(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20240717BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20240717BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20240717BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240717BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240717BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240717BHJP
【FI】
F02D29/02 321B
B60K6/485 ZHV
B60K6/54
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W20/00
(21)【出願番号】P 2022064159
(22)【出願日】2022-04-07
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 健一
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-007117(JP,A)
【文献】特開2018-111456(JP,A)
【文献】特開2015-113724(JP,A)
【文献】米国特許第10012201(US,B1)
【文献】特開2023-087302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 -29/06
B60K 6/485
B60K 6/54
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンを回転駆動可能に設けられたモータ及び前記モータに電力を供給する蓄電装置を有し、前記モータを用いて前記エンジンをクランキングする始動装置と、を備えた車両の、制御装置であって、
前記蓄電装置の状態が前記クランキングによる前記エンジンの始動を保証できる状態であるか否かに基づいて、前記エンジンの運転を一時的に停止するアイドリングストップ制御を許可するか否かを判定すると共に、前記車両の電源オフ時に、前記アイドリングストップ制御の許可判定結果を記憶する一方で、
前記車両の電源オン時に、前回の前記電源オフ時に記憶した前記アイドリングストップ制御の許可判定結果が許可するとなっており、且つ、前記電源オン時点から前記制御装置の初期化処理が実行される所定時間が経過する時点までの期間において前記蓄電装置の出力電圧になまし処理を施した電圧なまし値が前記エンジンの始動を保証できる所定電圧以上である場合には、前記アイドリングストップ制御を許可する始動制御部を含むことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記始動制御部は、前記電源オン時に、前回の前記電源オフ時に記憶した前記アイドリングストップ制御の許可判定結果が許可しないとなっている場合には、又は、前記電圧なまし値が前記所定電圧未満である場合には、前記アイドリングストップ制御を許可しないと共に、前記モータを用いた前記クランキングを実行するものであり、
前記始動制御部は、前記クランキングの過渡中における前記蓄電装置の出力電圧が、前記所定電圧よりも低い値に設定された、前記エンジンの始動を保証できる第2所定電圧以上であるか否かに基づいて、再度、前記アイドリングストップ制御を許可するか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記アイドリングストップ制御は、前記電源オン後の未発進時に前記エンジンを始動させずに運転停止させた状態で待機させる未発進時アイドリングストップ制御と、作動している前記エンジンを前記車両の走行中又は停止中に一時的に運転停止させる発進後アイドリングストップ制御と、を含んでいるものであり、
前記電源オフ時に前記許可判定結果が記憶された前記アイドリングストップ制御は、前記未発進時アイドリングストップ制御であり、
前記電源オン時に許可判定が為される前記アイドリングストップ制御は、前記未発進時アイドリングストップ制御であり、
前記電源オン時に前記未発進時アイドリングストップ制御が許可されず、前記モータを用いた前記クランキングが実行されたときに許可判定が為される前記アイドリングストップ制御は、前記発進後アイドリングストップ制御であることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記始動制御部は、前記蓄電装置の開路電圧以上の電圧値を前記電圧なまし値の初期値に設定して前記なまし処理を開始することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記始動制御部は、前記電源オン時に、前記電圧なまし値が前記所定電圧以上である場合に加えて、前記蓄電装置の温度が前記エンジンの始動を保証できる所定温度以上である場合に、前記アイドリングストップ制御を許可することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの始動装置を備えた車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンと、前記エンジンを回転駆動可能に設けられたモータ及び前記モータに電力を供給する蓄電装置を有し、前記モータを用いて前記エンジンをクランキングする始動装置と、を備えた車両の制御装置が良く知られている。例えば、特許文献1に記載されたエンジン制御装置がそれである。この特許文献1には、車両の起動後にバッテリの充電率を確定する前は、車両が前回停止してからの放置時間が一定時間以内のときに、車両の前回停止時に算出したバッテリの充電率に基づいて、アイドリングストップ制御によるエンジンの自動停止開始条件の成否を判定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、バッテリの充電率は、放置時間が長くなる程、バッテリの放電によって低下し易い。これに対して、特許文献1には、前回停止時のバッテリの充電率が大きい程、放置時間の判定値を長い時間に設定することが開示されている。しかしながら、判定の基になるものはあくまでも前回停止時のバッテリの充電率である。その為、アイドリングストップ制御を誤って許可してしまう可能性がある。或いは、前回停止時のバッテリの充電率に基づく判定方法では、放置時間が一定時間を超えるとアイドリングストップ制御を許可しない為、アイドリングストップ制御を実行する機会を過度に喪失する可能性がある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制しつつ、アイドリングストップ制御の誤許可を抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の要旨とするところは、(a)エンジンと、前記エンジンを回転駆動可能に設けられたモータ及び前記モータに電力を供給する蓄電装置を有し、前記モータを用いて前記エンジンをクランキングする始動装置と、を備えた車両の、制御装置であって、(b)前記蓄電装置の状態が前記クランキングによる前記エンジンの始動を保証できる状態であるか否かに基づいて、前記エンジンの運転を一時的に停止するアイドリングストップ制御を許可するか否かを判定すると共に、前記車両の電源オフ時に、前記アイドリングストップ制御の許可判定結果を記憶する一方で、(c)前記車両の電源オン時に、前回の前記電源オフ時に記憶した前記アイドリングストップ制御の許可判定結果が許可するとなっており、且つ、前記電源オン時点から前記制御装置の初期化処理が実行される所定時間が経過する時点までの期間において前記蓄電装置の出力電圧になまし処理を施した電圧なまし値が前記エンジンの始動を保証できる所定電圧以上である場合には、前記アイドリングストップ制御を許可する始動制御部を含むことにある。
