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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】車両用通信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/04 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
G01S5/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023142290
(22)【出願日】2023-09-01
(62)【分割の表示】P 2019231976の分割
【原出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2023155478
(43)【公開日】2023-10-20
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】関澤 高俊
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-168439(JP,A)
【文献】特開2019-070258(JP,A)
【文献】特開2010-019597(JP,A)
【文献】特開2004-101254(JP,A)
【文献】特開2008-281522(JP,A)
【文献】特開2012-108141(JP,A)
【文献】特開2010-276531(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0259033(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルトラワイドバンド(以下、「UWB」と表記する)通信を用いて車両(6)に対する携帯機(8)の位置を特定する車両用通信装置において、
前記車両に搭載され、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する車載トリガー用無線機(1)と、
人(7)が携帯可能な前記携帯機に搭載され、前記車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を受信する携帯トリガー用無線機(4)と、
前記携帯機に搭載され、前記携帯トリガー用無線機がトリガー信号を受信するとUWB電波を送信する携帯UWB無線機(5)と、
前記車両に搭載され、前記携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信する3個以上の車載UWB無線機(2)と、
前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を所定の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT1)から第1の電波到来方向を算出し、前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を別の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT2)から第2の電波到来方向を算出し、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき前記携帯機の位置を特定する制御部(3、21)と、を備え、
前記携帯機はスマートフォンであり、
前記車載トリガー用無線機および前記携帯トリガー用無線機はいずれも、ブルーツゥースローエナジー(以下、「BLE」と表記する)による通信を行うBLE無線機であり、トリガー信号としてBLEが用いられ、
複数の前記車載UWB無線機は、第1局(2a)と第2局(2b)と第3局(2c)とを含んで構成されており、
前記制御部には、前記第1局と前記第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されており、
前記第3局は、UWB電波を送信し、
前記第1局と前記第2局とはそれぞれ、前記第3局が送信したUWB電波を受信し、
前記制御部は、前記第1局と前記第2局とがそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間に対して電波の伝播速度を乗じた値と、予め記憶されている前記第1局と前記第2局との間の距離との比から、前記携帯機の位置を特定する計算を行う際の補正値を算出する、車両用通信装置。
【請求項2】
ウルトラワイドバンド(以下、「UWB」と表記する)通信を用いて車両(6)に対する携帯機(8)の位置を特定する車両用通信装置において、
前記車両に搭載され、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する車載トリガー用無線機(1)と、
人(7)が携帯可能な前記携帯機に搭載され、前記車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を受信する携帯トリガー用無線機(4)と、
前記携帯機に搭載され、前記携帯トリガー用無線機がトリガー信号を受信するとUWB電波を送信する携帯UWB無線機(5)と、
前記車両に搭載され、前記携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信する3個以上の車載UWB無線機(2)と、
前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を所定の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT1)から第1の電波到来方向を算出し、前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を別の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT2)から第2の電波到来方向を算出し、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき前記携帯機の位置を特定する制御部(3、21)と、を備え、
前記携帯機はスマートフォンであり、
前記車載トリガー用無線機および前記携帯トリガー用無線機はいずれも、ブルーツゥースローエナジー(以下、「BLE」と表記する)による通信を行うBLE無線機であり、トリガー信号としてBLEが用いられ、
複数の前記車載UWB無線機は、第1局と第2局と第3局とを含んで構成されており、
少なくとも前記第2局は集積回路(以下、「IC」と表記する)および内部時計を有しており、前記ICには、前記第1局と前記第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されており、
前記第3局は、UWB電波を送信し、
前記第1局は、前記第3局が送信したUWB電波を受信すると、UWB電波を送信し、
前記第2局は、前記第3局が送信したUWB電波と前記第1局が送信したUWB電波をそれぞれ受信し、
前記第2局の有する前記ICは、前記第3局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻と前記第1局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻とを差分した時間と、予め記憶されている前記第1局と前記第2局との間の距離に基づき、前記第1局がUWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでの中継処理時間を算出する、車両用通信装置。
【請求項3】
複数の前記車載UWB無線機(2a、2c)は、前記携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信すると、UWB電波を送信し、
複数の前記車載UWB無線機のうち前記ICおよび前記内部時計を有する前記車載UWB無線機(2b)は、前記携帯UWB無線機が送信したUWB電波と、他の前記車載UWB無線機から送信されたUWB電波とを受信し、
前記車載UWB無線機の有する前記ICが、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向とを算出して前記携帯機の位置を特定する前記制御部として機能するように構成されている、請求項2に記載の車両用通信装置。
【請求項4】
ウルトラワイドバンド(以下、「UWB」と表記する)通信を用いて車両(6)に対する携帯機(8)の位置を特定する車両用通信装置において、
