(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】光硬化性の樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20240717BHJP
C08F 2/46 20060101ALI20240717BHJP
C08F 287/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F2/46
C08F287/00
(21)【出願番号】P 2021536645
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022858
(87)【国際公開番号】W WO2021019920
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019141436
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】愛澤 眸
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/215217(WO,A1)
【文献】特開2009-221329(JP,A)
【文献】特開2015-218200(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105163(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024618(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/027882(WO,A1)
【文献】特開2011-222748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 2/46
C08F 287/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーと、
単官能(メタ)アクリルモノマーと、
第1の光開始剤と、
前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長と異なる吸光スペクトルの極大波長を有する第2の光開始剤と、
蛍光剤と、を含有する光硬化性の樹脂組成物であって、
前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長が、前記蛍光剤の発光スペクトルの波長範囲であって、前記発光スペクトルの極大波長の発光強度に対して10%以上の発光強度を有する波長範囲にあり、
前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることを特徴とする光硬化性の樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1の光開始剤は、前記吸光スペクトルの極大波長が400~500nmの範囲にあり、
前記蛍光剤の前記発光スペクトルの極大波長は、400~500nmの範囲にある
請求項1の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1の光開始剤は、波長365nmにおける吸光度が、前記極大波長における吸光度の10%以下である
請求項1または
2に記載の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長において80%以上である
請求項1~3何れか1項記載の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項5】
前記光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が、±0.006以下である
請求項1~
4何れか1項記載の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン含有量が20質量%以下のスチレン系熱可塑性エラストマーである
請求項1~
5何れか1項記載の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1の光開始剤は、全樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上である
請求項1~
6何れか1項記載の光硬化性の樹脂組成物。
【請求項8】
前記蛍光剤は、全樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上である
請求項1~
7何れか1項記載の光硬化性の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮光部硬化性に優れた光硬化性の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性の樹脂組成物は、光により反応を開始する光開始剤を含んでいる。そして、光開始剤である光ラジカル重合開始剤は、所定の波長の光を当てるとラジカルが発生し、このラジカルによって、光硬化性の樹脂組成物の硬化が進行する。したがって、光が当たらない部分では、光ラジカル重合開始剤からラジカルが発生しないので、光があたる部分に隣接する遮光域において、ラジカルが消滅するまでは硬化は進行する可能性があるものの、光硬化性の樹脂組成物を所望の硬化状態にすることは難しい。
【0003】
光が当たらない部分(以下「遮光部」ともいう)を硬化させる方法として、特開2014-095080号公報(特許文献1)は、光ラジカル開始剤に加えて、熱ラジカル開始剤(例えば、有機過酸化物など)を添加し、さらに加熱工程を行うか、または、光ラジカル反応時に発生する反応熱を利用した熱ラジカル反応を行うことを開示している。しかし、特に加熱工程を行う場合、光硬化性の樹脂組成物が塗布された基材自体が熱で変形するおそれがある。そこで、低温でラジカルを発生する熱ラジカル開始剤を用いた場合、光硬化性の樹脂組成物の保存安定性が悪くなるおそれがあり、逆に保管安定性を維持するために高温でラジカルを発生する熱ラジカル開始剤を用いた場合には、遮光部の硬化に時間がかかってしまう。
【0004】
さらに、光硬化性の樹脂組成物に、湿気反応性基を有する物質を含有させて湿気により硬化を行う方法も考えられる。しかし、湿気反応性基を有する物質は、材料選択の制限があり、加えて、製造時および保存時に硬化してしまうおそれがある。また、光硬化性の樹脂組成物にエポキシ基を有する物質を含有させて光カチオン硬化を行う方法では、硬化時に酸が発生するために、光硬化性の樹脂組成物を塗布する周辺に金属材料が用いられている場合、金属腐食のおそれがある。
【0005】
国際公開第2013/105163号(特許文献2)は、紫外線を吸収して発光する有機化合物(いわゆる、蛍光剤)と光開始剤とを組み合わせて、遮光部において、光学基材と接着可能な紫外線硬化型接着剤を開示している。しかし、紫外線を吸収して発光する有機化合物(いわゆる、蛍光剤)と光開始剤との組み合わせでは、光照射部と遮光部の境から遮光部内に1mm程度しか硬化できない。したがって、この紫外線硬化型接着剤を、例えば、実装基板の部品の防湿絶縁保護に用いた場合、紫外線硬化型接着剤が、不透明基材に実装された部品の下方に塗布されていると、その部品により遮光された部分の紫外線硬化型接着剤は、硬化が不十分になる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-095080号公報
【文献】国際公開第2013/105163号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の光硬化性の樹脂組成物は、未だ、光照射により硬化させる際に、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって進む硬化性が十分ではない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、光照射により硬化させる際に、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって進む硬化性を向上させる光硬化性の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の光硬化性の樹脂組成物は、以下のとおりである。
【0010】
