(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】希釈ポビドンヨード製剤を含む安定した医薬品
(51)【国際特許分類】
A61K 31/79 20060101AFI20240717BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240717BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240717BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240717BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240717BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240717BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240717BHJP
C07J 5/00 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
A61K31/79
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/107
A61P31/00
A61P27/02
C07J5/00
(21)【出願番号】P 2022510812
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 US2020041089
(87)【国際公開番号】W WO2021034421
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2023-04-13
(32)【優先日】2019-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518144573
【氏名又は名称】アイビュー セラピューティクス,インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】5 Cedar Brook Drive, Suite 2, Cranbury, NJ 08512, United States
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】リアン,ボ
(72)【発明者】
【氏名】ザン,ミン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-000698(JP,A)
【文献】米国特許第5178853(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
C07J 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器と、前記容器に収容された水性ポビドンヨード(PVP-I)製剤とを含む医薬品であって、前記容器がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、またはそれらの組み合わせで作られ
たボトルを含み、
前記ボトルは、先端、スポイトまたはキャップに接触しており、前記PVP-I製剤が5%以下の濃度でPVP-Iを含み、1ヶ月後に前記PVP-I製剤の元の利用可能なヨウ素含有量の少なくとも90%が前記製剤に残存し
、前記PVP-I製剤は、安定化剤を含まない、医薬品。
【請求項2】
前記容器は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から作られる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
前記容器は、ポリプロピレン(PP)から作られる、請求項1に記載の医薬品。
【請求項4】
水性PVP-I製剤は、溶液、懸濁液、ペースト、エマルジョン、クリーム、ゲル、もしくは他の液体または半固体の形態である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬品。
【請求項5】
前記PVP-I濃度は、0.1~5.0%(w/wまたはw/v)、0.1~2.5%(w/wまたはw/v)、0.1~1.5%(w/wまたはw/v)、または0.1~1.0%(w/wまたはw/v)の範囲にある請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬品。
