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特許7521546磁性粒子およびその製造方法、ならびに磁心およびコイル部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】磁性粒子およびその製造方法、ならびに磁心およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20240717BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20240717BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240717BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240717BHJP
   B22F 1/102 20220101ALI20240717BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240717BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240717BHJP
   H01F 1/22 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/26
H01F27/255
H01F17/04 F
B22F1/102 100
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
H01F1/22
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022011023
(22)【出願日】2022-01-27
(65)【公開番号】P2022119737
(43)【公開日】2022-08-17
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2021016771
(32)【優先日】2021-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】税所 亮太
(72)【発明者】
【氏名】久保田 博信
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/131536(WO,A1)
【文献】特開2019-104954(JP,A)
【文献】特開2009-155545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
H01F 1/26
H01F 27/255
H01F 17/04
B22F 1/102
B22F 3/00
B22F 1/00
H01F 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性体のコアと、前記コアの表面を被覆する被膜とを有する磁性粒子であって、
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド;および
金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシド
を用いた反応生成物を含有し、
前記第1金属アルコキシドは以下の一般式(1)で表される化合物、またはその混合物であり、
前記第2金属アルコキシドは、Si原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上有する化合物である、磁性粒子
【化1】
(式(1)中、M は、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrである;
xはM の価数であって、1~4の整数である;
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基または-C(R )=CH-CO-R (式中、R は炭素原子数1~10のアルキル基であり、R は炭素原子数1~30のアルキル基、炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基である)である;R のうち、隣接する2つのR は、前記アルキル基のとき、互いに結合して、該2つのR が結合する酸素原子および該酸素原子が結合するM 原子とともに、1つの環を形成してもよい)
【請求項2】
前記第2金属アルコキシドは、以下の一般式(2A)で表される化合物、またはその混合物である、請求項1に記載の磁性粒子:
【化2】
(式(2A)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
31は、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である)。
【請求項3】
前記一般式(2A)において、R31は炭素原子数1~10の2価炭化水素基である、請求項に記載の磁性粒子。
【請求項4】
前記一般式(2A)において、R31は炭素原子数2~8の2価炭化水素基である、請求項に記載の磁性粒子。
【請求項5】
前記被膜は、前記第1金属アルコキシドを5重量%以上95重量%以下、および前記第2金属アルコキシドを5重量%以上95重量%以下で用いて作製される反応生成物を含み、前記重量比率は、前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドの合計重量を100重量%としたときの比率である、請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項6】
前記被膜は1nm以上100nm以下の平均厚みを有する、請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項7】
前記金属磁性体がFeを含む、請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項8】
前記金属磁性体が、Fe、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、またはFe-Ni合金である、請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子。
【請求項9】
金属磁性体のコア、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド、金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシドおよび溶媒を混合すること;
前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドを加水分解して乾燥することにより、前記金属磁性体のコアおよび前記コアの表面を被覆する被膜を有する磁性粒子を得ること
を含み、
前記第1金属アルコキシドは以下の一般式(1)で表される化合物、またはその混合物であり、
前記第2金属アルコキシドは、Si原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上有する化合物である、磁性粒子の製造方法
【化3】
(式(1)中、M は、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrである;
xはM の価数であって、1~4の整数である;
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基または-C(R )=CH-CO-R (式中、R は炭素原子数1~10のアルキル基であり、R は炭素原子数1~30のアルキル基、炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基である)である;R のうち、隣接する2つのR は、前記アルキル基のとき、互いに結合して、該2つのR が結合する酸素原子および該酸素原子が結合するM 原子とともに、1つの環を形成してもよい)
【請求項10】
前記第2金属アルコキシドは、以下の一般式(2A)で表される化合物、またはその混合物である、請求項に記載の磁性粒子の製造方法:
【化4】
(式(2A)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基である;
31は、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基である)。
【請求項11】
前記一般式(2A)において、R31は炭素原子数1~10の2価炭化水素基である、請求項10に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項12】
