(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】デファレンシャルギヤ
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240717BHJP
F16H 48/40 20120101ALI20240717BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 B
F16H48/40
F16H48/08
(21)【出願番号】P 2022561327
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2021036954
(87)【国際公開番号】W WO2022102290
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020188440
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】灘吉 薫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 航平
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011849(JP,A)
【文献】特許第6625778(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 48/40
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のサイドギヤと、それぞれ前記一対のサイドギヤに噛合する少なくとも2つのピニオンギヤと、前記一対のサイドギヤおよび前記少なくとも2つのピニオンギヤを収容すると共に開口部を介して内部に潤滑油が給排されるデフケースとを含み、車両に搭載されるデファレンシャルギヤにおいて、
前記デフケースは、前記ピニオンギヤを支持するように前記デフケースの内周面に形成された少なくとも2つの座面と、隣り合う前記座面の間で前記デフケースの回転方向に沿った方向に延在して隣り合う前記座面を繋ぐ堰部と、前記堰部に対して前記デフケースの軸方向における前記開口部とは反対側に位置するように前記堰部によって前記内周面に形成され、隣り合う前記座面の間で前記デフケースの回転方向に沿った方向に延在する油溜め部と
、ガイド部とを含
み、
前記デフケースには、リングギヤが固定され、
前記ピニオンギヤの各々の背面と前記座面との間には、ピニオンワッシャが配置され、
前記座面の各々には、前記車両が前進するときの前記デフケースの前記回転方向における前側で前記油溜め部に連通すると共に前記ピニオンギヤの軸方向からみて前記ピニオンワッシャと少なくとも部分的に重なり合う油導入口が形成され、
前記ガイド部は、前記油溜め部を前記軸方向において前記リングギヤから離間するにつれて狭めて前記油溜め部内の前記潤滑油を前記リングギヤ側とは反対側の前記油導入口に導き、
前記油導入口は、前記軸方向において前記座面の中心に近接するように前記座面に形成されるデファレンシャルギヤ。
【請求項2】
請求項
1に記載のデファレンシャルギヤにおいて、
前記油溜め部は、前記軸方向において前記リングギヤ側から前記油溜め部、前記堰部、前記開口部の順に並ぶように形成されているデファレンシャルギヤ。
【請求項3】
請求項
2に記載のデファレンシャルギヤにおいて
前記堰部は、前記油溜め部の前記開口部側に配置される第1堰部と、前記油溜め部の前記リングギヤ側に配置される第2堰部とを含むデファレンシャルギヤ。
【請求項4】
請求項
1から
3の何れか一項に記載のデファレンシャルギヤにおいて、
前記
ガイド部は、前記油溜め部を前記軸方向において前記リングギヤから離間するにつれて徐々に狭めて前記油溜め部内の前記潤滑油
を前記油導入口に導
くデファレンシャルギヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されるデファレンシャルギヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のデファレンシャルギヤとして、一対のピニオンギヤと、当該一対のピニオンギヤに噛合する一対のサイドギヤと、一対のピニオンギヤおよび一対のサイドギヤを収容すると共に、ピニオンギヤを支持するピニオンシャフトが挿通されるピニオンシャフト孔およびサイドギヤが固定されたドライブシャフトが挿通されるドライブシャフト孔を有するデフケースとを含むものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このデファレンシャルギヤのデフケースには、当該デフケース内に潤滑油としての作動油を供給するための単一の油孔が、サイドギヤとデフケースとの間に配置されるサイドワッシャよりも径方向外側に位置するように形成されている。更に、デフケースの内部には、サイドワッシャの外周よりも径方向内側の部分まで延びて上記油孔よりも径方向内側の部分までデフケース内に油を溜める油流出規制部材が配置されている。これにより、油孔からデフケースの内部に作動油をスムーズに供給すると共に、デフケースの回転状態に拘わらずサイドワッシャに作動油を供給することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、車両の発進時等には、オイルポンプによる作動油の吸入が開始されることでデフケース内の油面が低下する。このため、上記従来のデファレンシャルギヤのようにデフケース内に油流出規制部材が配置されていたとしても、デフケース内の潤滑油が不足して摺動部を適正に潤滑・冷却し得なくなるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、摺動部に対する潤滑油の不足を良好に抑制してデファレンシャルギヤをコンパクト化することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のデファレンシャルギヤは、一対のサイドギヤと、それぞれ前記一対のサイドギヤに噛合する少なくとも2つのピニオンギヤと、前記一対のサイドギヤおよび前記少なくとも2つのピニオンギヤを収容すると共に開口部を介して内部に潤滑油が給排されるデフケースとを含み、車両に搭載されるデファレンシャルギヤにおいて、前記デフケースは、前記ピニオンギヤを支持するように前記デフケースの内周面に形成された少なくとも2つの座面と、隣り合う前記座面の間で前記デフケースの回転方向に沿った方向に延在して隣り合う前記座面を繋ぐ堰部と、前記堰部に対して前記デフケースの軸方向における前記開口部とは反対側に位置するように前記堰部によって前記内周面に形成された油溜め部とを含むものである。
【0007】
本開示のデファレンシャルギヤは、車両に搭載されるものであり、一対のサイドギヤと、それぞれ一対のサイドギヤに噛合する少なくとも2つのピニオンギヤ、一対のサイドギヤおよび少なくとも2つのピニオンギヤを収容すると共に開口部を介して内部に潤滑油が給排されるデフケースとを含む。そして、デフケースは、ピニオンギヤを支持するように当該デフケースの内周面に形成された少なくとも2つの座面と、隣り合う座面の間でデフケースの回転方向に沿った方向に延在して隣り合う座面を繋ぐ堰部と、当該堰部に対してデフケースの軸方向における開口部とは反対側に位置するように堰部によって内周面に形成された油溜め部とを含む。これにより、デフケース内の油面が低下した際に油溜め部に潤滑油を確保しておき、デフケースの回転により油溜め部内の潤滑油をピニオンギヤと座面との間等の摺動部に行き渡らせることが可能となる。この結果、摺動部に対する潤滑油の不足を良好に抑制して当該摺動部における面圧の増加に対処することができるので、デファレンシャルギヤをコンパクト化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示のデファレンシャルギヤを示す断面図である。
【
図2】本開示のデファレンシャルギヤのデフケースを構成するケース本体を示す側面図である。
【
図3】本開示のデファレンシャルギヤのデフケースを構成するケース本体を示す部分断面図である。
【
図4】本開示のデファレンシャルギヤのデフケースを構成するケース本体を示す要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示のデファレンシャルギヤ1を示す概略構成図である。同図に示すデファレンシャルギヤ1は、例えば前輪駆動式の車両に搭載されて図示しない変速機からの動力を左右の駆動輪(図示省略)に伝達するものである。デファレンシャルギヤ1は、