本発明の光硬化性の樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーと、第1の光開始剤と、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長と異なる吸光スペクトルの極大波長を有する第2の光開始剤と、蛍光剤と、を含有する光硬化性の樹脂組成物であって、前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長が、前記蛍光剤の発光スペクトルの波長範囲であって、前記発光スペクトルの極大波長の発光強度に対して10%以上の発光強度を有する波長範囲にあり、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることを特徴とする。前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長を、前記蛍光剤の発光スペクトルの所定強度の波長範囲内とすることで、光照射により、前記樹脂組成物中の蛍光剤が発光し、この発光スペクトルが遮光部に到達すると前記第1の光開始剤が光を吸収してラジカルを生成するため、遮光部内でも前記樹脂組成物の硬化が進行する。また、前記樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを含むが、熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントをミクロ相分離した状態で有する。さらにその硬化体は、熱可塑性エラストマーのハードセグメントとソフトセグメントと単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体とがミクロ相分離した状態を有している。このため、蛍光剤が発光することで生じた光は、前記ミクロ相分離構造に由来する光散乱により、硬化のために照射した光の照射方向に対して水平方向に広がる遮光部位に向かうものと思われる。またさらに、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であることにより、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることにより、蛍光剤が発光することで生じた光は、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、前記樹脂組成物の硬化した部分を透過し、光を当てた部位から遠く離れた前記樹脂組成物の未硬化部分まで到達するので、遮光部における前記樹脂組成物の硬化が進んでいく。その結果、遮光部内で十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。また、前記樹脂組成物が、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーとを含むことにより、防湿性および柔軟性に優れた硬化体が得られる。
【0011】
本発明の他の光硬化性の樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーと、光開始剤と、蛍光剤と、を含有する光硬化性の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることを特徴とする。前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることにより、蛍光剤が発光することで生じた光は、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、前記樹脂組成物の硬化した部分を透過し、光を当てた部位から遠く離れた前記樹脂組成物の未硬化部分まで到達するので、遮光部における前記樹脂組成物の硬化が進んでいく。その結果、遮光部内で十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。また、前記樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを含むが、熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントをミクロ相分離した状態で有する。さらにその硬化体は、熱可塑性エラストマーのハードセグメントとソフトセグメントと単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体とがミクロ相分離した状態を有している。このため、蛍光剤が発光することで生じた光は、前記ミクロ相分離構造に由来する光散乱により、硬化のために照射した光の照射方向に対して水平方向に広がる遮光部位に向かうものと思われる。また、前記樹脂組成物が、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーとを含むことにより、それ以外の組み合わせの樹脂成分の硬化体に比べ、防湿性および柔軟性に優れた硬化体が得られる。
【0012】
前記第1の光開始剤は、前記吸光スペクトルの極大波長が、400~500nmの波長範囲にあり、前記蛍光剤の前記発光スペクトルの極大波長は、400~500nmの波長範囲にあるものとすることができる。これにより、光照射により、前記樹脂組成物中の蛍光剤が発光し、この発光スペクトルが遮光部に到達すると前記第1の光開始剤が光を吸収してラジカルを生成するため、遮光部内でも前記樹脂組成物の硬化が進行する。さらに、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長が400~500nmの波長範囲にあるということは、その近傍である350nm~400nm付近の波長範囲では、極大よりも小さな吸収を備えることが多い。このことにより、樹脂組成物の硬化に波長365nmのLED光源を使用したとき、その光源が発する紫外線を前記第1の光開始剤が吸収することを低減することができる。したがって、蛍光剤の光吸収を妨げず、前記樹脂組成物の遮光部硬化性を高めることができる。
【0013】
前記第1の光開始剤は、波長365nmにおける吸光度が、前記極大波長における吸光度の10%以下であることが特に好ましい。
【0014】
また、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の前記吸光スペクトルの極大波長において80%以上であることが好ましい。前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長における前記光線透過率を80%以上とすれば、遮光部における硬化部分の最大長さを、さらに長くすることができるためである。
【0015】
前記光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が、±0.006以下である。これにより、蛍光剤の発光光は、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、前記樹脂組成物の硬化した部分を透過し、前記樹脂組成物の未硬化部分まで到達することで、遮光部における前記樹脂組成物の硬化が進んでいく。その結果、遮光部内で十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。
【0016】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン含有量が20質量%以下のスチレン系熱可塑性エラストマーである。これにより、スチレン含有量が上記値より大きいスチレン系熱可塑性エラストマーを用いる場合に比べ、柔軟性を高めやすい単官能(メタ)アクリルモノマーと組み合わせたとしても、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率を高めることができる。したがって、蛍光剤の発光光は、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、前記樹脂組成物の硬化した部分を透過し、遮光部における前記樹脂組成物の未硬化部分まで到達することができ、前記樹脂組成物の硬化が進んでいく。その結果、遮光部内で十分な硬化幅を有し、さらに柔軟性に優れた硬化体を得ることができる。
【0017】
前記第1の光開始剤は、全樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上であることにより、上記添加量未満の場合に比べ、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。
【0018】
前記蛍光剤は、全樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることにより、上記添加量未満の場合に比べ、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光硬化性の樹脂組成物は、光照射により硬化させる際に、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって進む硬化性が向上し、遮光部内において、十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。また、本発明の光硬化性の樹脂組成物は、硬化後の硬化体が柔軟で、防湿性および柔軟性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本明細書中の実施例における評価方法の一つであって、遮光部の硬化性を評価するための測定方法を説明する模式断面図である。
【
図2】
図1に説明された測定方法において光照射後に未硬化部分を除去した状態を説明する模式断面図である。
【
図3】本明細書の実施例で用いた光開始剤のカンファーキノン(CQ)の吸光スペクトルおよび蛍光剤のN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)の発光スペクトルを示すグラフである。
【
図4】フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Omnirad 819)、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-フェニル)-ブタン-1-オン(Irgacure 397)、蛍光剤のN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)の吸光スペクトルを示すグラフである。