【請求項6】
前記PVP-I濃度は、0.1~1.5%(w/wまたはw/v)または0.1~1.0%(w/wまたはw/v)の範囲にある、請求項5に記載の医薬品。
【請求項7】
前記PVP-I濃度は
、0.3%、0.36%、0.48%、0.6%、または1.0%(w/wまたはw/v)である、請求項5に記載の医薬品。
【請求項8】
前記PVP-I製剤は、pH3.5~pH7.0の範囲にあるpH値を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬品。
【請求項9】
前記PVP-I製剤は、緩衝化されているまたは緩衝化されていないのいずれかである、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬品。
【請求項10】
前記容器は、ボトル、先端、またはスポイト、およびキャップをさらに含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬品。
【請求項11】
前記先端もしくはスポイトがHDPEから作られ、または前記キャップがPPから作られる、請求項
10に記載の医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年8月18日に出願された米国出願62/888,523号の優先権を主張し、その内容はその全体が参照をもって本明細書に組み込まれる。
【0002】
ポビドンヨード(PVP-I)は、ヨードフォアとも呼ばれ、ポリビニルピロリドンとヨウ素の複合体で、有効ヨウ素を9~12%含有している。ウイルス、細菌、真菌、およびカビの胞子に効果があり、幅広い用途に使用できる強力な殺菌剤である。PVP-I製品は、その強力な殺菌および抗ウイルス作用により、長年にわたり様々な細菌およびウイルスを不活性化するための消毒剤として使用されてきた。PVP-Iは、眼科および一般外科をはじめ、さまざまな疾患の急性期および慢性期治療で日常的に使用されている。眼科、耳鼻科、および皮膚科におけるさまざまな局所適用において、PVP-Iの安全性を実証する多くの臨床研究が実施されている(例えば、US 5,126,127;US 2014/0219949;Jaya他, Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2003,129:10:1098-240;Rooijackers-Lemmens他, Huisarts Wet. 1995, 28:6:265-71;Rowlands他, Br J Gen Pract. 2001, 51:468:533-38;Kavanagh他, World Articles in Ear Nose & Throat, 27 May 2008;およびUS 2017/0266294を参照)。皮膚への刺激が少なく、毒性が低くおよび効果が持続するため、安全かつ手軽に使用され得る。抗ウイルス活性は、主にPVP-Iから放出される遊離ヨウ素による(例えば、Wada他, Biocontrol Sci. 2016, 21:1:21-7 を参照)。PVP-Iによる殺菌の原理は、主に殺菌効果のある水和ヨウ素を放出することである。ポビドンは親水性であり、ヨウ素を細胞膜まで運び得る。PVP-Iの複合体が細胞壁に着くと、ヨウ素は放出され、細菌がすぐに死ぬように細菌の原形質たんぱく質の活動的な基を同時に変性させ、酸化するために細菌蛋白質のアミノ酸との複合体を形成する。PVP-Iは、抗生物質耐性のない非常に優れた殺菌剤である。一般に、PVP-Iの濃度は0.1%~10%の間である。現在市販されているプラスチックパッケージングの水性PVP-I調製物は、一般にゲル、坐剤、クリーム、および溶液の形態であり、PVP-I濃度は1%~10%の範囲である。
【0003】
PVP-I点眼液は眼感染症の治療に広く用いられているが、5%という濃度は見過ごせない毒性、刺激性を引き起こし得る。Grimesらは、5.0%PVP-Iと同様の殺菌効果を持ち、毒性および刺激性のない0.02%PVP-I点眼液で感染した眼を繰り返し治療した。例えば、S.R. Grimes他, Mil. Med., 1992, 157:111-113を参照。PVP-I点眼液の殺菌効果を維持しつつ、眼に対するその毒性をなくすまたは低減するために、臨床医はPVP-I点眼液の濃度を0.04%にして、毒性を目立たせずに眼の殺菌に使っている。2%(w/w)未満の濃度のPVP-Iは、実際には耐容性があり無毒であることが文献によく記載されている。