前記車両に搭載され、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する車載トリガー用無線機(1)と、
人(7)が携帯可能な前記携帯機に搭載され、前記車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を受信する携帯トリガー用無線機(4)と、
前記携帯機に搭載され、前記携帯トリガー用無線機がトリガー信号を受信するとUWB電波を送信する携帯UWB無線機(5)と、
前記車両に搭載され、前記携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信する3個以上の車載UWB無線機(2)と、
前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を所定の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT1)から第1の電波到来方向を算出し、前記携帯UWB無線機の送信したUWB電波を別の組み合わせによる複数の前記車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間(ΔT2)から第2の電波到来方向を算出し、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき前記携帯機の位置を特定する制御部(3、21)と、を備え、
前記携帯機はスマートフォンであり、
前記車載トリガー用無線機および前記携帯トリガー用無線機はいずれも、ブルーツゥースローエナジー(以下、「BLE」と表記する)による通信を行うBLE無線機であり、トリガー信号としてBLEが用いられ、
複数の前記車載UWB無線機は、基準局(2d)とサブ局(2e)を含んで構成されており、
前記基準局と前記サブ局はそれぞれIC(21)および内部時計(22)を有しており、
前記基準局と前記サブ局との距離を双方向通信により計測し、
前記基準局と前記サブ局との距離を単方向通信により計測し、
双方向通信により計測した距離と単方向通信により計測した距離との差に基づき、前記基準局が有する前記内部時計と前記サブ局が有する前記内部時計との時間誤差を算出して補正する、車両用通信装置。
【請求項5】
双方向通信による前記基準局と前記サブ局の距離の算出は、
前記基準局が、UWB電波を送信し、そのUWB電波の送信時刻を記憶し、
前記基準局が送信したUWB電波を受信した前記サブ局は、UWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでの中継処理時間データを付加してUWB電波を送信し、
前記サブ局が送信したUWB電波を受信した前記基準局は、そのUWB電波の電波到来時刻と、そのUWB電波に付加されている中継処理時間データとを記憶し、
前記基準局がUWB電波を送信した送信時刻から、前記サブ局が送信したUWB電波を前記基準局が受信した電波到来時刻までの時間から、中継処理時間データを引いた時間に基づき前記基準局と前記サブ局との距離を算出するものであり、
一方、単方向通信による前記基準局と前記サブ局の距離の算出は、
前記基準局が、送信時刻データを付加してUWB電波を送信し、
前記基準局が送信したUWB電波を受信した前記サブ局は、そのUWB電波を受信した電波到来時刻と、そのUWB電波に付加されている送信時刻データとを記憶し、
前記基準局がUWB電波を送信した送信時刻から、そのUWB電波を前記サブ局が受信した電波到来時刻までの時間に基づき前記基準局と前記サブ局との距離を算出するものである、請求項4に記載の車両用通信装置。
【請求項6】
複数の前記車載UWB無線機のうち、前記基準局とされる前記車載UWB無線機は、前記サブ局とされる複数の前記車載UWB無線機に対して通信可能な場所に設けられている、請求項4または5に記載の車両用通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が持つ携帯機の位置を特定する車両用通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人が持つ携帯機の位置を無線通信により特定するための種々の装置が開発されている。その種の装置として、特許文献1に記載のものがある。特許文献1に記載の位置特定装置は、サービスエリア内に基準局と中継局を設置し、それらから携帯機に送信される電波により携帯機の位置を特定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-117879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置は、サービスエリアなどの広い環境で基準局と中継局を離れた場所に設置することで、携帯機の位置を特定する技術である。それに対し、車両に対する携帯機の位置を特定するスマートエントリー(登録商標)などの車両用通信装置は、車両内の限られた空間に無線機を搭載し、車両に対する携帯機の位置を特定する技術である。そのため、特許文献1の技術は、車両用通信装置の技術に適用することが困難である。車両用通信装置では、車両内の限られた空間に無線機を搭載することから、車両に搭載した無線機と人が持つ携帯機との間に人体が存在する場合、人体が電波を遮蔽することで受信電力が低下し、携帯機の位置を特定できるエリアが狭くなるといった課題がある。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、車両用通信装置において、携帯機の位置を特定可能なエリアを広げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1、2、4に係る発明は、ウルトラワイドバンド(以下、「UWB」と表記する)通信を用いて車両(6)に対する携帯機(8)の位置を特定する車両用通信装置であり、車載トリガー用無線機(1)、携帯トリガー用無線機(4)、携帯UWB無線機(5)、車載UWB無線機(2)および制御部(3、21)を備える。車載トリガー用無線機は、車両に搭載され、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する。携帯トリガー用無線機は、人(7)が携帯可能な携帯機に搭載され、車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を受信する。携帯UWB無線機は、携帯機に搭載され、携帯トリガー用無線機がトリガー信号を受信するとUWB電波を送信する。車載UWB無線機は、車両に3個以上搭載され、携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信する。制御部は、携帯UWB無線機の送信したUWB電波を所定の組み合わせによる複数の車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間から第1の電波到来方向を算出する。また、制御部は、携帯UWB無線機の送信したUWB電波を別の組み合わせによる複数の車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間から第2の電波到来方向を算出する。そして、制御部は、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき携帯機の位置を特定する。
携帯機はスマートフォンである。車載トリガー用無線機および携帯トリガー用無線機はいずれも、ブルーツゥースローエナジー(以下、「BLE」と表記する)による通信を行うBLE無線機であり、トリガー信号としてBLEが用いられる。
さらに、請求項1に係る発明は、複数の車載UWB無線機は、第1局(2a)と第2局(2b)と第3局(2c)とを含んで構成されており、
制御部には、第1局と第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されており、
第3局は、UWB電波を送信し、
第1局と第2局とはそれぞれ、第3局が送信したUWB電波を受信し、
制御部は、第1局と第2局とがそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間に対して電波の伝播速度を乗じた値と、予め記憶されている第1局と第2局との間の距離との比から、携帯機の位置を特定する計算を行う際の補正値を算出する。
請求項2に係る発明は、複数の車載UWB無線機は、第1局と第2局と第3局とを含んで構成されており、