【
図5】試料1および試料9の硬化物の吸光スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔光硬化性の樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーと、光開始剤と、蛍光剤と、を含有する光硬化性の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることを特徴とする。
【0022】
本発明の他の光硬化性の樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーと、第1の光開始剤と、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長と異なる吸光スペクトルの極大波長を有する第2の光開始剤と、蛍光剤と、を含有する光硬化性の樹脂組成物であって、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長が、前記蛍光剤の発光スペクトルの波長範囲であって、前記発光スペクトルの極大波長の発光強度に対して10%以上の発光強度を有する波長範囲にあり、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることを特徴とする。
【0023】
前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であることにより、蛍光剤の発光光は、光照射部と遮光部との境から遮光部内に向かって、前記樹脂組成物の硬化した部分を透過し、遮光部における前記樹脂組成物の未硬化部分まで到達することができ、それにより、前記樹脂組成物の硬化が進んでいく。その結果、遮光部内で十分な硬化幅を有する硬化体が得られる。また、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満であれば、365nmの光を吸収する蛍光剤および光開始剤または光開始剤の分解物を適正量含むときことを意味する。
【0024】
なお、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長における前記光線透過率の上限は特にないが、例えば99%以下である。また、前記365nmにおける光線透過率の下限も特にないが、例えば0.1%以上である。
【0025】
前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長における前記光線透過率は好ましくは80%以上である。そうすることで、遮光部内での硬化幅をよりいっそう大きくすることができる。また前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長における前記光線透過率は好ましく95%以下である。
【0026】
一方、前記365nmにおける光線透過率は、好ましくは50%以下である。また、前記365nmにおける光線透過率は、好ましくは10%以上である。
【0027】
また、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長を、前記蛍光剤の発光スペクトルの所定強度の波長範囲内とすることで、光照射により、前記樹脂組成物中の蛍光剤が発光し、この発光スペクトルが遮光部に到達すると前記第1の光開始剤が光を吸収してラジカルを生成するため、遮光部内でも前記樹脂組成物の硬化が進行する。
【0028】
また、前記樹脂組成物が、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーとを含むことにより、防湿性および柔軟性に優れた硬化体が得られる。
【0029】
次に、光硬化性の樹脂組成物の含有成分について説明する。
【0030】
<熱可塑性エラストマー>
前記熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル熱可塑性エラストマー、フッ素樹脂系熱可塑性エラストマー、イオン架橋系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。本発明における熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。このような熱可塑性エラストマーは、樹脂組成物中でハードセグメントとソフトセグメントをミクロ相分離した状態で有する。さらにその硬化体は、熱可塑性エラストマーのハードセグメントとソフトセグメントと単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体とがミクロ相分離した状態を有している。このため、蛍光剤が発光することで生じた光は、前記ミクロ相分離構造に由来する光散乱により、硬化のために照射した光の照射方向に対して水平方向に広がる遮光部位に向かうものと思われる。なお、本発明の樹脂組成物については、硬化物を透過型電子顕微鏡(TEM)で分析することで上記ミクロ相分離構造を有することを確認している。
【0031】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、光硬化性の樹脂組成物中では、後述する単官能(メタ)アクリルモノマーに溶解している。また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、前記単官能(メタ)アクリルモノマーに溶解すると共に、硬化体にゴム弾性(柔軟性と伸長性)を付与する成分である。なお、本発明において、溶解している状態は、全体として均一な液状になっている状態であればよく、無色透明であることが好ましいが、白濁やその他の色で濁っていても、所定の透過率を備えていれば良いものとする。
【0032】
スチレン系熱可塑性エラストマー単独では固体のため、常温では接着性を有さないが、前記単官能(メタ)アクリルモノマーに溶解することで、スチレン系熱可塑性エラストマーを光硬化性の樹脂組成物およびその硬化体中に均一に分散させて、密着性を有する光硬化性の樹脂組成物の一成分として含ませることができる。
【0033】
スチレン系熱可塑性エラストマーの添加量は、光硬化性の樹脂組成物の硬化後における硬化体の透明度の観点から、前記熱可塑性エラストマーと前記単官能(メタ)アクリルモノマーの合計質量を100質量部に対して、好ましくは2~60質量部、より好ましくは2~30質量部である。
【0034】
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、およびこれらの変性体が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、光硬化性の樹脂組成物の硬化後における硬化体が上述した範囲の光線透過率と柔軟性を両立する観点から、ソフトセグメントに不飽和結合を有さないSEBS、SEPS、SIBS、SEEPSが好ましい。また、これらは、耐候性に優れるものとなるため好ましい。さらに、SEBSおよびSEPSの中でもソフトセグメントの比率が高いものを使用することで、硬化体の透明性をより高めることができる。
【0036】
さらに、前記熱可塑性エラストマーが、スチレン含有量が20質量%以下のスチレン系熱可塑性エラストマーであることより、スチレン含有量が上記値より大きいスチレン系熱可塑性エラストマーを用いる場合に比べ、比較的広範囲な単官能(メタ)アクリルモノマーとの組み合わせたとしても、前記樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する光線透過率が、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長において60%以上であり、前記光線透過率が365nmにおいて65%未満にすることが容易である。
【0037】
本明細書において、スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、GPC法(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)を用い、かつ、標準ポリスチレンにより測定された校正曲線(検量線)を基に測定した。本発明では、重量平均分子量が20万未満のスチレン系熱可塑性エラストマーを用いることが、塗布に適した粘度に調整しやすいという点で好ましい。
【0038】
<単官能(メタ)アクリルモノマー>
単官能(メタ)アクリルモノマーとしては、単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマー、単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマー、単官能高極性モノマーなどが挙げられる。
【0039】
ここで、「単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマー」は、単官能脂環式アクリル酸エステルモノマーおよび単官能脂環式メタクリル酸エステルモノマーを含む意味である。「単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマー」は、単官能脂肪族アクリル酸エステルモノマーおよび単官能脂肪族メタクリル酸エステルモノマーを含む意味である。さらに、本発明において含んでもよい「単官能高極性モノマー」は、極性基を含む単官能アクリル酸エステルモノマー、メタクリル酸エステルモノマー、または、単官能のアクリルアミド基を有するモノマーを含む意味である。
