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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/38 20060101AFI20240717BHJP
   H01M 10/36 20100101ALI20240717BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240717BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240717BHJP
【FI】
H01M10/38
H01M10/36 A
H01M4/48
H01M4/58
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023072683
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2021516224の分割
【原出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2023094626
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019082918
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日浅 巧
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-156837(JP,A)
【文献】特開2019-057373(JP,A)
【文献】特開2018-160342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/38
H01M 10/36
H01M 4/48
H01M 4/58
H01M 50/426
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空間および第2空間を互いに離隔させると共に、前記第1空間と前記第2空間との間において金属イオンを透過させる隔壁と、
前記第1空間の内部に配置されると共に、前記金属イオンを吸蔵および放出する負極と、
前記第2空間の内部に配置されると共に、前記金属イオンを吸蔵および放出する正極と、
前記第1空間の内部に収容されると共に、前記負極および前記正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される前記金属イオンを含む第1水系電解液と、
前記第2空間の内部に収容され、前記負極および前記正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される前記金属イオンを含むと共に、前記第1水系電解液のpHよりも小さいpHを有する第2水系電解液と
を備え、
前記隔壁は、イオン交換膜を含む、
二次電池。
【請求項2】
前記第1水系電解液および前記第2水系電解液のうちの少なくとも一方は、前記負極および前記正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される前記金属イオンとして、アルカリ金属イオンを含む、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記第1水系電解液および前記第2水系電解液のうちの少なくとも一方は、前記アルカリ金属イオンとして、リチウムイオンを含む、
請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
前記第1水系電解液および前記第2水系電解液のうちの少なくとも一方は、さらに、前記負極および前記正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される前記金属イオンとは異なる他の金属イオンを含む、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記第1水系電解液および前記第2水系電解液のうちの少なくとも一方は、前記他の金属イオンとして、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンのうちの少なくとも一方を含む、
請求項4記載の二次電池。
【請求項6】
前記負極は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物、鉄含有化合物およびモリブデン含有化合物のうちの少なくとも1種を含む、
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記第1水系電解液のpHは、11以上である、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項8】
前記第2水系電解液のpHは、4以上8以下である、
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項9】
前記第2水系電解液は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオンおよびカルボン酸イオンのうちの少なくとも1種を含む、
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記第1水系電解液は、アニオンとして水酸化物イオンを含み、
前記第2水系電解液は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオンおよびリン酸二水素イオンのうちの少なくとも1種を含む、
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項11】
前記第1水系電解液中における前記金属イオンを含む金属カチオンの総カチオン濃度(mol/kg)と、前記第2水系電解液中における前記金属イオンを含む金属カチオンの総カチオン濃度(mol/kg)との差(=第2水系電解液の総カチオン濃度-第1水系電解液の総カチオン濃度)は、2mol/kg以下である、
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、正極および負極と共に水系電解液を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池としては、水系電解液を備えた二次電池が開発されている。
【0003】
水系電解液を備えた二次電池の構成は、電池特性に影響を及ぼすため、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。具体的には、優れた充放電効率を得るために、リチウムの吸蔵放出型の二次電池において、正極側における第1水系電解液のリチウムイオン濃度よりも負極側における第2水系電解液のリチウムイオン濃度が高くなるように設定されている(例えば、特許文献1参照。)。高電圧かつ高出力を実現するために、フロー型の二次電池において、正極電解液のpHよりも負極電解液のpHが高くなるように設定されている(例えば、特許文献2参照。)。優れた充放電サイクル特性を得るために、リチウムの吸蔵放出型の二次電池において、pHが6~10である水系電解液が用いられている(例えば、特許文献3参照。)。
【0004】
高性能な二次電池を実現するために、正極用電解液として酸性電解液が用いられていると共に、負極用電解液としてアルカリ性電解液が用いられている(例えば、特許文献4参照。)。サイクル安全性を確保するために、負極活物質としてカーボンコート層が設けられたチタン酸化物が用いられており、その負極活物質の充電電位がカーボンの還元分解電位よりも貴な電位になると共に負極集電体の還元分解電位よりも卑な電位となるように設定されている(例えば、特許文献5参照)。充放電時において負極の表面における水系電解液の電気分解を抑制するために、リチウムイオンとTFSIアニオンなどのイミド系アニオンとアルミニウムイオンなどの金属カチオンとを含む水系電解液が用いられており、その水系電解液のpHが3~12である(例えば、特許文献6参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-156837号公報
【文献】特開2017-123222号公報
【文献】特開2005-251586号公報
【文献】特開平04-101358号公報
【文献】特開2019-053931号公報
【文献】特開2019-121537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次電池が搭載される電子機器は、益々、高性能化および多機能化している。このため、電子機器の使用頻度は増加していると共に、電子機器の使用環境は拡大している。よって、二次電池の電池特性に関しては、未だ改善の余地がある。
