(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】電子楽器、電子楽器の発音方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G10H 1/24 20060101AFI20240717BHJP
G10H 1/38 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
G10H1/24
G10H1/38 Z
(21)【出願番号】P 2022163237
(22)【出願日】2022-10-11
(62)【分割の表示】P 2020109089の分割
【原出願日】2020-06-24
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001443
【氏名又は名称】カシオ計算機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【氏名又は名称】大菅 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100182936
【氏名又は名称】矢野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博毅
(72)【発明者】
【氏名】川島 肇
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-256412(JP,A)
【文献】特開2005-070167(JP,A)
【文献】特開2001-249668(JP,A)
【文献】特開平11-133990(JP,A)
【文献】特開平06-250655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
和音の演奏操作を検出する場合に、
前記和音の演奏操作に応じたノート群に対して、第1音色の第1楽音とともに、第2音色の第2楽音での発音を指示し、
和音の演奏操作を検出しない場合に、
検出したノートに対して、前記第1楽音の発音を指示し、前記第2楽音の発音を指示しない、
電子楽器。
【請求項2】
設定された時間内に操作が検出された複数の演奏操作子の数が設定された数に達している場合に、前記和音の演奏操作を検出する場合と判断し、
前記設定された数に達していない場合に、前記和音の演奏操作を検出しない場合と判断する、請求項1に記載の電子楽器。
【請求項3】
前記和音の演奏操作を検出した場合に、レイヤーモード・オンを設定し、
前記レイヤーモード・オンが設定されている状態において、演奏操作子への新たな操作が検出された場合に、前記新たな操作に応じて指定された音高については前記第1楽音での発音を指示し、前記第2楽音の発音を指示しない、
請求項1又は2に記載の電子楽器。
【請求項4】
前記レイヤーモード・オンが設定されている状態において前記和音の演奏操作に応じて発音されている全ての楽音に対する消音が指示された場合に、レイヤーモード・オフを設定し、
前記レイヤーモード・オフが設定されている状態で、設定された時間内に操作が検出された複数の演奏操作子の数が設定された数に達している場合に、前記和音の演奏操作を検出する場合と判断する、
請求項3に記載の電子楽器。
【請求項5】
前記第1音色は、少なくともアコースティックピアノ、アコースティックギター、マリンバのいずれかの音色を含み、
前記第2音色は、少なくともストリングス、クワイヤのいずれかの音色を含む、
請求項1乃至4のいずれかに記載の電子楽器。
【請求項6】
前記第1音色に応じた音量エンベロープは、前記第2音色に応じた音量エンベロープよりも、演奏操作子への押鍵操作に応じて速く立ち上がるように設定されている、
請求項1乃至5のいずれかに記載の電子楽器。
【請求項7】
前記第1音色に応じた音量エンベロープは、前記第2音色に応じた音量エンベロープよりも、演奏操作子への離鍵操作に応じて速く消音されるように設定されている、
請求項1乃至6のいずれかに記載の電子楽器。
【請求項8】
電子楽器に、
和音の演奏操作を検出する場合に、
前記和音の演奏操作に応じたノート群に対して、第1音色の第1楽音とともに、第2音色の第2楽音での発音を指示させ、
和音の演奏操作を検出しない場合に、
検出したノートに対して、前記第1楽音の発音を指示させ、前記第2楽音の発音を指示させない、
電子楽器の発音方法。
【請求項9】
電子楽器に、
和音の演奏操作を検出する場合に、
前記和音の演奏操作に応じたノート群に対して、第1音色の第1楽音とともに、第2音色の第2楽音での発音を指示させ、
和音の演奏操作を検出しない場合に、
検出したノートに対して、前記第1楽音の発音を指示し、前記第2楽音の発音を指示させない、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子楽器、電子楽器の発音方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子楽器には、2つ以上の音色を同時に重ねて演奏するレイヤー機能が搭載されているものがある(例えば特許文献1に記載のもの)。例えば、オーケストラにおけるピアノとバイオリンの重厚なユニゾン演奏を再現したような音色を得るために、電子鍵盤楽器において、ピアノの音とストリングスの音を重ね合わせて同時に発生させることができる機能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、楽器演奏では必ずしも全ての楽音をユニゾンで演奏するとは限らない。特にピアノのような鍵盤楽器では、左手で和音を演奏し、右手で単音のフレーズを演奏することも多く、この場合のように、左手で演奏されるピアノの和音のみにストリングス音を重ねて重厚な楽音を発生させ、右手で演奏されるフレーズはピアノ音だけで軽やかなメロディーを奏でたいというようなケースは多々ある。