前記一般式(2A)において、R31は炭素原子数2~8の2価炭化水素基である、請求項11に記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項13】
前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドを混合する際の重量比率は、前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドの合計重量を100重量%としたとき、前記第2金属アルコキシドの比率が5重量%以上95重量%以下である、請求項12のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項14】
前記被膜は1nm以上100nm以下の平均厚みを有する、請求項13のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項15】
前記金属磁性体がFeを含む、請求項14のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項16】
前記金属磁性体が、Fe、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Al合金、Fe-Si-Al合金、またはFe-Ni合金である、請求項14のいずれかに記載の磁性粒子の製造方法。
【請求項17】
請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子を含む、磁心。
【請求項18】
請求項17の磁心と、該磁心の周囲に巻回されたコイルとを有して成るコイル部品。
【請求項19】
請求項1~のいずれかに記載の磁性粒子と樹脂とを含む素体と、前記素体に埋め込まれたコイルとを備えるコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粒子およびその製造方法、ならびに磁性粒子を用いた磁心およびコイル部品にも関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電気機器および電子機器において、インダクタ、チョークコイルなどのコイル部品が用いられている。コイル部品は、一般的にコイルと磁心から構成される。近年、電気機器および電子機器の小型化が進んでおり、これに伴い、これらに用いられるコイル部品も小型化が求められている。また、コイル部品は、小型であることに加え、優れた磁気的、電気的および機械的特性を有することが求められることから、磁心は、高透磁率、高磁束密度、低損失、高強度であることが求められる。中でも、高周波領域での使用においては、渦電流損の増加を抑制するために、磁心は高比抵抗であることが求められる。このような要求を満たすために、軟磁性材料を微細な粒子(粉末)とし、各粒子の表面を絶縁被膜で覆って圧縮成形した磁心が知られている。例えば、特許文献1には、表面が炭素で被覆され、さらにケイ素酸化物が主体の金属酸化物で被覆された磁性粒子の粉末を圧縮成形した磁心が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-209693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本願の発明者等は、従来の磁心(例えば特許文献1に記載の磁心)では以下の問題が生じることを見出した:
磁性粒子は相互に付着または凝集し易く、圧縮成形時において、十分な充填性を有さないため、得られる磁心の比透磁率は比較的低かった;
被膜は十分な耐破壊性を有さず、圧縮成形時において、破壊され易いため、得られる磁心の比抵抗は比較的低かった。
【0005】
従って、本発明の目的は、比透磁率および比抵抗がより十分に高い磁心の製造に用いられる磁性粒子およびその製造方法、ならびに当該磁性粒子を用いた磁心およびコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題を解消すべく鋭意検討した結果、磁心の製造に用いられる磁性材料のコアの表面に、特定の被膜を形成することにより、高比抵抗かつ高比透磁率の磁心を製造できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、
金属磁性体のコアと、前記コアの表面を被覆する被膜とを有する磁性粒子であって、
前記被膜は、
金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド;および
金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシド
を用いた反応生成物を含有する、磁性粒子に関する。
【0008】
本発明はまた、
金属磁性体のコア、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシド、金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシドおよび溶媒を混合すること;
前記第1金属アルコキシドおよび前記第2金属アルコキシドを加水分解して乾燥することにより、前記金属磁性体のコアおよび前記コアの表面を被覆する被膜を有する磁性粒子を得ること
を含む、磁性粒子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の磁性粒子によれば、比透磁率および比抵抗がより十分に高い磁心を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の磁性粒子のコアと、コアを覆う被膜を示す摸式的な断面図である。
図2】本発明の磁性粒子における被膜とコアとの界面の主たる結合状態を示す模式的な概念図である。
図3】本発明の磁性粒子における被膜の主たる構造を示す模式的な概念図である。
図4】本発明の磁心を用いたコイル部品を示す模式的な正面見取り図である。
図5】本発明の磁性粒子を用いた別のコイル部品を示す模式的な内部透視斜視図である。
図6】従来の磁性粒子における被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[磁性粒子]
本発明に係る磁性粒子は、図1に示すように、金属磁性体のコア2と、当該コア2の表面を被覆する被膜3とを有する磁性粒子1である。図1は、本発明の磁性粒子のコアと、コアを覆う被膜を示す摸式的な断面図である。
【0012】
コアとは、金属磁性体の粒子のことであり、その表面を被膜により被覆されている。金属磁性体としては、特に限定されないが、軟磁性材料、特に鉄を含む軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料を用いることにより、高い磁束密度および高い透磁率を有する磁心を得ることができる。
【0013】
鉄を含む軟磁性材料としては、特に限定されないが、例えば、鉄、Fe-Si合金、Fe-Al合金、Fe-Ni合金、Fe-Co合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Cr合金等が挙げられる。
【0014】
金属磁性体のコアの平均粒子径は、特に限定されず、例えば、0.01μm以上300μm以下であってもよく、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは0.5μm以上200μm以下、より好ましくは1μm以上100μm以下であり得る。
【0015】
平均粒子径はD50を用いている。D50は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、累積値が50%となる点の粒径のことである。
【0016】
本明細書中、平均粒子径はHELOS(H3190)&RODOS(Sympatec製)により測定された値を用いている。
【0017】
被膜3は、コア2と対比させて、「シェル」とも称され得る層であり、通常は電気絶縁被膜である。被膜は、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない第1金属アルコキシドおよび金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む第2金属アルコキシドの反応生成物を含有し、例えば、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの反応生成物により構成されていてもよい。反応生成物は通常、ゾル-ゲル反応生成物のことである。
【0018】