【0007】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能な二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池は、第1空間および第2空間を互いに離隔させると共に、第1空間と第2空間との間において金属イオンを透過させる隔壁と、第1空間の内部に配置されると共に、金属イオンを吸蔵および放出する負極と、第2空間の内部に配置されると共に、金属イオンを吸蔵および放出する正極と、第1空間の内部に収容されると共に、負極および正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンを含む第1水系電解液と、第2空間の内部に収容され、負極および正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンを含むと共に、第1水系電解液のpHよりも小さいpHを有する第2水系電解液とを備え、その隔壁がイオン交換膜を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、金属イオンを吸蔵および放出する負極が第1空間の内部に配置されており、その第1空間の内部に第1水系電解液が収容されている。金属イオンを吸蔵および放出する正極が第2空間の内部に配置されており、その第2空間の内部に第2水系電解液が収容されている。第1水系電解液および第2水系電解液のそれぞれが負極および正極のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンを含んでおり、その第2水系電解液が第1水系電解液のpHよりも小さいpHを有している。第1空間と第2空間との間において金属イオンを透過させる隔壁がイオン交換膜を含んでいる。よって、優れた電池特性を得ることができる。
【0010】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本技術の一実施形態の二次電池の構成を表す断面図である。
図2】変形例2の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0013】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0014】
ここで説明する二次電池は、金属イオンの吸蔵および放出を利用する二次電池であり、正極および負極と共に、水性溶媒を含む液状の電解質である電解液(水系電解液)を備えている。この二次電池では、金属イオンの吸蔵および放出を利用して充放電反応が進行するため、電池容量が得られる。
【0015】
二次電池において吸蔵および放出される金属イオンの種類は、特に限定されないが、例えば、その金属イオンは、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンなどの軽金属イオンを含んでいる。中でも、金属イオンは、アルカリ金属イオンを含んでいることが好ましい。高い電圧が得られながら、充放電反応が安定に進行するからである。このアルカリ金属イオンは、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンなどである。
【0016】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、例えば、図1に示したように、外装部材11の内部に、隔壁12と、負極13と、正極14と、第1水系電解液である負極電解液15と、第2水系電解液である正極電解液16とを備えている。負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、上記した水系電解液である。すなわち、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、水性溶媒を用いた電解液であり、より具体的には、その水性溶媒中において電離可能であるイオン性物質が溶解または分散されている溶液である。なお、図1では、負極電解液15に濃い網掛けを施していると共に、正極電解液16に淡い網掛けを施している。
【0017】
以下では、例えば、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンがアルカリ金属イオンを含んでいる場合を例に挙げる。すなわち、以下で説明する二次電池では、アルカリ金属イオンの吸蔵および放出を利用して電池容量が得られる。
【0018】
[外装部材]
外装部材11は、隔壁12、負極13、正極14、負極電解液15および正極電解液16などを収納するために内部空間を有している。この外装部材11は、例えば、金属材料、ガラス材料および高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。具体的には、外装部材11は、例えば、剛性を有する金属缶、ガラスケースおよびプラスチックケースなどでもよいし、柔軟性(または可撓性)を有する金属箔および高分子フィルムなどでもよい。
【0019】
[隔壁]
隔壁12は、負極13と正極14との間に配置されており、外装部材11の内部空間を2つの空間(第1空間である負極室S1および第2空間である正極室S2)に分離している。これにより、隔壁12は、外装部材11の内部において、負極室S1および正極室S2を互いに離隔させているため、負極13および正極14は、隔壁12を介して互いに離隔されている。
【0020】
この隔壁12は、例えば、負極室S1と正極室S2との間において、アニオンを透過させずに、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオン(カチオン)などの物質(アニオンを除く。)を透過可能である材料を含んでいる。負極電解液15と正極電解液16とが互いに混合することは防止されるからである。すなわち、隔壁12は、負極室S1から正極室S2に向けてカチオンなどを透過可能であると共に、正極室S2から負極室S1に向けてカチオンなどを透過可能である。
【0021】
具体的には、隔壁12は、例えば、イオン交換膜および固体電解質膜などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。イオン交換膜は、カチオンを透過可能な多孔質膜(陽イオン交換膜)である。固体電解質膜は、アルカリ金属イオンの伝導性を有している。隔壁12においてカチオンの透過性が向上するからである。
【0022】
中でも、隔壁12は、固体電解質膜よりもイオン交換膜を含んでいることが好ましい。負極電解液15中の水性溶媒および正極電解液16中の水性溶媒のそれぞれが隔壁12の内部に浸透しやすくなるため、その隔壁12の内部におけるイオン伝導性が向上するからである。
【0023】
[負極]
負極13は、負極室S1の内部に配置されており、アルカリ金属イオンを吸蔵および放出可能である。この負極13は、例えば、負極集電体13Aと、その負極集電体13Aの両面に形成された負極活物質層13Bとを含んでいる。ただし、負極活物質層13Bは、例えば、負極集電体13Aの片面だけに形成されていてもよい。なお、負極集電体13Aは、省略されてもよいため、負極13は、例えば、負極活物質層13Bだけでもよい。
【0024】
負極集電体13Aは、例えば、金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。金属材料は、例えば、ステンレス鋼(SUS)、チタン、亜鉛、錫、鉛およびそれらの合金などである。このステンレス鋼は、例えば、ニオブおよびモリブデンなどの添加元素のうちのいずれか1種類または2種類以上が添加された高耐食性のステンレス鋼でもよい。具体的には、ステンレス鋼は、例えば、モリブデンが添加されたSUS444などである。導電性セラミックス材料は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)などである。なお、負極集電体13Aの一部(接続端子部13AT)は、例えば、外装部材11の内部から外部に導出されている。
【0025】
中でも、負極集電体13Aの形成材料は、負極電解液15に対して不溶性、難溶性および耐食性を有していると共に、後述する負極活物質に対して低反応性を有していることが好ましい。このため、負極集電体13Aは、上記した金属材料を含んでいることが好ましく、すなわちステンレス鋼、チタン、亜鉛、スズ、鉛およびそれらの合金などを含んでいることが好ましい。二次電池を使用しても負極集電体13Aが劣化しにくくなるからである。
【0026】
なお、負極集電体13Aは、例えば、上記した金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料のうちのいずれか1種類または2種類以上が表面を被覆するように鍍金された導電体でもよい。この導電体の材質は、導電性を有していれば、特に限定されない。
【0027】
負極活物質層13Bは、負極活物質として、アルカリ金属イオンを吸蔵および放出可能である負極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この負極材料は、例えば、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物、鉄含有化合物およびモリブデン含有化合物などである。水系電解液(負極電解液15および正極電解液16)を用いた場合においても、充放電反応が円滑かつ安定に進行するからである。ただし、負極活物質層13Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0028】
チタン含有化合物は、例えば、チタン酸化物、アルカリ金属チタン複合酸化物、チタンリン酸化物、アルカリ金属チタンリン酸化合物および水素チタン化合物などである。
【0029】
チタン酸化物は、例えば、下記の式(1)で表される化合物であり、すなわちブロンズ型酸化チタンなどである。
【0030】
TiOw ・・・(1)
(wは、1.85≦w≦2.15を満たす。)
【0031】