【0005】
しかしながら、従来の電子楽器でこのような演奏を行うには、演奏者が演奏中に何らかの操作によって、レイヤー機能を有効にしたり無効にしたりする必要があり、演奏に支障を来しつつ演奏を行うか、もしくは不必要なユニゾン音色で演奏を行うか、という妥協を強いられていた。
【0006】
そこで、本発明は、ユーザ演奏中に特別なユーザ操作を必要とせずに、単一の音色のみで発音したり、複数の音色を重ね合わせて発音したりできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
態様の一例の電子楽器は、和音の演奏操作を検出する場合に、前記和音の演奏操作に応じたノート群に対して、第1音色の第1楽音とともに、第2音色の第2楽音での発音を指示し、和音の演奏操作を検出しない場合に、検出したノートに対して、前記第1楽音の発音を指示し、前記第2楽音の発音を指示しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ユーザ演奏中に特別なユーザ操作を必要とせずに、単一の音色のみで発音したり、複数の音色を重ね合わせて発音したりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】電子鍵盤楽器の一実施形態の外観例を示す図である。
【
図2】電子鍵盤楽器の本体内の制御システムの一実施形態のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態の動作例を示す説明図(その1)である。
【
図4】鍵盤イベント処理の例を示すフローチャートである。
【
図5】経過時間監視処理の例を示すフローチャートである。
【
図6】実施形態の動作例を示す説明図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、電子鍵盤楽器の一実施形態100の外観例を示す図である。電子鍵盤楽器100は、複数(例えば61)の演奏操作子である鍵からなる鍵盤101と、TONEボタン102群と、LAYERボタン103と、各種設定情報を表示するLCD(Liquid Crystal Display:液晶ディスプレイ)104を備える。その他、電子鍵盤楽器100は、ボリュームつまみや、ピッチベンドや各種変調を行うためのベンダー/モジュレーション・ホイールなどを備える。また、電子鍵盤楽器100は、特には図示しないが、演奏により生成された楽音を放音するスピーカを裏面部、側面部、又は背面部等に備える。
【0011】
演奏者は、電子鍵盤楽器100の例えば右上パネル上のTONEセクション(破線部102)に配置された10個のTONEボタン102群によって、音色を選択することができる。また、同じく右上パネル上のLAYERボタン103によってレイヤー音色設定モードを設定又は解除できる。
【0012】
レイヤー音色設定モードが解除されている状態では、LAYERボタン103のLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)は消灯しており、演奏者はTONEボタン102によって後述する基本音色(第1音色)を選択することができ、選択された音色のTONEボタン102のLEDが点灯する。
【0013】
この状態で演奏者がLAYERボタン103を押下すると、レイヤー音色設定モードが設定され、LAYERボタン103のLEDが点灯する。このレイヤー音色設定モード設定状態では、TONEボタン102はレイヤー音色の選択に使われ、ここで演奏者がTONEボタン102を選択すると、選択されたTONEボタン102のLEDが点滅する。基本音色と同じ音色を選択することはできない。
【0014】
この状態で演奏者がもう一度LAYERボタン103を押下すると、レイヤー音色設定モードが解除され、同時に点滅していた音色のTONEボタン102のLEDが消灯する。
【0015】
図2は、
図1の電子鍵盤楽器100の本体内の制御システム200の一実施形態のハードウェア構成例を示す図である。
図2において、制御システム200は、プロセッサであるCPU(中央演算処理装置)201、ROM(リードオンリーメモリ)202、及びRAM(ランダムアクセスメモリ)203と、音源である音源LSI(大規模集積回路)204と、ネットワークインタフェース205と、
図1の鍵盤101が接続されるキースキャナ206と、
図1のTONEボタン102群及びLAYERボタン103が接続されるI/Oインターフェース207と、
図1のLCD104が接続されるLCDコントローラ208が、それぞれシステムバス209に接続されている。音源LSI204から出力される楽音出力データ214は、D/Aコンバータ212によりアナログ楽音出力信号に変換される。アナログ楽音出力信号は、アンプ213で増幅された後に、特には図示しないスピーカ又は出力端子から出力される。
【0016】
CPU201は、RAM203をワークメモリとして使用しながらROM202に記憶された制御プログラムを実行することにより、
図1の電子鍵盤楽器100の制御動作を実行する。
【0017】
キースキャナ206は、
図1の鍵盤101の押鍵/離鍵状態を定常的に走査し、
図4の鍵盤イベントの割込みを発生させて、鍵盤101上の鍵の押鍵状態の変化をCPU201に伝える。この割込みが発生すると、CPU201は、
図4のフローチャートを用いて後述する鍵盤イベント処理を実行する。この鍵盤イベント処理においてCPU201は、押鍵の鍵盤イベントが発生した場合に、新たな押鍵の音高データに対応する基本音色(第1音色)の第1楽音の発音を、音源LSI204に指示する。
【0018】
I/Oインターフェース207は、
図1のTONEボタン102群及びLAYERボタン103の操作状態を検出し、CPU201に伝える。
【0019】