被膜は、詳しくは、上記金属アルコキシドの各々から形成された複数の層が積層されたものではなく、上記金属アルコキシド混合物の反応物から形成された網の目構造(単層構造)を有している。第1金属アルコキシドは、反応性が比較的高く、図2に示すように、被膜3とコア2との界面において、主として、被膜3をコア2と比較的強固な結合により定着させる。他方、第2金属アルコキシドは、密な網の目構造の形成を防止し、被膜3を、応力緩和性(または柔軟性)を有する適度に粗な網の目構造にて形成するとともに、被膜表面に滑り性を付与する。より詳しくは、例えば、第2金属アルコキシドが後述の一般式(2A)で表される化合物である場合、被膜3が有する「応力緩和性(または柔軟性)」、「適度に粗な網目構造」および「滑り性」は、図3に示すように、第2金属アルコキシドが有する2価の炭化水素基4により提供されるものと考えられる。例えば、被膜が「応力緩和性(または柔軟性)」および「適度に粗な網目構造」を有すると、当該被膜は十分な耐破壊性を有し、圧縮成形によっても破壊され難いため、得られる磁心はより十分に高い比抵抗を有し得る。また例えば、被膜が「滑り性」を有すると、磁性粒子は相互に付着または凝集し難く、圧縮成形時において、十分な充填性を有するため、得られる磁心はより十分に高い比透磁率を有し得る。しかも、第2金属アルコキシドは被膜中、第1金属アルコキシドと化学結合(詳しくは共有結合)しつつ含まれるため、単なるブレンドにより含まれる添加剤とは異なり、時間の経過または環境の変化によっても、被膜からその外部に滲出し難い。このため、本発明で得られる、より十分に高い比透磁率および比抵抗は、時間の経過または環境の変化によっても、継続して得ることができる。被膜が第2金属アルコキシド由来の成分を含まない場合、例えば図6に示すように、被膜は、比較的密な網の目構造となり、「応力緩和性(または柔軟性)」も「滑り性」も有さないため、比透磁率および比抵抗は低下する。図2は、本発明の磁性粒子における被膜とコアとの界面の主たる結合状態を示す模式的な概念図である。図3は、本発明の磁性粒子における被膜の主たる構造を示す模式的な概念図である。図6は、従来の磁性粒子における被膜の主たる構造を示す模式的概念図である。図3に示すように、被膜3は、炭素原子と結合していない金属原子および炭素原子と結合している金属原子を含む。
なお、被膜3はコア2の表面に直接接触していてもよく、被膜3とコア2の間に絶縁性の被膜が別途配置されていてもよい。
【0019】
第1金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも含まない金属アルコキシドであり、当該金属が有する全ての手がアルコキシ基(-OR)と結合した金属アルコキシドである。金属原子-炭素原子結合とは金属原子と炭素原子との直接的な共有結合のことである。金属原子-炭素原子結合における炭素原子とは、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子または2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子のことである。第1金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つも有さない。
【0020】
第1金属アルコキシドは、詳しくは、以下の一般式(1)で表される化合物またはその混合物である。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)中、Mは、金属原子であって、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrであり、好ましくはSi、Ti、AlまたはZrである。さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくはSi、TiまたはAlであり、より好ましくはSiまたはAlであり、さらに好ましくはSiである。
xはMの価数であって、1~4の整数、好ましくは3または4である。MがSi、TiまたはZrのとき、xは4である。MがAlのとき、xは3である。
は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基または一般式:-C(R)=CH-CO-Rで表される基(式中、RおよびRは、後述の通りである)であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Rとしてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。xの数に応じた単数または複数のRについて、全てのRは、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのRは、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
は、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Rとしてのアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
は炭素原子数1~30のアルキル基、炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~20(より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5)のアルキル基、炭素原子数10~30(特に14~24)のアルキルオキシ基、または炭素原子数10~30(特に14~24)のアルケニルオキシ基である。Rとしての好ましいアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基、ならびにウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。Rとしてのアルキルオキシ基としては、例えば、式:-O-C2p+1(式中、pは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。Rとしてのアルケニルオキシ基としては、例えば、式:-O-C2q-1(式中、qは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。
【0023】
式(1)中、複数のRのうち、隣接する2つのRは、アルキル基のとき、互いに結合して、当該2つのRが結合する酸素原子および該酸素原子が結合するM原子とともに、1つの環(例えば5~8員環、特に6員環)を形成してもよい。隣接する2つのRが互いに結合してなる1つの環として、例えば、一般式(1X)で表される6員環が挙げられる。
【0024】
【化2】
【0025】
式(1X)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基である。R、RおよびRの合計炭素原子数は通常、0~12であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2~8である。式(1X)中、R、RおよびRとしてのアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。
【0026】
第1金属アルコキシドとして、例えば、以下の一般式(1A)、(1B)、(1B')、(1C)および(1D)で表される化合物が挙げられる。第1金属アルコキシドは、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは一般式(1A)、(1B)、(1C)または(1D)で表される化合物またはそれらの混合物であり、より好ましくは一般式(1A)、(1B)または(1C)で表される化合物またはそれらの混合物であり、さらに好ましくは一般式(1A)または(1C)で表される化合物またはそれらの混合物であり、特に好ましくは一般式(1A)で表される化合物またはそれらの混合物である。
【0027】
【化3】
【0028】
式(1A)中、Rは、それぞれ独立して、式(1)におけるRと同様のRである。Rは、それぞれ独立して、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは1~5のアルキル基である。
【0029】
このような一般式で表される化合物(1A)の具体例を以下の表に示す。
【表1】
【0030】
【化4】
【0031】
式(1B)中、Rは、それぞれ独立して、式(1)におけるRと同様のRである。Rは、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、それぞれ独立して、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基または前記した一般式:-C(R)=CH-CO-Rで表される基(式中、RおよびRはそれぞれ、一般式(1)で説明したRおよびRと同様である)であり、より好ましくは炭素原子数1~10(特に1~5)のアルキル基である。