このチタン酸化物は、例えば、アナターゼ型、ルチル型またはブルッカイト型の酸化チタン(TiO2 )などである。ただし、チタン酸化物は、チタンと共にリン、バナジウム、スズ、銅、ニッケル、鉄およびコバルトなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む複合酸化物でもよい。この複合酸化物は、例えば、TiO2 -P2 5 、TiO2 -V2 5 、TiO2 -P2 5 -SnO2 およびTiO2 -P2 5 -MeOなどである。ただし、Meは、例えば、銅、ニッケル、鉄およびコバルトなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0032】
アルカリ金属チタン複合酸化物のうちのリチウムチタン複合酸化物は、例えば、下記の式(2)~式(4)のそれぞれで表される化合物などであり、すなわちラムスデライト型チタン酸リチウムなどである。式(2)に示したM2は、2価イオンになり得る金属元素である。式(3)に示したM3は、3価イオンになり得る金属元素である。式(4)に示したM4は、4価イオンになり得る金属元素である。
【0033】
Li[Lix M2(1-3x)/2Ti(3+x)/2 ]O4 ・・・(2)
(M2は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびストロンチウム(Sr)のうちの少なくとも1種である。xは、0≦x≦1/3を満たす。)
【0034】
Li[Liy M31-3yTi1+2y]O4 ・・・(3)
(M3は、アルミニウム(Al)、スカンジウム(Sc)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ゲルマニウム(Ge)およびイットリウム(Y)のうちの少なくとも1種である。yは、0≦y≦1/3を満たす。)
【0035】
Li[Li1/3 M4z Ti(5/3)-z ]O4 ・・・(4)
(M4は、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)およびニオブ(Nb)のうちの少なくとも1種である。zは、0≦z≦2/3を満たす。)
【0036】
具体的には、式(2)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、Li3.75Ti4.875 Mg0.375 12などである。式(3)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、LiCrTiO4 などである。式(4)に示したリチウムチタン複合酸化物は、例えば、Li4 Ti5 12およびLi4 Ti4.95Nb0.0512などである。
【0037】
アルカリ金属チタン複合酸化物のうちのカリウムチタン複合酸化物は、例えば、K2 Ti3 7 およびK4 Ti5 12などである。
【0038】
チタンリン酸化物は、例えば、リン酸チタン(TiP2 7 )などである。アルカリ金属チタンリン酸化合物のうちのリチウムチタンリン酸化合物は、例えば、LiTi2 (PO4 3 などである。アルカリ金属チタンリン酸化合物のうちのナトリウムチタンリン酸化合物は、例えば、NaTi2 (PO4 3 などである。水素チタン化合物は、例えば、H2 Ti3 7 (3TiO2 ・1H2 O)、H6 Ti1227(3TiO2 ・0.75H2 O)、H2 Ti6 13(3TiO2 ・0.5H2 O)、H2 Ti7 15(3TiO2 ・0.43H2 O)およびH2 Ti1225(3TiO2 ・0.25H2 O)などである。
【0039】
ニオブ含有化合物は、例えば、アルカリ金属ニオブ複合酸化物、水素ニオブ化合物およびチタンニオブ複合酸化物などである。ただし、ニオブ含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物から除かれる。
【0040】
アルカリ金属ニオブ複合酸化物は、例えば、LiNbO2 などである。水素ニオブ化合物は、例えば、H4 Nb6 17などである。チタンニオブ複合酸化物は、例えば、TiNb2 7 およびTi2 Nb1029などである。ただし、チタンニオブ複合酸化物には、例えば、アルカリ金属がインターカレートされていてもよい。
【0041】
バナジウム含有化合物は、例えば、バナジウム酸化物およびアルカリ金属バナジウム複合酸化物などである。ただし、バナジウム含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物およびニオブ含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0042】
バナジウム酸化物は、例えば、二酸化バナジウム(VO2 )などである。アルカリ金属バナジウム複合酸化物は、例えば、LiV2 4 およびLiV3 8 などである。
【0043】
鉄含有化合物は、例えば、鉄水酸化物などである。ただし、鉄含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物およびバナジウム含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0044】
鉄水酸化物は、例えば、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などである。ただし、オキシ水酸化鉄は、例えば、α-オキシ水酸化鉄でもよいし、β-オキシ水酸化鉄でもよいし、γ-オキシ水酸化鉄でもよいし、δ-オキシ水酸化鉄でもよいし、それらのうちの任意の2種類以上でもよい。
【0045】
モリブデン含有化合物は、例えば、モリブデン酸化物およびコバルトモリブデン複合酸化物などである。ただし、モリブデン含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物および鉄含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0046】
モリブデン酸化物は、例えば、二酸化モリブデン(MoO2 )などである。コバルトモリブデン複合酸化物は、例えば、CoMoO4 などである。
【0047】
負極結着剤は、例えば、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴムなどである。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリイミドなどである。
【0048】
負極導電剤は、例えば、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料、導電性セラミックス材料および導電性高分子などでもよい。
【0049】
[正極]
正極14は、正極室S2の内部に配置されており、アルカリ金属イオンを吸蔵および放出可能である。この正極14は、例えば、正極集電体14Aと、その正極集電体14Aの両面に形成された正極活物質層14Bとを含んでいる。ただし、正極活物質層14Bは、例えば、正極集電体14Aの片面だけに形成されていてもよい。なお、正極集電体14Aは、省略されてもよいため、正極14は、例えば、正極活物質層14Bだけでもよい。
【0050】
正極集電体14Aは、例えば、金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。金属材料は、例えば、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金などである。導電性セラミックス材料に関する詳細は、例えば、上記した通りである。なお、正極集電体14Aの一部(接続端子部14AT)は、例えば、外装部材11の内部から外部に導出されている。接続端子部14ATの導出方向は、例えば、接続端子部13ATの導出方向と同様である。
【0051】
中でも、正極集電体14Aの形成材料は、正極電解液16に対して不溶性、難溶性および耐食性を有していると共に、後述する正極活物質に対して低反応性を有していることが好ましい。このため、正極集電体14Aは、上記した金属材料を含んでいることが好ましく、すなわちチタン、アルミニウムおよびそれらの合金などを含んでいることが好ましい。二次電池を使用しても正極集電体14Aが劣化しにくくなるからである。
【0052】
なお、正極集電体14Aは、例えば、上記した金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料のうちのいずれか1種類または2種類以上が表面を被覆するように鍍金された導電体でもよい。導電体の材質は、導電性を有していれば、特に限定されない。
【0053】
正極活物質層14Bは、正極活物質として、アルカリ金属イオンを吸蔵および放出可能である正極材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層14Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0054】
アルカリ金属イオンとしてリチウムイオンを吸蔵および放出可能である正極材料は、例えば、リチウム含有化合物を含んでいる。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物などである。リチウム複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを含む酸化物であると共に、リチウムリン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを含むリン酸化合物である。遷移金属元素の種類は、特に限定されないが、例えば、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)などである。