CPU201には、タイマ210が接続される。タイマ210は、一定時間(例えば1ミリ秒)毎に割込みを発生させる。この割込みが発生すると、CPU201は、
図5のフローチャートを用いて後述する経過時間監視処理を実行する。この経過時間監視処理においてCPU201は、
図1の鍵盤101上で演奏者により所定の演奏操作が実行されたか否かを判定する。例えば、経過時間監視処理においてCPU201は、演奏者による鍵盤101上の複数の鍵を用いた和音の演奏操作を判定する、より具体的には、経過時間監視処理においてCPU201は、
図1の鍵盤101上のいずれかの鍵が押鍵されることによりキースキャナ206から発生する前述した鍵盤イベント間の経過時間を計測し、予め設定された同時に押鍵されたとみなされる経過時間内において押鍵数が予め設定された和音演奏の成立音数に達したか否かを判定する。そして、CPU201は、その判定をした場合に、上記経過時間内に押鍵された鍵の音高データ群に対応するレイヤー音色の第2楽音の発音を、音源LSI204に指示する。この動作と共に、CPU201は、レイヤーモード・オンを設定する。
【0020】
本願において、レイヤー音色とは、基本音色(第1音色)に重ね合わせる音色(第2音色)を意味する。レイヤーモード・オンとは、基本音色に重ね合わせられてレイヤー音色がユニゾンで発音される状態、レイヤーモード・オフとは、基本音色のみが発音される状態を意味する。
【0021】
前述した鍵盤イベント処理においてCPU201は、離鍵の鍵盤イベントが発生した場合に、前述したレイヤーモード・オンが設定されている状態では、離鍵した基本音色の第1楽音とレイヤー音色の第2楽音の消音を音源LSI204に指示する。CPU201は、発音されている全ての基本音色の第1楽音及びレイヤー音色の第2楽音に対する消音を音源LSI204に指示した場合に、レイヤーモード・オフを設定する。CPU201は、前述した経過時間監視処理における、同時に押鍵されたとみなされる経過時間内において押鍵数が和音演奏の成立音数に達したか否かを判定する処理を、レイヤーモード・オフが設定されている場合に実行する。
【0022】
音源LSI204には、波形ROM211が接続されている。音源LSI204は、CPU201からの発音指示に従って、波形ROM211から楽音波形データ214の読出しを発音指示に含まれる音高データに対応する速度で開始し、D/Aコンバータ212に出力する。音源LSI204は、例えば、時分割処理によって同時に最大256ボイスを発音させる能力を有してよい。音源LSI204は、CPU201からの消音指示に従って、波形ROM211からの消音指示に対応する楽音波形データ214の読出しを中止し、消音指示に対応する楽音の発音を終了する。
【0023】
LCDコントローラ208は、
図1のLCD104の表示状態を制御する集積回路である。
【0024】
ネットワークインタフェース205は、例えばLocal Area Network(LAN)等の通信ネットワークに接続され、CPU201が使用する制御プログラム(後述する鍵盤イベント処理及び経過時間監視処理のフローチャートを参照)又はデータを外部の装置から受信し、それらをRAM203等にロードして使用することができる。
【0025】
図1及び
図2に示される実施形態の動作例について説明する。レイヤー音色での発音を開始させるための和音演奏の判定条件は、ほぼ同時(T秒以内)にN音以上の押鍵によるコード演奏が発生することである。その条件の成立が判定されると、その判定がなされた押鍵に対応する鍵が全て離鍵されるまでレイヤーモード・オン状態となり、その判定がなされた時点の和音を成立させた鍵に対してのみ、基本音色の第1楽音とともにレイヤー音色の第2楽音の発音指示が音源LSI204に対して発行され、基本音色の第1楽音とレイヤー音色の第2楽音がユニゾンで音源LSI204から発音される。
【0026】
上記レイヤーモード・オン状態において、上記判定がなされた鍵のうちのいくつかが離鍵されてN音未満になっても、レイヤーモード・オン状態は維持される。上記判定がなされた鍵の全てが離鍵されると、レイヤーモード・オフ状態になる。
【0027】
また、一旦レイヤーモード・オン状態になると、その状態が維持されている間は、演奏者がどのような演奏を行っても、新規の押鍵に対応する音高の楽音は基本音色で発音され、レイヤー音色では発音されない。
【0028】
和音演奏の成立音数Nや、同時に押鍵されたとみなされる経過時間Tは、音色ごとに設定されてよい。
【0029】
図3は、本実施形態の動作例を示す説明図(その1)である。縦軸は演奏された音高(ノートナンバ)を鍵盤101で表し、横軸は時間経過(単位はミリ秒)を表す。黒丸の位置は押鍵が発生した鍵のノートナンバと時刻を表し、白丸の位置は離鍵が発生した鍵のノートナンバと時刻を表す。
図3中、押鍵イベントの順番に番号t1~t14が付与されている。黒丸に続く黒実線は押鍵中であることを示し、基本音色が発音されている期間を表している。また、グレー破線に変わった部分は基本音色(第1音色)とレイヤー音色(第2音色)がユニゾンで発音されている期間を表す。
図3の例では、同時に押鍵が行われたとみなす経過時間Tは例えば25msec(ミリ秒)、和音演奏の成立音数Nは例えば3音以上と設定されている。
【0030】
まず、レイヤーモード・オフ状態で押鍵イベントt1が発生すると、例えば音高C2の基本音色での発音が開始されると共に(t1の黒実線期間)、経過時間の計測が開始される。続いて、押鍵イベントt1の発生から25ミリ秒以内に押鍵イベントt2が発生し、音高E2の基本音色での発音が開始される(t2の黒実線期間)。更に続いて、押鍵イベントt3が発生し、音高G2の基本音色での発音が開始される(t3の黒実線期間)が、この押鍵イベントt3の発生は、押鍵イベントt1の発生から25ミリ秒以上経過してしまっている。押鍵イベントt1の発生から同時の押鍵とみなされる経過時間T=25ミリ秒が経過した時点における押鍵数は、2であり和音演奏の成立音数N=3未満である。この場合、押鍵イベントt1、t2、t3に対しては、レイヤー音色での第2楽音は発生せず、t1、t2、t3の部分の各黒実線で示される基本音色での第1楽音の発音のみが行われる(=指示条件を満たさない)。
