(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質および固体電池
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20240717BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240717BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240717BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/10
(21)【出願番号】P 2022043694
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】南 圭一
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2021-0141012(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0101061(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルジロダイト型結晶相を有し、
Li、Ge、Sb、S、IおよびA(Aは、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するアニオンである)を含有
し、
(2-a-b)Li
2
S-aLiI-bLi
α
A-Li
4
(Ge,Sb)S
4
で表される組成を有し、
前記aは0<a<2を満たし、前記bは0<b<2を満たし、前記aおよび前記bは、0<a+b<2を満たし、前記αは前記Aの価数に対応する値である、硫化物固体電解質。
【請求項2】
前記Aが、複数のOを有する多原子アニオンを含む、
請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
前記多原子アニオンが、カチオンとして、C、SまたはNを含む、
請求項2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
前記Aが、炭酸イオン(CO
3
2-)および硫酸イオン(SO
4
2-)の少なくとも一方を含む、請求項1から
請求項3までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項5】
前記Aが、臭化物イオン(Br
-)を含む、請求項1から
請求項4までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項6】
前記aおよび前記bが、1.5≦a+b≦1.9を満たす、
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項7】
前記aが、0.8≦a≦1.2を満たす、
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項8】
前記bが、0.4≦b≦1.0を満たす、
請求項1から
請求項7までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項9】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくとも一つが、請求項1から
請求項8までのいずれかの請求項に記載の硫化物固体電解質を含有する、固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、硫化物固体電解質および固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、正極層および負極層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。固体電池に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質が知られている。
【0003】
特許文献1には、リチウムと、リンと、硫黄と、ハロゲン元素から選択される2種以上の元素Xと、を含み、アルジロダイト型結晶構造を含み、硫黄のリンに対するモル比b(S/P)と、元素Xのリンに対するモル比c(X/P)とが、所定の関係を満たす硫化物固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質は、例えば、Li6PS5Iで表される組成を有する。また、酸化耐性を向上させるため、PをGeおよびSbで置換した硫化物固体電解質が検討されている。一方、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質において、I(ヨウ素)の割合を多くすると、硫化物固体電解質の耐水性を向上させやすいものの、アルジロダイト型結晶構造が維持できない場合がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、アルジロダイト型結晶構造を維持しつつ、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、アルジロダイト型結晶相を有し、Li、Ge、Sb、S、IおよびA(Aは、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するアニオンである)を含有する、硫化物固体電解質を提供する。
【0008】
本開示によれば、Aアニオンを含有することから、アルジロダイト型結晶構造を維持しつつ、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質となる。さらに、本開示によれば、硫化物固体電解質が、カチオンとして、Pよりも酸化耐性が良好なGe、Sbを含有するため、良好な酸化耐性を有する硫化物固体電解質となる。
