(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】橋梁の管理方法および橋梁の管理装置
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20240717BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240717BHJP
G06Q 50/26 20240101ALI20240717BHJP
G06F 17/18 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
E01D22/00 Z
G06Q50/08
G06Q50/26
G06F17/18 Z
(21)【出願番号】P 2024027586
(22)【出願日】2024-02-27
【審査請求日】2024-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】塩永 亮介
(72)【発明者】
【氏名】廣井 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳一
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-139237(JP,A)
【文献】特開2006-090118(JP,A)
【文献】特開2021-184202(JP,A)
【文献】特開2019-207462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 22/00
G06Q 50/08
G06Q 50/26
G06F 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する群化工程と、
橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかに関連する指標であって前記橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、前記群に含まれる前記複数の橋梁について推定する推定工程と、
前記推定工程による前記優先度合の推定値に基づいて、前記群に含まれる前記複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する抽出工程と、
前記サンプル橋梁の
たわみおよびひずみのうち少なくともいずれかを実測する実測工程と、
前記サンプル橋梁に対する措置を決定する第1決定工程と、
前記群に含まれる前記複数の橋梁のうち前記サンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置を決定する第2決定工程と、
を含
み、
前記推定工程では、前記橋梁に関する複数の要素の評価値を重み付け加算することによって前記優先度合が推定され、
前記複数の要素は、橋梁の健全度、橋梁の諸元、橋梁の構造形式、橋梁の材質、橋歴、および、橋梁の定期点検の結果のうちの少なくとも1つを含み、
前記第1決定工程では、
前記実測工程による実測値と、予め設定された第1閾値とが比較され、
前記実測値が前記第1閾値以上であると判定された場合、前記サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置が決定され、
前記第2決定工程では、
前記実測値と前記第1閾値との差分に基づいて、前記第1閾値に対応する前記優先度合の推定値である境界値が特定され、
前記他の橋梁のうち前記優先度合の推定値が前記境界値以上の橋梁に対して、前記補修または補強の措置が決定される、橋梁の管理方法。
【請求項2】
前記類似環境は、同一地区、同一路線、および、同一河川のうち少なくともいずれかを含む、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項3】
前記推定工程では、前記優先度合の推定値と、前記複数の橋梁のうちの前記優先度合の推定値に対応する橋梁の数とを関連付けた分布が推定される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項4】
前記抽出工程では、前記複数の橋梁のうち前記優先度合の推定値が最大値となる橋梁が、前記サンプル橋梁として抽出される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項5】
前記抽出工程では、前記複数の橋梁のうち前記優先度合の推定値が中央値となる橋梁が、前記サンプル橋梁として抽出される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項6】
前記実測工程では、前記サンプル橋梁に対して試験荷重を載荷する載荷試験が行われ
る、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項7】
前記第1決定工程では、
前記実測値が前記第1閾値未満であると判定された場合、前記サンプル橋梁に対して、所定のセンサまたは撮像装置によるモニタリングの措置が決定される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項8】
前記第2決定工程では、
前記他の橋梁のうち前記優先度合の推定値が前記境界値未満の橋梁に対して
、モニタリングの措置が決定される、請求項
1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項9】
前記第1決定工程および前記第2決定工程により決定された措置を実行する順序を決定する順序工程をさらに含み、
前記順序工程では、前記推定工程による前記優先度合の推定値が大きい橋梁に対する措置を優先する順序が決定される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項10】
前記群化工程では、
類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の主群に群化することが行われ、
前記主群に含まれる前記複数の橋梁とは異なる複数の橋梁であって、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群であって、前記主群とは異なる副群に群化することが行われ、
前記推定工程では、
前記主群に含まれる前記複数の橋梁について前記優先度合が推定され、
前記副群に含まれる前記複数の橋梁について前記優先度合が推定され、