【0040】
単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマー:
単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、液状組成物であり、熱可塑性エラストマーを溶解する成分である。また、単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーを配合することで、光硬化性の樹脂組成物の硬化後における硬化体の屈折率の値を高く調整することができる。また、硬化体を強靭にしてヤング率を高めることができ、さらに接着力を高めつつ、被着物に対して硬化体を剥したときに糊残りを少なくすることができる。加えて、この成分の割合を多くすると防湿性を高めることができる。
【0041】
単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシルアクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。
【0042】
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマー:
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、液状組成物であり、前述の単官能脂環式(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共に熱可塑性エラストマーを溶解するための成分である。単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーを配合することで、光硬化性の樹脂組成物の硬化後に得られる硬化体の屈折率の値を低く調整することができる。さらに硬化体の柔軟性を高め、ヤング率を下げることができる。
【0043】
単官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、エトキシジエチレングリコールアクリレート、2-エチルヘキシルジグリコールアクリレート、ブトキシエチルアクリレートなどの脂肪族エーテル系(メタ)アクリル酸エステルモノマーや、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソステアリルアクリレート、デシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソノニルアクリレート、n-オクチルアクリレート等の脂肪族炭化水素系(メタ)アクリル酸エステルモノマーが挙げられる。脂肪族炭化水素系(メタ)アクリル酸エステルモノマーを使用することで、熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとの相溶性が高くなり、光硬化性の樹脂組成物の粘度を下げることができる。
【0044】
単官能高極性モノマー:
単官能高極性モノマーは、液状組成物であり単官能高極性モノマーを配合することで、光硬化性の樹脂組成物の硬化後に得られる硬化体の密着性を高めることができる。
【0045】
単官能高極性モノマーとして具体的には、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、グリシジル基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、アクリルアミド基含有モノマー、第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、イミド基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーが挙げられる。光硬化性の樹脂組成物中での保管安定性と密着向上の観点から、アクリルアミド基含有モノマー、第三級アミノ基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー、イミド基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー等の窒素含有モノマーが好ましい。単官能高極性モノマーとして、例えば、アクリロイルモルフォリン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドが、挙げられる。特に、塗布対象がポリイミドである場合には、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドに代表されるイミドアクリレートを用いることが特に好ましい。
【0046】
単官能高極性モノマーは、接着性の観点から、光硬化性の樹脂組成物中0.5質量%~12.75質量%であることが好ましく、2~8.5質量%であることがより好ましい。
【0047】
本発明の光硬化性の樹脂組成物は、さらに、多官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマー、多官能環状(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビスマレイミド等の多官能モノマーを適宜含んでもよい。前記光硬化性の樹脂組成物の硬化後の硬化体の強度および前記光硬化性の樹脂組成物の反応性の観点から、多官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマー、多官能環状(メタ)アクリル酸エステルモノマー、ビスマレイミドの1種以上は、光硬化性の樹脂組成物中、単独又は合計で、0質量%~4.25質量%であることが好ましい。4.25質量%よりも多い場合は、硬化体の残存タックが少ない一方で、硬化体の硬化収縮(反り)や耐屈曲性の悪化の懸念がある。
【0048】
前記多官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、二官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーが挙げられる。前記二官能脂肪族(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。熱可塑性エラストマーのソフトセグメントとの相溶性が比較的高いことから、両末端に反応性基を有する二官能脂肪族炭化水素系ジ(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましい。
【0049】
前記多官能環状(メタ)アクリル酸エステルモノマーとして具体的には、エトキシ化イソシアヌル酸ジ/トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられる。前記多官能環状(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、密着性向上の観点から、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート系(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましい。
【0050】
前記ビスマレイミドとしては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、1,6-ビス(マレイミド)ヘキサン、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンが挙げられる。光硬化性の樹脂組成物の相溶性や光硬化性を阻害しにくい点から、1,6-ビス(マレイミド)ヘキサン、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンなどの脂肪族ビスマレイミドが好ましい。
【0051】
さらに、本発明の光硬化性の樹脂組成物の遮光部における硬化性の向上の観点から、前記光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が、±0.006以下であることが好ましく、±0.002以下であることがより好ましい。
【0052】
<光開始剤>
本発明の光開始剤は、第1の光開始剤と、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長と異なる吸光スペクトルの極大波長を有する第2の光開始剤と、を有する。なお、単に「光開始剤」と表記する場合は、上記第1の光開始剤と第2の光開始剤とを含む全体を示すものとする。
【0053】
《第1の光開始剤》
前記第1の光開始剤は、吸光スペクトルの極大波長を可視光波長(400~800nm)に備え、好ましくは400~500nmに備える。吸光スペクトルは、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、第1の光開始剤が0.01質量%となるように試験用溶液を調整し、光路長1cmのセルを用いて、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製「UV-1600PC」)を用いて、波長300~800nmの前記試験用溶液の23℃における吸光度を測定して得た。なお、前記第1の光開始剤は、吸光スペクトルの極大波長は基底状態S0から励起状態S1へ励起される吸収であり、最も長波長側に現れる吸収帯域における最大の極大を示すものとする。