例えば、NC Santos他 Arq. Bras. Oftalmol., June 2003, 66: 279-298. and J. Wu Jiang他, Cutaneous and Ocular Toxicology, 2009, 28(3): 119-124を参照。1.25%PVP-Iの細菌性、ウイルス性、およびクラミジア性結膜炎の治療を受けた459名の小児を対象としたプラセボ対照試験において、細隙灯検査による毒性の報告はなく、点眼液の不耐性を理由とする試験からの脱落した対象はいなかった。例えば、SJ. Isenberg他 Am J Ophthalmol 2002, 134: 681-68を参照。PVP-I濃度を10%から0.5%に下げると、忍容性が増すように見えるが、抗菌効果は増加する。これは、水溶液中のヨウ素種の平衡分布に起因する。例えば、Gottardi, W. J. Hosp. Infect., 6: (Suppl.) 1985を参照。我々は以前、急性結膜炎の潜在的な治療法として、デキサメタゾン点眼液と組み合わせた低濃度のPVP-Iを報告した。例えば、米国特許第7,767,217 B2号を参照。米国特許第9308173B2号は、PVP-Iを含む徐放性眼用製剤を提供し、PVP-Iは、PVP-Iおよびアルギン酸ナトリウムによって形成され、塩化カルシウムによって硬化されるミクロスフェアとして存在する。また、インサイチュゲル製剤を製造するために、独自のPVP-Iベースの徐放性製品プラットフォームを開発し(米国特許番号2017/0266294および特許WO2019/046844)、PVP-Iの有効濃度は、溶液PVP-Iとゲル結合成分との間の平衡によって維持され、眼および鼻腔において長期的で毒性の少ない薬理学的効果をもたらす。
【0004】
しかし、低濃度では、PVP-Iは急速に分解し、保存中にその濃度を効果的に維持することはできないだろう。希釈PVP-I製品は低温で保管する必要があり、希釈PVP-I溶液の妥当な保存可能期間を維持することは困難であった。
【0005】
米国特許第4,113,857号(Shetty)およびCN1965857号(Jie Zeng,Hong Zhang)に開示されているヨウ素供与種すなわちヨウ素酸塩などの安定剤の添加、ならびに米国特許第4,996,048号(Bhagwatら)に開示されているヨウ化物塩の使用は、軟質プラスチックボトルまたは容器に希釈PVP-I溶液のパッケージングに関する保存可能期間安定性の問題を克服するために使用された。US 4,996,048Aは、ヨードフォア溶液を安定化させながら、パッケージングを介してのヨウ素の浸出を最小にするために、パッケージングに追加量のヨウ化物を導入することを記載した。米国特許第5,178,853号は、ガラスまたはポリエチレンテレフタレート(PET)のボトルとポリプロピレン、ポリエチレンおよび/またはポリテトラフルオロエチレンでコーティングしたブロモブチルゴムのスポイトからなるパッケージングに入った希釈PVP-I溶液の眼科調製物を記載する。安定剤としてヨウ素酸カリウムが配合されていた。この特許では、ガラスボトル、PETボトル、およびポリ塩化ビニル(PVC)ボトルの3種類のボトルが試験された。その結果、ガラスボトルに入れた溶液は室温で2年間安定であることがわかった。PETボトルの溶液は、2年後でも利用可能なヨウ素が約90%あったが、ガラスボトルより安定性が悪く、一方でPVCボトルの溶液は2年後に利用可能なヨウ素が80%減少していた。全体として、ガラスボトルの安定性は最も優れる。したがって、希釈PVP-I溶液の長期の保存可能期間の保存には、ガラスボトルが好ましいパッケージングであることがわかった。希釈0.6%PVP-I/0.1%デキサメタゾン点眼液の先行臨床試験の間、臨床試験材料の保存可能期間の安定性を維持するために、希釈PVP-I/デキサメタゾン懸濁液の容器としてアンバーガラスボトルが使用された。
【0006】
しかし、ガラスボトルの場合、輸送中および患者の使用中に割れる可能性があり、そして患者の目に害を与える可能性があるという問題がある。また、ヨウ素酸カリウムまたはヨウ素酸カリウムなどの安定剤は、安定化された希釈PVP-I溶液が安定剤の添加によって維持されたため、長期間の眼の使用または他の使用(鼻腔内投与など)に対して潜在的な毒性を引き起こし得る。したがって、プラスチックボトルに安定剤を含まない希釈PVP-I溶液の安定性の問題を解決するために、プラスチックボトルに互換性のあるパッケージングを備えた希釈PVP-I製剤を開発することが私たちの目標である。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、特定のプラスチック[ポリエチレンテレフタレート(PET)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)など]でできた容器が、任意の安定剤なしでも希釈PVP-I製剤の安定性が、アンバーガラスボトルよりも著しく優れているという出願人の予想外の発見に基づいている。