前記抽出工程では、前記主群についての前記優先度合の推定値に基づいて、前記主群に含まれる前記複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁が抽出され、
前記実測工程では、前記主群についての前記サンプル橋梁の
たわみおよびひずみのうち少なくともいずれかが実測され、
前記第1決定工程では、
前記実測工程による実測値と前記第1閾値とが比較され、
前記実測値が前記第1閾値以上であると判定された場合、前記主群についての前記サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置が決定され、
前記第2決定工程では、
前記実測値と前記第1閾値との差分に基づいて前記境界値が特定され、
前記主群に含まれる前記複数の橋梁のうち前記サンプル橋梁を除く他の橋梁のうち前記優先度合の推定値が前記境界値以上の橋梁に対して、前記補修または補強の措置が決定され、
前記境界値と同じ値の前記優先度合の推定値が、副群境界値として特定され、
前記副群に含まれる前記複数の橋梁のうち前記優先度合の推定値が前記副群境界値以上の橋梁に対して、前記補修または補強の措置が推定される、請求項1に記載の橋梁の管理方法。
【請求項11】
橋梁を管理する処理を行う演算装置を備え、
前記演算装置は、
類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化
する処理と、
橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかに関連する指標であって前記橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、前記群に含まれる前記複数の橋梁について推定
する処理と、
前記優先度合の推定値に基づいて、前記群に含まれる前記複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出
する処理と、
前記サンプル橋梁の
たわみおよびひずみのうち少なくともいずれかの実測値
と、予め設定された第1閾値とを比較する処理と、
前記実測値が前記第1閾値以上であると判定された場合、前記サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置を決定する処理と、
前記実測値と前記第1閾値との差分に基づいて、前記第1閾値に対応する前記優先度合の推定値である境界値を特定する処理と、
前記群に含まれる前記複数の橋梁のうち前記サンプル橋梁を除く他の橋梁のうち前記優先度合の推定値が前記境界値以上の橋梁に対して、前記補修または補強の措置を決定する処理と、
を実行し、
前記優先度合を推定する処理では、前記橋梁に関する複数の要素の評価値を重み付け加算することによって前記優先度合を推定し、
前記複数の要素は、橋梁の健全度、橋梁の諸元、橋梁の構造形式、橋梁の材質、橋歴、および、橋梁の定期点検の結果のうちの少なくとも1つを含む、橋梁の管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、橋梁の管理方法および橋梁の管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、橋梁を管理するための管理システムが開示されている。かかる特許文献1では、各橋梁に対応する特定情報毎に、対応する重要度情報および損傷度情報に基づいて、対応する橋梁の補修を実行する優先度が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、橋梁の管理者が管理する橋梁は、非常に多数あり、全ての橋梁に対して個々に補修等の措置を決定するとなると、多大な労力、時間およびコストが必要となってしまう。このため、複数の橋梁に対する措置を容易に決定できるようになることが望まれている。
【0005】
本開示は、複数の橋梁に対する措置を容易に決定することが可能な橋梁の管理方法および橋梁の管理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る橋梁の管理方法は、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する群化工程と、橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかに関連する指標であって橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、群に含まれる複数の橋梁について推定する推定工程と、推定工程による優先度合の推定値に基づいて、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する抽出工程と、サンプル橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかを実測する実測工程と、サンプル橋梁に対する措置を決定する第1決定工程と、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置を決定する第2決定工程と、を含み、推定工程では、橋梁に関する複数の要素の評価値を重み付け加算することによって優先度合が推定され、複数の要素は、橋梁の健全度、橋梁の諸元、橋梁の構造形式、橋梁の材質、橋歴、および、橋梁の定期点検の結果のうちの少なくとも1つを含み、第1決定工程では、実測工程による実測値と、予め設定された第1閾値とが比較され、実測値が第1閾値以上であると判定された場合、サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置が決定され、第2決定工程では、実測値と第1閾値との差分に基づいて、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値が特定され、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。
【0007】
また、類似環境は、同一地区、同一路線、および、同一河川のうち少なくともいずれかを含むようにしてもよい。
【0010】
また、推定工程では、優先度合の推定値と、複数の橋梁のうちの優先度合の推定値に対応する橋梁の数とを関連付けた分布が推定されるようにしてもよい。
【0011】
また、抽出工程では、複数の橋梁のうち優先度合の推定値が最大値となる橋梁が、サンプル橋梁として抽出されるようにしてもよい。
【0012】
