(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ヒドロキノン担持ゼオライト
(51)【国際特許分類】
C01B 39/38 20060101AFI20240717BHJP
A61K 8/26 20060101ALI20240717BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240717BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240717BHJP
A61K 31/05 20060101ALI20240717BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240717BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240717BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240717BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C01B39/38
A61K8/26
A61K8/34
A61K9/14
A61K31/05
A61K47/02
A61P17/00
A61Q19/00
A61Q19/02
(21)【出願番号】P 2021128446
(22)【出願日】2021-08-04
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】302018053
【氏名又は名称】株式会社中村超硬
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】川岸 悟史
(72)【発明者】
【氏名】垣永 貴光
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111171307(CN,A)
【文献】特開平03-093701(JP,A)
【文献】特開2021-080236(JP,A)
【文献】特表2011-510999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/00 - 39/54
A61K 8/26
A61K 8/34
A61K 9/14
A61K 31/05
A61K 47/02
A61P 17/00
A61Q 19/00
A61Q 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトと、該ゼオライトの細孔内に脱離可能に吸着しているヒドロキノンと、からなる、ヒドロキノン担持ゼオライト。
【請求項2】
前記ゼオライトが親油性の特性を有する請求項1記載のヒドロキノン担持ゼオライト。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載のヒドロキノン担持ゼオライト又は請求項3に記載の皮膚外用剤と皮膚とを接触させ、当該皮膚表面の皮脂成分と前記ヒドロキノン担持ゼオライトに吸着しているヒドロキノンとを交換して、皮膚表面にヒドロキノンを放出させる、ヒドロキノンの皮膚表面への適用方法。
【請求項5】
請求項4に記載のヒドロキノンの皮膚表面への適用方法を用いた美容方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む還元剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキノン担持ゼオライト及びその利用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキノンはハイドロキノンとも称される二価のフェノールである。ヒドロキノンは還元力が強く、写真現像薬、還元剤、有機化合物の重合禁止剤、染料中間物等として用いられている。また、例えば美容の分野においては、皮膚に対する漂白作用が着目され、しみ等の色素沈着の改善や予防のための成分として用いられている(特許文献1)。
【0003】
ゼオライトは、多孔質の無機化合物であり、主要な化学組成としてSiO2、Al2O3、H2O、Na2O、K2O、CaOなどを有する結晶性アルミノケイ酸塩の他、ほとんどシリカだけからなるシリカライト、アルミニウムの代わりにガリウム、シリカの代わりにゲルマニウムを同型置換した化合物、アルミニウムとリンの縮合酸素酸塩であるリン酸アルミニウムなどが知られている。このようなゼオライトは、その組成及び結晶構造に応じて、固有の細孔径、吸着分離能、イオン交換能、固体酸性質等を有することから、吸着剤、イオン交換剤、触媒などに幅広く利用されている。このうち、例えばイオン交換能を利用して抗菌性金属イオンを担持させた抗菌性ゼオライト、或いは、単なる粉体のゼオライトが他の有効成分の効果促進剤の一例として化粧料などの皮膚外用剤に含有され得ることが記載されている(特許文献2、3)。また、特許文献2、3には、ヒドロキノン配糖体が効果促進剤の一例として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-080236号公報