【0055】
具体的には、層状岩塩型のリチウム複合酸化物は、例えば、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.012 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.052 、LiNi0.33Co0.33Mn0.332 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 2 およびLi1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 などである。スピネル型のリチウム複合酸化物は、例えば、LiMn2 4 などである。オリビン型のリチウムリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiMn0.5 Fe0.5 PO4 、LiMn0.7 Fe0.3 PO4 およびLiMn0.75Fe0.25PO4 などである。
【0056】
アルカリ金属イオンとしてナトリウムイオンを吸蔵および放出可能である正極材料は、例えば、ナトリウム含有化合物を含んでいる。ナトリウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、下記の式(5)で表されるプルシアンブルー類似体などである。
【0057】
Nax y M5z Fe(CN)6 ・aH2 O ・・・(5)
(M5は、マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)のうちの少なくとも一方である。x、yおよびzは、0.5<x≦2、0≦y≦0.5および0≦z≦2を満たす。aは、任意の値である。ただし、yは、0.05≦y≦0.2を満たしていてもよい。)
【0058】
具体的には、式(5)に示したプルシアンブルー類似体は、例えば、Na2 MnFe(CN6 )、Na1.420.09Mn1.13Fe(CN)6 ・3H2 OおよびNa0.830.12Zn1.49Fe(CN)6 ・3.2H2 Oなどである。
【0059】
アルカリ金属イオンとしてカリウムイオンを吸蔵および放出可能である正極材料は、例えば、カリウム含有化合物を含んでいる。カリウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、例えば、K0.7 Fe0.6 Mn0.6 2 、K0.6 MnO2 、K0.3 MnO2 、K0.31CoO2 、KCrO2 、K0.6 CoO2 、K2/3 Mn2/3 Co1/3 Ni1/3 2 、K2/3 Ni2/3 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/6 Co1/2 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/2 Mn1/6 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/2 Cu1/6 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/3 Zn1/3 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/6 Mg1/2 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/2 Co1/6 Te1/3 2 、K2/3 Ni1/3 Mg1/3 Te1/3 2 およびK2/3 Ni1/3 Co1/3 Te1/3 2 などである。
【0060】
正極結着剤に関する詳細は、例えば、負極結着剤に関する詳細と同様である。正極導電剤に関する詳細は、例えば、負極導電剤に関する詳細と同様である。
【0061】
[負極電解液および正極電解液]
負極電解液15は、負極室S1の内部に収容されていると共に、正極電解液16は、正極室S2の内部に収容されている。このため、負極電解液15および正極電解液16は、隔壁12を介して互いに混合されないように分離されている。
【0062】
具体的には、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、水性溶媒と共に、その水性溶媒中において電離可能であるイオン性物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。また、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンを含んでいる。
【0063】
水性溶媒は、例えば、純水などである。イオン性物質は、例えば、酸、塩基および電解質塩などであり、それらの2種類以上でもよい。酸は、例えば、シュウ酸(H2 2 4 )、硝酸(HNO3 )、硫酸(H2 SO4 )、塩酸(HCl)、酢酸(CH3 COOH)およびクエン酸(H3 6 5 7 )などである。
【0064】
電解質塩は、カチオンおよびアニオンを含む塩であり、より具体的には、金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上である。金属塩の種類は、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩およびその他の金属塩などである。
【0065】
アルカリ金属塩は、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などである。リチウム塩の種類は、特に限定されないが、例えば、シュウ酸リチウム(Li2 2 4 )、硝酸リチウム(LiNO3 )、硫酸リチウム(Li2 SO4 )、塩化リチウム(LiCl)、酢酸リチウム(CH3 COOLi)、クエン酸リチウム(Li3 6 5 7 )、水酸化リチウム(LiOH)およびイミド塩などである。このイミド塩は、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムなどである。ナトリウム塩の種類は、特に限定されないが、例えば、上記したリチウム塩のうちのリチウムイオンをナトリウムイオンに置き換えた化合物などである。カリウム塩の種類は、特に限定されないが、例えば、上記したリチウム塩のうちのリチウムイオンをカリウムイオンに置き換えた化合物などである。
【0066】
アルカリ土類金属塩の種類は、特に限定されないが、例えば、上記したリチウム塩のうちのリチウムイオンをアルカリ土類金属元素のカチオンに置き換えた化合物などであり、より具体的には、カルシウム塩などである。遷移金属塩の種類は、特に限定されないが、例えば、上記したリチウム塩のうちのリチウムイオンを遷移金属元素のカチオンに置き換えた化合物などである。その他の金属塩の種類は、特に限定されないが、例えば、上記したリチウム塩のうちのリチウムをその他の金属元素のカチオンに置き換えた化合物などである。
【0067】
イオン性物質の含有量、すなわち負極電解液15および正極電解液16のそれぞれの濃度(mol/kg)は、任意に設定可能である。
【0068】
負極電解液15の組成式(電解質塩の種類)は、正極電解液16の組成式(電解質塩の種類)と同じでもよいし、その正極電解液16の組成式とは異なっていてもよい。ただし、正極電解液16のpHは、負極電解液15のpHよりも小さくなっている。正極電解液16のpHが負極電解液15のpHに等しい場合と比較して、pHの差異に起因して水性溶媒の分解電位がシフトするからである。これにより、充放電時において水性溶媒の分解反応が熱力学的に抑制されながら、その水性溶媒の電位窓が拡大する。よって、高い電圧が得られながら、アルカリ金属イオンの吸蔵および放出を利用した充放電反応が十分かつ安定に進行する。
【0069】
中でも、負極電解液15の組成式(電解質塩の種類)は、正極電解液16の組成式(電解質塩の種類)と異なっていることが好ましい。正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなるように制御されやすくなるからである。
【0070】
正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなっていれば、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれのpHの値は、特に限定されない。
【0071】
中でも、負極電解液15のpHは、11以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましい。負極電解液15のpHが十分に大きくなるため、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなりやすいからである。また、正極電解液16のpHと負極電解液15のpHとの差異が十分に大きくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。
【0072】
また、正極電解液16のpHは、3~8であることが好ましく、4~8であることがより好ましく、4~6であることがさらに好ましい。正極電解液16のpHと負極電解液15のpHとの差異が十分に大きくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。また、外装部材11、負極集電体13Aおよび正極集電体14Aなどの腐食が抑制されるため、それらの耐久性(安定性)が向上するからである。