また、抽出工程では、複数の橋梁のうち優先度合の推定値が中央値となる橋梁が、サンプル橋梁として抽出されるようにしてもよい。
【0013】
また、実測工程では、サンプル橋梁に対して試験荷重を載荷する載荷試験が行われるようにしてもよい。
【0014】
また、第1決定工程では、実測値が第1閾値未満であると判定された場合、サンプル橋梁に対して、所定のセンサまたは撮像装置によるモニタリングの措置が決定されるようにしてもよい。
【0015】
また、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が決定されるようにしてもよい。
【0016】
また、橋梁の管理方法は、第1決定工程および第2決定工程により決定された措置を実行する順序を決定する順序工程をさらに含み、順序工程では、推定工程による優先度合の推定値が大きい橋梁に対する措置を優先する順序が決定されるようにしてもよい。
【0017】
また、群化工程では、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の主群に群化することが行われ、主群に含まれる複数の橋梁とは異なる複数の橋梁であって、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群であって、主群とは異なる副群に群化することが行われ、推定工程では、主群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定され、副群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定され、抽出工程では、主群についての優先度合の推定値に基づいて、主群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁が抽出され、実測工程では、主群についてのサンプル橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかが実測され、第1決定工程では、実測工程による実測値と第1閾値とが比較され、実測値が第1閾値以上であると判定された場合、主群についてのサンプル橋梁に対して、補修または補強の措置が決定され、第2決定工程では、実測値と第1閾値との差分に基づいて境界値が特定され、主群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定され、境界値と同じ値の優先度合の推定値が、副群境界値として特定され、副群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が副群境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が推定されるようにしてもよい。
【0018】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る橋梁の管理装置は、橋梁を管理する処理を行う演算装置を備え、演算装置は、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する処理と、橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかに関連する指標であって橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、群に含まれる複数の橋梁について推定する処理と、優先度合の推定値に基づいて、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する処理と、サンプル橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかの実測値と、予め設定された第1閾値とを比較する処理と、実測値が第1閾値以上であると判定された場合、サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置を決定する処理と、実測値と第1閾値との差分に基づいて、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値を特定する処理と、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置を決定する処理と、を実行し、優先度合を推定する処理では、橋梁に関する複数の要素の評価値を重み付け加算することによって優先度合を推定し、複数の要素は、橋梁の健全度、橋梁の諸元、橋梁の構造形式、橋梁の材質、橋歴、および、橋梁の定期点検の結果のうちの少なくとも1つを含む。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、複数の橋梁に対する措置を容易に決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る橋梁の管理方法の流れを説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、優先度合の推定値と橋梁の数とが関連付けられた分布の一例を示す。
【
図3】
図3は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の他の例を説明する図である。
【
図5】
図5は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の他の例を説明する図である。
【
図6】
図6は、橋梁の管理方法の変形例を説明する図である。
【
図7】
図7は、橋梁の管理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(橋梁の管理方法)
図1は、本実施形態に係る橋梁の管理方法の流れを説明するフローチャートである。
図1で示すように、本実施形態の橋梁の管理方法は、群化工程(S10)、推定工程(S11)、抽出工程(S12)、実測工程(S13)、第1決定工程(S14)、第2決定工程(S15)および順序工程(S16)を含む。
【0023】
本実施形態の橋梁の管理方法では、基本的には、人が各工程を行う。しかし、各工程のうちの少なくとも一部が、コンピュータなどの機械によって行われてもよい。また、各工程を行う人は、例えば、橋梁の管理者であるが、橋梁の管理者に限らず、例えば、橋梁の管理者に管理を委託された第三者など、橋梁の現実の運用状況に応じた任意の人であってもよい。また、各工程に亘って同一の人が行う態様に限らず、少なくとも一部の工程を他の人が行うことで、結果として、本実施形態の橋梁の管理方法が実現されてもよい。以下、説明の便宜のため、橋梁の管理者が各工程を行うものとして説明する。