【0054】
第1の光開始剤としては、可視光波長(400~800nm)においてラジカルを発生しうる観点から、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどのアシルホスフォン系光開始剤、チオキサントン、アントラキノン、2-アミノアントラキノン、カンファーキノン、フェニルグリオキシル酸メチル、1-フェニル-1,2-プロパンジオン等の水素引抜型の光開始剤が挙げられる。但し、本発明では、後述する蛍光剤の発光スペクトルの波長域と少なくとも一部重複する必要がある。本発明では、特に、硬化のための光の波長を365nmとし、発光スペクトルの極大波長が400~500nmにある蛍光剤のN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)を用いる場合、第1の光開始剤としては、
図3に示すように、各波長域が一部重複し、硬化のための光の波長域(LED光源においては例えば365nm)での光の吸収が小さいカンファーキノン(CQ)が好ましい。
【0055】
前記第1の光開始剤は、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性向上の観点から、全樹脂成分100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましい。ここで、「樹脂成分」は、熱可塑性エラストマーと、単官能(メタ)アクリルモノマーとを含む。また、前記第1の光開始剤は、全樹脂成分100質量部に対して1質量部以下であることが好ましい。
【0056】
《第2の光開始剤》
第2の光開始剤は、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルと異なる極大波長を有する。より具体的には、吸光スペクトルの極大波長を400nm未満に備え、紫外線の照射によってラジカルを発生する光開始剤である。吸光スペクトルは、第1の光開始剤と同様の方法で測定した。第2の光開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、チオキサントン系、アセトフェノン系、アシルフォスフィン系、オキシムエステル系、アルキルフェノン系等の光重合開始剤を挙げることができる。第2の光開始剤の添加量は、光が当たる部分の硬化性と光の透過性の観点から、樹脂成分100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましく、0.4~2質量部がより好ましい。
【0057】
<蛍光剤>
本発明に用いる蛍光剤としては、硬化のために照射する光を吸収して、第1の光開始剤が吸収可能な所定の波長で発光可能な材料であればよく、例えば、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、テトラセン誘導体、コロネン誘導体、クリセン誘導体、トリフェニレン誘導体、クマリン誘導体、アゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ポルフィリン誘導体、フルオレン誘導体、フルオレセイン誘導体、アリールアミン誘導体、ルブレン誘導体、キナクリドン誘導体、フタロシアニン誘導体、希土類錯体を含む金属錯体が挙げられる。その中でも、紫外線を吸収し青色発光するものが好ましく、例えば、7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン、9,10-ビス(フェニルエチニル)アントラセン、トリフェニルアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)等が挙げられる。
【0058】
本発明に用いる蛍光剤は、発光スペクトルの極大波長を可視光波長(400~800nm)に備え、好ましくは400~500nmの波長範囲内に備える。発光スペクトルは、溶媒としてアセトニトリルを用い、蛍光剤が0.005質量%となるように試験用溶液を調整し、光路長1cmのセルを用いて、分光蛍光光度計(株式会社島津製作所製「RF-6000」)を用いて、励起波長を352nmとしたときの波長352~800nmの23℃における発光スペクトルを測定して得た。なお、前記蛍光剤の発光スペクトルの極大波長は、発光スペクトル領域内で発光強度の最大の極大の波長を示すものとする。
【0059】
前記蛍光剤は、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性向上の観点から、全樹脂成分100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、一方、0.22質量部以下が好ましく、0.08質量部以下がより好ましく、0.04質量部以下がさらに好ましい。
【0060】
また、硬化のための光の波長域(LED光源においては例えば365nm)の光を吸収する蛍光剤を所定量含むとき、樹脂組成物を硬化させて得られる硬化体の厚み200μmに対する365nmの光線透過率が所定の範囲となる。
【0061】
その他の成分:
本発明の光硬化性の樹脂組成物は、さらに、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の添加剤等のその他の成分を適宜配合することができる。例えば、シリカ、酸化アルミニウム等のチキソ性付与剤、オレフィン系オイル、パラフィン系オイル等の可塑剤、シランカップリング剤や重合禁止剤、消泡剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、充填剤等が挙げられる。
【0062】
上記実施形態は本発明の例示であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、実施形態の変更または公知技術の付加や、組合せ等を行い得るものであり、それらの技術もまた本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0063】
次に実施例(比較例)に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。次の試料1~試料33の光硬化性の樹脂組成物およびその硬化体を作製し、以下に示す評価方法により評価した。なお、各作業や評価については、別段の記載がない限り室温(23℃)で実施した。
【0064】
<試料の作製>
以下に示すように、試料を作製した。
【0065】
試料1:
単官能(メタ)アクリルモノマーとして、ラウリルアクリレート(表中「LA」と略す)とイソボルニルアクリレート(表中「IBXA」と略す)、さらに、2官能脂肪族アクリルモノマーとして1,9-ノナンジオールジアクリレート(表中「NDDA」と略す)を、を準備した。次に、上述のモノマーに、熱可塑性エラストマーとしてSIBS(スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体)(商品名「SIBSTAR 102T」、株式会社カネカ製、スチレン含有量15質量%)を添加して、24時間攪拌することにより、熱可塑性エラストマーを上述のモノマーに溶解した。このときの配合割合は、表1に示すとおりである。そして、上述のモノマーと熱可塑性エラストマーとからなる「樹脂成分」を100質量部としたときに、第2の光開始剤として光ラジカル重合開始剤であるフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品「Ominirad 819」、IGM Resins B.V.製)を表1の添加量で、上記樹脂成分に添加して、試料1の光硬化性の樹脂組成物を得た。
【0066】
得られた試料1の光硬化性の樹脂組成物に後述の条件で紫外線を照射して、試料1の硬化体を形成した。
【0067】
試料2~4:
表1に示すように、熱硬化性エラストマーの種類を、SIBS(スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体)(商品名「SIBSTAR 102T」、株式会社カネカ製、スチレン含有量15質量%)の代わりに、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)(商品名「KRAITON G1645」、Kraton Corpration製、スチレン含有量13質量%)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2063」、株式会社クラレ製、スチレン含有量13質量%)、または何れの熱可塑性エラストマーを含まないように変更した以外は、試料1と同様にして試料2~4の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料2~4の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料1と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料2~4の硬化体を形成した。
【0068】
試料5,6:
表1に示すように、試料1の熱硬化性エラストマーを、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2063」、株式会社クラレ製、スチレン含有量13質量%)に変更し、蛍光剤としてN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(表中「TPD」と略す)を、表2に示す添加量で添加した以外は、試料1と同様にして試料5,6の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料5,6の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料1と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料5,6の硬化体を形成した。
【0069】
試料7:
表2に示すように、試料1の熱硬化性エラストマーを、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2063」、株式会社クラレ製、スチレン含有量13質量%)に変更し、蛍光剤としてN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)を表2に示す添加量で添加し、第2の光開始剤の代わりに第1の光開始剤としてカンファーキノン(表中「CQ」略す)を、それぞれ表2に示す添加量で添加した以外は、試料1と同様にして試料7の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料7の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料1と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料7の硬化体を形成した。
【0070】
試料8:
単官能(メタ)アクリルモノマーとして、ラウリルアクリレートとイソボルニルアクリレート、さらに、2官能脂肪族アクリルモノマーとして1,9-ノナンジオールジアクリレートを、を準備した。次に、上述のモノマーに、熱可塑性エラストマーとしてスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2063」、株式会社クラレ製、スチレン含有量13質量%)を添加して、24時間攪拌することにより、熱可塑性エラストマーを上述のモノマーに溶解した。このときの配合割合は、表2に示すとおりである。そして、上述のモノマーと熱可塑性エラストマーとからなる「樹脂成分」を100質量部としたときに、蛍光剤としてN,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)を表2に示す添加量で添加し、第2の光開始剤として光ラジカル重合開始剤であるフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名「Ominirad 819」、IGM Resins B.V.製)と第1の光開始剤としてカンファーキノン(CQ)とを、それぞれ表2の添加量で、上記樹脂成分に添加して、試料8の光硬化性の樹脂組成物を得た。
【0071】
得られた試料8の光硬化性の樹脂組成物に後述の条件で紫外線を照射して、試料8の硬化体を形成した。
【0072】
試料9~10:
表2に示すように、蛍光剤の添加量を表2に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料9~10の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料9~10の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料9~10の硬化体を形成した。
【0073】
試料11~14:
表3に示すように、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.020質量部に変更し、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を表3に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料11~14の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料11~14の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料11~14の硬化体を形成した。
【0074】
試料15~17:
表4に示すように、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を0.43質量部から0.20質量部に変更し、蛍光剤の添加量を表4に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料15~17の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料15~17の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料15~17の硬化体を形成した。
【0075】
試料18~20:
表4に示すように、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.020質量部に変更し、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を表3に示すとおりに変更し、さらに、カンファーキノンの還元剤として塩基性の三級アミンのメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルを添加し、その添加量を表3に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料18~20の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料18~20の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料18~20の硬化体を形成した。
【0076】
試料21:
表5に示すように、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.040質量部に変更し、第2の光開始剤として光ラジカル重合開始剤であるフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名「Ominirad 819」、IGM Resins B.V.製)を、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-フェニル)-ブタン-1-オン(商品名「Irgacure 397」、BASFジャパン株式会社製)に変更し、その添加量を表5に示すように変更した以外は、試料8と同様にして試料21の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料21の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料21の硬化体を形成した。
【0077】
試料22:
表5に示すように、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.020質量部に変更し、熱可塑性エラストマーのスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2063」、株式会社クラレ製、スチレン含有量13質量%)を、SIBS(スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体)(商品名「SIBSTAR 102T」、株式会社カネカ製、スチレン含有量15質量%)に変更し、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を0.43質量部から0.20質量部に変更した以外は、試料8と同様にして試料22の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料22の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料22の硬化体を形成した。
【0078】
試料23:
表5に示すように、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.020質量部に変更し、熱可塑性エラストマーを添加せず、第2の光開始剤として光ラジカル重合開始剤であるフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名「Ominirad 819」、IGM Resins B.V.製)の添加量を0.43質量部から0.50質量部に変更した以外は、試料8と同様にして試料23の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料23の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料23の硬化体を形成した。
【0079】
試料24、25:
表5に示すように、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を0.43質量部から0.20質量部に変更し、蛍光剤の添加量を0.001質量部から0.040質量部に変更し、さらに、単官能脂肪族アクリルモノマーであるラウリルアクリレートの添加量と、単官能脂環式アクリルモノマーであるイソボルニルアクリレートの添加量を表5に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料24、25の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料24、25の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料24、25の硬化体を形成した。
【0080】
試料26~29:
表6に示すように、熱硬化性エラストマーを、スチレン含有量30質量%のスチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)(商品名「SIBSTAR 103T」、株式会社カネカ製、スチレン含有量30質量%)、スチレン含有量30質量%のスチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(商品名「SEPTON 2002」、株式会社クラレ製、スチレン含有量30質量%)、スチレン含有量40質量%のエポキシ変性-スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)(商品名「AT501」、株式会社ダイセル製、スチレン含有量40質量%)にそれぞれ変更し、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を0.20質量部に変更し、蛍光剤の添加量を0.020質量部に変更し、さらに、単官能脂肪族アクリルモノマーであるラウリルアクリレートの添加量と、単官能脂環式アクリルモノマーであるイソボルニルアクリレートの添加量を表6に示すとおりに変更した以外は、試料8と同様にして試料26~29の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料26~29の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料26~29の硬化体を形成した。
【0081】
試料30:
表6に示すように、第1の光開始剤のカンファーキノン(CQ)の添加量を0.20質量部に変更し、蛍光剤の添加量を0.020質量部に変更し、さらに、第2の光開始剤のフェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(商品名「Ominirad 819」、IGM Resins B.V.製)の添加量を1.00質量部に変更した以外は、試料8と同様にして試料30の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料30の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料30の硬化体を形成した。
【0082】
試料31:
表7に示すように、蛍光剤を添加せず、第1の光開始剤の代わりに過酸化ベンゾイル(表中「BPO」と略す)を0.50質量部添加した以外は、試料8と同様にして試料26の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料31の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料31の硬化体を形成した。
【0083】
試料32~33:
表7に示すように、蛍光剤を添加せず、第1の光開始剤の代わりに、それぞれ、レドックス開始剤として0.50質量部の過酸化ベンゾイル(BPO)と還元剤として0.50質量部の塩基性の三級アミンのメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(表中「DMAEMA」と略す)との組み合わせ、および、レドックス開始剤として0.50質量部の過酸化ベンゾイル(BPO)と還元剤として0.50質量部の光塩基発生剤の1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5,-テトラメチルビグアニジウム・n-ブチルトリフェニルボレート(商品名「WPBG-300」、FUJIFILM Wako Pure Chemical Corporation製)との組み合わせを用いた以外は、試料8と同様にして試料32~33の光硬化性の樹脂組成物を作製した。試料32~33の光硬化性の樹脂組成物ついても、試料8と同様に紫外線を照射して、ポリイミドフィルム上およびポリエチレンテレフタレートフィルム上に、試料32~33の硬化体を形成した。
【0084】
以下に、試料1~33の組成と評価結果を表1~7に示す。評価方法は、後述する。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
ここで、波長589nm、23℃において測定された単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化性分の硬化物の屈折率値と、熱可塑性エラストマーの屈折率値の一例を、以下に示す。なお、「試料3から熱可塑性エラストマーを除いた、単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体」は、表1のラウリルアクリレートとイソボルニルアクリレートと、1,9-ノナンジオールジアクリレートとからなる光硬化成分の硬化体を指す。
試料3から熱可塑性エラストマーを除いた、単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体の屈折率値:1.488(透明)、
試料3の熱可塑性エラストマー(SEPS)を含む硬化体の屈折率値:1.488(透明)、
試料2の熱可塑性エラストマー(SEBS)を含む硬化体の屈折率値:1.489(透明)、
試料1の熱可塑性エラストマー(SIBS)を含む硬化体の屈折率値:1.494(半透明)。
【0093】
なお、実施例で用いた蛍光剤の発光スペクトルの極大波長は410nmであり、極大波長における発光強度の10%となる発光強度の波長は、短波長側で386nm、長波長側で480nmであった。また、光開始剤フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Omnirad 819)の吸光スペクトルの極大波長は370nm、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-フェニル)-ブタン-1-オン(Irgacure 397)の極大波長は330nm、カンファーキノン(CQ)の極大波長は470nmであった。したがって、カンファーキノン(CQ)の極大波長は、前記蛍光剤の発光スペクトルの波長範囲であって、前記発光スペクトルの極大波長の発光強度に対して10%以上の発光強度を有する波長範囲にあった。また、カンファーキノン(CQ)の極大波長は、蛍光剤の発光スペクトルの極大波長よりも長波長であった。
【0094】
<各種試験と評価>
【0095】
硬化前の色:
試料1~33の硬化前における、光硬化性の樹脂組成物の色を目視で、観察した。
【0096】
硬化後の評価は以下のとおりである。
【0097】
(1)硬化性:
(i)表面硬化性:
厚み50μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン製カプトン200H)に、厚みt1が200μmになるように光硬化性の樹脂組成物を塗布し、波長365nmのLEDを使用し、照度200mW/cm2で15秒間紫外線を照射した。照射後の硬化体の表面に別のポリイミドフィルムを、0.98N/cm2(100gf/cm2)で押し当てて、その後剥がした際に、押し当てたポリイミドフィルムの表面に硬化体の一部の付着が見られた場合を「転移あり」とし、目視で別のポリイミドフィルムに付着が略見られなかったものを「転移なし」として、以下の評価を行った。
A:転移なし。
B:転移あり。
【0098】
(ii)遮光部/PI(直後):
図1の断面図に示すように、厚み50μmのポリイミドフィルム10に、厚みt
1が200μmになるように光硬化性組成物20を塗布し、その上にスペーサで200μmの間隔をあけて幅wが10mmの金属テープ30(20μm厚みSK材)を置き、遮光部分を設けた。その後、波長365nmのLEDを使用し、23℃雰囲気中で照度200mW/cm
2で15秒間紫外線50を照射した。この紫外線50の照射において、光照射部と遮光部との境から遮光部に向かって、d方向に硬化反応が進む。照射直後に金属テープおよびスペーサ30を取り外し、
図2に示すように、未硬化の樹脂組成物をふき取った後に、ポリイミドフィルム10に残った硬化体40の、光照射部と遮光部との境から遮光部分に向かって硬化した硬化部分の最大長さLを測定した。硬化部分の最大長さLを基に、下記の基準で評価した。なお、E以上を合格、C以上をより好ましいとした。
A:硬化部分の最大長さLが3.0mm以上。
B:硬化部分の最大長さLが2.5mm以上3.0mm未満。
C:硬化部分の最大長さLが2.0mm以上2.5mm未満。
D:硬化部分の最大長さLが1.5mm以上2.0mm未満。
E:硬化部分の最大長さLが1.0mm以上1.5mm未満。
F:硬化部分の最大長さLが0.5mm以上1.0mm未満。
G:硬化部分の最大長さLが0.5mm未満。
【0099】
(iii)遮光部/PI(1日後):
上記と同様に紫外線照射を行い、室温(約23℃)で1日置いた後に、硬化体40の遮光部分の硬化体の最大長さLを確認した。評価基準は、(ii)の基準と同じである。
【0100】