少なくとも第2局は集積回路(以下、「IC」と表記する)および内部時計を有しており、ICには、第1局と第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されており、
第3局は、UWB電波を送信し、
第1局は、第3局が送信したUWB電波を受信すると、UWB電波を送信し、
第2局は、第3局が送信したUWB電波と第1局が送信したUWB電波をそれぞれ受信し、
第2局の有するICは、第3局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻と第1局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻とを差分した時間と、予め記憶されている第1局と第2局との間の距離に基づき、第1局がUWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでの中継処理時間を算出する。
請求項4に係る発明は、複数の車載UWB無線機は、基準局(2d)とサブ局(2e)を含んで構成されており、
基準局とサブ局はそれぞれIC(21)および内部時計(22)を有しており、
基準局とサブ局との距離を双方向通信により計測し、
基準局とサブ局との距離を単方向通信により計測し、
双方向通信により計測した距離と単方向通信により計測した距離との差に基づき、基準局が有する内部時計とサブ局が有する内部時計との時間誤差を算出して補正する。
【0007】
これによれば、車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を携帯トリガー用無線機が受信すると、携帯UWB無線機からUWB電波が送信される。制御部は、携帯UWB無線機が送信して複数の車載UWB無線機が受信したUWB電波のみを用いて複数の車載UWB無線機それぞれに対するUWB電波の電波到来方向の算出を行い、その複数の電波到来方向の交点に基づき携帯機の位置を特定することが可能である。ここで、車載UWB無線機のアンテナ利得による受信電力の低下は、携帯UWB無線機のアンテナ利得による受信電力の低下に比べて非常に小さい。そのため、仮に、携帯UWB無線機が送信するUWB電波の出力と車載UWB無線機が送信するUWB電波の出力とを同一とした場合、車載UWB無線機が受信するUWB電波の受信電力は、携帯UWB無線機が受信するUWB電波の受信電力よりも大きいものとなる。したがって、この車両用通信装置は、車載UWB無線機が受信する高い受信電力のUWB電波のみを用いて電波到来方向の算出を行うことで、UWB電波が人体等で遮蔽されることによる通信の不具合を改善し、携帯機の位置を特定可能なエリアを広げることができる。
【0008】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る車両通信装置の概略構成を示す図である。
図2】車両通信装置による携帯機の位置特定処理のフローチャートである。
図3】車両通信装置による携帯機の位置特定処理を説明するための説明図である。
図4】車両通信装置による携帯機の位置特定処理を説明するための説明図である。
図5】人体によるUWB電波の遮蔽効果を測定した実験の条件を示す図である。
図6】人体によるUWB電波の遮蔽効果を測定した実験の結果を示すグラフである。
図7】UWB電波の人体の通過特性を測定した実験の条件を示す図である。
図8】UWB電波の人体の通過特性を測定した実験の結果を示すグラフである。
図9】UWB無線機の無線回線設計において受信電力の差を示した図である。
図10】第2実施形態に係る車両通信装置の概略構成を示す図である。
図11】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理のフローチャートである。
図12】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理の説明図である。
図13】第3実施形態に係る車両通信装置の概略構成を示す図である。
図14】第3実施形態の車両通信装置による携帯機の位置特定処理のフローチャートである。
図15】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理のフローチャートである。
図16】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理の説明図である。
図17】第4実施形態に係る車両通信装置の概略構成を示す図である。
図18A】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理のフローチャートである。
図18B】第4実施形態における携帯機の位置特定処理のフローチャートである。
図19】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理において双方向測距を説明するための説明図である。
図20】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理において双方向測距を説明するための説明図である。
図21】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理において単方向測距を説明するための説明図である。
図22】複数の車載UWB無線機の個体差補正処理において単方向測距を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の車両用通信装置は、ウルトラワイドバンド(以下、「UWB」と表記する)通信を用いて携帯機の位置を特定するためのシステムである。UWB通信とは、広帯域の周波数を使用し、短いパルス状の電波により高精度な位置検出を行うことの可能な無線通信方式である。
【0012】
まず、車両用通信装置の構成について説明する。図1に示すように、車両用通信装置は、車載トリガー用無線機1、車載UWB無線機2、電子制御装置3、携帯トリガー用無線機4および携帯UWB無線機5などを備えている。
車載トリガー用無線機1と車載UWB無線機2と電子制御装置3は、車両6に搭載されている。一方、携帯トリガー用無線機4と携帯UWB無線機5は、人7が携帯することの可能な携帯機8に搭載されている。携帯機8は、例えばスマートフォンである。
【0013】
車両6に搭載される車載トリガー用無線機1は、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信することが可能である。車載トリガー用無線機1は、例えば、車両6のドアが施錠された状態のときにトリガー信号を送信する。
【0014】
一方、携帯機8に搭載される携帯トリガー用無線機4は、車載トリガー用無線機1が送信したトリガー信号を受信することが可能である。本実施形態では、車載トリガー用無線機1および携帯トリガー用無線機4はいずれも、ブルーツゥースローエナジー(以下、「BLE」と表記する)による通信を行うBLE無線機が採用されている。そのため、トリガー信号としてBLEが用いられる。
携帯トリガー用無線機4は、トリガー信号を受信すると、その情報を、同じ携帯機8に搭載されている携帯UWB無線機5に伝送する。携帯UWB無線機5は、携帯トリガー用無線機4からトリガー信号を受信した情報が伝送されると、UWB電波を送信するように構成されている。
【0015】
車載UWB無線機2は、車両6に3個以上搭載される。車載UWB無線機2は、携帯UWB無線機5が送信したUWB電波を受信することが可能である。なお、以下の説明では必要に応じて、図1等に記載された3個の車載UWB無線機2をそれぞれ、第1局2a、第2局2b、第3局2cと呼ぶことがある。すなわち、複数の車載UWB無線機2は、少なくとも第1局2aと第2局2bと第3局2cとを含んで構成されている。なお、図1等では、第1局2aと第2局2bと第3局2cとが直線状に配置されているが、複数の車載UWB無線機2の配置はこれに限らず、鉛直方向から視て互いに離れて配置されていればよい。
【0016】
複数の車載UWB無線機2はそれぞれ集積回路(以下、「IC」と表記する)および内部時計を有しており、UWB電波を受信した電波到来時刻を計測することが可能である。複数の車載UWB無線機2がUWB電波を受信すると、その電波到来時刻に関する情報が信号ケーブル9などを経由して電子制御装置3に伝送される。
【0017】
電子制御装置3は、制御処理や演算処理を行うCPU、プログラムやデータ等を記憶するROM、RAM等の記憶部を含むマイクロコンピュータ、およびその周辺回路で構成されている。電子制御装置3は、記憶部に記憶されたプログラムに基づいて、各種制御処理および演算処理を行い、出力ポートに接続された各機器の作動を制御する。
