示の発光素子等』と呼ぶ)の各種変形例についての説明を行う。
【0085】
前述したとおり、開口部34Aを有する絶縁層34によって、電流狭窄領域(電流注入領域61A及び電流非注入領域61B)が規定される。即ち、開口部34Aによって電流注入領域61Aが規定される。第2化合物半導体層22には、電流注入領域61A及び電流注入領域61Aを取り囲む電流非注入領域61Bが設けられており、電流注入領域61Aの面積重心点から、電流注入領域61Aと電流非注入領域61Bの境界61Cまでの最短距離DCIは、以下の式を満足する。ここで、このような構成の発光素子を、便宜上、『第1構成の発光素子』と呼ぶ。尚、以下の式の導出は、例えば,H. Kogelnik and T. Li, "Laser Beams and Resonators", Applied Optics/Vol. 5, No. 10/ October 1966 を参照のこと。また、ω0はビームウェスト半径とも呼ばれる。
【0086】
DCI≧ω0/2 (A)
但し、
ω0
2≡(λ0/π){LOR(RDBR-LOR)}1/2 (B)
【0087】
ここで、第1構成の発光素子は、凹面鏡として機能する第1光反射層を有するが、第2光反射層の平板な鏡に対する対称性を考えれば、共振器は、同一の曲率半径を有する2つの凹面鏡で挟まれたファブリペロー型共振器へと拡張することができる(
図22の模式図を参照)。このとき、仮想的なファブリペロー型共振器の共振器長は、共振器長L
ORの2倍となる。ω
0の値と共振器長L
ORの値と第1光反射層の内面の曲率半径R
DBRの値の関係を示すグラフを、
図23及び
図24に示す。尚、ω
0の値が「正」であるとは、レーザ光が模式的に
図25Aの状態にあることを示し、ω
0の値が「負」であるとは、レーザ光が模式的に
図25Bの状態にあることを示す。レーザ光の状態は、
図25Aに示す状態であってもよいし、
図25Bに示す状態であってもよい。但し、2つの凹面鏡を有する仮想的なファブリペロー型共振器は、曲率半径R
DBRが共振器長L
ORよりも小さくなると、
図25Bに示す状態となり、閉じ込めが過剰になり回折損失を生じる。それ故、曲率半径R
DBRが共振器長L
ORよりも大きい、
図25Aに示す状態であることが好ましい。尚、活性層を、2つの光反射層のうち、平坦な光反射層、具体的には、第2光反射層に近づけて配置すると、光場は活性層においてより集光される。即ち、活性層における光場閉じ込めを強め、レーザ発振を容易ならしめる。活性層の位置、即ち、第2化合物半導体層に面する第2光反射層の面から活性層までの距離として、限定するものではないが、λ
0/2乃至10λ
0を例示することができる。
【0088】
ところで、第1光反射層によって反射される光が集光される領域が、電流注入によって活性層が利得を持つ領域に対応する電流注入領域に含まれない場合、キャリアから光の誘導放出が阻害され、ひいては、レーザ発振が阻害される虞がある。上式(A)及び(B)を満足することで、第1光反射層によって反射される光が集光される領域が電流注入領域に含まれることを保証することができ、レーザ発振を確実に達成することができる。
【0089】
そして、第1構成の発光素子は、
第2化合物半導体層の第2面上に設けられ、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域を構成するモードロス作用部位、及び、
第2化合物半導体層の第2面上からモードロス作用部位上に亙り形成された第2電極、
を更に備えており、
積層構造体には、電流注入領域、電流注入領域を取り囲む電流非注入・内側領域、及び、電流非注入・内側領域を取り囲む電流非注入・外側領域が形成されており、
モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っている構成とすることができる。
【0090】
そして、このような好ましい構成を含む第1構成の発光素子において、第1光反射層の有効領域の半径r’DBRは、ω0≦r’DBR≦20・ω0、好ましくは、ω0≦r’DBR≦10・ω0を満足する構成とすることができる。あるいは又、r’DBRの値として、r’DBR≦1×10-4m、好ましくは、r’DBR≦5×10-5mを例示することができる。更には、このような好ましい構成を含む第1構成の発光素子において、DCI≧ω0を満足する構成とすることができる。更には、このような好ましい構成を含む第1構成の発光素子において、RDBR≦1×10-3m、好ましくは、1×10-5m≦RDBR≦1×10-3m、より好ましくは、1×10-5m≦RDBR≦5×10-4mを満足する構成とすることができる。
【0091】
また、本開示の発光素子等は、
第2化合物半導体層の第2面上に設けられ、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域を構成するモードロス作用部位、及び、
第2化合物半導体層の第2面上からモードロス作用部位上に亙り形成された第2電極、
を更に備えており、
積層構造体には、電流注入領域、電流注入領域を取り囲む電流非注入・内側領域、及び、電流非注入・内側領域を取り囲む電流非注入・外側領域が形成されており、
モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っている構成とすることができる。ここで、このような構成の発光素子を、便宜上、『第2構成の発光素子』と呼ぶ。
【0092】
第2構成の発光素子において、積層構造体には電流非注入領域(電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域の総称)が形成されているが、電流非注入領域は、具体的には、厚さ方向、第2化合物半導体層の第2電極側の領域に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層全体に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層及び活性層に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層から第1化合物半導体層の一部に亙り形成されていてもよい。モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っているが、電流注入領域から充分に離れた領域においては、モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っていなくともよい。
【0093】
第2構成の発光素子において、電流非注入・外側領域はモードロス作用領域の下方に位置している構成とすることができる。
【0094】
上記の好ましい構成を含む第2構成の発光素子において、電流注入領域の正射影像の面積をS1、電流非注入・内側領域の正射影像の面積をS2としたとき、
0.01≦S1/(S1+S2)≦0.7
を満足する構成とすることができる。
【0095】
上記の好ましい構成を含む第2構成の発光素子において、電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は、積層構造体へのイオン注入によって形成される構成とすることができる。このような構成の発光素子を、便宜上、『第2-A構成の発光素子』と呼ぶ。そして、この場合、イオン種は、ボロン、プロトン、リン、ヒ素、炭素、窒素、フッ素、酸素、ゲルマニウム及びシリコンから成る群から選択された少なくとも1種類のイオン(即ち、1種類のイオン又は2種類以上のイオン)である構成とすることができる。
【0096】
あるいは又、上記の好ましい構成を含む第2構成の発光素子において、電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は、第2化合物半導体層の第2面へのプラズマ照射、又は、第2化合物半導体層の第2面へのアッシング処理、又は、第2化合物半導体層の第2面への反応性イオンエッチング(RIE)処理によって形成される構成とすることができる。このような構成の発光素子を、便宜上、『第2-B構成の発光素子』と呼ぶ。これらの処理にあっては、電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域はプラズマ粒子に晒されるので、第2化合物半導体層の導電性に劣化が生じ、電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は高抵抗状態となる。即ち、電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は、第2化合物半導体層の第2面のプラズマ粒子への暴露によって形成される構成とすることができる。プラズマ粒子として、具体的には、アルゴン、酸素、窒素等を挙げることができる。
【0097】