【0009】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Pを含有しなくてもよい。
【0010】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、Pを含有し、Ge、SbおよびPの合計に対するPの割合が、50mol%以下であってもよい。
【0011】
上記開示においては、上記Aが、複数のOを有する多原子アニオンを含んでいてもよい。
【0012】
上記開示においては、上記多原子アニオンが、カチオンとして、C、SまたはNを含んでいてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記Aが、炭酸イオン(CO3
2-)および硫酸イオン(SO4
2-)の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【0014】
上記開示においては、上記Aが、臭化物イオンを含んでいてもよい。
【0015】
上記開示においては、上記硫化物固体電解質が、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLiαA-Li4(Ge,Sb)S4で表される組成を有し、上記aは0<a<2を満たし、上記bは0<b<2を満たし、上記aおよび上記bは、0<a+b<2を満たし、上記αは上記Aの価数に対応する値であってもよい。
【0016】
上記開示においては、上記aおよび上記bが、1.5≦a+b≦1.9を満たしてもよい。
【0017】
上記開示においては、上記aが、0.8≦a≦1.2を満たしてもよい。
【0018】
上記開示においては、上記bが、0.4≦b≦1.0を満たしてもよい。
【0019】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述した硫化物固体電解質を含有する、固体電池を提供する。
【0020】
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることで、良好な耐水性を有する固体電池となる。
【発明の効果】
【0021】
本開示における硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を維持しつつ、良好な耐水性を有するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示における硫化物固体電解質の製造方法を例示するフローチャートである。
【
図2】本開示における固体電池を例示する概略断面図である。
【
図3】実施例1で得られた硫化物固体電解質に対するXRD測定の結果である。
【
図4】比較例1で得られた硫化物固体電解質に対するXRD測定の結果である。
【
図5】比較例2で得られた硫化物固体電解質に対するXRD測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示における硫化物固体電解質および固体電池について、詳細に説明する。
【0024】
A.硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有し、Li、Ge、Sb、S、IおよびA(Aは、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するアニオンである)を含有する。
【0025】
本開示によれば、Aアニオンを含有することから、アルジロダイト型結晶構造を維持しつつ、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質となる。ここで、アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質の典型的な組成は、2Li2S-Li3PS4(=Li7PS6)である。この組成において、Li2Sに含まれる硫化物イオン(S2-)は、Li3PS4に含まれる硫化物イオン(P-S結合を形成した硫化物イオン)とは異なり、水分と反応しやすい。そのため、Li2Sの一部を、LiIで置換することが試みられている。
【0026】
例えば、Li6PS5Iで表される組成を有する硫化物固体電解質は、(2-a)Li2S-aLiI-Li3PS4におけるa=1に該当する。一方、酸化耐性を向上させるため、PをGeおよびSbで置換した硫化物固体電解質が検討されている。このような硫化物固体電解質は、例えば、(2-a)Li2S-aLiI-Li4(Ge,Sb)S4(0<a<2)で表される。硫化物固体電解質の耐水性を向上させる観点からは、I(LiI)の割合aを多くすることが有効である。しかしながら、Iの割合を多くすると、アルジロダイト型結晶構造が維持できない場合がある。これに対して、本開示においては、Iイオンに加えて、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するAアニオンを用いることで、アルジロダイト型結晶構造を維持しつつ、Li2Sに含まれる硫化物イオン(S2-)の割合を低減できる。その結果、良好な耐水性を有する硫化物固体電解質が得られる。さらに、本開示においては、硫化物固体電解質が、カチオンとして、Pよりも酸化耐性が良好なGe、Sbを含有するため、良好な酸化耐性を有する硫化物固体電解質となる。
【0027】
本開示における硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を有する。硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶相を有することは、X線回折(XRD)測定により確認することができる。硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=17.0°±0.5°、24.1°±0.5°、28.3°±0.5°、29.6°±0.5°、38.6°±0.5°にピークを有することが好ましい。これらのピークは、アルジロダイト型結晶相の典型的なピークである。これらのピークの位置は、それぞれ、±0.3°の範囲であってもよく、±0.1°の範囲であってもよい。