【0018】
第1実施形態では、電子制御装置3が、特許請求の範囲に記載した「制御部」の一例に相当する。電子制御装置3は、所定の組み合わせによる複数の車載UWB無線機2(例えば第1局2aと第2局2b)がそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間から第1の電波到来方向を算出する。また、電子制御装置3は、別の組み合わせによる複数の車載UWB無線機2(例えば第2局2bと第3局2c)がそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間から第2の電波到来方向を算出する。そして、電子制御装置3は、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき携帯機8の位置を特定することが可能である。
【0019】
また、電子制御装置3は、その特定された携帯機8の位置情報に基づき、車両6の運転席側に携帯機8が存在するか、車両6の助手席側に携帯機8が存在するか、車両6のリヤ側に携帯機8が存在するかを判定する。そして、電子制御装置3は、携帯機8の存在する位置に近いドアのみを開錠することが可能である。
【0020】
次に、車両用通信装置による携帯機8の位置特定処理について、図2のフローチャートなどを参照しつつ説明する。
【0021】
携帯機8の位置特定処理では、ステップS10で、車載トリガー用無線機1が、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する。
次に、ステップS20で、携帯トリガー用無線機4が、車載トリガー用無線機1が送信したトリガー信号を受信する。そして、携帯トリガー用無線機4は、トリガー信号を受信すると、その情報を携帯UWB無線機5に伝送する。
【0022】
続いて、ステップS30で、携帯UWB無線機5は、携帯トリガー用無線機4からトリガー信号を受信した情報が伝送されると、UWB電波を送信する。
次に、ステップS40で、複数の車載UWB無線機2(例えば第1局2a、第2局2b、第3局2c)がUWB電波を受信する。複数の車載UWB無線機2は、UWB電波を受信した電波到来時刻に関する情報を電子制御装置3に伝送する。
【0023】
続いて、ステップS50で、電子制御装置3は、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間を算出する。そして、ステップS60で、電子制御装置3は、その差分した時間から電波到来方向を算出する。このステップS50とステップS60の処理について、図3および図4を参照して説明する。
【0024】
図3に示すように、電子制御装置3は、第1局2aが受信したUWB電波の到来時刻と第2局2bが受信したUWB電波の到来時刻とを差分した時間ΔT1を算出し、その時間ΔT1から、第2局2bに対する電波到来方向を算出する。なお、本実施形態では、第2局2bに対する電波到来方向を、第1の電波到来方向と呼ぶこととする。
【0025】
図3において、携帯UWB無線機5と第1局2aとを結ぶ線分を線分Aとする。携帯機8と第2局2bとを結ぶ線分を線分Bとする。第1局2aと第2局2bを結ぶ線分を線分Cとする。第1局2aから線分Cに対して垂直に引いた線分を線分Dとする。線分Dと線分Bとの交点Eから第2局2bまでの線分を線分Fとする。このとき、線分Fの距離は、第1局2aが受信したUWB電波の到来時刻と第2局2bが受信したUWB電波の到来時刻とを差分した時間ΔT1に対して、電波の伝播速度(以下、「光速」という)を乗じた値に相当する。そのため、線分Bと線分Cとのなす角をθ1とし、線分Cの距離をXとすると、次の式1が成り立つ。
【0026】
cosθ1=(ΔT1×光速)/X ・・・(式1)
この式1から、電子制御装置3は、線分Bと線分Cとのなす角θ1を算出することが可能である。線分Bと線分Cとのなす角θ1は、上述した第1の電波到来方向に相当する。
【0027】
また、図4に示すように、電子制御装置3は、第2局2bが受信したUWB電波の到来時刻と第3局2cが受信したUWB電波の到来時刻とを差分した時間ΔT2を計測し、その時間ΔT2から、第3局2cに対する電波到来方向を算出する。本実施形態では、第3局2cに対する電波到来方向を、第2の電波到来方向と呼ぶこととする。
【0028】
図4において、携帯UWB無線機5と第3局2cとを結ぶ線分を線分Gとする。第2局2bと第3局2cを結ぶ線分を線分Hとする。第2局2bから線分Gに対して垂直に引いた線分を線分Iとする。線分Iと線分Gとの交点Jから第3局2cまでの線分を線分Kとする。このとき、線分Kの距離は、第2局2bが受信したUWB電波の到来時刻と第3局2cが受信したUWB電波の到来時刻とを差分した時間ΔT2に対して光速を乗じた値に相当する。そのため、線分Bと線分Gとのなす角をθ2とし、線分Hの距離をYとすると、次の式2が成り立つ。
【0029】
cosθ2=(ΔT2×光速)/Y ・・・(式2)
この式2から、電子制御装置3は、線分Hと線分Gとのなす角θ2を算出することが可能である。線分Hと線分Gとのなす角θ2は、上述した第2の電波到来方向に相当する。
【0030】
続いて、ステップS70で、電子制御装置3は、複数算出された電波到来方向(例えば、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向)の交点に基づき、携帯UWB無線機5が搭載された携帯機8の位置を特定する。具体的には、図4に示したように、電子制御装置3は、線分Bと線分Gの交点を算出することにより、携帯機8の位置を特定することが可能である。
【0031】
次に、本実施形態の車両用通信装置が、携帯UWB無線機5が送信して複数の車載UWB無線機2が受信したUWB電波のみを用いて携帯機8の位置を特定することの意義について説明する。
【0032】
図5は人体によるUWB電波の遮蔽効果を測定した実験の条件を示す図であり、図6はその実験の結果をグラフに示したものである。
図5に示すように、この実験では、被験者10が着用したズボンの右の尻ポケットに携帯機8を入れ、被験者10から1m離れた場所に受信機11を配置した。そして、被験者10が同じ場所で360°回転しつつ、携帯機8から送信したUWB電波により携帯機8と受信機11との測距値を測定した。
【0033】
図6のグラフに示すように、この実験では、被験者10が受信機11を向いた状態を0°とした場合、被験者10が0°~75°を向いているときに測距ができなかった。このことは、被験者10が0°~75°を向いているときは、携帯機8と受信機11との間に人体が存在するため、UWB電波の遮蔽効果が大きくなったことによるものと考えられる。
【0034】
続いて、図7はUWB電波の人体の通過特性を測定した実験の条件を示す図であり、図8はその実験の結果をグラフに示したものである。
図7に示すように、この実験では、ネットワークアナライザ12を使用し、被験者10が着用したズボンの右の尻ポケットに送信アンテナ13を入れ、被験者10から1m離れた場所に受信アンテナ14を配置した。そして、被験者10が同じ場所で360°回転しつつ、送信アンテナ13と受信アンテナ14との間におけるUWB電波の通過特性を測定した。
【0035】
図8グラフは、受信電力が最小の状態を実線で示し、受信電力が最大の状態を破線で示している。図8のグラフの実線で示されるように、被験者10が受信機11を向いた状態を0°とした場合、被験者10が0°を含み315°~105°を向いているときに、安定して測距できる目安値(例えば-65dB)よりも受信電力が低い値になることがある。このように、UWB電波が人体により遮蔽されることにより、安定して測距できる目安値よりも受信電力が低くなると、安定した測距ができなくなる。この実験結果から、受信電力を例えば10dB上げることにより、人体によるUWB電波遮蔽の影響を回避し、測距が可能になるといえる。
【0036】
上述した実験結果に鑑みて、本実施形態の車両用通信装置は、携帯機8の位置特定処理において、携帯UWB無線機5が送信して複数の車載UWB無線機2が受信したUWB電波のみを用いる方法を採用している。この方法を採用することで、受信電力を上げることができるからである。その理由を、次に説明する。
【0037】
図9は、車載UWB無線機2が送信したUWB電波を携帯UWB無線機5が受信するときの受信電力と、車載UWB無線機2が送信したUWB電波を携帯UWB無線機5が受信するときの受信電力との違いについて示したものである。