【0031】
その後、押鍵イベントt4が発生し、音高C4の基本音色での発音が開始される(t4の黒実線期間)と共に、再び経過時間の計測が開始される。続いて、押鍵イベントt5とt6が、押鍵イベントt4の発生から同時に押鍵したとみなされる経過時間T=25ミリ秒以内に発生し、音高E4及びG4の基本音色での発音が開始される(t5、t6の黒実線期間)。この結果、押鍵イベントt4の発生からT=25ミリ秒が経過した時点における楽音数は、3となって和音演奏の成立数N=3以上を満たす(=指示条件を満たす)。この場合は、押鍵イベントt4、t5、t6に対しては、グレー破線で示されるように、基本音色での第1楽音の発音に加えてユニゾンで、音高C4、E4、G4の3和音によるレイヤー音色での第2楽音の発音が行われる(
図3の301)。また、レイヤーモード・オンが設定される。
【0032】
レイヤーモード・オンが維持されている間に、押鍵イベントt7が発生し、音高B4♭の基本音色での第1楽音の発音(t7の黒実線期間)が開始されるが、押鍵イベントt4、t5、t6に対応する3つのノートは離鍵されておらず、レイヤーモード・オンの状態が維持されている。この場合には、押鍵イベントt7に対しては、レイヤー音色での第2楽音は発生せず、t7の黒実線で示される基本音色での第1楽音の発音のみが行われる(=指示条件を満たさない)。
【0033】
更に、押鍵イベントt8、t9、t10が、同時に押鍵されたとみなされる経過時間T=25ミリ秒以内に発生し、それぞれ音高C3、E3、G3の基本音色での第1楽音の発音(t8、t9、t10の各黒実線期間)が開始されるが、押鍵イベントt4、t5、t6に対応する3つのノートは離鍵されておらずレイヤーモード・オンの状態が維持されている。この場合も、押鍵イベントt8、t9、t10に対しては、レイヤー音色での第2楽音は発生せず、t8、t9、t10の各黒実線で示される基本音色での第1楽音の発音のみが行われる(=指示条件を満たさない)。
【0034】
その後、押鍵イベントt4が離鍵して(t4の白丸のタイミング)、押鍵イベントt4に対応する基本音色の第1楽音の発音とレイヤー音色の第2楽音の発音(t4のグレー破線期間)が消音するが、押鍵イベントt5とt6に対応する基本音色の第1楽音の発音とレイヤー音色の第2楽音の発音(t5、t6の各グレー破線期間)は継続されている。押鍵イベントt5が離鍵すると(t5の白丸のタイミング)、押鍵イベントt5に対応する基本音色の第1楽音の発音とレイヤー音色の第2楽音の発音(t5のグレー破線期間)が消音するが、押鍵イベントt6に対応する基本音色の第1楽音の発音とレイヤー音色の第2楽音の発音(t6のグレー破線期間)は継続されている。そして、押鍵イベントt6も離鍵すると(t6の白丸のタイミング)、押鍵イベントt6に対応する基本音色の第1楽音の発音とレイヤー音色の第2楽音の発音(t6のグレー破線期間)が消音し、レイヤーモード・オンに関連する押鍵イベントt4、t5、t6に対応する全ての鍵の離鍵が完了したため、レイヤーモード・オンが解除され、レイヤーモード・オフに移行する。
【0035】
レイヤーモード・オフが設定された後に、押鍵イベントt11が発生し、音高C2の基本音色での第1楽音の発音(t11の黒実線期間)が開始されると共に、再び経過時間の計測が開始される。続いて、押鍵イベントt12、t13、t14が、押鍵イベントt11の発生から25ミリ秒以内に発生し、各音高E2、G2、C3の基本音色での各第1楽音の発音(t12、t13、t14の各黒実線期間)が開始される。この結果、押鍵イベントt11の発生からT=25ミリ秒が経過した時点における楽音数は4となって、和音演奏の成立音数N=3以上を満たす(=指示条件を満たす)。従って、押鍵イベントt11、t12、t13、t14に対しては、各グレー破線線で示されるように、基本音色での第1楽音の発音に加えてユニゾンで、音高C2、E2、G2、C3の4和音によるレイヤー音色での第2楽音の発音が行われる(
図3の302)。そして再び、レイヤーモード・オンが設定される。
【0036】
図4は、
図2のCPU201が実行する鍵盤イベント処理の例を示すフローチャートである。この鍵盤イベント処理は、前述したように、
図2のキースキャナ206が
図1の鍵盤101の押鍵/離鍵状態の変化を検出したときに発生する割込みに基づいて実行される。この鍵盤イベント処理は例えば、CPU201がROM202に記憶されている鍵盤イベント処理プログラムをRAM203にロードして実行する処理である。なお、このプログラムは、電子鍵盤楽器100が電源オンされたときに、ROM202からRAM203にロードされて常駐してよい。
【0037】
図4のフローチャートで例示される鍵盤イベント処理において、CPU201はまず、キースキャナ206からの割込み通知が、押鍵イベント又は離鍵イベントのどちらを示しているかを判定する(ステップS401)。
【0038】
ステップS401で割込み通知が押鍵イベントを示していると判定された場合、CPU201は、基本音色による、押鍵イベントを示す割込み通知に含まれる音高データ(ノートナンバ)での第1楽音の発音指示を、音源LSI204に対して発行する(ステップS402)。演奏者は予め、
図1の何れかのTONEボタン102を押下することにより、基本音色を指定することができ、指定された基本音色は、RAM203上の変数として保持される。基本音色(第1音色)は、少なくともアコースティックピアノ、アコースティックギター、マリンバのいずれかの音色を含んでよい。この状態は、前述した