【0073】
なお、電解質塩は、例えば、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を含んでいる。この場合において、電解質塩は、さらに、任意の電解質塩(上記した負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を除く。)および非電解質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この任意の電解質塩の種類(カチオンの種類およびアニオンの種類)は、特に限定されないため、任意に選択可能である。
【0074】
ここで、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、上記したように、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を含んでいる。アルカリ金属塩の種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0075】
この場合において、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、さらに、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンとは異なる他の金属イオンをカチオンとする他の金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この他の金属イオンは、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンでもよいし、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されない金属イオンでもよいし、双方でもよい。
【0076】
負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンである他の金属イオンの種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。この場合における他の金属イオンは、例えば、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオン以外の他のアルカリ金属イオンなどである。
【0077】
負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されない金属イオンである他の金属イオンの種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。この場合における他の金属イオンは、例えば、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオン以外の他のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンおよびその他の金属イオンなどの任意の金属イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0078】
より具体的には、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩として、リチウムイオンをカチオンとするリチウム塩を含んでいる。
【0079】
この場合において、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、さらに、上記した他の金属イオンをカチオンとする他の金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。2種類以上の金属塩(アルカリ金属塩および他の金属塩)を併用することにより、1種類の金属塩(アルカリ金属塩)だけを用いる場合と比較して、負極電解液15のpHおよび正極電解液16のpHのそれぞれが制御されやすくなるからである。
【0080】
中でも、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、アルカリ金属塩であるリチウム塩(リチウムイオン)と共に、他の金属塩であるナトリウム塩(ナトリウムイオン)およびカリウム塩(カリウムイオン)のうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。正極電解液16のpHが負極電解液15のpHに対して十分に小さくなるように制御されやすくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなる。
【0081】
なお、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方は、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩の飽和溶液であることが好ましい。中でも、負極電解液15および正極電解液16の双方は、上記したアルカリ金属塩の飽和溶液であることがより好ましい。充放電時において充放電反応(アルカリ金属イオンの吸蔵放出反応)が安定に進行するからである。
【0082】
負極電解液15が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認するためには、例えば、二次電池を解体したのち、負極室S1の内部において電解質塩が析出しているか否かを調べればよい。この負極室S1の内部とは、例えば、負極電解液15の液中、隔壁12の表面、負極13の表面および外装部材11の表面(内壁面)などである。電解質塩が析出しているため、負極室S1の内部において負極電解液15(液体)と電解質塩の析出物(固体)とが共存している場合には、その負極電解液15が電解質塩の飽和溶液であると考えられる。なお、析出物の組成を調べるためには、例えば、X線光電子分光法(XPS)などの表面分析法を用いることができると共に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などの組成分析法を用いることができる。
【0083】
正極電解液16が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認する方法は、負極室S1の代わりに正極室S2を調べることを除いて、上記した負極電解液15が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認する方法と同様である。
【0084】
また、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、pH緩衝液でもよい。このpH緩衝液は、例えば、弱酸とその共役塩基とが混合された水溶液でもよいし、弱塩基とその共役酸とが混合された水溶液でもよい。pHの変動が十分に抑制されるため、上記した負極電解液15のpHおよび正極電解液16のpHのそれぞれが維持されやすくなるからである。
【0085】
中でも、正極電解液16は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオンおよびカルボン酸イオンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。正極電解液16のpHの変動が十分に抑制されるため、上記した負極電解液15のpHおよび正極電解液16のpHのそれぞれが十分に維持されやすくなるからである。カルボン酸イオンは、例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酒石酸イオンおよびクエン酸イオンなどである。
【0086】
なお、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、緩衝剤として、トリスヒドロキシメチルアミノメタンおよびエチレンジアミン四酢酸などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0087】
より具体的には、負極電解液15は、アニオンとして水酸化物イオンを含んでいると共に、正極電解液16は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオンおよびリン酸二水素イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。負極電解液15のpHが十分に大きくなるように制御されやすくなると共に、正極電解液16のpHが十分に小さくなるように制御されやすくなるからである。
【0088】
ここで、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれは、互いに等張な関係を有する等張液であることが好ましい。負極電解液15および正極電解液16のそれぞれの浸透圧が適正化されるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。
【0089】