【0028】
本開示における硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相を主相として含有することが好ましい。「主相」とは、CuKα線を用いたXRD測定において、強度が最も高いピークの属する結晶相をいう。また、硫化物固体電解質に対する、CuKα線を用いたXRD測定において、LiIのピークが観察されてもよく、観察されなくてもよい。
【0029】
本開示における硫化物固体電解質は、Li、Ge、Sb、S、IおよびA(Aは、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するアニオンである)。硫化物固体電解質は、カチオンとして、Li、Ge、Sbを少なくとも含有する。硫化物固体電解質は、カチオンとして、Li、Ge、Sbのみを含有していてもよく、他のカチオンをさらに含有していてもよい。他のカチオンとしては、例えばPが挙げられる。硫化物固体電解質において、Liを除く全てのカチオンに対する、GeおよびSbの合計の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよく、100mol%以上であってもよい。また、GeおよびSbの合計に対するGeの割合は、例えば、1mol%以上99mol%以下であり、20mol%以上80mol%以下であってもよい。
【0030】
硫化物固体電解質は、Pを含有しないことが好ましい。良好な酸化耐性を有する硫化物固体電解質となるからである。一方、硫化物固体電解質は、Pを含有していてもよい。アルジロダイト型結晶相が析出しやすくなるからである。Ge、SbおよびPの合計に対するPの割合は、例えば50mol%以下であり、30mol%以下であってもよく、10mol%以下であってもよい。一方、Pの上記割合は、例えば1mol%以上であり、5mol%以上であってもよい。
【0031】
硫化物固体電解質は、アニオンとして、S、IおよびAを少なくとも含有する。Aは、硫化物イオンより大きいイオン半径を有するアニオンである。また、Aは、ヨウ化物イオン(I-)以外のアニオンである。硫化物固体電解質は、Aに該当するアニオンを1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
【0032】
Aは、例えば、多原子アニオンである。多原子アニオンは、例えば、複数のOを有することが好ましい。単独の酸化物イオン(O2-)のイオン半径は140pmであり、硫化物イオン(S2-)のイオン半径(184pm)より小さい。一方、複数のOを有する多原子アニオンは、通常、硫化物イオン(S2-)のイオン半径より大きくなる。
【0033】
多原子アニオンは、カチオンとして、C、SまたはNを含んでいてもよい。Cを含む多原子アニオンとしては、例えば、炭酸イオン(CO3
2-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)が挙げられる。Sを含む多原子アニオンとしては、例えば、硫酸イオン(SO4
2-)、亜硫酸イオン(SO3
2-)が挙げられる。Nを含む多原子アニオンとしては、例えば、硝酸イオン(NO3
-)、亜硝酸イオン(NO2
-)が挙げられる。
【0034】
Aは、単原子アニオンであってもよい。単原子アニオンとしては、典型的には、ハロゲン化物イオン(ヨウ化物イオンを除く)が挙げられる。フッ化物イオン(136pm)、塩化物イオン(181pm)、臭化物イオン(195pm)を考慮すると、Aに該当する単原子アニオンとしては、典型的には、臭化物イオンが挙げられる。
【0035】
硫化物固体電解質は、アニオンとして、S、I、Aのみを含有していてもよく、他のアニオンをさらに含有していてもよい。他のアニオンとしては、例えばClが挙げられる。硫化物固体電解質において、全てのアニオンに対する、S、IおよびAの合計の割合は、例えば50mol%以上であり、70mol%以上であってもよく、90mol%以上であってもよく、100mol%であってもよい。また、Iに対するAの割合(モル比)は、例えば0.4以上であり、0.6以上であってもよい。一方、Iに対するAの割合(モル比)は、例えば1.2以下であり、1.0以下であってもよく、0.8以下であってもよい。
【0036】
硫化物固体電解質は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLiαA-Li4(Ge,Sb)S4で表される組成を有することが好ましい。この組成において、aは0<a<2を満たし、bは0<b<2を満たし、aおよびbは、0<a+b<2を満たす。
【0037】
上記aは、通常、0より大きく、0.4以上であってもよく、0.8以上であってもよい。一方、上記aは、通常、2より小さく、1.6以下であってもよく、1.2以下であってもよい。また、上記bは、通常、0より大きく、0.2以上であってもよく、0.4以上であってもよい。上記bは、通常、2より小さく、1.2以下であってもよく、1.0以下であってもよい。また、上記aおよび上記bは、通常、0より大きく、0.5以上であってもよく、1.0以上であってもよく、1.5以上であってもよい。一方、上記aおよび上記bは、通常、2より小さく、1.95以下であってもよく、1.9以下であってもよい。
【0038】
また、上記組成において、上記αは上記Aの価数に対応する値である。例えば、Aが炭酸イオン(CO3
2-)である場合、αは2になる(Li2CO3)。例えば、Aが臭化物イオン(Br-)である場合、αは1になる(LiBr)。また、上記組成において、GeまたはSbの一部が、Pに置換されていてもよい。
【0039】