式(1B)において、RおよびRはそれぞれ、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、以下の基であることが好ましい。Rは、炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Rとしてのアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。Rは炭素原子数1~30のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~20(より好ましくは1~10、さらに好ましくは1~5)のアルキル基である。Rとしての好ましいアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基、ならびにウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基、セチル基、ヘプタデシル基、ステアリル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0032】
このような一般式で表される化合物(1B)の具体例を以下の表に示す。
【表2】
【0033】
【化5】
【0034】
式(1B’)中、Ra、Ra、Ra、Ra、RaおよびRaは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Ra、Ra、Ra、Ra、RaおよびRaとしてのアルキル基は、Rとしてのアルキル基と同様である。
【0035】
このような一般式で表される化合物(1B’)の具体例を以下の表に示す。
【表3】
【0036】
【化6】
【0037】
式(1C)中、Rは、それぞれ独立して、式(1)におけるRと同様のRである。Rは、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、それぞれ独立して、好ましくは炭素原子数1~10のアルキル基または前記した一般式:-C(R)=CH-CO-Rで表される基(式中、RおよびRはそれぞれ、一般式(1)で説明したRおよびRと同様である)であり、より好ましくは炭素原子数1~10(特に1~5)のアルキル基である。
式(1C)において、RおよびRはそれぞれ、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、以下の基であることが好ましい。Rは、炭素原子数1~10のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基である。Rとしてのアルキル基としては、Rとしてのアルキル基と同様のアルキル基が挙げられる。Rは炭素原子数1~30のアルキルオキシ基または炭素原子数1~30のアルケニルオキシ基であり、好ましくは炭素原子数10~30(特に14~24)のアルキルオキシ基、または炭素原子数10~30(特に14~24)のアルケニルオキシ基である。Rとしてのアルキルオキシ基としては、例えば、式:-O-C2p+1(式中、pは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。Rとしてのアルケニルオキシ基としては、例えば、式:-O-C2q-1(式中、qは1~30の整数である)で表される基が挙げられる。
【0038】
このような一般式で表される化合物(1C)の具体例を以下の表に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
【化7】
【0041】
式(1D)中、Rは、それぞれ独立して、式(1)におけるRと同様のRである。Rは、それぞれ独立して、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10、より好ましくは1~5のアルキル基である。
【0042】
このような一般式で表される化合物(1D)の具体例を以下の表に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
一般式(1)で表される化合物(1)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(1A)は、市販品であるオルトケイ酸テトラエチル(東京化成工業社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1B)は、市販品であるオルトチタン酸テトラブチル(東京化成工業社製)、チタンテトライソプロポキシド(東京化成工業社製)、T-50(日本曹達社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1B’)は、市販品であるTOG(日本曹達社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1C)は、市販品であるアルミニウムトリイソプロポキシド(関東化学社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(1D)は、市販品であるジルコニウム(IV)テトラブトキシド(商品名TBZR、日本曹達社製)、ジルコニウムテトライソプロポキシド(東京化成工業社製)、ZR-181(日本曹達社製)として入手することができる。
【0045】
被膜3(すなわち当該被膜を構成する反応物)を得るために必要な第1金属アルコキシドの配合量は通常、配合する金属アルコキシドの全重量(例えば第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの全重量)に対して、5重量%以上95重量%以下であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは20重量%以上80重量%以下であり、より好ましくは30重量%以上80重量%以下であり、さらに好ましくは40重量%以上80重量%以下であり、特に好ましくは50重量%以上75重量%以下である。なお、上記重量比率(重量%)は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの合計重量を100重量%としたときの比率である。被膜は2種以上の第1金属アルコキシドを用いて作製されてもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。被膜3を得るために必要な第1金属アルコキシドの配合量は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの全配合量に対する第1金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0046】
第2金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上(例えば2つ以上20以下、特に2つ以上12以下含む金属アルコキシドである。第2金属アルコキシドにおいて、2つ以上の金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子および/または2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子である。第2金属アルコキシドにおいて、2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)を構成する炭素原子である。第2金属アルコキシドの金属原子は、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrであり、好ましくはSi、Ti、AlまたはZrであり、より好ましくはSi、TiまたはAlであり、さらに好ましくはSiまたはAlであり、特に好ましくはSiである。第2金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、2つ以上含む。
【0047】
第2金属アルコキシドにおける金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が2価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、1分子中、以下の一般式(2)で表される基(例えば、トリアルコキシシリル基)を2つ以上有する化合物である。
【0048】
【化8】
【0049】
式(2)中、Mは、金属原子であって、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrであり、好ましくはSi、Ti、AlまたはZrであり、より好ましくはSi、TiまたはAlであり、さらに好ましくはSiまたはAlであり、特に好ましくはSiである。