【0008】
本明細書で使用される場合、「希釈」PVP-I溶液または製剤は、重量/重量(w/w)または重量/体積(w/v)のいずれかで測定される5%以下の濃度でPVP-Iを含む。
【0009】
本明細書で使用される場合、「利用可能なヨウ素」または「利用可能なヨウ素含有量」という用語は、殺菌作用を発揮するためにPVP-I複合体から放出され得る遊離ヨウ素を指す。
【0010】
本明細書で使用される場合、「容器」という用語は、保存、パッケージング、および輸送に使用される液体製品を保持するための任意の入れ物または筐体を指す。それは、ボトル、缶、瓶、箱、樽、またはバッグの形態であり得る。
【0011】
したがって、本発明は、容器と、容器に収容された希釈水性ポビドンヨード(PVP-I)製剤とを含む医薬品であって、容器がポリエチレンテレフタレート(PET)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、またはそれらの組み合わせで作られ、PVP-I製剤が5%以下の濃度でPVP-Iを含み、1ヶ月後にPVP-I製剤の元の利用可能なヨウ素含有量の少なくとも90%が製剤に残存している、医薬品を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、容器は、ポリエチレンテレフタレート(PET)から作られる。
【0013】
いくつかの他の実施形態では、水性PVP-I製剤は、溶液、水溶液、エマルジョン、クリーム、ゲル、もしくは他の任意の液体または半固体の形態(懸濁液またはペーストなど)である。
【0014】
いくつかの他の実施形態では、PVP-I濃度は、0.1~5.0%(w/wまたはw/v)、0.1~2.5%(w/wまたはw/v)、0.1~1.5%(w/wまたはw/v)、または0.1~1.0%(w/wまたはw/v)の範囲にある、あるいは約0.3%、0.36%、0.48%、0.6%、または1.0%(w/wまたはw/v)の濃度である。
【0015】
いくつかの他の実施形態では、PVP-I製剤は、pH3.5~pH7.0の範囲(例えば、3.5、4.0、4.6、5.0、5.6、6.0、または7.0)のpH値を有する。PVP-I製剤は、緩衝化され得るまたは緩衝化され得ない。
【0016】
いくつかの他の実施形態では、容器は、ボトル、先端、またはスポイト、およびキャップをさらに含む。先端またはスポイトはHDPEから作られ得、一方でキャップはポリプロピレン(PP)または他の材料で作られ得る。
【0017】
本発明における医薬品は、予想外に、アンバーガラスボトルに入った製剤のための安定化剤を必要としない、驚くほど安定なまたは安定化されたPVP-I製剤を提供し、製剤の安定性は、1ヶ月後にPVP-I製剤中の元の利用可能なヨウ素含有量の少なくとも90%、いくつかの場合では3ヶ月後に少なくとも80%が製剤中に残存する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】0.6%PVP-I製剤(pH5.5)のホウケイ酸ガラス(アンバーガラス)、PP、およびPETボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0019】
【
図2】1.0%PVP-I製剤(pH5.5)のホウケイ酸ガラス、PP、およびPETボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0020】
【
図3】0.6%PVP-I製剤(pH5.5)のホウケイ酸ガラス、PP、およびPETボトルにおける5℃での安定性データを示す。
【0021】
【
図4】1.0%PVP-I製剤(pH5.5)のホウケイ酸ガラス、PP、およびPETボトルにおける5℃での安定性データを示す。
【0022】
【
図5】0.6%PVP-I製剤(pH5.5)のホウケイ酸ガラス、PP、およびPETボトルにおける40℃でのストレス研究結果である。
【0023】
【
図6】1.0%PVP-I製剤(pH4.0)のホウケイ酸ガラス、PET、HDPE、およびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0024】