あるいは又、上記の好ましい構成を含む第2構成の発光素子において、第2光反射層は、第1光反射層からの光を、第1光反射層と第2光反射層とによって構成される共振器構造の外側に向かって反射あるいは散乱する領域を有する構成とすることができる。このような構成の発光素子を、便宜上、『第2-C構成の発光素子』と呼ぶ。具体的には、モードロス作用部位の側壁(モードロス作用部位に設けられた開口部の側壁)の上方に位置する第2光反射層の領域は、順テーパー状の傾斜を有する。また、モードロス作用部位の頂面と、モードロス作用部位に設けられた開口部の側壁との境界(側壁エッジ部)において光を散乱させることで、第1光反射層と第2光反射層とによって構成される共振器構造の外側に向かって光を散乱させる構成とすることもできる。
【0098】
以上に説明した第2-A構成の発光素子、第2-B構成の発光素子あるいは第2-C構成の発光素子において、電流注入領域における活性層から第2化合物半導体層の第2面までの光学的距離をL2、モードロス作用領域における活性層からモードロス作用部位の頂面までの光学的距離をL0としたとき、
L0>L2
を満足する構成とすることができる。更には、このような構成を含む、以上に説明した第2-A構成の発光素子、第2-B構成の発光素子あるいは第2-C構成の発光素子において、生成した高次モードを有する光は、モードロス作用領域により、第1光反射層と第2光反射層とによって構成される共振器構造の外側に向かって散逸させられ、以て、発振モードロスが増加する構成とすることができる。即ち、生じる基本モード及び高次モードの光場強度が、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域の存在によって、モードロス作用領域の正射影像内において、Z軸から離れるほど、減少するが、基本モードの光場強度の減少よりも高次モードのモードロスの方が多く、基本モードを一層安定化させることができるし、電流注入内側領域が存在しない場合に比べるとモードロスを抑制することができるので、閾値電流の低下を図ることができる。
【0099】
また、以上に説明した第2-A構成の発光素子、第2-B構成の発光素子あるいは第2-C構成の発光素子において、モードロス作用部位は、誘電体材料、金属材料又は合金材料から成る構成とすることができる。誘電体材料として、SiOX、SiNX、AlNX、AlOX、TaOX、ZrOXを例示することができるし、金属材料あるいは合金材料として、チタン、金、白金あるいはこれらの合金を例示することができるが、これらの材料に限定するものではない。これらの材料から構成されたモードロス作用部位により光を吸収させ、モードロスを増加させることができる。あるいは直接的に光を吸収しなくても、位相を乱すことでモードロスを制御することができる。この場合、モードロス作用部位は誘電体材料から成り、モードロス作用部位の光学的厚さt0は、発振波長λ0の1/4の整数倍から外れる値である構成とすることができる。即ち、共振器内を周回し定在波を形成する光の位相を、モードロス作用部位においては位相を乱すことで定在波を破壊し、それに相応するモードロスを与えることができる。あるいは又、モードロス作用部位は誘電体材料から成り、モードロス作用部位(屈折率をnm-lossとする)の光学的厚さt0は、発振波長λ0の1/4の整数倍である構成とすることができる。即ち、モードロス作用部位の光学的厚さt0は、発光素子において生成した光の位相を乱さず定在波を破壊しないような厚さである構成とすることができる。但し、厳密に1/4の整数倍である必要はなく、
(λ0/4nm-loss)×m-(λ0/8nm-loss)≦t0≦(λ0/4nm-loss)×2m+(λ0/8nm-loss)
を満足すればよい。あるいは又、モードロス作用部位を、誘電体材料、金属材料又は合金材料から成る構成とすることで、モードロス作用部位を通過する光がモードロス作用部位によって、位相を乱されたり、吸収させることができる。そして、これらの構成を採用することで、発振モードロスの制御を一層高い自由度をもって行うことができるし、発光素子の設計自由度を一層高くすることができる。
【0100】
あるいは又、上記の好ましい構成を含む第2構成の発光素子において、
第2化合物半導体層の第2面側には凸部が形成されており、
モードロス作用部位は、凸部を囲む第2化合物半導体層の第2面の領域上に形成されている構成とすることができる。このような構成の発光素子を、便宜上、『第2-D構成の発光素子』と呼ぶ。凸部は、電流注入領域及び電流非注入・内側領域を占めている。そして、この場合、電流注入領域における活性層から第2化合物半導体層の第2面までの光学的距離をL2、モードロス作用領域における活性層からモードロス作用部位の頂面までの光学的距離をL0としたとき、
L0<L2
を満足する構成とすることができ、更には、これらの場合、生成した高次モードを有する光は、モードロス作用領域により、電流注入領域及び電流非注入・内側領域に閉じ込められ、以て、発振モードロスが減少する構成とすることができる。即ち、生じる基本モード及び高次モードの光場強度が、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域の存在によって、電流注入領域及び電流非注入・内側領域の正射影像内において増加する。更には、これらの場合、モードロス作用部位は、誘電体材料、金属材料又は合金材料から成る構成とすることができる。ここで、誘電体材料、金属材料又は合金材料として、上述した各種の材料を挙げることができる。
【0101】
更には、以上に説明した好ましい形態、構成(第1構成の発光素子~第2構成の発光素子を含む)を含む本開示の発光素子等において、第2電極を含む積層構造体には、活性層が占める仮想平面と平行に、少なくとも2層の光吸収材料層が形成されている構成とすることができる。ここで、このような構成の発光素子を、便宜上、『第3構成の発光素子』と呼ぶ。第3構成の発光素子にあっては、少なくとも4層の光吸収材料層が形成されていることが好ましい。
【0102】
上記の好ましい構成を含む第3構成の発光素子において、発振波長(発光素子から主に出射される光の波長であり、所望の発振波長である)をλ0、2層の光吸収材料層、及び、光吸収材料層と光吸収材料層との間に位置する積層構造体の部分の全体の等価屈折率をneq、光吸収材料層と光吸収材料層との間の距離をLAbsとしたとき、
0.9×{(m・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(m・λ0)/(2・neq)}
を満足することが好ましい。ここで、mは、1、又は、1を含む2以上の任意の整数である。等価屈折率neqとは、2層の光吸収材料層、及び、光吸収材料層と光吸収材料層との間に位置する積層構造体の部分を構成する各層のそれぞれの厚さをti、それぞれの屈折率をniとしたとき、
neq=Σ(ti×ni)/Σ(ti)
で表される。但し、i=1,2,3・・・,Iであり、「I」は、2層の光吸収材料層、及び、光吸収材料層と光吸収材料層との間に位置する積層構造体の部分を構成する層の総数であり、「Σ」はi=1からi=Iまでの総和を取ることを意味する。等価屈折率neqは、発光素子断面の電子顕微鏡観察等から構成材料を観察し、それぞれの構成材料に対して既知の屈折率及び観察により得た厚さを基に算出すればよい。mが1の場合、隣接する光吸収材料層の間の距離は、全ての複数の光吸収材料層において、
0.9×{λ0/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{λ0/(2・neq)}
を満足する。また、mが1を含む2以上の任意の整数であるとき、一例として、m=1,2とすれば、一部の光吸収材料層において、隣接する光吸収材料層の間の距離は、
0.9×{λ0/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{λ0/(2・neq)}
を満足し、残りの光吸収材料層において、隣接する光吸収材料層の間の距離は、
0.9×{(2・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(2・λ0)/(2・neq)}
を満足する。広くは、一部の光吸収材料層において、隣接する光吸収材料層の間の距離は、
0.9×{λ0/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{λ0/(2・neq)}
を満足し、残りの種々の光吸収材料層において、隣接する光吸収材料層の間の距離は、
0.9×{(m’・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(m’・λ0)/(2・neq)}