yはMの価数である。MがSi、TiまたはZrのとき、yは3である。MがAlのとき、yは2である。
21は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。このようなアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。複数のR21について、全てのR21は、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのR21は、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
【0050】
第2金属アルコキシドが有する2つ以上の一般式(2)の基(例えば、トリアルコキシシリル基)は、それぞれ独立して、上記一般式(2)の基(例えば、トリアルコキシシリル基)から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0051】
このような一般式(2)で表される基(例えば、トリアルコキシシリル基)の具体例を以下の表に示す。
【0052】
【表6】
【0053】
第2金属アルコキシドにおける2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が2価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、例えば、以下の一般式(2A)、(2B)、(2C)、(2E)もしくは(2F)で表される化合物またはこれらの混合物であってもよい。これらのうち、第2金属アルコキシドは、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは一般式(2A)、(2B)もしくは(2C)で表される化合物またはこれらの混合物、より好ましくは一般式(2A)もしくは(2B)で表される化合物またはこれらの混合物、さらに好ましくは、一般式(2A)で表される化合物である。
【0054】
第2金属アルコキシドにおける2つ以上の全ての金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子が1価の炭化水素基を構成する炭素原子である場合において、第2金属アルコキシドは、例えば、以下の一般式(2D)で表される化合物、またはこれらの混合物であってもよい。
【0055】
【化9】
【0056】
式(2A)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
31は、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数2~8の2価の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素原子数3~7の2価の炭化水素基であり、特に好ましくは炭素原子数4~7の2価の炭化水素基であり、最も好ましくは炭素原子数5~7の2価の炭化水素基である。R31は分岐鎖状の炭化水素基であってもよく、好ましくは直鎖状の炭化水素基である。R31としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R31としての2価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R31としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH-(式中、pは1~10、より好ましくは2~8、さらに好ましくは3~7、特に好ましくは4~7、最も好ましくは5~7の整数である)で表される基等が挙げられる。
【0057】
このような一般式で表される化合物(2A)の具体例を以下の表に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
【化10】
【0060】
式(2B)中、R211、R212、R213およびR214は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211, 3つのR212, 3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211, 3つのR212, 3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数6~10の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH-(式中、qは1~10、より好ましくは6~10の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
33は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~3の1価の炭化水素基である。R33としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R33としての1価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R33としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR33は、それぞれ独立して、当該R33から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0061】
このような一般式で表される化合物(2B)の具体例を以下の表に示す。
【0062】
【表8】
【0063】
【化11】
【0064】
式(2C)中、R211およびR212は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR211,および3つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR211および3つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
34、R35、およびR36は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の2価の炭化水素基である。R34、R35、およびR36としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R34、R35、およびR36としての2価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R34、R35、およびR36としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH-(式中、rは1~10、より好ましくは1~5の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR34、R35、およびR36は、それぞれ独立して、上記2価の炭化水素基から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。R34、R35、およびR36の総炭素原子数は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは6~10である。
【0065】
このような一般式で表される化合物(2C)の具体例を以下の表に示す。
【0066】
【表9】
【0067】
【化12】
【0068】
式(2D)中、R211およびR212は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、2つのR211および2つのR212は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。2つのR211および2つのR212は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0069】
このような一般式で表される化合物(2D)の具体例を以下の表に示す。
【0070】
【表10】
【0071】
【化13】
【0072】
式(2E)中、R212およびR213は、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR212および 3つのR213は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR212および3つのR213は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数4~8の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH-(式中、qは1~20、好ましくは1~10、より好ましくは4~8の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