図1に示すように、それぞれ対応する図示しないドライブシャフトに固定される一対(2つ)のサイドギヤ2と、それぞれ一対のサイドギヤ2に直角に噛合する一対(2つ)のピニオンギヤ3と、一対のピニオンギヤ3を支持するピニオンシャフト4と、一対のサイドギヤ2および一対のピニオンギヤ3を収容するデフケース5と、デフケース5に固定(連結)されるデフリングギヤ6とを含む。
【0011】
各サイドギヤ2および各ピニオンギヤ3は、何れもすぐばかさ歯車である。各サイドギヤ2とデフケース5との間には、サイドワッシャ7が配置され、各ピニオンギヤ3とデフケース5との間には、ピニオンワッシャ8が配置される。デフケース5は、図示しないトランスミッションケースにより軸受BRを介してドライブシャフトと同軸に回転自在に支持される。また、本実施形態において、デファレンシャルギヤ1は、トランスミッションケース内の下部に形成された作動油貯留室に近接して画成されたデフ室内に配置される。
【0012】
デファレンシャルギヤ1のデフケース5は、一方のサイドギヤ2を回転自在に支持するケース本体50と、他方のサイドギヤ2を回転自在に支持するカバー59とを含む。本実施形態において、ケース本体50およびカバー59は、何れも金属製の鋳造品である。ケース本体50の外周部に形成されたフランジ部と、カバー59の外周部とには、それぞれ複数のボルト孔が形成されている。ケース本体50とカバー59とは、それぞれケース本体50およびカバー59の対応するボルト孔に螺合される複数のボルト9を介して互いに連結(固定)されると共に、当該複数のボルト9を介してデフリングギヤ6に連結(固定)される。
【0013】
図2および
図3に示すように、デフケース5のケース本体50には、主に、潤滑油としての作動油を供給・排出するための複数(本実施形態では、2つ)の開口部(窓部)51がデフケース5の回転方向に間隔をおいて形成されている。デファレンシャルギヤ1を含む車両の走行中、デフケース5の内部には、デフ室内に溜まっている作動油がデフリングギヤ6により掻き上げられて開口部51から供給されるか、あるいは図示しない供給管等から滴下される作動油が開口部51から供給される。本実施形態において、各開口部51は、例えば、少なくともピニオンギヤ3を実質的に挿通させ得ない程度の開口面積を有し、デフケース5に対するピニオンギヤ3等の組み付けに用いられないものである。このように、各開口部51の開口面積を小さくすることで、デフケース5のトルク伝達部のねじり剛性をより高くすることができる。
【0014】
また、デフケース5のケース本体50の内周面には、
図3および
図4に示すように、それぞれ対応するピニオンギヤ3を支持する(受ける)複数(本実施形態では、2つ)の座面52が形成されている。各座面52は、切削加工により凹球面状に形成されており、各座面52とそれに対応したピニオンギヤ3の背面との間にピニオンワッシャ8が配置される。更に、ケース本体50の内周面には、複数(本実施形態では、2つ)の堰部(リブ)53aと、環状の堰部(リブ)53bとが鋳造により形成されている。
【0015】
複数の堰部(第1堰部)53aは、それぞれケース本体50のサイドギヤ2(デフケース5)の軸方向における中央部付近で当該ケース本体50の軸心側(径方向内側)に突出すると共に、複数の開口部51に沿って隣り合う座面52の間でデフケース5(サイドギヤ2)の回転方向に沿った方向に延在する。また、環状の堰部(第2堰部)53bは、堰部53aに対してサイドギヤ2の軸方向における開口部51とは反対側、すなわちケース本体50のカバー59(デフリングギヤ6)側の端部で当該ケース本体50の軸心側(径方向内側)に突出すると共にデフケース5の回転方向に沿った方向に延在する。更に、堰部53bは、サイドギヤ2の軸方向において複数の堰部53aと間隔をおいて対向する。これにより、ケース本体50(デフケース5)には、それぞれ隣り合う座面52の間でデフケース5の回転方向に沿った方向に延在する複数(本実施形態では、2つ)の油溜め部53が開口部51側の複数の堰部53aとデフリングギヤ6側の環状の堰部53bとによって画成される。すなわち、各油溜め部53は、堰部53aに対してサイドギヤ2(デフケース5)の軸方向における開口部51とは反対側に位置して当該開口部51よりもデフリングギヤ6に近接すると共に、座面52よりもケース本体50(デフケース5)の外周面側に窪むように内周面に形成される。また、各油溜め部53は、デフリングギヤ6側から堰部53b、油溜め部53、堰部53a、開口部51の順に並ぶようにケース本体50に形成されている。