を満足する。ここで、m’は、2以上の任意の整数である。また、隣接する光吸収材料層の間の距離とは、隣接する光吸収材料層の重心と重心との間の距離である。即ち、実際には、活性層の厚さ方向に沿った仮想平面で切断したときの、各光吸収材料層の中心と中心との間の距離である。
【0103】
更には、上記の各種の好ましい構成を含む第3構成の発光素子において、光吸収材料層の厚さは、λ0/(4・neq)以下であることが好ましい。光吸収材料層の厚さの下限値として1nmを例示することができる。
【0104】
更には、上記の各種の好ましい構成を含む第3構成の発光素子にあっては、積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最小振幅部分に光吸収材料層が位置する構成とすることができる。
【0105】
更には、上記の各種の好ましい構成を含む第3構成の発光素子において、積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最大振幅部分に活性層が位置する構成とすることができる。
【0106】
更には、上記の各種の好ましい構成を含む第3構成の発光素子において、光吸収材料層は、積層構造体を構成する化合物半導体の光吸収係数の2倍以上の光吸収係数を有する構成とすることができる。ここで、光吸収材料層の光吸収係数や積層構造体を構成する化合物半導体の光吸収係数は、発光素子断面の電子顕微鏡観察等から構成材料を観察し、それぞれの構成材料に対して観察された既知の評価結果より類推することで求めることができる。
【0107】
更には、上記の各種の好ましい構成を含む第3構成の発光素子において、光吸収材料層は、積層構造体を構成する化合物半導体よりもバンドギャップの狭い化合物半導体材料、不純物をドープした化合物半導体材料、透明導電性材料、及び、光吸収特性を有する光反射層構成材料から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から構成されている構成とすることができる。ここで、積層構造体を構成する化合物半導体よりもバンドギャップの狭い化合物半導体材料として、例えば、積層構造体を構成する化合物半導体をGaNとする場合、InGaNを挙げることができるし、不純物をドープした化合物半導体材料として、Siをドープしたn-GaN、Bをドープしたn-GaNを挙げることができるし、透明導電性材料として、電極を構成する透明導電性材料を挙げることができるし、光吸収特性を有する光反射層構成材料として、光反射層を構成する材料(例えば、SiOX、SiNX、TaOX等)を挙げることができる。光吸収材料層の全てがこれらの材料の内の1種類の材料から構成されていてもよい。あるいは又、光吸収材料層のそれぞれがこれらの材料の内から選択された種々の材料から構成されていてもよいが、1層の光吸収材料層は1種類の材料から構成されていることが、光吸収材料層の形成の簡素化といった観点から好ましい。光吸収材料層は、第1化合物半導体層内に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層内に形成されていてもよいし、第2光反射層内に形成されていてもよいし、これらの任意の組み合わせとすることもできる。あるいは又、光吸収材料層を、透明導電性材料から成る電極と兼用することもできる。
【0108】
以下、実施例5~実施例12の説明を行う。
【実施例5】
【0109】
実施例5は、実施例1~実施例4の変形であり、第1構成の発光素子に関する。前述したとおり、開口部34Aを有する絶縁層34によって、電流狭窄領域(電流注入領域61A及び電流非注入領域61B)が規定される。即ち、開口部34Aによって電流注入領域61Aが規定される。即ち、実施例5の発光素子にあっては、第2化合物半導体層22には、電流注入領域61A及び電流注入領域61Aを取り囲む電流非注入領域61Bが設けられており、電流注入領域61Aの面積重心点から、電流注入領域61Aと電流非注入領域61Bの境界61Cまでの最短距離DCIは、前述した式(A)及び式(B)を満足する。
【0110】
実施例5の発光素子にあっては、第1光反射層41の有効領域41bの半径r’DBRは、
ω0≦r’DBR≦20・ω0
を満足する。また、DCI≧ω0を満足する。更には、RDBR≦1×10-3mを満足する。具体的には、
DCI =4μm
ω0 =1.5μm
LOR =30μm
RDBR=60μm
λ0 =525nm
を例示することができる。また、開口部34Aの直径として8μmを例示することができる。GaN基板として、c面をm軸方向に約75度傾けた面を主面とする基板を用いる。即ち、GaN基板は、主面として、半極性面である{20-21}面を有する。尚、このようなGaN基板を、他の実施例において用いることもできる。
【0111】
突出部の中心軸(Z軸)と、XY平面方向における電流注入領域61Aとの間のズレは、発光素子の特性を悪化させる原因となる。突出部の形成のためのパターニング、開口部34Aの形成のためのパターニングのいずれも、リソグラフィ技術を用いることが多いが、この場合、両者の位置関係は、露光機の性能に応じてXY平面内で屡々ずれる。特に、開口部34A(電流注入領域61A)は、第2化合物半導体層22の側からアライメントを行って位置決めされる。一方、突出部は、化合物半導体基板11の側からアライメントを行って位置決めされる。そこで、実施例5の発光素子では、開口部34A(電流注入領域61)を、突出部によって光が絞られる領域よりも大きく形成することで、突出部の中心軸(Z軸)と、XY平面方向における電流注入領域61Aとの間にズレが生じても、発振特性に影響が生じない構造を実現している。
【0112】
即ち、第1光反射層によって反射される光が集光される領域が、電流注入によって活性層が利得を持つ領域に対応する電流注入領域に含まれない場合、キャリアから光の誘導放出が阻害され、ひいては、レーザ発振が阻害される虞がある。然るに、上式(A)及び(B)を満足することで、第1光反射層によって反射される光が集光される領域が電流注入領域に含まれることを保証することができ、レーザ発振を確実に達成することができる。
【実施例6】
【0113】
実施例6は、実施例1~実施例5の変形であり、且つ、第2構成の発光素子、具体的には、第2-A構成の発光素子に関する。実施例6の発光素子の模式的な一部端面図を
図11に示す。
【0114】
ところで、第1電極と第2電極との間を流れる電流の流路(電流注入領域)を制御するために、電流注入領域を取り囲むように電流非注入領域を形成する。GaAs系面発光レーザ素子(GaAs系化合物半導体から構成された面発光レーザ素子)においては、活性層をXY平面に沿って外側から酸化することで電流注入領域を取り囲む電流非注入領域を形成することができる。酸化された活性層の領域(電流非注入領域)は、酸化されない領域(電流注入領域)に比べて屈折率が低下する。その結果、共振器の光路長(屈折率と物理的な距離の積で表される)は、電流注入領域よりも電流非注入領域の方が短くなる。そして、これによって、一種の「レンズ効果」が生じ、面発光レーザ素子の中心部にレーザ光を閉じ込める作用をもたらす。一般に、光は回折効果に起因して広がろうとするため、共振器を往復するレーザ光は、次第に、共振器外へと散逸してしまい(回折損失)、閾値電流の増加等の悪影響が生じる。しかしながら、レンズ効果は、この回折損失を補償するので、閾値電流の増加等を抑制することができる。
【0115】
然るに、GaN系化合物半導体から構成された発光素子においては、材料の特性上、活性層をXY平面に沿って外部から(横方向から)酸化することが難しい。それ故、実施例1~実施例5において説明したとおり、第2化合物半導体層22上に開口部34Aを有するSiO2から成る絶縁層34を形成し、開口部34Aの底部に露出した第2化合物半導体層22から絶縁層34上に亙り透明導電性材料から成る第2電極32を形成し、第2電極32上に、絶縁材料の積層構造から成る第2光反射層42を形成する。このように、絶縁層34を形成することで電流非注入領域61Bが形成される。そして、絶縁層34に設けられた開口部34A内に位置する第2化合物半導体層22の部分が電流注入領域61Aとなる。
【0116】
第2化合物半導体層22上に絶縁層34を形成した場合、絶縁層34が形成された領域(電流非注入領域61B)における共振器長は、絶縁層34が形成されていない領域(電流注入領域61A)における共振器長よりも、絶縁層34の光学的厚さ分だけ長くなる。それ故、面発光レーザ素子(発光素子)の2つの光反射層41,42によって形成される共振器を往復するレーザ光が共振器外へと発散・散逸する作用が生じてしまう。このような作用を、便宜上、『逆レンズ効果』と呼ぶ。そして、その結果、レーザ光に発振モードロスが生じ、閾値電流が増加したり、スロープ効率が悪化する虞が生じる。ここで、『発振モードロス』とは、発振するレーザ光における基本モード及び高次モードの光場強度に増減を与える物理量であり、個々のモードに対して異なる発振モードロスが定義される。尚、『光場強度』は、XY平面におけるZ軸からの距離Lを関数とした光場強度であり、一般に、基本モードにおいては距離Lが増加するに従い単調に減少するが、高次モードにおいては距離Lが増加するに従い増減を一度若しくは複数繰り返しながら減少に至る(