図3の動作説明図では、押鍵イベントt1からt14の各黒実線の開始時点に対応しており、各開始時点から音源LSI204において基本音色による第1楽音の発音が開始される。
【0039】
次に、CPU201は、現在のレイヤーモードを判定する(ステップS403)。この処理は、例えば
図2のRAM203に記憶される所定の変数(以下この変数を「レイヤーモード変数」と呼ぶ)の論理値がオンであるかオフであるかによって、レイヤーモードがオンであるかオフであるかを判定する処理である。
【0040】
ステップS403において、現在のレイヤーモードがオンであると判定された場合には、レイヤーモード・オンに移行するための処理は実行せずに、
図4のフローチャートで示される今回の鍵盤イベント処理のフローチャートを終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。この状態は、前述した
図3の動作説明図における押鍵イベントt7~t10が発生した場合の鍵盤イベント処理に対応し、ステップS402での基本音色による発音指示により、音源LSI204において基本音色による第1楽音の発音のみが実行される。
【0041】
ステップS403において、現在のレイヤーモードがオフであると判定された場合には、CPU201は、レイヤーモード・オンに移行するための経過時間が0であるか否かを判定する(ステップS404)。経過時間は、例えば
図2のRAM203上の所定の変数(以下この変数を「経過時間変数」と呼ぶ)の値として保持される。
【0042】
経過時間が0であると判定された場合(ステップS404の判定がYESの場合)には、CPU201は、タイマ210による割込み処理をスタートさせて経過時間の計測を開始する(ステップS405)。この状態は、前述した
図3の動作説明図における押鍵イベントt1、t4、又はt11が発生した場合の処理に対応し、ステップS405の処理により、
図3のt1、t4、又はt11の各押鍵イベントの発生タイミングで、レイヤーモード・オンに移行するための経過時間の計測が開始される。
【0043】
経過時間が0ではないと判定された場合(ステップS404の判定がNOの場合)には、既にレイヤーモード・オンに移行するための経過時間の計測が開始されているため、ステップS405の経過時間の計測の開始処理はスキップされる。この状態は、前述した
図3の動作説明図における押鍵イベントt2、t5とt6、又はt12とt13とt14が発生した場合の処理に対応する。
【0044】
ステップS405のレイヤーモード・オンに移行するための経過時間の計測開始処理の後又は上記経過時間の計測が開始した後であってステップS404の判定がNOとなった場合に、CPU201は、今回の押鍵イベントにおいて発音が指示された音高データ(=ステップS402で基本音色での発音が指示されたノートナンバ)を、レイヤー音色での発音候補として、例えばRAM203に記憶する(ステップS406)。
【0045】
その後、CPU201は、同時に押鍵されたとみなされる現在の音数をカウントするための例えばRAM203上の変数(以下この変数を「現在の音数変数」と呼ぶ)の値に今回の発音増加分1を加算し、新たな現在の音数変数の値とする(ステップS407)。この現在の音数変数の値は、後述する
図5のフローチャートで示される経過時間監視処理において、同時に押鍵されたとみなされる経過時間Tの経過時にレイヤーモード・オンに移行するための和音演奏の成立音数Nと比較するためにカウントされる。
【0046】
その後、CPU201は、
図4のフローチャートで示される今回の鍵盤イベント処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0047】
上述の鍵盤イベント処理毎のステップS404からS407の一連の処理の繰返しにより、例えば
図3の動作例において、レイヤーモード・オフからレイヤーモード・オンへの移行準備として、それぞれ押鍵イベントt1、t4、又はt11の発生タイミングから同時に押鍵されたとみなされる経過時間T内で発生する新たな押鍵イベントt1とt2、t4からt6、又はt11からt14の発生に対応する音高データの記憶と現在の音数変数値のカウントアップが行われる。
【0048】
前述したステップS401で割込み通知が離鍵イベントを示していると判定された場合、CPU201は、離鍵イベントを示す割込み通知に含まれる音高データ(ノートナンバ)で音源LSI204にて発音中(ステップS402参照)であった基本音色による第1楽音の消音指示を、音源LSI204に対して発行する(ステップS408)。この処理により、前述した
図3の動作例では、各押鍵イベントt1からt14の発生に基づいて音源LSI204において発音中であった基本音色による各第1楽音が、それぞれ白丸のタイミングで消音される(各黒実線期間が終了する)。
【0049】
次に、CPU201は、離鍵された鍵が、レイヤーモード・オンの対象となった鍵であるか否かを判定する(ステップS409)。具体的には、CPU201は、離鍵された鍵の音高データが、RAM203に記憶されているレイヤー音色での発音候補の音高データ群(ステップS406参照)に含まれるか否かを判定する。
【0050】
ステップS409の判定がNOならば、CPU201は、
図4のフローチャートで示される現在の鍵盤イベント処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0051】
ステップS409の判定がYESならば、CPU201は、離鍵イベントを示す割込み通知に含まれる音高データ(ノートナンバ)で音源LSI204にて発音中(後述する
図5のステップS503参照)であったレイヤー音色による第2楽音の消音指示を、音源LSI204に対して発行する(ステップS410)。この処理により、前述した