【0016】
図3および
図4に示すように、各座面52には、油導入口54が1つずつ形成されている。各座面52の油導入口54は、デファレンシャルギヤ1を含む車両が前進するときのサイドギヤ2(ドライブシャフト)の回転方向における前側(
図3における下側)で、対応する油溜め部53に連通すると共にピニオンギヤ3の軸方向からみてピニオンワッシャ8と少なくとも部分的に重なり合う。また、各油導入口54は、デフリングギヤ6側とは反対側で、デフケース5の軸方向において対応する座面52の中心に近接するようにケース本体50に形成されている。
【0017】
更に、デフケース5の各油溜め部53(ケース本体50の内周面)には、当該油溜め部53内の作動油を対応する油導入口54に導くためのガイド部55が鋳造により形成されている。各ガイド部55は、デフケース5の軸方向においてデフリングギヤ6から離間して油導入口54に近づくにつれて油溜め部53をサイドギヤ2(デフケース5)の軸方向において徐々に狭めるように当該油溜め部53の底面からケース本体50の軸心側(径方向内側)に突出する突部である。なお、本実施形態において、各油導入口54は、デフケース5の回転方向に沿ってピニオンシャフト4の軸心に向けて直線状に延びるように形成されるが、これに限られるものではない。すなわち、各油導入口54は、油溜め部53に連通するものであれば、デフケース5の回転方向に対して傾斜していてもよく、ピニオンシャフト4の軸心に対してサイドギヤ2(ドライブシャフト)の軸方向にずらして形成されてもよく、油導入口54を湾曲(屈曲)するように延在するものであってもよい。
【0018】
上述のように構成されるデファレンシャルギヤ1では、車両の走行中に開口部51を介してデフケース5の内部に潤滑油としての作動油が供給され、当該車両の走行が停止させられた際には、デフケース5内に供給された作動油の一部が下方に位置する油溜め部53に貯留される。これにより、車両の発進時に、オイルポンプによりトランスミッションケース内の作動油貯留室内の作動油が吸引されることでデフ室およびデフケース5内の油面が低下したとしても、デフケース5の油溜め部53に潤滑油としての作動油を確保しておくことができる。
【0019】
従って、車両の発進時にデフリングギヤ6による掻き上げあるいは供給管によりデフケース5内に供給される作動油が不足しても、デフケース5の回転により油溜め部53内の作動を各サイドギヤ2とデフケース5との間や各ピニオンギヤ3と座面52との間等における摺動部に行き渡らせることが可能となる。この結果、摺動部に対する潤滑油の不足を良好に抑制して当該摺動部における面圧の増加に対処することができるので、例えば各サイドギヤ2を小径化してデファレンシャルギヤ1をコンパクト化することが可能となる。すなわち、デファレンシャルギヤ1では、コンパクト化によりサイドギヤ2やピニオンギヤ3の周辺等における摺動部の面積が減少しても、当該デファレンシャルギヤ1の作動中すなわち車両の走行中に充分な量の作動油(潤滑油)をデフケース5内に確保することができるので、当該摺動部における面圧の増加に良好に対処することができる。加えて、ケース本体50に油溜め部53を画成するための堰部53a,53bは、リブとしても機能することから、デフケース5ひいてはデファレンシャルギヤ1の強度をより向上させることが可能となる。
【0020】
また、デフケース5の各座面52には、車両が前進するときのデフケース5(サイドギヤ2)の回転方向における前側で対応する油溜め部53に連通すると共にピニオンギヤ3の軸方向からみてピニオンワッシャ8と少なくとも部分的に重なり合う油導入口54が形成されている。すなわち、油導入口54は、座面52に対して車両が前進するときのデフケース5の回転方向における前側にのみ形成され、ピニオンワッシャ8の後側の部分が押し付けられる当該座面52の後側には形成されていない。これにより、油導入口54が座面52の後側に形成されている場合に比べて当該座面52に作用する面圧の増加を抑制できるので、車両が加速しながら前進する際にデフケース5の回転方向におけるピニオンワッシャ8の後側の部分が座面52に押し付けられて面圧が増加したとしても、当該座面52の耐久性を良好に確保することができる。従って、各座面52のデフケース5の回転方向における前側にのみ油導入口54を形成することで、デフケース5(ケース本体50)の耐久性を良好に確保しつつ、ピニオンワッシャ8と座面52との間に充分な量の作動油(潤滑油)を供給して座面52と当該座面52に対して押し付けられるピニオンワッシャ8とを良好に潤滑・冷却することが可能となる。また、