図13の(A)の概念図を参照)。尚、
図13において、実線は基本モードの光場強度分布、破線は高次モードの光場強度分布を示す。また、
図13において、第1光反射層41を、便宜上、平坦状態で表示しているが、実際には突出部の上に形成されている。
【0117】
実施例6の発光素子あるいは後述する実施例7~実施例9の発光素子は、
(A)第1面21a、及び、第1面21aと対向する第2面21bを有する第1化合物半導体層21、
第1化合物半導体層21の第2面21bと面する活性層(発光層)23、及び、
活性層23と面する第1面22a、及び、第1面22aと対向する第2面22bを有する第2化合物半導体層22、
が積層された、GaN系化合物半導体から成る積層構造体20、
(B)第2化合物半導体層22の第2面22b上に設けられ、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域55を構成するモードロス作用部位(モードロス作用層)54、
(C)第2化合物半導体層22の第2面22bの上からモードロス作用部位54の上に亙り形成された第2電極32、
(D)第2電極32の上に形成された第2光反射層42、
(E)第1光反射層41、
(F)第1電極31、並びに、
(G)突出部45,46,47、又は、突出部43及び平滑化層44、
を備えている。
【0118】
そして、積層構造体20には、電流注入領域51、電流注入領域51を取り囲む電流非注入・内側領域52、及び、電流非注入・内側領域52を取り囲む電流非注入・外側領域53が形成されており、モードロス作用領域55の正射影像と電流非注入・外側領域53の正射影像とは重なり合っている。即ち、電流非注入・外側領域53はモードロス作用領域55の下方に位置している。尚、電流が注入される電流注入領域51から充分に離れた領域においては、モードロス作用領域55の正射影像と電流非注入・外側領域53の正射影像とは重なり合っていなくともよい。ここで、積層構造体20には、電流が注入されない電流非注入領域52,53が形成されているが、図示した例では、厚さ方向、第2化合物半導体層22から第1化合物半導体層21の一部に亙り形成されている。但し、電流非注入領域52,53は、厚さ方向、第2化合物半導体層22の第2電極側の領域に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層22全体に形成されていてもよいし、第2化合物半導体層22及び活性層23に形成されていてもよい。
【0119】
モードロス作用部位(モードロス作用層)54は、SiO2といった誘電体材料から成り、実施例6あるいは後述する実施例7~実施例9の発光素子においては、第2電極32と第2化合物半導体層22との間に形成されている。モードロス作用部位54の光学的厚さは、発振波長λ0の1/4の整数倍から外れる値とすることができる。あるいは又、モードロス作用部位54の光学的厚さt0は、発振波長λ0の1/4の整数倍とすることもできる。即ち、モードロス作用部位54の光学的厚さt0は、発光素子において生成した光の位相を乱さず、定在波を破壊しないような厚さとすることができる。但し、厳密に1/4の整数倍である必要はなく、
(λ0/4nm-loss)×m-(λ0/8nm-loss)≦t0≦(λ0/4nm-loss)×2m+(λ0/8nm-loss)
を満足すればよい。具体的には、モードロス作用部位54の光学的厚さt0は、発光素子において生成した光の波長の1/4の値を「100」としたとき、25乃至250程度とすることが好ましい。そして、これらの構成を採用することで、モードロス作用部位54を通過するレーザ光と、電流注入領域51を通過するレーザ光との間の位相差を変える(位相差を制御する)ことができ、発振モードロスの制御を一層高い自由度をもって行うことができるし、発光素子の設計自由度を一層高くすることができる。
【0120】
実施例6において、電流注入領域51と電流非注入・内側領域52との境界の形状を円形(直径:8μm)とし、電流非注入・内側領域52と電流非注入・外側領域53との境界の形状を円形(直径:12μm)とした。即ち、電流注入領域51の正射影像の面積をS1、電流非注入・内側領域52の正射影像の面積をS2としたとき、
0.01≦S1/(S1+S2)≦0.7
を満足する。具体的には、
S1/(S1+S2)=82/122=0.44
である。
【0121】
実施例6あるいは後述する実施例7~実施例8の発光素子において、電流注入領域51における活性層23から第2化合物半導体層22の第2面までの光学的距離をL
2、モードロス作用領域55における活性層23からモードロス作用部位54の頂面(第2電極32と対向する面)までの光学的距離をL
0としたとき、
L
0>L
2
を満足する。具体的には、
L
0/L
2=1.5
とした。そして、生成した高次モードを有するレーザ光は、モードロス作用領域55により、第1光反射層41と第2光反射層42とによって構成される共振器構造の外側に向かって散逸させられ、以て、発振モードロスが増加する。即ち、生じる基本モード及び高次モードの光場強度が、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域55の存在によって、モードロス作用領域55の正射影像内において、Z軸から離れるほど、減少するが(
図13の(B)の概念図を参照)、基本モードの光場強度の減少よりも高次モードの光場強度の減少の方が多く、基本モードを一層安定化させることができるし、閾値電流の低下を図ることができるし、基本モードの相対的な光場強度を増加させることができる。しかも、高次モードの光場強度の裾の部分は、電流注入領域から、従来の発光素子(
図13の(A)参照)よりも一層遠くに位置するので、逆レンズ効果の影響の低減を図ることができる。尚、そもそも、SiO
2から成るモードロス作用部位54を設けない場合、発振モード混在が発生してしまう。
【0122】
第1化合物半導体層21はn-GaN層から成り、活性層23はIn0.04Ga0.96N層(障壁層)とIn0.16Ga0.84N層(井戸層)とが積層された5重の多重量子井戸構造から成り、第2化合物半導体層22はp-GaN層から成る。また、第1電極31はTi/Pt/Auから成り、第2電極32は、透明導電性材料、具体的には、ITOから成る。モードロス作用部位54には円形の開口部54Aが形成されており、この開口部54Aの底部に第2化合物半導体層22が露出している。第1電極31の縁部の上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、例えばTi/Pt/Au又はV/Pt/Auから成るパッド電極(図示せず)が形成あるいは接続されている。第2電極32の縁部の上には、外部の電極あるいは回路と電気的に接続するための、例えばTi/Pd/Au又はTi/Ni/Auから成るパッド電極33が形成あるいは接続されている。第1光反射層41及び第2光反射層42は、SiN層とSiO2層の積層構造(誘電体膜の積層総数:20層)から成る。
【0123】
実施例6の発光素子において、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53は、積層構造体20へのイオン注入によって形成される。イオン種として、例えば、ボロンを選択したが、ボロンイオンに限定するものではない。
【0124】
以下、実施例6の発光素子の製造方法の概要を説明する。
【0125】
[工程-600] 実施例6の発光素子の製造にあっては、先ず、実施例1の[工程-100]と同様の工程を実行する。
【0126】
[工程-610]
次いで、ボロンイオンを用いたイオン注入法に基づき、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53を積層構造体20に形成する。
【0127】
[工程-620]
その後、実施例1の[工程-110]と同様の工程において、第2化合物半導体層22の第2面22b上に、周知の方法に基づき、開口部54Aを有し、SiO
2から成るモードロス作用部位(モードロス作用層)54を形成する(
図12A及び
図12B参照)。
【0128】
[工程-630]
その後、実施例1の[工程-120]~[工程-160]と同様の工程を実行することで、実施例6の発光素子を得ることができる。
【0129】
実施例6の発光素子において、積層構造体には、電流注入領域、電流注入領域を取り囲む電流非注入・内側領域、及び、電流非注入・内側領域を取り囲む電流非注入・外側領域が形成されており、モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っている。即ち、電流注入領域とモードロス作用領域とは、電流非注入・内側領域によって隔てられている(切り離されている)。それ故、概念図を