図3の動作例では、各押鍵イベントt4からt6又はt11からt14の発生に基づいて音源LSI204において
図3の対応する各グレー破線期間で音源LSI204にて発音中であったレイヤー音色による各第2楽音が、それぞれ白丸のタイミングで消音される(各グレー破線期間が終了する)。
【0052】
続いて、CPU201は、RAM203に記憶されているレイヤー音色での発音候補の音高データ群(ステップS406参照)から、離鍵された鍵の音高データの記憶を削除する(ステップS411)。
【0053】
その後、CPU201は、レイヤーモード・オンの対象となった鍵が全て離鍵されたか否かを判定する(ステップS412)。具体的には、CPU201は、RAM203に記憶されていたレイヤー音色での発音候補の音高データ群が全て削除されたか否かを判定する。
【0054】
ステップS412の判定がNOならば、CPU201は、
図4のフローチャートで示される現在の鍵盤イベント処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0055】
ステップS412の判定がYESならば、CPU201は、RAM203に記憶されているレイヤーモード変数の値をオフを示す値にすることにより、レイヤーモード・オフを設定する(ステップS413)。この状態は、前述した
図3の動作例では、押鍵イベントt6の基本音色による第1楽音及びレイヤー音色による第2楽音の発音が消音されたタイミング(t6のグレー破線が終了する白丸のタイミング)の状態に対応する。このように、CPU201は、発音されている全ての基本音色の第1楽音及びレイヤー音色の第2楽音に対する消音を音源LSI204に指示した場合に、レイヤーモード・オフを設定する。
【0056】
その後、CPU201は、
図4のフローチャートで示される現在の鍵盤イベント処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0057】
図5は、
図2のCPU201が実行する経過時間監視処理の例を示すフローチャートである。この経過時間監視処理は、
図2のタイマ210において例えば1ミリ秒毎に発生するタイマ割込みに基づいて実行される。この経過時間監視処理は例えば、CPU201がROM202に記憶されている経過時間監視処理プログラムをRAM203にロードして実行する処理である。なお、このプログラムは、電子鍵盤楽器100が電源オンされたときに、ROM202からRAM203にロードされて常駐してよい。
【0058】
図5のフローチャートで例示される経過時間監視処理において、CPU201はまず、RAM203に記憶されている経過時間変数の値をインクリメント(+1)する(ステップS501)。この経過時間変数の値は、前述したステップS405又は後述するステップS506において、値0にクリアされる。この結果、経過時間変数の値は、そのクリア時点からのミリ秒単位の経過時間を示していることになる。前述したように、
図3の動作説明図では、押鍵イベントt1、t3、t4、又はt11の各押鍵イベントの発生タイミング(各黒丸のタイミング)で経過時間が0にクリアされ、その後レイヤーモード・オンに移行するための経過時間の計測が開始される。
【0059】
次に、CPU201は、上記経過時間変数の値が同時に押鍵されたとみなされる経過時間T以上となったか否かを判定する(ステップS502)。
【0060】
ステップS502の判定がNOの場合、即ち上記経過時間変数の値が同時に押鍵されたとみなされる経過時間T未満である場合には、CPU201は、
図4のフローチャートで説明した更なる押鍵イベントの発生を受け入れるべく、
図5のフローチャートで示される今回の経過時間監視処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0061】
ステップS502の判定がYES、即ち経過時間変数の値が同時に押鍵されたとみなされる経過時間T以上になった場合には、CPU201は、RAM203に記憶されている現在の音数変数の値(
図4のステップS407参照)が和音演奏の成立音数N音(例えば3音)以上であるか否かを判定する(ステップS503)。
【0062】
ステップS503の判定がYESならば、CPU201は、レイヤー音色による、RAM203に記憶されている現在の音数変数の値が示す音数分の音高データ(
図4のステップS406参照)での第2楽音の発音指示を、音源LSI204に対して発行する(ステップS504)。
図1の説明で前述したように、演奏者は予め、
図1のLAYERボタン103を押下した後に、
図1の何れかのTONEボタン102を押下することにより、レイヤー音色を指定することができ、指定されたレイヤー音色は、RAM203上の変数として保持される。レイヤー音色(第2音色)は、少なくともストリングス、クワイヤのいずれかの音色を含んでよい。
【0063】
続いて、CPU201は、RAM203に記憶されているレイヤーモード変数の値をオンを示す値にして、レイヤーモード・オンを設定する(ステップS505)。
【0064】
上記ステップS504及びS505により、前述した
図3の動作例では、押鍵イベントt6の発生の直後に、レイヤー音色による、押鍵イベントt4、t5、及びt6に対応する3音分の音高データでの和音の第2楽音の楽音波形データ214が、
図3のt4、t5、及びt6の部分の各グレー破線の期間で、音源LSI204から出力される。同様に、押鍵イベントt14の発生の直後に、レイヤー音色による、押鍵イベントt11、t12、t13、及びt14に対応する4音分の音高データでの和音の第2楽音の楽音波形データ214が、
図3のt11、t12、t13、及びt14の部分の各グレー破線の期間で、音源LSI204から出力される。
【0065】