【
図7】1.0%PVP-I製剤(pH4.5)のホウケイ酸ガラス、PET、HDPE、およびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0025】
【
図8】1.0%PVP-I製剤(pH5.6)のホウケイ酸ガラス、PET、HDPE、およびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0026】
【
図9】1.0%PVP-I製剤(pH4.5)のPETおよびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0027】
【
図10】1.0%PVP-I製剤(pH5.0)のPETおよびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【0028】
【
図11】1.0%PVP-I製剤(pH5.6)のPETおよびPPボトルにおける25℃での安定性データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(発明の詳細な説明)
低濃度では、PVP-Iはすぐに分解し、低濃度PVP-I溶液は保存中に効果的に維持され得ない。したがって、希釈PVP-I製品(PVP-I濃度が5%以下、w/wまたはv/w)は、通常、より低い温度で保管する必要がある。それでも、希釈PVP-I溶液の妥当な保存可能期間を維持することは依然として課題である。高密度ポリエチレン(HDPE)などのプラスチックボトルは、PVP-I濃度が例えば5%(重量/体積または重量/重量)を超えるPVP-I溶液のパッケージング容器として使用されている。例えば、10%PVP-I消毒液(Betadine(登録商標))は、術前および術後の眼科手術消毒用の5%PVP-I点眼液と同様に、HDPEプラスチックボトルにパッケージ化されている。言い換えれば、パッケージング材料は、高濃度(5%を超える)のPVP-I溶液の安定性に影響を与えないようである。しかし、出願人は、パッケージング材料が希釈PVP-I溶液(PVP-I濃度が5%未満)の安定性にとって重要であることを予期せず発見した。具体的には、以前の実験では、HDPEはガラスボトルと比較して優れた安定性をもたらさないことが実証された。低密度ポリエチレン(LDPE)ボトルでも同様の取り組みが行われていた。また、PVP-I製剤は、HDPEボトルよりもLDPEボトルの方が安定性が低いことがわかった。すべてのLDPEサンプルは、1週間の終わりに黄変を示し、サンプルに関連する顕著な臭いがあった。したがって、希釈PVP-I溶液はLDPEボトルでは不安定であることが実証されている。米国特許第5,126,127号において、Bhagwatは、PVP-I溶液に安定化剤(すなわち、アルカリ化剤)を添加し、PVP-I溶液を非透過性容器、好ましくはガラスボトル内で室温で3年間安定させ、緩衝化させないことで希釈0.3~0.6%PVP-I眼科溶液を安定させることを記載する。
【0030】
本発明の安定な希釈組成物は、ポビドンヨード(PVP-I)を含む。PVP-Iの濃度は、0.1%~5%(重量/重量または重量/体積、w/wまたはw/v)、0.3%~1%(w/wまたはw/v)、または0.3%~0.6%(w/wまたはw/v)の範囲であり得る。組成物はまた、pH調整剤、粘度調整剤、および浸透圧調節剤などの賦形剤を含み得る。この組成物のパッケージング容器は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、高密度ポリエチレン(HDPE)、またはポリプロピレン(PP)プラスチック材料から作られ、それはガラス容器と比較して水性組成物の貯蔵安定性を高める。この特許の組成物には安定剤は必要なかった。
【0031】
本発明の製剤に含まれるpH調整剤は、水酸化ナトリウム、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(トロメタミン、トリス)、またはリン酸を含み得、その結果、pHは3.5~7.0または4.0~6.0となる。
【0032】
本発明の粘度調整剤は、従来技術で使用される任意の成分であり得る。
【0033】
本発明の製剤に含まれる浸透圧調節剤は、塩化ナトリウム、グリセロール、ポリエチレングリコール400(PEG400)、マンニトール、またはホウ酸塩を含み得、濃度は、0.1~0.9%(w/v)または0.2~0.4%(w/v)の範囲である。
【0034】
安定な希釈PVP-I組成物は、水溶液、エマルジョン、懸濁液、クリーム、ゲル、または他の任意の液体および半固体の形態であり得る。