特に、負極電解液15は、上記したように、金属イオンであるカチオン(以下、「金属カチオン」と呼称する。)を含んでおり、その金属カチオンは、アルカリ金属イオンを含んでいる。また、正極電解液16は、上記したように、金属カチオンを含んでおり、その金属カチオンは、アルカリ金属イオンを含んでいる。この負極電解液15中に含まれている金属カチオンの種類は、上記したように、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよいと共に、正極電解液16中に含まれている金属カチオンの種類は、上記したように、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。これらの金属カチオンには、水素イオンなどの非金属イオンであるカチオンは含まれない。
【0090】
この場合において、負極電解液15中におけるアルカリ金属イオン含む金属カチオンの総カチオン濃度(mol/kg)と、正極電解液16中におけるアルカリ金属イオンを含む金属カチオンの総カチオン濃度(mol/kg)との差、すなわち正極電解液16の総カチオン濃度-負極電解液15の総カチオン濃度である表されるカチオン濃度差(アルカリ金属イオンを含む金属カチオンの濃度差)は、4mol/kg以下であることが好ましく、2mol/kg以下であることがより好ましい。負極電解液15および正極電解液16に関するカチオン濃度差が適正化されるため、両者のpHの大小関係がより維持されやすくなるからである。理由は定かでないが、負極電解液15中の金属カチオンおよび正極電解液16中の金属カチオンのそれぞれが隔壁12を介して移動しやすくなるため、充放電反応が安定に進行しやすくなると考えられる。
【0091】
ここで説明した「総カチオン濃度」とは、金属カチオンの種類が1種類だけである場合には、その金属カチオンの濃度であると共に、金属カチオンの種類が2種類以上である場合には、各金属カチオンの濃度の総和である。
【0092】
すなわち、負極電解液15が金属カチオンとして負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンだけを含んでいる場合には、総カチオン濃度は、そのアルカリ金属イオンだけを含む金属カチオンの濃度である。また、負極電解液15が金属カチオンとして負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンと共に他の金属イオンを含んでいる場合には、総カチオン濃度は、そのアルカリ金属イオンと共に他の金属イオンを含む金属カチオンの濃度である。この他の金属イオンは、上記したように、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンでもよいし、負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されない金属イオンでもよいし、双方でもよい。
【0093】
ここで説明した負極電解液15の総カチオン濃度の定義は、正極電解液16の総カチオン濃度の定義に関しても同様である。
【0094】
なお、負極電解液15の総カチオン濃度を調べる場合には、例えば、二次電池を解体することにより、負極電解液15を回収したのち、ICP発光分光分析法などの組成分析法を用いて負極電解液15を分析する。正極電解液16の総カチオン濃度を調べる手順は、負極電解液15の代わりに正極電解液16を用いることを除いて、その負極電解液15の総カチオン濃度を調べる手順と同様である。
【0095】
さらに、負極電解液15のpHは、負極集電体13Aおよび負極活物質層13Bのそれぞれが腐食されにくくなるように設定されていることが好ましい。同様に、正極電解液16のpHは、正極集電体14Aおよび正極活物質層14Bのそれぞれが腐食されにくくなるように設定されていることが好ましい。負極13および正極14を用いた充放電反応が安定かつ継続的に進行しやすくなるからである。
【0096】
<1-2.動作>
この二次電池では、例えば、充電時において、正極14からアルカリ金属イオンが放出されると、そのアルカリ金属イオンが正極電解液16、隔壁12および負極電解液15を介して負極13に移動する。このため、負極13においてアルカリ金属イオンが吸蔵される。
【0097】
また、二次電池では、例えば、放電時において、負極13からアルカリ金属イオンが放出されると、そのアルカリ金属イオンが負極電解液15、隔壁12および正極電解液16を介して正極14に移動する。このため、正極14においてアルカリ金属イオンが吸蔵される。
【0098】
<1-3.製造方法>
この二次電池を製造する場合には、例えば、以下で説明するように、負極13および正極14を作製すると共に負極電解液15および正極電解液16を調製したのち、二次電池を組み立てる。
【0099】
[負極の作製]
最初に、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤を互いに混合させることにより、負極合剤とする。続いて、有機溶剤などの溶媒に負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。最後に、負極集電体13A(接続端子部13ATを除く。)の両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層13Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて負極活物質層13Bを圧縮成型してもよい。この場合には、負極活物質層13Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0100】
[正極の作製]
上記した負極13の作製手順と同様の手順により、正極集電体14Aの両面に正極活物質層14Bを形成する。具体的には、正極活物質、正極結着剤および正極導電剤を互いに混合させることにより、正極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に正負極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。続いて、正極集電体14A(接続端子部14ATを除く。)の両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層14Bを形成する。こののち、正極活物質層14Bを圧縮成型してもよい。
【0101】
[負極電解液および正極電解液の調製]
水性溶媒にイオン性物質を添加することにより、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれを調製する。この場合には、イオン性物質の種類および濃度(mol/kg)などの条件を調整することにより、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなるようにする。
【0102】
[二次電池の組み立て]
最初に、隔壁12が設けられた外装部材11を準備する。この外装部材11は、例えば、負極室S1に連通された負極開口部(図示せず)を有していると共に、正極室S2に連通された正極開口部(図示せず)を有している。続いて、負極開口部から負極室S1の内部に負極13を収納すると共に、正極開口部から正極室S2の内部に正極14を収納する。この場合には、負極集電体13Aの一部(接続端子部13AT)が外装部材11の内部から外部に導出されると共に、正極集電体14Aの一部(接続端子部14AT)が外装部材11の内部から外部に導出されるようにする。最後に、負極開口部から負極室S1の内部に負極電解液15を供給すると共に、正極開口部から正極室S2の内部に正極電解液16を供給する。こののち、溶接法などを用いて負極開口部および正極開口部のそれぞれを封止することができる。これにより、負極13が配置されている負極室S1の内部に負極電解液15が収容されると共に、正極14が配置されている正極室S2の内部に正極電解液16が収容されるため、二次電池が完成する。
【0103】
<1-4.作用および効果>
この二次電池によれば、金属イオンを吸蔵および放出可能である負極13が負極室S1の内部に配置されており、その負極室S1の内部に負極電解液15が収容されている。金属イオンを吸蔵および放出可能である正極14が正極室S2の内部に配置されており、その正極室S2の内部に正極電解液16が収容されている。負極電解液15および正極電解液16のそれぞれが負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出される金属イオンを含んでおり、その正極電解液16が負極電解液15のpHよりも小さいpHを有している。
【0104】
この場合には、上記したように、充放電時において水性溶媒の分解反応が熱力学的に抑制されながら、その水性溶媒の電位窓が拡大するため、高い電圧が得られながら、金属イオンの吸蔵および放出を利用した充放電反応が十分かつ安定に進行する。よって、高い電圧が得られると共に、高い放電容量および高い充放電効率も得られるため、優れた電池特性を得ることができる。
【0105】
特に、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方が負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン)を含んでいる場合において、その負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方がさらに他の金属イオンを含んでいれば、正極電解液16のpHおよび負極電解液15のpHのそれぞれが制御されやすくなると共に、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0106】