【0038】
図9の(A)は、車載UWB無線機2が送信したUWB電波を携帯UWB無線機5が受信するときの受信電力を示している。これに対し、図9の(B)は、携帯UWB無線機5が送信したUWB電波を車載UWB無線機2が受信するときの受信電力を示している。
【0039】
一般に、UWB無線機から送信されるUWB電波の出力は、法規上定められた範囲内のものでなければならない。そのため、図9の(A)において車載UWB無線機2が送信するUWB電波の出力と、図9の(B)において携帯UWB無線機5が送信するUWB電波の出力とは、法規上定められた範囲内(例えば、上限値)で同一のものとする。
【0040】
その場合、図9の(A)に示すように、携帯UWB無線機5の受信電力は、車載UWB無線機2の送信出力から、距離減衰と、人体の電波遮蔽による減衰と、携帯UWB無線機5のアンテナ利得による減衰がされたものとなる。
【0041】
一方、図9の(B)に示すように、車載UWB無線機2の受信電力は、携帯UWB無線機5の送信出力から、人体の電波遮蔽による減衰と、距離減衰と、車載UWB無線機2のアンテナ利得による減衰がされたものとなる。
【0042】
ここで、車載UWB無線機2のアンテナは、携帯UWB無線機5のアンテナよりも大きいものを用いることが可能である。そのため、車載UWB無線機2のアンテナ利得による受信電力の低下は、携帯UWB無線機5のアンテナ利得による受信電力の低下に比べて非常に小さい。図9の(A)、(B)では、車載UWB無線機2のアンテナ利得による受信電力の低下を例えば0dBiとし、携帯UWB無線機5のアンテナ利得による受信電力の低下を例えば10dBiとしている。その場合、図9の(A)に示した車載UWB無線機2が送信して携帯UWB無線機5が受信する受信電力に比べて、図9の(B)に示した携帯UWB無線機5が送信して車載UWB無線機2が受信する受信電力は、例えば10dBi増加したものとなる。このことから、車両用通信装置は、携帯機8の位置特定処理において、携帯UWB無線機5が送信して複数の車載UWB無線機2が受信したUWB電波のみを用いる方法を採用し、受信電力を高くしている。
【0043】
以上説明した本実施形態の車両用通信装置は、次の作用効果を奏するものである。
(1)本実施形態では、携帯UWB無線機5が送信して複数の車載UWB無線機2が受信したUWB電波のみを用いて携帯機8の位置を特定する方法を採用している。したがって、車両用通信装置は、高い受信電力のUWB電波のみを用いて電波到来方向の算出を行うことで、UWB電波が人体等で遮蔽されることによる通信の不具合を改善し、携帯機8の位置を特定可能なエリアを広げることができる。
【0044】
(2)本実施形態では、車載トリガー用無線機1および携帯トリガー用無線機4はいずれも、BLE無線機が採用されている。これによれば、従来のスマートフォンに搭載されているBLEを用いることで、携帯機8に搭載する携帯トリガー用無線機4をリーズナブルに実現することが可能である。また、人体等による遮蔽を受け難い特性を有するBLEをトリガー信号に用いることで、車両6周囲の所定範囲に携帯機8があるときにUWB通信を確実に開始することができる。
【0045】
(3)本実施形態では、電子制御装置3は、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点により特定された携帯機8の位置情報に基づき、車両6の運転席側に携帯機8が存在するか、車両6の助手席側に携帯機8が存在するか、車両6のリヤ側に携帯機8が存在するかを判定する。これによれば、車両6に対する携帯機8の位置を特定することで、携帯機8の存在する位置のドアを開錠し、携帯機8の存在しない場所のドアの開錠を防止することができる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態の車両用通信装置も、第1実施形態と同様に、車載トリガー用無線機1、車載UWB無線機2、電子制御装置3、携帯トリガー用無線機4および携帯UWB無線機5などを備えるものである。そして、第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同様に、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向を算出して携帯機8の位置を特定する。
しかし、車両用通信装置が携帯機8の位置を特定する処理を行う際に、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計同士の同期がとれていないと、携帯機8の位置を高精度に特定することが困難になる。そこで、第2実施形態では、携帯機8の位置を特定する計算を行う際に用いる補正値の算出方法について説明する。
【0047】
図10では、第2実施形態の車両用通信装置が備える構成のうち、3個の車載UWB無線機2、および電子制御装置3のみを図示しており、その他の構成の図示を省略している。第2実施形態の説明でも必要に応じて、図10に記載された3個の車載UWB無線機2をそれぞれ、第1局2a、第2局2b、第3局2cと呼ぶことがある。第2実施形態では、第1局2aと第2局2bと第3局2cは、この順でほぼ直線状に配置されているものとする。複数の車載UWB無線機2はICおよび内部時計を有している。複数の車載UWB無線機2は個体差として、第1局2a、第2局2b、第3局2cそれぞれの有する内部時計の同期が僅かにずれていることがある。また、複数の車載UWB無線機2は個体差として、複数の車載UWB無線機2と電子制御装置3とをそれぞれ接続する信号ケーブル9による遅延時間が僅かに異なっていることがある。そのような課題に鑑みて、以下、複数の車載UWB無線機2の個体差を補正するための処理について説明する。
【0048】
複数の車載UWB無線機2の個体差補正処理を図11のフローチャートと図12の説明図を参照しつつ説明する。なお、図12の横軸は時間軸を表している。
【0049】
個体差補正処理では、ステップS110で、第3局2cがUWB電波を送信する。
次に、ステップS120で、第1局2aと第2局2bとがそれぞれ、第3局2cが送信したUWB電波を受信する。第1局2aと第2局2bはそれぞれ、UWB電波を受信した電波到来時刻に関する情報を電子制御装置3に伝送する。
【0050】
続いて、ステップS130で、電子制御装置3は、第1局2aと第2局2bがそれぞれUWB電波を受信した電波到来時刻に基づき、携帯機8の位置を特定する計算を行う際に用いる補正値を算出する。
具体的には、図12に示すように、電子制御装置3は、第1局2aが受信したUWB電波の電波到来時刻S1と、第2局2bが受信したUWB電波の電波到来時刻S2とを差分した時間ΔT3を算出する。その時間ΔT3に対して光速を乗じた値は、第1局2aと第2局2bとの距離に相当する。ただし、そのように算出された第1局2aと第2局2bとの距離は、第1局2aの有する内部時計と第2局2bの有する内部時計との誤差や、複数の車載UWB無線機2と電子制御装置3とをそれぞれ接続する信号ケーブル9による遅延時間の誤差などを含んでいる。
【0051】
ここで、第2実施形態では、電子制御装置3の有する記憶部に対して第1局2aと第2局2bとの間の正確な距離情報が、例えば製造過程などで予め記憶されているものとする。その予め記憶された第1局2aと第2局2bとの間の正確な距離をXとする。このとき、次の式2が成り立つ。
【0052】
(ΔT3×光速)×補正値=X ・・・(式2)
この式2に基づいて、電子制御装置3は、携帯機8の位置を特定する計算を行う際に用いる補正値を算出することが可能である。この補正値を用いて、第1実施形態で説明した式1を、次の式3に代えることが可能である。
【0053】
cosθ1=(ΔT1×光速×補正値)/X ・・・(式3)
この式3から、電子制御装置3は、第1の電波到来方向(すなわち、図3に示した線分Bと線分Cとのなす角θ1)を精度よく算出することが可能である。
なお、電子制御装置3は、第2の電波到来方向についても、上記と同様の方法で、精度よく算出することが可能である。
【0054】
以上説明した第2実施形態では、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計が同期していない場合や、信号ケーブル9による遅延時間に差がある場合でも、上記の方法で算出した補正値を用いて、携帯機8の位置を高精度に特定することができる。