【0035】
本発明は、特定の実施例を用いてさらに解明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解される。以下の実施例に特定の条件がない実験方法は、通常、文献の従来の条件下で、または賦形剤の製造業者によって提案された条件に従って調製される。特に明記しない限り、本発明で開示されるすべてのパーセンテージ、比率、割合または分数は、重量で計算される。本発明で特に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての専門的および科学的用語は、十分に訓練された要員が精通し得るのと同じ意味を有する。さらに、本発明に記録されたものと類似または同等の任意の方法および材料が本発明に適用され得る。本明細書に記載の好ましい実施形態および材料は、例示的な目的のためにのみ使用される。
【0036】
以下の実施例に記載されるPVP-I溶液または製剤の調製において、安定剤は添加されなかった。特に明記しない限り、以下の実施例で言及されているPVP-I濃度は、w/wに基づく。
【0037】
実施例1
異なる濃度およびpH値の希釈水性PVP-I溶液は、米国特許第7,767,217 B2号に記載されている製剤レシピを用いて調製された。簡単に説明すると、水溶液は、0.36~0.60%のPVP-I、0.1%のデキサメタゾン、0.01%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、0.3%の塩化ナトリウム、1.2%の硫酸ナトリウム、0.05%のチロキサポールおよび0.25%のヒドロキシエチルセルロースを含んでいた。溶液のpH値は、硫酸および/または水酸化ナトリウムによって4.0または4.5に調整された。調製された最終的な希釈水溶液は、アンバーガラスまたはHDPEボトルにパッケージされた。これらの希釈水溶液の安定性は、2週間の滴定によってこれらの希釈水溶液中の利用可能なヨウ素の量を測定することにより、さまざまな温度で評価された。本明細書で使用する場合、「利用可能なヨウ素」という用語は、PVP-I複合体から放出されてその殺菌作用を発揮することができる遊離ヨウ素を意味し、それは、滴定剤としての標準化チオ硫酸ナトリウム溶液および指示薬としてのデンプン溶液で滴定され得る。
【0038】
本明細書で使用する滴定または滴定法の例として、約3~10グラムのPVP-I溶液を適切なフラスコに量り入れ、約10gの精製水をフラスコに加えて希釈溶液を得た。標準的なチオ硫酸ナトリウム溶液(例えば、0.02mol/L、0.004mol/L、または別の適切な濃度)を使用して、希釈溶液が均質になるとすぐに滴定が行われた。色がわずかに黄色になったら、デンプン指示薬を約10滴滴下して、溶液をゆっくりと滴定した。溶液が視覚的に無色になると、終点に到達した。サンプルで利用可能なヨウ素は次のように計算された:
利用可能なヨウ素量(mg)=滴定剤量(ml)×滴定剤濃度(N)×126.9
【0039】
表1に、さまざまな保存条件下でのさまざまな溶液の初期含有量に基づく利用可能なヨウ素の割合を示す。
【表1】
【0040】
データは、これらの製剤のpH値が4または4.5の場合、希釈水性PVP-I溶液は、HDPEボトル中と比較してアンバーガラスボトル中でより安定していたことを示す。2種類のボトルの安定性の差は、PVP-I濃度の低下とともに増加した。さらに、アンバーガラスとHDPEの両方の容器に含まれている水性PVP-I溶液が希釈されるほど、溶液の安定性は低下する。2週間後の40℃での0.6%PVP-I製剤(pH 4.0)の場合、2つの異なるボトルで利用可能なヨウ素の差は24%であったが、0.48%のPVP-I溶液では30%、0.36%のPVP-I溶液では39%であった。希釈水性PVP-I溶液は低温でより安定していたため、この傾向は5℃での安定性にとって重要ではなかった。したがって、アンバーガラス容器/ボトルは、より低いPVP-I濃度でこれらの希釈水性PVP-I溶液の安定性をより高めることに寄与する。希釈PVP-I溶液も、より低いpH値でより優れた安定性を示した。
【0041】
実施例2
0.6%のPVP-Iおよび1.0%のPVP-Iを含む2つの希釈水性PVP-I点眼製剤を、以下の表2に記載の組成に従って調製した。
【表2】
【0042】