【0007】
また、第2の発明は、前記第1の発明に記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電源オン時に、前回の前記電源オフ時に記憶した前記アイドリングストップ制御の許可判定結果が許可しないとなっている場合には、又は、前記電圧なまし値が前記所定電圧未満である場合には、前記アイドリングストップ制御を許可しないと共に、前記モータを用いた前記クランキングを実行するものであり、前記始動制御部は、前記クランキングの過渡中における前記蓄電装置の出力電圧が、前記所定電圧よりも低い値に設定された、前記エンジンの始動を保証できる第2所定電圧以上であるか否かに基づいて、再度、前記アイドリングストップ制御を許可するか否かを判定することにある。
【0008】
また、第3の発明は、前記第2の発明に記載の車両の制御装置において、前記アイドリングストップ制御は、前記電源オン後の未発進時に前記エンジンを始動させずに運転停止させた状態で待機させる未発進時アイドリングストップ制御と、作動している前記エンジンを前記車両の走行中又は停止中に一時的に運転停止させる発進後アイドリングストップ制御と、を含んでいるものであり、前記電源オフ時に前記許可判定結果が記憶された前記アイドリングストップ制御は、前記未発進時アイドリングストップ制御であり、前記電源オン時に許可判定が為される前記アイドリングストップ制御は、前記未発進時アイドリングストップ制御であり、前記電源オン時に前記未発進時アイドリングストップ制御が許可されず、前記モータを用いた前記クランキングが実行されたときに許可判定が為される前記アイドリングストップ制御は、前記発進後アイドリングストップ制御である。
【0009】
また、第4の発明は、前記第1の発明から第3の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記蓄電装置の開路電圧以上の電圧値を前記電圧なまし値の初期値に設定して前記なまし処理を開始することにある。
【0010】
また、第5の発明は、前記第1の発明から第3の発明の何れか1つに記載の車両の制御装置において、前記始動制御部は、前記電源オン時に、前記電圧なまし値が前記所定電圧以上である場合に加えて、前記蓄電装置の温度が前記エンジンの始動を保証できる所定温度以上である場合に、前記アイドリングストップ制御を許可することにある。
【発明の効果】
【0011】
前記第1の発明によれば、車両の電源オン時に、前回の車両の電源オフ時に記憶されたアイドリングストップ制御の許可判定結果が許可するとされており、且つ、電源オン時点から制御装置の初期化処理が実行される所定時間が経過する時点までの期間において蓄電装置の出力電圧になまし処理を施した電圧なまし値がエンジンの始動を保証できる所定電圧以上である場合には、アイドリングストップ制御が許可されるので、前回の電源オフ時点から今回の電源オン時点までの期間の長さに拘わらず、蓄電装置の放電を含めた現在の蓄電装置の状態を電圧なまし値によって類推することができ、その電圧なまし値を用いた許可判定結果を前回の車両の電源オフ時に記憶された許可判定結果と合わせることで今回の電源オン時におけるアイドリングストップ制御の許可判定の判定精度を確保することができる。よって、アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制しつつ、アイドリングストップ制御の誤許可を抑制することができる。
【0012】
また、前記第2の発明によれば、電源オン時に、前回の電源オフ時に記憶されたアイドリングストップ制御の許可判定結果が許可しないとされている場合には、又は、電圧なまし値が所定電圧未満である場合には、アイドリングストップ制御が許可されないので、アイドリングストップ制御の誤許可を抑制することができる。この際、モータを用いたクランキングが実行され、そのクランキングの過渡中における蓄電装置の出力電圧が、エンジンの始動を保証できる第2所定電圧以上であるか否かに基づいて、再度、アイドリングストップ制御を許可するか否かが判定されるので、アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制することができる。
【0013】
また、前記第3の発明によれば、電源オフ時に許可判定結果が記憶されたアイドリングストップ制御は、未発進時アイドリングストップ制御であり、電源オン時に許可判定が為されるアイドリングストップ制御は、未発進時アイドリングストップ制御であるので、未発進時アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制しつつ、未発進時アイドリングストップ制御の誤許可を抑制することができる。又、電源オン時に未発進時アイドリングストップ制御が許可されず、モータを用いたクランキングが実行されたときに許可判定が為されるアイドリングストップ制御は、発進後アイドリングストップ制御であるので、発進後アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制することができる。
【0014】
また、前記第4の発明によれば、蓄電装置の開路電圧以上の電圧値が電圧なまし値の初期値に設定されてなまし処理が開始されるので、電源オン直後の容量成分による突入電流や機器作動による電圧落ち込みによって誤判定されてしまうことを抑制することができる。
【0015】
また、前記第5の発明によれば、電源オン時に、電圧なまし値が所定電圧以上である場合に加えて、蓄電装置の温度がエンジンの始動を保証できる所定温度以上である場合に、アイドリングストップ制御が許可されるので、蓄電装置の出力可能電力に影響する温度が加味されることで今回の電源オン時におけるアイドリングストップ制御の許可判定の判定精度を適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明が適用される車両の概略構成を説明する図であると共に、車両における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】第2始動装置(スタータモータ)を用いたエンジンの始動が行われたときのスタータ始動時電圧の一例を示す図である。
【
図3】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制しつつアイドリングストップ制御の誤許可を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、前回トリップにおいて実行されるものである。
【