【文献】特開2005-206573号公報
【文献】特開2016-222612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、特許文献2、3には、ゼオライトやヒドロキノン配糖体等が、他の有効成分の効果促進剤の一例としてそれぞれ別々に添加可能なことは開示されているが、ヒドロキノン配糖体等をゼオライトに担持させることは記載されていない。
【0006】
ところで、ヒドロキノンは酸化されやすい性質を有し、ヒドロキノンを含有する化粧料などの皮膚外用剤が保存中に褐色になることが知られている。また、アルカリ性の環境下では容易に変質することも知られている。そのため、ヒドロキノンを各種の用途に適用する場合に、ヒドロキノンの機能を良好に発揮させることが求められている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ヒドロキノンの変質を抑制して、その機能を良好に発揮させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、ヒドロキノンをゼオライトに担持させることで前述の課題を解決可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
(1)ゼオライトと、該ゼオライトの細孔内に脱離可能に吸着しているヒドロキノンと、からなる、ヒドロキノン担持ゼオライト。
(2)前記ゼオライトが親油性の特性を有する前項(1)記載のヒドロキノン担持ゼオライト。
(3)前項(1)又は(2)に記載のヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む皮膚外用剤。
(4)前項(1)若しくは(2)に記載のヒドロキノン担持ゼオライト又は前項(3)に記載の皮膚外用剤と皮膚とを接触させ、当該皮膚表面の皮脂成分と前記ヒドロキノン担持ゼオライトに吸着しているヒドロキノンとを交換して、皮膚表面にヒドロキノンを放出させる、ヒドロキノンの皮膚表面への適用方法。
(5)前項(4)に記載のヒドロキノンの皮膚表面への適用方法を用いた美容方法。
(6)前項(1)又は(2)に記載のヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む還元剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒドロキノンの変質を抑制して、その機能を良好に発揮させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~3及び比較例1、2において、ゼオライトを0.01重量%ヒドロキノン水溶液に添加、撹拌し、遠心分離後の上澄中のヒドロキノンの残留割合を、0.01重量%ヒドロキノン水溶液のヒドロキノン量を基準(対照)にして算出した値を示した図である。
【
図2】実施例1~3のヒドロキノン担持ゼオライトを水及びオレイン酸含有水に添加、撹拌し、遠心分離後の上澄中のヒドロキノンの量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係るヒドロキノン残留ゼオライトは、ゼオライトと、該ゼオライトの細孔内に脱離可能に吸着しているヒドロキノンと、からなる。このようにヒドロキノンがゼオライトの細孔内に担持されているため、その変質を抑制可能である。そして、用途に応じてゼオライトの特性を調整することで、所望の条件でヒドロキノンを外部に放出することができる。
【0013】
ヒドロキノンは、系統名が1,4-ジヒドロキシベンゼンで、CAS登録番号が123-31-9である有機化合物である。前述のように、ヒドロキノンは、還元力が強く、写真現像薬、還元剤、酸化防止剤、有機化合物の重合禁止剤、染料、樹脂、農薬などの原料などとして広く用いられている。また、ヒドロキノンは、肌のしみの原因になるメラニン色素を合成する色素細胞内のチロシナーゼ(メラニン合成酵素)の活性を抑制し、さらにメラニン色素を産生する色素細胞の活動を停止させ、減少させていく特性があるといわれている。また、メラニン色素に作用して淡色化する効果を有するとされている。そのため、肌のしみ等の色が薄くなったり、しみ等の予防に有効であったりするとされている。
【0014】
ヒドロキノンとしては、前述のような還元作用や色素沈着の改善・予防効果などの各種機能を発揮し得る合成品を用いることができる。
【0015】