図13の(B)に示すように、発振モードロスの増減(具体的には、実施例6にあっては増加)を所望の状態とすることが可能となる。あるいは又、電流注入領域とモードロス作用領域との位置関係、モードロス作用領域を構成するモードロス作用部位の厚さ等を、適宜、決定することで、発振モードロスの増減を所望の状態とすることが可能となる。そして、その結果、例えば、閾値電流が増加したり、スロープ効率が悪化するといった従来の発光素子における問題を解決することができる。例えば、基本モードにおける発振モードロスを減少させることによって、閾値電流の低下を図ることができる。しかも、発振モードロスが与えられる領域と電流が注入され発光に寄与する領域とを独立して制御することができるので、即ち、発振モードロスの制御と発光素子の発光状態の制御とを独立して行うことができるので、制御の自由度、発光素子の設計自由度を高くすることができる。具体的には、電流注入領域、電流非注入領域及びモードロス作用領域を上記の所定の配置関係とすることで、基本モード及びより高次のモードに対してモードロス作用領域が与える発振モードロスの大小関係を制御することができ、高次モードに与える発振モードロスを基本モードに与える発振モードロスに対して相対的に大きくすることで、基本モードを一層安定化させることができる。しかも、実施例6の発光素子にあっても、突出部を有するので、回折損失の発生を一層確実に抑制することができる。
【実施例7】
【0130】
実施例7は、実施例6の変形であり、第2-B構成の発光素子に関する。模式的な一部端面図を
図14に示すように、実施例7の発光素子において、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53は、第2化合物半導体層22の第2面へのプラズマ照射、又は、第2化合物半導体層22の第2面へのアッシング処理、又は、第2化合物半導体層22の第2面への反応性イオンエッチング(RIE)処理によって形成される。そして、このように電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53はプラズマ粒子(具体的には、アルゴン、酸素、窒素等)に晒されるので、第2化合物半導体層22の導電性に劣化が生じ、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53は高抵抗状態となる。即ち、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53は、第2化合物半導体層22の第2面22bのプラズマ粒子への暴露によって形成される。尚、
図14、
図15、
図16、
図17においては、第1電極31や突出部43,45,46,47、平滑化層44の図示を省略した。
【0131】
実施例7においても、電流注入領域51と電流非注入・内側領域52との境界の形状を円形(直径:10μm)とし、電流非注入・内側領域52と電流非注入・外側領域53との境界の形状を円形(直径:15μm)とした。即ち、電流注入領域51の正射影像の面積をS1、電流非注入・内側領域52の正射影像の面積をS2としたとき、
0.01≦S1/(S1+S2)≦0.7
を満足する。具体的には、
S1/(S1+S2)=102/152=0.44
である。
【0132】
実施例7にあっては、実施例6の[工程-610]の代わりに、第2化合物半導体層22の第2面へのプラズマ照射、又は、第2化合物半導体層22の第2面へのアッシング処理、又は、第2化合物半導体層22の第2面への反応性イオンエッチング処理に基づき、電流非注入・内側領域52及び電流非注入・外側領域53を積層構造体20に形成すればよい。
【0133】
以上の点を除き、実施例7の発光素子の構成、構造は、実施例6の発光素子と構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0134】
実施例7あるいは後述する実施例8の発光素子にあっても、電流注入領域、電流非注入領域及びモードロス作用領域を前述した所定の配置関係とすることで、基本モード及びより高次のモードに対してモードロス作用領域が与える発振モードロスの大小関係を制御することができ、高次モードに与える発振モードロスを基本モードに与える発振モードロスに対して相対的に大きくすることで、基本モードを一層安定化させることができる。
【実施例8】
【0135】
実施例8は、実施例6~実施例7の変形であり、第2-C構成の発光素子に関する。模式的な一部端面図を
図15に示すように、実施例8の発光素子において、第2光反射層42は、第1光反射層41からの光を、第1光反射層41と第2光反射層42とによって構成される共振器構造の外側に向かって(即ち、モードロス作用領域55に向かって)反射あるいは散乱する領域を有する。具体的には、モードロス作用部位(モードロス作用層)54の側壁(開口部54Bの側壁)の上方に位置する第2光反射層42の部分は、順テーパー状の傾斜部42Aを有し、あるいは又、第1光反射層41に向かって凸状に湾曲した領域を有する。
【0136】
実施例8において、電流注入領域51と電流非注入・内側領域52との境界の形状を円形(直径:8μm)とし、電流非注入・内側領域52と電流非注入・外側領域53との境界の形状を円形(直径:10μm乃至20μm)とした。
【0137】
実施例8にあっては、実施例6の[工程-620]と同様の工程において、開口部54Bを有し、SiO2から成るモードロス作用部位(モードロス作用層)54を形成するとき、順テーパー状の側壁を有する開口部54Bを形成すればよい。具体的には、第2化合物半導体層22の第2面22b上に形成されたモードロス作用層の上にレジスト層を形成し、開口部54Bを形成すべきレジスト層の部分に、フォトリソグラフィ技術に基づき開口を設ける。周知の方法に基づき、この開口の側壁を順テーパー状とする。そして、エッチバックを行うことで、モードロス作用部位(モードロス作用層)54に順テーパー状の側壁を有する開口部54Bを形成することができる。更には、このようなモードロス作用部位(モードロス作用層)54の上に、第2電極32、第2光反射層42を形成することで、第2光反射層42に順テーパー状の傾斜部42Aを付与することができる。
【0138】
以上の点を除き、実施例8の発光素子の構成、構造は、実施例6~実施例7の発光素子と構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【実施例9】
【0139】
実施例9は、実施例6~実施例8の変形であり、第2-D構成の発光素子に関する。実施例9の発光素子の模式的な一部端面図を
図16に示し、要部を切り出した模式的な一部端面図を
図17に示すように、第2化合物半導体層22の第2面22b側には凸部22Aが形成されている。そして、
図16及び
図17に示すように、モードロス作用部位(モードロス作用層)54は、凸部22Aを囲む第2化合物半導体層22の第2面22bの領域22Bの上に形成されている。凸部22Aは、電流注入領域51、電流注入領域51及び電流非注入・内側領域52を占めている。モードロス作用部位(モードロス作用層)54は、実施例6と同様に、例えば、SiO
2といった誘電体材料から成る。領域22Bには、電流非注入・外側領域53が設けられている。電流注入領域51における活性層23から第2化合物半導体層22の第2面までの光学的距離をL
2、モードロス作用領域55における活性層23からモードロス作用部位54の頂面(第2電極32と対向する面)までの光学的距離をL
0としたとき、
L
0<L
2
を満足する。具体的には、
L
2/L
0=1.5
とした。これによって、発光素子にはレンズ効果が生じる。
【0140】
実施例9の発光素子にあっては、生成した高次モードを有するレーザ光は、モードロス作用領域55により、電流注入領域51及び電流非注入・内側領域52に閉じ込められ、以て、発振モードロスが減少する。即ち、生じる基本モード及び高次モードの光場強度が、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域55の存在によって、電流注入領域51及び電流非注入・内側領域52の正射影像内において増加する。
【0141】
実施例9において、電流注入領域51と電流非注入・内側領域52との境界の形状を円形(直径:8μm)とし、電流非注入・内側領域52と電流非注入・外側領域53との境界の形状を円形(直径:30μm)とした。
【0142】
実施例9にあっては、実施例6の[工程-610]と[工程-620]との間において、第2化合物半導体層22の一部を第2面22b側から除去することで、凸部22Aを形成すればよい。
【0143】