この場合には、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方が他の金属イオンとしてナトリウムイオンおよびカリウムイオンのうちの一方または双方を含んでいれば、正極電解液16のpHおよび負極電解液15のpHのそれぞれがより制御されやすくなると共に、両者のpHの大小関係がより維持されやすくなるため、さらに高い効果を得ることができる。
【0107】
また、負極13がチタン含有化合物などを含んでいれば、水系電解液(負極電解液15および正極電解液16)を用いても充放電反応が円滑かつ安定に進行しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0108】
また、負極電解液15のpHが11以上であれば、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなりやすくなる。よって、充放電反応がより安定に進行するため、より高い効果を得ることができる。
【0109】
また、正極電解液16のpHが4~8であれば、その正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さくなりやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0110】
また、正極電解液16がアニオンとして硫酸イオンなどを含んでいれば、その正極電解液16のpHが安定に制御されやすくなると共に、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0111】
また、負極電解液15がアニオンとして水酸化物イオンを含んでいると共に、正極電解液16がアニオンとして硫酸イオンなどを含んでいれば、その負極電解液15のpHが十分に大きくなるように制御されやすくなると共に、その正極電解液16のpHが安定に制御されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0112】
また、負極電解液15の総カチオン濃度および正極電解液16の総カチオン濃度に関するカチオン濃度差が2mol/kg以下であれば、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0113】
また、負極電解液15および正極電解液16のうちの一方または双方が負極13および正極14のそれぞれにおいて吸蔵および放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩の飽和溶液であれば、より高い電圧が得られながら充放電反応がより進行しやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0114】
また、隔壁12がイオン交換膜および固体電解質膜のうちの一方または双方を含んでいれば、金属イオン(カチオン)の透過性が向上するため、より高い効果を得ることができる。
【0115】
<2.変形例>
上記した二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例に関しては、任意の2種類以上が互いに組み合わされてもよい。
【0116】
[変形例1]
負極活物質(負極材料)として、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物、鉄含有化合物およびモリブデン含有化合物を例示した。しかしながら、負極活物質は、水系電解液(負極電解液15および正極電解液16)を用いた場合においても充放電反応が円滑かつ安定に進行しやすくなれば、上記したチタン含有化合物など以外の他の化合物でもよい。
【0117】
[変形例2]
図1では、液状の電解質である電解液(負極電解液15および正極電解液16)を用いた。しかしながら、例えば、図1に対応する図2に示したように、電解液の代わりにゲル状の電解質である電解質層17,18を用いてもよい。
【0118】
電解質層17,18を用いた場合には、例えば、図2に示したように、隔壁12と負極13との間に電解質層17が介在していると共に、隔壁12と正極14との間に電解質層18が介在している。すなわち、電解質層17は、隔壁12および負極13のそれぞれに隣接されていると共に、電解質層18は、隔壁12および正極14のそれぞれに隣接されている。
【0119】
具体的には、電解質層17は、負極電解液15と共に高分子化合物を含んでおり、その電解質層17中では、負極電解液15が高分子化合物により保持されている。電解質層18は、正極電解液16と共に高分子化合物を含んでおり、その電解質層18中では、正極電解液16が高分子化合物により保持されている。高分子化合物は、例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリエチレンオキサイドなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。なお、図2では、負極電解液15を含んでいる電解質層17に濃い網掛けを施していると共に、正極電解液16を含んでいる電解質層18に淡い網掛けを施している。
【0120】
電解質層17を形成する場合には、例えば、負極電解液15、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、負極13に前駆溶液を塗布する。電解質層18を形成する場合には、例えば、正極電解液16、高分子化合物および有機溶剤などを含む前駆溶液を調製したのち、正極14に前駆溶液を塗布する。
【0121】
この場合においても、負極13と正極14との間において電解質層17,18を介してアルカリ金属イオンなどの金属イオンが移動可能になるため、同様の効果を得ることができる。
【0122】
<3.二次電池の用途>
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源および電力蓄積用の電力貯蔵源などとして利用可能である機械、機器、器具、装置およびシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源でもよいし、必要に応じて主電源から切り替えられる電源でもよい。二次電池を補助電源として用いる場合には、主電源の種類は二次電池に限られない。
【0123】
具体的には、二次電池の用途は、例えば、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビおよび携帯用情報端末などの電子機器(携帯用電子機器を含む。)である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。着脱可能な電源としてノート型パソコンなどに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時に備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、二次電池の用途は、ここで例示した一連の用途以外の他の用途でもよい。
【実施例
【0124】
本技術の実施例に関して説明する。
【0125】
(実験例1~20)
以下で説明するように、吸蔵放出用の金属イオンとしてアルカリ金属イオンを用いた二次電池を作製したのち、その二次電池の電池特性を評価した。ここでは、外装部材11としてガラス製容器(ガラスケース)を用いた二次電池を作製した。
【0126】
[二次電池の作製]
負極13を作製する場合には、最初に、負極活物質89質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部と、負極導電剤(黒鉛)1質量部とを互いに混合させることにより、負極合剤とした。この負極活物質としては、チタン含有化合物であるTiO2 およびLi4 Ti5 12(LTO)と、チタンリン酸化合物であるNaTi2 (PO4 3 (NTP)とを用いた。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて、接続端子部13ATを除いた負極集電体13A(厚さ=10μm)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層13Bを形成した。ここでは、負極集電体13Aの形成材料として、ステンレス鋼(SUS444)と、錫(Sn)と、チタン(Ti)とを用いた。
【0127】
正極14を作製する場合には、最初に、正極活物質91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。この正極活物質としては、リチウムリン酸化合物であるLiFePO4 (LFP)と、リチウム複合酸化物であるLiCoO2 (LCO)、LiMn2 4 (LMO)およびLiNi0.8 Co0.15Al0.052 (NCA)と、ナトリウム含有化合物であるNa2 MnFe(CN6 )(NMHCF)とを用いた。続いて、有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて、接続端子部14ATを除いた正極集電体14A(厚さ=10μm)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層14Bを形成した。ここでは、正極集電体14Aの形成材料として、アルミニウム(Al)と、チタン(Ti)とを用いた。
【0128】