【0024】
まず、本実施形態の橋梁の管理方法の概要を説明する。まず、管理者は、複数の橋梁を群に群化し、後述する特定の指標を推定し、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つの橋梁を抽出する。以後、抽出される橋梁を、サンプル橋梁という場合がある。つまり、複数の橋梁を含む群は、サンプル橋梁が抽出される母集団に相当する。管理者は、サンプル橋梁に対して実測を行い、サンプル橋梁に対する管理措置を決定する。管理者は、推定した特定の指標、および、サンプル橋梁に対する管理措置に基づいて、サンプル橋梁を除く他の橋梁の管理措置を決定する。このように、本実施形態の橋梁の管理方法では、複数の橋梁に対する管理措置が決定される。以下、各工程について詳述する。
【0025】
(群化工程(S10))
群化工程において、管理者は、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する。類似環境は、同一地区、同一路線、および、同一河川のうち少なくともいずれかを含む。類似環境では、橋梁の周辺の自然環境や、橋梁の通行車両による橋梁への人為的負荷が類似すると想定される。
【0026】
例えば、管理者は、管理エリアのうち、特定の町や村に設置されている複数の橋梁を1つの群に群化してもよい。また、管理者は、管理エリアのうち、管理エリアに存在する国道や県道などの特定の路線に設置されている複数の橋梁を1つの群に群化してもよい。また、管理者は、管理エリアのうち、管理エリアに存在する特定の河川に設置されている複数の橋梁を1つの群に群化してもよい。また、同一地区、同一路線、および、同一河川のうちいずれか1つの条件のみにより群化する態様に限らず、いずれか2つ以上の条件を満たすように群化されてもよい。
【0027】
また、管理者は、同一地区、同一路線、および、同一河川のうち少なくともいずれかの条件の複数の橋梁のうち、同一の健全度の複数の橋梁を、同一の群に群化してもよい。つまり、同一地区、同一路線、および、同一河川の条件に加え、健全度の条件も考慮して群化されてもよい。なお、健全度は、複数段階に区分された橋梁の健全性の各段階を意味し、具体的には、国が公表している点検要領内の健全性の判定区分I~IVを示す。
【0028】
群化した後にサンプル橋梁を抽出することを踏まえると、群化工程において、類似環境に設置されている複数の橋梁を群に含ませることで、群に含まれる複数の橋梁の特性のバラツキを抑制することができる。そうすると、管理者は、適切なサンプル橋梁を抽出することができる。その結果、管理者は、複数の橋梁に対する管理措置を適切に決定することができる。
【0029】
(推定工程(S11))
管理者は、群化工程の次に推定工程を行う。ここで、本実施形態の橋梁の管理方法では、橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である「優先度合」を用いることとする。推定工程において、管理者は、この優先度合を、群に含まれる複数の橋梁について推定する。つまり、推定工程では、群に含まれる複数の橋梁の各々について、橋梁に関連付けられた優先度合の推定値が特定される。
【0030】
優先度合は、橋梁に関する複数の要素のうちいずれか1つ以上の要素に基づいて推定される。橋梁に関する複数の要素は、橋梁の重要度、橋梁の健全度、橋梁の諸元、橋梁の構造形式、橋梁の材質、橋歴、および、橋梁の定期点検の結果を含む。なお、優先度合の推定に利用される橋梁に関する要素は、例示したものに限らず、橋梁に関する任意の要素を含んでもよい。
【0031】
このように、推定工程では、橋梁に関する各種の要素に基づいて優先度合が推定されるため、群に含まれる橋梁ごとに適切な優先度合を推定することができる。
【0032】
優先度合は、より詳細には、以下の式(1)により導出される。
【数1】
【0033】
式(1)中、「K」は、優先度合を示す。「Xm」は、橋梁に関するm個目の要素の評価値を示し、より詳細には、上述で例示した各種の要素を、それぞれ特定の方法で数値化したものである。「Am」は、予め設定された係数を示し、m個目の要素に対応する係数である。係数「Am」は、対応する要素ごとに設定される。「n」は、要素の数を示す。
【0034】
式(1)で示すように、優先度合「K」は、橋梁に関するm個目の要素の評価値「Xm」に係数「Am」を乗算し、それを各要素について行い、各要素についての乗算結果を加算することで得られる。つまり、推定工程では、橋梁に関する複数の要素の評価値を、重み付け加算することによって、優先度合「K」が推定される。
【0035】
このように、推定工程では、橋梁に関する複数の要素の評価値が重み付け加算されて優先度合が推定されるため、各要素の優先度合への寄与度を適切に調整することができ、適切な優先度合を推定することができる。
【0036】
上述のように、推定工程では、群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定される。より詳細には、推定工程では、優先度合の推定値と、複数の橋梁のうちの優先度合の推定値に対応する橋梁の数とを関連付けた分布が推定される。
【0037】
図2は、優先度合の推定値と橋梁の数とが関連付けられた分布の一例を示す。
図2の横軸は、優先度合の推定値を示し、縦軸は、橋梁の数を示す。
【0038】
推定工程では、群に含まれる複数の橋梁が、優先度合の推定値が大きい順あるいは小さい順にソートされる。そして、推定工程では、優先度合の推定値ごとに、当該優先度合の推定値に対応する橋梁の数をヒストグラムのようにカウントすることで、分布が推定される。
【0039】
このように、優先度合の推定値と橋梁の数とが関連付けられた分布が推定されることで、優先度合の推定値のバラツキの程度を直感的に把握することができる。
【0040】
なお、推定工程では、群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定されればよく、優先度合の推定値と橋梁の数とが関連付けられた分布の推定については省略されてもよい。
【0041】
(抽出工程(S12))
管理者は、推定工程の次に抽出工程を行う。抽出工程において、管理者は、推定工程による優先度合の推定値に基づいて、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する。