ステップS504でレイヤー音色での発音指示がなされステップS505でレイヤーモード・オンが設定された後、又は現在の音数変数の値がN未満であると判定されてステップS503の判定がNOとなった場合に、CPU201は、RAM203に記憶されている経過時間変数の値を0にクリアする(ステップS506)。
【0066】
更に、CPU201は、RAM203に記憶されている現在の音数変数の値を0にクリアする(ステップS507)。
【0067】
その後、CPU201は、
図5のフローチャートで示される経過時間監視処理を終了し、特には図示しないメインのプログラム処理にリターンする。
【0068】
前述した
図3の動作説明図において、押鍵イベントt1、t2に続いて押鍵イベントt3が発生した場合においては、上記経過時間監視処理において、押鍵イベントt1の発生タイミングからの経過時間が同時とみなされる経過時間T以上と判定された時点(ステップS502の判定がYESとなった時点)で、現在の音数変数の値=2(押鍵イベントt1、t2に対応)が和音演奏の成立音数N=3に達していない(ステップS503の判定がNO)と判定される。この結果、レイヤー音色での第2楽音の発音指示処理(ステップS504)及びレイヤーモード・オンの処理(ステップS505)は実行されることなく、ステップS506で経過時間変数の値が0とされ、ステップS507で現在の音数変数の値が0にクリアされる。この結果、前述した
図4のフローチャートの処理において、ステップS403の判定がレイヤーモード・オフ、ステップS404の判定がYESとなってステップS405が実行されることにより、押鍵イベントt6の発生時点から再度、レイヤーモード・オフからレイヤーモード・オンに移行するための経過時間の計測処理がスタートする。即ち、同時に押鍵したとみなされる経過時間Tの経過時に和音演奏の成立音数Nが満たされていなければ、その直後に発生する押鍵イベント(=t6)を起点として、再度レイヤーモード・オフからレイヤーモード・オンへの移行要件が判定される。
【0069】
図6は、本実施形態の動作例を示す説明図(その2)であり、
図6(a)は基本音色として好適な第1楽音の時間域振幅特性を示す図、
図6(b)はレイヤー音色として好適な第2楽音の時間域振幅特性を示す図である。
【0070】
前述したように、
図6(a)の時間域振幅特性を有する基本音色(第1音色)は、少なくともアコースティックピアノ、アコースティックギター、マリンバのいずれかの音色を含んでよい。基本音色の第1楽音の時間域振幅特性は、押鍵時の立上り(ピーク)に達するまで(
図6(a)の601)や、離鍵時の減衰(ほぼ音が消えるまで)(
図6(a)の602)が、速い楽音(例えば立上り:5ミリ秒、離鍵減衰:100ミリ秒)である。
【0071】
前述したように、
図6(b)の時間域振幅特性を有するレイヤー音色(第2音色)は、少なくともストリングス、クワイヤのいずれかの音色を含んでよい。レイヤー音色の第2楽音の時間域振幅特性は、押鍵時の立上り(ピーク)に達するまで(
図6(b)の601)や、離鍵時の減衰(ほぼ音が消えるまで)(
図6(b)の602)が、遅い持続音(例えば立上り:2秒、離鍵減衰:3秒)である。
【0072】
図6(c)はロングトーン(長い時間の押鍵)演奏時における基本音色の第1楽音603とレイヤー音色の第2楽音604の重なり方を示す図、
図6(d)はショートトーン(短い時間の押鍵)演奏時における基本音色の第1楽音605とレイヤー音色の第2楽音606の重なり方を示す図である。
【0073】
ロングトーン演奏時には、基本音色の第1楽音603とレイヤー音色の第2楽音604の2つの対照的な音色が同時に発生し、アタック部分は立上りの速い基本音色の第1楽音603が、後半と離鍵時は立上りと減衰の遅いレイヤー音色の第2楽音604がクロスフェードする形で発生し、特に和音演奏時に心地よい音の厚みが実現される。
【0074】
一方、ショートトーン演奏時には、キレの良い基本音色の第1楽音605が速く減衰し、キレの悪いレイヤー音色の第2楽音606が残る。この結果、素早い単音のフレーズを演奏すると、現在の押鍵に対応する基本音色の第1楽音605の立上りに直前の押鍵に対応するレイヤー音色の第2楽音606の減衰音が重なって、音の濁りが発生する。
【0075】
そこで、上述した実施形態では、ロングトーンは主にコード演奏で使用され、ショートトーンは単音のソロ演奏で使用されるケースが多いということと、レイヤー音色の第2楽音は立上りが遅いために、発音がわずかに遅れても演奏に影響が無い、ということに着目し、和音演奏とみなされた時以外はレイヤー音色の第2楽音を発生させないように制御されている。
【0076】
つまり、和音演奏かどうかを判定するために、押鍵を一定期間(上記実施形態ではT=25ミリ秒)監視する必要があるため、レイヤー音色の第2楽音の発生が保留されるが、その程度の遅れであれば、レイヤー音色はもともと1~2秒程度の立上り時間が設定されている音色であるため、音楽的には影響はほとんどないとみなすことができる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態は、押鍵時に常に発音を行う基本音色と、押鍵時にレイヤーモード・オンとなった場合のみに発音するレイヤー音色とを選択しておき、演奏された鍵盤の押鍵数、複数押鍵の時間間隔に応じて、和音演奏であるかどうかを判断し、和音演奏であると判断された押鍵に対応するノート群のみレイヤーモード・オンにしてレイヤー音色の第2楽音の発音を行うようにしたものである。
【0078】
上記実施形態により、演奏者が特別な操作を行うことなく、自然な演奏をするだけで、自動的に必要な楽音にのみユニゾン効果を付加することができるようになるため、演奏或いは楽音に妥協することなく、演奏に集中することができるようになる。
【0079】
以上説明した実施形態のほかに、下記のような実施形態も実施することが可能である。