ゼオライトは、天然物、合成物の何れでもよい。組成及び構造は、用途等に応じて適宜選択することができる。ゼオライトの組成としては、特に限定はなく、例えば、前述のように、主要な化学組成としてSiO2、Al2O3、H2O、Na2O、K2O、CaOなどを有する結晶性アルミノケイ酸塩の他、ほとんどシリカだけからなるシリカライト、アルミニウムの代わりにガリウム、シリカの代わりにゲルマニウムを同型置換した化合物、アルミニウムとリンの縮合酸素酸塩であるリン酸アルミニウムなどを用いることができる。ゼオライトの構造としても、特に限定はなく、各種の構造のものを用途等に応じて選択することができる。このようなゼオライトの構造としては、国際ゼオライト学会(International Zeolite Association:IZA)によりデータベース化されている構造コードで示すと、例えば、LTA、FAU、ABW、SOD、GIS、OFF、GME、ERI、LTL、FUA、CHA、MER、MOR、MFI、AFI、AEI、*BEA等が挙げられる。ゼオライトの親水性と親油性の特性は、SiとAlのモル比(Si/Alモル比)により調整することができる。Si原子よりAl原子の数が少ないほど疎水性を示すことが知られている。ゼオライトの細孔内に担持されているヒドロキノンを親油性の環境に放出させる場合は、Si/Alモル比は、4より大きいのが好ましく、親水性の環境に放出させる場合は、Si/Alモル比は、4以下が好ましい。Si/Alモル比が4より大きいゼオライトは、例えば、ZMS-5、Y型、Mordenite、Beta型等が挙げられる。Si/Alモル比が4以下のゼオライトは、例えば、A型、X型、Chabazite等が挙げられる。ここで、親油性とは、溶解度パラメータ(SP値)が小さく水に溶けにくいことを意味する。また、親水性とは、SP値が大きく水に溶けやすいことを意味する。尚、Si/Alモル比が0のゼオライトは、例えば、MAPO-5、CoAPO-5等の各種のAFI構造のゼオライトが挙げられる。
【0016】
ゼオライトの形態は、粒子状であればよく、用途等に応じて、粒子の形状、大きさは適宜決定することができる。例えば、化粧料等の皮膚外用剤へ添加する場合や還元剤として用いる場合は、平均一次粒子径は10nm~1mmとすることができる。化粧料等の皮膚外用剤へ添加した際のゼオライトの粒子によるざらつき感を抑制する場合は、平均一次粒子径は0.05~1.0μmであるのが好ましい。また、必要に応じて、ゼオライトの微粒子の経皮吸収の影響を回避する観点から、累積分布の粒子径が小さい側からの存在比率が1%の粒子径(D1)を100nm以上とすることができる。また、D1を100nm以上とし、メジアン径(D50)を200nm~0.010mm、好ましくは500nmとすることもできる。平均一次粒子径が0.010~0.5μmであるゼオライトの微粒子は、例えば、特開2011-246292号公報、特開2013-049602号公報、特開2017-48096号公報等に記載の方法により得ることができる。尚、ゼオライトの細孔の大きさは、ヒドロキノンが拡散可能な大きさであれば特に限定はない。細孔の大きさは、例えば、配位するイオン種により制御することができる。
【0017】
ゼオライトの粒子の平均一次粒子径は、例えば、以下のようにして算出することかできる。先ず、走査型電子顕微鏡(SEM)により、ゼオライトの粒子を撮影し、SEM写真において、他の粒子に重なっていない粒子を30個以上選択して、各粒子の長軸と短軸の長さを測定して、その相加平均を粒子径とする。この粒子径の相加平均を平均一次粒子径として算出する。D1、D50は、例えば、レーザー回折/散乱法により測定することができる。ゼオライトの細孔の大きさは、例えば、ガス吸着法により測定することができる。
【0018】
ゼオライトに対するヒドロキノンの担持量は、用途等に応じて適宜決定することができる。例えば、化粧料等の皮膚外用剤へ添加する場合は、ゼオライト100質量部に対して、ヒドロキノン0.00001~0.1質量部が好ましく、0.0001~0.1質量部がより好ましい。還元剤として用いる場合は、ゼオライト100質量部に対して、ヒドロキノン0.0001~0.1質量部が好ましく、0.001~0.1質量部がより好ましい。
【0019】
ゼオライトにヒドロキノンを担持させる方法は、定法に従い行うことができる。例えば、先ず、所定濃度のヒドロキノンの溶液等に所定量のゼオライトの粒子を添加し、所定の温度で所定時間撹拌することで、ゼオライトの細孔内にヒドロキノンを担持させることができる(担持処理)。尚、ゼオライトの組成に応じて、ヒドロキノンの溶液の溶媒の種類を選択することができる。例えばZMS-5型ゼオライトの場合は、Si/Alモル比が5以上で親油性であり、ヒドロキノンより親水性の高い溶媒、例えば水などを用いることで、ヒドロキノンをゼオライトに吸着させ易い傾向にある。
【0020】
ゼオライトにヒドロキノンを担持させる際のゼオライトに対するヒドロキノンの添加量は特に限定はなく、効率などを考慮して、例えば、ゼオライト100質量部に対して、ヒドロキノン0.01~10.0質量部とすることができる。
【0021】