【0042】
より詳細には、抽出工程において、管理者は、群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が中央値となる橋梁をサンプル橋梁として抽出する。
図2では、優先度合の推定値の中央値を一点鎖線で例示している。
【0043】
なお、優先度合の推定値が中央値となる橋梁が複数ある場合には、優先度合の推定値が中央値となる複数の橋梁のうちの任意の1つの橋梁をサンプル橋梁としてもよいし、優先度合の推定値が中央値となる複数の橋梁の全てをサンプル橋梁としてもよい。
【0044】
後述するが、抽出工程の後に、サンプル橋梁に対する措置が決定され、サンプル橋梁に対する措置に基づいてサンプル橋梁を除くその他の橋梁の措置が決定される。それを踏まえると、優先度合の推定値が中央値となる橋梁をサンプル橋梁とすることで、群における標準的な橋梁をサンプル橋梁として特定することができ、その結果、サンプル橋梁が属する群の複数の橋梁に対して適切な措置を決定することができる。
【0045】
また、抽出工程において、管理者は、複数の橋梁のうち優先度合の推定値が最大値となる橋梁をサンプル橋梁として抽出してもよい。
【0046】
優先度合の推定値が最大値となる橋梁をサンプル橋梁とすることで、サンプル橋梁が属する群の複数の橋梁に対して、より安全側の措置を決定することができる。
【0047】
なお、抽出工程において、管理者は、群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が中央値や最大値となる橋梁をサンプル橋梁として抽出する態様に限らず、群に含まれる複数の橋梁のうち任意の橋梁をサンプル橋梁として抽出してもよい。
【0048】
(実測工程(S13))
管理者は、抽出工程の次に実測工程を行う。実測工程において、管理者は、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性を実測する。
【0049】
より詳細には、実測工程では、サンプル橋梁に対して試験荷重を載荷する載荷試験が行われる。試験荷重としては、例えば、重量が既知の所定の車両を利用してもよい。載荷試験では、サンプル橋梁に試験荷重を載荷したときの、サンプル橋梁のたわみおよびひずみのうち少なくともいずれかが実測される。
【0050】
ここで、載荷試験によって、たわみおよびひずみが大きいほど、補修または補強の必要性が高いと推認される。これを踏まえると、載荷試験により実測されるたわみおよびひずみは、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性の一例である。
【0051】
なお、実測工程では、載荷試験を行う態様に限らず、例えば、サンプル橋梁の一部分をコアサンプリングして、コアサンプリングしたものに対して圧縮強度を実測する圧縮強度試験などの物性試験を行ってもよい。なお、圧縮強度試験の例では、実測される圧縮強度が、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性の一例に相当する。
【0052】
このように、実測工程では、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性が実測されるため、推定工程における優先度合の推定値と実測工程における優先度合に関連する物性値との関連性を把握することが可能となる。
【0053】
また、実測工程では、サンプル橋梁のみの実測が行われるため、群に含まれる全ての橋梁の実測を行う態様と比べ、実測を行う労力、時間およびコスト等を抑制することができる。
【0054】
また、実測工程では、載荷試験が行われるため、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性の一例である、たわみおよびひずみを、非破壊で実測することができる。
【0055】
(第1決定工程(S14))
管理者は、実測工程の次に第1決定工程を行う。第1決定工程において、管理者は、実測工程による実測値に基づいて、サンプル橋梁に対する措置を決定する。
【0056】
第1決定工程では、サンプル橋梁に対する措置が実測値に基づいて決定されるため、サンプル橋梁に対して、現実的な措置を決定することができる。
【0057】
より詳細には、第1決定工程では、実測工程による実測値と、予め設定された第1閾値とが比較される。第1閾値は、実測工程で実測される具体的な物性の種類に応じて適宜設定される。また、第1閾値は、管理者の管理方針などによって任意に設定することができる。例えば、予防的に極力早期に補修または補強を行う事を所望する管理方針であれば、第1閾値を比較的小さい値に設定してもよい。また、例えば、補修または補強の労力を考慮して、補修または補強を行う橋梁を、必要性が高い橋梁に極力絞る管理方針であれば、第1閾値を比較的大きい値に設定してもよい。
【0058】
第1決定工程では、実測値の比較により、実測値が第1閾値以上であると判定された場合、補修または補強の必要性が比較基準値よりも高いと推認されるため、サンプル橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。なお、補修と補強とのうちどちらが決定されてもよい。
【0059】
また、第1決定工程では、実測値の比較により、実測値が第1閾値未満であると判定された場合、サンプル橋梁に対して、所定のセンサまたは撮像装置によるモニタリングの措置が決定される。所定のセンサは、例えば、ひずみゲージや光学センサなど、橋梁の状態を監視可能な任意のセンサであってもよい。また、撮像装置は、例えば、可視光カメラや赤外線カメラなど、橋梁の状態を監視可能な任意の撮像装置であってもよい。
【0060】
このように、第1決定工程では、優先度合に関連する物性の実測値によって、サンプル橋梁に対して、補修または補強を行うか、または、モニタリングを行うかが選定される。これにより、本実施形態の橋梁の管理方法では、サンプル橋梁に対して、適切な措置を決定することができる。
【0061】