33は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~3の1価の炭化水素基である。R33としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R33としての1価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R33としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR33は、それぞれ独立して、当該R33から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
34は、それぞれ独立して、炭素原子数1~30の1価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~5の1価の炭化水素基である。R34としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R34としての1価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R34としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。全てのR34は、それぞれ独立して、当該R34から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0073】
このような一般式で表される化合物(2E)の具体例を以下の表に示す。
【0074】
【表11】
【0075】
【化14】
【0076】
式(2F)中、R212、R213およびR214は、それぞれ独立して、式(2)におけるR21と同様の基である。詳しくは、3つのR212、3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。3つのR212、3つのR213および3つのR214は、それぞれ独立して、上記一般式(2)のR21から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
32は、それぞれ独立して、炭素原子数1~20の2価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~10の2価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数1~5の2価の炭化水素基である。R32としての2価の炭化水素基は、2価飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキレン基)であってもよいし、または2価不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニレン基)であってもよい。R32としての2価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2価飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)である。R32としての2価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキレン基)として、例えば、-(CH-(式中、qは1~10、より好ましくは1~5の整数である)で表される基等が挙げられる。全てのR32は、それぞれ独立して、当該R32から選択されてもよいし、または相互に同じ基であってもよい。
【0077】
このような一般式で表される化合物(2F)の具体例を以下の表に示す。
【0078】
【表12】
【0079】
一般式(2A)で表される化合物(2A)、一般式(2B)で表される化合物(2B)、一般式(2C)で表される化合物(2C)、一般式(2D)で表される化合物(2D)、一般式(2E)で表される化合物(2E)および一般式(2F)で表される化合物(2F)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(2A)は、市販品である、1,1-ビス(トリメトキシシリル)メタン(東京化成工業社製)、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン(東京化成工業社製)、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(東京化成工業社製)、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン(信越化学工業社製)、1,10-ビス(トリメトキシシリル)デカン(ゲレスト社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2C)は、市販品であるX―12―5263HP(信越化学工業社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2D)は、市販品であるジメチルジメトキシシラン(東京化成社製)として入手することができる。
また例えば、化合物(2F)は、市販品であるトリス[3―(トリメトキシシリル)―プロピル]イソシアヌレート(東京化成社製)として入手することができる。
【0080】
第2金属アルコキシドは、例えば、一般式(2A)、(2B)、(2C)、(2D)、(2E)もしくは(2F)で表される化合物、またはこれらの混合物であってもよい。第2金属アルコキシドは、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは一般式(2A)で表される化合物、またはこれらの混合物である。
【0081】
被膜3(すなわち当該被膜を構成する反応物)を得るために必要な第2金属アルコキシドの配合量は通常、配合する金属アルコキシドの全重量(例えば第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの全重量)に対して、5重量%以上95重量%以下であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは20重量%以上80重量%以下であり、より好ましくは20重量%以上70重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以上60重量%以下であり、特に好ましくは25重量%以上50重量%以下である。なお、上記重量比率(重量%)は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの合計重量を100重量%としたときの比率である)。被膜は2種以上の第2金属アルコキシドを用いて作製されてもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。被膜3を得るために必要な第2金属アルコキシドの配合量は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの全配合量に対する第2金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0082】
被膜3は第3金属アルコキシドを用いて作製されてもよい。詳しくは、被膜3は第3金属アルコキシドを用いて作製されてもよいし、または用いずに作製されてもよい。被膜3が第3金属アルコキシドを用いて作製される場合、被膜3は、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの反応生成物を含有し、例えば、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび第3金属アルコキシドの反応生成物により構成されていてもよい。
【0083】