図4】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、アイドリングストップ制御を実行する機会の喪失を抑制しつつアイドリングストップ制御の誤許可を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、今回トリップにおいて実行されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、エンジン12、自動変速機14、第1始動装置16、第2始動装置18、DCDCコンバータ20、電気負荷22、スタートボタン24等を備えている。
【0019】
エンジン12は、車両10の動力源である。エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置70によって、スロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を有する図示しないエンジン制御機器が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0020】
自動変速機14は、例えば公知の遊星歯車式の自動変速機、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)を含む同期噛合型平行2軸式自動変速機、公知のベルト式無段変速機、公知の電気式無段変速機等が用いられる。自動変速機14は、エンジン12が動力伝達可能に連結されており、エンジン12からの動力を図示しない駆動輪側へ伝達する。
【0021】
第1始動装置16は、電動機MG及び高圧バッテリ26等を備えている。電動機MGは、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有するモータジェネレータである。電動機MGは、一体的に設けられたインバータを介して高圧バッテリ26に接続されている。高圧バッテリ26は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置70によってインバータが制御されることにより、電動機MGのトルクであるMGトルクTmが制御される。電動機MGは、力行時には高圧バッテリ26から供給される電力によって駆動させられる。電動機MGは、回生時には発電した電力を高圧バッテリ26へ供給する。
【0022】
電動機MGは、車両10に備えられた駆動ベルト28を介してエンジン12のクランクシャフト12aに動力伝達可能に連結されている。従って、電動機MGは、エンジン12の停止時には力行作動によってエンジン12を回転駆動つまりクランキングする機能を有している。つまり、第1始動装置16は、電動機MGを用いてエンジン12をクランキングする始動装置である。又、電動機MGは、エンジン12の運転時には力行作動によってエンジン12の動力を補助する機能を有している。又、電動機MGは、エンジン12の運転時には回生作動によってエンジン12の動力から電力を発生させる機能を有している。又、電動機MGは、減速走行時には回生作動によって駆動輪から入力される被駆動力から電力を発生させる機能を有している。
【0023】
エンジン12のクランクシャフト12aには、電動機MGと同様に、車両10に備えられたエアコン用コンプレッサであるA/Cコンプレッサ30、図示しないパワーステアリングポンプ、及び図示しないウォーターポンプ等の補機が駆動ベルト28を介して作動的に連結されており、それぞれエンジン12によって駆動される。電動機MGやA/Cコンプレッサ30等が例えば図示しない電磁クラッチを介してクランクシャフト12aに連結されている場合、A/Cコンプレッサ30等の補機は、この電磁クラッチが解放されることで電動機MGの作動のみによって駆動される。つまり、電動機MGは、エンジン12の運転を一時的に停止するアイドリングストップ制御CTspidlの実行中にA/Cコンプレッサ30等の補機を駆動する機能を有している。
【0024】
アイドリングストップ制御CTspidlは、例えばフューエルカット等によってエンジン12の作動を自動的に停止させる一方、ブレーキペダルの踏込み解除やアクセルペダルの踏込み操作等の復帰条件を満たした場合に、エンジン12を自動的に再始動して復帰するエンジン自動停止制御である。アイドリングストップ制御CTspidlは、車両10の電源オン後の未発進時にエンジン12を始動させずに運転停止させた状態で待機させる制御である未発進時アイドリングストップ制御FIS(First Idling Stop)と、作動しているエンジン12を車両10の走行中又は停止中に一時的に運転停止させる制御である発進後アイドリングストップ制御S&S(Stop and Start)と、を含んでいる。発進後アイドリングストップ制御S&Sは通常アイドリングストップ制御である。車両10の電源オンの状態は、後述するイグニッションオン(=「IG-ON」)の状態である。
【0025】
第2始動装置18は、スタータモータ32及び低圧バッテリ34等を備えている。スタータモータ32は、エンジン12を回転駆動可能に設けられたモータである。スタータモータ32は、低圧バッテリ34から供給される電力によって駆動させられる。低圧バッテリ34は、スタータモータ32に電力を供給する蓄電装置である。スタータモータ32は、エンジン12の始動に用いられる始動用モータである。つまり、スタータモータ32は、エンジン12の始動に際してエンジン12を回転駆動するすなわちクランキングする専用のモーターである。第2始動装置18は、スタータモータ32を用いてエンジン12をクランキングする始動装置である。
【0026】
DCDCコンバータ20は、高圧バッテリ26に接続されている。DCDCコンバータ20は、高圧バッテリ26の電圧を降圧することで、低圧バッテリ34の充電や電気負荷22への電力供給を行う。低圧バッテリ34は、DCDCコンバータ20に接続されており、高圧バッテリ26から供給される電力を源として、DCDCコンバータ20によって充電される。低圧バッテリ34は、高圧バッテリ26によって充電可能に設けられていると共にスタータモータ32に電力を供給する低圧電源装置である。高圧バッテリ26は、低圧バッテリ34よりも高い電圧を蓄電する高圧系のバッテリであって、低圧バッテリ34を充電可能に設けられた高圧電源装置である。高圧バッテリ26は、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池である。低圧バッテリ34は、例えば鉛蓄電池等の二次電池である。
【0027】
電気負荷22は、低圧バッテリ34等の低圧系の電源から供給される電力によって作動する複数種類の電気機器である。電気負荷22は、例えばワイパ、ブロアモータ、ナビゲーションシステム等である。図示はしていないが、後述する電子制御装置70等の各種ECU(Electronic Control Unit)を作動させる為の電力も低圧バッテリ34等から供給される。
【0028】
スタートボタン24は、車両10における電源の供給状態すなわち車両電源の状態を切り替える為に運転者により操作されるパワースイッチである。スタートボタン24は、例えばモーメンタリ式の押しボタンスイッチであり、運転者によりスイッチオンポジションまで押込み操作される。スタートボタン24は、スイッチオンポジションまで押込み操作される毎に、スイッチオンポジションに応じたパワースイッチ信号PSonを後述する電子制御装置70へ出力する。電子制御装置70は、パワースイッチ信号PSonに基づいて運転者によるスタートボタン24の操作を検出する。