なお、ここでは、第1閾値を境にして、補修または補強の措置を行うか、または、モニタリングの措置を行うかが選択されていた。しかし、サンプル橋梁に対する措置として、「補修または補強」や「モニタリング」とは別の措置が決定されるようにしてもよいし、措置の内容がより細かく決定されるようにしてもよい。例えば、モニタリングを行うまでもないような状態では、「経過観察」という措置が行われるようにしてもよい。その場合、第1閾値よりも低い第2閾値が設けられ、実測値が第1閾値未満であり、かつ、第2閾値以上であれば、モニタリングの措置が決定され、実測値が第2閾値未満であれば、経過観察の措置が決定されるようにしてもよい。さらに、後述する第2決定工程において、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値(第1境界値)の特定が行われるが、それと同様にして、当該第2閾値に対応する優先度合の推定値である境界値(第2境界値)の特定が行われ、当該境界値(第2境界値)を境にして、サンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置が決定されるようにしてもよい。
【0062】
(第2決定工程(S15))
管理者は、第1決定工程の次に第2決定工程を行う。第2決定工程において、管理者は、推定工程による優先度合の推定値、および、第1決定工程によるサンプル橋梁に対する措置に基づいて、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置を決定する。以後、説明の便宜のため、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁を、単に「他の橋梁」という場合がある。
【0063】
図3は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の一例を説明する図である。
図4は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の他の例を説明する図である。
図5は、第2決定工程による他の橋梁に対する措置の決定の他の例を説明する図である。
【0064】
第2決定工程では、実測工程による実測値と第1閾値との差分に基づいて、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値が特定される。
図3~
図5では、破線の縦線によって「境界値」が示されている。
【0065】
第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。なお、補修と補強とのうちどちらが決定されてもよい。また、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値未満の橋梁に対して、所定のセンサまたは撮像装置によるモニタリングの措置が決定される。
【0066】
例えば、群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が中央値となる橋梁がサンプル橋梁として抽出され、そのサンプル橋梁について実測工程による実測値が得られたとする。また、サンプル橋梁の実測値は、優先度合に関する物性値を示すため、サンプル橋梁の優先度合の推定値に、実質的に対応すると推認される。
【0067】
そうすると、
図3で示すように、実測工程による実測値と第1閾値との差分がゼロである場合、サンプル橋梁の実測値と第1閾値とが同じであるため、サンプル橋梁の優先度合の推定値が第1閾値に対応する。換言すると、この場合、群に含まれる複数の橋梁の優先度合の推定値のうちの中央値が第1閾値に対応し、当該中央値が境界値に特定されることになる。
【0068】
そして、
図3で示すように、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が中央値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。一方、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値未満の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が中央値未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が決定される。
【0069】
また、
図4では、実測工程による実測値が第1閾値より大きい場合、すなわち、実測値が第1閾値を超過する場合を示している。この場合、実測値と第1閾値との差分、すなわち、第1閾値を基準とした実測値の超過量が、優先度合の推定値の中央値を基準とした優先度合の推定値の低下量に対応する。当該超過量および当該低下量は、当該超過量が多いほど当該低下量も多くなるように対応付けられる。第2決定工程では、例えば、当該超過量と当該低下量とが関連付けられたテーブルが予め準備され、当該テーブルを参照して、当該超過量から当該低下量が推定されてもよい。
【0070】
そうすると、
図4で示すように、優先度合の推定値であって、優先度合の推定値の中央値から当該低下量分だけ小さい値である優先度合の推定値「KL」が、第1閾値に対応し、当該優先度合の推定値「KL」が、境界値として特定されることになる。
【0071】
そして、
図4で示すように、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が優先度合の推定値「KL」以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。一方、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値未満の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が優先度合の推定値「KL」未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が決定される。
【0072】
また、
図5では、実測工程による実測値が第1閾値より小さい場合、すなわち、実測値が第1閾値に未達の場合を示している。この場合、実測値と第1閾値との差分、すなわち、第1閾値を基準とした実測値の未達量が、優先度合の推定値の中央値を基準とした優先度合の推定値の上昇量に対応する。
【0073】
当該未達量および当該上昇量は、当該未達量が多いほど当該上昇量も多くなるように対応付けられる。第2決定工程では、例えば、当該未達量と当該上昇量とが関連付けられたテーブルが予め準備され、当該テーブルを参照して、当該未達量から当該上昇量が推定されてもよい。
【0074】
そうすると、
図5で示すように、優先度合の推定値であって、優先度合の推定値の中央値から当該上昇量分だけ大きい値である優先度合の推定値「KH」が、第1閾値に対応し、当該優先度合の推定値「KH」が、境界値として特定されることになる。