【0055】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態の車両用通信装置も、第1実施形態等と同様に、車載トリガー用無線機1、車載UWB無線機2、電子制御装置3、携帯トリガー用無線機4および携帯UWB無線機5などを備えるものである。但し、図13では、第3実施形態の車両用通信装置が備える構成のうち、3個の車載UWB無線機2、および電子制御装置3のみを図示しており、その他の構成の図示を省略している。第3実施形態でも、第1局2aと第2局2bと第3局2cは、この順でほぼ直線状に配置されているものとする。
【0056】
第3実施形態では、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向の算出を、電子制御装置3に代えて、複数の車載UWB無線機2のうちいずれかの車載UWB無線機2が有するICで行うようにしている。したがって、第3実施形態では、車載UWB無線機2が有するICが、特許請求の範囲に記載した「制御部」の一例に相当する。
【0057】
第3実施形態の説明では、複数の車載UWB無線機2のうち、第2局2bが有するICにて、携帯機8の位置特定処理が行われるものとして説明する。ただし、携帯機8の位置特定処理は、第2局2bが有するICに限らず、他の車載UWB無線機2が有するICで行われてもよい。
【0058】
携帯機8の位置特定処理を、図14のフローチャートを参照して説明する。なお、図14のフローチャートでは、複数の車載UWB無線機2のうち第1局2a、第2局2b、第3局2cについてのみ記載するが、その他の車載UWB無線機2でも同様の処理が行われる。
【0059】
図14のフローチャートにおいて、ステップS10~ステップS30の処理は、第1実施形態で説明したものと同様であるので、その説明を省略する。
【0060】
第3実施形態では、ステップS41で、複数の車載UWB無線機2(すなわち、第1局2a、第2局2b、第3局2c)はそれぞれ携帯UWB無線機5から送信されたUWB電波を受信する。すると、ステップS42で、第1局2aと第3局2cはそれぞれUWB電波を送信する。
【0061】
ステップS43で、第2局2bは、第1局2aと第3局2cからそれぞれ送信されたUWB電波を受信する。そして、ステップS44で、第2局2bが有するICは、携帯UWB無線機5から送信されて第1局2aが受信したUWB電波の電波到来時刻を、次のように算出する。
【0062】
携帯UWB無線機5から送信されて第1局2aが受信したUWB電波の電波到来時刻をN1とする。携帯UWB無線機5から送信されたUWB電波を第1局2aが受信してから、その第1局2aがUWB電波を送信するまでにかかる時間(以下、中継処理時間という)をΔT4とする。第1局2aが送信したUWB電波が、第1局2aから第2局2bに到達するまでにかかる時間をΔT5とする。第1局2aから送信されたUWB電波を第2局2bが受信した電波到来時刻をN2とする。このとき、次の式4が成り立つ。
【0063】
N1=N2-ΔT5-ΔT4 ・・・(式4)
【0064】
なお、第3実施形態では、第2局2bが有するICに対して第1局2aと第2局2bとの間の正確な距離Xが予め記憶されているものとする。或いは、第1局2aと第2局2bとの間の正確な距離Xの情報が電子制御装置3に予め記憶されており、第2局2bが有するICはその距離Xの情報を電子制御装置3から得ることができるものとする。そのため、第1局2aが送信したUWB電波が、第1局2aから第2局2bに到達するまでにかかる時間ΔT5は、次の式5により求められる。
【0065】
ΔT5=X/光速 ・・・(式5)
第2局2bが有するICは、第1局2aの中継処理時間ΔT4が判れば、携帯UWB無線機5から送信されて第1局2aが受信したUWB電波の電波到来時刻N1を上記の式4と式5に基づいて算出することが可能である。
【0066】
また、第2局2bが有するICは、携帯UWB無線機5から送信されたUWB電波を第3局2cが受信した電波到来時刻についても上記と同様に算出する。
その後、第2局2bが有するICが行う処理については、第1実施形態のステップS50~ステップS70で説明した電子制御装置3が行う処理と同様であるので、説明を省略する。
【0067】
次に、第1局2aの中継処理時間ΔT4を算出する方法について、図15のフローチャートと図16の説明図を参照しつつ説明する。なお、図16の横軸は時間を表している。
【0068】
この中継処理時間の算出方法では、ステップS210で、第3局2cがUWB電波を送信する。
次に、ステップS220で、第3局2cが送信したUWB電波を第2局2bが受信する。そのとき、第2局2bは、その第3局2cが送信したUWB電波を受信した電波到来時刻N3を、第2局2bの有する内部時計により計測し、第2局2bの有するICに記憶する。
【0069】
ステップS230で、第3局2cが送信したUWB電波を第1局2aが受信する。すると、ステップS240で、第1局2aは、UWB電波を送信する。
ステップS250で、第2局2bは、第1局2aから送信されたUWB電波を受信する。すると、第2局2bは、その第2局2bが送信したUWB電波を受信した電波到来時刻N4を、第2局2bの有する内部時計により計測し、第2局2bの有するICに記憶する。
【0070】
ステップS260で、第2局2bの有するICは、第1局2aが送信したUWB電波を受信した電波到来時刻N3と、第3局2cが送信したUWB電波を受信した電波到来時刻N4とを差分した時間ΔT6を算出する。
続いて、ステップS270で、第2局2bの有するICは、第1局2aの中継処理時間ΔT4を算出する。第1局2aの中継処理時間ΔT4は、次の式6により求められる。
【0071】
(ΔT6-ΔT4)×光速=2X ・・・(式6)
第2局2bの有するICは、上記の式6から、第1局2aの中継処理時間ΔT4を算出する。
【0072】
これにより、上述した携帯機8の位置特定処理のステップS44で説明した式4で必要とされた第1局2aの中継処理時間ΔT4が算出される。そのため、第2局2bが有するICは、携帯UWB無線機5から送信されて第1局2aが受信したUWB電波の電波到来時刻N1を、上記の式4と式5に基づいて精度よく算出することが可能である。
【0073】
なお、第2局2bが有するICは、同様の方法により、第3局2cの中継処理時間を算出し、携帯UWB無線機5から送信されて第3局2cが受信したUWB電波の電波到来時刻を算出する。このようにして、第2局2bが有するICは、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向の交点に基づき携帯機8の位置を特定することができる。
【0074】
以上説明した第3実施形態の車両用通信装置は、複数の車載UWB無線機2のうちいずれかの車載UWB無線機2が有するICが、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向を算出する。そのため、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計が同期していない場合でも、携帯機8の位置を高精度に特定することができる。また、複数の車載UWB無線機2と電子制御装置3とをそれぞれ接続する信号ケーブル9の遅延時間の差の影響を受けることなく、携帯機8の位置を高精度に特定することができる。
【0075】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。図17に示すように、第4実施形態の車両用通信装置も、第1実施形態等と同様に、車載トリガー用無線機1、車載UWB無線機2、電子制御装置3、携帯トリガー用無線機4および携帯UWB無線機5などを備えている。複数の車載UWB無線機2および携帯UWB無線機5はそれぞれ送受信機20と共にIC21および内部時計22を有している。そして、第4実施形態においても、上述した第1実施形態と同様に、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向を算出して携帯機8の位置を特定する。しかし、携帯機8の位置を特定する際に、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計22同士の同期がとれていないと、携帯機8の位置を高精度に特定することが困難になる。そこで、第4実施形態では、携帯機8の位置を特定する計算を行う際に、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計22の誤差を補正し、内部時計22を同期する方法について説明する。
【0076】