以上の点を除き、実施例9の発光素子の構成、構造は、実施例6の発光素子と構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。実施例9の発光素子にあっては、種々のモードに対してモードロス作用領域が与える発振モードロスを抑制し、横モードを多モード発振させるのみならず、レーザ発振の閾値を低減することができる。また、概念図を
図13の(C)に示すように、生じる基本モード及び高次モードの光場強度を、発振モードロスの増減(具体的には、実施例9にあっては、減少)に作用するモードロス作用領域の存在によって、電流注入領域及び電流非注入・内側領域の正射影像内において増加させることができる。
【実施例10】
【0144】
実施例10は、実施例1~実施例9の変形であり、第3構成の発光素子に関する。
【0145】
ところで、2つのDBR層及びその間に形成された積層構造体によって構成された積層構造体における共振器長LORは、積層構造体全体の等価屈折率をneq、面発光レーザ素子(発光素子)から出射すべきレーザ光の波長をλ0としたとき、
L=(m・λ0)/(2・neq)
で表される。ここで、mは、正の整数である。そして、面発光レーザ素子(発光素子)において、発振可能な波長は共振器長LORによって決まる。発振可能な個々の発振モードは縦モードと呼ばれる。そして、縦モードの内、活性層によって決まるゲインスペクトルと合致するものが、レーザ発振し得る。縦モードの間隔Δλは、実効屈折率をneffとしたとき、
λ0
2/(2neff・L)
で表される。即ち、共振器長LORが長いほど、縦モードの間隔Δλは狭くなる。よって、共振器長LORが長い場合、複数の縦モードがゲインスペクトル内に存在し得るため、複数の縦モードが発振し得る。尚、等価屈折率neqと実効屈折率neffとの間には、発振波長をλ0としたとき、以下の関係がある。
【0146】
neff=neq-λ0・(dneq/dλ0)
【0147】
ここで、積層構造体をGaAs系化合物半導体層から構成する場合、共振器長L
ORは、通常、1μm以下と短く、面発光レーザ素子から出射される縦モードのレーザ光は、1種類(1波長)である(
図26Aの概念図を参照)。従って、面発光レーザ素子から出射される縦モードのレーザ光の発振波長を正確に制御することが可能である。一方、積層構造体をGaN系化合物半導体層から構成する場合、共振器長L
ORは、通常、面発光レーザ素子から出射されるレーザ光の波長の数倍と長い。従って、面発光レーザ素子から出射され得る縦モードのレーザ光が複数種類となってしまう(
図26Bの概念図を参照)。
【0148】
模式的な一部端面図を
図18に示すように、実施例10の発光素子、あるいは又、後述する実施例11~実施例12の発光素子において、第2電極32を含む積層構造体20には、活性層23が占める仮想平面と平行に、少なくとも2層の光吸収材料層71が、好ましくは、少なくとも4層の光吸収材料層71が、具体的には、実施例10にあっては20層の光吸収材料層71が、形成されている。尚、図面を簡素化するため、図面では2層の光吸収材料層71のみを示した。
【0149】
実施例10において、発振波長(発光素子から出射される所望の発振波長)λ0は450nmである。20層の光吸収材料層71は、積層構造体20を構成する化合物半導体よりもバンドギャップの狭い化合物半導体材料、具体的には、n-In0.2Ga0.8Nから成り、第1化合物半導体層21の内部に形成されている。光吸収材料層71の厚さはλ0/(4・neq)以下、具体的には、3nmである。また、光吸収材料層71の光吸収係数は、n-GaN層から成る第1化合物半導体層21の光吸収係数の2倍以上、具体的には、1×103倍である。
【0150】
また、積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最小振幅部分に光吸収材料層71が位置するし、積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最大振幅部分に活性層23が位置する。活性層23の厚さ方向中心と、活性層23に隣接した光吸収材料層71の厚さ方向中心との間の距離は、46.5nmである。更には、2層の光吸収材料層71、及び、光吸収材料層71と光吸収材料層71との間に位置する積層構造体の部分(具体的には、実施例10にあっては、第1化合物半導体層21)の全体の等価屈折率をneq、光吸収材料層71と光吸収材料層71との間の距離をLAbsとしたとき、
0.9×{(m・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(m・λ0)/(2・neq)}
を満足する。ここで、mは、1、又は、1を含む2以上の任意の整数である。但し、実施例10においては、m=1とした。従って、隣接する光吸収材料層71の間の距離は、全ての複数の光吸収材料層71(20層の光吸収材料層71)において、
0.9×{λ0/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{λ0/(2・neq)}
を満足する。等価屈折率neqの値は、具体的には、2.42であり、m=1としたとき、具体的には、
LAbs=1×450/(2×2.42)
=93.0nm
である。尚、20層の光吸収材料層71の内、一部の光吸収材料層71にあっては、mを、2以上の任意の整数とすることもできる。
【0151】
実施例10の発光素子の製造にあっては、実施例1の[工程-100]と同様の工程において、積層構造体20を形成するが、このとき、第1化合物半導体層21の内部に20層の光吸収材料層71を併せて形成する。この点を除き、実施例10の発光素子は、実施例1の発光素子と同様の方法に基づき製造することができる。
【0152】
活性層23によって決まるゲインスペクトル内に複数の縦モードが発生する場合、これを模式的に表すと
図19のようになる。尚、
図19においては、縦モードAと縦モードBの2つの縦モードを図示する。そして、この場合、光吸収材料層71が、縦モードAの最小振幅部分に位置し、且つ、縦モードBの最小振幅部分には位置しないとする。とすると、縦モードAのモードロスは最小化されるが、縦モードBのモードロスは大きい。
図19において、縦モードBのモードロス分を模式的に実線で示す。従って、縦モードAの方が、縦モードBよりも発振し易くなる。それ故、このような構造を用いることで、即ち、光吸収材料層71の位置や周期を制御することで、特定の縦モードを安定化させることができ、発振し易くすることができる。その一方で、望ましくないそれ以外の縦モードに対するモードロスを増加させることができるので、望ましくないそれ以外の縦モードの発振を抑制することが可能となる。
【0153】
以上のとおり、実施例10の発光素子にあっては、少なくとも2層の光吸収材料層が積層構造体の内部に形成されているので、面発光レーザ素子から出射され得る複数種類の縦モードのレーザ光の内、不所望の縦モードのレーザ光の発振を一層効果的に抑制することができる。その結果、出射されるレーザ光の発振波長を一層正確に制御することが可能となる。しかも、尚、実施例10の発光素子にあっても、突出部を有するので、回折損失の発生を確実に抑制することができる。
【実施例11】
【0154】
実施例11は、実施例10の変形である。実施例10においては、光吸収材料層71を、積層構造体20を構成する化合物半導体よりもバンドギャップの狭い化合物半導体材料から構成した。一方、実施例11においては、10層の光吸収材料層71を、不純物をドープした化合物半導体材料、具体的には、1×1019/cm3の不純物濃度(不純物:Si)を有する化合物半導体材料(具体的には、n-GaN:Si)から構成した。また、実施例11にあっては、発振波長λ0を515nmとした。尚、活性層23の組成は、In0.3Ga0.7Nである。実施例11にあっては、m=1とし、LAbsの値は107nmであり、活性層23の厚さ方向中心と、活性層23に隣接した光吸収材料層71の厚さ方向中心との間の距離は53.5nmであり、光吸収材料層71の厚さは3nmである。以上の点を除き、実施例11の発光素子の構成、構造は、実施例10の発光素子の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、10層の光吸収材料層71の内、一部の光吸収材料層71にあっては、mを、2以上の任意の整数とすることもできる。
【実施例12】
【0155】