第3金属アルコキシドは、金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つのみ含む金属アルコキシドであり、例えば、当該金属が有する手のうち、1つの手は1価の炭化水素基(-R12)と結合し、かつ残りの全ての手はアルコキシ基(-OR11)と結合したアルコキシド化合物である。第3金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合は金属原子と炭素原子との直接的な共有結合のことである。第3金属アルコキシドにおいて、金属原子-炭素原子結合を構成する炭素原子は、1価の炭化水素基(例えば、アルキル基およびアルケニル基)を構成する炭素原子である。第3金属アルコキシドはこのような金属原子-炭素原子結合を1分子中、1つのみ含む。第3金属アルコキシドの金属原子は、Li、Na、Mg、K、Ca、Cu、Sr、Y、Ba、Ce、Ta、Bi、Si、Ti、AlまたはZrであり、好ましくはSi、Ti、AlまたはZrであり、より好ましくはSi、TiまたはAlであり、さらに好ましくはSiまたはAlであり、特に好ましくはSiである。第3金属アルコキシドは、被膜3の表面自由エネルギーを低減させ、被膜3の表面に、より一層十分な滑り性を付与する。このようなより一層十分な滑り性は、第3金属アルコキシドが有する後述の1価の炭化水素基(R12)に基づくものと考えられる。
【0084】
第3金属アルコキシドは、例えば、以下の一般式(3)で表される化合物であってもよい。
【0085】
【化15】
【0086】
式(3)中、R11は、それぞれ独立して、炭素原子数1~10のアルキル基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。このようなアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。全てのR11は、それぞれ独立して、上記アルキル基から選択されてもよいし、または全てのR11は、上記アルキル基から選択された相互に同じ基であってもよい。
12は、炭素原子数8~30の1価の炭化水素基であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは炭素原子数12~24の1価の炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数14~20の1価の炭化水素基である。R12としての1価の炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルキル基)であってもよいし、または不飽和脂肪族炭化水素基(例えばアルケニル基)であってもよい。R12としての1価の炭化水素基は、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)である。R12としての1価の飽和脂肪族炭化水素基(特にアルキル基)として、例えば、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0087】
このような一般式で表される化合物(3)の具体例を以下の表に示す。
【0088】
【表13】
【0089】
一般式(3)で表される化合物(3)は、市販品として入手することもできるし、または公知の方法により製造することもできる。
例えば、化合物(3)は、市販品であるオクタデシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)、ヘキサデシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)、デシルトリメトキシシラン(東京化成工業社製)として入手することができる。
【0090】
被膜3(すなわち当該被膜を構成する反応物)を得るための第3金属アルコキシドの配合量は通常、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの合計重量に対して、0重量%以上50重量%以下であり、さらに高い比透磁率および比抵抗の観点から、好ましくは2重量%以上50重量%以下である。被膜は2種以上の第3金属アルコキシドを用いて作製されてもよく、その場合、それらの合計量が上記範囲内であればよい。被膜3を得るための第3金属アルコキシドの配合量は、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドの総配合量に対する第3金属アルコキシドの配合量の割合であってもよい。
【0091】
被膜3は通常、例えば、1nm以上200nm以下、特に1nm以上100nm以下の平均膜厚を有している。
【0092】
被膜の平均膜厚は、磁性粒子の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM、HD-2300A(日立ハイテクノロジーズ製))により測定することができる。当該平均膜厚は、1つの粒子に付き2箇所を計10個の粒子で測定し、平均した値を用いてもよい。
【0093】
[磁性粒子の製造方法]
本発明の磁性粒子は、磁性体コアを、溶媒中、所定の金属アルコキシドとともに、撹拌することを含む方法により、製造することができる。磁性体コアは、予め表面に絶縁性の被膜が形成されているものを用いてもよい。所定の金属アルコキシドとは、少なくとも第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドを含む金属アルコキシド混合物のことである。溶媒はアルカリ性溶媒であることが好ましい。撹拌後、詳しくは、磁性体コアを濾別および洗浄し、加熱乾燥することにより、磁性体コアの表面に、網の目構造の被膜が形成されてなる磁性粒子を得ることができる。なお、被覆する方法は磁性体コア表面に所定の金属アルコキシド混合物を被覆できれば前記方法に限ったものでなく、スプレーや乾式混合などの他の公知の塗布法によりなされてもよい。従って、本発明の磁性粒子は、金属磁性体のコア、第1金属アルコキシド、第2金属アルコキシドおよび溶媒を混合すること;第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドを加水分解して乾燥することを含む、方法により製造することができる。
【0094】
溶媒中における第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシド(ならびに所望により含まれる第3金属アルコキシド)の配合比(すなわち使用量比)は通常、そのまま、被膜中における第1金属アルコキシド由来の成分および第2金属アルコキシド由来の成分(ならびに所望により含まれる第3金属アルコキシド由来の成分)の含有量比となるため、所望の含有量比に応じた配合比とすればよい。
【0095】
溶媒に対する第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシド(ならびに所望により含まれる第3金属アルコキシド)の合計配合量の比率は、本発明の磁性粒子が得られる限り特に限定されない。溶媒に対する第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシド(ならびに所望により含まれる第3金属アルコキシド)の合計配合量の比率を調整することにより、磁性粒子における被膜の含有量(すなわち被覆量)を制御することができる。詳しくは、当該合計配合量の比率が多いほど、被膜が厚くなる。他方、当該合計配合量の比率が少ないほど、被膜が薄くなる。
【0096】
溶媒を構成する溶媒としては、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシド(ならびに所望により含まれる第3金属アルコキシド)等の各金属アルコキシドの反応を阻害しなければ特に限定されず、例えば、モノアルコール類、エーテル類、グリコール類またはグリコールエーテル類が好ましい。好ましい態様において、溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソ-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール等のモノアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール等のエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、またはジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のグリコールエーテル類であり得る。好ましい溶媒はモノアルコール類である。また、水を必要に応じて含んでいても良い。上記溶媒は、1種のみを用いても、または2種以上を用いてもよい。
【0097】
溶媒は種々の添加剤、例えば触媒、pH調整剤、安定化剤、増粘剤等を含んでいてもよい。上記添加剤としては、例えば、ホウ酸化合物等の酸化合物、アンモニウム塩等の塩基化合物が挙げられる。溶媒は通常、アンモニアや塩基化合物を含むことによりアルカリ性とすることができる。アルカリ性溶媒における塩基化合物の含有量は、金属アルコキシドのゾル-ゲル反応が進行する限り特に限定されない。
【0098】
撹拌時における溶媒の配合量は通常、特に限定されず、例えば、磁性体コアおよび溶媒の合計量に対して、10重量%以上100重量%以下、好ましくは20重量%以上80重量%以下であってもよい。
【0099】