【0029】
車両電源の状態は、例えばオフ状態としてのイグニッションオフ(=「IG-OFF」)の状態、一部オン状態としてのアクセサリオン(=「ACC」)の状態、及びオン状態としてのイグニッションオン(=「IG-ON」)の状態である。「IG-OFF」の状態は、例えば車両走行を不能とし且つ車両走行に関わらない一部の機能も稼働不能とする為の電源状態であり、車両10の電源オフの状態である。「ACC」の状態は、例えば不図示のコンビネーションメータを消灯して車両走行を不能とするが車両走行に関わらない一部の機能を稼働可能とする為の電源状態であり、車両10の一部電源オンの状態である。「IG-ON」の状態は、例えばコンビネーションメータを点灯して車両走行を可能とする為の電源状態であり、車両10の電源オンの状態である。
【0030】
車両10は、更に、車両10の制御装置を含む電子制御装置70を備えている。電子制御装置70は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置70は、必要に応じてエンジン制御用、変速機制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0031】
電子制御装置70には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばDCDCコンバータ20、スタートボタン24、エンジン回転速度センサ50、MG回転速度センサ52、車速センサ54、アクセル開度センサ56、スロットル弁開度センサ58、ブレーキスイッチ60など)による検出値に基づく各種信号等(例えばDCDC電源電圧VLdc、パワースイッチ信号PSon、エンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、電動機MGの回転速度であるMG回転速度Nm、車速V、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bonなど)が、それぞれ供給される。
【0032】
DCDC電源電圧VLdcは、高圧バッテリ26の電圧を降圧した後の、低圧バッテリ34等へ供給されるDCDCコンバータ20の出力電圧であり、低圧バッテリ34の出力電圧を表している。DCDCコンバータ20は、例えば専用のECUを含んで構成されており、DCDC電源電圧VLdcを検出する機能を有している。DCDCコンバータ20には、車両10に備えられた低圧バッテリセンサ62による検出値に基づく信号として、低圧バッテリ34の温度である低圧バッテリ温度THlowbや低圧バッテリ34の充放電電流である低圧バッテリ充放電電流Ilowbが供給される。
【0033】
DCDCコンバータ20は、例えば低圧バッテリ充放電電流Ilowbの積算値などに基づいて低圧バッテリ34の充電量SOC[%]を算出する。充電量SOCは、低圧バッテリ34の充電状態を示す値つまり充電状態値であって、満充電容量に対する残充電容量の割合を示す値つまり充電率である。低圧バッテリ34の出力可能な最大電力つまり出力可能電力は、例えば低圧バッテリ温度THlowbが常用域より低い低温域では低圧バッテリ温度THlowbが低い程小さくされる。又、低圧バッテリ34の出力可能電力は、例えば充電量SOCが低い領域では充電量SOCが低い程小さくされる。尚、低圧バッテリ温度THlowbや低圧バッテリ充放電電流Ilowbは電子制御装置70に供給されても良く、電子制御装置70が充電量SOCを算出しても良い。
【0034】
電子制御装置70からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン12、自動変速機14、電動機MG、DCDCコンバータ20、スタータモータ32など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、自動変速機14を制御する為の変速機制御指令信号Sat、電動機MGを制御する為のMG制御指令信号Sm、DCDCコンバータ20を制御する為のDCDC制御指令信号Sdc、スタータモータ32を制御する為のスタータ制御指令信号Sstなど)が、それぞれ出力される。
【0035】
電子制御装置70は、車両10における各種制御を実現する為に、エンジン制御手段すなわちエンジン制御部72、変速機制御手段すなわち変速機制御部74、及び始動制御手段すなわち始動制御部76を備えている。
【0036】
エンジン制御部72は、例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記駆動要求量は、例えば駆動輪における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。前記駆動要求量としては、駆動輪における要求駆動力Frdem[N]等を用いることもできる。エンジン制御部72は、伝達損失、補機負荷、自動変速機14の変速比等を考慮して、要求駆動トルクTrdemを実現するようにエンジン12を制御するエンジン制御指令信号Seをエンジン12へ出力する。
【0037】
変速機制御部74は、例えば予め定められた関係である変速マップを用いて自動変速機14の変速判断を行い、必要に応じてつまりその変速判断の結果に応じて自動変速機14の変速制御を実行する為の変速機制御指令信号Satを自動変速機14へ出力する。前記変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機14の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。
【0038】
始動制御部76は、エンジン12の作動状態つまり制御状態を停止状態から運転状態へ切り替えるエンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、始動制御部76は、車両電源の状態が「IG-ON」の状態とされたときに未発進時アイドリングストップ制御FISが実行されないか否か、又は、アイドリングストップ制御CTspidlの実行中に例えばブレーキオン信号Bonがオフとされたことによってアイドリングストップ制御CTspidlが解除されたか否かなどに基づいて、エンジン12の始動要求が有るか否かを判定する。本実施例では、アイドリングストップ制御CTspidlの解除に伴うエンジン12の始動要求を、車両電源の「IG-OFF」から「IG-ON」に伴う初回のエンジン12の始動要求と区別するときには、エンジン12の再始動要求と言う。
【0039】
始動制御部76は、エンジン12の始動要求が有ると判定した場合には、基本的には、第1始動装置16を用いたクランキングを実行する。具体的には、始動制御部76は、エンジン12の始動要求が有ると判定した場合には、電動機MGがクランキングトルクTcrを出力する為のMG制御指令信号Smを電動機MGへ出力する。始動制御部76は、電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン12へ出力する。クランキングトルクTcrは、エンジン回転速度Neを引き上げるエンジン12のクランキングに必要な所定のトルクである。クランキングトルクTcrは、例えばエンジン12の諸元等に基づいて予め定められた例えば一定のトルクである。