これら2つの希釈低濃度PVP-I点眼液の安定性は、それらがそれぞれアンバーホウケイ酸ガラスボトル、PETボトル、およびポリプロピレン(PP)ボトルに充填された後に調査された。以下の表3および表4は、これらの希釈水性PVP-I溶液を、25℃でさまざまな時点で保存した後のそれらの安定性研究の結果を示す。PVP-Iの濃度は、実施例1に記載されているように、チオ硫酸ナトリウム滴定によって決定された。
【表3】
【表4】
【0043】
図1および
図2は、これらの0.6%PVP-I(pH 5.5)の希釈水性製剤のホウケイ酸アンバーガラス、PPおよびPETボトルでの25℃での安定性試験データ、ならびに1.0%PVP-I(pH 5.5)の希釈水性製剤のホウケイ酸アンバーガラス、PPおよびPETボトルでの25℃での安定性試験データを示す。
【0044】
同様の安定性研究が5℃で実施された。結果が表5および6ならびに
図3および4に示される。
【表5】
【表6】
【0045】
表3~6および
図1~4に示すように、PETボトルの0.6%および1.0%水性PVP-I製剤(pH 5.5)は、PPボトルおよびアンバーガラスボトルのものよりも大幅に優れた安定性を有した。0.6%PVP-I製剤の場合、PPボトルは、アンバーガラスボトルよりも大幅に優れた安定性を提供する。利用可能なヨウ素は、25℃で6か月後でもPETボトルの溶液で未だ92.8%であったが、PPボトルの溶液で76.6%、アンバーガラスボトルの溶液で61.0%であった。1.0%製剤の場合、PPボトルは、アンバーガラスボトルよりもPVP-I溶液に対して僅かに良い安定性を提供する。利用可能なヨウ素は、25℃で6か月後でもPETボトルの溶液で99.1%であったが、PPボトルの溶液で88.2%、アンバーガラスボトルの溶液で86.8%であった。この実施例で調製および研究されたすべての希釈PVP-I製剤は、5.5のpH値を有した。これは、プラスチックボトル、特にPETボトルおよびPPボトルが、アンバーガラスボトルよりも希釈PVP-I溶液に対して優れた安定性を提供するという、従来の技術で説明されていたものと驚くほど矛盾する。別の驚くべき予想外の発見は、pH 5.5の希釈PVP-I溶液または製剤が、pH 4.0または4.5の同じ溶液と比較して、異なるパッケージング容器で非常に異なる安定性の傾向を示したことである。
【0046】
実施例3
ホウケイ酸アンバーガラスボトル、PETボトル、およびPPボトルにパッケージ化された、0.6%の水性PVP-I製剤を使用して、40℃で30日間のストレス研究が実施された。本明細書における「ストレス研究」とは、FDAのガイダンス「Q1A(R2) Stability Testing of New Drug Substances and Products」によると、保管温度が加速試験温度の温度(ここでは25°C)を超えていることを意味する。安定性結果をそれぞれ表7および
図5に示す。
【表7】
【0047】
表7に記載し、
図5に示す結果は、pH5.5の0.6%水性PVP-I製剤について、PETボトルも最高の安定性を提供し、PPボトルおよびガラスボトルよりも大幅に優れており、40℃で30日後に85%超の利用可能なヨウ素含有量の予想外の安定性と、PPボトルがアンバーガラスボトルよりも優れた安定性を提供することとを実証する。
【0048】
実施例4
pH5.5の0.6%PVP-I製剤についてヒートサイクル研究が実施され、安定性試験結果を表8に示す。本実施例におけるヒートサイクル研究では、まず、-20~-10℃の環境に2日間置いた後、40℃の環境に2日間置くことを1サイクルとした。ヒートサイクル研究は、合計12日間の3サイクルで実施された。
【表8】
【0049】
PETボトルは、5日間のヒートサイクル後に90%超の利用可能なヨウ素量で、ヒートサイクル研究における最高の安定性を提供し、PPボトルおよびガラスボトルよりも著しく優れた希釈PVP-I溶液の安定性を提供したことがわかり得る。PPボトルは、0.6%PVP-I製剤(pH 5.5)のガラスボトルよりも大幅に優れた安定性を提供する。
【0050】
実施例5
pH4.0、pH4.5、およびpH5.6の1.0%水性PVP-I製剤は、表9に記載されている組成で調製された。
【表9】
【0051】
1.0%PVP-I製剤をアンバーガラスボトル、PETボトル1、PETボトル2、HDPEボトル、およびPPボトルに充填し、25℃および相対湿度60%でそれらの安定性を評価した。表10~12に、25℃でさまざまな時点で保存した後のPVP-I安定性試験の結果を示す。利用可能なヨウ素含有量は、チオ硫酸ナトリウムで滴定することによって決定された。
【0052】
表10~12および
図6~8は、これらの1.0%水性PVP-I製剤の安定性から得られたデータを示す。
【表10】