複数の車載UWB無線機2がそれぞれ有する内部時計22の同期処理について、図18Aのフローチャートと図19図22の説明図を参照しつつ説明する。なお、図19および図21では、第4実施形態の車両用通信装置が備える構成のうち、2個の車載UWB無線機2、および電子制御装置3のみを図示しており、その他の構成の図示を省略している。第4実施形態の説明では必要に応じて、図19および図21に記載された2個の車載UWB無線機2をそれぞれ、基準局2d、サブ局2eと呼ぶことがある。なお、図19および図21では、基準局2dとサブ局2eをそれぞれ1個ずつ示しているが、実際には、複数の車載UWB無線機2がサブ局2eとされる。
【0077】
図18Aのフローチャートに示す内部時計22の同期処理において、ステップS310~ステップS360は、基準局2dとサブ局2eとの間で双方向測距を実行する処理である。一方、ステップS370~ステップS390は、基準局2dとサブ局2eとの間で単方向測距を実行する処理である。
【0078】
双方向測距では、ステップS310で基準局2dがUWB電波を送信する。そして、基準局2dは、そのUWB電波を送信した時刻を、基準局2dの有する内部時計22dにより計測し、基準局2dの有するIC21dに記憶する。
【0079】
次に、ステップS320で、基準局2dが送信したUWB電波をサブ局2eが受信する。すると、ステップS330で、サブ局2eは、UWB電波を送信する。その際、サブ局2eは、基準局2dが送信したUWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでにかかった時間(すなわち、中継処理時間)をサブ局2eが有する内部時計22eにより計測し、その中継処理時間データをサブ局2eが送信するUWB電波に付加する。
【0080】
次に、ステップS340で、基準局2dは、サブ局2eが送信したUWB電波を受信する。上述したように、そのUWB電波には、サブ局2eの中継処理時間データが付加されている。
続いて、ステップS350で基準局2dは、そのUWB電波を受信した時刻を、基準局2dの有する内部時計22dにより計測し、基準局2dの有するIC21dに記憶する。また、基準局2dは、そのUWB電波に付加されているサブ局2eの中継処理時間データも、基準局2dの有するIC21dに記憶する。
【0081】
次に、ステップS360で基準局2dは、基準局2dの有するIC21dに記憶された、UWB電波を送信した時刻、UWB電波を受信した時刻、サブ局2eの中継処理時間に基づき、基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離を、次のように算出する。なお、本明細書において、電波計測距離とは、電波により計測した距離である。
【0082】
図20に示すように、ステップS310で基準局2dがUWB電波を送信した時刻をN10とする。ステップS340で、基準局2dがUWB電波を受信した時刻をN20とする。そのUWB電波に付加されていたサブ局2eの中継処理時間をΔT7とする。基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離をX_two-wayとする。このとき、次の式7が成り立つ。
【0083】
(N20-N10-ΔT7)×光速/2=X_two-way ・・・(式7)
この式7で算出される基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離X_two-wayは、基準局2dとサブ局2eとが車両6に搭載された環境の中で実際にUWB電波が伝播する距離が正確に計測されたものである。
【0084】
続いて、単方向測距では、ステップS370で基準局2dがUWB電波を送信する。その際、基準局2dは、そのUWB電波を送信した時刻を、基準局2dの有する内部時計22dにより計測し、その送信時刻データを基準局2dが送信するUWB電波に付加して送信する。
【0085】
次に、ステップS380で、サブ局2eが、基準局2dが送信したUWB電波を受信する。その際、サブ局2eは、そのUWB電波を受信した時刻を、サブ局2eの有する内部時計22eにより計測し、その受信時刻データをサブ局2eが有するIC21eに記憶する。また、サブ局2eは、UWB電波に付加されていた送信時刻データを、サブ局2eが有するIC21eに記憶する。
【0086】
続いて、ステップS390で、サブ局2eは、サブ局2eの有するIC21eに記憶された、送信時刻データ、受信時刻データに基づき、基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離を、次のように算出する。
具体的に、図22に示すように、ステップS380で基準局2dがUWB電波を送信した時刻をN30とする。ステップS390で、サブ局2eがUWB電波を受信した時刻をN40とする。基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離をX_one-wayとする。このとき、次の式8が成り立つ。
【0087】
(N40-N30)×光速=X_one-way ・・・(式8)
この式8で算出される基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離X_one-wayは、基準局2dとサブ局2eとが車両6に搭載された環境の中でUWB電波が実際に伝播する距離に加えて、基準局2dの内部時計22dとサブ局2eの内部時計22eとの誤差に起因して算出された距離が含まれている。
【0088】
次に、ステップS400で、電子制御装置3は、ステップS360で双方向測距により算出された基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離X_two-wayと、ステップS390で単方向測距により算出された基準局2dとサブ局2eとの電波計測距離X_one-wayとの差(すなわち、距離差ΔX)を算出する。そして、その算出された距離差ΔXを光速で割り算することで、基準局2dの内部時計22dとサブ局2eの内部時計22eとの時間誤差を算出する。
ステップS410で、基準局2dの内部時計22dとサブ局2eの内部時計22eとの時間誤差を補正する。
【0089】
図18BのフローチャートのステップS10~ステップS70は、携帯機8の位置特定処理をあらわしている。このステップS10~ステップS70の処理は、第1実施形態で説明したものと実質的に同一である。ただし、第4実施形態では、上述したステップS410の処理において複数の車載UWB無線機2の内部時計22の誤差を補正し、同期させた上で、ステップS50の処理が行われる。したがって、電子制御装置3は、複数の車載UWB無線機2がそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間を正確に算出することが可能である。その結果、この電子制御装置3は、複数の車載UWB無線機2それぞれに対する電波到来方向を正確に算出し、その交点に基づき携帯機8の位置を正確に求めることが可能である。
【0090】
なお、上述した第4実施形態の説明では、基準局2dとサブ局2eを1個ずつ示したが、実際には、複数の車載UWB無線機2がサブ局2eとされる。その場合、基準局2dとされる車載UWB無線機2は、サブ局2eとされる複数の車載UWB無線機2に対して通信可能な場所に設けられていることが好ましい。これにより、複数のサブ局2eの内部時計22の時間誤差の検出を、最小限の送信回数または短時間で行うことができる。
【0091】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0092】
例えば、上記各実施形態では、携帯機8の位置特定処理において、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向の交点に基づき携帯機8の位置を特定したが、これに限らない。携帯機8の位置特定処理では、複数の電波到来方向を算出すればよく、例えば、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向に加えて、第3の電波到来方向などを算出し、それらの交点に基づいて携帯機8の位置を特定してもよい。
【0093】
例えば、上記第4実施形態では、携帯機8の位置特定処理を電子制御装置3で行うものとして説明したが、これに限らない。携帯機8の位置特定処理は、第3実施形態のように、複数の車載UWB無線機2のうちいずれかの車載UWB無線機2が有するIC21で行ってもよい。
【0094】
(まとめ)