【0075】
そして、
図5で示すように、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値以上の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が優先度合の推定値「KH」以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が決定される。一方、第2決定工程では、他の橋梁のうち優先度合の推定値が境界値未満の橋梁、すなわち、優先度合の推定値が優先度合の推定値「KH」未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が決定される。
【0076】
このように、第2決定工程では、優先度合の推定値およびサンプル橋梁に対する措置に基づいて、他の橋梁に対する措置が決定される。このため、第2決定工程では、他の橋梁に対する実測を行わずに、当該他の橋梁に対する措置を決定することができる。つまり、本実施形態の橋梁の管理方法では、最小限の実測により、群に含まれる複数の橋梁の措置を決定することができ、橋梁の管理の負担を軽減することが可能となる。
【0077】
また、第2決定工程では、実測工程による実測値と第1閾値との差分に基づいて、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値が特定され、境界値により他の橋梁の措置が区分される。これにより、他の橋梁の措置を適切に決定することができる。
【0078】
(順序工程(S16))
管理者は、第2決定工程の次に順序工程を行う。なお、順序工程は、省略されてもよい。
【0079】
管理者は、順序工程において、第1決定工程および第2決定工程により決定された措置を実行する順序を決定する。順序工程では、推定工程による優先度合の推定値が大きい橋梁に対する措置を優先する順序が決定される。具体的には、順序工程では、優先度合の推定値が大きい順に、当該優先度合の推定値に対応する橋梁に対する措置を実行するように措置の実行順序が決定される。
【0080】
これにより、補修または補強の必要性が高いと推認される橋梁を優先して、橋梁に対する措置を実行することができ、社会インフラ的に安全性を向上させることが可能となる。
【0081】
以上のように、本実施形態の橋梁の管理方法では、優先度合の推定値およびサンプル橋梁に対する措置に基づいて、他の橋梁に対する措置が決定される。このため、本実施形態の橋梁の管理方法では、他の橋梁に対する実測を行わずに、当該他の橋梁に対する措置を決定することができる。つまり、本実施形態の橋梁の管理方法では、最小限の実測により、群に含まれる複数の橋梁の措置を決定することができる。
【0082】
したがって、本実施形態の橋梁の管理方法によれば、複数の橋梁に対する措置を容易に決定することが可能となる。その結果、本実施形態の橋梁の管理方法では、橋梁の管理における労力、時間およびコストなどの負担を軽減することが可能となる。
【0083】
(橋梁の管理方法の変形例)
図6は、橋梁の管理方法の変形例を説明する図である。この変形例において、群化工程では、主群と副群との2種類の群の群化が行われる。より詳細には、群化工程では、類似環境(第1の類似環境)に設置されている複数の橋梁を、同一の主群に群化することが行われる。さらに、群化工程では、主群に含まれる複数の橋梁とは異なる複数の橋梁であって、類似環境(第2の類似環境)に設置されている複数の橋梁を、同一の群であって、主群とは異なる副群に群化することが行われる。
【0084】
推定工程では、主群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定される。さらに、推定工程では、副群に含まれる複数の橋梁について優先度合が推定される。
【0085】
抽出工程では、主群についての優先度合の推定値に基づいて、主群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁が抽出される。実測工程では、主群についてのサンプル橋梁の優先度合に関連する物性が実測される。
【0086】
第1決定工程では、実測工程による実測値に基づいて、主群についてのサンプル橋梁に対する措置が決定される。
【0087】
第2決定工程では、主群についての優先度合の推定値、および、主群についてのサンプル橋梁に対する措置に基づいて、主群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置が決定される。
【0088】
さらに、第2決定工程では、副群についての優先度合の推定値、主群についてのサンプル橋梁に対する措置、および、主群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置に基づいて、副群に含まれる複数の橋梁に対する措置が推定される。
【0089】
より詳細には、第2決定工程において、主群のサンプル橋梁についての実測工程による実測値と第1閾値との差分に基づいて、第1閾値に対応する優先度合の推定値である境界値が特定される。副群についての優先度合の推定値のうち、主群において特定された境界値と同じ値の優先度合の推定値が、副群における境界値として特定される。副群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が副群における境界値以上の橋梁に対して、補修または補強の措置が推定される。副群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が副群における境界値未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が推定される。
【0090】
例えば、
図6で示すように、主群のサンプル橋梁の実測値が第1閾値より小さい場合、主群における第1閾値を基準とした実測値の未達量が、主群における優先度合の推定値の中央値を基準とした優先度合の推定値の上昇量に対応する。
【0091】
そうすると、
図6で示すように、主群において、優先度合の推定値の中央値から当該上昇量分だけ大きい値である優先度合の推定値「KH」が、第1閾値に対応し、当該優先度合の推定値「KH」が、境界値として特定されることになる。
【0092】
次に、
図6で示すように、副群についての優先度合の推定値のうち、主群において特定された「KH」と同じ値の優先度合の推定値「KH」が、副群における境界値として特定される。
【0093】
そして、