【0053】
具体的には、表10および
図6は、ホウケイ酸アンバーガラス、PET、HDPE、およびPPボトルにおける25℃での3か月間の1.0%PVP-I製剤(pH 4.0)の驚くべき安定性を示す。PEボトルは、PVP-I製剤に対して驚くほど安定した効果を示し、平均して利用可能なヨウ素の89.55%が3か月後に1.0%PVP-I製剤に残存し、アンバーガラス、HDPE、またはPPボトルよりもはるかに高くなっている。
【表11】
【0054】
表11および
図7は、25℃における1.0%PVP-I製剤(pH 4.5)に対するPETボトルの驚くべき安定化効果を示しており、それは、平均して利用可能なヨウ素の少なくとも89%が3か月後に1.0%PVP-I製剤に残存し続け、またアンバーガラス、HDPE、またはPPボトルよりもはるかに高くなっている。
【表12】
【0055】
最後に、表12および
図8はまた、25℃における安定化1.0%PVP-I製剤(pH 5.6)に対するPETボトルの驚くべき効果を示しており、それは、平均して利用可能なヨウ素の少なくとも90%が3か月後に1.0%PVP-I製剤に残存し続け、またアンバーガラス、HDPE、またはPPボトルよりもはるかに高くなっている。
【0056】
以上のように、異なる材質の容器における希釈PVP-I溶液の安定性は、溶液のpH値によって異なった。驚くべきことに、すべてのpH値の製剤で、PETボトルは、アンバーガラスボトル、HDPEボトル、およびPPボトル、特に1世紀超にわたって広く使用されてきたアンバーガラスボトルと比較して最高の安定性を提供したことが発見された。pH4.0およびpH4.5の1.0%水性PVP-I製剤の場合、ガラスボトルはHDPEボトルおよびPPボトルよりも優れた安定性を提供した。pH 5.6の製剤の場合、HDPEボトルおよびPPボトルは、3か月までガラスボトルよりもわずかに優れた安定性を提供した。2つの異なるソースからの2つのPETボトルは、有意差をもたらさなかった。
【0057】
実施例6
異なるpH(pH 4.5、pH 5.0、およびpH 5.6)の追加の水性1.0%PVP-I製剤が調製されて、表13に記載された配合を得た。
【表13】
【0058】
これらのPVP-I製剤の安定性は、製剤をPETボトル、PETボトル、およびPPボトルに充填した後、チオ硫酸ナトリウム滴定によって利用可能なPVP-Iの濃度を測定することにより、相対湿度(RH)60%で25℃で評価された。表14~16および
図9~
図11は、製剤を25℃のさまざまな時点で保存した後の安定性試験の結果を示す。
【表14】
【0059】
表14および
図9は、PPボトルでは80%未満と比較して、PVP-Iの95%(平均)がPETボトルで3か月後でも利用可能でありつつ、1.0%PVP-I製剤(pH4.5)が、25℃および60%相対湿度(RH)で保存された場合、3ヶ月間にわたってPETボトルで驚くほどはるかに安定していたことを示す。
【表15】
【0060】
同様に、表15および
図10は、PPボトルでは80%未満と比較して、PVP-Iの少なくとも91%(平均)がPETボトルで3か月後でも利用可能でありつつ、1.0%PVP-I製剤(pH5.0)が、25℃および60%相対湿度(RH)で保存された場合、3ヶ月間にわたってPETボトルで驚くほどはるかに安定していたことを示す。
【表16】
【0061】
最後に、表16および
図11はまた、PPボトルでは80%方未満と比較して、PVP-Iの少なくとも91%(平均)がPETボトルで3か月後でも利用可能でありつつ、1.0%PVP-I製剤(pH5.6)が、25℃および60%相対湿度(RH)で保存された場合、3ヶ月間にわたってPETボトルで驚くほどはるかに安定していたことを示す。
【0062】
驚くべきことに、さまざまなpH値の1.0%水性PVP-I製剤の場合、PETボトルが最高の安定性を提供し、PPボトルよりも大幅に優れていることが発見された。異なるソースからの3つのPETボトルについては、大きな違いはない。
【0063】
要約すると、PETボトルの希釈PVP-I製剤は、アンバーガラスボトル、HDPEボトル、およびPPボトルのものよりも最高の安定性を提供する。アンバーガラスボトルは、より低いpH(pH4.0およびpH4.5)のHDPEボトおよびPPボトルよりも、希薄PVP-I溶液に対して優れた安定性を提供した。PPボトルおよびHDPEボトルは、より高いpH(例えばpH 5.5)で、特により低いPVP-I濃度(例えば0.6%)で、アンバーガラスボトルよりも希釈PVP-I溶液に対して優れた安定性を提供した。