【0040】
ここで、エンジン12の始動に際して、例えば高圧バッテリ26の放電可能電力が小さくされているか高圧バッテリ26からの電力供給が難しいときには電動機MGを適切に制御することが難しくされる。その為、例えば電動機MGが適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に車両10がある場合には、第1始動装置16を用いたクランキングによるエンジン12の始動が難しい場合がある。
【0041】
始動制御部76は、エンジン12の始動に際して、電動機MGが適切に制御できないと判断される予め定められた極低温の環境に車両10がある場合には、第1始動装置16を用いたクランキングに替えて、第2始動装置18を用いたクランキングを実行する。具体的には、始動制御部76は、エンジン12の始動要求が有ると判定したときに、予め定められた極低温の環境に車両10がある場合には、スタータモータ32を作動する為のスタータ制御指令信号Sstをスタータモータ32へ出力し、スタータモータ32によるエンジン12のクランキングを行う。始動制御部76は、スタータモータ32によるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給やエンジン点火などを開始する為のエンジン制御指令信号Seをエンジン12へ出力する。始動制御部76は、エンジン12が完爆した状態となるとスタータ制御指令信号Sstを解除してスタータモータ32によるクランキングを停止する。
【0042】
このように、始動制御部76は、エンジン12の始動に際して、第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングよりも第1始動装置16を用いたエンジン12のクランキングを優先的に実行する。つまり、車両電源の「IG-OFF」から「IG-ON」に伴うエンジン12の始動やアイドリングストップ制御CTspidlの解除に伴うエンジン12の始動では、第1始動装置16を用いたエンジン12のクランキングが優先的に実行される。一方で、極低温の環境下では、第1始動装置16に替えて第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングが実行される。尚、車両電源の「IG-OFF」から「IG-ON」に伴って初回にエンジン12を始動する場合には、エンジン12が暖機前である為に必要なクランキングトルクTcrが大きくされ易いので、第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングが実行されても良い。
【0043】
エンジン12の始動に際して、第1始動装置16を用いた始動に失敗する可能性がある。始動制御部76は、第1始動装置16を用いた始動に失敗した場合には、第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングを実行する。このように、第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングは、エンジン12を始動する際のバックアップ機能を有している。
【0044】
第2始動装置18を用いたクランキングはバックアップ機能としての働きがある為、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が保証できない場合には、アイドリングストップ制御CTspidlを実行しない方が良い。始動制御部76は、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動を保証できる場合には、アイドリングストップ制御CTspidlを許可する。一方で、始動制御部76は、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動を保証できない場合には、アイドリングストップ制御CTspidlを禁止する。
【0045】
低圧バッテリ34の状態が良好であれば、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動を保証できる。始動制御部76は、低圧バッテリ34の状態がスタータモータ32を用いたクランキングによるエンジン12の始動を保証できる状態であるか否かに基づいて、アイドリングストップ制御CTspidlを許可するか否かを判定する。低圧バッテリ34の状態は、低圧バッテリ34の劣化状態、低圧バッテリ34の充電状態つまり充電量SOCなどで示される。低圧バッテリ34の状態は、例えば第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が成功したときの低圧バッテリ34の出力電圧つまりDCDC電源電圧VLdcであるスタータ始動時電圧VLstによって判断することができる。スタータ始動時電圧VLstは、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が成功した時点における、スタータモータ32を用いたクランキングの過渡中におけるDCDC電源電圧VLdcである。つまり、スタータ始動時電圧VLstは、例えばエンジン12が完爆したことに伴ってエンジン12のクランキングが完了した時点でのDCDC電源電圧VLdcである。
【0046】
図2は、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が行われたときのスタータ始動時電圧VLstの一例を示す図である。
図2において、t1時点は、第2始動装置18を用いたエンジン12のクランキングが開始された時点、すなわちスタータモータ32の駆動が開始された時点を示している。スタータモータ32の駆動が開始されると、DCDC電源電圧VLdcは開路電圧OCV(Open Circuit Voltage)から低下させられる。エンジン12の始動が成功してスタータモータ32の駆動が終了させられると、DCDC電源電圧VLdcは開路電圧OCVに向かって上昇させられる(t2時点以降参照)。エンジン12の始動が成功した時点すなわちスタータモータ32の駆動が終了させられた時点のDCDC電源電圧VLdcがスタータ始動時電圧VLstである(t2時点参照)。開路電圧OCVは、低圧バッテリ34に負荷を掛けていない状態のときの低圧バッテリ34の端子間の電圧である。
【0047】
図1に戻り、始動制御部76は、スタータ始動時電圧VLst、低圧バッテリ34の充電量SOCなどを用いて低圧バッテリ34の状態が良好であるか否かを判定し、低圧バッテリ34の状態が良好であるか否かに基づいてアイドリングストップ制御CTspidlを許可するか否かを判定する。
【0048】
アイドリングストップ制御CTspidlを許可することとは、車両電源が「IG-OFF」後に「IG-ON」された次回トリップにおける未発進時アイドリングストップ制御FISを許可することと、車両電源が「IG-ON」で継続中である同一トリップ中における次回の発進後アイドリングストップ制御S&Sを許可することと、を含んでいる。未発進時アイドリングストップ制御FISの許可判定であるFIS許可判定と、発進後アイドリングストップ制御S&Sの許可判定であるS&S許可判定と、は各々行われても良い。FIS許可判定の結果であるFIS許可判定結果が許可するとなっているときには、FIS許可フラグがオンになっており、FIS許可判定結果が許可しないとなっているときには、FIS許可フラグがオフとなっている。S&S許可判定の結果であるS&S許可判定結果が許可するとなっているときには、S&S許可フラグがオンになっており、S&S許可判定結果が許可しないとなっているときには、S&S許可フラグがオフとなっている。