担持処理の後、必要に応じて、ヒドロキノン担持ゼオライトと、溶液又は溶媒とを固液分離する。そして、分離した固形分であるヒドロキノン担持ゼオライトと所定の洗浄液とを混合、撹拌した後、固液分離する。この操作を、固液分離後の上澄に水酸化ナトリウム水溶液を少量添加した時に変色しなくなるまで、繰り返し行って、ヒドロキノン担持ゼオライトを洗浄する(洗浄処理)。その後、固液分離して、得られた固形分を乾燥し(乾燥処理)、粒子状のヒドロキノン担持ゼオライトを得ることができる。固液分離や乾燥は公知の方法で行うことができる。
【0022】
ヒドロキノン担持ゼオライトは、ゼオライトの細孔内にヒドロキノンを担持しているため、ヒドロキノンが保護されており、ヒドロキノンの変質を防止することができる。また、用途に応じてゼオライトの組成、構造を調整することで、担持されているヒドロキノンを必要な時に放出させることも可能である。そのため、前述したような従来のヒドロキノンの各種の用途において、その効果を良好に発揮させることが可能である。そのうち、例えば、化粧料等の皮膚外用剤、還元剤への適用が好ましい。
【0023】
ヒドロキノン担持ゼオライトを化粧料等の皮膚外用剤に適用する場合、当該皮膚外用剤は、ヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む。ヒドロキノン担持ゼオライトのみで構成したものであっても良いが、一般的に皮膚外用剤に含まれる基材や基材以外の各種の成分を含有することができる。このような基剤や各種成分は、例えば特許文献1~3等に記載のものを用いることができる。皮膚外用剤の剤型は特に限定はなく、ルースタイプの粉末状皮膚外用剤、固形状油性皮膚外用剤、ペースト状油性皮膚外用剤、液状油性皮膚外用剤、油中水乳化型皮膚外用剤、水中油乳化型皮膚外用剤、水性皮膚外用剤、エアゾール等の剤型を採用することができる。皮膚外用剤中のヒドロキノン担持ゼオライトの含有量は、用途等を考慮して、適宜決定することができる。
【0024】
皮膚外用剤の具体例としては、例えば、洗浄用化粧料、メイクアップ化粧料、紫外線防御化粧料、スキンケア化粧料などが挙げられる。洗浄用化粧料としては、例えば、固形石鹸、液状石鹸、クレンジングクリームなどが挙げられる。メイクアップ化粧料としては、例えば、化粧下地、ファンデーションなどが挙げられる。紫外線防御化粧料としては、例えば、日焼け止め乳液、日焼け止めクリームなどが挙げられる。スキンケア化粧料としては、例えば、スキンケア乳液、スキンケアクリーム、BBクリーム、美容液などが挙げられる。このうち、洗浄用化粧料が好ましい。例えば石鹸は一般的に水に溶けるとアルカリ性を呈するため、アルカリ性環境下で変質し易いヒドロキノンを保護することができるヒドロキノン担持ゼオライトを固形石鹸や液状石鹸などに適用することが効果的である。
【0025】
前述のヒドロキノン担持ゼオライトは、皮膚と接触すると、通常皮膚表面の皮脂成分と接触することになる。その結果、ヒドロキノンと皮膚表面の皮脂とが交換され、皮膚表面にヒドロキノンを放出させることが可能である。このように、変質が防止されたヒドロキノンが皮膚に適用され、ヒドロキノンの皮膚に対する色素沈着予防や淡色化の機能を効果的に発揮させることが可能になる。ヒドロキノンの皮膚表面への適用は、ヒドロキノン担持ゼオライトをそのまま用いることにより、或いは、例えばヒドロキノン担持ゼオライトを含有する皮膚外用剤により行うことができる。このように、ヒドロキノン担持ゼオライトの皮膚表面への適用は、ヒドロキノンの皮膚表面への適用方法として好適である。また、前述のように、ヒドロキノンの色素沈着予防や淡色化の機能を効果的に発揮させることが可能なため、ヒドロキノン担持ゼオライトの皮膚表面への適用は、皮膚の美容方法として好適である。例えば石鹸などの洗浄用化粧料を洗顔洗浄用に適用した場合、洗浄時等のアルカリ性環境による変質を抑制しつつ、皮脂成分と接触することで皮脂成分を吸着すると同時にヒドロキノンを放出して、手などによるマッサージの作用により皮膚にヒドロキノンを浸透させることができ、皮脂の吸着と同時にヒドロキノンの皮膚に対する色素沈着予防や淡色化がより効果的に図られ得る。
【0026】
ヒドロキノン担持ゼオライトを還元剤に適用する場合、還元剤はヒドロキノン担持ゼオライトを有効成分として含む。即ち、還元剤がヒドロキノン担持ゼオライトのみである場合、ヒドロキノン担持ゼオライトと他の成分を含む場合がある。このような他の成分は、還元剤を適用する用途等に応じて適宜決定することができる。当該還元剤は、一般にヒドロキノンを還元剤として用いる各種の用途に適用可能である。このような用途としては、例えば、写真現像用のハロゲン化銀還元に代表される還元剤、有機化合物の重合禁止剤などが挙げられる。ヒドロキノン担持ゼオライトを含む還元剤は、ヒドロキノンがゼオライトの細孔内に保護されているため、ヒドロキノンの変質を防止して、適用された周囲の環境下において放出させたヒドロキノンが還元剤としての機能を良好に発揮することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0028】