図3に示すように、油導入口54はピニオンシャフト4が挿通されるピニオンシャフト孔と連通しないように閉塞されているので、当該油導入口54に導かれた作動油を油導入口54から溢れ出させて座面52とピニオンワッシャ8との間に効率よく供給することができる。更に、ピニオンシャフト孔に油導入口54による切り欠きが形成されていないので、ピニオンシャフト孔の強度低下を抑制することが可能となる。
【0021】
更に、デファレンシャルギヤ1において、デフケース5にはデフリングギヤ6が固定され、各油溜め部53は、デフケース5の軸方向において開口部51よりもデフリングギヤ6に近接するように形成されている。すなわち、デフケース5の外径はデフリングギヤ6側で最大となることから、各油溜め部53をデフリングギヤ6に近接するように堰部53a,53bによりデフケース5に形成することで、各油溜め部53の容積を十分に確保することが可能となる。
【0022】
また、デフケース5のケース本体50は、対応する油溜め部53をサイドギヤ2の軸方向においてデフリングギヤ6から離間するにつれて徐々に狭めて当該油溜め部53内の作動油をデフリングギヤ6側とは反対側の油導入口54に導くガイド部55を含む。更に、各油導入口54は、デフケース5の軸方向において対応する座面52の中心に近接するようにデフケース5に形成されている。これにより、デフケース5の回転により油溜め部53内の作動油を油導入口54にスムーズに導入し、当該油導入口54からピニオンギヤ3、ピニオンワッシャ8および座面52の周辺に潤滑油としての作動油を供給することが可能となる。また、各油導入口54をデフケース5の軸方向における油溜め部53の中央から当該軸方向に座面52の中心側にオフセットすることで、各座面52に効率よく作動油を供給すると共に、開口部51の面積を十分確保しつつ、油導入口54を油溜め部53の中央に近接させた場合に比べてデフケース5をコンパクト化することができる。
【0023】
以上説明したように、本開示のデファレンシャルギヤ1は、車両に搭載されるものであって、一対のサイドギヤ2と、それぞれ一対のサイドギヤ2に噛合する2つのピニオンギヤ3と、一対のサイドギヤ2および2つのピニオンギヤ3を収容すると共に開口部51を介して内部に潤滑油としての作動油が給排されるデフケース5とを含む。そして、デフケース5は、ピニオンギヤ3を支持するように当該デフケース5の内周面に形成された2つの座面52と、隣り合う座面52の間でデフケース5の回転方向に沿った方向に延在して隣り合う座面52を繋ぐ堰部53aと、当該堰部53aに対してサイドギヤ2の軸方向における開口部51とは反対側に位置するように堰部53aによって内周面に形成された油溜め部53とを含む。
【0024】
これにより、各サイドギヤ2とデフケース5との間や各ピニオンギヤ3と座面52との間等における摺動部に対する潤滑油の不足を良好に抑制して当該摺動における面圧の増加に対処することができる。この結果、デファレンシャルギヤ1をコンパクト化することが可能となる。
【0025】
なお、ケース本体50の各座面52には、車両が前進するときのデフケース5の回転方向における後側で油溜め部53に連通すると共にピニオンギヤ3の軸方向からみてピニオンワッシャ8と重なり合う油導入口が追設されてもよく、デフケース5の回転方向における後側にのみ油導入口が形成されてもよい。更に、デファレンシャルギヤ1は、ピニオンギヤ3および座面52を3つ以上含むものであってもよい。
【0026】
〔発明を実施するための形態のまとめ〕
ここまで説明したように、本開示の実施形態に係るデファレンシャルギヤは、一対のサイドギヤ(2)と、それぞれ前記一対のサイドギヤ(2)に噛合する少なくとも2つのピニオンギヤ(3)と、前記一対のサイドギヤ(2)および前記少なくとも2つのピニオンギヤ(3)を収容すると共に開口部(51)を介して内部に潤滑油が給排されるデフケース(5)とを含み、車両に搭載されるデファレンシャルギヤ(1)において、前記デフケース(5)は、前記ピニオンギヤ(3)を支持するように前記デフケース(5)の内周面に形成された少なくとも2つの座面(52)と、隣り合う前記座面(52)の間で前記デフケース(5)の回転方向に沿った方向に延在して隣り合う前記座面(52)を繋ぐ堰部(53a)と、前記堰部(53a)に対して前記デフケース(5)の軸方向における前記開口部(51)とは反対側に位置するように前記堰部(53a)によって前記内周面に形成された油溜め部(53)とを含むものである。