【0049】
FIS許可判定結果は、次回トリップにおける未発進時アイドリングストップ制御FISに対する許可判定の結果である。その為、始動制御部76は、車両10の電源オフ時に、つまり車両電源が「IG-OFF」とされたときに、アイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果特にはFIS許可判定結果を例えば不揮発性メモリなどに記憶する。電子制御装置70等の各種ECUの一部は、車両電源が「IG-OFF」とされても一定期間は稼働させられる。又、セキュリティ機能や車両キー等の検知機能に関わるECU等は、車両電源が「IG-OFF」とされても継続して稼働させられる。尚、始動制御部76は、車両電源が「IG-OFF」とされたときには、S&S許可判定結果も同様に不揮発性メモリなどに記憶しても良い。又は、始動制御部76は、車両電源が「IG-OFF」とされたときには、S&S許可フラグをオンとする、つまりデフォルトではS&S許可フラグをオンとしても良い。
【0050】
ところで、低圧バッテリ34の充電量SOCは、車両電源が「IG-OFF」とされている期間においても待機電力等による低圧バッテリ34の放電によって低下させられる。そうすると、車両電源が「IG-ON」とされたときに、前回トリップにて記憶された未発進時アイドリングストップ制御FISの許可判定を用いると、未発進時アイドリングストップ制御FISを誤って許可してしまう可能性がある。
【0051】
未発進時アイドリングストップ制御FISは、車両電源が「IG-ON」とされた時点から電子制御装置70等の各種ECUの初期化処理が実行される所定時間TMfが経過する時点までの期間である準備期間TRpが経過した後に開始することが好ましい。従って、準備期間TRpの経過後には、未発進時アイドリングストップ制御FISの許可判定が確定されている必要がある。前記初期化処理は、例えばコンピュータにおける公知のイニシャル処理である。
【0052】
車両電源が「IG-OFF」とされている期間では、DCDCコンバータ20が稼働していないので、低圧バッテリ充放電電流Ilowbの積算値が不明である。準備期間TRpの短い時間では、低圧バッテリ充放電電流Ilowbの積算値を用いない方法による充電量SOCの確定は難しい。
【0053】
或いは、準備期間TRpにおいて、例えばエンジン12を回転駆動できない状態でスタータモータ32を駆動し、つまりスタータモータ32を空回しし、スタータ始動時電圧VLstを検出して未発進時アイドリングストップ制御FISの許可判定を行う方法が考えられる。しかしながら、スタータモータ32を空回しする方法では、DCDC電源電圧VLdcの電圧降下によって各種ECUがリセットされてしまい、各種ECUの初期化処理が再作動させられ、結果的に初期化処理が長くなってしまうおそれがある。加えて、車両電源が「IG-ON」とされた直後は、DCDCコンバータ20による高圧バッテリ26の電圧の降圧が安定しておらず、スタータモータ32の作動によるDCDC電源電圧VLdcの電圧降下量が大きくされて各種ECUがリセットされ易くされる可能性がある。更に、未発進時アイドリングストップ制御FISは、エンジン12を停止することによる静粛性や燃料消費削減が目的であるが、スタータモータ32の作動によって静粛性を損なう可能性がある。
【0054】
そこで、始動制御部76は、「IG-OFF」期間中の低圧バッテリ34の放電量を加味した「IG-ON」後の低圧バッテリ34の状態を、準備期間TRpにおけるECU電圧なまし値VLseによって類推する。始動制御部76は、ECU電圧なまし値VLseを用いたFIS許可判定結果と、前回トリップの「IG-OFF」時に記憶されたFIS許可判定結果と、を用いて今回トリップの「IG-ON」時のFIS許可判定を確定させる。ECU電圧なまし値VLseは、準備期間TRpにおいてDCDC電源電圧VLdcになまし処理を施した電圧なまし値である。
【0055】
具体的には、始動制御部76は、準備期間TRpにおいて、所定の制御周期毎に、次式(1)を用いてECU電圧なまし値VLseを算出する。次式(1)において、「VLse(n)」は今回の制御周期にて算出されたECU電圧なまし値VLseである。「VLse(n-1)」は前回の制御周期にて算出されたECU電圧なまし値VLseである。「VLdc」は今回の制御周期にて検出されたDCDC電源電圧VLdcである。「S」は1よりも大きな所定のなまし量である。始動制御部76は、準備期間TRpの経過時点で算出されている「VLse(n)」を、FIS許可判定に用いるECU電圧なまし値VLseに設定する。ECU電圧なまし値VLseを用いるのは、例えば「IG-ON」直後の短い期間におけるDCDC電源電圧VLdcの変動を滑らかにした値にてECU電圧なまし値VLseを算出してFIS許可判定が誤判定されてしまうことを抑制する為である。
【0056】
VLse(n) = VLse(n-1)+(VLdc-VLse(n-1))/S ・・・(1)
【0057】
前記式(1)において、ECU電圧なまし値VLseの初期値つまり前記式(1)を用いた最初の計算で「VLse(n-1)」とする値としては、例えば低圧バッテリ34の開路電圧OCV以上の所定の電圧値が予め定められている。これは、「IG-ON」直後の容量成分による突入電流や各種ECU等の作動による電圧落ち込みによってFIS許可判定が誤判定されてしまうことを抑制する為である。このように、始動制御部76は、開路電圧OCV以上の電圧値をECU電圧なまし値VLseの初期値に設定して、準備期間TRpにおけるDCDC電源電圧VLdcのなまし処理を開始する。
【0058】
始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶したアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果特にはFIS許可判定結果が許可するとなっているか否かを判定する。又、始動制御部76は、ECU電圧なまし値VLseがエンジン12の始動を保証できる所定電圧VLsef以上であるか否かを判定する。ECU電圧なまし値VLseが低いときは、つまり低圧バッテリ34の充電量SOCが低いと類推できるときは、低圧バッテリ34の出力可能電力が低下して未発進時アイドリングストップ制御FISからの再始動が困難になる可能性がある。所定電圧VLsefは、例えば未発進時アイドリングストップ制御FISからの再始動を保証する為の予め定められた閾値である。
【0059】
始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶したFIS許可判定結果が許可するとなっていると判定し、且つ、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上であると判定した場合には、アイドリングストップ制御CTspidl特には未発進時アイドリングストップ制御FISを許可する。未発進時アイドリングストップ制御FISを許可することは、FIS許可判定を許可するとすることであり、FIS許可フラグをオンにすることである。