(実施例1)
<担持処理>
イオン交換水にヒドロキノンを添加して0.01重量%ヒドロキノン水溶液を調製した。pHは5.90であった。このヒドロキノン水溶液10mlに、ゼオライト(株式会社中村超硬製、名称:ZSM-5、構造コード:MFI、Si/Alモル比:200、平均一次粒子径:100nmの微粒子)を0.1g添加し、常温で180分間撹拌した。次いで、遠心分離して上澄と固形分に分離した。上澄については、ヒドロキノンの量を後述する方法で測定した。
【0029】
<洗浄処理>
固形分に対して、イオン交換水を添加して撹拌し、遠心分離して上澄と固形分に分離した。上澄に2%NaOH水溶液を0.03ml添加し変色しなくなるまでこの操作を繰り返した。
【0030】
<乾燥処理>
洗浄処理終了後、固液分離して得られた固形分を50℃で、10時間以上乾燥し、ヒドロキノン担持ゼオライトを得た。
【0031】
(実施例2、3)
ゼオライトの添加量を、それぞれ0.5g(実施例2)、1.0g(実施例3)とした以外は実施例1と同様にしてヒドロキノン担持ゼオライトを得た。
【0032】
(比較例1、2)
実施例2、3のゼオライトに替えて、構造規定剤(SDA)で細孔がふさがれている以外は実施例2、3と同じゼオライトを用いた以外は、実施例2、3と同様の処理を行った。尚、比較例1、2は、それぞれ実施例2、3のゼオライトの添加量に対応する。
【0033】
(評価)
<ゼオライトへのヒドロキノンの担持の確認>
実施例1~3、比較例1、2の担持処理後の上澄について、分光光度計により下記のようにヒドロキノンの量を測定した。対照として、担持処理の際に調製した0.01重量%ヒドロキノン水溶液のヒドロキノンの量を測定して、この測定値に対する割合を残留割合として算出した。結果を表1及び
図1に示す。
【0034】
<ヒドロキノンの量の測定>
分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、ダブルビーム分光光度計U-2910)で石英セルに添加した前述の上澄を400nmから190nmまでスキャンし、横軸波長縦軸吸光度のピークプロファイルを作成するとヒドロキノンは波長約290nmと220nmで波長吸収が見られた。指定の濃度で作製したヒドロキノン水溶液をスキャンして、290nmでの吸光度に基づき検量線を作成した。この検量線を用い、各上澄に存在するヒドロキノンの量を算出した。尚、各上澄に残存するゼオライトに起因するバックグラウンドを除去するため、最小二乗法で残差の二乗和が最小となるようにフィッティングして抽出したピーク強度(吸光度)を、検量線によるヒドロキノンの量の算出の際に用いた。また、ヒドロキノンが変質した場合は吸収する波長がヒドロキノンのそれとは異なるので酸化等により変質したことが分かる。
【0035】
【0036】
<皮脂接触時のヒドロキノン放出性の確認>
実施例1~3で得られたヒドロキノン担持ゼオライトそれぞれ0.05g、0.25g、0.5gを、9mlイオン交換水(表2中、「水」)、及び、1mlオレイン酸と10.5gイオン交換水の混合液(表2中、「オレイン酸含有水」)と混合し、常温で180分間撹拌した。次いで、遠心分離して上澄と固形分に分離した。上澄について、ヒドロキノンの量を前述の方法で測定した。結果を表2及び
図2に示す。表2及び
図2中の単位(×10
5g)に関し、表2及び
図2中の数値がaの場合、ヒドロキノンの量はa×10
-5gであることを示す。尚、オレイン酸は、皮脂に含まれる主成分として知られている。
【0037】
【0038】
表1に示すように、細孔がふさがれているゼオライトを用いた比較例1、2では、対照とほぼ同等のヒドロキノンが上澄に残留しており、ヒドロキノンは殆どゼオライトに担持されなかったことを示している。これに対して、実施例1~3では、担持処理後の上澄のヒドロキノンの残留割合が、比較例1、2より大幅に小さく、ヒドロキノンがゼオライトの細孔に担持されていることを示していることが分かる。また、表2に示すように、実施例1~3のヒドロキノン担持ゼオライトは、水と接触した場合に比べて、皮脂成分に含まれるオレイン酸と接触することでより多くのヒドロキノンを放出したことが分かる。以上のように、ヒドロキノン担持ゼオライトは、ヒドロキノンをゼオライトの細孔内に担持することが可能であるため、ヒドロキノンの酸化による変質を抑制可能であることが期待でき、しかも、皮脂と接触することでヒドロキノンを放出することが可能であるため、ヒドロキノンを必要時に効果的に発揮させることが期待できる。したがって、ヒドロキノン担持ゼオライトは、例えばヒドロキノンを皮膚表面に適用する化粧料や皮膚外用剤の成分として好適である。また、ヒドロキノンを皮膚表面に適用する美容方法に好適である。尚、同様に、ヒドロキノンの保護と周囲環境への放出によるヒドロキノンの機能の発揮は、還元剤等の他の用途の場合も同様に期待できることは勿論のことである。