本開示における硫化物固体電解質は、耐水性が高いことが好ましい。後述する耐水性試験におけるH2Sの発生量は、例えば25ppm/h以下であり、20ppm/h以下であってもよく、10ppm/h以下であってもよい。また、硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば1×10-4S/cm以上であり、5×10-4S/cm以上であってもよい。
【0040】
硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。また、硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.1μm以上、50μm以下である。平均粒径(D50)は、レーザー回折散乱法による粒度分布測定の結果から求めることができる。硫化物固体電解質の用途は特に限定されないが、例えば、固体電池に用いられることが好ましい。
【0041】
本開示における硫化物固体電解質の製造方法は、特に限定されない。
図1は、本開示における硫化物固体電解質の製造方法を示すフローチャートである。
図1では、Li
2S、GeS
2、Sb
2S
3、LiIおよびLi
2CO
3を含有する原料組成物を準備する。次に、原料組成物を、例えばメカニカルミリングにより混合し、前駆体を得る(混合工程)。次に、得られた前駆体を焼成することにより、硫化物固体電解質が得られる(焼成工程)。
【0042】
上記混合工程は、Li、Ge、Sb、S、IおよびAを含有する原料組成物を混合し、前駆体を得る工程である。Liを含有する原料としては、例えば、Li硫化物が挙げられる。Li硫化物としては、例えば、Li2Sが挙げられる。Geを含有する原料としては、例えば、Ge硫化物が挙げられる。Ge硫化物としては、例えば、GeS2が挙げられる。Sbを含有する原料としては、例えば、Sb硫化物が挙げられる。Sb硫化物としては、例えば、Sb2S3が挙げられる。Sを含有する原料としては、例えば、単体硫黄、上述した各種硫化物が挙げられる。Iを含有する原料としては、例えば、Liヨウ化物(LiI)が挙げられる。Aを含有する原料としては、例えば、Li塩が挙げられる。
【0043】
混合工程では、原料組成物を混合することにより、前駆体(硫化物ガラス)を得る。原料組成物を混合する方法としては、例えば、ボールミル、振動ミル等のメカニカルミリング法が挙げられる。メカニカルミリング法は、乾式であってもよく、湿式であってもよいが、均一処理の観点で後者が好ましい。湿式メカニカルミリング法に用いられる分散媒の種類は特に限定されない。
【0044】
メカニカルミリングの各種条件は、所望の前駆体が得られるように設定する。例えば、遊星型ボールミルを用いる場合、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば、150rpm以上である。一方、遊星型ボールミルの台盤回転数は、例えば500rpm以下であり、250rpm以下であってもよい。また、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば5分間以上であり、10分間以上であってもよい。一方、遊星型ボールミルの処理時間は、例えば30時間以下であり、25時間以下であってもよい。
【0045】
焼成工程は、上記前駆体を焼成する工程である。これにより、上述した硫化物固体電解質が得られる。焼成温度は、例えば、結晶化温度以上の温度であることが好ましい。また、焼成時間は、例えば1時間以上であり、2時間以上であってもよい。一方、焼成時間は、例えば10時間以下であり、8時間以下であってもよい。焼成雰囲気は、例えば、不活性ガス雰囲気、真空が挙げられる。
【0046】
B.固体電池
図2は、本開示における固体電池を例示する概略断面図である。
図2に示す固体電池10は、正極活物質を含有する正極層1と、負極活物質を含有する負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された固体電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらの部材を収納する電池ケース6とを有する。さらに、正極層1、負極層2および固体電解質層3の少なくとも一つが、上記「A.硫化物固体電解質」に記載した硫化物固体電解質を含有する。
【0047】
本開示によれば、上述した硫化物固体電解質を用いることで、良好な耐水性を有する固体電池となる。
【0048】
1.正極層
本開示における正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。正極層は、正極活物質の他に、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0049】
正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、具体的には、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等の岩塩層状型活物質、LiMn2O4、Li(Ni0.5Mn1.5)O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0050】
正極活物質の表面は、コート層で被覆されていてもよい。正極活物質と硫化物固体電解質との反応を抑制できるからである。コート層の材料としては、例えば、LiNbO3、Li3PO4、LiPON等のLiイオン伝導性酸化物が挙げられる。コート層の平均厚さは、例えば1nm以上50nm以下であり、1nm以上10nm以下であってもよい。
【0051】
本開示における正極層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。また、導電材としては、例えば、炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素系バインダーが挙げられる。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0052】
2.固体電解質層