1.特定の鍵域でのみ、レイヤー音色によるユニゾン演奏機能を有効化する。例えば、C3以下の鍵域で有効にする。
2.特定のベロシティー域でのみ、レイヤー音色によるユニゾン演奏機能を有効化する。例えば、ベロシティー値=64以下の強さの音のみで有効にする。
3.ソロ演奏(非レイヤー演奏)が認識されたら、一定時間はレイヤー音色によるユニゾン演奏機能は動作させない。例えば、レイヤーモード・オンへの移行条件を満たさないソロ演奏を行っている間は、一瞬コードを弾いてもレイヤーモード・オンへ移行せず、ソロの一部とみなすように、3秒間様子を見るなど。
4.レガート奏法が認識されたら、レイヤー音色によるユニゾン演奏機能を動作させる。
【0080】
上述の実施形態では、電子鍵盤楽器100にレイヤー音色によるユニゾン演奏機能を実装した例について説明したが、そのほかに例えば、ギターシンセサイザ又はギターコントローラなどの電子弦楽器に対しても、本機能を実装することができる。
【0081】
以上、開示の実施形態とその利点について詳しく説明したが、当業者は、特許請求の範囲に明確に記載した本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更、追加、省略をすることができる。
【0082】
その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上述した実施形態で実行される機能は可能な限り適宜組み合わせて実施しても良い。上述した実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件による適宜の組み合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、効果が得られるのであれば、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0083】
以上の実施形態に関して、更に以下の付記を開示する。
(付記1)
音高データを指定するための複数の演奏操作子と、
楽音を発生する音源と、
プロセッサと、を備え、前記プロセッサは、
ユーザによる演奏操作が指示条件を満たす場合に、前記演奏操作に応じて指定された1つの音高データに対応する第1音色及び第2音色における前記第1音色での発音及び前記第2音色での発音を前記音源に指示し、
前記指示条件を満たさない場合に、前記演奏操作に応じて指定された前記1つの音高データに対応する前記第1音色での発音を前記音源に指示し、前記第2音色での発音を前記音源に指示しない、
電子楽器。
(付記2)
前記指示条件を満たす場合は、設定された時間内に和音の演奏操作を検出する場合を含む、付記1に記載の電子楽器。
(付記3)
前記プロセッサは、
設定された時間内に和音の演奏操作を検出した場合に、レイヤーモード・オンを設定し、
前記レイヤーモード・オンが設定されている状態において前記演奏操作子への新たな操作が検出された場合に、前記新たな操作に応じて指定された1つの音高データに対応する前記第1音色での発音を前記音源に指示し、前記第2音色での発音は前記音源に指示しない、
付記1又は2に記載の電子楽器。
(付記4)
前記プロセッサは、
前記レイヤーモード・オンが設定されている状態において発音されている全ての前記第1音色の第1楽音及び前記第2音色の第2楽音に対する消音を前記音源に指示した場合に、レイヤーモード・オフを設定し、
前記レイヤーモード・オフが設定されている状態で、設定された時間内に操作が検出された前記複数の演奏操作子の数が設定された数に達している場合に、前記指定条件を満たすと判断する、
付記1乃至3のいずれかに記載の電子楽器。
(付記5)
前記第1音色は、少なくともアコースティックピアノ、アコースティックギター、マリンバのいずれかの音色を含み、
前記第2音色は、少なくともストリングス、クワイヤのいずれかの音色を含む、
付記1乃至4のいずれかに記載の電子楽器。
(付記6)
前記第1音色に応じた音量エンベロープは、前記第2音色に応じた音量エンベロープよりも、前記演奏操作子への押鍵操作に応じて速く立ち上がるように設定されている、
付記1乃至5のいずれかに記載の電子楽器。
(付記7)
前記第1音色に応じた音量エンベロープは、前記第2音色に応じた音量エンベロープよりも、前記演奏操作子への離鍵操作に応じて速く消音されるように設定されている、
付記1乃至6のいずれかに記載の電子楽器。
(付記8)
電子楽器に、
ユーザによる演奏操作が指示条件を満たす場合に、前記演奏操作に応じて指定された1つの音高データに対応する第1音色及び第2音色における前記第1音色での発音及び前記第2音色での発音をさせ、
前記指示条件を満たさない場合に、前記演奏操作に応じて指定された前記1つの音高データに対応する前記第1音色での発音をさせ、前記第2音色での発音をさせない、
電子楽器の発音方法。
(付記9)
電子楽器に、
ユーザによる演奏操作が指示条件を満たす場合に、前記演奏操作に応じて指定された1つの音高データに対応する第1音色及び第2音色における前記第1音色での発音及び前記第2音色での発音をさせ、
前記指示条件を満たさない場合に、前記演奏操作に応じて指定された前記1つの音高データに対応する前記第1音色での発音をさせ、前記第2音色での発音をさせない、
処理を実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0084】
100 電子鍵盤楽器
101 鍵盤
102 TONEボタン
103 LAYERボタン
104 LCD
200 制御システム
201 CPU
202 ROM
203 RAM
204 音源LSI
205 ネットワークインタフェース
206 キースキャナ
207 I/Oインターフェース
208 LCDコントローラ
209 システムバス
210 タイマ
211 波形ROM
212 D/Aコンバータ
213 アンプ
214 楽音出力データ