【0027】
かかるデファレンシャルギヤは、車両に搭載されるものであり、一対のサイドギヤと、それぞれ一対のサイドギヤに噛合する少なくとも2つのピニオンギヤ、一対のサイドギヤおよび少なくとも2つのピニオンギヤを収容すると共に開口部を介して内部に潤滑油が給排されるデフケースとを含む。そして、デフケースは、ピニオンギヤを支持するように当該デフケースの内周面に形成された少なくとも2つの座面と、隣り合う座面の間でデフケースの回転方向に沿った方向に延在して隣り合う座面を繋ぐ堰部と、当該堰部に対してデフケースの軸方向における開口部とは反対側に位置するように堰部によって内周面に形成された油溜め部とを含む。これにより、デフケース内の油面が低下した際に油溜め部に潤滑油を確保しておき、デフケースの回転により油溜め部内の潤滑油をピニオンギヤと座面との間等の摺動部に行き渡らせることが可能となる。この結果、摺動部に対する潤滑油の不足を良好に抑制して当該摺動部における面圧の増加に対処することができるので、デファレンシャルギヤをコンパクト化することが可能となる。
【0028】
また、前記ピニオンギヤ(3)の各々の背面と前記座面(52)との間には、ピニオンワッシャ(8)が配置されてもよく、前記座面(52)の各々には、前記車両が前進するときの前記デフケース(5)の前記回転方向における前側で前記油溜め部(53)に連通すると共に前記ピニオンギヤ(3)の軸方向からみて前記ピニオンワッシャ(8)と少なくとも部分的に重なり合う油導入口(54)が形成されてもよい。
【0029】
これにより、車両が加速しながら前進する際に、デフケースの回転方向におけるピニオンワッシャの後側の部分が座面に押し付けられて面圧が増加したとしても、当該座面の耐久性を良好に確保することができる。従って、デフケースの回転方向における各座面の前側にのみ油導入口を形成することで、デフケースの耐久性を良好に確保しつつ、ピニオンワッシャと座面との間に充分な量の作動油(潤滑油)を供給して座面と当該座面に対して押し付けられるピニオンワッシャとを良好に潤滑・冷却することが可能となる。
【0030】
更に、前記デフケース(5)には、リングギヤ(6)が固定されてもよく、前記油溜め部(53)は、前記軸方向において前記リングギヤ(6)側から前記油溜め部(53)、前記堰部(53a)、前記開口部(51)の順に並ぶように前記デフケース(5)に形成されてもよい。
【0031】
これにより、油溜め部の容積を十分に確保することが可能となる。
【0032】
また、前記堰部は、前記油溜め部(53)の前記開口部(51)側に配置される第1堰部(53a)と、前記油溜め部(53)の前記リングギヤ(6)側に配置される第2堰部(53b)とを含むものであってもよい。
【0033】
更に、前記デフケース(5)は、前記油溜め部(53)を前記軸方向において前記リングギヤ(6)から離間するにつれて徐々に狭めて前記油溜め部(53)内の前記潤滑油を前記リングギヤ(6)側とは反対側の前記油導入口(54)に導くガイド部(55)を含むものであってもよく、前記油導入口(54)は、前記軸方向において前記座面(52)の中心に近接するように前記座面(52)に形成されてもよい。
【0034】
これにより、デフケースの回転により油溜め部内の作動油を油導入口にスムーズに導入し、当該油導入口からピニオンギヤ、ピニオンワッシャおよび座面の周辺に潤滑油としての作動油を供給することが可能となる。また、各油導入口をデフケースの軸方向における油溜め部の中央から当該軸方向のリングギヤ側と反対側にオフセットすると共に、油導入口を当該軸方向において座面の中心に近接するように当該座面に形成することで、各座面に効率よく作動油を供給すると共に、開口部の面積を十分確保しつつ、油導入口を油溜め部の中央に近接させた場合に比べてデフケースをコンパクト化することができる。
【0035】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示の発明は、デファレンシャルギヤの製造産業等において利用可能である。