本開示における固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有する層である。また、固体電解質層は、固体電解質の他に、バインダーを含有していてもよい。固体電解質およびバインダーについては、上述した内容と同様である。本開示における固体電解質層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0053】
3.負極層
本開示における負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。また、負極層は、負極活物質の他に、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0054】
負極活物質としては、例えば、金属活物質およびカーボン活物質が挙げられる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSnが挙げられる。一方、カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性熱分解グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボンが挙げられる。
【0055】
固体電解質、導電材およびバインダーについては、上述した内容と同様である。本開示における負極層は、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上1000μm以下である。
【0056】
4.その他の構成
本開示における固体電池は、通常、正極活物質の集電を行う正極集電体、および、負極活物質の集電を行う負極集電体を有する。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。また、電池ケースには、SUS製電池ケース等の一般的な電池ケースを用いることができる。
【0057】
5.固体電池
本開示における固体電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。また、固体電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。なお、二次電池には、二次電池の一次電池的使用(充電後、一度の放電だけを目的とした使用)も含まれる。また、固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型が挙げられる。
【0058】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0059】
[実施例1]
Li2S(フルウチ化学、0.8567g)、GeS2(高純度化学、0.4857g)、Sb2S3(高純度化学、0.9048g)、S(高純度化学、0.1708g)、LiI(高純度化学、1.1883g)、Li2CO3(高純度化学、0.3936g)を乳鉢で混合し、原料組成物を得た。得られた原料組成物を、ジルコニアボールとともにジルコニアポット(500ml)に投入し、これを遊星型ボールミル装置(Fritch P-5)にセットし、300rpmの回転速度で20時間メカニカルミリングした。これにより、前駆体を得た。得られた前駆体をArフロー雰囲気下で、結晶化温度以上の温度で6時間加熱した。これにより、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLi2CO3-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0、b=0.6に該当する。
【0060】
[実施例2]
原料組成物の組成を、Li2S(0.7201g)、GeS2(0.4512g)、Sb2S3(0.8409g)、S(0.1587g)、LiI(1.1039g)、Li2CO3(0.4875g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLi2CO3-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0、b=0.8に該当する。
【0061】
[実施例3]
原料組成物の組成を、Li2S(0.7201g)、GeS2(0.4512g)、Sb2S3(0.8406g)、S(0.1587g)、LiI(1.1039g)、Li2SO4(0.7255g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLi2SO4-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0、b=0.8に該当する。
【0062】
[実施例4]
原料組成物の組成を、Li2S(0.7846g)、GeS2(0.4961g)、Sb2S3(0.8739g)、S(0.1650g)、LiI(1.1477g)、LiBr(0.5957g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLiBr-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0、b=0.8に該当する。
【0063】
[比較例1]
原料組成物の組成を、Li2S(1.3083g)、GeS2(0.5769g)、P2S5(0.7033g)、LiI(1.4115g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a)Li2S-aLiI-Li4(Ge0.4P0.6)S4における、a=1.0に該当する。
【0064】
[比較例2]
原料組成物の組成を、Li2S(1.144g)、GeS2(0.5045g)、Sb2S3(0.9398g)、S(0.1774g)、LiI(1.2342g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a)Li2S-aLiI-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0に該当する。