磁性体コアを、溶媒中、所定の金属アルコキシドとともに、撹拌することにより、磁性体コア表面において、金属アルコキシドのゾル-ゲル反応が進行し、網目構造が形成されるものと考えられる。
撹拌時の混合物の温度は、磁性体コアの表面に各金属アルコキシドが均一に存在しつつ網目構造が形成される限り特に限定されず、例えば、10℃以上70℃以下であり、好ましくは15℃以上35℃以下である。
撹拌時間もまた、磁性体コアの表面に各金属アルコキシドが均一に存在しつつ網目構造が形成される限り特に限定されず、例えば、10分以上5時間以下であり、好ましくは30分以上3時間以下である。
【0100】
洗浄は、残存する触媒除去のために行う。例えば、濾過による残渣を洗浄溶媒と接触させることにより行う。洗浄溶媒は特に限定されず、例えば、アセトンであってもよい。洗浄は行ってもよいし、または行わなくてもよい。
【0101】
加熱乾燥により、洗浄で使用した溶媒が除去される。加熱温度は通常、15℃以上(特に15℃以上250℃以下)であり、溶媒除去の観点から、好ましくは15℃以上200℃以下である。加熱時間は通常、30分以上(特に30分以上24時間以下)であり、溶媒除去の観点から、好ましくは60分以上12時間以下である。
【0102】
[磁心およびコイル部品]
本発明は、上記した本発明の磁性粒子を含む磁心も提供する。本発明の磁性粒子を用いた磁心は、高い比透磁率を有し、かつ、高い比抵抗を有する。従って、本発明の磁心をコイル部品の磁心として用いた場合に、高い電気特性を示しつつ、渦電流損を抑制することができる。本発明の磁心は、上記した本発明の磁性粒子を圧縮成形した圧粉磁心であってもよい。
【0103】
本発明はまた、図4に示すように、上記した本発明の圧粉磁心11と、当該圧粉磁心の周囲に巻回されたコイル12とを有して成るコイル部品10をも提供する。図4は、本発明の圧粉磁心を用いたコイル部品を示す模式的な正面見取り図である。
【0104】
本発明の圧粉磁心11は、当該分野で公知の方法により製造することができる。例えば、本発明の圧粉磁心は、本発明の磁性粒子に結合材(例えば、樹脂(例えばシリコン樹脂))を添加した混合粉末を圧縮成形し、得られた圧縮成形体を熱処理することにより得ることができる。
【0105】
本発明はさらに、図5に示すように、本発明の磁性粒子と樹脂(例えばシリコン樹脂)とを含む素体21と、当該素体に埋め込まれたコイル22とを備えるコイル部品20も提供する。図5は、本発明の磁性粒子を用いた別のコイル部品を示す模式的な内部透視斜視図である。
【0106】
本発明のコイル部品20は、当該分野で公知の方法により製造することができる。例えば、本発明のコイル部品20は、本発明の磁性粒子に結合材(例えば、樹脂(例えばエポキシ樹脂やシリコン樹脂))を添加した混合粉末中にコイル22を埋設し、圧縮成形し、得られた圧縮成形体を熱処理することにより得ることができる。
【実施例
【0107】
(実施例A1、比較例A1~A3、実施例B1~B4および実施例C1~C3)
16重量%アンモニア水10.0gを溶解した70gのエタノールを準備した。この溶液に、後で添加する磁性体コア100重量部に対する使用量が各実施例(または各比較例)の使用量(すなわち表14~表16に記載の量)になるように、第1金属アルコキシドおよび第2金属アルコキシドを加えた。
次に、磁性体コア(Fe-Si-Cr合金)(平均粒子30μm)30gを添加し、25℃にて120分間撹拌した。反応溶液を濾別し、処理した粉体を80℃で120分間乾燥させ、磁性体コアの表面に絶縁被膜を形成した。これにより磁性粒子を得た。
次に、得られた磁性粒子と、結合剤としてのエポキシ樹脂(磁性材料100重量部に対し4.2重量部)とを混合し、400MPaの圧力で圧縮成形し、200℃で1時間加熱して、内径4mm、外径9mmおよび厚さ1mmのトロイダルコア(すなわち圧粉磁心)、および3mm×3mm×1mmの角板試料を作製した。
【0108】
(評価)
・比透磁率
作製したトロイダルコイルについてアジレント・テクノロジー株式会社製のRFインピーダンスアナライザー(E4991A)を用いて、1MHz、1Vrmsでの比透磁率を測定した(n=3の平均値を表に示す)。比透磁率の平均値を以下の基準に基づいて判定した。
◎◎:35以上(最良);
◎:32以上35未満(優良);
○:30以上32未満(良);
×:30未満(不合格)。
判定結果「○」以上を合格とした。
【0109】
・比抵抗
角板試料について株式会社アドバンテスト社製の高抵抗測定器(R8340A ULTRA HIGH RESISTANCE METER)を用い、900Vの直流電圧を印加し、5秒後の抵抗を測定し、試料寸法から比抵抗を算出した(n=3の平均値を表に示す)。比抵抗の平均値を以下の基準に基づいて判定した。
◎◎:5×1012Ω・cm以上(最良);
◎:1×1010Ω・cm以上5×1012Ω・cm未満(優良);
○:1×10Ω・cm以上1×1010Ω・cm未満(良);
×:1×10Ω・cm未満(不合格)。
判定結果「○」以上を合格とした。
【0110】
・総合判定
比透磁率および比抵抗の判定結果に基づいて、総合的に判定した。
◎◎:2つの判定結果が◎◎であった;
◎:2つの判定結果のうち、最も低い判定結果が◎であった;
○:2つの判定結果のうち、最も低い判定結果が○であった;
×:2つの判定結果のうち、最も低い判定結果が×であった。
総合判定結果「○」以上を合格とした。総合判定結果「×」を不合格とした。
【0111】
(測定)
・被膜3の平均膜厚
被膜の平均膜厚をHD-2300A(日立ハイテクノロジーズ)によって測定した。
【0112】
【表14】
【0113】
実施例A1と比較例A1~A3との比較より、第1金属アルコキシドに加えて第2金属アルコキシドも用いて被膜を作製することによって、圧粉磁心はより十分に高い比透磁率および比抵抗を兼備できることが明らかである。第2金属アルコキシドが有する2価炭化水素基による滑り性により、磁性粒子の充填性がより十分に優れるため、より高い比透磁率を有し得る。第2金属アルコキシドにて得られる被膜の応力緩和性に基づいて、被膜の耐破壊性がより十分に優れるため、リング成形後もより高い比抵抗を維持できる。
比較例A1より、磁性粉そのままでは抵抗が低いことが明らかである。被膜が無いため、比抵抗が低下することが明らかである。
比較例A2より、第1金属アルコキシドだけでは比透磁率および比抵抗が共に低いことが明らかである。第1金属アルコキシドだけでは、磁性粒子の充填性が低いため、比透磁率が低下するものと考えられる。第1金属アルコキシドだけでは、被膜の応力緩和性が低く、リング成形時に被膜が破壊されるため、比抵抗が低下するものと考えられる。
比較例A3より、第2金属アルコキシドだけでは比透磁率および比抵抗が共に低いことが明らかである。第2金属アルコキシドだけでは、被膜の強度が低く、リング成形時に被膜が破壊されるため、比抵抗が低下するものと考えられる。
【0114】
【表15】
【0115】
実施例A1およびB1~B4より、第1金属アルコキシドと第2金属アルコキシドの併用により、圧粉磁心はより十分に高い比透磁率および比抵抗を兼備できることが明らかである。
実施例A1およびB1~B2と実施例B3~B4との比較より、第2金属アルコキシドの2価炭化水素基の炭素数が2~8であれば、より高い比透磁率および比抵抗が得られることが明らかである。
実施例A1と実施例B1~B4との比較より、第2金属アルコキシドの2価炭化水素基の炭素数が3~7(特に4~7)であれば、より十分に高い比透磁率および比抵抗が得られることが明らかである。
【0116】
【表16】
【0117】
実施例A1およびC1~C3より、第1金属アルコキシドの金属がSi以外であっても、圧粉磁心はより十分に高い比透磁率および比抵抗を兼備できることが明らかである。
実施例A1およびC1~C2と実施例C3との比較より、第1金属アルコキシドの金属がSi、AlまたはTiであれば、より高い比透磁率および比抵抗が得られることが明らかである。
実施例A1と実施例C1~C3との比較より、第1金属アルコキシドの金属がSiであれば、より十分に高い比透磁率および比抵抗が得られることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の磁性粒子は、コイル部品の材料として好適に用いられる。かかるコイル部品として、例えば、インダクタ、チョークコイルなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0119】
1 磁性粒子
2 コア
3 被膜
4 2価炭化水素基
10 コイル部品
11 圧粉磁心
12 コイル
20 コイル部品
21 素体
22 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6