【0060】
始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶したFIS許可判定結果が許可しないとなっていると判定した場合には、又は、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef未満であると判定した場合には、未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しない。未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しないことは、FIS許可判定を許可しないとすることであり、FIS許可フラグをオフにすることである。
【0061】
始動制御部76は、未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しない場合には、初回のエンジン12の始動要求を出力する。この際、第1始動装置16を用いたエンジン12のクランキングを実行することが考えられる。そうすると、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が保証できているか否かが不明な状態とされる為、発進後アイドリングストップ制御S&Sも禁止した方が好ましい。一方で、初回のエンジン12の始動を、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動で行えば、第2始動装置18を用いたエンジン12の始動が保証できているか否かが確認され得る。その為、始動制御部76は、未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しない場合には、発進後アイドリングストップ制御S&Sを禁止しないと共に、初回のエンジン12の始動要求を、スタータモータ32によるクランキングを行う始動要求つまり初回スタータ始動要求とする。つまり、始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶したFIS許可判定結果が許可しないとなっていると判定した場合には、又は、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef未満であると判定した場合には、S&S許可フラグをオンのまま維持すると共に、スタータモータ32を用いたエンジン12のクランキングを実行する。
【0062】
始動制御部76は、スタータモータ32を用いたエンジン12のクランキングを実行した場合には、スタータ始動時電圧VLstがエンジン12の始動を保証できる第2所定電圧VLstf以上であるか否かに基づいて、再度、アイドリングストップ制御CTspidl特には発進後アイドリングストップ制御S&Sを許可するか否かを判定する。第2所定電圧VLstfは、例えば第2始動装置18を用いたエンジン12の始動を保証できる程度に低圧バッテリ34の状態が良好であることを判断する為の予め定められた閾値であって、所定電圧VLsefよりも低い値に設定されている。
【0063】
具体的には、始動制御部76は、スタータ始動時電圧VLstが第2所定電圧VLstf以上である場合には、S&S許可フラグをオンに維持する。この場合、始動制御部76は、FIS許可フラグをオフからオンに切り替えても良い。一方で、始動制御部76は、スタータ始動時電圧VLstが第2所定電圧VLstfよりも低い場合には、S&S許可フラグをオフに切り替える。
【0064】
今回トリップの「IG-ON」時の低圧バッテリ温度THlowbが低いときは、低圧バッテリ34の出力可能電力が低下して未発進時アイドリングストップ制御FISからの再始動が困難になる可能性がある。その為、始動制御部76は、低圧バッテリ温度THlowbがエンジン12の始動を保証できる所定温度THlowbf以上であるか否かを判定しても良い。所定温度THlowbfは、例えば未発進時アイドリングストップ制御FISからの再始動を保証する為の予め定められた閾値である。
【0065】
始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上であると判定した場合に加えて、低圧バッテリ温度THlowbが所定温度THlowbf以上であると判定した場合に、アイドリングストップ制御CTspidl特には未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しても良い。始動制御部76は、車両電源の「IG-ON」時に、低圧バッテリ温度THlowbが所定温度THlowbf未満であると判定した場合には、未発進時アイドリングストップ制御FISを許可しなくても良い。
【0066】
図3及び
図4は、各々、電子制御装置70の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、アイドリングストップ制御CTspidlを実行する機会の喪失を抑制しつつアイドリングストップ制御CTspidlの誤許可を抑制する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば走行中に実行される。
図3は、前回トリップにおいて実行されるものであり、
図4は、今回トリップにおいて実行されるものである。尚、
図3を実行するときのトリップを、便宜上、
図4を実行するときのトリップに対して前回トリップとしているが、
図3を実行しているときには今回トリップである。
【0067】
図3において、フローチャートの各ステップは始動制御部76の機能に対応している。前回トリップにおいてアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定が開始させられる。ステップ(以下、ステップを省略する)S10において、スタータ始動時電圧VLst、低圧バッテリ34の充電量SOCなどに基づいて低圧バッテリ34の状態が良好であるか否かが判定され、低圧バッテリ34の状態が良好であるか否かに基づいて次回トリップで用いられるFIS許可判定が実行される。次いで、S20において、車両電源が「IG-OFF」とされたか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は上記S10が実行される。このS20の判断が肯定される場合はS30において、上記S10におけるFIS許可判定結果が不揮発性メモリなどに記憶される。
【0068】