図6で示すように、副群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が「KH」以上の橋梁に対して、補修又は補強の措置が推定される、一方、副群に含まれる複数の橋梁のうち優先度合の推定値が「KH」未満の橋梁に対して、モニタリングの措置が推定される。
【0094】
このように、この変形例では、主群においてサンプル橋梁の実測が行われるものの、副群では、サンプル橋梁の抽出および実測が行われることなく、副群に含まれる複数の橋梁の措置を推定することができる。このため、この変形例では、より多くの橋梁の措置を、より簡易的に推定することができ、橋梁の管理の負担をより軽減することが可能となる。
【0095】
(橋梁の管理装置)
次に、上記の橋梁の管理方法の各工程を、機械的に実行する変形例を説明する。
図7は、橋梁の管理装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図7で示すように、橋梁の管理装置100は、入出力装置110、記憶装置112および演算装置114を備える。
【0096】
入出力装置110は、管理者などに各種の情報を提示する任意の出力装置を含む。出力装置は、各種の画像および各種の情報を表示する、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置を含んでもよい。また、入出力装置110は、管理者などの入力操作を受け付ける、例えば、キーボードやタッチパネルなどの入力装置を含む。
【0097】
記憶装置112は、例えば、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなど、不揮発性の記憶素子で構成される。記憶装置112には、少なくとも管理エリアに設置されている橋梁に関する各種のデータの集合体を含むデータベース120が記憶されている。
【0098】
演算装置114は、1つまたは複数のプロセッサ130、および、プロセッサ130に接続される1つまたは複数のメモリ132を備える。メモリ132は、プログラム等が格納されたROMおよびワークエリアとしてのRAMを含む。プロセッサ130は、メモリ132に含まれるプログラムと協働して、各種の処理を実行する。プロセッサ130は、プログラムを実行することで、管理処理部140として機能する。
【0099】
管理処理部140は、
図1で示す各工程のうち、群化工程(S10)、推定工程(S11)、抽出工程(S12)、第1決定工程(S14)、第2決定工程(S15)および順序工程(S16)に相当する処理を実行する。なお、
図1の実測工程(S13)については、管理装置100以外の、例えば、人が行ってもよい。管理処理部140は、実測工程(S13)により得られた実測値を利用可能であればよい。
【0100】
より詳細には、管理処理部140は、群化工程において、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する。例えば、管理処理部140は、データベース120に記憶されている橋梁の設置位置の情報を参照して、群化を実行してもよい。
【0101】
管理処理部140は、推定工程において、橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、群に含まれる複数の橋梁について推定する。管理処理部140は、抽出工程において、優先度合の推定値に基づいて、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する。
【0102】
管理処理部140は、第1決定工程において、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性の実測値に基づいて、サンプル橋梁に対する措置を決定する。
【0103】
管理処理部140は、第2決定工程において、前記優先度合の推定値、および、前記サンプル橋梁に対する措置に基づいて、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置を決定する。
【0104】
管理処理部140は、順序工程において、第1決定工程および第2決定工程により決定された措置を実行する順序を決定する。順序工程は省略されてもよい。
【0105】
なお、管理処理部140が実行する各工程の詳細については、上記の橋梁の管理方法についての説明と同様であるため、記載を省略する。
【0106】
以上のように、本実施形態の橋梁の管理装置100では、優先度合の推定値およびサンプル橋梁に対する措置に基づいて、他の橋梁に対する措置が決定される。このため、本実施形態の橋梁の管理装置100では、他の橋梁に対する実測の結果を用いずに、当該他の橋梁に対する措置を決定することができる。つまり、本実施形態の橋梁の管理装置100では、最小限の実測の結果のみで、群に含まれる複数の橋梁の措置を決定することができる。
【0107】
したがって、本実施形態の橋梁の管理装置100によれば、複数の橋梁に対する措置を容易に決定することが可能となる。その結果、本実施形態の橋梁の管理装置100では、橋梁の管理における労力、時間およびコストなどの負担を軽減することが可能となる。
【0108】
なお、橋梁の管理装置100の管理処理部140は、上記の橋梁の管理方法の変形例で示した態様を含む処理を実行してもよい。
【0109】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0110】
100 管理装置
114 演算装置
S10 群化工程
S11 推定工程
S12 抽出工程
S13 実測工程
S14 第1決定工程
S15 第2決定工程
S16 順序工程
【要約】
【課題】複数の橋梁に対する措置を容易に決定する。
【解決手段】橋梁の管理方法は、類似環境に設置されている複数の橋梁を、同一の群に群化する群化工程と、橋梁に対する補修または補強の必要性を示す指標である優先度合を、群に含まれる複数の橋梁について推定する推定工程と、推定工程による優先度合の推定値に基づいて、群に含まれる複数の橋梁の中から少なくとも1つのサンプル橋梁を抽出する抽出工程と、サンプル橋梁の優先度合に関連する物性を実測する実測工程と、実測工程による実測値に基づいて、サンプル橋梁に対する措置を決定する第1決定工程と、推定工程による優先度合の推定値、および、第1決定工程によるサンプル橋梁に対する措置に基づいて、群に含まれる複数の橋梁のうちサンプル橋梁を除く他の橋梁に対する措置を決定する第2決定工程と、を含む。
【選択図】
図1