実施例12も、実施例10の変形である。実施例12においては、5層の光吸収材料層(便宜上、『第1の光吸収材料層』と呼ぶ)を、実施例10の光吸収材料層71と同様の構成、即ち、n-In0.3Ga0.7Nから構成した。更には、実施例12にあっては、1層の光吸収材料層(便宜上、『第2の光吸収材料層』と呼ぶ)を透明導電性材料から構成した。具体的には、第2の光吸収材料層を、ITOから成る第2電極32と兼用した。実施例12にあっては、発振波長λ0を450nmとした。また、m=1及び2とした。m=1にあっては、LAbsの値は93.0nmであり、活性層23の厚さ方向中心と、活性層23に隣接した第1の光吸収材料層の厚さ方向中心との間の距離は46.5nmであり、5層の第1の光吸収材料層の厚さは3nmである。即ち、5層の第1の光吸収材料層にあっては、
0.9×{λ0/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{λ0/(2・neq)}
を満足する。また、活性層23に隣接した第1の光吸収材料層と、第2の光吸収材料層とは、m=2とした。即ち、
0.9×{(2・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(2・λ0)/(2・neq)}
を満足する。第2電極32を兼用する1層の第2の光吸収材料層の光吸収係数は2000cm-1、厚さは30nmであり、活性層23から第2の光吸収材料層までの距離は139.5nmである。以上の点を除き、実施例12の発光素子の構成、構造は、実施例10の発光素子の構成、構造と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。尚、5層の第1の光吸収材料層の内、一部の第1の光吸収材料層にあっては、mを、2以上の任意の整数とすることもできる。尚、実施例10と異なり、光吸収材料層71の数を1とすることもできる。この場合にも、第2電極32を兼ねた第2の光吸収材料層と光吸収材料層71の位置関係は、以下の式を満たす必要がある。
0.9×{(m・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(m・λ0)/(2・neq)}
【0156】
以上、本開示を好ましい実施例に基づき説明したが、本開示はこれらの実施例に限定するものではない。実施例において説明した発光素子の構成、構造は例示であり、適宜、変更することができるし、発光素子の製造方法も、適宜、変更することができる。場合によっては、第1化合物半導体層から第1光反射層を介して光を出射する面発光レーザ素子とすることもできるし、この場合、接合層48を介して支持基板49によって第2光反射層を支持してもよい(実施例1の発光素子の変形例である
図20、及び、実施例2の発光素子の変形例である
図21を参照)。更には、接合層や支持基板を適切に選択することで、第2化合物半導体層の頂面から第2光反射層を介して光を出射する面発光レーザ素子とすることもできる。
【0157】
尚、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
[A01]《発光素子》
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体、
第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極、並びに、
第2化合物半導体層の第2面上に形成された第2電極及び第2光反射層、
を備えており、
第1化合物半導体層の第1面側には突出部が形成されており、
少なくとも突出部の上には平滑化層が形成されており、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
少なくとも平滑化層の一部の上には、第1光反射層が形成されており、
第2光反射層は、平坦な形状を有する発光素子。
[A02]平滑化層と第1光反射層との界面における平滑化層の表面粗さRa1の値は、突出部と平滑化層との界面における突出部の表面粗さRa2の値よりも小さい[A01]に記載の発光素子。
[A03]表面粗さRa1の値は1.0nm以下である[A02]に記載の発光素子。
[A04]突出部の頂部における平滑化層の平均厚さは、突出部の縁部における平滑化層の平均厚さよりも薄い[A01]乃至[A03]のいずれか1項に記載の発光素子。
[A05]平滑化層の曲率半径は、1×10-5m乃至1×10-3mである[A01]乃至[A04]のいずれか1項に記載の発光素子。
[A06]平滑化層を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である[A01]乃至[A05]のいずれか1項に記載の発光素子。
[B01]《発光素子の製造方法:第1の態様》
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成し、次いで、
第2化合物半導体層の第2面上に第2電極及び第2光反射層を形成し、その後、
第1化合物半導体層の第1面側に突出部を形成し、次いで、
少なくとも突出部の上に平滑化層を形成した後、平滑化層の表面を平滑化し、その後、
少なくとも平滑化層の一部の上に第1光反射層を形成し、第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極を形成する、
各工程から成り、
突出部及び平滑化層は、凹面鏡部を構成し、
第2光反射層は、平坦な形状を有する発光素子の製造方法。
[B02]平滑化層表面の平滑化処理は、湿式エッチング法に基づく[B01]に記載の発光素子の製造方法。
[B03]平滑化層表面の平滑化処理は、乾式エッチング法に基づく[B01]に記載の発光素子の製造方法。
[B04]平滑化層と第1光反射層との界面における平滑化層の表面粗さRa1の値は、突出部と平滑化層との界面における突出部の表面粗さRa2の値よりも小さい[B01]乃至[B03]のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
[B05]表面粗さRa1の値は1.0nm以下である[B04]に記載の発光素子の製造方法。
[B06]突出部の頂部における平滑化層の平均厚さは、突出部の縁部における平滑化層の平均厚さよりも薄い[B01]乃至[B05]のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
[B07]平滑化層の曲率半径は、1×10-5m乃至1×10-3mである[B01]乃至[B06]のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
[B08]平滑化層を構成する材料は、誘電体材料、スピン・オン・グラス系材料、低融点ガラス材料、半導体材料及び樹脂から成る群から選択された少なくとも1種類の材料である[B01]乃至[B07]のいずれか1項に記載の発光素子の製造方法。
[C01]《発光素子の製造方法:第2の態様》
第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第1化合物半導体層、第1化合物半導体層の第2面と面する活性層、並びに、活性層と面する第1面、及び、第1面と対向する第2面を有する第2化合物半導体層が積層された積層構造体を形成し、次いで、
第2化合物半導体層の第2面上に第2電極及び第2光反射層を形成し、その後、
第1化合物半導体層の第1面側に突出部を形成した後、突出部の表面を平滑化し、次いで、
少なくとも突出部の一部の上に第1光反射層を形成し、第1化合物半導体層に電気的に接続された第1電極を形成する、
各工程から成り、
突出部は、凹面鏡部を構成し、
第2光反射層は、平坦な形状を有する発光素子の製造方法。
[C02]突出部表面の平滑化処理は、湿式エッチング法に基づく[C01]に記載の発光素子の製造方法。
[C03]突出部表面の平滑化処理は、乾式エッチング法に基づく[C01]に記載の発光素子の製造方法。
[D01]《第1構成の発光素子》
第2化合物半導体層には、電流注入領域及び電流注入領域を取り囲む電流非注入領域が設けられており、
電流注入領域の面積重心点から、電流注入領域と電流非注入領域の境界までの最短距離DCIは、以下の式を満足する[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の発光素子。
DCI≧ω0/2
但し、
ω0
2≡(λ0/π){LOR(RDBR-LOR)}1/2
ここで、
λ0 :発光素子から主に出射される光の波長
LOR :共振器長
RDBR:第1光反射層の内面の曲率半径
[D02]第2化合物半導体層の第2面上に設けられ、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域を構成するモードロス作用部位、及び、
第2化合物半導体層の第2面上からモードロス作用部位上に亙り形成された第2電極、
を更に備えており、
積層構造体には、電流注入領域、電流注入領域を取り囲む電流非注入・内側領域、及び、電流非注入・内側領域を取り囲む電流非注入・外側領域が形成されており、
モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っている[D01]に記載の発光素子。