図4において、フローチャートの各ステップは始動制御部76の機能に対応している。今回トリップにおいて車両電源の「IG-ON」後、準備期間TRpが経過するまでECU電圧なまし値VLseが算出される。そして、S40において、前回トリップにて記憶されたFIS許可判定結果が許可するとなっているか否かが判定される。このS40の判断が肯定される場合はS50において、低圧バッテリ温度THlowbが所定温度THlowbf以上であり、且つ、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上であるか否かが判定される。このS50の判断が肯定される場合はS60において、FIS許可判定が許可するとされ、FIS許可フラグがオンにされて、アイドリングストップ制御CTspidlの許可判定が終了させられる。S&S許可フラグはオンのまま維持される。上記S40の判断が否定される場合は、又は、上記S50の判断が否定される場合は、S70において、FIS許可判定が許可しないとされ、FIS許可フラグがオフにされると共に、初回スタータ始動要求が出力される。この時点では、S&S許可フラグはオンのまま維持される。次いで、S80において、スタータ始動時電圧VLstが第2所定電圧VLstf以上であるか否かが判定される。このS80の判断が肯定される場合はS90において、S&S許可フラグがオンに維持されて、アイドリングストップ制御CTspidlの許可判定が終了させられる。この場合、FIS許可フラグはオフからオンに切り替えられても良い。上記S80の判断が否定される場合、S&S許可判定が許可しないとされ、S&S許可フラグがオフにされて、アイドリングストップ制御CTspidlの許可判定が終了させられる。
【0069】
上述のように、本実施例によれば、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶されたアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果が許可するとされており、且つ、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上である場合には、アイドリングストップ制御CTspidlが許可されるので、前回の「IG-OFF」時点から今回の「IG-ON」時点までの期間の長さに拘わらず、低圧バッテリ34の放電を含めた現在の低圧バッテリ34の状態をECU電圧なまし値VLseによって類推することができ、ECU電圧なまし値VLseを用いたアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果を前回の「IG-OFF」時に記憶されたアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果と合わせることで今回の「IG-ON」時におけるアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定の判定精度を確保することができる。よって、アイドリングストップ制御CTspidlを実行する機会の喪失を抑制しつつ、アイドリングストップ制御CTspidlの誤許可を抑制することができる。アイドリングストップ制御CTspidlの誤許可を抑制することで、アイドリングストップ制御CTspidlからのエンジン12の再始動が困難になることを抑制することができる。
【0070】
また、本実施例によれば、車両電源の「IG-ON」時に、前回の車両電源の「IG-OFF」時に記憶されたアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定結果が許可しないとされている場合には、又は、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef未満である場合には、アイドリングストップ制御CTspidlが許可されないので、アイドリングストップ制御CTspidlの誤許可を抑制することができる。この際、スタータモータ32を用いたクランキングが実行され、スタータ始動時電圧VLstが第2所定電圧VLstf以上であるか否かに基づいて、再度、アイドリングストップ制御CTspidlを許可するか否かが判定されるので、アイドリングストップ制御CTspidlを実行する機会の喪失を抑制することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、「IG-OFF」に許可判定結果が記憶されたアイドリングストップ制御CTspidlは、未発進時アイドリングストップ制御FISであり、「IG-ON」時に許可判定が為されるアイドリングストップ制御CTspidlは、未発進時アイドリングストップ制御FISであるので、未発進時アイドリングストップ制御FISを実行する機会の喪失を抑制しつつ、未発進時アイドリングストップ制御FISの誤許可を抑制することができる。又、「IG-ON」時に未発進時アイドリングストップ制御FISが許可されず、スタータモータ32を用いたクランキングが実行されたときに許可判定が為されるアイドリングストップ制御CTspidlは、発進後アイドリングストップ制御S&Sであるので、発進後アイドリングストップ制御S&Sを実行する機会の喪失を抑制することができる。
【0072】
また、本実施例によれば、低圧バッテリ34の開路電圧OCV以上の電圧値がECU電圧なまし値VLseの初期値に設定されて、準備期間TRpにおけるDCDC電源電圧VLdcのなまし処理が開始されるので、「IG-ON」直後の容量成分による突入電流や各種ECU等の作動による電圧落ち込みによってアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定が誤判定されてしまうことを抑制することができる。
【0073】
また、本実施例によれば、「IG-ON」時に、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上である場合に加えて、低圧バッテリ温度THlowbが所定温度THlowbf以上である場合に、アイドリングストップ制御CTspidlが許可されるので、低圧バッテリ34の出力可能電力に影響する低圧バッテリ温度THlowbが加味されることで今回の「IG-ON」時におけるアイドリングストップ制御CTspidlの許可判定の判定精度を適切に確保することができる。
【0074】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0075】
例えば、前述の実施例における
図4のフローチャートにおいて、FIS許可判定を行うだけであれば、S70-S90は設けられなくても良い。又、S50では、少なくとも、ECU電圧なまし値VLseが所定電圧VLsef以上であるか否かが判定されれば良く、低圧バッテリ温度THlowbが所定温度THlowbf以上であるか否かは判定されなくても良い。このように、
図4のフローチャートは、適宜変更され得る。
【0076】
また、前述の実施例において、アイドリングストップ制御CTspidlは、発進後アイドリングストップ制御S&S及び未発進時アイドリングストップ制御FISを含んでいたが、FIS許可判定を行うだけであれば、少なくとも未発進時アイドリングストップ制御FISを含んでおれば良い。
【0077】
また、前述の実施例において、車両10は、シリーズ方式のハイブリッド車両などであっても良く、必ずしも自動変速機14を備えている必要はない。又、車両10は、第1始動装置16と第2始動装置18とを備えていたが、少なくとも第2始動装置18を備えておれば良い。車両10は、第2始動装置18のみを備えている場合には、低圧バッテリ34を充電する機器として、エンジン12によって駆動されて発電を行う公知のオルタネータを備えておれば良く、DCDCコンバータ20を備えている必要はない。
【0078】
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0079】
10:車両
12:エンジン
18:第2始動装置(始動装置)
32:スタータモータ(モータ)
34:低圧バッテリ(蓄電装置)
70:電子制御装置(制御装置)
76:始動制御部