(iv)遮光部/PET(直後):
厚み50μmのポリイミドフィルムを、厚み100μmの離型層付き透明ポリエステルフィルム(ニッパ製、商品名「PET75-HSPX」)に変更し、紫外線照射直後における、光照射部と遮光部との境から遮光部分に向かって硬化した硬化部分の最大長さLを測定した。評価基準は、(ii)の基準と同じである。
【0101】
(2)耐屈曲性:
厚み50μmのポリイミドフィルムに、厚み200μmになるように光硬化性の樹脂組成物を塗布し、波長365nmのLEDを使用し、照度200mW/cm2で15秒間紫外線を照射した。その後、ポリイミドフィルムを内側にして、R0で180°屈曲させて耐屈曲性を評価した。
A:クラックなし。
B:クラックあり。
【0102】
(3)伸縮性:
厚み100μmの離型層付き透明ポリエステルフィルムに、厚み200μmになるように光硬化性の樹脂組成物を塗布し、波長365nmのLEDを使用し、照度200mW/cm2で15秒間紫外線を照射した。硬化体を透明ポリエステルフィルムから剥がし、厚み200μmの硬化体を幅10mm、長さ20mmに切り出した後、100%伸長させて伸縮性を評価した。10点を行った結果を評価した。
A:伸びる、
B:途中で千切れやすい
【0103】
(4)色:
厚み100μmの離型層付き透明ポリエステルフィルムに、厚み200μmになるように光硬化性の樹脂組成物を塗布し、波長365nmのLEDを使用し、照度200mW/cm2で15秒間紫外線を照射した。硬化体の色を目視で確認した。
【0104】
(5)光線透過率(%):
厚み100μmの離型層付き透明ポリエステルフィルムに、光硬化性の樹脂組成物を塗布し、さらに同じ離型層付き透明ポリエステルフィルムを光硬化性の樹脂組成物の上に配置し、続いて一対の離型層付き透明ポリエステルフィルムに挟まれた前記樹脂組成物の厚みが200μmになるようにして、波長365nmのLEDを使用し、照度200mW/cm2で15秒間紫外線を照射した。硬化体を透明ポリエステルフィルムから剥がし、厚み200μmの硬化体の波長300~800nm、23℃における光線透過率を、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製「UV-1600PC」)により測定した。ここで、「400-800nm平均」は、波長間隔0.05nmで測定した400nm~800nmの透過率の値を相加平均して算出した値である。また、「400-500nm平均」は、波長間隔0.05nmで測定した400nm~500nmの透過率の値を相加平均して算出した値であり、さらに所定波長の光線透過率の値を各表に示した。
【0105】
<試験結果の分析>
試料1~4の結果より、第2の光開始剤が含まれていても、
図3に示すように、光開始剤の吸光スペクトルの極大波長の範囲が、蛍光剤の発光スペクトルの極大波長の発光強度に対して10%以上の発光強度を有する波長範囲となる、蛍光剤のTPDおよび第1の光開始剤のCQの何れも含まない光硬化性の樹脂組成物は、特に「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」の結果を考慮すると、遮光部において所望の硬化性が得られないことが分かった。
【0106】
試料5,6の結果より、第2の光開始剤と蛍光剤が存在しても、吸光スペクトルの極大波長が400~500nmの範囲にある第1の光開始剤のCQを含まない硬化性の樹脂組成物は、依然として、特に「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」の結果を考慮すると、遮光部において所望の硬化性が得られないことが分かった。
【0107】
試料7の結果より、第1の光開始剤が含まれていても、第2の光開始剤を含まない光硬化性の樹脂組成物は、硬化後に硬化体としての特性を満たさないことが分かった。
【0108】
試料8~10の結果より、蛍光剤は所定量含まない場合、特に「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」の結果を考慮すると、光硬化性の樹脂組成物は、遮光部における硬化性が劣ることが分かった。
【0109】
試料11~14の結果より、第2の光開始剤と蛍光剤が存在しても、吸光スペクトルの極大波長が400~500nmである第1の光開始剤のCQの添加量が低すぎると、特に「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」の結果を考慮すると、光硬化性の樹脂組成物は遮光部において所望の硬化性が得られないことが分かった。
【0110】
試料15~17の結果より、蛍光剤が多すぎると、特に「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」の結果から、光硬化性の樹脂組成物の遮光部における硬化性を劣化させるおそれがあることが分かった。
【0111】
試料9,試料11と試料18~20の結果より、第1の光開始剤を還元してラジカルを生成させる三級アミンを添加したが、遮光部の硬化性にあまり差が見られなかった。
【0112】
試料15,21、30の結果より、第2の光開始剤の光ラジカル重合開始剤は、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドの方が、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルホリン-4-フェニル)-ブタン-1-オンより、「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」における、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性に優れることが分かった。さらに、第2の光開始剤の添加量を増やしすぎると、硬化性が悪くなる恐れがあることが分かった。
【0113】
試料11と試料22,23の結果より、光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記樹脂組成物の光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が大きい熱可塑性エラストマーを用いた場合、および、熱可塑性エラストマーを全く含まない場合は、スチレン含有量が20質量%以下の熱可塑性エラストマーを用いた場合に比べ、「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」における、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性がやや悪くなることが分かった。
【0114】
試料9、試料31~33の結果より、試料31のように熱ラジカル反応を適用しても、また、試料32~33のようにレドックス反応を適用しても、蛍光剤および第1の光開始剤を用いた場合に比べ、「遮光部/PI(直後)」および「遮光部/PI(1日後)」における、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性が劣ることが分かった。
【0115】
試料1,22の結果より、光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記樹脂組成物の光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が大きい熱可塑性エラストマーを用いた場合、硬化体の、前記第1の光開始剤の吸光スペクトルの極大波長における光透過率が低く、その結果、光硬化性の樹脂組成物の遮光部の硬化性がやや劣ることが分かった。
【0116】
試料1~4と試料11、22、23の結果より、熱可塑性エラストマーのスチレン相とソフトセグメント相、および単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化物は相分離構造を形成しており、各相の屈折率差により、光の透過しやすさや遮光部への進入のしやすさが変化していると考察される。
【0117】
試料15,24,25の結果より、単官能脂肪族アクリルモノマーと単官能脂環式アクリルモノマーの配合割合を変えることによって、前記光硬化性の樹脂組成物の硬化体の屈折率値と、前記単官能(メタ)アクリルモノマーを含む光硬化成分の硬化体の屈折率値との差が変化するため、200μm厚みにおける光透過率に変化が観察された。なお、熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が20質量%以下の場合は、ポリイミドフィルム上の遮光部の硬化性は、単官能脂環式アクリルモノマーの配合比率が単官能脂肪族アクリルモノマーの配合比率より大きくなると、やや悪くなることが分かった。
【0118】
試料11、22、26~29の結果より、熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が20質量%以下の場合と比較して、スチレン含有量が30%質量の場合は、硬化体の200μm厚みにおける光透過率が低くなりやすい結果となった。なお、熱可塑性エラストマーのスチレン含有量が30質量%以上の場合は、ポリイミドフィルム上の遮光部の硬化性は、単官能脂環式アクリルモノマーの配合比率が単官能脂肪族アクリルモノマーの配合比率より大きくなると、やや良くなることが分かった。
【符号の説明】
【0119】
10 ポリイミドフィルム
20 光硬化性の樹脂組成物
30 スペーサ
40 硬化体
50 紫外線