上述の実施形態の一部または全部で示された第1の観点によれば、UWB通信を用いて車両に対する携帯機の位置を特定する車両用通信装置は、車載トリガー用無線機、携帯トリガー用無線機、携帯UWB無線機、車載UWB無線機および制御部を備える。車載トリガー用無線機は、車両に搭載され、UWB通信を開始するためのトリガー信号を送信する。携帯トリガー用無線機は、人が携帯可能な携帯機に搭載され、車載トリガー用無線機が送信したトリガー信号を受信する。携帯UWB無線機は、その携帯機に搭載され、携帯トリガー用無線機がトリガー信号を受信するとUWB電波を送信する。車載UWB無線機は、車両に3個以上搭載され、携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信する。制御部は、携帯UWB無線機の送信したUWB電波を所定の組み合わせによる複数の車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間から第1の電波到来方向を算出する。また、制御部は、携帯UWB無線機の送信したUWB電波を別の組み合わせによる複数の車載UWB無線機がそれぞれ受信した電波到来時刻を差分した時間から第2の電波到来方向を算出する。そして、制御部は、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向との交点に基づき携帯機の位置を特定する。
【0095】
第2の観点によれば、携帯機はスマートフォンである。車載トリガー用無線機および携帯トリガー用無線機はいずれも、BLEよる通信を行うBLE無線機であり、トリガー信号としてBLEが用いられる。
これによれば、従来のスマートフォンに搭載されているBLEを用いることで、携帯機に搭載する携帯トリガー用無線機をリーズナブルに実現することが可能である。また、人体等による遮蔽を受け難い特性を有するBLEをトリガー信号に用いることで、車両周囲の所定範囲に携帯機があるときにUWB通信を確実に開始することができる。
【0096】
第3の観点によれば、制御部は、複数の電波到来方向の交点により特定された携帯機の位置情報に基づき、車両の運転席側に携帯機が存在するか、車両の助手席側に携帯機が存在するか、車両のリヤ側に携帯機が存在するかを判定する。
これによれば、車両に対する携帯機の位置を特定することで、携帯機の存在する位置のドアを開錠し、携帯機の存在しない場所のドアの開錠を防止することができる。
【0097】
第4の観点によれば、複数の車載UWB無線機は、第1局と第2局と第3局とを含んで構成されている。制御部には、第1局と第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されている。そして、第3局は、UWB電波を送信する。第1局と第2局とはそれぞれ、第3局が送信したUWB電波を受信する。制御部は、第1局と第2局とがそれぞれ受信したUWB電波の電波到来時刻を差分した時間に対して電波の伝播速度を乗じた値と、予め記憶されている第1局と第2局との間の距離との比から、携帯機の位置を特定する計算を行う際の補正値を算出する。
これによれば、複数の車載UWB無線機がそれぞれ有している内部時計が同期していない場合や、信号ケーブルによる遅延時間に差がある場合でも、その補正値を用いて携帯機の位置を高精度に特定することができる。
【0098】
第5の観点によれば、複数の車載UWB無線機は、第1局と第2局と第3局とを含んで構成されている。少なくとも第2局は集積回路(以下、「IC」と表記する)および内部時計を有しており、そのICには、第1局と第2局との間の距離に関する情報が予め記憶されている。第3局は、UWB電波を送信する。第1局は、第3局が送信したUWB電波を受信すると、UWB電波を送信する。その第1局がUWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでの時間を中継処理時間と呼ぶ。第2局は、第3局が送信したUWB電波と第1局が送信したUWB電波をそれぞれ受信する。第2局の有するICは、第3局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻と第1局が送信したUWB電波を受信した電波到来時刻とを差分した時間と、予め記憶されている第1局と第2局との間の距離に基づき、第1局の中継処理時間を算出する。
これによれば、複数の車載UWB無線機がそれぞれ有している内部時計が同期していない場合でも、第2局が有するICにより、携帯機の位置を高精度に特定することができる。
なお、第5の観点では、第2局が有するICにより携帯機の位置を特定できるため、信号ケーブルの遅延時間による影響を無くすことができる。
【0099】
第6の観点によれば、複数の車載UWB無線機は、携帯UWB無線機が送信したUWB電波を受信すると、UWB電波を送信する。複数の車載UWB無線機のうちICおよび内部時計を有する車載UWB無線機は、携帯UWB無線機が送信したUWB電波と、他の車載UWB無線機から送信されたUWB電波とを受信する。そして、車載UWB無線機の有するICが、第1の電波到来方向と第2の電波到来方向とを算出して携帯機の位置を特定する制御部として機能するように構成されている。
これによれば、車載UWB無線機が有するICにより携帯機の位置を特定できるため、信号ケーブルの遅延時間による影響を無くすことができる。
【0100】
第7の観点によれば、複数の車載UWB無線機は、基準局とサブ局を含んで構成されている。基準局とサブ局はそれぞれICおよび内部時計を有している。基準局とサブ局との距離を双方向通信により計測し、さらに、基準局とサブ局との距離を単方向通信により計測する。そして、双方向通信により計測した距離と単方向通信により計測した距離との差に基づき、基準局が有する内部時計とサブ局が有する内部時計との時間誤差を算出して補正する。
これによれば、双方向通信による測距値は、基準局の内部時計とサブ局の内部時計との誤差の影響を受けることのない、車載環境下における正確な電波伝播距離となる。一方、単方向通信による測距値は、電波伝播距離に対し、基準局の内部時計とサブ局の内部時計との誤差に対応した距離を含むものとなる。そのため、双方向通信により算出した距離と、単方向通信により算出した距離との差が、基準局の内部時計とサブ局の内部時計との誤差に対応する距離となる。その結果に基づき、基準局の内部時計とサブ局の内部時計とを同期させることで、携帯機の位置を高精度に特定することができる。
【0101】
第8の観点によれば、双方向通信による基準局とサブ局の距離の算出は次のとおりである。まず、基準局が、UWB電波を送信し、そのUWB電波の送信時刻を記憶する。基準局が送信したUWB電波を受信したサブ局は、UWB電波を受信してからUWB電波を送信するまでの中継処理時間データを付加してUWB電波を送信する。サブ局が送信したUWB電波を受信した基準局は、そのUWB電波の電波到来時刻と、そのUWB電波に付加されている中継処理時間データとを記憶する。そして、基準局がUWB電波を送信した送信時刻から、サブ局が送信したUWB電波を基準局が受信した電波到来時刻までの時間から、中継処理時間データを引いた時間に基づき基準局とサブ局との距離を算出する。
一方、単方向通信による基準局とサブ局の距離の算出は次のとおりである。まず、基準局が、送信時刻データを付加してUWB電波を送信する。基準局が送信したUWB電波を受信したサブ局は、そのUWB電波を受信した電波到来時刻と、そのUWB電波に付加されている送信時刻データとを記憶する。そして、基準局がUWB電波を送信した送信時刻から、そのUWB電波をサブ局が受信した電波到来時刻までの時間に基づき基準局とサブ局との距離を算出する。
これによれば、双方向測距による基準局とサブ局の距離の算出方法と、単方向測距による基準局とサブ局の距離の算出方法が具体的に示される。
【0102】
第9の観点によれば、複数の車載UWB無線機のうち、基準局とされる車載UWB無線機は、サブ局とされる複数の車載UWB無線機に対して通信可能な場所に設けられている。
これによれば、複数の車載UWB無線機の有する内部時計の時間誤差の検出を、最小限の送信回数または短時間で行うことができる。
【符号の説明】
【0103】
1 車載トリガー用無線機
2 車載UWB無線機
3 電子制御装置
4 携帯トリガー用無線機
5 携帯UWB無線機
6 車両
7 人
8 携帯機
21 IC
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図18A
図18B
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