負極電解液15および正極電解液16のそれぞれを調製する場合には、水性溶媒(純水)にイオン性物質を投入したのち、その水性溶媒を撹拌した。イオン性物質の種類と、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれの濃度(mol/kg)およびpHとは、表1および表2に示した通りである。ここでは、イオン性物質として、電解質塩(アルカリ金属塩であるリチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩)である水酸化リチウム(LiOH)、水酸化カリウム(KOH)、クエン酸リチウム(Li3 Cit)、硝酸リチウム(LiNO3 )、水酸化ナトリウム(NaOH)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)、塩化リチウム(LiCl)、硝酸カリウム(KNO3 )、硫酸リチウム(Li2 SO4 )、リン酸水素二リチウム(Li2 HPO4 )、リン酸水素二カリウム(K2 HPO4 )およびリン酸二水素リチウム(LiH2 PO4 )を用いた。
【0129】
負極電解液15および正極電解液16のそれぞれとしては、必要に応じて、濃度を調整することにより、電解質塩の飽和溶液を用いた。表1および表2中の濃度の欄に示した括弧書き(sat)は、負極電解液15または正極電解液16が電解質塩の飽和溶液であることを意味している。
【0130】
また、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれとしては、必要に応じて、アニオンとしてクエン酸イオン、硫酸イオンおよびリン酸イオンを含むpH緩衝液を用いた。
【0131】
なお、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれを調製する場合には、必要に応じて、2種類のアルカリ金属塩(リチウム塩およびカリウム塩)を用いることにより、その負極電解液15のpHおよび正極電解液16のpHのそれぞれを調整した。
【0132】
二次電池を組み立てる場合には、最初に、外装部材11として、隔壁12が取り付けられたガラス製容器を準備した。このガラス製容器の内部では、あらかじめ隔壁12を介して負極室S1および正極室S2が互いに離隔されている。
【0133】
隔壁12としては、イオン交換膜(シグマアルドリッチジャパン合同会社から購入したカチオン交換膜 Nafion115(登録商標))と、固体電解質膜(株式会社オハラ製の固体電解質 LICGC(登録商標) AG-01)とを用いた。この固体電解質膜は、Li2 O-Al2 3 -SiO2 -P2 5 -TiO2 -GeO2 系の固体電解質を含んでいる。表1および表2のそれぞれに示した「隔壁」の欄では、イオン交換膜を用いた場合には「交換膜」と表記していると共に、固体電解質膜を用いた場合には「電解質」と表記している。
【0134】
続いて、負極室S1の内部に負極13を配置させたのち、その負極室S1の内部に負極電解液15を供給した。この場合には、負極13の一部(接続端子部13AT)が外装部材11の外部に導出されるようにした。最後に、正極室S2の内部に正極14を配置させたのち、その正極室S2の内部に正極電解液16を供給した。この場合には、正極14の一部(接続端子部14AT)が外装部材11の外部に導出されるようにした。これにより、負極室S1の内部に負極電解液15が収容されると共に、正極室S2の内部に正極電解液16が収容されたため、試験用の二次電池が完成した。
【0135】
なお、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれの濃度(mol/kg)およびpHは、表1および表2に示した通りであった。この場合には、負極電解液15の総カチオン濃度(mol/kg)および正極電解液16の総カチオン濃度(mol/kg)のそれぞれを調べたところ、表3に示した結果が得られた。
【0136】
[電池特性の評価]
二次電池の電池特性として充放電特性(充放電の可否、10サイクル目の充放電効率および保存後の充放電サイクルの充放電効率)を評価したところ、表1~表3に示した結果が得られた。
【0137】
二次電池を充電させる場合には、常温環境中(温度=25℃)において、表1および表2のそれぞれに示した充電終了電圧(V)に到達するまで、2Cの電流で二次電池を定電流充電させた。この場合には、負極活物質の種類および正極活物質の種類に応じて、充電終了電圧を設定した。なお、2Cとは、電池容量(理論容量)を0.5時間で放電しきる電流値である。
【0138】
二次電池を放電させる場合には、表1および表2のそれぞれに示した放電終了電圧(V)に到達するまで、2Cの電流で二次電池を放電させた。この場合には、充電終了電圧を設定した場合と同様に、負極活物質の種類および正極活物質の種類に応じて、放電終了電圧を設定した。
【0139】
充放電の可否を評価する場合には、上記した充放電条件において二次電池を充放電させることにより、その二次電池が充放電可能であるか否かを調べた。
【0140】
上記した充放電の可否を評価した結果、二次電池が充放電可能であった場合には、さらに、10サイクル目の充放電効率を求めた。この場合には、上記した充放電条件において二次電池を10サイクル充放電させることにより、10サイクル目の充電容量を測定すると共に、10サイクル目の放電容量を測定した。こののち、充放電効率(%)=(10サイクル目の放電容量/10サイクル目の充電容量)×100を算出した。
【0141】
また、二次電池が充放電可能であった場合には、常温環境中において二次電池を保存(保存期間=4日間)したのち、上記した充放電効率の算出手順と同様の手順により、保存後の充放電効率である保存後効率(%)を算出した。
【0142】
【表1】
【0143】
【表2】
【0144】
【表3】
【0145】
[考察]
表1~表3に示したように、二次電池の充放電特性は、負極電解液15のpHと正極電解液16のpHとの関係に応じて変動した。
【0146】
具体的には、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHと同等である場合(実験例8~10,19,20)には、二次電池を充電させることはできたが放電させることはできなかったため、その二次電池を充放電させることができなった。よって、充放電効率を算出することもできなかった。
【0147】
これに対して、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さい場合(実験例1~7,11~18)には、二次電池を充電させることができた共に放電させることもできたため、その二次電池を充放電させることができた。よって、充放電効率を算出することもできた。
【0148】
特に、正極電解液16のpHが負極電解液15のpHよりも小さい場合には、以下で説明する一連の傾向が得られた。
【0149】
第1に、アルカリ金属イオン(リチウムイオン)と共に他の金属イオン(カリウムイオン)を用いた場合(実験例6)には、そのアルカリ金属塩(リチウムイオン)だけを用いた場合(実験例3)と比較して、負極電解液15のpHと正極電解液16のpHとの差異が増加したため、充放電効率が増加した。
【0150】
第2に、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれとして電解質塩の飽和溶液を用いた場合(実験例2)には、その電解質塩の飽和溶液を用いなかった場合(実験例3)と比較して、充放電効率が増加した。
【0151】
第3に、正極電解液16としてpH緩衝液を用いた場合(実験例17)には、そのpH緩衝液を用いなかった場合(実験例1)と比較して、充放電効率が増加した。
【0152】
第4に、アルカリ金属イオン(リチウムイオン)および他の金属イオン(カリウムイオン)を用いると共に、負極電解液15および正極電解液16のそれぞれとして電解質塩の飽和溶液を用いた上、さらに正極電解液16としてpH緩衝液を用いた場合(実験例15)には、充放電効率が最も増加した。
【0153】
第5に、隔壁がイオン交換膜である場合(実験例13)には、隔壁が固体電解質膜である場合(実験例16)と比較して、充放電効率が増加した。
【0154】
第6に、カチオン濃度差が4mol/kg以下である場合(実験例13,14)には、そのカチオン濃度差が4mol/kgよりも大きい場合(実験例1)と比較して、保存後効率が増加した。この場合には、カチオン濃度差が2mol/kg以下であると、保存効率が十分に高くなった。
【0155】
[まとめ]
表1~表3に示した結果から、金属イオンの吸蔵放出型の二次電池において負極電解液15のpHが正極電解液16のpHよりも小さくなっていると、充放電特性が改善された。よって、二次電池において優れた電池特性が得られた。
【0156】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら、本技術の二次電池の構成に関して説明した。しかしながら、本技術の二次電池の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限られず、種々に変形可能である。
【0157】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。
【符号の説明】
【0158】
11…外装部材、12…隔壁、13…負極、14…正極、15…負極電解液、16…正極電解液、17,18…電解質層、S1…負極室、S2…正極室。
図1
図2