【0065】
[比較例3]
原料組成物の組成を、Li2S(0.7934g)、GeS2(0.4498g)、Sb2S3(0.8379g)、S(0.1582g)、LiI(1.7607g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a)Li2S-aLiI-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.6に該当する。
【0066】
[比較例4]
原料組成物の組成を、Li2S(0.6928g)、GeS2(0.4341g)、Sb2S3(0.8087g)、S(0.1527g)、LiI(1.9117g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a)Li2S-aLiI-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.8に該当する。
【0067】
[比較例5]
原料組成物の組成を、Li2S(0.8104g)、GeS2(0.5078g)、Sb2S3(0.946g)、S(0.1786g)、LiI(1.2424g)、LiCl(0.3148g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLiCl-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=1.0、b=0.8に該当する。なお、塩化物イオン(Cl-)のイオン半径は、硫化物イオン(S2-)のイオン半径より小さい。
【0068】
[比較例6]
原料組成物の組成を、Li2S(0.8815g)、GeS2(0.5524g)、Sb2S3(1.0290g)、S(0.1943g)、Li2CO3(1.3429g)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、硫化物固体電解質を得た。得られた硫化物固体電解質の組成は、(2-a-b)Li2S-aLiI-bLi2CO3-Li4(Ge0.4Sb0.6)S4における、a=0、b=1.8に該当する。
【0069】
[評価]
(XRD測定)
実施例1~4および比較例1~6で得られた硫化物固体電解質に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。代表的な結果として、実施例1および比較例1、2の結果を、それぞれ、
図3~
図5に示す。
図3~
図5に示すように、実施例1および比較例1、2で得られた硫化物固体電解質は、いずれも、アルジロダイト型結晶相を有することが確認された。また、特に図示しないが、実施例2~4で得られた硫化物固体電解質も、実施例1と同様に、アルジロダイト型結晶相を有することが確認された。一方、比較例3で得られた硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相のピークに加えて、LiIのピークも確認された。また、比較例4~6で得られた硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶相が確認されなかった。
【0070】
(耐水性試験)
実施例1~4および比較例1~6で得られた硫化物固体電解質に対して、耐水性試験を行った。具体的には、露点-30℃のドライエアグローブボックス内に、1.5Lのデシケータを入れ、そのデシケータに、2gの硫化物固体電解質を有するAl容器を配置し、デシケータの蓋を閉め、ファンを回した状態で1時間静置した。その際に発生したH2Sをセンサーで観測し、時間当たりの発生量を算出した。その結果を表1に示す。
【0071】
(イオン伝導度測定)
実施例1~4および比較例1~6で得られた硫化物固体電解質に対して、イオン伝導度測定(25℃)を行った。具体的には、得られた硫化物固体電解質の粉末100mgを、集電体とともに、セラミックシリンダーの中に入れ、圧力6ton/cm2でプレスし、圧粉セルを作製した。作製した圧粉セルに対して、室温で交流インピーダンス法を行い、その抵抗値、および、ペレットの厚さから、イオン伝導度を求めた。その結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示すように、実施例1~4では、比較例1に比べて、伝導度は低いものの、H2S量が顕著に低いことが確認された。これは、実施例1~4で得られた硫化物固体電解質が、P元素を含有していないためであると推測される。また、実施例1~4では、比較例2に比べて、H2S量が低かった。これは、実施例1~4で得られた硫化物固体電解質が、硫化物イオンよりイオン半径が大きいAアニオンを含有するため、孤立S量が低くなったためであると推測される。
【0074】
ここで、比較例3、4に示すように、第1アニオンの割合を多くすると、アルジロダイト型結晶相を有する硫化物固体電解質が得られにくくなる。また、比較例5に示すように、第2アニオンとして、Clイオン(硫化物イオンよりイオン半径が小さいイオン)を用いた場合も、アルジロダイト型結晶相を有する硫化物固体電解質が得られなかった。また、比較例6に示すように、第1アニオンであるIイオンを用いず、第2アニオンであるCO3イオンの割合を多くした場合も、アルジロダイト型結晶相を有する硫化物固体電解質が得られなかった。これに対して、実施例1~4においては、第1アニオンとしてIイオンを用い、さらに、第2アニオンとしてAアニオンを用いることで、アルジロダイト型結晶相を維持しつつ、耐水性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0075】
1 … 正極層
2 … 負極層
3 … 固体電解質層
4 … 正極集電体
5 … 負極集電体
6 … 電池ケース
10 … 固体電池