[D03]第1光反射層の有効領域の半径r’DBRは、
ω0≦r’DBR≦20・ω0
を満足する[D01]又は[D02]に記載の発光素子。
[D04]DCI≧ω0を満足する[D01]乃至[D03]のいずれか1項に記載の発光素子。
[D05]RDBR≦1×10-3mを満足する[D01]乃至[D04]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E01]《第2構成の発光素子》
第2化合物半導体層の第2面上に設けられ、発振モードロスの増減に作用するモードロス作用領域を構成するモードロス作用部位、及び、
第2化合物半導体層の第2面上からモードロス作用部位上に亙り形成された第2電極、
を更に備えており、
積層構造体には、電流注入領域、電流注入領域を取り囲む電流非注入・内側領域、及び、電流非注入・内側領域を取り囲む電流非注入・外側領域が形成されており、
モードロス作用領域の正射影像と電流非注入・外側領域の正射影像とは重なり合っている[A01]乃至[A06]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E02]電流非注入・外側領域はモードロス作用領域の下方に位置している[E01]に記載の発光素子。
[E03]電流注入領域の射影像の面積をS1、電流非注入・内側領域の射影像の面積をS2としたとき、
0.01≦S1/(S1+S2)≦0.7
を満足する[E01]又は[E02]に記載の発光素子。
[E04]《第2-A構成の発光素子》
電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は、積層構造体へのイオン注入によって形成される[E01]乃至[E03]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E05]イオン種は、ボロン、プロトン、リン、ヒ素、炭素、窒素、フッ素、酸素、ゲルマニウム及びシリコンから成る群から選択された少なくとも1種類のイオンである[E04]に記載の発光素子。
[E06]《第2-B構成の発光素子》
電流非注入・内側領域及び電流非注入・外側領域は、第2化合物半導体層の第2面へのプラズマ照射、又は、第2化合物半導体層の第2面へのアッシング処理、又は、第2化合物半導体層の第2面への反応性イオンエッチング処理によって形成される[E01]乃至[E05]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E07]《第2-C構成の発光素子》
第2光反射層は、第1光反射層からの光を、第1光反射層と第2光反射層とによって構成される共振器構造の外側に向かって反射あるいは散乱する領域を有する[E01]乃至[E06]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E08]電流注入領域における活性層から第2化合物半導体層の第2面までの光学的距離をL2、モードロス作用領域における活性層からモードロス作用部位の頂面までの光学的距離をL0としたとき、
L0>L2
を満足する[E04]乃至[E07]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E09]生成した高次モードを有する光は、モードロス作用領域により、第1光反射層と第2光反射層とによって構成される共振器構造の外側に向かって散逸させられ、以て、発振モードロスが増加する[E04]乃至[E08]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E10]モードロス作用部位は、誘電体材料、金属材料又は合金材料から成る[E04]乃至[E09]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E11]モードロス作用部位は誘電体材料から成り、
モードロス作用部位の光学的厚さは、発光素子において生成した光の波長の1/4の整数倍から外れる値である[E10]に記載の発光素子。
[E12]モードロス作用部位は誘電体材料から成り、
モードロス作用部位の光学的厚さは、発光素子において生成した光の波長の1/4の整数倍である[E10]に記載の発光素子。
[E13]《第2-D構成の発光素子》
第2化合物半導体層の第2面側には凸部が形成されており、
モードロス作用部位は、凸部を囲む第2化合物半導体層の第2面の領域上に形成されている[E01]乃至[E03]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E14]電流注入領域における活性層から第2化合物半導体層の第2面までの光学的距離をL2、モードロス作用領域における活性層からモードロス作用部位の頂面までの光学的距離をL0としたとき、
L0<L2
を満足する[E13]に記載の発光素子。
[E15]生成した高次モードを有する光は、モードロス作用領域により、電流注入領域及び電流非注入・内側領域に閉じ込められ、以て、発振モードロスが減少する[E13]又は[E14]に記載の発光素子。
[E16]モードロス作用部位は、誘電体材料、金属材料又は合金材料から成る[E13]乃至[E15]のいずれか1項に記載の発光素子。
[E17]第2電極は、透明導電性材料から成る[E01]乃至[E16]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F01]《第3構成の発光素子》
第2電極を含む積層構造体には、活性層が占める仮想平面と平行に、少なくとも2層の光吸収材料層が形成されている[A01]乃至[E17]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F02]少なくとも4層の光吸収材料層が形成されている[F01]に記載の発光素子。
[F03]発振波長をλ0、2層の光吸収材料層、及び、光吸収材料層と光吸収材料層との間に位置する積層構造体の部分の全体の等価屈折率をneq、光吸収材料層と光吸収材料層との間の距離をLAbsとしたとき、
0.9×{(m・λ0)/(2・neq)}≦LAbs≦1.1×{(m・λ0)/(2・neq)}
を満足する[F01]又は[F02]に記載の発光素子。
但し、mは、1、又は、1を含む2以上の任意の整数である。
[F04]光吸収材料層の厚さは、λ0/(4・neq)以下である[F01]乃至[F03]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F05]積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最小振幅部分に光吸収材料層が位置する[F01]乃至[F04]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F06]積層構造体の内部において形成される光の定在波に生じる最大振幅部分に活性層が位置する[F01]乃至[F05]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F07]光吸収材料層は、積層構造体を構成する化合物半導体の光吸収係数の2倍以上の光吸収係数を有する[F01]乃至[F06]のいずれか1項に記載の発光素子。
[F08]光吸収材料層は、積層構造体を構成する化合物半導体よりもバンドギャップの狭い化合物半導体材料、不純物をドープした化合物半導体材料、透明導電性材料、及び、光吸収特性を有する光反射層構成材料から成る群から選択された少なくとも1種類の材料から構成されている[F01]乃至[F07]のいずれか1項に記載の発光素子。
【符号の説明】
【0158】
11・・・基板、11a・・・基板の第1面、11b・・・基板の第2面、20・・・積層構造体、21・・・第1化合物半導体層、21a・・・第1化合物半導体層の第1面、21b・・・第1化合物半導体層の第2面、22・・・第2化合物半導体層、22a・・・第2化合物半導体層の第1面、22b・・・第2化合物半導体層の第2面、23・・・活性層(発光層)、31・・・第1電極、32・・・第2電極、33・・・パッド電極、34・・・絶縁層(電流狭窄層)、34A・・・絶縁層(電流狭窄層)に設けられた開口部、41・・・第1光反射層、41a・・・第1光反射層の内面、41b・・・第1光反射層の有効領域、42・・・第2光反射層、43,45,46,47・・・突出部、44・・・平滑化層、48・・・接合層、49・・・支持基板、51・・・電流注入領域、52・・・電流非注入・内側領域、53・・・電流非注入・外側領域、54・・・モードロス作用部位(モードロス作用層)、54A,54B・・・モードロス作用部位に形成された開口部、55・・・モードロス作用領域、61A・・・電流注入領域、61B・・・電流非注入領域、61C・・・電流注入領域と電流非注入領域の境界、71・・・光吸収材料層、81・・・レジスト層、82・・・レジスト層の突出部